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RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/02/29 23:33
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第伍話/近代式天照大作戦(後篇) ( No.5 )
   
日時: 2018/01/14 15:15
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第伍話/近代式天照大作戦(後篇)





「わあああああ!?」

全員が咄嗟に身を屈めるが、砕け散った木片が熱風と共に襲いかかった。
衝撃が止み、木片の中から村崎醤(ムラサキショウ)が上体を起こす。

「ぶはっ!? 何なんだ!?」
「皆の者、無事か!?」
「はーっはっは!!」

昨日散々聞いた笑い声を耳にし、醤は駆け出し、入口の横を掴んで1歩外へ出た。
神社の正面には、醤が思っていた通りの人物・未来人のような恰好をしたゴーグルの男が腕を組んで仁王立ちしている。

「テメエは昨日のロリータ・コンプレックス!! 何でここが……!?」
「ふはははははは! 昨日振りだなクソガキ! 知れた事! お前達の後を尾け、機会を伺っていたのだ! 『覚えとけ』と言った筈だ!
 ……それと略せって、違うけど」

予想はすれど対処出来なかった己の迂闊さに、醤は歯軋りをした。
自分やメタルビートルはともかく、無関係である尾根翠(ビネスイ)と佐藤甘太(サトウカンタ)を、顔を見られることなくどう帰すか考えていると、醤の後ろから本人達が顔を覗かせる。

「いってて……村崎、さっきから誰と話してるんだ?」
「? 何だアレ、メダロット教の使徒か?」
「バカ! 来んな!」
「冥土の土産に教えてやろう! 1度の軽率な行動が、周りの人間をも巻き込んで災いするという事をな!」
「!! やべっ……!」

ゴーグル男の言葉が合図だったと言わんばかりに、男の横に控えていたクラゲ型メダロット・プルルンゼリーが、醤達目掛けて頭のミサイルを放った。
3人が体を退くのが遅れると、傍らを小さい影が横切り、ライフルがミサイルを撃ち落とす。

「! ジジイ!」
「ショウ、2人を連れて逃げるのだよ! 再び爆発に巻き込まれかねん!」

焦った様子のメタルビートルから、プルルンゼリーに視線を移し、醤は不利な状況であるにも関わらず口角を上げた。

「……カグラ」
「『カグラ』!?」
「好きに呼んで良いって言ったよな? “楽しそうな神様”で“神楽(カグラ)”だ。
 ロボトルで何て呼んで良いかわかんねぇからな、今はそれで我慢してろ」

この状況下で突然名前の話を持ち出す醤に、甘太と翠の2人は怪訝な表情を浮かべた。
メタルビートルは復唱した言葉が自分の名である事を理解すると共に、醤が一緒に戦おうとしている事も理解し、声を上げる。

「いかん! 今ならまだ間に合うから早く――」
「手遅れだ! アイツの性格考えてみろ! オレ達の誰か1人でも見逃すと思うか!?」

醤の言い分に非が無いためメタルビートルが押し黙ると、すぐに頭を掻きながら、醤は苦笑した。

「悪ぃ、オレも……『今だけ』なんて嘘っぱちだ。……一緒に戦わせてくれ、神様」
「……何を言っておる」

メタルビートルは、醤のうって変わった真剣な表情に、今自分が何をすべきか思い当った。
いつものようにおどけた様子で、メタルビートル……カグラは、笑う。

「ワシの名は“カグラ”であろう? ショウよ」
「……! そうだったな、カグラ!」

カグラの返答を聞くと、醤は力強く笑い、メダロッチがついている左腕の袖を捲った。

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「「「「「「!」」」」」」

全員が声のする方へ目を向けると、雑木林の木から同じ制服に身を包む2人が飛び降り、降り立った場所にスポットライトが照らされた。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
「うわー、何か濃い2人だなー」
「俺はノーコメントで……」

Mr.ジャムとMs.マーガリンが初見であるため、甘太は若干脱力し、翠は目が合わないように視線を外し、苦笑しながら感想を述べた。
2回目の登場で慣れつつあるのか、醤は鞄から工具箱と弾薬を出すと、カグラに話し掛ける。

「カグラ、今の内にサブマシンガン補充すんぞ」
「ああ、そうだったのだよ」
「何をモタモタしている!? レフェリー、さっさと始めてしまえ!」
「駄目駄目! せっかちな男は嫌われるぞ!」

弾薬の補充を良しとしないゴーグルの男がそう怒鳴ると、いつの間にか隣に移動していたらしいMr.ジャムが男の肩に手を置いた。
その様子を見て、Ms.マーガリンが拡声器を手に言葉を発する。

『そんな事言って、先輩もトイレ待ち切れなくて女の人が入ってるのに扉開けたじゃないですかー』
「「「「「「!?」」」」」」
「HAHAHA!! 嫌だなあ、マーガリン! ボクはそんなせっかちな男じゃないよ!」

場の空気が凍りかける中、Mr.ジャムは白い歯を輝かせて笑いながら、爽やか……を通り越し、暑苦しく言い放った。

「トイレが待ちきれなかったんじゃなくて、扉の向こうのユートピアが見たかっただけさ☆」

直後、Mr.ジャムはパトカーに強制連行され、Ms.マーガリンは変わらぬ笑顔でハンカチを振った。
その異様な光景を目の当たりにし、甘太と翠は小さく呟く。

「メダロット協会って誰でも入れんだな」
「……俺はノーコメントで」
「よし! 補充完了!」
「ちっ! 終わったか!」

丁度サブマシンガンの補充が終わり、ゴーグルの男は舌打ちした。
醤は、周りに聞こえぬように、カグラに耳打ちする。

「……良いか、カグラ。昨日の半分だ。大体で良いから、半分の出力で戦ってみろ。それと……」
「? わかったのだよ」
『合意とみてよろしいかなー!? それではー、』

Ms.マーガリンの掛け声に、醤とゴーグル男は睨み合いながらメダロッチを構えた。
合図が、神社構内に響き渡る。

『ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』
「カグラ! 右腕に向かってリボルバー!」
「心得た!」
『カグラ! 先手必勝とばかりに前進ーッ!』

カグラはプルルンゼリーに向かいながら、左腕で右腕を支え、ライフルを放った。
ゴーグルの男は直感的に危機を察知し、指示を出す。

「プルルンゼリー! 後退してインターミサイル、ガイドミサイル!」
『プルルンゼリー! 直撃は免れたが数発ヒットー! 両腕同時攻撃にカグラはどう出るー!?』
「カグラ、一斉射アアア!」

ライフルを喰らうが怯むことなく、プルルンゼリーは両腕の標準を合わせる。
醤は狙い目とばかりに叫び、カグラは両足で地を踏みしめ、ライフルとガトリングを同時射撃した。
プルルンゼリーが撃ったミサイルは自分のパーツの至近距離で爆ぜ、爆発音と共にプルルンゼリーの両腕が黒ずんだ。

『プルルンゼリーの両腕大破ァー! さあ、ここからがプルルンゼリーの正念場だー!』
「くっ、何だと言うんだ……!? ボロボットの動きが昨日とまるで違う……!」

現在の戦況にゴーグルの男は奥歯を噛み締め、プルルンゼリーはカグラから距離をとった。
カグラはガトリングを撃ちながら、プルルンゼリーとの距離を詰めていく。
その様子を見ながら驚愕しているのは、翠や甘太も同様であった。

「……なぁ、村崎って昨日初めてロボトルしたんだよな?」
「村崎がメダロット買ったのは、確かに昨日だ。
 元々のメダルの熟練度が高いにしろ、メダロッターとメダロットのバランスが崩れりゃここまで戦えねーよなあ……」

醤本人の間近でするような話ではなかったが、醤は目の前のロボトルに集中し、2人の会話はあまり入っていない様子であった。
不意に醤の口元が小さく動いたため、2人は聞き耳を立てる。

「……もうちょい出力抑えて、いや出力をロボトル中に調整出来れば……」

――駄目だこの廃人、どうにかしないと……。

2人が呆れて絶句している間にも、カグラはプルルンゼリーとの距離を僅かに詰めていく。
醤とカグラは、ロボトル前の会話を思い出していた。

『それと……プルルンゼリーの頭部・脚部の装甲は厄介だ。
 脚部で防御されねえように接近戦に持ち込めば、リボルバーとサブマシンガンで戦況はかなり有利になる』

後少し、後もう少しと頭の中で繰り返しながら、プルルンゼリーの装甲を削っている最中だった。
苦い表情を浮かべていたゴーグル男は、ある程度の距離になると口端を吊り上げる。

「……フン、浅知恵を。お前らの考えなどお見通しだア!!」
「なっ……!?」

ゴーグルの男が叫ぶや否や、プルルンゼリーは頭からミサイルを放つ。
ミサイルはカグラを攻撃するかと思いきや通過し、カグラが方向転換し走り出したと同時に神社に直撃した。

「うわああっ!?」
『おおーっと!! 流れ弾が神社にクリティカルヒットー! 3人の少年の運命は如何に!?』
「ショウ!!」
「……レ達は大丈夫だ、プルル……リーから目ぇ、離すんじゃねえ……!」
「っぐああ!」
『脚部パーツ、ダメージポイント63』

立ち上がる白い煙から醤の声が聞こえたかと思うと、目を離したためプルルンゼリーの突進を許してしまい、カグラは仰向けに倒れた。
煙の向こうにいる醤は状況が把握出来ず、叫び声を上げたカグラの身を案じる。

「げほっ……おいカグ、ラ……!?」
『脚部パーツ、ダメージポイント79』
「ぎッ……!?」
『プルルンゼリーがカグラに乗り上げたアアア! これでは身動きがとれないぞー!?』

Ms.マーガリンの実況に醤は目を見開き、すぐさま煙から顔を出した。
2体を確認すると、カグラがクニャタンクの下敷きになっている。
折角の至近距離であるのに、両腕も脚部と共に押し潰され、使用不可の状態である。

『脚部パーツ、ダメージポイント100。機能停止。右腕パーツ、ダメージポイント51。左腕パーツ、ダメーポイント40』
「カグラ!!」
「だーっはっは!! どうした、お前等お望みの接近戦だぞ!?」
「……ッ」
『右腕パーツ、ダメージポイント56。左腕パーツ、ダメージポイント44。頭パーツ、ダメージポイント7』

プルルンゼリーのキャタピラが徐々に移動し、カグラの機体から軋む音が、醤のメダロッチからダメージカウンターが響く。
ゴーグルの男は、楽しくて仕方が無いと言うように言葉を続けた。

「ボロボット! これ以上クソガキ共にミサイルをぶち込まれたくなければ降参しろ!
 そうすればお前の機体だけ貰い受けて帰ってやるとしよう、メダルは割ってな! はーっはっは!!」
「……を……か……」
「聞こえん! 降参ならもっとハッキリ……――」
「ミサイルを、撃てぬのか……?」

低く、そして微かに笑いながら、カグラは言葉を紡いだ。
ゴーグルの男は、至近距離でミサイルを使うリスクを突かれ、ひくりと笑顔を引き攣らせる。

「危ない橋は、渡らぬか……だから、ワシ等に勝てぬのだよ……!」

次の瞬間、2体は衝撃音と共に爆風に包まれた。

「ぎゃあああプルルンゼリイイイイイ!!」
「カグラァ!!」
「べっべっ、木クズが口ン中にも……今の、どっちのミサイルだ?」
『カグラのミサイル炸裂ー!! 諸刃の剣はどちらに味方するのかー!?』
「……カグラらしいな」

ゴーグル男や醤が自分のメダロットの名を呼び、甘太は木屑を吐き出しながら尋ねる。
Ms.マーガリンの実況を受けて翠がそれに答えると、一枚のメダルが地面を転がり、土煙の中からプルルンゼリーが崩れ落ちた。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「す、凄いな……」
「マジで勝っちゃった……」
「カグラ!!」

Ms.マーガリンが勝利を高らかに称え、翠と甘太が感嘆の声を漏らす中、醤は一目散にカグラの元へ駆け寄った。
ナノマシンによりパーツが修復され、カグラが上体を起こすと、醤は傍らに腰を下ろす。

「大丈夫か?」
「大事無い。やったな、ショウ!」
「ああ。ったく無茶しやがって、けど上々だ」

醤が苦笑しながら手を差し伸べると、カグラは手を掴んで立ち上がった。
その様子を見て、いつのまにかプルルンゼリーのメダルと機体を回収していたゴーグルの男は、悔しそうに左右に歯軋りをする。

「うぉのれクソガキにボロボット、1度ならず2度までも……!!」
「……それは此方の台詞なのだよ」

カグラはゆっくりとゴーグル男の方へ向き、視覚センサーの光が火の玉のように揺らめいた。
只ならぬ様子に、ゴーグルの男は一瞬で己の顔を青く染める。

「よくも1度ならず2度もショウを……それも、カンタやスイをも手にかけてくれたな? ……お灸を据えてくれるわ!!」
「いでっ!? いででででで!?」

――おっかねえええ……!

おどろおどろしく言い放つと、カグラはサブマシンガンを構え、ゴーグル男の足元に発砲した。
高校生3人も、先程との穏和な雰囲気との格差に、若干顔が青ざめる。
ゴーグルの男は、ガトリングに堪らず声を上げながら、射程距離範囲外まで逃げると、再び醤達の方へ向き直った。

「クソガキ!!」
「!」
「お前もめでたく我が組織の標的入りだ!! 我々を敵に回した事、必ず後悔する日が来るだろう!!」

ゴーグルの男が全く懲りていない事を知ると、醤は負けじと声を張り上げる。

「上等だ!! 返り討ちにしてやるから覚悟しとけ、ロリータ・コンプレックス!」
「ロリータ・コンプレックスではない!!」

夕日が男の白い衣服を照らし、右胸に刻まれた“Tc”というマークが光る。

「俺は秘密結社テクノポリスが1人、エリアリーダー・タバスコ!! 精々メダルを洗って待っているが良い!」
「……どうもお灸が足りないようだな」

カグラがそうため息をつくと、彼の角から1対のミサイルが放たれた。
ミサイルを見るや否や、ゴーグルの男・タバスコは、雑木林の方へと一目散に逃げ出す。

「わあああ!! ボロボット! 今度こそお前をスクラップにしてやるからなあああ!」

タバスコの姿が見えなくなると、醤とカグラは顔を見合わせた。
互いに、笑顔が浮かぶ。

「本当にワシで良いのか? ワシは神社を出られぬぞ?」
「オレがここに来りゃ良い話だろ。今までと何も変わんねぇよ」
「……そうか」
「おーい! 村崎! カグラ!」

2人が声のする方へ振り向くと、翠が笑顔で手を振りながら駆け寄った。
その後ろを、甘太がマイペースに歩く。

「やったな! 凄いよ2人共!」
「よぉ尾根! サンキュー!」
「スイ、カンタ、大事は無いか? 巻き込んでしまいすまなかった」
「気にすんなよ。自分でもビックリだけど怪我ねーし」

甘太が頭の後ろで手を組みながらそう答えると、翠がカグラに心配そうに尋ねた。

「それより……あの、大丈夫なのか?」
「案ずるな。戦闘の怪我なら既に回復した」
「いや、違くて……」
「?」

首を傾げるカグラに、ちょいちょいと神社を指差しながら甘太は言葉を続ける。

「神社、全壊じゃね?」
「「!?」」

甘太の言葉を聞き、醤とカグラは勢いよく指を差された方向へ顔を向けた。
そこには、見慣れた筈の神社は無い。
かわりに、大きさが疎らな木材が転がっているだけだった。

「ワシの……ワシの神社……」

この時、カグラのオレンジ色のボディーは只々真っ白に染まっていたという。KWGのように。





「ショウ、重ね重ねすまない。よもや、斯様な事になるとは……」
「仕方ねぇだろ、神社がああなっちまったら」

夜。
甘太や翠と別れ、醤はカグラと共に帰路を歩く。
御守神社が全壊したため、カグラは醤の家に行く事となった。
神社が崩壊したからか、醤に申し訳ないからか、はたまた両方か……その表情は暗く、落ち込んでいる。
醤は頭を掻きながら、カグラに問い掛ける。

「頭痛は?」
「頭痛は、無いな。神社が壊れ、結界のようなモノが解かれたのやもしれぬ」

溜め息をつくカグラを見て、内心、神社が壊れて良かったのかもしれない、と思った。
しかし、落ち込むカグラを見ても、調子が狂うばかりである。

「……あのままってことは無ぇだろうし、時間かかろうが誰かが直すだろ」
「……人に忘れられた神社をか?」
「意外と覚えてる奴もいるみてぇだしな」

そう。昨日壊れた神社の扉が、翌朝の今日には話題となっていたのだ。
自分以外にも神社を気にする人間がいる事を、醤は自分にも言い聞かせながら、少し安堵した。

話しながら歩いている内に、とうとう村崎家の玄関に到着した。
ここが、醤の勝負所である。

「……いいかカグラ、今から2階に上がるまで喋るなよ」
「こ、心得た」
「行くぞ……!」

醤の気迫に、カグラは何度も頷いた。
醤が鍵を開け、扉の取っ手に手をかける。
扉を開け、2人同時に走り出した。

「ただいまあああ!!」
「おかえりー。……?」

一気に階段を駆け上がり、2階の部屋に飛び込むように入ると、醤は急いで鍵を閉め、小声でカグラに話す。

「カグラ! 取り敢えず押し入れに隠れてろ」
「惜しいな、ワシが猫型であればd」
「頼むからそれ以上喋んなよクソジジイ、っ!?」

醤が笑顔を歪ませながら言うと、背にしていた戸が音を立てて開いた。
思わず肩を跳ね上がらせた醤は、ゆっくり振り向く。
視界の隅に、伸びた手が戸の横のスイッチに触れる。

「あれ~? おかしいな~、鍵かけたんだけどな~……?」

震えた声で言いながら醤が戸に目をやると、錠“だった”物がぶら下がり、振り子のように揺れていた。
部屋の入口に仁王立ちする、怪獣“ペットナンテユルサナイワヨン”……もとい醤の母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)が、鬼神の如き形相で口を開く。

「あんた、電気もつけずに何やってんの……?」
「こ、これからつけるトコだったんだよ」
「階段上がる足音、1人分多くなかった?」

不意に図星を突かれ、醤は誤魔化すようにおどけて笑った。

「こ、こえー事言うなよな~! オレだけなのに!」
「まさかあんた……!」

カグラの存在がバレたと悟りながらも、どんな事を言われても平常心でいるために身構える。

「女の子連れ込んだんじゃないでしょうね!?」
「そんな羨ましい事出来るかボケェ!!」

醤が激情し、声を上げた瞬間、“何か”が醤の顔を横切る。
恐る恐る振り返ると、押し入れの戸にフライ返しが突き刺さっていた。
醤の顔を、冷や汗が伝う。

次の瞬間、いつの間にか真後ろにいたゆかりが、勢いよく押し入れの戸を開けた。
醤と、目を丸くしたまま硬直したカグラの目が合う。

「ショ、ショウ、今何か刺さっ……?」

かろうじてカグラが言葉を絞り出すと、ゆかりが噴火した。

「ペットは駄目だってあれ程言ってもわからんのかお前はアアア!?」
「うるせえええ!! メダロットはペットじゃねえって何べんも言わせんなアア!!」

醤がゆかりに逆切れし、醤の部屋は一瞬で爆心地と化した。
更に、ゆかりは怒号を浴びせる。

「元の場所に戻してきなさい!! 出来なきゃお前を捨ててくれるわアアア!!」
「面白え! やれるモンなら……――」
「ショ、ショウの母君!」

醤の言葉を遮り、カグラはゆかりを見上げ、話し掛けた。
ゆかりは、カグラをも怒鳴りつける。

「貴方は黙っていなさい!!」
「よ、宜しければ何故“ぺっと”とやらが駄目なのか教えてくだされ!」

カグラは幾ばくか気圧されながらも、ゆかりを真っ直ぐ見て問い掛けた。
醤は、何を言い出すのかとカグラに尋ねる。

「お前何言っ……」
「……ペットを買えばお金がかかるし、世話もしなきゃいけない。それより何より、みんな早く死んじゃうじゃない! もう嫌なのよ!
 家族が死ぬなんて!」
「……母さん……」

理由を初めて聞き、ゆかりの悲痛な表情を見て、醤は先程までの苛立ちを忘れ、言葉を失くした。
その言葉を聞き、カグラは床に手をつき訴えかける。

「それならば心配御座らぬ! ワシは自分の事は自分で出来るし、自分に必要なお金も頑張って稼ぐ!
 それに、背中のメダルが割れぬ限り死にませぬが故! ですから、どうか此方へ置いてくだされ……!!」

カグラは言い終えると、そのまま深々と頭を下げる。
今度は、醤とゆかりが絶句した。
呆然とカグラを見ていたゆかりだったが、少しして笑顔を浮かべる。

「私も駄目ね、メダロットにこんな事させるなんて」
「か、母さん……!」
「母君……!」

ゆかりの言葉を聞き、醤も、頭を上げたカグラも、表情を明るくした。

「醤、その子の事を大事になさい。……ううん、大事にしていきましょう。醤にとっても、私にとっても、新しい家族なんだもの」

最初に恥ずかしい所見せちゃってごめんなさいね、と、ゆかりは苦笑しながらカグラに謝る。
醤とカグラは、喜びながら感謝を述べた。

「ありがとな母さん!!」
「かたじけない!!」
「それで……」

2人を見て微笑んでいたゆかりだったが、醤の方に顔を向けると笑顔が消えた。

「何か言いかけてたけど、あんたの事は捨てて良い訳?」
「すみません、オレが悪かったです。どうか捨てないでください、ごめんなさいお母様」


今度は、醤が土下座する番だった。
かくして、カグラは村崎家の一員となったのである。



メダロッチ更新中……――
・ミサイルベース(JEL-01。うつ攻撃:ミサイル)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「えー、皆様お待たせしました。レギュラーが野郎ばっかでむさ苦しかった事でしょう!」
カ「ということは、女子が出るのか?」
醤「イエス! 女の子は良いよなー! おしとやかだし、可愛いし、物腰柔らかいし!
  ……凶暴じゃねえし、人のメダロット盗ろうとしねえし、恐くねえし……」
カ「どうした、表情が暗いぞ? ……おや」
梓「次回。『六角形の神サマ』第陸話、『神様争奪戦(前篇)』。神様を賭けて、ロボトルファイト」
醤「勝手に賭けんな!!」

六角形の神サマ 第陸話/神様争奪戦(前篇) ( No.6 )
   
日時: 2018/01/14 15:31
名前: 海月

――取り敢えず、何で今こうなってんのか整理しよう。……駄目だ、何も考えられねぇ。

それでも、村崎醤(ムラサキショウ)はここに至るまでの経緯を、必死に思い返していた。

HRが始まる前の事。
醤は、自分の机の中に1枚の小さなメモ用紙が入っている事に気付く。
そのメモ用紙は色も模様も無く真っ白で、黒いボールペンでこう書かれていた。

『放課後に話がしたい。屋上で待ってる。 ――波花梓音』

波花梓音(ナミハナシオン)と言えば、話題に上がったり、メダロットの修理を頼んだりと、一方的ではあるが、最近醤に何かと縁がある、醤のクラスメートである。
身長が低い割に、“可愛い”より“綺麗”という言葉の方がしっくりくる、神秘的な印象の少女だった。
そんな彼女から、恋文じみたメモを貰ったのだ。
『違う』と自分で否定しつつも、心のどこかで舞い上がってしまうのが本音だろう。
特に、醤のように、日頃から『青春を謳歌したい(醤語で“リア充になりたい”の意)』と嘆く少年にとっては。

屋上に向かうのに、醤は浮足立ちながらも、自分が好きな子の顔を思い浮かべ、どう断るべきか考えていた。
普段施錠されている筈の屋上への扉はドアノブを捻ると開き、醤は緩んだ顔を引き締めようと、緊張した面持ちで扉を開く。

屋上に1歩踏み込むと、メモの通り、梓音が佇んでいた。
太陽は彼女の髪を照らし、ミントグリーンのグラデーションが、色鮮やかに醤の目に映る。
まるで1枚の絵画のような光景に目を奪われた時間のロスはあったものの、先に口を開いたのは醤であった。

「よ、よぉ! 珍しいな、お前がオレに用ある……とか」
「……」

醤が喋り始めるや否や、梓音はゆっくりと醤に向かって歩き始めた。
先程の甘酸っぱい妄想が脳内で確信に変わり、醤は照れながらも言葉を続ける。

「悪いけどよ、オレ今好きな子……――」

梓音の顔が醤の眼前を満たした直後、顔のすぐ横に生じた鈍い衝撃音が、醤の動作を、思考を停止させる。

「……が?」

最後の1文字を吐き出す醤の視界に、梓音が“何か”を握っている映像が入り込んだ。

――拝啓、道祖神のカグラ様……。

目だけで辿っていくと、それは……――。

――何でオレのすぐ横に、ドライバーが刺さってるんでしょうか……?





『六角形の神サマ』 第陸話/神様争奪戦(前篇)





「……単刀直入に聞く」

目の前の1対の深緑が、醤を睨む。
醤の身長の方が高いため、自然と上目遣いになるのだが、全く嬉しくない。

「御守神社に何したの?」

梓音の口から、聞き慣れた、且つ梓音の口から聞く事になるとは想定していなかった単語に、醤は目を見開いた。
梓音の事を何一つ理解していないのに可笑しな話だが、それでも醤は、“波花梓音”と“御守神社”を繋げる事が出来なかった。

御守神社。
それは、幼少期に助けられてからというもの、醤が毎朝欠かさず参拝していた場所であり、現在の彼の愛機・カグラが御神体として祀られていた場所であった。
先の、秘密結社テクノポリスが1人・タバスコの襲撃により全壊し、今は木片の山と化している。

顔の横にドライバーが突き立てられてから硬直していた醤であったが、持てる力を込め、何とか口を開く。

「……何も、してねえよ」
「嘘」

醤の返答は、冷めきった声により切り捨てられた。
梓音は、静かに言葉を続ける。

「一昨日の“御守神社の扉破壊事件”、並びに昨日の“御守神社全壊事件”……」
「……!」
「少なくともこの2つは、どっちもお前が関わってる」

――『 お 前 』 呼 び か よ 。

切羽詰まったこの状況で『突っ込み所が間違っている』と言えなくもないが、女子に、それも全く親しくない人間による『お前』呼びに、醤は眉間に皺を寄せた。
もしかすると、軽い現実逃避の一種かもしれない。

苛立ちから突き立てられたドライバーの存在を忘れ、醤の思考は再び、少しずつ回り始める。

「……波花、お前……昨日神社に行ったのか?」

“全壊事件”が醤のクラスで公にされたのは、今朝のHRだった。
新聞は、神社=宗教絡みを彷彿とさせる内容が内容であるためか、事件について何も触れていない。
しかし、梓音のメモが醤の机に入っていたのは、HRの前である。
梓音自身が神社に訪れるか誰かから聞かない限り、それを知る事は出来ない。

「質問してるのはコッチ。次、嘘ついたり、ワタシの質問への答え以外を喋ったら……」

梓音は質問に答えず、ドライバーを握る手に力を込める。

「眼鏡のレンズと目を、片方ずつ失う事になる」

梓音の言葉を聞いて恐怖と憤怒が入り混じり、醤の小さな堪忍袋の緒が、破裂音と共に千切れた。
所謂、逆切れである。

「っあーあーそうですよ!! どっちも関わってるついでに、一昨日の“メダロット強奪事件”にも関わってるよ!
 確かに神社の扉はオレが壊したよ! でも仕方無かったんだよ! これで満足か、ああ!?」
「……いきなり何……?」
「それはこっちの台詞だ!! 大体それが人にモノ尋ねる態度かゴラァ!!」

豹変した醤の態度に、怯えるというより半ば呆れて梓音は呟いたが、醤はそれをも一蹴した。
不意に、梓音は何かに気付いたように、今までとうって変わって余裕が無い表情で尋ねる。

「じゃあ、神社の中のヒトは!?」
「は!?」
「惚けるな!!」

梓音の気迫に、醤は口を一文字に結んだ。
梓音は、声を張り上げ続ける。

「『仕方無かった』って言ったのは、神社の扉を壊しただけじゃなくて御堂の中に用事があったからじゃないの!?
 “誰か”に会ったんでしょ!? そのヒトは、今どうしてるの……!?」

醤は梓音の言葉を聞き、驚愕と同時に確信した。
『波花梓音は、“カグラ”を知っている』。

――コイツ、カグラの事……!

「まさか……」

俯いているため、喋る梓音の表情はわからない。
ただ、怒りからか、悲しみからか、声は微かに震えていた。

「まさか、お前がワタシに修理を頼んだパーツ……アレって、本当は……っ」

顔を上げた梓音の目には、涙が浮かんでいる。
“神社の中の誰か”、“パーツ”……カグラを指し示す単語の数々に、その瞬間、醤は強い疑問を抱いた。

――どこまで知って……!?

「止めよ、シオン」

突如響いた第3者の声に、醤も梓音も顔を向けた。
屋上に降り立ったオレンジ色の足は、聞き慣れたスプリングの音を奏でる。

「それ以上ショウを責め立てるとなれば、ワシはお前を叱らねばならぬ」
「カグラ!」

カグラの姿を見ると、醤は明るい笑顔を浮かべた。
直後、何かが音を立てて屋上に落ち、醤が目をやると、先程まで醤の横に刺さっていたドライバーが転がっている。
梓音は醤に背を向け、カグラを見て呆然と立ち尽くしていた。

「……その、声……」

よろけながらカグラに1、2歩と近寄り、梓音は大粒の涙を零した。

「神様あっ……!」
「ジジ様あああああ!!」

梓音はカグラに駆け寄ろうとしたが、突然カグラに飛んできた“飛行物体X”に足を止めた。
醤が怪訝な表情で眼鏡を掛け直すと、カグラが尻餅をついており、見覚えのないメダロットがカグラを凄まじい力で抱き締めている。

「御無事で何よりですううううう!! 神社が壊れたと聞いてマリアはっ、マリアはオイルも喉を通りませっ……!」
「そ、の声、マリア、か……相変わらず元、気……かはっ」
「待て待て待て待て!! 力緩めろ! 『御無事』じゃなくなる!」
『頭パーツ、ダメージポイント9。右腕パーツ、ダメージポイント15。左腕パーツ、ダメージポイント13。
 ロボトル以外ハ強イ衝撃ヲ与エナイデクダサイ』
「オレの所為じゃねえよ!?」

注意喚起する自分のメダロッチに、醤は声を張り上げた。
完全に涙が引っ込んだ梓音は、少し低い声でメダロットの名を呼ぶ。

「……マリア」
「あっ!? ご、ごめんなさいしぃちゃん! ホラ、ジジ様のココ! ココ空いてますよ!」
「……」

梓音の方を見て謝り、『マリア』と呼ばれたメダロットは、抱き締める力を緩め、慌てて1人分のスペースを空ける。
梓音は無表情のまま頬を染めてしゃがみ、パズルのピースの如くスペースを埋めると、無言でカグラを抱き締めた。

「よしよし」
「オイこらジジイ!! 頭撫でてる場合じゃねえだろ! 何だコレ!?」

優しく梓音の頭を撫でるカグラに、経緯と現状が全く呑み込めない醤は怒鳴りつけた。
カグラは撫でる手を止め、首を傾げる。

「ショウも来るか?」
「スペース空けましょうか?」
「空けない、絶対に」
「行かねぇよ!! この状況説明しろっつってんだよ!!」

見当違いの事を言う各々に、醤は腹の底から声を上げた。





「初めましてショウさん! しぃちゃんの……梓音ちゃんのメダロット・クリムゾンナースのマリアっていいます!」
「『クリムゾンナース』? 聞いた事無ぇな」

醤がカグラから2人を引き剥がすと、マリアは残念そうな表情を浮かべた後、前で手を組み、醤に御辞儀した。
マリアが頭を上げると、醤はまじまじと見ながら名を復唱した。
“ナース”と言うからには看護婦型メダロットなのだろうが、僅かな面影を残して既存の看護婦型と外見が大きく異なり、真紅と白が全身を染め上げている。
看護婦の象徴たるナースキャップや、ぶら下がる2つのお団子ヘアが特徴的な頭パーツ。
横にカプセルのような物が浮かんでいる、右腕パーツ。
前丈が短いエプロン、それをぐるりと囲むロングスカート、後ろにリボンをあしらった脚部パーツ。
そして、何より目を引いたのが、彼女・マリアの身の丈より大きな注射器を担ぐ左腕パーツであった。
マリアは、自己紹介を続ける。

「マリアは、NASβ型……NAS型『ホーリーナース』を基に、しぃちゃんが新しく作ったメダロットです!
 まだ試作段階なので、公式に発表はされていません。今は、実践データを集めている真っ最中なのです!」
「成程。前もそうであったが、今の姿も可愛らしくてよく似合っておるぞ。マリア」
「ジジ様……! ありがとうございます!!」

カグラに褒められ、感激のあまり再び抱き着こうとしたマリアであったが、つい先刻の事を思い出し、抱き着かずに少し落ち込んだ様子で俯いた。

「さっきは挨拶もせずに、イキナリごめんなさい。ジジ様を見たらすっごく嬉しくなって……!
 マリア、興奮すると周り見えなくなっちゃうんです」
「猪かお前は」
「これショウよ、女子を猪に例えるものではない」
「ちょっと笑うの堪えてる奴に言われたくねえよ」

横を向いて口元を押さえるカグラに対して醤が冷静にそう言うと、マリアは両手を上げて怒る。

「ショウさんジジ様ヒドイですー!」
「……で?」

マリアの訴えを物ともせず、顔を背けている梓音を醤は睨んだ。
梓音はカグラと引き離されたためか、面白くなさそうな表情を浮かべている。
何も反応しない梓音に、醤は口元を引き攣らせた。

「オレに何か言うことあるんじゃないですかねー? 波花サンよぉ?」
「さっさと罰が当たって死ねばいい」
「よっし、その前にお前に天誅喰らわせてやる」
「落ち着くのだよ」

嬉々として両手の関節を鳴らす醤を、カグラは制止した。
カグラは醤と梓音を見て、優しく、そして少し悲しそうに述べる。

「ショウ。シオン。お前達は、ワシにとって大事な孫なのだよ。優劣など無い。
 そんなお前達が仲違いするとなると、ワシは悲しくて堪らん」
「……だって、……っ」

梓音はカグラの言葉に口を開きかけたが、また噤んだ。
埒が明かないと言いたげに醤は頭を掻くと、自分以外の3人に問い掛ける。

「お前らいつ頃知り合ったんだ?」
「ある日……幼稚園に通っていたしぃちゃんが、御守神社の賽銭箱の裏で泣いてたんです。
 しぃちゃん、周りのお友達にあまり馴染めなかったみたいで、ジジ様が話し相手に……」
「マリア!」
「ご、ごめんなさい! 順番に話さないとと思って……」

マリアが宙を見上げながら思い出話をすると、梓音が名前を呼んでそれを咎めた。
よく見ると、梓音の頬が微かに赤い。
泣いている梓音を、しかも言動・態度から言って嫌悪を抱いている自分に弱みを知られてしまった事が悔しいのだろう、と醤は解釈した。
会ったばかりであるが、元気がなくなるマリアを見ていられず、醤も口を開く。

「気にすんなよ、波花だって何も本気で……」
「恥じる事は無いぞ、シオン。ショウも初対面で泣いておった」
「クソジジイ!!」

マリアを慰めようとした途端、隣にいるカグラが暴露した事により、醤は声を荒げた。
醤とて、自分の苦い記憶を他人に知られたくないのは同じである。

「おっまえ何ヒトの黒歴史簡単に暴露してんだコラ!!」
「シオンだけ知られたのでは公平では無かろうて」
「向こうが勝手に誤爆したんだろーが、……っ!?」

カグラに怒鳴りかけていた所で、醤の目に、いつの間にか梓音の両手に握られていたプラスドライバーとマイナスドライバーが映った。
酷い形相で醤を見る梓音は、低い声で言葉を紡ぐ。

「『ジジイ』だの『クソジジイ』だの……さっきから何様のつもり? お前も神様に助けて貰ったんでしょ?
 なのに、恩もわからない馬鹿なの? 死ぬの?」
「そ、それとこれとは別だ! ユイチイタンかお前は!」
「名前違い。ちっとも上手くないのよ……」

ドライバーを構える梓音に慣れてきたのか醤も負けじと言い返し、2人は犬と猿のように睨み合う。
その様子を見て、カグラは一息ついた。

「止めよと言うに。話をしてみればわかると思うが、ワシはそんな大それた事をしておらん」
「そんなコト無いですっ! ジジ様がいなければ、マリアは死んでました!」

言葉とは裏腹に憂いを全く含まない声に、双方睨み合っていた醤と梓音は、思わずマリアに目を向けた。
マリアは言葉を続ける。

「捨てられてボロボロだったマリアを看病してくださったのも、マリアをしぃちゃんのメダロットにしてくださったのもジジ様です!
 ここまでして貰えて恩義を感じないほど、マリアは冷血……いえ、冷オイルメダロットではありません!」
「冷オイルて……お前、神社でそんなこともしてたのか」
「良くも悪くも、放っておけぬのだよ」

マリアの口から出てきた新しい単語を復唱すると、過去も今も健在のお人好しっぷりに、醤はカグラを横目に少し呆れて言う。
醤との初対面時の状態とはいかないまでも、昔のカグラに余裕があるように、醤には思えなかったためである。
無論、そんなカグラの行動に、呆れはすれど嫌悪等何1つ無い。
カグラが気まずげに視線を逸らして言うと、梓音も小さく口を開いた。

「……それはワタシにとっても同じコト。神様もマリアもいなかったら、ワタシもどうなってたかわからないよ……」
「……しぃちゃんっ……!!」
「わっ!?」

感激のあまり今度は梓音に飛びつくマリアを見て、満足そうに頷くカグラの横で、醤は『置いて行かれた』と言わんばかりに立ち尽くす。
そんな醤の心境も知らず、抱き着いたまま、マリアはカグラに丸く黄色い目を向けた。

「そういえばジジ様、どうして此方にいらっしゃったんですか? マリアはもしもの時のためにスタンバってましたが」
「『もしもの時』あったろ。波花止めろよ」
「ああ、“虫の知らせ”なのだよ」

マリアの発言に醤が突っ込むと、カグラはマリアの問いに答えた。
マリアは、ようやく梓音を開放し、首を傾げる。

「“虫の知らせ”って……昔も時々来てたアレですか?」
「左様。此処で誰かが助けを求めていると聞いたのだが……どうやらショウだったようだな」

――ああ、ドライバー突き立てられた時か。

醤は、空を見ながら、つい先程あった出来事を遠い過去の記憶へと、本能的に書き換えようとしていた。
すぐに正気を取り戻し、今度は醤がカグラに尋ねる。

「……って、大丈夫なのか? いきなりいなくなって、母さんビックリしてるんじゃ……?」
「案ずるな。いきなり消える事があると母君には伝えておるし、家事は丁度完了した故」
「家事……?」

梓音がカグラの言葉を復唱し、醤は自分で振った話題が嫌な方向へと転びそうで、カグラを制止しようと試みた。

「おい待てジj」
「左様! 今、生活すべく働いておってな、家事をすると1日に1度賃金が貰えるのだよ!」

が、醤の願い空しく、カグラは嬉々として梓音に聞かれるがまま答える。
まるで周りの気温が急降下したかのように、醤は肌寒さを感じずにはいられなかった。

カグラが村崎家に迎えられた夜、つまり昨夜。
『自分に必要なお金も頑張って稼ぐ』と、醤の母・ゆかりに宣言したものの、カグラは具体策を思いつけずにいた。
人間にとっても世知辛い世の中である。メダロットの働き口も、そう簡単には見つからない。
考えあぐねいている醤とカグラにゆかりが提案したのは、『家事を手伝ってみるのはどうか』という内容だった。
カグラの“本来の仕事”について考慮し、両立可能なこの案に乗ったまでは良い。
しかし、同時に醤のお小遣いもお手伝い制となり、村崎家は限りなくプラマイゼロ、醤とカグラに限定すれば益々経済事情が厳しくなったのであった。
因みに、日給100円。ワンコインビジネスである。

そんなお財布事情もいざ知らず、カグラはずっと握っていた左手を広げ、醤に人生初の給料を誇らしげに見せた。
醤の心境としては、ぶっちゃけ、梓音の方をもの凄く見たくない。

「見よショウ! 100円玉だぞ! カンタの言う通り、『自分で働いて稼ぐ』というのは気持ちが良いものだな!
 カンタとスイにも見せたいのだが、2人は何処におるのだ?」
「ソウダナー。佐藤クンハ店番デ尾根クンハ部活ダカラナー、マタ今度ダナー」

醤が棒読みでそう言うと、意図して見ないようにしていた方角から罵声が飛ぶ。
罵声は、限りなく低く、限りなく静かで、限りなく冷たかった。

「……この甲斐性無し」
「うるせぇ!! 仕方ねぇだろ、村崎家はこういうシステムなんだよ!」
「やっぱり、お前に神様は渡せない」

メダロットを働かせるメダロッターなんて聞いた事が無いと自覚しつつも、醤は反射的に梓音の方へ顔を向け、怒号を浴びせる。
梓音は強い意志を込めながら呟くと、セーラー服の袖を捲り、黒いメダロッチを露わにした。

「村崎醤、お前に真剣ロボトルを申し込むわ」

正直、今度は何をされるのか冷や冷やしていた醤であったが、『ロボトル』と聞くと強気な笑みを浮かべた。
醤も学ランの袖を捲り、白いメダロッチを出す。

「……いいぜ。オレもお前をロボトルで負かして、謝らせようと思ってた所だ!」
「……わかった。ワタシが負けたら、お前に謝る。勿論、マリアのパーツも1つあげる」
「えっ!? マジでか!?」
「その代わり……」

何も反論せず、醤の言葉に従う梓音に、醤は驚きを隠せなかった。
次の、梓音の条件を聞くまでは。

「お前が負けたら、神様を貰う」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「負けたらカグラ寄こせだぁ!? そんなロボトルしてたまるか!!」
梓「これはワタシにとって千載一遇のチャンス。ロボトルが駄目なら、強制的にリアルロボトルに持ち込むまでよ」
醤「『リアルロボトル』!? お前らコンビ新しい単語作り過ぎだぞ!」
梓「ヒト型メダロット・ナミハナシオン。右腕パーツ、刺ス攻撃・プラスドライバー。左腕パーツ、抉ル攻撃・マイナスドライバー」
醤「ただの通常運転じゃねーか! 既にお前頭パーツバグってんだろ! ドライバー持ってこっち来んなああああ!!」
カ「次回。『六角形の神サマ』第柒話、『神様争奪戦(後篇)』。2人共打ち解けたようで、ワシも嬉しいのだよ」
マ「ジジ様、それは心からの言葉ですか? それとも現実逃避ですか?」

六角形の神サマ 第柒話/神様争奪戦(後篇) ( No.7 )
   
日時: 2018/01/14 15:46
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第柒話/神様争奪戦(後篇)





「お前が負けたら、神様を貰う」

放課後の御守高校・屋上にて。
メダロッチを構えた波花梓音(ナミハナシオン)の、凛とした声が響く。
俄かに信じられない条件に、対峙するカグラは自分を指差しながら目を丸くし、村崎醤(ムラサキショウ)はそこら辺の不良が裸足で逃げ出すような表情を浮かべた。

「な、え……ワシ?」
「メダル・ティンペット・パーツ1式か? ざけんなよ」
「メダル以外は要らない。研究の関係でたくさんあるから」
「ざけんなよ」

醤は、梓音の横暴な要求に、更には、自分が苦労して手に入れたKBT1式が梓音の元にたくさん存在する切なさに、怒りが爆発するのを抑えながら吐き捨てる。
一方、カグラは2人のやり取りを聞き、梓音を何とか説得できないものかとマリアに懇願した。

「マ、マリア。シオンを頼む……」
「ハイッ! ジジ様と一緒に暮らせるよう、マリアは頑張ります!」
「……そうだな、如何なる戦いでも全力を尽くさねば」

わかっているのかわかっていないのかわからず、両手でガッツポーズをとるマリアに、カグラはそう返答することしか出来なかった。
醤はカグラの呟きを聞き、屋上を出る扉に向かいながら否定する。

「何言ってんだ! こんなロボトル出来ねえに決まっt」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

屋上にいる者は、醤を除いて声がする方へと目を向けた。
醤は、聞き慣れたフレーズに、床に両手をついて項垂れる。
どこからともなく、スポットライトがレフェリーの2人を照らした。

「来た……来ちまった……」
「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
「……」

Mr.ジャムとMs.マーガリンが初見であった梓音は、まるで下等生物を見るような目で2人を見ていた。
梓音の存在に気付いたMr.ジャムは、颯爽と梓音に近付き、白い歯を光らせながら笑う。

「やぁやぁ可愛らしいマドモアゼル!! その白魚のような手には黒いメダロッチが良く映えるね!」
「はあ……?」
「何口説いてんだ!! 仕事しろよ!?」
「今大事な所だから邪魔するんじゃない!!」
「どうしてクビになんねえんだアンタ!?」

自分の職務を放棄し、あまつさえ逆切れするMr.ジャムに、醤はありったけの怒号を浴びせた。
醤からの干渉を一切受けず、Mr.ジャムは真剣な表情を浮かべる。

「メダロッター・波花梓音クン。このロボトルが終わったら……」

Mr.ジャムは、梓音に右手を差し伸べた。

「結婚しよう」

その手で、梓音のスカートを思い切り捲る。
直後、頬に小さな拳の跡をつけたMr.ジャムが、パトカーに強制連行されていった。

「ってて……何でオレもなんだよ!?」

醤は、Mr.ジャムと同じ拳の跡を擦りながら、梓音に怒鳴る。
梓音も、自分の右手の甲を擦りながら、醤を見下すような目で答えた。

「見たんでしょ、ワタシの白いパンツ」
「何言ってやがる!! 水玉じゃねーか!?」

醤の頬に、第2撃が飛んできた。
カグラは、醤の自爆を目の当たりにし、頭を抱える。

「ショウ、今のは殴られても文句は言えぬぞ」
「男だったら目ぇいっちまうだろ!! パンツだぞ!? 例えそれが歩くバイオレンスのパンツであっても!!」
「ドライバーで抉られたいならそう言ってくれる……?」
『クスクス』

梓音がドライバー片手に醤に1歩近づいた所で、微かな笑い声が聞こえ、一同は声のする方へ視線を移した。
視線の先では、Ms.マーガリンが口元を押さえて微笑している。
Ms.マーガリンは、悪びれる様子も無く、拡声器を当てたまま喋りかけた。

『ごめんねー、つい可哀想で笑っちゃった』
「笑ってないで先輩止めてくれよ。Mr.ジャムが捲らなけりゃ……」
『ううん。違くてー、』
「?」

殴られた事を憐れまれているのかと思い発言したが否定され、醤達は意図が読めず怪訝な表情を浮かべた。
Ms.マーガリンは、変わらぬ笑顔で淡々と言葉を続ける。

『色気もヘチマも無い超小学校級のパンツを、こぞって見ようとする男2人が』
「「「「!?」」」」
『合意とみてよろしいかなー!?』

全然、合意ではなかった。
ロボトルは合意だったが、主に精神状態が。
突如発せられた辛辣な言葉に、発した本人を除く4人……もとい、2人と2体が硬直した。
そんな様子を気にする事無く、Ms.マーガリンは号令をかける。

『それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』
「ハッ! 一気に決めるぞカグラ!! サブマシンガン!」
「わかった!」
『先手必勝ォー!! カグラのサブマシンガン!』

開始の合図でいち早く我に返った醤は、メダロッチに向かって指示を出した。
Ms.マーガリンの実況が響く中、カグラは両脚で地を踏みしめ、マリアに向かってガトリングを放つ。

「マリア、ナースコール」
「ハイ!」
『対するマリアは完全防御! お互いまずは様子見と言った所!』

梓音の指令を受け、マリアが祈るように両手を組むと、黄色い目が輝きを放つ。
すると、無色透明な球形の防壁がマリアを包み、銃弾が激しく火花と音を立てて衝突し、力無く床へと落ちた。
しかし、攻撃を防がれても動じる事は無く、醤は次の手を考える。

――やっぱり頭パーツは完全防御か……! 『看護婦型』ということは“回復”が十八番のはず!
  あのバカデケえ注射器が気になるが、判定勝ちされる前に畳んじまえば良い!

そんな醤の様子を見て、梓音は目を細めた。

「……『一気に決める』ねぇ、舐めてくれるじゃん……? カプセル」
『次に仕掛けたのはシオン選手ー! 迫るカプセルをカグラはどうするー!?』
「!?」

梓音が静かに指示すると、防壁が消え、マリアは右側に浮かんでいたカプセルを2個、カグラに向かって投げる。
右腕を回復系パーツだと思っていた醤の瞳孔は開き、急いでメダロッチに向かって叫んだ。

「カグラ! カプセルを撃ち落とせ!」
「心得た!」

カグラはリボルバーを左腕で支えて標準を合わせ、ライフルをこちらも2発撃つ。
カプセルはカグラに届く事は無く、爆ぜた。
醤は、武器の残骸が床に落ちるのを見ながら呟く。

「……ナパーム、か……!?」
『カグラが見事狙い撃ち! ナパーム弾成功ならずー!』

Ms.マーガリンの実況を聞いて見解が間違いでは無い事を確信すると、醤は奥歯を噛み締め、思考を切り替えようと試みる。
しかし、マリアを回復型と決めつけていた自分のミスに由来する悔しさから、頭が上手く回らない。
梓音が、一息つきながら口を開く。

「……マリアの風貌を見て、回復型と決めつける奴は少なくない。けど……」

醤を、梓音は冷たく見据えた。

「“思い込み”は致命傷、メダロットを失うコトになる。……今回に至っては、そのままの意味でね」
「……っ!」

何も反論出来ず、醤は歯軋りをした。
梓音の言う通り、横暴な条件とは言っても、醤は今回負ければカグラのメダルを失ってしまうのである。

「ショウ!? 次の指示を……!」
「ジジ様! 御無礼をお許しくださいっ!」

考え込む醤の方に振り返り、カグラは指示をせがむ。
隙有りとみたマリアは、ありったけのカプセルをカグラに向かってぶん投げた。
そのカプセルの大群を見たMs.マーガリンは、興奮を交えて実況する。

『カプセルの嵐、嵐、嵐!! 直撃すれば大ダメージだぞー!?』
「カグラ!! 前方攻撃の中心にリボルバー! ……っお前こそ、」

空気を張り裂くように叫んだ後、冷や汗をかきながらも、醤は口角を上げた。
カグラが指示に従ってライフルを放つと、ナパームは中心から両端に向かい、連鎖的に爆発していく。

『カグラ! 何と、ライフル一発でカプセルの大群を一掃!!』
「ああっ!」
「そんなドえらい数のナパームを密集させるとか、『爆撃してください』って言ってるようなモンだろうが……!」

感嘆の声を上げるマリアをよそに、醤は黒い笑みを浮かべて言った。
梓音は、視線を醤からマリアに移し、ため息をつきながら戒める。

「無駄遣いし過ぎ。癪だけど、弾薬が無くなっちゃ元も子もないわ」
「ハ、ハイ! ごめんなさい……」
「今のは、指示が遅れたワタシにも責がある。マリアは気をつけるだけで良い」

梓音の態度に、敵ではあるが苛立ちを感じた醤であったが、マリアに掛ける声が幾ばくか優しい事に気付いた。
複雑な話だが、どうやら自分以外には厳しいがそれだけではない事を、醤は察する。
かと言って、当然ながらロボトルに手を抜く訳にはいかない。

「カグラ! 右腕に向かってサブマシンガンだ!」
「マリア! ナースコールの後にカプセル!」
『バトルフィールドを火が飛び交う! 勝利の炎は一体どちらに灯るのかー!?』

その後は、Ms.マーガリンの実況通り弾薬が飛び交い、フィールドを硝煙の匂いが支配した。
しかし、いくら攻防が続けど、マリアは一向に左腕パーツを使う素振りを見せない。
醤は、眉間に皺を寄せて考察する。

――あれがリーサルウエポンっつーのは、間違い無えみてーだな。

「……そろそろいくよ、ワクチンほう」
「了解!」

梓音の合図を受け、マリアは数個のカプセルをカグラに向かって放り投げる。
カグラがそれらを撃つと、他のナパーム弾と火薬の量が異なるのか、爆風が巻き起こされた。
視界を白い煙が遮り、自分以外の行動を確認する事が出来ない。

『おおーっと! 爆風で何も見えないー! シオン選手はどんな攻撃に出るというのかー!?』

Ms.マーガリンの実況を聞きながら、醤は煙を吸わないよう、口元に右腕を当てていた。
すると、実況で気付かなかったが、耳鳴りのような音が醤の耳に届き、煙の隙間から途切れ途切れに光が見える。
やがて、その光は、“注射針”の周りを囲む大小各々の円という事に気付き、醤は声を張り上げた。

「カグラァ!! 左に飛べェ!!」
「!」

カグラが反射的に左へ飛んだ、その刹那。
一筋の閃光が煙を飛び出し、カグラの右腕を掠めた。

「ぐっ……!?」
『右腕パーツ、ダメージポイント71』

カグラは短く声を上げ、左手で怪我を押さえたまま床へと倒れこんだ。
徐々に煙が晴れ、視界が良好となる。
向こう側から、マリアの唸り声が聞こえた。

「う~ん。ショウさん鋭いです、避けられちゃいましたか!」

視界を遮るものが一切無くなると、マリアは巨大な注射器を左肩に担いで立っていた。
注射筒の中では、攻撃した名残か、小さな稲妻が音を立てている。
やっと目で戦況を把握する事が出来たため、Ms.マーガリンは生き生きと実況した。

『マリアの強力なレーザー光線ッ!! 直撃避けるもこれは痛ァい!!』

実況を聞くや否や、醤は勢いよくカグラを見た。
カグラは片膝を立てており、いつでも動ける状態であるが、左手は未だ右腕を押さえている。
しかし、怪我の範囲は左手と比べ一回り広く、一部が完全に炭と化していた。
カグラは、マリアから目を離さないまま、苦笑して醤に謝罪する。

「すまぬ、避け損なってしまった。見てくれは酷いかもしれんが、まだ右腕は使えるから案ずるな」
「そうじゃねえ……!! 何でだ、ちょっと掠っただけだ、ろ……?」

カグラの言葉を様々な意味で否定し、不意に焦点がカグラより遠方に合うと、醤は絶句した。
カグラがつられて見ると、校庭を囲むように埋められた大樹の1つが、頂上部がY字の形に抉られている。
沈黙の中、最初に口を開いたのは梓音だった。

「左腕パーツ・ワクチンほう。KWG型プロトタイプのウエポンの設計図を基に作られた、レーザー砲よ。
 とは言っても、ロボトル用に威力は制限されているんだけど」
「ほぉ、それでもあんな遠くの木も消し飛ぶのだな……」

梓音の言葉を受け、カグラは呑気に感心していた。
『プロトタイプ』という単語を聞いた途端、小刻みに肩を震わせていた醤が、一気に噴火する。

「阿呆かあああああああ!! ロボトルに何ちゅーモン持ち出すんだお前!?」
「煩い。だから、ロボトルに使えるように威力は落としてあるって言ってるじゃない。その証拠にパーツもちゃんと残ってるでしょ?
 馬鹿なの?」
「バカはお前だデンジャー女!! 残っても消し炭になりゃあ同じじゃねぇか!!」

『KWG型プロトタイプ専用ウエポン』。
それは、設計者であるビルバーレン氏が、あまりにも危険であるため自ら使用を禁じた攻撃用パーツである。
攻撃がメダロットに当たった場合、炭どころか綺麗に消し飛ぶ。

そんな危険なパーツに準ずるものが目の前に現れたのだから詮無き事だが、醤の怒号は更に続く。

「大体どーすんだあの木!? いーけないんだ~いけないんだ~」
「バレない」
「バレるわ!!」
「……そう言えば……」

上の部分が可哀想なことになった木を指差す醤に、梓音は耳触りと言いたげに顔を顰めた。
何とか醤を黙らせる手立てはないものかと梓音は考え、『KWG型プロトタイプ』から、ある情報に辿り着く。

「何でKWG好きなクセにKBT使っt」
「わーっ!! わーっ!!」
「?」

この場で想定してなかった質問に、醤は大声を上げ、カグラは何の話かわからず首を傾げた。
結果的に先程に増して煩くなったため、梓音は一瞬眉間に皺を寄せるが、すぐに機嫌が良さ気に笑みを浮かべる。

「……へぇー、やっぱり神様知らないんだ?」
「何をだ?」
「うるせえな!! 別に言う必要無えだろ!!」
「だから何をだ?」

カグラは2人の顔を交互に見るが、話の内容がわからず難しい顔をする。
このままではまずいと悟った醤は、荒々しい口調であるが、Ms.マーガリンに内心助けを求めた。

「おいレフェリー!! 相手のメダロッターが言動であれ妨害すんのはルール違反じゃねえのか!?」
『別にー? てか、ロボトルじゃこんなコトしょっちゅう』
「あってたまるか!! カグラ、お前のが機動力は上だ! 接近戦でさっさとカタつけんぞ!」

醤がMs.マーガリンに突っ込んでいると、梓音はすかさず無表情で尋ねる。

「KBTで接近戦? そんなに未練があるならKWG買えば?」
「あーあーうるせぇうるせぇ!! そんなんじゃねぇよ!!」

醤は声を荒げ、カグラに梓音の言葉が聞こえないよう遮った。
因みに、カグラ本人はアルファベットの綴りどころかアルファベット自体を全くわかっていないため、完全に醤の杞憂である。

「心得たが……ショウめ、完全に手玉に取られておるではないか……」

梓音のペースに呑まれ込んでいる醤に深いため息をつきながらも、カグラは距離を詰めながら、サブマシンガンで連射した。
ガトリングを受け、マリアの右腕パーツの部品があちこちへと飛ぶ。

「っくう……!」
「マリア! 左腕でガードして!」

――完全防御を使わねえ! っつーことは、使う回数が残り少ないか底をついたんだ!

醤は調子が戻りつつあり、冷静に戦況を見定めようとしていた。
マリアはガトリングを注射器で凌いだ後、接近するカグラに対し、注射筒の太い方を両手で持ち、振り上げる。
しかし、カグラは注射器を屈んで避け、マリアの背後に回り込んだ。

「カグラァ! リボルバー!」
「きゃあっ!?」

カグラが撃った3発のライフルはマリアにヒットし、マリアの右腕は黒ずんだ。
マリアはバランスを崩し、そのまま前に倒れるかと思いきや、両足で踏み止まり、目に強い光が宿る。

「マリア……接近戦はちょっと苦手、です!!」

リボルバーの標準が右腕から頭部に移るが、一瞬の空白の後、金属同士が強くぶつかる音と同時に、カグラの体が吹っ飛んだ。
カグラは声を上げることなく床を転がり、マリアが振りかぶった注射器の先端に、日の光が反射する。

「カグラ!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止。脚部パーツ、ダメージポイント55。関節部ニ異常発生』
『両者の右腕! 同時大破ーッ!! どちらも後がないが、カグラ選手は立てるのかー!?』

Ms.マーガリンの実況の中、カグラはサブマシンガンの銃口を床に当て、半身を支える。
醤は、カグラに向かって声を張り上げた。

「立てるか!?」
「すま、ぬ……こうして手で支えるのが、精一杯なのだよ」
「……それは良かった」

それは風に掻き消されそうな声であったが、しっかりと醤達の耳に届いた。
梓音は、言葉を続ける。

「動かれると、頭を狙えないから」
『マリアのワクチンほう! しっかりカグラの頭を捉えるー!』

醤とカグラが正面を見ると、充分に距離をとったマリアが、先刻のように注射器を構えていた。
充填が完了しているらしく、周囲に音が響き渡る。
脳裏に負けた時の条件が過ぎり、醤は目を見開き、力一杯叫んだ。

「……カグラ、カグラァ!! ミサイルだ!!」
「ナースコール」

醤の指示空しく、ミサイルは障壁に当たり、破裂した。
メダロッターの心情なんてお構いなしに、Ms.マーガリンは実況を続ける。

『カグラのミサイル、成功敵わァず! 最早、打つ手はないのかー!?』
「くそっ、サブマシンガンでもミサイルでも何でも良い!! 攻撃を……!!」
「どうしようと、完全防御で防ぐまでよ。切り札って、こういう時のために残すモノでしょう?」
「……ッ!」

梓音の言葉に、醤は言葉を失くした。

相手のメダロッターの言葉が、審判の言葉が、これ程耳障りに感じた事があっただろうか?
嫌な汗が止まらない。
目の前は真っ暗なのに、脳裏では最悪な未来の映像が流れ続ける。
経験が無くとも、醤にはそれらが“何”を示すのかわかっていた。

自分は、どこで間違えたのだろうか?
相手の頭パーツの使用回数を読み違えた時?
接近戦を仕掛けた時?
それとも……経験の差を感じ取っていながらも、この場を去らなかった時?

醤が考えている間にも、マリアの注射針に光が集まっていく。

「……すまない」

聞き慣れた柔らかい声色に、醤はいつの間にか俯いていた頭を上げた。
カグラは、語り続ける。

「あの一瞬……マリアでなければ、頭を射抜けていたのだ。ショウの所為ではないのだよ。
 とは言え、躊躇いがあるのは向こうも同じらしい」
「……いいえ」

否定するマリアに目を向けると、構える手が微かに震えていた。
しかし、注射器を強く握ってそれを拒むと、マリアは凛とした声で言う。

「マリアは、勝ってジジ様と一緒に暮らすんです。絶対、撃ちます!」
「……そうか、それは残念だ」

そう言って自嘲気味に笑った後、カグラは静かに息を吐いた。

「お前達は本当にわかっておらん。言ったではないか、『優劣など無い』と。そもそも、今の今まで離れて暮らしておったであろうに」

いつもの呑気な口調に、醤と梓音は揃って呆気にとられる中、マリアは注射器のトリガーに指を掛ける。
そう感じさせるや否や、カグラは目線を下げたまま慈しむように、優しい声で言葉を綴った。

「……故に、離れて暮らしたとて、お前を大事に思う気持ちは変わらぬのだよ。“シオン”」
「――え?」

その刹那。

「きゃあああああああ!!」

マリアの注射器が爆発し、激しい音と共に、灰色の煙にマリアが包まれた。
目を見開いた梓音は、慌てて身を乗り出す。

「っマリア!!」
『マリアが爆炎に包まれたアアア!! まさかの形勢逆転かー!?』

Ms.マーガリンが実況する中、醤は何が起こったのかわからず呆然と立ち尽くしている。
やがて、煙が晴れると、煤だらけのマリアが目を回して倒れていた。
近くには、マーメイドメダルも転がっている。
Ms.マーガリンは、勝利を高らかに称えた。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「な……んで……?」

判定の直後、震えた声で梓音は言った。
あまりに現状が信じられないのか、前へ出る足がよろける。

「勝手に暴発するなんて、有り得ない……何で……!?」
「薬莢なのだよ」

ナノマシンで回復したカグラは難なく立ち上がり、梓音の目の前まで歩み寄った。
左手を広げると、手の上には空の薬莢が転がっている。

「マリアに弾かれた銃弾を拾い、接近戦の折、1つを保険として注射器の先端部に詰めておいたのだ。
 あれ程の威力、暴発すれば機能停止は免れまい。だからあの時、“ワシは右腕を壊さなければならなかった”のだよ」

目の前の老兵の策に、若きメダロッター2人は絶句した。

カグラが注射器に仕掛けた、あの状況下。
マリアの右腕が破壊されれば、残る行動は“完全防御”か“レーザー”。
判定に持ち込もうとも、カグラには未だ“ミサイル”と“ガトリング”があった。
勝率は5分5分。少々危険な賭けである。
確実に勝つために、梓音とマリアはワクチンほうの使用を強いられた。
勝敗は、マリアの右腕が破壊された際に決していたのである。

束の間の沈黙の中、醤は足早にカグラに歩み寄って勢いよく両肩を掴み、ありったけの音量で叫んだ。

「それをさっさと言えよおおおお!?」

醤の声は、屋上の空気全体を振動させた。
一方、醤の迫力に物ともせず、数回瞬きした後、カグラはあっけらかんと答える。

「言えばシオンやマリアにも伝わってしまうではないか」
「そうだけどお前ふざけんなよマジで!! ありがとうだがしかしふざけんなよ!! アンタのメダルかかってんだよふざけんなああ!!」
「わ、悪かった……悪かったから、べそをかくでない」
「泣いてねえし!! 泣いてねえのに何泣いたとか言ってんの……っ!?」

カグラは、醤の目尻の涙を見て流石に動揺し、罪悪感から謝罪した。
孫の涙に勝てる者は、滅多にいない。
乱暴に右腕で目をこする醤の背中を、カグラは優く叩き、苦笑する。

「まだまだワシ等は未熟よのぉ。経験も、理解も、信頼も足りん。それはそうか、話すようになってから3日しか経っとらん」
「……」

返す言葉も無く、醤は1度鼻を啜り、赤い目でカグラを見る。
カグラは、おどけて笑った。

「焦るでない。これから、いくらでも埋められよう」

その言葉を聞いて一気に気が軽くなったと同時に、その事実と、この先も決して埋まる気がしない年の差に、醤は堪らなく悔しくなり、一文字に口を結んだ。

しかし、今この場で1番悔しい思いを抱いているのは、負けてしまった梓音に違いない。
ロボトルで醤が勝ったという事は、カグラは、醤と一緒にいることを選んだのだ。
嬉しいはずなのに、醤は手を上げて喜ぶ事が出来なかった。
機能停止したマリアを抱きかかえた梓音が視界の中に入り、醤は、両手からカグラを開放する。
カグラも気付いて振り向き、梓音は足を止めた。

「腹が立つ」

梓音は、他にどうする事も出来ず、何度も感情をぶつける。
握る拳に、力が籠った。

「腹が立つ……腹が立つ……っ!」
「……シオン」

俯いているため、どんな顔をしているかはわからないが、言葉の中に怒りと悲しみが見える。
カグラは名前を呼んだが、梓音は干渉を全く許さない様子だった。
しかし。

「……けど、ごめんなさい」

ぽつりと呟かれたその言葉は、確かに梓音の口から聞こえた。
約束とは素直に謝るとは思ってもみなかった醤は、開いた口が塞がらなくなる。

「え、……え?」
「……やはり、シオンは良い子なのだよ」

安堵して微笑むカグラの声に、梓音は僅かに顔を赤らめた。
カグラは、言葉を続ける。

「昔のように、いつでも遊びに来てくれ。ワシも、シオンと話がしたい」
「神様……」
「そう畏まらずとも良い。シオンも、ショウのように『カグラ』でも『ジジイ』でも好きに呼べば良いのだよ」
「……ッ」
「まっ、待てよ! オレはぜってー認めねえからな!!」

カグラにそう言われ、梓音の口元が震える。
醤が声を上げる中、手が自然と自分自身の口に添えられると、梓音の顔は更にみるみる赤くなり。

「……お、おじいちゃんっ……!」

遂には真っ赤に染まり、新しいカグラの呼び名を絞り出した。

――可愛いじゃねえか畜生オオオオオ!!

恐ろしい梓音の姿しか知らなかった醤は、色んな感情が入り混じり、心の中で大絶叫した。
視界の隅で、カグラと梓音が笑顔で別れる中、醤は考える。
今回は行き違いから梓音と衝突してしまったが、同じモノを大切に思う者同士、ひょっとすると仲良くなれるのではないかと。
笑顔の梓音が、醤の隣を横切る。

「……今回の負けは認めるけど、ワタシもお前を認めない。調子に乗るなよ、村崎」

――呼び捨てかよ!?

先が思いやられるその捨て台詞に、醤は早々に前言撤回したのだった。



メダロッチ更新中……――
・カプセル(NASβ-02。うつ攻撃:ナパーム)獲得



続ク.





◎次回予告
カ「ショウ! シオンに会いに、メダロット研究所に行くぞ!」
醤「サファリパークに肉放り込むようなもんじゃねーか!! 断じて許さん!!」
梓「ワタシが呼んだのはおじいちゃんだけ。お前は入れない。どうしても入りたいなら、特別に左手首から下だけ許可するわ」
醤「メダロッチだけ寄こせってか」
マ「次回! 『六角形の神サマ』第捌話、『小規模度胸・大規模野望(前篇)』!
  皆さん! ここは平等に、頭・右腕がショウさん! 左腕・脚部がしぃちゃん! メダルはマリアに分けましょう!」
醤・梓「「却下!!」」
カ「……骨はワシので良いのか?」

六角形の神サマ 第捌話/小規模度胸・大規模野望(前篇) ( No.8 )
   
日時: 2018/01/14 16:18
名前: 海月

「おっまえ……ッふざけんなよ、マジで……!」

日曜日の昼下がり。
村崎醤(ムラサキショウ)は、カグラからパーツの修理が終わった事を聞き、メダロット研究所の裏玄関に来ていた。
……のだが。

「これシオンよ、ショウが怪我をしたらどうするのだ」
「呑気に言ってる場合じゃねぇ、だろ……真剣と書いてマジで殺る気だぞ、この女……ッ!」

醤は眼前のプラスドライバーの先を握り、押し返しながら言葉を絞り出す。
そのドライバーの柄を両手で握る人物・波花梓音(ナミハナシオン)も力を込めているのか、白衣の上から羽織っているブランケットが肩から僅かにずり落ちる。
梓音は、表情を変えず淡々と喋った。

「ワタシが呼んだのはおじいちゃんだけ。何で休日までお前の顔を見なきゃいけないの。
 おじいちゃんとメダロッチを置いてとっととかえりなさい。土へ」
「るっせえよこの妖怪おいてけぼりがああ……! ジジイが拉致監禁されんのわかってて留守番してられっかボケエ……!」
「拉致監禁など、ショウは大袈裟よのお」
「お前は“虫の知らせ”以外に“自己危険察知能力”もインプットしとけ!」

孫達のじゃれ合いを見るかの如く穏やかに笑う傍らのカグラに、醤は思わず顔を向けて怒鳴った。
そんな攻防を繰り広げていると、梓音の後ろから、カグラに負けず劣らず優しい声が響く。

「梓音、お客さんかい?」
「!」

白衣を着た眼鏡の男性が梓音の後ろから顔を覗かせると、振り返り力が抜かれた梓音の手からドライバーがすっぽ抜けた。
そのままドライバーは緩やかな弧を描く……と思いきや、直線的に勢いよく男の額にクリーンヒットした。
一言も漏らさず後ろへ倒れた男性に、醤は声を上げる。

「ちょっ、ええええ!? 大丈夫かオイ!?」
「……父さん」
「『父さん』ん!?」





『六角形の神サマ』 第捌話/小規模度胸・大規模野望(前篇)





「いや~、すまないね。親子共々お見苦しい所を見せてしまって。僕の名前は波花椒吾、この研究所で所長をしています。
 『御守のメダロット博士』って呼んでくれる人もいるけど……こっちは未だに馴染まないなぁ」

意識を取り戻した梓音の父・波花椒吾(ナミハナショウゴ)は、少し赤くなった額を擦りながら苦笑し、そう挨拶した。
笑う顔にそんなに皺は見られないのだが、髪の色が灰色であるため、幾何か年老いたように醤の目には映る。
そんな中、誰と目を合わせる訳でもなく、梓音は小さな声で言った。

「……父さん、別にコイツに挨拶なんて要らないのに」
「あ?」
「駄目だよ梓音! どうしたんだい今日は、こんなに攻撃的なんて君らしくも無い」

口調は強めても尚笑顔の椒吾に対し、梓音は何も言わず顔を背ける。
椒吾が溜め息をつく中、醤は梓音が自分に対してだけ横暴な態度である事を改めて知った。
まあ、梓音が荒れるのも無理もないかもしれない、とも思う。

遡る程でもないが、4日前。
梓音はマリアのパーツを、そして醤はカグラのメダルを賭け、真剣ロボトルをした。
今考えてもとんでもない条件ではあるが、結果としてカグラの機転が醤を勝利に導いたのである。
負けた梓音は、大方、『自分が愛してやまないカグラが自分を選ばなかった』とでも思ってるに違いない。
……それを差し引いたとしても、だ。

「ヒトの顔見るなりドライバーで目ぇ突くなんて発想普通に無ぇだろこのヤンデレ女!!」
「いきなり何? それに無傷じゃん」
「結果論を言うな! お前が逮捕されないのオレの反射神経のお陰なんだかんな!?」
「……ごめんね……」
「あ! いや、博士が謝る事じゃないです! えーっと……そう! 挨拶遅れてすみません!」

2人のやりとりを見て1人落ち込んでいく椒吾を見て、慌てて違う話題を探していると、醤は自分がまだ何者か名乗っていない事に気が付いた。

「オレは……」
「村崎醤君、だよね?」
「ハイ! え、何でオレの名前……?」

名前を呼ばれ、思わず勢いで返事をする醤に、無理もないか、と独り言のように言って椒吾は苦笑する。

「初めて会った時、醤君は幼稚園児で、もう10年も前だからね。ほら、よく砂場で梓音と遊んでくれただろう?」
「え!? 波花と!? やっべぇ何も思い出せねぇ!」
「やばい、ワタシも鳥肌が止まらない……」
「気が合うな! オレもタイムマシンに乗って自分に『そいつから離れろ殺されるぞ』って教えてぇわ!」

梓音とは幼稚園が一緒だった事しか思い出せない醤は、頭を抱えつつも梓音の言葉にそう切り返した。
椒吾は苦々しく笑ったまま、困ったように声を漏らす。

「昔はあんなに仲良かったのに、どうしてこうなっちゃったかなぁ?」
「コイツのグランドファザコンが原因です」
「お前に言われたくないわグランドファザコン」
「違いますぅ~、100歩譲って仮にそうだったとしてもお前よかずっと軽症ですぅ~」
「“ぐらんどはざこん”とは何だ? 新しい絡繰りの名前か?」

聞き慣れない横文字にカグラが首を傾げていると、目の前に椒吾が身を屈めて右手を差し出す。
カグラがその手を見てから顔を上げると、椒吾は微笑んで聞いた。

「君が醤君のメダロットかな? 初めまして、波花椒吾です。梓音がとてもお世話になっているみたいで……」
「カグラという。何の、シオンはワシにとって家族同然なのだからそう畏まらないで欲しい。ショウ共々、今後宜しく頼む」
「……ありがとう。よろしくね、カグラ君」

椒吾とカグラが手を酌み交わすと、ここで立ち話もなんだから、と椒吾は研究所へ誘い、醤達は言われるがまま裏玄関から入った。

「……へー……!」

入ってすぐ醤が周りを見渡すと、中は白1色で統一されており、大きなドーム状の部屋を廊下が取り囲んでいるような構造であった。
各扉の脇には電子パネルが取り付けられており、自分達がド田舎の御守町にいる事を忘れるような最新設備である。

「すっげえな! いくら掛かってんだここ!?」
「僕は『ここまでしなくて良いです』って言ったんだけどねえ。
 全部システムが管理してくれてるから、もし壊れて中に閉じ込められたら~とか考えるとちょっと怖いよ」

椒吾が苦笑しながらパネルに触れると、電子音の後に扉が左右に開いた。
梓音と椒吾は慣れきっているためそのまま足を踏み入れるが、醤とカグラは目を丸くし、見渡しながら中へ入っていく。

「マジで未来都市みてーだな……」
「全くだ。最新機器に斯様に囲まれている等、生きていける気がせん」
「何言ってんだ最新機器代表」

そう突っ込みつつも、カグラが家事をするにあたり家電製品達に振り回されている事を思い出し、醤はそれ以上何も言わず、梓音達について歩く。

内部は更に細かく部屋が分かれており、椒吾が1番広いであろう部屋のパネルに触れると、開いた扉の先から金属同士がぶつかり合う音が響いてきた。
逸る気持ちから醤が小走り気味に研究室に入ると、ステージ状の実験台の上で、メダロット同士が戦っている。

「この部屋では、主にロボトルからの研究データを集めているんだ。
 メダルの能力だったり、パーツの性能だったりそれぞれだけど……ここでの実験を経て、商品となるメダロットは皆メダロット本社に送られているよ。
 中には、本社から戻ってきてもう一度研究所で実験、とかね」
「へー、やっぱ商品になるまで時間掛かるんだなー」
「そうだね。商品化するからには、確固たる性能や安全性を確認しないといけないから」

普段何気なく見ていたメダロットの流通について学び、頷きながらロボトルを見ていると、凄まじい勢いで此方に向かっているスプリング音に醤は振り向いた。

「……ジジ様だぁ~れでしょおおおおお!?」
「ぐふっ!?」

傍らのロボトルよりも大きな衝撃音を立てて、グランドファザコン3号……もといマリアは、後ろからカグラに飛びついた。
あまりの勢いに前へ倒れるかと思いきや、マリアががっちりホールドしているため辛うじて直立している。

「マリア!」
「お前もうちょっとマシな登場出来ねえのか!?」
「あら、こんにちはショウさん! 遊びにいらっしゃったんですか!?」
「オレの話聞いてますかマリアさん!?」
『頭パーツ、ダメージポイント71。衝撃緩和ノタメ強制停止モードニ移行シマス。ロボトル以外ハ強イ衝撃ヲアt』
「うるっせえ!! オレの所為じゃねえっつってんだろ!!」

会話のキャッチボールが不全なマリアと注意喚起する自分のメダロッチに対し醤が声を張り上げる中、梓音はカグラの体をマリアの腕の中から抱きかかえ、その場を離れようとした。
梓音の様子を見て、醤は慌てて止めに入る。

「あっ、オイ! どさくさに紛れて……!」
「……ナノマシン連動装置で意識と装甲を回復させるだけだけど」
「すんませんでした波花さん!」

梓音は醤を一瞥すると、部屋の隅にある装置の上にカグラを寝かせ、慣れた手つきで操作を始める。
そんな梓音の背中を見て、醤は感嘆の声を漏らした。

「すげぇな波花、修理だけじゃなくあんな機械も使えんのか……」
「ハイ! しぃちゃんは普段博士のお手伝いとして、プロジェクトチームの実験にも関わってますから!
 ……ところで、ジジ様いつの間に寝ちゃったんですか?」
「お前も強制停止モードにしてやろうか」
「これショウよ、女子に暴力はいかん」
「その台詞、もっと他に言うべき奴いるだろ」

装置で復活したらしいカグラの小言に、心外だと言わんばかりに醤はそう返した。
にしても、と付け加えながら、醤は梓音に目を向ける。

「波花、クリムゾンナースのパワーバランスどうなってんだよ。
 マーメイドメダルで……しかも格闘系でもないのにこの怪力はおかしいだろ」
「……ワクチンほうを支えるのに、どうしても馬力が必要だった」
「……質問変えるわ。何で看護婦にレーザー砲持たせた?」
「レーザー砲はね、開発者のロマンなの」
「答えになってねぇし何故オレの目を見ない?」

明後日の方向を見る梓音に対し醤が鋭い指摘をすると、仕切り直しと言わんばかりに椒吾が1つ、提案をした。

「カグラ君も回復した事だし、どうかな醤君。僕とロボトルをしてみないかい?」
「博士と!? やる! やります!」

椒吾とロボトルが出来ると聞き、醤は目を輝かせながら答えた。
メダロットオタク……改めメダロット愛好家として、メダロット博士がどんなメダロットを、どんな戦法を使うのか、興味が無い訳がない。

「父さん、そいつ畳んじゃって。ワタシおじいちゃんのメダルが欲しい」
「2 度 と 賭けるか!! こちとら1度目すら不本意なんだよ! 畳むぞ波花!」
「ごめんなさい!!」
「博士じゃないです!!」

梓音に向けた筈の暴言に対し謝った椒吾に、醤は慌ててそう言い足した。
会話の流れでわかりそうなものだが、同じ姓を持つ人間として、もしくは性分で反射的に反応してしまうのだろう。
ここには『波花』が2人いる事を肝に銘じながら、醤は小さく息をつき、メダロッチを出すべく黒いパーカーの袖を捲った。

「と、ともかく、パーツとかは賭けずにゆる~くやろうか。それでも、全力でね?」
「勿論す! カグラ!」
「うむ。お手柔らかに頼む」

咳払いをしてから白衣の袖を捲って露わになった椒吾の手首には、梓音と同じく黒いメダロッチがはめられていた。
椒吾が今浮かべる笑顔はいつものように優しげだが、微かに挑戦的にも見える。
やる気満々の醤に声を掛けられると、カグラは頷き、ひらりとステージに上がった。
カグラがステージに上がったのを確認すると、椒吾はメダロッチを構え、画面を押す。

「メダロット転送! 頼んだよ、エジソン」
「了承シマシタ」

メダロッチから光の玉が飛び出し、ステージ上で膨張すると、中から宇宙人型メダロット・コスモエイリアンが現れた。
『エジソン』と呼ばれたコスモエイリアンは、事務的にそう返答しながら頷くと、目の前のカグラを見据える。

「ジャッジは梓音に任せようかな。公平にね」
「……わかった。それじゃあ、ロボトル・ファイト」

少しおどけて言う椒吾の言葉のままに梓音は右手を掲げると、開始の合図と共にその手を振り下ろした。

「カグラ! サブマシンガン!」
「心得た!」

カグラは指令を受けてすぐさま左腕を右手で支えると、エジソンに照準を合わせ、発砲した。
椒吾はカグラの攻撃を見て、慌てているのかいないのかわからないような声色で呟く。

「強力なガトリングだねぇ……。エジソン、ミュートハンド」

椒吾の指令と共にエジソンの右腕が視覚的に歪み、ナイトアーマーの右腕パーツ・ナイトシールドへと変化した。
盾は難なくガトリングを受け、エジソンはそのままカグラに向かって走り出す。

「装甲まで変わんのは厄介だな……! けど……カグラ! 脚部を狙い撃て!」
「わかった!」

変化した盾を見つめながら顔を顰めるが、醤は冷静に指示を出す。
カグラは言われるがまま照準でエジソンの機動を追っていくと、被弾した脚部が黒ずみ、エジソンの体が崩れ落ちた。

「いくらコスモエイリアンでも脚部まで変化出来ねえだろ! カグラ! リボルバー!」
「ああ、その通りだね。此方の機動力を削いだのは流石だけど、動けなくても相手にダメージは与えられるんだよ。
 エジソン、ミュートボディ」

椒吾が指令を下すと、今度はエジソンの頭部が変化し、バンカランの頭パーツ・スエットマントとなった。
ライフルの銃弾は、見えないシェルのような壁に音を立ててぶつかると、元の軌道を通って放ったカグラ自身を襲う。

「くっ……!」
『右腕パーツ、ダメージポイント57』
「やはり、迷わず頭を狙って来たね。体勢を崩した相手には有効だけど、逆に読まれやすくもあるから気を付けないと」

――パーツ1個壊れてんのに余裕じゃねえか……! 博士が冷静なのもあるけど、ありゃ脚部壊れんのも想定内だな。
  それにしても、ランダム変化なのに運良過ぎじゃねえか……!? 『勝負は時の運』て言うけど反則級だろ!
  とりあえず、今最も警戒すべきは“ミサイルの使用”! 射撃トラップか反撃されたら、多分詰む!

相手の冷静な分析に気圧されながらも、醤は勝利への糸口を見つけるべく、現状を把握していく。
顎に手を当て、ステージを睨み付けていたが、醤の眉間の皺が緩んだのを椒吾は見逃さなかった。
醤は口角を上げ、メダロッチに語りかける。

「カグラ、結構しんどいかもしんねぇぞ……!」
「何を言っとる、戦いの真っ只中であろうに」
「……エジソン、何かとてつもない事が起きそうだよ」
「……対処致シマス」

エジソンが瞬時に行動出来るように身構えると、醤はメダロッチに囁きかけた。
醤がメダロッチを顔から少し離すと、カグラは目を細めた。

「……心得た」

呟いた次の瞬間。
カグラはリボルバーを放ちながら、コスモエイリアンとの距離を一気に詰めていく。
防御すべく、椒吾も声を上げる。

「エジソン! ミュートアーム!」

エジソンが左腕をパステルフェアリの左腕パーツ・フォースバリアに変化させると、トラップが銃撃に反応し、リボルバーが音を立てて破裂する。

『右腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止』
「……ッおおおおおお!!」

右腕が壊れても止まる事は無く、カグラは雄叫びを上げながらミサイルを放った。
ミサイルの使用を避けると思っていた椒吾は僅かに目を見開くが、すぐさま指示を出す。

「ミュートボディ!」

エジソンが変化させたレッドマタドールの頭パーツ・ボディアタックで防御すると、シールドでミサイルは弾け、ステージ一帯を爆風が包み込む。
醤達周りの人間からステージ上の様子は確認する事が出来なかったが、煙の中からは銃撃音と貫通音が響いた。
音が止み、視界は徐々に晴れていく。
梓音は、静かに手を上げた。

「……エジソン、機能停止確認。勝者、おじいちゃん」
「よっしゃあああああ!!」

醤が喜びの声を上げると共に、カグラはサブマシンガンの構えを解き、煙を上げるエジソンのボディからはメダルが転げ落ちた。
椒吾はステージの階段を上がりながら、その強さを称え、醤に拍手を送る。

「おめでとう醤君。これは驚いたな、コンビを組んでからそんなに経ってもいないんだろう?」
「……驚いたのは、此方とて同じ」

自分達に近付く椒吾に言った後、カグラは目線を自分の足に落とす。

「速いな。最後の最後で迎撃を貰うとは……」
「ありがとう。エジソンも強いからねぇ」

カグラの言葉に椒吾は苦笑し、オチツカーを貫くワイアーニンジャの右腕パーツ・ざんばとうを引き抜いた。
椒吾がエジソンを拾い上げ、メダルを装着すると、両機体のナノマシンが作動し、次第に修復されていく。
醤が笑顔で低めに右手を出すと、ステージから降りたカグラが左手でその手を叩いた。

「お疲れさん。久々に全力で動いてどうだった?」
「そうだな、爽快だが……この後はのんびり過ごすとしよう」

伸びをするカグラから醤に視線を移すと、梓音は呆れたような声を出した。

「何か重大な秘策を思い付いたかと思えば、ただの短期決戦?」
「しょうがねえだろ! ごちゃごちゃ考えてる間にデス何とかが来ちまったらそれこそヤベーんだからよ」
「何せランダムだったからね。今回僕等は運が良かったよ」

そう言いながらエジソンと共にステージを降りると、椒吾は言葉を続ける。

「それより……僕が気になるのは、あの場面でどうしてミサイルを使ったか、かな? 反撃やトラップの事は考えなかったのかい?」
「考えました。けど……やっぱり予想外だったんすね、ミサイル使ったの」
「?」

醤の意図がわからず、椒吾は首を傾げた。
醤は、悪戯が成功したかのような笑顔を浮かべる。

「博士の事だから、オレがミサイル使わないようにすんのも読んでると思ったんです。
 なら、ミサイル使えば博士の隙を作れるし煙幕代わりにもなるし一石二鳥なんじゃねーかなー、とか?
 あんま意味無かったんですけどね」

博士もエジソンも速えし、と言いながら、醤は苦々しく笑った。
そんな醤に、椒吾は質問を投げかける。

「……じゃあ、もしあの時、エジソンが変化したのが反撃か射撃トラップだったら……?」
「パーツが反応する前に、カグラがミサイルを撃ち抜いてました」

醤の淀みのない即答に、椒吾は目を丸くした。

「な?」
「簡単そうに言ってくれるな。やってみんとわからん」
「バッカ、そこは『当然だ』だろ?」

溜め息をつくカグラに、醤がおどける様子を見て、椒吾はふ、と笑いを零した。

「醤君、カグラ君。年甲斐も無く久々に熱くなれたよ、楽しいロボトルをありがとう」
「こっちこそ! またよろしくお願いします!」
「折角遊びに来てくれたんだから、思う存分施設を見て行ってください」
「ありがとうございます!」

醤と硬く握手を交わすと、椒吾は突如浮かんだ疑問を口にした。

「そう言えば醤君。今日来たのは、研究所の見学だったのかい?」
「ああ! そういやそうだった! いや違うんですよ!
 勿論見学は有難いんですけど、波花……梓音さんから修理終わったパーツを受け取りに来たんです! なぁカグラ!」

醤が本来の目的を思い出し、カグラに声を掛ける。
しかし、返ってきたのは何故かマリアの声だった。

「あれ? ジジ様なら今さっき、しぃちゃんと一緒に部屋を出ましたよ?」
「!?」

マリアの言葉に、醤は顔を青く染め、辺りを勢いよく見回すが、カグラの姿も梓音の姿も無い。

「しょ、醤君……?」

肩を震わせる醤に恐る恐る椒吾が声を掛けると、俯いていた醤が顔を上げ、その怒号を研究所中に響かせた。

「やりやがったなあの女アアアアア!!」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「くそっ、私の注意が他に向いている隙にまんまとやってくれたな! 怪人ドライバー面相!」
タ「オイ」
梓「何の事かな村崎君? まぁお目当ての“金色の兜”は手に入れたんだ、退散させてもらうよ」
タ「オイ!」
醤「波花、これから推理タイムに入るからカグラ少年返せよ」
タ「オイ!!」
梓「嫌」
タ「オイっつってんだろ!! お前ら本物のワルを無視するのも大概にしろ!!
  次回! 『六角形の神サマ』第玖話、『小規模度胸・大規模野望(後篇)』!
  我々テクノポリスの壮大な計画を前に、せいぜいひれ伏すが良い!!」
醤「御久シ振リデス!」
タ「やめろ! たった3話出てなかっただけだろうやめろ!」

六角形の神サマ 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇) ( No.9 )
   
日時: 2018/01/14 16:05
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇)





「っんの女アアアアアア!! マジありえんわもーマジありえんし!!」
「しょ、醤君。落ち着いて……」

メダロット研究所の1室内。
カグラが誘拐され、怒号を響かせる村崎醤(ムラサキショウ)を、研究所所長兼メダロット博士である波花椒吾(ナミハナショウゴ)は宥めようと試みる。
言わずもがな、誘拐犯は醤のクラスメートであり椒吾の娘でもある、波花梓音(ナミハナシオン)である。
醤は落ち着く事を知らず、声を荒げる。

「落ち着いてられませんよ!!
 アイツの事だ、ジジイがぼーっとしてる間にドライバーで背中のハッチこじ開けてメダル盗るに決まってる……!」
「そ、そこまでするかなあ……?」
「しぃちゃんて情熱的だから、ふふっ」
「“執念”の間違いだろ!! そんな微笑ましいレベルの話じゃねえぞ!?」

醤の話を聞いて両頬に手を当てて笑うマリアに、目を見開きながらそう言った。
困り果てながらも、椒吾は首を傾げながら疑問を口にする。

「いつもお世話になってるのもあると思うけど、梓音がこうまでして何かを欲しがるなんて珍しいねぇ……?」
「そりゃあ……」
「ショウさんっ」
「あ……」

椒吾の疑問に突発的に答えそうになった醤は、小声でマリアに止められた。
梓音がカグラに執着する理由を話すとなれば、当然、出会った経緯を話さなければならない。
出会って数時間しか経っていないが、優しい椒吾が『幼い梓音が周りに馴染めず寂しい思いをしていた』事実に心を痛める事になるのは醤にも何となくわかる。

「ん? どうしたんだい?」
「いやー、はは……あっそうだ! オレ、カグラを探しに行ってきます!」
「えっ、醤君……! ……ま、待ってくれないか……?」

カグラを探しに行くという名目を見つけ、研究室から出て行こうとした醤は、椒吾より足を止められた。

「その……折角だし、僕と話でもどうかな?」

椒吾の突然の申し出に、醤は少し目を丸くする。

「いやあの……確かにオレも博士から話聞きたいけど、カグラを探さねえと……」
「カグラ君の事なら大丈夫。
 もし梓音が拒んだとしても、必ず君がカグラ君と帰られるよう僕がきちんと話すから……駄目かい?」

申し訳なさそうに頼み込む椒吾に、醤は言葉を失くした。
斯様な状況でなければ、椒吾からメダロットについての様々な話を聞きたいのも事実。
それに。
のんびりとした温かい雰囲気を持つ椒吾を前に、カグラの姿がちらつき、醤の心は揺れた。
マリアもしおらしく、醤の傍らで手を合わせる。

「ショウさん、マリアからもお願いです。
 しぃちゃんも……ジジ様と2人きりでしたいお話、たくさんあると思うんです。
 ジジ様とはずっといたいですけど、マリアもしぃちゃんを説得しますから……お願いします」

そう言って頭を下げるマリアに、醤は乱暴に頭を掻くと、諦め気味に笑いを零した。

「……わかった。オレにメダロットの話教えてください、博士!」
「醤君……!」
「ありがとうございます、ショウさん!」

醤が歯を見せて笑うと、椒吾は顔を綻ばせる。
マリアも頭を上げ、お茶を入れてきますね、と嬉しそうに研究室を後にした。





一方、カグラは梓音に連れられ、梓音の部屋に来ていた。
部屋の壁は真っ白なジグソーパズルがはめ込まれており、家具は黒1色で統一されている。
整えられたモノトーンの小さな空間で、教科書やノート、そして部屋の主である梓音の“色”は良く映えた。

「……おじいちゃん、コレ、が修理したパーツなんだけど……」

カグラとテーブルを挟み、向かい合って座る中、梓音は少し躊躇いながら大きな紙袋をテーブルの上に乗せた。
取り出した中身は、新品と見間違う程のKBTシリーズ1式。
自分と共に戦ってきたパーツを懐かしみながらも、酷使し大破してしまったパーツがここまで修復可能であるのかと、カグラは目を丸くした。

「ほぉ……! かたじけないシオン! ここまで綺麗に直るとは……!」
「……ううん、実は……直せてないの」

そう言うと、梓音は暗い表情で静かに首を横に振った。
修理されたパーツから梓音へと視線を移し、カグラは首を傾げる。

「直っておるではないか」
「……パーツ自体は、部品を取り換えたり接合して修理出来た。
 けど、何度実験してもティンペットのナノマシン……自動修復機能は完全に不能。
 パーツの方は……ナノマシンと連動が出来ないみたいで、1度壊れたら回復も復活も出来ないみたいなの」
「そうか……もう、使えぬか」

目の前のパーツに視線を戻し、ゆっくりと言葉を吐いたカグラに、梓音か小さく頭を下げる。

「ごめんね、ワタシ……」
「……なに、この機体が寿命だったというだけの話。お前が謝る理由等何処にも無い。
 シオンにここまで直せて貰えてワシはとても嬉しいよ、ありがとう」
「おじいちゃん……」
「この機体でまだ使える部品は、他の絡繰りの修理に是非使って欲しい。……お前も、長い間有難う」

穏やかな口調で言うと、カグラは慈しみながらパーツを撫でた。
そんなカグラの様子を覗き込むように見ると、梓音は心配そうに尋ねる。

「おじいちゃん、大丈夫? 今日、ずっと元気ないよ……?」
「……何の。強いて言うなら、この研究所は何から何まで珍しい物ばかりで目を奪われっぱなしなだけなのだよ。心配かたじけない」

カグラは笑い声を交えながら答えたものの、不安が拭われる事は無く、梓音は胸を押さえるように手を当てた。
梓音は何かを決心したように口を一文字に結んだ後、小さく開く。

「おじい、ちゃんは……どうして、村崎を選んだの……?」

途切れがちに声を掛けられ顔を上げたまま、カグラは梓音から目を離せなくなった。
声こそ少し震えていたが、その眼差しは強く、誤魔化す事を許さない。
カグラは、静かに息をつく。

「……先の1戦の事か」
「ごめんなさい。『大事な孫だ』って言って貰えて凄く嬉しかった、ハズなのに……どうしても、わからないの……。
 一緒にいるの……ワタシじゃ、ダメなの……?」

梓音の視線や言葉を受け止め、カグラは1つ瞬きし、口を開いた。

「何を言っても詭弁になるやもしれぬが……シオンと一緒にいるのが駄目な訳が無い。偶然が重なっただけなのだよ」
「ぐうぜん……?」

カグラは、この部屋の空気を一掃するかのように、“楽しさ”を言葉に滲ませる。

「……ショウがな、ワシを助ける時に言ったのだよ。『アンタのメダル貸してくれ』、と。
 助ける者に頼み事とは、本当にショウは変わっておる」
「村崎が、おじいちゃんを助けた……?」
「左様。自分が……渦中に巻き込まれるのも顧みずに」

告げられた事実に梓音が驚くと、カグラは幾度が低い声色でそう言った。
表情にも影が差したかと思えば、カグラはすぐに微笑む。

「ショウが救った“命”をどうこうする権利等、ワシには無い。
 だから、ショウが一緒にいる事を望むならば……望んでくれる限り、ワシは隣にいようと思うのだよ」

カグラの決意を聞き、梓音は僅かに目を伏せた後、小さな声でカグラに尋ねる。

「それって……ワタシがおじいちゃんを助けてたら、ワタシと一緒にいたかもしれないってコト……?」
「お前達には酷かもしれぬが、否定は出来まい。そういう未来もあったやもしれぬ」
「そ、っか……」

呟きながら梓音は笑みを浮かべたが、その表情はすぐに曇る。

カグラは、仮定の話をした。
梓音自身、カグラが助けを求めたならば、助けただろうと思う。否、思いたかった。
しかし、あくまで“仮定”なのである。確証は何処にも無い。
カグラの声に気付いたのも、カグラを助けたのも、他の誰でもなく……。

梓音は、自嘲気味に笑う。

「村崎は、扉壊せたんだ……」
「シオン? っ――……」

カグラにしか聞こえない“音”により、彼は言葉を止めた。





「はい、これがKWGシリーズの資料だよ」
「うおおおお!! ありがとうございます!」

その頃、研究室にて。
醤は椒吾からメダロットの話を聞いたり、文献を見たりしていた。
嬉々として中の資料を眺める醤に、椒吾は穏やかに笑う。

「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいなあ。醤君はKBTだけじゃなく、KWGも好きなんだね」
「……すいません、KBTのも見せてクダサイ」
「声が震えてるけどどうしたんだい!?」

あれだけ夢中になっていた書類から目を離し、暗い表情で笑う醤に、椒吾は思わず声を上げる。
醤は1つ咳払いをし、苦笑しながら話す。

「いや、でもKBTの設計資料は冗談抜きで嬉しいです。メンテとか調整に必要なので」
「わかった、用意しておくよ。それにしても……」

くすくすと笑い声を零す椒吾に、醤は不思議そうに尋ねる。

「何すか?」
「醤君は、噂通りのメダロット馬鹿だねえ」
「メ、『メダロット馬鹿』!?」
「僕や梓音と一緒だよ。わかるし感じるんだ、本当にメダロットが大好きなんだなって」

突然の言い様に声を荒げた醤だったが、満面の笑みを浮かべる椒吾に対し何も言えず、照れ隠しで頭を掻いた。
僅かに顔を赤らめる醤の顔を覗きながら、椒吾は言葉を続ける。

「君みたいな熱心な子が研究所に入ってくれたら良いんだけどなあ」
「え……?」
「そうだ! それが良いよ! どうだい醤君!? 醤君が入れば賑やかになるし、研究も捗ると思うんだ!
 是非将来、メダロット研究所の職員に!!」
「ちょっ、待っ、博士!」

いつもの穏やかな雰囲気とはうって変わって興奮し、醤の手を取って勢いよく上下に振る椒吾を、醤は慌てて制止する。
椒吾は我に返ると、醤の手を開放し、恥ずかしそうにはにかんだ。

「あっ、ごめんごめん。気持ちが昂るとどうもいけないね。でも、醤君が研究所に来てくれたら嬉しいっていうのは本心なんだ。
 ……梓音も、喜ぶと思うし」
「え、波花が? 怒り狂うだけだと思いますよ?」

怪訝そうな顔で言う醤に、椒吾は笑顔のまま少し俯いて答えた。

「確かに、あんな梓音を見るのは初めてだけど……あんなによく喋る梓音は、もう何年振りにもなるんだ。
 妻が先立って、僕は研究漬けで、梓音にはきっとずっと寂しい思いをさせてきたと思うから……」

椒吾の言葉に、醤は当時の事を思い出していた。

記憶はおぼろげだが、正しければ11年前、梓音の母が亡くなったような事を聞いたような気がした。
幼稚園児であった醤は、“死ぬ”という事がどういう事なのか理解していなかったが、甘えた盛りに母を亡くした辛さは計り知れないモノだろうと今ならわかる。
母もいない、友達もいなかったという梓音が出会ったのが、カグラとマリアだった。
新しい“家族”に、どれだけ救われた事だろう。

複雑な心境に駆られる醤に、椒吾は顔を上げ、優しく微笑んだ。

「だから醤君……これからも、梓音と仲良くしてください」
「……はあ……」

間の抜けた返答をしたは良いものの、果たして自分は“あの”梓音と仲良くなる事は出来るのかと、醤は腕を組んで考えた。
すると、椒吾から今度は遠慮がちに話し掛けられる。

「それでね、醤君には1つ確認したい事があって……」
「あっ! ハイ、すいません! 何ですか!?」

腕を解き、明るめの口調を努める醤に、椒吾は少し困った顔で問う。

「何て聞いたら良いのかな……今日は、修理したパーツを取りに来ただけ、なんだよね?」
「はい、そうですけど……『だけ』って?」

躊躇っていた割にごく普通の質問に拍子抜けしながらも、醤は疑問に思った単語を尋ね返す。
椒吾は少し安堵した笑顔で、更に言葉を続けた。

「いや~、ホラ、君達はもう高校生だし、有り得ない話じゃないかなあって。でも、安心したよ。
 ……梓音が彼氏を紹介しようとした訳じゃなくて」

――あれ何だろう、まだ春なのにクーラーでもついたのかな?

眼鏡を掛け直しながら呟いた椒吾に対し、醤は体感温度が一気に下がったように錯覚しながら、渇いた笑いを零しながら目を背ける。
どうしたものか醤が考えあぐねいていると、研究室の扉が開き、鉄砲玉の如く何者かが飛び込んできた。

「ショウ! “虫の知らせ”が来たのだよ!」

この場から逃げ出す口実が出来た醤は、突っ込みたい事は山程あるがカグラに目を向け、立ち上がる。

「カグラ! グッドタイミングだ!」
「何の話だ? それより急がねば!
 “知らせ”が来てから散々迷った挙句、途中で梓音がいなければ扉が開かない事に気付いて奔走したのだ!」
「あー、指紋センサーな。それで波花死んでんのか」

醤はカグラと手を繋いだまま地に伏せ、咳き込んでいる梓音に視線を落とした。
梓音は普段研究ばかりであまり“動く”という事をしない印象を抱いていたが、どうやら見たままらしい。
地に伏せたまま、梓音は途切れ途切れに喋る。

「おじい、ちゃんと手、繋いじゃった……ふ、ふ……ワタシ、も、死んでも良い……」
「良かったな、もうすぐお望み通りになるぞ」

先程の話と目の前の残念な少女とのギャップによりナーバスになった醤は、そう吐き捨てた。
満身創痍の梓音にようやく気付いたカグラは、慌てた様子で研究所内を見回す。

「す、すまぬシオン! 大事……あるな。早く水を……!」
「博士! 今日はありがとうございました! オレ達緊急事態なんで後よろしくお願いします!」
「おっ、おいショウ!」

左右を見回すカグラの腕を掴み、醤は椒吾に向かって小さく敬礼すると、カグラを引き摺るように走り去っていった。
椒吾は思わず前に腕を伸ばすが、止めたい相手はもう何処にもいない。

「えええー……?」
「ま、待ちなさい村崎……! ワタシも、一緒に……!」
「博士ー! ショウさーん! 紅茶のパックが見つからなかったのでアッツアツの抹茶ラテを入れて来ましたー! ……って、あら?
 ショウさんがいなくてしぃちゃんがいます」

丁度、入れ違いでマリアが研究室へと戻り、お盆を両手で持ったまま、地に伏している梓音の傍にしゃがみ込んだ。

「しぃちゃん、お腹空いちゃったんですか? それじゃあ今抹茶ラテをのm」
「……マリア、」

嬉々としてカップを手に取ったマリアの頭を鷲掴み、梓音は地の底から響くような声で告げた。

「今、ワタシに抹茶ラテを飲ませたら、ネジ1本残す事無く解体する。これは警告だ」
「…………うん、大変申し訳御座いませんでした」





「ショウ! 待てと言うに! シオンを放っといてはいかん!」
「元はと言えばお前がスタミナ豆腐女を走って連れ回したからだろーが! それよりこの辺か!?」

研究所を出たショウとカグラは、大通りをひたすら走る。
すると、曲がり角の向こうから騒ぎ声が響いてきた。

「や~め~て~よ~! これボクのメダロットだよ~!?」
「ぐぬぬぬ……! 小癪なガキめぇ、とっととメダロットを寄こせえええ……!」
「あっちか!」

醤達が声を聞きつけ角を曲がると、道の先には信じられない……否、あまり信じたくない光景が広がっていた。

……1体のメダロットを、体格が良くふくよかな少年と、未来人のような白い衣装を身に纏ったテクノポリスエリアリーダー・タバスコが左右から引っ張り合っている。
しかも、地面に転がって。
知人の情けない姿に、醤は頭を抱え、カグラはげんなりしながらリボルバーを放った。

「いっで!?」
「うわっ!? ……あ~、メダロット戻ってきた~。お兄さんとメダロット、ありがと~」

手首にライフルが当たり、タバスコが思わず手を放してしまった隙に、少年はメダロットを抱え込んで立ち上がり、大きく手を振りながら道の向こうへと駆けていった。
タバスコは赤くなった手首に息を吹きかけた後、醤達に気付き、尻餅をついたまま声を張り上げる。

「出たなボロボット共!! 勝機無しとみて俺に直接攻撃とは恥を知れ! “メダロット3原則”はどうした!?」
「どっちもお前に言われたかねーよ! 大体、何でこんな道端で事件起こしてんだよ!?
 今回のメイン“メダロット研究所”なんだから、研究所乗っ取ってメダロット強奪すんのが筋ってモンだろうが!?」
「ショウ、お前が悪事を唆してどうする」
「あ……ぁの研究所、セキュリティ万全で捕まりそうでコワィ……」
「チキン野郎!!」

蚊の鳴くような声で言ったタバスコに、醤はありったけの罵声を浴びせた。
カグラは、話を本筋に戻そうと、タバスコに問い掛ける。

「……タバスコ、お前は何故絡繰りを奪う? 絡繰りが必要であるならば、他に幾らでも方法はあろう」

カグラの問いに対し、タバスコは先程とうって変わって真剣な表情で立ち上がり、ゴーグルを掛け直すと、静かに語り始めた。

「人類は、テクノロジーの発展を自らの進化とし、科学的・経済的成長を遂げてきた。その集大成が“メダロット”だ。
 メダロットは人工衛星から、軍事的価値も見いだされる程の“兵器”と成った。科学の進歩は実に素晴らしい! がしかァし!!
 メダロットの進歩は、一部を除く人類により停滞しつつある! そう!!
 お前等のような一緒にいる事しか望まないような堕落した奴等だよ!! 村崎醤!!」
「はあ……!?」

話の矛先が自分の方へ向き、醤は眉間に皺を寄せた。
タバスコは、感情の昂りを見せながら、手を振りかざす。

「我々テクノポリスは、メダロットを以て軍事国家を形成し! そうした“無駄”を完全に駆逐する!
 そのためにメダロットを本来の利用価値に戻そうとしているだけなんだ! 咎められる謂れ等無い!」
「大それた目的の割に肝小せえなオイ!?」
「シャラアアアアアッップァ!!」

テクノポリスの目的を耳にした醤が思わず突っ込むと、タバスコは声を張り上げて遮った。
醤はタバスコの言葉に納得いかず、負けじと異論を唱える。

「良いじゃねぇか一緒にいるだけで!! そんなんメダロッターとメダロットの勝手だろ!?
 価値だの発展だの難癖つけて、どうせ一緒にいるだけで充分な奴等やっかんでるだけなんだろうが!!
 それに、人間邪魔ならお前はどーなんだよ!?」
「我々をお前等のような腑抜けと一緒にするな! テクノポリスは、メダロットの発展に貢献出来るごく一部の限られたエリート集団!
 駆逐の必要性は皆無だ!」

醤とタバスコが睨み合い、罵り合う中、傍観していたカグラは静かに口を開く。

「……確かに、お前の言う『堕落した』集団に、ワシも入っておるようだな」
「おいジジイ! 何認めて……」
「認めた訳ではない。ただワシは、大事な者と共に過ごす事が出来……」

醤の咎める声を否定すると、カグラは地を踏みしめた。
サブマシンガンの照準と強い緑の対の光が、タバスコを捕らえる。

「他愛もない理由で他者の幸せを踏みにじる外道を一掃出来るだけの力があれば、満足だという話なのだよ」

カグラの気迫に醤は絶句し、タバスコは笑みを浮かべながらもその頬には冷や汗が伝う。
タバスコは視線を何とか振り払い、メダロッチを構えて独り言のように呟いた。

「そうだ、どうせお前とはコレでしか決着はつけられまい。メダロット転そ……!」
「おじいちゃん!」

タバスコが転送ボタンを押そうとした所で、突如響いた声により動作を遮られた。
醤とカグラが振り向くと、梓音が息を切らしながらマリアと共に走ってくる。
カグラは構えを解き、驚いて声を上げた。

「シオン! マリア! 何故此処に……!?」
「け、研究所出たら、声が聞こえて……」
「そうじゃねえ!! 良いから早く逃げろ! じゃねえと……!」

醤やカグラの脳裏では、先日一緒にいたばかりに巻き込んでしまった友人達の事が思い出されていた。
幸い2人に怪我は無かったものの、梓音達まで巻き込み、今回も無事で済むとは限らない。
醤とカグラは、タバスコの反応が気になり、勢いよく再度そちらへ向いた。

すると。

「……ッ!?」

顔面を蒼白させたタバスコが、口元に手を当て、まるで金魚のように口を動かしていた。
タバスコの突然の挙動に、一同が怪訝な表情を浮かべる中、辛うじて醤が呼びかける。

「おい、」
「ぎゃああああああああ!!」

タバスコのあまりの悲鳴に、醤達は一斉に肩を竦める。
その後もタバスコは叫び声を上げながら、一目散に道の向こうへと消えて行った。
取り残された中、梓音が恐る恐る尋ねる。

「な、何アレ……?」
「……見ての通り変質者だけど、何? お前の知り合い?」
「あの変態はお前の知り合いでしょ?」
「うるせえな、オレだって不本意なんだよ」
「良いではないか、皆が無事なだけで儲け物なのだよ」

カグラが小さく息をつきながら言うと、マリアは首を傾げた。

「ジジ様! あの白い方は誰だったんですか? お知り合いなんですよね?」
「知人ではあるが……マリア達が気に掛けるような事ではない」
「えー! 気になります!」
「……別に、言わなくて良い」

ぽつりと呟いた梓音に、詳細を欲していたマリアと、詳細の説明を躊躇った醤とカグラの視線が集まった。
梓音の目と言葉に、確かな“意思”が宿る。

「誰だろうと、ワタシはおじいちゃんを守るだけ」

沈黙の中、マリアだけは笑顔でそうですね、と頷いた。
醤がカグラを見やると、困っているんだか嬉しいんだか、複雑な表情を浮かべている。

「……村崎、」
「うわっ! な、何だよ!?」

突如梓音に話し掛けられるとは思っておらず、醤は素っ頓狂な声を上げた。
醤の様子に動じる事無く、梓音は僅かに目を伏せる。

「……ありがとう、おじいちゃんを助けてくれて……」

思い掛けない梓音の言葉を醤の頭が理解するのに、幾何か時間を要した。
気恥ずかしさからか僅かに頬を染められると、此方としても調子が狂ってしまう。

「……オレのジジイでもあるからな」

口をついた言葉は素っ気ないモノであったが、彼女に伝わっただろうか、と醤は思う。
どうやら梓音も理解するのに時間が掛かったようで、瞬きを2回した後、僅かに口を開いた。

「…………禿げろ」
「だとコラ」

お馴染みの毒舌に醤が口の端をひくりと動かすと、梓音は醤を見据えて言う。

「負けないから、グランドファザコン野郎」
「そーかよ、グランドファザコン女」

二人の“孫”の背中を、夕日と2対の光が温かく照らした。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「皆さ~ん、儲かってまっか~?
  さて、巷では早くも年越しの準備が始まってる訳ですが、経済状況が厳しい村崎家は無事に年越し出来るのでしょーか?
  そんな中、次回の『六角形』は豪華3本立て!
  『村崎、バイトする』、『村崎、メダロットを借金のカタにとられる』、『村崎、遂には主人公の座を……』」
醤「売るかボケエ!! 次回! 『六角形の神サマ』第拾話、『商人之進(前篇)』!」
甘「商人も強盗も甲斐性無しも、みんな楽しくロボトルファーイ」
醤「その『甲斐性無し』ってのはオレの事じゃねえだろうな!? ああ!?」

六角形の神サマ 第拾話/商人之進(前篇) ( No.10 )
   
日時: 2018/01/14 16:34
名前: 海月

佐藤商店。
其処は、佐藤甘太(サトウカンタ)の実家が経営している、古き良き時代を感じさせる店舗である。
扱っている商品は、食品や日用品から、メダロットまで多種多様。

この日、最初の来訪者は、客ではなかった。

「いらっしゃい……よぉ、村崎。休みの午前中から何買いに来たんだよ?」
「……おう」

甘太は、顔馴染みの村崎醤(ムラサキショウ)の姿を確認すると、大きな欠伸をした。
醤は短く返事した後、ハタキを持つ甘太の前に仁王立ちする。

「な、何だよ?」

とてつもない威圧感を放たれ、怪訝な顔で甘太が尋ねると、醤は息を吸い込んだ。

「ここで働かせてください!!」
「は?」
「働きたいんです!!」





『六角形の神サマ』 第拾話/商人之進(前篇)





「なーるほーどーねぇ~」

カウンターの椅子に腰掛け、甘太は、醤から受け取った履歴書を眺めていた。
その正面には、緊張した面持ちで醤が腰掛け、次の甘太の言葉を待つ。

「村崎家のシステムじゃローンの完済が何時になるかわからない、と」
「左様です」
「今や小学生でも自分の小遣いでメダロット買ってるっつーのに村崎、お前って奴は……」
「うるせぇで御座います!」
「社会ってのは敬語使えば良いってモンじゃねーぞ」

履歴書から目の前に視線を移し溜め息をつく甘太に、醤はすかさず怒鳴るが、いつものように軽くあしらわれて終わった。

KBTシリーズ1式、税込五千円。10回払い。利子無し。
それが、醤の甘太に対するローンの詳細である。
初回は既に返済しており、残りの4,500円なんて時間を要さずに用意出来ると醤は思っていた。
が。
村崎家のお小遣いシステムがお小遣い制となり、経済状況が悪化。
平日は醤があまり手伝えず、実質カグラ1人で日給・五百円を稼いでるようなものなのである。
『それなら、9日働けば完済出来るじゃん』とお思いかもしれないが、オイル代、メンテ代、弾薬代……と、ロボトルするだけで、更に言えばカグラが生きるだけで賃金は消えていくのだ。
何らかの意思でローンの完済を遅延させている訳ではない。決してない。

そこで醤が考え付いたのが、アルバイトだったのだが……。

「おいおい、志望動機嘘書くなよな~。『メダロットで遊ぶ金欲しさ』だろ」

面接官が予想し過ぎていた通り、一筋縄じゃいかなかった。

「遊ぶ訳じゃねぇ! 理由はどうあれ真剣なんだよ!」
「はいはい、“真剣ロボトル”な」
「その真剣じゃ、いやちょっと入ってるかもしんねーけど! 頼むから雇ってくれよ!」
「性格真面目って……ウケる、チンピラ過ぎてクラスの女子三分の二から引かれてる奴がw」
「うるせぇ履歴書もう見んなああ!! つかお前何つった今!?」
「履歴書見ずにどう面接しろっつーんだよ」

醤がぐうの音も出なくなった事を確認すると、履歴書をテーブルに置き、甘太は椅子から立ち上がった。

「ま、良いや。ウチもアルバイト雇う余裕はあんま無ぇから、最低賃金で勘弁してくれ」
「あ、りがとうございます……?」
「おれとしても金が返って来ないと困るしな。メダルごとKBT1式返してくれても良いんだけど」
「何だ? オレの知らない所でカブトメダル狩りでも流行ってんのか?」

ドライバーを両手に襲い掛かる少女を思い浮かべながら、醤は少し低い声で言い放つ。
冗談だ、と甘太は手を振った後、醤に向かって黒い布の塊を投げた。

「わっ!? 何だコレ!?」
「佐藤商店のエプロン。村崎君、君には今この瞬間から早速接客と掃除をして貰おう」
「わかった……お前、コレ着て仕事してた事あったっけ?」
「良いんだよ。おれは生きながらにして佐藤の看板背負ってっから」
「無駄にカッコ良いな!?」

そんなやりとりをしながらも、醤はエプロンを着終え、甘太はハタキを手渡した。

「じゃあ、おれは会計すっからよろしく~」
「よし、どっからでもかかって来いやアアア!!」
「とりあえずその近付く奴皆殺しにしそうな顔どうにかしろ」

醤の気迫に、甘太は呆れながら、再び会計のパイプ椅子に腰掛ける。
すると、勢いよく戸が開くと同時に、数人分の足音と声が店内に響いた。

「ら、らっしゃああああ!?」
「ラーメン屋か」
「よおカンタ! 相変わらずしけた顔してんな!」

醤に突っ込みを入れると、我が物顔で入ってきた小学生の男児3人を、甘太は頬杖をついたまま見やる。

「うっせ。まーた立ち読みか悪ガキ共」
「へっへー、今日ポンポンの発売日だかんな!」
「あれ!? 全部紐ついてんじゃん!?」
「ざんねーん、佐藤商店ではもうポンポンの立ち読みは禁止でーす」
「生意気だぞ! カンタのクセに!」
「観念して買ってけ。3人1冊で割り勘すりゃマシになんだろ」

「バカ」だの「アホ」だの罵声を浴びせながらも、3人仲良くお金を出し、漫画雑誌を手に店を出ていく小学生達に、甘太はひらひらと手を振り見送る。
その間、醤は口を開けたまま何も話す事が出来なかった。

「あざしたー、またの御来店をお待ちしてまーす」
「……良いのか今の?」
「ラーメン屋に対応云々を言われたくねーんだけど」
「オレもだよ!?」

やっと喋る事が出来た醤は甘太に食って掛かるが、甘太は物ともせず淡々と語る。

「良いか、村崎。商人にとって大事なのは客に媚びる事じゃない、利益を得る事だ」
「いやその利益を得るために愛想が必要なんじゃ」
「愛想良くすりゃ100パー利益が得られるか? 次に繋げられるか? 答えはノーだ。
 なら、“今”金を落とさせる事に1点集中するしかねーだろ」
「わかった! だからこの店客来ねぇんだ!」
「……雇い主にここまで言えるバイトも珍しいな」

甘太が小さく息をつくと、商店の戸が再び開いた。
甘太と醤の視線は、入ってきた若い男女2人に向けられる。

「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ」
「だから私じゃないってー」
「俺でもねえよ~」

完全に2人の世界に入っているリア充に、醤は頭を上げないまま拳を握りしめた。
甘太は、醤を諭すように肩に手を置く。

「さっきのアイツらみてーに、必ずしも店員を相手にするとは限らねーんだって」
「……オレが言いたいのはそういう事じゃない。どっちでもええわ」
「ホンマにな」

短い返答に答える事なく、醤が観念して頭を上げると、甘太が言葉を続ける。

「商売には妥協も必要でな。さっきみたいに譲歩すりゃあ、どっちにも利益が入るってモンよ」
「リア充にどう妥協しろっつーんだよ」
「金を毟り取る」
「妥協かそれ?」

小声でやりとりをしている間に、カップルの男性が女性に声を掛けた。

「何買うか決まったか?」
「うーん……やっぱ良いや。出よ」

女性がそう返すと、来店時と同じく腕を組みながら、2人は外へと向かう。
が、店内に響いた声により、出る事は叶わなかった。

「お客さん」

2人が首を傾げながら振り向くと、そこには会計席に座る、店の壁を満面の笑みで指差す店員。
男女がそちらへ目を向けた後、何の事かわからない醤も指差す方を見た。
すると、店の壁に貼られた、達筆な字で書かれた1枚の紙が目に入る。
『ひやかしお断り』。

「あ、あの……?」
「御覧の通り、ウチは何も買わずに出られる店じゃないんすよー」
「そんな馬鹿な話が……!」
「馬鹿な話ついでにもう1つ。ウチはですねーお客さん、」

醤が張り紙から甘太へ再び視線を移すと、甘太の目が僅かに開いた。

「開業以来、何も買わずに店を出た人誰1人としていないんですよー」
「……!?」

店内を支配する只ならぬ空気に、甘太以外の人間が絶句した。
満面の笑みから普段の表情に戻り、考える素振りを見せながら、甘太は呑気に喋る。

「それで提案なんですけどね、当店では5円チョコを取り扱ってましてー」
「…………く、ください」
「まいどー」

料金を机に置き、商品を受け取ると、男女2人は足早に店を出て行った。
“逃げる”という表現が1番しっくりくるのかもしれない。

「あざしたー、またの御来店を」
「来る訳ねぇだろ極悪商人!!」

醤の声が、先程の甘太と別の意味で店内に響いた。
甘太が不服そうに眉をひそめる。

「んだよ。お前は客が帰ると元気になんなー?」
「ヒトをコミュ障みてぇに言うな! 今のは流石に無ぇだろ! 妥協は!?」
「だから互いに5円チョコで」
「佐藤それ『妥協』ちゃう!! 『脅迫』や!! 恐いわひたすらお前が恐い!!」
「うるっさい!!」
「いって!?」

掴みかかる勢いで醤が怒鳴っていると、背後から何者かに頭を叩かれ、醤は両手で押さえる。
頭に痛みが響くまま振り向くと、そこにはモップが付いた右腕を振り上げたままのメイド型メダロット・メダメイドが仁王立ちで立っていた。
醤は殴った相手を確認すると、咎めるようにその名を呼ぶ。

「グルコ!」
「何騒いでんのよ! お客さんが来たらどーすんの!?」
「どうせ来ねぇだろ!? 後お前もうるせぇ!」
「失礼ね!」
「いてっ! 殴んなって!」

醤に第2撃をお見舞いすると、グルコは今度、甘太を睨む。

「カンタ! 友達と遊んでないでちゃんと店番やんなさい!」
「仕事してたっつーの。ついでに村崎も」
「何でショウがウチで仕事してんのよ!?」
「今朝おれが雇って、ここのバイトになったから」
「あんたっ、おかみさんに許可とらないで勝手な事して!」

そのまま説教を続けるグルコに、甘太は指で両耳を塞ぐ。
頭を擦りながら、醤は呆れたように笑った。

「相変わらずだな、グルコ」
「ああ、そろそろ落ち着いて欲しいもんだ」
「ヒトをヒステリーみたいに言わないでくれる!? っもう、図体ばかりデカくなって中身子どものまんまなんだから!」

そう怒りながら、グルコはスプリング音を響かせながら雑誌コーナーへと向かった。
そして、いつの間にか宙に浮いていたエロ本目掛けてモップを振り下ろす。

「あんたもちゃんと仕事しなさいっ!」
「いでぇ!」

打撃音と叫び声が同時に上がったと思うと、床に雑誌が落ち、何も無かった空間に徐々に姿が現れ始めた。

「いてて、姐さんは容赦無ぇなあ~」
「ジーが真面目に仕事しないのが悪いんでしょ!? 私が悪いみたいじゃない!」

カメレオン型メダロット・ナチュラルカラーのジーは、その場に座り込み、殴られた左手を擦りながら反論する。

「ちゃんと監視してますよ~、こうやって人間共の性事情を」
「あんたが監視するのは万引きでしょーが!!」
「いでええええええ!!」

――アイツ、無茶しやがって……。

ジーの頭にクリティカルしたモップを見て、醤と甘太は心の中で静かに合掌した。
怒り疲れたのか、グルコは大きなため息をつくと、籠を左手に取り、店の戸に右手を掛けながら醤達の方へ振り向く。

「私は買い物に行くけど、ちゃんと店番してなさいよ坊主共!」
「へーへー。グルコー、カリカリしてたら皺」
「出来る訳無いでしょ!!」

甘太の売り言葉に買い言葉を叩きつけ、グルコは勢いよく店を出た。
なおも前後に動き続ける戸に向かって、甘太は言葉を投げかける。

「帰ってくんなバーカ」
「相変わらず凄えな~、お前の姉ちゃん」
「姉ちゃんじゃねー、おふくろのメダロットだ」
「姉ちゃんみてぇなモンだろ。お前が生まれる前からここにいて、生まれたお前の世話とかしてたんなら」

そんなんじゃねーよ、と甘太にしては珍しく不満を露わにすると、再び雑誌を広げた。
話し相手を失くした醤の肩を、ちょんちょんとジーが突く。

「仕事に戻りやしょ。カンちゃんがああなっちまったら、そっとすんのが一番です」
「ジー……」
「さて、仕事仕事!」

場を仕切り直すジーを見て、醤は思わず笑みを零した。

『佐藤甘太』という人間は、掴み所がない気分屋である。
そんな彼の理解者が気の良いパートナーという事実は、友人の1人である醤を密かに嬉しくさせた。

当のジー本人はというと……。

「おっほ、このアングルはエグいねぇ。げへげへげへ」
「……やっぱお前ら似た者コンビだよ」

ジャンルは違えど、マスターと同じく雑誌を開き、自分の世界に浸っているメダロットの姿に、醤は前言撤回せざるを得なかった。





時を同じくして、御守町スーパー。
野菜売り場で、仁義なき戦いが繰り広げられていた。

「私が先に手に取ったのよ……は・な・し・な・さ・いぃい~……!」
「お嬢さんには悪いが、ワシとて手を放す訳にはゆかぬ。一家の食卓(※おでん)が掛かっている故……!」

1本の、太くて立派な大根。
を、買い物籠を片手に下げたメダロット2体が取り合う図。
しかし、見慣れた光景であるのか、周りの買い物客は気に留める事無く、各々自分の買い物に勤しんでいる。
大根の根っこ側を引っ張るグルコは、言葉を続けた。

「あんたっ、男ならこういう時女の子に譲るモンじゃないの……!?」
「譲る、か……なれば、半分にするというのはどうだ? このままじゃ大根が痛む……」
「じゃあさっさと手ェ放しなさいよ!! 半分じゃ意味無いのよ!?」
「す、すまぬ……」

余りの気迫に、葉っぱ側を引っ張っていたメダロット・カグラは、理不尽に内心首を傾げたが、弱々しく謝る。
カグラの手の力が緩んだ隙に、大きく鼻を鳴らし、グルコは素早く大根を奪い取った。
咄嗟の出来事に、カグラは小さく声を上げ、目を丸くした。

「あっ……仕方あるまい、別の大根を探さねば」
「……あんたねぇ、そんなんじゃこの戦場で勝てっこないわよ?」
「確かに、これでお嬢さんに負けるのも何度目になるのか……」
「4回目よ」

しっかりと戦歴を把握しているグルコにカグラは苦笑すると、最初には劣るが立派な大根を発見し、籠に入れる。
一緒に会計に並びながら、2人は会話を続けた。

「良い? 戦場では強く心を持った奴が勝つの。籠に入れたからって安心しちゃ駄目。真の強者はそれすら掻っ攫っていくのよ……」
「それは果たして『強者』で片付けても良い話なのか……?」
「良いのよ。じゃないと……心が折れるから」
「……された事があるのだな」

何時になく落ち込んだ様子に、カグラは会計を終えて財布を閉めた後、グルコの頭を撫でた。
瞬間、カグラの頭にはモップが飛ぶ。
カグラは痛みから頭を押さえ、グルコはモップを振りながら声を荒げた。

「いたたた……」
「ななな何すんのよ!! 女の子の頭を軽々しく触るなんてっ、セッ、セクシャルハラスメントだわ!!」
「せ、せくさるはらすめんと? 何か存じぬが、気分を害してすまぬ」
「そんなんじゃなくて……あーもう、ビックリしたのよ! 私も殴ってごめんなさい!」

“謝る”とは程遠い態度をとると、グルコは仄かに赤い顔でジャラジャラと音を立てながら財布の小銭を出していく。
多かったのでお返ししますね、と店員から小銭を返され、更に赤く染まったグルコは、黙って財布に仕舞った。
頭を擦りながらその光景を見た後、カグラは少し上を見上げ、小さく呟く。

「どの戦いも、経験と心持ち……か」





「暇」
「あ?」

沈黙が支配していた空間で最初に声を発したのは、最初に黙り込んだ甘太であった。
声の主とそのメダロットが雑誌に夢中の間、掃除だ整理だと忙しなく動いていた醤にとっては本当に『あ?』という話なのだが、暇過ぎるというのも事実である。
床に寝っ転がっていたジーも、顔を上げ、溜め息をつく。

「もう誰でも良いから来ませんかねー。ついでに万引きでもしてくれりゃあ、オラも退屈しねーんですけど」
「万引きGメンがそれで良いのか?」

突っ込みながら、客が来たら来たでその体勢は問題ではないのかとも思ったが、醤の口から出ずに終わった。
彼等の待望の存在が来訪したのである。

「いらっしゃいませー」

甘太は目もくれずマイペースに読んでた雑誌を本棚に仕舞っているが、醤とジーは絶句していた。

「「「……!?」」」

顔につけた、白縁の大きなゴーグル。
白を基調とした、未来人を思わせるスーツ。
そして、その右胸に刻まれた“Tc”という文字。

尤も、その招かれざる来訪者も、醤の顔を見るなり指を差し、第1声を失くした訳だが。

「てめっ……タバスコ!! 何でこの店に……!?」
「そ、それは此方の台詞だ! 毎度毎度邪魔をしやがってええ……!」

テクノポリスのエリアリーダー・タバスコは、完全に出鼻を挫かれ、強く歯軋りをした。
しかし、それも束の間。
仕切り直しと言わんばかりにゴーグルを掛け直し、笑みを零すと、勢いよく右手を振りかざした。

「フッ、此方とて何度も黙ってやられてる訳ではない! 行け! テクノポリス制圧部隊!」

タバスコの掛け声で、店内に大勢のメダロットが押し入ってきた。
キツネ型メダロットのア・ブラーゲ、タヌキ型メダロットのア・ゲタマーを筆頭に、戦車型メダロット・タンクダンクが大量に押し寄せ、棚の商品が錯乱する。

「ぎゃあああああ!? 何じゃこりゃああ!?」
「ショウさん!! 万引き犯ですかい!?」
「今日という日が終わったら、お前も『ただの万引き犯なら良かった』と思うだろうよ!」
「いや、良くねぇだろ。村崎ー、何コレ?」

状況判断が出来ず、混乱する醤達の姿を確認すると、タバスコは満足気に口角を上げ、左腕の2つのメダロッチを構えた。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! 奴等を捕らえてしまえ!」
「げっ!? ジー、何とか……っていねえええええ!?」

今の今までいた筈の姿が忽然と消え、醤は怒りに任せて声を上げた。
甘太はその横で、店内の奥の戸を見やり、溜め息をつきながら呟く。

「良かったっつーか、悪かったっつーか……」
「何が“良い”っつーんだよ!? ……っ男子高校生舐めんなよ、1mそこらのロボットに負けるようなヤワじゃねえ!」

そう言って、醤は向かってくるメダロット2体に身構えた。





「何なのよいきなり!?」
「誰かが助けを必要としておる! 間に合うと良いが……!」

野菜が入ったビニール袋を手に下げ、カグラとグルコは商店街の大通りを駆け抜けていく。
突然走り出したカグラに、グルコは声を張り上げ続けていた。

「助けって何!? 何であんたがそんなことわかるの!?」
「う~む、話すと少々長くなるのだが……」
「……勘弁してよ……」
「ん?」

話すべきか否かを悩んでいた最中、後ろからの押し殺したような声に、カグラは首を傾げ、足を止めずに振り向く。
グルコは、口元に手を当て、俯きがちに言葉を続けた。

「こっちって、私の家の方向じゃない……!」
「……なれば、尚更急がねば」

前を向いたカグラもグルコも、走るスピードを上げていく。

辿り着き、カグラが足を止めたその場所は、グルコがあって欲しくない場所であった。
看板の文字を、カグラは読み上げる。

「“佐藤商店”? はて、何処かで聞いたような……?」
「ここ? ここなの? 嘘でしょ、誰が……もしかして強盗!?」
「お嬢さん、気を確かに」

気が動転しているグルコの肩を、カグラが支えた。
余裕が無いグルコは、カグラに声を上げる。

「落ち着いてられないわよ! だ、誰も怪我してないわよね? ねぇ、助けを呼んだのは誰なの!?」
「そこまでは、ワシにも……」
「姐さん、姐さんっ」

小さな呼び声に、カグラとグルコは視線をそちらへ移した。
見ると、物陰に隠れたジーが、手招きをしながら此方を見ている。
グルコは、安堵から声に喜びを含ませた。

「ジー! あんた無事だったのね!」
「しーっ、声が大きいっす」
「この者は?」
「弟分よ!」

カグラの問いに淀みなく答えると、グルコはジーの胸倉を掴んだ。
同時に、ジーの表情が強張る。

「おかみさんは? カンタは? ショウは? どうなってんの?」
「ちょちょちょ姐さん、落ち着いてくだせぇ。おかみさんなら、お昼寝中の所をオラが連れ出しましたって」
「『カンタ』? 『ショウ』とな?」

前後に揺さぶるグルコに、ジーは慌てて指を差しながら答える。
指の差された方向へ目を向けると、ジーの傍らで、エプロンをつけた女性が壁を背に寝息を立てている。
こういう人を“肝が据わっている”というのだろうか。……違うか。
聞き覚えのあり過ぎる名を復唱すると、カグラは手包みを叩き、1人納得した。

「そうか、この店はカンタの実家であったか。して、何故今ショウの名が……」
「待って。あんた、2人と知り合いなの?」
「知り合いも何も、2人はワシの孫なのだよ」
「はい!?」
『ジジイ、話をややこしくすんな』

まさかの返答にグルコが思わず声を上げると、カグラの頭の中に醤の声が響いた。
思い掛けない声の主に、カグラは驚き、話し掛ける。

「ショウ! 今どこにおる!?」
「え? ショウがどこにいるっての?」
「多分メダロッチの通信かなんかじゃないですかねぇ」
『あんまり声出すな。気付かれる』

見回すグルコにジーが説明したように、醤はメダロッチの通信機能でカグラと連絡を取っていた。
そのため、カグラの声は向こうに聞こえるが、それ以外の者の声は向こうに届かない。
醤は声を潜めたまま、言葉を続ける。

『今、佐藤商店の中だ。お前は?』
「ワシは、店の物陰なのだよ。カンタのメダロット? や、カンタの母君とも一緒におる」
「ちょっと! 私はおかみさんのよ!」
「姐さん、落ち着いて」

互いに素性がはっきりしていないため、あやふやなやり取りが続く中、異議を訴えるグルコをジーが宥める。
状況を把握し、醤が一息ついた。

『そうか……それなら話が早ぇ』
「ショウ、店の中だと言うがそちらはどういう状況なのだ?」

カグラの問いに、醤は乾いた笑いの後に答えた。

『…………捕まりました、助けてください』

その声は、語尾が少し震えていたという。
聞こえてきた声にカグラは少し笑うと、安心させるような声色でそれに返した。

「そのために来たのだ。待っておれ」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「コンビニ強盗ってよく聞くけど、商店強盗って聞かねえよな」
甘「まあ、あると思うけどな。実際、現在進行形であってるし」
ジ「HAHAHA☆ さしずめボクは女性のハート強盗かな!?」
醤「えー、次回『六角形の神サマ』第拾壱話、『商人之進(中篇)』。どちらの下着強盗様ですか?」
ジ「やだなぁブラザー! Mr.ジャムだよNo.1の~! ホラ、世の女性に聞いただいt」
マ『多勢に無勢でロボトルファイトー! “大体●したい男”ですよね先輩、本当にありがとうございました~』

六角形の神サマ 第拾壱話/商人之進(中篇) ( No.11 )
   
日時: 2018/01/25 21:28
名前: 海月

佐藤甘太(サトウカンタ)の実家、佐藤商店。
たった今、店内の人口密度はピークに達していた。
尤も、その内人間は3人で、メダロットが9割を占めていた訳だが。

「なっさけねー」

ため息をつきながらそう漏らしたのは、パイプ椅子ごと縛られた甘太だった。
言わんとしている事を理解し、釣り上げられた魚の如く雑に転がされている村崎醤(ムラサキショウ)は噛みつくように叫んだ。
後ろ手に縛られているのは甘太同様だが、此方は足首も厳重に縛られ、顔には出来たばかりの小さな痣や切り傷が見られる。

「お前もだろうが!? オレ頑張ったよ!? 頑張ったのにお前頑張らねえじゃん!? オレ1人じゃん!? そりゃ捕まるわ!」
「うるさいぞそこの人質×2! 騒ぐなら安否は保障せんぞ!?」
「1番うるせえのはテメエだ変質者!! いい加減懲りろや!?」
「コワアアアアイ!?」
「……おれは村崎が1番うるさいと思う」

醤が両足で蹴り飛ばしたパイプ椅子の束が音を立てて崩れ、この店を現在進行形で制圧しているはずのタバスコは、直前の威勢はどこへやらで情けのない声を上げた。
甘太がぼそりと呟くと、完全に甘く見られていると察したタバスコは、怒りながら店内に声を響かせる。

「黙れガキ共オオオオオ!? 秘密結社テクノポリスを敵に回した事、今更後悔してもおs」
「てくのぽりす……? ああー、前神社でがちゃがちゃ言ってたヤツな。何すんの?」
「メダロットで兵隊作りたいんだとよ」
「何ソレかわいー」
「話を最後まで聞けえええええ!! 何だ!? 今時の高校生はみんなこうなのか!?」

御守神社が全壊した際の記憶を辿り、質問する甘太と、それに簡潔に答える醤に、タバスコは頭を抱えて叫んだ。
甘太はふと、思いたった事を口にする。

「ん? 待てよ、じゃあ店がこんな風になったのって……」
「ふははは!! 知れた事! この店のメダロットを我が手中に収め、テクノポリスの戦闘員にするためだ!
 もう誰にも俺をチキンとは呼ばせんぞ!!」
「だァから狙うならこんな弱小商店じゃなくて研究所だのメダロット社だの狙えって言ってんだろうがチキン野郎!!」

醤の敵か味方か判別出来ない発言により、醤とタバスコの論争は再度勃発する。
普段なら、1言2言挟んでも良さそうな甘太であったが、この時は2人のやりとりを見て小さく声を漏らした。

「……へえ」





『六角形の神サマ』 第拾壱話/商人之進(中篇)





その頃。佐藤商店近くの物陰にて。

「さて。ショウ達を無傷で救出するには、如何様な手を打てば良いか……」

カグラは、店を横目で見やりながら呟いた。
商店の壁はガラスであり、タンクダンクが店内を埋め尽くしている様子は確認出来るが、醤と甘太の安否は確認出来ない。
数秒の沈黙の後、グルコも口を開いた。

「まどろっこしいわね。自分の家に帰るのよ? 正面から行けば良いじゃない」
「ね、姐さん。痺れるくらいカッコイイっすけど、それだとカンちゃんもオラ達も蜂の巣ですぜ」

ちょいちょいと手を掲げながら言うジーに、グルコは焦りから堪らず声を上げた。

「~っもう! 時間かければ良いってモンでもないじゃないの!」
「落ち着けグルコ嬢。助ける者がいなくなっては元も子も無いのだよ」
「……っ、……」

冷静に宥めるカグラに、グルコは食って掛かりそうになるのをぐっと堪えた。
自分は2人の安否が心配だ。
しかし、それはジーも、カグラも同じ事。
2人がすぐにでも助け出したい気持ちを抑えているのに、自分だけが取り乱してどうするのだと、グルコは自分に言い聞かせた。
場の空気を変えるべく、恐る恐るジーはカグラに問い掛ける。

「カグラの旦那。何か考えはあるんですかい?」
「……あちらが数十体いるのに対し、此方は3体。武が悪過ぎるのだよ。
 しかし、個々の能力を使えば……被害を最小限に抑えられるはずだ」

カグラは目を細め、両対の光にグルコとジーを映す。

「……グルコ嬢、索敵を」
「え、」
「店内の情報が少しでも欲しいのだよ。何でも良い、可能な限りでわからぬか?」
「……店の中にいる訳じゃないから完全にとは言えないけど、やってみる」

カグラの提案に頷くと、グルコは二人に背を向け、ガラスの向こうの群れを見る。
そして、静かに目を閉じた後、目を開いて呟いた。

「索敵」

同時にグルコの頭から何かを解析するような電子音が響き出し、カグラとジーは見守った。
ピピ、と電子音が止むと、グルコは再びカグラに目を向ける。

「大体だけど……店内の生命反応は31個。その内、人間は3、メダロットは28」
「に、にじゅうはちぃ!?」

敵の軍勢を聞き、ジーは思わず声を上げた。
グルコから結果を聞き、カグラは顎に手を当て考察する。

「人間の数が3。その内、2がショウ達であるから、1は犯人……メダロッター」
「1人でそんなにメダロットを操ってんの!? 相当な実力者じゃ……!」
「実力はわからぬが……そこなのだよ」

焦るグルコに、カグラは冷静に見解を述べた。

「如何に手練れと言えど、28ものメダロッチを1人で所持しているとは考えにくい。
 メダロッチが無ければ、命じたとて遂行するまでの時間が長くなる。
 となれば……大方、メダロッチで操っておるのは数体で、他は簡単な命令を聞いておるだけなのだよ」
「へぇ、ともなれば予想外の事には対応しきれないってぇ訳ですね」

カグラの話を聞いたジーは、手包みを打ちながら納得する。
ジーの言葉に頷き、カグラは言葉を続けた。

「左様。まずは、数を減らすべく簡単な命令で動いているであろう敵を一掃する。
 硝子故、互いに姿が見えるのが難点だが……ワシが頃合いを見て正面から攻めよう。
 ジー坊は、敵の目が正面に向いている隙に、隠蔽で2人を救出して欲しい」
「うへぇ、またあん中戻んのかー……いややりやすけどね、カンちゃん達いるし」
「案ずるな、充分にひきつけた後で動けば良い。グルコ嬢は……グルコ嬢? 如何した?」

ジーが両肩を落とすのを見て勇気づけていると、グルコがただじっと自分を見ている事に気付き、カグラは首を傾げた。
丸い緑の光に自分が映っているのを見ると、グルコは聞かれるがままに答える。

「あんた……何者なの?」

怪訝そうな言葉に、カグラは柔らかい表情で返した。

「何、ただの老いぼれなのだよ」





キィ。
店の戸の開く音が、激しい銃撃戦の引き金だった。
大量のタンクダンクは、音がした正面へと一斉射撃を開始する。
店内に、けたたましい銃声と硝煙が蔓延した。

「誰だ!?」

タバスコは正面に目を向け、勢いで立ち上がった。
後方のタンクダンクの流れ弾が前方の味方に当たり、砕けたパーツが舞う中、正面からの弾丸は、的確に装甲を削り落としていく。
その様子を見て、甘太はひそやかに語り掛けた。

「あーあー。“普通の客”なら、店と一緒に今頃仲良く蜂の巣だよなあ」
「……!」

甘太の言葉を受け、醤は険しい顔つきで正面を睨む。
多勢であることが思わず裏目に出た事を悟り、タバスコは強く歯軋りをした後、有らん限りの声量で叫んだ。

「追え、タンクダンク!! 我等にたてつく愚か者を仕留めろオオオオ!!」

新たな命を聞き、タンクダンクは一斉に店の外へと飛び出した。
店内には、拘束されたままの醤と甘太、一層周りを警戒するア・ブラーゲとア・ゲタマー、息を切らすタバスコ、機能停止した数体のタンクダンクが取り残される。

「悪いけど、」

不意に響いた声と共に天井の板が1枚外れ、一同が見上げると、天井から生えたモップの照準は、既にア・ブラーゲ及びア・ゲタマーを捕らえていた。

「“愚か者”はコッチにも居んのよね!!」

グルコのガトリングに、2体のメダロットは両腕を眼前に掲げて防御する。
思わぬ援軍に、醤と甘太は目を丸くし、声を上げた。

「グルコ!?」
「何やってんだお前!? 買い物は!?」
「『何やってんだ』はコッチの台詞よ!! 勝手に店乗っ取られてんじゃないわよ、きゃっ!?」

甘太の少しずれた問いに、グルコは連射しながら答えると、壁を蹴って天井まで駆け上がったア・ブラーゲの斬撃を、左腕・オボンコボンで受け止めた。
銃撃が止み、硝煙にむせ返りそうになりながら、タバスコは口を開く。

「攻撃と防御を兼ね備えているのか、面倒な……!」
「面倒ならさっさと消えてくれる!? 商売の邪魔すると馬に蹴られて死ぬわよ!?」
「ア・ゲタマー! エアバッグ!」

グルコが再び銃撃を再開すると、ア・ゲタマーはドーム状のバリアを張り、完全防御を発動した。
バリアに当たった弾は、疎らに床に落ちてゆく。
銃弾の無駄を察したグルコは攻撃を止め、タバスコは高らかに笑った。

「ハーッハッハア!! 残念だったなメイドのお嬢さん! 攻撃と防御が出来るのはお前だけじゃないんだよ!」
「っもう! 確かに面倒ね!」
「安心しろ、俺は優しいから『消えろ』なんて言わん」

タバスコは、厭らしく口角を上げる。

「お前の手を煩わせる事無く、こちらから消してくれるわ!!」
「どこが優しいのよ!? あんた絶対モテないでしょ!!」
「んん~、負け犬の遠吠えはな~んも感じんな~。ア・ブラーゲ、天井裏まで回り込め! ア・ゲタマーはそのまま待機!」
「ちょっとお! 来ないでよおおお!!」
「グルコ!! さっさと店の外まで逃げろ!!」

スプリング音と足音を立てながら、グルコが天井裏の向こうへ消えていくと、ア・ブラーゲは裏口の戸を開け放ち、凄まじい速度でその後を追った。
甘太は叫んだ後、大きな溜め息をついて項垂れ、ぼそりと呟く。

「っとに何やってんだあいつ、普段ロボトルなんかやんねーくせに……」
「……すっごい心配してたんすよ、姐さん」

小さく、それでいて優しい聞き慣れた声が甘太の後ろから聞こえたと思うと、甘太をパイプ椅子に縛り付けていた縄がはらりと解けた。
甘太は、顔を上げ、振り向く。

「え……?」
「作戦では、カグラの旦那と一緒に残りのメダロットに攻撃するハズだったんですがね? 『待てない』って。
 姐さんらしいと思いやせん?」

控えめな笑い声で甘太の目に光が射すと、すぐ横から、ドスのきいた低い声が響いた。

「……何故、勝手に縄が解けた……? まだ、誰かいるのか……!?」
「あ」

間抜けな声を聞くや否や、腕を組んで仁王立ちしていたタバスコは、メダロッチを構えた。
ア・ゲタマーは、右腕を振り上げる。

「メガトンパンチ!!」
「ひえええええっ!」

床が大きく凹み、破片が舞うと、情けない悲鳴を上げながら四つん這いで逃げ惑うジーが何も無かった空間から現れた。
隠蔽は、強く驚いた拍子に解けてしまったらしい。
タバスコは、忌々しげに鼻を鳴らす。

「ふん、次から次へとゴキブリの様な連中だ。まぁ良い! そいつを始末しろア・ゲタマー!」
「どっちがゴキブリだこ の 野 郎」
「へっ?」

いきなり強く胸倉を掴まれ、タバスコは素っ頓狂な声を上げる。
腕から恐る恐る視線を上げていくと、甘太によって拘束を解かれた醤が険悪な笑みを浮かべていた。
はたから見れば、不良が未来人のコスプレをした男をカツアゲしてるようにしか見えない。

「テメエはいつもいつもヒトをメダロットでタコ殴りにしやがってよおお……?
 ジジイやグルコも心配だけど、とりあえずボコらせろ小悪党が……!!」
「待ってえええ!? これロボットバトルモノだから! 人間同士がバトルするんじゃないから!」
「うるせえええ!! オレだって11話っていう短い話数の中で2、3話ドライバーで襲われてんだよおお!?」
「それ俺と関係無くないか!?」

拳を固く握る醤を見て、ある種の安心をすると、甘太は走って裏口に向かいながらジーに向かって叫んだ。

「ジー! 村崎頼んだぞ!」
「タヌキが恐くてそれどころじゃありやせええん!!」

再び隠蔽で姿をくらました状態でジーが声を張り上げると、その声目掛けてア・ゲタマーは攻撃を仕掛ける。
時間が惜しく、甘太は裏口から自宅へ繋がる階段を駆け上がった。

自宅の扉を勢いよく開くと、グルコの背中が見えた。
左手は既に大破していたが、無事を確認した甘太は顔を僅かに綻ばせながら、グルコの名を呼ぶ。

「グルコ!!」
「! カンタ! 助かったのね!?」

グルコは、喜びを言葉に含ませながらそう言うと、甘太の方へと振り向く。
天井から降り立ったア・ブラーゲの左腕・レイピアがグルコの背を斬り付けたのは、その直後の事だった。





「カグラの旦那あああ!! 早く戻ってきてぎゃああああ!?」

店内では、ア・ゲタマーの攻撃を間一髪で避けながらジーは逃げ回っていた。
隠蔽を使っていても声を上げるから場所がばれるという事には、本人は必死過ぎて気付いていない。
店の壁も床も、ア・ゲタマーの打撃痕で荒れ果てている。

「おい!! ア・ゲタマーの攻撃を止めさせろ!」
「ふっ、断る。ていうかお前、ひとしきり殴った後でよくそんな事言えるな?」

未だ醤が胸倉を掴んでいるタバスコの顔も、ボロボロであった。
醤は、拳を再度握ると、タバスコに尋ねる。

「もう1発行くか?」
「暴力反対!! ア・ブラーゲ、戻って来おおい!!」

ジーと同じような声色で、同じような事を叫ぶと、天井の穴から、ア・ブラーゲが降り立った。
その姿を見た醤と、身を隠しているジーは、苦虫を潰したような表情を浮かべる。

「佐藤とグルコは……!?」
「ヒャーッハッハ!! やられたようだな!? これで2対1だ! 大人しく姿を見せろカメレオン!」
「何を言う、2対2なのだよ」

店の外から声が聞こえたや否や、1発の弾丸により、ア・ゲタマーの体が後ろへと倒れた。
一同が正面へ目を向けると、撃ち放った者は左手で右腕を押さえながら、店内へ足を踏み入れる。

「遅れてすまぬ。それにしてもまぁ……」

店に入った所で足を止めると、カグラは、細めた目に醤とタバスコの姿を映した。

「お前は本当に、ワシの神経を逆撫でする事に長けておるなぁ? タバスコよ」
「ボロボット……!」
「カグラ!」

醤はタバスコを解放し、カグラに駆け寄った。
見れば、機体のあちこちに罅が入り、欠けている箇所もある。
カグラは少し俯き、沈んだ声で言う。

「すまぬ。来るのが遅くなったばかりに、怪我をさせてしまったようだな」
「お前だってボロボロじゃねえか……!」
「あんな多勢を相手にするのは少々骨が折れてな……最後は白い警察が引き受けてくれたのだよ」
「ああ……多分、セレクト隊だな」
「いやいや、誰がどう見てもこん中で大惨事なのは俺だろ」

2人が重い空気に首を垂れる中、タバスコは己の顔を指差し、淡々と言った。
聞いてか聞かずかタバスコの言葉には何も反応せず、カグラはハッとなって顔を上げる。

「皆の者は!? カンタやグルコ嬢、ジー坊は……!?」
「オラは何とか無事ですが……」
「佐藤とグルコは、……っ佐藤……!」
「カンちゃん! 姐さん!」

物音がした裏口に3人が視線を移すと、グルコを抱えた甘太が姿を現した。
甘太は俯いており、表情までは分からない。
隠蔽を解除したジーは、駆け寄り、グルコを何度も呼ぶ。

「姐さん! 姐さん! どうしちまったんです!?」
「『大丈夫、メダルを入れれば元通り』、だとよ……」

グルコの代わりにそう答えると、甘太は店の外まで足を進め、未だに眠りにつく甘太の母の横へグルコを横たえた。
皆に背を向けたまま、空を見上げ、甘太は語り掛ける。

「村崎ー、おれが1番嫌いな事って知ってっかー?」
「え……」
「おれさー、」

いつもの口調であるにも関わらず、醤が質問に答えられずにいると、甘太は振り向いた。
いつもの笑顔を浮かべず、ただ無表情で。

「プラマイゼロってのもやだけど、自分が損害被んのが1番腹立つんだよなー」

甘太の言葉に、店内の者は全員氷漬けにされたかのように固まる。
その雰囲気をぶち破るかの如く、御馴染みの決まり文句が辺りに響き渡った。

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「グルコがメダロットで良かったよな」
グ「な、何よいきなり?」
甘「考えてもみろよ。もしお前が人間だったら、家の中を逃げ回るメイド少女を強盗が追い掛けるとか、どんな薄い本n」
グ「最ッッッ低!!」
ジ(……聞こえやすか……カンちゃん……ジーですぜ……。アンタの脳内に……直接……呼びかけています……。
  薄い本なんつーのは……人間×メダロットも……メダロット×人間もありゃあ……メダロット×メダロットもあるんですぜ……ですぜ……)
カ「次回。『六角形の神サマ』第拾弐話、『商人之進(後篇)』。
  ジー坊からの伝言によれば、『何の事を言っているかわからぬ者は、変わらずそのままでいて欲しい』との事だが……ショウよ、どういった意味なのだ?」
シ「伝言を言った本人が伝言破んな!! オレが好きなのは3次元だ!」

六角形の神サマ 第拾弐話/商人之進(後篇) ( No.12 )
   
日時: 2018/01/14 16:57
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾弐話/商人之進(後篇)





「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

佐藤商店前。
声を張り上げた路上の2人組を、どこからともなくスポットライトが照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣タッグマッチと認定されましたー♪』
「さ! 両チームとも定位置について!」

Mr.ジャムの掛け声により、両チームの者は渋々と店外へ出た。
そんな中、ジーは戸惑いながら周りを見回す。

「え、え? タッグってえ、オラもですかい……?」
「他に誰がいんだよ?」
「頼むぞー、お前が1番ピンピンしてんだから。パーツ転送、デコイクラブ」

佐藤甘太(サトウカンタ)がメダロッチをジーに向けて画面を押すと、右腕が光に包まれた後、タラバクラバの右腕パーツ・デコイクラブが装着された。
村崎醤(ムラサキショウ)が腕を捲り、メダロッチを露わにしていると、甘太が渇いた笑いを零す。

「はは、損害分キッチリ払って貰わねーとなぁ……?」

――あ、目がマジだ。

2年目の付き合いになる友人の目からこれから起こるであろう事を察すると、醤はひくりと笑い、カグラの状態をメダロッチで確認し始めた。
両者が向かい合い、構えた事を確認すると、Mr.ジャムとMs.マーガリンは再び口を開く。

「これより、カグラ&ジーチーム対ア・ブラーゲ&ア・ゲタマーチームのロボトルを始めます!」
『準備良いですかー!? 良いですねー!? それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

Ms.マーガリンが腕を振り下ろし、カグラは両脚で地を踏みしめた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「心得た!」
「ジー、カラフルアーム」
「うっす!」
『先手のガトリング猛攻ォー! ジーは姿を隠したぞー!? 右腕のハンマーをどのタイミングで使うのか必見です!』

カグラがガトリングを放つ中、ジーが姿を消したのを見て、醤は目を前に向けたまま甘太に話し掛ける。

「佐藤! 弾に当たんなよ!?」
「わかってる。ジー、射線に入らねーようにな」

横目で醤を見て、ジーに指令を送るが、ジーからの返事は無い。
場所が分からないため有難いのだが、醤に僅かな不安が募った。
2つのメダロッチを装着した腕を掲げ、タバスコは命じる。

「ア・ゲタマー、エアバッグ! ア・ブラーゲは後ろで待機! 気配を感じたら攻撃に転じろ!」
『完全防御の壁は厚ーい! ア・ブラーゲは居合の如く刃を構えているー!』

防壁に当たったガトリングが地に落ち、醤はカグラを制止する。

「カグラ! 一旦攻撃止めて回り込め! 弾無くなったら元も子も無ぇ!」
「了解!」
『カグラもア・ブラーゲもお互いの隙を伺っているー! 先に隙を見せた方が負けると言っても過言では無いでしょう!』

カグラは撃つのを止め、今度は右腕の銃口を2体に向け、ガードレールの上を走っていく。
ロボトルを実況していたMs.マーガリンは、横で真剣に眺めるMr.ジャムに話を振った。

『ところで先輩! 珍しくまだ通報されずに戦況をジャッジしていますが、お互い力を温存している様子ですねー?』
「HAHAHA☆ やだなマーガリン! いつも君が通報するんじゃないか!
 そうだね……僕達が来る前にドンパチやってた所為か両者は万全の状態じゃないから、そんなに時間は掛からないと思うよ?
 ダメージも負ってるし、頭パーツの使用回数を除けば弾薬数が削られているであろうカグラは特に不利だ!
 ロボトルには“判定勝ち”ってシステムもあるからねー……この戦い、」

カグラが放ったライフルをア・ブラーゲが薙ぎ払い、ア・ゲタマーが向かっていく様子を見て、Mr.ジャムは呟く。

「先に攻撃出来なくなった方が負けるよ」

Mr.ジャムの言葉を聞いて僅かに目を見開いた後、Ms.マーガリンはすぐにいつもの笑顔を浮かべ、実況を再開した。

『さぁ! とてもジャッジ担当とは思えない当たり前な事を先輩がドヤ顔で言った所で!』
「HAHAHAHAHA! 君は何てヒトの心をフォークでグチャグチャに抉るような性悪女なんだ! ピーすぞ☆」

Mr.ジャムは、すぐ駆けつけたパトカーにより連行され、Ms.マーガリンはハンカチを振りながら見送った。
レフェリー達がそんなやり取りをしている間にも、ロボトルは収まる事を知らず繰り広げられる。

「ア・ゲタマー! クルクルナックル!」
「ぐ……!」
『右腕パーツ、ダメージポイント86』
「カグラ、サブマシンガンだ!」
「ア・ブラーゲ! フェンシング!」

ア・ゲタマーの攻撃を受けたカグラの右腕が軋んだ音を響かせる中、左腕はガトリングを放つ。
被弾したア・ゲタマーの右腕が黒ずんだ直後、ア・ブラーゲの右腕の刃がサブマシンガンを斬り付け、攻撃中止を余儀なくされた。

『左腕パーツ、ダメージポイント71』
『おおーっと!! ア・ゲタマーの右腕は機能停止したが、二体を相手にカグラの成す術は無いのかー!?』
「タッグマッチとは名ばかりで、実質二対一に変わりないではないか! もう一人の臆病者は逃げ出したか? ん~?」
「見縊るな! ジー坊は斯様な男ではない!」

愉快と言わんばかりに笑みを浮かべるタバスコを、カグラは一喝し、2体から距離をとる。
しかし、その距離を1歩、また1歩と、ア・ブラーゲは跳ねるように詰めていった。
カグラが迎撃するが、速度が間に合わず銃弾が当たらない焦燥感から、醤は声を上げる。

「っおい佐藤! まだなのか……!?」
「ア・ブラーゲ! レイピアアア!!」

タバスコがメダロッチに向かって叫んだ瞬間、甘太も口を開く。

「デコイクラブ」

次の瞬間。
ア・ブラーゲが掲げた左腕は、真横からの見えない力により、粉々に砕け散った。
パーツの欠片に日の光が反射し、輝きながら舞う。

『ア・ブラーゲの左腕大破アアアア!! 姿の見えないジーが動き出した模様~!』
「げっ……!?」
「左腕パーツ・レイピア、2,000円」

タバスコが事態に声を上げる中、甘太は呟く。

「右腕パーツ・フェンシング、2,000円」

今度はア・ブラーゲの右腕が破壊され、衝撃で機体は店の外壁に叩きつけられた。
直後、脚部が砕ける。

「脚部パーツ・ハカーマ、2,000円。……馬鹿みてーにがむしゃら使うからこうなんだよ」
『見えない敵のハンマーラッシュでア・ブラーゲのパーツが次々に破壊されていく~! 隠蔽に打つ手無しかー!?』
「ア・ゲタマー!」
「お前の相手はワシなのだよ!」
「カグラ! リボルバー!」

ア・ゲタマーが近づこうとした所で、カグラの放った2発のライフルが脚部に被弾し、転倒する。
甘太はア・ブラーゲを睨み、静かに指令を出した。

「頭パーツ、」
「させるかア!! ミカヅチ!!」
「ぐげ!?」

ア・ブラーゲが正面にブレイクを放った途端、間抜けな悲鳴が響き、隠蔽を解いたジーが地に倒れ伏した。
ジーの機体は起き上がろうともがくが、まるで上から何かに押し潰されているかのように動けない。

『強烈なブレイクがクリティカル~!! ジーは立ち上がれるのかー!?』
「だーっはっはア!! いくら隠蔽なんぞしてても、あれでは『正面を撃ってください』と言っているようなもの!
 詰めが甘かったな!」
「……!」
「ジー! ……くっ、死角で狙えん……!」

甘太が奥歯を噛み締める中、カグラは横目でジーを見て、サブマシンガンの銃口を向ける。
だが、今自分と交戦しているア・ゲタマーに隠れ、ア・ブラーゲを狙う事が出来ない。
銃撃が止んだのを見計らい、ア・ゲタマーはカグラに対し拳を握る。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! そのボロボット共を片付けてしまえ! ミカヅチ! メガトンパンチ!」
『さあさあ!! 攻守が逆転、面白い試合運びとなっております!』
「カグラ、踏み止まった後距離をとれ!」
「っ了承したが……!」

指令通り右足で踏み止まり、ア・ゲタマーの拳は空振った。
攻撃を回避し、ア・ゲタマーから目を背ける事無く距離をあけていくが、ジーへの心配でカグラの顔は歪む。
やがて、口を閉ざしていた甘太が、俯いて笑った。

「……心配すんなって、カグラ。大丈夫だよ」

ジーは地を押す左腕に力を入れ、ア・ブラーゲの頭パーツの周りにはパチリ、と青い火花が爆ぜる。
甘太も、ジーも、睨む相手はただ1体。

「グルコの修理代も稼げてねぇのに、」
「みすみす……負けてられやすかい!!」

ありったけの力を込めたジーの右腕は、激しく音を立て、ア・ブラーゲの頭を突き上げた。
上を向いた頭は、目の光を失くすや否や項垂れ、背中からメダルが転がり落ちる。

「……頭パーツ・ミカヅチ、2,000円。計、8,000円也」
『ア・ブラーゲ、機能停止! ジーのアッパーカットが華麗に決まりましたアア!!』
「んなっ!?」

開いた口が塞がらないといった様子で、タバスコの目は、機能停止したア・ブラーゲに釘付けになった。
その隙を見計らい、醤は強気な笑みを浮かべ、メダロッチに向かって叫ぶ。

「これで最後だ! ミサイル!」
「心得た!」
「ハッ! ア・ブラーゲ、エアバッグ!」

タバスコが慌てて指令を送るも、メダロッチは警告音と、『使用回数ゼロ』の文字を示すのみ。

「ぎゃああああ!?」
「店とロボトルでもう2回使っただろうが。使用回数ぐらい数えとけ!」

醤が言い放った直後、ミサイルがヒットし、爆発音と硝煙が周囲に広がる。
丸コゲと化したア・ゲタマーの背中からは、メダルが音を立てて転がった。

『ア・ブラーゲ、機能停止! 勝者! ショウ選手&カンタ選手ゥ!! やっぱ、『判定勝ち』よかこっちの方がスカッとするよねー』
「よし! やったな!」
「あー、お疲れさん」
「クソガキ共オオオオ!! 毎回上手くいくと思うなよオオオ!!」

自分達の勝利から醤と甘太が顔を綻ばせると、タバスコは捨て台詞を吐きながら一目散に逃げて行った。
今日1日でたくさんの傷を負ったカグラとジーは、ナノマシンでみるみる回復していく。
タバスコの小さくなっていく背中に、醤は呆れかえって息をついた。

「ったく、何時になったら懲りんだアイツ……」
「カンちゃん! 姐さんを!」
「ああ、起こしてやらねーとな」

急かすジーにそう返すと、甘太は歩み寄ってしゃがみ、グルコの体を起こしてナイトメダルを装着した。
対の緑の目に、光が宿る。

「……ん、あれ……?」
「おはよ」
「おはよう……って、カンタ! え、店は!? 店は大丈夫なの!?」
「店はまぁ、すげーボロボロだけど……起きて早々店の心配かよ」
「当たり前じゃないの!」

即答するグルコに、甘太は苦笑した。
ただ2人の様子を見ていたジーが、滝のように涙を流しながらグルコに抱き着く。

「姐ざあああああん!! ぼんどーに、ぼんどーに良かったあああああ!!」
「きゃっ!! ちょっ、ジー! 大袈裟なのよ! 『メダルを入れれば元通り』って言ったじゃない!」

少し顔を赤らめながら、グルコは両手でジーの頭を押し返す。
引き剥がそうとはするが、ジーの抱き締める力が思いの外強く、それは叶わない。
2体の様子を横目で見た後、立ち上がって視線を真逆に向け、甘太は小さく呟いた。

「……ごめんな、手間かけさせて」

言った事に満足し、甘太は店内へ戻ろうとした。

「……バカね、それこそ当たり前じゃないの」

不意に背中に掛けられた笑い交じりの声に、甘太はバツの悪い表情を浮かべる。
姐さん何がですかい?、と問うジーには、本当に聞こえなかったのだろう。
甘太でもこういった表情を浮かべるのかと思った醤であったが、甘太の気持ちは分からなくもなかった。

――オレ達より長く生きるメダロットっつーのは、どうして、こう……。

「ショウ? 如何した?」

自分のすぐ傍らで首を傾げるカグラを一目し、醤はここ1番の大きなため息をつき、佐藤商店に背を向けた。

「何でもねぇよ」
「何も無くてため息はつくまい」
「何でもねぇっつってんだろ」
「村崎!」

小走りで追い掛けるカグラを背に歩く醤は、甘太に呼び止められ、足を止めて振り返る。
そこで、醤は今日1日の出来事を、甘太の立場で思い返した。

甘太は、働いているとは言え、土曜日の午前中から友人に押し掛けられ。
『アルバイトをさせてくれ』と無茶を言われ。
承諾したは良いものの、姉のような存在に叱られ。
変質者が店を乗っ取り。
最終的に、店が半壊したのである。

罪悪感から笑顔を歪ませ、醤は明後日の方向を見ながら口を開いた。

「あー……佐藤あの、」
「バイトの話なんだけど、続けてくんねぇ?」
「すまねえ……はい?」
「だから、店のバイト。休日で良いから」

甘太からの申し出に、醤は素っ頓狂な声を上げる。
確かに、カグラの機体のローンを返済したい醤としては願ったり叶ったりの話であるが、自分がテクノポリスに睨まれている限り、また今回の様なトラブルに甘太自身も巻き込まれかねない。
目を丸くする醤に、甘太は言葉を続けた。

「言ったと思うけど、おれとしても金が戻って来なきゃ困る訳よ。
 まあ、今回みたいのは勘弁だけど……今度あった時は店が壊れる前に頼むぞ、用心棒?」
「さ、佐藤……!」

下手をすれば縁を切られても可笑しくはないレベルなのに、ニカッと笑う甘太に、醤は感極まった。

「で、こっからが本題なんだけどー」

醤は、甘太の笑顔の質が変わった事にすぐ気が付いた。
この満面の笑みは、今日見たばかりである。
甘太がそれを浮かべたのは、果たしてどんな時であったか……みるみる思い出す醤の顔は、青く染まっていく。

「グルコの修理代はあいつ等ボコボコにしたから良いとしてー……店の修繕費は誰が出すんだろうなー?」
「は、はは……それは勿論タバスコが」
「いやいや、そいつはいつ会えるか、会ったとしても金持ってるかわかんねーし?
 幸い、お前の知り合いみてーだからー……請求先はお前で良いんだよなぁ?」

――目が笑ってねえええ!?

目の前で笑う友人が、醤はひたすら恐ろしかった。
だが、これ以上借金が膨れ上がる事を懸念し、何とかしようと口を開く。

「なぁ佐藤、ちょっと……」
「選びな。バイトして修繕費払うか、もしくは……金目の物を売っ払うか」

幾何低い声で告げる甘太の視線はカグラへと向けられ、意図を察したカグラは硬直した。
絶句し、ただ口の開閉を繰り返す醤に、甘太はここぞとばかりの営業スマイルを浮かべる。

「しばらくタダ働きよろしくな、村崎クン♪」





「どこ行ってたの2人共!! 醤は朝からフラフラどっか行ったと思ったら傷だらけで帰って来るし!
 グラちゃんはおつかいからなかなか帰って来ないし!」
「す、すいません……」
「申し訳御座らん」

夕方。
村崎家に帰宅した醤とカグラは、村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の剣幕を喰らう事となった。
玄関で2人並び、すごすごとゆかりに頭を垂れる。

「今日は痛むような物はなかったけど、すぐ冷蔵庫や冷凍庫に入れなきゃいけない物もあるんだから気を付けないと!」
「申し訳ない……」
「アンタは何処で何してたの!?」
「いや、ちょっと佐藤ん家でバイトを……」
「佐藤商店は工事現場か何かか!! アンタ、佐藤君に迷惑かけたんじゃないでしょうね!? かけたわねその顔は!!」

視線を逸らす醤に、ゆかりは畳みかけるように怒号を繰り出す。
少しでも冷静さを取り戻そうとしているのか大きく息をつくと、家内へと声を掛けた。

「お父さんからも何か言って!」
「え? 父さん帰ってきてんのか?」
「父君とな?」

醤達が廊下の向こうへ目をやると、声を掛けられた人物はゆっくりと姿を現した。

「ただいま。おかえり、醤」

灰色のスーツに身を包んだ醤の父・村崎紀醤(ムラサキキショウ)は、微笑みながら3人へ歩み寄る。
そんな紀醤の様子に、ゆかりは口を開いた。

「笑ってる場合じゃないでしょう? ちゃんと言ってやってください!」
「そうだな……醤、元気なのは良いが母さんにあんまり心配かけちゃ駄目だ、ぞ……?」

カグラ程とは言わないが、マイペースな紀醤は、醤が似ている所というと、一見茶髪しかない。
しかし、もう1つ大きな共通点があった。

「メダロットじゃないかああ!!」
「うおっ!? ビックリした」

大の、メダロット好きであった。
子どものように目を輝かせてカグラの前にしゃがむ紀醤に、カグラ本人ではなく、隣の醤が驚く。
興奮した様子で、紀醤はゆかりに顔を向ける。

「許してくれたんだな、ゆかり! 有難う!」
「お、大袈裟ね……。グラちゃんは、ちょっと変わってるし、てんで機械は駄目だけど、よく気が利いて手伝ってくれるから、ね。
 ていうか、いきなり呼び捨てで呼ばないでよ……」

ゆかりは、僅かに頬を染め、そっぽを向く。
両親を包み込む桃色の空気に、息子である醤は色んな心情から早く自分の部屋に帰りたくなった。
が、立場が立場であるためそれは叶わず、すぐに諦めてカグラを紹介する。

「……コイツは、『カグラ』っていうんだ。『グラちゃん』なんて呼ばれてるけど、中身は結構なジジイだぞ」
「お初にお目にかかる、カグラなのだよ。ショウやゆかり殿にはいつも世話になっておる」
「はははは! 礼儀正しいメダロットだね。私の名前は紀醤。此方こそ、家内と息子がいつもお世話になっています。
 仕事の関係で月1くらいしか帰れてないんだけど、よろしくな!」

紀醤はカグラの手を取り、ぶんぶんと音が鳴るくらい力強い握手をした。
不意に握手をやめ、カグラの手を握ったまま、紀醤は考え込む。

「しかし、『グラちゃん』か……やっぱり早めに仲良くなるには、変わったあだ名が良いかもしれないな」
「普通で良いじゃねえか」
「『グラタン』と『グラッチェ』どっちが良い?」
「どちらでも良いぞ」
「良いのか本当に!? せめて『グラ』にしとけ! そうじゃなきゃオレが何か嫌だ!」

じゃあグラだなー、とマイペースコンビは互いにニコニコと笑った。
紀醤を見ていると、『中身は母親に似たんだろうなあ』と醤は自分でそう思う。

「醤もグラも、家に上がりなさい。ずっと玄関だと寒いだろう。私も少し寒い」
「……そうね、もうちょっとでご飯も出来るし。3人とも上がって待ってて」

ゆかりはそう言うと、スリッパの音を響かせ、台所へと消えて行った。
醤は靴を脱ぎ、家に上がると、紀醤は感慨深そうにカグラをまじまじと見る。

「それにしても、醤もメダロッターかあ。良かったな、醤」
「あ、ありがとう」
「そうか~、メダロットか~」
「? キショウ殿?」

紀醤は半ばカグラを引っ張るようにして歩き出すと、同じ様な言葉を繰り返し呟きながら、カグラごと自室へ帰ってしまった。
醤は慌てて部屋のドアを、壊れんばかりの勢いでノックする。

「おい!?」
「いや~、メダロットは良いな~。はははは」
「アンタのじゃなくてオレのだろうがざけんな!! こんな近くにメダロット泥棒がいるとか驚きだわ!!」
「父さんな、実は怪盗レトルトだったんだ」
「しょうもねぇ親父ギャグ言ってんじゃねぇぞ!!」
「醤うるさいわよ!!」
「理不尽!?」

台所から飛んできたお玉が頭にヒットすると、醤は部屋の前に倒れ伏した。
静かにドアが開き、カグラと紀醤が顔を覗かせる。

「ショウ、大丈夫か?」
「醤はケチだなー、少しくらい良いじゃないか。お前のメダロットって事は、父さんの息子同然だろ」
「ワシはショウの爺だぞ?」
「ややこしいし喧しいわ。……帰る」
「ここお前の家だろ?」
「オレの部屋にだよ!!」

醤はカグラの腕を握り、足音を響かせながらそのまま階段を上がり、自室の扉を勢いよく閉めた。
下からまたゆかりの怒号が聞こえたが、醤は気にする事無く慣れた手付きで“週間メダロット”を見る準備をし始める。

「ったく、お前も流されてんなよなー」
「ふむ、父君と少し話をしたかったのでな」
「あーあーそいつはすいませんでしたよ」

ギスギスしながら返答した所で、ふと醤は昼間の事を思い出し、カグラに背を向け、口を一文字に結んだ。
平静を装い、DVDを探しながらカグラに声を掛ける。

「…………ありがとな、いつも助けてくれて」

言ってしまった直後に後悔もしたが、どこか満足感もあった。
しかし、いつもの様に惚けた様な言葉が返ってくれば、また自分は噛みつくのだろうと内心苦笑する。

「……お前が助かったのは、無論、グルコ嬢やジー坊の力も必要であったが……お前の日頃の行いからも来ているのだよ」

カグラからそう言われるとは思っておらず、醤は驚いて振り返る。
醤を見て穏やかに微笑んだ後、カグラは黒い液晶画面に体を向けた。

「さて、今日はどの週間メダロットを見ようか? ショウ」

カグラの言わんとしている事を察し、呆けていた醤は、ふ、と笑みを零す。

「何言ってんだ、テレビの電源1つ入れられねえで」





「醤は相変わらずだな~」
「もう、からかい過ぎよ」

リビングにて。
食器棚から皿を出していた紀醤は、ゆかりにそう指摘されてまた笑った。

「ちょっとしたジョークなんだが……いやいや。まあ、仲が良いみたいで安心したよ。俺も仲良くなれるな、うん」
「どんな根拠があるんだか」

今度はゆかりが笑い、料理を盛り付けていく。
彩り豊かな料理を見た後、カレンダーを見て、紀醤はぽつりと呟いた。

「明日、花見でもするか」



メダロッチ更新中……――
・フェンシング(KTN-02。なぐる攻撃:ソード)獲得



続ク.





◎次回予告
紀「という事で、グラの歓迎会も兼ねて花見をしようじゃないか! はい、マ・ジ・カ・ル・サ・ク・ラ!」
醤「唐突!?」
紀「桜と言ったら!?」
カ「御守神社!」
醤「関係あるかソレ!?」
カ「何を言う。御守神社にはな、それはもう立派な……」
甘「ハイ、毛虫」
翠「さ、桜餅?」
梓「おじいちゃんの言葉を遮らないで。……死体」
醤「もうこれただの連想ゲームじゃねぇか!!」
蜜「わ、わたしが予告コールしても良いのかな……? 次回『六角形の神サマ』第拾参話、『来訪、桜前線』。
  桜の木の下で告白すると結ばれる、ってあったよね?」
醤「みっちゃん優勝おめでとう!!」

六角形の神サマ 第拾参話/来訪、桜前線 ( No.13 )
   
日時: 2018/01/14 17:11
名前: 海月

「おはよう、醤! 花見に行こうか」

洗顔すべく1階に降りてきた村崎醤(ムラサキショウ)が、父・紀醤(キショウ)から、日曜日の朝に聞いた第一声がそれであった。
起きたばかりで頭の回転がままならない醤は、少し時間を置いた後、眉間に皺を寄せて返答する。

「…………オレ、これからバイトなんだけど」
「大丈夫だ、父さんが『今日、バイト休みます』って佐藤君に電話しといた」
「あー……そうか、なら良いな……」

紀醤の言葉に納得した醤は、そのまま洗面所へと再び歩き始めた。
が、すぐに踵を返してリビングに怒鳴り込む。

「いや良くねぇよ!?」
「うおっ!? 吃驚した……良いから顔を洗ってきなさい、お前待ちだぞ?」
「色んな意味でこっちが吃驚だわ!! どこの世界に正式採用初日に休むバイトがいんだよおお!!」

自分は間違った事を言っているとは思わないにも関わらず、あくまで常識人のように振る舞う父の姿に醤は頭痛を覚え、両手で頭を抱えた。
既にリビングに降りていたカグラは、テレビから醤に視線を移し、穏やかな口調で宥める。

「良いではないか。大安吉日に天気は快晴、一家団欒で桜を見るというのも」
「当初のバイトの目的わかってんのかジジイ……! それとももうボケが始まってんのか?」
「まあまあ落ち着きなさい。グラの歓迎会も兼ねているのに、お前抜きでやる訳にもいかないだろう?」
「!」
「何と! 気遣いかたじけない、キショウ殿」

カグラの目を丸くした反応を見るに、歓迎会の話は初耳であったのだろう。
それを最初に言わず、醤の目の前で言った事にこそ、紀醤の真意はある。
家族思いと言えば良いのか、悪巧みと言えば良いのか。
花見もとい歓迎会を欠席出来なくなった醤は、心の中で舌打ちした。

――せこい真似しやがってこの狸親父……!

感謝と怒りが入り混じり、せめてもの抵抗とばかりに醤は紀醤を睨み付けるが、当人はカラッとした笑い声をリビングに響かせている。
これ以上紀醤に何かを言うのも無駄だと察知し、醤はカグラに声を掛けた。

「花見る場所なんざそもそもあるのか? 道に生えてんのは見たけど、流石に往来で花見は無理だろ」
「ふむ……御守神社の奥に、桜があってな。それはもう言葉を失う程綺麗で、お前達にも是非見て欲しいのだが……」
「何だよ、言い淀んで」
「……今は、神社の欠片が散らばっておって、皆が怪我をするといかん」
「……あー」

声色は変えず、僅かに目を伏せて話したカグラに、醤は斜め上を見ながら大破した御守神社を思い出していた。

先日、白と桃色で彩られた外見は可愛いメダロットにより神社が爆撃された時は、夕方であったにも関わらず、カグラの機体を染め上げたのは白であった。
あの時の後ろ姿と言ったら、声を掛けるのも忍びない程の哀愁が漂っていたものである。

醤が思い起こしていると、台所からお弁当を持った母・ゆかりが現れ、口を開いた。

「あら、御守神社ならもう大丈夫よ! だって、木片全部撤去されたんでしょ?」
「!?」
「知らなかった? 今朝の町内新聞に載ってたけど」

基本的にロボトル以外はのらりくらりとしているカグラであったが、その時の行動と言ったら素早かった。
まず『撤去』と聞いて風切音を幻聴する程の勢いでゆかりの方へ振り向き、『新聞』と聞いて勢いよく持ち上げ、顔を埋めているかのように新聞を凝視する。
醤も横からちらりと覗き込めば、3面に“あの事件から1か月……さよなら御守神社”と大きく表記されている。
その『完全に終わった』と言わんばかりの言い回しは如何なものだろう、と醤が苦笑すると、カグラは新聞を握る手を震わせた。

「おお……ワシの神社が、ワシの神社が欠片すらも……」
「落ち込むなよ。仕方ねぇだろ、吹っ飛ばされた時にこうなる事は決まってたようなモンなんだから」

醤が息をつきながら声を掛けると、震えていたカグラの手はぴたりと止まる。
代わりに、まるで壊れかけたブリキの玩具の様にゆっくりと、カグラの顔は醤へと向けられた。

「ほお……ショウもこの家が爆撃で吹き飛ばされたら、『仕方無い』と諦めるのだな……?」
「すいませんオレが悪かったので勘弁してくださいカグラ様」

この時のカグラが恐ろしく真顔であり、ミサイルの発射口が光った様に見えたが、心の底からいつもの冗談であって欲しいと願う醤であった。





『六角形の神サマ』 第拾参話/来訪、桜前線





「嗚呼、嗚呼……やはり跡形も無い……」

町外れの石段を上がり、雑木林を抜け、そびえ立つ鳥居を抜けると、其処にお馴染みの神社は欠片も存在しなかった。
新聞に載せられていた写真のままの光景を目の当たりにし、カグラは両手・両膝を地につけ、深く頭を垂れる。
醤の両親はというと、『桜は奥だったかしらー』とか何とか言いながら先へ行ってしまっていた。
温かいのか冷たいのか、よく分からない連中だと、荷物を持った醤はそっと溜め息を零す。

カグラの落ち込んだ姿を見るのはこれで2度目な訳であるが、それが醤にとっては意外であった。
自らを閉じ込めていた御守神社を、カグラはここまで大切に思っていたのか、と。
御守神社は、カグラにとって、“檻”というより“家”に近いのだろう。

……だとしても、である。
正直、呑気なカグラを見慣れている醤にとっては、見ていてあまり面白いモノではない。

「おら、落ち込んでねぇでシート張るぞ」

空いている方の右手でカグラの手を掴むと、半ば引き摺るように前へと引っ張った。
すると、カグラも諦めがついたのか、よろよろと歩き出す。

「おおおお!! グラがお薦めするだけあって立派だな!」
「ホント素敵! こんな桜、他に無いんじゃない!?」

紀醤とゆかりの声が聞こえてきた前方へと足を進めると、目の前に“桃色”が広がっていた。
1本であるにも関わらず両腕を大きく広げ、そびえ立つ桜に、醤は目を見開く。
花弁が舞うが、その大きさが損なわれる事は無く、まさに“満開”という言葉が相応しい。

「……変わらんなぁ、この桜は」

気が付くと、傍らのカグラもしっかりと立ち、桜を見上げていた。
その穏やかな声色から、幾分か気分が回復したのが伺える。
醤は鼻を鳴らすと、シーツの端々を紀醤やカグラに投げつけた。

「さっさとシーツ張るぞ。腹減った」
「そうだな! 父さんもだ!」
「もう、“花より団子”なんだから」
「それでは早く用意をせんとなあ」

4人は、桜を前に和気藹々と石で固定しながらシートを張っていった。





「凄いな母さん!! 御馳走じゃないか!」

開かれた弁当箱の中で並ぶ色とりどりの料理に、紀醤は声を上げて喜んだ。
それを見たゆかりも、嬉しそうに微笑む。

「ふふっ。早起きして作った甲斐があったわ。暫くご飯が質素になるかもしれないけど許してね」
「それって、こん中で1番被害被るのオレじゃ……?」
「桜の養分になりたくないなら黙りなさい」
「……お弁当美味しゅう御座います、お母様」

笑顔のまま言い捨てたゆかりにそれ以上何も言えず、醤は料理を口に運んだ。
弁当箱の中身をまじまじと見ながら、カグラは目を丸くする。

「ユカリ殿の料理がいつにも増して美味しそうだな。食べれぬのが実に惜しい」
「もう、グラちゃんは上手なんだから」
「落胆するのは早いぞグラ! 母さんの料理は食べれないが……」

明るい笑顔で大きなリュックを漁り始めた紀醤に視線が集まると、勢い良く筒状のソレが取り出された。

「ジャーン!! 本社から色んな味のオイルを持って来たぞ!」
「ほお! 燃料はこんなに種類があったのだな」
「デケエ荷物あると思ったら中身オイルかよ!」

醤が自分の紙コップに麦茶を注ぎながらそう言われても、紀醤は上機嫌のまま言葉を続ける。

「実は父さん、開発部門のリーダーでな。いつも同じオイルじゃメダロットも飽きると思って、プランを提出したら何と!
 予想以上にヒットしたんだ! 特にこの“よくできましたオイル苺ミルク味”は女の子に大人気なんだぞ!」
「凄いじゃないお父さん!」
「“よくできましたオイル苺ミルク味”って……それは本当に苺ミルク味なのか?」
「メダロットの味覚について徹底研究して生まれた製品だ! きっとベリーでミルキーな味がするんだろう! 試してないが!」
「ああ、試してたらアンタはこの場にいねぇわな」

醤が冷静に突っ込みを入れるが、別段誰も気にする事は無く、2人分のビールを注いだゆかりが片方を紀醤に手渡しながら言う。

「料理だけなのも何だし、そろそろ乾杯しましょうよ!」
「そうだな! 新しい家族を迎えた村崎家の門出に、カンパ~イ!!」

紙コップがぶつかる音が微かにした後、各々は自分の飲み物を口に運んだ。
その際、カグラの紙コップの中で、一瞬揺らめくショッキングピンクの液体がちらりと見え、醤は反射的に目を背ける。
背けた先にあった桜の色が、非常に目に優しい。
喉が鳴る音を聞いて再びカグラの方を見ると、カグラは手元のオイルを見ながら不思議そうに瞬きした。

「……ふむ。此れが“苺みるく味”とやらかは分からぬが、くどくなく甘酸っぱくて美味しいのだよ」
「そうかそうか! まだまだたくさんの味があるからな!
 “まあまあですねオイルおしるこ味”や“がんばりましょうオイル納豆味”とかも試してみてくれ!」
「歓迎会っつーよりオイルの試飲会じゃねえか……」

カグラが色鮮やかなオイルを見比べていると、紀醤が面白い玩具を見つけたと言わんばかりの声で『おやぁ?』と漏らす。
明らかに自分に向けられている言葉に、醤は面倒臭そうに睨みながら聞き返した。

「何だよ?」
「醤はビールじゃないのか~? 今日“は”?」
「今日“も”な。乾杯の1口でもう酔ってんのか?」
「良いじゃないか~! “いつもの様に”隠れて飲む事は無い! 今日は無礼講だからな!
 そして、お前が酔って恋バナ暴露してくれる事を父さん信じてる!」
「未成年の息子に言う事か!!」

お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒ダメ、ゼッタイ。
醤が声を荒げても怯む事無く、紀醤は肩を組んで追求する。

「まあ別に酔ってなくても良いぞ? 好きな子の1人や2人、いるんだろ~?」
「いるぞ」
「お前に聞いてねえだろクソジジイ!!」

醤の剣幕を無視し、カグラは少々眉間に皺を寄せながら顔を顰めた。
恐らく、手に持つ“まあまあですねオイルおしるこ味”があまり口に合わなかったのだろう。
恋愛事情を断片的に掴み、上機嫌の紀醤の追及は続く。

「誰だよその罪な女の子は!? あ、そう言えばメダロット研究所の娘さんて結構可愛いんだろ?」
「その人は違います断じて。あれはカモミールを装ったマンイーターだ……」
「誰にせよ、どうせアンタの事だから片想いなんでしょ?」
「息子の希望を軽々しく潰s」
「ブッッフォ!?」
「っええええええ!?」

ゆかりに反論しようとした所でカグラが勢いよくオイルを噴き出し、醤の目は強制的にそちらへ向けられた。
激しく咳き込むカグラに、醤は問う。

「おいどーした!?」
「ゲホッゲホゲッホ……! ショ、っゴホ……キショ、殿、に……ッ!」
「父さんに!?」
「ッグ……なっと、味は…………マズイ」
「ジジイいいいいいい!?」

力を振り絞っていうや否や、カグラは完全に地に伏した。
ゆかりも尋常ではないと思ったのか、心配そうに駆け寄る。

「ちょっと、グラちゃん!?」
「そうかー、“がんばりましょうオイル納豆味”は改良が必要だな~。それにしても、メダロットも咽るんだな!?」
「『良いモン見れた』みたいな顔で何言ってんだアンタ!? ちったぁ反省しろ!!」

晴れ晴れとした表情で沈んだカグラを見る紀醤に、醤はありったけの怒号を浴びせた。
途端。

「フハハハハハハハ!!」

よく聞き慣れた笑い声が響き、醤は呆れ気味にそちらを睨み付けた。

「オイル如きで情けないなあボロボットよ!! 秘密結社テクノポリスが1人・タバスコ参上!!」
「……こんな天気の良い日曜日に、いつからそこにいたんだアンタ」
「ふっ、お前達の行動の予測等易い事だ。神社が無くなったと聞けば、いてもたってもいれんだろうからなあ?
 朝六時から張り込み、チャンスを伺っていたという訳だ。倒れた今なら勝てる気がした!」
「情けねぇのはどっちだ新手のストーカー。しかも予測も若干ずれてるし」

未来人の様な白いコスチュームに身を包み、ドヤ顔のタバスコに、醤はそう吐き捨てた。
初めて目にするタバスコの姿に、醤の両親は各々違う反応を見せる。

「嫌っ、何あれ? 春ねぇ……」
「おいおいゆかり、そんな事を言ったら失礼だろう? 元気そうだな尾根君!」
「背ぇ高い事以外共通点無え上に、自分で『タバスコ』っつったろ!? アンタが失礼だわ!!」
「ゴチャゴチャと喧しい! メダロット転送!」

騒ぐ醤達を尻目に、タバスコがメダロッチの画面を押すと、プラズマ音が響いた後、目の前にダンシングフラワー型メダロット・さくらちゃんが現れた。
醤は未だ起きないカグラの額をぺしぺしと叩き、声を掛ける。

「おーいジジー、ロボトルだぞ~。その内どーせレフェリーも来るし」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「そら来た」
「……うーん……?」

これまたお馴染みの轟く声に、カグラは小さく唸り声を上げながら意識を取り戻した。
桜の大樹の前に立つ、スーツに赤い蝶ネクタイの2人組を、スポットライトが眩く照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト、メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪ ってアレー?
 先輩、何だか儚げですがどうしたんですかー? 気持ち悪い』
「そっとしといてくれないか、マーガリン。君のその訴えられても可笑しくないレベルの暴言に反論出来る元気が、今の僕には無いんだ」

Mr.ジャムは、そう言うと深い溜め息をついた。
いつもと違う調子の相棒の様子に、Ms.マーガリンは再度問い掛ける。

『本当に気持ち悪いですけど、どうして元気無いんですかー? 集中して実況出来ないじゃないですかー』
「マーガリン……」
『先輩がいると』
「……感動しかけた僕が最高に馬鹿だったよ」

Mr.ジャムが桜を見上げると、何事かと一同の目もそちらへ向けられる。

「マーガリン。君は、桜が何の為に存在するか知ってるかい?」
『先輩の存在価値くらいわかりません』
「……桜はね、その下でキスする為にあるんだよ」
「絶対違ぇよ」

茶番劇を黙って見ていた醤であったが、流石に突っ込まざるを得なかった。
外野の言葉を気にする事無く、Mr.ジャムは言葉を続ける。

「そう。桜がある以上、僕は美しい女性とキスをしなければいけないんだ」
「勝手に義務化されて、桜も女もさぞ迷惑だろうよ」
「なのに、それなのに……!」

憤りからMr.ジャムは固く拳を握ると、そのままゆかりを指差した。
自分は関係に無関係だと思っていたゆかりは、突然の事に戸惑う。

「えっ? 私?」
「ここには老婆しかいないじゃないか!!」

次の瞬間、頭から血を流したMr.ジャムが、救急車で運ばれていった。
Ms.マーガリンはハンカチをなびかせながら見送る。

『先輩~、ついでに頭もちゃんと見て貰ってくださいね~。それと、これからは女性に年齢の話をしたらダメですよ~。いくら老けてても』
「母さん、気持ちは分かるけど落ち着けって。あの女通報慣れしてっから、多分振りかぶった時点で呼ばれるって」
「どうせ私はBBAよ!! 自然の摂理じゃろが童共オオオオ!!」
「落ち着いてくだされ、ユカリ殿」
「な、殴った……中身の入ったオイル缶で力一杯……。恐るべし村崎の血」

未だ血糊の付着したオイル缶を握りしめるゆかりを、醤が後ろから羽交い絞めし、カグラと一緒に宥めるが、落ち着く気配は一向に無い。
一部始終を目の当たりにしたタバスコは、何時ぞやかの醤と現在のゆかりの姿が重なり、ただただ震える。
すると、オイル缶を持つゆかりの手を、2回り大きな手が包んだ。

「本当に失礼な人達だよな、君はこんなに綺麗なのに」
「き、紀醤さん……!」
「醤、グラ。母さんには父さんが付いてるから、思い切り勝ってきなさい」
「お、おう。ありがとな、父さん」
「暫しお待ち下され、必ず勝って参ります故」

頭を下げながら穏やかに、且つ確かなカグラの言葉に、醤はタバスコとさくらちゃんを見据えた。
醤とカグラの様子を見て、Ms.マーガリンはクスリと笑い、メガホンを構え直す。

『合意とみてよろしいみたいだねー。それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令を聞くや否や、カグラは両脚を踏み締め、さくらちゃんはファイティングポーズを取り、指令をすぐさま行動に移せるよう備える。
醤とタバスコは、まずは勢いで勝つと言わんばかりに、各々のメダロッチに声を叩きつけた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「了承した!」
「さくらちゃん! 両腕でガードした後、フレー!」
『カグラのガトリング炸裂ゥー! しかし、さくらちゃんは上手く受け流したみたいだぞー!?』

右腕でサブマシンガンを支え、カグラがガトリングを放つと、さくらちゃんは両腕で攻撃を受けた後、右腕の応援旗を大きく振った。
カグラの目には、腕を振るスピードが徐々に加速している様に映る。
撃つのを止めて銃口をやや下げ、カグラは醤に問う。

「ショウ、彼奴の行動は……」
「……ああ、加速している。応援行動・チャージ。充填や放熱を効率化、つまり次の行動までの時間を短縮する」
「何だ? 諦めるにはまだ早すぎるだろう? さくらちゃん、フレー! フレフレー!」
『おおっと! どんどん加速するさくらちゃんを前に、カグラは攻撃を止めてしまったァー!
 ショウ選手にどのような作戦があるのでしょうか!?』

さくらちゃんは両腕の応援旗を振り、自身の行動を加速していく。
醤は、低い声でメダロッチ越しにカグラに語り掛け始めた。

「カグラ、よく聞いてくれ。さくらちゃんは、両腕が時間短縮のパーツだ」
「成程。充分に加速した所で、頭部を使い我々を一気に叩き込むつもりなのだな。して、頭部の行動は?」
「時間短縮だ」
「そうか、それは厄介……ん?」
「時間短縮なんだ」

カグラがゆっくりと振り向くと、醤は大きく頷いた。
同じ速さで、カグラはさくらちゃんがいる正面へと向き直る。
今もなお、さくらちゃんは両腕を振り、加速し続けている。
カグラは、静かに醤に問い掛ける。

「……ショウよ、彼奴が時間短縮して次にとる行動は……」
「時間短縮だな」
「……攻撃する術を、持っておらんのだな?」
「ああ。つまり……」

醤は、可哀想な生き物を見る様な目でさくらちゃんを見る。

「俺達に勝つ術が、限りなくゼロって事だ」

醤の言葉に、今度はカグラが大きく頷いた。

「ジー坊のように、隠蔽だったらやり様はあるのになあ」
「普通は、どれか1パーツだけでも変えたりするモンなんだけどな。タバスコは気付いてないけど、さくらちゃんは気付いてるぞきっと。
 見てみろ、笑顔引き攣ってんだろ」
「成程! だがら“無愛想”なのだな!?」
「いや、“ブアイソー”は元々のパーツ名だ」

ハッと気付いたように振り返ったカグラであったが、醤の言葉に若干俯きながら前へ直る。
さくらちゃんは、相変わらず両腕を振り続けていた。

「しかし、却って攻撃しづらいな。主に言われるがまま、ああして健気に旗を振り続けているのを見ると」
「情けは無用だ。今までされてきた事思い出せ。
 それに、あの速度で苦し紛れに体当たりでもされたら、どうせまた立てなくなるんだろアンタ。
 オイこっち向け、オレが立ち会ってから3戦中2戦体当たりで劣勢になった爺さん」
「……面目ない」

後ろから圧し掛かるプレッシャーに負け、振り向かない、否振り向けないままカグラは謝罪した。
落とした肩を戻し、こりを解すかのように首を左右に倒した後、カグラは両腕の銃口を正面へと向ける。

「まあ、キショウ殿とも勝つと約束したしな」
「カグラ、」
「うむ」
「一斉射撃の後、ミサイル」
「心得た」





『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「覚えてろこの人でなし共オオオオオ!!」
「うるせえ!! ロボトル前にメダチェックすんのはメダロッターの義務だろうがバアアアカァ!!」

機能停止したさくらちゃんの機体を脇に抱え、タバスコは捨て台詞を吐きながら石段を降りて行った。
醤も負けじと言い返すと、紀醤とゆかりが笑顔で迎える。

「2人共お疲れ様! そしておめでとう!」
「私ロボトルって初めて見るんだけど、アンタ達あんなに強かったのね!」
「賞賛頂き感謝するが……少しばかり複雑なのだよ」
「いや、あれも実力の内だろ」

カグラが苦笑していると、満足するまで吠えた醤があっさりと言葉を覆した。
紀醤は、再び一家が揃った事に満足し、少し大袈裟に両手を大きく上げて高らかに話す。

「さっ!! 村崎家の花見を再開しようじゃないか! 何たって今日は、花見記念日だからな!」
「どんな記念日だよ」
「決まっているだろう! 来年も、再来年も、この場所でみんな揃って花見をする日って事だ! 愛してるぞ皆!!」
「唐突!?」
「ふふっ、私も皆愛してるわ」
「この上なく上機嫌!? おい、ロボトル中母さんに何言ったんだ!? なぁ!?」
「チャイルドな醤には言えないよな~?」
「ね~?」
「うぜええええええ!?」
「成程。“花見記念日”とは、皆で花見をして、愛を伝え合う日なのだな」
「あ!?」

両親のやり取りに苛立ったまま、手包みを打つカグラの方へと振り向いた。
カグラは目を細め、自分の気持ちを吐露する。

「ワシも、村崎家の皆が愛おしい。村崎家の一員になれて、幸せなのだよ」
「バッ……!?」

カグラの言葉で、醤の顔はまるで信号機の様に赤や青へと色が変わった。
何事か分からず、カグラは首を傾げて醤を見る。

「どうしたというのだ?」
「……っあのな、お前まで言うと……!」
「そういえば、醤の話もグラの話も全然聞けず終いだったからなー! 喋り倒そうじゃないか! そうだな……」

にやりと笑った紀醤と目が合い、醤は顔を青1色に染める。

「醤の『愛してる』で花見を閉めるとしようか!」
「言うと思ったわ馬鹿親父畜生オオオオオ!!」

桜に怒号を木霊させながら紀醤を追いかけ回す醤を見て、カグラは目を細めて一息ついた。

「“一家団欒で花見”とは、温かいものなのだなぁ」

花見は、日付が変わった後までしたとかしなかったとか。



メダロッチ更新中……――
・フレフレー(DLF-03。おうえん行動:チャージ)獲得



続ク.





◎次回予告
梓「まずは御礼。オイルの名前を貸してくださった『メダロットM』作者の流離太さん、ありがとうございました。
  それじゃあ、次回予告。……何故、人類は争い続けるのか?
  わざわざ派閥を作り、走り惑い、数字に一喜一憂し、他人の事を顧みない。そうして掴んだ勝利に、何の意味があるの?」
醤「……えー、次回『六角形の神サマ』第拾肆話、『真剣衝突激競争(前篇)』。……ガチで運動嫌いなんだな」
梓「運動会と球技大会とマラソン大会はしねば良い」

六角形の神サマ 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇) ( No.14 )
   
日時: 2018/01/25 21:29
名前: 海月

春。
雪が融け、温かくなったら。

「――以上で、このクラスの紅組、白組の発表終わるぞー。次はリレー選抜メンバー決めるからなー」

運動会です。





『六角形の神サマ』 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇)





場所は御守高校・2年D組の教室。
1か月後に控える運動会に向け、クラスミーティングをしていた。
クラス担任は、話を進めるべく口を開く。

「選抜メンバーは、紅組・白組で男女1名ずつ。まあ他のクラスも陸上部の奴等出してるからな、女子2名は決まりとして……」

『えー』という声を上げた陸上部の女子が、周囲から労いの言葉を受けるのを尻目に、担任は話を続ける。

「男子は尾根しか陸上部いないから、先生としては紅組で誰か立候補して貰えると1番助かるんだが……」

と、言いながらクラス中を見回す担任と目が合わぬよう、村崎醤(ムラサキショウ)は俯く事に徹していた。

今しがた名前が挙がった尾根翠(ビネスイ)は、陸上部で記録を上塗り続けている、化け物級のエースだ。
親友である醤は、応援すべく何度も大会に足を運んでいるため、その実力を嫌という程知っている。
そんな彼が白組のリレー選抜メンバーになった事に対し、醤は紅組。
白羽の矢が立つ可能性は充分にある。紅組なのに。否、紅組だからこそ。

が、運命はいつでも残酷であった。

「村崎。学ランの脇、穴空いてるんじゃねぇ?」
「マジで?」
「おお!! 村崎、リレー出てくれるか!」
「ファッ!?」

佐藤甘太(サトウカンタ)に指摘されるがまま、穴を確認すべく腕を上げると、見事にターゲティングされてしまった。
醤にとって残酷なのは、運命というよりもう1人の親友であった。

――謀ったな佐藤……!

しかし、面倒以上に、醤は負けが分かりきっている勝負を受ける訳にはいかない。
リレーメンバーが決まり、どんなに担任の瞳が輝いていたとしてもだ。

「いやいやオレ無理ですよ! 足なんてそんな」
「大丈夫ですよ先生! こいつ何だかんだで責任感強いし、御守神社から教室まで走って5分で着くんです!」
「それは心強いな!」
「黙ってろ白組リレー代表!! 現役陸上部エースに帰宅部が勝てるか!!」

自分の事のように嬉しそうに話す翠に、醤は思わず立ち上がって反論する。
翠が言っているのは事実だ。
だが、それは遅刻しないよう背水の陣で走っているからであり、更に、普段から運動している訳ではないためスタミナも人並みなのである。
あくまで断らんとする醤の姿勢を見て、佐藤は毒を持つ甘言を呟いた。

「勿体ねーなぁ村崎。紅組の走者、泡瀬美園いるのに」
「先生ボクやります」

即決であった。
因みに、泡瀬美園(アワセミソノ)というのは、2年A組在籍の、醤の想い人である。
恋愛成就すべく健気に神社に通いつめていた時期も醤にはあったが、そこの神様は恋愛専門外の惚けた御老体であるため、今日まで接点が1度も無かった。

「よし! 無事リレーメンバーも決まった事だし、次は係を――」
「スイ!! リレー選抜おめでと~!」

突如、教室の扉が勢いよく開き、現れたウサギ型メダロット・ラビウォンバットに、一同の目は集められた。
翠は、驚愕のあまり突然の来訪者の名を大きな声で口にする。

「ハリップ!」
「スイなら選ばれると思ったよ! そうと決まったら早くグランド行こ! 走らなきゃ!」
「駄目だって。これから係も決めるんだから」
「ええー!! また待つの!? こんなに時間あったら、スイなら20周くらい出来るのに!」
「大袈裟だなぁ」

全く周りの目を気にせず翠に駆け寄り、騒ぎ立てるラビウォンバット・ハリップに、翠は困った様に苦笑した。
不服そうな表情をすぐに笑顔に変え、ハリップは言葉を続ける。

「わかった! じゃあオレっち、グランド整備して待ってるから! 早く決めて早く来てね!」

そう言い終えるや否や、ハリップは教室を飛び出して行き、2年D組には嵐が去った後の様な静けさだけが残った。
非常に気まずそうに笑いながら、翠は担任へと声を掛ける。

「先生、すみませんでした。係の話続けましょう」
「あ、ああ。お前のメダロット、相変わらず元気で忙しそうだな」
「……すみません」

少し赤い顔で謝る翠を見て、醤は『メダロットはマイペースな奴が多いなあ』と、今家にいるであろうカグラの顔を頭に浮かべながら、ぼんやり思ったのであった。





そうして迎えた、御守高校運動会当日。
天気は快晴。……と旨い具合にはいかず、曇り。強くはないが、時折風も吹いている。
しかし、運動会は実際このくらいの気候が丁度良いのである。
風の無い炎天下で運動会をやったら、確実に死ねる。氏ねるじゃなくて死ねる。

「はよーっす」
「おはよう、村崎」
「おはよー……」
「? 何だよ」

高校指定の芋ジャージに身を包み、頭に紅い鉢巻を巻いた醤は、白い鉢巻を巻いた翠、甘太に、片手を小さく上げながら声を掛けた。
挨拶するなり自分の顔をじろじろ見る甘太に醤が問い掛けると、問われた当人は意外そうな顔で返答する。

「いや、割と普通だなと思ってさ」
「だから何がだよ」
「リレーが嫌で嫌で全人類恨んでると言っても過言じゃないような鬼の形相はしてねーな、ってコト」
「お前が言うか」
「村崎だって流石にリレーぐらいでそんなんならないだろ」
「お前も言うか。……決まったモンに、いつまでもグチグチ言ってたってどうしようも無えだろ。それに……」

何処か呆れたように2人を見る醤は、言葉を続ける。

「リレーのバトン貰う時、美園ちゃんの手が触れるかもしれないだろ!?」

――本音そっちだな。

思い切り破顔して語る醤を、甘太と翠は、まるで興味深い生物を観察するような目で見た。
完全に有頂天の醤は、興奮気味にほぼ独り言に近いであろう言葉を喋り続ける。

「美園ちゃんの肌スベスベしててうっかりバトン落としたらどうするよ!?」
「俺は、それが本人に聞こえてたらどうしようって気持ちで一杯だなぁ……」
「やべーオレもしかして今世界で一番幸せなんじゃねぇか!? ありがとう神様!! カグラ以外の!!」
「その神様が、お前をアンカーにしたっていうのもお忘れなく」
「今それお口チャックな!!」

各クラス担任のくじ引きにより、リレー走者の順番が決定したのはつい先日の事。
順番が泡瀬美園の次だと聞かされた後、目を逸らしながら醤がアンカーだと告げた担任の顔は記憶に新しい。
この時の醤は、まさに強運にして凶運の持ち主であった。

「それより佐藤、そろそろ集まらないといけないんじゃないか?」
「あー、放送委員会な。じゃあ行ってくるわ」
「おう」

翠に言われ、校舎の時計を見上げた甘太は、手をひらひらと振りながら白いテントの方へと駆けて行った。

「オレ達もそろそろ行こうぜ」
「だな。……村崎」
「あ?」

伸びをしながら玄関口へと歩き始めた醤は、改まって名を呼ばれ、腕を上げたまま翠の方へと振り向く。

「負けないからな」
「そうでしょうよ(震え声」
「そこ『オレの台詞だ』じゃないんだ!? 何で敬語!? いつもの負けず嫌いなお前は何処に行ったんだよ!?」

かくして、リレーアンカー達の温度差が開いたまま、運動会は開幕したのであった。





『開会式が終わりまして、次のプログラムからはいよいよ競技です』

白いテントの下でマイクを手に、甘太は言葉を続ける。

『申し遅れましたが、前回に引き続きまして、本会の実況はぼく・実況あるから参加するのは基本競技だけで良いという理由で今年度前期も放送委員を務めます佐藤甘太がお送りします』
「よく全校生徒のみならず教師の前で堂々と言えるなアイツ」
「佐藤だからな」
『次のプログラムは徒競走です。生徒の皆さんは、スタート地点で整列してください』

半ば呆れながらの醤の言葉に翠が苦笑すると、スタート地点へと生徒が集まり始め、2人もそれに続いた。
徒競走が始まり、スターターピストルの合図で一斉に駆け出す走者達。
“ただ走るだけ”というシンプルな内容だけに、各々が全力でゴールを走り抜けていた。

「位置について、用意……!」

審判の号令を聞いて身を屈めた醤は、銃声と共に飛び出すように走り出した。
一瞬手を抜く事を考えた醤であったが、美園が見ているかもしれないという自意識任せに力を込める。
神社から学校までの全力疾走より劣っている事は自分でも分かったが、それでも何とか結果を出す事が出来た。

『只今の徒競走、1位は2年D組・村崎君です。流石紅組アンカー、リレーが楽しみですネ!』
「佐藤後で覚えてろよマジで」
『ここでアナウンスです。2-D村崎君、2-D村崎君……』

自分の徒競走を終え、いつのまにかアナウンス席に戻っていた甘太の言葉に、醤は息も絶え絶えに吐き捨てた。
当然ながら醤の言葉が聞こえない甘太による放送が続き、何事かと醤は眉間に皺を若干寄せる。

『お爺様が倒れました』
「何やってんだアイツ!?」

走ったばかりだと言うのに、醤は末恐ろしくなる程のスピードで観客席へと向かった。
観客席で、高く上げられた手が左右に揺れる。

「あっ、醤!! ココよココ! グラちゃんが煙噴いたの!」
「煙ぃ!?」
「醤君、徒競走お疲れ様」
「博士!」

母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の元へ人を避けながら進むと、カグラの体はゆかりに支えられ、頭部の近くで波花椒吾(ナミハナショウゴ)が棒状のセンサーを翳していた。
醤はカグラの両肩を掴み、慌てて呼びかける。

「おい!! おいジジイ!!」
「……ん……? ショウ、か……?」

呼びかけに応じ、緑の光が淡く浮かび上がるが、まるでノイズがはしっている様に不規則に点滅を繰り返す。

「どうしたんだよイキナリ!?」
「す、まぬ。お前の走る姿を、見てたら、嬉しくてな……そしたら、頭が、くらくらと」
「オーバーヒート起こす程ハッスルする事じゃねえだろ!!」

倒れた理由を聞き、色んな感情が入り混じった醤はありったけの声量で怒鳴った。
それを宥めるように、椒吾は穏やかに醤を送り出す。

「カグラ君は僕がみてるから、醤君は皆の所へ戻りなよ。大丈夫だから」
「そうよ~。聞けばメダロットの博士さんだっていうじゃない、プロの人にみて貰うのが一番でしょ?」
「わかったよ……博士すいません、お願いします」
「ああ、行っておいで」

醤が観客席を抜けると、グラウンドからも観客席からも一斉に歓声が上がった。

「え……!?」
『しかし、白組アンカーも負けていません! 歴代の御守高校100M走のタイムが、たった今記録更新されました!
 しでかしたのは勿論この男! 只今の徒競走1位にして、陸上部期待の星……2年D組・尾根君です!!』

名を告げられると同時に、一際大きい……それも半数以上が女性のものであろう歓声が場を支配する。
醤がゴール地点に戻ると、翠が額の汗を拭いながら出迎えた。

「おお、村崎。カグラ大丈夫だったか?」
「あ、ああ。運動会見てハッスルしただけだから」
「そうか、良かったよ。お前、徒競走速かったしなぁ」
「それ、少なくともお前の口から出て良い台詞じゃねぇぞ」
「はは、佐藤のアレは盛り過ぎだよなぁ。……ゲン担ぎみたいなもんさ」

困った様に笑った後、翠には珍しく、その目には強い意志が宿っている。

「徒競走で負けたら、リレーも負ける気がしてな」

次の競技も頑張ろうな、と背を向けて手を振り、翠はその場を去って行った。
分かっていた筈の力量差を突きつけられ、思わず醤の口元が歪む。
醤の気分は、鷹にロックオンされた鼠そのもの……この時ばかりは、翠とあたってきた陸上選手達に心底同情した。

――勘弁してくれ、負けず嫌いはどっちだよ……。

雲が並ぶ空に、ぽつりと独り言を投げかける。

「雨降んねえかなー……」





『次の競技は……何が出るかな? まさに神頼み、借り物競争です』

競技は順調に進み、借り物競争のアナウンスが流れ、数十分後。
合図のままスタートした醤は、地面に伏せられた札を手に取って捲る。

「あまり無茶なのは……『愛機』か」

札を読み上げた醤の脳裏に、運動会開始早々にオーバーヒートしたカグラの顔が浮かんだ。
不本意だが緊急を要する為仕方が無いと自分に言い聞かせながら、醤は頭を掻く。

「しゃーねぇ、呼ん、で……?」

ため息交じりに顔を上げた瞬間、がっちりと目が合った。否、合ってしまった。
醤を凝視しているのは、醤と同様頭に紅い鉢巻を付け、『大切なモノ』と書かれた札を握り締めた波花梓音(ナミハナシオン)である。
言葉にしないにも関わらず、互いの行動を読み取った両者は、まるで示し合わせた様に観客席へと一目散に向かった。

「カグラ!! 行くぞ!!」
「おじいちゃん!! ワタシと一緒に来て!!」
「どうした2人共? 『カブトムシ』とでも書いてあったのか?」
「聞くんじゃねぇタコ!!」
「何故ワシは怒られたのだ?」

回復したカグラは、鬼気迫った2人の顔を見て首を傾げたが、醤に一蹴され頭の中の疑問符が更に増える。
醤の暴言を聞き、梓音は隣の醤を睨みつけながら非難する。

「ちょっと! それがおじちゃんに頼む態度!? 突くわよ!?」
「どうせ今ドライバー持ってねぇだろ!? 先手必勝ォ!!」
「っ!」

言うや否やカグラの右手を取って駈け出した醤に奥歯を噛み締め、梓音はすぐさま左手を取って続く。
自分と並んで走る梓音に舌打ちし、醤は前を向いたまま声を張り上げた。

「大体なぁ、その条件ならマリアがいるだろーが!! 後で泣くぞ!?」
「うるさい! お前がおじいちゃんを連れてくのが気に入らないのよ! お前こそ何!?
 普段暴言吐きまくってるくせにこんな時ばっかり!」
「2人共、走りながら喋ると舌を噛むぞ?」
「誰の所為で面倒な事になってると思ってんだ孫たらし!!」
「おじいちゃんに何てコト言うのよ恩知らず!」
「うるせぇヤンデレラ!」
「チンピラ!」
「ヒス女!」
「甲斐性無し!」
「コミュ障!」
「不憫!」
「モヤシ!」
「ヘタレ!」
「クレイジーサイコチビ!」
「グランドファザコン野郎!」
「お前だろーが!?」

罵倒し合う2人と、それに挟まれたカグラの後ろ姿を見ながら、待機している翠と甘太は感想を漏らす。

「何か借り物競争って言うより、3人4脚みたいだな」
「間違ってねーわな。カグラの足、地面についてねーし」

走者2人のあまりのスピードでカグラの体が宙に浮いたまま、ゴールテープは切られた。
“1位”の赤い旗を持った生徒は、笑顔で醤と梓音両者に差し出す。

「おめでとうございます! 同着1位です!」
「あ? オレがこのモヤシと同じな訳ねぇだろ目ぇ腐ってんのか」
「ついてても意味無い目なら潰すわよ」
「」
「やめぬか2人共。可哀想に、涙目になっておるではないか」

鶴の一声ならぬ神の一声により、この少年から視力が失われる事は後にも先にも無かったという。





午前中の競技が全て終了し、昼休憩の時間となった。

「醤お疲れ様! アンタ意外とすばしっこいのね!」
「もっと他に言い様無かったのか」
「腹が減っておるから苛々するのだよ。たくさん走ってお腹が空いただろう」

戻って開口1番のゆかりの言葉に醤は顔を顰めるたが、反対にカグラは嬉々として弁当を広げていく。
空腹なのは事実であったため、醤は渋々箸を取り、卵焼きを掴んだ。

「いただきます」

そのまま口に運ぶと、醤の口内で丁度良い塩加減と、焦げによるものであろう若干の苦みが広がる。
卵焼きを食べる醤の顔を、カグラは何時になく期待を込めた眼差しで見ていた。

「どうだ? 塩辛くはないか?」
「あー……まあな」
「そうか……」
「その卵焼きね、グラちゃんが作ったのよ!」
「!?」

ゆかりに聞かされ、醤が勢いよく顔を向けると、カグラは照れているのか落ち込んでいるのか分からないような表情を浮かべていた。
カグラは、水筒の茶を注ぎながら明るい声色で話す。

「カンタがな、教えてくれたのだよ。『弁当を作るとショウが喜ぶかもしれない』、と。
 もう少し上手く作れたら良かったんだが、かたじけない」

急いで卵焼きを飲み込み、醤はカグラの手から奪うように麦茶を手に取る。

「……塩加減は、良いんじゃねぇの? 見た目は悪いかもしんねぇが、香ばしくて悪くもねぇだろうし」
「……そうか……!」

喜びから目を丸くするカグラを自分と交互に見て、ニヤニヤ笑うゆかりを完全に無視し、醤は卵焼きを突いた。
一欠けら混入している殻がアクセントで歯応えもしっかりしているが、今後は無いと嬉しい。

――佐藤の奴、余計な事言いやがって。

心の中で悪態をつきながらも、醤は密かに顔を綻ばせる。
次の競技のアナウンスが流れたのは、醤が弁当を残さず食べきった時であった。

『選手が狙うのはアンパンか!? それともメロンパンなのか!? パン食い競争も白熱して参りました!』
「佐藤……午後一で『パン食い競争』入れるウチの学校も学校だけど、佐藤テメエ……!」
「よぉ村崎! 愛情がぎっしり詰まった弁当は美味かったか? 詰まり過ぎて身も心もお腹いっぱいなんじゃねーの?」
「ここぞとばかりに良い顔しやがってえええ……!」

次の順番に備えて自分の隣に並び、爽やかな笑顔を浮かべる甘太とは正反対に、醤は泣く子も黙るような禍々しい笑顔で隣人を睨みつけたのであった。





『さあ、泣いても笑っても次が最後の競技・リレーです。選抜された生徒は、グランド中央で整列してください』

滞りなく進行されてきた運動会も、いよいよ次のリレーで競技が全て終了となる。
アナウンスが流れ、該当する生徒が集まり出す中、誰かが誰かの手を取ったのを醤は視界の隅で捕らえた。

「ミツキがいたら、実力以上の力が出せるかもしれないんだ。だから、見ていてくれないか?」
「スイ……!」
「そこのリア充ウウウウウ!! 一応言っとくけどみっちゃん紅組だかんな!?」

非リア充の心の叫びが轟き、醤が待ち望まなかったリレーがいよいよ開幕したのであった。

――あー、早く終わるか雨が降るかどっちかにしてくれ……!

自分の順番を待ちながら、地面を虚ろな目で見る醤は、深い溜め息をついた。
思い返せばこの運動会、手放しで『良かった』と思えるような出来事が醤には1つも無い。
これではプラマイゼロどころかマイナスではないのかと、今日という日を恨みかけた時であった。

「リレーって、どうしても緊張しちゃうよね」

醤は、耳を疑った。
その声は、聞き慣れない声ではあったが、決して忘れる事の出来ない声だったからである。
恐る恐る醤が顔を上げると、紅い鉢巻と共に、薄茶色の長い髪が揺れた。

「村崎君はアンカーだから、私よりももっと緊張してるのかな?」
「っみ、」

――美園ちゃんんんんん!?

唐突過ぎる美園との出会いに、醤は声を失う。
初めて間近で見る想い人は、くりっとした大きな瞳、桜色に色付いた唇が小さな輪郭にバランス良く納まっていた。
醤の緊張の方向性は勢いよくサイドチェンジされ、出す声が僅かに震える。

「え、な、何でオレの名前っ……?」
「村崎君って凄く元気だし、徒競走でも借り物競争でも1位だったでしょ? それで気になってたら、アナウンスで名前が……」

――神様アアアアア!! カグラ以外のオオオオオ!!

醤は、心の中で膝を折り、天を仰ぎながらガッツポーズをとった。
だがしかし、神が与えたチャンスをみすみす逃す訳にはいかない。

「みっ、あ、泡瀬さんは……!」
「あ、もうコーナーに並ばないといけないみたい。ごめんね」

勇気を振り絞って切り出した話は、話になる前に無残にも終わった。
心中涙を流しながらも、申し訳無さそうに眉を八の字に曲げる美園に対し、醤は明るい笑顔を張り付ける。

「や、今は競技の最中だししょうが無いって! 頑張ろうな、泡瀬さん!」
「うん! 頑張ろうね! また話そう?」
「ああ、また……また?」

美園を送り出した醤は、小さく振っていた手を復唱しながら止めた。

――『また』アアアアア!? また喋ってくれるんですかオレとオオオ!? いやいやいやいや落ち着けって社交辞令だって村崎醤!!
  いやーでも同じ学校だしなー! 会ったら声掛けるだろ? 話すだろ? 普通! やっぱヒロインはこうでなくっちゃなー!
  どっかのジト目のスプラッターに爪の垢煎じて飲ませてえわマジで! 雨よ降らないでくれてありがとう!!

「今ならオレはどこまでも走れる!!」
「良かったな、村崎。泡瀬さんと喋れて」

断言した所で、今度はよく聞き慣れた隣からの声に、醤は笑顔のまま顔を向けた。
隣では翠が、美園とは反対側のコーナーを指差し、笑顔を浮かべる。

「俺達もそろそろ並ぼうか」
「…………ハイ」

醤は、硬直した笑顔のままかくりと頭を垂れた。
コーナーへと向かいながら、翠は楽しげに喋り掛ける。

「『どこまでも走れる』かぁ、何かもっと面白くなってきたな」
「そうだなー、オレはこの先の高校生活が楽しみで楽しみで仕方ねぇよ」

――今日は尾根の1言1言が恐怖そのものだけど、幸運の女神はオレに微笑んでくれた!! 今ならやれる! 出来る! Yes,I can!!

醤が強い光を目に宿してコーナーに立つと、見えたのは走ってくる美園であった。
白組は、数M遅れて走っている。
醤は、後ろ手を構え、小さく走り出す。

「お願い、村崎君……!」
「任された!!」

良き切れ切れに走る美園からバトンを受け取り、醤は加速した。
残念ながら美園の手に触れる事は叶わなかったが、それに構う事なく、一心不乱にゴールを目指す。
遠くで湧き上がる歓声を聞き、翠にバトンが渡った事を醤は悟った。
地面を力強く蹴る音が、徐々に近くなる。

「……村崎、やっぱ速いなぁ」
「……尾根……!」
「悪いけど……」

隣に並んだ翠に、醤は奥歯を噛み締めた。
翠は、勝気な笑みを浮かべて言葉を続ける。

「お前が泡瀬さんの前で負けたくないように、俺もミツキの前で負ける訳にはいかないんだ」
「っのリア充がアアアアアアア!!」

ゴールテープが、切られる。
その場にいた全員が、息を飲んだ。

『ゴールテープを切ったのは、白……!』

カラン、とグランドに乾いた音が響いた。
転がったのは、リレーのバトン。

その色は、少し土で汚れた、白であった。

『……白ですが、白組ではありません。……全身白ずくめの、所謂変質者です』

ゴールテープを切った瞬間同様に両腕をVの字に上げ、白い衣装を纏ったゴーグルの男は、醤の方へと振り返り、口角を吊り上げた。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「えー、まずは第1回『六角形の神サマ』謝罪会見を開きたいと思います。
  前回の次回予告で、『オイルの名前を貸してくださった流離太さん』と表記しましたが、事実確認をしますと、元ネタは『ロックマン』でした。
  『ロックマン』作者の池原しげと先生、関係者の皆様、流離太先生、読者の皆様、本当に申し訳御座いませんでした」
カ「『第1回』という事は、『第2回』があるのか?」
醤「ネタバレになるがありますん」
カ「一体何をしでかすつもりなのだよ……いっその事、最終回の話を」
醤「早 過 ぎ る わ!! 謝罪会見じゃ済まねぇかんな!?」
翠「じゃあ、次回予告だし次の話のネタバレするか。
次回『六角形の神サマ』第拾伍話、『真剣衝突激競争(後篇)』。とりあえず、ロボトルありません」
醤「じゃあ何すんだ!?」


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