>> メダロットライズ にもどる

RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/02/29 23:33
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇) ( No.15 )
   
日時: 2018/01/14 17:39
名前: 海月

「カグラの旦那~! ここにいたんですかい」
「ジー坊。ジー坊も来ておったのだな」

御守高校運動会最終競技・リレーが実施されていたこの時。
観客席でカグラが声掛けられるままに振り向くと、そこには手を振るジーと、見慣れぬラビウォンバットの姿があった。

「その者は友人か?」
「スイのメダロットのハリップだよ! よろしくねカグラ! 今は敵同士だけど!」
「此方こそ宜しく頼む。敵とな?」
「あー…多分あーいう事っす」

真っ直ぐ前を見つめたまま言い放ったハリップの言葉にカグラが首を傾げると、ジーは苦笑しながらグランドの方へと指差した。
カグラも目を向けると、丁度バトンを受け渡された醤の姿が目に映る。

「ショウ?」
「そう! スイはショウに勝たなきゃいけないから! 絶対勝つけど!」
「そうかそうか、スイも走るのだな。では応援するとしようか。ショ~、スイ~、頑張るのだよ~」
「何でスイも応援するの!? 敵同士じゃん!」
「ワシからすれば、どちらも大切な孫だからな」
「ええー!?」
「じゃあオイラは、実況のカンちゃん頑張れ~」

そう言うや否や、走っていないにも関わらず佐藤甘太(サトウカンタ)を応援し始めたジーを見て、ハリップは少し唸る。
しかし、白いバトンが尾根翠(ビネスイ)の渡ると、大きく首を横に振って迷いを断ち切り、有りっ丈の声援を送り始めた。

「スイイイイ!! 頑張ってえええ!! 絶対負けないと思うけど絶対勝ってねえええええ!!」
「スイを信頼しているのだなあ」
「モチロン!! スイは、誰よりも誰よりも速いんだから!!」

翠がゴールテープを切る瞬間を逃すまいとグランドを1点見つめながら、ハリップは目を輝かせて言い切った。
すると、ゴールテープに向かって、マイペースに走っている白い影が不意に3体の視界に入った。

「「「あ」」」

誰よりも不真面目に走っている事明らかなその白い男は、腕をVの字に上げ、ゴールテープを散らしたのであった。





『六角形の神サマ』 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇)





「ふっ、ふふっ……」

白を基調とした未来人の様な格好に、目には大きめのゴーグル。
そして、衣装の右胸に“Tc”と刻まれた、秘密結社テクノポリスが1人・タバスコは、腕を降ろし、笑い声を零しながら小刻みに震える。

「だーっはっはっは!! 悔しいか!? 悔しいか村崎醤!? 今どんな気持ちだ!?
 自分が切るつもりだったゴールテープを目の前で切られたのどんなビモッ!?」

高笑いするタバスコの顔面に、紅いリレーバトンが思い切りクリーンヒットした。
振り被った姿勢の村崎醤(ムラサキショウ)に、2年D組のクラス担任は恐る恐る口を開く。

「な、なぁ村崎? ただ単にお前の担任というだけで、どうやこうや言う資格先生には無いんだけどな?
 ……友達は選んだ方が良いんじゃないか?」
「友達じゃありません。あれは只の知り合いの変質者です」
「変質者と知り合ってるのも、ちょっとまずいと思うぞ?」
「おっふ」

勘違いをすぐ否定したは良いものの、担任の指摘は的確であった。
タバスコは、その恰好だけでも目立つというのに、運動会のクライマックスを台無しにした事により、今となっては誰にとっても無視出来ない存在となってしまった。
その男が、自分の名前を大きく叫びながら、自分に思い切り絡んでくるのである。
今この瞬間、人生の引導をタバスコに渡してしまいたい醤であったが、まず自分の状況が非常にまずい。

何か打開策は無いかと考えに考え……醤は閃いた。

「先生!! アイツです!!」
「いや『アイツ』って……何がだ?」
「小学生のメダロット盗ったのも神社の扉から何から全部壊したのもアイツがやりました!!
 オレはそれを止めようとして、目を付けられただけなんです!!」
「そうだったのか!!」
「オイ今どさくさに紛れて罪押し付けt」
「見苦しいぜ犯罪者!!」

醤はタバスコを勢いよく指差し、反論の隙を許さず大きな声で言い放った。
事情を知っている甘太から白い目で見られている気がするが、気の所為にしておく。
不意に後ろから聞こえた砂を踏み締める音に、醤は恐る恐る振り向いた。

「……び、尾根……?」

声を掛けられても、翠は俯いたまま沈黙している。
醤は悟った。『翠は相当怒っている』。
普段穏和な彼だが、そんな人物程1度怒ると怖い事はよく存じている。

「ん~? よく見ればお前は、あの時神社にいたガキじゃないか。言いたい事があるなら言えば良い」
「……まさか、思ってないよな?」
「あ? 何だって?」

わざとらしく聞き耳を立てるタバスコに対し、敵意を露わにしながら翠は顔をゆっくりと上げた。

「大事な勝負駄目にしといて、簡単に帰れると思ってないよな? どう逃げようが、追いつく自信あるんだけどさ」

そう言うと、翠はスニーカーの爪先で軽く地面を叩く。

「コワークナイ!! タカガ高校生全然コワークナイ!!」
「強がんなって……尾根怒らせるとか、アンタどんだけ怒らせ上手なんだ。言っとくけどな、こないだの陸上の全国大会、アイツ準優勝しt」
「煩い!! このタイミングで華々しい戦歴を語るな!!」

怯えるタバスコに、醤は大きな溜め息をつくと、メダロッチを構えた。

「つまり、こういう事なんだろ? タバスコ」
「フフン。単細胞は安直な発想しか出来ないから困る」
「あ゙?」

鼻で笑われ、自分に対しては何故強気なのかと、醤は怒りの籠った声で聞き返した。
タバスコは、ゴーグルを掛け直すと、3つのメダロッチをつけた腕を翳す。

「確かに勝負はするさ……但し、“メダロードレース”でな!!」





『ハーイ! という訳で、実況は変わりましてワタクシ・Ms.マーガリンがお送り致しま~す♪』

放送席でメガホンを構えたMs.マーガリンは、言葉を続ける。

『まずは、メダロードレースのルール説明です! レースの走者はメダロット3体!
 1体につき、スタート地点から、アチラに見えます赤いフラッグで折り返し、またスタート地点まで戻ってきてください!
 1番走者、2番走者、3番走者の順に走って頂き、3番走者が先にゴールした方が勝利となります! ですよね先輩? 先パ~イ?』
「……やる気はあるのか?」

Mr.ジャムの怒気を含んだ低い声が、グランドに響く。
睨み付けられた生徒達は、突然現れた審判が何故自分達に対し怒っているのか分からずざわめくが、Mr.ジャムは腕を組んで言葉を繰り返す。

「君達はやる気があるのか、と聞いているんだ……!」
『ちょっとちょっと先輩どうしちゃったんですかー?
 生徒さんの中に、昔先輩を性犯罪者として訴えた方と似てる方でもいらっしゃったんですかー?』
「君の発言は完全に濡れ衣だが、」
「『完全に』は嘘だろ」
「僕が怒っているのは、そういう事じゃないんだよ!」

醤の突っ込みを意に介さず、Mr.ジャムは鬼気迫る顔でハッキリと言い放った。

「可愛い女子は今この場でブルマーに着替えろ!! 話はそれからだ!!」

Mr.ジャムはパトカーで連行され、Ms.マーガリンは黄色いハンカチを振りながら見送った。
この時、何故もう1人の犯罪者も連行されなかったのか醤は強く疑問に思ったが、そう都合良くいかないらしい。

「村崎!」
「尾根……悪ぃが、お前んトコのハリップも頼めるか?」
「謝んなって! 俺だって、許せないんだ」
「2人がそうするなら、おれもジーで参加するわ」
「悪いな、佐藤」

走者が集まり、醤は安堵から少し笑みを浮かべる。

一方、観客席では。

「ふむ、どうやらワシ等が走るようだな。どれ、行くとしようか。ハリ坊、ジー坊……ジー坊?」

一部始終を見ていたカグラは、立ち上がるとジーの姿が無い事に気付き、辺りを見回した。
しかし、周りにそれらしきメダロットはいない。

「はて、先程までいたのだが……?」
「カグラ! ジーはいる!?」

首を傾げるカグラの元へ、甘太の母の愛機・グルコが人込みを避けながらやってきた。
思わぬ来訪者に、カグラは柔和な笑顔を浮かべる。

「おお、グルコ嬢ではないか。息災で何よりなのだよ」
「挨拶は後後! ジーはいるの!?」
「さっきまで居たんだがなぁ……」
「もう! 逃げたのよアイツ! そうはいかないんだから!」

グルコは怒りながら目を閉じ、再び目を開いた。

「索敵!」

ジーの座標を特定するや否や、グルコは何も無い場所を思いっ切り鷲塚む。
すると、潰れた蛙ならぬカメレオンの声が客席に響いた。

「ぐえっ!? ね、姐さ、決まっちゃってますって……!」
「あんたは何でもかんでも逃げれば済むと思って! 男なら勝負から逃げるんじゃないの!」
「相変わらず仲が良いのだなぁ」

胸倉を掴まれたジーと、それに説教するグルコを見て、決して微笑ましくない場面に、カグラは呑気にそう言った。
そして、隣に座っているハリップに顔を向ける。

「お前が走ってくれるとなれば、ワシ等も心強い。ハリ坊、宜しく頼む」
「……違うよ」
「『違う』?」

さっきとはうって変わり、落ち込んだ様子で呟くハリップの言葉を、カグラは復唱する。
ハリップは、少し震えた声で言葉を続けた。

「オレっちじゃ……ダメなんだ」





『それではステージを発表しまーす♪ 今回のステージは、“砂地”です!』
「はあああ!? ざけんな! どう見ても“平地”だろーが!?」
『メダロット協会が、グランド面積に対する砂の割合を測定した所、“砂地”と判定されましたー♪』
「オレはグランド整備サボった連中を許さない! 絶対にだ!」

タバスコが転送したトンボ型メダロット・ドラゴンビートル3体を背に、醤は有りっ丈の声量で訴えるが、Ms.マーガリンにより虚しくも却下されてしまった。
その様子を見て、ジーが非難の声を上げる。

「砂地で二脚が飛行に敵うはずないじゃないっスか!! 勝てませんからね!! 勝てませんからね!?」
「うるせえええ!! 今すぐ1番走者から3番走者にしてやろうか!」
「文句言わず走ります!!」
「よし!!」

醤の脅迫に屈し、ジーは勢いよく敬礼した。
肩をがっくり落としたジーに苦笑した後、翠は走者を確認していく。

「えーっと……ジーが1番で、カグラが2番で、ハリップが3番か。ハリップ! お前なら大丈夫だから、自信持って行って来いよ」
「う、うん……」
『それでは、走者の皆さんはスタート地点についてくださーい!』

Ms.マーガリンの指示に従い、6体のメダロットはスタート地点につく。
ドラゴンビートルと、小声で『無理』を繰り返すジーは、いつ合図が出ても良いよう、走る構えを取った。
Ms.マーガリンが、スターターピストルを持つ腕を、空に向かって高々に上げる。

『合意とみてよろしいかなー!? それでは、メダロードレース開幕です! 位置について、用意――』

薬莢の爆ぜる音と共に、両者は一気に走り出した。

「おんわあああ!! おんわああああ!!」
『さあ始まりましたメダロードレース!! 勝利の女神はどちらのチームに微笑むのでしょうか!?
 現在、やはり地の利があってか、ドラゴンビートルが大きくリードしております!
 ジーは声を張り上げながら懸命に走りますが、距離が広がる一方です!』
「イラッと来る実況だなー」
「通常運転だ、落ち着け佐藤」

不満を呟く甘太の肩を、醤は軽く叩いて宥める。
少し離れた場所では、ハリップは俯いたまま回想していた。





記憶の中で、ハリップはひたすら堤防を歩いていた。

『またお前がビリッケツかよー!』
『ノロマだなー、ウサギなのに恥ずかしくねえのー?』
『じゃあなー、落ちこぼれウサギー』

先刻の他のラビウォンバット達による罵倒が心の中で木霊したが、ハリップは滲む世界を閉じて、頭を思い切り横に振った。
そのままずっと歩いていると、誰かが土手を走っている姿が不意に目に入る。

「ニンゲン?」

その人間の行動は奇怪で、走り終えた後必ず首を傾げては、逆走を繰り返す。
気になったハリップは、好奇心の赴くままに、土手へと降りて、走る背中に声を掛けた。

「ね、ねえっ! 何してんの!?」

ハリップの声に足を止め、振り向いた顔はまだまだ幼かった。
辺りを見回しても自分しかおらず、声を掛けられたのは自分であると自覚した少年は、用心深くゆっくりとハリップに歩み寄る。
深刻な顔で顔を近づけられ、ハリップは小さな声で問い掛けられた。

「……誰にも言わない?」
「う、うん」
「俺さ……」

少年は言い淀んだが、そのまま消え入りそうな声で続けた。

「走る練習、してたんだ。クラスのみんなと鬼ごっこしてると……いっつも鬼にされるから」
「え? 鬼ごっこ? ……あー」

深刻な話をされると思いきや“鬼ごっこ”という単語が出てきたため、ハリップは素っ頓狂な声で復唱した。
して、すぐに合点がいく。
鬼ごっことは、本来交代して鬼を担う。
しかし、逃げれば捕まり、追い掛ければ捕まらずと、足が遅い者にとっては残酷な遊びなのである。

ハリップは、自分の仲間が見つかったと喜んだが、それは瞬時に打ち砕かれる。

――この子は、“速く走る事”を諦めきれないんだ。

何かと理由をつけて練習する訳でもなく、ただ悲観していた自分が酷く情けなく、ハリップは己を恥じて落ち込んだ。

――せめて、この子だけでも。

ハリップは覚悟を決め、口を開く。

「オレっちが、計るよ」
「え?」
「オレっちが、君のタイムを計るから……っ一緒に練習しようよ!」

速く走れぬならば、せめて彼が速く走れるよう応援したい。1人ももう嫌だ。
ハリップは拒否の言葉を恐れたが、決して少年から目を逸らさなかった。
驚いているのか瞬きを2回した少年は、満面の笑みで大きく頷いたのであった。

「ありがとう!!」

少年の返答が嬉しく、ハリップは少年の両肩を掴んで力説する。

「オレっちがついてるから、キミは絶対!! 絶対誰よりも速くなるから!! 一緒に頑張ろう!!」
「……! うん!」

少年と共通の“目標”を見つけたハリップは、いてもたってもいられず、土手の向こうへと駆け出す。

「そうと決まったら早速練習だよ! 時間はすぐ過ぎちゃうんだから!」
「えっ!? ま、待ってよ!」

ハリップはこの頃から、目標に向かって文字通り疾走する少年に、憧れを抱いていた。
少年が陸上の全国大会で上位3位の常連になった今は、一層強い憧れと信頼を寄せていたのであった。





翠が速く走れるようになると、自分も速く走れるような錯覚を覚えた。
しかし、所詮は錯覚。
自分自身が早くなった訳ではないと、ハリップは自覚していた。

「オレっちはどうして、スイじゃないんだろう……?」

分かっている。
自分はただ、タイムを計っていただけであると。

「先程から、随分浮かぬ顔をしておるな?」
「! カッ、カグラ!!」

隣のカグラから声を掛けられ、ハリップは驚き、声も体も飛び上がった。
ハリップを瞬きして見た後、あまり反省の色が見えない声色で、カグラは言葉を続ける。

「すまぬ、それ程驚くとは思わなんだ。しかし、そう案じる必要は無いのだよ」
「なっ……!」
「何せ、」

自分の気持ちも知らず呑気に言ってのけるカグラに、ハリップは少し苛立ちを覚える。
しかし、カグラの視線の先へハリップも目を向けると、言葉を失って目を見開いた。

「スイがあんなに自信満々に笑っておるのだ、何か“勝算”があるのであろうなぁ」

そう言うや否や、カグラは立ち上がり、此方へ向かって走って来るジーを見据え、タッチすべく右手を掲げる。

「さて……それでは、行ってくるのだよ」
『さあ! 先程ドラゴンビートルが2番走者に変わりまして、此方のチームも2番走者の出番です!』

Ms.マーガリンが言うなり、カグラはジーとバトンタッチし、駈け出して行った。
スタート地点を過ぎたジーは、数歩よろけながら歩いた後、その場に音を立てて倒れ込む。
甘太は、マイペースに駆け寄った後、ジーの近くにしゃがんだ。

「ジー、お疲れさん」
「……カッ……ガン゙ぢゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「おーよしよし、飛行相手に頑張ったな」

号泣しながら自分に抱きつくジーの背中を、甘太は優しく叩いた。
少し離れた場所からは、醤が声援を送る。

「いけええカグラアアアアア!! たかがトンボだぞおお!! カブトムシの根性見せてやれえええええ!!」
「村崎……何かがちょっとずれてないか?」

冷静に突っ込む翠を尻目に、ハリップは再び俯いた。

――どうしよう……。スイの期待に応えたい、負けたくないけどオレっちは……!

『カグラは徐々にドラゴンビートルとの距離を縮めていくが、果たして追い抜く事は叶うのかー!?』
「え!?」

Ms.マーガリンの実況にハリップが顔を上げると、2体がフラッグで折り返し、此方へ向かって走っている。
しかし、カグラは差を縮めはするものの、後1歩が及ばない。
追い抜く事は無いまま、カグラの手はハリップへ伸ばされた。

「ハリ坊、頼んだぞ……!」
「……ッ!」

カグラにバトンタッチされ、3番目のドラゴンビートルに1歩出遅れて、ハリップは走り出した。
Ms.マーガリンは、声高々に実況を続ける。

『今! そう、たった今! どちらのチームも第3走者にバトンが委ねられましたー!!
 このままドラゴンビートルが勝つのか!? それともハリップが巻き返すのかー!?』

ハリップは、真っ直ぐ前を向いてひたすら走るが、ドラゴンビートルの1歩先へと足を出す事が出来ずにいる。
その歯痒さから、足は止めずに、力強く目を閉じた。

――駄目だ、やっぱり勝てっこないよ……! ごめんみんな、ごめん……!

「なぁ尾根、ハリップ何か様子変じゃねえ? レースの前くらいから」
「あ? そうなのか?」

片手でジーをあやしながら、甘太は顔だけを翠の方へ向けた。
ハリップの差異に気付かない醤は、団扇でカグラを扇ぎながら素っ頓狂な声で聞く。
翠はハリップを見て顎に手を当て、少し考えた後に立ち上がる。

「尾根、どうした?」

醤の問い掛けに答える事は無く、翠はハリップの後ろ姿を見つめた。
まるで、重い荷物を背負っているかのように、ハリップは徐々に減速し、頭も垂れていく。

――ごめんスイ、オレっちもスイみたいに走れたら……!

「ハリップううううう!! 前向いて走ったままよく聞けよおおお!!」
「うおっ!? ビックリした」

突然声を張り上げた翠に、近くにいた醤は小さく肩を上下させた。
翠は、ハリップの背中に向かって声をぶつけ続ける。

「お前!! 俺の事いつも速い速いって言うけどな!! タイム計りながらぴったり俺の後ついて走って来るヤツ誰だよ!?
 『一緒に頑張ろう』ってお前が言ったんだろ!? 俺だけが速いとか、寂しくなる事考えてるんじゃないだろうな!?」
「……スイ」
「くよくよしてる場合じゃないだろ!! 早く本気出せよ!!」

そこまで叫ぶと、翠は一層大きく息を吸い込んだ。

「お前は絶対!! 誰よりも速く走れるんだからなあああああ!!」

言い切ると、翠は息を荒げ、両膝に手をついて自らの体を支えた。
ハリップは顔を上げ、目には強い光が宿る。
一部始終を見ていたタバスコは、バトンタッチしたと言わんばかりに声を張り上げた。

「何のスポ根漫画だコレはアアアア!? そんな洗脳じみた台詞で二脚が飛行に敵う訳えええええ!?」

フラッグを先に折り返したのは、ハリップであった。
ハリップは歩幅を広げ、徐々に加速していき、完全にドラゴンビートルが出遅れている。

『おおーっと!! やはり勝負はこうでなくては面白くありません! ハリップが徐々にドラゴンビートルを引き離していくウウウウ!
 逆転劇なるかー!?』
「バッ、馬鹿な……!? こんな馬鹿な話が……!」
「突っ切れハリイイイイイップ!!」
「っおおおおおおおお!!」

雄叫びを上げながら駆けるハリップの体がゴール地点を抜けた瞬間、力強いホイッスルの音が鳴り響いた。
Ms.マーガリンがハリップの腕を掴んで持ち上げ、勝利を声高々に讃える。

『勝者!! ショウチームぅ!!』
「わっ!?」

観客席から歓声と共に、拍手が湧き上がる。
ハリップは、嬉しさやら照れやら様々な感情が入り混じり、観客席をぐるりと見回した後、顔を僅かに染めて俯いた。

「ハリップ!」

Ms.マーガリンから腕を解放されたハリップは、駆け寄りながら自分を呼ぶ声に顔を上げる。

「スイ!」
「ありがとな、お疲れさん! やっぱ速いよお前は!」
「……ッ」

くしゃくしゃに笑い、自分に右手を差し出す翠に、口を噤んだハリップは両手でその手を握った。

「モチロンだよ! 何たってオレっちは、スイのメダロットだからね!」

そう言って、翠に負けないくらいの屈託無い笑顔で言ってのけたのであった。

「そーいや、タバスコって……いねぇ!! 負けて早々逃げやがったなアイツ! これじゃパーツが…!」
『えー? 戦利品のパーツなんて無いよー?』
「は?」

姿を消したタバスコに醤が憤慨していると、Ms.マーガリンが不思議そうに首を傾げる。
素っ頓狂な声を上げた醤に、Ms.マーガリンは言葉を続ける。

『だって、メダロードレースだよ? ロボトルじゃないんだから』

単純且つ納得のいく……が、あまり納得したくない返答に、醤は恐る恐る小さく挙手をする。

「待てよ……じゃあ、アイツがわざわざウチに乗り込んできたのって……?」

泣き疲れて寝ているジーを背負い、甘太はさらりと返答した。

「お前とカグラへの嫌がらせじゃね?」

その1言で怒りが怒髪天に達し、醤はグランドの中心で吠えたのだった。

「ちっくしょオオオオオ!! 余計な恥かいただけじゃねーか! 次会ったらボコボコにしてやっから覚えとけ真っ白変態野郎オオオオオ!!」
「落ち着けよ、次会ったら俺が捕まえてちゃんと言っとくから」
「サンキュー尾根! 有難いけど今日はつくづくお前が怖い!」
「いや、お前の言ってる事も充分こえーよ」





「あーあ、結局負けかー」

メダロードレース後。
結局、タバスコの介入によりリレーは無かったものとされ、それまでの競技の総合点により、運動会は紅組の勝利となった。
その点差はリレーの勝敗により変わる可能性がある程の微差であり、紅組・白組関係無く生徒から非難轟々であった。
しかし、無理矢理その勝敗を学校から押し付けられ、何とも後味の悪い運動会となってしまった。
己がもっと早くゴールしていれば違ったのではないか、と、翠は後片付けが全て終わったグランドで1人考える。

「……楽しみにしてたんだけどなあ」

運動会という名の晴れ舞台で。
普段であれば、自分と競う事は無い、しかし足が速い事は確かな友人と。

「尾根!」

不意にその友人の声が聞こえ、翠は夕焼け空からそちらへと視線を移した。

「村崎、お前もまだ残ってたのか」
「ああ、お前に用あって随分探したぜ」
「そいつは悪い、……?」

歩み寄ってきた醤は自分の近くで立ち止まるかと思いきや、素通りしてもっと先へと歩いていく。
翠が怪訝そうに見ていると、ようやく醤は足を止めた。

「ほら、構えろよ」
「え?」

これから喧嘩でも始めるのかと一瞬体を強張らせた翠であったが、醤の立っている場所の意味に気付き、僅かに目を見開く。
醤はバツが悪そうに目を逸らし、地面に言葉を吐き捨てた。

「いつまでもそこで突っ立ってっと、マジで帰るぞオレ」
「……本当に、何のスポ根漫画だよ」
「お前の事、明日から『タバスコ2号』って呼ぶからな」
「ははっ、俺が負けたらにしてくれ」

苦笑しながら醤と同じポイントに立ち、いつものように構え、グランドの向こうを見据えた。
隣で、醤が低く笑う。

「へへっ、ギャラリーがいなけりゃ負けようがどうなろうが恥ずかしくねぇ」
「おいおい、真面目に走ってくれよ?」

心配そうに翠が隣りを見ると、醤の目にもグランドの先が映っていた。

「わざわざ負けるために来る程、オレは暇でも酔狂でもねぇ」

醤の返答に安堵した翠は、前方に視線を戻し、目を細める。

「位置について!」
「用意!」

スタート地点を、2人の足が同時に蹴った。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
マ「次回の『六角形の神サマ』はー……フェスティバル! お祭りですよお! ここで、お祭りにちなんだ心理テストです!
  Q.貴方のお祭りの過ごし方は? (1)射的、くじ引き等遊びメイン! (2)焼きそば、綿飴等食べ物メイン!」
醤「えーっと……(2)?」
マ「A.(2)を選んだ貴方は、精神年齢が大人もしくは究極のいやしんぼです!」
醤「ちょっと待てコレ心理テストか!?」
カ「次回『六角形の神サマ』第拾陸話、『絶対不敗熱血漢(前篇)』。
  のうマリア、因みに『自分の神社にやって来た者達の息災を願う』という場合は如何なる答えなのだ?」
マ「A.人外です!」


投稿フォーム

※ 投稿時の注意

■まれに書き込みに失敗し、書き込み内容がすべて消えてしまうことがあります。
 そのため、投稿ボタンを押す前に、必ず文章をコピーしておくことをオススメします。

(※)のある項目は、必ず入力してください。

タイトル(※) スレッドをトップへソート
名前(※)
E-Mail
パスワード (あとで作品を修正する場合に必要)
作品文章(※)
投稿用キー(※) ※スパム対策を導入中です。投稿時は【かきこみ】のひらがな4文字を入力して下さい(コピペ可)

   クッキー保存 (学校や満喫等の共用パソコンの場合、チェックを外して下さい)