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RSSフィード ホーリーメイデンズ2
   

日時: 2014/09/07 23:37
名前: 流離太

前作、ホーリーメイデンズの続編です。
アヤカシを退治する魔法少女なお話です。
性転換要素がありますので、苦手な人はご注意を。



第壱夜「模造された少女(4)」 ( No.4 )
   
日時: 2014/09/07 23:43
名前: 流離太

 そして、放課後。
 秋の日はつるべ落としという言葉がある。なら、冬はジェットコースターだろう。それくらい、日が暮れるのが早い。
 午後四時過ぎともなると、体育館に差し込む光も薄らいでいく。

「よーし、休憩っ!!」

 バスケ部のキャプテンである三四郎の声が、体育館に響く。声を聞くや否や、部員達はトイレや水飲み場へと駆けていく。

「くすくす、まだまだ元気一杯じゃない。休憩、早かったかもね?」

 三四郎の横から、透き通るような声が響く。
 そちらに目を向ければ、長い黒髪をツインテールにした小柄な少女が立っている。小動物を連想させるかのような外見で、セーラー服から覗く手足は、抱きしめただけで壊れてしまいそうなほど華奢。練習記録を携帯していることから、バスケ部のマネージャーらしい。

「あっはっは、相変わらず終里ちゃんは手厳しいですねぇ」
「先輩が甘いだけだよ」

 終里は、三四郎の横にチョコンと腰を降ろして言う。

「むぅ、これは一本取られました!」

 彼女こそ、花田中学校一年生にして、メイデンズ五人目の巫女「源終里(みなもと おわり)」である。
 過去には、アヤカシの王「八岐大蛇」を復活させるための巫女「ダークメイデン」として、冬雪らと敵対していたこともある。が、それもつい数ヶ月前までの話。

「いやー、昨日は本当に楽しかったですね!」
「だろうね。三四郎先輩、デートそっちのけで動物みては興奮してたし」
「あ、あれ? そうでしたっけ?」
「そうでしたよ」

 まぁ、そんな三四郎の無邪気な部分も、終里は大好きなのだが。

「そ、それはともかくとしてっ! 冬雪君から聞きました? ほ、ほら、例の四条通の中道路に出るってアヤカシの話?」

 三四郎は慌てて誤魔化す。

「あぁ、『合わせ鏡の悪魔』ね」

 終里は訳知り顔でうなずく。
 合わせ鏡の悪魔とは、この街で最近囁かれている噂話のこと。
 夕方の四時四十四分丁度に、街外れの合わせ鏡となったカーブミラーに自分の姿を映すと、映った人間そっくりの悪魔が現れるという。そいつは、そこを通りかかった人間を鏡の中に引きずり込み、とって代わってしまう。

「昼休み、碓氷先輩が教えてくれたの。……だけど、バスケの練習があるなら来なくてもいいって言われた」
「あっはっは、冬雪君らしいですね! 終里ちゃんのこと、気遣ってくれているんですよ」

 終里は口の端を僅かに上へ吊り上げ、くすりと笑う。

「どうだか。終里となるべく顔を合わせたくないからじゃないの?」
「終里ちゃぁ~ん。そんな風に人の好意を悪く見ちゃ駄目ですよ?」

 三四郎は、苦笑しながら頬を掻く。
 そんなことはわかっている。今のは、ちょっと意地悪を言ってみただけ。
 あんなお人よし連中、そうはいない。
 それに、

 ―― 冬雪らを避けているのは……自分の方だから。

 自分は、他のメイデンズと馴染めていない。学年の違いもあるが、一番の理由は負い目があるから。過去に、アヤカシの側につき、冬雪らを傷付けてしまったことへの負い目が。そんな事情を察してか、冬雪や春花、それに三四郎はよく話しかけてくれる。お陰で、なんとか普通の受け答えは出来るようになった。
 だけど、未だに溝は深い。廊下ですれ違っても、満足に挨拶できない。

「あーあ。結局、変わらないのかもね。あの頃の自分も。今の自分も。大してさ」

 終里は天井を見上げ、軽い溜息を吐く。

「終里ちゃん」

 三四郎は、そんな終里の頭にそっと手を置き、

「その通りですよ。所詮、人間は変わることなんてできないんですから」

 いつものように、とても柔らかく、優しい声で、

 ――……え?

 今、なんて?

「三四郎……先輩?」

 耳に届いた言葉が信じられず、ゆっくり、ゆっくりと、視線の先を三四郎の顔へと移す。その双眸に映し出されたのは、

 ―― 白塗りに朱を交えた狐の面を被った、三四郎。

「ケケっ、そんなに目を剥いて驚くことないじゃない? ねぇ、終里ちゃぁん?」

 狐の面から、声が紡がれる。頭の奥にこびりついて離れない、嘲笑うような声。
 この声に、終里は聞き覚えがある。つい数ヶ月前、アヤカシの王「八岐大蛇」復活に関わった集団「アヤカシ十二神将」の筆頭にして、冬雪を男に戻れなくした化け狐。

「……こっくり」

「久しぶりねぇ、源終里……いや、大地の巫女とお呼びした方がいいかしら?」

 堪え切れない笑いを声色に含ませ、こっくりは終里の髪を撫で付ける。
 そんなこっくりの手を払いのけ、終里は距離を置く。

「あら、手厳しいわね。前まで、一緒にホーリーメイデンズを追い詰めた仲じゃない」
「うるさい。あんた、碓氷先輩にやられて死んだんじゃないの?」

 終里は、こっくりを睨み付けながら、自らの両拳を力強く握り締める。

「ケケっ、私がそう簡単にくたばるわけないでしょ」
「くすくす、そうかもね? あんた、しつこさだけは一人前って顔してるもんね?」

 こっくりの言葉を鼻で笑い、終里は口元に微笑を作る。しかし、その頬には、一滴の汗の玉が浮かんでいる。
 油断は出来ない。なにせ、相手はアヤカシの中でもトップクラスの実力の持ち主だから。

「で、何の用? 八岐大蛇復活を邪魔した裏切り者の終里に、仕返しでもしにきたの? くすくす、そんなことしても、何も変わらないだろうけどね?」

 終里は、精一杯の嫌味を込めたつもりで言い放つ。
 アヤカシは、人間の恐怖から生まれ、恐怖を糧にする存在。だから、人間なしでは生きていけない。アヤカシの王である、八岐大蛇にすがる以外は。
 だが、八岐大蛇が封印された今、アヤカシの天下はもう二度と来ないだろう。例えホーリーメイデンズを倒せたとしても、状況は何も変わらない。
 しかし――

 ―― くっく……くくくくくくく ――
 ―― くっくっく…… ――
 ―― ひっ、ひひひひひっ ――

 さもおかしげなこっくりの笑い声が、周囲の至る所から響く。
 目を移せば、三四郎のみならず、バスケ部全員の顔に狐の面が貼りついている。それが、一斉に笑い声を上げているのだ。

「な、なにがおかしいの?」

 予想外の反応に、終里の声が僅かにうわずる。
 想像通りなら、こっくりは歯を食いしばって悔しがるはず。八岐大蛇は、アヤカシの世界を作る上で欠かせない存在である。それを奪った終里を前にして、あんな笑い方、できるはずがない。

「ああ、その通りよ。確かに、最強のアヤカシである大蛇を倒されたことは大きな痛手。……けど、あなたは勘違いしてるわ?」
「勘違い?」

 終里は、言い知れぬ不安を感じる。細く、白い二の腕に鳥肌が浮かぶ。
 一体、なんのことだ?

「八岐大蛇は、『最強のアヤカシ』であって、『私達を操っていた黒幕』ではねぇんだよ」

 こっくりの言葉に、思わず終里は目を見開く。

「なっ……!?」
「そう、あの時の戦いは、所詮序章ってわけ!! 私達の進撃は、これからが本番よぉ!! まぁ、あなた達はそれを見ずしてやられるんだけどぉ!! ギャハハハハハハハ!!」

 ―― アハハハハハハハハ ――
 ―― イヒ、イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ ――
 ―― ヒアッハッハッハッハッハッハ ――

 こっくりの下劣な笑い声が、体育館に満ち満ちる。
 鼓膜を掻き毟るようなそれも、今の終里には遠く聞こえた。

「嘘よ……そんなの」

 終里は、呟く。
 自分は、忌まわしい悪夢から目覚めたはず。
 なのに、あの戦いが、始まりに過ぎなかったなんて。

「終里ちゃん? どうかしたんですか?」

 ハッと、終里は我に返る。
 気が付けば、眼前に広がるのは見慣れた光景。ドリブルやシュートの練習等、部活に明け暮れるバスケ部員達がいる。
 傍らには、心配そうな顔をした三四郎が。勿論、狐の面なんて被っていない。

「大丈夫ですか? ボーっとしちゃって」
「う、うん。なんでもない。なんでもないの」

 終里は、三四郎から顔を逸らす。自分に言い聞かせるように、呟きながら。
 今のは夢だろうか? いや、それにしてはリアルだった。あのアヤカシ特有の、粘りつくような毒々しさは。

 ―― まぁ、あなた達はそれを見ずしてやられるんだけどぉ ――

 不意に、こっくりの言葉が頭を過ぎる。その時すでに、終里はすっくと立ち上がっていた。

「三四郎先輩……終里っ」

 それだけ言うと、終里は駆け出した。

「あっ?! お、終里ちゃあんっ!!」

 三四郎の言葉が背中に届く。しかし、終里は止まらない。体育館を抜け、一直線に玄関へと走り抜けていく。
 嫌な予感がする。


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