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RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/02/29 23:33
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第壱話/道祖神(前篇) ( No.1 )
   
日時: 2018/01/14 14:12
名前: 海月

「……かえり、たい……」

町外れ、林の奥にひっそりと佇む神社。
昼間は子ども達の遊び場であるその場所は、夜になると誰1人おらず、静寂と闇が支配する畏怖の存在へと変り果てる。

「家に、帰りたい……」

神社の裏で漫画を読んでいる内に寝入ってしまった少年は、恐怖から林を突っ切る事が出来ず、神社の扉に背を預け、ただ座り込んで泣きじゃくっていた。
人にあまり知られておらず、また知っていても夜にこの場所を訪れる者など滅多にいないため、この少年に救いの手を差し伸べる事が出来る者は周りに存在しなかった。

「誰か、助けて……!」

ただ、“1人”を除いて。

『泣くでない』

突如聞こえてきた言葉と同時に、後ろから自分の頭を優しく撫でた小さな手の感触に少年は声を上げ、頭を両手で押さえながら振り返った。

「わっ、うわあああああっ!?」
『怯えるでない、怖がるでない。ショウ、ワシはお前の味方なのだよ』
「え……?」

振り向いた時には“手”はどこにもなく、神社の扉がそびえ立っていたが、声は少年を安心させるかのような声色で響き続けた。
その言葉で少年は泣くのを止め、顔を上げると、緑色の小さな光が灯り、少年の前で舞う。

『その蛍について行けば、町の方へ出られる。見失ってはいかんぞ』

少年は何度も頷くと、立ち上がって神社を後にしようとした。
が、後ろから聞こえてきた声に再び足を止める。

『それと……“今夜ここで聞いた事全て”、他言無用なのだよ。決して、決して約束を違えるでないぞ。ショウ』

約束を破ってしまったらどうなるのか聞けずに少年はぐっと息を詰めて、今度こそ神社を後にした。
その後、少年は無事家に着き、自分を叱る両親に大泣きしながらしがみつき、寝て、起きて、そのままいつもの生活へと戻れたのだった。

何はともあれ、それが少年・村崎醤(ムラサキショウ)の最初の“お願い”だった。





『六角形の神サマ』 第壱話/道祖神(前篇)





その些細な“事件”の8年後。

「やべー! やべー!」

朝。
高校生となった醤は、鳥居を抜け、生い茂る林の中を駆ける。
短い茶髪は跳ね、学ランの下に着た白いパーカーのフードと肩から掛けた鞄は体にぶつかる度に踊り、彼はずり落ちる赤縁の眼鏡も最早気にせず、ひたすら前へ、前へ。
林を抜け、神社の前まで来ると、両膝に手をつき、咳き込みながらも呼吸を半ば強引に落ち着けさせ、思い切り息を吸い込む。

「……みさま、神様っ……!」

自分の願いが、“神”に聞こえるように。

「2-Aの泡瀬美園ちゃんと付き合わせて下さい!!」





「諦めろって」
「ああ!?」

時と場所は移り、ここは教室。
御守(ミモリ)高校2年D組はホームルームを終え、1時間目が始まるまでの休憩時間を各々で過ごしていた。
その教室の窓際の1番後ろでは3人の少年が固まっており、その内の1人・醤が声を張り上げ、教室中の視線が彼に降り注いだが、再びそれぞれのグループで喋り始める。
怒鳴られた少年・佐藤甘太(サトウカンタ)は一切動じず、頬杖を突きながら片手でペンを回し、言葉を続ける。

「叶わないのは、神様からの『諦めろ』っつーメッセージなんだって。
 それに、1回も恋愛成就させない神様のお供え物に金使うくらいならおれん家で何か買えよな」
「お前後者が本音だろこの極悪商人!! これから叶うんだよ!!」
「佐藤ん家でお供え物買ったら良いんじゃないか?」

醤が甘太に机を両手で叩いて突っ込んだ所で、もう1人の青年・尾根翠(ビネスイ)はそう提案した。
甘太も翠を指差し、悪い笑顔で「だよな」と同意する。
すると、口を尖らせて醤が返答した。

「佐藤商店が開くの朝9時だから、朝間に合わねぇんだよ」
「朝買って神社行くからHRギリなんだろ。放課後買ってゆっくり行った方が良くないか?
 ……まあ、毎日何かを続けるのも偉いと思うし、神社から5分で教室に着くのもウチの陸上部にスカウトしたいぐらい凄いけどさ」
「び、尾根……!」

正論にぐうの音も出ない醤であったが、苦笑しながらも自分の長所を認めている翠に胸が熱くなるのを感じ、目を輝かせながら顔を上げた。
その様子に甘太は呆れ、翠に釘をさす。

「あんまり村崎甘やかすなよ。すぐ調子に乗んのに」
「お前がオレに辛辣過ぎんだろーが! 尾根はやっぱわかってるよなー! これで……」
「スイ~!」

醤が甘太にすかさず突っ込み、翠の背中を叩きながら言葉を言いかけると、金髪の少女が笑顔で翠の方に駆け寄ってきた。
声を掛けられた翠も、先程の苦笑いは一切なく、嬉しそうな笑顔で少女の方に振り向く。

「ミツキ!」
「今日も購買のパンなんでしょ? コレ、あんま美味しくないかもだけどさ……」
「え!? あ、ありがとう」

少女・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)は少し戸惑うが、後ろ手に持っていたお弁当、それも会話の内容から手作りの物を恥ずかしそうに笑いながら、翠に両手で差し出した。
翠も予想外の出来事だったのか驚いた表情を浮かべ、すぐに照れ臭そうに頬を掻きながら受け取る。
蜜希は、御礼の言葉に返事をするように手を振ると、友達グループの方へ戻って行った。
戻ってから向こうの塊で騒いでいるのを見ると、どうやら冷やかされているらしい。

「……彼女がいなけりゃなぁ」

そんな桃色の空気を禍々しい溜め息と言葉によりぶち壊したのは、先程まで確かに翠に感謝していた醤だった。
口元は自嘲気味にひきつり、テンションはうって変わって超低空飛行状態である。
先刻の仕返しもどき、且つ非リア充2号として、甘太も醤に乗っかり口を開く。

「嫉妬乙。良い奴だから彼女いるんじゃね?」
「うおおおい!! 何だ!? 彼女がいると終身刑にでもなるのか!?」
「「黙れりア充!!」」
「ごめんなさい!!」

明らかに向こうの理屈が理不尽だと声を上げるが、彼女無し男×2の気迫に勝てず、翠は反射的に謝った。
哀れリア充。
加害者であるにも関わらず、醤は涙目になりながら机に突っ伏すと、再び溜息を吐く。

「ぢっくしょー。オレだって、オレだって美園ちゃんと……」
「まあまあ村崎クン。美園嬢に劣らず美人な女子なら、ウチのクラスにもいるじゃあないか」
「そんなレベルの高い女子がこのクラスのどこに居やがるってんですか佐藤クン」

醤が悪態つきながら返すと、甘太は廊下側の一番後ろの席で本を静かに読む少女を突く様に指差す。
ゆるやかな弧を描くミントグリーンの髪が、廊下から吹き込む風で柔らかく舞った。
まるで、彼女のヘアバンドの蝶が春風に乗って飛んでいるかのようで、醤の目には、この世界から切り離された幻想的な空間が彼女を包んでいるように映る。
その“幻想”は、醤の頬を染めないまでも、惚けさせるのには充分であった。
最も、再び聞こえてきた甘太の言葉ですぐ現実に引き戻された訳だが。

「波花梓音(ナミハナシオン)。誰かと話してんのはあんま見ないけど、ツラは美園嬢に負けてねぇんじゃねえ?
 しかも理科だけは学年1位、頭も悪くない」
「波花、か……そーいやオレ、アイツと幼稚園から一緒だけど1度も話した事ねえな」
「へー」

醤は目線だけ上にして思い出した事を淡々と口にすると、甘太の口から特に関心が無いような返答が漏れた。
だが、甘太は日常の9割方そんな調子なので、醤は気にしない。
甘太はそんな過去の話より、現在醤が彼女をどう思うかの方がずっと気になるらしく、前に顔を突き出し、口元に笑みを浮かべながら問い続ける。

「で、どうよ波花? あーゆータイプは、話してみたら結構良い奴とか多いしさー」
「どうも何も、オレ美園ちゃん一筋だしなぁ……そういうお前はどうなんだよ?」
「おれ、暗い女嫌いなんだよなー」
「お前も終身刑にでもなっちまえよ」

人に勧めといてそれか、と醤が付け加えると、精神が復活したのか、翠もその会話に加わる。

「そう言えばさ、波花さんの家ってこの町のメダロット研究所じゃなかったか?」
「ああ、そーだっけ? 良かったな村崎、可愛くて趣味も合うとか最高じゃん」
「はああっ!?」

醤の大き過ぎる意外なリアクションに、2人は思わず身体を強張らせる。
教室の中の視線も再度ちらほらと醤に集まるが、すぐに元の方向へと戻った。
そんな中、翠は恐る恐る醤へと声を掛ける。

「む、村崎? どうしたんだいきなり……」
「あ……っははははは! 悪ぃ悪ぃ佐藤が変な事言い出すからよー! オレがメダロット好きとかそんな!
 アレ幼稚園児とか小学校低学年がやる遊びだろ!?」
「「……」」

――ああ、いつものか。

いつもと比べ饒舌になる醤に、甘太と翠は口を噤み、心の中でそう呟いた。
そして、何を考えているのかわからない笑顔を作ると、甘太は再び口を開く。

「悪い、おれ何か勘違いしてたわ」
「だろ!? 佐藤のうっかりさん!」
「いやー、うっかりうっかり。ところで、今日の週間メダロット何やんだっけ?」

「バッカ!! 今日は待ちに待った“KWG特集”だろうが!!
 白銀のボディー!! 鋭く光る刃!! 接近型として設計された無駄のない脚部!! KWGは見た目も強さもピカイチだよな~!!
 “KBT特集”が来た時は“KWG”も来ると思ってたけど、1か月待たされるなんて、週間メダロットもセコイっつーかわかってるっつーか!!
 ヘッドシザーズにゾーリンに隠れたプロトタイプ……っあーくそ楽しみ過ぎる!! 
 まぁオレはヘッドシザーズがいてくれれば充分満足なんだけどな!!」

目をこれ以上ない程輝かせた村崎醤による大演説、「『週間メダロット』の“KWG特集”について」。
その演説はそのクラス全員の注目を集め、自らが大のメダロット好きと告白してしまった醤にゲームオーバーを知らせる合図のように、1時間目開始のチャイムは無残に鳴り響いた。
場の空気に気付かず、30代半ばくらいの教師は教室に入る。

「授業始めるぞー。……不気味過ぎる程に静かだなお前等」

そんなコメントを残しながら教室を見渡すと、1人立ち尽くす醤に目がとまった。

「おい村崎、席に……」
「……オ、レは……」
「ん?」

教師がよく聞き取れずに尋ねると、醤は俯いていた顔を上げ、力あらん限り叫んだ。

「オレはっ、メダロットなんかどーでも良いんだあああああ!!」

醤は叫ぶや否や、勢いよく教室を飛び出していった。
教師は右腕を伸ばして醤を止めようとするが1歩遅く、それは叶わない。

「ええええええ!? 待て村崎! 先生は割と好きだぞメダロット!? じゃなくて授業!」
「大丈夫でーす。あと10分もすれば戻ってくると思うんで、授業始めてくださーい」
「そ、そうか? じゃあ始めてるか」

甘太がやる気のなさそうに手を上げて言うと、教師が承諾し、授業は始まった。
翠は、甘太を小さな声で咎める。

「お前なぁ、村崎の“アレ”は『酸っぱい葡萄』みたいなモンなんだから勘弁してやれよ」
「……なぁ尾根、おれ思うんだけどさー」

自分の言葉に聞く耳を持たないマイペースな相手に翠がため息をつくと、甘太は黒板を見たまま静かに尋ねた。

「アイツの場合、『彼女下さい』よか『メダロット下さい』の方がよっぽど叶いそうだと思わねー?」





「はあ……何て1日だ」

放課後。
醤はぐったりしながら、肩には鞄を、右手にはコンビニ袋に入った団子をぶら下げ、帰宅路を1人で歩いていた。

「オレだって、メダロット手に入れられたら手に入れてるっつーの。ウチに、怪獣“ペットナンテユルサナイワヨン”がいなけりゃなー……」

そう言いながら頭の中で憤怒した鬼神の如き母の顔を描き、醤は身ぶるいした。
村崎家で彼女が発布した、“ペット類禁止令”。
以前それを破って仔犬を拾った醤の顔の横に、飛んできたフライパンが突き刺さったのは今でも鮮明に思い出す事が出来る。
頭に“残る”というよりも、“刻まれる“といった表現の方がしっくりくる記憶であった。

「メダロットはペットじゃないっつっても、聞く耳持たねぇし……。あー、このモヤモヤは『週間メダロット』で消し去るしかねぇな。
 ……の前に」

文句を1通り言うと、団子が入った袋を見ながら、小さく溜息をつく。

――今朝は急いでて、神社に何もお供えしなかったんだよな。もしかしたら、今朝の失敗は神様からの罰か何かかもしんねえし。
  何も供えずに願い事だけなんて、虫が良過ぎるよな。

醤はそう思いながら、左右が林で覆われている石階段を上り、再び神社に向かった。
途中の無造作に生えた木々を抜け、神社に辿り着くと、団子を袋ごと鈴の下に置き、2回手を鳴らして両手を合わせ、頭を下げながら呟いた。

「神様、今朝は御供え物もせず罰当たりな事してすいませんでした。反省も後悔もしてます。後、2-Aの泡瀬美園ちゃんと仲良く」

ギ。

「なれま……?」

軋んだ、スプリングの音。
ざわめく風の音が、草木の音がその瞬間だけ止み、醤にはまるでその音の主を見つけて欲しいかのように感じられた。
しかし、神社を背に林を見回しても、音の原因はわからない。

「どこだ……何の音だよコレ……?」

ギ……ギギ。

「……!」

醤が音に反応して素早く振り向いても、そこにはただ神社が佇むのみ。
直感に従って木造の階段を上がり、神社の御堂に入ろうと手を掛けるが、扉に錠が掛かっており、押しても引いても開く様子はない。

「……悪ぃ神様!」

醤は息をのんで覚悟を決めると、足で思い切り扉を蹴り破った。
散った木片を避けながら御堂へ足を進めると、中にはひたすら赤が広がっていた。
夕暮れなので日が赤く染めているのだと頭では分かっていても、背筋に寒気が立つ。
その赤の向こうを見やると、奥の黒い影が微かに蠢くのが目に映った。
1歩、1歩と醤は影に近付く。

「……神様、なのか?」

醤の問い掛けに合わせ聞こえた、軋む音。
その音に続いて聞こえてきたのは、醤にとって追憶の彼方の、されど決して色褪せる事の無い『声』だった。

「……ショ、ゥ……?」
「……え……?」

日が次第に落ち、差し込んだ光が、影となっていた奥をも照らす。

幼き醤が、初めての“お願い”をしたあの日。
泣きじゃくる醤の頭を優しく撫でた、小さな手。
更には、安心させ、帰路にまで導いた声の持ち主は――。

神社の奥の壁に寄り添う1体の壊れかけたメタルビートルとして、醤の目に映っていた。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「神様が、メダロット……!? 確かに声は似てるけど……本物か?」
メ「ふむ、信じられぬのも詮無き事。ならば証明しよう。ワシは知っておるぞ。
  お前が昼寝をし帰れなくなった事も、零が付いた紙をその辺に埋めた事も、お前が惚れた女子達の名前も……」
醤「お前それただのデバガメじゃねーか!! 次回! 『六角形の神サマ』第弐話、『道祖神(中篇)』! ……って何だあの未来人!?」

六角形の神サマ 第弐話/道祖神(中篇) ( No.2 )
   
日時: 2020/03/20 15:32
名前: 海月

「メタル、ビートル……!? ……っ!」

村崎醤(ムラサキショウ)は飛び込んできた真実に頭が追い付かず、機体の名前を口にするだけで精一杯であったが、耳に再び軋む音が届くと、ハッとしてメタルビートルを背負い、御堂の出口に向かって走り出した。

「待ってろ!! 今すぐ研究所に連れてびっ!?」

醤の意思に反し、御堂を出ようとした所で、まるで見えない“壁”にぶつかったかの様に思いきり顔面を打ち、両手で顔を押さえながらその場にしゃがみ込んで声にならない呻き声を上げた。

「……止められずすまない。ワシは、この御堂から出れんのだよ」
「ふぁ?」

強く打ちつけた赤い鼻を擦りながら、醤は薄ら涙が浮かんだ目を後ろのメタルビートルへ向けた。
ノイズを立て、今にも消えそうな緑の光と目が合う。

「……ほんの少しで良い、話し相手になってはくれぬか? ショウ」





『六角形の神サマ』 第弐話/道祖神(中篇)





「と……かたじけない。少し、楽になった」

御堂の奥へ戻り、醤が壁に背がもたれるような形に置くと、メタルビートルはそう感謝の言葉を述べた。
いや、とだけ返すと、改めて醤はそのメタルビートルをまじまじと見た。
手のネジが数本抜けている右腕、リボルバー。
銃口先が欠けた左腕、サブマシンガン。
壊れた関節からコードが垣間見える脚部、オチツカー。
そして、メタルビートルの象徴である頭部のミサイルは、片方があらぬ方向へ向いている。
それらを除いてもあちこちに小さな傷がついていて、まるでボディー全体が『限界だ』と悲鳴を上げているようだった。
メダロットは、ロボトルでいくらパーツが壊れても、戦闘終了後にはティンペットに内蔵されたナノマシンが自動回復してくれる。
稀にナノマシンでも復活出来ないような損傷もあるが、彼の体の傷にはいくらでも治りそうなものがあった。
ナノマシンがちゃんと機能してさえいれば、の話であるが。

――ちゃんと機能してんのかよ、ナノマシン。

醤がそう考えていると、メタルビートルの擦れた笑い声が堂内に響いた。

「こうして、会話を交えるのは8年振りだな。
 ……いや、8年前はお前が一言も喋らずワシが一方的に話し掛けたから、正確にはこれが初めてになるか」
「う、うるせえな! ガキの気持ちで考えてみろよ! アンタ“怖い”以外の何物でもなかったぞ!?」
「だから『怖がるでない』、と言ったであろう?」
「無理言うな! 普通に怖いわ!」

話の内容から、目の前のメダロットが昔自分を助けたメダロットであると醤は確信を得たが、メタルビートルのどこか人をからかうような口調に、御礼の言葉が出ず、噛みついてしまう。
自分と話しているだけなのにとても楽しげな相手の様子に、醤は調子を狂わせられるばかりであった。
それに、何故このメダロットが神社に閉じ込められているのか、何故自分を助けたのか、疑問だらけである。
醤がどう聞いたものかと考えあぐねいていると、メタルビートルは口を開いた。

「何ら不思議な事は無い。助けを必要としている者がいれば助ける事が出来る者が助けるのは、それこそ“普通”の事なのだよ」
「こ、心読んだのか!?」
「読める訳が無かろう。ワシは絡繰りだぞ?」

メタルビートルの言葉がまさに疑問の答えそのものであったため、醤は驚愕するが、すぐさま冷静に返答された。
先程からこのメダロットに軽くあしらわれているように感じ、自分だけが驚いたり怒ったり騒いだりしているのが気に入らず、醤は遂にちゃぶ台をひっくり返してもおかしくない剣幕で怒号した。

「だああああああ!! さっきからもー結局何なんだお前は!?」
「ワシはただの神社の御神体だ」

その怒号さえもさらりと返された訳だが、聞きなれない言葉に醤は怪訝な顔を浮かべ、復唱する。

「ゴ、ゴシンタイ?」
「……ショウは、『道祖神』という言葉を知っておるか?」
「……いや」

纏う雰囲気が変わったメタルビートルに、醤は緊張から短い言葉で返答した。
差し込む日が、彼の黄金色を塗り潰すかのように、ボディーを赤く染め上げていく。
メダロットは、ゆっくりと語り始めた。

「道祖神というのは、村境に住み、その村を脅かす者達の侵入を防ぐために祀られし障(えさ)の神。
 本来ならば、自然石や陰陽石、男女和合の石像等が神……御神体とされる」

俯いて喋っているためメタルビートルの表情がわからず、醤は息を飲む。
一息おいてから、重々しく言葉が続けられた。

「……しかし、この神社で祀られたのは“六角貨幣石”。つまる話が――」

メダロットが顔を上げ、伏せられていた2つの緑の光がしっかりと醤を捉えた。

「ワシなのだよ」

語り終えたであろうメタルビートルの目から逸らす事無く、真っ直ぐ見返しながら、醤は正しく理解するために確かめようと尋ねる。

「……誰かがアンタを、神様にしたってことか?」
「左様」
「誰に……」
「……それはわからぬ。気付いたら此処におり、今話した事を知っておったのだよ」

自分自身もよくわからぬ内に神にされ、使命を負わされ、閉じ込められたメダロット。
話を聞いた限りでは、助けるという行為以外に誰かと交流することが出来なかったように醤には思えた。
自分に怒鳴られた時でさえこのメダロットが笑顔だった先刻の記憶が、醤の心を僅かに軋ませる。

「祀られたと言っても、ワシは他の者達と変わっている所が殆ど無い。だからな、ショウ――……」
「っもう良いから……!」

これ以上辛い話に耐えきる自信が無く、醤は話を遮ろうとしたが、メタルビートルは構わず言葉を続けた。

「お前と誰ぞをくっつけるなんてワシには不可能なのだよ」
「今その話題を持ち出しやがるかクソジジイ」

何の罪悪感も無く言い放ったメタルビートルに、醤は自分が持っていた悲痛な気持ちをどこかにぶん投げることも出来ず、ただ青筋を立てる。
メダロットは、そんな空気を読まずに口を開いた。

「助言は出来るぞ。自分の気持ちを飾らず相手に伝えてくるのだ!」
「どこが助言だ! まんまな上に付き合える保障どこにもねーじゃねえか! 大体なあ!
 それが出来りゃあわざわざ神社にお参りなんかするか!」

メタルビートルを指差しながら怒鳴るが、相手は慌てる事無くマイペースに返答する。

「それなのだよ。毎朝供物を持ってお前が参拝に来る度に、不憫でならなくてな……」
「何でお前に可哀想がられなきゃなんねーんだよ!! 同情すんなら叶えろ!」
「だからそれは無理だと言っておろうに。寧ろ、その毎朝参拝する努力を何故恋に使わぬ?」
「……っっああああああ!!」

自分に同情し、あまつさえ正論を言う相手に苛立ちが頂点に達し、醤は吠えた。
メタルビートルは何事かわからず、目を丸くし、2回瞬きをする。

「お前なんかもう知るか!!」

そう言い放つと背を向け、音を立てながら外へと向かう。
メタルビートルが醤の背中に再び声を掛けたのは、醤が砕け散った扉を手で押し上げた時だった。

「……ショウ、」
「ああ!?」
「ありがとう。……とても楽しかったのだよ」

怒気にまみれた表情で振り返った醤に、今はもう陰で機体を確認することが出来ないが、御堂の奥の緑色の光が細められ、柔らかい声でそう言葉が告げられた。
それに対し、醤は何も言わずに前を向いて扉を潜ると、駆け足で神社を後にした。
醤の姿が完全に見えなくなると、メタルビートルは壁からずり落ち、外から聞こえてきた鈴虫の鳴き声に幸せそうに語りかけた。

「……はは、いかんな。ショウを怒らせてしまったのだよ。……ああ。“次”があれば、謝らなければな」

鳴き声が止んで話し相手がいなくなり、メタルビートルが眠りにつこうと目を閉じかけたその時。

「……あ……」

“音”が、彼の中で鳴り響いた。





「くっそ、何なんだあのクソジジイ!!」
「いらっしゃ……何だ、村崎じゃん」

醤が苛々し気に商店の戸を押して入ると、漫画を読んでいた彼の悪友・佐藤甘太(サトウカンタ)がカウンターで顔を上げた。
普段なら、『店番しながら店の商品を物色してんのはどうなんだ』と突っ込む所であるが、先程メダロットにからかわれた事もあってその気にはなれず、ただ黙ってカゴにアイスを山程入れ、カウンターに乱暴に置くと、甘太は肩をすくめた。

「苛ついてんなぁ」
「今さっきムカつくクソジジイと会って来たんだよ、思い出させんな」
「おー恐い恐い」

甘太がアイスの会計をしている間、アイスの数が数なだけに若干暇を持て余したため店内を見回していると、カウンターの奥で組み立てられたKBT一式を見つけた。

「それ……」
「ん? ああ、近所の小学生が小遣い作りに一式売っ払ったんだよ。何かムカつくから超値切ってやったけど」

小学生相手に何してんだこいつは、という言葉を呑み込み、そのKBTをまじまじと見る。
ナノマシンが正常に機能してるであろう傷一つない綺麗な黄金色のボディーが、何故か正反対の筈なのに、先程のボロボロなメタルビートルを彷彿させた。
そこで醤は、自分がメダロットに昔の御礼を言っておらず、その上、相手に散々暴言を吐いたことを思い出す。
様々な葛藤から醤が眉間に皺を寄せると、それをからかうように甘太が笑った。

「え、ナニ欲しいの? 中古品だけど腐ってもKBTだからなー、結構……」
「……いくらだよ」
「高く……って、は?」
「いくらだ、そのKBT一式」

上がった口の端がひくりと動いたが、普段滅多に見ることが無い友人の真面目な表情に、甘太はそれ以上余計な事を言えなくなった。
その後、いつものように口角を上げると、甘太は醤の問いに答える。

「……樋口先生一人」
「……十回払いで」

予想通りの金額に気圧されそうになるも堪えて醤が言うと、甘太は溜め息をつきながら組み上がったKBTを慣れた手つきでビニール袋に入れ、そのまま醤に渡す。

「かっこ悪ぃー。まぁまいど。破ったらメダルごと四の五の言わずに返して貰うかんな。利子はとらないでやるよ」
「そりゃどうも!」

そう言ってカウンターに五百円玉を叩きつけるように置くと、醤はビニール袋を下げ、急いで店を出た。
醤の背中を見送ると、甘太は頬を掻きながらカウンターに積み上がったアイスの山に目をやる。

「……暇だし、アイスでもチルドに戻すか」





「もしもし母さん!? 悪い、週間メダロット録画しといてくれ!」

携帯電話片手にそう言うと、相手からの反論が来る前に通話を切り、神社の階段を駆け上がっていく。
周りに明かりは無かったが、毎日神社を訪れていた醤は体でその道を覚えていた。

息を切らしながら御堂にいざ辿り着くと、先程の喧嘩もあって入るに入れず、両膝に手を付き、息を整えながら悩んだ。

――どのツラ下げて会えば良い? そもそも何やってんだオレは。

疑問の答えが上手く見つからず、苛立ちから頭を強く掻いて、醤は自分の体を起こす。
すると、雑木林の向こうから子どものしゃっくり上げるような声が聞こえ、反射的に足を向ける。

「……ひっく、ひっ……うぇ……っ」

林を抜けて見ると、1人の小学生低学年くらいの少女が、泣きながらメダロットを抱えて神社の階段を上がっていた。
醤は放っておくことも出来ず、少女に声を掛ける。

「おい、転んだのか?」
「! いやっ、メダロットとらないで!」

きっと睨みながら自分からメダロットを遠ざけるように抱え直す少女に、思わず『あ?』となりそうな醤であったが、そこは理性で何とか抑え、少女に安心して貰おうと言葉を続ける。

「お前のメダロット盗ったりなんかしねーよ。ほら、オレのメダロットはここにあるだろ?」

醤はそう言ってKBTが入ったビニール袋を見えるように掲げるが、少女は警戒し続ける。

「で、でもさっきのおじさんもメダロット持ってるのにとろうとしたもん!」
「『さっきのおじさん』?」
「そうだよ!」

言葉の中に不審に思った単語を復唱すると、少女はそれに同調する。
涙はいつの間にか止まったようだった。

「友達と遊んだ後歩いてたら、変なおじさんが私のメダロットいきなりとろうとしたから逃げてきたの!」
「……新種のロリータ・コンプレックスか」
「『ろりーた・こんぷれっくす』?」
「いや、何でもねぇ。それにしても、大人相手によく盗られずにすんだな」

今度は少女が復唱し、自分の失言に気付いて口元を押さえると、思ったまま疑問を口にした。
その問いに、完全に警戒を解いた少女が元気いっぱいに答える。

「うん! ボロボロのメダロットが助けてくれたの!」

少女は醤に屈託のない笑顔を向けるが、醤はそれとは真逆に目を大きく見開いた。
脳裏に夕刻のメタルビートルが浮かび上がり、林の向こうの御堂に一目散に戻ると、メタルビートルを何度も呼んだ。

「ジジイ!! ……神様!! いねえのか!? 神様!! ……くそっ!」

だが、御堂は静まり返り、メタルビートルの声は愚か、何の音も聞こえない。
いないとしか考えられず強く舌を打つと、少女が醤の後を追って走ってきた。

「お兄ちゃん!? いきなりどうしたの!? わ!」

醤はビニール袋を持っていない方の腕で少女を抱えると、凄まじい速さで林を抜け、階段を下りていく。

「な、何!?」
「その盗られそうになった場所どこだ!?」
「あ、あっちの機械いっぱいある道路……」
「あっちだな!? これからはあんま遅くまで遊ぶなよ!」

少女は問い掛けに抱えられたまま恐る恐る指を差して答え、醤は階段を下り終えて歩道に少女を降ろすと、指が差された方向を確認し、その道路へと向かった。

「っにやってんだアイツは!!」

ぎり、と歯を食いしばりながら走っていると、何かがコンクリートの上に崩れ落ちる音を聞き、醤は音がした大きな道へと出た。

目に入ってのは、地を這っているメタルビートル。
その姿は先刻見たものより悲惨で、脚部からオイルが漏れ出し、周囲にはネジや歯車が散乱していた。
醤は、メタルビートルを呼びながら駆け寄り、体を起こし上げた。

「ジジイ!! おいっ、ジジイ!! っでででででで!?」

突如、足元に銃弾が飛び交い、醤が正面を睨みつけると、サボテン型メダロット・サボテンナの右腕が煙を上げていた。
その向こうには、白を基調とした未来人のような恰好のゴーグル男が立っている。
先程の少女の証言から、醤は、目の前の男こそが少女からメダロットを奪おうとした犯人であると確信した。

「何だお前は!?」
「『何だ』はこっちの台詞だ!! 何しやがるこのロリータ・コンプレックス!!」
「いや略せよ。違うけど」

醤が勢いよく指差して言うと、男は冷静にそう返し、仕切り直しとでも言わんばかりにゴーグルを掛け直しながら、指を差し返す。

「とりあえず、そのメダロットを置いて立ち去れ!」
「うるせえ!! 命令すんな泥棒野郎!!」
「警告は既にした! このままお前もサボテンナの餌食にしても構わないんだぞ!?」

男が言うや否やサボテンナの銃口が自分に向けられ、醤は怖じ気づくまいと睨み返す。
すると、メタルビートルが音を立てながら頭を上げた。

「よ、せ。この子どもは、かんけ、無い……」
「お前も元々関係無ぇだろ!! どんだけお人好しなんだよこのバカ!!」
「ふ、っ……ショウ、には言われたく……っ!」

醤が正面を睨んでいた眼をメタルビートルに向け、怒鳴りつけると、メタルビートルはノイズだらけの声で笑い掛けた後、ボディーの痛みからかきつく目を閉じた。
醤は慌てて機体を揺さぶる。

「っおい!」
「ふはははは! 文字通り『虫の息』だな!!」
「黙ってろ!! おい! しっかりしろって! 何でこんなになるまで戦うんだよ!?」

ゴーグルの男が愉快気に笑うと、醤は男に背中を向けたまま一喝し、揺さぶりながらメタルビートルに話し掛け続けた。
メタルビートルは、苦しそうに、それでも優しそうに微笑むと、スプリングを軋ませながら右腕を持ち上げる。

「……言った、であろう? ワシ、は道祖神。村や、村に住む者、を守……ければいかん。だが……お前は、違う。
 だか、ら、これだけ聞いて、帰るの、だよ」

目を開ける事すら辛いのか、緑の光は小さく音を立てながら細まるが、醤の頭に何とか右手を乗せ、メタルビートルは途切れ途切れになりながらも言葉を紡いだ。

「神様、らしい事を、1つも出来、ないで……すまなか、た」

そう言いながら撫でる小さな右手の感触は、ぎこちなさはあれど、8年前と全く何も変わらぬものだった。

「……謝る所が、違うだろうが」

醤は、震える声でかろうじてそう返すと、目頭が今以上熱くならないよう、強く奥歯を噛み締めた。

――『神様らしい事』? 『1つも』? ……「死ぬ気満々ですが何か」みたいに言いやがって。
  そりゃあ、どんなにお前にお参りしても、好きになった子と付き合えた事は無かったよ。……けど。

『ありがとう。……とても楽しかったのだよ』

――だけど……!

『ショウ、ワシはお前の味方なのだよ』

「――クソジジイ!!」


――自分は、メダロットというものを憧れはすれど、手にしたことはなかった。勿論、ロボトルの経験もない。……だが。

  メダロットに恋焦がれて得た“知識”と、目の前のメダロットを生かす“覚悟”ならある。



「今だけ、オレにアンタのメダル貸してくれ!!」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「ソモサン!」
メ「セッパ!」
醤「ロボトル中に勝手に弾切れしやがるヤツだーれだ?」
メ「ワシ!」
醤「正解! では、ロボトル中に何も無いのに躓きやがるヤツだーれだ?」
メ「ワシ! 次回。『六角形の神サマ』第参話、『道祖神(後篇)』。守るべきモノを守って”ろぼとるはいと”!」
醤「悪 び れ ろ」

六角形の神サマ 第参話/道祖神(後篇) ( No.3 )
   
日時: 2018/01/14 14:40
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第参話/道祖神(後篇)





「今だけ、オレにアンタのメダル貸してくれ!!」

村崎醤(ムラサキショウ)の言葉に、ボロボロのメタルビートルは目を大きく見開き、揺らいだ。
まさかそんな展開になるとは思ってもおらず、怪しい男も動けず絶句している。

「……ショウ……いや、しかし……」
「『助けられる奴が助けて欲しい奴を助ける』っつーのはアンタが言った事だろ!! それともアンタは助けて欲しくないのかよ!?」
「そ、れは……」

躊躇うメタルビートルの両肩を掴み、醤は必死に説得を試みる。
真っ直ぐ自分に目を向ける醤から、メタルビートルは僅かに視線を外し、悩んでいると、ゴーグルの男は震えながら怒り、力任せにサボテンナに指令を出す。

「ええーい!! サボテンナ、もう撃って……!!」
「少年!! これを使い給え!!」
「んなっ!?」

否、指示を出そうとした。
男の声を別の男性の声が遮り、醤は自分に飛んできた“何か”を反射的に右手でキャッチし、そのまま手を開く。

「これは……メダロッチ!?」
『その通り! メダロッチにメダルとパーツを登録すると、ロボトルが出来るようになるよ♪』

醤が新品の白いメダロッチを確認し、腕をまくって左腕に装着すると、今度は機械越しのような女性の声がどこからともなく聞こえ、自分の邪魔をした者達に向かってゴーグルの男が声を荒げた。

「い、いきなり何者だ貴様等!! 姿を見せろオ!!」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

男への返答とばかりに2人分の声が辺りに響き渡ると、道路の脇にあるシャベルカーのシャベルがスポットライトで照らされた。
醤達が反射的に目を向けると、シャベルの上には仁王立ちする男と拡声器を持った女がおり、違いはスラックスとタイトスカートのみで、半袖の白いワイシャツ、そして特徴的な赤い蝶ネクタイは大きさを除き同一である。
醤がどさくさにまぎれて機体から外したメダルをメダロッチにはめると、赤い天然パーマの爽やか……というより暑苦しい印象を与える男が、親指で自分を指差し、口を開く。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン!』
「この戦いは真剣ロボットバトル、“ロボトル”と認定されました!!」
『ルールは簡単! 互いのメダロットを戦わせ! 先に相手の機能を停止させた方が勝ち!
 勝ったら相手のパーツを1個取ることが出来まーす♪』
「“真剣ロボトル”だと!? 余計な真似を……!」

Mr.ジャムとクリーム色の髪が肩にかかった女性・Ms.マーガリンがロボトルについての説明を言い終えると、ゴーグルの男は忌々しげに歯軋りをした。
その隙を見計らい、醤はメタルビートルからメダルを外し、メダロッチの登録を済ませていく。
突如、Mr.ジャムは音が鳴りそうなほど勢いよくゴーグルの男を指差した。

「そこの君!!」
「!?」
「女の子のメダロットを盗ろうとしたね!? 駄目じゃないか!」
「へっ、ざまーみろ。メダロッター免許取り消されちまえ」

ロボトル協会公認レフェリーが、メダロット盗難現場を目撃したのだ。
免許剥奪は免れないと思い、醤はそう吐き捨てた。
が、この男・Mr.ジャムは、ただのレフェリーではなかった。



「漢たるもの、盗るのはパンツだけにし給え!!」



――変 態 だ !!

……犯罪者だった。
敵対しているはずの醤とゴーグルの男は、この時ばかりは気持ちがシンクロしたという。
Ms.マーガリンはというと、通常運転で慣れきっているのか全く顔色を変えておらず、未だに満面の笑顔で高笑いしているMr.ジャムの“後ろ”をじっと見ていた。

「すみません、署で詳しい話をお願いします」
「え?」

後ろには気付かぬ内に警察官とそのメダロットが立っており、Mr.ジャムは笑顔で振り向き、そのまま固まった。

「あの、違うんです。ホラ、パンツって毎日履き替えなきゃいけないからボクはそのお手伝いをs」
「その行為自体も相当な犯罪だけど……児ポルノ法、知ってますよね? 話は署で聞きますよ」

手錠を掛けられたMr.ジャムは、警察官にそう言われてパトカーに乗せられると、サイレンと共に遠くへ行ってしまった。
Ms.マーガリンは笑顔でハンカチを振り、醤は呆れた顔で呟く。

「何だったんだ今の……? 審判する前に消えたぞ」
『登録完了シマシタ』
「よし! メダル装着!」

そうこうしている内に登録が終わり、醤は笑みを浮かべ、メダロッチからメダルを取り出した。
そのままメダルをボディーに装着し、背中のハッチを閉めると、緑の光が2つ浮かび上がる。
光は瞬きし、新しいボディーとなったメタルビートルは自分の両手を開けたり閉じたりした。

「……これが、ワシの……!」
「どうだ? 中古らしいけど、さっきのよか断然動かしやすいだろ?」
「……が……い」
「あ?」
『合意とみてよろしいかなー!? それではー、』

腰に手を当てながら言う醤に、メタルビートルは小さく呟いたが、醤は聞こえず聞き返す。

「何だって?」
「……体が、軽い」
『ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

メタルビートルの言葉がようやく聞き取れたと思うや否や、Ms.マーガリンによるロボトル開始の合図が大通りに響く。
合図と同時に、メタルビートルは飛び出すと言っても過言ではないスピードで走り出した。

「体が軽い!! 軽いぞおおおおお!! はははははは!!」
『おーっとメタルビートル! 早速飛び出したァ!』
「くっ! サボテンナ! トゲトゲガン!」

先程まで満身創痍だったとは思えないぐらい楽しげな様子で、メタルビートルはサボテンナに向かっていく。
Ms.マーガリンもノリノリで実況する中、メタルビートルの意外なスピードに焦ったゴーグルの男は、サボテンナに指示を出した。
サボテンナが脚部を狙い、右腕で連射するが、ガトリングはメタルビートルのスピードに追い付くことが出来ず、地に落ちる。

『メタルビートル! 回避! 回避! 回避ィィィィィ!!』
「は、速ぇ……!」
「ショウ! 指示を!」
「! お、おう!」

メタルビートルの機動力に、醤は“こんな射撃系アリか?”と思いながら呟くと、メタルビートルから指示を求められ、慌ててメダロッチを構えて指示を出す。

「えーっと……神様! サブマシンガン!」
「心得た!」
「サボテンナ避けろォ!」

名前をどう呼べば良いものかわからず醤がそう叫ぶと、今度はメタルビートルが右腕で標準を合わせ、サボテンナとの距離を詰めながらサブマシンガンを連射する。
男の指示を受け、サボテンナは全身にガトリングを数発受けた後、車輪でメタルビートルの右に回り込んだ。
右腕パーツが攻撃を受けて機能停止したのか、元の色よりも黒ずんでいる。

『サボテンナ! 全弾直撃は避けたがこれは痛ァい!』
「……!?」

醤は、サボテンナの機能停止した右腕パーツに違和感を覚えた。
『サボテンナの右腕はここまで脆かっただろうか?』、と。
元々メタルビートルが強いだけなのかもしれないが、それだけではない気がしてならず、醤は怪訝そうな表情を浮かべる。
しかし、その理由はすぐに判明した。

『左腕パーツ、弾切レデス』
「はあああ!?」

メダロッチによるまさかのアナウンスに、醤は声を上げた。
何事かわからず、メタルビートルはきょとんとする。

「へ?」
「おいジジイ! お前今ので弾全部使っちまったのか!?」
「そんなはずは……あったらしい」

醤の問い掛けにメタルビートルはサブマシンガンを撃とうと試みるが、パーツの中で部品が空回るばかりで、銃弾は一切出てこない。
不測の事態に、醤はメタルビートルに怒号をぶつける。

「何やってんだ! もうサブマシンンガン使えねぇじゃねーか!」
「何をとは……いつも通りに撃っていただけなのだよ!」
「『いつも通り』で弾切れしてたまるか!」
『おおっと! ショウ選手とメタルビートル! 仲間割れかァ!?』

Ms.マーガリンの言葉により2人はそれ以上言い合いになることを何とか避けることが出来た所で、ゴーグルの男は高笑いする。

「はーっはっは! 冷や冷やさせやがって! やれ、サボテンナ!」
「っぐ……!?」
『サボテンナの反撃炸裂ゥ!』
「ジジイ!」

回り込んだサボテンナへの対応が遅れ、メタルビートルはクロスした両腕で頭パーツ・ソンブレーロの銃弾を受け止める。
Ms.マーガリンの実況の直後醤は叫び、メダロッチが機械的に喋る。

『右腕パーツ、ダメージポイント45。左腕パーツ、ダメージポイント38』
「このまま動かなかったらダメージが増える! お前も回り込め!」
「わ……かった!」

醤に言われるがまま銃弾から逃れようと、メタルビートルもサボテンナの右側に回り込む。
その間も攻撃は続くが、相手の攻撃はやはりメタルビートルを捉える事が出来ない。

「脚部に向かってリボルバー2連射!」
「おお! おわ、っと!?」
「っのバカ!」

メタルビートルは右腕をサボテンナに向け、発砲するが、足がもつれてバランスを崩して転び、コンクリートに俯せに倒れてしまう。
醤の焦った罵声が響くと、男のゴーグルが光り、歓喜の声を上げる。

「貰ったア!」
『メタルビートル大ピーンチ!』
「な、めるなァ!」

メタルビートルは左腕で支えてすぐさま上体を起こし、リボルバーを2発撃つ。

「サボテンナ後退!」

ゴーグルの男が指示すると、サボテンナは後退を始め、ライフルの内1発は脚部に被弾するが、もう1発はコンクリートの上を跳ねた。
移動したサボテンナは、男の目の前まで戻ってくると制止する。
どこか不調らしい様子のメタルビートルに、醤は声を上げる。

「ジジイ! どうしたんだ! いつもコケてんのか!?」
「そういう訳ではない! いつも通りに動いているのにいつも通りに動けんのだ!」
「何だそのタチの悪いなぞなぞは!? ……!」

メタルビートルの言葉の意味が分からず醤はそう返答するが、彼のボディーを見て息を飲み、自分の足元にある全壊したKBTのボディーに静かに目を落とした。
弾切れになったサブマシンガン、凄まじい速度且つ転倒するオチツカー……醤の中で、全てが繋がる。

――そうか! 今までコイツはこのボロいパーツを、自分の最大出力で動かしてたんだ!
  それを今の正常なパーツでやるモンだから、行動全部が過剰になって弾切れや転倒したのか! わかるかそんなモン……!

「ショウ……? うあ、あああっ!?」
「!?」

指示を出さない醤を見てメタルビートルが首を傾げていると、サボテンナの突進により、メタルビートルの体が吹き飛ばされる。
醤が反射的に視線を戻すと、メタルビートルはコンクリートに腰を強打し、そのまま転がって大きな機材に背中を打ちつけていた。

「うっ、あ゛ッぐ!!」
『頭パーツ、ダメージポイント23。脚部パーツ、ダメージポイント62』
『サボテンナの突進クリティカルー! メタルビートル立ち上がれるかー!?』
「はははははは! ロボトル中に余所見なんぞするからだ!」

ゴーグルの男の言葉に言い返す言葉がなく、醤はただ奥歯を噛み締めながら自分の不甲斐無さに対し叱咤する。

――しっかりしろよ! 今コイツのメダロッターはオレだろうが! オレが何とかしねえと勝てねぇんだぞ!?

「神様! リボルバー!」
「……く……!」
『必死のリボルバー当たらず! これぞ車両型の機動力だァ!』

醤の指示を受けて、メタルビートルは機材に掴まりながら何とか立ち上がり、サボテンナにライフルを撃った。
しかし、サボテンナは軽々とかわし、Ms.マーガリンは声を上げる。

「見たかア! 路上でサボテンナの速さに敵うと思うな!」

完全に自分が優位だと思っているであろうゴーグルの男を睨み付け、醤は静かに考える。

――レフェリーやロリコンの言う通り、サボテンナの脚部は地形的に有利!
  あの機動力を何とかしねえとこっちの身がもたねえ、今度コケたらお終いだ! 何か無いか!? 何か、……!!

辺りを見回し、“あるもの”の存在に気が付くと、醤は声を張り上げた。

「ジジイ!」
「!」
「まだ走れるか!?」

醤の突然の質問に目を丸くしたが、メタルビートルは拳を握りながら答える。

「愚問なのだよ! この足だったら千里は走れる!」
「よし! 走れええええええ!!」
「おおおおおお!!」
『ショウ選手! 秘策を思いついたようだー! 果たしてどんな攻撃に出るのかァ!?』

醤の言葉と同時に、メタルビートルは指で示された通りサボテンナに回り込むように走り出し、Ms.マーガリンは楽しみな気持ちを顔に、声に滲ませて実況する。
メタルビートルを見て、ゴーグルの男は呆れたように肩をすくめた。

「何かと思えば、さっきと同じじゃないか! サボテンナ! バルバルガン!」

サボテンナは上半身だけをメタルビートルの位置に合わせて回転させ、左腕でガトリングを撃つ。
その内の数発が脚部に掠り、メタルビートルは顔を顰めた。

『メタルビートル! 防戦一方ー!』
「どうしたどうしたア!? そんなんじゃサボテンナは倒せんぞ! ま、攻撃した所で勝てんがな! だーっはっは!!」

言いたい放題の2人に対して何も言わず、醤はメタルビートルを見据える。
そして、メタルビートルがあるポイントに到達すると、口端を吊り上げ、声を上げた。

「今だ!! ミサイルで後ろに吹っ飛ばせ!!」
「さっきの……お返しだ!!」

メタルビートルの頭部からミサイルが発射され、サボテンナは逃れる術を知らず、全身で攻撃を受け止めた。
そのままボディーはメタルビートルと真逆の方向に吹き飛ばされ、路上の“オイル溜まり”に突っ込んだ。
醤は、作戦が成功した喜びから拳を真上に突き上げる。

「決まったああああ!!」
「んなあっ!? なーんであんな所にオイルがアア!?」

顎が外れたかのように口を開くゴーグルの男に、醤は得意げに言い放つ。

「何言ってんだよ! あそこにオイル撒いたのアンタだろ?」
「俺がオイルなんてわざわざ撒く訳、……っ!!」

ゴーグルの男は、正式にロボトルが始まる前、自分達の攻撃によりメタルビートルが大破し、脚部からオイルが漏れだした事実を思い出して口を噤んだ。
それから左右に歯軋りをし、怒りから顔を真っ赤にすると、腹の奥底から叫ぶ。

「うぉのれボロボットめ、どこまでも俺の邪魔をしやがってええ……サボテンナ!! 立ち上がれエ!!」
『サボテンナ! オイルで滑って立つ事叶わァず!』
「何イ!?」

Ms.マーガリンの言葉で男がサボテンナをよく見ると、脚部にオイルが纏わりついており、何度も体勢を戻そうと試みるが、立つ事が出来ない様子であった。


「……よくもワシにとどまらず……」

地を這いずり回るような低い声に一同が目を向けると、そこには地を両足で踏みしめ、リボルバーで狙いを定めるメタルビートルの姿があった。
しかも。

「ショウにまで手を掛けてくれたなああ……!」

夕暮れ時に見せたのんびりマイペースで穏やかな雰囲気を、微塵も感じさせない様子で。
銃声が3回鳴り響くと、サボテンナは音を立てて崩れ、背中からメダルが転がり落ちた。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「よっしゃあああ!!」

Ms.マーガリンによる判定が高らかに木霊し、醤が喜びの声を上げた後、すかさず男は醤を指差し、ゴーグルをつけていてもわかる程睨みながら言い放つ。

「ボロボット! クソガキ! 覚えとけエエ!!」
「まだ何かする気かテメエは!!」

負け台詞を吐きながら走り去る男に醤は怒鳴りつけると、ふと服の右胸のマークに目がいった。

――何だアレ? 『Tc』? 『Te』に見えなくもないような……?

「ショウ!」

マークについて考えていると、横から自分を呼ぶ声を聞き、醤は顔を向ける。
そこには、ナノマシンが正常に作動し、全回復したらしいメタルビートルがにこやかに立っていた。
醤は若干の照れ臭さから、ぶっきらぼうに尋ねる。

「な、何だよ?」
「今度は、ワシが助けられてしまったな。……かたじけない」

――ぽんぽんぽんぽん謝ったりお礼言ったりしやがって……!

言いたい事が言える相手に対し、醤は心の中で悪態をついた。

「ショウ? 何か言ったか?」

しかし、その言葉はばっちり外に出ていたらしく、深々と頭を下げていたメタルビートルは少し頭を上げて醤を見た。
醤は慌ててメタルビートルに指を差す。

「っ何でも無ぇよ!! いいか!? これで8年前の借りはチャラだからな!!」
「ああ、その事なら良いぞ。お前に釣り銭が返ってくるぐらいなのだよ」

また本当に言いたい言葉が出ず、醤はコンクリートに項垂れるような体勢になり、メタルビートルには何の事かわからず、ただ頭に疑問符をたくさん浮かべる……否、浮かべていた。
少しの間ぶつぶつと独り言を言っていた醤であったが、意を決すると、メタルビートルの方へ顔を上げる。

「また良かったら、……!?」

『一緒にロボトルしないか?』。
その言葉を最後まで発する事が出来ず、醤は頭をつらそうに押さえているメタルビートルに詰め寄った。

「おい! どうした!?」
「すま、ぬ、頭が……! ……近い内、必ず恩返しを……!」

頭を抱えたままメタルビートルはスプリングを鳴らし、暗闇の彼方へ走り去っていった。
Ms.マーガリンもいつの間にかおらず、広い道路に残されたのは、醤と、ボロボロのKBT1式。
醤は、道路の中心で、恨み言を叫んだ。

「こんの何ちゃって神様恩知らずクソジジイイイイイ!!」



メダロッチ更新中……――
・ミサイル(KBT-11。うつ攻撃:ミサイル)獲得
・リボルバー(KBT-12。うつ攻撃:ライフル)獲得
・サブマシンガン(KBT-13。ねらいうち攻撃:ガトリング)獲得
・オチツカー(KBT-14。二脚:射撃)獲得
・ソッコー(SAB-04。車両:射撃)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「オイこらダイナミック帰宅恩知らずジジイ!! いきなり神社に帰る上に引き籠るだあ!? 何なんだアンタ!!」
メ「いやー、すまんすまん。持病の偏頭痛なのだよ」
醤「メダロットが偏頭痛になる訳あるか!!」
メ「あながち冗談でもないんだがなぁ……」
醤「テメーがそういう態度ならこっちにだって考えがあるぜ……! 次回! 『六角形の神サマ』第肆話、『近代式天照大作戦(前篇)』!!
  絶対何が何でも外に引きずり出してやっから、覚悟しやがれニート!!」
メ「心外な。仕事はしてるから“ひっきー”なのだよ」
醤「威張んな!!」

六角形の神サマ 第肆話/近代式天照大作戦(前篇) ( No.4 )
   
日時: 2018/01/14 14:58
名前: 海月

「はい」

夜遅く。
少年・村崎醤(ムラサキショウ)が町のメダロット研究所の裏口を訪れると、白衣を着た、クラスメートの波花梓音(ナミハナシオン)が姿を現した。
白衣の上にはブランケットを羽織っており、深緑色の虚ろな目に苦笑した醤の顔が映る。

「あ、のー……夜分遅くすいません。村崎って言うんですけど、」
「知ってる。何?」

――だーから今ソレを言おうとしたんだろうがアアアアア!!

という言葉を喉の奥に飲み込み、笑顔を引き攣らせながら醤は質問に答えた。

「メダロットのパーツ、とティンペットを壊しちまって……修理して、くれるか?」
「……」

『目は口程に物を言う』。
梓音の目には、自分に対する不信感で満ち溢れているように醤は感じた。
ビニール袋ごと受け取り、中の壊れたKBTパーツを見てから、梓音の視線は再び醤に向けられる。
『何でお前がメダロットを持っているんだ』。
『何でKWGタイプが好きなお前がKBT1式持っているんだ』。
『このKBTパーツをボロボロに酷使したのはお前か』。
そう言いたげな目で見られると、醤はガマの油の如く汗を流した。
1拍おいて、梓音が口を開く。

「……わかった」
「え?」

思いがけない返答に醤が素っ頓狂な声を上げると、梓音はそのまま言葉を続けた。

「この壊れ具合だと1週間……いや5日くらいかかると思うから、5日後にまた来て。それ以上かかるようなら連絡するから。それじゃ」
「あ、おい!」

淡々と用件のみ伝え終わると、梓音は醤の制止の声も聞かず裏口の扉を閉めた。
こちらからの頼み事でなければ食って掛かっている醤であったが、そうする事も出来ず、頼んだぞ、とだけ扉に向かって言うと、駆け足で帰っていく。
その時、醤は気付かなかった。
僅かに扉を開け、梓音が醤の姿を見ている事に。





『六角形の神サマ』 第肆話/近代式天照大作戦(前篇)





「……お前ら、全員机に顔を伏せろ」

翌朝。
御守高校2年D組の教室にて。
クラス担任が入室し、名簿を教卓に置くや否や、神妙な顔つきでそう言った。
生徒達が何が始まるのかわからぬまま言う通りに全員顔を伏せると、担任は言葉を続ける。

「心配する事無いぞ! 先生もこの中に犯人がいるなんて思ってないしな!」

担任の無理して笑う声に、醤は机に突っ伏したまま呆れていた。
大方、御守町で何か事件があり、その犯人が未だ見つかっていないという話だろう。
まぁ自分には関係の無い話だと、醤は軽い気持ちで耳を立てる。

「……昨晩、御守小学校の児童がメダロットを強奪されそうになる事件が発生した。心当たりがある人は静かに手を上げなさい」

――あれかよ!!

昨夜、児童を襲った変質者を頭に思い描きながら、醤はそう突っ込んだ。
見た所20代の、未来人のような白い恰好をしたゴーグルの男。
手掛かりは、その奇抜な服装と、右胸の『Tc』または『Te』というマークしかない。
男のあの様子だと、また事件を起こしそうな上に、渦中に自ら飛び込んだようなものだとは言ってもその標的が自分になりそうで、醤は頭痛を覚えた。
心当たりはあるが、今手を上げると犯人にされかねないため、醤は後で密かに相談する事にした。

「……それと、これも昨夜なんだが……御守神社の扉が破壊されるという事件があった」

――作戦変更!! すいませんでしたアアアアア!!

醤は、心の中で謝罪を大絶叫した。
相談を取りやめたのも、その話から“神社の扉破壊事件”に繋がる可能性について危惧したためである。

8年前、醤を助けた神様。
その正体は、御守神社に御神体として祀られたメタルビートルだった。
軋むスプリングの音を放っておく事が出来ず、醤は神社の扉を蹴破り、彼を救出したのである。
……その後、更に幾つかの事件が発生した事は、関係者各々にとって全くの想定外だったが。

醤の懺悔は続く。

――あれは人助け……ならぬメダ助けだったんです! 実際中に入らないと、アイツやばかった、し……?

メタルビートルを思い出すと同時に、その彼がボロボロのパーツと醤を置き去りに颯爽と消えたことも脳内に浮かび上がり、醤の懺悔はそこで停止した。

「心当たりがある者は――」
「あんのクソジジイイイイイ!!」

音を立てて椅子から立ち上がり、両手を思い切り机に突いた醤は、昨日に続きまたしてもクラス中の視線を独り占めする結果となってしまった。
しかも、今日は担任もいる上に、タイミングも最悪である。

「む、村崎……心当たりがあるのか……?」
「い、いえ滅相も無いですハイ! こうやって机に臥せっていると嫌なことばかり思い出すだけなんで!」

我ながら苦しい言い訳だと思ったが、それでも罪から逃れようと必死に醤の口は動く。
担任はとても怪訝そうな顔を浮かべ、重々しく口を開いた。

「村崎、まさかお前……!」

言い訳が無駄に終わったと静かに死刑宣告を待ちながら、醤は口を一文字に結ぶ。

「メダロットが欲しいあまり小学生のメダロットを強奪」
「しません!!」

焦点がどこかずれた担任のお陰で、一命を取り留めた。





「――で、何でお前らも来んだよ?」

放課後。
もしかしたらメタルビートルが戻っているかもしれないと、醤は御守神社に向かっていた。
右手には、オイルが1缶入ったビニール袋をぶら下げて。
醤の質問に、右隣を歩いていた佐藤甘太(サトウカンタ)が楽しそうに答える。

「だーって、お前が昨日の晩から何か面白そうだからさー」
「ああ?」
「村崎、お前大丈夫なのか? HRで叫ぶし、現国じゃ辞典で“神”とか調べてるし、英語でも辞典で何か調べてるし……」

甘太を軽く睨む醤に、左隣を歩く尾根翠(ビネスイ)は心配そうに尋ねた。
3人で神社への石段を上がりながら、睨まれても動じない甘太は言葉を続ける。

「メダロッチは付けてんのに、ウチで買ったメダロットは一緒じゃねーみたいだし。メダロット教か?
 メダロット教に入信して教祖にでもメダロット捧げてきたのか?」
「ちっげえよ!! その点に関してはオレも不満タラタラなんだよ! それ以前に無ぇだろそんな宗教!」
「そうか、おばさんに見つかってメダルを……ッ短い一生だったなあ……!」
「勝手に殺すな!! 母さんも殺すまではしねぇよ! 多分!」

涙ぐむ翠に醤がそう突っ込むと、林の向こうの神社から、話し声が聞こえてきた。

「こっちで声がしなかったか?」
「誰かいるんでありますか!?」
「「「!」」」

まずいと判断した3人は、咄嗟に雑木林に身を隠す。
2人の男は林の向こうで見回していると、仕事にあまり乗り気ではないのか、気のせいか、と呟きながら、神社の入口へ戻っていった。
翠は、2人の男や神社の様子を注意深く見ながら、小声で再び会話を始める。

「あの制服はセレクト隊だな。昨日の事件で警備してるのか」
「入口がテープでめっちゃ封鎖されてんじゃん。村崎が戸ぉぶっ壊すからだぞー?」
「しょうがねえだろ、緊急事態だったんだから」
「「やはりお前か」」
「しまったあああ」

自白をしてしまった事に、醤は頭を抱えて小さく叫ぶと、翠は少し考えて口を開いた。

「……村崎。あの神社に、お前のメダロットがいるかもしれないんだよな?」
「? あ、ああ」
「じゃあ……ちょっと俺、セレクト隊撒いてくるよ」
「ええええ!?」

翠の爆弾発言に、驚きを隠せず醤は反射的に口角を上げた。
醤は、翠の身を案じ、更に言葉を続ける。

「やめとけって、陸上の大会出られなくなんぞ!?」
「大丈夫だって。これぐらいで駄目になってたら、どっちみち大会で結果出せないよ」
「おっふ」
「いってらー」

翠の言い分に醤は言葉を失うが、甘太はうって変わって動じることなく、セレクト隊に向かっていく翠に手を振った。

「すいません! 今そこで怪しい人とぶつかったんですけど!」
「何だって!? 犯人でありますか!?」
「どっちに行ったんでありますか!?」
「こっちです!」

難なくセレクト隊を信じ込ませた翠は、そのまま2人を誘導し、神社の石段を急いで降りて行く。
そんな3人を見送った醤は、神社の方へ歩きながら、後ろを歩く甘太に少し遠い目で尋ねた。

「なぁ、いけない事してんのに何でアイツあんなに恰好良いの?」
「陸部のエースで彼女がみっちゃんだぞ? かっこ悪ぃ訳ねーだろ」
「凄ぇ納得した」

醤は、頭の中に同じクラスにいる翠の可愛い恋人の顔を思い浮かべながら、入口に貼られた黄色いテープを押しやる。
御堂の中へと足を進めると、醤は見回しながら声を掛けた。

「ジジー、いるかー?」
「……へー、神社の中ってこうなってんだな」

醤に続いて、甘太もテープを避け、中を見回しながら入る。
すると、御堂の奥から何かが小さく突く音が聞こえた。

「ここか?」

醤が床に片足をつき、大きな戸棚の戸を横に引いても、中は空洞で、生き物どころか何も入っていなかった。
しかし、小さく突く音はその場所から絶えず、醤は恐る恐る棚の底板を外した。
頭隠して尻隠さず……ならぬ、ミサイル隠してオチツカー隠さず。
見事に上下逆さまではまり込んでいるメタルビートルを見ると、醤は呆れながら低い声で聞いた。

「……何やってんだアンタ」
「あ、慌てて隠れたら、身動きがとれなくなってしまったのだよ。すまぬが、助けてくれぬか?」

色々言いたい事を喉の奥に押し込み、溜め息をつくと、醤はオチツカーを戸棚の外へ引っ張った。
それと同時に、戸棚の向こうからメタルビートルの訴える声が聞こえ始める。

「いだだだだだ曲がる、発射口が抜けっ……いだだだだだ」
「自分で外せねぇのか?」
「ワシが外す前に外れかねっだだだだだだ」

どうやら奥にミサイルが引っ掛かっているらしく、どうしたものかと醤が思案していると、ピロリン♪、という軽快な音が御堂に響いた。
音のする方へ醤が目を向けると、甘太が携帯を醤達の方へ構えている。

「はは、面白ぇー」
「鬼かお前は!? 写真撮ってねえで手伝えよ!」





「御客人が来てくれたというのに、見苦しい所を見せた上、助けて頂き申し訳ない。ワシはこの神社の御神体なのだよ。
 名は無いから好きに呼んで欲しい」

醤と甘太の2人で試行錯誤している所に、見事セレクト隊を退けたらしい翠が丁度戻り、何とか3人掛かりでメタルビートルを引っ張り出すことに成功した。
メタルビートルは、ミサイルの付け根を擦りながら甘太と翠の前に正座し、そう述べる。
挨拶を受けると、甘太はいつもと変わらぬ笑顔で、翠は“御神体”という単語に恐縮した様子で返答した。

「神様かー、成程なー……ども、佐藤甘太っす。お買い物の際は、是非佐藤商店へ」
「初めまして。村崎と仲良くさせて頂いてます、尾根翠です。えーっと、本物の神様と会えて光栄です」
「畏まらずとも良い。名ばかりの存在なのだよ。ショウがいつもお世話になっておる」
「……おいジジイ」

互いの挨拶が済んだことを見計らい、醤はメタルビートルを呼ぶ。
用件を聞こうと、メタルビートルは自分の斜め前に立つ醤を丸い目で見上げた。

「今日のお供えだ」
「! 燃料ではないか! かたじけない、恩返しをしなければいけないのはワシの方だという、のに……?」

ビニール袋の中にオイルを見つけ、メタルビートルは喜びから声を上げた。
何だかんだ言ってもロボットである事に変わりは無いようで、嬉々として受け取ろうとするが、醤は袋をメタルビートルから遠ざけ、黒い笑顔を浮かべる。

「言ったろ? あげるんじゃねぇ、供えるんだ。欲しけりゃそれなりの事して貰おうか……?」
「そ、『それなりの事』……?」

確かにオイルは欲しいが、醤が自分に何を言うつもりなのかわからず、メタルビートルに緊張が走る。
翠も少し緊張しながらその場を見守り、甘太は表情を変えず只々見ていた。
時は、動いた。

「オレのメダロットになってください!!」

見事な御辞儀だった。
角度にして90度。面接なら好印象なそれ。
頭を下げる醤を見て、最初に口を開いたのは甘太だった。

「お前さぁ、プライドねーの?」
「うるっせえ!! 願い叶えんのにプライドなんざ邪魔なだけだろ!」

頭を上げて甘太に怒鳴る醤を見て、翠は何かを諦めたように深く溜め息をついた。
そんな中、僅かに視線を外し、メタルビートルは気まずそうに言う。

「ワシに出来る事ならば、ショウの願い事を叶えたい気持ちは山々だ。なれど……ワシは道祖神。
 この町のモノである以上、誰かのモノになる事は……」
「っそれでも」
「あんたさー、」

メタルビートルの言葉を聞いて醤は咄嗟に喋ろうとしたが、甘太はメタルビートルの目を真っ直ぐ見て、2人の声を遮った。
甘太は、メタルビートルを指差しながら、その指先で幾重にも小さく円を描く。

「そのボディー1式、村崎がどうやって手に入れたか知らないんじゃねー? ローン組んでやっとこさ手に入れたっつーのに」
「!」
「さ、佐藤!」

自分のためを思って甘太が喋っている事をわかっていつつも、メタルビートル本人の耳に入れて良い話ではないと、醤は名を呼んで制止しようと試みる。
経緯を知り、メタルビートルは少し震えた声で醤に尋ねた。

「……しゃ、借金しておるのか……?」
「そっ、んな大袈裟なモンじゃねぇから震えんな!」
「だからさー、」

醤を尻目に、メタルビートルの両肩に手を置くと、言葉を続けた。

「メダルごとおれの店来いよ」
「何言ってんだお前えええええ!? 本末転倒じゃねーか!!」

予想の斜め上を飛んで行った甘太の発言に、醤はありったけの怒号を浴びせた。
御堂の中が振動しているように錯覚をする程、その声量は凄まじい。
甘太は醤に視線を移し、淡々と話す。

「メダロットにならないぐらいなら、ローン帳消しにした方が良いんじゃね? 後切らしてんだよなー、KBTシリーズ」
「それが魂胆だろ最終鬼畜商人シュガー・K!!」
「コイツには1回、金を稼ぐ事の大変さを身をもってわからせるべきだって」
「体にも人工知能にもガタ来てっけど、腐っても神様だぞ!?」
「お前ら神様にもっと優しくしてやれよ、さっきから固まって微動だにしてないぞ」

2人のやり取りと、硬直しているメタルビートルを見て苦笑した後、翠は優しくメタルビートルに語りかけた。

「なぁ、俺からも頼むよ神様。難しい事かもしれないんだけどさ……村崎、ずっとメダロット欲しがってたんだ。
 やっと手に入れられたんだって、俺も佐藤も嬉しかった。……どうしても駄目なのか?」

翠の言葉を受け、メタルビートルは悲痛そうに目を伏せた。
そのまま、静かに謝る。

「……すまぬ」
「……何に謝ってんだよ」
「願いを叶えられぬ事、昨夜置き去りにしてしまった事、ショウに1つ嘘をついた事、なのだよ」

醤の質問に1つ、また1つと答えると、メタルビートルは醤を真っ直ぐ見据えた。
その目は、醤に“道祖神”について説いた時の目と等しい。

「『この御堂から出れん』と言ったが……いや、基本的には出られぬのだが、知っての通り、出る事が出来る場合もある。
 ……“虫の知らせ”。ワシは、そう呼んでおる」

3人は誰1人口を開かずに聞き入り、メタルビートルは語り続ける。

「この町で誰かが“助け”を願うと、その願った場所を知らせる“音”が、ワシの頭の中で鳴り響くのだ。
 “虫の知らせ”が来れば、ワシは道祖神としての責務を果たす為、外に出る事が出来る。
 ……そして、問題が解決すると酷い頭痛に襲われ、神社に戻るまで止まぬのだよ」
「そうだっ、たのか……」

よく出来ているであろう?、と自嘲気味に笑うメタルビートルに、醤はそう呟く事しか出来なかった。
甘太や翠に至ってはあまりの痛々しさに言葉が出ず、メタルビートルは優しい声色で言葉を紡ぐ。

「ワシは自由に外を出られる身ではないから、お前と一緒にいる事が出来ん。
 一緒にいようとて、ワシの仕事は危険な上に、お前の大切な時間を奪ってしまう。
 ……ショウが欲しいのは、こんな絡繰りではないだろう?」
「……オ、レは……」
「! 皆逃げろ!!」

醤が何か言いかけたが、メタルビートルがそれを遮り、目を見開いて叫んだ瞬間。
4人の視界を閃光が、耳を爆発音が支配した。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「わあああああ!? 何だ今の爆発!?」
メ「おのれ、敵襲か!」
ゴ「皆の者、我等が攻め滅ぼすべきは毛利にあらず! 敵は……御守神社にあり!!」
メ「……次回。『六角形の神サマ』第伍話、『近代式天照大作戦(後篇)』」
ゴ「テンション低ー!?」
醤「後で謝っとけ。アレは結構イラッときてるぞ」

六角形の神サマ 第伍話/近代式天照大作戦(後篇) ( No.5 )
   
日時: 2018/01/14 15:15
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第伍話/近代式天照大作戦(後篇)





「わあああああ!?」

全員が咄嗟に身を屈めるが、砕け散った木片が熱風と共に襲いかかった。
衝撃が止み、木片の中から村崎醤(ムラサキショウ)が上体を起こす。

「ぶはっ!? 何なんだ!?」
「皆の者、無事か!?」
「はーっはっは!!」

昨日散々聞いた笑い声を耳にし、醤は駆け出し、入口の横を掴んで1歩外へ出た。
神社の正面には、醤が思っていた通りの人物・未来人のような恰好をしたゴーグルの男が腕を組んで仁王立ちしている。

「テメエは昨日のロリータ・コンプレックス!! 何でここが……!?」
「ふはははははは! 昨日振りだなクソガキ! 知れた事! お前達の後を尾け、機会を伺っていたのだ! 『覚えとけ』と言った筈だ!
 ……それと略せって、違うけど」

予想はすれど対処出来なかった己の迂闊さに、醤は歯軋りをした。
自分やメタルビートルはともかく、無関係である尾根翠(ビネスイ)と佐藤甘太(サトウカンタ)を、顔を見られることなくどう帰すか考えていると、醤の後ろから本人達が顔を覗かせる。

「いってて……村崎、さっきから誰と話してるんだ?」
「? 何だアレ、メダロット教の使徒か?」
「バカ! 来んな!」
「冥土の土産に教えてやろう! 1度の軽率な行動が、周りの人間をも巻き込んで災いするという事をな!」
「!! やべっ……!」

ゴーグル男の言葉が合図だったと言わんばかりに、男の横に控えていたクラゲ型メダロット・プルルンゼリーが、醤達目掛けて頭のミサイルを放った。
3人が体を退くのが遅れると、傍らを小さい影が横切り、ライフルがミサイルを撃ち落とす。

「! ジジイ!」
「ショウ、2人を連れて逃げるのだよ! 再び爆発に巻き込まれかねん!」

焦った様子のメタルビートルから、プルルンゼリーに視線を移し、醤は不利な状況であるにも関わらず口角を上げた。

「……カグラ」
「『カグラ』!?」
「好きに呼んで良いって言ったよな? “楽しそうな神様”で“神楽(カグラ)”だ。
 ロボトルで何て呼んで良いかわかんねぇからな、今はそれで我慢してろ」

この状況下で突然名前の話を持ち出す醤に、甘太と翠の2人は怪訝な表情を浮かべた。
メタルビートルは復唱した言葉が自分の名である事を理解すると共に、醤が一緒に戦おうとしている事も理解し、声を上げる。

「いかん! 今ならまだ間に合うから早く――」
「手遅れだ! アイツの性格考えてみろ! オレ達の誰か1人でも見逃すと思うか!?」

醤の言い分に非が無いためメタルビートルが押し黙ると、すぐに頭を掻きながら、醤は苦笑した。

「悪ぃ、オレも……『今だけ』なんて嘘っぱちだ。……一緒に戦わせてくれ、神様」
「……何を言っておる」

メタルビートルは、醤のうって変わった真剣な表情に、今自分が何をすべきか思い当った。
いつものようにおどけた様子で、メタルビートル……カグラは、笑う。

「ワシの名は“カグラ”であろう? ショウよ」
「……! そうだったな、カグラ!」

カグラの返答を聞くと、醤は力強く笑い、メダロッチがついている左腕の袖を捲った。

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「「「「「「!」」」」」」

全員が声のする方へ目を向けると、雑木林の木から同じ制服に身を包む2人が飛び降り、降り立った場所にスポットライトが照らされた。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
「うわー、何か濃い2人だなー」
「俺はノーコメントで……」

Mr.ジャムとMs.マーガリンが初見であるため、甘太は若干脱力し、翠は目が合わないように視線を外し、苦笑しながら感想を述べた。
2回目の登場で慣れつつあるのか、醤は鞄から工具箱と弾薬を出すと、カグラに話し掛ける。

「カグラ、今の内にサブマシンガン補充すんぞ」
「ああ、そうだったのだよ」
「何をモタモタしている!? レフェリー、さっさと始めてしまえ!」
「駄目駄目! せっかちな男は嫌われるぞ!」

弾薬の補充を良しとしないゴーグルの男がそう怒鳴ると、いつの間にか隣に移動していたらしいMr.ジャムが男の肩に手を置いた。
その様子を見て、Ms.マーガリンが拡声器を手に言葉を発する。

『そんな事言って、先輩もトイレ待ち切れなくて女の人が入ってるのに扉開けたじゃないですかー』
「「「「「「!?」」」」」」
「HAHAHA!! 嫌だなあ、マーガリン! ボクはそんなせっかちな男じゃないよ!」

場の空気が凍りかける中、Mr.ジャムは白い歯を輝かせて笑いながら、爽やか……を通り越し、暑苦しく言い放った。

「トイレが待ちきれなかったんじゃなくて、扉の向こうのユートピアが見たかっただけさ☆」

直後、Mr.ジャムはパトカーに強制連行され、Ms.マーガリンは変わらぬ笑顔でハンカチを振った。
その異様な光景を目の当たりにし、甘太と翠は小さく呟く。

「メダロット協会って誰でも入れんだな」
「……俺はノーコメントで」
「よし! 補充完了!」
「ちっ! 終わったか!」

丁度サブマシンガンの補充が終わり、ゴーグルの男は舌打ちした。
醤は、周りに聞こえぬように、カグラに耳打ちする。

「……良いか、カグラ。昨日の半分だ。大体で良いから、半分の出力で戦ってみろ。それと……」
「? わかったのだよ」
『合意とみてよろしいかなー!? それではー、』

Ms.マーガリンの掛け声に、醤とゴーグル男は睨み合いながらメダロッチを構えた。
合図が、神社構内に響き渡る。

『ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』
「カグラ! 右腕に向かってリボルバー!」
「心得た!」
『カグラ! 先手必勝とばかりに前進ーッ!』

カグラはプルルンゼリーに向かいながら、左腕で右腕を支え、ライフルを放った。
ゴーグルの男は直感的に危機を察知し、指示を出す。

「プルルンゼリー! 後退してインターミサイル、ガイドミサイル!」
『プルルンゼリー! 直撃は免れたが数発ヒットー! 両腕同時攻撃にカグラはどう出るー!?』
「カグラ、一斉射アアア!」

ライフルを喰らうが怯むことなく、プルルンゼリーは両腕の標準を合わせる。
醤は狙い目とばかりに叫び、カグラは両足で地を踏みしめ、ライフルとガトリングを同時射撃した。
プルルンゼリーが撃ったミサイルは自分のパーツの至近距離で爆ぜ、爆発音と共にプルルンゼリーの両腕が黒ずんだ。

『プルルンゼリーの両腕大破ァー! さあ、ここからがプルルンゼリーの正念場だー!』
「くっ、何だと言うんだ……!? ボロボットの動きが昨日とまるで違う……!」

現在の戦況にゴーグルの男は奥歯を噛み締め、プルルンゼリーはカグラから距離をとった。
カグラはガトリングを撃ちながら、プルルンゼリーとの距離を詰めていく。
その様子を見ながら驚愕しているのは、翠や甘太も同様であった。

「……なぁ、村崎って昨日初めてロボトルしたんだよな?」
「村崎がメダロット買ったのは、確かに昨日だ。
 元々のメダルの熟練度が高いにしろ、メダロッターとメダロットのバランスが崩れりゃここまで戦えねーよなあ……」

醤本人の間近でするような話ではなかったが、醤は目の前のロボトルに集中し、2人の会話はあまり入っていない様子であった。
不意に醤の口元が小さく動いたため、2人は聞き耳を立てる。

「……もうちょい出力抑えて、いや出力をロボトル中に調整出来れば……」

――駄目だこの廃人、どうにかしないと……。

2人が呆れて絶句している間にも、カグラはプルルンゼリーとの距離を僅かに詰めていく。
醤とカグラは、ロボトル前の会話を思い出していた。

『それと……プルルンゼリーの頭部・脚部の装甲は厄介だ。
 脚部で防御されねえように接近戦に持ち込めば、リボルバーとサブマシンガンで戦況はかなり有利になる』

後少し、後もう少しと頭の中で繰り返しながら、プルルンゼリーの装甲を削っている最中だった。
苦い表情を浮かべていたゴーグル男は、ある程度の距離になると口端を吊り上げる。

「……フン、浅知恵を。お前らの考えなどお見通しだア!!」
「なっ……!?」

ゴーグルの男が叫ぶや否や、プルルンゼリーは頭からミサイルを放つ。
ミサイルはカグラを攻撃するかと思いきや通過し、カグラが方向転換し走り出したと同時に神社に直撃した。

「うわああっ!?」
『おおーっと!! 流れ弾が神社にクリティカルヒットー! 3人の少年の運命は如何に!?』
「ショウ!!」
「……レ達は大丈夫だ、プルル……リーから目ぇ、離すんじゃねえ……!」
「っぐああ!」
『脚部パーツ、ダメージポイント63』

立ち上がる白い煙から醤の声が聞こえたかと思うと、目を離したためプルルンゼリーの突進を許してしまい、カグラは仰向けに倒れた。
煙の向こうにいる醤は状況が把握出来ず、叫び声を上げたカグラの身を案じる。

「げほっ……おいカグ、ラ……!?」
『脚部パーツ、ダメージポイント79』
「ぎッ……!?」
『プルルンゼリーがカグラに乗り上げたアアア! これでは身動きがとれないぞー!?』

Ms.マーガリンの実況に醤は目を見開き、すぐさま煙から顔を出した。
2体を確認すると、カグラがクニャタンクの下敷きになっている。
折角の至近距離であるのに、両腕も脚部と共に押し潰され、使用不可の状態である。

『脚部パーツ、ダメージポイント100。機能停止。右腕パーツ、ダメージポイント51。左腕パーツ、ダメーポイント40』
「カグラ!!」
「だーっはっは!! どうした、お前等お望みの接近戦だぞ!?」
「……ッ」
『右腕パーツ、ダメージポイント56。左腕パーツ、ダメージポイント44。頭パーツ、ダメージポイント7』

プルルンゼリーのキャタピラが徐々に移動し、カグラの機体から軋む音が、醤のメダロッチからダメージカウンターが響く。
ゴーグルの男は、楽しくて仕方が無いと言うように言葉を続けた。

「ボロボット! これ以上クソガキ共にミサイルをぶち込まれたくなければ降参しろ!
 そうすればお前の機体だけ貰い受けて帰ってやるとしよう、メダルは割ってな! はーっはっは!!」
「……を……か……」
「聞こえん! 降参ならもっとハッキリ……――」
「ミサイルを、撃てぬのか……?」

低く、そして微かに笑いながら、カグラは言葉を紡いだ。
ゴーグルの男は、至近距離でミサイルを使うリスクを突かれ、ひくりと笑顔を引き攣らせる。

「危ない橋は、渡らぬか……だから、ワシ等に勝てぬのだよ……!」

次の瞬間、2体は衝撃音と共に爆風に包まれた。

「ぎゃあああプルルンゼリイイイイイ!!」
「カグラァ!!」
「べっべっ、木クズが口ン中にも……今の、どっちのミサイルだ?」
『カグラのミサイル炸裂ー!! 諸刃の剣はどちらに味方するのかー!?』
「……カグラらしいな」

ゴーグル男や醤が自分のメダロットの名を呼び、甘太は木屑を吐き出しながら尋ねる。
Ms.マーガリンの実況を受けて翠がそれに答えると、一枚のメダルが地面を転がり、土煙の中からプルルンゼリーが崩れ落ちた。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「す、凄いな……」
「マジで勝っちゃった……」
「カグラ!!」

Ms.マーガリンが勝利を高らかに称え、翠と甘太が感嘆の声を漏らす中、醤は一目散にカグラの元へ駆け寄った。
ナノマシンによりパーツが修復され、カグラが上体を起こすと、醤は傍らに腰を下ろす。

「大丈夫か?」
「大事無い。やったな、ショウ!」
「ああ。ったく無茶しやがって、けど上々だ」

醤が苦笑しながら手を差し伸べると、カグラは手を掴んで立ち上がった。
その様子を見て、いつのまにかプルルンゼリーのメダルと機体を回収していたゴーグルの男は、悔しそうに左右に歯軋りをする。

「うぉのれクソガキにボロボット、1度ならず2度までも……!!」
「……それは此方の台詞なのだよ」

カグラはゆっくりとゴーグル男の方へ向き、視覚センサーの光が火の玉のように揺らめいた。
只ならぬ様子に、ゴーグルの男は一瞬で己の顔を青く染める。

「よくも1度ならず2度もショウを……それも、カンタやスイをも手にかけてくれたな? ……お灸を据えてくれるわ!!」
「いでっ!? いででででで!?」

――おっかねえええ……!

おどろおどろしく言い放つと、カグラはサブマシンガンを構え、ゴーグル男の足元に発砲した。
高校生3人も、先程との穏和な雰囲気との格差に、若干顔が青ざめる。
ゴーグルの男は、ガトリングに堪らず声を上げながら、射程距離範囲外まで逃げると、再び醤達の方へ向き直った。

「クソガキ!!」
「!」
「お前もめでたく我が組織の標的入りだ!! 我々を敵に回した事、必ず後悔する日が来るだろう!!」

ゴーグルの男が全く懲りていない事を知ると、醤は負けじと声を張り上げる。

「上等だ!! 返り討ちにしてやるから覚悟しとけ、ロリータ・コンプレックス!」
「ロリータ・コンプレックスではない!!」

夕日が男の白い衣服を照らし、右胸に刻まれた“Tc”というマークが光る。

「俺は秘密結社テクノポリスが1人、エリアリーダー・タバスコ!! 精々メダルを洗って待っているが良い!」
「……どうもお灸が足りないようだな」

カグラがそうため息をつくと、彼の角から1対のミサイルが放たれた。
ミサイルを見るや否や、ゴーグルの男・タバスコは、雑木林の方へと一目散に逃げ出す。

「わあああ!! ボロボット! 今度こそお前をスクラップにしてやるからなあああ!」

タバスコの姿が見えなくなると、醤とカグラは顔を見合わせた。
互いに、笑顔が浮かぶ。

「本当にワシで良いのか? ワシは神社を出られぬぞ?」
「オレがここに来りゃ良い話だろ。今までと何も変わんねぇよ」
「……そうか」
「おーい! 村崎! カグラ!」

2人が声のする方へ振り向くと、翠が笑顔で手を振りながら駆け寄った。
その後ろを、甘太がマイペースに歩く。

「やったな! 凄いよ2人共!」
「よぉ尾根! サンキュー!」
「スイ、カンタ、大事は無いか? 巻き込んでしまいすまなかった」
「気にすんなよ。自分でもビックリだけど怪我ねーし」

甘太が頭の後ろで手を組みながらそう答えると、翠がカグラに心配そうに尋ねた。

「それより……あの、大丈夫なのか?」
「案ずるな。戦闘の怪我なら既に回復した」
「いや、違くて……」
「?」

首を傾げるカグラに、ちょいちょいと神社を指差しながら甘太は言葉を続ける。

「神社、全壊じゃね?」
「「!?」」

甘太の言葉を聞き、醤とカグラは勢いよく指を差された方向へ顔を向けた。
そこには、見慣れた筈の神社は無い。
かわりに、大きさが疎らな木材が転がっているだけだった。

「ワシの……ワシの神社……」

この時、カグラのオレンジ色のボディーは只々真っ白に染まっていたという。KWGのように。





「ショウ、重ね重ねすまない。よもや、斯様な事になるとは……」
「仕方ねぇだろ、神社がああなっちまったら」

夜。
甘太や翠と別れ、醤はカグラと共に帰路を歩く。
御守神社が全壊したため、カグラは醤の家に行く事となった。
神社が崩壊したからか、醤に申し訳ないからか、はたまた両方か……その表情は暗く、落ち込んでいる。
醤は頭を掻きながら、カグラに問い掛ける。

「頭痛は?」
「頭痛は、無いな。神社が壊れ、結界のようなモノが解かれたのやもしれぬ」

溜め息をつくカグラを見て、内心、神社が壊れて良かったのかもしれない、と思った。
しかし、落ち込むカグラを見ても、調子が狂うばかりである。

「……あのままってことは無ぇだろうし、時間かかろうが誰かが直すだろ」
「……人に忘れられた神社をか?」
「意外と覚えてる奴もいるみてぇだしな」

そう。昨日壊れた神社の扉が、翌朝の今日には話題となっていたのだ。
自分以外にも神社を気にする人間がいる事を、醤は自分にも言い聞かせながら、少し安堵した。

話しながら歩いている内に、とうとう村崎家の玄関に到着した。
ここが、醤の勝負所である。

「……いいかカグラ、今から2階に上がるまで喋るなよ」
「こ、心得た」
「行くぞ……!」

醤の気迫に、カグラは何度も頷いた。
醤が鍵を開け、扉の取っ手に手をかける。
扉を開け、2人同時に走り出した。

「ただいまあああ!!」
「おかえりー。……?」

一気に階段を駆け上がり、2階の部屋に飛び込むように入ると、醤は急いで鍵を閉め、小声でカグラに話す。

「カグラ! 取り敢えず押し入れに隠れてろ」
「惜しいな、ワシが猫型であればd」
「頼むからそれ以上喋んなよクソジジイ、っ!?」

醤が笑顔を歪ませながら言うと、背にしていた戸が音を立てて開いた。
思わず肩を跳ね上がらせた醤は、ゆっくり振り向く。
視界の隅に、伸びた手が戸の横のスイッチに触れる。

「あれ~? おかしいな~、鍵かけたんだけどな~……?」

震えた声で言いながら醤が戸に目をやると、錠“だった”物がぶら下がり、振り子のように揺れていた。
部屋の入口に仁王立ちする、怪獣“ペットナンテユルサナイワヨン”……もとい醤の母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)が、鬼神の如き形相で口を開く。

「あんた、電気もつけずに何やってんの……?」
「こ、これからつけるトコだったんだよ」
「階段上がる足音、1人分多くなかった?」

不意に図星を突かれ、醤は誤魔化すようにおどけて笑った。

「こ、こえー事言うなよな~! オレだけなのに!」
「まさかあんた……!」

カグラの存在がバレたと悟りながらも、どんな事を言われても平常心でいるために身構える。

「女の子連れ込んだんじゃないでしょうね!?」
「そんな羨ましい事出来るかボケェ!!」

醤が激情し、声を上げた瞬間、“何か”が醤の顔を横切る。
恐る恐る振り返ると、押し入れの戸にフライ返しが突き刺さっていた。
醤の顔を、冷や汗が伝う。

次の瞬間、いつの間にか真後ろにいたゆかりが、勢いよく押し入れの戸を開けた。
醤と、目を丸くしたまま硬直したカグラの目が合う。

「ショ、ショウ、今何か刺さっ……?」

かろうじてカグラが言葉を絞り出すと、ゆかりが噴火した。

「ペットは駄目だってあれ程言ってもわからんのかお前はアアア!?」
「うるせえええ!! メダロットはペットじゃねえって何べんも言わせんなアア!!」

醤がゆかりに逆切れし、醤の部屋は一瞬で爆心地と化した。
更に、ゆかりは怒号を浴びせる。

「元の場所に戻してきなさい!! 出来なきゃお前を捨ててくれるわアアア!!」
「面白え! やれるモンなら……――」
「ショ、ショウの母君!」

醤の言葉を遮り、カグラはゆかりを見上げ、話し掛けた。
ゆかりは、カグラをも怒鳴りつける。

「貴方は黙っていなさい!!」
「よ、宜しければ何故“ぺっと”とやらが駄目なのか教えてくだされ!」

カグラは幾ばくか気圧されながらも、ゆかりを真っ直ぐ見て問い掛けた。
醤は、何を言い出すのかとカグラに尋ねる。

「お前何言っ……」
「……ペットを買えばお金がかかるし、世話もしなきゃいけない。それより何より、みんな早く死んじゃうじゃない! もう嫌なのよ!
 家族が死ぬなんて!」
「……母さん……」

理由を初めて聞き、ゆかりの悲痛な表情を見て、醤は先程までの苛立ちを忘れ、言葉を失くした。
その言葉を聞き、カグラは床に手をつき訴えかける。

「それならば心配御座らぬ! ワシは自分の事は自分で出来るし、自分に必要なお金も頑張って稼ぐ!
 それに、背中のメダルが割れぬ限り死にませぬが故! ですから、どうか此方へ置いてくだされ……!!」

カグラは言い終えると、そのまま深々と頭を下げる。
今度は、醤とゆかりが絶句した。
呆然とカグラを見ていたゆかりだったが、少しして笑顔を浮かべる。

「私も駄目ね、メダロットにこんな事させるなんて」
「か、母さん……!」
「母君……!」

ゆかりの言葉を聞き、醤も、頭を上げたカグラも、表情を明るくした。

「醤、その子の事を大事になさい。……ううん、大事にしていきましょう。醤にとっても、私にとっても、新しい家族なんだもの」

最初に恥ずかしい所見せちゃってごめんなさいね、と、ゆかりは苦笑しながらカグラに謝る。
醤とカグラは、喜びながら感謝を述べた。

「ありがとな母さん!!」
「かたじけない!!」
「それで……」

2人を見て微笑んでいたゆかりだったが、醤の方に顔を向けると笑顔が消えた。

「何か言いかけてたけど、あんたの事は捨てて良い訳?」
「すみません、オレが悪かったです。どうか捨てないでください、ごめんなさいお母様」


今度は、醤が土下座する番だった。
かくして、カグラは村崎家の一員となったのである。



メダロッチ更新中……――
・ミサイルベース(JEL-01。うつ攻撃:ミサイル)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「えー、皆様お待たせしました。レギュラーが野郎ばっかでむさ苦しかった事でしょう!」
カ「ということは、女子が出るのか?」
醤「イエス! 女の子は良いよなー! おしとやかだし、可愛いし、物腰柔らかいし!
  ……凶暴じゃねえし、人のメダロット盗ろうとしねえし、恐くねえし……」
カ「どうした、表情が暗いぞ? ……おや」
梓「次回。『六角形の神サマ』第陸話、『神様争奪戦(前篇)』。神様を賭けて、ロボトルファイト」
醤「勝手に賭けんな!!」

六角形の神サマ 第陸話/神様争奪戦(前篇) ( No.6 )
   
日時: 2018/01/14 15:31
名前: 海月

――取り敢えず、何で今こうなってんのか整理しよう。……駄目だ、何も考えられねぇ。

それでも、村崎醤(ムラサキショウ)はここに至るまでの経緯を、必死に思い返していた。

HRが始まる前の事。
醤は、自分の机の中に1枚の小さなメモ用紙が入っている事に気付く。
そのメモ用紙は色も模様も無く真っ白で、黒いボールペンでこう書かれていた。

『放課後に話がしたい。屋上で待ってる。 ――波花梓音』

波花梓音(ナミハナシオン)と言えば、話題に上がったり、メダロットの修理を頼んだりと、一方的ではあるが、最近醤に何かと縁がある、醤のクラスメートである。
身長が低い割に、“可愛い”より“綺麗”という言葉の方がしっくりくる、神秘的な印象の少女だった。
そんな彼女から、恋文じみたメモを貰ったのだ。
『違う』と自分で否定しつつも、心のどこかで舞い上がってしまうのが本音だろう。
特に、醤のように、日頃から『青春を謳歌したい(醤語で“リア充になりたい”の意)』と嘆く少年にとっては。

屋上に向かうのに、醤は浮足立ちながらも、自分が好きな子の顔を思い浮かべ、どう断るべきか考えていた。
普段施錠されている筈の屋上への扉はドアノブを捻ると開き、醤は緩んだ顔を引き締めようと、緊張した面持ちで扉を開く。

屋上に1歩踏み込むと、メモの通り、梓音が佇んでいた。
太陽は彼女の髪を照らし、ミントグリーンのグラデーションが、色鮮やかに醤の目に映る。
まるで1枚の絵画のような光景に目を奪われた時間のロスはあったものの、先に口を開いたのは醤であった。

「よ、よぉ! 珍しいな、お前がオレに用ある……とか」
「……」

醤が喋り始めるや否や、梓音はゆっくりと醤に向かって歩き始めた。
先程の甘酸っぱい妄想が脳内で確信に変わり、醤は照れながらも言葉を続ける。

「悪いけどよ、オレ今好きな子……――」

梓音の顔が醤の眼前を満たした直後、顔のすぐ横に生じた鈍い衝撃音が、醤の動作を、思考を停止させる。

「……が?」

最後の1文字を吐き出す醤の視界に、梓音が“何か”を握っている映像が入り込んだ。

――拝啓、道祖神のカグラ様……。

目だけで辿っていくと、それは……――。

――何でオレのすぐ横に、ドライバーが刺さってるんでしょうか……?





『六角形の神サマ』 第陸話/神様争奪戦(前篇)





「……単刀直入に聞く」

目の前の1対の深緑が、醤を睨む。
醤の身長の方が高いため、自然と上目遣いになるのだが、全く嬉しくない。

「御守神社に何したの?」

梓音の口から、聞き慣れた、且つ梓音の口から聞く事になるとは想定していなかった単語に、醤は目を見開いた。
梓音の事を何一つ理解していないのに可笑しな話だが、それでも醤は、“波花梓音”と“御守神社”を繋げる事が出来なかった。

御守神社。
それは、幼少期に助けられてからというもの、醤が毎朝欠かさず参拝していた場所であり、現在の彼の愛機・カグラが御神体として祀られていた場所であった。
先の、秘密結社テクノポリスが1人・タバスコの襲撃により全壊し、今は木片の山と化している。

顔の横にドライバーが突き立てられてから硬直していた醤であったが、持てる力を込め、何とか口を開く。

「……何も、してねえよ」
「嘘」

醤の返答は、冷めきった声により切り捨てられた。
梓音は、静かに言葉を続ける。

「一昨日の“御守神社の扉破壊事件”、並びに昨日の“御守神社全壊事件”……」
「……!」
「少なくともこの2つは、どっちもお前が関わってる」

――『 お 前 』 呼 び か よ 。

切羽詰まったこの状況で『突っ込み所が間違っている』と言えなくもないが、女子に、それも全く親しくない人間による『お前』呼びに、醤は眉間に皺を寄せた。
もしかすると、軽い現実逃避の一種かもしれない。

苛立ちから突き立てられたドライバーの存在を忘れ、醤の思考は再び、少しずつ回り始める。

「……波花、お前……昨日神社に行ったのか?」

“全壊事件”が醤のクラスで公にされたのは、今朝のHRだった。
新聞は、神社=宗教絡みを彷彿とさせる内容が内容であるためか、事件について何も触れていない。
しかし、梓音のメモが醤の机に入っていたのは、HRの前である。
梓音自身が神社に訪れるか誰かから聞かない限り、それを知る事は出来ない。

「質問してるのはコッチ。次、嘘ついたり、ワタシの質問への答え以外を喋ったら……」

梓音は質問に答えず、ドライバーを握る手に力を込める。

「眼鏡のレンズと目を、片方ずつ失う事になる」

梓音の言葉を聞いて恐怖と憤怒が入り混じり、醤の小さな堪忍袋の緒が、破裂音と共に千切れた。
所謂、逆切れである。

「っあーあーそうですよ!! どっちも関わってるついでに、一昨日の“メダロット強奪事件”にも関わってるよ!
 確かに神社の扉はオレが壊したよ! でも仕方無かったんだよ! これで満足か、ああ!?」
「……いきなり何……?」
「それはこっちの台詞だ!! 大体それが人にモノ尋ねる態度かゴラァ!!」

豹変した醤の態度に、怯えるというより半ば呆れて梓音は呟いたが、醤はそれをも一蹴した。
不意に、梓音は何かに気付いたように、今までとうって変わって余裕が無い表情で尋ねる。

「じゃあ、神社の中のヒトは!?」
「は!?」
「惚けるな!!」

梓音の気迫に、醤は口を一文字に結んだ。
梓音は、声を張り上げ続ける。

「『仕方無かった』って言ったのは、神社の扉を壊しただけじゃなくて御堂の中に用事があったからじゃないの!?
 “誰か”に会ったんでしょ!? そのヒトは、今どうしてるの……!?」

醤は梓音の言葉を聞き、驚愕と同時に確信した。
『波花梓音は、“カグラ”を知っている』。

――コイツ、カグラの事……!

「まさか……」

俯いているため、喋る梓音の表情はわからない。
ただ、怒りからか、悲しみからか、声は微かに震えていた。

「まさか、お前がワタシに修理を頼んだパーツ……アレって、本当は……っ」

顔を上げた梓音の目には、涙が浮かんでいる。
“神社の中の誰か”、“パーツ”……カグラを指し示す単語の数々に、その瞬間、醤は強い疑問を抱いた。

――どこまで知って……!?

「止めよ、シオン」

突如響いた第3者の声に、醤も梓音も顔を向けた。
屋上に降り立ったオレンジ色の足は、聞き慣れたスプリングの音を奏でる。

「それ以上ショウを責め立てるとなれば、ワシはお前を叱らねばならぬ」
「カグラ!」

カグラの姿を見ると、醤は明るい笑顔を浮かべた。
直後、何かが音を立てて屋上に落ち、醤が目をやると、先程まで醤の横に刺さっていたドライバーが転がっている。
梓音は醤に背を向け、カグラを見て呆然と立ち尽くしていた。

「……その、声……」

よろけながらカグラに1、2歩と近寄り、梓音は大粒の涙を零した。

「神様あっ……!」
「ジジ様あああああ!!」

梓音はカグラに駆け寄ろうとしたが、突然カグラに飛んできた“飛行物体X”に足を止めた。
醤が怪訝な表情で眼鏡を掛け直すと、カグラが尻餅をついており、見覚えのないメダロットがカグラを凄まじい力で抱き締めている。

「御無事で何よりですううううう!! 神社が壊れたと聞いてマリアはっ、マリアはオイルも喉を通りませっ……!」
「そ、の声、マリア、か……相変わらず元、気……かはっ」
「待て待て待て待て!! 力緩めろ! 『御無事』じゃなくなる!」
『頭パーツ、ダメージポイント9。右腕パーツ、ダメージポイント15。左腕パーツ、ダメージポイント13。
 ロボトル以外ハ強イ衝撃ヲ与エナイデクダサイ』
「オレの所為じゃねえよ!?」

注意喚起する自分のメダロッチに、醤は声を張り上げた。
完全に涙が引っ込んだ梓音は、少し低い声でメダロットの名を呼ぶ。

「……マリア」
「あっ!? ご、ごめんなさいしぃちゃん! ホラ、ジジ様のココ! ココ空いてますよ!」
「……」

梓音の方を見て謝り、『マリア』と呼ばれたメダロットは、抱き締める力を緩め、慌てて1人分のスペースを空ける。
梓音は無表情のまま頬を染めてしゃがみ、パズルのピースの如くスペースを埋めると、無言でカグラを抱き締めた。

「よしよし」
「オイこらジジイ!! 頭撫でてる場合じゃねえだろ! 何だコレ!?」

優しく梓音の頭を撫でるカグラに、経緯と現状が全く呑み込めない醤は怒鳴りつけた。
カグラは撫でる手を止め、首を傾げる。

「ショウも来るか?」
「スペース空けましょうか?」
「空けない、絶対に」
「行かねぇよ!! この状況説明しろっつってんだよ!!」

見当違いの事を言う各々に、醤は腹の底から声を上げた。





「初めましてショウさん! しぃちゃんの……梓音ちゃんのメダロット・クリムゾンナースのマリアっていいます!」
「『クリムゾンナース』? 聞いた事無ぇな」

醤がカグラから2人を引き剥がすと、マリアは残念そうな表情を浮かべた後、前で手を組み、醤に御辞儀した。
マリアが頭を上げると、醤はまじまじと見ながら名を復唱した。
“ナース”と言うからには看護婦型メダロットなのだろうが、僅かな面影を残して既存の看護婦型と外見が大きく異なり、真紅と白が全身を染め上げている。
看護婦の象徴たるナースキャップや、ぶら下がる2つのお団子ヘアが特徴的な頭パーツ。
横にカプセルのような物が浮かんでいる、右腕パーツ。
前丈が短いエプロン、それをぐるりと囲むロングスカート、後ろにリボンをあしらった脚部パーツ。
そして、何より目を引いたのが、彼女・マリアの身の丈より大きな注射器を担ぐ左腕パーツであった。
マリアは、自己紹介を続ける。

「マリアは、NASβ型……NAS型『ホーリーナース』を基に、しぃちゃんが新しく作ったメダロットです!
 まだ試作段階なので、公式に発表はされていません。今は、実践データを集めている真っ最中なのです!」
「成程。前もそうであったが、今の姿も可愛らしくてよく似合っておるぞ。マリア」
「ジジ様……! ありがとうございます!!」

カグラに褒められ、感激のあまり再び抱き着こうとしたマリアであったが、つい先刻の事を思い出し、抱き着かずに少し落ち込んだ様子で俯いた。

「さっきは挨拶もせずに、イキナリごめんなさい。ジジ様を見たらすっごく嬉しくなって……!
 マリア、興奮すると周り見えなくなっちゃうんです」
「猪かお前は」
「これショウよ、女子を猪に例えるものではない」
「ちょっと笑うの堪えてる奴に言われたくねえよ」

横を向いて口元を押さえるカグラに対して醤が冷静にそう言うと、マリアは両手を上げて怒る。

「ショウさんジジ様ヒドイですー!」
「……で?」

マリアの訴えを物ともせず、顔を背けている梓音を醤は睨んだ。
梓音はカグラと引き離されたためか、面白くなさそうな表情を浮かべている。
何も反応しない梓音に、醤は口元を引き攣らせた。

「オレに何か言うことあるんじゃないですかねー? 波花サンよぉ?」
「さっさと罰が当たって死ねばいい」
「よっし、その前にお前に天誅喰らわせてやる」
「落ち着くのだよ」

嬉々として両手の関節を鳴らす醤を、カグラは制止した。
カグラは醤と梓音を見て、優しく、そして少し悲しそうに述べる。

「ショウ。シオン。お前達は、ワシにとって大事な孫なのだよ。優劣など無い。
 そんなお前達が仲違いするとなると、ワシは悲しくて堪らん」
「……だって、……っ」

梓音はカグラの言葉に口を開きかけたが、また噤んだ。
埒が明かないと言いたげに醤は頭を掻くと、自分以外の3人に問い掛ける。

「お前らいつ頃知り合ったんだ?」
「ある日……幼稚園に通っていたしぃちゃんが、御守神社の賽銭箱の裏で泣いてたんです。
 しぃちゃん、周りのお友達にあまり馴染めなかったみたいで、ジジ様が話し相手に……」
「マリア!」
「ご、ごめんなさい! 順番に話さないとと思って……」

マリアが宙を見上げながら思い出話をすると、梓音が名前を呼んでそれを咎めた。
よく見ると、梓音の頬が微かに赤い。
泣いている梓音を、しかも言動・態度から言って嫌悪を抱いている自分に弱みを知られてしまった事が悔しいのだろう、と醤は解釈した。
会ったばかりであるが、元気がなくなるマリアを見ていられず、醤も口を開く。

「気にすんなよ、波花だって何も本気で……」
「恥じる事は無いぞ、シオン。ショウも初対面で泣いておった」
「クソジジイ!!」

マリアを慰めようとした途端、隣にいるカグラが暴露した事により、醤は声を荒げた。
醤とて、自分の苦い記憶を他人に知られたくないのは同じである。

「おっまえ何ヒトの黒歴史簡単に暴露してんだコラ!!」
「シオンだけ知られたのでは公平では無かろうて」
「向こうが勝手に誤爆したんだろーが、……っ!?」

カグラに怒鳴りかけていた所で、醤の目に、いつの間にか梓音の両手に握られていたプラスドライバーとマイナスドライバーが映った。
酷い形相で醤を見る梓音は、低い声で言葉を紡ぐ。

「『ジジイ』だの『クソジジイ』だの……さっきから何様のつもり? お前も神様に助けて貰ったんでしょ?
 なのに、恩もわからない馬鹿なの? 死ぬの?」
「そ、それとこれとは別だ! ユイチイタンかお前は!」
「名前違い。ちっとも上手くないのよ……」

ドライバーを構える梓音に慣れてきたのか醤も負けじと言い返し、2人は犬と猿のように睨み合う。
その様子を見て、カグラは一息ついた。

「止めよと言うに。話をしてみればわかると思うが、ワシはそんな大それた事をしておらん」
「そんなコト無いですっ! ジジ様がいなければ、マリアは死んでました!」

言葉とは裏腹に憂いを全く含まない声に、双方睨み合っていた醤と梓音は、思わずマリアに目を向けた。
マリアは言葉を続ける。

「捨てられてボロボロだったマリアを看病してくださったのも、マリアをしぃちゃんのメダロットにしてくださったのもジジ様です!
 ここまでして貰えて恩義を感じないほど、マリアは冷血……いえ、冷オイルメダロットではありません!」
「冷オイルて……お前、神社でそんなこともしてたのか」
「良くも悪くも、放っておけぬのだよ」

マリアの口から出てきた新しい単語を復唱すると、過去も今も健在のお人好しっぷりに、醤はカグラを横目に少し呆れて言う。
醤との初対面時の状態とはいかないまでも、昔のカグラに余裕があるように、醤には思えなかったためである。
無論、そんなカグラの行動に、呆れはすれど嫌悪等何1つ無い。
カグラが気まずげに視線を逸らして言うと、梓音も小さく口を開いた。

「……それはワタシにとっても同じコト。神様もマリアもいなかったら、ワタシもどうなってたかわからないよ……」
「……しぃちゃんっ……!!」
「わっ!?」

感激のあまり今度は梓音に飛びつくマリアを見て、満足そうに頷くカグラの横で、醤は『置いて行かれた』と言わんばかりに立ち尽くす。
そんな醤の心境も知らず、抱き着いたまま、マリアはカグラに丸く黄色い目を向けた。

「そういえばジジ様、どうして此方にいらっしゃったんですか? マリアはもしもの時のためにスタンバってましたが」
「『もしもの時』あったろ。波花止めろよ」
「ああ、“虫の知らせ”なのだよ」

マリアの発言に醤が突っ込むと、カグラはマリアの問いに答えた。
マリアは、ようやく梓音を開放し、首を傾げる。

「“虫の知らせ”って……昔も時々来てたアレですか?」
「左様。此処で誰かが助けを求めていると聞いたのだが……どうやらショウだったようだな」

――ああ、ドライバー突き立てられた時か。

醤は、空を見ながら、つい先程あった出来事を遠い過去の記憶へと、本能的に書き換えようとしていた。
すぐに正気を取り戻し、今度は醤がカグラに尋ねる。

「……って、大丈夫なのか? いきなりいなくなって、母さんビックリしてるんじゃ……?」
「案ずるな。いきなり消える事があると母君には伝えておるし、家事は丁度完了した故」
「家事……?」

梓音がカグラの言葉を復唱し、醤は自分で振った話題が嫌な方向へと転びそうで、カグラを制止しようと試みた。

「おい待てジj」
「左様! 今、生活すべく働いておってな、家事をすると1日に1度賃金が貰えるのだよ!」

が、醤の願い空しく、カグラは嬉々として梓音に聞かれるがまま答える。
まるで周りの気温が急降下したかのように、醤は肌寒さを感じずにはいられなかった。

カグラが村崎家に迎えられた夜、つまり昨夜。
『自分に必要なお金も頑張って稼ぐ』と、醤の母・ゆかりに宣言したものの、カグラは具体策を思いつけずにいた。
人間にとっても世知辛い世の中である。メダロットの働き口も、そう簡単には見つからない。
考えあぐねいている醤とカグラにゆかりが提案したのは、『家事を手伝ってみるのはどうか』という内容だった。
カグラの“本来の仕事”について考慮し、両立可能なこの案に乗ったまでは良い。
しかし、同時に醤のお小遣いもお手伝い制となり、村崎家は限りなくプラマイゼロ、醤とカグラに限定すれば益々経済事情が厳しくなったのであった。
因みに、日給100円。ワンコインビジネスである。

そんなお財布事情もいざ知らず、カグラはずっと握っていた左手を広げ、醤に人生初の給料を誇らしげに見せた。
醤の心境としては、ぶっちゃけ、梓音の方をもの凄く見たくない。

「見よショウ! 100円玉だぞ! カンタの言う通り、『自分で働いて稼ぐ』というのは気持ちが良いものだな!
 カンタとスイにも見せたいのだが、2人は何処におるのだ?」
「ソウダナー。佐藤クンハ店番デ尾根クンハ部活ダカラナー、マタ今度ダナー」

醤が棒読みでそう言うと、意図して見ないようにしていた方角から罵声が飛ぶ。
罵声は、限りなく低く、限りなく静かで、限りなく冷たかった。

「……この甲斐性無し」
「うるせぇ!! 仕方ねぇだろ、村崎家はこういうシステムなんだよ!」
「やっぱり、お前に神様は渡せない」

メダロットを働かせるメダロッターなんて聞いた事が無いと自覚しつつも、醤は反射的に梓音の方へ顔を向け、怒号を浴びせる。
梓音は強い意志を込めながら呟くと、セーラー服の袖を捲り、黒いメダロッチを露わにした。

「村崎醤、お前に真剣ロボトルを申し込むわ」

正直、今度は何をされるのか冷や冷やしていた醤であったが、『ロボトル』と聞くと強気な笑みを浮かべた。
醤も学ランの袖を捲り、白いメダロッチを出す。

「……いいぜ。オレもお前をロボトルで負かして、謝らせようと思ってた所だ!」
「……わかった。ワタシが負けたら、お前に謝る。勿論、マリアのパーツも1つあげる」
「えっ!? マジでか!?」
「その代わり……」

何も反論せず、醤の言葉に従う梓音に、醤は驚きを隠せなかった。
次の、梓音の条件を聞くまでは。

「お前が負けたら、神様を貰う」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「負けたらカグラ寄こせだぁ!? そんなロボトルしてたまるか!!」
梓「これはワタシにとって千載一遇のチャンス。ロボトルが駄目なら、強制的にリアルロボトルに持ち込むまでよ」
醤「『リアルロボトル』!? お前らコンビ新しい単語作り過ぎだぞ!」
梓「ヒト型メダロット・ナミハナシオン。右腕パーツ、刺ス攻撃・プラスドライバー。左腕パーツ、抉ル攻撃・マイナスドライバー」
醤「ただの通常運転じゃねーか! 既にお前頭パーツバグってんだろ! ドライバー持ってこっち来んなああああ!!」
カ「次回。『六角形の神サマ』第柒話、『神様争奪戦(後篇)』。2人共打ち解けたようで、ワシも嬉しいのだよ」
マ「ジジ様、それは心からの言葉ですか? それとも現実逃避ですか?」

六角形の神サマ 第柒話/神様争奪戦(後篇) ( No.7 )
   
日時: 2018/01/14 15:46
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第柒話/神様争奪戦(後篇)





「お前が負けたら、神様を貰う」

放課後の御守高校・屋上にて。
メダロッチを構えた波花梓音(ナミハナシオン)の、凛とした声が響く。
俄かに信じられない条件に、対峙するカグラは自分を指差しながら目を丸くし、村崎醤(ムラサキショウ)はそこら辺の不良が裸足で逃げ出すような表情を浮かべた。

「な、え……ワシ?」
「メダル・ティンペット・パーツ1式か? ざけんなよ」
「メダル以外は要らない。研究の関係でたくさんあるから」
「ざけんなよ」

醤は、梓音の横暴な要求に、更には、自分が苦労して手に入れたKBT1式が梓音の元にたくさん存在する切なさに、怒りが爆発するのを抑えながら吐き捨てる。
一方、カグラは2人のやり取りを聞き、梓音を何とか説得できないものかとマリアに懇願した。

「マ、マリア。シオンを頼む……」
「ハイッ! ジジ様と一緒に暮らせるよう、マリアは頑張ります!」
「……そうだな、如何なる戦いでも全力を尽くさねば」

わかっているのかわかっていないのかわからず、両手でガッツポーズをとるマリアに、カグラはそう返答することしか出来なかった。
醤はカグラの呟きを聞き、屋上を出る扉に向かいながら否定する。

「何言ってんだ! こんなロボトル出来ねえに決まっt」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

屋上にいる者は、醤を除いて声がする方へと目を向けた。
醤は、聞き慣れたフレーズに、床に両手をついて項垂れる。
どこからともなく、スポットライトがレフェリーの2人を照らした。

「来た……来ちまった……」
「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
「……」

Mr.ジャムとMs.マーガリンが初見であった梓音は、まるで下等生物を見るような目で2人を見ていた。
梓音の存在に気付いたMr.ジャムは、颯爽と梓音に近付き、白い歯を光らせながら笑う。

「やぁやぁ可愛らしいマドモアゼル!! その白魚のような手には黒いメダロッチが良く映えるね!」
「はあ……?」
「何口説いてんだ!! 仕事しろよ!?」
「今大事な所だから邪魔するんじゃない!!」
「どうしてクビになんねえんだアンタ!?」

自分の職務を放棄し、あまつさえ逆切れするMr.ジャムに、醤はありったけの怒号を浴びせた。
醤からの干渉を一切受けず、Mr.ジャムは真剣な表情を浮かべる。

「メダロッター・波花梓音クン。このロボトルが終わったら……」

Mr.ジャムは、梓音に右手を差し伸べた。

「結婚しよう」

その手で、梓音のスカートを思い切り捲る。
直後、頬に小さな拳の跡をつけたMr.ジャムが、パトカーに強制連行されていった。

「ってて……何でオレもなんだよ!?」

醤は、Mr.ジャムと同じ拳の跡を擦りながら、梓音に怒鳴る。
梓音も、自分の右手の甲を擦りながら、醤を見下すような目で答えた。

「見たんでしょ、ワタシの白いパンツ」
「何言ってやがる!! 水玉じゃねーか!?」

醤の頬に、第2撃が飛んできた。
カグラは、醤の自爆を目の当たりにし、頭を抱える。

「ショウ、今のは殴られても文句は言えぬぞ」
「男だったら目ぇいっちまうだろ!! パンツだぞ!? 例えそれが歩くバイオレンスのパンツであっても!!」
「ドライバーで抉られたいならそう言ってくれる……?」
『クスクス』

梓音がドライバー片手に醤に1歩近づいた所で、微かな笑い声が聞こえ、一同は声のする方へ視線を移した。
視線の先では、Ms.マーガリンが口元を押さえて微笑している。
Ms.マーガリンは、悪びれる様子も無く、拡声器を当てたまま喋りかけた。

『ごめんねー、つい可哀想で笑っちゃった』
「笑ってないで先輩止めてくれよ。Mr.ジャムが捲らなけりゃ……」
『ううん。違くてー、』
「?」

殴られた事を憐れまれているのかと思い発言したが否定され、醤達は意図が読めず怪訝な表情を浮かべた。
Ms.マーガリンは、変わらぬ笑顔で淡々と言葉を続ける。

『色気もヘチマも無い超小学校級のパンツを、こぞって見ようとする男2人が』
「「「「!?」」」」
『合意とみてよろしいかなー!?』

全然、合意ではなかった。
ロボトルは合意だったが、主に精神状態が。
突如発せられた辛辣な言葉に、発した本人を除く4人……もとい、2人と2体が硬直した。
そんな様子を気にする事無く、Ms.マーガリンは号令をかける。

『それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』
「ハッ! 一気に決めるぞカグラ!! サブマシンガン!」
「わかった!」
『先手必勝ォー!! カグラのサブマシンガン!』

開始の合図でいち早く我に返った醤は、メダロッチに向かって指示を出した。
Ms.マーガリンの実況が響く中、カグラは両脚で地を踏みしめ、マリアに向かってガトリングを放つ。

「マリア、ナースコール」
「ハイ!」
『対するマリアは完全防御! お互いまずは様子見と言った所!』

梓音の指令を受け、マリアが祈るように両手を組むと、黄色い目が輝きを放つ。
すると、無色透明な球形の防壁がマリアを包み、銃弾が激しく火花と音を立てて衝突し、力無く床へと落ちた。
しかし、攻撃を防がれても動じる事は無く、醤は次の手を考える。

――やっぱり頭パーツは完全防御か……! 『看護婦型』ということは“回復”が十八番のはず!
  あのバカデケえ注射器が気になるが、判定勝ちされる前に畳んじまえば良い!

そんな醤の様子を見て、梓音は目を細めた。

「……『一気に決める』ねぇ、舐めてくれるじゃん……? カプセル」
『次に仕掛けたのはシオン選手ー! 迫るカプセルをカグラはどうするー!?』
「!?」

梓音が静かに指示すると、防壁が消え、マリアは右側に浮かんでいたカプセルを2個、カグラに向かって投げる。
右腕を回復系パーツだと思っていた醤の瞳孔は開き、急いでメダロッチに向かって叫んだ。

「カグラ! カプセルを撃ち落とせ!」
「心得た!」

カグラはリボルバーを左腕で支えて標準を合わせ、ライフルをこちらも2発撃つ。
カプセルはカグラに届く事は無く、爆ぜた。
醤は、武器の残骸が床に落ちるのを見ながら呟く。

「……ナパーム、か……!?」
『カグラが見事狙い撃ち! ナパーム弾成功ならずー!』

Ms.マーガリンの実況を聞いて見解が間違いでは無い事を確信すると、醤は奥歯を噛み締め、思考を切り替えようと試みる。
しかし、マリアを回復型と決めつけていた自分のミスに由来する悔しさから、頭が上手く回らない。
梓音が、一息つきながら口を開く。

「……マリアの風貌を見て、回復型と決めつける奴は少なくない。けど……」

醤を、梓音は冷たく見据えた。

「“思い込み”は致命傷、メダロットを失うコトになる。……今回に至っては、そのままの意味でね」
「……っ!」

何も反論出来ず、醤は歯軋りをした。
梓音の言う通り、横暴な条件とは言っても、醤は今回負ければカグラのメダルを失ってしまうのである。

「ショウ!? 次の指示を……!」
「ジジ様! 御無礼をお許しくださいっ!」

考え込む醤の方に振り返り、カグラは指示をせがむ。
隙有りとみたマリアは、ありったけのカプセルをカグラに向かってぶん投げた。
そのカプセルの大群を見たMs.マーガリンは、興奮を交えて実況する。

『カプセルの嵐、嵐、嵐!! 直撃すれば大ダメージだぞー!?』
「カグラ!! 前方攻撃の中心にリボルバー! ……っお前こそ、」

空気を張り裂くように叫んだ後、冷や汗をかきながらも、醤は口角を上げた。
カグラが指示に従ってライフルを放つと、ナパームは中心から両端に向かい、連鎖的に爆発していく。

『カグラ! 何と、ライフル一発でカプセルの大群を一掃!!』
「ああっ!」
「そんなドえらい数のナパームを密集させるとか、『爆撃してください』って言ってるようなモンだろうが……!」

感嘆の声を上げるマリアをよそに、醤は黒い笑みを浮かべて言った。
梓音は、視線を醤からマリアに移し、ため息をつきながら戒める。

「無駄遣いし過ぎ。癪だけど、弾薬が無くなっちゃ元も子もないわ」
「ハ、ハイ! ごめんなさい……」
「今のは、指示が遅れたワタシにも責がある。マリアは気をつけるだけで良い」

梓音の態度に、敵ではあるが苛立ちを感じた醤であったが、マリアに掛ける声が幾ばくか優しい事に気付いた。
複雑な話だが、どうやら自分以外には厳しいがそれだけではない事を、醤は察する。
かと言って、当然ながらロボトルに手を抜く訳にはいかない。

「カグラ! 右腕に向かってサブマシンガンだ!」
「マリア! ナースコールの後にカプセル!」
『バトルフィールドを火が飛び交う! 勝利の炎は一体どちらに灯るのかー!?』

その後は、Ms.マーガリンの実況通り弾薬が飛び交い、フィールドを硝煙の匂いが支配した。
しかし、いくら攻防が続けど、マリアは一向に左腕パーツを使う素振りを見せない。
醤は、眉間に皺を寄せて考察する。

――あれがリーサルウエポンっつーのは、間違い無えみてーだな。

「……そろそろいくよ、ワクチンほう」
「了解!」

梓音の合図を受け、マリアは数個のカプセルをカグラに向かって放り投げる。
カグラがそれらを撃つと、他のナパーム弾と火薬の量が異なるのか、爆風が巻き起こされた。
視界を白い煙が遮り、自分以外の行動を確認する事が出来ない。

『おおーっと! 爆風で何も見えないー! シオン選手はどんな攻撃に出るというのかー!?』

Ms.マーガリンの実況を聞きながら、醤は煙を吸わないよう、口元に右腕を当てていた。
すると、実況で気付かなかったが、耳鳴りのような音が醤の耳に届き、煙の隙間から途切れ途切れに光が見える。
やがて、その光は、“注射針”の周りを囲む大小各々の円という事に気付き、醤は声を張り上げた。

「カグラァ!! 左に飛べェ!!」
「!」

カグラが反射的に左へ飛んだ、その刹那。
一筋の閃光が煙を飛び出し、カグラの右腕を掠めた。

「ぐっ……!?」
『右腕パーツ、ダメージポイント71』

カグラは短く声を上げ、左手で怪我を押さえたまま床へと倒れこんだ。
徐々に煙が晴れ、視界が良好となる。
向こう側から、マリアの唸り声が聞こえた。

「う~ん。ショウさん鋭いです、避けられちゃいましたか!」

視界を遮るものが一切無くなると、マリアは巨大な注射器を左肩に担いで立っていた。
注射筒の中では、攻撃した名残か、小さな稲妻が音を立てている。
やっと目で戦況を把握する事が出来たため、Ms.マーガリンは生き生きと実況した。

『マリアの強力なレーザー光線ッ!! 直撃避けるもこれは痛ァい!!』

実況を聞くや否や、醤は勢いよくカグラを見た。
カグラは片膝を立てており、いつでも動ける状態であるが、左手は未だ右腕を押さえている。
しかし、怪我の範囲は左手と比べ一回り広く、一部が完全に炭と化していた。
カグラは、マリアから目を離さないまま、苦笑して醤に謝罪する。

「すまぬ、避け損なってしまった。見てくれは酷いかもしれんが、まだ右腕は使えるから案ずるな」
「そうじゃねえ……!! 何でだ、ちょっと掠っただけだ、ろ……?」

カグラの言葉を様々な意味で否定し、不意に焦点がカグラより遠方に合うと、醤は絶句した。
カグラがつられて見ると、校庭を囲むように埋められた大樹の1つが、頂上部がY字の形に抉られている。
沈黙の中、最初に口を開いたのは梓音だった。

「左腕パーツ・ワクチンほう。KWG型プロトタイプのウエポンの設計図を基に作られた、レーザー砲よ。
 とは言っても、ロボトル用に威力は制限されているんだけど」
「ほぉ、それでもあんな遠くの木も消し飛ぶのだな……」

梓音の言葉を受け、カグラは呑気に感心していた。
『プロトタイプ』という単語を聞いた途端、小刻みに肩を震わせていた醤が、一気に噴火する。

「阿呆かあああああああ!! ロボトルに何ちゅーモン持ち出すんだお前!?」
「煩い。だから、ロボトルに使えるように威力は落としてあるって言ってるじゃない。その証拠にパーツもちゃんと残ってるでしょ?
 馬鹿なの?」
「バカはお前だデンジャー女!! 残っても消し炭になりゃあ同じじゃねぇか!!」

『KWG型プロトタイプ専用ウエポン』。
それは、設計者であるビルバーレン氏が、あまりにも危険であるため自ら使用を禁じた攻撃用パーツである。
攻撃がメダロットに当たった場合、炭どころか綺麗に消し飛ぶ。

そんな危険なパーツに準ずるものが目の前に現れたのだから詮無き事だが、醤の怒号は更に続く。

「大体どーすんだあの木!? いーけないんだ~いけないんだ~」
「バレない」
「バレるわ!!」
「……そう言えば……」

上の部分が可哀想なことになった木を指差す醤に、梓音は耳触りと言いたげに顔を顰めた。
何とか醤を黙らせる手立てはないものかと梓音は考え、『KWG型プロトタイプ』から、ある情報に辿り着く。

「何でKWG好きなクセにKBT使っt」
「わーっ!! わーっ!!」
「?」

この場で想定してなかった質問に、醤は大声を上げ、カグラは何の話かわからず首を傾げた。
結果的に先程に増して煩くなったため、梓音は一瞬眉間に皺を寄せるが、すぐに機嫌が良さ気に笑みを浮かべる。

「……へぇー、やっぱり神様知らないんだ?」
「何をだ?」
「うるせえな!! 別に言う必要無えだろ!!」
「だから何をだ?」

カグラは2人の顔を交互に見るが、話の内容がわからず難しい顔をする。
このままではまずいと悟った醤は、荒々しい口調であるが、Ms.マーガリンに内心助けを求めた。

「おいレフェリー!! 相手のメダロッターが言動であれ妨害すんのはルール違反じゃねえのか!?」
『別にー? てか、ロボトルじゃこんなコトしょっちゅう』
「あってたまるか!! カグラ、お前のが機動力は上だ! 接近戦でさっさとカタつけんぞ!」

醤がMs.マーガリンに突っ込んでいると、梓音はすかさず無表情で尋ねる。

「KBTで接近戦? そんなに未練があるならKWG買えば?」
「あーあーうるせぇうるせぇ!! そんなんじゃねぇよ!!」

醤は声を荒げ、カグラに梓音の言葉が聞こえないよう遮った。
因みに、カグラ本人はアルファベットの綴りどころかアルファベット自体を全くわかっていないため、完全に醤の杞憂である。

「心得たが……ショウめ、完全に手玉に取られておるではないか……」

梓音のペースに呑まれ込んでいる醤に深いため息をつきながらも、カグラは距離を詰めながら、サブマシンガンで連射した。
ガトリングを受け、マリアの右腕パーツの部品があちこちへと飛ぶ。

「っくう……!」
「マリア! 左腕でガードして!」

――完全防御を使わねえ! っつーことは、使う回数が残り少ないか底をついたんだ!

醤は調子が戻りつつあり、冷静に戦況を見定めようとしていた。
マリアはガトリングを注射器で凌いだ後、接近するカグラに対し、注射筒の太い方を両手で持ち、振り上げる。
しかし、カグラは注射器を屈んで避け、マリアの背後に回り込んだ。

「カグラァ! リボルバー!」
「きゃあっ!?」

カグラが撃った3発のライフルはマリアにヒットし、マリアの右腕は黒ずんだ。
マリアはバランスを崩し、そのまま前に倒れるかと思いきや、両足で踏み止まり、目に強い光が宿る。

「マリア……接近戦はちょっと苦手、です!!」

リボルバーの標準が右腕から頭部に移るが、一瞬の空白の後、金属同士が強くぶつかる音と同時に、カグラの体が吹っ飛んだ。
カグラは声を上げることなく床を転がり、マリアが振りかぶった注射器の先端に、日の光が反射する。

「カグラ!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止。脚部パーツ、ダメージポイント55。関節部ニ異常発生』
『両者の右腕! 同時大破ーッ!! どちらも後がないが、カグラ選手は立てるのかー!?』

Ms.マーガリンの実況の中、カグラはサブマシンガンの銃口を床に当て、半身を支える。
醤は、カグラに向かって声を張り上げた。

「立てるか!?」
「すま、ぬ……こうして手で支えるのが、精一杯なのだよ」
「……それは良かった」

それは風に掻き消されそうな声であったが、しっかりと醤達の耳に届いた。
梓音は、言葉を続ける。

「動かれると、頭を狙えないから」
『マリアのワクチンほう! しっかりカグラの頭を捉えるー!』

醤とカグラが正面を見ると、充分に距離をとったマリアが、先刻のように注射器を構えていた。
充填が完了しているらしく、周囲に音が響き渡る。
脳裏に負けた時の条件が過ぎり、醤は目を見開き、力一杯叫んだ。

「……カグラ、カグラァ!! ミサイルだ!!」
「ナースコール」

醤の指示空しく、ミサイルは障壁に当たり、破裂した。
メダロッターの心情なんてお構いなしに、Ms.マーガリンは実況を続ける。

『カグラのミサイル、成功敵わァず! 最早、打つ手はないのかー!?』
「くそっ、サブマシンガンでもミサイルでも何でも良い!! 攻撃を……!!」
「どうしようと、完全防御で防ぐまでよ。切り札って、こういう時のために残すモノでしょう?」
「……ッ!」

梓音の言葉に、醤は言葉を失くした。

相手のメダロッターの言葉が、審判の言葉が、これ程耳障りに感じた事があっただろうか?
嫌な汗が止まらない。
目の前は真っ暗なのに、脳裏では最悪な未来の映像が流れ続ける。
経験が無くとも、醤にはそれらが“何”を示すのかわかっていた。

自分は、どこで間違えたのだろうか?
相手の頭パーツの使用回数を読み違えた時?
接近戦を仕掛けた時?
それとも……経験の差を感じ取っていながらも、この場を去らなかった時?

醤が考えている間にも、マリアの注射針に光が集まっていく。

「……すまない」

聞き慣れた柔らかい声色に、醤はいつの間にか俯いていた頭を上げた。
カグラは、語り続ける。

「あの一瞬……マリアでなければ、頭を射抜けていたのだ。ショウの所為ではないのだよ。
 とは言え、躊躇いがあるのは向こうも同じらしい」
「……いいえ」

否定するマリアに目を向けると、構える手が微かに震えていた。
しかし、注射器を強く握ってそれを拒むと、マリアは凛とした声で言う。

「マリアは、勝ってジジ様と一緒に暮らすんです。絶対、撃ちます!」
「……そうか、それは残念だ」

そう言って自嘲気味に笑った後、カグラは静かに息を吐いた。

「お前達は本当にわかっておらん。言ったではないか、『優劣など無い』と。そもそも、今の今まで離れて暮らしておったであろうに」

いつもの呑気な口調に、醤と梓音は揃って呆気にとられる中、マリアは注射器のトリガーに指を掛ける。
そう感じさせるや否や、カグラは目線を下げたまま慈しむように、優しい声で言葉を綴った。

「……故に、離れて暮らしたとて、お前を大事に思う気持ちは変わらぬのだよ。“シオン”」
「――え?」

その刹那。

「きゃあああああああ!!」

マリアの注射器が爆発し、激しい音と共に、灰色の煙にマリアが包まれた。
目を見開いた梓音は、慌てて身を乗り出す。

「っマリア!!」
『マリアが爆炎に包まれたアアア!! まさかの形勢逆転かー!?』

Ms.マーガリンが実況する中、醤は何が起こったのかわからず呆然と立ち尽くしている。
やがて、煙が晴れると、煤だらけのマリアが目を回して倒れていた。
近くには、マーメイドメダルも転がっている。
Ms.マーガリンは、勝利を高らかに称えた。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「な……んで……?」

判定の直後、震えた声で梓音は言った。
あまりに現状が信じられないのか、前へ出る足がよろける。

「勝手に暴発するなんて、有り得ない……何で……!?」
「薬莢なのだよ」

ナノマシンで回復したカグラは難なく立ち上がり、梓音の目の前まで歩み寄った。
左手を広げると、手の上には空の薬莢が転がっている。

「マリアに弾かれた銃弾を拾い、接近戦の折、1つを保険として注射器の先端部に詰めておいたのだ。
 あれ程の威力、暴発すれば機能停止は免れまい。だからあの時、“ワシは右腕を壊さなければならなかった”のだよ」

目の前の老兵の策に、若きメダロッター2人は絶句した。

カグラが注射器に仕掛けた、あの状況下。
マリアの右腕が破壊されれば、残る行動は“完全防御”か“レーザー”。
判定に持ち込もうとも、カグラには未だ“ミサイル”と“ガトリング”があった。
勝率は5分5分。少々危険な賭けである。
確実に勝つために、梓音とマリアはワクチンほうの使用を強いられた。
勝敗は、マリアの右腕が破壊された際に決していたのである。

束の間の沈黙の中、醤は足早にカグラに歩み寄って勢いよく両肩を掴み、ありったけの音量で叫んだ。

「それをさっさと言えよおおおお!?」

醤の声は、屋上の空気全体を振動させた。
一方、醤の迫力に物ともせず、数回瞬きした後、カグラはあっけらかんと答える。

「言えばシオンやマリアにも伝わってしまうではないか」
「そうだけどお前ふざけんなよマジで!! ありがとうだがしかしふざけんなよ!! アンタのメダルかかってんだよふざけんなああ!!」
「わ、悪かった……悪かったから、べそをかくでない」
「泣いてねえし!! 泣いてねえのに何泣いたとか言ってんの……っ!?」

カグラは、醤の目尻の涙を見て流石に動揺し、罪悪感から謝罪した。
孫の涙に勝てる者は、滅多にいない。
乱暴に右腕で目をこする醤の背中を、カグラは優く叩き、苦笑する。

「まだまだワシ等は未熟よのぉ。経験も、理解も、信頼も足りん。それはそうか、話すようになってから3日しか経っとらん」
「……」

返す言葉も無く、醤は1度鼻を啜り、赤い目でカグラを見る。
カグラは、おどけて笑った。

「焦るでない。これから、いくらでも埋められよう」

その言葉を聞いて一気に気が軽くなったと同時に、その事実と、この先も決して埋まる気がしない年の差に、醤は堪らなく悔しくなり、一文字に口を結んだ。

しかし、今この場で1番悔しい思いを抱いているのは、負けてしまった梓音に違いない。
ロボトルで醤が勝ったという事は、カグラは、醤と一緒にいることを選んだのだ。
嬉しいはずなのに、醤は手を上げて喜ぶ事が出来なかった。
機能停止したマリアを抱きかかえた梓音が視界の中に入り、醤は、両手からカグラを開放する。
カグラも気付いて振り向き、梓音は足を止めた。

「腹が立つ」

梓音は、他にどうする事も出来ず、何度も感情をぶつける。
握る拳に、力が籠った。

「腹が立つ……腹が立つ……っ!」
「……シオン」

俯いているため、どんな顔をしているかはわからないが、言葉の中に怒りと悲しみが見える。
カグラは名前を呼んだが、梓音は干渉を全く許さない様子だった。
しかし。

「……けど、ごめんなさい」

ぽつりと呟かれたその言葉は、確かに梓音の口から聞こえた。
約束とは素直に謝るとは思ってもみなかった醤は、開いた口が塞がらなくなる。

「え、……え?」
「……やはり、シオンは良い子なのだよ」

安堵して微笑むカグラの声に、梓音は僅かに顔を赤らめた。
カグラは、言葉を続ける。

「昔のように、いつでも遊びに来てくれ。ワシも、シオンと話がしたい」
「神様……」
「そう畏まらずとも良い。シオンも、ショウのように『カグラ』でも『ジジイ』でも好きに呼べば良いのだよ」
「……ッ」
「まっ、待てよ! オレはぜってー認めねえからな!!」

カグラにそう言われ、梓音の口元が震える。
醤が声を上げる中、手が自然と自分自身の口に添えられると、梓音の顔は更にみるみる赤くなり。

「……お、おじいちゃんっ……!」

遂には真っ赤に染まり、新しいカグラの呼び名を絞り出した。

――可愛いじゃねえか畜生オオオオオ!!

恐ろしい梓音の姿しか知らなかった醤は、色んな感情が入り混じり、心の中で大絶叫した。
視界の隅で、カグラと梓音が笑顔で別れる中、醤は考える。
今回は行き違いから梓音と衝突してしまったが、同じモノを大切に思う者同士、ひょっとすると仲良くなれるのではないかと。
笑顔の梓音が、醤の隣を横切る。

「……今回の負けは認めるけど、ワタシもお前を認めない。調子に乗るなよ、村崎」

――呼び捨てかよ!?

先が思いやられるその捨て台詞に、醤は早々に前言撤回したのだった。



メダロッチ更新中……――
・カプセル(NASβ-02。うつ攻撃:ナパーム)獲得



続ク.





◎次回予告
カ「ショウ! シオンに会いに、メダロット研究所に行くぞ!」
醤「サファリパークに肉放り込むようなもんじゃねーか!! 断じて許さん!!」
梓「ワタシが呼んだのはおじいちゃんだけ。お前は入れない。どうしても入りたいなら、特別に左手首から下だけ許可するわ」
醤「メダロッチだけ寄こせってか」
マ「次回! 『六角形の神サマ』第捌話、『小規模度胸・大規模野望(前篇)』!
  皆さん! ここは平等に、頭・右腕がショウさん! 左腕・脚部がしぃちゃん! メダルはマリアに分けましょう!」
醤・梓「「却下!!」」
カ「……骨はワシので良いのか?」

六角形の神サマ 第捌話/小規模度胸・大規模野望(前篇) ( No.8 )
   
日時: 2018/01/14 16:18
名前: 海月

「おっまえ……ッふざけんなよ、マジで……!」

日曜日の昼下がり。
村崎醤(ムラサキショウ)は、カグラからパーツの修理が終わった事を聞き、メダロット研究所の裏玄関に来ていた。
……のだが。

「これシオンよ、ショウが怪我をしたらどうするのだ」
「呑気に言ってる場合じゃねぇ、だろ……真剣と書いてマジで殺る気だぞ、この女……ッ!」

醤は眼前のプラスドライバーの先を握り、押し返しながら言葉を絞り出す。
そのドライバーの柄を両手で握る人物・波花梓音(ナミハナシオン)も力を込めているのか、白衣の上から羽織っているブランケットが肩から僅かにずり落ちる。
梓音は、表情を変えず淡々と喋った。

「ワタシが呼んだのはおじいちゃんだけ。何で休日までお前の顔を見なきゃいけないの。
 おじいちゃんとメダロッチを置いてとっととかえりなさい。土へ」
「るっせえよこの妖怪おいてけぼりがああ……! ジジイが拉致監禁されんのわかってて留守番してられっかボケエ……!」
「拉致監禁など、ショウは大袈裟よのお」
「お前は“虫の知らせ”以外に“自己危険察知能力”もインプットしとけ!」

孫達のじゃれ合いを見るかの如く穏やかに笑う傍らのカグラに、醤は思わず顔を向けて怒鳴った。
そんな攻防を繰り広げていると、梓音の後ろから、カグラに負けず劣らず優しい声が響く。

「梓音、お客さんかい?」
「!」

白衣を着た眼鏡の男性が梓音の後ろから顔を覗かせると、振り返り力が抜かれた梓音の手からドライバーがすっぽ抜けた。
そのままドライバーは緩やかな弧を描く……と思いきや、直線的に勢いよく男の額にクリーンヒットした。
一言も漏らさず後ろへ倒れた男性に、醤は声を上げる。

「ちょっ、ええええ!? 大丈夫かオイ!?」
「……父さん」
「『父さん』ん!?」





『六角形の神サマ』 第捌話/小規模度胸・大規模野望(前篇)





「いや~、すまないね。親子共々お見苦しい所を見せてしまって。僕の名前は波花椒吾、この研究所で所長をしています。
 『御守のメダロット博士』って呼んでくれる人もいるけど……こっちは未だに馴染まないなぁ」

意識を取り戻した梓音の父・波花椒吾(ナミハナショウゴ)は、少し赤くなった額を擦りながら苦笑し、そう挨拶した。
笑う顔にそんなに皺は見られないのだが、髪の色が灰色であるため、幾何か年老いたように醤の目には映る。
そんな中、誰と目を合わせる訳でもなく、梓音は小さな声で言った。

「……父さん、別にコイツに挨拶なんて要らないのに」
「あ?」
「駄目だよ梓音! どうしたんだい今日は、こんなに攻撃的なんて君らしくも無い」

口調は強めても尚笑顔の椒吾に対し、梓音は何も言わず顔を背ける。
椒吾が溜め息をつく中、醤は梓音が自分に対してだけ横暴な態度である事を改めて知った。
まあ、梓音が荒れるのも無理もないかもしれない、とも思う。

遡る程でもないが、4日前。
梓音はマリアのパーツを、そして醤はカグラのメダルを賭け、真剣ロボトルをした。
今考えてもとんでもない条件ではあるが、結果としてカグラの機転が醤を勝利に導いたのである。
負けた梓音は、大方、『自分が愛してやまないカグラが自分を選ばなかった』とでも思ってるに違いない。
……それを差し引いたとしても、だ。

「ヒトの顔見るなりドライバーで目ぇ突くなんて発想普通に無ぇだろこのヤンデレ女!!」
「いきなり何? それに無傷じゃん」
「結果論を言うな! お前が逮捕されないのオレの反射神経のお陰なんだかんな!?」
「……ごめんね……」
「あ! いや、博士が謝る事じゃないです! えーっと……そう! 挨拶遅れてすみません!」

2人のやりとりを見て1人落ち込んでいく椒吾を見て、慌てて違う話題を探していると、醤は自分がまだ何者か名乗っていない事に気が付いた。

「オレは……」
「村崎醤君、だよね?」
「ハイ! え、何でオレの名前……?」

名前を呼ばれ、思わず勢いで返事をする醤に、無理もないか、と独り言のように言って椒吾は苦笑する。

「初めて会った時、醤君は幼稚園児で、もう10年も前だからね。ほら、よく砂場で梓音と遊んでくれただろう?」
「え!? 波花と!? やっべぇ何も思い出せねぇ!」
「やばい、ワタシも鳥肌が止まらない……」
「気が合うな! オレもタイムマシンに乗って自分に『そいつから離れろ殺されるぞ』って教えてぇわ!」

梓音とは幼稚園が一緒だった事しか思い出せない醤は、頭を抱えつつも梓音の言葉にそう切り返した。
椒吾は苦々しく笑ったまま、困ったように声を漏らす。

「昔はあんなに仲良かったのに、どうしてこうなっちゃったかなぁ?」
「コイツのグランドファザコンが原因です」
「お前に言われたくないわグランドファザコン」
「違いますぅ~、100歩譲って仮にそうだったとしてもお前よかずっと軽症ですぅ~」
「“ぐらんどはざこん”とは何だ? 新しい絡繰りの名前か?」

聞き慣れない横文字にカグラが首を傾げていると、目の前に椒吾が身を屈めて右手を差し出す。
カグラがその手を見てから顔を上げると、椒吾は微笑んで聞いた。

「君が醤君のメダロットかな? 初めまして、波花椒吾です。梓音がとてもお世話になっているみたいで……」
「カグラという。何の、シオンはワシにとって家族同然なのだからそう畏まらないで欲しい。ショウ共々、今後宜しく頼む」
「……ありがとう。よろしくね、カグラ君」

椒吾とカグラが手を酌み交わすと、ここで立ち話もなんだから、と椒吾は研究所へ誘い、醤達は言われるがまま裏玄関から入った。

「……へー……!」

入ってすぐ醤が周りを見渡すと、中は白1色で統一されており、大きなドーム状の部屋を廊下が取り囲んでいるような構造であった。
各扉の脇には電子パネルが取り付けられており、自分達がド田舎の御守町にいる事を忘れるような最新設備である。

「すっげえな! いくら掛かってんだここ!?」
「僕は『ここまでしなくて良いです』って言ったんだけどねえ。
 全部システムが管理してくれてるから、もし壊れて中に閉じ込められたら~とか考えるとちょっと怖いよ」

椒吾が苦笑しながらパネルに触れると、電子音の後に扉が左右に開いた。
梓音と椒吾は慣れきっているためそのまま足を踏み入れるが、醤とカグラは目を丸くし、見渡しながら中へ入っていく。

「マジで未来都市みてーだな……」
「全くだ。最新機器に斯様に囲まれている等、生きていける気がせん」
「何言ってんだ最新機器代表」

そう突っ込みつつも、カグラが家事をするにあたり家電製品達に振り回されている事を思い出し、醤はそれ以上何も言わず、梓音達について歩く。

内部は更に細かく部屋が分かれており、椒吾が1番広いであろう部屋のパネルに触れると、開いた扉の先から金属同士がぶつかり合う音が響いてきた。
逸る気持ちから醤が小走り気味に研究室に入ると、ステージ状の実験台の上で、メダロット同士が戦っている。

「この部屋では、主にロボトルからの研究データを集めているんだ。
 メダルの能力だったり、パーツの性能だったりそれぞれだけど……ここでの実験を経て、商品となるメダロットは皆メダロット本社に送られているよ。
 中には、本社から戻ってきてもう一度研究所で実験、とかね」
「へー、やっぱ商品になるまで時間掛かるんだなー」
「そうだね。商品化するからには、確固たる性能や安全性を確認しないといけないから」

普段何気なく見ていたメダロットの流通について学び、頷きながらロボトルを見ていると、凄まじい勢いで此方に向かっているスプリング音に醤は振り向いた。

「……ジジ様だぁ~れでしょおおおおお!?」
「ぐふっ!?」

傍らのロボトルよりも大きな衝撃音を立てて、グランドファザコン3号……もといマリアは、後ろからカグラに飛びついた。
あまりの勢いに前へ倒れるかと思いきや、マリアががっちりホールドしているため辛うじて直立している。

「マリア!」
「お前もうちょっとマシな登場出来ねえのか!?」
「あら、こんにちはショウさん! 遊びにいらっしゃったんですか!?」
「オレの話聞いてますかマリアさん!?」
『頭パーツ、ダメージポイント71。衝撃緩和ノタメ強制停止モードニ移行シマス。ロボトル以外ハ強イ衝撃ヲアt』
「うるっせえ!! オレの所為じゃねえっつってんだろ!!」

会話のキャッチボールが不全なマリアと注意喚起する自分のメダロッチに対し醤が声を張り上げる中、梓音はカグラの体をマリアの腕の中から抱きかかえ、その場を離れようとした。
梓音の様子を見て、醤は慌てて止めに入る。

「あっ、オイ! どさくさに紛れて……!」
「……ナノマシン連動装置で意識と装甲を回復させるだけだけど」
「すんませんでした波花さん!」

梓音は醤を一瞥すると、部屋の隅にある装置の上にカグラを寝かせ、慣れた手つきで操作を始める。
そんな梓音の背中を見て、醤は感嘆の声を漏らした。

「すげぇな波花、修理だけじゃなくあんな機械も使えんのか……」
「ハイ! しぃちゃんは普段博士のお手伝いとして、プロジェクトチームの実験にも関わってますから!
 ……ところで、ジジ様いつの間に寝ちゃったんですか?」
「お前も強制停止モードにしてやろうか」
「これショウよ、女子に暴力はいかん」
「その台詞、もっと他に言うべき奴いるだろ」

装置で復活したらしいカグラの小言に、心外だと言わんばかりに醤はそう返した。
にしても、と付け加えながら、醤は梓音に目を向ける。

「波花、クリムゾンナースのパワーバランスどうなってんだよ。
 マーメイドメダルで……しかも格闘系でもないのにこの怪力はおかしいだろ」
「……ワクチンほうを支えるのに、どうしても馬力が必要だった」
「……質問変えるわ。何で看護婦にレーザー砲持たせた?」
「レーザー砲はね、開発者のロマンなの」
「答えになってねぇし何故オレの目を見ない?」

明後日の方向を見る梓音に対し醤が鋭い指摘をすると、仕切り直しと言わんばかりに椒吾が1つ、提案をした。

「カグラ君も回復した事だし、どうかな醤君。僕とロボトルをしてみないかい?」
「博士と!? やる! やります!」

椒吾とロボトルが出来ると聞き、醤は目を輝かせながら答えた。
メダロットオタク……改めメダロット愛好家として、メダロット博士がどんなメダロットを、どんな戦法を使うのか、興味が無い訳がない。

「父さん、そいつ畳んじゃって。ワタシおじいちゃんのメダルが欲しい」
「2 度 と 賭けるか!! こちとら1度目すら不本意なんだよ! 畳むぞ波花!」
「ごめんなさい!!」
「博士じゃないです!!」

梓音に向けた筈の暴言に対し謝った椒吾に、醤は慌ててそう言い足した。
会話の流れでわかりそうなものだが、同じ姓を持つ人間として、もしくは性分で反射的に反応してしまうのだろう。
ここには『波花』が2人いる事を肝に銘じながら、醤は小さく息をつき、メダロッチを出すべく黒いパーカーの袖を捲った。

「と、ともかく、パーツとかは賭けずにゆる~くやろうか。それでも、全力でね?」
「勿論す! カグラ!」
「うむ。お手柔らかに頼む」

咳払いをしてから白衣の袖を捲って露わになった椒吾の手首には、梓音と同じく黒いメダロッチがはめられていた。
椒吾が今浮かべる笑顔はいつものように優しげだが、微かに挑戦的にも見える。
やる気満々の醤に声を掛けられると、カグラは頷き、ひらりとステージに上がった。
カグラがステージに上がったのを確認すると、椒吾はメダロッチを構え、画面を押す。

「メダロット転送! 頼んだよ、エジソン」
「了承シマシタ」

メダロッチから光の玉が飛び出し、ステージ上で膨張すると、中から宇宙人型メダロット・コスモエイリアンが現れた。
『エジソン』と呼ばれたコスモエイリアンは、事務的にそう返答しながら頷くと、目の前のカグラを見据える。

「ジャッジは梓音に任せようかな。公平にね」
「……わかった。それじゃあ、ロボトル・ファイト」

少しおどけて言う椒吾の言葉のままに梓音は右手を掲げると、開始の合図と共にその手を振り下ろした。

「カグラ! サブマシンガン!」
「心得た!」

カグラは指令を受けてすぐさま左腕を右手で支えると、エジソンに照準を合わせ、発砲した。
椒吾はカグラの攻撃を見て、慌てているのかいないのかわからないような声色で呟く。

「強力なガトリングだねぇ……。エジソン、ミュートハンド」

椒吾の指令と共にエジソンの右腕が視覚的に歪み、ナイトアーマーの右腕パーツ・ナイトシールドへと変化した。
盾は難なくガトリングを受け、エジソンはそのままカグラに向かって走り出す。

「装甲まで変わんのは厄介だな……! けど……カグラ! 脚部を狙い撃て!」
「わかった!」

変化した盾を見つめながら顔を顰めるが、醤は冷静に指示を出す。
カグラは言われるがまま照準でエジソンの機動を追っていくと、被弾した脚部が黒ずみ、エジソンの体が崩れ落ちた。

「いくらコスモエイリアンでも脚部まで変化出来ねえだろ! カグラ! リボルバー!」
「ああ、その通りだね。此方の機動力を削いだのは流石だけど、動けなくても相手にダメージは与えられるんだよ。
 エジソン、ミュートボディ」

椒吾が指令を下すと、今度はエジソンの頭部が変化し、バンカランの頭パーツ・スエットマントとなった。
ライフルの銃弾は、見えないシェルのような壁に音を立ててぶつかると、元の軌道を通って放ったカグラ自身を襲う。

「くっ……!」
『右腕パーツ、ダメージポイント57』
「やはり、迷わず頭を狙って来たね。体勢を崩した相手には有効だけど、逆に読まれやすくもあるから気を付けないと」

――パーツ1個壊れてんのに余裕じゃねえか……! 博士が冷静なのもあるけど、ありゃ脚部壊れんのも想定内だな。
  それにしても、ランダム変化なのに運良過ぎじゃねえか……!? 『勝負は時の運』て言うけど反則級だろ!
  とりあえず、今最も警戒すべきは“ミサイルの使用”! 射撃トラップか反撃されたら、多分詰む!

相手の冷静な分析に気圧されながらも、醤は勝利への糸口を見つけるべく、現状を把握していく。
顎に手を当て、ステージを睨み付けていたが、醤の眉間の皺が緩んだのを椒吾は見逃さなかった。
醤は口角を上げ、メダロッチに語りかける。

「カグラ、結構しんどいかもしんねぇぞ……!」
「何を言っとる、戦いの真っ只中であろうに」
「……エジソン、何かとてつもない事が起きそうだよ」
「……対処致シマス」

エジソンが瞬時に行動出来るように身構えると、醤はメダロッチに囁きかけた。
醤がメダロッチを顔から少し離すと、カグラは目を細めた。

「……心得た」

呟いた次の瞬間。
カグラはリボルバーを放ちながら、コスモエイリアンとの距離を一気に詰めていく。
防御すべく、椒吾も声を上げる。

「エジソン! ミュートアーム!」

エジソンが左腕をパステルフェアリの左腕パーツ・フォースバリアに変化させると、トラップが銃撃に反応し、リボルバーが音を立てて破裂する。

『右腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止』
「……ッおおおおおお!!」

右腕が壊れても止まる事は無く、カグラは雄叫びを上げながらミサイルを放った。
ミサイルの使用を避けると思っていた椒吾は僅かに目を見開くが、すぐさま指示を出す。

「ミュートボディ!」

エジソンが変化させたレッドマタドールの頭パーツ・ボディアタックで防御すると、シールドでミサイルは弾け、ステージ一帯を爆風が包み込む。
醤達周りの人間からステージ上の様子は確認する事が出来なかったが、煙の中からは銃撃音と貫通音が響いた。
音が止み、視界は徐々に晴れていく。
梓音は、静かに手を上げた。

「……エジソン、機能停止確認。勝者、おじいちゃん」
「よっしゃあああああ!!」

醤が喜びの声を上げると共に、カグラはサブマシンガンの構えを解き、煙を上げるエジソンのボディからはメダルが転げ落ちた。
椒吾はステージの階段を上がりながら、その強さを称え、醤に拍手を送る。

「おめでとう醤君。これは驚いたな、コンビを組んでからそんなに経ってもいないんだろう?」
「……驚いたのは、此方とて同じ」

自分達に近付く椒吾に言った後、カグラは目線を自分の足に落とす。

「速いな。最後の最後で迎撃を貰うとは……」
「ありがとう。エジソンも強いからねぇ」

カグラの言葉に椒吾は苦笑し、オチツカーを貫くワイアーニンジャの右腕パーツ・ざんばとうを引き抜いた。
椒吾がエジソンを拾い上げ、メダルを装着すると、両機体のナノマシンが作動し、次第に修復されていく。
醤が笑顔で低めに右手を出すと、ステージから降りたカグラが左手でその手を叩いた。

「お疲れさん。久々に全力で動いてどうだった?」
「そうだな、爽快だが……この後はのんびり過ごすとしよう」

伸びをするカグラから醤に視線を移すと、梓音は呆れたような声を出した。

「何か重大な秘策を思い付いたかと思えば、ただの短期決戦?」
「しょうがねえだろ! ごちゃごちゃ考えてる間にデス何とかが来ちまったらそれこそヤベーんだからよ」
「何せランダムだったからね。今回僕等は運が良かったよ」

そう言いながらエジソンと共にステージを降りると、椒吾は言葉を続ける。

「それより……僕が気になるのは、あの場面でどうしてミサイルを使ったか、かな? 反撃やトラップの事は考えなかったのかい?」
「考えました。けど……やっぱり予想外だったんすね、ミサイル使ったの」
「?」

醤の意図がわからず、椒吾は首を傾げた。
醤は、悪戯が成功したかのような笑顔を浮かべる。

「博士の事だから、オレがミサイル使わないようにすんのも読んでると思ったんです。
 なら、ミサイル使えば博士の隙を作れるし煙幕代わりにもなるし一石二鳥なんじゃねーかなー、とか?
 あんま意味無かったんですけどね」

博士もエジソンも速えし、と言いながら、醤は苦々しく笑った。
そんな醤に、椒吾は質問を投げかける。

「……じゃあ、もしあの時、エジソンが変化したのが反撃か射撃トラップだったら……?」
「パーツが反応する前に、カグラがミサイルを撃ち抜いてました」

醤の淀みのない即答に、椒吾は目を丸くした。

「な?」
「簡単そうに言ってくれるな。やってみんとわからん」
「バッカ、そこは『当然だ』だろ?」

溜め息をつくカグラに、醤がおどける様子を見て、椒吾はふ、と笑いを零した。

「醤君、カグラ君。年甲斐も無く久々に熱くなれたよ、楽しいロボトルをありがとう」
「こっちこそ! またよろしくお願いします!」
「折角遊びに来てくれたんだから、思う存分施設を見て行ってください」
「ありがとうございます!」

醤と硬く握手を交わすと、椒吾は突如浮かんだ疑問を口にした。

「そう言えば醤君。今日来たのは、研究所の見学だったのかい?」
「ああ! そういやそうだった! いや違うんですよ!
 勿論見学は有難いんですけど、波花……梓音さんから修理終わったパーツを受け取りに来たんです! なぁカグラ!」

醤が本来の目的を思い出し、カグラに声を掛ける。
しかし、返ってきたのは何故かマリアの声だった。

「あれ? ジジ様なら今さっき、しぃちゃんと一緒に部屋を出ましたよ?」
「!?」

マリアの言葉に、醤は顔を青く染め、辺りを勢いよく見回すが、カグラの姿も梓音の姿も無い。

「しょ、醤君……?」

肩を震わせる醤に恐る恐る椒吾が声を掛けると、俯いていた醤が顔を上げ、その怒号を研究所中に響かせた。

「やりやがったなあの女アアアアア!!」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「くそっ、私の注意が他に向いている隙にまんまとやってくれたな! 怪人ドライバー面相!」
タ「オイ」
梓「何の事かな村崎君? まぁお目当ての“金色の兜”は手に入れたんだ、退散させてもらうよ」
タ「オイ!」
醤「波花、これから推理タイムに入るからカグラ少年返せよ」
タ「オイ!!」
梓「嫌」
タ「オイっつってんだろ!! お前ら本物のワルを無視するのも大概にしろ!!
  次回! 『六角形の神サマ』第玖話、『小規模度胸・大規模野望(後篇)』!
  我々テクノポリスの壮大な計画を前に、せいぜいひれ伏すが良い!!」
醤「御久シ振リデス!」
タ「やめろ! たった3話出てなかっただけだろうやめろ!」

六角形の神サマ 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇) ( No.9 )
   
日時: 2018/01/14 16:05
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇)





「っんの女アアアアアア!! マジありえんわもーマジありえんし!!」
「しょ、醤君。落ち着いて……」

メダロット研究所の1室内。
カグラが誘拐され、怒号を響かせる村崎醤(ムラサキショウ)を、研究所所長兼メダロット博士である波花椒吾(ナミハナショウゴ)は宥めようと試みる。
言わずもがな、誘拐犯は醤のクラスメートであり椒吾の娘でもある、波花梓音(ナミハナシオン)である。
醤は落ち着く事を知らず、声を荒げる。

「落ち着いてられませんよ!!
 アイツの事だ、ジジイがぼーっとしてる間にドライバーで背中のハッチこじ開けてメダル盗るに決まってる……!」
「そ、そこまでするかなあ……?」
「しぃちゃんて情熱的だから、ふふっ」
「“執念”の間違いだろ!! そんな微笑ましいレベルの話じゃねえぞ!?」

醤の話を聞いて両頬に手を当てて笑うマリアに、目を見開きながらそう言った。
困り果てながらも、椒吾は首を傾げながら疑問を口にする。

「いつもお世話になってるのもあると思うけど、梓音がこうまでして何かを欲しがるなんて珍しいねぇ……?」
「そりゃあ……」
「ショウさんっ」
「あ……」

椒吾の疑問に突発的に答えそうになった醤は、小声でマリアに止められた。
梓音がカグラに執着する理由を話すとなれば、当然、出会った経緯を話さなければならない。
出会って数時間しか経っていないが、優しい椒吾が『幼い梓音が周りに馴染めず寂しい思いをしていた』事実に心を痛める事になるのは醤にも何となくわかる。

「ん? どうしたんだい?」
「いやー、はは……あっそうだ! オレ、カグラを探しに行ってきます!」
「えっ、醤君……! ……ま、待ってくれないか……?」

カグラを探しに行くという名目を見つけ、研究室から出て行こうとした醤は、椒吾より足を止められた。

「その……折角だし、僕と話でもどうかな?」

椒吾の突然の申し出に、醤は少し目を丸くする。

「いやあの……確かにオレも博士から話聞きたいけど、カグラを探さねえと……」
「カグラ君の事なら大丈夫。
 もし梓音が拒んだとしても、必ず君がカグラ君と帰られるよう僕がきちんと話すから……駄目かい?」

申し訳なさそうに頼み込む椒吾に、醤は言葉を失くした。
斯様な状況でなければ、椒吾からメダロットについての様々な話を聞きたいのも事実。
それに。
のんびりとした温かい雰囲気を持つ椒吾を前に、カグラの姿がちらつき、醤の心は揺れた。
マリアもしおらしく、醤の傍らで手を合わせる。

「ショウさん、マリアからもお願いです。
 しぃちゃんも……ジジ様と2人きりでしたいお話、たくさんあると思うんです。
 ジジ様とはずっといたいですけど、マリアもしぃちゃんを説得しますから……お願いします」

そう言って頭を下げるマリアに、醤は乱暴に頭を掻くと、諦め気味に笑いを零した。

「……わかった。オレにメダロットの話教えてください、博士!」
「醤君……!」
「ありがとうございます、ショウさん!」

醤が歯を見せて笑うと、椒吾は顔を綻ばせる。
マリアも頭を上げ、お茶を入れてきますね、と嬉しそうに研究室を後にした。





一方、カグラは梓音に連れられ、梓音の部屋に来ていた。
部屋の壁は真っ白なジグソーパズルがはめ込まれており、家具は黒1色で統一されている。
整えられたモノトーンの小さな空間で、教科書やノート、そして部屋の主である梓音の“色”は良く映えた。

「……おじいちゃん、コレ、が修理したパーツなんだけど……」

カグラとテーブルを挟み、向かい合って座る中、梓音は少し躊躇いながら大きな紙袋をテーブルの上に乗せた。
取り出した中身は、新品と見間違う程のKBTシリーズ1式。
自分と共に戦ってきたパーツを懐かしみながらも、酷使し大破してしまったパーツがここまで修復可能であるのかと、カグラは目を丸くした。

「ほぉ……! かたじけないシオン! ここまで綺麗に直るとは……!」
「……ううん、実は……直せてないの」

そう言うと、梓音は暗い表情で静かに首を横に振った。
修理されたパーツから梓音へと視線を移し、カグラは首を傾げる。

「直っておるではないか」
「……パーツ自体は、部品を取り換えたり接合して修理出来た。
 けど、何度実験してもティンペットのナノマシン……自動修復機能は完全に不能。
 パーツの方は……ナノマシンと連動が出来ないみたいで、1度壊れたら回復も復活も出来ないみたいなの」
「そうか……もう、使えぬか」

目の前のパーツに視線を戻し、ゆっくりと言葉を吐いたカグラに、梓音か小さく頭を下げる。

「ごめんね、ワタシ……」
「……なに、この機体が寿命だったというだけの話。お前が謝る理由等何処にも無い。
 シオンにここまで直せて貰えてワシはとても嬉しいよ、ありがとう」
「おじいちゃん……」
「この機体でまだ使える部品は、他の絡繰りの修理に是非使って欲しい。……お前も、長い間有難う」

穏やかな口調で言うと、カグラは慈しみながらパーツを撫でた。
そんなカグラの様子を覗き込むように見ると、梓音は心配そうに尋ねる。

「おじいちゃん、大丈夫? 今日、ずっと元気ないよ……?」
「……何の。強いて言うなら、この研究所は何から何まで珍しい物ばかりで目を奪われっぱなしなだけなのだよ。心配かたじけない」

カグラは笑い声を交えながら答えたものの、不安が拭われる事は無く、梓音は胸を押さえるように手を当てた。
梓音は何かを決心したように口を一文字に結んだ後、小さく開く。

「おじい、ちゃんは……どうして、村崎を選んだの……?」

途切れがちに声を掛けられ顔を上げたまま、カグラは梓音から目を離せなくなった。
声こそ少し震えていたが、その眼差しは強く、誤魔化す事を許さない。
カグラは、静かに息をつく。

「……先の1戦の事か」
「ごめんなさい。『大事な孫だ』って言って貰えて凄く嬉しかった、ハズなのに……どうしても、わからないの……。
 一緒にいるの……ワタシじゃ、ダメなの……?」

梓音の視線や言葉を受け止め、カグラは1つ瞬きし、口を開いた。

「何を言っても詭弁になるやもしれぬが……シオンと一緒にいるのが駄目な訳が無い。偶然が重なっただけなのだよ」
「ぐうぜん……?」

カグラは、この部屋の空気を一掃するかのように、“楽しさ”を言葉に滲ませる。

「……ショウがな、ワシを助ける時に言ったのだよ。『アンタのメダル貸してくれ』、と。
 助ける者に頼み事とは、本当にショウは変わっておる」
「村崎が、おじいちゃんを助けた……?」
「左様。自分が……渦中に巻き込まれるのも顧みずに」

告げられた事実に梓音が驚くと、カグラは幾度が低い声色でそう言った。
表情にも影が差したかと思えば、カグラはすぐに微笑む。

「ショウが救った“命”をどうこうする権利等、ワシには無い。
 だから、ショウが一緒にいる事を望むならば……望んでくれる限り、ワシは隣にいようと思うのだよ」

カグラの決意を聞き、梓音は僅かに目を伏せた後、小さな声でカグラに尋ねる。

「それって……ワタシがおじいちゃんを助けてたら、ワタシと一緒にいたかもしれないってコト……?」
「お前達には酷かもしれぬが、否定は出来まい。そういう未来もあったやもしれぬ」
「そ、っか……」

呟きながら梓音は笑みを浮かべたが、その表情はすぐに曇る。

カグラは、仮定の話をした。
梓音自身、カグラが助けを求めたならば、助けただろうと思う。否、思いたかった。
しかし、あくまで“仮定”なのである。確証は何処にも無い。
カグラの声に気付いたのも、カグラを助けたのも、他の誰でもなく……。

梓音は、自嘲気味に笑う。

「村崎は、扉壊せたんだ……」
「シオン? っ――……」

カグラにしか聞こえない“音”により、彼は言葉を止めた。





「はい、これがKWGシリーズの資料だよ」
「うおおおお!! ありがとうございます!」

その頃、研究室にて。
醤は椒吾からメダロットの話を聞いたり、文献を見たりしていた。
嬉々として中の資料を眺める醤に、椒吾は穏やかに笑う。

「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいなあ。醤君はKBTだけじゃなく、KWGも好きなんだね」
「……すいません、KBTのも見せてクダサイ」
「声が震えてるけどどうしたんだい!?」

あれだけ夢中になっていた書類から目を離し、暗い表情で笑う醤に、椒吾は思わず声を上げる。
醤は1つ咳払いをし、苦笑しながら話す。

「いや、でもKBTの設計資料は冗談抜きで嬉しいです。メンテとか調整に必要なので」
「わかった、用意しておくよ。それにしても……」

くすくすと笑い声を零す椒吾に、醤は不思議そうに尋ねる。

「何すか?」
「醤君は、噂通りのメダロット馬鹿だねえ」
「メ、『メダロット馬鹿』!?」
「僕や梓音と一緒だよ。わかるし感じるんだ、本当にメダロットが大好きなんだなって」

突然の言い様に声を荒げた醤だったが、満面の笑みを浮かべる椒吾に対し何も言えず、照れ隠しで頭を掻いた。
僅かに顔を赤らめる醤の顔を覗きながら、椒吾は言葉を続ける。

「君みたいな熱心な子が研究所に入ってくれたら良いんだけどなあ」
「え……?」
「そうだ! それが良いよ! どうだい醤君!? 醤君が入れば賑やかになるし、研究も捗ると思うんだ!
 是非将来、メダロット研究所の職員に!!」
「ちょっ、待っ、博士!」

いつもの穏やかな雰囲気とはうって変わって興奮し、醤の手を取って勢いよく上下に振る椒吾を、醤は慌てて制止する。
椒吾は我に返ると、醤の手を開放し、恥ずかしそうにはにかんだ。

「あっ、ごめんごめん。気持ちが昂るとどうもいけないね。でも、醤君が研究所に来てくれたら嬉しいっていうのは本心なんだ。
 ……梓音も、喜ぶと思うし」
「え、波花が? 怒り狂うだけだと思いますよ?」

怪訝そうな顔で言う醤に、椒吾は笑顔のまま少し俯いて答えた。

「確かに、あんな梓音を見るのは初めてだけど……あんなによく喋る梓音は、もう何年振りにもなるんだ。
 妻が先立って、僕は研究漬けで、梓音にはきっとずっと寂しい思いをさせてきたと思うから……」

椒吾の言葉に、醤は当時の事を思い出していた。

記憶はおぼろげだが、正しければ11年前、梓音の母が亡くなったような事を聞いたような気がした。
幼稚園児であった醤は、“死ぬ”という事がどういう事なのか理解していなかったが、甘えた盛りに母を亡くした辛さは計り知れないモノだろうと今ならわかる。
母もいない、友達もいなかったという梓音が出会ったのが、カグラとマリアだった。
新しい“家族”に、どれだけ救われた事だろう。

複雑な心境に駆られる醤に、椒吾は顔を上げ、優しく微笑んだ。

「だから醤君……これからも、梓音と仲良くしてください」
「……はあ……」

間の抜けた返答をしたは良いものの、果たして自分は“あの”梓音と仲良くなる事は出来るのかと、醤は腕を組んで考えた。
すると、椒吾から今度は遠慮がちに話し掛けられる。

「それでね、醤君には1つ確認したい事があって……」
「あっ! ハイ、すいません! 何ですか!?」

腕を解き、明るめの口調を努める醤に、椒吾は少し困った顔で問う。

「何て聞いたら良いのかな……今日は、修理したパーツを取りに来ただけ、なんだよね?」
「はい、そうですけど……『だけ』って?」

躊躇っていた割にごく普通の質問に拍子抜けしながらも、醤は疑問に思った単語を尋ね返す。
椒吾は少し安堵した笑顔で、更に言葉を続けた。

「いや~、ホラ、君達はもう高校生だし、有り得ない話じゃないかなあって。でも、安心したよ。
 ……梓音が彼氏を紹介しようとした訳じゃなくて」

――あれ何だろう、まだ春なのにクーラーでもついたのかな?

眼鏡を掛け直しながら呟いた椒吾に対し、醤は体感温度が一気に下がったように錯覚しながら、渇いた笑いを零しながら目を背ける。
どうしたものか醤が考えあぐねいていると、研究室の扉が開き、鉄砲玉の如く何者かが飛び込んできた。

「ショウ! “虫の知らせ”が来たのだよ!」

この場から逃げ出す口実が出来た醤は、突っ込みたい事は山程あるがカグラに目を向け、立ち上がる。

「カグラ! グッドタイミングだ!」
「何の話だ? それより急がねば!
 “知らせ”が来てから散々迷った挙句、途中で梓音がいなければ扉が開かない事に気付いて奔走したのだ!」
「あー、指紋センサーな。それで波花死んでんのか」

醤はカグラと手を繋いだまま地に伏せ、咳き込んでいる梓音に視線を落とした。
梓音は普段研究ばかりであまり“動く”という事をしない印象を抱いていたが、どうやら見たままらしい。
地に伏せたまま、梓音は途切れ途切れに喋る。

「おじい、ちゃんと手、繋いじゃった……ふ、ふ……ワタシ、も、死んでも良い……」
「良かったな、もうすぐお望み通りになるぞ」

先程の話と目の前の残念な少女とのギャップによりナーバスになった醤は、そう吐き捨てた。
満身創痍の梓音にようやく気付いたカグラは、慌てた様子で研究所内を見回す。

「す、すまぬシオン! 大事……あるな。早く水を……!」
「博士! 今日はありがとうございました! オレ達緊急事態なんで後よろしくお願いします!」
「おっ、おいショウ!」

左右を見回すカグラの腕を掴み、醤は椒吾に向かって小さく敬礼すると、カグラを引き摺るように走り去っていった。
椒吾は思わず前に腕を伸ばすが、止めたい相手はもう何処にもいない。

「えええー……?」
「ま、待ちなさい村崎……! ワタシも、一緒に……!」
「博士ー! ショウさーん! 紅茶のパックが見つからなかったのでアッツアツの抹茶ラテを入れて来ましたー! ……って、あら?
 ショウさんがいなくてしぃちゃんがいます」

丁度、入れ違いでマリアが研究室へと戻り、お盆を両手で持ったまま、地に伏している梓音の傍にしゃがみ込んだ。

「しぃちゃん、お腹空いちゃったんですか? それじゃあ今抹茶ラテをのm」
「……マリア、」

嬉々としてカップを手に取ったマリアの頭を鷲掴み、梓音は地の底から響くような声で告げた。

「今、ワタシに抹茶ラテを飲ませたら、ネジ1本残す事無く解体する。これは警告だ」
「…………うん、大変申し訳御座いませんでした」





「ショウ! 待てと言うに! シオンを放っといてはいかん!」
「元はと言えばお前がスタミナ豆腐女を走って連れ回したからだろーが! それよりこの辺か!?」

研究所を出たショウとカグラは、大通りをひたすら走る。
すると、曲がり角の向こうから騒ぎ声が響いてきた。

「や~め~て~よ~! これボクのメダロットだよ~!?」
「ぐぬぬぬ……! 小癪なガキめぇ、とっととメダロットを寄こせえええ……!」
「あっちか!」

醤達が声を聞きつけ角を曲がると、道の先には信じられない……否、あまり信じたくない光景が広がっていた。

……1体のメダロットを、体格が良くふくよかな少年と、未来人のような白い衣装を身に纏ったテクノポリスエリアリーダー・タバスコが左右から引っ張り合っている。
しかも、地面に転がって。
知人の情けない姿に、醤は頭を抱え、カグラはげんなりしながらリボルバーを放った。

「いっで!?」
「うわっ!? ……あ~、メダロット戻ってきた~。お兄さんとメダロット、ありがと~」

手首にライフルが当たり、タバスコが思わず手を放してしまった隙に、少年はメダロットを抱え込んで立ち上がり、大きく手を振りながら道の向こうへと駆けていった。
タバスコは赤くなった手首に息を吹きかけた後、醤達に気付き、尻餅をついたまま声を張り上げる。

「出たなボロボット共!! 勝機無しとみて俺に直接攻撃とは恥を知れ! “メダロット3原則”はどうした!?」
「どっちもお前に言われたかねーよ! 大体、何でこんな道端で事件起こしてんだよ!?
 今回のメイン“メダロット研究所”なんだから、研究所乗っ取ってメダロット強奪すんのが筋ってモンだろうが!?」
「ショウ、お前が悪事を唆してどうする」
「あ……ぁの研究所、セキュリティ万全で捕まりそうでコワィ……」
「チキン野郎!!」

蚊の鳴くような声で言ったタバスコに、醤はありったけの罵声を浴びせた。
カグラは、話を本筋に戻そうと、タバスコに問い掛ける。

「……タバスコ、お前は何故絡繰りを奪う? 絡繰りが必要であるならば、他に幾らでも方法はあろう」

カグラの問いに対し、タバスコは先程とうって変わって真剣な表情で立ち上がり、ゴーグルを掛け直すと、静かに語り始めた。

「人類は、テクノロジーの発展を自らの進化とし、科学的・経済的成長を遂げてきた。その集大成が“メダロット”だ。
 メダロットは人工衛星から、軍事的価値も見いだされる程の“兵器”と成った。科学の進歩は実に素晴らしい! がしかァし!!
 メダロットの進歩は、一部を除く人類により停滞しつつある! そう!!
 お前等のような一緒にいる事しか望まないような堕落した奴等だよ!! 村崎醤!!」
「はあ……!?」

話の矛先が自分の方へ向き、醤は眉間に皺を寄せた。
タバスコは、感情の昂りを見せながら、手を振りかざす。

「我々テクノポリスは、メダロットを以て軍事国家を形成し! そうした“無駄”を完全に駆逐する!
 そのためにメダロットを本来の利用価値に戻そうとしているだけなんだ! 咎められる謂れ等無い!」
「大それた目的の割に肝小せえなオイ!?」
「シャラアアアアアッップァ!!」

テクノポリスの目的を耳にした醤が思わず突っ込むと、タバスコは声を張り上げて遮った。
醤はタバスコの言葉に納得いかず、負けじと異論を唱える。

「良いじゃねぇか一緒にいるだけで!! そんなんメダロッターとメダロットの勝手だろ!?
 価値だの発展だの難癖つけて、どうせ一緒にいるだけで充分な奴等やっかんでるだけなんだろうが!!
 それに、人間邪魔ならお前はどーなんだよ!?」
「我々をお前等のような腑抜けと一緒にするな! テクノポリスは、メダロットの発展に貢献出来るごく一部の限られたエリート集団!
 駆逐の必要性は皆無だ!」

醤とタバスコが睨み合い、罵り合う中、傍観していたカグラは静かに口を開く。

「……確かに、お前の言う『堕落した』集団に、ワシも入っておるようだな」
「おいジジイ! 何認めて……」
「認めた訳ではない。ただワシは、大事な者と共に過ごす事が出来……」

醤の咎める声を否定すると、カグラは地を踏みしめた。
サブマシンガンの照準と強い緑の対の光が、タバスコを捕らえる。

「他愛もない理由で他者の幸せを踏みにじる外道を一掃出来るだけの力があれば、満足だという話なのだよ」

カグラの気迫に醤は絶句し、タバスコは笑みを浮かべながらもその頬には冷や汗が伝う。
タバスコは視線を何とか振り払い、メダロッチを構えて独り言のように呟いた。

「そうだ、どうせお前とはコレでしか決着はつけられまい。メダロット転そ……!」
「おじいちゃん!」

タバスコが転送ボタンを押そうとした所で、突如響いた声により動作を遮られた。
醤とカグラが振り向くと、梓音が息を切らしながらマリアと共に走ってくる。
カグラは構えを解き、驚いて声を上げた。

「シオン! マリア! 何故此処に……!?」
「け、研究所出たら、声が聞こえて……」
「そうじゃねえ!! 良いから早く逃げろ! じゃねえと……!」

醤やカグラの脳裏では、先日一緒にいたばかりに巻き込んでしまった友人達の事が思い出されていた。
幸い2人に怪我は無かったものの、梓音達まで巻き込み、今回も無事で済むとは限らない。
醤とカグラは、タバスコの反応が気になり、勢いよく再度そちらへ向いた。

すると。

「……ッ!?」

顔面を蒼白させたタバスコが、口元に手を当て、まるで金魚のように口を動かしていた。
タバスコの突然の挙動に、一同が怪訝な表情を浮かべる中、辛うじて醤が呼びかける。

「おい、」
「ぎゃああああああああ!!」

タバスコのあまりの悲鳴に、醤達は一斉に肩を竦める。
その後もタバスコは叫び声を上げながら、一目散に道の向こうへと消えて行った。
取り残された中、梓音が恐る恐る尋ねる。

「な、何アレ……?」
「……見ての通り変質者だけど、何? お前の知り合い?」
「あの変態はお前の知り合いでしょ?」
「うるせえな、オレだって不本意なんだよ」
「良いではないか、皆が無事なだけで儲け物なのだよ」

カグラが小さく息をつきながら言うと、マリアは首を傾げた。

「ジジ様! あの白い方は誰だったんですか? お知り合いなんですよね?」
「知人ではあるが……マリア達が気に掛けるような事ではない」
「えー! 気になります!」
「……別に、言わなくて良い」

ぽつりと呟いた梓音に、詳細を欲していたマリアと、詳細の説明を躊躇った醤とカグラの視線が集まった。
梓音の目と言葉に、確かな“意思”が宿る。

「誰だろうと、ワタシはおじいちゃんを守るだけ」

沈黙の中、マリアだけは笑顔でそうですね、と頷いた。
醤がカグラを見やると、困っているんだか嬉しいんだか、複雑な表情を浮かべている。

「……村崎、」
「うわっ! な、何だよ!?」

突如梓音に話し掛けられるとは思っておらず、醤は素っ頓狂な声を上げた。
醤の様子に動じる事無く、梓音は僅かに目を伏せる。

「……ありがとう、おじいちゃんを助けてくれて……」

思い掛けない梓音の言葉を醤の頭が理解するのに、幾何か時間を要した。
気恥ずかしさからか僅かに頬を染められると、此方としても調子が狂ってしまう。

「……オレのジジイでもあるからな」

口をついた言葉は素っ気ないモノであったが、彼女に伝わっただろうか、と醤は思う。
どうやら梓音も理解するのに時間が掛かったようで、瞬きを2回した後、僅かに口を開いた。

「…………禿げろ」
「だとコラ」

お馴染みの毒舌に醤が口の端をひくりと動かすと、梓音は醤を見据えて言う。

「負けないから、グランドファザコン野郎」
「そーかよ、グランドファザコン女」

二人の“孫”の背中を、夕日と2対の光が温かく照らした。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「皆さ~ん、儲かってまっか~?
  さて、巷では早くも年越しの準備が始まってる訳ですが、経済状況が厳しい村崎家は無事に年越し出来るのでしょーか?
  そんな中、次回の『六角形』は豪華3本立て!
  『村崎、バイトする』、『村崎、メダロットを借金のカタにとられる』、『村崎、遂には主人公の座を……』」
醤「売るかボケエ!! 次回! 『六角形の神サマ』第拾話、『商人之進(前篇)』!」
甘「商人も強盗も甲斐性無しも、みんな楽しくロボトルファーイ」
醤「その『甲斐性無し』ってのはオレの事じゃねえだろうな!? ああ!?」

六角形の神サマ 第拾話/商人之進(前篇) ( No.10 )
   
日時: 2018/01/14 16:34
名前: 海月

佐藤商店。
其処は、佐藤甘太(サトウカンタ)の実家が経営している、古き良き時代を感じさせる店舗である。
扱っている商品は、食品や日用品から、メダロットまで多種多様。

この日、最初の来訪者は、客ではなかった。

「いらっしゃい……よぉ、村崎。休みの午前中から何買いに来たんだよ?」
「……おう」

甘太は、顔馴染みの村崎醤(ムラサキショウ)の姿を確認すると、大きな欠伸をした。
醤は短く返事した後、ハタキを持つ甘太の前に仁王立ちする。

「な、何だよ?」

とてつもない威圧感を放たれ、怪訝な顔で甘太が尋ねると、醤は息を吸い込んだ。

「ここで働かせてください!!」
「は?」
「働きたいんです!!」





『六角形の神サマ』 第拾話/商人之進(前篇)





「なーるほーどーねぇ~」

カウンターの椅子に腰掛け、甘太は、醤から受け取った履歴書を眺めていた。
その正面には、緊張した面持ちで醤が腰掛け、次の甘太の言葉を待つ。

「村崎家のシステムじゃローンの完済が何時になるかわからない、と」
「左様です」
「今や小学生でも自分の小遣いでメダロット買ってるっつーのに村崎、お前って奴は……」
「うるせぇで御座います!」
「社会ってのは敬語使えば良いってモンじゃねーぞ」

履歴書から目の前に視線を移し溜め息をつく甘太に、醤はすかさず怒鳴るが、いつものように軽くあしらわれて終わった。

KBTシリーズ1式、税込五千円。10回払い。利子無し。
それが、醤の甘太に対するローンの詳細である。
初回は既に返済しており、残りの4,500円なんて時間を要さずに用意出来ると醤は思っていた。
が。
村崎家のお小遣いシステムがお小遣い制となり、経済状況が悪化。
平日は醤があまり手伝えず、実質カグラ1人で日給・五百円を稼いでるようなものなのである。
『それなら、9日働けば完済出来るじゃん』とお思いかもしれないが、オイル代、メンテ代、弾薬代……と、ロボトルするだけで、更に言えばカグラが生きるだけで賃金は消えていくのだ。
何らかの意思でローンの完済を遅延させている訳ではない。決してない。

そこで醤が考え付いたのが、アルバイトだったのだが……。

「おいおい、志望動機嘘書くなよな~。『メダロットで遊ぶ金欲しさ』だろ」

面接官が予想し過ぎていた通り、一筋縄じゃいかなかった。

「遊ぶ訳じゃねぇ! 理由はどうあれ真剣なんだよ!」
「はいはい、“真剣ロボトル”な」
「その真剣じゃ、いやちょっと入ってるかもしんねーけど! 頼むから雇ってくれよ!」
「性格真面目って……ウケる、チンピラ過ぎてクラスの女子三分の二から引かれてる奴がw」
「うるせぇ履歴書もう見んなああ!! つかお前何つった今!?」
「履歴書見ずにどう面接しろっつーんだよ」

醤がぐうの音も出なくなった事を確認すると、履歴書をテーブルに置き、甘太は椅子から立ち上がった。

「ま、良いや。ウチもアルバイト雇う余裕はあんま無ぇから、最低賃金で勘弁してくれ」
「あ、りがとうございます……?」
「おれとしても金が返って来ないと困るしな。メダルごとKBT1式返してくれても良いんだけど」
「何だ? オレの知らない所でカブトメダル狩りでも流行ってんのか?」

ドライバーを両手に襲い掛かる少女を思い浮かべながら、醤は少し低い声で言い放つ。
冗談だ、と甘太は手を振った後、醤に向かって黒い布の塊を投げた。

「わっ!? 何だコレ!?」
「佐藤商店のエプロン。村崎君、君には今この瞬間から早速接客と掃除をして貰おう」
「わかった……お前、コレ着て仕事してた事あったっけ?」
「良いんだよ。おれは生きながらにして佐藤の看板背負ってっから」
「無駄にカッコ良いな!?」

そんなやりとりをしながらも、醤はエプロンを着終え、甘太はハタキを手渡した。

「じゃあ、おれは会計すっからよろしく~」
「よし、どっからでもかかって来いやアアア!!」
「とりあえずその近付く奴皆殺しにしそうな顔どうにかしろ」

醤の気迫に、甘太は呆れながら、再び会計のパイプ椅子に腰掛ける。
すると、勢いよく戸が開くと同時に、数人分の足音と声が店内に響いた。

「ら、らっしゃああああ!?」
「ラーメン屋か」
「よおカンタ! 相変わらずしけた顔してんな!」

醤に突っ込みを入れると、我が物顔で入ってきた小学生の男児3人を、甘太は頬杖をついたまま見やる。

「うっせ。まーた立ち読みか悪ガキ共」
「へっへー、今日ポンポンの発売日だかんな!」
「あれ!? 全部紐ついてんじゃん!?」
「ざんねーん、佐藤商店ではもうポンポンの立ち読みは禁止でーす」
「生意気だぞ! カンタのクセに!」
「観念して買ってけ。3人1冊で割り勘すりゃマシになんだろ」

「バカ」だの「アホ」だの罵声を浴びせながらも、3人仲良くお金を出し、漫画雑誌を手に店を出ていく小学生達に、甘太はひらひらと手を振り見送る。
その間、醤は口を開けたまま何も話す事が出来なかった。

「あざしたー、またの御来店をお待ちしてまーす」
「……良いのか今の?」
「ラーメン屋に対応云々を言われたくねーんだけど」
「オレもだよ!?」

やっと喋る事が出来た醤は甘太に食って掛かるが、甘太は物ともせず淡々と語る。

「良いか、村崎。商人にとって大事なのは客に媚びる事じゃない、利益を得る事だ」
「いやその利益を得るために愛想が必要なんじゃ」
「愛想良くすりゃ100パー利益が得られるか? 次に繋げられるか? 答えはノーだ。
 なら、“今”金を落とさせる事に1点集中するしかねーだろ」
「わかった! だからこの店客来ねぇんだ!」
「……雇い主にここまで言えるバイトも珍しいな」

甘太が小さく息をつくと、商店の戸が再び開いた。
甘太と醤の視線は、入ってきた若い男女2人に向けられる。

「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ」
「だから私じゃないってー」
「俺でもねえよ~」

完全に2人の世界に入っているリア充に、醤は頭を上げないまま拳を握りしめた。
甘太は、醤を諭すように肩に手を置く。

「さっきのアイツらみてーに、必ずしも店員を相手にするとは限らねーんだって」
「……オレが言いたいのはそういう事じゃない。どっちでもええわ」
「ホンマにな」

短い返答に答える事なく、醤が観念して頭を上げると、甘太が言葉を続ける。

「商売には妥協も必要でな。さっきみたいに譲歩すりゃあ、どっちにも利益が入るってモンよ」
「リア充にどう妥協しろっつーんだよ」
「金を毟り取る」
「妥協かそれ?」

小声でやりとりをしている間に、カップルの男性が女性に声を掛けた。

「何買うか決まったか?」
「うーん……やっぱ良いや。出よ」

女性がそう返すと、来店時と同じく腕を組みながら、2人は外へと向かう。
が、店内に響いた声により、出る事は叶わなかった。

「お客さん」

2人が首を傾げながら振り向くと、そこには会計席に座る、店の壁を満面の笑みで指差す店員。
男女がそちらへ目を向けた後、何の事かわからない醤も指差す方を見た。
すると、店の壁に貼られた、達筆な字で書かれた1枚の紙が目に入る。
『ひやかしお断り』。

「あ、あの……?」
「御覧の通り、ウチは何も買わずに出られる店じゃないんすよー」
「そんな馬鹿な話が……!」
「馬鹿な話ついでにもう1つ。ウチはですねーお客さん、」

醤が張り紙から甘太へ再び視線を移すと、甘太の目が僅かに開いた。

「開業以来、何も買わずに店を出た人誰1人としていないんですよー」
「……!?」

店内を支配する只ならぬ空気に、甘太以外の人間が絶句した。
満面の笑みから普段の表情に戻り、考える素振りを見せながら、甘太は呑気に喋る。

「それで提案なんですけどね、当店では5円チョコを取り扱ってましてー」
「…………く、ください」
「まいどー」

料金を机に置き、商品を受け取ると、男女2人は足早に店を出て行った。
“逃げる”という表現が1番しっくりくるのかもしれない。

「あざしたー、またの御来店を」
「来る訳ねぇだろ極悪商人!!」

醤の声が、先程の甘太と別の意味で店内に響いた。
甘太が不服そうに眉をひそめる。

「んだよ。お前は客が帰ると元気になんなー?」
「ヒトをコミュ障みてぇに言うな! 今のは流石に無ぇだろ! 妥協は!?」
「だから互いに5円チョコで」
「佐藤それ『妥協』ちゃう!! 『脅迫』や!! 恐いわひたすらお前が恐い!!」
「うるっさい!!」
「いって!?」

掴みかかる勢いで醤が怒鳴っていると、背後から何者かに頭を叩かれ、醤は両手で押さえる。
頭に痛みが響くまま振り向くと、そこにはモップが付いた右腕を振り上げたままのメイド型メダロット・メダメイドが仁王立ちで立っていた。
醤は殴った相手を確認すると、咎めるようにその名を呼ぶ。

「グルコ!」
「何騒いでんのよ! お客さんが来たらどーすんの!?」
「どうせ来ねぇだろ!? 後お前もうるせぇ!」
「失礼ね!」
「いてっ! 殴んなって!」

醤に第2撃をお見舞いすると、グルコは今度、甘太を睨む。

「カンタ! 友達と遊んでないでちゃんと店番やんなさい!」
「仕事してたっつーの。ついでに村崎も」
「何でショウがウチで仕事してんのよ!?」
「今朝おれが雇って、ここのバイトになったから」
「あんたっ、おかみさんに許可とらないで勝手な事して!」

そのまま説教を続けるグルコに、甘太は指で両耳を塞ぐ。
頭を擦りながら、醤は呆れたように笑った。

「相変わらずだな、グルコ」
「ああ、そろそろ落ち着いて欲しいもんだ」
「ヒトをヒステリーみたいに言わないでくれる!? っもう、図体ばかりデカくなって中身子どものまんまなんだから!」

そう怒りながら、グルコはスプリング音を響かせながら雑誌コーナーへと向かった。
そして、いつの間にか宙に浮いていたエロ本目掛けてモップを振り下ろす。

「あんたもちゃんと仕事しなさいっ!」
「いでぇ!」

打撃音と叫び声が同時に上がったと思うと、床に雑誌が落ち、何も無かった空間に徐々に姿が現れ始めた。

「いてて、姐さんは容赦無ぇなあ~」
「ジーが真面目に仕事しないのが悪いんでしょ!? 私が悪いみたいじゃない!」

カメレオン型メダロット・ナチュラルカラーのジーは、その場に座り込み、殴られた左手を擦りながら反論する。

「ちゃんと監視してますよ~、こうやって人間共の性事情を」
「あんたが監視するのは万引きでしょーが!!」
「いでええええええ!!」

――アイツ、無茶しやがって……。

ジーの頭にクリティカルしたモップを見て、醤と甘太は心の中で静かに合掌した。
怒り疲れたのか、グルコは大きなため息をつくと、籠を左手に取り、店の戸に右手を掛けながら醤達の方へ振り向く。

「私は買い物に行くけど、ちゃんと店番してなさいよ坊主共!」
「へーへー。グルコー、カリカリしてたら皺」
「出来る訳無いでしょ!!」

甘太の売り言葉に買い言葉を叩きつけ、グルコは勢いよく店を出た。
なおも前後に動き続ける戸に向かって、甘太は言葉を投げかける。

「帰ってくんなバーカ」
「相変わらず凄えな~、お前の姉ちゃん」
「姉ちゃんじゃねー、おふくろのメダロットだ」
「姉ちゃんみてぇなモンだろ。お前が生まれる前からここにいて、生まれたお前の世話とかしてたんなら」

そんなんじゃねーよ、と甘太にしては珍しく不満を露わにすると、再び雑誌を広げた。
話し相手を失くした醤の肩を、ちょんちょんとジーが突く。

「仕事に戻りやしょ。カンちゃんがああなっちまったら、そっとすんのが一番です」
「ジー……」
「さて、仕事仕事!」

場を仕切り直すジーを見て、醤は思わず笑みを零した。

『佐藤甘太』という人間は、掴み所がない気分屋である。
そんな彼の理解者が気の良いパートナーという事実は、友人の1人である醤を密かに嬉しくさせた。

当のジー本人はというと……。

「おっほ、このアングルはエグいねぇ。げへげへげへ」
「……やっぱお前ら似た者コンビだよ」

ジャンルは違えど、マスターと同じく雑誌を開き、自分の世界に浸っているメダロットの姿に、醤は前言撤回せざるを得なかった。





時を同じくして、御守町スーパー。
野菜売り場で、仁義なき戦いが繰り広げられていた。

「私が先に手に取ったのよ……は・な・し・な・さ・いぃい~……!」
「お嬢さんには悪いが、ワシとて手を放す訳にはゆかぬ。一家の食卓(※おでん)が掛かっている故……!」

1本の、太くて立派な大根。
を、買い物籠を片手に下げたメダロット2体が取り合う図。
しかし、見慣れた光景であるのか、周りの買い物客は気に留める事無く、各々自分の買い物に勤しんでいる。
大根の根っこ側を引っ張るグルコは、言葉を続けた。

「あんたっ、男ならこういう時女の子に譲るモンじゃないの……!?」
「譲る、か……なれば、半分にするというのはどうだ? このままじゃ大根が痛む……」
「じゃあさっさと手ェ放しなさいよ!! 半分じゃ意味無いのよ!?」
「す、すまぬ……」

余りの気迫に、葉っぱ側を引っ張っていたメダロット・カグラは、理不尽に内心首を傾げたが、弱々しく謝る。
カグラの手の力が緩んだ隙に、大きく鼻を鳴らし、グルコは素早く大根を奪い取った。
咄嗟の出来事に、カグラは小さく声を上げ、目を丸くした。

「あっ……仕方あるまい、別の大根を探さねば」
「……あんたねぇ、そんなんじゃこの戦場で勝てっこないわよ?」
「確かに、これでお嬢さんに負けるのも何度目になるのか……」
「4回目よ」

しっかりと戦歴を把握しているグルコにカグラは苦笑すると、最初には劣るが立派な大根を発見し、籠に入れる。
一緒に会計に並びながら、2人は会話を続けた。

「良い? 戦場では強く心を持った奴が勝つの。籠に入れたからって安心しちゃ駄目。真の強者はそれすら掻っ攫っていくのよ……」
「それは果たして『強者』で片付けても良い話なのか……?」
「良いのよ。じゃないと……心が折れるから」
「……された事があるのだな」

何時になく落ち込んだ様子に、カグラは会計を終えて財布を閉めた後、グルコの頭を撫でた。
瞬間、カグラの頭にはモップが飛ぶ。
カグラは痛みから頭を押さえ、グルコはモップを振りながら声を荒げた。

「いたたた……」
「ななな何すんのよ!! 女の子の頭を軽々しく触るなんてっ、セッ、セクシャルハラスメントだわ!!」
「せ、せくさるはらすめんと? 何か存じぬが、気分を害してすまぬ」
「そんなんじゃなくて……あーもう、ビックリしたのよ! 私も殴ってごめんなさい!」

“謝る”とは程遠い態度をとると、グルコは仄かに赤い顔でジャラジャラと音を立てながら財布の小銭を出していく。
多かったのでお返ししますね、と店員から小銭を返され、更に赤く染まったグルコは、黙って財布に仕舞った。
頭を擦りながらその光景を見た後、カグラは少し上を見上げ、小さく呟く。

「どの戦いも、経験と心持ち……か」





「暇」
「あ?」

沈黙が支配していた空間で最初に声を発したのは、最初に黙り込んだ甘太であった。
声の主とそのメダロットが雑誌に夢中の間、掃除だ整理だと忙しなく動いていた醤にとっては本当に『あ?』という話なのだが、暇過ぎるというのも事実である。
床に寝っ転がっていたジーも、顔を上げ、溜め息をつく。

「もう誰でも良いから来ませんかねー。ついでに万引きでもしてくれりゃあ、オラも退屈しねーんですけど」
「万引きGメンがそれで良いのか?」

突っ込みながら、客が来たら来たでその体勢は問題ではないのかとも思ったが、醤の口から出ずに終わった。
彼等の待望の存在が来訪したのである。

「いらっしゃいませー」

甘太は目もくれずマイペースに読んでた雑誌を本棚に仕舞っているが、醤とジーは絶句していた。

「「「……!?」」」

顔につけた、白縁の大きなゴーグル。
白を基調とした、未来人を思わせるスーツ。
そして、その右胸に刻まれた“Tc”という文字。

尤も、その招かれざる来訪者も、醤の顔を見るなり指を差し、第1声を失くした訳だが。

「てめっ……タバスコ!! 何でこの店に……!?」
「そ、それは此方の台詞だ! 毎度毎度邪魔をしやがってええ……!」

テクノポリスのエリアリーダー・タバスコは、完全に出鼻を挫かれ、強く歯軋りをした。
しかし、それも束の間。
仕切り直しと言わんばかりにゴーグルを掛け直し、笑みを零すと、勢いよく右手を振りかざした。

「フッ、此方とて何度も黙ってやられてる訳ではない! 行け! テクノポリス制圧部隊!」

タバスコの掛け声で、店内に大勢のメダロットが押し入ってきた。
キツネ型メダロットのア・ブラーゲ、タヌキ型メダロットのア・ゲタマーを筆頭に、戦車型メダロット・タンクダンクが大量に押し寄せ、棚の商品が錯乱する。

「ぎゃあああああ!? 何じゃこりゃああ!?」
「ショウさん!! 万引き犯ですかい!?」
「今日という日が終わったら、お前も『ただの万引き犯なら良かった』と思うだろうよ!」
「いや、良くねぇだろ。村崎ー、何コレ?」

状況判断が出来ず、混乱する醤達の姿を確認すると、タバスコは満足気に口角を上げ、左腕の2つのメダロッチを構えた。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! 奴等を捕らえてしまえ!」
「げっ!? ジー、何とか……っていねえええええ!?」

今の今までいた筈の姿が忽然と消え、醤は怒りに任せて声を上げた。
甘太はその横で、店内の奥の戸を見やり、溜め息をつきながら呟く。

「良かったっつーか、悪かったっつーか……」
「何が“良い”っつーんだよ!? ……っ男子高校生舐めんなよ、1mそこらのロボットに負けるようなヤワじゃねえ!」

そう言って、醤は向かってくるメダロット2体に身構えた。





「何なのよいきなり!?」
「誰かが助けを必要としておる! 間に合うと良いが……!」

野菜が入ったビニール袋を手に下げ、カグラとグルコは商店街の大通りを駆け抜けていく。
突然走り出したカグラに、グルコは声を張り上げ続けていた。

「助けって何!? 何であんたがそんなことわかるの!?」
「う~む、話すと少々長くなるのだが……」
「……勘弁してよ……」
「ん?」

話すべきか否かを悩んでいた最中、後ろからの押し殺したような声に、カグラは首を傾げ、足を止めずに振り向く。
グルコは、口元に手を当て、俯きがちに言葉を続けた。

「こっちって、私の家の方向じゃない……!」
「……なれば、尚更急がねば」

前を向いたカグラもグルコも、走るスピードを上げていく。

辿り着き、カグラが足を止めたその場所は、グルコがあって欲しくない場所であった。
看板の文字を、カグラは読み上げる。

「“佐藤商店”? はて、何処かで聞いたような……?」
「ここ? ここなの? 嘘でしょ、誰が……もしかして強盗!?」
「お嬢さん、気を確かに」

気が動転しているグルコの肩を、カグラが支えた。
余裕が無いグルコは、カグラに声を上げる。

「落ち着いてられないわよ! だ、誰も怪我してないわよね? ねぇ、助けを呼んだのは誰なの!?」
「そこまでは、ワシにも……」
「姐さん、姐さんっ」

小さな呼び声に、カグラとグルコは視線をそちらへ移した。
見ると、物陰に隠れたジーが、手招きをしながら此方を見ている。
グルコは、安堵から声に喜びを含ませた。

「ジー! あんた無事だったのね!」
「しーっ、声が大きいっす」
「この者は?」
「弟分よ!」

カグラの問いに淀みなく答えると、グルコはジーの胸倉を掴んだ。
同時に、ジーの表情が強張る。

「おかみさんは? カンタは? ショウは? どうなってんの?」
「ちょちょちょ姐さん、落ち着いてくだせぇ。おかみさんなら、お昼寝中の所をオラが連れ出しましたって」
「『カンタ』? 『ショウ』とな?」

前後に揺さぶるグルコに、ジーは慌てて指を差しながら答える。
指の差された方向へ目を向けると、ジーの傍らで、エプロンをつけた女性が壁を背に寝息を立てている。
こういう人を“肝が据わっている”というのだろうか。……違うか。
聞き覚えのあり過ぎる名を復唱すると、カグラは手包みを叩き、1人納得した。

「そうか、この店はカンタの実家であったか。して、何故今ショウの名が……」
「待って。あんた、2人と知り合いなの?」
「知り合いも何も、2人はワシの孫なのだよ」
「はい!?」
『ジジイ、話をややこしくすんな』

まさかの返答にグルコが思わず声を上げると、カグラの頭の中に醤の声が響いた。
思い掛けない声の主に、カグラは驚き、話し掛ける。

「ショウ! 今どこにおる!?」
「え? ショウがどこにいるっての?」
「多分メダロッチの通信かなんかじゃないですかねぇ」
『あんまり声出すな。気付かれる』

見回すグルコにジーが説明したように、醤はメダロッチの通信機能でカグラと連絡を取っていた。
そのため、カグラの声は向こうに聞こえるが、それ以外の者の声は向こうに届かない。
醤は声を潜めたまま、言葉を続ける。

『今、佐藤商店の中だ。お前は?』
「ワシは、店の物陰なのだよ。カンタのメダロット? や、カンタの母君とも一緒におる」
「ちょっと! 私はおかみさんのよ!」
「姐さん、落ち着いて」

互いに素性がはっきりしていないため、あやふやなやり取りが続く中、異議を訴えるグルコをジーが宥める。
状況を把握し、醤が一息ついた。

『そうか……それなら話が早ぇ』
「ショウ、店の中だと言うがそちらはどういう状況なのだ?」

カグラの問いに、醤は乾いた笑いの後に答えた。

『…………捕まりました、助けてください』

その声は、語尾が少し震えていたという。
聞こえてきた声にカグラは少し笑うと、安心させるような声色でそれに返した。

「そのために来たのだ。待っておれ」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「コンビニ強盗ってよく聞くけど、商店強盗って聞かねえよな」
甘「まあ、あると思うけどな。実際、現在進行形であってるし」
ジ「HAHAHA☆ さしずめボクは女性のハート強盗かな!?」
醤「えー、次回『六角形の神サマ』第拾壱話、『商人之進(中篇)』。どちらの下着強盗様ですか?」
ジ「やだなぁブラザー! Mr.ジャムだよNo.1の~! ホラ、世の女性に聞いただいt」
マ『多勢に無勢でロボトルファイトー! “大体●したい男”ですよね先輩、本当にありがとうございました~』

六角形の神サマ 第拾壱話/商人之進(中篇) ( No.11 )
   
日時: 2018/01/25 21:28
名前: 海月

佐藤甘太(サトウカンタ)の実家、佐藤商店。
たった今、店内の人口密度はピークに達していた。
尤も、その内人間は3人で、メダロットが9割を占めていた訳だが。

「なっさけねー」

ため息をつきながらそう漏らしたのは、パイプ椅子ごと縛られた甘太だった。
言わんとしている事を理解し、釣り上げられた魚の如く雑に転がされている村崎醤(ムラサキショウ)は噛みつくように叫んだ。
後ろ手に縛られているのは甘太同様だが、此方は足首も厳重に縛られ、顔には出来たばかりの小さな痣や切り傷が見られる。

「お前もだろうが!? オレ頑張ったよ!? 頑張ったのにお前頑張らねえじゃん!? オレ1人じゃん!? そりゃ捕まるわ!」
「うるさいぞそこの人質×2! 騒ぐなら安否は保障せんぞ!?」
「1番うるせえのはテメエだ変質者!! いい加減懲りろや!?」
「コワアアアアイ!?」
「……おれは村崎が1番うるさいと思う」

醤が両足で蹴り飛ばしたパイプ椅子の束が音を立てて崩れ、この店を現在進行形で制圧しているはずのタバスコは、直前の威勢はどこへやらで情けのない声を上げた。
甘太がぼそりと呟くと、完全に甘く見られていると察したタバスコは、怒りながら店内に声を響かせる。

「黙れガキ共オオオオオ!? 秘密結社テクノポリスを敵に回した事、今更後悔してもおs」
「てくのぽりす……? ああー、前神社でがちゃがちゃ言ってたヤツな。何すんの?」
「メダロットで兵隊作りたいんだとよ」
「何ソレかわいー」
「話を最後まで聞けえええええ!! 何だ!? 今時の高校生はみんなこうなのか!?」

御守神社が全壊した際の記憶を辿り、質問する甘太と、それに簡潔に答える醤に、タバスコは頭を抱えて叫んだ。
甘太はふと、思いたった事を口にする。

「ん? 待てよ、じゃあ店がこんな風になったのって……」
「ふははは!! 知れた事! この店のメダロットを我が手中に収め、テクノポリスの戦闘員にするためだ!
 もう誰にも俺をチキンとは呼ばせんぞ!!」
「だァから狙うならこんな弱小商店じゃなくて研究所だのメダロット社だの狙えって言ってんだろうがチキン野郎!!」

醤の敵か味方か判別出来ない発言により、醤とタバスコの論争は再度勃発する。
普段なら、1言2言挟んでも良さそうな甘太であったが、この時は2人のやりとりを見て小さく声を漏らした。

「……へえ」





『六角形の神サマ』 第拾壱話/商人之進(中篇)





その頃。佐藤商店近くの物陰にて。

「さて。ショウ達を無傷で救出するには、如何様な手を打てば良いか……」

カグラは、店を横目で見やりながら呟いた。
商店の壁はガラスであり、タンクダンクが店内を埋め尽くしている様子は確認出来るが、醤と甘太の安否は確認出来ない。
数秒の沈黙の後、グルコも口を開いた。

「まどろっこしいわね。自分の家に帰るのよ? 正面から行けば良いじゃない」
「ね、姐さん。痺れるくらいカッコイイっすけど、それだとカンちゃんもオラ達も蜂の巣ですぜ」

ちょいちょいと手を掲げながら言うジーに、グルコは焦りから堪らず声を上げた。

「~っもう! 時間かければ良いってモンでもないじゃないの!」
「落ち着けグルコ嬢。助ける者がいなくなっては元も子も無いのだよ」
「……っ、……」

冷静に宥めるカグラに、グルコは食って掛かりそうになるのをぐっと堪えた。
自分は2人の安否が心配だ。
しかし、それはジーも、カグラも同じ事。
2人がすぐにでも助け出したい気持ちを抑えているのに、自分だけが取り乱してどうするのだと、グルコは自分に言い聞かせた。
場の空気を変えるべく、恐る恐るジーはカグラに問い掛ける。

「カグラの旦那。何か考えはあるんですかい?」
「……あちらが数十体いるのに対し、此方は3体。武が悪過ぎるのだよ。
 しかし、個々の能力を使えば……被害を最小限に抑えられるはずだ」

カグラは目を細め、両対の光にグルコとジーを映す。

「……グルコ嬢、索敵を」
「え、」
「店内の情報が少しでも欲しいのだよ。何でも良い、可能な限りでわからぬか?」
「……店の中にいる訳じゃないから完全にとは言えないけど、やってみる」

カグラの提案に頷くと、グルコは二人に背を向け、ガラスの向こうの群れを見る。
そして、静かに目を閉じた後、目を開いて呟いた。

「索敵」

同時にグルコの頭から何かを解析するような電子音が響き出し、カグラとジーは見守った。
ピピ、と電子音が止むと、グルコは再びカグラに目を向ける。

「大体だけど……店内の生命反応は31個。その内、人間は3、メダロットは28」
「に、にじゅうはちぃ!?」

敵の軍勢を聞き、ジーは思わず声を上げた。
グルコから結果を聞き、カグラは顎に手を当て考察する。

「人間の数が3。その内、2がショウ達であるから、1は犯人……メダロッター」
「1人でそんなにメダロットを操ってんの!? 相当な実力者じゃ……!」
「実力はわからぬが……そこなのだよ」

焦るグルコに、カグラは冷静に見解を述べた。

「如何に手練れと言えど、28ものメダロッチを1人で所持しているとは考えにくい。
 メダロッチが無ければ、命じたとて遂行するまでの時間が長くなる。
 となれば……大方、メダロッチで操っておるのは数体で、他は簡単な命令を聞いておるだけなのだよ」
「へぇ、ともなれば予想外の事には対応しきれないってぇ訳ですね」

カグラの話を聞いたジーは、手包みを打ちながら納得する。
ジーの言葉に頷き、カグラは言葉を続けた。

「左様。まずは、数を減らすべく簡単な命令で動いているであろう敵を一掃する。
 硝子故、互いに姿が見えるのが難点だが……ワシが頃合いを見て正面から攻めよう。
 ジー坊は、敵の目が正面に向いている隙に、隠蔽で2人を救出して欲しい」
「うへぇ、またあん中戻んのかー……いややりやすけどね、カンちゃん達いるし」
「案ずるな、充分にひきつけた後で動けば良い。グルコ嬢は……グルコ嬢? 如何した?」

ジーが両肩を落とすのを見て勇気づけていると、グルコがただじっと自分を見ている事に気付き、カグラは首を傾げた。
丸い緑の光に自分が映っているのを見ると、グルコは聞かれるがままに答える。

「あんた……何者なの?」

怪訝そうな言葉に、カグラは柔らかい表情で返した。

「何、ただの老いぼれなのだよ」





キィ。
店の戸の開く音が、激しい銃撃戦の引き金だった。
大量のタンクダンクは、音がした正面へと一斉射撃を開始する。
店内に、けたたましい銃声と硝煙が蔓延した。

「誰だ!?」

タバスコは正面に目を向け、勢いで立ち上がった。
後方のタンクダンクの流れ弾が前方の味方に当たり、砕けたパーツが舞う中、正面からの弾丸は、的確に装甲を削り落としていく。
その様子を見て、甘太はひそやかに語り掛けた。

「あーあー。“普通の客”なら、店と一緒に今頃仲良く蜂の巣だよなあ」
「……!」

甘太の言葉を受け、醤は険しい顔つきで正面を睨む。
多勢であることが思わず裏目に出た事を悟り、タバスコは強く歯軋りをした後、有らん限りの声量で叫んだ。

「追え、タンクダンク!! 我等にたてつく愚か者を仕留めろオオオオ!!」

新たな命を聞き、タンクダンクは一斉に店の外へと飛び出した。
店内には、拘束されたままの醤と甘太、一層周りを警戒するア・ブラーゲとア・ゲタマー、息を切らすタバスコ、機能停止した数体のタンクダンクが取り残される。

「悪いけど、」

不意に響いた声と共に天井の板が1枚外れ、一同が見上げると、天井から生えたモップの照準は、既にア・ブラーゲ及びア・ゲタマーを捕らえていた。

「“愚か者”はコッチにも居んのよね!!」

グルコのガトリングに、2体のメダロットは両腕を眼前に掲げて防御する。
思わぬ援軍に、醤と甘太は目を丸くし、声を上げた。

「グルコ!?」
「何やってんだお前!? 買い物は!?」
「『何やってんだ』はコッチの台詞よ!! 勝手に店乗っ取られてんじゃないわよ、きゃっ!?」

甘太の少しずれた問いに、グルコは連射しながら答えると、壁を蹴って天井まで駆け上がったア・ブラーゲの斬撃を、左腕・オボンコボンで受け止めた。
銃撃が止み、硝煙にむせ返りそうになりながら、タバスコは口を開く。

「攻撃と防御を兼ね備えているのか、面倒な……!」
「面倒ならさっさと消えてくれる!? 商売の邪魔すると馬に蹴られて死ぬわよ!?」
「ア・ゲタマー! エアバッグ!」

グルコが再び銃撃を再開すると、ア・ゲタマーはドーム状のバリアを張り、完全防御を発動した。
バリアに当たった弾は、疎らに床に落ちてゆく。
銃弾の無駄を察したグルコは攻撃を止め、タバスコは高らかに笑った。

「ハーッハッハア!! 残念だったなメイドのお嬢さん! 攻撃と防御が出来るのはお前だけじゃないんだよ!」
「っもう! 確かに面倒ね!」
「安心しろ、俺は優しいから『消えろ』なんて言わん」

タバスコは、厭らしく口角を上げる。

「お前の手を煩わせる事無く、こちらから消してくれるわ!!」
「どこが優しいのよ!? あんた絶対モテないでしょ!!」
「んん~、負け犬の遠吠えはな~んも感じんな~。ア・ブラーゲ、天井裏まで回り込め! ア・ゲタマーはそのまま待機!」
「ちょっとお! 来ないでよおおお!!」
「グルコ!! さっさと店の外まで逃げろ!!」

スプリング音と足音を立てながら、グルコが天井裏の向こうへ消えていくと、ア・ブラーゲは裏口の戸を開け放ち、凄まじい速度でその後を追った。
甘太は叫んだ後、大きな溜め息をついて項垂れ、ぼそりと呟く。

「っとに何やってんだあいつ、普段ロボトルなんかやんねーくせに……」
「……すっごい心配してたんすよ、姐さん」

小さく、それでいて優しい聞き慣れた声が甘太の後ろから聞こえたと思うと、甘太をパイプ椅子に縛り付けていた縄がはらりと解けた。
甘太は、顔を上げ、振り向く。

「え……?」
「作戦では、カグラの旦那と一緒に残りのメダロットに攻撃するハズだったんですがね? 『待てない』って。
 姐さんらしいと思いやせん?」

控えめな笑い声で甘太の目に光が射すと、すぐ横から、ドスのきいた低い声が響いた。

「……何故、勝手に縄が解けた……? まだ、誰かいるのか……!?」
「あ」

間抜けな声を聞くや否や、腕を組んで仁王立ちしていたタバスコは、メダロッチを構えた。
ア・ゲタマーは、右腕を振り上げる。

「メガトンパンチ!!」
「ひえええええっ!」

床が大きく凹み、破片が舞うと、情けない悲鳴を上げながら四つん這いで逃げ惑うジーが何も無かった空間から現れた。
隠蔽は、強く驚いた拍子に解けてしまったらしい。
タバスコは、忌々しげに鼻を鳴らす。

「ふん、次から次へとゴキブリの様な連中だ。まぁ良い! そいつを始末しろア・ゲタマー!」
「どっちがゴキブリだこ の 野 郎」
「へっ?」

いきなり強く胸倉を掴まれ、タバスコは素っ頓狂な声を上げる。
腕から恐る恐る視線を上げていくと、甘太によって拘束を解かれた醤が険悪な笑みを浮かべていた。
はたから見れば、不良が未来人のコスプレをした男をカツアゲしてるようにしか見えない。

「テメエはいつもいつもヒトをメダロットでタコ殴りにしやがってよおお……?
 ジジイやグルコも心配だけど、とりあえずボコらせろ小悪党が……!!」
「待ってえええ!? これロボットバトルモノだから! 人間同士がバトルするんじゃないから!」
「うるせえええ!! オレだって11話っていう短い話数の中で2、3話ドライバーで襲われてんだよおお!?」
「それ俺と関係無くないか!?」

拳を固く握る醤を見て、ある種の安心をすると、甘太は走って裏口に向かいながらジーに向かって叫んだ。

「ジー! 村崎頼んだぞ!」
「タヌキが恐くてそれどころじゃありやせええん!!」

再び隠蔽で姿をくらました状態でジーが声を張り上げると、その声目掛けてア・ゲタマーは攻撃を仕掛ける。
時間が惜しく、甘太は裏口から自宅へ繋がる階段を駆け上がった。

自宅の扉を勢いよく開くと、グルコの背中が見えた。
左手は既に大破していたが、無事を確認した甘太は顔を僅かに綻ばせながら、グルコの名を呼ぶ。

「グルコ!!」
「! カンタ! 助かったのね!?」

グルコは、喜びを言葉に含ませながらそう言うと、甘太の方へと振り向く。
天井から降り立ったア・ブラーゲの左腕・レイピアがグルコの背を斬り付けたのは、その直後の事だった。





「カグラの旦那あああ!! 早く戻ってきてぎゃああああ!?」

店内では、ア・ゲタマーの攻撃を間一髪で避けながらジーは逃げ回っていた。
隠蔽を使っていても声を上げるから場所がばれるという事には、本人は必死過ぎて気付いていない。
店の壁も床も、ア・ゲタマーの打撃痕で荒れ果てている。

「おい!! ア・ゲタマーの攻撃を止めさせろ!」
「ふっ、断る。ていうかお前、ひとしきり殴った後でよくそんな事言えるな?」

未だ醤が胸倉を掴んでいるタバスコの顔も、ボロボロであった。
醤は、拳を再度握ると、タバスコに尋ねる。

「もう1発行くか?」
「暴力反対!! ア・ブラーゲ、戻って来おおい!!」

ジーと同じような声色で、同じような事を叫ぶと、天井の穴から、ア・ブラーゲが降り立った。
その姿を見た醤と、身を隠しているジーは、苦虫を潰したような表情を浮かべる。

「佐藤とグルコは……!?」
「ヒャーッハッハ!! やられたようだな!? これで2対1だ! 大人しく姿を見せろカメレオン!」
「何を言う、2対2なのだよ」

店の外から声が聞こえたや否や、1発の弾丸により、ア・ゲタマーの体が後ろへと倒れた。
一同が正面へ目を向けると、撃ち放った者は左手で右腕を押さえながら、店内へ足を踏み入れる。

「遅れてすまぬ。それにしてもまぁ……」

店に入った所で足を止めると、カグラは、細めた目に醤とタバスコの姿を映した。

「お前は本当に、ワシの神経を逆撫でする事に長けておるなぁ? タバスコよ」
「ボロボット……!」
「カグラ!」

醤はタバスコを解放し、カグラに駆け寄った。
見れば、機体のあちこちに罅が入り、欠けている箇所もある。
カグラは少し俯き、沈んだ声で言う。

「すまぬ。来るのが遅くなったばかりに、怪我をさせてしまったようだな」
「お前だってボロボロじゃねえか……!」
「あんな多勢を相手にするのは少々骨が折れてな……最後は白い警察が引き受けてくれたのだよ」
「ああ……多分、セレクト隊だな」
「いやいや、誰がどう見てもこん中で大惨事なのは俺だろ」

2人が重い空気に首を垂れる中、タバスコは己の顔を指差し、淡々と言った。
聞いてか聞かずかタバスコの言葉には何も反応せず、カグラはハッとなって顔を上げる。

「皆の者は!? カンタやグルコ嬢、ジー坊は……!?」
「オラは何とか無事ですが……」
「佐藤とグルコは、……っ佐藤……!」
「カンちゃん! 姐さん!」

物音がした裏口に3人が視線を移すと、グルコを抱えた甘太が姿を現した。
甘太は俯いており、表情までは分からない。
隠蔽を解除したジーは、駆け寄り、グルコを何度も呼ぶ。

「姐さん! 姐さん! どうしちまったんです!?」
「『大丈夫、メダルを入れれば元通り』、だとよ……」

グルコの代わりにそう答えると、甘太は店の外まで足を進め、未だに眠りにつく甘太の母の横へグルコを横たえた。
皆に背を向けたまま、空を見上げ、甘太は語り掛ける。

「村崎ー、おれが1番嫌いな事って知ってっかー?」
「え……」
「おれさー、」

いつもの口調であるにも関わらず、醤が質問に答えられずにいると、甘太は振り向いた。
いつもの笑顔を浮かべず、ただ無表情で。

「プラマイゼロってのもやだけど、自分が損害被んのが1番腹立つんだよなー」

甘太の言葉に、店内の者は全員氷漬けにされたかのように固まる。
その雰囲気をぶち破るかの如く、御馴染みの決まり文句が辺りに響き渡った。

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「グルコがメダロットで良かったよな」
グ「な、何よいきなり?」
甘「考えてもみろよ。もしお前が人間だったら、家の中を逃げ回るメイド少女を強盗が追い掛けるとか、どんな薄い本n」
グ「最ッッッ低!!」
ジ(……聞こえやすか……カンちゃん……ジーですぜ……。アンタの脳内に……直接……呼びかけています……。
  薄い本なんつーのは……人間×メダロットも……メダロット×人間もありゃあ……メダロット×メダロットもあるんですぜ……ですぜ……)
カ「次回。『六角形の神サマ』第拾弐話、『商人之進(後篇)』。
  ジー坊からの伝言によれば、『何の事を言っているかわからぬ者は、変わらずそのままでいて欲しい』との事だが……ショウよ、どういった意味なのだ?」
シ「伝言を言った本人が伝言破んな!! オレが好きなのは3次元だ!」

六角形の神サマ 第拾弐話/商人之進(後篇) ( No.12 )
   
日時: 2018/01/14 16:57
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾弐話/商人之進(後篇)





「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

佐藤商店前。
声を張り上げた路上の2人組を、どこからともなくスポットライトが照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣タッグマッチと認定されましたー♪』
「さ! 両チームとも定位置について!」

Mr.ジャムの掛け声により、両チームの者は渋々と店外へ出た。
そんな中、ジーは戸惑いながら周りを見回す。

「え、え? タッグってえ、オラもですかい……?」
「他に誰がいんだよ?」
「頼むぞー、お前が1番ピンピンしてんだから。パーツ転送、デコイクラブ」

佐藤甘太(サトウカンタ)がメダロッチをジーに向けて画面を押すと、右腕が光に包まれた後、タラバクラバの右腕パーツ・デコイクラブが装着された。
村崎醤(ムラサキショウ)が腕を捲り、メダロッチを露わにしていると、甘太が渇いた笑いを零す。

「はは、損害分キッチリ払って貰わねーとなぁ……?」

――あ、目がマジだ。

2年目の付き合いになる友人の目からこれから起こるであろう事を察すると、醤はひくりと笑い、カグラの状態をメダロッチで確認し始めた。
両者が向かい合い、構えた事を確認すると、Mr.ジャムとMs.マーガリンは再び口を開く。

「これより、カグラ&ジーチーム対ア・ブラーゲ&ア・ゲタマーチームのロボトルを始めます!」
『準備良いですかー!? 良いですねー!? それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

Ms.マーガリンが腕を振り下ろし、カグラは両脚で地を踏みしめた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「心得た!」
「ジー、カラフルアーム」
「うっす!」
『先手のガトリング猛攻ォー! ジーは姿を隠したぞー!? 右腕のハンマーをどのタイミングで使うのか必見です!』

カグラがガトリングを放つ中、ジーが姿を消したのを見て、醤は目を前に向けたまま甘太に話し掛ける。

「佐藤! 弾に当たんなよ!?」
「わかってる。ジー、射線に入らねーようにな」

横目で醤を見て、ジーに指令を送るが、ジーからの返事は無い。
場所が分からないため有難いのだが、醤に僅かな不安が募った。
2つのメダロッチを装着した腕を掲げ、タバスコは命じる。

「ア・ゲタマー、エアバッグ! ア・ブラーゲは後ろで待機! 気配を感じたら攻撃に転じろ!」
『完全防御の壁は厚ーい! ア・ブラーゲは居合の如く刃を構えているー!』

防壁に当たったガトリングが地に落ち、醤はカグラを制止する。

「カグラ! 一旦攻撃止めて回り込め! 弾無くなったら元も子も無ぇ!」
「了解!」
『カグラもア・ブラーゲもお互いの隙を伺っているー! 先に隙を見せた方が負けると言っても過言では無いでしょう!』

カグラは撃つのを止め、今度は右腕の銃口を2体に向け、ガードレールの上を走っていく。
ロボトルを実況していたMs.マーガリンは、横で真剣に眺めるMr.ジャムに話を振った。

『ところで先輩! 珍しくまだ通報されずに戦況をジャッジしていますが、お互い力を温存している様子ですねー?』
「HAHAHA☆ やだなマーガリン! いつも君が通報するんじゃないか!
 そうだね……僕達が来る前にドンパチやってた所為か両者は万全の状態じゃないから、そんなに時間は掛からないと思うよ?
 ダメージも負ってるし、頭パーツの使用回数を除けば弾薬数が削られているであろうカグラは特に不利だ!
 ロボトルには“判定勝ち”ってシステムもあるからねー……この戦い、」

カグラが放ったライフルをア・ブラーゲが薙ぎ払い、ア・ゲタマーが向かっていく様子を見て、Mr.ジャムは呟く。

「先に攻撃出来なくなった方が負けるよ」

Mr.ジャムの言葉を聞いて僅かに目を見開いた後、Ms.マーガリンはすぐにいつもの笑顔を浮かべ、実況を再開した。

『さぁ! とてもジャッジ担当とは思えない当たり前な事を先輩がドヤ顔で言った所で!』
「HAHAHAHAHA! 君は何てヒトの心をフォークでグチャグチャに抉るような性悪女なんだ! ピーすぞ☆」

Mr.ジャムは、すぐ駆けつけたパトカーにより連行され、Ms.マーガリンはハンカチを振りながら見送った。
レフェリー達がそんなやり取りをしている間にも、ロボトルは収まる事を知らず繰り広げられる。

「ア・ゲタマー! クルクルナックル!」
「ぐ……!」
『右腕パーツ、ダメージポイント86』
「カグラ、サブマシンガンだ!」
「ア・ブラーゲ! フェンシング!」

ア・ゲタマーの攻撃を受けたカグラの右腕が軋んだ音を響かせる中、左腕はガトリングを放つ。
被弾したア・ゲタマーの右腕が黒ずんだ直後、ア・ブラーゲの右腕の刃がサブマシンガンを斬り付け、攻撃中止を余儀なくされた。

『左腕パーツ、ダメージポイント71』
『おおーっと!! ア・ゲタマーの右腕は機能停止したが、二体を相手にカグラの成す術は無いのかー!?』
「タッグマッチとは名ばかりで、実質二対一に変わりないではないか! もう一人の臆病者は逃げ出したか? ん~?」
「見縊るな! ジー坊は斯様な男ではない!」

愉快と言わんばかりに笑みを浮かべるタバスコを、カグラは一喝し、2体から距離をとる。
しかし、その距離を1歩、また1歩と、ア・ブラーゲは跳ねるように詰めていった。
カグラが迎撃するが、速度が間に合わず銃弾が当たらない焦燥感から、醤は声を上げる。

「っおい佐藤! まだなのか……!?」
「ア・ブラーゲ! レイピアアア!!」

タバスコがメダロッチに向かって叫んだ瞬間、甘太も口を開く。

「デコイクラブ」

次の瞬間。
ア・ブラーゲが掲げた左腕は、真横からの見えない力により、粉々に砕け散った。
パーツの欠片に日の光が反射し、輝きながら舞う。

『ア・ブラーゲの左腕大破アアアア!! 姿の見えないジーが動き出した模様~!』
「げっ……!?」
「左腕パーツ・レイピア、2,000円」

タバスコが事態に声を上げる中、甘太は呟く。

「右腕パーツ・フェンシング、2,000円」

今度はア・ブラーゲの右腕が破壊され、衝撃で機体は店の外壁に叩きつけられた。
直後、脚部が砕ける。

「脚部パーツ・ハカーマ、2,000円。……馬鹿みてーにがむしゃら使うからこうなんだよ」
『見えない敵のハンマーラッシュでア・ブラーゲのパーツが次々に破壊されていく~! 隠蔽に打つ手無しかー!?』
「ア・ゲタマー!」
「お前の相手はワシなのだよ!」
「カグラ! リボルバー!」

ア・ゲタマーが近づこうとした所で、カグラの放った2発のライフルが脚部に被弾し、転倒する。
甘太はア・ブラーゲを睨み、静かに指令を出した。

「頭パーツ、」
「させるかア!! ミカヅチ!!」
「ぐげ!?」

ア・ブラーゲが正面にブレイクを放った途端、間抜けな悲鳴が響き、隠蔽を解いたジーが地に倒れ伏した。
ジーの機体は起き上がろうともがくが、まるで上から何かに押し潰されているかのように動けない。

『強烈なブレイクがクリティカル~!! ジーは立ち上がれるのかー!?』
「だーっはっはア!! いくら隠蔽なんぞしてても、あれでは『正面を撃ってください』と言っているようなもの!
 詰めが甘かったな!」
「……!」
「ジー! ……くっ、死角で狙えん……!」

甘太が奥歯を噛み締める中、カグラは横目でジーを見て、サブマシンガンの銃口を向ける。
だが、今自分と交戦しているア・ゲタマーに隠れ、ア・ブラーゲを狙う事が出来ない。
銃撃が止んだのを見計らい、ア・ゲタマーはカグラに対し拳を握る。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! そのボロボット共を片付けてしまえ! ミカヅチ! メガトンパンチ!」
『さあさあ!! 攻守が逆転、面白い試合運びとなっております!』
「カグラ、踏み止まった後距離をとれ!」
「っ了承したが……!」

指令通り右足で踏み止まり、ア・ゲタマーの拳は空振った。
攻撃を回避し、ア・ゲタマーから目を背ける事無く距離をあけていくが、ジーへの心配でカグラの顔は歪む。
やがて、口を閉ざしていた甘太が、俯いて笑った。

「……心配すんなって、カグラ。大丈夫だよ」

ジーは地を押す左腕に力を入れ、ア・ブラーゲの頭パーツの周りにはパチリ、と青い火花が爆ぜる。
甘太も、ジーも、睨む相手はただ1体。

「グルコの修理代も稼げてねぇのに、」
「みすみす……負けてられやすかい!!」

ありったけの力を込めたジーの右腕は、激しく音を立て、ア・ブラーゲの頭を突き上げた。
上を向いた頭は、目の光を失くすや否や項垂れ、背中からメダルが転がり落ちる。

「……頭パーツ・ミカヅチ、2,000円。計、8,000円也」
『ア・ブラーゲ、機能停止! ジーのアッパーカットが華麗に決まりましたアア!!』
「んなっ!?」

開いた口が塞がらないといった様子で、タバスコの目は、機能停止したア・ブラーゲに釘付けになった。
その隙を見計らい、醤は強気な笑みを浮かべ、メダロッチに向かって叫ぶ。

「これで最後だ! ミサイル!」
「心得た!」
「ハッ! ア・ブラーゲ、エアバッグ!」

タバスコが慌てて指令を送るも、メダロッチは警告音と、『使用回数ゼロ』の文字を示すのみ。

「ぎゃああああ!?」
「店とロボトルでもう2回使っただろうが。使用回数ぐらい数えとけ!」

醤が言い放った直後、ミサイルがヒットし、爆発音と硝煙が周囲に広がる。
丸コゲと化したア・ゲタマーの背中からは、メダルが音を立てて転がった。

『ア・ブラーゲ、機能停止! 勝者! ショウ選手&カンタ選手ゥ!! やっぱ、『判定勝ち』よかこっちの方がスカッとするよねー』
「よし! やったな!」
「あー、お疲れさん」
「クソガキ共オオオオ!! 毎回上手くいくと思うなよオオオ!!」

自分達の勝利から醤と甘太が顔を綻ばせると、タバスコは捨て台詞を吐きながら一目散に逃げて行った。
今日1日でたくさんの傷を負ったカグラとジーは、ナノマシンでみるみる回復していく。
タバスコの小さくなっていく背中に、醤は呆れかえって息をついた。

「ったく、何時になったら懲りんだアイツ……」
「カンちゃん! 姐さんを!」
「ああ、起こしてやらねーとな」

急かすジーにそう返すと、甘太は歩み寄ってしゃがみ、グルコの体を起こしてナイトメダルを装着した。
対の緑の目に、光が宿る。

「……ん、あれ……?」
「おはよ」
「おはよう……って、カンタ! え、店は!? 店は大丈夫なの!?」
「店はまぁ、すげーボロボロだけど……起きて早々店の心配かよ」
「当たり前じゃないの!」

即答するグルコに、甘太は苦笑した。
ただ2人の様子を見ていたジーが、滝のように涙を流しながらグルコに抱き着く。

「姐ざあああああん!! ぼんどーに、ぼんどーに良かったあああああ!!」
「きゃっ!! ちょっ、ジー! 大袈裟なのよ! 『メダルを入れれば元通り』って言ったじゃない!」

少し顔を赤らめながら、グルコは両手でジーの頭を押し返す。
引き剥がそうとはするが、ジーの抱き締める力が思いの外強く、それは叶わない。
2体の様子を横目で見た後、立ち上がって視線を真逆に向け、甘太は小さく呟いた。

「……ごめんな、手間かけさせて」

言った事に満足し、甘太は店内へ戻ろうとした。

「……バカね、それこそ当たり前じゃないの」

不意に背中に掛けられた笑い交じりの声に、甘太はバツの悪い表情を浮かべる。
姐さん何がですかい?、と問うジーには、本当に聞こえなかったのだろう。
甘太でもこういった表情を浮かべるのかと思った醤であったが、甘太の気持ちは分からなくもなかった。

――オレ達より長く生きるメダロットっつーのは、どうして、こう……。

「ショウ? 如何した?」

自分のすぐ傍らで首を傾げるカグラを一目し、醤はここ1番の大きなため息をつき、佐藤商店に背を向けた。

「何でもねぇよ」
「何も無くてため息はつくまい」
「何でもねぇっつってんだろ」
「村崎!」

小走りで追い掛けるカグラを背に歩く醤は、甘太に呼び止められ、足を止めて振り返る。
そこで、醤は今日1日の出来事を、甘太の立場で思い返した。

甘太は、働いているとは言え、土曜日の午前中から友人に押し掛けられ。
『アルバイトをさせてくれ』と無茶を言われ。
承諾したは良いものの、姉のような存在に叱られ。
変質者が店を乗っ取り。
最終的に、店が半壊したのである。

罪悪感から笑顔を歪ませ、醤は明後日の方向を見ながら口を開いた。

「あー……佐藤あの、」
「バイトの話なんだけど、続けてくんねぇ?」
「すまねえ……はい?」
「だから、店のバイト。休日で良いから」

甘太からの申し出に、醤は素っ頓狂な声を上げる。
確かに、カグラの機体のローンを返済したい醤としては願ったり叶ったりの話であるが、自分がテクノポリスに睨まれている限り、また今回の様なトラブルに甘太自身も巻き込まれかねない。
目を丸くする醤に、甘太は言葉を続けた。

「言ったと思うけど、おれとしても金が戻って来なきゃ困る訳よ。
 まあ、今回みたいのは勘弁だけど……今度あった時は店が壊れる前に頼むぞ、用心棒?」
「さ、佐藤……!」

下手をすれば縁を切られても可笑しくはないレベルなのに、ニカッと笑う甘太に、醤は感極まった。

「で、こっからが本題なんだけどー」

醤は、甘太の笑顔の質が変わった事にすぐ気が付いた。
この満面の笑みは、今日見たばかりである。
甘太がそれを浮かべたのは、果たしてどんな時であったか……みるみる思い出す醤の顔は、青く染まっていく。

「グルコの修理代はあいつ等ボコボコにしたから良いとしてー……店の修繕費は誰が出すんだろうなー?」
「は、はは……それは勿論タバスコが」
「いやいや、そいつはいつ会えるか、会ったとしても金持ってるかわかんねーし?
 幸い、お前の知り合いみてーだからー……請求先はお前で良いんだよなぁ?」

――目が笑ってねえええ!?

目の前で笑う友人が、醤はひたすら恐ろしかった。
だが、これ以上借金が膨れ上がる事を懸念し、何とかしようと口を開く。

「なぁ佐藤、ちょっと……」
「選びな。バイトして修繕費払うか、もしくは……金目の物を売っ払うか」

幾何低い声で告げる甘太の視線はカグラへと向けられ、意図を察したカグラは硬直した。
絶句し、ただ口の開閉を繰り返す醤に、甘太はここぞとばかりの営業スマイルを浮かべる。

「しばらくタダ働きよろしくな、村崎クン♪」





「どこ行ってたの2人共!! 醤は朝からフラフラどっか行ったと思ったら傷だらけで帰って来るし!
 グラちゃんはおつかいからなかなか帰って来ないし!」
「す、すいません……」
「申し訳御座らん」

夕方。
村崎家に帰宅した醤とカグラは、村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の剣幕を喰らう事となった。
玄関で2人並び、すごすごとゆかりに頭を垂れる。

「今日は痛むような物はなかったけど、すぐ冷蔵庫や冷凍庫に入れなきゃいけない物もあるんだから気を付けないと!」
「申し訳ない……」
「アンタは何処で何してたの!?」
「いや、ちょっと佐藤ん家でバイトを……」
「佐藤商店は工事現場か何かか!! アンタ、佐藤君に迷惑かけたんじゃないでしょうね!? かけたわねその顔は!!」

視線を逸らす醤に、ゆかりは畳みかけるように怒号を繰り出す。
少しでも冷静さを取り戻そうとしているのか大きく息をつくと、家内へと声を掛けた。

「お父さんからも何か言って!」
「え? 父さん帰ってきてんのか?」
「父君とな?」

醤達が廊下の向こうへ目をやると、声を掛けられた人物はゆっくりと姿を現した。

「ただいま。おかえり、醤」

灰色のスーツに身を包んだ醤の父・村崎紀醤(ムラサキキショウ)は、微笑みながら3人へ歩み寄る。
そんな紀醤の様子に、ゆかりは口を開いた。

「笑ってる場合じゃないでしょう? ちゃんと言ってやってください!」
「そうだな……醤、元気なのは良いが母さんにあんまり心配かけちゃ駄目だ、ぞ……?」

カグラ程とは言わないが、マイペースな紀醤は、醤が似ている所というと、一見茶髪しかない。
しかし、もう1つ大きな共通点があった。

「メダロットじゃないかああ!!」
「うおっ!? ビックリした」

大の、メダロット好きであった。
子どものように目を輝かせてカグラの前にしゃがむ紀醤に、カグラ本人ではなく、隣の醤が驚く。
興奮した様子で、紀醤はゆかりに顔を向ける。

「許してくれたんだな、ゆかり! 有難う!」
「お、大袈裟ね……。グラちゃんは、ちょっと変わってるし、てんで機械は駄目だけど、よく気が利いて手伝ってくれるから、ね。
 ていうか、いきなり呼び捨てで呼ばないでよ……」

ゆかりは、僅かに頬を染め、そっぽを向く。
両親を包み込む桃色の空気に、息子である醤は色んな心情から早く自分の部屋に帰りたくなった。
が、立場が立場であるためそれは叶わず、すぐに諦めてカグラを紹介する。

「……コイツは、『カグラ』っていうんだ。『グラちゃん』なんて呼ばれてるけど、中身は結構なジジイだぞ」
「お初にお目にかかる、カグラなのだよ。ショウやゆかり殿にはいつも世話になっておる」
「はははは! 礼儀正しいメダロットだね。私の名前は紀醤。此方こそ、家内と息子がいつもお世話になっています。
 仕事の関係で月1くらいしか帰れてないんだけど、よろしくな!」

紀醤はカグラの手を取り、ぶんぶんと音が鳴るくらい力強い握手をした。
不意に握手をやめ、カグラの手を握ったまま、紀醤は考え込む。

「しかし、『グラちゃん』か……やっぱり早めに仲良くなるには、変わったあだ名が良いかもしれないな」
「普通で良いじゃねえか」
「『グラタン』と『グラッチェ』どっちが良い?」
「どちらでも良いぞ」
「良いのか本当に!? せめて『グラ』にしとけ! そうじゃなきゃオレが何か嫌だ!」

じゃあグラだなー、とマイペースコンビは互いにニコニコと笑った。
紀醤を見ていると、『中身は母親に似たんだろうなあ』と醤は自分でそう思う。

「醤もグラも、家に上がりなさい。ずっと玄関だと寒いだろう。私も少し寒い」
「……そうね、もうちょっとでご飯も出来るし。3人とも上がって待ってて」

ゆかりはそう言うと、スリッパの音を響かせ、台所へと消えて行った。
醤は靴を脱ぎ、家に上がると、紀醤は感慨深そうにカグラをまじまじと見る。

「それにしても、醤もメダロッターかあ。良かったな、醤」
「あ、ありがとう」
「そうか~、メダロットか~」
「? キショウ殿?」

紀醤は半ばカグラを引っ張るようにして歩き出すと、同じ様な言葉を繰り返し呟きながら、カグラごと自室へ帰ってしまった。
醤は慌てて部屋のドアを、壊れんばかりの勢いでノックする。

「おい!?」
「いや~、メダロットは良いな~。はははは」
「アンタのじゃなくてオレのだろうがざけんな!! こんな近くにメダロット泥棒がいるとか驚きだわ!!」
「父さんな、実は怪盗レトルトだったんだ」
「しょうもねぇ親父ギャグ言ってんじゃねぇぞ!!」
「醤うるさいわよ!!」
「理不尽!?」

台所から飛んできたお玉が頭にヒットすると、醤は部屋の前に倒れ伏した。
静かにドアが開き、カグラと紀醤が顔を覗かせる。

「ショウ、大丈夫か?」
「醤はケチだなー、少しくらい良いじゃないか。お前のメダロットって事は、父さんの息子同然だろ」
「ワシはショウの爺だぞ?」
「ややこしいし喧しいわ。……帰る」
「ここお前の家だろ?」
「オレの部屋にだよ!!」

醤はカグラの腕を握り、足音を響かせながらそのまま階段を上がり、自室の扉を勢いよく閉めた。
下からまたゆかりの怒号が聞こえたが、醤は気にする事無く慣れた手付きで“週間メダロット”を見る準備をし始める。

「ったく、お前も流されてんなよなー」
「ふむ、父君と少し話をしたかったのでな」
「あーあーそいつはすいませんでしたよ」

ギスギスしながら返答した所で、ふと醤は昼間の事を思い出し、カグラに背を向け、口を一文字に結んだ。
平静を装い、DVDを探しながらカグラに声を掛ける。

「…………ありがとな、いつも助けてくれて」

言ってしまった直後に後悔もしたが、どこか満足感もあった。
しかし、いつもの様に惚けた様な言葉が返ってくれば、また自分は噛みつくのだろうと内心苦笑する。

「……お前が助かったのは、無論、グルコ嬢やジー坊の力も必要であったが……お前の日頃の行いからも来ているのだよ」

カグラからそう言われるとは思っておらず、醤は驚いて振り返る。
醤を見て穏やかに微笑んだ後、カグラは黒い液晶画面に体を向けた。

「さて、今日はどの週間メダロットを見ようか? ショウ」

カグラの言わんとしている事を察し、呆けていた醤は、ふ、と笑みを零す。

「何言ってんだ、テレビの電源1つ入れられねえで」





「醤は相変わらずだな~」
「もう、からかい過ぎよ」

リビングにて。
食器棚から皿を出していた紀醤は、ゆかりにそう指摘されてまた笑った。

「ちょっとしたジョークなんだが……いやいや。まあ、仲が良いみたいで安心したよ。俺も仲良くなれるな、うん」
「どんな根拠があるんだか」

今度はゆかりが笑い、料理を盛り付けていく。
彩り豊かな料理を見た後、カレンダーを見て、紀醤はぽつりと呟いた。

「明日、花見でもするか」



メダロッチ更新中……――
・フェンシング(KTN-02。なぐる攻撃:ソード)獲得



続ク.





◎次回予告
紀「という事で、グラの歓迎会も兼ねて花見をしようじゃないか! はい、マ・ジ・カ・ル・サ・ク・ラ!」
醤「唐突!?」
紀「桜と言ったら!?」
カ「御守神社!」
醤「関係あるかソレ!?」
カ「何を言う。御守神社にはな、それはもう立派な……」
甘「ハイ、毛虫」
翠「さ、桜餅?」
梓「おじいちゃんの言葉を遮らないで。……死体」
醤「もうこれただの連想ゲームじゃねぇか!!」
蜜「わ、わたしが予告コールしても良いのかな……? 次回『六角形の神サマ』第拾参話、『来訪、桜前線』。
  桜の木の下で告白すると結ばれる、ってあったよね?」
醤「みっちゃん優勝おめでとう!!」

六角形の神サマ 第拾参話/来訪、桜前線 ( No.13 )
   
日時: 2018/01/14 17:11
名前: 海月

「おはよう、醤! 花見に行こうか」

洗顔すべく1階に降りてきた村崎醤(ムラサキショウ)が、父・紀醤(キショウ)から、日曜日の朝に聞いた第一声がそれであった。
起きたばかりで頭の回転がままならない醤は、少し時間を置いた後、眉間に皺を寄せて返答する。

「…………オレ、これからバイトなんだけど」
「大丈夫だ、父さんが『今日、バイト休みます』って佐藤君に電話しといた」
「あー……そうか、なら良いな……」

紀醤の言葉に納得した醤は、そのまま洗面所へと再び歩き始めた。
が、すぐに踵を返してリビングに怒鳴り込む。

「いや良くねぇよ!?」
「うおっ!? 吃驚した……良いから顔を洗ってきなさい、お前待ちだぞ?」
「色んな意味でこっちが吃驚だわ!! どこの世界に正式採用初日に休むバイトがいんだよおお!!」

自分は間違った事を言っているとは思わないにも関わらず、あくまで常識人のように振る舞う父の姿に醤は頭痛を覚え、両手で頭を抱えた。
既にリビングに降りていたカグラは、テレビから醤に視線を移し、穏やかな口調で宥める。

「良いではないか。大安吉日に天気は快晴、一家団欒で桜を見るというのも」
「当初のバイトの目的わかってんのかジジイ……! それとももうボケが始まってんのか?」
「まあまあ落ち着きなさい。グラの歓迎会も兼ねているのに、お前抜きでやる訳にもいかないだろう?」
「!」
「何と! 気遣いかたじけない、キショウ殿」

カグラの目を丸くした反応を見るに、歓迎会の話は初耳であったのだろう。
それを最初に言わず、醤の目の前で言った事にこそ、紀醤の真意はある。
家族思いと言えば良いのか、悪巧みと言えば良いのか。
花見もとい歓迎会を欠席出来なくなった醤は、心の中で舌打ちした。

――せこい真似しやがってこの狸親父……!

感謝と怒りが入り混じり、せめてもの抵抗とばかりに醤は紀醤を睨み付けるが、当人はカラッとした笑い声をリビングに響かせている。
これ以上紀醤に何かを言うのも無駄だと察知し、醤はカグラに声を掛けた。

「花見る場所なんざそもそもあるのか? 道に生えてんのは見たけど、流石に往来で花見は無理だろ」
「ふむ……御守神社の奥に、桜があってな。それはもう言葉を失う程綺麗で、お前達にも是非見て欲しいのだが……」
「何だよ、言い淀んで」
「……今は、神社の欠片が散らばっておって、皆が怪我をするといかん」
「……あー」

声色は変えず、僅かに目を伏せて話したカグラに、醤は斜め上を見ながら大破した御守神社を思い出していた。

先日、白と桃色で彩られた外見は可愛いメダロットにより神社が爆撃された時は、夕方であったにも関わらず、カグラの機体を染め上げたのは白であった。
あの時の後ろ姿と言ったら、声を掛けるのも忍びない程の哀愁が漂っていたものである。

醤が思い起こしていると、台所からお弁当を持った母・ゆかりが現れ、口を開いた。

「あら、御守神社ならもう大丈夫よ! だって、木片全部撤去されたんでしょ?」
「!?」
「知らなかった? 今朝の町内新聞に載ってたけど」

基本的にロボトル以外はのらりくらりとしているカグラであったが、その時の行動と言ったら素早かった。
まず『撤去』と聞いて風切音を幻聴する程の勢いでゆかりの方へ振り向き、『新聞』と聞いて勢いよく持ち上げ、顔を埋めているかのように新聞を凝視する。
醤も横からちらりと覗き込めば、3面に“あの事件から1か月……さよなら御守神社”と大きく表記されている。
その『完全に終わった』と言わんばかりの言い回しは如何なものだろう、と醤が苦笑すると、カグラは新聞を握る手を震わせた。

「おお……ワシの神社が、ワシの神社が欠片すらも……」
「落ち込むなよ。仕方ねぇだろ、吹っ飛ばされた時にこうなる事は決まってたようなモンなんだから」

醤が息をつきながら声を掛けると、震えていたカグラの手はぴたりと止まる。
代わりに、まるで壊れかけたブリキの玩具の様にゆっくりと、カグラの顔は醤へと向けられた。

「ほお……ショウもこの家が爆撃で吹き飛ばされたら、『仕方無い』と諦めるのだな……?」
「すいませんオレが悪かったので勘弁してくださいカグラ様」

この時のカグラが恐ろしく真顔であり、ミサイルの発射口が光った様に見えたが、心の底からいつもの冗談であって欲しいと願う醤であった。





『六角形の神サマ』 第拾参話/来訪、桜前線





「嗚呼、嗚呼……やはり跡形も無い……」

町外れの石段を上がり、雑木林を抜け、そびえ立つ鳥居を抜けると、其処にお馴染みの神社は欠片も存在しなかった。
新聞に載せられていた写真のままの光景を目の当たりにし、カグラは両手・両膝を地につけ、深く頭を垂れる。
醤の両親はというと、『桜は奥だったかしらー』とか何とか言いながら先へ行ってしまっていた。
温かいのか冷たいのか、よく分からない連中だと、荷物を持った醤はそっと溜め息を零す。

カグラの落ち込んだ姿を見るのはこれで2度目な訳であるが、それが醤にとっては意外であった。
自らを閉じ込めていた御守神社を、カグラはここまで大切に思っていたのか、と。
御守神社は、カグラにとって、“檻”というより“家”に近いのだろう。

……だとしても、である。
正直、呑気なカグラを見慣れている醤にとっては、見ていてあまり面白いモノではない。

「おら、落ち込んでねぇでシート張るぞ」

空いている方の右手でカグラの手を掴むと、半ば引き摺るように前へと引っ張った。
すると、カグラも諦めがついたのか、よろよろと歩き出す。

「おおおお!! グラがお薦めするだけあって立派だな!」
「ホント素敵! こんな桜、他に無いんじゃない!?」

紀醤とゆかりの声が聞こえてきた前方へと足を進めると、目の前に“桃色”が広がっていた。
1本であるにも関わらず両腕を大きく広げ、そびえ立つ桜に、醤は目を見開く。
花弁が舞うが、その大きさが損なわれる事は無く、まさに“満開”という言葉が相応しい。

「……変わらんなぁ、この桜は」

気が付くと、傍らのカグラもしっかりと立ち、桜を見上げていた。
その穏やかな声色から、幾分か気分が回復したのが伺える。
醤は鼻を鳴らすと、シーツの端々を紀醤やカグラに投げつけた。

「さっさとシーツ張るぞ。腹減った」
「そうだな! 父さんもだ!」
「もう、“花より団子”なんだから」
「それでは早く用意をせんとなあ」

4人は、桜を前に和気藹々と石で固定しながらシートを張っていった。





「凄いな母さん!! 御馳走じゃないか!」

開かれた弁当箱の中で並ぶ色とりどりの料理に、紀醤は声を上げて喜んだ。
それを見たゆかりも、嬉しそうに微笑む。

「ふふっ。早起きして作った甲斐があったわ。暫くご飯が質素になるかもしれないけど許してね」
「それって、こん中で1番被害被るのオレじゃ……?」
「桜の養分になりたくないなら黙りなさい」
「……お弁当美味しゅう御座います、お母様」

笑顔のまま言い捨てたゆかりにそれ以上何も言えず、醤は料理を口に運んだ。
弁当箱の中身をまじまじと見ながら、カグラは目を丸くする。

「ユカリ殿の料理がいつにも増して美味しそうだな。食べれぬのが実に惜しい」
「もう、グラちゃんは上手なんだから」
「落胆するのは早いぞグラ! 母さんの料理は食べれないが……」

明るい笑顔で大きなリュックを漁り始めた紀醤に視線が集まると、勢い良く筒状のソレが取り出された。

「ジャーン!! 本社から色んな味のオイルを持って来たぞ!」
「ほお! 燃料はこんなに種類があったのだな」
「デケエ荷物あると思ったら中身オイルかよ!」

醤が自分の紙コップに麦茶を注ぎながらそう言われても、紀醤は上機嫌のまま言葉を続ける。

「実は父さん、開発部門のリーダーでな。いつも同じオイルじゃメダロットも飽きると思って、プランを提出したら何と!
 予想以上にヒットしたんだ! 特にこの“よくできましたオイル苺ミルク味”は女の子に大人気なんだぞ!」
「凄いじゃないお父さん!」
「“よくできましたオイル苺ミルク味”って……それは本当に苺ミルク味なのか?」
「メダロットの味覚について徹底研究して生まれた製品だ! きっとベリーでミルキーな味がするんだろう! 試してないが!」
「ああ、試してたらアンタはこの場にいねぇわな」

醤が冷静に突っ込みを入れるが、別段誰も気にする事は無く、2人分のビールを注いだゆかりが片方を紀醤に手渡しながら言う。

「料理だけなのも何だし、そろそろ乾杯しましょうよ!」
「そうだな! 新しい家族を迎えた村崎家の門出に、カンパ~イ!!」

紙コップがぶつかる音が微かにした後、各々は自分の飲み物を口に運んだ。
その際、カグラの紙コップの中で、一瞬揺らめくショッキングピンクの液体がちらりと見え、醤は反射的に目を背ける。
背けた先にあった桜の色が、非常に目に優しい。
喉が鳴る音を聞いて再びカグラの方を見ると、カグラは手元のオイルを見ながら不思議そうに瞬きした。

「……ふむ。此れが“苺みるく味”とやらかは分からぬが、くどくなく甘酸っぱくて美味しいのだよ」
「そうかそうか! まだまだたくさんの味があるからな!
 “まあまあですねオイルおしるこ味”や“がんばりましょうオイル納豆味”とかも試してみてくれ!」
「歓迎会っつーよりオイルの試飲会じゃねえか……」

カグラが色鮮やかなオイルを見比べていると、紀醤が面白い玩具を見つけたと言わんばかりの声で『おやぁ?』と漏らす。
明らかに自分に向けられている言葉に、醤は面倒臭そうに睨みながら聞き返した。

「何だよ?」
「醤はビールじゃないのか~? 今日“は”?」
「今日“も”な。乾杯の1口でもう酔ってんのか?」
「良いじゃないか~! “いつもの様に”隠れて飲む事は無い! 今日は無礼講だからな!
 そして、お前が酔って恋バナ暴露してくれる事を父さん信じてる!」
「未成年の息子に言う事か!!」

お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒ダメ、ゼッタイ。
醤が声を荒げても怯む事無く、紀醤は肩を組んで追求する。

「まあ別に酔ってなくても良いぞ? 好きな子の1人や2人、いるんだろ~?」
「いるぞ」
「お前に聞いてねえだろクソジジイ!!」

醤の剣幕を無視し、カグラは少々眉間に皺を寄せながら顔を顰めた。
恐らく、手に持つ“まあまあですねオイルおしるこ味”があまり口に合わなかったのだろう。
恋愛事情を断片的に掴み、上機嫌の紀醤の追及は続く。

「誰だよその罪な女の子は!? あ、そう言えばメダロット研究所の娘さんて結構可愛いんだろ?」
「その人は違います断じて。あれはカモミールを装ったマンイーターだ……」
「誰にせよ、どうせアンタの事だから片想いなんでしょ?」
「息子の希望を軽々しく潰s」
「ブッッフォ!?」
「っええええええ!?」

ゆかりに反論しようとした所でカグラが勢いよくオイルを噴き出し、醤の目は強制的にそちらへ向けられた。
激しく咳き込むカグラに、醤は問う。

「おいどーした!?」
「ゲホッゲホゲッホ……! ショ、っゴホ……キショ、殿、に……ッ!」
「父さんに!?」
「ッグ……なっと、味は…………マズイ」
「ジジイいいいいいい!?」

力を振り絞っていうや否や、カグラは完全に地に伏した。
ゆかりも尋常ではないと思ったのか、心配そうに駆け寄る。

「ちょっと、グラちゃん!?」
「そうかー、“がんばりましょうオイル納豆味”は改良が必要だな~。それにしても、メダロットも咽るんだな!?」
「『良いモン見れた』みたいな顔で何言ってんだアンタ!? ちったぁ反省しろ!!」

晴れ晴れとした表情で沈んだカグラを見る紀醤に、醤はありったけの怒号を浴びせた。
途端。

「フハハハハハハハ!!」

よく聞き慣れた笑い声が響き、醤は呆れ気味にそちらを睨み付けた。

「オイル如きで情けないなあボロボットよ!! 秘密結社テクノポリスが1人・タバスコ参上!!」
「……こんな天気の良い日曜日に、いつからそこにいたんだアンタ」
「ふっ、お前達の行動の予測等易い事だ。神社が無くなったと聞けば、いてもたってもいれんだろうからなあ?
 朝六時から張り込み、チャンスを伺っていたという訳だ。倒れた今なら勝てる気がした!」
「情けねぇのはどっちだ新手のストーカー。しかも予測も若干ずれてるし」

未来人の様な白いコスチュームに身を包み、ドヤ顔のタバスコに、醤はそう吐き捨てた。
初めて目にするタバスコの姿に、醤の両親は各々違う反応を見せる。

「嫌っ、何あれ? 春ねぇ……」
「おいおいゆかり、そんな事を言ったら失礼だろう? 元気そうだな尾根君!」
「背ぇ高い事以外共通点無え上に、自分で『タバスコ』っつったろ!? アンタが失礼だわ!!」
「ゴチャゴチャと喧しい! メダロット転送!」

騒ぐ醤達を尻目に、タバスコがメダロッチの画面を押すと、プラズマ音が響いた後、目の前にダンシングフラワー型メダロット・さくらちゃんが現れた。
醤は未だ起きないカグラの額をぺしぺしと叩き、声を掛ける。

「おーいジジー、ロボトルだぞ~。その内どーせレフェリーも来るし」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「そら来た」
「……うーん……?」

これまたお馴染みの轟く声に、カグラは小さく唸り声を上げながら意識を取り戻した。
桜の大樹の前に立つ、スーツに赤い蝶ネクタイの2人組を、スポットライトが眩く照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト、メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪ ってアレー?
 先輩、何だか儚げですがどうしたんですかー? 気持ち悪い』
「そっとしといてくれないか、マーガリン。君のその訴えられても可笑しくないレベルの暴言に反論出来る元気が、今の僕には無いんだ」

Mr.ジャムは、そう言うと深い溜め息をついた。
いつもと違う調子の相棒の様子に、Ms.マーガリンは再度問い掛ける。

『本当に気持ち悪いですけど、どうして元気無いんですかー? 集中して実況出来ないじゃないですかー』
「マーガリン……」
『先輩がいると』
「……感動しかけた僕が最高に馬鹿だったよ」

Mr.ジャムが桜を見上げると、何事かと一同の目もそちらへ向けられる。

「マーガリン。君は、桜が何の為に存在するか知ってるかい?」
『先輩の存在価値くらいわかりません』
「……桜はね、その下でキスする為にあるんだよ」
「絶対違ぇよ」

茶番劇を黙って見ていた醤であったが、流石に突っ込まざるを得なかった。
外野の言葉を気にする事無く、Mr.ジャムは言葉を続ける。

「そう。桜がある以上、僕は美しい女性とキスをしなければいけないんだ」
「勝手に義務化されて、桜も女もさぞ迷惑だろうよ」
「なのに、それなのに……!」

憤りからMr.ジャムは固く拳を握ると、そのままゆかりを指差した。
自分は関係に無関係だと思っていたゆかりは、突然の事に戸惑う。

「えっ? 私?」
「ここには老婆しかいないじゃないか!!」

次の瞬間、頭から血を流したMr.ジャムが、救急車で運ばれていった。
Ms.マーガリンはハンカチをなびかせながら見送る。

『先輩~、ついでに頭もちゃんと見て貰ってくださいね~。それと、これからは女性に年齢の話をしたらダメですよ~。いくら老けてても』
「母さん、気持ちは分かるけど落ち着けって。あの女通報慣れしてっから、多分振りかぶった時点で呼ばれるって」
「どうせ私はBBAよ!! 自然の摂理じゃろが童共オオオオ!!」
「落ち着いてくだされ、ユカリ殿」
「な、殴った……中身の入ったオイル缶で力一杯……。恐るべし村崎の血」

未だ血糊の付着したオイル缶を握りしめるゆかりを、醤が後ろから羽交い絞めし、カグラと一緒に宥めるが、落ち着く気配は一向に無い。
一部始終を目の当たりにしたタバスコは、何時ぞやかの醤と現在のゆかりの姿が重なり、ただただ震える。
すると、オイル缶を持つゆかりの手を、2回り大きな手が包んだ。

「本当に失礼な人達だよな、君はこんなに綺麗なのに」
「き、紀醤さん……!」
「醤、グラ。母さんには父さんが付いてるから、思い切り勝ってきなさい」
「お、おう。ありがとな、父さん」
「暫しお待ち下され、必ず勝って参ります故」

頭を下げながら穏やかに、且つ確かなカグラの言葉に、醤はタバスコとさくらちゃんを見据えた。
醤とカグラの様子を見て、Ms.マーガリンはクスリと笑い、メガホンを構え直す。

『合意とみてよろしいみたいだねー。それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令を聞くや否や、カグラは両脚を踏み締め、さくらちゃんはファイティングポーズを取り、指令をすぐさま行動に移せるよう備える。
醤とタバスコは、まずは勢いで勝つと言わんばかりに、各々のメダロッチに声を叩きつけた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「了承した!」
「さくらちゃん! 両腕でガードした後、フレー!」
『カグラのガトリング炸裂ゥー! しかし、さくらちゃんは上手く受け流したみたいだぞー!?』

右腕でサブマシンガンを支え、カグラがガトリングを放つと、さくらちゃんは両腕で攻撃を受けた後、右腕の応援旗を大きく振った。
カグラの目には、腕を振るスピードが徐々に加速している様に映る。
撃つのを止めて銃口をやや下げ、カグラは醤に問う。

「ショウ、彼奴の行動は……」
「……ああ、加速している。応援行動・チャージ。充填や放熱を効率化、つまり次の行動までの時間を短縮する」
「何だ? 諦めるにはまだ早すぎるだろう? さくらちゃん、フレー! フレフレー!」
『おおっと! どんどん加速するさくらちゃんを前に、カグラは攻撃を止めてしまったァー!
 ショウ選手にどのような作戦があるのでしょうか!?』

さくらちゃんは両腕の応援旗を振り、自身の行動を加速していく。
醤は、低い声でメダロッチ越しにカグラに語り掛け始めた。

「カグラ、よく聞いてくれ。さくらちゃんは、両腕が時間短縮のパーツだ」
「成程。充分に加速した所で、頭部を使い我々を一気に叩き込むつもりなのだな。して、頭部の行動は?」
「時間短縮だ」
「そうか、それは厄介……ん?」
「時間短縮なんだ」

カグラがゆっくりと振り向くと、醤は大きく頷いた。
同じ速さで、カグラはさくらちゃんがいる正面へと向き直る。
今もなお、さくらちゃんは両腕を振り、加速し続けている。
カグラは、静かに醤に問い掛ける。

「……ショウよ、彼奴が時間短縮して次にとる行動は……」
「時間短縮だな」
「……攻撃する術を、持っておらんのだな?」
「ああ。つまり……」

醤は、可哀想な生き物を見る様な目でさくらちゃんを見る。

「俺達に勝つ術が、限りなくゼロって事だ」

醤の言葉に、今度はカグラが大きく頷いた。

「ジー坊のように、隠蔽だったらやり様はあるのになあ」
「普通は、どれか1パーツだけでも変えたりするモンなんだけどな。タバスコは気付いてないけど、さくらちゃんは気付いてるぞきっと。
 見てみろ、笑顔引き攣ってんだろ」
「成程! だがら“無愛想”なのだな!?」
「いや、“ブアイソー”は元々のパーツ名だ」

ハッと気付いたように振り返ったカグラであったが、醤の言葉に若干俯きながら前へ直る。
さくらちゃんは、相変わらず両腕を振り続けていた。

「しかし、却って攻撃しづらいな。主に言われるがまま、ああして健気に旗を振り続けているのを見ると」
「情けは無用だ。今までされてきた事思い出せ。
 それに、あの速度で苦し紛れに体当たりでもされたら、どうせまた立てなくなるんだろアンタ。
 オイこっち向け、オレが立ち会ってから3戦中2戦体当たりで劣勢になった爺さん」
「……面目ない」

後ろから圧し掛かるプレッシャーに負け、振り向かない、否振り向けないままカグラは謝罪した。
落とした肩を戻し、こりを解すかのように首を左右に倒した後、カグラは両腕の銃口を正面へと向ける。

「まあ、キショウ殿とも勝つと約束したしな」
「カグラ、」
「うむ」
「一斉射撃の後、ミサイル」
「心得た」





『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「覚えてろこの人でなし共オオオオオ!!」
「うるせえ!! ロボトル前にメダチェックすんのはメダロッターの義務だろうがバアアアカァ!!」

機能停止したさくらちゃんの機体を脇に抱え、タバスコは捨て台詞を吐きながら石段を降りて行った。
醤も負けじと言い返すと、紀醤とゆかりが笑顔で迎える。

「2人共お疲れ様! そしておめでとう!」
「私ロボトルって初めて見るんだけど、アンタ達あんなに強かったのね!」
「賞賛頂き感謝するが……少しばかり複雑なのだよ」
「いや、あれも実力の内だろ」

カグラが苦笑していると、満足するまで吠えた醤があっさりと言葉を覆した。
紀醤は、再び一家が揃った事に満足し、少し大袈裟に両手を大きく上げて高らかに話す。

「さっ!! 村崎家の花見を再開しようじゃないか! 何たって今日は、花見記念日だからな!」
「どんな記念日だよ」
「決まっているだろう! 来年も、再来年も、この場所でみんな揃って花見をする日って事だ! 愛してるぞ皆!!」
「唐突!?」
「ふふっ、私も皆愛してるわ」
「この上なく上機嫌!? おい、ロボトル中母さんに何言ったんだ!? なぁ!?」
「チャイルドな醤には言えないよな~?」
「ね~?」
「うぜええええええ!?」
「成程。“花見記念日”とは、皆で花見をして、愛を伝え合う日なのだな」
「あ!?」

両親のやり取りに苛立ったまま、手包みを打つカグラの方へと振り向いた。
カグラは目を細め、自分の気持ちを吐露する。

「ワシも、村崎家の皆が愛おしい。村崎家の一員になれて、幸せなのだよ」
「バッ……!?」

カグラの言葉で、醤の顔はまるで信号機の様に赤や青へと色が変わった。
何事か分からず、カグラは首を傾げて醤を見る。

「どうしたというのだ?」
「……っあのな、お前まで言うと……!」
「そういえば、醤の話もグラの話も全然聞けず終いだったからなー! 喋り倒そうじゃないか! そうだな……」

にやりと笑った紀醤と目が合い、醤は顔を青1色に染める。

「醤の『愛してる』で花見を閉めるとしようか!」
「言うと思ったわ馬鹿親父畜生オオオオオ!!」

桜に怒号を木霊させながら紀醤を追いかけ回す醤を見て、カグラは目を細めて一息ついた。

「“一家団欒で花見”とは、温かいものなのだなぁ」

花見は、日付が変わった後までしたとかしなかったとか。



メダロッチ更新中……――
・フレフレー(DLF-03。おうえん行動:チャージ)獲得



続ク.





◎次回予告
梓「まずは御礼。オイルの名前を貸してくださった『メダロットM』作者の流離太さん、ありがとうございました。
  それじゃあ、次回予告。……何故、人類は争い続けるのか?
  わざわざ派閥を作り、走り惑い、数字に一喜一憂し、他人の事を顧みない。そうして掴んだ勝利に、何の意味があるの?」
醤「……えー、次回『六角形の神サマ』第拾肆話、『真剣衝突激競争(前篇)』。……ガチで運動嫌いなんだな」
梓「運動会と球技大会とマラソン大会はしねば良い」

六角形の神サマ 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇) ( No.14 )
   
日時: 2018/01/25 21:29
名前: 海月

春。
雪が融け、温かくなったら。

「――以上で、このクラスの紅組、白組の発表終わるぞー。次はリレー選抜メンバー決めるからなー」

運動会です。





『六角形の神サマ』 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇)





場所は御守高校・2年D組の教室。
1か月後に控える運動会に向け、クラスミーティングをしていた。
クラス担任は、話を進めるべく口を開く。

「選抜メンバーは、紅組・白組で男女1名ずつ。まあ他のクラスも陸上部の奴等出してるからな、女子2名は決まりとして……」

『えー』という声を上げた陸上部の女子が、周囲から労いの言葉を受けるのを尻目に、担任は話を続ける。

「男子は尾根しか陸上部いないから、先生としては紅組で誰か立候補して貰えると1番助かるんだが……」

と、言いながらクラス中を見回す担任と目が合わぬよう、村崎醤(ムラサキショウ)は俯く事に徹していた。

今しがた名前が挙がった尾根翠(ビネスイ)は、陸上部で記録を上塗り続けている、化け物級のエースだ。
親友である醤は、応援すべく何度も大会に足を運んでいるため、その実力を嫌という程知っている。
そんな彼が白組のリレー選抜メンバーになった事に対し、醤は紅組。
白羽の矢が立つ可能性は充分にある。紅組なのに。否、紅組だからこそ。

が、運命はいつでも残酷であった。

「村崎。学ランの脇、穴空いてるんじゃねぇ?」
「マジで?」
「おお!! 村崎、リレー出てくれるか!」
「ファッ!?」

佐藤甘太(サトウカンタ)に指摘されるがまま、穴を確認すべく腕を上げると、見事にターゲティングされてしまった。
醤にとって残酷なのは、運命というよりもう1人の親友であった。

――謀ったな佐藤……!

しかし、面倒以上に、醤は負けが分かりきっている勝負を受ける訳にはいかない。
リレーメンバーが決まり、どんなに担任の瞳が輝いていたとしてもだ。

「いやいやオレ無理ですよ! 足なんてそんな」
「大丈夫ですよ先生! こいつ何だかんだで責任感強いし、御守神社から教室まで走って5分で着くんです!」
「それは心強いな!」
「黙ってろ白組リレー代表!! 現役陸上部エースに帰宅部が勝てるか!!」

自分の事のように嬉しそうに話す翠に、醤は思わず立ち上がって反論する。
翠が言っているのは事実だ。
だが、それは遅刻しないよう背水の陣で走っているからであり、更に、普段から運動している訳ではないためスタミナも人並みなのである。
あくまで断らんとする醤の姿勢を見て、佐藤は毒を持つ甘言を呟いた。

「勿体ねーなぁ村崎。紅組の走者、泡瀬美園いるのに」
「先生ボクやります」

即決であった。
因みに、泡瀬美園(アワセミソノ)というのは、2年A組在籍の、醤の想い人である。
恋愛成就すべく健気に神社に通いつめていた時期も醤にはあったが、そこの神様は恋愛専門外の惚けた御老体であるため、今日まで接点が1度も無かった。

「よし! 無事リレーメンバーも決まった事だし、次は係を――」
「スイ!! リレー選抜おめでと~!」

突如、教室の扉が勢いよく開き、現れたウサギ型メダロット・ラビウォンバットに、一同の目は集められた。
翠は、驚愕のあまり突然の来訪者の名を大きな声で口にする。

「ハリップ!」
「スイなら選ばれると思ったよ! そうと決まったら早くグランド行こ! 走らなきゃ!」
「駄目だって。これから係も決めるんだから」
「ええー!! また待つの!? こんなに時間あったら、スイなら20周くらい出来るのに!」
「大袈裟だなぁ」

全く周りの目を気にせず翠に駆け寄り、騒ぎ立てるラビウォンバット・ハリップに、翠は困った様に苦笑した。
不服そうな表情をすぐに笑顔に変え、ハリップは言葉を続ける。

「わかった! じゃあオレっち、グランド整備して待ってるから! 早く決めて早く来てね!」

そう言い終えるや否や、ハリップは教室を飛び出して行き、2年D組には嵐が去った後の様な静けさだけが残った。
非常に気まずそうに笑いながら、翠は担任へと声を掛ける。

「先生、すみませんでした。係の話続けましょう」
「あ、ああ。お前のメダロット、相変わらず元気で忙しそうだな」
「……すみません」

少し赤い顔で謝る翠を見て、醤は『メダロットはマイペースな奴が多いなあ』と、今家にいるであろうカグラの顔を頭に浮かべながら、ぼんやり思ったのであった。





そうして迎えた、御守高校運動会当日。
天気は快晴。……と旨い具合にはいかず、曇り。強くはないが、時折風も吹いている。
しかし、運動会は実際このくらいの気候が丁度良いのである。
風の無い炎天下で運動会をやったら、確実に死ねる。氏ねるじゃなくて死ねる。

「はよーっす」
「おはよう、村崎」
「おはよー……」
「? 何だよ」

高校指定の芋ジャージに身を包み、頭に紅い鉢巻を巻いた醤は、白い鉢巻を巻いた翠、甘太に、片手を小さく上げながら声を掛けた。
挨拶するなり自分の顔をじろじろ見る甘太に醤が問い掛けると、問われた当人は意外そうな顔で返答する。

「いや、割と普通だなと思ってさ」
「だから何がだよ」
「リレーが嫌で嫌で全人類恨んでると言っても過言じゃないような鬼の形相はしてねーな、ってコト」
「お前が言うか」
「村崎だって流石にリレーぐらいでそんなんならないだろ」
「お前も言うか。……決まったモンに、いつまでもグチグチ言ってたってどうしようも無えだろ。それに……」

何処か呆れたように2人を見る醤は、言葉を続ける。

「リレーのバトン貰う時、美園ちゃんの手が触れるかもしれないだろ!?」

――本音そっちだな。

思い切り破顔して語る醤を、甘太と翠は、まるで興味深い生物を観察するような目で見た。
完全に有頂天の醤は、興奮気味にほぼ独り言に近いであろう言葉を喋り続ける。

「美園ちゃんの肌スベスベしててうっかりバトン落としたらどうするよ!?」
「俺は、それが本人に聞こえてたらどうしようって気持ちで一杯だなぁ……」
「やべーオレもしかして今世界で一番幸せなんじゃねぇか!? ありがとう神様!! カグラ以外の!!」
「その神様が、お前をアンカーにしたっていうのもお忘れなく」
「今それお口チャックな!!」

各クラス担任のくじ引きにより、リレー走者の順番が決定したのはつい先日の事。
順番が泡瀬美園の次だと聞かされた後、目を逸らしながら醤がアンカーだと告げた担任の顔は記憶に新しい。
この時の醤は、まさに強運にして凶運の持ち主であった。

「それより佐藤、そろそろ集まらないといけないんじゃないか?」
「あー、放送委員会な。じゃあ行ってくるわ」
「おう」

翠に言われ、校舎の時計を見上げた甘太は、手をひらひらと振りながら白いテントの方へと駆けて行った。

「オレ達もそろそろ行こうぜ」
「だな。……村崎」
「あ?」

伸びをしながら玄関口へと歩き始めた醤は、改まって名を呼ばれ、腕を上げたまま翠の方へと振り向く。

「負けないからな」
「そうでしょうよ(震え声」
「そこ『オレの台詞だ』じゃないんだ!? 何で敬語!? いつもの負けず嫌いなお前は何処に行ったんだよ!?」

かくして、リレーアンカー達の温度差が開いたまま、運動会は開幕したのであった。





『開会式が終わりまして、次のプログラムからはいよいよ競技です』

白いテントの下でマイクを手に、甘太は言葉を続ける。

『申し遅れましたが、前回に引き続きまして、本会の実況はぼく・実況あるから参加するのは基本競技だけで良いという理由で今年度前期も放送委員を務めます佐藤甘太がお送りします』
「よく全校生徒のみならず教師の前で堂々と言えるなアイツ」
「佐藤だからな」
『次のプログラムは徒競走です。生徒の皆さんは、スタート地点で整列してください』

半ば呆れながらの醤の言葉に翠が苦笑すると、スタート地点へと生徒が集まり始め、2人もそれに続いた。
徒競走が始まり、スターターピストルの合図で一斉に駆け出す走者達。
“ただ走るだけ”というシンプルな内容だけに、各々が全力でゴールを走り抜けていた。

「位置について、用意……!」

審判の号令を聞いて身を屈めた醤は、銃声と共に飛び出すように走り出した。
一瞬手を抜く事を考えた醤であったが、美園が見ているかもしれないという自意識任せに力を込める。
神社から学校までの全力疾走より劣っている事は自分でも分かったが、それでも何とか結果を出す事が出来た。

『只今の徒競走、1位は2年D組・村崎君です。流石紅組アンカー、リレーが楽しみですネ!』
「佐藤後で覚えてろよマジで」
『ここでアナウンスです。2-D村崎君、2-D村崎君……』

自分の徒競走を終え、いつのまにかアナウンス席に戻っていた甘太の言葉に、醤は息も絶え絶えに吐き捨てた。
当然ながら醤の言葉が聞こえない甘太による放送が続き、何事かと醤は眉間に皺を若干寄せる。

『お爺様が倒れました』
「何やってんだアイツ!?」

走ったばかりだと言うのに、醤は末恐ろしくなる程のスピードで観客席へと向かった。
観客席で、高く上げられた手が左右に揺れる。

「あっ、醤!! ココよココ! グラちゃんが煙噴いたの!」
「煙ぃ!?」
「醤君、徒競走お疲れ様」
「博士!」

母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の元へ人を避けながら進むと、カグラの体はゆかりに支えられ、頭部の近くで波花椒吾(ナミハナショウゴ)が棒状のセンサーを翳していた。
醤はカグラの両肩を掴み、慌てて呼びかける。

「おい!! おいジジイ!!」
「……ん……? ショウ、か……?」

呼びかけに応じ、緑の光が淡く浮かび上がるが、まるでノイズがはしっている様に不規則に点滅を繰り返す。

「どうしたんだよイキナリ!?」
「す、まぬ。お前の走る姿を、見てたら、嬉しくてな……そしたら、頭が、くらくらと」
「オーバーヒート起こす程ハッスルする事じゃねえだろ!!」

倒れた理由を聞き、色んな感情が入り混じった醤はありったけの声量で怒鳴った。
それを宥めるように、椒吾は穏やかに醤を送り出す。

「カグラ君は僕がみてるから、醤君は皆の所へ戻りなよ。大丈夫だから」
「そうよ~。聞けばメダロットの博士さんだっていうじゃない、プロの人にみて貰うのが一番でしょ?」
「わかったよ……博士すいません、お願いします」
「ああ、行っておいで」

醤が観客席を抜けると、グラウンドからも観客席からも一斉に歓声が上がった。

「え……!?」
『しかし、白組アンカーも負けていません! 歴代の御守高校100M走のタイムが、たった今記録更新されました!
 しでかしたのは勿論この男! 只今の徒競走1位にして、陸上部期待の星……2年D組・尾根君です!!』

名を告げられると同時に、一際大きい……それも半数以上が女性のものであろう歓声が場を支配する。
醤がゴール地点に戻ると、翠が額の汗を拭いながら出迎えた。

「おお、村崎。カグラ大丈夫だったか?」
「あ、ああ。運動会見てハッスルしただけだから」
「そうか、良かったよ。お前、徒競走速かったしなぁ」
「それ、少なくともお前の口から出て良い台詞じゃねぇぞ」
「はは、佐藤のアレは盛り過ぎだよなぁ。……ゲン担ぎみたいなもんさ」

困った様に笑った後、翠には珍しく、その目には強い意志が宿っている。

「徒競走で負けたら、リレーも負ける気がしてな」

次の競技も頑張ろうな、と背を向けて手を振り、翠はその場を去って行った。
分かっていた筈の力量差を突きつけられ、思わず醤の口元が歪む。
醤の気分は、鷹にロックオンされた鼠そのもの……この時ばかりは、翠とあたってきた陸上選手達に心底同情した。

――勘弁してくれ、負けず嫌いはどっちだよ……。

雲が並ぶ空に、ぽつりと独り言を投げかける。

「雨降んねえかなー……」





『次の競技は……何が出るかな? まさに神頼み、借り物競争です』

競技は順調に進み、借り物競争のアナウンスが流れ、数十分後。
合図のままスタートした醤は、地面に伏せられた札を手に取って捲る。

「あまり無茶なのは……『愛機』か」

札を読み上げた醤の脳裏に、運動会開始早々にオーバーヒートしたカグラの顔が浮かんだ。
不本意だが緊急を要する為仕方が無いと自分に言い聞かせながら、醤は頭を掻く。

「しゃーねぇ、呼ん、で……?」

ため息交じりに顔を上げた瞬間、がっちりと目が合った。否、合ってしまった。
醤を凝視しているのは、醤と同様頭に紅い鉢巻を付け、『大切なモノ』と書かれた札を握り締めた波花梓音(ナミハナシオン)である。
言葉にしないにも関わらず、互いの行動を読み取った両者は、まるで示し合わせた様に観客席へと一目散に向かった。

「カグラ!! 行くぞ!!」
「おじいちゃん!! ワタシと一緒に来て!!」
「どうした2人共? 『カブトムシ』とでも書いてあったのか?」
「聞くんじゃねぇタコ!!」
「何故ワシは怒られたのだ?」

回復したカグラは、鬼気迫った2人の顔を見て首を傾げたが、醤に一蹴され頭の中の疑問符が更に増える。
醤の暴言を聞き、梓音は隣の醤を睨みつけながら非難する。

「ちょっと! それがおじちゃんに頼む態度!? 突くわよ!?」
「どうせ今ドライバー持ってねぇだろ!? 先手必勝ォ!!」
「っ!」

言うや否やカグラの右手を取って駈け出した醤に奥歯を噛み締め、梓音はすぐさま左手を取って続く。
自分と並んで走る梓音に舌打ちし、醤は前を向いたまま声を張り上げた。

「大体なぁ、その条件ならマリアがいるだろーが!! 後で泣くぞ!?」
「うるさい! お前がおじいちゃんを連れてくのが気に入らないのよ! お前こそ何!?
 普段暴言吐きまくってるくせにこんな時ばっかり!」
「2人共、走りながら喋ると舌を噛むぞ?」
「誰の所為で面倒な事になってると思ってんだ孫たらし!!」
「おじいちゃんに何てコト言うのよ恩知らず!」
「うるせぇヤンデレラ!」
「チンピラ!」
「ヒス女!」
「甲斐性無し!」
「コミュ障!」
「不憫!」
「モヤシ!」
「ヘタレ!」
「クレイジーサイコチビ!」
「グランドファザコン野郎!」
「お前だろーが!?」

罵倒し合う2人と、それに挟まれたカグラの後ろ姿を見ながら、待機している翠と甘太は感想を漏らす。

「何か借り物競争って言うより、3人4脚みたいだな」
「間違ってねーわな。カグラの足、地面についてねーし」

走者2人のあまりのスピードでカグラの体が宙に浮いたまま、ゴールテープは切られた。
“1位”の赤い旗を持った生徒は、笑顔で醤と梓音両者に差し出す。

「おめでとうございます! 同着1位です!」
「あ? オレがこのモヤシと同じな訳ねぇだろ目ぇ腐ってんのか」
「ついてても意味無い目なら潰すわよ」
「」
「やめぬか2人共。可哀想に、涙目になっておるではないか」

鶴の一声ならぬ神の一声により、この少年から視力が失われる事は後にも先にも無かったという。





午前中の競技が全て終了し、昼休憩の時間となった。

「醤お疲れ様! アンタ意外とすばしっこいのね!」
「もっと他に言い様無かったのか」
「腹が減っておるから苛々するのだよ。たくさん走ってお腹が空いただろう」

戻って開口1番のゆかりの言葉に醤は顔を顰めるたが、反対にカグラは嬉々として弁当を広げていく。
空腹なのは事実であったため、醤は渋々箸を取り、卵焼きを掴んだ。

「いただきます」

そのまま口に運ぶと、醤の口内で丁度良い塩加減と、焦げによるものであろう若干の苦みが広がる。
卵焼きを食べる醤の顔を、カグラは何時になく期待を込めた眼差しで見ていた。

「どうだ? 塩辛くはないか?」
「あー……まあな」
「そうか……」
「その卵焼きね、グラちゃんが作ったのよ!」
「!?」

ゆかりに聞かされ、醤が勢いよく顔を向けると、カグラは照れているのか落ち込んでいるのか分からないような表情を浮かべていた。
カグラは、水筒の茶を注ぎながら明るい声色で話す。

「カンタがな、教えてくれたのだよ。『弁当を作るとショウが喜ぶかもしれない』、と。
 もう少し上手く作れたら良かったんだが、かたじけない」

急いで卵焼きを飲み込み、醤はカグラの手から奪うように麦茶を手に取る。

「……塩加減は、良いんじゃねぇの? 見た目は悪いかもしんねぇが、香ばしくて悪くもねぇだろうし」
「……そうか……!」

喜びから目を丸くするカグラを自分と交互に見て、ニヤニヤ笑うゆかりを完全に無視し、醤は卵焼きを突いた。
一欠けら混入している殻がアクセントで歯応えもしっかりしているが、今後は無いと嬉しい。

――佐藤の奴、余計な事言いやがって。

心の中で悪態をつきながらも、醤は密かに顔を綻ばせる。
次の競技のアナウンスが流れたのは、醤が弁当を残さず食べきった時であった。

『選手が狙うのはアンパンか!? それともメロンパンなのか!? パン食い競争も白熱して参りました!』
「佐藤……午後一で『パン食い競争』入れるウチの学校も学校だけど、佐藤テメエ……!」
「よぉ村崎! 愛情がぎっしり詰まった弁当は美味かったか? 詰まり過ぎて身も心もお腹いっぱいなんじゃねーの?」
「ここぞとばかりに良い顔しやがってえええ……!」

次の順番に備えて自分の隣に並び、爽やかな笑顔を浮かべる甘太とは正反対に、醤は泣く子も黙るような禍々しい笑顔で隣人を睨みつけたのであった。





『さあ、泣いても笑っても次が最後の競技・リレーです。選抜された生徒は、グランド中央で整列してください』

滞りなく進行されてきた運動会も、いよいよ次のリレーで競技が全て終了となる。
アナウンスが流れ、該当する生徒が集まり出す中、誰かが誰かの手を取ったのを醤は視界の隅で捕らえた。

「ミツキがいたら、実力以上の力が出せるかもしれないんだ。だから、見ていてくれないか?」
「スイ……!」
「そこのリア充ウウウウウ!! 一応言っとくけどみっちゃん紅組だかんな!?」

非リア充の心の叫びが轟き、醤が待ち望まなかったリレーがいよいよ開幕したのであった。

――あー、早く終わるか雨が降るかどっちかにしてくれ……!

自分の順番を待ちながら、地面を虚ろな目で見る醤は、深い溜め息をついた。
思い返せばこの運動会、手放しで『良かった』と思えるような出来事が醤には1つも無い。
これではプラマイゼロどころかマイナスではないのかと、今日という日を恨みかけた時であった。

「リレーって、どうしても緊張しちゃうよね」

醤は、耳を疑った。
その声は、聞き慣れない声ではあったが、決して忘れる事の出来ない声だったからである。
恐る恐る醤が顔を上げると、紅い鉢巻と共に、薄茶色の長い髪が揺れた。

「村崎君はアンカーだから、私よりももっと緊張してるのかな?」
「っみ、」

――美園ちゃんんんんん!?

唐突過ぎる美園との出会いに、醤は声を失う。
初めて間近で見る想い人は、くりっとした大きな瞳、桜色に色付いた唇が小さな輪郭にバランス良く納まっていた。
醤の緊張の方向性は勢いよくサイドチェンジされ、出す声が僅かに震える。

「え、な、何でオレの名前っ……?」
「村崎君って凄く元気だし、徒競走でも借り物競争でも1位だったでしょ? それで気になってたら、アナウンスで名前が……」

――神様アアアアア!! カグラ以外のオオオオオ!!

醤は、心の中で膝を折り、天を仰ぎながらガッツポーズをとった。
だがしかし、神が与えたチャンスをみすみす逃す訳にはいかない。

「みっ、あ、泡瀬さんは……!」
「あ、もうコーナーに並ばないといけないみたい。ごめんね」

勇気を振り絞って切り出した話は、話になる前に無残にも終わった。
心中涙を流しながらも、申し訳無さそうに眉を八の字に曲げる美園に対し、醤は明るい笑顔を張り付ける。

「や、今は競技の最中だししょうが無いって! 頑張ろうな、泡瀬さん!」
「うん! 頑張ろうね! また話そう?」
「ああ、また……また?」

美園を送り出した醤は、小さく振っていた手を復唱しながら止めた。

――『また』アアアアア!? また喋ってくれるんですかオレとオオオ!? いやいやいやいや落ち着けって社交辞令だって村崎醤!!
  いやーでも同じ学校だしなー! 会ったら声掛けるだろ? 話すだろ? 普通! やっぱヒロインはこうでなくっちゃなー!
  どっかのジト目のスプラッターに爪の垢煎じて飲ませてえわマジで! 雨よ降らないでくれてありがとう!!

「今ならオレはどこまでも走れる!!」
「良かったな、村崎。泡瀬さんと喋れて」

断言した所で、今度はよく聞き慣れた隣からの声に、醤は笑顔のまま顔を向けた。
隣では翠が、美園とは反対側のコーナーを指差し、笑顔を浮かべる。

「俺達もそろそろ並ぼうか」
「…………ハイ」

醤は、硬直した笑顔のままかくりと頭を垂れた。
コーナーへと向かいながら、翠は楽しげに喋り掛ける。

「『どこまでも走れる』かぁ、何かもっと面白くなってきたな」
「そうだなー、オレはこの先の高校生活が楽しみで楽しみで仕方ねぇよ」

――今日は尾根の1言1言が恐怖そのものだけど、幸運の女神はオレに微笑んでくれた!! 今ならやれる! 出来る! Yes,I can!!

醤が強い光を目に宿してコーナーに立つと、見えたのは走ってくる美園であった。
白組は、数M遅れて走っている。
醤は、後ろ手を構え、小さく走り出す。

「お願い、村崎君……!」
「任された!!」

良き切れ切れに走る美園からバトンを受け取り、醤は加速した。
残念ながら美園の手に触れる事は叶わなかったが、それに構う事なく、一心不乱にゴールを目指す。
遠くで湧き上がる歓声を聞き、翠にバトンが渡った事を醤は悟った。
地面を力強く蹴る音が、徐々に近くなる。

「……村崎、やっぱ速いなぁ」
「……尾根……!」
「悪いけど……」

隣に並んだ翠に、醤は奥歯を噛み締めた。
翠は、勝気な笑みを浮かべて言葉を続ける。

「お前が泡瀬さんの前で負けたくないように、俺もミツキの前で負ける訳にはいかないんだ」
「っのリア充がアアアアアアア!!」

ゴールテープが、切られる。
その場にいた全員が、息を飲んだ。

『ゴールテープを切ったのは、白……!』

カラン、とグランドに乾いた音が響いた。
転がったのは、リレーのバトン。

その色は、少し土で汚れた、白であった。

『……白ですが、白組ではありません。……全身白ずくめの、所謂変質者です』

ゴールテープを切った瞬間同様に両腕をVの字に上げ、白い衣装を纏ったゴーグルの男は、醤の方へと振り返り、口角を吊り上げた。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「えー、まずは第1回『六角形の神サマ』謝罪会見を開きたいと思います。
  前回の次回予告で、『オイルの名前を貸してくださった流離太さん』と表記しましたが、事実確認をしますと、元ネタは『ロックマン』でした。
  『ロックマン』作者の池原しげと先生、関係者の皆様、流離太先生、読者の皆様、本当に申し訳御座いませんでした」
カ「『第1回』という事は、『第2回』があるのか?」
醤「ネタバレになるがありますん」
カ「一体何をしでかすつもりなのだよ……いっその事、最終回の話を」
醤「早 過 ぎ る わ!! 謝罪会見じゃ済まねぇかんな!?」
翠「じゃあ、次回予告だし次の話のネタバレするか。
次回『六角形の神サマ』第拾伍話、『真剣衝突激競争(後篇)』。とりあえず、ロボトルありません」
醤「じゃあ何すんだ!?」

六角形の神サマ 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇) ( No.15 )
   
日時: 2018/01/14 17:39
名前: 海月

「カグラの旦那~! ここにいたんですかい」
「ジー坊。ジー坊も来ておったのだな」

御守高校運動会最終競技・リレーが実施されていたこの時。
観客席でカグラが声掛けられるままに振り向くと、そこには手を振るジーと、見慣れぬラビウォンバットの姿があった。

「その者は友人か?」
「スイのメダロットのハリップだよ! よろしくねカグラ! 今は敵同士だけど!」
「此方こそ宜しく頼む。敵とな?」
「あー…多分あーいう事っす」

真っ直ぐ前を見つめたまま言い放ったハリップの言葉にカグラが首を傾げると、ジーは苦笑しながらグランドの方へと指差した。
カグラも目を向けると、丁度バトンを受け渡された醤の姿が目に映る。

「ショウ?」
「そう! スイはショウに勝たなきゃいけないから! 絶対勝つけど!」
「そうかそうか、スイも走るのだな。では応援するとしようか。ショ~、スイ~、頑張るのだよ~」
「何でスイも応援するの!? 敵同士じゃん!」
「ワシからすれば、どちらも大切な孫だからな」
「ええー!?」
「じゃあオイラは、実況のカンちゃん頑張れ~」

そう言うや否や、走っていないにも関わらず佐藤甘太(サトウカンタ)を応援し始めたジーを見て、ハリップは少し唸る。
しかし、白いバトンが尾根翠(ビネスイ)の渡ると、大きく首を横に振って迷いを断ち切り、有りっ丈の声援を送り始めた。

「スイイイイ!! 頑張ってえええ!! 絶対負けないと思うけど絶対勝ってねえええええ!!」
「スイを信頼しているのだなあ」
「モチロン!! スイは、誰よりも誰よりも速いんだから!!」

翠がゴールテープを切る瞬間を逃すまいとグランドを1点見つめながら、ハリップは目を輝かせて言い切った。
すると、ゴールテープに向かって、マイペースに走っている白い影が不意に3体の視界に入った。

「「「あ」」」

誰よりも不真面目に走っている事明らかなその白い男は、腕をVの字に上げ、ゴールテープを散らしたのであった。





『六角形の神サマ』 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇)





「ふっ、ふふっ……」

白を基調とした未来人の様な格好に、目には大きめのゴーグル。
そして、衣装の右胸に“Tc”と刻まれた、秘密結社テクノポリスが1人・タバスコは、腕を降ろし、笑い声を零しながら小刻みに震える。

「だーっはっはっは!! 悔しいか!? 悔しいか村崎醤!? 今どんな気持ちだ!?
 自分が切るつもりだったゴールテープを目の前で切られたのどんなビモッ!?」

高笑いするタバスコの顔面に、紅いリレーバトンが思い切りクリーンヒットした。
振り被った姿勢の村崎醤(ムラサキショウ)に、2年D組のクラス担任は恐る恐る口を開く。

「な、なぁ村崎? ただ単にお前の担任というだけで、どうやこうや言う資格先生には無いんだけどな?
 ……友達は選んだ方が良いんじゃないか?」
「友達じゃありません。あれは只の知り合いの変質者です」
「変質者と知り合ってるのも、ちょっとまずいと思うぞ?」
「おっふ」

勘違いをすぐ否定したは良いものの、担任の指摘は的確であった。
タバスコは、その恰好だけでも目立つというのに、運動会のクライマックスを台無しにした事により、今となっては誰にとっても無視出来ない存在となってしまった。
その男が、自分の名前を大きく叫びながら、自分に思い切り絡んでくるのである。
今この瞬間、人生の引導をタバスコに渡してしまいたい醤であったが、まず自分の状況が非常にまずい。

何か打開策は無いかと考えに考え……醤は閃いた。

「先生!! アイツです!!」
「いや『アイツ』って……何がだ?」
「小学生のメダロット盗ったのも神社の扉から何から全部壊したのもアイツがやりました!!
 オレはそれを止めようとして、目を付けられただけなんです!!」
「そうだったのか!!」
「オイ今どさくさに紛れて罪押し付けt」
「見苦しいぜ犯罪者!!」

醤はタバスコを勢いよく指差し、反論の隙を許さず大きな声で言い放った。
事情を知っている甘太から白い目で見られている気がするが、気の所為にしておく。
不意に後ろから聞こえた砂を踏み締める音に、醤は恐る恐る振り向いた。

「……び、尾根……?」

声を掛けられても、翠は俯いたまま沈黙している。
醤は悟った。『翠は相当怒っている』。
普段穏和な彼だが、そんな人物程1度怒ると怖い事はよく存じている。

「ん~? よく見ればお前は、あの時神社にいたガキじゃないか。言いたい事があるなら言えば良い」
「……まさか、思ってないよな?」
「あ? 何だって?」

わざとらしく聞き耳を立てるタバスコに対し、敵意を露わにしながら翠は顔をゆっくりと上げた。

「大事な勝負駄目にしといて、簡単に帰れると思ってないよな? どう逃げようが、追いつく自信あるんだけどさ」

そう言うと、翠はスニーカーの爪先で軽く地面を叩く。

「コワークナイ!! タカガ高校生全然コワークナイ!!」
「強がんなって……尾根怒らせるとか、アンタどんだけ怒らせ上手なんだ。言っとくけどな、こないだの陸上の全国大会、アイツ準優勝しt」
「煩い!! このタイミングで華々しい戦歴を語るな!!」

怯えるタバスコに、醤は大きな溜め息をつくと、メダロッチを構えた。

「つまり、こういう事なんだろ? タバスコ」
「フフン。単細胞は安直な発想しか出来ないから困る」
「あ゙?」

鼻で笑われ、自分に対しては何故強気なのかと、醤は怒りの籠った声で聞き返した。
タバスコは、ゴーグルを掛け直すと、3つのメダロッチをつけた腕を翳す。

「確かに勝負はするさ……但し、“メダロードレース”でな!!」





『ハーイ! という訳で、実況は変わりましてワタクシ・Ms.マーガリンがお送り致しま~す♪』

放送席でメガホンを構えたMs.マーガリンは、言葉を続ける。

『まずは、メダロードレースのルール説明です! レースの走者はメダロット3体!
 1体につき、スタート地点から、アチラに見えます赤いフラッグで折り返し、またスタート地点まで戻ってきてください!
 1番走者、2番走者、3番走者の順に走って頂き、3番走者が先にゴールした方が勝利となります! ですよね先輩? 先パ~イ?』
「……やる気はあるのか?」

Mr.ジャムの怒気を含んだ低い声が、グランドに響く。
睨み付けられた生徒達は、突然現れた審判が何故自分達に対し怒っているのか分からずざわめくが、Mr.ジャムは腕を組んで言葉を繰り返す。

「君達はやる気があるのか、と聞いているんだ……!」
『ちょっとちょっと先輩どうしちゃったんですかー?
 生徒さんの中に、昔先輩を性犯罪者として訴えた方と似てる方でもいらっしゃったんですかー?』
「君の発言は完全に濡れ衣だが、」
「『完全に』は嘘だろ」
「僕が怒っているのは、そういう事じゃないんだよ!」

醤の突っ込みを意に介さず、Mr.ジャムは鬼気迫る顔でハッキリと言い放った。

「可愛い女子は今この場でブルマーに着替えろ!! 話はそれからだ!!」

Mr.ジャムはパトカーで連行され、Ms.マーガリンは黄色いハンカチを振りながら見送った。
この時、何故もう1人の犯罪者も連行されなかったのか醤は強く疑問に思ったが、そう都合良くいかないらしい。

「村崎!」
「尾根……悪ぃが、お前んトコのハリップも頼めるか?」
「謝んなって! 俺だって、許せないんだ」
「2人がそうするなら、おれもジーで参加するわ」
「悪いな、佐藤」

走者が集まり、醤は安堵から少し笑みを浮かべる。

一方、観客席では。

「ふむ、どうやらワシ等が走るようだな。どれ、行くとしようか。ハリ坊、ジー坊……ジー坊?」

一部始終を見ていたカグラは、立ち上がるとジーの姿が無い事に気付き、辺りを見回した。
しかし、周りにそれらしきメダロットはいない。

「はて、先程までいたのだが……?」
「カグラ! ジーはいる!?」

首を傾げるカグラの元へ、甘太の母の愛機・グルコが人込みを避けながらやってきた。
思わぬ来訪者に、カグラは柔和な笑顔を浮かべる。

「おお、グルコ嬢ではないか。息災で何よりなのだよ」
「挨拶は後後! ジーはいるの!?」
「さっきまで居たんだがなぁ……」
「もう! 逃げたのよアイツ! そうはいかないんだから!」

グルコは怒りながら目を閉じ、再び目を開いた。

「索敵!」

ジーの座標を特定するや否や、グルコは何も無い場所を思いっ切り鷲塚む。
すると、潰れた蛙ならぬカメレオンの声が客席に響いた。

「ぐえっ!? ね、姐さ、決まっちゃってますって……!」
「あんたは何でもかんでも逃げれば済むと思って! 男なら勝負から逃げるんじゃないの!」
「相変わらず仲が良いのだなぁ」

胸倉を掴まれたジーと、それに説教するグルコを見て、決して微笑ましくない場面に、カグラは呑気にそう言った。
そして、隣に座っているハリップに顔を向ける。

「お前が走ってくれるとなれば、ワシ等も心強い。ハリ坊、宜しく頼む」
「……違うよ」
「『違う』?」

さっきとはうって変わり、落ち込んだ様子で呟くハリップの言葉を、カグラは復唱する。
ハリップは、少し震えた声で言葉を続けた。

「オレっちじゃ……ダメなんだ」





『それではステージを発表しまーす♪ 今回のステージは、“砂地”です!』
「はあああ!? ざけんな! どう見ても“平地”だろーが!?」
『メダロット協会が、グランド面積に対する砂の割合を測定した所、“砂地”と判定されましたー♪』
「オレはグランド整備サボった連中を許さない! 絶対にだ!」

タバスコが転送したトンボ型メダロット・ドラゴンビートル3体を背に、醤は有りっ丈の声量で訴えるが、Ms.マーガリンにより虚しくも却下されてしまった。
その様子を見て、ジーが非難の声を上げる。

「砂地で二脚が飛行に敵うはずないじゃないっスか!! 勝てませんからね!! 勝てませんからね!?」
「うるせえええ!! 今すぐ1番走者から3番走者にしてやろうか!」
「文句言わず走ります!!」
「よし!!」

醤の脅迫に屈し、ジーは勢いよく敬礼した。
肩をがっくり落としたジーに苦笑した後、翠は走者を確認していく。

「えーっと……ジーが1番で、カグラが2番で、ハリップが3番か。ハリップ! お前なら大丈夫だから、自信持って行って来いよ」
「う、うん……」
『それでは、走者の皆さんはスタート地点についてくださーい!』

Ms.マーガリンの指示に従い、6体のメダロットはスタート地点につく。
ドラゴンビートルと、小声で『無理』を繰り返すジーは、いつ合図が出ても良いよう、走る構えを取った。
Ms.マーガリンが、スターターピストルを持つ腕を、空に向かって高々に上げる。

『合意とみてよろしいかなー!? それでは、メダロードレース開幕です! 位置について、用意――』

薬莢の爆ぜる音と共に、両者は一気に走り出した。

「おんわあああ!! おんわああああ!!」
『さあ始まりましたメダロードレース!! 勝利の女神はどちらのチームに微笑むのでしょうか!?
 現在、やはり地の利があってか、ドラゴンビートルが大きくリードしております!
 ジーは声を張り上げながら懸命に走りますが、距離が広がる一方です!』
「イラッと来る実況だなー」
「通常運転だ、落ち着け佐藤」

不満を呟く甘太の肩を、醤は軽く叩いて宥める。
少し離れた場所では、ハリップは俯いたまま回想していた。





記憶の中で、ハリップはひたすら堤防を歩いていた。

『またお前がビリッケツかよー!』
『ノロマだなー、ウサギなのに恥ずかしくねえのー?』
『じゃあなー、落ちこぼれウサギー』

先刻の他のラビウォンバット達による罵倒が心の中で木霊したが、ハリップは滲む世界を閉じて、頭を思い切り横に振った。
そのままずっと歩いていると、誰かが土手を走っている姿が不意に目に入る。

「ニンゲン?」

その人間の行動は奇怪で、走り終えた後必ず首を傾げては、逆走を繰り返す。
気になったハリップは、好奇心の赴くままに、土手へと降りて、走る背中に声を掛けた。

「ね、ねえっ! 何してんの!?」

ハリップの声に足を止め、振り向いた顔はまだまだ幼かった。
辺りを見回しても自分しかおらず、声を掛けられたのは自分であると自覚した少年は、用心深くゆっくりとハリップに歩み寄る。
深刻な顔で顔を近づけられ、ハリップは小さな声で問い掛けられた。

「……誰にも言わない?」
「う、うん」
「俺さ……」

少年は言い淀んだが、そのまま消え入りそうな声で続けた。

「走る練習、してたんだ。クラスのみんなと鬼ごっこしてると……いっつも鬼にされるから」
「え? 鬼ごっこ? ……あー」

深刻な話をされると思いきや“鬼ごっこ”という単語が出てきたため、ハリップは素っ頓狂な声で復唱した。
して、すぐに合点がいく。
鬼ごっことは、本来交代して鬼を担う。
しかし、逃げれば捕まり、追い掛ければ捕まらずと、足が遅い者にとっては残酷な遊びなのである。

ハリップは、自分の仲間が見つかったと喜んだが、それは瞬時に打ち砕かれる。

――この子は、“速く走る事”を諦めきれないんだ。

何かと理由をつけて練習する訳でもなく、ただ悲観していた自分が酷く情けなく、ハリップは己を恥じて落ち込んだ。

――せめて、この子だけでも。

ハリップは覚悟を決め、口を開く。

「オレっちが、計るよ」
「え?」
「オレっちが、君のタイムを計るから……っ一緒に練習しようよ!」

速く走れぬならば、せめて彼が速く走れるよう応援したい。1人ももう嫌だ。
ハリップは拒否の言葉を恐れたが、決して少年から目を逸らさなかった。
驚いているのか瞬きを2回した少年は、満面の笑みで大きく頷いたのであった。

「ありがとう!!」

少年の返答が嬉しく、ハリップは少年の両肩を掴んで力説する。

「オレっちがついてるから、キミは絶対!! 絶対誰よりも速くなるから!! 一緒に頑張ろう!!」
「……! うん!」

少年と共通の“目標”を見つけたハリップは、いてもたってもいられず、土手の向こうへと駆け出す。

「そうと決まったら早速練習だよ! 時間はすぐ過ぎちゃうんだから!」
「えっ!? ま、待ってよ!」

ハリップはこの頃から、目標に向かって文字通り疾走する少年に、憧れを抱いていた。
少年が陸上の全国大会で上位3位の常連になった今は、一層強い憧れと信頼を寄せていたのであった。





翠が速く走れるようになると、自分も速く走れるような錯覚を覚えた。
しかし、所詮は錯覚。
自分自身が早くなった訳ではないと、ハリップは自覚していた。

「オレっちはどうして、スイじゃないんだろう……?」

分かっている。
自分はただ、タイムを計っていただけであると。

「先程から、随分浮かぬ顔をしておるな?」
「! カッ、カグラ!!」

隣のカグラから声を掛けられ、ハリップは驚き、声も体も飛び上がった。
ハリップを瞬きして見た後、あまり反省の色が見えない声色で、カグラは言葉を続ける。

「すまぬ、それ程驚くとは思わなんだ。しかし、そう案じる必要は無いのだよ」
「なっ……!」
「何せ、」

自分の気持ちも知らず呑気に言ってのけるカグラに、ハリップは少し苛立ちを覚える。
しかし、カグラの視線の先へハリップも目を向けると、言葉を失って目を見開いた。

「スイがあんなに自信満々に笑っておるのだ、何か“勝算”があるのであろうなぁ」

そう言うや否や、カグラは立ち上がり、此方へ向かって走って来るジーを見据え、タッチすべく右手を掲げる。

「さて……それでは、行ってくるのだよ」
『さあ! 先程ドラゴンビートルが2番走者に変わりまして、此方のチームも2番走者の出番です!』

Ms.マーガリンが言うなり、カグラはジーとバトンタッチし、駈け出して行った。
スタート地点を過ぎたジーは、数歩よろけながら歩いた後、その場に音を立てて倒れ込む。
甘太は、マイペースに駆け寄った後、ジーの近くにしゃがんだ。

「ジー、お疲れさん」
「……カッ……ガン゙ぢゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「おーよしよし、飛行相手に頑張ったな」

号泣しながら自分に抱きつくジーの背中を、甘太は優しく叩いた。
少し離れた場所からは、醤が声援を送る。

「いけええカグラアアアアア!! たかがトンボだぞおお!! カブトムシの根性見せてやれえええええ!!」
「村崎……何かがちょっとずれてないか?」

冷静に突っ込む翠を尻目に、ハリップは再び俯いた。

――どうしよう……。スイの期待に応えたい、負けたくないけどオレっちは……!

『カグラは徐々にドラゴンビートルとの距離を縮めていくが、果たして追い抜く事は叶うのかー!?』
「え!?」

Ms.マーガリンの実況にハリップが顔を上げると、2体がフラッグで折り返し、此方へ向かって走っている。
しかし、カグラは差を縮めはするものの、後1歩が及ばない。
追い抜く事は無いまま、カグラの手はハリップへ伸ばされた。

「ハリ坊、頼んだぞ……!」
「……ッ!」

カグラにバトンタッチされ、3番目のドラゴンビートルに1歩出遅れて、ハリップは走り出した。
Ms.マーガリンは、声高々に実況を続ける。

『今! そう、たった今! どちらのチームも第3走者にバトンが委ねられましたー!!
 このままドラゴンビートルが勝つのか!? それともハリップが巻き返すのかー!?』

ハリップは、真っ直ぐ前を向いてひたすら走るが、ドラゴンビートルの1歩先へと足を出す事が出来ずにいる。
その歯痒さから、足は止めずに、力強く目を閉じた。

――駄目だ、やっぱり勝てっこないよ……! ごめんみんな、ごめん……!

「なぁ尾根、ハリップ何か様子変じゃねえ? レースの前くらいから」
「あ? そうなのか?」

片手でジーをあやしながら、甘太は顔だけを翠の方へ向けた。
ハリップの差異に気付かない醤は、団扇でカグラを扇ぎながら素っ頓狂な声で聞く。
翠はハリップを見て顎に手を当て、少し考えた後に立ち上がる。

「尾根、どうした?」

醤の問い掛けに答える事は無く、翠はハリップの後ろ姿を見つめた。
まるで、重い荷物を背負っているかのように、ハリップは徐々に減速し、頭も垂れていく。

――ごめんスイ、オレっちもスイみたいに走れたら……!

「ハリップううううう!! 前向いて走ったままよく聞けよおおお!!」
「うおっ!? ビックリした」

突然声を張り上げた翠に、近くにいた醤は小さく肩を上下させた。
翠は、ハリップの背中に向かって声をぶつけ続ける。

「お前!! 俺の事いつも速い速いって言うけどな!! タイム計りながらぴったり俺の後ついて走って来るヤツ誰だよ!?
 『一緒に頑張ろう』ってお前が言ったんだろ!? 俺だけが速いとか、寂しくなる事考えてるんじゃないだろうな!?」
「……スイ」
「くよくよしてる場合じゃないだろ!! 早く本気出せよ!!」

そこまで叫ぶと、翠は一層大きく息を吸い込んだ。

「お前は絶対!! 誰よりも速く走れるんだからなあああああ!!」

言い切ると、翠は息を荒げ、両膝に手をついて自らの体を支えた。
ハリップは顔を上げ、目には強い光が宿る。
一部始終を見ていたタバスコは、バトンタッチしたと言わんばかりに声を張り上げた。

「何のスポ根漫画だコレはアアアア!? そんな洗脳じみた台詞で二脚が飛行に敵う訳えええええ!?」

フラッグを先に折り返したのは、ハリップであった。
ハリップは歩幅を広げ、徐々に加速していき、完全にドラゴンビートルが出遅れている。

『おおーっと!! やはり勝負はこうでなくては面白くありません! ハリップが徐々にドラゴンビートルを引き離していくウウウウ!
 逆転劇なるかー!?』
「バッ、馬鹿な……!? こんな馬鹿な話が……!」
「突っ切れハリイイイイイップ!!」
「っおおおおおおおお!!」

雄叫びを上げながら駆けるハリップの体がゴール地点を抜けた瞬間、力強いホイッスルの音が鳴り響いた。
Ms.マーガリンがハリップの腕を掴んで持ち上げ、勝利を声高々に讃える。

『勝者!! ショウチームぅ!!』
「わっ!?」

観客席から歓声と共に、拍手が湧き上がる。
ハリップは、嬉しさやら照れやら様々な感情が入り混じり、観客席をぐるりと見回した後、顔を僅かに染めて俯いた。

「ハリップ!」

Ms.マーガリンから腕を解放されたハリップは、駆け寄りながら自分を呼ぶ声に顔を上げる。

「スイ!」
「ありがとな、お疲れさん! やっぱ速いよお前は!」
「……ッ」

くしゃくしゃに笑い、自分に右手を差し出す翠に、口を噤んだハリップは両手でその手を握った。

「モチロンだよ! 何たってオレっちは、スイのメダロットだからね!」

そう言って、翠に負けないくらいの屈託無い笑顔で言ってのけたのであった。

「そーいや、タバスコって……いねぇ!! 負けて早々逃げやがったなアイツ! これじゃパーツが…!」
『えー? 戦利品のパーツなんて無いよー?』
「は?」

姿を消したタバスコに醤が憤慨していると、Ms.マーガリンが不思議そうに首を傾げる。
素っ頓狂な声を上げた醤に、Ms.マーガリンは言葉を続ける。

『だって、メダロードレースだよ? ロボトルじゃないんだから』

単純且つ納得のいく……が、あまり納得したくない返答に、醤は恐る恐る小さく挙手をする。

「待てよ……じゃあ、アイツがわざわざウチに乗り込んできたのって……?」

泣き疲れて寝ているジーを背負い、甘太はさらりと返答した。

「お前とカグラへの嫌がらせじゃね?」

その1言で怒りが怒髪天に達し、醤はグランドの中心で吠えたのだった。

「ちっくしょオオオオオ!! 余計な恥かいただけじゃねーか! 次会ったらボコボコにしてやっから覚えとけ真っ白変態野郎オオオオオ!!」
「落ち着けよ、次会ったら俺が捕まえてちゃんと言っとくから」
「サンキュー尾根! 有難いけど今日はつくづくお前が怖い!」
「いや、お前の言ってる事も充分こえーよ」





「あーあ、結局負けかー」

メダロードレース後。
結局、タバスコの介入によりリレーは無かったものとされ、それまでの競技の総合点により、運動会は紅組の勝利となった。
その点差はリレーの勝敗により変わる可能性がある程の微差であり、紅組・白組関係無く生徒から非難轟々であった。
しかし、無理矢理その勝敗を学校から押し付けられ、何とも後味の悪い運動会となってしまった。
己がもっと早くゴールしていれば違ったのではないか、と、翠は後片付けが全て終わったグランドで1人考える。

「……楽しみにしてたんだけどなあ」

運動会という名の晴れ舞台で。
普段であれば、自分と競う事は無い、しかし足が速い事は確かな友人と。

「尾根!」

不意にその友人の声が聞こえ、翠は夕焼け空からそちらへと視線を移した。

「村崎、お前もまだ残ってたのか」
「ああ、お前に用あって随分探したぜ」
「そいつは悪い、……?」

歩み寄ってきた醤は自分の近くで立ち止まるかと思いきや、素通りしてもっと先へと歩いていく。
翠が怪訝そうに見ていると、ようやく醤は足を止めた。

「ほら、構えろよ」
「え?」

これから喧嘩でも始めるのかと一瞬体を強張らせた翠であったが、醤の立っている場所の意味に気付き、僅かに目を見開く。
醤はバツが悪そうに目を逸らし、地面に言葉を吐き捨てた。

「いつまでもそこで突っ立ってっと、マジで帰るぞオレ」
「……本当に、何のスポ根漫画だよ」
「お前の事、明日から『タバスコ2号』って呼ぶからな」
「ははっ、俺が負けたらにしてくれ」

苦笑しながら醤と同じポイントに立ち、いつものように構え、グランドの向こうを見据えた。
隣で、醤が低く笑う。

「へへっ、ギャラリーがいなけりゃ負けようがどうなろうが恥ずかしくねぇ」
「おいおい、真面目に走ってくれよ?」

心配そうに翠が隣りを見ると、醤の目にもグランドの先が映っていた。

「わざわざ負けるために来る程、オレは暇でも酔狂でもねぇ」

醤の返答に安堵した翠は、前方に視線を戻し、目を細める。

「位置について!」
「用意!」

スタート地点を、2人の足が同時に蹴った。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
マ「次回の『六角形の神サマ』はー……フェスティバル! お祭りですよお! ここで、お祭りにちなんだ心理テストです!
  Q.貴方のお祭りの過ごし方は? (1)射的、くじ引き等遊びメイン! (2)焼きそば、綿飴等食べ物メイン!」
醤「えーっと……(2)?」
マ「A.(2)を選んだ貴方は、精神年齢が大人もしくは究極のいやしんぼです!」
醤「ちょっと待てコレ心理テストか!?」
カ「次回『六角形の神サマ』第拾陸話、『絶対不敗熱血漢(前篇)』。
  のうマリア、因みに『自分の神社にやって来た者達の息災を願う』という場合は如何なる答えなのだ?」
マ「A.人外です!」

六角形の神サマ 第拾陸話/絶対不敗熱血漢(前篇) ( No.16 )
   
日時: 2018/01/14 18:29
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾陸話/絶対不敗熱血漢(前篇)





「今日から隣の鎖界(サカイ)町で神社祭が始まるが、羽目を外し過ぎないように! それと門限守れよ!」

朝。御守高校・2年D組のHRにて。
クラス担任が念を押すように言う最中、教室の後ろ側の席で村崎醤(ムラサキショウ)は友人にひそひそと話し掛けていた。

「来たぜ。この娯楽が少な過ぎるド田舎で、年に1度の祭りが……!」
「そーいや、そんな時期か~。しっかしお前、お祭り好きな~?」
「日本人だからな!」

佐藤甘太(サトウカンタ)が前を向いたままそう告げると、あくまでも声のボリュームは上げずに、醤は根拠も無く返答した。
そして、言葉を続ける。

「っつー訳で、今夜祭りどーよ?」
「店番ねーなら、おれは良いかなー。尾根は? 今年もみっちゃんと?」
「……ああ、約束しててさ。悪いな」

そう密やかな声で返したのは、甘太の後ろの席に座る、尾根翠(ビネスイ)だった。
聞くや否や、醤は荒んだ笑顔を浮かべる。

「毎年恒例のおまつリア充デートか~。はははははは、射的の的にしてやろうか」
「俺撃った所で得られるモノは何!?」
「ピンポーン♪ 満足感と虚無感?」
「プラマイゼロだろ!?」

クイズ番組宜しく返答する甘太に、翠は突っ込みを入れるが、非リア充達による猛攻は収まらない。

「オレ知ってるぜ!
 どうせ、祭りではしゃぐみっちゃんの浴衣が崩れた後、『このまま、もっと崩れちゃう事しようか……?』なんつって不純異性交遊する気なんだろ!
 エロ同人みたいに!」
「やだ~、尾根君のムッツリスケベ」
「今、HR中だって忘れてないよな!? あーもう……」

唯一賞賛すべきは、ここまでの会話が全て小声で行われた事である。
醤達の発言に頭痛を覚え、頭を押さえた翠であったが、次の担任の言葉でぴたりと止む事になる。

「それと、今朝連絡が来たんだが、蜂屋がインフルエンザでしばらく欠席するそうだ。流行ってきてるし、皆も気を付けるように」

次の瞬間、醤と甘太は物理的な息苦しさを感じた。

「……お前等か……?」
「いやいや待て待て待て!? 落ち着こう!? 冷静になろう!?
 一介の高校生が、自分がかかった訳でもねぇのに、ヒトにインフルなんざうつせるか!?」

恐ろしい程真顔で、恐ろしい程低い声の翠に胸倉を掴まれ、醤は必死に説得を試みた。
同じく胸倉を掴まれた甘太はというと、今まで見た事も無い翠の顔で完全に硬直している。

「村崎に佐藤に尾根! 今からお祭り気分で羽目を外すんじゃない!」
「今もっと優先すべき事が他にあると思います!」

何処かずれた担任に指摘すると、HR終了のチャイムが鳴り響いたのであった。





「ほお、隣町の神社で祭りとな?」
「ああ。カグラも来るだろ?」

1日の授業を終え、帰宅した醤は、着替えながらカグラに尋ねる。
しかし、カグラは答えずに、読みかけの本を閉じ、問い返した。

「……ショウ、知っておるか?」
「何を?」
「ショウの生まれる前だったやもしれぬが、この町には“御守神社祭”という催し物があってな。
 祭日になると、普段は物静かな神社も、老若男女問わず町の人間でごった返し、賑わったものなのだよ」
「そーかそーか、出掛けるぞ」
「待て!」

長話になると察知した醤は、適当に相槌を打ちながら着替え終えると、財布をジーンズに突っ込んで戸に手を掛けた。
出るのは叶わず、カグラに呼び止められて振り返る。

「何だよ!?」
「何故この町の人間は、わざわざ隣町の祭事に出向くのだ!?」
「仕方ねぇだろ、祭りどころか開催する神社すら無ぇんだから!」
「無かったら作れば良いではないか!」
「お前はどこぞのアントワネットか!?」

普段のように穏やかに構えるでもなく、時折見せる激昂でもなく、まるで駄々を捏ねる子どものように、醤の目には映る。
その駄々を捏ねる子ども……ではなく翁は、醤の突っ込み等気にする事無く言葉を続けた。

「嗚呼、斯様な悲劇が何処にあろうか!? 信仰は薄れ、住処は追われ、年に1度の楽しみまでもが奪われるとは!」
「アンタ、今まで信仰何ちゃらはブーブー言ってなかったじゃねえか!? さては相当のお祭り好きだな!?」
「ワシを単なる祭事好きと称すでない! ワシが好きなのは、御守神社祭なのだよ!」
「凄えな流石フェスティバル! 始まるだけで、普段大人しい奴が途端に面倒臭くなる!」

醤の言葉は半分自業自得であるのだが、カグラは知る由もなかった。
頭を抱えたり、醤を指差したりと忙しない、カグラの言葉はまだ終わらない。

「大体、如何様な顔をして、隣町の祭事に馳せ参じれば良いのだ!? 自分の神社を失くし、仕方無しにのこのこ別の神社に等……!
 無様で顔から火がd」

チャリン、という音と共に、床の上にメダルが転がった。
醤はメダロッチから指を放すと、メダルを拾い上げ、メダロッチにはめ込む。

「……さ、出掛けるぞ」
『ショウ! 出さぬか! ワシの顔から火が出ても良いのか!?』
「お前が出せんのミサイルぐらいだろ」





鎖界神社。
その場所は、御守神社のように丘の上ではなく、平地に聳えている。

「あ、来た来た。おーい、村崎ー」

白い鳥居の下で立ち上がり、大きく手を振った甘太に対し、醤は小さく手を上げた。
もう片方の手は、先程転送したカグラの手首をしっかりと掴み、半ば引き摺るように連れている。

「悪い、オレ達が最後か」
「ショウもカグラも遅いよ! お祭りなんてすぐ終わっちゃうんだから! 早く行こ!」
「大丈夫だってハリップ、まだ3時間もあるんだから」
「えー!? 後、3時間しかないの!?」

ハリップの非難の声を聞き、後ろに座っていた翠は苦笑した。
いつも通りの翠の様子に醤は安堵し、翠にも声を掛ける。

「よぉ尾根。今朝は……悪かったな」
「やー、俺もごめんな。馬鹿だよなぁ、いくらお前らでもそこまでする訳無いのに!」

――『いくらお前等でも』って、オレと佐藤は一体どー思われてんだ……?

そんな疑問を口に出せる立場では無い事が分かっていたため、醤は堪えて口を閉ざす。
翠は、醤の様子に気付く事無く、話し続ける。

「なのに悪いな、ジャンボ唐揚げ奢ってくれるなんて」
「あ? 唐揚g」

言いかけた途端、自分の肩を強く掴んだ手に、醤は言葉を止めてそちらを見やる。
案の定、それは佐藤であり、『頼むからそれ以上言わないでくれ』と、目で訴えられた。
しかし、何も言わないとまずいと思ったのか、甘太はそのまま口を開く。

「おれ達の割り勘だったよな~? 村崎」
「……トテモソウダッタ気ガシテキマシタ」

この守銭奴の財布が開くとは、コイツどんだけ怖かったんだ、と思いながらも、ただ何度も頷く事しか出来ない醤であった。





「スイ!! 次、アレ! アレ! ヨーヨー釣りたい!」
「はいよー」
「ホラ! カグラも早く!」
「あっ、ああ……」

翠は苦笑し、ハリップに袖を引かれるままについて行く。
腕を引かれ、戸惑いながらも連れて行かれるカグラを見て、甘太はあくまでも小声で呟いた。

「うわ、ヨーヨー釣りたっか。アレで300円とか……良いな、おれもやるか」
「ほはえはもっほ、あふいのういんひほのほのほはほひめほ!(お前はもっと、祭りの雰囲気そのものを楽しめよ!)」
「村崎ー、日本語喋って」

あくまで商人として出店を見てた甘太は、焼きそばを口いっぱいに頬張り、腕の中に焼き鳥のカップを抱える醤に指摘した。
一部始終を見ていたジーも、甘太の傍らで口を開く。

「ショウさんの言う通り、お祭りってほぼ雰囲気ですよねー。
 だって、食いモンは高いし、ヨーヨーやサイリウムはその内機能しなくなるし、クジで当たったモンはこの先要るかわかんねぇようなモンばっかだし。
 全部、残るのは思い出とゴミと皮下脂肪じゃないっスか」
「お、お前結構シビアだな……?」
「おれ嬉しいわ、ジーが立派な商人に育ってくれて。ただのエロ本立ち読み野郎かと思った」
「カンちゃんさぁん!?」
「お前は大概酷いな!? 知ってた!」

焼きそばを飲み込んだ醤は、ジーとカンタの発言に驚愕し、声を上げる。
そうこうしている内に、翠と、ヨーヨーを楽しそうに跳ねさせるハリップが戻ってきた。

「何の話してたんだ?」
「……こ、今回のコンセプト台無しにするような話」
「わかった、これ以上聞くのやめとくよ」
「あ! オレ、フライドポテト買ってくるわ!」

何としてでも話題を変えたかった醤は、目に入った出店に感謝し、財布を出しながら店員に声を掛ける。

「すいませー……」
「はいよ、ポテトのXLサイズ! コーンポタージュ味! 嬢ちゃん可愛いから、オマケしといたよ!」
「あ、ありがとうございま……」

絶句。
注文しようとした男と、バケツの様なカップいっぱいのフライドポテトを受け取ろうとした女が、合わせた目を見開き、硬直した。
ガタイの良い店員は、2人の雰囲気を見て、察しましたと言わんばかりに口を開く。

「いよぅ、彼氏! お迎えご苦労様!」
「「冗談じゃないこんなスプラッター(不憫)と!!」」
「なっ、仲良いじゃねーか!?」

店員の言葉も聞かずに出店から離れた、醤と、ポテトのカップを抱えた波花梓音(ナミハナシオン)は、鋭く睨み合う。

「……まだ、焼き鳥あるじゃん。どんだけ食うの? デブれば」
「デブんのはどっちだ、ヒッキー女。普段動かねークセに、ポテトもりもり食いやがって」
「まだ食べてない。あっても意味無い目なら、潰してやろうか?」
「いや~、良く見えてるぜ? 尋常じゃない量のポテトだこって。まさか、その量1人で食う訳じゃねーよなあ?
 誰と食うんだ、波花サンよお?」
「………………マリァ」
「隙間にでも埋め込むつもりか?」

目を逸らし、小さく出した答えに、醤はすかさず疑問をぶつけた。
羞恥心からか、目元を赤く染めた梓音は、再び醤を睨んで聞き返す。

「っそういう自分はどうなワケn」
「おーい、村崎ー?」
「ショウ何やってんのー!? 時間掛かり過ぎ!」
「そんなに珍しい味あるのか?」
「買い過ぎには注意ですぜー」
「!?」

醤の後ろからひょっこり顔を出した、甘太、ハリップ、翠、ジーを見て、梓音はまたもや絶句し、その場に崩れ落ち、地面に両手をついた。

「…………殺しなさいよ」

――か、勝った……!

「何で村崎は嬉しそうなんだ?」

震え声で吐き捨てた梓音とは対照的に、醤はガッツポーズし、空を仰ぎ見る。
そんな醤を疑問に思い、言葉を漏らした翠は、すぐそばで地に伏している梓音に目を向けた。

「あれ、もしかして波花さん?」
「え……」
「あー、やっぱり波花さんだ。浴衣だったからちょっと自信無かったんだけど、似合ってるね」
「っ……どうも……」

翠に唐突に話し掛けられた梓音は、気恥ずかしさからか、顔を僅かに赤らめ、浴衣に付いた土を払いながら立ち上がった。
翠の言葉を聞き、醤は少し面白くない顔で梓音の浴衣姿を見る。

――おいおいオレと態度違い過ぎだろーが!? ええ、そうでしょうねぇ、尾根は360度どっから見てもイケメンですもんねぇ!?
  オレには、ドライバーモンスターを褒める技術なんて持ち合わせてねーかんな! 褒められたモンじゃねぇ、だろー、けど……?

白地に、重なる波紋。揺れる金魚。
まるで溶けてしまいそうな淡い色合いを、黒い帯がきりりと締めた。
普段下ろしている髪は項で結い、傍らには曼珠沙華が咲いている。
出店の提灯に照らされ、オレンジ色はエメラルドグリーンに良く映えた。
醤は、言葉が見つからず、別の意味で褒める事が出来なくなった。

開いた口が塞がらない醤に、甘太はそっと耳打ちした。

「なー。お前、いつの間に波花と仲良くなったん? 泡瀬美園一筋じゃなかった?」
「ちっげーよ馬鹿! こないだ、ちょっと……あー説明面倒くせえ!」
「純愛(笑」
「ちげーっつってんだろ!」
「……ヒトの前でコソコソ話はやめてくれない? 感じ悪い」

腕を組んだ梓音に言われ、ほぼ反射的に、醤は食って掛かった。

「テメエが如何に危険な女か佐藤に教えてやってたんだよ!!」
「え、違くね?」
「佐藤ォォォウ!?」
「あら、ショウさん! こんばんは!」

突然の裏切りで甘太の方へと顔を向けるや否や、声を掛けられた醤は振り向いた。
首にカメラをぶら下げたマリアが、嬉しそうに手を振って駆け寄る。

「おー、マリア」
「? 見た事ねーメダロット」
「……あっ! 運動会でメダロードレースした方々ですよね!? 初めまして!
 しぃちゃ……波花梓音ちゃんのメダロットの、マリアと申します! この機体は、NASβ型・クリムゾンナース!
 梓音ちゃんが作ったんですよぉ♪」

初見で首を傾げる甘太の前で、マリアは自慢げに言うと、その場でくるりと回って見せた。
話を聞いていたハリップが、輝かせた目を梓音に向ける

「えっ!? スゴイ! メダロット作れるの!?」
「えっ、と……まあ、ちょっと……?」
「わー!!」

ハリップは、“自分達の体を作る事が出来る人間”に初めて出会った喜びからか、梓音の手を両手で掴み、そのまま上下に振る。
その様子を、醤はまじまじと見ていたが、不意に、どうして良いか分からなくなった梓音に困った表情を向けられ、正直……僅かに、本当に僅かに、定規で計れば1センチメートルくらい何かを動かされた。
しかし、ついいつもの癖で、挑発するようにニヤけてしまい、梓音からは口パクで『禿げろ』と言われ、舌打ちで返して終わる……と、思いきや。

「スゴイスゴイ! こんなに小っちゃいのに!」
「あ?」
「おおーっとぉう!?」

突如、発せられた低い声に、醤は反射的にハリップの手を振り解かせ、梓音とハリップの間に割って入った。
地雷を踏み抜いた事を自覚していないハリップが、醤の背中に向かって声を投げ掛ける。

「何ナニ!? ショウいきなりどうしたの!? あっ、ヤキモチ!?」
「『あっ』じゃねーよ!! いいから早く離れとけ!!」
「どけ村崎。お前から分解されたいの?」
「初対面のクラスメートのメダロットは流石に我慢しろ!」
「ごめん波花さん! 駄目だろハリップ、人が嫌になるような事言ったら!」
「えー!? それって『小っちゃい』の方!? 『ヤキモチ』の方!?」
「もう喋んなオレが死ぬううううう!!」

目が据わり、いつの間にやらドライバーを握る梓音を前に、醤は声を張り上げる。
翠が、懸命にハリップに言い聞かせようとしているが……火にガソリンを注がれて終わる事を、何となく醤は察した。
一部始終を見ていたマリアが、頬を膨らませて口を開く。

「もーっ!! しぃちゃんに酷いコト言わないでください! あんまりです! いくら、しぃちゃんのバストがゼロだからって!!」
「誰 が い つ 胸の話をしたあああああああ!!」

思わぬ方向から火に爆弾を投げ入れられ、醤が吼えたその時であった。

「……おや、ショウであったか」

切迫した状況下で、呑気な声を聞き、活路を見つけた醤は、縋る気持ちで顔を向ける。

「! ジジ、…………イ」
「しかし、息災で何よりなのだよ。不本意ながら、出店を見て回っていた時に“知らせ”が来ていだだだだだ」
「っほー……? こんな完全フル装備が『不本意』だあああ?」

“ひょっとこ”の面を右上につけ、メダロット用のハッピを着込み、右手にはヨーヨーを下げ、左腕には西瓜柄のビーチボールを抱えたカグラの頭を、醤は両サイドから圧縮するかの如く手に力を込めた。

「てんめえ……散々『悲劇』だの『無様』だの騒いでおいて、よりによってヒトが大変な時に思い切りエンジョイしやがってええ……!」
「自業自得アタック!!」
「凄く頭が痛い!?」

後ろからドライバーの柄で殴られ、醤は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
梓音は心配そうに、カグラの顔を覗き込む。

「おじいちゃん! 大丈夫!?」
「いたた……大事無いぞ、シオン……と? 今日は、浴衣なのだな」
「っうん……その、どうかな……?」
「ああ、とても似合っておるぞ」
「ぁ、ありがと……浴衣、着て来て良かった」

今までの不機嫌な表情とうって変わり、ふにゃりと笑う梓音に、醤はブチ切れ、有りっ丈の声を上げる。

「おいクォラ百面相オ!!」
「……まだ生きてたの? おじいちゃんを虐待するなんて、生きる価値無いのに」
「なぁ~にが『浴衣、着て来て良かった(裏声』だ!! ハナからジジイに見て貰うために着て来たんじゃねーか!」
「なっ、バ、バカじゃないの!? そんっ、おじいちゃんが来る、なんて、ワタシ……!」
「そうですよ! しぃちゃんは知らなかったんです! その証拠に、『おじいちゃん、来るかなぁ……?』って言いながら着替えt」

醤に指摘され、図星のためか、梓音は珍しく慌てふためく。
マリアのフォローになってないフォローに、梓音はメダロッチを押し、マーメイドメダルは強制排出された。
即座に、鬼の首を取ったかの如く、醤は勢いよく梓音を指差す。

「そら見ろ確信犯じゃねーk」
「そうか~。そうであるなら、ワシは果報者だなぁ」

空気の中に漂う怒りや恥を、カグラののんびりとした声が洗い流す。
醤は、ほぼ自分と同じタイミングでカグラに向けた顔を見ると、予想通り、口元は手で隠れ、細める目は蕩けきっていた。

「ほんっと好き……!」
「おお! ワシもシオンが好きだぞ」
「だァから態度の違いいいいいいい!!」

浴衣が汚れる事も構わず、梓音は地に膝をつき、梓音は覆い被さるようにカグラを抱き締めた。
カグラは梓音の頭を優しく撫でていだが、醤の言葉を聞き、僅かに眉間に皺を寄せ、苦言を漏らす。

「ショウよ。可愛いなら『可愛い』と、言わねば伝わらぬぞ?」
「え? 村崎が? きっしょ」
「1ミリたりとも思ってねーよ花火と一緒に打ち上げられて散れバカ共オオオオオ!!」

真っ赤な顔で息継ぎもせず、醤が言い切ったその時であった。
出店の向こうから、祭囃子に混じってワッ、と歓声が上がったのを、一同は耳にする。

「何だー? マジで花火でも始まった?」
「いや、花火は上がってないな……出し物なんてやってたっけ?」
「ああー、もしかしてロボトルかもしれやせんぜ」

思い出したかのようにジーがチラシを広げ、醤達に見せた。
醤は受け取り、でかでかと書かれた文字を見ると、顔を顰めて読み上げる。

「『最強メダロット決定戦』ん?」
「名前は大袈裟だけど、要はロボトル大会か」
「ねー! 早く行こうよロボトル!」

今か今かと駆け出さんばかりに、ハリップは足を動かす。
急かされた醤は、顰めっ面のままハリップに返答した。

「まだ出るとも見るとも決めてねーだろ」
「えー!? だって、もうカグラ行っちゃったよ!?」
「早ぇよおおおおお!?」

何も言わずに消えたカグラを、只ならぬ速さで追い掛けながら、『あ、コレいつもと逆だわ』と、醤は何処か冷静な頭で思ったのであった。





ようやく人だかりに到達した醤は、辺りを見回すと、お目当ての人物……もといメダロットは、背伸びしながら人だかりの中心を見ている。
その丸い目は、醤の存在に気付き、ついっと動いた。

「……おお、来たか」
「『来たか』じゃねーよ!! せめて何か1言言ってけジジイ!!」
「すまぬな、居ても立ってもいられなかったのだよ!」
「目ぇキラッキラだなオイ!!」

今日という1日で、カグラがどれだけお祭り好きなのか、醤に強く刻み込まれた。
普段は傍観者である事が多いこの老人が、子どもにしか見えない。
花見然り、運動会然り。
きっと、大勢でワイワイ騒ぐのが心底好きなのだ。
少し前までの孤独の反動だろうか、と、もしかしたら醤は思ったかもしれない。
……“疲れてなければ”、が大前提であるが。
もう良い。もう良かった。十二分に分かりましたとも。
ストッパーであるはずのカグラに振り回された醤は、家を出る前の自分は認識が甘かったと、そっと溜め息をついた。

「おーおー、白熱してんなぁ」
「波花さんは? 出てみない?」
「良い。……暫く、マリアを黙らせときたい」
「そ、そうなんだ……?」

視線を正面のロボトルに向けたまま言い放った梓音に、翠はそれ以上何も聞けなかった。
アイツら結構喋るなあ、と醤が横目で見ると、次の瞬間、轟音と共に宙に舞ったメダロットに、醤の目は奪われる。
一際大きな歓声の中、聞き慣れた声を耳にした。

『勝者!! ソウスケ選手ゥ!!』
「あ、マーガリン」
『おー、少年! 元気ぃー?』

今しがた、ジャッジを下したレフェリー・Ms.マーガリンは、醤に気付くと、小さく手を上げる。
謎のフランク感を疑問に思ったが、それは置いとき、醤は言葉を続けた。

「そーいや、いつも一緒にいるのは? もう捕まったのか?」
『アレー? 珍しくちゃんと仕事してたよー? ホラ……』

Ms.マーガリンが指差す方向へ目を向けると、其処には確かにMr.ジャムの姿があった。
……歓声とは程遠い、悲鳴付きで。

「キャアアアアアア!? 追って来ないでください!!」
「ホラ!! 着物肌蹴ちゃったんだろう!? ボク直すの超上手いから!! 実家、着付け師だから!!
 なぁ~んにも心配は要らないよレディ!? ボクに全てを委ねてえええええ!!」
「……」
『先輩は目を離すとコレなんだからー』

Ms.マーガリンは、慣れた手付きで“110”と押すと、間もなくセレクト隊員2人に両脇を固められ、Mr.ジャムは連行されていった。
通報を終えると、言葉を失っている醤に、少し頬を染めながら言う。

『ホラ、先輩って“通報されるのが仕事”みたいなトコあるでしょ?』
「それどこにも照れるポイント無くね!?」

「何だア!? 最っ高の夜に、随分懐かしい奴がいるじゃアねえか!!」

突如、空間をビリビリと震わせた声に、醤は思わず振り返った。
見た先には、肩にブレザーを掛けて腕を組み、仁王立ちしている男が1人。
何処か見覚えがある顔に、醤は記憶を辿るが、答えを出す前に、男は力強く笑った。

「よお!! ショーガク以来じゃねエか村崎イ!!」
「おっ、まえ……古戸?」

醤の口から出た名前に、甘太と翠は顔を見合わせ、首を傾げた。
事態が呑み込めていない醤に対し、小さく笑い、古戸宗輔(フルドソウスケ)は口を開く。

「思い出話もしてえトコだが、オメエに聞きてエのはたったひとぉつ!! “俺はメダロッターになった”ぜ!!」

思い出した記憶の量が増えるにつれ、醤は目を見開く。

「“オメエは今メダロッターか”!? 村崎醤オ!!」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
宗「しっかし懐かしいなア村崎イ!! オメエとは、メダロットから、目玉焼きに何かけっかまで、くっだらねエ事で喧嘩したモンよお!!
  いつから眼鏡掛けてんだア? オメエのこった、勉強じゃあねえなア? “週間メダロット”噛り付いて見過ぎたんだろ!!
  はーっはっはア!!」
醤「うるせぇ!! 余計なお世話だ!」
翠「あれ、小学校一緒って事は、『村崎失踪事件』の事も知ってるんじゃ……?」
宗「懐かしいなオイ!! あれ以来、門限破りの村崎が時間キッカリに……」
醤「だあああああ!! 次回! 『六角形の神サマ』第拾柒話! 『絶対不敗熱血漢(後篇)』!」
甘「ちなみに、目玉焼きにかけんのは?」
醤・宗「醤油(ソース)に決まってんだろーがあああああ!!」

六角形の神サマ 第拾柒話/絶対不敗熱血漢(後篇) ( No.17 )
   
日時: 2018/01/25 21:33
名前: 海月

「よっしゃあ!! オレの勝ち~!」
「あっはっは!! 村崎はすげーなア!! メダロットの事になると何でも知ってやがる!!」
「『メダロットの事になると』は余計だ!」

御守小学校の学舎にて。
放課後の教室で、幼き日の村崎醤(ムラサキショウ)は、友人と共に“メダロットの知識比べ”をしていた。
結果は、彼等が話すように、醤の勝ち。
醤は、友人からの1言に顰めっ面をしたが、勝利の余韻から、すぐ笑顔に戻る。

「やっぱ、オレの方が“メダロット好き”って事だな!」
「あー!? 知ってんのと好きなのは別の話だろオ!?」
「好きだからたくさん知ってんだよー!」

醤の物言いを聞き逃せまいと、負けても笑っていた友人は声を荒げた。
醤は、友人もメダロットが大好きである事を知っている。
そんな彼に勝てた事が嬉しく、醤は反論をひらりと躱した。
しかし、納得出来ない友人は、更に言い返す。

「知ってるだけじゃ、“好き”って事にはならねエ!!」
「じゃあ何で決めんだよー?」
「うーん……そりゃ、よ……っロボトルしかねエだろ!?」
「……お前、それは言わない約束だろぉ……?」

言い放たれた答えに、醤はげんなりと脱力する。

理由は割愛するが、2人の少年は、メダロットを持っていなかった。
出来るのならば、そりゃあ醤だってロボトルがしたい。
しかし、出来ないのだから、その提案は、互いを虚しくさせるだけである。

「っあああああああああ!! メダロット欲しいなオイ!!」

悔しさから、友人は大きく叫んで、床に大の字で仰向けになった。
顔には、もう笑顔が戻っている。

「……ロボトルで、お前に勝ってよオ!! 他の奴にも勝ってよオ!! 俺が1番になんだ!!
 そんで、“俺が1番メダロットが好きなんだ”って、知らしめてやんだよ!!」
「……お前、ほんっとブレねーなぁ……」

嬉しさと呆れが入り混じり、醤は小さく笑った。
醤の言葉に、友人・古戸宗輔(フルドソウスケ)はニッ、と笑う。

「絶対メダロッターになろうぜ村崎イ!! そんで俺とロボトルしろ!!」
「わーったよ」

それは、子ども同士の他愛のない約束であったが、同時に男同士の堅い約束でもあった。
醤は、知る由も無かったのである。
母・ゆかりに、高2になるまでメダロットの入手を許されなかった事も。

宗輔が、遠方に転校する事も。





『六角形の神サマ』 第拾柒話/絶対不敗熱血漢(後篇)





「お前、いつの間にコッチに戻って来たんだ……?」
「あー!? 去年のー……秋ぐれーかア!? それより村崎、俺の質問の答えがまだだぜエ!? オメエはメダロッターなのか!?
 そうじゃアねえのか!? 今、大事なのは、それ“だけ”だろオ!?」

『だけ』な訳がなかった。あってたまるか。
醤はすかさず反論しようとしたが、突如聞こえた第3者の声により遮られる。

「ソイツは“愚問”ってヤツだぜ、ブラザー? メダロッチ着けてんだ、ソチラさんにも相棒がいるんだろうよ」

風切音を奏でながら、発言したワイアーニンジャは、自らの刃のオイルを振り払った。
後ろから近付いてきたワイアーニンジャに口角を上げると、宗輔は肩を組む。

「こりゃア1本取られちまった!! 紹介するわ村崎!! コイツ、俺の最強の相棒・ジェームズ!!
 ちょーっとスカしてっけど、カッケーだろオ!?」
「オイオイ、そのこっ恥ずかしい紹介はよしてくれといつも言ってるだろ? クールの欠片も無いぜ」

突っ込み所が多過ぎたため、醤は絶句した。
成程。この2人を前にすると、此方の言いたい事・聞きたい事が全てどうでも良くなっていく。
唖然とする醤に、宗輔は視線を戻し、口を開いた。

「……で? オメエの相棒は?」
「……オレの相棒、は……」
「ワシなのだよ」

醤が答える前に、いつの間にハッピやら何やらを外したカグラが答え、醤の一歩前に出る。

「初にお目に掛かる。ワシはカグラ。以後、宜しく頼むぞ。ソウスケ、ゼー坊」
「「ゼー坊!?」」
「がっはっはっは!! こりゃ面白エ!! オメエの相棒、ジイさんか!?」
「いや他にもっと気にする所あったろ!?」

カグラの呼び名に驚いたあまり、初対面である筈の醤とジェームズの声が重なった。
腹を抱える宗輔に醤が突っ込む中、ジェームズは小さく手を上げてカグラに問う。

「ジ、ジイさん……あまり確認したくはねぇが、『ゼー坊』っつーのは……?」
「お前のアダ名なのだよ。『ゼームズ』なのであろう?」
「……カグラ、」
「ん?」

恐る恐るといった感じに、醤は口を開く。

「今から、オレの言った事復唱しろ」
「心得た」
「ジェームズ」
「ゼームズ」
「ちょうちょ」
「蝶々?」
「おっ。……CD」
「シーデー?」
「……スウィーティー」
「スイーチー?」
「……小文字に疎いおじいちゃん尊い……!」
「オメーは黙ってろ!!」

どうやら、このおじいちゃん()は外来語の小文字に弱いらしい。
一連の復唱テストを見た波花梓音(ナミハナシオン)が口元を押さえて悶えていたのを見て、醤は声を荒げた。
視界の隅では、ジェームズが『クールの欠片も無い』と若干凹んでいる。
きっと、これから先、出会い頭に『ゼー坊』と呼ばれるのだろう。御愁傷様である。

「はっはっはア!! いやア~、笑った笑った。面白エのは変わんねエな村崎イ!!」
「別にオレは芸人な訳でも漫才見せてる訳でもねぇよ!!」
「まっ、気にすんな!! ジェームズは気にするだろオがよ!! 重要なのは呼び名じゃねエ!!
 ソコんトコは俺とオメエ、ガキん頃から変わらないハズだぜエ!?」

言うや否や、宗輔はメダロッチを掲げた。

「どっちがロボトル強エのか……そうだろオ、村崎イ!?」

圧倒。
自分の相棒を問われた時といい、醤は気迫に押されていた。
メダロッターになっていた、古戸宗輔。
幼き日の彼の“誓い”は、何処まで完成されているのだろう?
醤の中で、彼が発した『最強』の2文字が、徐々に、しかし確実に肥大していく。

「ショウよ。ソウスケの言う通り、きっと単純な事なのだよ」

現実に引き戻した声の方へと目を向けると、緑の丸い光とかち合った。
穏やかな声は続く。

「どちらが強いのか比べるために、ロボトルをする。気負う必要は無い、いつも通りなのだよ」

言い終えると、自分から目を離し、カグラは前へ向いた。
その背中は普段と何ら変わりは無く、醤は安堵し、覚悟を決めて、前を見た。





『ハァーイ♪ 審判を務めますワタクシ・Ms.マーガリンが、本大会のルールを改めて説明します!
 本大会は、勝ち抜き戦! 至ってシンプル! 現在勝ち抜いている“王者”を、“挑戦者”がロボトルで倒せば、新たな“王者”となれます!
 まあ、ずっと“挑戦者”を相手にするのは正直しんどいでしょうから、10人勝ち抜けば“真の王者”とし、本大会優勝者とします!
 現在! ソウスケ選手は8連勝中です! さあさあ、王座の椅子は守られるのか!?
 それとも、“挑戦者”のショウ選手が“王者”となるのか!? 大いに盛り上げちゃってくださいねー♪』

Ms.マーガリンは、マイクを持っていない方の手を突き上げ、足をぴょこりと折り曲げた。
陽気な審判とは裏腹に、緊張した空気がフィールドを支配する。

「へっへ、嬉しいねエ、嬉しいなアおい……!! 楽しもうぜ、“挑戦者”?」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇ。ロボトルが終われば、オレが“王者”になってっかもしんないぜ……!?」
「あーあ、クールじゃないねェ……お手柔らかに頼むぜ、ジイさん?」
「はっはっは、聞けぬ相談だなぁ。ショウに怒られてしまう故」
「ハハッ、そりゃ残念だ」

醤と宗輔が睨み合い、カグラとジェームズが笑いあう中、お馴染みの号令が響き渡る。

『合意とみてよろしいかなー!? それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令が掛かるや否や、醤はメダロッチを構え、指示を出す。
カグラは、即座にジェームズから2、3歩距離をとった。

「カグラ! サブマシンガン!」
「ジェームズ!! うらけん!!」
「心得、……!?」

サブマシンガンを構えたカグラは、目を見開く。
狙うべき標的は、既に目の前から消えていた。
一瞬たりとも、決してジェームズから目を離してはいない。
しかし、カグラにはジェームズが如何様に消えたのか、全く思い出す事が出来なかった。

「はっはア、遅エ!!」
「ぐあっ!?」
「カグラ!!」
『おおーっとぉ!! またもや、先制攻撃はソウスケ選手! 何時の間に後ろに回り込んだのでしょうか!? 目で追えません!』

カグラが後ろへ振り向くと同時に、右腕関節部の部品が吹き飛んだ。
ジェームズは、左腕を振り上げたまま、呑気に言葉を並べる。

「惜しいねぇ。後1歩遅けりゃ、左腕を貰えたんだが」
『右腕パーツ、ダメージポイント42。可動部ニ異常発生』
「っく……!」
「だよねぇ。左腕は壊れなかったんだから、使うよねぇ」
『カグラの反撃敵わぁず! ジェームズ、木の葉の如く回避ー! これがジャパニーズ・ニンジャの実力かー!?』

カグラはガトリングを放つが、ジェームズは何て事無く、後ろに跳ねながら避けていく。
同じく目を丸くし、言葉を失くしていた醤に対し、宗輔は素っ頓狂な声を上げる。

「何だア、オメエもかア~!?」
「は!?」
「多いんだよなア~! 俺らといざ戦い始めると、キョトン、ってするヤツ! 指示出さねエと、1番困んのはジイさんだぜエ!?
 ま、俺らは思う存分動き回るけどなア!! ジェームズ!! ざんばとう!!」
「っ好き勝手ばっか、させるかよ!! カグラ!! リボルバー!!」

直後、乾いた音が地面を打つ。
醤が転がってきた“黒い筒”に目を向けると、よく見覚えがあった。
リボルバーの、発射口である。

「……!」
『リボルバーの発射口が斬り落とされたぞー!? これでは、射撃本来の“狙い撃ち”が厳しい所!』

確かに撃たれたライフルは、発射口を失い、あらぬ方向へと飛ぶ。
ジェームズは首を傾げ、弾丸をかわした。

『右腕パーツ、ダメージポイント68。照準不一致』





「マジかよ、あの2人が……」

ギャラリーで見ていた尾根翠(ビネスイ)は、思わず息を飲む。
その隣りで、佐藤甘太(サトウカンタ)は、ぽつりと言葉を零した。

「……仕方ねーよ」
「佐藤、何が……!」
「だって、そーだろ? あの2人、組んでまだ2か月くらいだぞ?
 相手がどれぐらい経験あんのかも、おれは全部見た訳じゃねーだろうから、2人のハッキリした強さもわかんねーけど……」

甘太は、焼き鳥を飲み込み、一息つく。

「“この2か月、たまたまこうなる事が無かった”だけだ。……ロボトルじゃ、珍しくねーよ」

言い終えると、甘太は静かに目を伏せた。
甘太の言い分を理解はするが、完全に納得は出来ず、翠は口を開く。

「それでもさ……!」
「ショックですよねー。オラも、御2方が追い詰められんのは初めて見るもんで」
「ジー……」

まるで、自分の気持ちを代弁したかのようなジーの言葉に、翠は何も言えなくなってしまった。
……否。

「カグラの旦那、屋台で食べ過ぎちまったんでしょうかね……?」
「……」
「……このタイミングでそれ言うお前、嫌いじゃないよ」

ジーの考えに呆気に取られ、絶句した方が正しかった。
カグラの名誉のために記すが、彼はメダロットである故、人間の食物は口に出来ず、オイルも1滴も飲んでいない。
長らくコンビを組んでる甘太は、慣れっこのためか、ロボトルに目を向けたまま告げる。
不意に、翠が服の裾を引っ張る方へ視線を移すと、ハリップが顔を青ざめさせていた。

「……あ……」
「ハリップ! どうした!? 具合悪いのか!?」
「ダメ、ダメだカグラ……」

翠がハリップの両肩を掴むと、ハリップは声を震わせ、言葉を続ける。

「あのメダロット、消えてるんじゃない……。どんなに離れてても、1、2歩でカグラのいる所まで行けちゃうんだ……!
 速過ぎるよ……多分、オレっちよりももっと……カグラは、追い付けるの……!?」
「……ハリップ……」

質問に答える事が出来ない代わりに、翠は、ハリップの頭を優しく撫でた。

「……“敵影感知”」
「え?」
「別名、“忍び込み格闘”。……ワイアーニンジャの、頭パーツ」

口を閉ざし、ロボトルを見ていた梓音が、そう呟いた。
2人と2体は、梓音の方を見ると、僅かに眉間に皺が寄っていた。

「敵影感知のパーツを付けると、いくら間合いを空けようと関係無くなる。瞬間移動って程じゃないけど、相手の懐に容易に入り、攻撃が出来る。
 格闘攻撃でもね。つまり、フィールド上全てが、奴の射程距離範囲内ってコト。勿論、熟練度に大きく左右はされるけど……」
「じゃあ、あのワイアーニンジャの熟練度は……」
「……わかるでしょ?」

梓音は、翠に目をやり、吐き捨てた。

「最悪よ」





「オイオイオイオイ村崎イ!! ジェームズ無傷だぜエ!?」
「るっせえ!! 言われなくてもわーってるよ!!」

つまらなさそうにボヤく宗輔に、醤は喰って掛かる。
ジェームズに目を向けたまま、カグラは苦言を零した。

「ショウ、落ち着かんか……」
「アンタは、もうちょっと慌てた方が良いと思うぜ?」
「!」

突き出された刃を、カグラは紙一重でかわす。

『おっと!! カグラも負けじと、斬撃をかわします! 今日、ジェームズの攻撃を回避したのは、初めてではないでしょうか!?』
「……心配かたじけない。いやはや、ゼー坊は優しいなあ」
「それこそ悪いね。オレが心配すんのは、レディと、ブラザーのオツムだけさ。コッチとしても、どうせ戦るなら楽しみたいんで、ね!」
「ジェームズ!! うらけん!!」
「カグラ!! サブマシンガン!!」

飛び交う指示に、各々が左腕を構える。
おどけたように、ジェームズは問い掛けた。

「さあ、肩を貰おうか! 今度は右かい!? 左かい!?」
「っ左だ!」

カグラがリボルバーを向けたのと、ジェームズが動いたのは同時であった。
刃は、カグラの右肩を貫いた。

「う……っ!」
「残念。読みは良いが、詰めが甘いぜ……ジイさん!」

ジェームズは刃を押し進め、そのままカグラを地面に叩きつけた。

「がっは!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント91。脚部パーツ、ダメージポイント7。頭パーツ、ダメージポイント15』
『ジェームズの強みは、スピードだけでは無いようです! 怪力により、カグラのボディが地面に強打ー!』
「カグラ!!」

みしり、と、カグラの右腕が軋む。
小さく呻きながら、目を細めるカグラに、ジェームズは言葉を放つ。

「……今まで、行動パーツばっか狙ってんのには気付いたんだろう? そりゃそうさ、効率が良いからね。
 それで、左腕が狙われてると踏んで、右腕でオレを狙ったんだろう? ああ、狙ってたさ。アンタが、右腕を使うまでは」
「……」
「オレが狙ってたのは、“本当の行動パーツ”さ。痛い思いは御免なんでね」

そう言うと、ジェームズは、空いている右肩を竦めた。
カグラは、は、と笑い声を零す。

「それなら、良いな。お前は強いから、無傷で勝つ事も少なくは無いのであろう?」
「御名答。……悪い悪い、ちょっとした自慢さ。だから余計だね、ダメージが怖いってのは」
「ふむ、一理あるな。だが、」

カグラは、細めていた目を開き、言葉を続けた。

「今回は諦めろ」

カグラの左手が、自身を貫く刃を捕らえた刹那。
爆風がフィールドから溢れ、対峙したメダロットを除き、全員が腕で顔を覆った。

『カグラのミサイル炸裂ゥゥゥ!! 形勢逆転なるかー!?』
「はーっはっはっはア!! 面白エ!! 面白エな!! これだからロボトルはやめられねエ!!」
「バ……ッカやろ……!? あんだけ『至近距離でミサイル撃つな』っつったろクソジジイ!!」

楽しくて仕方が無いといった様子で大笑いする宗輔とは対照的に、醤は心配から顔を強張らせ、声を張り上げる。
やがて、爆風が薄れ、ゆらり、とシルエットが浮かぶ。

『頭パーツ、ダメージポイント46。脚部パーツ、ダメージポイント22。左腕パーツ、ダメージポイント13。右腕パーツ、ダメージポイント100。
 機能停止』
「……説教は、後でゆっくり聞くとしよう」

低く苦笑しながら、開かれた緑の光は、宗輔を映す。

「まずは一撃なのだよ」

ハッキリとした、宣戦布告であった。
宗輔は、笑顔のまま俯く。
そんな中、ジェームズが、左腕を押さえながら顔を出す。

『今大会で、初めてダメージを受けたジェームズ!! しかし、カグラのダメージも計り知れません!!』
「……ったく、枯れてると思いきや、意外と大胆なジイさんだ。クールじゃないねぇ。……まぁ、それはオレもか」
「……ジェームズ、左腕は?」
「機能停止してないんだ。上々さ、ブラザー」
「ああ、笑いが止まんねエくらい上々だ……!」

宗輔は、小さく、笑い声を零す。

「『まずは』だって? ……だなア、そうじゃなきゃつまんねエ。だがよオ……」

白い歯を剥き出しにして笑う宗輔が、顔を上げた。
勢いよく、ジェームズを指差す。

「残念!! 本日、最初で最後だぜエ!? ジェームズ!! オメエの“銃”を見せてやれエエ!!」

宗輔が叫ぶと、ジェームズは音を立てず、カグラとの距離を一気に詰めた。
構えた両腕の刃が、光を受け、強く光る。

「アンタは、どれぐらいもつのかな?」
「……っ」
『おおーっと!! 先程、会場を震撼させた、“アレ”が出るのかー!?』
「なっ、なんっ……!? カグラ、避けるか防御しろ!!」

Ms.マーガリンの実況を聞き、醤は咄嗟に指示を出す。
宗輔は、メダロッチに声を叩きつけた。

「喰らいなア!! N・I・Nマシンガン!!」

直後、幾千本、幾万本という刃が、カグラを襲った。
否、襲うように見えた。
頭では理解している、“本当は2本である”と。
しかし、斬撃は、まるで本物のマシンガンの如く繰り出され、“迅速”という言葉がちっぽけに聞こえるような猛攻であった。
カグラは、指示を守り、左腕で顔を覆い、徐々に後退する。

「っぐ……!!」

反撃は許されないが、反撃しなければ勝機は無い。
ジェームズの隙を伺いながら、カグラはまた1歩後退……しようとした。

「あ」

カグラから零れたのは、“言葉”と呼ぶ事が出来るかも怪しい程、短過ぎる言葉。
オチツカーの踵が、地面からずれる。
バランスを崩したのは、ほんの一瞬の筈であった。
醤は、思わず名を呼びながら手を伸ばす。

「カ、」

ガツン。

音が止まったのは、鈍い貫通音が響いた後だった。
少しして、オイルが滴る音が規則的に鳴り、黒い水たまりを作っていく。
だらり、とカグラの左腕は崩れ落ちたが、体も崩れ落ちる事は無かった。
前から後ろにかけて一直線に、頭を貫くジェームズの刃が、辛うじて支えていたからである。

湧き上がる歓声よりも、醤は、メダルが転がる音を近くに感じた。
瞬き1つ、出来なかった。


『勝者!! ソウスケ選手ゥ!!』



メダロッチ更新中……――
・リボルバー(KBT-12。うつ攻撃:ライフル)喪失




続ク.






◎次回予告
醤「ケテイオケテイオ」
梓「ケテイオーバルボリ……」
醤「ロダンテッモーバルボリヨセコヨ。ケケケケケケケンャジリツマャジリツマ!」
カ「えー……次回『六角形の神サマ』第拾捌話、『右腕狩猟祭(前篇)』。
  はて、ショウとシオンがずっとあの調子なんだが、何があったのだろうなぁ? 見当がつかん」
ジ「そいつァ素で言ってんのか、ジイさん」
宗「明るく元気にリボルバー狩りだぜエエエエエ!!」
醤・梓「「お前が言うな!!」」

六角形の神サマ 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇) ( No.18 )
   
日時: 2018/01/21 11:28
名前: 海月

「ただいまー……」
「おかえりなs暗ッ!?」

『鎖界神社祭』からの帰宅後。
村崎醤(ムラサキショウ)は、傍らにカグラの体を抱え、まるで見えない何かが圧し掛かっているように、暗い面持ちで、背中を丸めて階段を上っていく。
リビングから顔を出した母・ゆかりは、尋常じゃない息子の様子に声を上げた。

「お祭りにそこまで凹む要素ある!? 焼き鳥売切れてたの!? それともフライドポテト!?」
「何でもな……食い物ばっかじゃねぇか」

かろうじてそう突っ込むと、醤は自室の戸を閉め、壁にもたれて座り込んだ。

「あーあ……メダル賭けてた訳でも、何でも無ぇのにな」

失ったのはメダルではなく、パーツだというのに、醤は、思いの外落ち込んでいる自分自身に驚いていた。
ティンペットの右腕を見て溜め息をついた後、ポケットからカブトメダルを取り出し、語り掛ける。

「……なぁ、アンタはどう思ってる?」

ロボトルでの敗北後。
醤は、メダロッチにカグラのメダルを入れる事が出来なかった。

カグラからの拒絶が、恐ろしかったのだ。

自分を、怒るだろうか?
――普段の彼からは、あまり想像が出来ない。

自分を、軽蔑するだろうか?
――これも、多分しない。

自分に、落胆するだろうか?
――言葉は無くとも、内心まではわからない。

カグラは強い。
元々、ボロボロな機体を引き摺り、この町を守ってきたのだ。
……対峙したタバスコが弱かったのも、一理あるのかもしれないが。
今は、中古品ではあるが、欠陥のない機体を使っている。
“鬼に金棒”と言えば、『大袈裟だ』と他人に笑われるかもしれないが、醤はそう信じていた。
その足を引っ張ってしまったのは、紛れも無く自分の指示だ。
醤は、どんな顔をして会えば良いのか、わからなくなった。

しかし、いつまでもこのままでいる訳にはいかない。
覚悟を決めて一度頷いた後、醤はメダルを機体に装着する。

すると、何かを読み込む音と同時に、カグラの傷はみるみる修復されていった。
額の穴も、綺麗に塞がっていく。
やがて、指先がギシリと動き、頭部には双対の光が灯る。
起動したカグラは、瞬きした後、ティンペットの腕で、自分の額に触れる。

「カ、カグラ……?」

醤が恐る恐る名を呼ぶと、カグラは手包みを打った。

「成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな」





『六角形の神サマ』 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇)





「いらっしゃいませ」

日曜日。佐藤商店にて。
醤は、般若のような形相で、扉から顔を見せた客……もとい、友人である尾根翠(ビネスイ)を出迎えた。

「ごゆっくりどうぞ」
「ご、ご丁寧にどうも……」
「はよー。ごめんなー、尾根。おいバイト、その確実に人殺してきたような顔やめろっつってんだろ」

苦笑する翠に対し、醤の雇い主である佐藤甘太(サトウカンタ)は、雑誌を丸め、メガホンのように使った。
言わずもがな、商品だ。
『バイト』と呼ばれた醤は、目だけを甘太に向け、低い声で言い放つ。

「すんません、自分不器用なんで……」
「その台詞言えば、何でも許されると思うなよー。尾根以外の客が来たらどーすんだ、速攻逃げられるぞ」
「俺も怖いんだけどなー……」

乾いた笑いを零した後、翠は醤に尋ねた。

「どうしたんだよ、村崎? そりゃ、負けたら悔しいけどさ」
「そっちじゃねえ!!」
「え?」





時は遡り、鎖界神社祭からの帰宅後。

『成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな』

起動直後、カグラはまるで、天気の話をするかの如くそう言った。
拍子の抜けた醤は、素っ頓狂な声を出す。

『は……?』
『そうか、負けたから右腕が無いのか。ショウ、力が及ばずすまなかった』

右手から視線を移し、醤の方へ向いたカグラは、普段の顔過ぎた。

――そんなの、まるで。まるで。

『はあああああああ!?』
『ど、どうした? よもや、至近距離でミサイルを使った事に怒って……?』
『そっちじゃねえよ!!』

突然の怒号に肩を揺らしたカグラに、声を張り上げ続ける。

『お前、悔しくねぇの!? オレら負けたんだぞ!?』
『うむ、故にすまぬ』
『謝るとかそーゆーんじゃねぇんだよ!! 『悔しくねぇのか』って聞いてんだ!!』
『そうは言われてもなぁ……』

カグラは顎に手を当てて考えた後、さらりと言い放った。

『全力を出して負けたのだ。何を悔いる必要がある?』

――負けようがどうでも良い、みたいな。





「あんのクソジジイイイイイイイイイイ!!! 悔いるわ!! 悔いまくりだわ!! だって負けたんだぞ!?
 悔しいに決まってんじゃねえか!!
 枯れてる枯れてるとは思ってたけど、ロボトルでも枯れてると思わなかったわもーこなあああゆきいいいいいい!!」
「そ、そんな事があったんだ……」

話を聞き終えた翠は、そう返答するのが精一杯だった。
醤は頭を抱え、荒れ狂う。

「あの“きょとん”とした感じがムカつくんだよ!! 『何、一人で熱くなってんの?』的な!!
 オレ一人で騒いで、馬鹿みたいじゃねえか!!」
「『みたい』じゃなくて、『馬鹿』なんだよ村崎は」
「あア!?」
「おい、佐藤。流石に今は……」

いつもの様に醤を揶揄おうとしているのかと思い、翠は甘太を嗜めようとする。
息をつき、甘太は言葉を続ける。

「だってそーじゃん? お前、大事な事忘れてんだよ」
「大事な事だア!?」

普段であるならば物怖じする所であるが、怒髪天に達しているため、醤は甘太に強気なまま聞き返す。
裏腹に、甘太はにこり、と微笑み返した。

「お前のKBT1式さー……どうやって手に入れたんだっけ?」

その言葉を聞いた瞬間、醤は青ざめた。
甘太の言わんとしている事が、わかってしまったからだ。

「なー、おれ訊いてんだけど?」
「ロ……ローンを、組みました」
「だよなー? 完済したっけ?」
「……して、ません」
「……村崎、おれな? ロボトルに負けて、借金中のパーツ取られるのは仕方無い事だと思うんだよ。
 けどさー、完済する気あんなら、すべき事あるよなー……?」

もはや、醤を支配したいたのは、“怒り”ではなく“恐怖”だった。
目の前の借金取りの方が、余程人を殺しそうに見える。
醤は、今の自分に課せられた義務を絞り出した。

「…………仕事、シマス」
「よろしい」

守銭奴の一部始終を見ていた翠は、苦笑いしながら甘太に言う。

「ホント、お前どんな時も容赦無いよな……」
「だろ?」
「褒めてないぞ……」

少々得意気になって返答する甘太に、翠がそう告げた所で、新たに来訪者が来た。

「いらっしゃいま……せ」

醤は、下げた頭を戻し、客の顔を確認した所で、笑顔をひきつらせて固まった。
何故なら、今無償に会いたくないランキングNo.2が、目の前にいたからである。

「な、波花……」
「……何。ワタシがココで買い物をする事に、文句でもあるの?」
「いえ、滅相も無いデス……」

醤がそう言うと、波花梓音(ナミハナシオン)は、小さく息をつき、組んだ腕を下ろして店の奥へと進んだ。
今日は、当然ながら浴衣姿ではなく、ブラウスにショートパンツ姿であり、密かにスカート派だと考えていた醤にとっては、ある意味意外な姿であった。
梓音は、甘太や翠の姿を目で捉えると、軽く会釈する。

「……どうも」
「どーもー」
「こんにちは、波花さん」
「…………昨日は、ありがとう」

梓音の口から零れた言葉に、醤は耳を疑い、思わず翠と梓音の方へと振り向いた。
言われた翠本人は、普段の笑顔を浮かべたまま、僅かに首を傾げる。

「え? 俺、お礼言われるような事してないよ?」
「…………いいの。言いたかった、だけだから」

梓音は、言うや否や、メダロットのコーナーへと足を向けた。
翠も、気にする様子無く、商品の物色を再開する。
今のやり取りに全く関与していない醤には、何故だかそれが面白くなく、だがしかし、梓音が怖いため、本人に当たる事が出来ずに、ハタキで商品に当たった。
醤の様子を見て、甘太が声を出さずにせせら笑ったが、これまた立場が弱いため、平手で頭を引っぱたく衝動を、何とか抑える。
梓音が商品を手に取り、口を開いた。

「……そういえば、」

醤は、次に続く言葉が『そういえば』の類ではない事を知っていた。
カグラと負けた今こそは、彼女愛用のドライバーで、片目を持って行かれるかもしれない。
恐々と醤が身構えていると、梓音は商品に目を落したまま、呟くように言葉を紡ぐ。

「……おじいちゃん、大丈夫なの?」
「え……?」
「パーツは? 結構なダメージだったけど、ちゃんと治ってる? 元気? 落ち込んで、ボーっとしたりしてない?」

怒号、もしくは攻撃を浴びせられると思っていた醤は、一瞬気後れした。
しかし、長考を要する事でもないため、すぐに答える。

「ああ……完全に治ってる。メンテでも、残ってる傷は無かった。それに……元気だよ」

いっそ腹立つくらいな、とは、敢えて口には出さなかった。
ただでさえも気分がどん底なのに、余計な事を言ってドライバーを喰らい、二番底に落ちたくない。
更に言えば、周りの予想に反し、カグラが元気である事を実感したくなかったのだ。
醤の返答を聞くと、梓音は安堵したかのように目を細めた。

「……そう」

梓音は、オイルを手に取ると、甘太が待つカウンターまで足を運ぶ。
オイルを台に置き、肩から下げた鞄から財布を取り出した。

「これください」
「まいどー」

甘太が慣れた様子でレジを打ち、商品にテープを貼っている間、梓音は独り言のように口を開いた。

「……リボルバー」

今あまり聞きたくない単語に、醤は顔を顰める。
威圧感を放ちながら、梓音に聞き返した。

「あ?」
「……今、おじいちゃんの右腕がどうなってるかさえ知らないワタシには、関係のない事だけど。
 なるべく早く、おじいちゃんにつけてあげて」
「……あざしたー。またの御来店をお待ちしてまーす」

会計を終えた事を知らせる甘太の義務的な声にオイルを持ち、梓音は、ようやく醤の方へ振り向いた。
醤が見据える中、言葉を続ける。

「おじいちゃんには、やっぱりリボルバーが似合うから」

ざわり、と醤の中で何かが沸き立つ。
いつになく穏やかな、梓音の声にも。
言われなくてもわかっている、言葉にも。
責められているように感じる、負けた自分自身にも。

「関係無ぇなら口挟むんじゃねぇよ!!」

店内に響いた怒号に、甘太、翠、そして梓音の目が見開かれる。
醤は、感情の赴くままに声を張り上げた。

「テメエに何がわかんだよ!? 負けた後のカグラの事も、オレの事も知らねぇくせにえっらそうに!! 何様だアァ!?
 何っだその態度!? 気ぃ遣ってるつもりか!? そんならハナから何も言うんじゃねぇ!!」
「村崎!! 波花さんに当たんなよ!!」

醤自身も、完全な八つ当たりである事を自覚している。
しかし、どうにも制御出来なかったのだ。
それでも、翠の言葉を受け、醤は舌打ちしてから押し黙った。

「……」

俯いた梓音が、無言のまま醤の正面まで近付いた。
醤は目を細め、乾いた笑いを零す。

「……どうした? ドライバーか? それとも殴んのか? 好きにしろよ」

いっそ、そうされた方が醤にとって楽だった。
それすらも見透かされたかのように、梓音の口がようやく動く。

「……今のお前には、殴る価値もない」

今度は、醤が目を見開く番だった。
低く、小さく、梓音は言葉を告げる。

「お前の気持ちだけなら、わかりたくない程よくわかる。ワタシも……お前に負けた時、死にたくなった」
「……!」

醤は、ロボトル直後の梓音の様子を思い出す。
それはもう、心底悔しがっていた。
もう少しで待ち焦がれたカグラを手に入れる事が出来たというのに、後1歩が及ばず、負けてしまったのだ。
呪詛のように何度も感情を口にした、彼女の拳を握る様は、今でも醤の脳裏で鮮明に浮かぶ。

「何、悲劇のヒーローぶってんの? お前だけが負けてる訳じゃないのよ、甘ったれんな」

それよりも、と付け加えた声は、少し震えていた。
梓音は、くしゃり、と自分の髪を握って乱す。

「こんなに、お前も腹立たしいのに……ワタシは、ワタシが1番許せない」

梓音の言葉の意味がわからず、醤は眉を下げる。
重々しく口を開き、梓音に尋ねた。

「……何でだよ? あのロボトルで……お前、何もしてねぇだろ?」

ぎり、と梓音から、奥歯を噛み締める音が聞こえた。
勢いよく顔を上げた梓音の目には、溢れんばかりの涙が浮かぶ。

「っおじいちゃんをあんな風に負かせたヤツに、ワタシが勝てるワケないじゃない!!」

梓音は、叩きつけるように言うと、涙を散らしながら店を出て行った。
消えるまで梓音の背中を目で追いかけていた醤は、ようやく気付かされた。

醤とカグラが、負けた時。
あの場で、梓音はリボルバーを奪還する事しか頭に無かったのだ。
しかし、自分の実力を考慮しない程、梓音は浅はかではない。
リボルバーの譲渡を、睨みつけながら見過ごした事だろう。

――それなのに、オレは。

負けたショックで、何も考えられなくなっていた。
だから、間接的に、梓音は“大事な事”を伝えようとしたと言うのに。

「!」

コツリ、と唐突に、醤は頭を小突かれた。
反射的にそちらへ目を向けると、目が合った翠は、ため息をつく。

「な、何でお前……」

あまり手を出す事が無い翠にしては珍しく、醤は頭を押さえながら問う。
翠は、穏やかに笑いながら答えた。

「……殴る価値が無い程とは思ってないから、“俺は”」

返答に喉を詰まらせた後、醤は、バツが悪そうに呟く。

「…………悪い」
「謝る相手が違うだろ」

唸り声を上げる醤とは対照的に、翠は笑い声を零す。
甘太は、間延びした声で醤を呼んだ。

「村崎ー、ほい」
「っと!」

甘太から投げられたものを受け取ると、それはミネラルウォーターだった。
頬杖をつき、甘太は口を開く。

「ちょっと休憩してこい」
「え、でもまだ時間……」
「訂正、頭冷やしてきて」

有無を言わさぬ甘太の言葉に、醤は口を結ぶ。
そして、ペットボトルを握り締めると頷いた。

「……休憩入ります」
「はいよー」

何処かふらつきながら店の奥へと進む醤に、甘太はひらひらと手を振った。
醤の姿が見えなくなると、甘太は口角を上げる。

「……青春してんねぇ。アイツら見てると、小学ん時一緒だったヤツ思い出すわ。
 鬼ごっこの時に鬼ばっかやらされて、べそかいてたヤツがいてさー」
「ここぞとばかりに古傷を抉ってくるなぁ、お前は。泣いてないよ」
「そういう事にしとく」
「お前こそ何様だ」

翠は、ひくりと笑顔を歪ませた。
気にする素振りも無く、甘太は喋る。

「いやー、どうしてこうおれの周りは負けず嫌いが多いんだろうねぇー? 凡人のおれなんか、数えられないぐらい負けたってのに」
「……オイル2缶と、飲み物買ってくよ」

翠は目を伏せて笑い、オイルを手に取る。
まいど、と言いながら、甘太はお釣りを渡した。
袋を持って翠は背中を向け、店の外へ向かう。

「……佐藤」
「あー?」

甘太が呼応すると、翠は振り向いて苦笑した。

「誰だって、負けたら悔しいよな?」

翠は、甘太が何も言わないのを確認し、そのまま佐藤商店を後にした。





――はて、何故ワシは今。

「よっし!! もう1本走るか、カグラ!」
「ホラホラ! 早く準備して!」

――スイやハリ坊と共に、ひたすら走っておるのだろうか……?

ぐったりしながらも位置につき、カグラは考えていた。
村崎家に、いきなり翠とハリップが来訪し。
手を引かれるまま、ここ、堤防まで連れて来られ。
同じ道を、繰り返し走らされているのだ。

「用意!」
「――ドンッ!!」

翠とハリップのこの掛け声も、果たして何回聞いたのか。

「ゴーーールッ!! だらしないなぁ、カグラ! タイム伸びてるよ!?」
「仕方ないだろ、もう100本くらいやってるんだから。……大丈夫か、カグラ?」
「……か……かたじけなぃ……」

息切れして地面に伏し、朦朧とする意識の中。
カグラは、手を差し伸べる翠が少し汗を掻いている程度で済んでいる事が不思議でならなかった。
そんな折に思い出すのは、一緒に住む、孫の1人との会話。

『尾根はなぁ……ポルシェの生まれ変わりなんだよ』
『ぽるせ?』
『車だ、車』
『成程! それは凄いな!』

会話の内容も微笑ましく、更に、孫と思っている翠が秀でた特技を持っている事が誇らしく、カグラは自然と笑顔を零した。

「はい、お疲れさん!」
「わー! オイルだー!」

翠に上半身を引き起こされた後、カグラはオイルを手渡された。
隣ではハリップが上機嫌で貰ったもう1つのオイルを開け、そのまた隣では翠が胡坐をかき、ペットボトルの蓋を捻る。

「スイ。何から何まで、気遣いかたじけない」
「気にしないで飲んでくれよ! 『じいちゃん』!」
「!」

突然、翠に初めて呼ばれ、カグラは目を丸くした。
その顔を見て、照れくさそうに翠は頬を掻く。

「あー……驚かせてごめんな、1回呼んでみたかったんだ。ほら、村崎や波花さんの前じゃ……とてもじゃないけど呼べないし、うん」
「……あいや、すまぬ」

カグラもゆっくりとオイルの蓋を開け、口に近づけた。

「吃驚するぐらい、嬉しかったのだよ。有難く、頂戴する」
「そうだよ! 早く飲もー! いただきまーす!」

カグラやハリップの表情が嬉しく、翠は顔を綻ばせた。
そして、自分もスポーツドリンクを飲む。

「っあー!! 美味い!」
「美味しい……!」
「おいしー! 走った後のオイルはカクベツでしょ、カグラ!?」
「ああ、生き返る味がする……!」

翠は、目を細めて喜ぶ2体に、笑顔でこっそり息をつく。

「なぁ、カグラ!」
「ん?」
「走ってみるのも良いモンだろ?」

翠の言葉に、カグラは無言で首を倒す。
少し俯いた後、日が沈みかけの空を見上げた。

「……そうだなぁ。長生きしていても、知らなかったのだよ」

翠の意図を何となく察し、カグラは、そのまま瞬きを1つした。
翠は、穏やかに告げる。

「……村崎はさ。元々負けず嫌いだけど、こんなに引きずるのは初めてなんだ」

カグラは、翠の方へ目を向けた。
しかし、言葉を投げ掛けるように、翠は空を見る。

「よっぽど、カグラと負けたのが悔しかったんだろうな」

ようやく合わせた顔は、少し悲しげだった。

「そんなに、難しい事じゃないよ」

言い終わると、翠は背伸びをし、立ち上がった。
隣でオイルを飲むハリップに、声を掛ける。

「さ、ハリップ! もう一っ走りするか!」
「いいね! オイル飲んだ後の追い走り!」
「カグラは、ちょっと休んでなよ!」

翠にそう言われ、カグラは手元のオイルへ目線を落とす。
少し考えた後、オイルを地面へ置いた。

「……いや」

カグラも立ち上がり、爪先でコンクリートを叩く。
翠とハリップは、満面の笑みを浮かべた。

「ワシも、走るとしよう」
「よし、行こう!」
「レッツゴー!」

3人は、スタートの掛け声をする事無く、まばらに駆け出した。
走りながら、口を開く。

「押しつける訳じゃないけどさぁ! カグラも、微塵でも『悔しい』って思ってくれたんなら俺は嬉しいかな、って!」
「ワシも、時々スイから『じいちゃん』と呼んで貰えると嬉しい!」
「オレっちは! こうやってずっとずーっと走れたらうれしー!」

この日、1人と2体は、結局日が暮れるまで走ったという。





「リィィボルバー狩りじゃアアアアアアア!!」

翌朝、御守高校の廊下にて。
肩には、『リボルバー求ム!』のタスキを下げ。
頭には、『右腕』と書かれた鉢巻をつけ。
醤はゲスな笑みを浮かべ、仁王立ちしていた。
昨日とは別ベクトルで危険な親友の姿に、翠は頭を抱える。
冷めた目で見ながら、甘太は一応というスタンスで尋ねた。

「村崎、何やってんの……?」
「決まってんだろ!! ロボトルで取られたものはロボトルで奪う!!
 ようはリボルバー持ってる奴と、片っ端からロボトルすりゃ良いんだよ!! さぁ!! 来たれリボルバァアアアアアアア!!」

般若だった顔は、最早ラスボスと化していた。
見るからに危ないのに、自ら火中に飛び込む人物が1人。

「おーい、村崎~!」

手を振りながら上機嫌で近寄ってきたのは、醤達2年D組のクラス担任・的間圭一(マトマケイイチ)だった。
圭一は、幸せ過ぎて醤の格好が目に入らないといった様子で、言葉を続ける。

「お前、メダロット好きだったよな!? じゃーん!!」

そして、両手で掲げた。

「念願の、KBT両腕パーツだ!! いや~、1回は俺のブルースドックにつけてみたかったんだよなー!!」
「「「先生エエエエエエエエ!!」」」

醤達3人の明らかに違う叫び声の質と、これから降りかかるであろう本当の悲劇を、圭一は知る由もなかったのであった。


メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
圭「待てよ。最後の地の文、酷過ぎやしないか? もう勝敗が見えているような……」
甘「先生、読者の皆様ももう察してると思います」
翠「先生、何で村崎の笑顔が酷い事には気付かないんですか?」
醤「先生!! 上のメダロッチの部分、もうリボルバー付け足しといていいですか!?」
圭「せめてロボトルはしよう村崎!! それ、悪の組織とやってる事変わらないから!! な!?
  次回、『六角形の神サマ』第拾玖話、『右腕狩猟祭(後篇)』! 運命に負けずロボトルファーイトォ!!」
醤「ッシャアアアアアアア!! リボルバァアアアアアアア!!」
甘「そこの主人公、役割を放棄してラスボスにならない」

六角形の神サマ 第拾玖話/右腕狩猟祭(後篇) ( No.19 )
   
日時: 2020/03/22 19:21
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾玖話/右腕狩猟祭(後篇)





「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

 御守高校、廊下にて。知らぬ間に用意されていたスポットライトが、突如現れた二人組を照らす。
「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
 襟元の赤い蝶ネクタイが目立つレフェリー、Mr.ジャムとMs.マーガリンは、手を掲げ、高らかに宣言した。二人とは対照的に、二年D組のクラス担任・的間圭一(マトマケイイチ)は、メダロッチを構えながらも困惑し、対峙する少年に尋ねる。
「な、なぁ村崎?」
「ハイ先生!! 何でしょう!?」
 話し掛けられた少年・村崎醤(ムラサキショウ)は、水を得た魚の如く目を輝かせながら返答する。圭一は、怪訝そうに苦笑した。
「授業中もそれぐらい気持ちのいい返事が聞ければいいんだが、まぁそれは今置いておこう。先生な、村崎と話してたはずなんだけど、いつの間にロボトルの流れになったんだろう?」
「先生!! メダロッターたるもの、ロボトルをしないと!」
「うん、もっともなんだけど。先生としては、もうちょっと念願のパーツを手に入れた余韻に浸りたかったっていうか……何だろう? 至極真っ当な事を言うお前が、今物凄く怖い」
 圭一の愛機は、イヌ型メダロット・ブルースドッグ。両腕には、新品のKBTパーツ。先の戦いでリボルバーを失った醤から、完全にロックオンされていた。
「いやぁ流石は先生、お目が高い! ……リボルバーって、カッコイイですよねぇ……?」
「おーい、村崎~? 一瞬で目が濁った気がするぞ~? テストの時と同じ目になってるぞ~? それにな? リボルバーばっかり見てるけど、ヘッドキャノンも良いもんだぞ? ていうか、勝ったとしてもリボルバーじゃなくて余ってるヘッドキャノンをm」
「そりゃ難しいですよ」
 醤は濁った目を細め、口角を吊り上げる。
「真剣ロボトルでは、『壊したパーツ』から、『ランダム』でパーツを勝ち取る』んですから。……ねぇ、先生?」
 あっ、勝ったら絶対リボルバーぶん取る気だコイツ。圭一、そして傍らで傍観している醤の友人・佐藤甘太(サトウカンタ)と尾根翠(ビネスイ)の確信はシンクロした。Ms.マーガリンは拡声器を口に当て、意気揚々に喋る。
『ショウ選手!! ロボトル前から殺る気満々です!』
「アレ、気の所為かな? 今、漢字変換がおかしかった気がする」
 Ms.マーガリンの言葉に、圭一は首を傾げる。その間に、窓に手を掛け、ひょっこりとカグラが現れた。
「ショウではないか! 大事無いか?」
「カグラ! グッドタイミングだけど、どうした? わざわざ来るなんて珍しい」
「今しがた、『虫の知らせ』が届いたのだよ。はて、ここいらで困っておる者は……?」
「多分、お前の対戦相手だと思う」
「何だか訳わからん単語は良いとして村崎、それは先生の事か?」
 あっけらかんと答える醤に、圭一は最早乾いた笑いしか出てこない。甘太と翠は、『虫の知らせ』を飛ばす程困り果てている圭一に、内心同情した。軽々と廊下に降り立ち、カグラは圭一に挨拶した。
「お初にお目に掛かる。ワシの名はカグラ。孫のショウがいつも世話になり、かたじけない」
「これはこれは、御丁寧に……担任の的間です」
「ホントすいません、先生。リボルバー貰っちゃって」
「だから早いぞ! さっきから! 先生は不本意なんだ!!」
 理不尽な言動を放つ醤に、圭一は泣きそうになりながら訴えた。圭一と握手するカグラの右腕は、現在、ア・ブラーゲのパーツ・フェンシング。事情を知る者からしたら、見慣れない右腕はどこか痛々しい。
「そうだ! 室内なら……パーツ転送、ソッコー!」
 醤が思いついたようにメダロッチの画面を押すと、カグラの脚部が光に包まれ、サボテンナのパーツ・ソッコーが装着された。
「……やっと見つけた、リボルバーだ」
 醤は、そのままメダロッチを構え。
「絶っっっ対逃がさねえ……!!」
 鬼も裸足で逃げ出すような顔で笑った。『リボルバー絶対奪うマン』の完成である。周囲が青ざめる中、カグラだけは違った。
「ショウは大袈裟よのお」
 この温度差である。他にもう一人、こんなトチ狂った状況でも平気な人間がいた。
『それではっ、合意と見て……アレー? 先パーイ?』
 掛け声の途中で、Ms.マーガリンはいつの間にかいなくなった相方を探す。すると。
「キャーッ!!」
「イヤアアアア!! 入ってこないでぇ!!」
「いでっ!! いでででっ!? 何故っ、何故ボクらは理解し合えない!? 何故、すぐに『暴力』という悲しい手段を選ぶ!? だから、この世から戦争が無くならないんだ!! さあ、今こそ……!!」
 悲鳴の合間に聞こえてくるのは、わざとらしいまでの持論。Mr.ジャムは、両腕を広げ。

「『服』という虚構の殻を脱ぎ捨て、裸で抱き合おうじゃないか!!」

 更衣室で着替え中だった女子学生達に、生まれたままの姿を披露していたのであった。Ms.マーガリンによる通報で、駆けつけたセレクト隊員はすぐに連行する。
「違うんですよ、『抱き合う』ってそういう意味じゃ……え? 『裸がアウト』? ちょっと何言ってるかわからないですね。そもそも、オリンピックの始祖はみんな裸で……」
「……何でうちの学校は、次々と変質者が湧くんだ……?」
 Mr.ジャムと、楽しそうにハンカチを降るMs.マーガリンを見て、圭一は自分の職場のセキュリティを憂いた。言わずもがな、運動会におけるタバスコの一件もあるだろう。満足したらしいMs.マーガリンは、笑顔で拡声器を構える。
『気を取り直しまして、合意と見てよろしいかなー!?』
 決して、合意ではないだろう。今の今まで、この女は何を見ていたというのか? 漠然と考える圭一に、彼の愛機・ブルースドッグは慌てて声を掛ける。
「しっかりしてください、マスター!! 要は、ロボトルに勝てば良いんです! 頑張りましょう!」
「そ、そうだな……すまん、カーゴ」
 『カーゴ』と呼ばれたブルースドッグは、普段であれば決して圭一に意見しない。そんなカーゴの言葉は、圭一を鼓舞し、覚悟させるには充分の威力だった。俯いていた圭一は、顔を上げる。
「……よし、先生がただのメダロットコレクターではない所を見せてやる。行くぞ、村崎!」
 そんな圭一を見据え、醤は笑った。
「へっ、そう上手くいくかなぁ……?」
「この作品の主人公って誰だっけ?」
「俺に聞かないでくれ……」
 下衆な笑顔を浮かべる友人の姿に、甘太は尋ね、翠は目を逸らした。Ms.マーガリンは、双方のやり取りを全く気にする事無く、手を振りかざす。

『それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

 Ms.マーガリンが手を振り下ろした直後、先に動いたのはカーゴの方だった。
「カーゴ! リボルバー!」
「了解!」
「構うなカグラ! サブマシンガン!!」
「心得た!」
『右腕パーツ、ダメージポイント二十五』
 カーゴが放った二発のライフルが右腕に被弾するも、カグラは指示通り、カーゴの進行方向を銃撃する。
「!?」
『おおーっと!! 先手はカーゴが打ちましたがカグラ、物ともしていません! ガトリングの雨がカーゴを追うー!』
「くっ! カーゴ、サブマシンガン!」
 みすみすガトリングを浴びる訳に行かず、カーゴは足を踏み締め、逆方向に飛びながらマシンガンを撃った。
「カグラ! 後退!」
「あい、わかった!」
『まずは、お互い様子見といった所! 今回のフィールドは、この廊下か!? はたまた、教室かー!?』
 カグラの回避後、弾丸は廊下上で散らばる。圭一は、苦々しく笑った。
「……村崎、よく気付いたな」
 圭一の言葉を聞き、醤は少しだけ顔を上げる。
「はい、二脚は小回りが利きますから。折角車両に変えたのに、障害物が多い教室に飛び込まれたんじゃたまったもんじゃありません。言いましたよ、」
 醤は、不敵に笑い、ロボトル前の言葉を繰り返した。
「逃がしません」
 圭一は、長い溜め息をつき、天井を仰ぐ。
「正直、驚いたよ。頭の回転の早さが素晴らしい。担任としては、次のテストの点数が楽しみな所だが……村崎、やっぱり廊下でロボトルは駄目だったんじゃないか? 既に教室の扉が多分これ、変形して開かないんだけど」
「先生、大丈夫です! ナノマシンで復活しますんで!」
「ナノマシンが治すのは、メダロットだけだぞ? ナノマシンに学校の修理は、荷が重いんじゃないか? とりあえず、反省文は覚悟しとけよ?」
「リボルバーが手に入るなら何枚でも書きます、そんなもん!」
「お前とリボルバーに一体何があったんだあああ!? 何枚も書かれてたまるか!!」
 狂気的なリボルバーへの執着に、遂に圭一は聞いてしまった。ロボトルに敗北した事は明白だったが、例え返答が得られなくとも、聞かざるを得なかった。ロボトル後に対する現実逃避からか、圭一は無我夢中に指示を出す。
「カーゴ!! 両腕、一斉射!!」
「カグラ! 飛べ!!」
『飛んだアアアアア!! カーゴの銃撃回避! カグラは上空で目標を定めます!』
 直後、勢いよく車輪が回る音を聞いた。カーゴの銃弾を避け、カグラは助走をつけて飛び上がる。
「よし! ミサイル!!」
「心得た!」
 下方目掛けて飛んでいくミサイルは、一斉射撃により足を踏み締めていたカーゴを容易に捉えた。
「よっしゃあ!!」
『ミサイル命中ゥ!! クリティカルです!!』
 右腕を突き上げる醤を、甘太と翠は応援する事無く、ただ茫然と見ている。
「やっぱ強ぇなあ、二人共……」
「はは。本当にな」
 相手も場所も関係なく猛攻を仕掛ける醤に、翠からは苦笑しか出てこない。一度結んだ後、翠は口を開いた。
「……こんなに強くても、勝てなかったんだよな」
「……まーな」
 甘太は、祭りの夜を思い出す。きっと、隣にいる翠も思い出しているのだろう、と僅かに目を伏せた。古戸宗輔(フルドソウスケ)と愛機・ジェームズに圧倒的な力差を見せつけられ、二人が敗北する姿を上手く思い描けない。しかし。
「次は勝つだろ」
 一つの淀みも無く言い切った甘太に、翠は目を丸くする。それがどこか可笑しくて、翠は素直に笑った。
「ああ、そうだな」
 甘太も、翠も。目の前の友人が同じ相手に負ける姿の方が、想像もつかなかったのである。そんな、本人はというと。
「カグラぁ!! 正面にサブマシンガン全開!! わぁーっはははははははは!!」
『きっちり狙いを定め、煙に向かって全力射撃! 鬼です! ここに鬼がいます!』
 最早、勝ったつもりで容赦なく指示を出していた。紛れもなく鬼なのだろうが、醤も、Ms.マーガリンにだけは言われたくないだろう。吸いまれていく弾丸に、奥歯を噛み締めていた圭一だったが、意を決してメダロッチに吠えた。
「カーゴ!! 何も心配するな、こじ開けろォ!!」
「え、何を?」
 目が点になっている醤を余所に、ライフル音。そして、力任せに戸の開かれる音が響いた。
「えっ、先生まさか……!?」
 圭一の立場から考えても、予想だにしていなかった。低い笑い声が、耳をつく。
「減俸怖くてロボトルできるかあああ!! やるからには勝ぁつ!!」
『おぉーっと!! お見事、カーゴは教室に逃げ込みました! 形勢逆転なるかー!?』
 圭一の顔も、修羅に仕上がっていた。煙が晴れると、やはり廊下にカーゴの姿は無い。カグラは少し開いた戸に背を預け、銃撃を喰らわぬよう、慎重に教室を覗き込んだ。
「カーゴ!! ヘッドキャノン!!」
「おわっ!?」
 カグラが素早く首を引っ込めると、ライフルが壁にめり込んだ。煙が上がる弾丸からは、如何程の威力か伺える。
『カグラ、防戦一方です! 飛び込まず、一か八かの判定勝ちに賭けるか!? それとも、被弾覚悟で教室に飛び込むのかー!?』
 カーゴは現在、機能停止パーツが無い。このまま教室に飛び込めば、カグラは蜂の巣だろう。一息つき、醤に話し掛ける。
「ショウ。確認できたのは一瞬だが、どうやら机で防壁を作っているようだ」
「バリケードか、早いこって。隠れて攻撃されたんじゃ、たまったもんじゃねぇ。だったら……」
 目に強い光を宿し、醤は口角を上げた。
「崩すっきゃねぇよなあ……!?」
「うむ、それしかあるまいな」
 カグラは、落ち着ききった声で頷き、教室の戸に手を掛けた。
『これぞまさにロボトル!! カグラ、銃弾の海に飛び込みました! 狭い室内で車両がどこまで活躍できるのか、目が離せません!』
「来るぞ、カーゴ! サブマシンガン!!」
 手の位置より身を屈めて飛び込んだカグラは、それでも数発被弾した。
「くっ……!」
『頭パーツ、ダメージポイント十七』
「カグラ!! ミサイルで裏を吹き飛ばせ!」
「わかった!」
 放たれたミサイルは、バリケードの裏で爆ぜた。
「カーゴ!! 右に回り込め!!」
「了解!!」
 煙を上げながら、飛び出すカーゴ。既に右腕は黒ずんでおり、ただ体にぶら下がっていた。しかし、カーゴのサブマシンガンは、右側からカグラを完璧に捉えている。カグラの右腕は一瞬反応したが、何も行動せず、カーゴと同じパーツを向けた。
「「サブマシンガン!!」」
 醤と圭一の声が重なり、ガトリング同士がぶつかり合う。
『両者のサブマシンガン炸裂ウウウウウ!! 同じパーツだからなせる画ですね、圧巻です!!』
 無論、外れた銃弾は双方の装甲を削っていく。
『右腕パーツ、ダメージポイント五十一。左腕パーツ、ダメージポイント百。機能停止』
『カグラのサブマシンガン、機能停止! 一瞬の間が命取りとなったかー!?』
 カグラは音を立てて後退し、黒くなった左腕を押さえる。頭では理解しているはずなのに、この右腕は確かにライフルを撃とうとした。『何十年もリボルバーをつけていたから、無理もない』、と言う者もいるだろう。しかし、ただ自分のふがいなさに苦笑した。
「ショウは……凄いな」
 あんなに渇望しているリボルバーの頭文字も、口から出なかった。普段何かと熱くとも、ロボトルでは冷静な判断も可能なため、ある程度頭を切り替えているのだろうが。カグラは、リボルバーを失った事実を、醤が痛い程理解している事を、指示をもって思い知らされた。
「うるせぇ!! オレ褒めてる暇あんなら集中しろ!!」
「…………面目ない」
 左腕の機能停止についてしっかり怒っていた醤に、カグラは深々と頭を垂れた。カグラを叱った後、醤は頭の中で作戦を組み立てていく。ここが、正念場だ。自分に言い聞かせ、メダロッチを構えた。
「カグラ!! 何としても壁壊すぞ!」
「……心得た!」
 カグラは、真っ直ぐ前へと駆け出した。圭一は、カーゴに指示を出す。
「カーゴ!! ミサイルだけ気を付けろ! 後は、近付かない限り当たらない! サブマシンガン!!」
「わかりました!」
 カグラに残された行動は、二回分のミサイルと、ソード攻撃。言葉通り『付け焼刃』のパーツに、圭一は脅威を感じていなかった。
『右腕パーツ、ダメージポイント八十四』
「カグラァ!! 床にぶっ刺せ!」
 カグラは身を屈め、床にフェンシングを突き立てる。
「なっ!?」
『カグラ、フェンシングを床に突き刺したァ!! 一体全体、何をしでかそうというのかー!?』
「ぶっ壊せえええええええ!!」
「っおおおおおおおお!!」
 フェンシングを軸に、カグラは体を捻り、机のバリケードを横から蹴散らした。
『カグラの回し蹴りでバリケード大破アアアアア!! カーゴは全身ガラ空きです!!』
 バリケードが無くなった今、カグラとカーゴの目が合う。液晶の奥にあるカーゴの目は、殊更丸かった。
「いけエエ!! ミサイルゥゥゥ!!」
 醤の指示の直後、爆風がカーゴを包み込む。音を立てて、カブトメダルが転がった。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』

 Ms.マーガリンは高らかに宣言し、しゃがんでカグラの左腕を持ち上げた。床からフェンシングを引き抜くと、カグラの体はナノマシンにより回復していく。
「いやぁー!! 見事なまでに教室ボロボロですね、先生!」
「もれなく先生の心もボロボロだけどな……」
 机や椅子が散乱する教室に入る、醤と圭一。珍しく、醤の笑顔もまるで快晴のようである。圭一は、拾ったカーゴのメダルをメダロッチに入れた後、醤に確認した。
「…………なあ、村崎。今からでも遅くないよ、ヘッドキャn」
「リボルバー一択で」
「さっきの威力、見ただろ? 良いぞー、ヘッドk」
「リボルバー 一 択 で」
 笑顔で重圧を掛ける醤に、圭一は涙ながらにリボルバーを差し出した。
「チクショオオオオオ!! こちとらリボルバー様の滞在時間、一日だぞ!? こんな事あんのか!? あってたまるか馬鹿野郎オオオオオ!!」
「よっしゃああああ!! リィボルバァアアアアアアアー!!」
 圭一はひたすら床を殴り、醤は入手したリボルバーを天井に掲げている。テンションに雲泥の差はあれども、どちらもうるさかった。醤は、嬉々として早速メダロッチに登録し、カグラにパーツを転送する。カグラの右腕と脚部は光に包まれ、脚部にはオチツカーが、そして右腕にはリボルバーが装着された。満足気に、醤は何度も頷く。
「やっぱ、一式揃ってるとしっくりくんな~!!」
「……」
 カグラは右手をじっと見つめ、開閉を繰り返す。何も喋らないカグラに、醤は首を傾げた。
「カグラ?」
「……いや、」
 返事をしながらも、右手から目を離す事無く。
「何でも無いのだよ」
 カグラは、ゆっくりと力強く拳を握った。





 鎖界町の、夜。
 古びた一軒家で木造の戸を叩く音に、宗輔は顔を覗かせた。
「おうおう、誰だア?」
「夜分遅くに、申し訳ない」
 声のする方まで視線を下げると、佇むカグラと目が合った。
「アンタぁこないだの……よく家わかったな」
「虫達に聞いたのだよ」
「ハハア、変わったヒトだねエ! まぁ上がんな」
 宗輔は笑い飛ばし、カグラに背を向ける。
「此処で構わん」
 背中に降ってきた否定の言葉に、宗輔は真顔で振り向く。そーかい、と短く返答し、相手の言葉を待った。俯いたカグラは、口を開く。
「……恥を忍んで、頼みがある」
 カグラは、宗輔の目を真っ直ぐ見上げた。液晶の目に、意志を持った光が宿る。
「先日のリボルバーを……ワシらとの再戦まで、使わないでくれぬか?」
 宗輔は、二回瞬きした。すぐに合点がいかず、乱暴に頭を掻く。
「『リボルバー』? ……ああ」
 祭りのロボトルで、目の前のメダロットからリボルバーを勝ち取ったのを思い出す。記憶の中でも、友人は酷く悔しそうな顔を浮かべていた。しかし、あの時と同じリボルバーが、もうカグラにはついている。
「つうか、もうついてるじゃねエか」
「『これ』ではない」
『これ』と呼んだ手を握り締め、カグラは言った。
「言える立場ではないが……とりわけ、大事なパーツなのだよ……!」
 宗輔は、カグラの思いが全く理解できなかった。どれだけ見ても、紛う事無きリボルバーである。しかも、宗輔はロボトルで負けた事が無いため、当然パーツを取られた事も無い。考えるのが苦手な性分だったのもあり、頭の中で『勝者と敗者の違いである』と割り切った。
「大事なパーツなら、何で負けたんだ」
 吐き捨てるような言葉に、カグラの目が大きく見開く。宗輔の言い分は、尤もだった。『力量不足』と言ってしまえばそれまでだが、それでも自分は決して負けてはいけなかったと、自責の念が襲う。
「……!」
「……気にすんな、今のは仕返しだ」
 不機嫌そうな顔から一転、宗輔ははにかんだ。頭の後ろで手を組み、言葉を続ける。
「舐めてくれるモンだと思ってよオ? 負ける訳ねエだろうがよ、俺達が。んな小っせエ事心配してる暇があんなら……」
 宗輔は親指で自分を指し、大胆不敵に言い放った。
「さっさと強くなって、ぶん取り返しに来なア!!」
 雷に打たれたような、衝撃だった。そうだ。醤は、欲しくてやまないこのリボルバーを見事勝ち取ったのだ、とカグラは思い返す。ならば、自分は。
「かたじけない。……そうだな」
 右腕から力を抜き、カグラは宗輔に応えた。
「それが、筋というものだ」





 翌朝。御守高校、二年D組の教室にて。
「……なっ、波花!」
 着席していた波花梓音(ナミハナシオン)は、醤に呼ばれて顔を向けた。いつもと変わらないように見えるが、その視線は確実に数段冷たい。醤がなかなか話を切り出せず、考えあぐねいていると、向こうから言葉が掛かった。
「…………何か用?」
「よ、『用』っつーか、そんな大それたモンでもねぇっつーか……?」
「朝礼が始まるから、さっさとして」
 梓音から急かされ、醤は喉が詰まったような顔をした。何とか喉を鳴らし、たどたどしく話し始める。
「あっ、あのな? ……ジジイの右腕、リボルバーに戻ったんだ」
「!」
 梓音は、僅かに目を見開く。突き刺すような視線の温度も、幾何か柔らかくなったように感じた。
「つっても、元のパーツじゃねぇんだけど……」
「……そう」
 言うや否や、梓音は目を背けた。確かに、こんな短期間で勝てるようになる相手ではない。それでも。
「でも、アイツには絶対勝つ」
 梓音が視線を戻した先には、真剣な醤の姿があった。
「まだ『いつか』だけど、絶対だ!」
 力強い宣言だった。梓音は一度だけ瞬きし、小さく頷く。
「……うん」
 梓音には、それ以上も、それ以下の言葉も言えなかった。もう用事は済んだと思い、梓音が正面に顔を戻すと、醤は慌てたように回り込む。
「あっ! そうじゃなくて! いやっ、それだけじゃなくて……!」
「何なの? 本当に……」
 珍しく歯切れが悪過ぎる醤に、梓音が溜め息をついた時だった。
「ごめん!!」
 微塵も予想だにしていなかった言葉に、梓音は硬直した。かろうじて動いた口が、短い声を吐く。
「…………え?」
「あれ、っは……完全に八つ当たりだった! 悪かった! すいませんでした、波花さん!!」
 謝罪すると、醤は勢いよく頭を下げた。先日の、佐藤商店での一件を言っているのだろう。梓音は、への字に曲げた後、口を開く。
「……村崎、顔上げて」
「波花……」
 許してくれたのか、と思った直後。
「オ゛ッフ!?」
 凄まじい速度で、梓音の右拳が、醤の腹に埋まった。両腕で腹を抱え、醤は悶絶する。蹲った醤を見下し、梓音は尋ねた。
「……満足した?」
「こっ、ちの台詞だこのヤロォオ……!!」
 内心安堵した事は、互いに知る由も無かった。





メダロッチ更新中……――
・リボルバー(KBT-12。うつ攻撃:ライフル)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「チャンチャカチャカチャカチャンチャンチャ~ン♪ チャカチャカチャンチャンチャン♪ チャン♪ じじ孫! 三分メイキング~!」
カ「このこぉなぁでは、次回の話に必要なモノを揃えていくのだよ」
醤「それではカグラさん、次回のアイテムを教えてください!」
カ「えー、人物・三人。掃除機・三台。それと、ましゅまろまn」
醤「違うよな?」
カ「……ましゅまr」
醤「違 う よ な ? 次回、『六角形の神サマ』第弐拾話! 『恋之神様(前篇)』!」
カ「舞台・米国」
醤「いい加減にしろ!! この作品自体無かった事にされんぞ!!」

六角形の神サマ 第弐拾話/恋之神様(前篇) ( No.20 )
   
日時: 2020/03/07 21:30
名前: 海月

「はぁー……帰るの遅くなっちゃってごめんね、リボン」
 御守町、夜。
 長い溜め息をつきながら、蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)は買い物バッグをぶら下げ、街灯が疎らに照らす長い路地を歩く。その隣で『リボン』と呼ばれたセーラー型メダロット・セーラーマルチは首を横に振った。
「ううんっ、気にしないで! スイ君、またお弁当喜んでくれると良いね!」
 どうやら、バッグの中身はお弁当の材料らしい。リボンに言われ、蜜希は恋人・尾根翠(ビネスイ)の笑顔を思い浮かべ、頬を赤らめて俯く。
「うん、そだね……リボンも応援してくれてるんだから、頑張らないとね!」
「みっちゃん、その意気だよ!」
 リボンのガッツポーズを見て、蜜希ははにかんだ。明日のお弁当は何を作ろうか、リボンに相談しようとした矢先。
「キャア!?」
 リボンの体が、強い力で後ろへと引っ張られた。蜜希は慌てて振り向き、腕を伸ばす。
「リボンッ!?」
 振り向いて、硬直した。直後、全身から力が抜け、蜜希は道の真ん中へ座り込む。
「……あ、あ……や、ごめんなさっ……!」
 涙も震えも止まらず、血の気は失われていく。やがて、静かな町に、蜜希の悲鳴が木霊した。
「いやあぁあああああっ!!」





『六角形の神サマ』 第弐拾話/恋之神様(前篇)





「どーしたんだよ、みっちゃん!? こんな所に、手紙で呼び出すなんて……よ」
 御守高校、昼休み。音楽準備室にて。
 村崎醤(ムラサキショウ)は、無言で俯く蜜希を前に困惑していた。『困惑している』と言っても、だらしない笑顔を赤らめ、手にはしっかり可愛らしいメモを握り締めている。
『昼休み。誰にも内緒で、音楽準備室に一人で来てください。――蜂矢蜜希』
 以上が、丸い文字でメモに書かれていた内容である。醤は視線を外し、頭を掻きながら言葉を続けた。
「……オレさー、みっちゃんの事は友達だと思ってて。いや、悪い意味は全然無いんだけど! んで、尾根ともダチだろ? だからさー、何つーかなー……」
「……ムラサキ君、」
 蜜希に名を呼ばれ、醤の頭の天辺まで血が一気に駆け上がる。ヤカンだったら、沸騰していた事だろう。醤は、テンションのまま蜜希に告げた。
「みっちゃんに告られたら、尾根に悪いっつーか……!」
「ごめんなさい!!」
「オレがフラれんの!?」
 驚愕のあまり、醤の声は大きくなった。完全に告白される体でいたのだ、仕方が無い。しかし。しかしである。普段仲睦まじい様子を目の当たりにしているにも関わらず、友人の恋人から呼び出されるや否や『オレってば告白されちゃうんだ』と浮かれるのは、道徳的に如何なものだろうか? 確実に、第陸話の教訓がこの男には全く生かされていない。
 そんな醤の心境を当然理解する術もなく、蜜希は叩きつけるように言い放った。
「助けてっ!! リボンが攫われちゃったの!!」
 蜜希の言葉に二回瞬きをした後、首を横に倒す。
「…………へぃ?」
 素っ頓狂な台詞を吐いた後、蜜希の顔が歪んだ。そのまま、ぼろぼろと大粒の涙を零し始める。
「うっ、ぇぐ……ふうううぅう……!」
「みみみみみっちゃん!?」
 蜜希の涙に動揺した醤は、声をどもらせながらも何とかしようと駆け寄った。どうあがいても、女の子の涙には滅法弱い。例え、日頃どんなに喧嘩している女性相手だろうと、泣かれたら醤は一切の反論が出来なくなってしまう。泣き止んで欲しい一心で、醤は声を掛けた。
「とりあえず落ち着けって!! ハンカチッ……は持ってねぇから、ティッシュ!! ティッシュ持ってるから!! 悲しいよなぁ!? 友達攫われたんだもんなぁ!? 話ならいくらでも聞くし、オレに出来る事なら何でもするからさぁ!!」
「ひっく……ホン、ト……?」
「マジマジ!! マジで何でもする!!」
 嗚咽を漏らす、蜜希。しかし、醤の必死が過ぎる呼び掛けに涙を止め、ようやく微かに笑った。
「……ありがと、ムラサキ君」
「おっ、おう!!」
 蜜希につられて、醤も笑う。照れ隠しで頭を掻いていると、蜜希は首を傾げた。
「そういえば、『ふられる』って何が降って……?」
「気の所為じゃねぇかなああ!?」
「きっ、気の所為かぁ。そっかぁ……」
「全力でそう!!」
 あまりの醤の気迫に、蜜希は納得せざるを得なかった。それを押し通すがため、醤は力強く何度も頷く。
「それより、リボンの話詳しく聞かせてくれよ!! あっ!?」
 ぐるるぅ。醤の腹の虫は、空気を読まない程に正直過ぎた。言葉を失い赤面する醤に、蜜希は柔らかく笑い掛ける。
「……わたしのお弁当で良かったら、食べながら話そ?」
「さ、さんきゅー。みっちゃん……」
 微笑む蜜希に頬を染め、醤は差し出された弁当箱を受け取った。やはり、可愛い。流石は、陸上部のマドンナ。選手達をよく観察し、献身的にサポートしていると、マネージャーとしての評判が良い。更に、彼女が出席している大会では、本校の陸上部が全勝しているらしく、『勝利の女神』とも噂されている。しかし、忘れてはいけない。素晴らしい彼女には、それはもう素晴らしい彼氏がおり、何より醤の友人である。伸びそうな鼻の下を戒め、醤は振り切るように声を張り上げて誤魔化した。
「へっへへ!! みっちゃんの弁当とか、バチ当たりそうだな!? いっつも、尾根が羨ましいと思ってたんだよ!!」
「バチなんて当たらないよ。ホントは、スイに作ってきたんだけど……食べてくれたら嬉しいな」
 二人は、その辺にあった椅子に座りながら話す。蜜希が少しだけ俯くと、醤は不思議そうに尋ねた。
「オレも、みっちゃんの弁当食べれて嬉しいけどよ……何で渡さなかったんだ? それこそ、リボンの話だって尾根にしたら……」
「それはダメッ!!」
 いきなり大声を出され、醤の肩は僅かに跳ねた。
「えっ!?」
「……ごめんね、大声出して。でもっ……!」
 蜜希は、膝の上でスカートを握り締める。そして、震える声で続けた。
「わたしの所為でリボン、いなくなっちゃったんだもん。スイにっ、知られて……幻滅されたくない。嫌われたくないのっ……!」
「わーっ!? ごめん!! オレが悪かった!!」
 今にも涙が溢れ出そうな蜜希に、醤は慌てて謝罪した。涙を拭いながら、蜜希はそれを否定する。
「ううんっ、ムラサキ君は全然悪くない。わたしが、バカだからっ……リボンとられちゃったぁ……!」
「あーっ、弁当超美味そう!! いっただっきまーす!!」
 誤魔化すレパートリーが早々に底を尽き掛け、醤は弁当箱を開けて手を合わせた。やはり、女の子の手作り弁当は、こんな時でも輝いて見える。醤は勢いよくおかずを口へと放り込み、感想を言うべく笑顔を作った。
「うん、めっちゃ美味しゴフェアウェッ!?」
 が、呻き声と共にすぐ吐き出される。
「ムラサキ君!? 大丈夫!? ほら、お茶だよ!」
 目の前で激しく咳き込む醤を見て、蜜希の涙は引っ込む。代わりに、今度は心配から涙を浮かべ、背中を擦りながら水筒を差し出した。
「ウッ、グ……」
 醤は、麦茶を飲みながらも、現状を飲み込めずにいた。確かに、自分はタコさんウィンナーを食べたはずだ。豚肉本来の旨味と絶妙な塩加減を、期待して食べたはずだった。しかし、口に入ってきた『ブツ』は、肉の味が確実に死んでいた。まるで、ゴムを齧っているような食感と、舌を蜂の巣にするような苦味。防衛本能が、体内での残存を拒んだのだった。ようやく落ち着いた時、醤の目には涙が滲んでいた。
「……うまい」
 お茶が。人生で初めて、お茶に感動した瞬間であった。
「ホント!? 良かったぁ~!」
 手を合わせて喜ぶ蜜希を見て、醤は全力で思った。毒殺されても、許せる可愛さ。そんな笑顔を困らせ、蜜希は醤に頭を下げた。
「……ごめんね?」
 それに、きちんと謝ってくれるではないか。今は、料理修行中の身なのだ。この気持ちがあれば、いつか美味しく作れるようになるだろう。
「やっぱり……ちょっと、大きく切り過ぎだよね?」
「へ?」
「お弁当を作るようになって最初の頃は、スイもよく噎せてたの。それで、小さく切るように頑張ってるんだけど……どうしても、一口を大きく切っちゃうみたいで。それでも、最近スイが噎せずに食べてくれるから、やっと直せたと思ったんだけどなぁ~。スイのはきっと、慣れだよね? ごめんね、ムラサキ君」
 そう言いながら表情を崩さず自分の弁当をつつく蜜希に、醤は顔を青ざめた。違う。翠が慣れたのは十中八九味であるし、一口が大きくて噎せた訳では決して無い。蜜希の自覚の無さが、醤を冷静にさせた。『メシマズ』とは本来、見た目からもうヤバイのではないだろうか? 毒物だって、あんなに危ない色をしているのだ。それなのに、あんなに完璧な外観をされては、警戒心が薄れる。覚悟が出来なくて、つらい。この外見に騙され続けた友人を思い、醤は内心涙した。ていうか、何で普通に食べてらっしゃるのだろうか? 最早、彼女は別の生命体なのかもしれない。醤は疑問を押し殺し、乾いた笑顔で頷いた。
「……みっちゃんは、天才だよ」
 食品サンプルの。
「えぇー!? 全然そんな事ないよぉ! ウィンナーとかちょっと苦くなっちゃったし!」
 『ちょっと』ではない。しかし、僅かに味の違いがわかる事実に醤は安堵した。彼女の舌は、頑丈なシェルターに守られているに違いない。
「ホラホラ、遠慮しないで食べて!」
「あざーす……」
「それで、その……申し訳無いんだけど、リボンの話をしても良い?」
「…………勿論です」
 醤には、リボンの話が昨日のように感じられた。どうやら、蜜希の弁当は時間を吹き飛ばす事が出来るらしい。しかし、友達がいなくなっている一大事だ。いつまでも、ふざけてはいられない。醤は、気持ちを切り替え、真っ直ぐに蜜希を見つめた。
「……ムラサキ君は、」
 最初は戸惑っていた蜜希だったが、やがて意を決し、口を開く。

「『神様』って……信じる?」

 醤は、静かに目を見開いた。思い浮かべるのは、今の話とは真逆の、のんびりとした翁だ。何故、ここでカグラの名が出てくるのか? 様々な葛藤から答えられずにいると、蜜希は言葉を続けた。
「……ううん、いきなり突拍子無い事言ってごめんね」
 蜜希は視線を外し、手をこまねく。
「でも……聞いた事無いかな? 『御守神社には、昔から神様が住んでる』って話」
 醤にとって聞いた事があるどころか、随分身近な話だった。噂になるくらいには、長い年月をかけて人助けをしてきたのだろうと、醤は一人実感する。醤の心境を露知らず、蜜希はたどたどしく語った。
「それで……この間、神社が壊されちゃったでしょ? 誰だって、自分の家が無くなるのはやだよね。もしかしたら……それで、怒ってるのかも」
 確かに、怒っていた。どこぞの変質者により神社が大破され、木片が綺麗に撤去された日は、珍しく悲しんだり怒ったりと忙しなかったが。
「いや、そりゃ怒るかもしれないけどよ。だからって、何で神様がリボンを、」
「リボンが攫われた路地が、御守神社の石段の前なの」
 醤の言葉が、ぴしゃりと遮られた。どんな理由かは知らないが、蜜希は犯人の正体を『確信している』。
「わたし以外にも、同じ場所でメダロットとられちゃった子、いるんだって。きっと、気に入らない子を神隠ししてるんだよ」
 スカートに乗せられた両拳に力が入るのが、醤にはわかった。
「わたしだって、夜に出歩いてた悪い子だもん……。それで、神様に狙われてっ、なのに、リボンがわたしの代わりに、リボンが、ひっ……!」
 話していて記憶が鮮明になったのか、拳を緩めて顔を覆い、蜜希は座ったまま泣き崩れた。
「どうしよぉ、ムラサキ君……!」
「神様じゃねぇよ」
 隣から飛んできた低い声に、蜜希は顔を上げる。拍子に涙が一粒零れるが、そんな事は気にならなかった。寧ろ、笑顔を完全に消し、眉間に皺を寄せる醤に恐怖を覚える。
「……え……っ?」
 醤は怒っているのだと、すぐにわかった。何故怒らせたのか思い至ったところで、蜜希は涙を拭いながら謝罪する。
「ごめ、んね……真剣な話してるのに、『神様』なんて信じられるわけ、」
「違ぇ」
 声色は幾分か優しくなったが、真剣な表情は変わらない。醤は射抜くような目で蜜希を見たまま、それこそ『確信』を持って言い放った。
「オレの知ってる『神様』は、そんな事するヤツじゃねぇんだ」





「カグラは昨日の夜、オレより先に寝た」
「如何にも」
「もしカグラだとしたら、オレが寝た後家を出た事になる。が、それだとみっちゃんの帰宅時刻と合わなくなる。と、なると、カグラは今回の事件と無関係だ。そこで……」
 名探偵よろしく、醤は指を立てて教鞭代わりに降っていた。しかし、すぐさま拳に変え、渾身の力を込める。
「犯人見つけてボッコボコにしてやる!!」
 歯も闘争心も剥き出しにした醤の声は、夜の御守神社跡地にこれでもかという程よく響いた。カグラの逆隣にいる翠は、眉を下げて醤を戒める。
「村崎。気持ちはわかるけど、この時間にその声量は近所迷惑だぞ?」
「落ち着いてられっかよ!! リボンが攫われた上に、とどのつまりは風評被害じゃねーか!? 覚悟しとけよ泥棒野郎、ここを犯行現場に選んだ事と生まれてきた事後悔させてやっからよぉ!! ヒャーッハッハァ!!」
「村崎は変なモンでも食べたのか?」
 RPGの魔王の如き形相で笑う醤に、翠は思うがまま冷静に尋ねた。翠に言われて思い出し、醤は突然翠の肩を組む。何事かと慌て、翠は醤を見た。
「えっ、何だよ……!?」
「……なぁ」
 先程とはうって変わって小声の醤に、翠は黙って耳を寄せる。聞く姿勢をとった翠に、醤は耳打ちで話を続けた。
「お前……何で、みっちゃんの弁当平気なの?」
 翠は、僅かに目を見開く。蜜希の弁当の秘密を知る者は、学校で自分以外いないと思っていたからだ。醤だけにしか聞こえないよう、翠も小声で確認した。
「……食ったのか?」
「ああ、相談受けた時にな」
「この野郎」
「あの味でよく『この野郎』って言えたな?」
 僅かに怒気を含んだ翠の声に、醤はツッコんだ。聞きたい事を聞けなくなるため、すぐに話の方向性を切り替える。
「それはさておき。何で普通に食えんだよ、あんな食物兵器?」
「ミツキの弁当の悪口はそこまでだ。……でも、そうだな」
 醤の言葉を制した後、翠は少しだけ考えて、弧を描く口を開いた。
「ミツキが、俺のために時間割いてくれるのが嬉しくてさ。だからかなー? 俺からしたら結構美味いんだよ、あの弁当」
「へいへい、どっちの意味でも御馳走さんでした」
 聞くんじゃなかった、と醤は幾何かの後悔を抱え、言葉に棘を滲ませる。翠はいつも通り笑っているようで、そうじゃない。本当に嬉しそうに話す様に、心から蜜希の事が好きなのだと醤は理解させられた。穏やかな笑顔を湛えたまま、翠は話を続ける。
「それにな? あの弁当をずっと食べてると、段々クセになって普通の味じゃ物足りなくなるっつーか……」
「お前がラーメンに瓶丸ごと調味料かける理由がやっとわかったよ」
 一緒に食べに行った折の奇行が、こんな理由だったとは。究極の味音痴カップル、爆誕である。そんな会話を繰り広げていると、酷く不機嫌な、それで透き通った声が醤を咎めた。
「それで、何でワタシがこんな夜中にお前に呼び出されなきゃいけないの?」
 じとり、と醤を睨み、波花梓音(ナミハナシオン)は腕を組む。醤は、バツが悪そうに弁解した。
「仕方無ぇだろ、女子一人だったらみっちゃん心細いだろーし」
「だからって、今まで喋ったコト無いワタシなんかがいても……!」
「何と。シオンは話した事もない級友のために、わざわざ来てくれたのか?」
「えっ?」
 ゆったりとした声が下方から聞こえ、梓音は目を向けた。慣れ親しんだ声に喜びや期待を覚えて語尾は上がり、頬に紅が差す。
「シオンは本に優しいなぁ」
 頷きながら微笑むカグラに、梓音は口元を押さえて悶えた。ひとしきり感激を噛み締めた後、両手でカグラの手を取り、真っ直ぐに見つめる。
「おじいちゃん、ワタシに出来る事があれば何でも言って」
「おお、それはありがたい!」
「チョロ過ぎかよ」
「うふっ! こんな夜遅くにみんなで集まるなんて、ピクニックみたいですね♪」
「お前は緊張感無さ過ぎかよ」
 両手で懐中電灯を持ち、完全にお出掛け気分のマリアに、醤は呆れて言った。
「ムラサキ君、ムラサキ君っ」
「ん?」
 随分控えめな呼び声の後、小枝の折れる音がした。醤は、大木の後ろに隠れている蜜希に手招きされるがまま近付く。
「どうした、みっちゃん?」
「ムラサキ君、どうしてみんなを呼んだの?」
「え?」
 蜜希の困ったような、それでいて怒っているような物言いに、醤は頭を掻きながら苦笑した。言われた通り、最初に相談していたのは醤のみだ。聞けば梓音と全く会話をした事が無いらしく、緊張しているのだろう。
「いやー……リボン探すなら、人数多い方が良いと思ってさ。悪い、波花と話した事無かったんなら気まずいよな?」
「ナミハナさんじゃなくって……どうして、スイも呼んじゃったの?」
 此方は、予想外だった。しきりに、『自分の不注意でリボンが誘拐されてしまったから、翠に嫌われてしまう』と気をもんでいた事を思い出す。しかし、先程の翠の笑顔を頭上に浮かべ、手を振った。
「やっぱり、尾根には話しといた方が良いって。尾根もスッゲー心配してたぜ~? みっちゃんは何も悪くねぇしさ、んな事で尾根はみっちゃん嫌いにならねぇよ」
「う、うん……」
 胸の前で自身の手を握り、頷く蜜希に、醤も安堵する。何気なく周囲を見回すと、ある事に気付いた。
「おい、カグラ!」
「!」
「珍しく、ずっと難しい顔してんじゃねーか。考え事か?」
 思い返すと、ここへ来てからというもの、カグラは口数が少なかった。梓音やマリア、翠とも底々に喋ってはいるが、それを差し引いても普段より少ない。もしかすると、自分の家が建っていた場所である事や、自分の悪い噂がたっている事に思う所があるのかもしれない、と醤は声を掛ける。
「まあ、いくらお前でも怒るよな。悪くねぇのに、変な噂たてられりゃ……」
「……いや、そうではないのだが……」
「ハッキリしねーなぁ! 良いから言えって!」
 これまた珍しく煮え切らない言い回しをするカグラに、醤は焦れて急かした。醤に言われても暫くは躊躇っていたが、自分を納得させるためか小さく頷き、カグラは答える。
「……すまぬ。お前の友人を、疑う訳では無いのだが……どうにも引っ掛かってな」
「『友人』って……みっちゃんか? みっちゃんが、どうしたってんだよ?」
 顎に手を当てたまま首を傾げるカグラに、醤は言及する。梓音や翠なら、カグラは名前を言うはずだ。敢えて『醤の友人』と表現するという事は、カグラと初めて会った蜜希の事だろう。心情を映しているのか、緑の光は揺らいだ後、醤に向けられた。
「……何故、『虫の知らせ』が来なかったのだ?」
「え……」
 その通りだった。昨晩、『虫の知らせ』は来なかった。本日帰宅後、事実確認をしたら、カグラが『平和が一番』と笑っていたくらいだ。だから、カグラは昨晩出掛けなかった。
 
 ならば、何故。蜂矢蜜希は、リボンが誘拐された際に助けを求めなかったのか?

「……考え過ぎだって!」
 醤は、胸のわだかまりを振り切るように、明るく努めた。醤の気持ちを、カグラも察したのだろう。もう一度、頷いた。
「……そうか。そうだな」
「そーそー! 大体よー!」
 醤はおもむろに足元の小石を拾い上げ、草むらに向かって投げる。
「ギャイン!?」
途端、尻尾を踏まれた犬の鳴き声のような悲鳴が轟いた。草が大きく揺れた後、立ち上がった黒い影は忌々し気に声を上げる。
「おのれぇ、村崎醤! いきなり石をぶつけるとは、何とも姑息な……!」
 出てきたのは、秘密結社テクノポリスが一人・タバスコだった。頭に出来た真新しいタンコブを擦りながら憤る男に醤は足早に近づき、その胸倉を掴み上げる。
「ピィッ!?」
「どぉーせ、今回もお前の所為なんだろ? さっさと盗んだメダロット返せよ」
 眉間にたっぷりと皺を寄せ、タバスコに詰め寄った。タバスコは、勢いよく首を左右に何度も降る。
「違う違う違う違う! 今回は盗んでない! 俺は、お前らに奇襲を掛けようと隠れてだけだ!」
「『だけ』じゃねーだろふざけんな!! 元はと言えば、テメエの所為で神社無くなってんだよ!!」
「今関係無いじゃん!? 頼む、声のボリュームを落としてくれ! そうでないと……!」

 ウフ。

「おい、笑って誤魔化してんじゃねーぞ!!」
「違っ、俺じゃない!」

 ウフフ、フフ……フフフフフッ……。

 女の、笑い声だった。醤は咄嗟に梓音と蜜希を見るが二人は立ち竦むばかりで、キョロキョロしているマリアでもない。
「ギャアアアアア!! お化けええええええ!?」
 タバスコは、醤の手を払い除け、一目散に逃げ出した。笑い声と共にどこからか風が吹き、草木を揺らす。風と木々の音しかない中、醤のこめかみに汗がつたう。
「もし」
 耳元で、同じ声がした。視界の端では火の玉が舞い、醤は、金縛りに合ったように動けない。
「そこの貴方、恋をしてらっしゃるのん?」
 ヒタリ、と冷たい物質が、醤の頬に触れる。得体の知れない感覚、そして意図がわからない質問からの恐怖で、醤の中で何かの糸が切れ、堰を切ったように叫んだ。
「ああ゛ぁああああああ!?」
 次の瞬間。
 銃声が響くや否や、醤の背中の重圧は消えた。硝煙が上がるリボルバーを構え、カグラは醤の身を案ずる。
「ショウ! 大事無いか!?」
「何かヒヤッとしたああ!?」
「……そうか、怪我が無くて何よりなのだよ」
 会話のキャッチボールが不完全だが、カグラは胸を撫で下ろす。
「……全く、ニンゲンは不躾ねん」
 砂糖を煮詰めたような声に、一同は視線を集めた。そこでは、カグラに撃たれたらしい『火の玉』を大事そうに撫で。
「『感謝』というものを知らないわん」
 軽蔑を訴える目つきで醤達を見据える、巫女型メダロット・シャーマンミコが佇んでいた。触れられた頬を押さえ、醤は声を張り上げる。
「誰だテメエは!?」
「あら、聞いた事ないかしらん?」
 シャーマンミコが手を開くと、彼女の周りに火の玉が浮かび上がった。
「私は、『恋のキューピッド様』。気軽に、『キューピッド様』って呼んでねん♪」
 正体を知るや否や、醤から恐怖は消え、胸には怒りが戻ってくる。見るからに怪しいシャーマンミコを指差し、醤は確信を持って怒鳴った。
「キューピッド様だかエンジェル様だか知らねぇが、テメエがリボンを攫ったのか!?」
「まあ!? 風評被害も良い所だわん! 『リボン』てだぁれ? ……あら」
 最初は怒っていたシャーマンミコも、『何か』を見つけるや否や、嬉しそうに笑顔を歪めた。
「また、恋を叶えてもらいに来たのん?」
 びくり、と声を掛けられた人物の両肩が跳ねた。翠は、恐る恐る名を呼ぶ。
「……ミツキ?」
 蜜希は、ゆっくりと顔を上げた。その顔は酷く青ざめており、翠と目が合った途端に一粒、涙が零れる。
「違う。違うの、スイ……」
「失礼ねん! 私はよぉく覚えているわん!」
 空気を読まず、甘ったるい声は止まらない。
「だって貴方、」
「違う。嘘です、やめて……」
「自分の恋を叶えるのと引き換えに、」
「や、嫌っ……やめてええええええっ!!」
 蜜希の悲痛な叫びを無視し、シャーマンミコは言い切った。

「とっても大事な『オトモダチ』、私に捧げたんだものねん?」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「もう字数が無ぇ! 次回、『六角形の神サマ』第弐拾壱話! 『恋之神様(後篇)』! 以上、恋愛回とホラー回は心底混ぜて欲しくない主人公でした!!」

六角形の神サマ 第弐拾壱話/恋之神様(後篇) ( No.21 )
   
日時: 2020/03/20 15:33
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第弐拾壱話/恋之神様(後篇)





 蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)は、平凡な人間だった。何事も底々こなし、誰にでも分け隔てなく優しく、交友も幅広い……今の生活が続くのであれば、これといって何も望まない少女だった。
 ところが、御守高校に入学した日。
「御守中から来ました、尾根です!」
 蜜希は、人生初めて、欲しくて堪らなくなった。
「趣味は、体を動かす事です! 運動系の部活に入ろうと思ってますが……正直、たくさんあり過ぎて迷ってます! よろしくお願いします!」
 HRの自己紹介で穏やかに笑う彼の名は、尾根翠(ビネスイ)。スポーツ推薦で入学した少年だ。友人の輪の中ではいつも落ち着いており、蜜希には、他の生徒よりも大人びて見えた。
 だが、体育の授業になると。
「オン・ユア・マークス! ……セット!」
 低く屈み、ゴールを見据える目には、強い光が宿っている。号砲が鳴れば、誰よりも速く駆け抜けた。一番得意だったのは100m走だったようだが、翠は他の競技も上手かった。例えば、サッカーでも。
「尾根、頼むわー」
「佐藤! ナイスパス!」
 ドッジボールでも。
「へぶっ!?」
「仇は取るからな、村崎!」
 一度競技に出れば、いとも簡単にヒーローになれるものだから、当然女子からは大人気だった。
「尾根君良いよねー!」
「こないだ、三年の先輩にも告られたんでしょ!? ヤバくない!?」
「ダイジョーブ! その先輩もフラれたってー!」
「あの先輩がダメなら、もう誰が告ったって無理じゃん!」
 アハハ、と笑いながら、どこのクラスかもわからない女子のグループは、これまたどこかへ消えていった。蜜希が教室に戻ると、当人は運動部にもモテていた。
「尾根! まだどこも入ってないんだろ!? 是非、我が野球部へ!」
「えーっと……野球も良いよなぁ~」
「助っ人来てくれた回数なら、うちが断然多いし! 尾根、サッカーだよな!?」
「ああ、サッカーなぁ……」
「何言ってんだよ! 尾根はウチ来んだよなー!? 中学でバスケ部だったんだろ!?」
 その一言に、蜜希は静かに見開いた。この時点で、蜜希は陸上部に入部していた。仲の良い友人に誘われた事、そして、短距離走が得意なら陸上部に入るかもしれないと期待した事も相まって、足早に陸上部へ入部したのだが……時期早々だったのかもしれない。
「中学でバスケしてたんなら、バスケ部入るよね……」
 誰もいない更衣室で、蜜希は一人呟く。ロッカーの戸を閉めて、考え込んだ。どうしよう。バスケ部に、入部し直そうか? それは、折角誘ってくれた友人に申し訳ない。だったら、自分と翠の共通点はクラスだけ。もしも、クラス替えで離れてしまったら?
 気付けば、蜜希は走り出していた。
『みっちゃん! 『恋のキューピッド様』って知ってる?』
 昼休み。弁当を食べながら話していた、友人の言葉を思い出す。
『御守神社には、恋の神様がいるんだって! 誰もいない御守神社で片想いの子が恋愛成就のお参りするとね、願いが本物なら恋の神様が出てきて、百発百中両想いにしてくれるらしーよ!』
 噂が本当かは、わからない。しかし、蜜希は噂に縋るしかなかった。御守神社のお堂の前で、蜜希は必死に呼吸を整える。
「何も取り柄の無いわたしが、ビネ君と付き合えるなんて……っできっこない……! だから……!」
 噂通り、五十円玉と一円玉を賽銭箱に投げ、蜜希は手を合わせ、力強く目を閉じた。
「お願いですキューピッド様っ……わたしの恋を、叶えてください!!」
 願いを叩きつけるように、叫んだ直後。
「もし」
「え?」
 手に冷たい物が触れ、蜜希は反射的にそちらを見る。目に入ったのは、白い筒。
「そこの貴方、恋をしてらっしゃるのん?」
 巫女の格好をした、メダロットだった。神聖な出で立ちに、蜜希は息を飲んで尋ねる。
「もしかして、貴方が……!?」
「そう、呼ばれて飛び出て恋のキューピッド様よん♪」
「わぁ、本物なんですね!!」
 噂は、本当だった。蜜希は、感激のあまり声を弾ませる。『恋のキューピッド様』と名乗るシャーマンミコから瞳をじっと覗き込まれ、蜜希は思わず顔を引いた。
「な、何ですか……?」
「……その片想い、叶えて欲しいのん?」
 ゆっくり紡がれた質問に、蜜希は何度も頷いた。
「ハ、ハイ! 叶えて欲しいです!」
「どうしても?」
「どうしても、です!」
 そう、とシャーマンミコは、一度視線を外して呟いた。その後、口を開く。
「わかったわん。気に入った、貴方の恋を叶えましょうん」
「あっ! ありがとうございます!!」
 蜜希は、嬉しくて堪らなかった。あの翠と自分が交際できるなんて、今も信じ難い。深々と下げた蜜希の頭に、シャーマンミコの声が降り注ぐ。
「但し、お約束があるのん」
「『約束』……ですか?」
 不思議そうに、蜜希は頭を上げる。シャーマンミコは、右の白い筒で指し示す。指したのは、蜜希のメダロッチだった。
「え……」
「もし、貴方の恋が叶ったら……一年後、貴方のメダロットを頂くわん」
「え!? それは困ります!!」
 蜜希は、衝撃の余り声を荒げた。リボンは、小さい頃から一緒に過ごしてきた、大切な友人だ。翠と付き合うためにリボンを失うなど、蜜希には考えられなかった。シャーマンミコは短く息をつくと、肩を竦める。
「……そんなに大事なら、仕方ないわねん。貴方の願いを白紙に戻すわん」
「ハイ、すみません……」
 蜜希は会釈し、シャーマンミコに背を向ける。これで良い、リボンを失わずに済む。翠の事は最初から無理だったのだ、諦めよう。……でも。
「本当に良いのぉん?」
「ヒッ!?」
 浮いたシャーマンミコに後ろから抱き締められ、蜜希は短い悲鳴を上げた。シャーマンミコは、蜜希の耳元で囁き続ける。
「その恋は、貴方に諦めきれるのん?」
「あ……」
「私抜きで叶えるなんて甘い考え、しない方が良いわよん? だって、そうでしょうん?」
 ケヒッ、と下品な笑い声を混ぜ、シャーマンミコは幾分か低い声を落とした。
「貴方みたいに何の取柄もないニンゲンが、誰かに愛される訳無いものねぇん?」
 蜜希は、鞄を落とした。顔からは、みるみる血の気が失われる。
「その大事な『オトモダチ』だって、貴方の恋を応援してるんでしょうん? 『オトモダチ』って、そういうものじゃないん」
 蜜希は、滲んだ世界で、リボンの笑顔を思い浮かべた。恋の相談をする度、笑顔で元気づけてくれたリボンに、蜜希は涙が止まらない。
「だったら! 何が何でも、貴方の叶うはずのない恋を叶えなきゃ! 叶エナキャ!!」
 びく、と両肩が跳ね、地面が涙を吸い込んだ。微動だにしなくなった蜜希を解放し、直前とうって変わり、元の軽やかな口調へと戻る。
「悪趣味だから、無理強いなんてしないわん。精々、頑張りなさいなん」
「待って!!」
 制止の声に、シャーマンミコは内心ほくそ笑む。全てを理解した上で、何事も無いかのように振り向いた。蜜希の涙が、花弁と共に散る。
「あのっ、わたし……!」





「それから、ずーっと待ってたのよぉん? 両想いになったのに、約束を破って報告しないんだものん。誰のお陰で、恋愛成就できたと思ってるのかしらん?」
 時は、現在。御守神社跡地の夜。
 シャーマンミコは、得意気に一年以上も前の話をすると、さも困っているかのように頭を抱えて見せた。蜜希は地べたに座り込み、ずっと嗚咽を漏らしながら泣いている。
「うっ、うっ……!」
「ミツキ、何で……?」
 翠は、信じられないような目で蜜希を見る。明らかに現状を把握しきれず、酷く戸惑った様子であった。翠と蜜希はそんな状態であるし、カグラも波花梓音(ナミハナシオン)もずっと黙り込んでいる。正直、普段の蜜希と語られた蜜希が結びつかず、村崎醤(ムラサキショウ)も混乱していた。混乱してはいるが、今なら『虫の知らせ』が来なかった理由もわかる。翠から嫌われぬよう、自分の負の感情を隠したかったのだろう。蜜希が決断した行為は絶対に許される事ではないが、醤は蜜希を憐れんだ。
今動けるのは、自分しかいないだろう。醤は確信し、シャーマンミコに向かって怒鳴る。
「テメエ!! 何だってこんな事すんだよ!?」
「『こんな事』ぉん? 悩める乙女の恋を叶える、素敵なお仕事じゃないん?」
「そっちじゃねぇ!! メダロット奪う理由がわかんねぇっつってんだよ!!」
「やあねぇん、坊や。神様に願い事を叶えてもらうなら、お供え物が必要なのよぉん?」
 カチン、と醤の頭の中で音が鳴る。子ども扱いも無論腹立たしかったが、『神様』にとって大事なのは、決して供物の有無では無い事を知っていたからだ。それを、醤の『神様』は嫌という程教えてくれた。
「神様ナメてんじゃ……!!」
「やはりな」
「ずっと喋ってなかったのにこのタイミングかよクソジジイ!?」
 シャーマンミコに物申す所でカグラから口を挟まれ、醤は恥ずかしさのあまり叫んだ。誤魔化そうと、醤はぶっきらぼうに尋ねる。
「んで!? 何がわかったってんだ!?」
「あの者から、神気は感じられない」
「何だと!? それって……!」
「ふむ。紛れもなく、普通の絡繰りなのだよ」
 カグラが見据えてそう言うと、シャーマンミコは、肯定も否定もせずに腕を組む。カグラが言うのであれば、間違いなく何の変哲もないメダロットなのだろうが。
「でも、尾根とみっちゃんは付き合ってんだぞ!?」
「『愛機』という相当の対価を払っておる程、必死なのだ。今回の件も含め、恋が成就したのは本人の実力なのであろうよ」
「詐欺じゃねぇか!?」
「『詐欺』なんて失礼ねん」
 不服そうに言った後、シャーマンミコは両手を空へ振りかざす。
「私は、臆病なその子達の背中を押してあげたのよん? メダロットの事だって、私が追い込んであげたから成就できたんじゃないのん?」
「本質は違うなぁ、御嬢さん?」
 カグラの問い掛けに、シャーマンミコはぴくり、と反応する。面白くなさそうな顔で押し黙る様子を見て、カグラは推測を続けた。
「其方にとって重要なのは、恋愛成就ではない。供物を指定する辺り……見定めたかったのは、『人間が過酷な状況下でも、絡繰りを手放さないか』、ではなかろうか?」
 カグラの言葉に、蜜希は顔を上げてシャーマンミコを見た。今まで気付かなかったが、よく目を凝らすと、機体の所々に罅が入っており、長い間人の手が入っていない事がわかる。シャーマンミコは、俯いた。
「……ニンゲン程、愚かで勝手な生き物を見た事が無いわん」
 先程とは似ても似つかない、低い声だった。地べたを這いずり回るような声で、シャーマンミコは話し続ける。
「私の元マスターは、可愛い女の子だったわん。本当に、目に入れてもちっとも痛くないくらい、可愛かった。女の子だものん、『もっと可愛くなりたい』と思うのは当然の願望じゃないん?」
 でも、と付け足し、シャーマンミコは自嘲気味に笑った。
「まさか……お化粧や、お洋服に夢中になるあまり……私が捨てられるなんて、思ってもみなかったわん」
 シャーマンミコの周囲を飛ぶ火の玉が、音を立てて火力を増す。まるで、シャーマンミコの憤りを映しているようだった。
「『ごめん、飽きちゃった』? 『メダロットを差し上げますから、恋を叶えてください』? ウフッ、女の子って可愛いわぁん、ウフフフ。可愛くって、可愛くって……いっそ、憎たらしいぐらい!!」
 シャーマンミコの思いに共鳴し、火の玉から火柱が上がる。蜜希を鋭く指差し、感情を叩きつけるように罵倒した。
「だから、お望み通り奪ってあげたのよ!! なのに、何よその顔!? お前達は、決まって被害者ヅラをする!! 恋と天秤にかける度に捨てられる、私の絶望なんて知りもしないでっ……泣きたいのは私の方よ!!」
 悲痛な叫びに呼応するかのように、炎は燃え盛る。そんな中、梓音は無言のまま、シャーマンミコへと歩み寄った。マリアやカグラ、醤は慌てて呼び止める。
「しぃちゃん!!」
「いかん!」
「戻ってこい、波花!!」
「何よ!? 来るなニンゲン、」
 ガヒュッ。声にならずに空気として漏れたのは、梓音がシャーマンミコの首根っこを片手で握り締めたからだった。突然の暴挙に、シャーマンミコのみならず、醤達も言葉を失う。静寂を壊したのは、梓音の声だった。
「で?」
「え゛っ!?」
 あまりに威圧的な声に、シャーマンミコはどもる。声が濁っているのは、梓音が握り続けているからだろう。梓音は顔を突き出し、シャーマンミコに詰め寄った。
「で、お前は何なのよ?」
 梓音のあまりの気迫に、火の玉は火力を失い、みるみる内に萎んでいった。どれだけシャーマンミコが恐怖を感じているのか、よくわかる。シャーマンミコが硬直していると、梓音の手が握り潰さんとばかりに力が入った。堪ったものではない、とシャーマンミコは慌てて返答する。
「えーっと、あのぉ……だから、『恋のキューピッド様』、」
「何度も聞いたから、それはもう良い。……確かに、お前に同調する部分はある。ワタシのマリアも……元は、心無い人間に捨てられた」
 梓音は、目を伏せたまま続ける。
「だから、メダロットを捨てる人間は全員しねと思ってるし……お前に唆されたみたいだけど、蜂矢さんの事だって、正直ぶん殴ってやりたい」
「しぃちゃんっ……!」
「感激してっけど、内容物騒じゃね?」
 梓音の言葉に涙を滲ませるマリアに、醤は落ち着き払ってツッコんだ。また、梓音が捨てられたメダロットの気持ちを理解しているとわかると、シャーマンミコは明るい声を上げる。
「だったら……!」
「でも、お前は関係ないじゃない?」
 バッサリと、梓音はシャーマンミコの期待を切り捨てる。呪詛を唱えるように、梓音は低い声で続ける。
「付き合うとか付き合わないとか、全部あの人達の問題じゃん。何で無関係のお前が、メダロット貰える話になんの?」
「だからそれは、捨てられたから……」
「それは、お前の問題でしょ? 『私は捨てられて可哀想だから、お涙もメダロットも頂戴』ってワケ? ふざけんな。勝手に首突っ込んどいて、被害者ヅラしてんのはどっちなの? それに……お前が無関係なら、おじいちゃんはもっと無関係なのよ……!」
「『おじいちゃん』て誰!?」
 梓音が怒り心頭な理由に合点がいき、醤は半開きの口で頷いた。カグラが風評被害を受けた事に、梓音もしっかり怒っていたらしい。
「ちっ……!」
「!?」
 シャーマンミコは、舌を打つや否や、右腕・ヒトダマスフィアの照準を梓音へ向けた。大人しいシャーマンミコに油断しきっていた一同は、慌てて前へ出る。
「テメッ……!?」
「動かないでねん? 動いた瞬間、この子にウイルスを撃ち込むわん」
 醤に苦々しく笑い掛けた後、シャーマンミコは梓音の方へ視線を戻す。
「お嬢ちゃん、随分好きに言ってくれたじゃないん? 私がメダロットだって事、お忘れじゃないかしらん?」
「……」
「ウフッ、やっぱりヒトの子ねん? ウイルスがいつ撃ち込まれるのか、内心怯えてるんでしょうん? メダロットのウイルスがヒトにどう作用するのかはやってみないとわからないけど、とびっきりの美人さんにしてあげましょうねん?」
 腕の筒の内部が赤く光り、梓音の顔を照らす。シャーマンミコの顔が、愉しそうに歪んだ。
「どんな厚化粧でも隠しきれない、ウイルスまみれの顔にぃッ!!」
 まさに、シャーマンミコが攻撃しようとした時。
行動パーツが、音を立てて崩れ落ちた。
「なっ!?」
 まるで、ひっくり返したパズルのように、様々な部品がバラバラと地面に零れていく。シャーマンミコがティンペットとなった自身の右腕を凝視していると、次いで左腕・オミクジボールが、更には脚部・レッドハカマーが崩れ、最終的に梓音に捕まれている首で、辛うじて地面から浮いている状態となった。
「……ワタシがこうしてられるのは、お前がメダロットだから」
 恐る恐る、シャーマンミコは梓音に顔を戻す。ドライバーを右手でかざし、梓音は見下ろして言い放った。
「お前なんか、ドライバー一本で充分よ」
 涼しい顔で頭パーツ以外の機体を分解した梓音に、一同は絶句する。そんな中、マリアだけが頬に手を当て、微笑ましく見ていた。
「すごいでしょう!? しぃちゃん、メダロットのネジの位置をぜーんぶ頭に入れてるんですよぉ♪」
「何と! シオンは賢いなぁ」
「それと分解できるかどうかは、また別の話だと思う」
 あのドライバーが普段であれば自分に向けられているため、更には、『やろうと思えばいつでもカグラのメダルハッチを抉じ開けられる』事を実感したため、醤からすると他人事では無かった。梓音を見て震え上がるシャーマンミコを、梓音は鼻で笑う。
「……ああ、勘違いしないで。お前を頭だけ残したのは、情けなんかじゃなくって、言っておきたい事があるからなの」
 月光で、ドライバーが鈍く光る。『これ以上何を言うつもりなのだ』と、シャーマンミコは戦々恐々とした。
「『神様』ってね、恨み節の一つや二つで簡単になれるモノじゃないのよ。見返りなんて関係無く、困ってたら誰でも助けてくれる、優しいヒトなの。……村崎と同じ意見なんて本当に腹立つけど、」
「おい」
「今回ばかりは、仕方ないか」
 醤の声を無視し、梓音は下等生物を見る目つきで吐き捨てる。
「神様なめんな」
 氷点下に感じられるその声に、シャーマンミコは、絞首台に立たされている心地がしたのだった。
「……待って、ください!!」
 切羽詰まったその声に、梓音は手を止めた。二人揃って、声の方へと顔を向け、大きく目を見開いた。
「ごめんなさい!!」
 蜜希が、地面に手をつき、深々と頭を下げていた。目を強く綴り、シャーマンミコへと訴えかける。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……!! わたし、自分の事ばっかり考えて、本当にごめんなさい!! もうとっくに嫌われてるかもしれないけど、スイとはちゃんと別れます!! だから、お願いですっ……リボンを返してください!! 勝手でごめんなさい、お願いしますっ!!」
 蜜希は、地面に爪を立てて咽び泣く。失う前からわかりきっていた事だが、蜜希にとってリボンの存在は大き過ぎた。
「何回でも謝ります!! 何でもしますから、お願い、しまっ……リボンがいないなんて、嫌なんです……!」
 シャーマンミコも、醤達も黙り込む。やがて、蜜希の隣で、砂利を踏む音が響いた。
「……俺からも、お願いします」
 よく耳に馴染んだその声に、蜜希が僅かに頭を上げると。
「ミツキに……リボンを、返してください!!」
 翠も、隣で土下座をしていた。いくら今はかろうじて恋人であっても、自分のために翠が土下座するなんて、蜜希には耐えられなかった。蜜希は体を起こし、泣きながらも懸命に翠の体を揺すった。
「すみませんでした!! 俺の所為なんです!!」
「スイっ、何で……何で、スイまで謝るの……!」
「ミツキがこんな事したのは……」
 覚悟を決めたように一拍置き、翠は、思いの丈を言い放つ。
「俺が……ミツキに、早く告白しなかったからなんです!!」
 まるで、翠の方が先に惚れていたかのような口ぶりだった。蜜希は、信じられないとばかりにぽつりと漏らす。
「うそ……」
「緊張して具合悪くなった子に、誰よりも速く駆け寄ってて、『優しいな』って……『入学式からずっと目で追ってる』って、友達に言われて気づきました!! でも、何て話し掛けたら良いかわかんなくて、全然話し掛けらんなくて!! 同じ部活だったらちょっとは喋れると思って、俺も同じ部活に入ったんです!!」
 何も特技が無い自分なんて、誰かに好かれる事は無いだろうと蜜希はずっと思っていた。翠と相思相愛になれるだけで奇跡なのに、まさか翠が先に好きになっていたなんて想像できただろうか? 蜜希は、翠との記憶を辿る。あの頃の翠の行動全てが、するすると紐解かれていった。
『同じクラスの、蜂矢さんだよな? 俺も……みんなみたいに、『みっちゃん』って呼んで良いか?』
 翠が、陸上部へ入部した時も。
『みっちゃん! 次の試合も、ハチミツレモン頼むよ! コレ食うと、ガッツリ気合入るんだ! ……マジで!? あんがとな、楽しみにしてる!!』
 誰も手をつけなかったハチミツレモンを、翠が完食してくれた時も。
『あー……今の、見た? ……みっちゃんにだけ言うけど、俺好きな子いてさ』
 告白を断った現場を、蜜希が見てしまった時も。翠はいつも、自分に笑い掛けた。思い返すと、翠は本当に。
『笑わないで、聞いて欲しいんだけど……最近やってる映画で、どれ見たい……っすかね……?』
 とことん、不器用な人だった。翠と過ごしてきた夢のような時間が、感情と共に、蜜希の目から溢れ出す。
「お願いします!!」
 翠の懇願する声で、蜜希は現実に引き戻された。ここは広々としたグラウンドではないし、部活の帰りに何度も見た夕日はとうに沈み、どっぷり夜になっている。翠は、手元の土を強く握り締め、言葉を続けた。
「俺がっ、さっさと勇気出してれば、ミツキだってこんなバカな事しなかったんです!! ミツキの事は好きだけど、必要なら別れます!! だから、ミツキを許してください!! リボンを返してください!! お願いします!!」
「スイ……もう、やめてよぉ……!」
 耐え切れなくなった蜜希は、翠の背中に縋りついて涙を零す。梓音の手の中で、シャーマンミコは怒気を含ませて口を開いた。
「な、何を勝手な事を……!」
「みっちゃん、スイ君……そんなに謝らないで」
 ゆらり、と木にもたれ掛かる影へと、全員が目を向ける。そこには、攫われていたはずのリボンが佇んでいた。
「いっぱい心配かけて、本当にごめんね」
「リボン!!」
「……あれだけウイルスを撃ち込んだというのに、メダルを抜いとけば良かったわん……!」
 蜜希がリボンに抱き着くのを見て、シャーマンミコの顔が悔し気に歪む。その言葉に、リボンはやんわりと首を振った。
「いいえ、その必要はありません。私、……」
 俯いて言い淀んだ後、リボンは再び蜜希へ視線を戻した。
「みっちゃんに、ちゃんとお別れを言いにきたんです」
 蜜希は、大きく目を見開いた。みるみる内に新しい涙が浮かび、流れていく。蜜希は、リボンを強く抱き締めた。
「リボンっ、何で!? わたしの事、嫌いになったから!? 本当にごめんねっ、謝るから……お願いだから、帰ってきてよぉ……!」
「……私、今も、これからもずーっと、みっちゃんの事大好きよ。大好きだから……みっちゃんには、大好きなヒトと一緒にいて欲しいの」
「わたしが大好きなのはリボンだよっ!!」
「それが聞けただけで、私は充分。みっちゃんはスイ君といて。どんな約束だって、守らなきゃ」
 リボンは、蜜希の二の腕に手を添え、優しく引き剥がす。目の前の光景が信じられず、シャーマンミコは震える声で尋ねた。
「憎く、ないのん……?」
「全然。だけど、みっちゃんの花嫁姿を見れないのは残念だわ」
「貴方、捨てられたのよん……!?」
「これで良いんです。私は、みっちゃんが幸せになってくれるだけで良いの」
「良い訳ないじゃない!!」
「良いの!!」
 叫んだリボンに、シャーマンミコは押し黙る。
「だって、だって……!」
 スカートに当てた拳に、力が込められる。やがて。
「家族って、そういうものじゃない……!」
 ほろり、とリボンの目から涙が零れた。リボンが泣くのを見て、蜜希の涙腺も決壊する。他の誰もが発言できぬ中、間の抜けた手鼓だけが響いた。
「巫女殿が、ミツキの家に来れば良いのではないか?」
 カグラは、自分の発言でフリーズしてしまった一同を見て、首を傾げる。『ミツキ』と呼び捨てにしているという事は、ちゃっかり孫認定したのだろう。素っ頓狂な発言に最も免疫がある醤は、誰もが心に浮かべる短い言葉を吐いた。
「……は?」
「ミツキは、皆と一緒にいたい。巫女殿は、リボン嬢が欲しい。リボン嬢は、本当ならばミツキと一緒にいたいが、約束を守るために巫女殿といたい。なれば、皆で一緒に暮らせば万事解決ではないか」
「ジジ様天才ですか!?」
「解決してたまるか!! バカじゃねーのお前!? さっきまでドンチャカしてたのに、『ハイそうですか』って納得できるワケ、」
「「そうしますっ!!」」
「ええぇえええええ!?」
 まさかの蜜希・リボン組の一発採用に、醤は口を尖らせて驚く。シャーマンミコは、『冗談じゃない』と言わんばかりに慌てて口を開いた。
「何勝手に決めてるのよぉん!? 私は願い下げ、」
「おじいちゃんの言う通りにするか、メダルのまま一生ドブを泳ぐか選んで」
「あっハイ不束者ですがよろしくお願いします」
 梓音からドライバーを突きつけられ、シャーマンミコは抑揚なくそう言った。蜜希はようやく表情を明るくし、シャーマンミコに笑い掛ける。
「ありがと! わたし頑張るから、こちらこそよろしくねっキューピー!」
「ぎいいいいいっ!! 早速変なアダ名つけてえええっ!!」
 余程新しい名が不服だったのか、シャーマンミコ……もとい、キューピー()は手をわななかせた。そんな二人の様子とカグラを、醤は交互に見る。あまりの手慣れた様子に、『カグラはこうして捨てられたメダロットの世話をしてきたのだろう』と、呆れるくらいのお人好しならぬおメダ好し加減を実感した。
「村崎!」
 翠は、手をかざして歩み寄る。
「今日は、遅くまで付き合わせてごめんな。本当にありがとう」
「気にすんなよ。良かったな、尾根」
「ああ。シャーマンミコが言ってたんだけど、他のメダロッチは雑木林の中に隠してるんだってさ。一緒に探してくれないか?」
「ったく、面倒な所に隠しやがって……」
 醤はげんなりしながらも、翠と共に雑木林に足を進める。懐中電灯を片手に、辺りを見回した。
「なぁ、尾根。今日は回収難しくねーか? 何か薄気味悪いしよ……」
「そうは言っても、ミツキ以外の女の子だって困ってるだろ? 場所もわかってるしすぐ終わるよ」
「へいへい、イケメンは言う事が違いますねー」
「村崎ー!」
 名前を呼ばれ、醤は反射的に後ろへ振り向く。
「……ハイ?」
「一人で林ん中入ったら危ないだろー!? 他のメダロッチも見つかったし帰るぞー!」
 醤を呼んだのは、雑木林の入り口付近から懐中電灯で此方を照らす、翠だった。
「…………あれ?」
 何かがおかしい。違和感を拭い去るべく、醤は横目で前方を見る。己の懐中電灯が照らす後ろ姿は、紛れもなく翠だった。前にいる『翠』は、足元の小枝を踏み割り、ゆっくりと醤の方へ向こうとした。
「でっ、出――ッ!? 悪霊退散!! 悪霊退散!! エロイムエッサイムううううう!!」
 疾風の如く皆を横切り、石段を駆け下りていった醤を見て、一同は揃って首を傾げる。
「何で最後悪魔呼び出してんの……?」
「はて、あの慌て様……『週間メダロット』か?」
「『週間メダロット』なら仕方ないなー」
「ムラサキ君らしいねぇ」

 その日から今も、懐中電灯は一つ足りない。





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「次回、『六角形の神サマ』第弐拾弐話。『永遠幻想曲(前篇)』。今回店番で、次回も出番無いとかあんまりじゃねえ?」

六角形の神サマ 第弐拾弐話/永遠幻想曲(前篇) ( No.22 )
   
日時: 2020/03/20 15:37
名前: 海月

『……お天道様は見逃しても、俺の目は誤魔化せんぞ』
『ぬぬぅ!! 貴様、何奴!?』
『何。闇に紛れて人を殺める……お前と同じ、外道さ』
 よく晴れた、昼下がり。外では、蝉が連日忙しそうに合唱している。
夏休みを迎えた村崎醤(ムラサキショウ)は、自宅の居間で麦茶を片手に、カグラの付き合いで時代劇を見ていた。断じて、作品を間違えている訳ではない。液晶を見ながら、カグラは息をつく。
「……良いなぁ、ワシも必殺したい」
「死神にでも転職する気か?」
 随分、物騒な道祖神がいたものだ。立場上、カグラだったら容易く実現できそうで、醤は恐怖一分、暑さによる苛々九割九分でツッコんだ。ただ『格好良い』という理由で時代劇の侍に憧れ、可能であろうともカグラは実行しない事を知っているからこそ、醤は今もこうして麦茶を飲んでいるのである。
『ここで、番組からのお知らせだ!』
 主人公の侍が、画面に向かって刀を向ける。台詞のミスマッチ加減が、何とも間抜けだ。
『シリーズ十周年を記念し、この度、メダロッ島にて宴を開く運びとなった! 集え、同志達よ!!』
 ガタ、と音を立てて、カグラが椅子から立ち上がる。醤が何も言わずその様子を見ていると、カグラはテーブルに視線を落とした後、落ちるように再び席についた。麦茶を飲み下した後、醤は尋ねる。
「……行きてぇのか?」
「…………まさか」
「コッチ見て言えよジジイ」
 痩せ我慢をしているのが見え見えだった。指摘を受けたカグラは、醤の方へと向き直り、努めて冷静に諭す。
「万が一行きたくとて、ワシには叶うまい。ショウが言うように、ワシは道祖神だ。例え、神社が無くなっても、この町を出るのは許されぬ。出られたとしても、だ。ワシの不在時に、助けを求める者がいるやもしれぬ。責務を放棄し遊び惚ける等、ワシには出来n」
 適当に相槌をうっていた醤だったが、あまりにも長過ぎるため、メダロッチの画面を押したのだった。





『六角形の神サマ』 第弐拾弐話/永遠幻想曲(前篇)





「出られて良かったな」
「ショウよ。お前の気持ちは嬉しいが、問答無用で貨幣石を強制排出するのは如何なものだろうか……?」
 上も下も、彼方まで青が広がる世界。醤とカグラが乗るメダロッ島行きの船は、波を掻き分けて進んでいた。爽やかな夏の風景とは裏腹に、カグラの顔は御守町への心配で曇る。しかし、自分を考えての行動だと理解しているため、醤を叱れないでいた。
「御守町を出られるのなんて、わかってた事じゃない。鎖界神社のお祭りだって、おじいちゃんは行けたワケだし」
「何で息をするようにいらっしゃるの?」
 ごく自然な流れで会話に入ってきた波花梓音(ナミハナシオン)に、醤はツッコまざるを得らなった。いつもの蝶のカチューシャに、膝丈の真っ白なワンピース。そんな柔らかい印象を引き締めるためか、足元には大人びたサンダルを合わせている。潮風がミントグリーンの髪を揺らし、太陽光で輝く水飛沫が舞う中佇む梓音は、さながら夏の風景画のようだった。……のだが、醤にとって今はどうでも良い。恐る恐る指を差し、梓音に尋ねる。
「おい、何でココにいやがる。言っとくけどな、メダロッ島はモヤシが一日中遊べるような場所じゃねぇぞ?」
「お生憎様。メダロッ島は、凶悪ヅラが集まる羅生門じゃないわよ」
「羅生門のババアと同じ目に合わせてやろうか?」
「これ、やめぬか二人共」
 日常茶飯事の喧嘩を繰り広げる二人に、カグラは目を細めて手を振る。カグラに言われ、醤と梓音は火花が散りそうな程睨みを利かせた後、ほぼ同時に顔を背けた。好きなものも一緒、タイミングも一緒で仲が良さそうなものなのに、顔を合わせると喧嘩ばかり。同族嫌悪か、はたまた喧嘩する程何とやらか。微塵も疑問に思う事無く、梓音は視線を外したまま腕を組む。
「……今日、メドロッ島で時代劇のイベントがあるでしょ? それを見に行くだけよ」
「お前が見たいのは、それを見るジジイだろうが」
 カグラが好きなの知ってやがったなこの野郎、と言わんばかりに指摘する醤。梓音は冷たく笑いながら、軽くあしらった。
「知ってるなら、わざわざ話し掛けないでくれる? 今話し掛けた所で、お化け屋敷にはついて行かないわよ」
「間違っても、どさくさに紛れて刺してきそうな女に言うか」
 明らかに、先日の御守神社での一件について言っているのだろう。よりにもよって厄介な奴に弱みを握られてしまった、と醤は後悔した。
「皆さん、見てください! メダロッ島が見えてきましたよぉー♪」
 嫌でも使用意図がわかってしまう一眼レフのカメラをぶら下げ、マリアは進む先を指差し、嬉しそうに声を上げる。言われるがままそちらへ視線を向けると、目的地は姿を現していた。近付けば近付く程大きくなる楽しげなBGMに合わせ、背が高いジェットコースターの滑走路や、城の天辺がひょっこりと頭を出す。マリアは、口元で手を合わせ、耳障りの良い笑い声を零した。
「ふふふっ、楽しみですね! アトラクション全制覇したいのです!」
「波花、お前のパートナーは乗る気満々みたいだぞ?」
「良かったじゃない、お化け屋敷一緒に回ってくれる子がいて」
「オレにマリアを押しつけるな」
 まるで、子どもの相手を押し付け合う夫婦そのものである。いの一番に、軽やかに船を降りるマリア。次いで、文句を言いながら降りる、醤と梓音。そして、はしゃぐ孫達を微笑ましく見守るカグラが、最後にゆっくりと降りた。華々しいゲートを抜けて入場すると、醤は貰ったパンフレットで時代劇イベントの上演スケジュールを確認した。
「えーっと……イベントやんのはビックリサイトで、後一時間あんのか……」
「それじゃあ、場所取りとかもありますし、ちょっとだけ遊んでから会場行きましょう♪ 行きますよ、ジジ様っ!」
「おお」
 言うや否や、マリアはカグラの手を勢いよく引き、颯爽と駆けて行った。間延びした返事の後、カグラもつられて小走りする。梓音と醤も、慌てて二人を追った。
「マリア!」
「あっ、コラ! ぶつかったら大変だから、あんま走んなって!」
 本当に、猪のような娘だ。此方の言葉に耳を貸さず、アトラクションに向かって一直線に走っていく。着いた先は、船からも見えていたアトラクションだ。
「『スリル満点! 超高速ジェットコースタースピリット!』ねぇ、たっけー……」
 看板の文字を読み、醤は滑走路を見上げた。緩やかに上がった先のコースがほぼ垂直に見えるのは、十中八九気の所為では無いだろう。
「ジジ様、先頭に乗りましょ♪」
「ふむ……まるで、龍神のような体躯だなぁ」
 心の準備を、メダロット達は決して待ってはくれない。小さく息をつき、醤は振り向き様に声を掛ける。
「波花! オレ達も、……!?」
 先程の空や海の色を忘れるぐらいに、深い青だった。ジェットコースターを見上げ、胸の前で自分の手を握って小刻みに震える梓音は、最早小動物にしか見えない。尋常ではない様子の梓音に言葉を失った醤だったが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべ、船上の仕返しと言わんばかりに口を開く。
「あれあれ、波花さん? もしかして、ジェットコースター苦手なんスかぁ?」
「!?」
 嫌味ったらしく醤から聞かれ、梓音は我に返ったように視線を正面へ戻す。すぐに顔面蒼白ながらも醤を睨みつけ、梓音は反論した。
「なっ、に言ってるの? そんなワケないでしょ、さっさと乗るわよ村崎……!」
「わっ、おい放せ! 危ねぇって……!」
「ジェットコースター『スピリット』へようこそ! チケットを拝見しまぁす。……はい、では奥の乗り場からどうぞー!」
 梓音は係員から許可を取り、醤の襟首を掴んだままカグラとマリアの後ろの席へ勇ましく乗り込む。梓音がそのまま俯くと、別の係員が発車前の最終確認を行っていた。
「安全バー確認しますねー!」
「は、はい……」
 係員によって下ろされた安全バーに、梓音は今からしがみつく。更に震えが増すのを隣から感じ取り、自分が挑発したものの、醤は段々と気の毒になってきた。
「おい、波花。マジで大丈夫か?」
「平気だって言ってるじゃない……」
『それでは、発車致します! 危ないので、安全バーから手を放したり、車体から身を乗り出すのはおやめください! 皆様、空の旅を楽しんでくださいね! いってらっしゃーい!!』
 プルルルルル、と音が引いた直後、一度だけ車体が揺れ、そのまま発進する。俯く梓音に、醤は話し掛け続けた。
「いや、茶化しとか冗談じゃなくてよ。お前、本当はジェットコースター苦手なんじゃ……?」
「今乗るのが初めてよ」
「え」
「初めて乗るのに、苦手もクソも無いでしょ……」
 例え初経験であっても、する前からわかりきっている不得手もあるのではないだろうか。そんな醤の疑問と乗客を乗せ、ジェットコースターは坂を上がっていく。ジェットコースター経験者の醤でさえ幾何か恐怖心があるのだ、梓音のそれは尋常ないレベルなのであろう。醤は、どうにか梓音の恐怖を和らげるべく、必死に考えた末に提案した。
「……波花、しりとりするか?」
「しないわよ、イキナリ何言ってんの……?」
「あー……普通のじゃつまんねぇなら、メダロットしりとりするか」
「そういう問題じゃない」
 醤が話し掛ける間も、梓音は俯いたまま震えている。無慈悲にも上がっていく車体にめげず、醤は続けた。
「じゃ、じゃあ……『メダロット』の『ト』…………『トータスメダル』」
「『ルール無用ロボトル』」
「『ル』攻めかよ、友達なくすぞ。てか、メダロット研究所の娘が言って良い言葉じゃな……い」
 ガコン。再び、車体が揺れた。醤には、揺れた理由が何となくわかる。その証拠に、見渡す限りの絶景だ。下方ではミニチュアの世界が広がっているが、ちょこまか動いているのはれっきしとした人間である。醤は、深く息を吸い込み、時を待とうとした。が、突然隣から手を握られ、覚悟が叶わない。
「へ、」
「……キッ、」
 思いもよらない行動に醤が僅かに頬を染めるのもお構いなく、目を強く瞑った梓音に握られたまま、時は来た。
「キャアアアアアアアアアッ!!」
「おんぎゃあああああああああ!?」
 ジェットコースターがほぼ真下へ急降下し、覚悟が足りなかった者と覚悟が間に合わなかった者は、つんざくような悲鳴を上げた。梓音は、金切り声で叫び続ける。
「やだもう降ろして!! 降ります!! もうやだああああああああ!!」
「落ち着け!! ここで降りたら確実に死ぬぞ!? ってイデデデデデ!? 波花っ、手ェ!! オレの右手が潰されるゥゥ!!」
 醤も醤で怖いのだが、右手の痛みが勝った。言葉通り、余程怖いのだろう。その恐怖心が、ギチギチと音として如実に現れている。醤の訴えは残念ながら梓音の耳には届かず、泣きの入った絶叫は続いた。
「たっ、たすっ、おじいちゃあああああぁあん!! 助けてええぇえええええええっ!!」
「……大丈夫か、シオン?」
「大丈夫じゃねぇよ波花もオレの手もオオオ!!」
「キャーッ♪ 楽しいですねぇ!!」
「おおおいマリアぁ!! お前のマスターが大変な事になってんぞおおお!!」
 呼ばれて軽く後ろを向くカグラに、ただ前を見て存分に楽しむマリア。痛みにツッコミにと、ジェットコースターに乗っているにも関わらず、何故か醤は忙しい。結局、阿鼻叫喚は終点まで続いたのだった。





「はーっ、はーっ……!」
「……ちょっとは落ち着いたか?」
 ジェットコースターから下車した後、梓音はベンチで休み、大粒の涙を零しながら必死に息を整えていた。醤は梓音の隣に腰掛け、買ってきたオレンジジュースを一つ手渡す。
「ほらよ」
「……ありがとう」
 醤は、静かに目を丸くした。成る程、自分に素直に礼を言うくらいには、梓音は弱りきっているらしい。これなら、まだ罵詈雑言を浴びせられた方がマシだと調子を狂わされた所で、醤は気付く。
「オレはMじゃねぇ……!」
「何か言った……?」
「い、いや! 何でもねぇ!」
 醤は笑顔を引き攣らせ、わたわたと誤魔化す。梓音は不思議そうに首を傾げ、醤を覗き込む。ジュースで濡れた唇が、醤の胸を高鳴らせた。
「ふーん、変なの……? まあ、村崎は通常運転か」
「オレが変だったら、オレの周りまともなヤツいねーよ」
「お前に言われたらお終いだと思うけど……それより、おじいちゃんとマリアは?」
 無礼な言葉を連発され、醤の脈は正常に戻る。醤の事情など露知らず、梓音はゆるゆると辺りを見回した。なかなか姿が見えない二人に疑問を持った所で、醤は溜め息をつきながら答える。
「お前が死んでる事にも気づかず、マリアはテンションMAXでジジイをお化け屋敷まで引っ張ってったぞ」
「マリア……!」
 梓音はカグラを連れ、置いて行ったマリアに対し、膝の上の拳を震わせた。ジェットコースターとは違う理由で震えているのだろう。梓音とマリアどちらにも同情しつつ、醤はオレンジジュースを飲み下してから提案する。
「アイツらがお化け屋敷行ってる間、オレ達はイベントの場所取りしてようぜ。ああ、お前が立てるようになったらな」
「……それなら、もう大丈夫」
 梓音は、よたつきながらも立ち上がる。
「おい、もうちょっと休んでからでも良いぞ?」
「ううん。人気シリーズだし、早く並んどかないと見えないかも」
 そう言うと、梓音は空き缶をゴミ箱に捨て、会場を探して歩き出した。醤も空き缶を捨て、心配しながらその後を追う。
 ジェットコースターの建物を出ると、外では既に長蛇の列が出来ていた。
「うげ、もう早こんなに並んでんのか……」
「遅過ぎたくらいか。おじいちゃんとマリア、ショーが見えたら良いけど……」
 群衆を見て、梓音が不安げに零す。大方、メダロット故に身長が低いカグラとマリアが心配なのだろう。醤は乱暴に頭を掻きながら、列に並ぶ。
「後ろの方になっても、オレがまとめて抱えりゃ見えんだろ。お前は、人酔いとか大丈夫か?」
「うん、今は……」
「しんどかったら、オレだけ並ぶなりジュース買うなりどうとでもできっから言えよ」
「い、いいよ。さっきも、ジュース奢ってもらったし……」
「イベント中にぶっ倒れる方がヤベェだろ、無理すんな」
 弱々しい梓音の態度で、醤は自責の念に駆られる。ジェットコースターで自分が挑発しなければ、梓音は乗らずに済んだだろう。ともなれば、自分がすべき事は、元気になるまで梓音のために行動する事だ。少しでも力になりたい一心で、醤は言ったのだが。
「……やっぱり、変」
「あ!?」
 梓音から再び『変』呼ばわりされてしまい、醤はがなる。文句の一つや二つ言おうと、梓音の方へ向いたのだった。
「村崎じゃないみたい」
 くすっ、と控えめに笑う梓音に、醤は何も言えなくなってしまい、口のみ動かす。凪のような笑顔の柔らかさと言ったら、普段の嘲笑など比較対象にもならない。心拍数も、そして頭の天辺まで血が駆け上がるのを感じながら、醤は気付いてしまった。
 これ、デートじゃね?、と。
 気付いてしまえば、後はトントン拍子である。いつぞやか醤の友人も言っていたが、『可愛い』とか。自分達は今、周囲からどのように見られているのか、とか。醤の思考は、グルグル、グツグツと煮え滾るばかりだ。
「……あ、会場が見えてきた」
 更に言えば、この時の梓音はジェットコースターにより、元々少ない体力を大幅に消耗していた。まさに、悪魔のようなタイミングで、二人は揃って肝心な事を見落としていたのである。

「ようこそ、魔女の城ツアーへ~!」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「どうしたら美園ちゃんと付き合えんだよー……」
ラ「やあ! はじめまして、村崎醤!」
醤「え、ラピ!? 何でオレの名前……?」
ラ「君の願いは、エントロピーを凌駕した!」
醤「」
ラ「さぁ、ボクと……」
醤「っ次回! 『六角形の神サマ』第弐拾参話、『永遠幻想曲(中篇)』!」
ラ「ボクとロボトルして、魔法少女になってよ!」
醤「ワケがわからねーよおお!?」

六角形の神サマ 第弐拾参話/永遠幻想曲(中篇) ( No.23 )
   
日時: 2020/03/30 19:42
名前: 海月

「ようこそ、魔女の城ツアーへ~!」
「「……ん?」」
 マスコット型メダロット・ラピの甲高い声に、村崎醤(ムラサキショウ)と波花梓音(ナミハナシオン)は顔を見合わせた。すぐに正面へ向き直ると、そこにビックリサイトの姿は無い。代わりに、可愛らしい欧風の城がそびえ立っていたのである。この瞬間も、嘲笑うかのように城の頂上の旗が揺れている。そう、二人は完全に並ぶ列を間違えていた。
「やらかしたあああ!! あれ!? イベントの列じゃねーの!? 大人気なアトラクションですね!?」
「言ってる場合じゃないでしょ、早く列から抜け……!」
「はーい、では皆さんお城に入りまーす!」
「「わっ!?」」
 魔女の格好をした係員から思いきり背中を押され、醤と梓音は無慈悲にも入場となった。何とか戻らんとして振り向いた途端に、大きな扉が閉まる。二人が行き場の無い手を伸ばす中、魔女の姿の係員は前方へ移動し、明るい声で呼び掛けた。
「よいこの皆さん、こんにちはー。あれ? 返事が無いわよぉ。魔女の城へようこそ! ここからは、こわーい魔王が住む世界。それでは、魔女のミルキーと冒険の始まりー」
 どうやら、係員は『ミルキー』という名前の魔女らしい。如何にも、子ども受けしそうな設定だ。しかし、高校生二人はそれ所では無かった。
「どうすんのよ!? おじいちゃん見れないじゃない!!」
「やっぱりジジイ目当てじゃねーか!? お前だって気づかなかっただろうが!?」
「うーん、ハッスルし過ぎな大きいおトモダチもいるみたいね」
 子ども達に囲まれたミルキーは苦笑し、ツアーが始まったにも関わらず大喧嘩をする醤と梓音へと歩み寄った。
「こら、お坊ちゃんにお嬢ちゃん! ケンカしちゃダメよ! あんまり争ってると、人の負の感情が大好きな魔王がやってきちゃうんだから!」
「魔王なんて知ったこっちゃないわ!! 今は、ワタシの世界が崩壊する危機なのよ!?」
「波花、係員さんを困らせんな!! すんません!! コイツ、ジジイが絡むとモンスターが裸足で逃げ出すくらい凶暴化するんです!!」
「わあ、二人共何てファンタジックな世界観! あ、もちろん良い意味でよ?」
 自分の事を棚に上げ、ミルキーは二人の厨二病と相違ない発言を笑顔で受け止めた。押さえる醤を振り解き、梓音はミルキーに詰め寄る。
「元はと言えば、アナタが押し込んだからじゃない」
「えー!? だって、並んでたしー」
「そっ……れは、まあ、アレなんだけど……」
「どれだよ」
 指摘された瞬間しどろもどろになる梓音に、醤は冷静にツッコんだ。めげずに、梓音は言葉を続ける。
「……それは、ともかくとして。ワタシ達が喧嘩しようがしまいが、どうせ魔王出てくんでしょ?」
「え」
「おい、ネタバレにまで手を出すな」
「ツアー初参加のワタシでさえわかるのよ、みんなわかってるわ」
「むむむっ!」
 梓音のネタバレに笑顔で固まっていたミルキーも、何を思ったのかわざとらしく怒ったような顔つきになった。相手が乗ってきたのを良い事に、梓音は冷ややかに笑う。
「ほら、魔女なんでしょ? この状況を、魔法で何とかしてみせなさいよ」
「無茶振り過ぎんだろ!!」
 醤に言われても、ミルキーからすれば『無茶』でも何でもなかった。何故なら、彼女は魔女。魔法で不可能な事など、何一つないからであった。ミルキーは、呪文を唱えながら杖を振り上げる。
「メダトルロボトルミルミルキー!」





『六角形の神サマ』 第弐拾参話/永遠幻想曲(中篇)





「迷いの森を抜けたら、宿題もガッコウも無い夢の世界・ミルキーランドよ! では、ミルキーランドを一周してきてくださいね!」
「つ、杖で殴った……」
「杖で殴ったね……」
 チーン、というエレベーターの音で、仲良く頭にタンコブを作った醤と梓音の悲壮感が増した。他の子ども達がひそひそと話す中、梓音は忌々し気に口を開く。
「……何が魔法よ、物理攻撃じゃない」
「完全に負け惜しみじゃねーか」
 醤は、コブを擦りながら梓音に言った。幸か不幸か、ミルキーに殴られて冷静さを取り戻し、大きく伸びをして進む。
「もう後戻りはできねぇんだ。だったら、とことん楽しむぞ波花」
「……そんな気分じゃ……」
 反論しながらも、梓音はとぼとぼと醤について行く。カグラと引き離され落胆する姿は、醤の心を痛める。梓音がカグラとの観賞を心底楽しみにしていた事を、改めて実感させられた。気分転換すべく、醤は笑顔でラピを指差す。
「ほら、波花! ラピだぞ!」
「ここは、昼のミルキーランドだよ。そして、ボクは可愛いマスコットのラピちゃん!」
「おじいちゃんの方が可愛い……」
「わかっちゃいたが病気が酷い」
 人はそれを、『グランドファザーコンプレックス』と呼んだ。見るからに、カグラ欠乏症だ。どうしたもんか、と醤は考える。そういえば、園内にはゲームセンターがあったはずだ。魔女の城を出たら、ゲームセンターでカグラと思う存分遊ばせてやろうと、醤は密かに決心したのだった。
「満足した? じゃ、一階にまいりまーす!」
「あっ、ハイ! 波花、エレベーター出るってよ!」
 考え事をしている間に、どうやら一周していたらしい。醤は梓音に声を掛け、エレベータに乗り込んだ。すると、電灯が点滅を始め、辺りは次第に暗くなっていく。
「何だ……うぉっ!?」
 醤は、揺れたエレベーターに驚き、壁に背中を密着させる。次に、ミルキーの短い悲鳴が上がった。
「きゃっ! 何!?」
「はっはっは、この王国は儂が貰った!」
「その声! さては、悪の魔王ね!」
「ほら、出たじゃん」
「『ほら』とか言うな」
 梓音の行動は、『野球に野次を飛ばす親父』そのものである。対応し慣れているためか、ミルキーと魔王は怯む事無く話を進めていく。
「どこにいるの!?」
「ふん、儂はどんな場所にでも現れるぞ。しかし、儂の本体を見つけ、儂を倒す事が出来るかな?」
「見てなさい、魔王! きっと倒してみせるんだから!」
 ミルキーが啖呵を切ると、再びエレベーター内は明るくなった。エレベーターから出ると、ミルキーは焦った表情で語り掛ける。
「大変! ミルキーランドが、悪の魔王に乗っ取られちゃったわ!」
「警備ザルなんじゃない? 乗っ取られんの何回目なの?」
「波花……」
 ツッコむ事をやめない梓音に、醤は頭を抱えた。有難い事にミルキーを始めとしたスタッフ一同はプロらしく進行してくれる上に、方法を間違ってはいるが梓音も楽しんでいるように見えるため、もう何か色々と諦めたのである。
 ミルキーは、勝気な笑顔で杖を掲げる。
「さあ、魔王と戦ってくれる勇者は誰かな?」
 勇者は、立候補制だった。醤は、内心安堵する。醤達の他は、殆ど小学生。それこそ、勇者に憧れる男児が、元気に挙手する事だろう。醤がほくそ笑みながら勇者誕生を待っていると、目が合った。合ってしまった。
「ほら、お兄ちゃん! カノジョに良いとこ見せないと!」
 太陽の如き笑顔で、ミルキーは醤を指名してきた。『カノジョ』というのは、十中八九梓音の事だろう。醤は否定すべく、赤い顔ですぐさま口を開いた。
「ちっ!? ちがいまっ、」
「違う!!!」
「全否定しないでくれます!?」
 例え相手が梓音であっても、全否定されれば流石に傷つく。鬼の形相で叫んだ直後、梓音は普段の冷めた表情を浮かべ、醤の背中を押した。
「違うけど……ほら、行ってきたら?」
「え……」
「はーい、いらっしゃいお兄ちゃん!」
 梓音に勧められるがまま前へ出ると、ミルキーはバトンのように杖を回した。
「私の魔法で、勇者に変身よ! メダトルロボトルミルミルキー!」
「いっ!?」
 最初に殴られた所為で、どうも杖をかざされると条件反射で構えてしまう。心配事を余所に、醤の周りを星が瞬き、あっという間に勇者の衣装となった。醤は、服を抓み上げ、目を見開く。
「ダッ……!?」
「じゃ、頑張って勇者くん!」
「おい、ちょっと待てコラ!! 絶対コレさっきの仕返しだろ!?」
「えー? ミルキー、わかんな~い☆」
 この年で勇者の衣装を身に纏うなど、醤にとって辱め以外何ものでも無かった。自分の頭を小突くミルキーに、醤は初めて梓音の気持ちを理解した気がする。そんな、梓音はというと。
「似合ってるよ、村崎(笑」
「テメエ、城出たら覚えとけよ……!」
 口元に手を当てて失笑する梓音に、醤は拳を震わせた。ミルキーは、梓音の後ろまで回り込むと、しっかりと両肩を掴む。
「え?」
「さ! お嬢ちゃんはこっち!」
「え、え、何……?」
 突然の行動に驚く梓音は、ミルキーに施されるがまま歩き、別室へとつれて行かれてしまった。
それも、束の間。ミルキーだけが戻ってくると、真剣な面持ちで前方を指差し、醤に語り掛ける。
「いよいよ、魔王の本拠地よ! 勇者くん、頼んだわね!」
「え、波花は……?」
「先を進めばわかるわ!」
 醤は、今後の展開を何となく察してしまった。ちびっ子達の先頭をきって道なりを進み、気だるげに大きめの扉を開ける。
 そこには、アラビアンナイトのような出で立ちをした、気球のように大きく浮かぶ魔王。そして、案の定童話に出てくるお姫様のような衣装を着せられた梓音が佇んでいた。ミルキーは、魔王に向かって叫ぶ。
「卑怯よ、魔王! 子どもを返して!」
「「卑怯なのはお前だろ」」
 醤と梓音の思いはシンクロし、ミルキーに吐き捨てるように言った。ダs……少々センスが足りていない衣装を着せられ、ちびっ子達の前に晒されるこの行為は、高校生二人にとって公開処刑に他ならない。流石は、プロ。復讐の方法も、一段上だ。勇者と囚われの姫の言葉を完全に無視し、地響きのような声で魔王は喋る。
「はっはっはっは。ここまで辿り着けた事は褒めてやろう。だが、どうやってそこからこの儂を倒そうと言うのだ?」
「こっちには、勇者がいるわ!」
「はっはっはっはっは。愚かな」
 魔王の笑い声に合わせて、地震のように床が揺れる。ミルキーは醤に向かって、杖で魔王を指し示した。
「勇者くん、貴方の力を見せてあげて! 子どもを助けるのよ!」
「えーっと、『助ける』ってどうやって……?」
「私達の運命は、貴方のロボトルにかかっているわ!」
 ミルキーに力強く言われると、醤は乾いた笑顔で硬直した。
「……ろぼとる?」
「ええ! メダロッチつけてるって事は、持ってるでしょ!?」
 醤は、笑顔を引き攣らせたまま固まる。ミルキーが頼りにしている『メダロット』とやらは、時間的に好きな時代劇のイベントに参加し、フィーバーしている事だろう。冷や汗を止める術を持たないまま、醤は小さく挙手し、ミルキーに申告した。
「あ、のー……それがですね、かくかくしかじかで……」
「えっ!? メダロットいないのぉ!?」
 ミルキーの驚愕した顔に、醤は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。すぐにミルキーは両手で自分の口を押え、辺りを見回す。難しい表情で片足を何度か踏み鳴らした後、ミルキーは開眼した。
「魔王!」
「!」
 振り向いた魔王に向かって、ミルキーは杖を交え、不可解に腕を動かす。どうやらそれはハンドサインだったらしく、魔王からのささやかなサムズアップを見て、ミルキーは大きく頷いた。
「勇者くん、この剣を使って!」
「どっから出した!?」
 先程までは影も形も無かった玩具の剣を取り出したミルキー見て、醤は声を上げる。
「これは選ばれし勇者のみが使える聖剣でね、この剣で貫かないと魔王を倒せないの!」
「さっき『ロボトル』とか言ってm」
「言ってないわ!」
 有無を言わせないミルキーの瞳に、困り果てた醤の顔が映る。アクシデントの対応力は、社会人の鑑だ。しかし、公開処刑された後に、この仕打ち……いや、メダロットがこの場にいない自分にも多少非はあるのかもしれないが、それにしたって最早、『死者への冒涜』レベルでは無いだろうか。その証拠に、先程まで具合が悪そうだった梓音が、魔王の隣で口元と腹を押さえて蹲っている。梓音は後でしばくとして、こんな地獄は早く終わらせてしまおう、と剣を受け取り、醤はヤケになった。
「もう知らねええええ!! やってやんよおおおおお!!」
「待って勇者くん! そこは勇者らしく、『ヤー!』ってやって!」
「」
「だから、『ヤー!』って」
 今すぐオレを殺してくれ。醤は、今程死を乞うた事は無かった。
「ヤアアアアアアア!!」
 涙を撒き散らして剣を振るう勇者を見て、周囲の小学生達は息を飲みながら社会の片鱗を理解した。途端、自らの胸を押さえ、魔王がもがき苦しむ。
「認めん、認めんケロォォッ!!」
「やったわ! 魔王を倒したわ!」
「もれなくオレの心も死んだよ……」
 晴れやかな笑顔で拳を握るミルキーを尻目に、醤は涙を拭った。ミルキーの後ろを歩いて隣の部屋へ移動すると、広間の中央に小ステージが設けられている。
「お疲れ様でした、勇者くん。こちらへどうぞー!」
 ミルキーに呼ばれるがまま、醤は顔を俯かせてステージへ上がる。ミルキーは、誇らしげに醤へ手をかざした。
「今回、リッパに勇者を務めてくれた……えーと、お名前は?」
「いえ、名乗る程の人間じゃないっす……」
「随分謙虚な勇者くんね~? 何にせよ、皆さん拍手を!」
 まばらに聞こえてくる拍手が、正面にいる小学生達の心境をわかりたくないまでに表していた。自分のように憐れな勇者を誕生させないためにも、これからは積極的に立候補するんだぞ少年少女よ……と、醤が心の中で語り掛けた所で、先程と同様に星が瞬き、醤は私服へと戻る。ミルキーは人形を高々と振った。
「素晴らしい活躍をしてくれた勇者くんには、この『ラピのぬいぐるみ』をあげちゃいます! それでは皆様、ご機嫌よう。お帰りは、後ろの扉からとなっておりまーす!」
「あー、散々だったよ畜生……」
「お疲れさまー。楽しかった?」
「そ う 思 う か ?」
 ミルキーからぬいぐるみを受け取り、話し掛けてきたラピに、醤は睨みを利かせる。醤にとって、今日は最早厄日だった。カレンダーを確認していないが、仏滅に違いない。あるいは、神様のありがた~いお話を強制終了させた天罰か。その『神様』は、メダロッチの通信を完全に遮断しており、さぞイベントを楽しんでらっしゃる事だろう。自分の事を忘れて楽しむカグラ、自由奔放なマリア、初対面だというのに殴った挙句辱めたミルキー……何より、醤の今日一日をぶん回している梓音に怒りを募らせ、醤は鬼の形相で振り向いた。
「テメエ波花!! さっきはよくもヒトで爆笑してくれたなこの野郎!?」
 返ってきたのは、愉しげな子ども達の話し声だけだった。空振りした醤は、顔を真っ赤に染め上げ、大股で出口へと向かう。
「あんの女アアア!! いくらオレ相手だからって、置いてくとかどーゆー神経してんだ!!」
「ミルキーは本物の魔女なんだって!」
「そーかいそりゃ良かったなぁ!!」
 横切るラピの言葉へ乱暴に返すと、醤は勢いよく出口の扉を開けた。
「いい加減にしろよ波花ァ!!」
 城の外でも返ってくるのは雑踏の声ばかりで、梓音の姿は無い。本格的に置いて行かれた事により、醤の怒りは沸点に達した。噛みつくように、入口で列を整理している係員に尋ねる。
「すいません!!」
「ん? 何だね?」
「今、白いワンピースの女の子出て行きませんでしたかね!? 行った方向教えてください!!」
 そう言うものの、梓音の行き先はほぼ確実にビックリサイトだろう。醤は、苛々しながら回答を待った。
「そんなはずはない。君達のグループで真っ先に出てきたのは、君じゃないか」
 首を傾げながら答える係員に、醤はただ目を見開く。
「え……?」
「ヘンな事言ってないで、もう一度入るなら並んだ並んだ!」
 醤の頬を、嫌な汗がつたう。魔王討伐の際、梓音が連れて行かれたのは正面の部屋だ。すぐ隣が広間のため、迷いようが無い。ならば何故、梓音がどこにもいないのか? 醤は振り向き、城を見上げる。
「波花……?」
 誰からも、返事は無かった。




「――十周年の宴、これにてお開きとする!! 忘れるな、同志達よ!! 此処にいる者は皆、誇り高き侍という事を!! せーのっ、勧善!!」
「「「「「懲悪ウウウウウ!!」」」」」
 ビックリサイトにて。
 ステージ上で時代劇の主人公がコールすると、雄叫びに近いレスポンスが返ってくる。そして、大勢の拍手に見送られながら、会場の熱気が止まぬまま、主人公一行は笑顔で手を振って舞台袖へはけていった。
 一番前で見ていたカグラは恍惚とした表情で、隣のマリアは楽しげに手を叩く。
「よもや、『花鳥風月』を間近で見られる日がこようとは……本当に来て良かったのだよ。ショウに感謝せねばな」
「すごかったですねぇ、ジジ様! マリアも興奮しちゃいました!」
 どうやら、『花鳥風月』というのは主人公の必殺技らしい。マリアは、既にフィルムが半分以下の一眼レフカメラを膝に置き、悲しそうに瞳を歪めた。
「折角、一番前の席を取れたのに……。結局、しぃちゃんとショウさん来ませんでしたね。どうしたんでしょう?」
「ふむ……会場からも、時計の通信を切るよう言われてしまったしなぁ。連絡が来ていただろうに、二人には悪い事をした」
 舞台然り、コンサート然り、そしてイベント然り……会場が作る世界観を守るために、携帯もメダロッチも通信を切るのが大切なマナーなのである。律儀に守った二人は、揃ってメダロッチの通信をオンへと切り替えた。
「『虫の知らせ』は来てないんですよね? それなら安心です!」
「うむ、二人の無事が唯一の救い、……?」
「きっと、また二人でジェットコースター乗ってるんでしょうね! ふふふっ、ジジ様はあのお二人どう思います? マリアは結構お似合いかと思うのですよぉ♪ ……ジジ様、どうかなさいましたか?」
 自分が満足するまでひとしきり喋った後で、マリアは、初めてカグラが頭を捻っている事に気付いた。首を反対側へ倒すと、カグラは口を開く。
「……のう、マリア?」
「ハイ、何でしょう!?」
「先程、ワシらは龍神に乗ったな?」
「ジジ様、もしかしてそれはジェットコースターの事ですか?」
「恐らくそれだ」
 頷くカグラに、頷くマリア。カグラは、話を続ける。
「その時にだな、シオンは初めて聞くような声を張り上げていたのだが……」
「あれっ、そうなのですか?」
「マリアも楽しんでいたからなぁ」
「ハイッ、楽しかったです!」
 これを、『ツッコミ不在の恐怖』という。ジェットコースターを思い出し笑顔で聞くマリアとは対照的に、カグラはやや俯いて目を細めた。
「……『虫の知らせ』が、来なかったのだよ」
「えっ、それはハッスルしてたワケではないんです?」
 二人は、見つめ合ったまま沈黙した。ジェットコースターでの、梓音の悲鳴。誰がどのように聞こうが、ハッスルしていない事は明白だろう。首を傾げるマリアに、カグラは一つの仮説を立てた。
「ワシ自身も知らぬのだが……よもや、『虫の知らせ』が来るのは、御守町圏内のみなのではないだろうか……?」
 マリアは、大きく目を見開いた後、二回瞬きした。考えてみれば、当然の話だ。御守町外からも『虫の知らせ』が来るならば、カグラはとうに過労死している。ここでは、『メダロットの生死』云々を語るのは割愛しよう。ともあれ、突きつけられた事実に近い推測に、マリアは空を見上げ、つられてカグラも見上げる。雲がゆったりと進む、青い空だった。
「しぃちゃあああん!? 返事してええええ!!」
「ショウ!! 大事無いか!?」
 認識した途端、メダロットは各々の主人に通信機能で呼び掛ける。カグラの頭の奥で、醤の声が聞こえてきた。
『……よぉ』
「ショウ!! 無事なのだな!?」
『イベントは楽しかったかよ……?』
「大変申し訳ない」
 怒りを孕んだ声に、カグラは素直に謝罪する。そうして、通信の向こうの息切れに気が付いた。
「走っておったのか?」
『それがよ……オレは、何もねぇけど……波花がいなくなったんだ』
「……シオンがか?」
『ああ。っと、もう順番か……オレは、魔女の城に戻る。お前らは城以外を探してみてくれ』
「心得た」
 カグラが返事すると、通信は切れた。意図せぬ事態に、カグラは慌ててマリアの方へ振り向く。
「マリア! シオンがいなくなった! ワシらも探すぞ……?」
 話し掛けても正面を向いたまま反応が無いマリアに、カグラは心配そうに顔を覗き込む。途端。
「!?」
 マリアの涙腺が決壊し、大粒の涙を零し始めたのである。
「ジジ様ぁぁぁぁぁ……!!」
「マリア!? 如何した!?」
「うっうっ、しぃちゃんが、うっ、しぃちゃんのメダロッチが通信切れてるんですぅぅぅ……!! 何で、何でしぃちゃんがっ……しぃちゃんに何かあったら、ひっく、マリアはどうしたらっ……!?」
「……マリア……」
 泣きじゃくるマリアを見て、カグラは小さく拳を握る。それをゆっくりと解くと、マリアの頭を撫でた。
「ジ、ジジ様……」
「マリア、泣くでない。シオンの行方がわからぬ上にお前にも泣かれると、ワシは悲しい。シオンを見つけ出すためには、マリアの協力が不可欠なのだよ。つらいだろうが、一緒に探してはくれぬか?」
「……そう、ですよね……しぃちゃんがいないなら、早く探さないと……」
「ありがとう、マリア」
 マリアは落ち着きを取り戻し、涙を拭いながら立ち上がる。カグラも立ち上がると、辺りを見回した。
「それに、ワシらには頼もしい助っ人がたくさんいる。シオンも、すぐに見つかるのだよ」
「助っ人、ですか……?」
 カグラは、鉢植えを見つけるとしゃがみこむ。葉に乗っているてんとう虫を見つけると、嬉しそうに目を細めた。
「突然、申し訳ない。女子を探しておるのだが、話を聞いてはくれぬだろうか?」





「ん……つ、めた……? っくしゅ」
 梓音は、全身を蝕む冷たさに目を開けた。うっすらと、一面のコンクリートが見える。『自分はコンクリートの上で寝ていたため、冷たかったのだ』と認識し、体を起こして、正面を凝視する。
「…………え?」
 ストライブ、という表現を使えば、少しはこの状況を緩和できただろうか。梓音は、人生で初めて実物の牢を見た。幾重にも縦に刺さるそれは、かろうじて鼠が出入りできる幅で、扉の外側には立派な錠前がついている。牢屋に閉じ込められている事実を理解し、梓音は慌てて立とうとした。
「な、何なのコレ……っつ!?」
 鈍い痛みの方へ目を向けると、梓音の右足首は赤く腫れていた。かといって、何もしない訳にはいかない。梓音はよろけながらも立ち上がり、痛みを堪えて扉へと近付く。そして、鉄の棒を縋るように握ると、錠前へ手を伸ばした。
「……このタイプなら、十七番のマイナスドライバーを使えば……!」
 梓音は、慣れた様子で腰の辺りに手を回す。しかし、目当ての物を掴めずに空振った。
「ドライバーが無い……!?」
「本物のお姫様になった気分はどう?」
 先刻まで散々聞いた声に、梓音は顔を上げる。そこには、魔女の城の係員が、人懐っこい笑顔で大きなソファーに座っていた。
「お前は……!」
「はぁーい、お姫様。魔女のミルキーよ♪」
 梓音は、記憶を辿る。
醤が、魔王を退治した後。隣の部屋からやってきたミルキーが杖を振ると、突然睡魔に襲われてしまい、目覚めたらこの牢屋に閉じ込められていたのだった。梓音は、自分の身の回りを確認する。あの脱ぎ捨ててしまいたくなるようなお姫様ドレスは既に無く、梓音は元のワンピースに戻っていた。体が軽く感じるのは、愛用のドライバーを一本残らず取られたからだ。
「持ち物チェックしてビックリしたわぁ、次から次へとドライバーが出てくるんだもの。五十本はあるんじゃない?」
「ヒトの商売道具に何してくれてんのよ……!」
 梓音を挑発するように、ミルキーはドライバーをバラバラと床に振り撒く。無残に転がるドライバーの数々を今の自分ではどうする事も出来ず、梓音は憤るばかりだ。ふと、梓音は牢を掴む自分の手を見て、自分に対する最大の違和感に気が付いた。
「メダロッチは!?」
「わあ、ビックリした! そんな大きな声も出せるのね」
「ワタシのメダロッチはどこなの!?」
「え~? どこなんだろうね~?」
「とぼけないで!! お前じゃなかったら、誰が……!?」
 梓音は、大きく見開いた。ミルキーの手首には、それはもう見慣れたメダロッチが三個目として装着されていたからだ。
「それっ……ワタシのメダロッチじゃない!!」
「ふふっ、私にも似合うかしら?」
「ふざけんな!! 返さないと……!!」
「今のキミが、どうするって言うの?」
 ミルキーの問いに、梓音は絶句した。ミルキーはソファーから立ち上がり、意気揚々と歩き出す。
「『メダロッターなんて、メダロットさえいなければただのヒト』。誰の言葉だったかしらね? まあ、キミがドライバーでどうするつもりだったのかはわからないし、私にも魔法があるんだけど……」
「……目的は何? ツアーの進行を邪魔した事、怒ってるの……?」
「あははっ! 違う違う!」
 梓音の言葉を笑った後、ミルキーは迎え入れるように両腕を広げた。
「キミには、この城のお姫様になってもらうわ!」
 ツアーの復讐の方が、梓音にとってはまだ優しかった。まさかのトンデモ回答に、梓音の顔が青ざめる。
「は……!?」
「私ねー、『この城に足りないものって何だろう?』ってずっと思ってたの。魔女がいてー、魔王がいて。そしたら、キミが来てくれたのよ! すっごく嬉しかったんだから!」
 一人で歓喜するミルキーは、怒りを通り越して最早恐怖だ。恐る恐る、梓音は尋ねる。
「何で、ワタシを……?」
「キミって、お人形みたいに可愛いじゃない?」
 淀みのない答えに、梓音は再び言葉を失った。両手を胸に当て、ミルキーは話し続ける。
「木漏れ日のような髪の色、雪のように白い肌、憂いを帯びた瞳、桜色の唇、守ってあげたくなる華奢で小さな体……まさに、私の理想とするお姫様! 毎回ただ魔王に攫われるためだけに生きてる、超ヒロイン級のお姫様よ!」
「さり気なくディスってない?」
 意気揚々に語るミルキーに、梓音は所々感じた棘を指摘する。冷や汗を垂らしながらも梓音は鼻で笑い、ミルキーへ言い放った。
「そんなつまんない生活、真っ平ごめんよ。ワタシがお姫様になったら、ツアーなんてこの城ごと滅茶苦茶に壊してやるわ」
「あん、お姫様が魔王みたいな事言っちゃダメ! 何だったら……」
 杖を目前へ向けられ、梓音の両肩が跳ねる。杖の先の宝石が怪しく光り、ミルキーの顔を照らした。
「『本物のお姫様』の次は、『本物のお人形』になってみる?」
 梓音の全身を、恐怖が支配する。梓音は、強く目を瞑った。
「オレも真っ平ごめんだな」
 突如、後ろから聞こえてきた声に、ミルキーは振り向き。そのまま、左腕を取られた。
「!?」
「まさかっ、城の地下にこんな部屋があるなんてな……探したぜ、波花!!」
 息を切らしながら、醤は梓音に笑い掛けた。驚いて目を見開き、梓音は小さく名前を呼ぶ。
「村崎……」
「ほらよ、メダロッチ!」
「!」
「もうとられんなよな!」
 ミルキーを解放し、醤は引き剥がしたメダロッチを梓音へと手渡した。気にしていない様子で、ミルキーは笑う。ミルキーと梓音の間に割って入り、醤も冷や汗をかきながら口元だけを吊り上げる。
「はぁーい、勇者くん。ここは、関係者以外立ち入り禁止よ♪」
「そーかい。じゃあ、部外者のコイツも連れて帰るわ。鍵くれよ」
「ダメよ! その子はもう、私のコレクションだもの。れっきしとした関係者よ」
「勝手に『お姫様』なんかにされてたまるか!! コイツには、言いてぇ事が山程あんだよ!!」
 醤は背中を向けているため、梓音には表情がわからない。叩きつけるような言葉は続く。
「『謎の上から目線やめろ』とか! 『ドライバー何本持ってんだよ』とか! 『そのドライバーで襲ってくんな』とか! 『グランドファザコンウルトラスーパーデラックスが』とか! 『お姫様なんてガラじゃねぇんだよ』とか! 『オレの事爆笑してたけど、お前のドレス姿も相当ダセェ』とか!」
 一拍置き、醤は俯く。
「『今のカッコの方がまだマシだわ』、とか……!」
 顔こそ見えなかったが、醤の耳は殊更赤かった。梓音の瞳が揺れる。
「他にも、たくさんあんだ! 全部言う前に、消えられてたまるかよ!!」
「うーん……私は、魔王じゃないんだけどなー」
 困ったように頭を抱えた後、ミルキーはにっ、と笑い、醤に杖を向けた。
「いいわ、お姫様を賭けて勝負よ勇者くん! 負けたら、キミも私のコレクションの仲間入り! この城で勇者をやり続けるの……ずーっと、ずーっとね♪」
「望む所だ!!」
 ミルキーの宣戦布告を受け入れ、醤はメダロッチを掲げる。ミルキーは満面の笑みを浮かべ、片手で杖を回しながらターンした。
「はぁーい、ボウヤ! ミルキーが魔法をかけてあげる♪」
「……」
 醤は、決して油断しまいとミルキーを睨みつけるばかりだ。
「……ふーん?」
 つまらなそうに、ミルキーから笑顔が消えた。

「キミには、子ども騙しが通じなかったようね」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
マ「マリア達がRPGのパーティーだったら、ショウさんが勇者、しぃちゃんが鍛冶屋、ジジ様がガンマン、マリアがヒーラーですね! 怪我した皆さんを、マリアが頑張って癒しますよぉー♪」
梓「次回。『六角形の神サマ』第弐拾肆話、『永遠幻想曲(後篇)』。マリアがヒーラーやるなら、問答無用でホーリーナースにパーツ組み替えるからね」
マ「!?」

六角形の神サマ 第弐拾肆話/永遠幻想曲(後篇) ( No.24 )
   
日時: 2020/03/30 20:08
名前: 海月

「しぃちゃん!! そのまま動かないでください!!」
 直後。凄まじい轟音と一閃が、村崎醤(ムラサキショウ)、波花梓音(ナミハナシオン)、そして魔女・ミルキーの横を迸った。突風が過ぎた後、石と鉄が混ざり合って崩れていく。いくら三人が凝視した所で、床に散らばっているのは、大小違えど炭だった。突如訪れた城の崩壊に、主のミルキーは当然声を荒げる。
「わっ、私の城……っ!? お城にこーんな酷い事する、いけない子は誰!?」
「……何」
 醤と梓音、ミルキーが声の方へ目を向けると、幾分か小さな影が二つ。馴染みの声と身長に、見慣れないオプションが追加されていたため、醤は目を点にして、眉間に皺を寄せた。
「俗世に紛れて悪を討つ、通りすがりの老いぼれなのだよ」
「マリアはピッチピチですよぉ! しぃちゃん、助けにきました!」
 時代劇ドラマの主人公が着ていた羽織をなびかせるカグラ、そしてリボンが可愛いラピの耳カチューシャをつけたマリアの登場に、醤と梓音は揃って頭を抱えた。更に、マリアが抱える『ワクチンほう』は、いつぞやかのロボトル同様稲妻を帯びている。かの『KWGプロトタイプ用ウエポン』に準ずる威力のパーツを、この狭い空間で、マリアは紛れもなく、且つ躊躇なくぶっ放したのだろう。醤は足早に歩み寄り、カグラの顔面を鷲掴む。
「随分と余裕あんじゃねーか、なあ……!?」
「いだだだだ、ショウやめっ……!? 液晶が、液晶が割れるっいだだだだだ……!」
「ショウさん、どうしちゃったんですか!? ハッ! まさか、魔法で洗脳されてるんですか!?」
「こっちの台詞だよバァァァカ!! つーかそうであってくれ、頼むバカ共!!」
 突然の暴行を目の当たりにして驚愕するマリアに、醤は笑顔を引き攣らせて言い放つ。本当ならマリアも二、三回小突いてやりたい所だが、人のメダロット、何より女の子相手のため、醤はカグラを総括責任者と見なしたのだ。例え、後で梓音から倍以上の暴行を受けるとしても、だった。
「村崎、おじいちゃんに何すんの、いっ!?」
 近付こうとした拍子に、右足首の痛みが生じ、梓音は表情を歪めた。途端、カグラとマリアが静かになり、醤もつられて黙る。
「……シオン、怪我しておるのか?」
 丸い目を瞬きさせ、カグラは尋ねた。マリアはというと、目を丸くしてじっと足首を見つめるだけだ。
「ごめんね~? 牢屋に放り込んだ時かもしれないわ!」
「『放り込んだ』ってお前、一応女の子だぞ……!?」
 傍らの温度差に、醤は今度こそ黙り込んだ。いや、『黙らされた』という表現の方が正しいのかもしれない。何せ、プレッシャーが半端ない。
「『ごめん』でセレクト隊が要りますか!? しぃちゃん、可哀想……絶対許さないんだから!!」
「……」
 かたや、熱気満々のメダロット。かたや、冷気満々のメダロット。対照的ではあれど、どちらもブチギレているんだろうなぁ……と、醤は漠然と考えていたのであった。





『六角形の神サマ』 第弐拾肆話/永遠幻想曲(後篇)





「ふふっ♪ メダロット、転送!」
 ミルキーがメダロッチを押すと、眩い光が舞い、魔女型メダロット・サンウィッチ―とジャック・オー・ランタン型メダロット・カオーランタンが転送された。見ていたカグラとマリアも『オプションパーツ』を脱ぎ、各々のマスターに手渡す。
「ショウよ。寸法に自信が無いが、お土産なのだよ」
「お土産だったのかよ」
「あっ!? もちろん、しぃちゃんがいなくなった後じゃないですよ!? イベント前の空き時間に買ったんです! それでショウさん怒ってたんですか? も~、いくらマリアでもそこまで抜けてないですよ~!」
「いーや、抜けてると思う」
 明らかにズレているマリアを生暖かい目で見て、醤は頷いた。
「あ、そーだ……波花!」
「何?」
「ほら、つかまってろよ」
 そう言うと、醤は左肘を梓音の方へ寄せた。醤の言いたい事を理解した途端、梓音は首を横に振る。
「何言ってるの!? お前にしがみつくぐらいなら、鉄格子にしがみつくわ!」
「なるべくなら、近いトコで見れた方が良いだろ!? あ、言っとくけど『フィールド』の事だかんな!?」
「当たり前じゃない! でもっ……!」
「オレが支えるよかずっとマシだろーが! 早くしろよ! オレだって恥ずいんだよ!」
 頬を赤らめて言い合う二人に、マリアはかつてない程目を大きく見開いていた。
「明日はお赤飯ですか!?」
「マリアさん、後で二人っきりでなが~いお話があります」
 醤は、ロボトル終了後のマリアへの説教を、固く心に誓った。すると、左腕に温度を感じ、勢いよく隣を見る。
「……何、お前が言ったんでしょ? ロボトル終わるまで、その……よろしく」
「お、おう……」
「……ふむ」
「お前もかクソジジイ」
 醤達の様子を見て納得したように頷くカグラの声に、醤は刺々しく噛みつく。大方、御守神社参拝時代の醤の『お願い』内容を思い出しているのだろう。カグラは、『心外』と言わんばかりに首を傾げる。
「何も言っておらんではないか」
「どうせ言いてぇ事あんだろうが、エエ……!?」
「ワシは構わんのだがな……この話題を続けて困るのは、お前の方ではないか?」
「よーっし、ロボトル頑張ろー!!」
「耳元であんまりうるさくしないで……!」
 尤もな言い分に、醤は非難を浴びながらも気持ちを切り替えた。肩を竦め、ミルキーは苦笑する。
「なーんかわちゃわちゃしてたみたいだけど、勇者くんはロボトルの準備できた?」
「オレの所為じゃねぇよ……って、ちょっと待ってください。カオーランタンの両腕、さっきと違いません?」
「あら~? 知らず知らず魔法をかけちゃったのかしら?」
「魔法で両腕がビーストマスターになってたまるか!!」
 醤達が騒いでいる間に、パーツを転送したのだろう。カオーランタンの右腕にはデスボム、左腕にはデスビームが装着されていた。当のカオーランタンはというと、自分の事について話しているのがわかるのか、不思議そうに首を傾げている。幾らその様子が微笑ましくても、両腕の造形で一気に現実に戻されたのだった。しらばっくれるミルキーに醤が怒号を散らすと、梓音が窘める。
「村崎、うるさい。ロボトルにパーツ交換はつきものでしょ? そうでもしなきゃ、向こうのチーム妨害パーツしか無いんだから」
「だからって、ラスボスのパーツ使うのはあんまりだろ!! 全部貫通すんだぞ!?」
「何のコトかわからないけど、『ラスボス』はプロトタイプの方よ……コンビニで売ってるんだから、仕方ないじゃない」
「誰だ!? ビーストマスターのパーツをコンビニに卸したのは!? おい、お前ら!! 絶対あの両腕の攻撃当たんなよ!? 当たったら一分でロボトル終わるぞ!!」
「ほお、全弾貫通する程の威力なのだな。気をつけるとしよう」
「む、無理をおっしゃる……」
 醤の言葉に頷くカグラに、震えるマリア。心は間に合わなかったようだが、両チームの機体の準備が整ったのを見計らい、お馴染みの号令が轟いた。
「合意と見てよろしいですな!?」
 少々ハイトーンのどこか優しさを感じるその声に、醤と梓音、そしてカグラとマリアは顔を見合わせる。
「あれ? いつもと声違くね?」
 醤が呟くと、完全に部屋のインテリアとして認識していたラピの大きなぬいぐるみが立ち上がる。そのまま頭を外すと、中から鼻の下に髭を生やし、白髪をオールバックにまとめた初老の男性が現れた。
「とうっ!」
 謎の掛け声と共に着ぐるみを脱ぎ、突如現れた男は意気揚々と喋り出す。
「只今、このバトルは真剣ロボトルと認定されました! よって私、世界メダロット協会永久ロボトル公認レフェリー・Mr.うるちが審判を務めさせて頂きます!」
 どうやら、メダロット協会のレフェリーは地区毎の担当があるらしい。考えてみれば当たり前の話で、全国をMr.ジャムとMs.マーガリンが担当しているとなると、それこそ既に過労死している。『Mr.うるち』と名乗るこの男性は、確かに赤い蝶ネクタイに白いシャツ、そして黒のスラックスと、レフェリーとして特徴的な格好をしている。しては、いるのだが。
「何で、メダロット協会はまともなヤツがいねーんだ……」
 随分奇抜な登場をしたMr.うるちに、醤はどこぞのコンビを思い出してげんなりした。恐る恐る、醤はMr.うるちに声を掛ける。
「頼むから、審判の途中で性犯罪はやめてくれよ……?」
「ええっ!? しませんよ、そんな事!!」
 慌てて否定する様子を見た限りでは誠実そうで、醤は幾何か安堵した。このレフェリーは、Mr.ジャムやMs.マーガリンよりも信用できるだろう。両チームを確認し、Mr.うるちは右手を高らかに上げる。

「これより、醤・梓音選手のカグラ・マリア組対ミルキー選手のサンウィッチー・カオーランタン組のタッグマッチを行います! それでは、ロボトルゥ……ファイトオ!!」

 Mr.うるちが一気に腕を振り下ろすと、ロボトルのゴングが鳴った。
「カグラ! 魔女の方にリボルバー! 二号機に注意しながら、さっさとリーダー機落とすぞ!」
「心得た!」
「リーダーが言うなら、援護しようか。マリア、カプセル」
「了解です!」
 カグラはライフルを、マリアはナパームを、リーダー機であるサンウィッチーに集中砲火する。サンウィッチーは空を舞っているかのように軽くかわし、その前には二号機・カオーランタンが回り込んだ。
「げっ!?」
「勇者くん、作戦は良いけどそうはさせないわ! カオーランタン、パーン!」
 ミルキーが杖を向けると、カオーランタンは目から眩い光を放つ。途端、額上に『×』のグラフィックが浮かび、マリアは首を傾げながら触れた。
「何ですか、コレ……?」
『防御不能ノマイナス症状発生』
 メダロッチから無機質な声が聞こえ、梓音は僅かに目を伏せる。醤は、舌を打ちながらカオーランタンを見た。
「くそっ!! いきなりか!!」
「ふふっ、同じ攻撃ならダメージ大きい方が美味しいものね! カオーランタン、デスボム!」
「えっ!? えっ!? マリアに何が起きてるんですか!?」
「マリア!!」
 味方の慌てふためく様に、マリアはただ狼狽える。マリアに向かうナパームを撃ち落とすべく、カグラは咄嗟に左腕・サブマシンガンを構えた。
「サンウィッチー、ツーコットン♪」
「うわっ、と!?」
 杖を振り回し、ミルキーが上機嫌で指令を出すと、カグラは動いてもいないのにひっくり返った。まるでカグラを嘲笑っているかのように、頭にはバナナの皮が落ちてくる。バナナの皮を抓み上げ、カグラは目を丸くして首を捻った。
「はて……ワシは今、何をしようと……?」
「だあああっ!! 転倒ウゼエエエエ!!」
 醤は、手を強張らせ、忌々しげに叫んだ。当然、無傷のナパームはマリアの追尾を止めない。
「キャアアア!? もう、しつこいですっ!! ナースコール……!」
「ダメッ、マリア!! ナースコールを使わず逃げて!!」
「何でですかしぃちゃあああああん!?」
 一度は踏み止まったマリアも、梓音に言われるがまま走り回る。咄嗟に崩れていない側の鉄格子の裏へと回り込み、ナパームは牢に当たって爆ぜ、鉄が炭となった。
「ひっ!?」
「……聞いて、マリア。マリアの前に浮かんでる『×』は、『防御不能』のサインなの」
「防御、不能……!?」
 梓音の言葉を復唱し、マリアは己の『×』を見上げる。梓音は、説明を続けた。
「……そう、言葉通りの意味。防御してダメージを減らす事もできなければ、頭パーツを庇う事もできない。ナースコールだって、使おうとすれば完全防御なんておろか、敵に首を差し出すだけの行為になる」
「じゃあ、あの時使ってたら……!?」
「今頃、機能停止してたでしょうね」
「ひええええぇ……!」
 淀みなく言いきる梓音に、マリアは青い顔で自分の体を抱き締めた。マリアを不憫に思い、醤も口を出す。
「ロボトルの前に言ったのは、そういうこった。ただでさえも威力がエグいパーツなのに、防御不能なんかになってみろ。即死だよ」
「ショウさんはトドメをさしてるんですか!? 体の前に心がボロボロですよ!! マリアはどうしたら良いんですか!?」
「……マイナス症状は、ずっとじゃねぇ。一過性で、終わりがある。そうすりゃ、完全防御も使えるようになんだろ。それまでは……」
「『それまでは』……?」
 言葉を繰り返し、醤へ熱視線を送るマリア。醤は、マリアの希望ごとそれら全てを避けるように、目を背けた。
「…………まあ、頑張れ」
「『作戦名:頑張れ』ってあんまりじゃないですか!? マリアが二号機だからって雑に扱わないでください!!」
「扱ってねぇ!! オレだってお前が機能停止したら困んだよ!!」
「これこれお前達、仲間割れをしてどうする」
 言い争う醤とマリアを嗜めながら、カグラはライフルでカオーランタンの装甲を削っていく。しかし、両腕で防御され、それも僅かしか叶わない。カグラは敵二体を見据えたまま、醤に話し掛けた。
「ふむ。弾数にも限りがある故、本当は威力の高いサブマシンガンを使いたい所ではあるが……そうすると、避けられぬか」
「ああ。下手に使うと、一発でドカンだ」
「使いたくとも使えないというのは、もどかしいものだな。して、ショウよ。先程の転倒は、あの魔女の能力か?」
「サンウィッチーの行動は、全部『転倒』。アレを喰らうと、行動内容を忘れちまうんだ」
「これは、なかなか骨が折れそうだ」
 いつでも回避できるよう、カグラは床を踏み締める。ミルキーは杖をかざし、勝気に笑って口を開いた。
「カオーランタン、デスビーム!」
「「「あ」」」
 ミルキーの指示を聞くや否や、カオーランタンは、カグラとマリアに向かってビームを放つ。醤は、全力で吠えた。
「避けろオオオオオオオ!!」
「キャアアアアアアア!!」
「逃がさないわよ! サンウィッチー、ツーコットンにブーメラン!」
「おわっ!?」
「いっ!?」
 カグラとマリアは同時に転び、バナナの皮が宙を舞う。顔面から転倒したのか、マリアは起き上がって両手で顔を押さえた。
「いったぁ~いっ!!」
「すまん、マリア!!」
「キャッ!?」
 カグラが咄嗟に突き飛ばし、マリアは再びうつ伏せで倒れる形となった。カグラが反対方向に転がった途端、二人の間をビームが灼く。マリアの背筋が寒くなるのも束の間、カオーランタンは次から次へと攻撃を繰り出した。
「まだまだいくわよぉ! カオーランタン、デスボム!」
「もうイヤアアアア!!」
「あははははははっ!! あーっははははははっ!!」
「一番城ぶっ壊してんのお前じゃねーか!?」
 容赦のない猛攻を続けるミルキーに、醤は思いきり指摘した。度重なる爆音、マリアの悲鳴、そしてミルキーの高笑いが空間を支配する中、不意にペパーミントの香りが醤の鼻をくすぐる。
「……村崎の言う通り、近いに越した事は無かったね」
「!?」
 先程よりも僅かに顔を寄せ、喋り掛ける梓音に醤は顔を赤らめて固まった。しどろもどろに、醤は短い音を吐く。
「んなっ、なっ……!?」
「……マリアのナースコールの使用回数は、四回。おじいちゃんのミサイルと一緒」
「え?」
 いきなりマリアの頭パーツの話を持ち出された意図が読めず、醤は聞き返す。梓音は前方から目を離さないまま、話し続けた。
「今の内に、言っておく。防御不能が解除されたら、ワタシ達があの攻撃を防ぐから、おじいちゃんにはサンウィッチーを撃破させて。それまでは、ジリ貧だけどやるしか……やたら顔赤いけど大丈夫?」
「すこぶる健康デス!! 色んな意味で!!」
「なら良いけど……?」
 不審な醤の態度に、梓音は訝しげに顔を歪めた。一息つき、梓音は再び口を開く。
「……村崎は、ロボトル前にああ言ってたけど。例え、パーツの性能が違っても、ルールから逸脱しない限りメダロットとメダロッターの力だよ。ロボトルは、公平でなきゃ成り立たないもん」
「……そうだな……」
 珍しく静かな醤の様子を不思議に思い、梓音は隣を見た。すると、真剣な眼差しで四体を見つめていたため、梓音は少しだけ驚かされた。ずっと閉じていた口が、醤自身によって開かれる。
「……なぁ、波花」
「何?」
「サンウィッチーのメダルは当然ウサギだろうが……カオーランタンのメダル、どう思う?」
「……メダルねぇ」
 醤に尋ねられ、梓音も視線を前へと戻す。カグラとマリアは、今もカオーランタンの攻撃に追い掛け回されている真っ最中だ。
「元は、カオーランタンなんだから……サルメダルが妥当なんじゃない?」
「それなら、何だかんだ全弾外れてんのも説明がつく。サルメダルは、元々格闘パーツの方が相性良いしな。もしクラゲかトータスなら、オレらはとうに死んでいる」
「それは言えてる」
 梓音が返答した後、どこかの外壁がまた崩れる音がした。醤は、眉間の皺を深くする。
「ミルキーも、最初から当てる気は無ぇだろうな。当てるよか、ジジイとマリア両方に防御不能掛けて、瓦礫で押し潰した方が余程楽に片付くぜ」
「カオーランタンの両腕を破壊した所で、サンウィッチーによる判定勝ちを狙ってくるだろうしね。本当に、やらしい性格をしてる」
「つまり、ミルキーからすればどっちに転んでも良いってワケだ」
「ドヤ顔のトコ悪いけど、全然面白くないから」
 不敵に笑って言ってのけた醤に、梓音は冷たく一瞥した。気を取り直すと言わんばかりに、醤は咳払いを一つする。
「……とまぁ、そこは波花の言う通りって事だよ」
「何が? お前の親父ギャグが死ぬ程ゴミってコト?」
「断じてそこじゃねぇ」
 全くもって仕切り直せなかった事態に、醤は苦々しく呟く。そして、口角を吊り上げた。
「『ロボトルは公平だ』、ってな」
 その後も話し続ける醤に、梓音は瞬きし、光の宿った目で前を見据えた。ヘトヘトになりながらもマリアは逃げ惑い、弱音を吐く。
「この『×』っていつ無くなるんですかああ!?」
「案ずるな、マリア。結構な時間が経過しているのだ、そろそろ消えよう。或いは、その前に……おや?」
「あら……?」
 メダロッチを通じて受信された言葉に、カグラとマリアは目を丸くする。そして、顔を見合わせて頷き合い、爛々とした二対の光で、敵のメダロット二体を捉える。
「……心得た!」
「了解しましたよ……しぃちゃん!」
 相手の空気が変わり、ミルキーは杖を両肩に掛け、おどけたように笑って見せた。
「あらあら? 何だかやる気満々? どうやら、作戦がまとまったみたいねぇ」
 ニコニコと、人懐っこい笑顔を浮かべるミルキー。片手で杖を器用に回し、前方へ向ける。
「なら、ぜーんぶ忘れてちょうだい! みんな仲良く、このお城で暮らしましょっ!」
 ミルキーの掛け声と共に、サンウィッチー、そしてカオーランタンが飛び出した。
「カオーランタン、デスボム!」
「マリア、カプセル!」
「はいっ!」
 マリアはありったけのカプセル型ナパームを投げつけ、敵のナパームを全て相殺する。砕け散る弾薬に、ミルキーは驚愕した。
「ええっ!?」
「防御ができないのなら、コチラも攻撃すれば良かったんです。『攻撃は最大の防御』って、マリアのための言葉だったんですね!」
 まるで戦闘民族のような言葉を放ち、マリアは勝気に笑う。ミルキーはメダロッチを構え、次の指示を出した。
「ナパームは壊せても、コレは相殺できるかしら!? カオーランタン、デスビーム!」
「流石に無理ね」
「だったら……!」
 梓音がささやかに笑った後、醤はメダロッチに向かって叩きつけるように叫んだ。
「全力で、避けるだけだ!!」
 カグラとマリアに難なく回避され、ビームは外壁を焦がして砕く。
「『ねらいうち』を使ったな?」
 ミルキーは、幾分か低いカグラの声ではたと気付く。しかし、あまりにも遅過ぎた。
「ならば……此方も、心置きなく使わせてもらおう!」
「カグラ! サブマシンガン!!」
 醤から指示を受けて足を踏み締め、右腕で支えてガトリングをカオーランタンへと乱射した。カオーランタンの全身は弾丸の雨に撃たれ、大幅に装甲を削られていく。ミルキーは、急いで命令を出した。
「カオーランタン! 後退!」
 言われるがまま、カオーランタンは車輪をフル回転させ、音を立てて後ろへ下がる。醤は、笑みを浮かべて言い放った。
「そんだけ装甲薄けりゃいけんだろ! カグラ!! ミサイル!!」
「させる訳ないじゃない!? サンウィッチー! マジョラム!!」
 サンウィッチーが目映い光を放つと、カグラは転倒し、ミサイルは不発に終わった。
「いたたた……」
「残念だったわね、勇者くん! 私のメダロットは、カオーランタンだけじゃないのよ!」
 ミルキーは、俯いている醤に対し得意気に笑う。てっきり、悔しそうに顔を歪めているものだと思っていた。しかし、再び上げた醤は、不敵に笑っていたのだ。
「忘れてんのは、アンタの方だ」
「えっ!?」
「やれやれ、こうも転ばされると腰が痛むな……」
 ミルキーの動揺を余所に、カグラは呑気に腰を擦る。頭なんて、バナナの皮が乗ったままだ。カグラは、転がったまま言葉を続けた。
「なれど、『ワシは転ばなければならなかったのだ』。仕方あるまいな」
 ミルキーは、カグラの、更には醤の言葉の意味をすぐさま理解した。何故なら、カグラの転倒により、直線上に拓けた向こう側。『もう一人の狙撃手』が、サンウィッチーにぴたりと照準を合わせていたためである。巨大な注射器の『針』は、既に大小様々な光の円を纏っていた。
「ウソでしょぉ……!?」
 落胆するミルキーの声に、両腕で注射器を構えるマリアは、首を倒して微笑む。
「残念ながら、本当です♪」
「マリア! ワクチンほう!!」
 梓音の指示と同時に、一筋の閃光が空間を裂いた。散るように光が消えた先では、元の姿より黒くなったサンウィッチーが仰向けで倒れており、付近にはウサギメダルが転がっていた。

「醤・梓音選手の、カグラ・マリア組の勝ちィ!!」

 Mr.うるちの声と、どこからろもなく鳴り響くゴングに、醤は右拳を突き上げた。
「よっしゃあああ!! 勝ったあああああ!! は、良いけどマリア! 狙うなら、もーちょい上狙えよ! サンウィッチーの前にジジイが丸焦げになんだろーが!?」
「は? マリアが照準ミスるワケないじゃない。脳味噌腐ってんの?」
「しぃちゃんっ!! マリア頑張ったのに、ショウさんたら酷いです!」
「勝ったのだから良いではないか」
「本人含め誰一人として味方がいない!!」
 嫌悪感丸出しの顔で醤から離れ、マリアに支えてもらう梓音。そんな梓音に泣きつくマリア、醤に呆れるカグラと、醤は手をわななかせて現状を嘆いた。一方、負けたミルキーは、頬を膨らませて悔しがっていた。
「あん、もう悔しいっ! ……ま、良いわ! 勇者くん、高校生みたいだしー」
「ちょっと待て!! 切り替え早くね!? つーか、本気じゃなかったのかよ!?」
 あっけらかんと笑顔を浮かべるミルキーに、醤は尋ねる。すると、上機嫌なウィンクが返ってきた。
「ふふっ、どうかしら? 楽しかったわよ、勇者くん♪」
 ミルキーの様子からするに、聞くまでも無かっただろう。もしも、ミルキーが本気であったなら、どんなメダロットを使ってきたのだろうか。本気のミルキーと戦えなかった無念さと、背筋が凍るような可能性から、醤は複雑な気持ちになった。梓音は深く息をつき、頭を抱える。
「本気じゃないなら、もうちょっと加減しなさいよ。途中、ゾッとしたんだから……」
「あら! お嬢ちゃんの事は本気だったわよ?」
「「!?」」
 心外だと言わんばかりに反論するミルキーに、醤と梓音は大きく見開いた目でミルキーを凝視した。何故、醤は冗談で、梓音は本気なのだろうか。やはり、顔面偏差値的な問題なのだろうか。醤の思考がそこまで到達した所で、ふと止まる。確か、ミルキーは今さっき言っていたはずだ。
「ま、待って……。さっき、『村崎は高校生だから、本気で勇者にするつもりは無かった』って言ったでしょ? なのに、何で……?」
 混乱で眩暈を感じているのか、梓音は青い顔でミルキーに問う。ミルキーからの回答は、至ってシンプルなものだった。
「だってキミ、小学生でしょ?」
 ビシ、と目に見えない罅が空間に入ったように、誰もが感じた。ロボトルで崩れた壁等、比ではない。一同が絶句し、硬直する中、この男だけは違った。
「なっみはっなすゎぁ~ん!! 小学生に間違わべっ!?」
「今のはショウが悪い」
「デリカシー無さ過ぎですよ、ショウさん!」
 水を得た魚の如く手を振りながら梓音を煽った直後、醤の頭にプラスドライバーがクリティカルヒットした。床に沈んだ醤を見て、カグラは目を細めて頷き、マリアは腰に手を当てて叱る。当然ながら、どちらも醤の意識には届いていなかった。
「なーんだ、子どもじゃなかったの! 私の勘違いの所為でごめんね~?」
「勘違いじゃなくても、ここは謝る場面よ」
 両手を合わせて苦笑するミルキーに、梓音は青筋を立てて睨みつける。うって変わって真剣な表情を浮かべ、ミルキーは弁解した。
「ホラ、おっきいおトモダチ相手だと、ゆっ……コレクションする時暴れられたら大変じゃない?」
「これ程弁解する気の無い弁解も珍しいっていうか、今絶対『誘拐』って言おうとしたでしょ」
 こうして、『波花梓音お姫様化計画』、もとい『幼女(?)誘拐未遂事件』は、幕を閉じたのだった。





「あ~もう、最悪な一日だった……」
「オレの台詞だよ、ったく……」
 メダロッ島から船着き場までの、帰りの旅路。船の窓側で頬杖をつき、反対側に座る梓音と醤は、口々に愚痴を呟いた。二人の間に座るカグラとマリアは、口を開く。
「二人共、いい加減機嫌を直さんか」
「そうですよ! ほら! 折角窓側なんですから、夕日を見ましょう! キレイですよぉ♪」
「お前らは良いよなー。イベントからアトラクションから、さぞ大満足なんだろーよ」
 醤は窓の方へ向いたまま、わざとらしく笑みを歪ませて吐き捨てた。拗ねている醤に対し、カグラは満面の笑みで頷く。
「ああ! シオンの一件は肝が冷えたが、宴は楽しかったのだよ! ショウのお陰だな、ありがとう!」
「嫌味に礼で返すなバカ!!」
「おじいちゃんに怒鳴らないで。魚の餌にするわよ?」
「おお、やってみろよケガ人……!?」
 梓音と醤は、カグラ達を挟んで睨み合う。目を合わせたと思ったらまた喧嘩が勃発した二人に、カグラは顎に手を当て、目を細めた。
「ふむ……ショウとシオンは、喧嘩をする程仲が良いのだな」
「どうすりゃそう見えんだよ!?」
「おじいちゃんには悪いけど、それは絶対無いから」
 カグラが諦めの境地に達した所で、マリアは嬉しそうに指を差した。
「皆さん! 船着き場に着いたみたいですよ!」
 少し揺れた後に船は止まり、乗込口が開く。マリアは梓音に歩み寄り、心配そうに手を差し出した。
「しぃちゃん、立てそうですか?」
「うん、乗る時も大丈夫だったから。ありがと、マリ、!?」
 マリアの横から長い腕が伸び、あっという間に梓音は背負われてしまった。船を降りるまで呆けていた梓音だったが、我に返って暴れ出す。
「ちょっ、降ろしなさい村崎!! 何考えてんの!? バカじゃないの、バカッ!!」
「いでっ!? いででで!? 殴んじゃねーよ、マジで落としたらどうすんだ!」
 両手で醤を叩く梓音に、醤は反論する。しかし、梓音からすれば冗談じゃない。何とか降ろしてもらおうと、醤へ説得を試みた。
「『大丈夫』って言ったじゃない!! 大体っ、メダロッ島での車椅子も大袈裟なのよ!! こんなの、ちょっと挫いただけなんだってば!! いい加減にしないと、ドライバーで心臓一突きに……!」
「…………いーよ」
「何が!?」
 醤の言葉がよく聞こえず、梓音は乱暴に聞き返す。梓音は醤の顔を覗き込み、何も言えなくなってしまった。
「『研究所に着いたら、魚の餌でもドライバーでも好きにして良い』って言ったんだよ。ただ、それまでは暴れんな。悪化すんぞ」
 言葉を失った梓音は、小さく口を噤む。叩くのをやめて醤の肩に手を置いた後、暫くして梓音は背中に顔を埋めた。驚いた醤の、両肩が跳ねる。
「なっ!? み、はな……!?」
「……この年でおんぶとか、恥ずかしいったらないわ。ちょっと……顔、隠させてよ」
「あ、ああ。そういう事ね……?」
「それ以外に、どういう事があんの? ……ああ、もう最っ悪……」
 醤の答えを待たず、梓音は間髪入れずに愚痴を言う。梓音は、手元のシャツを握り締め、独り言のように呟いた。
「ホント、最悪過ぎて……忘れられそうにない」
 その言葉を皮切りに、醤と梓音は何も喋らなくなった。後ろを歩いていたカグラは、ふと気付いて振り向く。
「……おや。良い写真だな、マリア?」
「ふふっ♪ 現像したら、ジジ様も一枚如何です?」
「ああ、頂くとしよう」
 マリアの申し出に、カグラは穏やかに笑う。レンズの向こうでは、背負う醤も、背負われた梓音も、夕日に負けないくらいの赤い顔を浮かべていた。





「――此方、現場からお伝えしております!! 本日十五時頃、御守町の国道が何の予兆も無く陥没しました!! 休日の昼下がりという事で外出者はごく僅かの人数であり、幸いにして死傷者はいないようです!!」
 帰り道。醤達は、陥没した国道と、おびただしい数の報道陣を目の当たりにした。恐らく、原因を探った所で、答えは出ないままに終わるだろう。一同は負傷者を生まなかった奇跡に心から感謝し、『この先カグラを御守町外へ決して連れ出さない』と固く誓ったのであった。





メダロッチ更新中……――
・クリンボックス(WCH-04。浮遊:時間)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「えー、皆様お待たせしました。オレを始め、『KWGはまだかまだか』と待ち侘びた方もいらっしゃる事でしょう! KWG、良いですよね~!! 白銀のボディー!! 鋭く光る刃!! 接近型として設計された、無駄のない脚部!! そして、クワガタメダルの痺れる程クールな性格……セイカ、ク……」
カ「ショウ、如何した……ん?」
シ「次回! 『六角形の神サマ』第弐拾伍話、『銀之道祖神(前篇)』! 待たせたな、人間共! 『主人公』というのは遅れてやって来るものだ!!」
醤「いやオレだし百歩譲ってカグラだよ!!」


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