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RSSフィード ホーリーメイデンズ2
   

日時: 2014/09/07 23:37
名前: 流離太

前作、ホーリーメイデンズの続編です。
アヤカシを退治する魔法少女なお話です。
性転換要素がありますので、苦手な人はご注意を。



第壱夜「模造された少女(3)」 ( No.3 )
   
日時: 2014/09/07 23:42
名前: 流離太

 旭川市立、花田中学校。ここは、旭川の中学校でもかなり古い部類に入る場所だ。聞いた話によれば、なんでも戦前から立っていたとか。廊下は埃がこびりついてくすんでおり、乱雑にプリントの貼られた掲示板は穴だらけ。校舎の壁はクリーム色のペンキがはがれ、灰色のコンクリートが露出している。
 そのような伝統を校舎に刻み込んだ旭中学校だが、生徒はちらほらとしか見えない。社会全体を悩ませている少子化が、この学校を見逃さなかったためだ。年々生徒数は減ってきており、近くの中学と合併する話も挙がっている。
 そんな事情もなんのその。教室内で戯れあう生徒達は「我関せず」といった表情で、明日から始まる冬休みについて話題に花を咲かせている。

「おはよーございますっ!! みなさんっ!!」

 二年一組教室に、ほがらかな少年の声が響く。と共に、冬雪達の前に、学ランを着た、スポーツ刈りの少年が姿を現す。ひょろっと背が高い彼の名は、「桃ノ木三四郎」。朝、夢の中で冬雪を襲った張本人。

「おはようございます、三四郎さん」
「あんた……朝からテンションフルアクセルだねぇ……」

 にこやかな笑みを浮かべ、春花は挨拶を返す。
 対照的に、夏月はげんなりした視線を三四郎にプレゼントする。朝の件で疲れきっているのだろう。話を春花から聞いていた冬雪は、思わず苦笑する。

「あっはっは、それだけが取り柄ですからねっ!」
「あっはっは、よくわかってるじゃんあんた?」

 腰に手を当て、カラカラと笑う三四郎。
 机に頬杖をつき、小馬鹿にしたような笑みを浮かべる夏月。
 ここまでは、いつものやり取り。

 ―― だが

「あ、そういえば冬雪君!」

 思い出したように、三四郎は話題を変える。この一言が、そもそもの発端だった。

「昨日、旭山動物園にいませんでしたか?」

 朝見た夢が忘れられず、ずぅっと視線をそらしていた冬雪は、ここで初めて三四郎に目を向ける。

「僕が……旭山動物園に?」
 それはない。だって昨日は、母「深雪」とデパートで買い物をしていたから。地下の食品売り場へ直行しようとしたところを、深雪に襟首を掴まれ、そのまま着せ替え人形に――
 もしかして、朝の夢は、その時の影響かも。

「そりゃないって。冬雪が動物園なんかに行く時は、絶対あたし誘うもん」

 冬雪が口を開く前に、夏月は三四郎の言葉を否定する。

「ていうか桃ノ木。休日をたった一人で動物園って……寂しいヤツだな、お前も」
「きっとあれですよ。三四郎さんは、檻の中に手頃な交際相手がいないか調べていたんです」

 秋綺と春花は言いたい放題三四郎をけなす。なんでここまで三四郎は低く見られているのだろうか。
 三四郎は、両拳を上下にブンと振り、夏月達の言葉を否定する。

「い・い・えっ! 確かに冬雪君でしたっ! しかも、僕は一人で動物園なんかに行ったりしません! 終里ちゃんと二人で行ったんですよっ! だから、終里ちゃんも冬雪君の姿を見ているはずですっっ!!」

 顔を真っ赤にし、三四郎は、きっぱりはっきり言い放つ。
 一人ならともかく、終里がいたというなら本当だろう。バスケ部のマネージャーにして冬雪達の後輩である終里は、しっかり者で見間違いを起こすような性格ではない。
 ていうか、

「はぁ~……僕も行きたかったなぁ、動物園。なんで誘ってくれなかったのかなー? 久しぶりにみんな一緒で遊びたかったよ」

 そう言って、冬雪はぷぅっと頬を膨らませる。
 が、そんな冬雪の肩に手を置き、夏月はゆっくり首を振る。

「あのね……。あんたが友情を大切にしたいのはわかるけど、頼むから空気を読む力を身につけようよ? あんたも、あたしという彼女がいるんだから、三四郎と終里の気持ち、わかるでしょ?」

 一体、夏月はなにを言いたいのだろう? 冬雪は、わけがわからない。
 気まずそうに頬を掻き、三四郎は話を元に戻す。

「あはは……、冬雪君らしいですね。―― まぁ、それはともかくとして、動物園で見た女の子が冬雪君でないとすると、そっくりさんということになりますね。しかし、冬雪君には双子の姉妹なんていないでしょう?」

 冬雪は、こっくりとうなずく。

「うん、あたしも保障する。冬雪は一人っ子だよ。勿論、生き別れの兄弟やクローン人間なんてのもいない」

 太鼓判を押す夏月の言葉を受け、三四郎は、声のトーンを下げる。

「―― となると、残っている可能性は」
「アヤカシ、だな」

 先程から壁にもたれかかっている秋綺が、三四郎の言葉尻を奪う。涼やかな瞳には、射るような光が。
「俺達『ホーリーメイデンズ』の出番ってわけだ」

 ホーリーメイデンズ……それは、聖獣を自ら体に宿し、闇の存在「アヤカシ」を退治する巫女のこと。冬雪に夏月、春花、秋綺、終里はその一員である。
 だが、その仕事は、女性にしか出来ない。したがって、聖獣に選ばれたのが男であった場合、女へと強制的に性転換してしまう。
 紺地のセーラー服に身を包んでいる冬雪に秋綺、そしてここにはいない終里も、元は男だった。しかし、三人ともそれぞれの事情で、未だに女の子のままである。

「そうだ。アヤカシといえば、気になる噂が……」

 と、三四郎が口を開いた、その時。

「―― なにをしているの?」

 凍てつくような冷たい声が、冬雪達の耳を突き刺す。声は、背後からのもの。
 振り向けば、背中まである髪を襟足の所で結んだ少女が、仁王立ちしている。切りそろえられた、夕闇を思わす藍色の髪。黒いストッキングに包まれた、小鹿のように細い脚。眼鏡の奥に見える釣り目気味の瞳は、氷のように冷たい色彩を放っている。
 二年一組学究委員長「茨木氷央(いばらき ひお)」。夏月の天敵にして、「ミス・コールドフェイス」の異名を持つ。命名の所以は、彼女が表情を崩したところを誰も見たことがないためだ。

「あなた達、ちゃんと時計見えてる? 八時二十五分―― 先生が来る五分前なんだけど。言われなくても席に着いてなさい」

 ぴくりとも眉を動かさず、氷央は言い放つ。圧倒的な威圧感。まるで、吹雪を浴びているよう。
 対し、夏月はおどけた態度で反論する。

「あぁ~ら茨木さん? 席を立っているのは、あたしらだけじゃありませんわよ?」

 夏月は意地の悪い笑みを浮かべる。たとえ太陽が西から昇っても、氷央に言い負けることは夏月のプライドが許さない。そんなところだろう。
 たまらないのは、間に挟まれている冬雪。夏月と氷央、両者から発せられる威圧感は重く、今にも押し潰されそう。
 ふと目を泳がせれば、秋綺と春花、それに三四郎が手を振っている。危険を感じ、さっさと避難したのだろう。こうなってしまっては、脱出しようがない。
 両者から目をそらし、冬雪はうつむく。とくん、とくん、と小さな心臓が波打ち、冷や汗が、白く、柔らかな頬を伝う。
 身を刺すような緊迫感。
 このような状況がいつまでも続くと思われた。

 しかし――

「そうよ。私は他の人も注意しなきゃいけないから、忙しいの。わかったら、さっさと座って頂戴」

 抑揚のない声を残し、氷央は夏月に背を向ける。
 試合終了。
 後に残されたのは、ひくひくと口の端を引きつらせる夏月だけ。

「はんっっ! この冷酷デコ女っ!!」

 氷央の方に向かい、夏月は舌を出す。相変わらず、まっすぐで子どもっぽい態度。まぁ、そこが可愛かったりするのだが。
 緊張が解け、冬雪は大きく肩を落とす。
 やれやれ、なんで夏月は、こうも周りの人間とぶつかるのか。朝の秋綺といい。

 ―― 秋綺……かぁ……。

 冬雪は、チラッと氷月に目を配る。背中まであるポニーテールを揺らし、氷月は他の生徒に指導を加えている。
 そういえば、秋綺と氷央は似てるんじゃないか? 近寄り難い雰囲気といい、どことなく大人びたような態度といい、そっくり。
 ひょっとして、氷央ともいい友達になれるのではないか。
 今度、一緒にお昼ご飯食べようって、誘ってみようかな?

「―― なぁんて考えてたんじゃないの? 冬雪ぃ」
「むぐっっ?!!」

 突如、夏月が声をかける。顔はにこやかに。目には怒りの炎を。
 さすが、冬雪の姉代わり。冬雪の考えなど、全てお見通しなのだろう。

「いい!! あいつに声かけるなんて、ずぇったいに駄目だからねっっ!! わかった? わかったなら返事くらいしなさいよぉっ!!」

 夏月は、冬雪のスカーフを掴み、ガックガックと体をゆする。

「は、はぃ~……な、夏月お嬢様のおっしゃる通りで……」

 頭をくてんと後方に垂れる冬雪。目じりに浮かんだ涙が、おでこの方へ流れていく。
 やはり、夏月には敵わない。


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