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RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/02/29 23:33
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第拾参話/来訪、桜前線 ( No.13 )
   
日時: 2018/01/14 17:11
名前: 海月

「おはよう、醤! 花見に行こうか」

洗顔すべく1階に降りてきた村崎醤(ムラサキショウ)が、父・紀醤(キショウ)から、日曜日の朝に聞いた第一声がそれであった。
起きたばかりで頭の回転がままならない醤は、少し時間を置いた後、眉間に皺を寄せて返答する。

「…………オレ、これからバイトなんだけど」
「大丈夫だ、父さんが『今日、バイト休みます』って佐藤君に電話しといた」
「あー……そうか、なら良いな……」

紀醤の言葉に納得した醤は、そのまま洗面所へと再び歩き始めた。
が、すぐに踵を返してリビングに怒鳴り込む。

「いや良くねぇよ!?」
「うおっ!? 吃驚した……良いから顔を洗ってきなさい、お前待ちだぞ?」
「色んな意味でこっちが吃驚だわ!! どこの世界に正式採用初日に休むバイトがいんだよおお!!」

自分は間違った事を言っているとは思わないにも関わらず、あくまで常識人のように振る舞う父の姿に醤は頭痛を覚え、両手で頭を抱えた。
既にリビングに降りていたカグラは、テレビから醤に視線を移し、穏やかな口調で宥める。

「良いではないか。大安吉日に天気は快晴、一家団欒で桜を見るというのも」
「当初のバイトの目的わかってんのかジジイ……! それとももうボケが始まってんのか?」
「まあまあ落ち着きなさい。グラの歓迎会も兼ねているのに、お前抜きでやる訳にもいかないだろう?」
「!」
「何と! 気遣いかたじけない、キショウ殿」

カグラの目を丸くした反応を見るに、歓迎会の話は初耳であったのだろう。
それを最初に言わず、醤の目の前で言った事にこそ、紀醤の真意はある。
家族思いと言えば良いのか、悪巧みと言えば良いのか。
花見もとい歓迎会を欠席出来なくなった醤は、心の中で舌打ちした。

――せこい真似しやがってこの狸親父……!

感謝と怒りが入り混じり、せめてもの抵抗とばかりに醤は紀醤を睨み付けるが、当人はカラッとした笑い声をリビングに響かせている。
これ以上紀醤に何かを言うのも無駄だと察知し、醤はカグラに声を掛けた。

「花見る場所なんざそもそもあるのか? 道に生えてんのは見たけど、流石に往来で花見は無理だろ」
「ふむ……御守神社の奥に、桜があってな。それはもう言葉を失う程綺麗で、お前達にも是非見て欲しいのだが……」
「何だよ、言い淀んで」
「……今は、神社の欠片が散らばっておって、皆が怪我をするといかん」
「……あー」

声色は変えず、僅かに目を伏せて話したカグラに、醤は斜め上を見ながら大破した御守神社を思い出していた。

先日、白と桃色で彩られた外見は可愛いメダロットにより神社が爆撃された時は、夕方であったにも関わらず、カグラの機体を染め上げたのは白であった。
あの時の後ろ姿と言ったら、声を掛けるのも忍びない程の哀愁が漂っていたものである。

醤が思い起こしていると、台所からお弁当を持った母・ゆかりが現れ、口を開いた。

「あら、御守神社ならもう大丈夫よ! だって、木片全部撤去されたんでしょ?」
「!?」
「知らなかった? 今朝の町内新聞に載ってたけど」

基本的にロボトル以外はのらりくらりとしているカグラであったが、その時の行動と言ったら素早かった。
まず『撤去』と聞いて風切音を幻聴する程の勢いでゆかりの方へ振り向き、『新聞』と聞いて勢いよく持ち上げ、顔を埋めているかのように新聞を凝視する。
醤も横からちらりと覗き込めば、3面に“あの事件から1か月……さよなら御守神社”と大きく表記されている。
その『完全に終わった』と言わんばかりの言い回しは如何なものだろう、と醤が苦笑すると、カグラは新聞を握る手を震わせた。

「おお……ワシの神社が、ワシの神社が欠片すらも……」
「落ち込むなよ。仕方ねぇだろ、吹っ飛ばされた時にこうなる事は決まってたようなモンなんだから」

醤が息をつきながら声を掛けると、震えていたカグラの手はぴたりと止まる。
代わりに、まるで壊れかけたブリキの玩具の様にゆっくりと、カグラの顔は醤へと向けられた。

「ほお……ショウもこの家が爆撃で吹き飛ばされたら、『仕方無い』と諦めるのだな……?」
「すいませんオレが悪かったので勘弁してくださいカグラ様」

この時のカグラが恐ろしく真顔であり、ミサイルの発射口が光った様に見えたが、心の底からいつもの冗談であって欲しいと願う醤であった。





『六角形の神サマ』 第拾参話/来訪、桜前線





「嗚呼、嗚呼……やはり跡形も無い……」

町外れの石段を上がり、雑木林を抜け、そびえ立つ鳥居を抜けると、其処にお馴染みの神社は欠片も存在しなかった。
新聞に載せられていた写真のままの光景を目の当たりにし、カグラは両手・両膝を地につけ、深く頭を垂れる。
醤の両親はというと、『桜は奥だったかしらー』とか何とか言いながら先へ行ってしまっていた。
温かいのか冷たいのか、よく分からない連中だと、荷物を持った醤はそっと溜め息を零す。

カグラの落ち込んだ姿を見るのはこれで2度目な訳であるが、それが醤にとっては意外であった。
自らを閉じ込めていた御守神社を、カグラはここまで大切に思っていたのか、と。
御守神社は、カグラにとって、“檻”というより“家”に近いのだろう。

……だとしても、である。
正直、呑気なカグラを見慣れている醤にとっては、見ていてあまり面白いモノではない。

「おら、落ち込んでねぇでシート張るぞ」

空いている方の右手でカグラの手を掴むと、半ば引き摺るように前へと引っ張った。
すると、カグラも諦めがついたのか、よろよろと歩き出す。

「おおおお!! グラがお薦めするだけあって立派だな!」
「ホント素敵! こんな桜、他に無いんじゃない!?」

紀醤とゆかりの声が聞こえてきた前方へと足を進めると、目の前に“桃色”が広がっていた。
1本であるにも関わらず両腕を大きく広げ、そびえ立つ桜に、醤は目を見開く。
花弁が舞うが、その大きさが損なわれる事は無く、まさに“満開”という言葉が相応しい。

「……変わらんなぁ、この桜は」

気が付くと、傍らのカグラもしっかりと立ち、桜を見上げていた。
その穏やかな声色から、幾分か気分が回復したのが伺える。
醤は鼻を鳴らすと、シーツの端々を紀醤やカグラに投げつけた。

「さっさとシーツ張るぞ。腹減った」
「そうだな! 父さんもだ!」
「もう、“花より団子”なんだから」
「それでは早く用意をせんとなあ」

4人は、桜を前に和気藹々と石で固定しながらシートを張っていった。





「凄いな母さん!! 御馳走じゃないか!」

開かれた弁当箱の中で並ぶ色とりどりの料理に、紀醤は声を上げて喜んだ。
それを見たゆかりも、嬉しそうに微笑む。

「ふふっ。早起きして作った甲斐があったわ。暫くご飯が質素になるかもしれないけど許してね」
「それって、こん中で1番被害被るのオレじゃ……?」
「桜の養分になりたくないなら黙りなさい」
「……お弁当美味しゅう御座います、お母様」

笑顔のまま言い捨てたゆかりにそれ以上何も言えず、醤は料理を口に運んだ。
弁当箱の中身をまじまじと見ながら、カグラは目を丸くする。

「ユカリ殿の料理がいつにも増して美味しそうだな。食べれぬのが実に惜しい」
「もう、グラちゃんは上手なんだから」
「落胆するのは早いぞグラ! 母さんの料理は食べれないが……」

明るい笑顔で大きなリュックを漁り始めた紀醤に視線が集まると、勢い良く筒状のソレが取り出された。

「ジャーン!! 本社から色んな味のオイルを持って来たぞ!」
「ほお! 燃料はこんなに種類があったのだな」
「デケエ荷物あると思ったら中身オイルかよ!」

醤が自分の紙コップに麦茶を注ぎながらそう言われても、紀醤は上機嫌のまま言葉を続ける。

「実は父さん、開発部門のリーダーでな。いつも同じオイルじゃメダロットも飽きると思って、プランを提出したら何と!
 予想以上にヒットしたんだ! 特にこの“よくできましたオイル苺ミルク味”は女の子に大人気なんだぞ!」
「凄いじゃないお父さん!」
「“よくできましたオイル苺ミルク味”って……それは本当に苺ミルク味なのか?」
「メダロットの味覚について徹底研究して生まれた製品だ! きっとベリーでミルキーな味がするんだろう! 試してないが!」
「ああ、試してたらアンタはこの場にいねぇわな」

醤が冷静に突っ込みを入れるが、別段誰も気にする事は無く、2人分のビールを注いだゆかりが片方を紀醤に手渡しながら言う。

「料理だけなのも何だし、そろそろ乾杯しましょうよ!」
「そうだな! 新しい家族を迎えた村崎家の門出に、カンパ~イ!!」

紙コップがぶつかる音が微かにした後、各々は自分の飲み物を口に運んだ。
その際、カグラの紙コップの中で、一瞬揺らめくショッキングピンクの液体がちらりと見え、醤は反射的に目を背ける。
背けた先にあった桜の色が、非常に目に優しい。
喉が鳴る音を聞いて再びカグラの方を見ると、カグラは手元のオイルを見ながら不思議そうに瞬きした。

「……ふむ。此れが“苺みるく味”とやらかは分からぬが、くどくなく甘酸っぱくて美味しいのだよ」
「そうかそうか! まだまだたくさんの味があるからな!
 “まあまあですねオイルおしるこ味”や“がんばりましょうオイル納豆味”とかも試してみてくれ!」
「歓迎会っつーよりオイルの試飲会じゃねえか……」

カグラが色鮮やかなオイルを見比べていると、紀醤が面白い玩具を見つけたと言わんばかりの声で『おやぁ?』と漏らす。
明らかに自分に向けられている言葉に、醤は面倒臭そうに睨みながら聞き返した。

「何だよ?」
「醤はビールじゃないのか~? 今日“は”?」
「今日“も”な。乾杯の1口でもう酔ってんのか?」
「良いじゃないか~! “いつもの様に”隠れて飲む事は無い! 今日は無礼講だからな!
 そして、お前が酔って恋バナ暴露してくれる事を父さん信じてる!」
「未成年の息子に言う事か!!」

お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒ダメ、ゼッタイ。
醤が声を荒げても怯む事無く、紀醤は肩を組んで追求する。

「まあ別に酔ってなくても良いぞ? 好きな子の1人や2人、いるんだろ~?」
「いるぞ」
「お前に聞いてねえだろクソジジイ!!」

醤の剣幕を無視し、カグラは少々眉間に皺を寄せながら顔を顰めた。
恐らく、手に持つ“まあまあですねオイルおしるこ味”があまり口に合わなかったのだろう。
恋愛事情を断片的に掴み、上機嫌の紀醤の追及は続く。

「誰だよその罪な女の子は!? あ、そう言えばメダロット研究所の娘さんて結構可愛いんだろ?」
「その人は違います断じて。あれはカモミールを装ったマンイーターだ……」
「誰にせよ、どうせアンタの事だから片想いなんでしょ?」
「息子の希望を軽々しく潰s」
「ブッッフォ!?」
「っええええええ!?」

ゆかりに反論しようとした所でカグラが勢いよくオイルを噴き出し、醤の目は強制的にそちらへ向けられた。
激しく咳き込むカグラに、醤は問う。

「おいどーした!?」
「ゲホッゲホゲッホ……! ショ、っゴホ……キショ、殿、に……ッ!」
「父さんに!?」
「ッグ……なっと、味は…………マズイ」
「ジジイいいいいいい!?」

力を振り絞っていうや否や、カグラは完全に地に伏した。
ゆかりも尋常ではないと思ったのか、心配そうに駆け寄る。

「ちょっと、グラちゃん!?」
「そうかー、“がんばりましょうオイル納豆味”は改良が必要だな~。それにしても、メダロットも咽るんだな!?」
「『良いモン見れた』みたいな顔で何言ってんだアンタ!? ちったぁ反省しろ!!」

晴れ晴れとした表情で沈んだカグラを見る紀醤に、醤はありったけの怒号を浴びせた。
途端。

「フハハハハハハハ!!」

よく聞き慣れた笑い声が響き、醤は呆れ気味にそちらを睨み付けた。

「オイル如きで情けないなあボロボットよ!! 秘密結社テクノポリスが1人・タバスコ参上!!」
「……こんな天気の良い日曜日に、いつからそこにいたんだアンタ」
「ふっ、お前達の行動の予測等易い事だ。神社が無くなったと聞けば、いてもたってもいれんだろうからなあ?
 朝六時から張り込み、チャンスを伺っていたという訳だ。倒れた今なら勝てる気がした!」
「情けねぇのはどっちだ新手のストーカー。しかも予測も若干ずれてるし」

未来人の様な白いコスチュームに身を包み、ドヤ顔のタバスコに、醤はそう吐き捨てた。
初めて目にするタバスコの姿に、醤の両親は各々違う反応を見せる。

「嫌っ、何あれ? 春ねぇ……」
「おいおいゆかり、そんな事を言ったら失礼だろう? 元気そうだな尾根君!」
「背ぇ高い事以外共通点無え上に、自分で『タバスコ』っつったろ!? アンタが失礼だわ!!」
「ゴチャゴチャと喧しい! メダロット転送!」

騒ぐ醤達を尻目に、タバスコがメダロッチの画面を押すと、プラズマ音が響いた後、目の前にダンシングフラワー型メダロット・さくらちゃんが現れた。
醤は未だ起きないカグラの額をぺしぺしと叩き、声を掛ける。

「おーいジジー、ロボトルだぞ~。その内どーせレフェリーも来るし」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「そら来た」
「……うーん……?」

これまたお馴染みの轟く声に、カグラは小さく唸り声を上げながら意識を取り戻した。
桜の大樹の前に立つ、スーツに赤い蝶ネクタイの2人組を、スポットライトが眩く照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト、メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪ ってアレー?
 先輩、何だか儚げですがどうしたんですかー? 気持ち悪い』
「そっとしといてくれないか、マーガリン。君のその訴えられても可笑しくないレベルの暴言に反論出来る元気が、今の僕には無いんだ」

Mr.ジャムは、そう言うと深い溜め息をついた。
いつもと違う調子の相棒の様子に、Ms.マーガリンは再度問い掛ける。

『本当に気持ち悪いですけど、どうして元気無いんですかー? 集中して実況出来ないじゃないですかー』
「マーガリン……」
『先輩がいると』
「……感動しかけた僕が最高に馬鹿だったよ」

Mr.ジャムが桜を見上げると、何事かと一同の目もそちらへ向けられる。

「マーガリン。君は、桜が何の為に存在するか知ってるかい?」
『先輩の存在価値くらいわかりません』
「……桜はね、その下でキスする為にあるんだよ」
「絶対違ぇよ」

茶番劇を黙って見ていた醤であったが、流石に突っ込まざるを得なかった。
外野の言葉を気にする事無く、Mr.ジャムは言葉を続ける。

「そう。桜がある以上、僕は美しい女性とキスをしなければいけないんだ」
「勝手に義務化されて、桜も女もさぞ迷惑だろうよ」
「なのに、それなのに……!」

憤りからMr.ジャムは固く拳を握ると、そのままゆかりを指差した。
自分は関係に無関係だと思っていたゆかりは、突然の事に戸惑う。

「えっ? 私?」
「ここには老婆しかいないじゃないか!!」

次の瞬間、頭から血を流したMr.ジャムが、救急車で運ばれていった。
Ms.マーガリンはハンカチをなびかせながら見送る。

『先輩~、ついでに頭もちゃんと見て貰ってくださいね~。それと、これからは女性に年齢の話をしたらダメですよ~。いくら老けてても』
「母さん、気持ちは分かるけど落ち着けって。あの女通報慣れしてっから、多分振りかぶった時点で呼ばれるって」
「どうせ私はBBAよ!! 自然の摂理じゃろが童共オオオオ!!」
「落ち着いてくだされ、ユカリ殿」
「な、殴った……中身の入ったオイル缶で力一杯……。恐るべし村崎の血」

未だ血糊の付着したオイル缶を握りしめるゆかりを、醤が後ろから羽交い絞めし、カグラと一緒に宥めるが、落ち着く気配は一向に無い。
一部始終を目の当たりにしたタバスコは、何時ぞやかの醤と現在のゆかりの姿が重なり、ただただ震える。
すると、オイル缶を持つゆかりの手を、2回り大きな手が包んだ。

「本当に失礼な人達だよな、君はこんなに綺麗なのに」
「き、紀醤さん……!」
「醤、グラ。母さんには父さんが付いてるから、思い切り勝ってきなさい」
「お、おう。ありがとな、父さん」
「暫しお待ち下され、必ず勝って参ります故」

頭を下げながら穏やかに、且つ確かなカグラの言葉に、醤はタバスコとさくらちゃんを見据えた。
醤とカグラの様子を見て、Ms.マーガリンはクスリと笑い、メガホンを構え直す。

『合意とみてよろしいみたいだねー。それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令を聞くや否や、カグラは両脚を踏み締め、さくらちゃんはファイティングポーズを取り、指令をすぐさま行動に移せるよう備える。
醤とタバスコは、まずは勢いで勝つと言わんばかりに、各々のメダロッチに声を叩きつけた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「了承した!」
「さくらちゃん! 両腕でガードした後、フレー!」
『カグラのガトリング炸裂ゥー! しかし、さくらちゃんは上手く受け流したみたいだぞー!?』

右腕でサブマシンガンを支え、カグラがガトリングを放つと、さくらちゃんは両腕で攻撃を受けた後、右腕の応援旗を大きく振った。
カグラの目には、腕を振るスピードが徐々に加速している様に映る。
撃つのを止めて銃口をやや下げ、カグラは醤に問う。

「ショウ、彼奴の行動は……」
「……ああ、加速している。応援行動・チャージ。充填や放熱を効率化、つまり次の行動までの時間を短縮する」
「何だ? 諦めるにはまだ早すぎるだろう? さくらちゃん、フレー! フレフレー!」
『おおっと! どんどん加速するさくらちゃんを前に、カグラは攻撃を止めてしまったァー!
 ショウ選手にどのような作戦があるのでしょうか!?』

さくらちゃんは両腕の応援旗を振り、自身の行動を加速していく。
醤は、低い声でメダロッチ越しにカグラに語り掛け始めた。

「カグラ、よく聞いてくれ。さくらちゃんは、両腕が時間短縮のパーツだ」
「成程。充分に加速した所で、頭部を使い我々を一気に叩き込むつもりなのだな。して、頭部の行動は?」
「時間短縮だ」
「そうか、それは厄介……ん?」
「時間短縮なんだ」

カグラがゆっくりと振り向くと、醤は大きく頷いた。
同じ速さで、カグラはさくらちゃんがいる正面へと向き直る。
今もなお、さくらちゃんは両腕を振り、加速し続けている。
カグラは、静かに醤に問い掛ける。

「……ショウよ、彼奴が時間短縮して次にとる行動は……」
「時間短縮だな」
「……攻撃する術を、持っておらんのだな?」
「ああ。つまり……」

醤は、可哀想な生き物を見る様な目でさくらちゃんを見る。

「俺達に勝つ術が、限りなくゼロって事だ」

醤の言葉に、今度はカグラが大きく頷いた。

「ジー坊のように、隠蔽だったらやり様はあるのになあ」
「普通は、どれか1パーツだけでも変えたりするモンなんだけどな。タバスコは気付いてないけど、さくらちゃんは気付いてるぞきっと。
 見てみろ、笑顔引き攣ってんだろ」
「成程! だがら“無愛想”なのだな!?」
「いや、“ブアイソー”は元々のパーツ名だ」

ハッと気付いたように振り返ったカグラであったが、醤の言葉に若干俯きながら前へ直る。
さくらちゃんは、相変わらず両腕を振り続けていた。

「しかし、却って攻撃しづらいな。主に言われるがまま、ああして健気に旗を振り続けているのを見ると」
「情けは無用だ。今までされてきた事思い出せ。
 それに、あの速度で苦し紛れに体当たりでもされたら、どうせまた立てなくなるんだろアンタ。
 オイこっち向け、オレが立ち会ってから3戦中2戦体当たりで劣勢になった爺さん」
「……面目ない」

後ろから圧し掛かるプレッシャーに負け、振り向かない、否振り向けないままカグラは謝罪した。
落とした肩を戻し、こりを解すかのように首を左右に倒した後、カグラは両腕の銃口を正面へと向ける。

「まあ、キショウ殿とも勝つと約束したしな」
「カグラ、」
「うむ」
「一斉射撃の後、ミサイル」
「心得た」





『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「覚えてろこの人でなし共オオオオオ!!」
「うるせえ!! ロボトル前にメダチェックすんのはメダロッターの義務だろうがバアアアカァ!!」

機能停止したさくらちゃんの機体を脇に抱え、タバスコは捨て台詞を吐きながら石段を降りて行った。
醤も負けじと言い返すと、紀醤とゆかりが笑顔で迎える。

「2人共お疲れ様! そしておめでとう!」
「私ロボトルって初めて見るんだけど、アンタ達あんなに強かったのね!」
「賞賛頂き感謝するが……少しばかり複雑なのだよ」
「いや、あれも実力の内だろ」

カグラが苦笑していると、満足するまで吠えた醤があっさりと言葉を覆した。
紀醤は、再び一家が揃った事に満足し、少し大袈裟に両手を大きく上げて高らかに話す。

「さっ!! 村崎家の花見を再開しようじゃないか! 何たって今日は、花見記念日だからな!」
「どんな記念日だよ」
「決まっているだろう! 来年も、再来年も、この場所でみんな揃って花見をする日って事だ! 愛してるぞ皆!!」
「唐突!?」
「ふふっ、私も皆愛してるわ」
「この上なく上機嫌!? おい、ロボトル中母さんに何言ったんだ!? なぁ!?」
「チャイルドな醤には言えないよな~?」
「ね~?」
「うぜええええええ!?」
「成程。“花見記念日”とは、皆で花見をして、愛を伝え合う日なのだな」
「あ!?」

両親のやり取りに苛立ったまま、手包みを打つカグラの方へと振り向いた。
カグラは目を細め、自分の気持ちを吐露する。

「ワシも、村崎家の皆が愛おしい。村崎家の一員になれて、幸せなのだよ」
「バッ……!?」

カグラの言葉で、醤の顔はまるで信号機の様に赤や青へと色が変わった。
何事か分からず、カグラは首を傾げて醤を見る。

「どうしたというのだ?」
「……っあのな、お前まで言うと……!」
「そういえば、醤の話もグラの話も全然聞けず終いだったからなー! 喋り倒そうじゃないか! そうだな……」

にやりと笑った紀醤と目が合い、醤は顔を青1色に染める。

「醤の『愛してる』で花見を閉めるとしようか!」
「言うと思ったわ馬鹿親父畜生オオオオオ!!」

桜に怒号を木霊させながら紀醤を追いかけ回す醤を見て、カグラは目を細めて一息ついた。

「“一家団欒で花見”とは、温かいものなのだなぁ」

花見は、日付が変わった後までしたとかしなかったとか。



メダロッチ更新中……――
・フレフレー(DLF-03。おうえん行動:チャージ)獲得



続ク.





◎次回予告
梓「まずは御礼。オイルの名前を貸してくださった『メダロットM』作者の流離太さん、ありがとうございました。
  それじゃあ、次回予告。……何故、人類は争い続けるのか?
  わざわざ派閥を作り、走り惑い、数字に一喜一憂し、他人の事を顧みない。そうして掴んだ勝利に、何の意味があるの?」
醤「……えー、次回『六角形の神サマ』第拾肆話、『真剣衝突激競争(前篇)』。……ガチで運動嫌いなんだな」
梓「運動会と球技大会とマラソン大会はしねば良い」


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