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RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/02/29 23:33
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇) ( No.18 )
   
日時: 2018/01/21 11:28
名前: 海月

「ただいまー……」
「おかえりなs暗ッ!?」

『鎖界神社祭』からの帰宅後。
村崎醤(ムラサキショウ)は、傍らにカグラの体を抱え、まるで見えない何かが圧し掛かっているように、暗い面持ちで、背中を丸めて階段を上っていく。
リビングから顔を出した母・ゆかりは、尋常じゃない息子の様子に声を上げた。

「お祭りにそこまで凹む要素ある!? 焼き鳥売切れてたの!? それともフライドポテト!?」
「何でもな……食い物ばっかじゃねぇか」

かろうじてそう突っ込むと、醤は自室の戸を閉め、壁にもたれて座り込んだ。

「あーあ……メダル賭けてた訳でも、何でも無ぇのにな」

失ったのはメダルではなく、パーツだというのに、醤は、思いの外落ち込んでいる自分自身に驚いていた。
ティンペットの右腕を見て溜め息をついた後、ポケットからカブトメダルを取り出し、語り掛ける。

「……なぁ、アンタはどう思ってる?」

ロボトルでの敗北後。
醤は、メダロッチにカグラのメダルを入れる事が出来なかった。

カグラからの拒絶が、恐ろしかったのだ。

自分を、怒るだろうか?
――普段の彼からは、あまり想像が出来ない。

自分を、軽蔑するだろうか?
――これも、多分しない。

自分に、落胆するだろうか?
――言葉は無くとも、内心まではわからない。

カグラは強い。
元々、ボロボロな機体を引き摺り、この町を守ってきたのだ。
……対峙したタバスコが弱かったのも、一理あるのかもしれないが。
今は、中古品ではあるが、欠陥のない機体を使っている。
“鬼に金棒”と言えば、『大袈裟だ』と他人に笑われるかもしれないが、醤はそう信じていた。
その足を引っ張ってしまったのは、紛れも無く自分の指示だ。
醤は、どんな顔をして会えば良いのか、わからなくなった。

しかし、いつまでもこのままでいる訳にはいかない。
覚悟を決めて一度頷いた後、醤はメダルを機体に装着する。

すると、何かを読み込む音と同時に、カグラの傷はみるみる修復されていった。
額の穴も、綺麗に塞がっていく。
やがて、指先がギシリと動き、頭部には双対の光が灯る。
起動したカグラは、瞬きした後、ティンペットの腕で、自分の額に触れる。

「カ、カグラ……?」

醤が恐る恐る名を呼ぶと、カグラは手包みを打った。

「成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな」





『六角形の神サマ』 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇)





「いらっしゃいませ」

日曜日。佐藤商店にて。
醤は、般若のような形相で、扉から顔を見せた客……もとい、友人である尾根翠(ビネスイ)を出迎えた。

「ごゆっくりどうぞ」
「ご、ご丁寧にどうも……」
「はよー。ごめんなー、尾根。おいバイト、その確実に人殺してきたような顔やめろっつってんだろ」

苦笑する翠に対し、醤の雇い主である佐藤甘太(サトウカンタ)は、雑誌を丸め、メガホンのように使った。
言わずもがな、商品だ。
『バイト』と呼ばれた醤は、目だけを甘太に向け、低い声で言い放つ。

「すんません、自分不器用なんで……」
「その台詞言えば、何でも許されると思うなよー。尾根以外の客が来たらどーすんだ、速攻逃げられるぞ」
「俺も怖いんだけどなー……」

乾いた笑いを零した後、翠は醤に尋ねた。

「どうしたんだよ、村崎? そりゃ、負けたら悔しいけどさ」
「そっちじゃねえ!!」
「え?」





時は遡り、鎖界神社祭からの帰宅後。

『成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな』

起動直後、カグラはまるで、天気の話をするかの如くそう言った。
拍子の抜けた醤は、素っ頓狂な声を出す。

『は……?』
『そうか、負けたから右腕が無いのか。ショウ、力が及ばずすまなかった』

右手から視線を移し、醤の方へ向いたカグラは、普段の顔過ぎた。

――そんなの、まるで。まるで。

『はあああああああ!?』
『ど、どうした? よもや、至近距離でミサイルを使った事に怒って……?』
『そっちじゃねえよ!!』

突然の怒号に肩を揺らしたカグラに、声を張り上げ続ける。

『お前、悔しくねぇの!? オレら負けたんだぞ!?』
『うむ、故にすまぬ』
『謝るとかそーゆーんじゃねぇんだよ!! 『悔しくねぇのか』って聞いてんだ!!』
『そうは言われてもなぁ……』

カグラは顎に手を当てて考えた後、さらりと言い放った。

『全力を出して負けたのだ。何を悔いる必要がある?』

――負けようがどうでも良い、みたいな。





「あんのクソジジイイイイイイイイイイ!!! 悔いるわ!! 悔いまくりだわ!! だって負けたんだぞ!?
 悔しいに決まってんじゃねえか!!
 枯れてる枯れてるとは思ってたけど、ロボトルでも枯れてると思わなかったわもーこなあああゆきいいいいいい!!」
「そ、そんな事があったんだ……」

話を聞き終えた翠は、そう返答するのが精一杯だった。
醤は頭を抱え、荒れ狂う。

「あの“きょとん”とした感じがムカつくんだよ!! 『何、一人で熱くなってんの?』的な!!
 オレ一人で騒いで、馬鹿みたいじゃねえか!!」
「『みたい』じゃなくて、『馬鹿』なんだよ村崎は」
「あア!?」
「おい、佐藤。流石に今は……」

いつもの様に醤を揶揄おうとしているのかと思い、翠は甘太を嗜めようとする。
息をつき、甘太は言葉を続ける。

「だってそーじゃん? お前、大事な事忘れてんだよ」
「大事な事だア!?」

普段であるならば物怖じする所であるが、怒髪天に達しているため、醤は甘太に強気なまま聞き返す。
裏腹に、甘太はにこり、と微笑み返した。

「お前のKBT1式さー……どうやって手に入れたんだっけ?」

その言葉を聞いた瞬間、醤は青ざめた。
甘太の言わんとしている事が、わかってしまったからだ。

「なー、おれ訊いてんだけど?」
「ロ……ローンを、組みました」
「だよなー? 完済したっけ?」
「……して、ません」
「……村崎、おれな? ロボトルに負けて、借金中のパーツ取られるのは仕方無い事だと思うんだよ。
 けどさー、完済する気あんなら、すべき事あるよなー……?」

もはや、醤を支配したいたのは、“怒り”ではなく“恐怖”だった。
目の前の借金取りの方が、余程人を殺しそうに見える。
醤は、今の自分に課せられた義務を絞り出した。

「…………仕事、シマス」
「よろしい」

守銭奴の一部始終を見ていた翠は、苦笑いしながら甘太に言う。

「ホント、お前どんな時も容赦無いよな……」
「だろ?」
「褒めてないぞ……」

少々得意気になって返答する甘太に、翠がそう告げた所で、新たに来訪者が来た。

「いらっしゃいま……せ」

醤は、下げた頭を戻し、客の顔を確認した所で、笑顔をひきつらせて固まった。
何故なら、今無償に会いたくないランキングNo.2が、目の前にいたからである。

「な、波花……」
「……何。ワタシがココで買い物をする事に、文句でもあるの?」
「いえ、滅相も無いデス……」

醤がそう言うと、波花梓音(ナミハナシオン)は、小さく息をつき、組んだ腕を下ろして店の奥へと進んだ。
今日は、当然ながら浴衣姿ではなく、ブラウスにショートパンツ姿であり、密かにスカート派だと考えていた醤にとっては、ある意味意外な姿であった。
梓音は、甘太や翠の姿を目で捉えると、軽く会釈する。

「……どうも」
「どーもー」
「こんにちは、波花さん」
「…………昨日は、ありがとう」

梓音の口から零れた言葉に、醤は耳を疑い、思わず翠と梓音の方へと振り向いた。
言われた翠本人は、普段の笑顔を浮かべたまま、僅かに首を傾げる。

「え? 俺、お礼言われるような事してないよ?」
「…………いいの。言いたかった、だけだから」

梓音は、言うや否や、メダロットのコーナーへと足を向けた。
翠も、気にする様子無く、商品の物色を再開する。
今のやり取りに全く関与していない醤には、何故だかそれが面白くなく、だがしかし、梓音が怖いため、本人に当たる事が出来ずに、ハタキで商品に当たった。
醤の様子を見て、甘太が声を出さずにせせら笑ったが、これまた立場が弱いため、平手で頭を引っぱたく衝動を、何とか抑える。
梓音が商品を手に取り、口を開いた。

「……そういえば、」

醤は、次に続く言葉が『そういえば』の類ではない事を知っていた。
カグラと負けた今こそは、彼女愛用のドライバーで、片目を持って行かれるかもしれない。
恐々と醤が身構えていると、梓音は商品に目を落したまま、呟くように言葉を紡ぐ。

「……おじいちゃん、大丈夫なの?」
「え……?」
「パーツは? 結構なダメージだったけど、ちゃんと治ってる? 元気? 落ち込んで、ボーっとしたりしてない?」

怒号、もしくは攻撃を浴びせられると思っていた醤は、一瞬気後れした。
しかし、長考を要する事でもないため、すぐに答える。

「ああ……完全に治ってる。メンテでも、残ってる傷は無かった。それに……元気だよ」

いっそ腹立つくらいな、とは、敢えて口には出さなかった。
ただでさえも気分がどん底なのに、余計な事を言ってドライバーを喰らい、二番底に落ちたくない。
更に言えば、周りの予想に反し、カグラが元気である事を実感したくなかったのだ。
醤の返答を聞くと、梓音は安堵したかのように目を細めた。

「……そう」

梓音は、オイルを手に取ると、甘太が待つカウンターまで足を運ぶ。
オイルを台に置き、肩から下げた鞄から財布を取り出した。

「これください」
「まいどー」

甘太が慣れた様子でレジを打ち、商品にテープを貼っている間、梓音は独り言のように口を開いた。

「……リボルバー」

今あまり聞きたくない単語に、醤は顔を顰める。
威圧感を放ちながら、梓音に聞き返した。

「あ?」
「……今、おじいちゃんの右腕がどうなってるかさえ知らないワタシには、関係のない事だけど。
 なるべく早く、おじいちゃんにつけてあげて」
「……あざしたー。またの御来店をお待ちしてまーす」

会計を終えた事を知らせる甘太の義務的な声にオイルを持ち、梓音は、ようやく醤の方へ振り向いた。
醤が見据える中、言葉を続ける。

「おじいちゃんには、やっぱりリボルバーが似合うから」

ざわり、と醤の中で何かが沸き立つ。
いつになく穏やかな、梓音の声にも。
言われなくてもわかっている、言葉にも。
責められているように感じる、負けた自分自身にも。

「関係無ぇなら口挟むんじゃねぇよ!!」

店内に響いた怒号に、甘太、翠、そして梓音の目が見開かれる。
醤は、感情の赴くままに声を張り上げた。

「テメエに何がわかんだよ!? 負けた後のカグラの事も、オレの事も知らねぇくせにえっらそうに!! 何様だアァ!?
 何っだその態度!? 気ぃ遣ってるつもりか!? そんならハナから何も言うんじゃねぇ!!」
「村崎!! 波花さんに当たんなよ!!」

醤自身も、完全な八つ当たりである事を自覚している。
しかし、どうにも制御出来なかったのだ。
それでも、翠の言葉を受け、醤は舌打ちしてから押し黙った。

「……」

俯いた梓音が、無言のまま醤の正面まで近付いた。
醤は目を細め、乾いた笑いを零す。

「……どうした? ドライバーか? それとも殴んのか? 好きにしろよ」

いっそ、そうされた方が醤にとって楽だった。
それすらも見透かされたかのように、梓音の口がようやく動く。

「……今のお前には、殴る価値もない」

今度は、醤が目を見開く番だった。
低く、小さく、梓音は言葉を告げる。

「お前の気持ちだけなら、わかりたくない程よくわかる。ワタシも……お前に負けた時、死にたくなった」
「……!」

醤は、ロボトル直後の梓音の様子を思い出す。
それはもう、心底悔しがっていた。
もう少しで待ち焦がれたカグラを手に入れる事が出来たというのに、後1歩が及ばず、負けてしまったのだ。
呪詛のように何度も感情を口にした、彼女の拳を握る様は、今でも醤の脳裏で鮮明に浮かぶ。

「何、悲劇のヒーローぶってんの? お前だけが負けてる訳じゃないのよ、甘ったれんな」

それよりも、と付け加えた声は、少し震えていた。
梓音は、くしゃり、と自分の髪を握って乱す。

「こんなに、お前も腹立たしいのに……ワタシは、ワタシが1番許せない」

梓音の言葉の意味がわからず、醤は眉を下げる。
重々しく口を開き、梓音に尋ねた。

「……何でだよ? あのロボトルで……お前、何もしてねぇだろ?」

ぎり、と梓音から、奥歯を噛み締める音が聞こえた。
勢いよく顔を上げた梓音の目には、溢れんばかりの涙が浮かぶ。

「っおじいちゃんをあんな風に負かせたヤツに、ワタシが勝てるワケないじゃない!!」

梓音は、叩きつけるように言うと、涙を散らしながら店を出て行った。
消えるまで梓音の背中を目で追いかけていた醤は、ようやく気付かされた。

醤とカグラが、負けた時。
あの場で、梓音はリボルバーを奪還する事しか頭に無かったのだ。
しかし、自分の実力を考慮しない程、梓音は浅はかではない。
リボルバーの譲渡を、睨みつけながら見過ごした事だろう。

――それなのに、オレは。

負けたショックで、何も考えられなくなっていた。
だから、間接的に、梓音は“大事な事”を伝えようとしたと言うのに。

「!」

コツリ、と唐突に、醤は頭を小突かれた。
反射的にそちらへ目を向けると、目が合った翠は、ため息をつく。

「な、何でお前……」

あまり手を出す事が無い翠にしては珍しく、醤は頭を押さえながら問う。
翠は、穏やかに笑いながら答えた。

「……殴る価値が無い程とは思ってないから、“俺は”」

返答に喉を詰まらせた後、醤は、バツが悪そうに呟く。

「…………悪い」
「謝る相手が違うだろ」

唸り声を上げる醤とは対照的に、翠は笑い声を零す。
甘太は、間延びした声で醤を呼んだ。

「村崎ー、ほい」
「っと!」

甘太から投げられたものを受け取ると、それはミネラルウォーターだった。
頬杖をつき、甘太は口を開く。

「ちょっと休憩してこい」
「え、でもまだ時間……」
「訂正、頭冷やしてきて」

有無を言わさぬ甘太の言葉に、醤は口を結ぶ。
そして、ペットボトルを握り締めると頷いた。

「……休憩入ります」
「はいよー」

何処かふらつきながら店の奥へと進む醤に、甘太はひらひらと手を振った。
醤の姿が見えなくなると、甘太は口角を上げる。

「……青春してんねぇ。アイツら見てると、小学ん時一緒だったヤツ思い出すわ。
 鬼ごっこの時に鬼ばっかやらされて、べそかいてたヤツがいてさー」
「ここぞとばかりに古傷を抉ってくるなぁ、お前は。泣いてないよ」
「そういう事にしとく」
「お前こそ何様だ」

翠は、ひくりと笑顔を歪ませた。
気にする素振りも無く、甘太は喋る。

「いやー、どうしてこうおれの周りは負けず嫌いが多いんだろうねぇー? 凡人のおれなんか、数えられないぐらい負けたってのに」
「……オイル2缶と、飲み物買ってくよ」

翠は目を伏せて笑い、オイルを手に取る。
まいど、と言いながら、甘太はお釣りを渡した。
袋を持って翠は背中を向け、店の外へ向かう。

「……佐藤」
「あー?」

甘太が呼応すると、翠は振り向いて苦笑した。

「誰だって、負けたら悔しいよな?」

翠は、甘太が何も言わないのを確認し、そのまま佐藤商店を後にした。





――はて、何故ワシは今。

「よっし!! もう1本走るか、カグラ!」
「ホラホラ! 早く準備して!」

――スイやハリ坊と共に、ひたすら走っておるのだろうか……?

ぐったりしながらも位置につき、カグラは考えていた。
村崎家に、いきなり翠とハリップが来訪し。
手を引かれるまま、ここ、堤防まで連れて来られ。
同じ道を、繰り返し走らされているのだ。

「用意!」
「――ドンッ!!」

翠とハリップのこの掛け声も、果たして何回聞いたのか。

「ゴーーールッ!! だらしないなぁ、カグラ! タイム伸びてるよ!?」
「仕方ないだろ、もう100本くらいやってるんだから。……大丈夫か、カグラ?」
「……か……かたじけなぃ……」

息切れして地面に伏し、朦朧とする意識の中。
カグラは、手を差し伸べる翠が少し汗を掻いている程度で済んでいる事が不思議でならなかった。
そんな折に思い出すのは、一緒に住む、孫の1人との会話。

『尾根はなぁ……ポルシェの生まれ変わりなんだよ』
『ぽるせ?』
『車だ、車』
『成程! それは凄いな!』

会話の内容も微笑ましく、更に、孫と思っている翠が秀でた特技を持っている事が誇らしく、カグラは自然と笑顔を零した。

「はい、お疲れさん!」
「わー! オイルだー!」

翠に上半身を引き起こされた後、カグラはオイルを手渡された。
隣ではハリップが上機嫌で貰ったもう1つのオイルを開け、そのまた隣では翠が胡坐をかき、ペットボトルの蓋を捻る。

「スイ。何から何まで、気遣いかたじけない」
「気にしないで飲んでくれよ! 『じいちゃん』!」
「!」

突然、翠に初めて呼ばれ、カグラは目を丸くした。
その顔を見て、照れくさそうに翠は頬を掻く。

「あー……驚かせてごめんな、1回呼んでみたかったんだ。ほら、村崎や波花さんの前じゃ……とてもじゃないけど呼べないし、うん」
「……あいや、すまぬ」

カグラもゆっくりとオイルの蓋を開け、口に近づけた。

「吃驚するぐらい、嬉しかったのだよ。有難く、頂戴する」
「そうだよ! 早く飲もー! いただきまーす!」

カグラやハリップの表情が嬉しく、翠は顔を綻ばせた。
そして、自分もスポーツドリンクを飲む。

「っあー!! 美味い!」
「美味しい……!」
「おいしー! 走った後のオイルはカクベツでしょ、カグラ!?」
「ああ、生き返る味がする……!」

翠は、目を細めて喜ぶ2体に、笑顔でこっそり息をつく。

「なぁ、カグラ!」
「ん?」
「走ってみるのも良いモンだろ?」

翠の言葉に、カグラは無言で首を倒す。
少し俯いた後、日が沈みかけの空を見上げた。

「……そうだなぁ。長生きしていても、知らなかったのだよ」

翠の意図を何となく察し、カグラは、そのまま瞬きを1つした。
翠は、穏やかに告げる。

「……村崎はさ。元々負けず嫌いだけど、こんなに引きずるのは初めてなんだ」

カグラは、翠の方へ目を向けた。
しかし、言葉を投げ掛けるように、翠は空を見る。

「よっぽど、カグラと負けたのが悔しかったんだろうな」

ようやく合わせた顔は、少し悲しげだった。

「そんなに、難しい事じゃないよ」

言い終わると、翠は背伸びをし、立ち上がった。
隣でオイルを飲むハリップに、声を掛ける。

「さ、ハリップ! もう一っ走りするか!」
「いいね! オイル飲んだ後の追い走り!」
「カグラは、ちょっと休んでなよ!」

翠にそう言われ、カグラは手元のオイルへ目線を落とす。
少し考えた後、オイルを地面へ置いた。

「……いや」

カグラも立ち上がり、爪先でコンクリートを叩く。
翠とハリップは、満面の笑みを浮かべた。

「ワシも、走るとしよう」
「よし、行こう!」
「レッツゴー!」

3人は、スタートの掛け声をする事無く、まばらに駆け出した。
走りながら、口を開く。

「押しつける訳じゃないけどさぁ! カグラも、微塵でも『悔しい』って思ってくれたんなら俺は嬉しいかな、って!」
「ワシも、時々スイから『じいちゃん』と呼んで貰えると嬉しい!」
「オレっちは! こうやってずっとずーっと走れたらうれしー!」

この日、1人と2体は、結局日が暮れるまで走ったという。





「リィィボルバー狩りじゃアアアアアアア!!」

翌朝、御守高校の廊下にて。
肩には、『リボルバー求ム!』のタスキを下げ。
頭には、『右腕』と書かれた鉢巻をつけ。
醤はゲスな笑みを浮かべ、仁王立ちしていた。
昨日とは別ベクトルで危険な親友の姿に、翠は頭を抱える。
冷めた目で見ながら、甘太は一応というスタンスで尋ねた。

「村崎、何やってんの……?」
「決まってんだろ!! ロボトルで取られたものはロボトルで奪う!!
 ようはリボルバー持ってる奴と、片っ端からロボトルすりゃ良いんだよ!! さぁ!! 来たれリボルバァアアアアアアア!!」

般若だった顔は、最早ラスボスと化していた。
見るからに危ないのに、自ら火中に飛び込む人物が1人。

「おーい、村崎~!」

手を振りながら上機嫌で近寄ってきたのは、醤達2年D組のクラス担任・的間圭一(マトマケイイチ)だった。
圭一は、幸せ過ぎて醤の格好が目に入らないといった様子で、言葉を続ける。

「お前、メダロット好きだったよな!? じゃーん!!」

そして、両手で掲げた。

「念願の、KBT両腕パーツだ!! いや~、1回は俺のブルースドックにつけてみたかったんだよなー!!」
「「「先生エエエエエエエエ!!」」」

醤達3人の明らかに違う叫び声の質と、これから降りかかるであろう本当の悲劇を、圭一は知る由もなかったのであった。


メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
圭「待てよ。最後の地の文、酷過ぎやしないか? もう勝敗が見えているような……」
甘「先生、読者の皆様ももう察してると思います」
翠「先生、何で村崎の笑顔が酷い事には気付かないんですか?」
醤「先生!! 上のメダロッチの部分、もうリボルバー付け足しといていいですか!?」
圭「せめてロボトルはしよう村崎!! それ、悪の組織とやってる事変わらないから!! な!?
  次回、『六角形の神サマ』第拾玖話、『右腕狩猟祭(後篇)』! 運命に負けずロボトルファーイトォ!!」
醤「ッシャアアアアアアア!! リボルバァアアアアアアア!!」
甘「そこの主人公、役割を放棄してラスボスにならない」


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