>> メダロットライズ にもどる

RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2018/01/14 13:57
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、2人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校2年D組。主人公。
1人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、”虫の知らせ”を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校2年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話したことは少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校2年D組。醤の友人その1。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『1円を笑った者は1円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンであることを完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング3本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校2年D組。醤の友人その2。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校2年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校2年3組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は1号、力は2号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に1度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりすることを、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、1人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校2年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむこと』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇) ( No.9 )
   
日時: 2018/01/14 16:05
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第玖話/小規模度胸・大規模野望(後篇)





「っんの女アアアアアア!! マジありえんわもーマジありえんし!!」
「しょ、醤君。落ち着いて……」

メダロット研究所の1室内。
カグラが誘拐され、怒号を響かせる村崎醤(ムラサキショウ)を、研究所所長兼メダロット博士である波花椒吾(ナミハナショウゴ)は宥めようと試みる。
言わずもがな、誘拐犯は醤のクラスメートであり椒吾の娘でもある、波花梓音(ナミハナシオン)である。
醤は落ち着く事を知らず、声を荒げる。

「落ち着いてられませんよ!!
 アイツの事だ、ジジイがぼーっとしてる間にドライバーで背中のハッチこじ開けてメダル盗るに決まってる……!」
「そ、そこまでするかなあ……?」
「しぃちゃんて情熱的だから、ふふっ」
「“執念”の間違いだろ!! そんな微笑ましいレベルの話じゃねえぞ!?」

醤の話を聞いて両頬に手を当てて笑うマリアに、目を見開きながらそう言った。
困り果てながらも、椒吾は首を傾げながら疑問を口にする。

「いつもお世話になってるのもあると思うけど、梓音がこうまでして何かを欲しがるなんて珍しいねぇ……?」
「そりゃあ……」
「ショウさんっ」
「あ……」

椒吾の疑問に突発的に答えそうになった醤は、小声でマリアに止められた。
梓音がカグラに執着する理由を話すとなれば、当然、出会った経緯を話さなければならない。
出会って数時間しか経っていないが、優しい椒吾が『幼い梓音が周りに馴染めず寂しい思いをしていた』事実に心を痛める事になるのは醤にも何となくわかる。

「ん? どうしたんだい?」
「いやー、はは……あっそうだ! オレ、カグラを探しに行ってきます!」
「えっ、醤君……! ……ま、待ってくれないか……?」

カグラを探しに行くという名目を見つけ、研究室から出て行こうとした醤は、椒吾より足を止められた。

「その……折角だし、僕と話でもどうかな?」

椒吾の突然の申し出に、醤は少し目を丸くする。

「いやあの……確かにオレも博士から話聞きたいけど、カグラを探さねえと……」
「カグラ君の事なら大丈夫。
 もし梓音が拒んだとしても、必ず君がカグラ君と帰られるよう僕がきちんと話すから……駄目かい?」

申し訳なさそうに頼み込む椒吾に、醤は言葉を失くした。
斯様な状況でなければ、椒吾からメダロットについての様々な話を聞きたいのも事実。
それに。
のんびりとした温かい雰囲気を持つ椒吾を前に、カグラの姿がちらつき、醤の心は揺れた。
マリアもしおらしく、醤の傍らで手を合わせる。

「ショウさん、マリアからもお願いです。
 しぃちゃんも……ジジ様と2人きりでしたいお話、たくさんあると思うんです。
 ジジ様とはずっといたいですけど、マリアもしぃちゃんを説得しますから……お願いします」

そう言って頭を下げるマリアに、醤は乱暴に頭を掻くと、諦め気味に笑いを零した。

「……わかった。オレにメダロットの話教えてください、博士!」
「醤君……!」
「ありがとうございます、ショウさん!」

醤が歯を見せて笑うと、椒吾は顔を綻ばせる。
マリアも頭を上げ、お茶を入れてきますね、と嬉しそうに研究室を後にした。





一方、カグラは梓音に連れられ、梓音の部屋に来ていた。
部屋の壁は真っ白なジグソーパズルがはめ込まれており、家具は黒1色で統一されている。
整えられたモノトーンの小さな空間で、教科書やノート、そして部屋の主である梓音の“色”は良く映えた。

「……おじいちゃん、コレ、が修理したパーツなんだけど……」

カグラとテーブルを挟み、向かい合って座る中、梓音は少し躊躇いながら大きな紙袋をテーブルの上に乗せた。
取り出した中身は、新品と見間違う程のKBTシリーズ1式。
自分と共に戦ってきたパーツを懐かしみながらも、酷使し大破してしまったパーツがここまで修復可能であるのかと、カグラは目を丸くした。

「ほぉ……! かたじけないシオン! ここまで綺麗に直るとは……!」
「……ううん、実は……直せてないの」

そう言うと、梓音は暗い表情で静かに首を横に振った。
修理されたパーツから梓音へと視線を移し、カグラは首を傾げる。

「直っておるではないか」
「……パーツ自体は、部品を取り換えたり接合して修理出来た。
 けど、何度実験してもティンペットのナノマシン……自動修復機能は完全に不能。
 パーツの方は……ナノマシンと連動が出来ないみたいで、1度壊れたら回復も復活も出来ないみたいなの」
「そうか……もう、使えぬか」

目の前のパーツに視線を戻し、ゆっくりと言葉を吐いたカグラに、梓音か小さく頭を下げる。

「ごめんね、ワタシ……」
「……なに、この機体が寿命だったというだけの話。お前が謝る理由等何処にも無い。
 シオンにここまで直せて貰えてワシはとても嬉しいよ、ありがとう」
「おじいちゃん……」
「この機体でまだ使える部品は、他の絡繰りの修理に是非使って欲しい。……お前も、長い間有難う」

穏やかな口調で言うと、カグラは慈しみながらパーツを撫でた。
そんなカグラの様子を覗き込むように見ると、梓音は心配そうに尋ねる。

「おじいちゃん、大丈夫? 今日、ずっと元気ないよ……?」
「……何の。強いて言うなら、この研究所は何から何まで珍しい物ばかりで目を奪われっぱなしなだけなのだよ。心配かたじけない」

カグラは笑い声を交えながら答えたものの、不安が拭われる事は無く、梓音は胸を押さえるように手を当てた。
梓音は何かを決心したように口を一文字に結んだ後、小さく開く。

「おじい、ちゃんは……どうして、村崎を選んだの……?」

途切れがちに声を掛けられ顔を上げたまま、カグラは梓音から目を離せなくなった。
声こそ少し震えていたが、その眼差しは強く、誤魔化す事を許さない。
カグラは、静かに息をつく。

「……先の1戦の事か」
「ごめんなさい。『大事な孫だ』って言って貰えて凄く嬉しかった、ハズなのに……どうしても、わからないの……。
 一緒にいるの……ワタシじゃ、ダメなの……?」

梓音の視線や言葉を受け止め、カグラは1つ瞬きし、口を開いた。

「何を言っても詭弁になるやもしれぬが……シオンと一緒にいるのが駄目な訳が無い。偶然が重なっただけなのだよ」
「ぐうぜん……?」

カグラは、この部屋の空気を一掃するかのように、“楽しさ”を言葉に滲ませる。

「……ショウがな、ワシを助ける時に言ったのだよ。『アンタのメダル貸してくれ』、と。
 助ける者に頼み事とは、本当にショウは変わっておる」
「村崎が、おじいちゃんを助けた……?」
「左様。自分が……渦中に巻き込まれるのも顧みずに」

告げられた事実に梓音が驚くと、カグラは幾度が低い声色でそう言った。
表情にも影が差したかと思えば、カグラはすぐに微笑む。

「ショウが救った“命”をどうこうする権利等、ワシには無い。
 だから、ショウが一緒にいる事を望むならば……望んでくれる限り、ワシは隣にいようと思うのだよ」

カグラの決意を聞き、梓音は僅かに目を伏せた後、小さな声でカグラに尋ねる。

「それって……ワタシがおじいちゃんを助けてたら、ワタシと一緒にいたかもしれないってコト……?」
「お前達には酷かもしれぬが、否定は出来まい。そういう未来もあったやもしれぬ」
「そ、っか……」

呟きながら梓音は笑みを浮かべたが、その表情はすぐに曇る。

カグラは、仮定の話をした。
梓音自身、カグラが助けを求めたならば、助けただろうと思う。否、思いたかった。
しかし、あくまで“仮定”なのである。確証は何処にも無い。
カグラの声に気付いたのも、カグラを助けたのも、他の誰でもなく……。

梓音は、自嘲気味に笑う。

「村崎は、扉壊せたんだ……」
「シオン? っ――……」

カグラにしか聞こえない“音”により、彼は言葉を止めた。





「はい、これがKWGシリーズの資料だよ」
「うおおおお!! ありがとうございます!」

その頃、研究室にて。
醤は椒吾からメダロットの話を聞いたり、文献を見たりしていた。
嬉々として中の資料を眺める醤に、椒吾は穏やかに笑う。

「そんなに喜んで貰えるなんて嬉しいなあ。醤君はKBTだけじゃなく、KWGも好きなんだね」
「……すいません、KBTのも見せてクダサイ」
「声が震えてるけどどうしたんだい!?」

あれだけ夢中になっていた書類から目を離し、暗い表情で笑う醤に、椒吾は思わず声を上げる。
醤は1つ咳払いをし、苦笑しながら話す。

「いや、でもKBTの設計資料は冗談抜きで嬉しいです。メンテとか調整に必要なので」
「わかった、用意しておくよ。それにしても……」

くすくすと笑い声を零す椒吾に、醤は不思議そうに尋ねる。

「何すか?」
「醤君は、噂通りのメダロット馬鹿だねえ」
「メ、『メダロット馬鹿』!?」
「僕や梓音と一緒だよ。わかるし感じるんだ、本当にメダロットが大好きなんだなって」

突然の言い様に声を荒げた醤だったが、満面の笑みを浮かべる椒吾に対し何も言えず、照れ隠しで頭を掻いた。
僅かに顔を赤らめる醤の顔を覗きながら、椒吾は言葉を続ける。

「君みたいな熱心な子が研究所に入ってくれたら良いんだけどなあ」
「え……?」
「そうだ! それが良いよ! どうだい醤君!? 醤君が入れば賑やかになるし、研究も捗ると思うんだ!
 是非将来、メダロット研究所の職員に!!」
「ちょっ、待っ、博士!」

いつもの穏やかな雰囲気とはうって変わって興奮し、醤の手を取って勢いよく上下に振る椒吾を、醤は慌てて制止する。
椒吾は我に返ると、醤の手を開放し、恥ずかしそうにはにかんだ。

「あっ、ごめんごめん。気持ちが昂るとどうもいけないね。でも、醤君が研究所に来てくれたら嬉しいっていうのは本心なんだ。
 ……梓音も、喜ぶと思うし」
「え、波花が? 怒り狂うだけだと思いますよ?」

怪訝そうな顔で言う醤に、椒吾は笑顔のまま少し俯いて答えた。

「確かに、あんな梓音を見るのは初めてだけど……あんなによく喋る梓音は、もう何年振りにもなるんだ。
 妻が先立って、僕は研究漬けで、梓音にはきっとずっと寂しい思いをさせてきたと思うから……」

椒吾の言葉に、醤は当時の事を思い出していた。

記憶はおぼろげだが、正しければ11年前、梓音の母が亡くなったような事を聞いたような気がした。
幼稚園児であった醤は、“死ぬ”という事がどういう事なのか理解していなかったが、甘えた盛りに母を亡くした辛さは計り知れないモノだろうと今ならわかる。
母もいない、友達もいなかったという梓音が出会ったのが、カグラとマリアだった。
新しい“家族”に、どれだけ救われた事だろう。

複雑な心境に駆られる醤に、椒吾は顔を上げ、優しく微笑んだ。

「だから醤君……これからも、梓音と仲良くしてください」
「……はあ……」

間の抜けた返答をしたは良いものの、果たして自分は“あの”梓音と仲良くなる事は出来るのかと、醤は腕を組んで考えた。
すると、椒吾から今度は遠慮がちに話し掛けられる。

「それでね、醤君には1つ確認したい事があって……」
「あっ! ハイ、すいません! 何ですか!?」

腕を解き、明るめの口調を努める醤に、椒吾は少し困った顔で問う。

「何て聞いたら良いのかな……今日は、修理したパーツを取りに来ただけ、なんだよね?」
「はい、そうですけど……『だけ』って?」

躊躇っていた割にごく普通の質問に拍子抜けしながらも、醤は疑問に思った単語を尋ね返す。
椒吾は少し安堵した笑顔で、更に言葉を続けた。

「いや~、ホラ、君達はもう高校生だし、有り得ない話じゃないかなあって。でも、安心したよ。
 ……梓音が彼氏を紹介しようとした訳じゃなくて」

――あれ何だろう、まだ春なのにクーラーでもついたのかな?

眼鏡を掛け直しながら呟いた椒吾に対し、醤は体感温度が一気に下がったように錯覚しながら、渇いた笑いを零しながら目を背ける。
どうしたものか醤が考えあぐねいていると、研究室の扉が開き、鉄砲玉の如く何者かが飛び込んできた。

「ショウ! “虫の知らせ”が来たのだよ!」

この場から逃げ出す口実が出来た醤は、突っ込みたい事は山程あるがカグラに目を向け、立ち上がる。

「カグラ! グッドタイミングだ!」
「何の話だ? それより急がねば!
 “知らせ”が来てから散々迷った挙句、途中で梓音がいなければ扉が開かない事に気付いて奔走したのだ!」
「あー、指紋センサーな。それで波花死んでんのか」

醤はカグラと手を繋いだまま地に伏せ、咳き込んでいる梓音に視線を落とした。
梓音は普段研究ばかりであまり“動く”という事をしない印象を抱いていたが、どうやら見たままらしい。
地に伏せたまま、梓音は途切れ途切れに喋る。

「おじい、ちゃんと手、繋いじゃった……ふ、ふ……ワタシ、も、死んでも良い……」
「良かったな、もうすぐお望み通りになるぞ」

先程の話と目の前の残念な少女とのギャップによりナーバスになった醤は、そう吐き捨てた。
満身創痍の梓音にようやく気付いたカグラは、慌てた様子で研究所内を見回す。

「す、すまぬシオン! 大事……あるな。早く水を……!」
「博士! 今日はありがとうございました! オレ達緊急事態なんで後よろしくお願いします!」
「おっ、おいショウ!」

左右を見回すカグラの腕を掴み、醤は椒吾に向かって小さく敬礼すると、カグラを引き摺るように走り去っていった。
椒吾は思わず前に腕を伸ばすが、止めたい相手はもう何処にもいない。

「えええー……?」
「ま、待ちなさい村崎……! ワタシも、一緒に……!」
「博士ー! ショウさーん! 紅茶のパックが見つからなかったのでアッツアツの抹茶ラテを入れて来ましたー! ……って、あら?
 ショウさんがいなくてしぃちゃんがいます」

丁度、入れ違いでマリアが研究室へと戻り、お盆を両手で持ったまま、地に伏している梓音の傍にしゃがみ込んだ。

「しぃちゃん、お腹空いちゃったんですか? それじゃあ今抹茶ラテをのm」
「……マリア、」

嬉々としてカップを手に取ったマリアの頭を鷲掴み、梓音は地の底から響くような声で告げた。

「今、ワタシに抹茶ラテを飲ませたら、ネジ1本残す事無く解体する。これは警告だ」
「…………うん、大変申し訳御座いませんでした」





「ショウ! 待てと言うに! シオンを放っといてはいかん!」
「元はと言えばお前がスタミナ豆腐女を走って連れ回したからだろーが! それよりこの辺か!?」

研究所を出たショウとカグラは、大通りをひたすら走る。
すると、曲がり角の向こうから騒ぎ声が響いてきた。

「や~め~て~よ~! これボクのメダロットだよ~!?」
「ぐぬぬぬ……! 小癪なガキめぇ、とっととメダロットを寄こせえええ……!」
「あっちか!」

醤達が声を聞きつけ角を曲がると、道の先には信じられない……否、あまり信じたくない光景が広がっていた。

……1体のメダロットを、体格が良くふくよかな少年と、未来人のような白い衣装を身に纏ったテクノポリスエリアリーダー・タバスコが左右から引っ張り合っている。
しかも、地面に転がって。
知人の情けない姿に、醤は頭を抱え、カグラはげんなりしながらリボルバーを放った。

「いっで!?」
「うわっ!? ……あ~、メダロット戻ってきた~。お兄さんとメダロット、ありがと~」

手首にライフルが当たり、タバスコが思わず手を放してしまった隙に、少年はメダロットを抱え込んで立ち上がり、大きく手を振りながら道の向こうへと駆けていった。
タバスコは赤くなった手首に息を吹きかけた後、醤達に気付き、尻餅をついたまま声を張り上げる。

「出たなボロボット共!! 勝機無しとみて俺に直接攻撃とは恥を知れ! “メダロット3原則”はどうした!?」
「どっちもお前に言われたかねーよ! 大体、何でこんな道端で事件起こしてんだよ!?
 今回のメイン“メダロット研究所”なんだから、研究所乗っ取ってメダロット強奪すんのが筋ってモンだろうが!?」
「ショウ、お前が悪事を唆してどうする」
「あ……ぁの研究所、セキュリティ万全で捕まりそうでコワィ……」
「チキン野郎!!」

蚊の鳴くような声で言ったタバスコに、醤はありったけの罵声を浴びせた。
カグラは、話を本筋に戻そうと、タバスコに問い掛ける。

「……タバスコ、お前は何故絡繰りを奪う? 絡繰りが必要であるならば、他に幾らでも方法はあろう」

カグラの問いに対し、タバスコは先程とうって変わって真剣な表情で立ち上がり、ゴーグルを掛け直すと、静かに語り始めた。

「人類は、テクノロジーの発展を自らの進化とし、科学的・経済的成長を遂げてきた。その集大成が“メダロット”だ。
 メダロットは人工衛星から、軍事的価値も見いだされる程の“兵器”と成った。科学の進歩は実に素晴らしい! がしかァし!!
 メダロットの進歩は、一部を除く人類により停滞しつつある! そう!!
 お前等のような一緒にいる事しか望まないような堕落した奴等だよ!! 村崎醤!!」
「はあ……!?」

話の矛先が自分の方へ向き、醤は眉間に皺を寄せた。
タバスコは、感情の昂りを見せながら、手を振りかざす。

「我々テクノポリスは、メダロットを以て軍事国家を形成し! そうした“無駄”を完全に駆逐する!
 そのためにメダロットを本来の利用価値に戻そうとしているだけなんだ! 咎められる謂れ等無い!」
「大それた目的の割に肝小せえなオイ!?」
「シャラアアアアアッップァ!!」

テクノポリスの目的を耳にした醤が思わず突っ込むと、タバスコは声を張り上げて遮った。
醤はタバスコの言葉に納得いかず、負けじと異論を唱える。

「良いじゃねぇか一緒にいるだけで!! そんなんメダロッターとメダロットの勝手だろ!?
 価値だの発展だの難癖つけて、どうせ一緒にいるだけで充分な奴等やっかんでるだけなんだろうが!!
 それに、人間邪魔ならお前はどーなんだよ!?」
「我々をお前等のような腑抜けと一緒にするな! テクノポリスは、メダロットの発展に貢献出来るごく一部の限られたエリート集団!
 駆逐の必要性は皆無だ!」

醤とタバスコが睨み合い、罵り合う中、傍観していたカグラは静かに口を開く。

「……確かに、お前の言う『堕落した』集団に、ワシも入っておるようだな」
「おいジジイ! 何認めて……」
「認めた訳ではない。ただワシは、大事な者と共に過ごす事が出来……」

醤の咎める声を否定すると、カグラは地を踏みしめた。
サブマシンガンの照準と強い緑の対の光が、タバスコを捕らえる。

「他愛もない理由で他者の幸せを踏みにじる外道を一掃出来るだけの力があれば、満足だという話なのだよ」

カグラの気迫に醤は絶句し、タバスコは笑みを浮かべながらもその頬には冷や汗が伝う。
タバスコは視線を何とか振り払い、メダロッチを構えて独り言のように呟いた。

「そうだ、どうせお前とはコレでしか決着はつけられまい。メダロット転そ……!」
「おじいちゃん!」

タバスコが転送ボタンを押そうとした所で、突如響いた声により動作を遮られた。
醤とカグラが振り向くと、梓音が息を切らしながらマリアと共に走ってくる。
カグラは構えを解き、驚いて声を上げた。

「シオン! マリア! 何故此処に……!?」
「け、研究所出たら、声が聞こえて……」
「そうじゃねえ!! 良いから早く逃げろ! じゃねえと……!」

醤やカグラの脳裏では、先日一緒にいたばかりに巻き込んでしまった友人達の事が思い出されていた。
幸い2人に怪我は無かったものの、梓音達まで巻き込み、今回も無事で済むとは限らない。
醤とカグラは、タバスコの反応が気になり、勢いよく再度そちらへ向いた。

すると。

「……ッ!?」

顔面を蒼白させたタバスコが、口元に手を当て、まるで金魚のように口を動かしていた。
タバスコの突然の挙動に、一同が怪訝な表情を浮かべる中、辛うじて醤が呼びかける。

「おい、」
「ぎゃああああああああ!!」

タバスコのあまりの悲鳴に、醤達は一斉に肩を竦める。
その後もタバスコは叫び声を上げながら、一目散に道の向こうへと消えて行った。
取り残された中、梓音が恐る恐る尋ねる。

「な、何アレ……?」
「……見ての通り変質者だけど、何? お前の知り合い?」
「あの変態はお前の知り合いでしょ?」
「うるせえな、オレだって不本意なんだよ」
「良いではないか、皆が無事なだけで儲け物なのだよ」

カグラが小さく息をつきながら言うと、マリアは首を傾げた。

「ジジ様! あの白い方は誰だったんですか? お知り合いなんですよね?」
「知人ではあるが……マリア達が気に掛けるような事ではない」
「えー! 気になります!」
「……別に、言わなくて良い」

ぽつりと呟いた梓音に、詳細を欲していたマリアと、詳細の説明を躊躇った醤とカグラの視線が集まった。
梓音の目と言葉に、確かな“意思”が宿る。

「誰だろうと、ワタシはおじいちゃんを守るだけ」

沈黙の中、マリアだけは笑顔でそうですね、と頷いた。
醤がカグラを見やると、困っているんだか嬉しいんだか、複雑な表情を浮かべている。

「……村崎、」
「うわっ! な、何だよ!?」

突如梓音に話し掛けられるとは思っておらず、醤は素っ頓狂な声を上げた。
醤の様子に動じる事無く、梓音は僅かに目を伏せる。

「……ありがとう、おじいちゃんを助けてくれて……」

思い掛けない梓音の言葉を醤の頭が理解するのに、幾何か時間を要した。
気恥ずかしさからか僅かに頬を染められると、此方としても調子が狂ってしまう。

「……オレのジジイでもあるからな」

口をついた言葉は素っ気ないモノであったが、彼女に伝わっただろうか、と醤は思う。
どうやら梓音も理解するのに時間が掛かったようで、瞬きを2回した後、僅かに口を開いた。

「…………禿げろ」
「だとコラ」

お馴染みの毒舌に醤が口の端をひくりと動かすと、梓音は醤を見据えて言う。

「負けないから、グランドファザコン野郎」
「そーかよ、グランドファザコン女」

二人の“孫”の背中を、夕日と2対の光が温かく照らした。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「皆さ~ん、儲かってまっか~?
  さて、巷では早くも年越しの準備が始まってる訳ですが、経済状況が厳しい村崎家は無事に年越し出来るのでしょーか?
  そんな中、次回の『六角形』は豪華3本立て!
  『村崎、バイトする』、『村崎、メダロットを借金のカタにとられる』、『村崎、遂には主人公の座を……』」
醤「売るかボケエ!! 次回! 『六角形の神サマ』第拾話、『商人之進(前篇)』!」
甘「商人も強盗も甲斐性無しも、みんな楽しくロボトルファーイ」
醤「その『甲斐性無し』ってのはオレの事じゃねえだろうな!? ああ!?」

六角形の神サマ 第拾話/商人之進(前篇) ( No.10 )
   
日時: 2018/01/14 16:34
名前: 海月

佐藤商店。
其処は、佐藤甘太(サトウカンタ)の実家が経営している、古き良き時代を感じさせる店舗である。
扱っている商品は、食品や日用品から、メダロットまで多種多様。

この日、最初の来訪者は、客ではなかった。

「いらっしゃい……よぉ、村崎。休みの午前中から何買いに来たんだよ?」
「……おう」

甘太は、顔馴染みの村崎醤(ムラサキショウ)の姿を確認すると、大きな欠伸をした。
醤は短く返事した後、ハタキを持つ甘太の前に仁王立ちする。

「な、何だよ?」

とてつもない威圧感を放たれ、怪訝な顔で甘太が尋ねると、醤は息を吸い込んだ。

「ここで働かせてください!!」
「は?」
「働きたいんです!!」





『六角形の神サマ』 第拾話/商人之進(前篇)





「なーるほーどーねぇ~」

カウンターの椅子に腰掛け、甘太は、醤から受け取った履歴書を眺めていた。
その正面には、緊張した面持ちで醤が腰掛け、次の甘太の言葉を待つ。

「村崎家のシステムじゃローンの完済が何時になるかわからない、と」
「左様です」
「今や小学生でも自分の小遣いでメダロット買ってるっつーのに村崎、お前って奴は……」
「うるせぇで御座います!」
「社会ってのは敬語使えば良いってモンじゃねーぞ」

履歴書から目の前に視線を移し溜め息をつく甘太に、醤はすかさず怒鳴るが、いつものように軽くあしらわれて終わった。

KBTシリーズ1式、税込五千円。10回払い。利子無し。
それが、醤の甘太に対するローンの詳細である。
初回は既に返済しており、残りの4,500円なんて時間を要さずに用意出来ると醤は思っていた。
が。
村崎家のお小遣いシステムがお小遣い制となり、経済状況が悪化。
平日は醤があまり手伝えず、実質カグラ1人で日給・五百円を稼いでるようなものなのである。
『それなら、9日働けば完済出来るじゃん』とお思いかもしれないが、オイル代、メンテ代、弾薬代……と、ロボトルするだけで、更に言えばカグラが生きるだけで賃金は消えていくのだ。
何らかの意思でローンの完済を遅延させている訳ではない。決してない。

そこで醤が考え付いたのが、アルバイトだったのだが……。

「おいおい、志望動機嘘書くなよな~。『メダロットで遊ぶ金欲しさ』だろ」

面接官が予想し過ぎていた通り、一筋縄じゃいかなかった。

「遊ぶ訳じゃねぇ! 理由はどうあれ真剣なんだよ!」
「はいはい、“真剣ロボトル”な」
「その真剣じゃ、いやちょっと入ってるかもしんねーけど! 頼むから雇ってくれよ!」
「性格真面目って……ウケる、チンピラ過ぎてクラスの女子三分の二から引かれてる奴がw」
「うるせぇ履歴書もう見んなああ!! つかお前何つった今!?」
「履歴書見ずにどう面接しろっつーんだよ」

醤がぐうの音も出なくなった事を確認すると、履歴書をテーブルに置き、甘太は椅子から立ち上がった。

「ま、良いや。ウチもアルバイト雇う余裕はあんま無ぇから、最低賃金で勘弁してくれ」
「あ、りがとうございます……?」
「おれとしても金が返って来ないと困るしな。メダルごとKBT1式返してくれても良いんだけど」
「何だ? オレの知らない所でカブトメダル狩りでも流行ってんのか?」

ドライバーを両手に襲い掛かる少女を思い浮かべながら、醤は少し低い声で言い放つ。
冗談だ、と甘太は手を振った後、醤に向かって黒い布の塊を投げた。

「わっ!? 何だコレ!?」
「佐藤商店のエプロン。村崎君、君には今この瞬間から早速接客と掃除をして貰おう」
「わかった……お前、コレ着て仕事してた事あったっけ?」
「良いんだよ。おれは生きながらにして佐藤の看板背負ってっから」
「無駄にカッコ良いな!?」

そんなやりとりをしながらも、醤はエプロンを着終え、甘太はハタキを手渡した。

「じゃあ、おれは会計すっからよろしく~」
「よし、どっからでもかかって来いやアアア!!」
「とりあえずその近付く奴皆殺しにしそうな顔どうにかしろ」

醤の気迫に、甘太は呆れながら、再び会計のパイプ椅子に腰掛ける。
すると、勢いよく戸が開くと同時に、数人分の足音と声が店内に響いた。

「ら、らっしゃああああ!?」
「ラーメン屋か」
「よおカンタ! 相変わらずしけた顔してんな!」

醤に突っ込みを入れると、我が物顔で入ってきた小学生の男児3人を、甘太は頬杖をついたまま見やる。

「うっせ。まーた立ち読みか悪ガキ共」
「へっへー、今日ポンポンの発売日だかんな!」
「あれ!? 全部紐ついてんじゃん!?」
「ざんねーん、佐藤商店ではもうポンポンの立ち読みは禁止でーす」
「生意気だぞ! カンタのクセに!」
「観念して買ってけ。3人1冊で割り勘すりゃマシになんだろ」

「バカ」だの「アホ」だの罵声を浴びせながらも、3人仲良くお金を出し、漫画雑誌を手に店を出ていく小学生達に、甘太はひらひらと手を振り見送る。
その間、醤は口を開けたまま何も話す事が出来なかった。

「あざしたー、またの御来店をお待ちしてまーす」
「……良いのか今の?」
「ラーメン屋に対応云々を言われたくねーんだけど」
「オレもだよ!?」

やっと喋る事が出来た醤は甘太に食って掛かるが、甘太は物ともせず淡々と語る。

「良いか、村崎。商人にとって大事なのは客に媚びる事じゃない、利益を得る事だ」
「いやその利益を得るために愛想が必要なんじゃ」
「愛想良くすりゃ100パー利益が得られるか? 次に繋げられるか? 答えはノーだ。
 なら、“今”金を落とさせる事に1点集中するしかねーだろ」
「わかった! だからこの店客来ねぇんだ!」
「……雇い主にここまで言えるバイトも珍しいな」

甘太が小さく息をつくと、商店の戸が再び開いた。
甘太と醤の視線は、入ってきた若い男女2人に向けられる。

「いらっしゃいませー」
「い、いらっしゃいませ」
「だから私じゃないってー」
「俺でもねえよ~」

完全に2人の世界に入っているリア充に、醤は頭を上げないまま拳を握りしめた。
甘太は、醤を諭すように肩に手を置く。

「さっきのアイツらみてーに、必ずしも店員を相手にするとは限らねーんだって」
「……オレが言いたいのはそういう事じゃない。どっちでもええわ」
「ホンマにな」

短い返答に答える事なく、醤が観念して頭を上げると、甘太が言葉を続ける。

「商売には妥協も必要でな。さっきみたいに譲歩すりゃあ、どっちにも利益が入るってモンよ」
「リア充にどう妥協しろっつーんだよ」
「金を毟り取る」
「妥協かそれ?」

小声でやりとりをしている間に、カップルの男性が女性に声を掛けた。

「何買うか決まったか?」
「うーん……やっぱ良いや。出よ」

女性がそう返すと、来店時と同じく腕を組みながら、2人は外へと向かう。
が、店内に響いた声により、出る事は叶わなかった。

「お客さん」

2人が首を傾げながら振り向くと、そこには会計席に座る、店の壁を満面の笑みで指差す店員。
男女がそちらへ目を向けた後、何の事かわからない醤も指差す方を見た。
すると、店の壁に貼られた、達筆な字で書かれた1枚の紙が目に入る。
『ひやかしお断り』。

「あ、あの……?」
「御覧の通り、ウチは何も買わずに出られる店じゃないんすよー」
「そんな馬鹿な話が……!」
「馬鹿な話ついでにもう1つ。ウチはですねーお客さん、」

醤が張り紙から甘太へ再び視線を移すと、甘太の目が僅かに開いた。

「開業以来、何も買わずに店を出た人誰1人としていないんですよー」
「……!?」

店内を支配する只ならぬ空気に、甘太以外の人間が絶句した。
満面の笑みから普段の表情に戻り、考える素振りを見せながら、甘太は呑気に喋る。

「それで提案なんですけどね、当店では5円チョコを取り扱ってましてー」
「…………く、ください」
「まいどー」

料金を机に置き、商品を受け取ると、男女2人は足早に店を出て行った。
“逃げる”という表現が1番しっくりくるのかもしれない。

「あざしたー、またの御来店を」
「来る訳ねぇだろ極悪商人!!」

醤の声が、先程の甘太と別の意味で店内に響いた。
甘太が不服そうに眉をひそめる。

「んだよ。お前は客が帰ると元気になんなー?」
「ヒトをコミュ障みてぇに言うな! 今のは流石に無ぇだろ! 妥協は!?」
「だから互いに5円チョコで」
「佐藤それ『妥協』ちゃう!! 『脅迫』や!! 恐いわひたすらお前が恐い!!」
「うるっさい!!」
「いって!?」

掴みかかる勢いで醤が怒鳴っていると、背後から何者かに頭を叩かれ、醤は両手で押さえる。
頭に痛みが響くまま振り向くと、そこにはモップが付いた右腕を振り上げたままのメイド型メダロット・メダメイドが仁王立ちで立っていた。
醤は殴った相手を確認すると、咎めるようにその名を呼ぶ。

「グルコ!」
「何騒いでんのよ! お客さんが来たらどーすんの!?」
「どうせ来ねぇだろ!? 後お前もうるせぇ!」
「失礼ね!」
「いてっ! 殴んなって!」

醤に第2撃をお見舞いすると、グルコは今度、甘太を睨む。

「カンタ! 友達と遊んでないでちゃんと店番やんなさい!」
「仕事してたっつーの。ついでに村崎も」
「何でショウがウチで仕事してんのよ!?」
「今朝おれが雇って、ここのバイトになったから」
「あんたっ、おかみさんに許可とらないで勝手な事して!」

そのまま説教を続けるグルコに、甘太は指で両耳を塞ぐ。
頭を擦りながら、醤は呆れたように笑った。

「相変わらずだな、グルコ」
「ああ、そろそろ落ち着いて欲しいもんだ」
「ヒトをヒステリーみたいに言わないでくれる!? っもう、図体ばかりデカくなって中身子どものまんまなんだから!」

そう怒りながら、グルコはスプリング音を響かせながら雑誌コーナーへと向かった。
そして、いつの間にか宙に浮いていたエロ本目掛けてモップを振り下ろす。

「あんたもちゃんと仕事しなさいっ!」
「いでぇ!」

打撃音と叫び声が同時に上がったと思うと、床に雑誌が落ち、何も無かった空間に徐々に姿が現れ始めた。

「いてて、姐さんは容赦無ぇなあ~」
「ジーが真面目に仕事しないのが悪いんでしょ!? 私が悪いみたいじゃない!」

カメレオン型メダロット・ナチュラルカラーのジーは、その場に座り込み、殴られた左手を擦りながら反論する。

「ちゃんと監視してますよ~、こうやって人間共の性事情を」
「あんたが監視するのは万引きでしょーが!!」
「いでええええええ!!」

――アイツ、無茶しやがって……。

ジーの頭にクリティカルしたモップを見て、醤と甘太は心の中で静かに合掌した。
怒り疲れたのか、グルコは大きなため息をつくと、籠を左手に取り、店の戸に右手を掛けながら醤達の方へ振り向く。

「私は買い物に行くけど、ちゃんと店番してなさいよ坊主共!」
「へーへー。グルコー、カリカリしてたら皺」
「出来る訳無いでしょ!!」

甘太の売り言葉に買い言葉を叩きつけ、グルコは勢いよく店を出た。
なおも前後に動き続ける戸に向かって、甘太は言葉を投げかける。

「帰ってくんなバーカ」
「相変わらず凄えな~、お前の姉ちゃん」
「姉ちゃんじゃねー、おふくろのメダロットだ」
「姉ちゃんみてぇなモンだろ。お前が生まれる前からここにいて、生まれたお前の世話とかしてたんなら」

そんなんじゃねーよ、と甘太にしては珍しく不満を露わにすると、再び雑誌を広げた。
話し相手を失くした醤の肩を、ちょんちょんとジーが突く。

「仕事に戻りやしょ。カンちゃんがああなっちまったら、そっとすんのが一番です」
「ジー……」
「さて、仕事仕事!」

場を仕切り直すジーを見て、醤は思わず笑みを零した。

『佐藤甘太』という人間は、掴み所がない気分屋である。
そんな彼の理解者が気の良いパートナーという事実は、友人の1人である醤を密かに嬉しくさせた。

当のジー本人はというと……。

「おっほ、このアングルはエグいねぇ。げへげへげへ」
「……やっぱお前ら似た者コンビだよ」

ジャンルは違えど、マスターと同じく雑誌を開き、自分の世界に浸っているメダロットの姿に、醤は前言撤回せざるを得なかった。





時を同じくして、御守町スーパー。
野菜売り場で、仁義なき戦いが繰り広げられていた。

「私が先に手に取ったのよ……は・な・し・な・さ・いぃい~……!」
「お嬢さんには悪いが、ワシとて手を放す訳にはゆかぬ。一家の食卓(※おでん)が掛かっている故……!」

1本の、太くて立派な大根。
を、買い物籠を片手に下げたメダロット2体が取り合う図。
しかし、見慣れた光景であるのか、周りの買い物客は気に留める事無く、各々自分の買い物に勤しんでいる。
大根の根っこ側を引っ張るグルコは、言葉を続けた。

「あんたっ、男ならこういう時女の子に譲るモンじゃないの……!?」
「譲る、か……なれば、半分にするというのはどうだ? このままじゃ大根が痛む……」
「じゃあさっさと手ェ放しなさいよ!! 半分じゃ意味無いのよ!?」
「す、すまぬ……」

余りの気迫に、葉っぱ側を引っ張っていたメダロット・カグラは、理不尽に内心首を傾げたが、弱々しく謝る。
カグラの手の力が緩んだ隙に、大きく鼻を鳴らし、グルコは素早く大根を奪い取った。
咄嗟の出来事に、カグラは小さく声を上げ、目を丸くした。

「あっ……仕方あるまい、別の大根を探さねば」
「……あんたねぇ、そんなんじゃこの戦場で勝てっこないわよ?」
「確かに、これでお嬢さんに負けるのも何度目になるのか……」
「4回目よ」

しっかりと戦歴を把握しているグルコにカグラは苦笑すると、最初には劣るが立派な大根を発見し、籠に入れる。
一緒に会計に並びながら、2人は会話を続けた。

「良い? 戦場では強く心を持った奴が勝つの。籠に入れたからって安心しちゃ駄目。真の強者はそれすら掻っ攫っていくのよ……」
「それは果たして『強者』で片付けても良い話なのか……?」
「良いのよ。じゃないと……心が折れるから」
「……された事があるのだな」

何時になく落ち込んだ様子に、カグラは会計を終えて財布を閉めた後、グルコの頭を撫でた。
瞬間、カグラの頭にはモップが飛ぶ。
カグラは痛みから頭を押さえ、グルコはモップを振りながら声を荒げた。

「いたたた……」
「ななな何すんのよ!! 女の子の頭を軽々しく触るなんてっ、セッ、セクシャルハラスメントだわ!!」
「せ、せくさるはらすめんと? 何か存じぬが、気分を害してすまぬ」
「そんなんじゃなくて……あーもう、ビックリしたのよ! 私も殴ってごめんなさい!」

“謝る”とは程遠い態度をとると、グルコは仄かに赤い顔でジャラジャラと音を立てながら財布の小銭を出していく。
多かったのでお返ししますね、と店員から小銭を返され、更に赤く染まったグルコは、黙って財布に仕舞った。
頭を擦りながらその光景を見た後、カグラは少し上を見上げ、小さく呟く。

「どの戦いも、経験と心持ち……か」





「暇」
「あ?」

沈黙が支配していた空間で最初に声を発したのは、最初に黙り込んだ甘太であった。
声の主とそのメダロットが雑誌に夢中の間、掃除だ整理だと忙しなく動いていた醤にとっては本当に『あ?』という話なのだが、暇過ぎるというのも事実である。
床に寝っ転がっていたジーも、顔を上げ、溜め息をつく。

「もう誰でも良いから来ませんかねー。ついでに万引きでもしてくれりゃあ、オラも退屈しねーんですけど」
「万引きGメンがそれで良いのか?」

突っ込みながら、客が来たら来たでその体勢は問題ではないのかとも思ったが、醤の口から出ずに終わった。
彼等の待望の存在が来訪したのである。

「いらっしゃいませー」

甘太は目もくれずマイペースに読んでた雑誌を本棚に仕舞っているが、醤とジーは絶句していた。

「「「……!?」」」

顔につけた、白縁の大きなゴーグル。
白を基調とした、未来人を思わせるスーツ。
そして、その右胸に刻まれた“Tc”という文字。

尤も、その招かれざる来訪者も、醤の顔を見るなり指を差し、第1声を失くした訳だが。

「てめっ……タバスコ!! 何でこの店に……!?」
「そ、それは此方の台詞だ! 毎度毎度邪魔をしやがってええ……!」

テクノポリスのエリアリーダー・タバスコは、完全に出鼻を挫かれ、強く歯軋りをした。
しかし、それも束の間。
仕切り直しと言わんばかりにゴーグルを掛け直し、笑みを零すと、勢いよく右手を振りかざした。

「フッ、此方とて何度も黙ってやられてる訳ではない! 行け! テクノポリス制圧部隊!」

タバスコの掛け声で、店内に大勢のメダロットが押し入ってきた。
キツネ型メダロットのア・ブラーゲ、タヌキ型メダロットのア・ゲタマーを筆頭に、戦車型メダロット・タンクダンクが大量に押し寄せ、棚の商品が錯乱する。

「ぎゃあああああ!? 何じゃこりゃああ!?」
「ショウさん!! 万引き犯ですかい!?」
「今日という日が終わったら、お前も『ただの万引き犯なら良かった』と思うだろうよ!」
「いや、良くねぇだろ。村崎ー、何コレ?」

状況判断が出来ず、混乱する醤達の姿を確認すると、タバスコは満足気に口角を上げ、左腕の2つのメダロッチを構えた。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! 奴等を捕らえてしまえ!」
「げっ!? ジー、何とか……っていねえええええ!?」

今の今までいた筈の姿が忽然と消え、醤は怒りに任せて声を上げた。
甘太はその横で、店内の奥の戸を見やり、溜め息をつきながら呟く。

「良かったっつーか、悪かったっつーか……」
「何が“良い”っつーんだよ!? ……っ男子高校生舐めんなよ、1mそこらのロボットに負けるようなヤワじゃねえ!」

そう言って、醤は向かってくるメダロット2体に身構えた。





「何なのよいきなり!?」
「誰かが助けを必要としておる! 間に合うと良いが……!」

野菜が入ったビニール袋を手に下げ、カグラとグルコは商店街の大通りを駆け抜けていく。
突然走り出したカグラに、グルコは声を張り上げ続けていた。

「助けって何!? 何であんたがそんなことわかるの!?」
「う~む、話すと少々長くなるのだが……」
「……勘弁してよ……」
「ん?」

話すべきか否かを悩んでいた最中、後ろからの押し殺したような声に、カグラは首を傾げ、足を止めずに振り向く。
グルコは、口元に手を当て、俯きがちに言葉を続けた。

「こっちって、私の家の方向じゃない……!」
「……なれば、尚更急がねば」

前を向いたカグラもグルコも、走るスピードを上げていく。

辿り着き、カグラが足を止めたその場所は、グルコがあって欲しくない場所であった。
看板の文字を、カグラは読み上げる。

「“佐藤商店”? はて、何処かで聞いたような……?」
「ここ? ここなの? 嘘でしょ、誰が……もしかして強盗!?」
「お嬢さん、気を確かに」

気が動転しているグルコの肩を、カグラが支えた。
余裕が無いグルコは、カグラに声を上げる。

「落ち着いてられないわよ! だ、誰も怪我してないわよね? ねぇ、助けを呼んだのは誰なの!?」
「そこまでは、ワシにも……」
「姐さん、姐さんっ」

小さな呼び声に、カグラとグルコは視線をそちらへ移した。
見ると、物陰に隠れたジーが、手招きをしながら此方を見ている。
グルコは、安堵から声に喜びを含ませた。

「ジー! あんた無事だったのね!」
「しーっ、声が大きいっす」
「この者は?」
「弟分よ!」

カグラの問いに淀みなく答えると、グルコはジーの胸倉を掴んだ。
同時に、ジーの表情が強張る。

「おかみさんは? カンタは? ショウは? どうなってんの?」
「ちょちょちょ姐さん、落ち着いてくだせぇ。おかみさんなら、お昼寝中の所をオラが連れ出しましたって」
「『カンタ』? 『ショウ』とな?」

前後に揺さぶるグルコに、ジーは慌てて指を差しながら答える。
指の差された方向へ目を向けると、ジーの傍らで、エプロンをつけた女性が壁を背に寝息を立てている。
こういう人を“肝が据わっている”というのだろうか。……違うか。
聞き覚えのあり過ぎる名を復唱すると、カグラは手包みを叩き、1人納得した。

「そうか、この店はカンタの実家であったか。して、何故今ショウの名が……」
「待って。あんた、2人と知り合いなの?」
「知り合いも何も、2人はワシの孫なのだよ」
「はい!?」
『ジジイ、話をややこしくすんな』

まさかの返答にグルコが思わず声を上げると、カグラの頭の中に醤の声が響いた。
思い掛けない声の主に、カグラは驚き、話し掛ける。

「ショウ! 今どこにおる!?」
「え? ショウがどこにいるっての?」
「多分メダロッチの通信かなんかじゃないですかねぇ」
『あんまり声出すな。気付かれる』

見回すグルコにジーが説明したように、醤はメダロッチの通信機能でカグラと連絡を取っていた。
そのため、カグラの声は向こうに聞こえるが、それ以外の者の声は向こうに届かない。
醤は声を潜めたまま、言葉を続ける。

『今、佐藤商店の中だ。お前は?』
「ワシは、店の物陰なのだよ。カンタのメダロット? や、カンタの母君とも一緒におる」
「ちょっと! 私はおかみさんのよ!」
「姐さん、落ち着いて」

互いに素性がはっきりしていないため、あやふやなやり取りが続く中、異議を訴えるグルコをジーが宥める。
状況を把握し、醤が一息ついた。

『そうか……それなら話が早ぇ』
「ショウ、店の中だと言うがそちらはどういう状況なのだ?」

カグラの問いに、醤は乾いた笑いの後に答えた。

『…………捕まりました、助けてください』

その声は、語尾が少し震えていたという。
聞こえてきた声にカグラは少し笑うと、安心させるような声色でそれに返した。

「そのために来たのだ。待っておれ」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「コンビニ強盗ってよく聞くけど、商店強盗って聞かねえよな」
甘「まあ、あると思うけどな。実際、現在進行形であってるし」
ジ「HAHAHA☆ さしずめボクは女性のハート強盗かな!?」
醤「えー、次回『六角形の神サマ』第拾壱話、『商人之進(中篇)』。どちらの下着強盗様ですか?」
ジ「やだなぁブラザー! Mr.ジャムだよNo.1の~! ホラ、世の女性に聞いただいt」
マ『多勢に無勢でロボトルファイトー! “大体●したい男”ですよね先輩、本当にありがとうございました~』

六角形の神サマ 第拾壱話/商人之進(中篇) ( No.11 )
   
日時: 2018/01/25 21:28
名前: 海月

佐藤甘太(サトウカンタ)の実家、佐藤商店。
たった今、店内の人口密度はピークに達していた。
尤も、その内人間は3人で、メダロットが9割を占めていた訳だが。

「なっさけねー」

ため息をつきながらそう漏らしたのは、パイプ椅子ごと縛られた甘太だった。
言わんとしている事を理解し、釣り上げられた魚の如く雑に転がされている村崎醤(ムラサキショウ)は噛みつくように叫んだ。
後ろ手に縛られているのは甘太同様だが、此方は足首も厳重に縛られ、顔には出来たばかりの小さな痣や切り傷が見られる。

「お前もだろうが!? オレ頑張ったよ!? 頑張ったのにお前頑張らねえじゃん!? オレ1人じゃん!? そりゃ捕まるわ!」
「うるさいぞそこの人質×2! 騒ぐなら安否は保障せんぞ!?」
「1番うるせえのはテメエだ変質者!! いい加減懲りろや!?」
「コワアアアアイ!?」
「……おれは村崎が1番うるさいと思う」

醤が両足で蹴り飛ばしたパイプ椅子の束が音を立てて崩れ、この店を現在進行形で制圧しているはずのタバスコは、直前の威勢はどこへやらで情けのない声を上げた。
甘太がぼそりと呟くと、完全に甘く見られていると察したタバスコは、怒りながら店内に声を響かせる。

「黙れガキ共オオオオオ!? 秘密結社テクノポリスを敵に回した事、今更後悔してもおs」
「てくのぽりす……? ああー、前神社でがちゃがちゃ言ってたヤツな。何すんの?」
「メダロットで兵隊作りたいんだとよ」
「何ソレかわいー」
「話を最後まで聞けえええええ!! 何だ!? 今時の高校生はみんなこうなのか!?」

御守神社が全壊した際の記憶を辿り、質問する甘太と、それに簡潔に答える醤に、タバスコは頭を抱えて叫んだ。
甘太はふと、思いたった事を口にする。

「ん? 待てよ、じゃあ店がこんな風になったのって……」
「ふははは!! 知れた事! この店のメダロットを我が手中に収め、テクノポリスの戦闘員にするためだ!
 もう誰にも俺をチキンとは呼ばせんぞ!!」
「だァから狙うならこんな弱小商店じゃなくて研究所だのメダロット社だの狙えって言ってんだろうがチキン野郎!!」

醤の敵か味方か判別出来ない発言により、醤とタバスコの論争は再度勃発する。
普段なら、1言2言挟んでも良さそうな甘太であったが、この時は2人のやりとりを見て小さく声を漏らした。

「……へえ」





『六角形の神サマ』 第拾壱話/商人之進(中篇)





その頃。佐藤商店近くの物陰にて。

「さて。ショウ達を無傷で救出するには、如何様な手を打てば良いか……」

カグラは、店を横目で見やりながら呟いた。
商店の壁はガラスであり、タンクダンクが店内を埋め尽くしている様子は確認出来るが、醤と甘太の安否は確認出来ない。
数秒の沈黙の後、グルコも口を開いた。

「まどろっこしいわね。自分の家に帰るのよ? 正面から行けば良いじゃない」
「ね、姐さん。痺れるくらいカッコイイっすけど、それだとカンちゃんもオラ達も蜂の巣ですぜ」

ちょいちょいと手を掲げながら言うジーに、グルコは焦りから堪らず声を上げた。

「~っもう! 時間かければ良いってモンでもないじゃないの!」
「落ち着けグルコ嬢。助ける者がいなくなっては元も子も無いのだよ」
「……っ、……」

冷静に宥めるカグラに、グルコは食って掛かりそうになるのをぐっと堪えた。
自分は2人の安否が心配だ。
しかし、それはジーも、カグラも同じ事。
2人がすぐにでも助け出したい気持ちを抑えているのに、自分だけが取り乱してどうするのだと、グルコは自分に言い聞かせた。
場の空気を変えるべく、恐る恐るジーはカグラに問い掛ける。

「カグラの旦那。何か考えはあるんですかい?」
「……あちらが数十体いるのに対し、此方は3体。武が悪過ぎるのだよ。
 しかし、個々の能力を使えば……被害を最小限に抑えられるはずだ」

カグラは目を細め、両対の光にグルコとジーを映す。

「……グルコ嬢、索敵を」
「え、」
「店内の情報が少しでも欲しいのだよ。何でも良い、可能な限りでわからぬか?」
「……店の中にいる訳じゃないから完全にとは言えないけど、やってみる」

カグラの提案に頷くと、グルコは二人に背を向け、ガラスの向こうの群れを見る。
そして、静かに目を閉じた後、目を開いて呟いた。

「索敵」

同時にグルコの頭から何かを解析するような電子音が響き出し、カグラとジーは見守った。
ピピ、と電子音が止むと、グルコは再びカグラに目を向ける。

「大体だけど……店内の生命反応は31個。その内、人間は3、メダロットは28」
「に、にじゅうはちぃ!?」

敵の軍勢を聞き、ジーは思わず声を上げた。
グルコから結果を聞き、カグラは顎に手を当て考察する。

「人間の数が3。その内、2がショウ達であるから、1は犯人……メダロッター」
「1人でそんなにメダロットを操ってんの!? 相当な実力者じゃ……!」
「実力はわからぬが……そこなのだよ」

焦るグルコに、カグラは冷静に見解を述べた。

「如何に手練れと言えど、28ものメダロッチを1人で所持しているとは考えにくい。
 メダロッチが無ければ、命じたとて遂行するまでの時間が長くなる。
 となれば……大方、メダロッチで操っておるのは数体で、他は簡単な命令を聞いておるだけなのだよ」
「へぇ、ともなれば予想外の事には対応しきれないってぇ訳ですね」

カグラの話を聞いたジーは、手包みを打ちながら納得する。
ジーの言葉に頷き、カグラは言葉を続けた。

「左様。まずは、数を減らすべく簡単な命令で動いているであろう敵を一掃する。
 硝子故、互いに姿が見えるのが難点だが……ワシが頃合いを見て正面から攻めよう。
 ジー坊は、敵の目が正面に向いている隙に、隠蔽で2人を救出して欲しい」
「うへぇ、またあん中戻んのかー……いややりやすけどね、カンちゃん達いるし」
「案ずるな、充分にひきつけた後で動けば良い。グルコ嬢は……グルコ嬢? 如何した?」

ジーが両肩を落とすのを見て勇気づけていると、グルコがただじっと自分を見ている事に気付き、カグラは首を傾げた。
丸い緑の光に自分が映っているのを見ると、グルコは聞かれるがままに答える。

「あんた……何者なの?」

怪訝そうな言葉に、カグラは柔らかい表情で返した。

「何、ただの老いぼれなのだよ」





キィ。
店の戸の開く音が、激しい銃撃戦の引き金だった。
大量のタンクダンクは、音がした正面へと一斉射撃を開始する。
店内に、けたたましい銃声と硝煙が蔓延した。

「誰だ!?」

タバスコは正面に目を向け、勢いで立ち上がった。
後方のタンクダンクの流れ弾が前方の味方に当たり、砕けたパーツが舞う中、正面からの弾丸は、的確に装甲を削り落としていく。
その様子を見て、甘太はひそやかに語り掛けた。

「あーあー。“普通の客”なら、店と一緒に今頃仲良く蜂の巣だよなあ」
「……!」

甘太の言葉を受け、醤は険しい顔つきで正面を睨む。
多勢であることが思わず裏目に出た事を悟り、タバスコは強く歯軋りをした後、有らん限りの声量で叫んだ。

「追え、タンクダンク!! 我等にたてつく愚か者を仕留めろオオオオ!!」

新たな命を聞き、タンクダンクは一斉に店の外へと飛び出した。
店内には、拘束されたままの醤と甘太、一層周りを警戒するア・ブラーゲとア・ゲタマー、息を切らすタバスコ、機能停止した数体のタンクダンクが取り残される。

「悪いけど、」

不意に響いた声と共に天井の板が1枚外れ、一同が見上げると、天井から生えたモップの照準は、既にア・ブラーゲ及びア・ゲタマーを捕らえていた。

「“愚か者”はコッチにも居んのよね!!」

グルコのガトリングに、2体のメダロットは両腕を眼前に掲げて防御する。
思わぬ援軍に、醤と甘太は目を丸くし、声を上げた。

「グルコ!?」
「何やってんだお前!? 買い物は!?」
「『何やってんだ』はコッチの台詞よ!! 勝手に店乗っ取られてんじゃないわよ、きゃっ!?」

甘太の少しずれた問いに、グルコは連射しながら答えると、壁を蹴って天井まで駆け上がったア・ブラーゲの斬撃を、左腕・オボンコボンで受け止めた。
銃撃が止み、硝煙にむせ返りそうになりながら、タバスコは口を開く。

「攻撃と防御を兼ね備えているのか、面倒な……!」
「面倒ならさっさと消えてくれる!? 商売の邪魔すると馬に蹴られて死ぬわよ!?」
「ア・ゲタマー! エアバッグ!」

グルコが再び銃撃を再開すると、ア・ゲタマーはドーム状のバリアを張り、完全防御を発動した。
バリアに当たった弾は、疎らに床に落ちてゆく。
銃弾の無駄を察したグルコは攻撃を止め、タバスコは高らかに笑った。

「ハーッハッハア!! 残念だったなメイドのお嬢さん! 攻撃と防御が出来るのはお前だけじゃないんだよ!」
「っもう! 確かに面倒ね!」
「安心しろ、俺は優しいから『消えろ』なんて言わん」

タバスコは、厭らしく口角を上げる。

「お前の手を煩わせる事無く、こちらから消してくれるわ!!」
「どこが優しいのよ!? あんた絶対モテないでしょ!!」
「んん~、負け犬の遠吠えはな~んも感じんな~。ア・ブラーゲ、天井裏まで回り込め! ア・ゲタマーはそのまま待機!」
「ちょっとお! 来ないでよおおお!!」
「グルコ!! さっさと店の外まで逃げろ!!」

スプリング音と足音を立てながら、グルコが天井裏の向こうへ消えていくと、ア・ブラーゲは裏口の戸を開け放ち、凄まじい速度でその後を追った。
甘太は叫んだ後、大きな溜め息をついて項垂れ、ぼそりと呟く。

「っとに何やってんだあいつ、普段ロボトルなんかやんねーくせに……」
「……すっごい心配してたんすよ、姐さん」

小さく、それでいて優しい聞き慣れた声が甘太の後ろから聞こえたと思うと、甘太をパイプ椅子に縛り付けていた縄がはらりと解けた。
甘太は、顔を上げ、振り向く。

「え……?」
「作戦では、カグラの旦那と一緒に残りのメダロットに攻撃するハズだったんですがね? 『待てない』って。
 姐さんらしいと思いやせん?」

控えめな笑い声で甘太の目に光が射すと、すぐ横から、ドスのきいた低い声が響いた。

「……何故、勝手に縄が解けた……? まだ、誰かいるのか……!?」
「あ」

間抜けな声を聞くや否や、腕を組んで仁王立ちしていたタバスコは、メダロッチを構えた。
ア・ゲタマーは、右腕を振り上げる。

「メガトンパンチ!!」
「ひえええええっ!」

床が大きく凹み、破片が舞うと、情けない悲鳴を上げながら四つん這いで逃げ惑うジーが何も無かった空間から現れた。
隠蔽は、強く驚いた拍子に解けてしまったらしい。
タバスコは、忌々しげに鼻を鳴らす。

「ふん、次から次へとゴキブリの様な連中だ。まぁ良い! そいつを始末しろア・ゲタマー!」
「どっちがゴキブリだこ の 野 郎」
「へっ?」

いきなり強く胸倉を掴まれ、タバスコは素っ頓狂な声を上げる。
腕から恐る恐る視線を上げていくと、甘太によって拘束を解かれた醤が険悪な笑みを浮かべていた。
はたから見れば、不良が未来人のコスプレをした男をカツアゲしてるようにしか見えない。

「テメエはいつもいつもヒトをメダロットでタコ殴りにしやがってよおお……?
 ジジイやグルコも心配だけど、とりあえずボコらせろ小悪党が……!!」
「待ってえええ!? これロボットバトルモノだから! 人間同士がバトルするんじゃないから!」
「うるせえええ!! オレだって11話っていう短い話数の中で2、3話ドライバーで襲われてんだよおお!?」
「それ俺と関係無くないか!?」

拳を固く握る醤を見て、ある種の安心をすると、甘太は走って裏口に向かいながらジーに向かって叫んだ。

「ジー! 村崎頼んだぞ!」
「タヌキが恐くてそれどころじゃありやせええん!!」

再び隠蔽で姿をくらました状態でジーが声を張り上げると、その声目掛けてア・ゲタマーは攻撃を仕掛ける。
時間が惜しく、甘太は裏口から自宅へ繋がる階段を駆け上がった。

自宅の扉を勢いよく開くと、グルコの背中が見えた。
左手は既に大破していたが、無事を確認した甘太は顔を僅かに綻ばせながら、グルコの名を呼ぶ。

「グルコ!!」
「! カンタ! 助かったのね!?」

グルコは、喜びを言葉に含ませながらそう言うと、甘太の方へと振り向く。
天井から降り立ったア・ブラーゲの左腕・レイピアがグルコの背を斬り付けたのは、その直後の事だった。





「カグラの旦那あああ!! 早く戻ってきてぎゃああああ!?」

店内では、ア・ゲタマーの攻撃を間一髪で避けながらジーは逃げ回っていた。
隠蔽を使っていても声を上げるから場所がばれるという事には、本人は必死過ぎて気付いていない。
店の壁も床も、ア・ゲタマーの打撃痕で荒れ果てている。

「おい!! ア・ゲタマーの攻撃を止めさせろ!」
「ふっ、断る。ていうかお前、ひとしきり殴った後でよくそんな事言えるな?」

未だ醤が胸倉を掴んでいるタバスコの顔も、ボロボロであった。
醤は、拳を再度握ると、タバスコに尋ねる。

「もう1発行くか?」
「暴力反対!! ア・ブラーゲ、戻って来おおい!!」

ジーと同じような声色で、同じような事を叫ぶと、天井の穴から、ア・ブラーゲが降り立った。
その姿を見た醤と、身を隠しているジーは、苦虫を潰したような表情を浮かべる。

「佐藤とグルコは……!?」
「ヒャーッハッハ!! やられたようだな!? これで2対1だ! 大人しく姿を見せろカメレオン!」
「何を言う、2対2なのだよ」

店の外から声が聞こえたや否や、1発の弾丸により、ア・ゲタマーの体が後ろへと倒れた。
一同が正面へ目を向けると、撃ち放った者は左手で右腕を押さえながら、店内へ足を踏み入れる。

「遅れてすまぬ。それにしてもまぁ……」

店に入った所で足を止めると、カグラは、細めた目に醤とタバスコの姿を映した。

「お前は本当に、ワシの神経を逆撫でする事に長けておるなぁ? タバスコよ」
「ボロボット……!」
「カグラ!」

醤はタバスコを解放し、カグラに駆け寄った。
見れば、機体のあちこちに罅が入り、欠けている箇所もある。
カグラは少し俯き、沈んだ声で言う。

「すまぬ。来るのが遅くなったばかりに、怪我をさせてしまったようだな」
「お前だってボロボロじゃねえか……!」
「あんな多勢を相手にするのは少々骨が折れてな……最後は白い警察が引き受けてくれたのだよ」
「ああ……多分、セレクト隊だな」
「いやいや、誰がどう見てもこん中で大惨事なのは俺だろ」

2人が重い空気に首を垂れる中、タバスコは己の顔を指差し、淡々と言った。
聞いてか聞かずかタバスコの言葉には何も反応せず、カグラはハッとなって顔を上げる。

「皆の者は!? カンタやグルコ嬢、ジー坊は……!?」
「オラは何とか無事ですが……」
「佐藤とグルコは、……っ佐藤……!」
「カンちゃん! 姐さん!」

物音がした裏口に3人が視線を移すと、グルコを抱えた甘太が姿を現した。
甘太は俯いており、表情までは分からない。
隠蔽を解除したジーは、駆け寄り、グルコを何度も呼ぶ。

「姐さん! 姐さん! どうしちまったんです!?」
「『大丈夫、メダルを入れれば元通り』、だとよ……」

グルコの代わりにそう答えると、甘太は店の外まで足を進め、未だに眠りにつく甘太の母の横へグルコを横たえた。
皆に背を向けたまま、空を見上げ、甘太は語り掛ける。

「村崎ー、おれが1番嫌いな事って知ってっかー?」
「え……」
「おれさー、」

いつもの口調であるにも関わらず、醤が質問に答えられずにいると、甘太は振り向いた。
いつもの笑顔を浮かべず、ただ無表情で。

「プラマイゼロってのもやだけど、自分が損害被んのが1番腹立つんだよなー」

甘太の言葉に、店内の者は全員氷漬けにされたかのように固まる。
その雰囲気をぶち破るかの如く、御馴染みの決まり文句が辺りに響き渡った。

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「グルコがメダロットで良かったよな」
グ「な、何よいきなり?」
甘「考えてもみろよ。もしお前が人間だったら、家の中を逃げ回るメイド少女を強盗が追い掛けるとか、どんな薄い本n」
グ「最ッッッ低!!」
ジ(……聞こえやすか……カンちゃん……ジーですぜ……。アンタの脳内に……直接……呼びかけています……。
  薄い本なんつーのは……人間×メダロットも……メダロット×人間もありゃあ……メダロット×メダロットもあるんですぜ……ですぜ……)
カ「次回。『六角形の神サマ』第拾弐話、『商人之進(後篇)』。
  ジー坊からの伝言によれば、『何の事を言っているかわからぬ者は、変わらずそのままでいて欲しい』との事だが……ショウよ、どういった意味なのだ?」
シ「伝言を言った本人が伝言破んな!! オレが好きなのは3次元だ!」

六角形の神サマ 第拾弐話/商人之進(後篇) ( No.12 )
   
日時: 2018/01/14 16:57
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾弐話/商人之進(後篇)





「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

佐藤商店前。
声を張り上げた路上の2人組を、どこからともなくスポットライトが照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣タッグマッチと認定されましたー♪』
「さ! 両チームとも定位置について!」

Mr.ジャムの掛け声により、両チームの者は渋々と店外へ出た。
そんな中、ジーは戸惑いながら周りを見回す。

「え、え? タッグってえ、オラもですかい……?」
「他に誰がいんだよ?」
「頼むぞー、お前が1番ピンピンしてんだから。パーツ転送、デコイクラブ」

佐藤甘太(サトウカンタ)がメダロッチをジーに向けて画面を押すと、右腕が光に包まれた後、タラバクラバの右腕パーツ・デコイクラブが装着された。
村崎醤(ムラサキショウ)が腕を捲り、メダロッチを露わにしていると、甘太が渇いた笑いを零す。

「はは、損害分キッチリ払って貰わねーとなぁ……?」

――あ、目がマジだ。

2年目の付き合いになる友人の目からこれから起こるであろう事を察すると、醤はひくりと笑い、カグラの状態をメダロッチで確認し始めた。
両者が向かい合い、構えた事を確認すると、Mr.ジャムとMs.マーガリンは再び口を開く。

「これより、カグラ&ジーチーム対ア・ブラーゲ&ア・ゲタマーチームのロボトルを始めます!」
『準備良いですかー!? 良いですねー!? それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

Ms.マーガリンが腕を振り下ろし、カグラは両脚で地を踏みしめた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「心得た!」
「ジー、カラフルアーム」
「うっす!」
『先手のガトリング猛攻ォー! ジーは姿を隠したぞー!? 右腕のハンマーをどのタイミングで使うのか必見です!』

カグラがガトリングを放つ中、ジーが姿を消したのを見て、醤は目を前に向けたまま甘太に話し掛ける。

「佐藤! 弾に当たんなよ!?」
「わかってる。ジー、射線に入らねーようにな」

横目で醤を見て、ジーに指令を送るが、ジーからの返事は無い。
場所が分からないため有難いのだが、醤に僅かな不安が募った。
2つのメダロッチを装着した腕を掲げ、タバスコは命じる。

「ア・ゲタマー、エアバッグ! ア・ブラーゲは後ろで待機! 気配を感じたら攻撃に転じろ!」
『完全防御の壁は厚ーい! ア・ブラーゲは居合の如く刃を構えているー!』

防壁に当たったガトリングが地に落ち、醤はカグラを制止する。

「カグラ! 一旦攻撃止めて回り込め! 弾無くなったら元も子も無ぇ!」
「了解!」
『カグラもア・ブラーゲもお互いの隙を伺っているー! 先に隙を見せた方が負けると言っても過言では無いでしょう!』

カグラは撃つのを止め、今度は右腕の銃口を2体に向け、ガードレールの上を走っていく。
ロボトルを実況していたMs.マーガリンは、横で真剣に眺めるMr.ジャムに話を振った。

『ところで先輩! 珍しくまだ通報されずに戦況をジャッジしていますが、お互い力を温存している様子ですねー?』
「HAHAHA☆ やだなマーガリン! いつも君が通報するんじゃないか!
 そうだね……僕達が来る前にドンパチやってた所為か両者は万全の状態じゃないから、そんなに時間は掛からないと思うよ?
 ダメージも負ってるし、頭パーツの使用回数を除けば弾薬数が削られているであろうカグラは特に不利だ!
 ロボトルには“判定勝ち”ってシステムもあるからねー……この戦い、」

カグラが放ったライフルをア・ブラーゲが薙ぎ払い、ア・ゲタマーが向かっていく様子を見て、Mr.ジャムは呟く。

「先に攻撃出来なくなった方が負けるよ」

Mr.ジャムの言葉を聞いて僅かに目を見開いた後、Ms.マーガリンはすぐにいつもの笑顔を浮かべ、実況を再開した。

『さぁ! とてもジャッジ担当とは思えない当たり前な事を先輩がドヤ顔で言った所で!』
「HAHAHAHAHA! 君は何てヒトの心をフォークでグチャグチャに抉るような性悪女なんだ! ピーすぞ☆」

Mr.ジャムは、すぐ駆けつけたパトカーにより連行され、Ms.マーガリンはハンカチを振りながら見送った。
レフェリー達がそんなやり取りをしている間にも、ロボトルは収まる事を知らず繰り広げられる。

「ア・ゲタマー! クルクルナックル!」
「ぐ……!」
『右腕パーツ、ダメージポイント86』
「カグラ、サブマシンガンだ!」
「ア・ブラーゲ! フェンシング!」

ア・ゲタマーの攻撃を受けたカグラの右腕が軋んだ音を響かせる中、左腕はガトリングを放つ。
被弾したア・ゲタマーの右腕が黒ずんだ直後、ア・ブラーゲの右腕の刃がサブマシンガンを斬り付け、攻撃中止を余儀なくされた。

『左腕パーツ、ダメージポイント71』
『おおーっと!! ア・ゲタマーの右腕は機能停止したが、二体を相手にカグラの成す術は無いのかー!?』
「タッグマッチとは名ばかりで、実質二対一に変わりないではないか! もう一人の臆病者は逃げ出したか? ん~?」
「見縊るな! ジー坊は斯様な男ではない!」

愉快と言わんばかりに笑みを浮かべるタバスコを、カグラは一喝し、2体から距離をとる。
しかし、その距離を1歩、また1歩と、ア・ブラーゲは跳ねるように詰めていった。
カグラが迎撃するが、速度が間に合わず銃弾が当たらない焦燥感から、醤は声を上げる。

「っおい佐藤! まだなのか……!?」
「ア・ブラーゲ! レイピアアア!!」

タバスコがメダロッチに向かって叫んだ瞬間、甘太も口を開く。

「デコイクラブ」

次の瞬間。
ア・ブラーゲが掲げた左腕は、真横からの見えない力により、粉々に砕け散った。
パーツの欠片に日の光が反射し、輝きながら舞う。

『ア・ブラーゲの左腕大破アアアア!! 姿の見えないジーが動き出した模様~!』
「げっ……!?」
「左腕パーツ・レイピア、2,000円」

タバスコが事態に声を上げる中、甘太は呟く。

「右腕パーツ・フェンシング、2,000円」

今度はア・ブラーゲの右腕が破壊され、衝撃で機体は店の外壁に叩きつけられた。
直後、脚部が砕ける。

「脚部パーツ・ハカーマ、2,000円。……馬鹿みてーにがむしゃら使うからこうなんだよ」
『見えない敵のハンマーラッシュでア・ブラーゲのパーツが次々に破壊されていく~! 隠蔽に打つ手無しかー!?』
「ア・ゲタマー!」
「お前の相手はワシなのだよ!」
「カグラ! リボルバー!」

ア・ゲタマーが近づこうとした所で、カグラの放った2発のライフルが脚部に被弾し、転倒する。
甘太はア・ブラーゲを睨み、静かに指令を出した。

「頭パーツ、」
「させるかア!! ミカヅチ!!」
「ぐげ!?」

ア・ブラーゲが正面にブレイクを放った途端、間抜けな悲鳴が響き、隠蔽を解いたジーが地に倒れ伏した。
ジーの機体は起き上がろうともがくが、まるで上から何かに押し潰されているかのように動けない。

『強烈なブレイクがクリティカル~!! ジーは立ち上がれるのかー!?』
「だーっはっはア!! いくら隠蔽なんぞしてても、あれでは『正面を撃ってください』と言っているようなもの!
 詰めが甘かったな!」
「……!」
「ジー! ……くっ、死角で狙えん……!」

甘太が奥歯を噛み締める中、カグラは横目でジーを見て、サブマシンガンの銃口を向ける。
だが、今自分と交戦しているア・ゲタマーに隠れ、ア・ブラーゲを狙う事が出来ない。
銃撃が止んだのを見計らい、ア・ゲタマーはカグラに対し拳を握る。

「ア・ブラーゲ! ア・ゲタマー! そのボロボット共を片付けてしまえ! ミカヅチ! メガトンパンチ!」
『さあさあ!! 攻守が逆転、面白い試合運びとなっております!』
「カグラ、踏み止まった後距離をとれ!」
「っ了承したが……!」

指令通り右足で踏み止まり、ア・ゲタマーの拳は空振った。
攻撃を回避し、ア・ゲタマーから目を背ける事無く距離をあけていくが、ジーへの心配でカグラの顔は歪む。
やがて、口を閉ざしていた甘太が、俯いて笑った。

「……心配すんなって、カグラ。大丈夫だよ」

ジーは地を押す左腕に力を入れ、ア・ブラーゲの頭パーツの周りにはパチリ、と青い火花が爆ぜる。
甘太も、ジーも、睨む相手はただ1体。

「グルコの修理代も稼げてねぇのに、」
「みすみす……負けてられやすかい!!」

ありったけの力を込めたジーの右腕は、激しく音を立て、ア・ブラーゲの頭を突き上げた。
上を向いた頭は、目の光を失くすや否や項垂れ、背中からメダルが転がり落ちる。

「……頭パーツ・ミカヅチ、2,000円。計、8,000円也」
『ア・ブラーゲ、機能停止! ジーのアッパーカットが華麗に決まりましたアア!!』
「んなっ!?」

開いた口が塞がらないといった様子で、タバスコの目は、機能停止したア・ブラーゲに釘付けになった。
その隙を見計らい、醤は強気な笑みを浮かべ、メダロッチに向かって叫ぶ。

「これで最後だ! ミサイル!」
「心得た!」
「ハッ! ア・ブラーゲ、エアバッグ!」

タバスコが慌てて指令を送るも、メダロッチは警告音と、『使用回数ゼロ』の文字を示すのみ。

「ぎゃああああ!?」
「店とロボトルでもう2回使っただろうが。使用回数ぐらい数えとけ!」

醤が言い放った直後、ミサイルがヒットし、爆発音と硝煙が周囲に広がる。
丸コゲと化したア・ゲタマーの背中からは、メダルが音を立てて転がった。

『ア・ブラーゲ、機能停止! 勝者! ショウ選手&カンタ選手ゥ!! やっぱ、『判定勝ち』よかこっちの方がスカッとするよねー』
「よし! やったな!」
「あー、お疲れさん」
「クソガキ共オオオオ!! 毎回上手くいくと思うなよオオオ!!」

自分達の勝利から醤と甘太が顔を綻ばせると、タバスコは捨て台詞を吐きながら一目散に逃げて行った。
今日1日でたくさんの傷を負ったカグラとジーは、ナノマシンでみるみる回復していく。
タバスコの小さくなっていく背中に、醤は呆れかえって息をついた。

「ったく、何時になったら懲りんだアイツ……」
「カンちゃん! 姐さんを!」
「ああ、起こしてやらねーとな」

急かすジーにそう返すと、甘太は歩み寄ってしゃがみ、グルコの体を起こしてナイトメダルを装着した。
対の緑の目に、光が宿る。

「……ん、あれ……?」
「おはよ」
「おはよう……って、カンタ! え、店は!? 店は大丈夫なの!?」
「店はまぁ、すげーボロボロだけど……起きて早々店の心配かよ」
「当たり前じゃないの!」

即答するグルコに、甘太は苦笑した。
ただ2人の様子を見ていたジーが、滝のように涙を流しながらグルコに抱き着く。

「姐ざあああああん!! ぼんどーに、ぼんどーに良かったあああああ!!」
「きゃっ!! ちょっ、ジー! 大袈裟なのよ! 『メダルを入れれば元通り』って言ったじゃない!」

少し顔を赤らめながら、グルコは両手でジーの頭を押し返す。
引き剥がそうとはするが、ジーの抱き締める力が思いの外強く、それは叶わない。
2体の様子を横目で見た後、立ち上がって視線を真逆に向け、甘太は小さく呟いた。

「……ごめんな、手間かけさせて」

言った事に満足し、甘太は店内へ戻ろうとした。

「……バカね、それこそ当たり前じゃないの」

不意に背中に掛けられた笑い交じりの声に、甘太はバツの悪い表情を浮かべる。
姐さん何がですかい?、と問うジーには、本当に聞こえなかったのだろう。
甘太でもこういった表情を浮かべるのかと思った醤であったが、甘太の気持ちは分からなくもなかった。

――オレ達より長く生きるメダロットっつーのは、どうして、こう……。

「ショウ? 如何した?」

自分のすぐ傍らで首を傾げるカグラを一目し、醤はここ1番の大きなため息をつき、佐藤商店に背を向けた。

「何でもねぇよ」
「何も無くてため息はつくまい」
「何でもねぇっつってんだろ」
「村崎!」

小走りで追い掛けるカグラを背に歩く醤は、甘太に呼び止められ、足を止めて振り返る。
そこで、醤は今日1日の出来事を、甘太の立場で思い返した。

甘太は、働いているとは言え、土曜日の午前中から友人に押し掛けられ。
『アルバイトをさせてくれ』と無茶を言われ。
承諾したは良いものの、姉のような存在に叱られ。
変質者が店を乗っ取り。
最終的に、店が半壊したのである。

罪悪感から笑顔を歪ませ、醤は明後日の方向を見ながら口を開いた。

「あー……佐藤あの、」
「バイトの話なんだけど、続けてくんねぇ?」
「すまねえ……はい?」
「だから、店のバイト。休日で良いから」

甘太からの申し出に、醤は素っ頓狂な声を上げる。
確かに、カグラの機体のローンを返済したい醤としては願ったり叶ったりの話であるが、自分がテクノポリスに睨まれている限り、また今回の様なトラブルに甘太自身も巻き込まれかねない。
目を丸くする醤に、甘太は言葉を続けた。

「言ったと思うけど、おれとしても金が戻って来なきゃ困る訳よ。
 まあ、今回みたいのは勘弁だけど……今度あった時は店が壊れる前に頼むぞ、用心棒?」
「さ、佐藤……!」

下手をすれば縁を切られても可笑しくはないレベルなのに、ニカッと笑う甘太に、醤は感極まった。

「で、こっからが本題なんだけどー」

醤は、甘太の笑顔の質が変わった事にすぐ気が付いた。
この満面の笑みは、今日見たばかりである。
甘太がそれを浮かべたのは、果たしてどんな時であったか……みるみる思い出す醤の顔は、青く染まっていく。

「グルコの修理代はあいつ等ボコボコにしたから良いとしてー……店の修繕費は誰が出すんだろうなー?」
「は、はは……それは勿論タバスコが」
「いやいや、そいつはいつ会えるか、会ったとしても金持ってるかわかんねーし?
 幸い、お前の知り合いみてーだからー……請求先はお前で良いんだよなぁ?」

――目が笑ってねえええ!?

目の前で笑う友人が、醤はひたすら恐ろしかった。
だが、これ以上借金が膨れ上がる事を懸念し、何とかしようと口を開く。

「なぁ佐藤、ちょっと……」
「選びな。バイトして修繕費払うか、もしくは……金目の物を売っ払うか」

幾何低い声で告げる甘太の視線はカグラへと向けられ、意図を察したカグラは硬直した。
絶句し、ただ口の開閉を繰り返す醤に、甘太はここぞとばかりの営業スマイルを浮かべる。

「しばらくタダ働きよろしくな、村崎クン♪」





「どこ行ってたの2人共!! 醤は朝からフラフラどっか行ったと思ったら傷だらけで帰って来るし!
 グラちゃんはおつかいからなかなか帰って来ないし!」
「す、すいません……」
「申し訳御座らん」

夕方。
村崎家に帰宅した醤とカグラは、村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の剣幕を喰らう事となった。
玄関で2人並び、すごすごとゆかりに頭を垂れる。

「今日は痛むような物はなかったけど、すぐ冷蔵庫や冷凍庫に入れなきゃいけない物もあるんだから気を付けないと!」
「申し訳ない……」
「アンタは何処で何してたの!?」
「いや、ちょっと佐藤ん家でバイトを……」
「佐藤商店は工事現場か何かか!! アンタ、佐藤君に迷惑かけたんじゃないでしょうね!? かけたわねその顔は!!」

視線を逸らす醤に、ゆかりは畳みかけるように怒号を繰り出す。
少しでも冷静さを取り戻そうとしているのか大きく息をつくと、家内へと声を掛けた。

「お父さんからも何か言って!」
「え? 父さん帰ってきてんのか?」
「父君とな?」

醤達が廊下の向こうへ目をやると、声を掛けられた人物はゆっくりと姿を現した。

「ただいま。おかえり、醤」

灰色のスーツに身を包んだ醤の父・村崎紀醤(ムラサキキショウ)は、微笑みながら3人へ歩み寄る。
そんな紀醤の様子に、ゆかりは口を開いた。

「笑ってる場合じゃないでしょう? ちゃんと言ってやってください!」
「そうだな……醤、元気なのは良いが母さんにあんまり心配かけちゃ駄目だ、ぞ……?」

カグラ程とは言わないが、マイペースな紀醤は、醤が似ている所というと、一見茶髪しかない。
しかし、もう1つ大きな共通点があった。

「メダロットじゃないかああ!!」
「うおっ!? ビックリした」

大の、メダロット好きであった。
子どものように目を輝かせてカグラの前にしゃがむ紀醤に、カグラ本人ではなく、隣の醤が驚く。
興奮した様子で、紀醤はゆかりに顔を向ける。

「許してくれたんだな、ゆかり! 有難う!」
「お、大袈裟ね……。グラちゃんは、ちょっと変わってるし、てんで機械は駄目だけど、よく気が利いて手伝ってくれるから、ね。
 ていうか、いきなり呼び捨てで呼ばないでよ……」

ゆかりは、僅かに頬を染め、そっぽを向く。
両親を包み込む桃色の空気に、息子である醤は色んな心情から早く自分の部屋に帰りたくなった。
が、立場が立場であるためそれは叶わず、すぐに諦めてカグラを紹介する。

「……コイツは、『カグラ』っていうんだ。『グラちゃん』なんて呼ばれてるけど、中身は結構なジジイだぞ」
「お初にお目にかかる、カグラなのだよ。ショウやゆかり殿にはいつも世話になっておる」
「はははは! 礼儀正しいメダロットだね。私の名前は紀醤。此方こそ、家内と息子がいつもお世話になっています。
 仕事の関係で月1くらいしか帰れてないんだけど、よろしくな!」

紀醤はカグラの手を取り、ぶんぶんと音が鳴るくらい力強い握手をした。
不意に握手をやめ、カグラの手を握ったまま、紀醤は考え込む。

「しかし、『グラちゃん』か……やっぱり早めに仲良くなるには、変わったあだ名が良いかもしれないな」
「普通で良いじゃねえか」
「『グラタン』と『グラッチェ』どっちが良い?」
「どちらでも良いぞ」
「良いのか本当に!? せめて『グラ』にしとけ! そうじゃなきゃオレが何か嫌だ!」

じゃあグラだなー、とマイペースコンビは互いにニコニコと笑った。
紀醤を見ていると、『中身は母親に似たんだろうなあ』と醤は自分でそう思う。

「醤もグラも、家に上がりなさい。ずっと玄関だと寒いだろう。私も少し寒い」
「……そうね、もうちょっとでご飯も出来るし。3人とも上がって待ってて」

ゆかりはそう言うと、スリッパの音を響かせ、台所へと消えて行った。
醤は靴を脱ぎ、家に上がると、紀醤は感慨深そうにカグラをまじまじと見る。

「それにしても、醤もメダロッターかあ。良かったな、醤」
「あ、ありがとう」
「そうか~、メダロットか~」
「? キショウ殿?」

紀醤は半ばカグラを引っ張るようにして歩き出すと、同じ様な言葉を繰り返し呟きながら、カグラごと自室へ帰ってしまった。
醤は慌てて部屋のドアを、壊れんばかりの勢いでノックする。

「おい!?」
「いや~、メダロットは良いな~。はははは」
「アンタのじゃなくてオレのだろうがざけんな!! こんな近くにメダロット泥棒がいるとか驚きだわ!!」
「父さんな、実は怪盗レトルトだったんだ」
「しょうもねぇ親父ギャグ言ってんじゃねぇぞ!!」
「醤うるさいわよ!!」
「理不尽!?」

台所から飛んできたお玉が頭にヒットすると、醤は部屋の前に倒れ伏した。
静かにドアが開き、カグラと紀醤が顔を覗かせる。

「ショウ、大丈夫か?」
「醤はケチだなー、少しくらい良いじゃないか。お前のメダロットって事は、父さんの息子同然だろ」
「ワシはショウの爺だぞ?」
「ややこしいし喧しいわ。……帰る」
「ここお前の家だろ?」
「オレの部屋にだよ!!」

醤はカグラの腕を握り、足音を響かせながらそのまま階段を上がり、自室の扉を勢いよく閉めた。
下からまたゆかりの怒号が聞こえたが、醤は気にする事無く慣れた手付きで“週間メダロット”を見る準備をし始める。

「ったく、お前も流されてんなよなー」
「ふむ、父君と少し話をしたかったのでな」
「あーあーそいつはすいませんでしたよ」

ギスギスしながら返答した所で、ふと醤は昼間の事を思い出し、カグラに背を向け、口を一文字に結んだ。
平静を装い、DVDを探しながらカグラに声を掛ける。

「…………ありがとな、いつも助けてくれて」

言ってしまった直後に後悔もしたが、どこか満足感もあった。
しかし、いつもの様に惚けた様な言葉が返ってくれば、また自分は噛みつくのだろうと内心苦笑する。

「……お前が助かったのは、無論、グルコ嬢やジー坊の力も必要であったが……お前の日頃の行いからも来ているのだよ」

カグラからそう言われるとは思っておらず、醤は驚いて振り返る。
醤を見て穏やかに微笑んだ後、カグラは黒い液晶画面に体を向けた。

「さて、今日はどの週間メダロットを見ようか? ショウ」

カグラの言わんとしている事を察し、呆けていた醤は、ふ、と笑みを零す。

「何言ってんだ、テレビの電源1つ入れられねえで」





「醤は相変わらずだな~」
「もう、からかい過ぎよ」

リビングにて。
食器棚から皿を出していた紀醤は、ゆかりにそう指摘されてまた笑った。

「ちょっとしたジョークなんだが……いやいや。まあ、仲が良いみたいで安心したよ。俺も仲良くなれるな、うん」
「どんな根拠があるんだか」

今度はゆかりが笑い、料理を盛り付けていく。
彩り豊かな料理を見た後、カレンダーを見て、紀醤はぽつりと呟いた。

「明日、花見でもするか」



メダロッチ更新中……――
・フェンシング(KTN-02。なぐる攻撃:ソード)獲得



続ク.





◎次回予告
紀「という事で、グラの歓迎会も兼ねて花見をしようじゃないか! はい、マ・ジ・カ・ル・サ・ク・ラ!」
醤「唐突!?」
紀「桜と言ったら!?」
カ「御守神社!」
醤「関係あるかソレ!?」
カ「何を言う。御守神社にはな、それはもう立派な……」
甘「ハイ、毛虫」
翠「さ、桜餅?」
梓「おじいちゃんの言葉を遮らないで。……死体」
醤「もうこれただの連想ゲームじゃねぇか!!」
蜜「わ、わたしが予告コールしても良いのかな……? 次回『六角形の神サマ』第拾参話、『来訪、桜前線』。
  桜の木の下で告白すると結ばれる、ってあったよね?」
醤「みっちゃん優勝おめでとう!!」

六角形の神サマ 第拾参話/来訪、桜前線 ( No.13 )
   
日時: 2018/01/14 17:11
名前: 海月

「おはよう、醤! 花見に行こうか」

洗顔すべく1階に降りてきた村崎醤(ムラサキショウ)が、父・紀醤(キショウ)から、日曜日の朝に聞いた第一声がそれであった。
起きたばかりで頭の回転がままならない醤は、少し時間を置いた後、眉間に皺を寄せて返答する。

「…………オレ、これからバイトなんだけど」
「大丈夫だ、父さんが『今日、バイト休みます』って佐藤君に電話しといた」
「あー……そうか、なら良いな……」

紀醤の言葉に納得した醤は、そのまま洗面所へと再び歩き始めた。
が、すぐに踵を返してリビングに怒鳴り込む。

「いや良くねぇよ!?」
「うおっ!? 吃驚した……良いから顔を洗ってきなさい、お前待ちだぞ?」
「色んな意味でこっちが吃驚だわ!! どこの世界に正式採用初日に休むバイトがいんだよおお!!」

自分は間違った事を言っているとは思わないにも関わらず、あくまで常識人のように振る舞う父の姿に醤は頭痛を覚え、両手で頭を抱えた。
既にリビングに降りていたカグラは、テレビから醤に視線を移し、穏やかな口調で宥める。

「良いではないか。大安吉日に天気は快晴、一家団欒で桜を見るというのも」
「当初のバイトの目的わかってんのかジジイ……! それとももうボケが始まってんのか?」
「まあまあ落ち着きなさい。グラの歓迎会も兼ねているのに、お前抜きでやる訳にもいかないだろう?」
「!」
「何と! 気遣いかたじけない、キショウ殿」

カグラの目を丸くした反応を見るに、歓迎会の話は初耳であったのだろう。
それを最初に言わず、醤の目の前で言った事にこそ、紀醤の真意はある。
家族思いと言えば良いのか、悪巧みと言えば良いのか。
花見もとい歓迎会を欠席出来なくなった醤は、心の中で舌打ちした。

――せこい真似しやがってこの狸親父……!

感謝と怒りが入り混じり、せめてもの抵抗とばかりに醤は紀醤を睨み付けるが、当人はカラッとした笑い声をリビングに響かせている。
これ以上紀醤に何かを言うのも無駄だと察知し、醤はカグラに声を掛けた。

「花見る場所なんざそもそもあるのか? 道に生えてんのは見たけど、流石に往来で花見は無理だろ」
「ふむ……御守神社の奥に、桜があってな。それはもう言葉を失う程綺麗で、お前達にも是非見て欲しいのだが……」
「何だよ、言い淀んで」
「……今は、神社の欠片が散らばっておって、皆が怪我をするといかん」
「……あー」

声色は変えず、僅かに目を伏せて話したカグラに、醤は斜め上を見ながら大破した御守神社を思い出していた。

先日、白と桃色で彩られた外見は可愛いメダロットにより神社が爆撃された時は、夕方であったにも関わらず、カグラの機体を染め上げたのは白であった。
あの時の後ろ姿と言ったら、声を掛けるのも忍びない程の哀愁が漂っていたものである。

醤が思い起こしていると、台所からお弁当を持った母・ゆかりが現れ、口を開いた。

「あら、御守神社ならもう大丈夫よ! だって、木片全部撤去されたんでしょ?」
「!?」
「知らなかった? 今朝の町内新聞に載ってたけど」

基本的にロボトル以外はのらりくらりとしているカグラであったが、その時の行動と言ったら素早かった。
まず『撤去』と聞いて風切音を幻聴する程の勢いでゆかりの方へ振り向き、『新聞』と聞いて勢いよく持ち上げ、顔を埋めているかのように新聞を凝視する。
醤も横からちらりと覗き込めば、3面に“あの事件から1か月……さよなら御守神社”と大きく表記されている。
その『完全に終わった』と言わんばかりの言い回しは如何なものだろう、と醤が苦笑すると、カグラは新聞を握る手を震わせた。

「おお……ワシの神社が、ワシの神社が欠片すらも……」
「落ち込むなよ。仕方ねぇだろ、吹っ飛ばされた時にこうなる事は決まってたようなモンなんだから」

醤が息をつきながら声を掛けると、震えていたカグラの手はぴたりと止まる。
代わりに、まるで壊れかけたブリキの玩具の様にゆっくりと、カグラの顔は醤へと向けられた。

「ほお……ショウもこの家が爆撃で吹き飛ばされたら、『仕方無い』と諦めるのだな……?」
「すいませんオレが悪かったので勘弁してくださいカグラ様」

この時のカグラが恐ろしく真顔であり、ミサイルの発射口が光った様に見えたが、心の底からいつもの冗談であって欲しいと願う醤であった。





『六角形の神サマ』 第拾参話/来訪、桜前線





「嗚呼、嗚呼……やはり跡形も無い……」

町外れの石段を上がり、雑木林を抜け、そびえ立つ鳥居を抜けると、其処にお馴染みの神社は欠片も存在しなかった。
新聞に載せられていた写真のままの光景を目の当たりにし、カグラは両手・両膝を地につけ、深く頭を垂れる。
醤の両親はというと、『桜は奥だったかしらー』とか何とか言いながら先へ行ってしまっていた。
温かいのか冷たいのか、よく分からない連中だと、荷物を持った醤はそっと溜め息を零す。

カグラの落ち込んだ姿を見るのはこれで2度目な訳であるが、それが醤にとっては意外であった。
自らを閉じ込めていた御守神社を、カグラはここまで大切に思っていたのか、と。
御守神社は、カグラにとって、“檻”というより“家”に近いのだろう。

……だとしても、である。
正直、呑気なカグラを見慣れている醤にとっては、見ていてあまり面白いモノではない。

「おら、落ち込んでねぇでシート張るぞ」

空いている方の右手でカグラの手を掴むと、半ば引き摺るように前へと引っ張った。
すると、カグラも諦めがついたのか、よろよろと歩き出す。

「おおおお!! グラがお薦めするだけあって立派だな!」
「ホント素敵! こんな桜、他に無いんじゃない!?」

紀醤とゆかりの声が聞こえてきた前方へと足を進めると、目の前に“桃色”が広がっていた。
1本であるにも関わらず両腕を大きく広げ、そびえ立つ桜に、醤は目を見開く。
花弁が舞うが、その大きさが損なわれる事は無く、まさに“満開”という言葉が相応しい。

「……変わらんなぁ、この桜は」

気が付くと、傍らのカグラもしっかりと立ち、桜を見上げていた。
その穏やかな声色から、幾分か気分が回復したのが伺える。
醤は鼻を鳴らすと、シーツの端々を紀醤やカグラに投げつけた。

「さっさとシーツ張るぞ。腹減った」
「そうだな! 父さんもだ!」
「もう、“花より団子”なんだから」
「それでは早く用意をせんとなあ」

4人は、桜を前に和気藹々と石で固定しながらシートを張っていった。





「凄いな母さん!! 御馳走じゃないか!」

開かれた弁当箱の中で並ぶ色とりどりの料理に、紀醤は声を上げて喜んだ。
それを見たゆかりも、嬉しそうに微笑む。

「ふふっ。早起きして作った甲斐があったわ。暫くご飯が質素になるかもしれないけど許してね」
「それって、こん中で1番被害被るのオレじゃ……?」
「桜の養分になりたくないなら黙りなさい」
「……お弁当美味しゅう御座います、お母様」

笑顔のまま言い捨てたゆかりにそれ以上何も言えず、醤は料理を口に運んだ。
弁当箱の中身をまじまじと見ながら、カグラは目を丸くする。

「ユカリ殿の料理がいつにも増して美味しそうだな。食べれぬのが実に惜しい」
「もう、グラちゃんは上手なんだから」
「落胆するのは早いぞグラ! 母さんの料理は食べれないが……」

明るい笑顔で大きなリュックを漁り始めた紀醤に視線が集まると、勢い良く筒状のソレが取り出された。

「ジャーン!! 本社から色んな味のオイルを持って来たぞ!」
「ほお! 燃料はこんなに種類があったのだな」
「デケエ荷物あると思ったら中身オイルかよ!」

醤が自分の紙コップに麦茶を注ぎながらそう言われても、紀醤は上機嫌のまま言葉を続ける。

「実は父さん、開発部門のリーダーでな。いつも同じオイルじゃメダロットも飽きると思って、プランを提出したら何と!
 予想以上にヒットしたんだ! 特にこの“よくできましたオイル苺ミルク味”は女の子に大人気なんだぞ!」
「凄いじゃないお父さん!」
「“よくできましたオイル苺ミルク味”って……それは本当に苺ミルク味なのか?」
「メダロットの味覚について徹底研究して生まれた製品だ! きっとベリーでミルキーな味がするんだろう! 試してないが!」
「ああ、試してたらアンタはこの場にいねぇわな」

醤が冷静に突っ込みを入れるが、別段誰も気にする事は無く、2人分のビールを注いだゆかりが片方を紀醤に手渡しながら言う。

「料理だけなのも何だし、そろそろ乾杯しましょうよ!」
「そうだな! 新しい家族を迎えた村崎家の門出に、カンパ~イ!!」

紙コップがぶつかる音が微かにした後、各々は自分の飲み物を口に運んだ。
その際、カグラの紙コップの中で、一瞬揺らめくショッキングピンクの液体がちらりと見え、醤は反射的に目を背ける。
背けた先にあった桜の色が、非常に目に優しい。
喉が鳴る音を聞いて再びカグラの方を見ると、カグラは手元のオイルを見ながら不思議そうに瞬きした。

「……ふむ。此れが“苺みるく味”とやらかは分からぬが、くどくなく甘酸っぱくて美味しいのだよ」
「そうかそうか! まだまだたくさんの味があるからな!
 “まあまあですねオイルおしるこ味”や“がんばりましょうオイル納豆味”とかも試してみてくれ!」
「歓迎会っつーよりオイルの試飲会じゃねえか……」

カグラが色鮮やかなオイルを見比べていると、紀醤が面白い玩具を見つけたと言わんばかりの声で『おやぁ?』と漏らす。
明らかに自分に向けられている言葉に、醤は面倒臭そうに睨みながら聞き返した。

「何だよ?」
「醤はビールじゃないのか~? 今日“は”?」
「今日“も”な。乾杯の1口でもう酔ってんのか?」
「良いじゃないか~! “いつもの様に”隠れて飲む事は無い! 今日は無礼講だからな!
 そして、お前が酔って恋バナ暴露してくれる事を父さん信じてる!」
「未成年の息子に言う事か!!」

お酒は二十歳になってから。未成年の飲酒ダメ、ゼッタイ。
醤が声を荒げても怯む事無く、紀醤は肩を組んで追求する。

「まあ別に酔ってなくても良いぞ? 好きな子の1人や2人、いるんだろ~?」
「いるぞ」
「お前に聞いてねえだろクソジジイ!!」

醤の剣幕を無視し、カグラは少々眉間に皺を寄せながら顔を顰めた。
恐らく、手に持つ“まあまあですねオイルおしるこ味”があまり口に合わなかったのだろう。
恋愛事情を断片的に掴み、上機嫌の紀醤の追及は続く。

「誰だよその罪な女の子は!? あ、そう言えばメダロット研究所の娘さんて結構可愛いんだろ?」
「その人は違います断じて。あれはカモミールを装ったマンイーターだ……」
「誰にせよ、どうせアンタの事だから片想いなんでしょ?」
「息子の希望を軽々しく潰s」
「ブッッフォ!?」
「っええええええ!?」

ゆかりに反論しようとした所でカグラが勢いよくオイルを噴き出し、醤の目は強制的にそちらへ向けられた。
激しく咳き込むカグラに、醤は問う。

「おいどーした!?」
「ゲホッゲホゲッホ……! ショ、っゴホ……キショ、殿、に……ッ!」
「父さんに!?」
「ッグ……なっと、味は…………マズイ」
「ジジイいいいいいい!?」

力を振り絞っていうや否や、カグラは完全に地に伏した。
ゆかりも尋常ではないと思ったのか、心配そうに駆け寄る。

「ちょっと、グラちゃん!?」
「そうかー、“がんばりましょうオイル納豆味”は改良が必要だな~。それにしても、メダロットも咽るんだな!?」
「『良いモン見れた』みたいな顔で何言ってんだアンタ!? ちったぁ反省しろ!!」

晴れ晴れとした表情で沈んだカグラを見る紀醤に、醤はありったけの怒号を浴びせた。
途端。

「フハハハハハハハ!!」

よく聞き慣れた笑い声が響き、醤は呆れ気味にそちらを睨み付けた。

「オイル如きで情けないなあボロボットよ!! 秘密結社テクノポリスが1人・タバスコ参上!!」
「……こんな天気の良い日曜日に、いつからそこにいたんだアンタ」
「ふっ、お前達の行動の予測等易い事だ。神社が無くなったと聞けば、いてもたってもいれんだろうからなあ?
 朝六時から張り込み、チャンスを伺っていたという訳だ。倒れた今なら勝てる気がした!」
「情けねぇのはどっちだ新手のストーカー。しかも予測も若干ずれてるし」

未来人の様な白いコスチュームに身を包み、ドヤ顔のタバスコに、醤はそう吐き捨てた。
初めて目にするタバスコの姿に、醤の両親は各々違う反応を見せる。

「嫌っ、何あれ? 春ねぇ……」
「おいおいゆかり、そんな事を言ったら失礼だろう? 元気そうだな尾根君!」
「背ぇ高い事以外共通点無え上に、自分で『タバスコ』っつったろ!? アンタが失礼だわ!!」
「ゴチャゴチャと喧しい! メダロット転送!」

騒ぐ醤達を尻目に、タバスコがメダロッチの画面を押すと、プラズマ音が響いた後、目の前にダンシングフラワー型メダロット・さくらちゃんが現れた。
醤は未だ起きないカグラの額をぺしぺしと叩き、声を掛ける。

「おーいジジー、ロボトルだぞ~。その内どーせレフェリーも来るし」
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
「そら来た」
「……うーん……?」

これまたお馴染みの轟く声に、カグラは小さく唸り声を上げながら意識を取り戻した。
桜の大樹の前に立つ、スーツに赤い蝶ネクタイの2人組を、スポットライトが眩く照らす。

「みんなでニコニコ・ロボトルファイト、メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪ ってアレー?
 先輩、何だか儚げですがどうしたんですかー? 気持ち悪い』
「そっとしといてくれないか、マーガリン。君のその訴えられても可笑しくないレベルの暴言に反論出来る元気が、今の僕には無いんだ」

Mr.ジャムは、そう言うと深い溜め息をついた。
いつもと違う調子の相棒の様子に、Ms.マーガリンは再度問い掛ける。

『本当に気持ち悪いですけど、どうして元気無いんですかー? 集中して実況出来ないじゃないですかー』
「マーガリン……」
『先輩がいると』
「……感動しかけた僕が最高に馬鹿だったよ」

Mr.ジャムが桜を見上げると、何事かと一同の目もそちらへ向けられる。

「マーガリン。君は、桜が何の為に存在するか知ってるかい?」
『先輩の存在価値くらいわかりません』
「……桜はね、その下でキスする為にあるんだよ」
「絶対違ぇよ」

茶番劇を黙って見ていた醤であったが、流石に突っ込まざるを得なかった。
外野の言葉を気にする事無く、Mr.ジャムは言葉を続ける。

「そう。桜がある以上、僕は美しい女性とキスをしなければいけないんだ」
「勝手に義務化されて、桜も女もさぞ迷惑だろうよ」
「なのに、それなのに……!」

憤りからMr.ジャムは固く拳を握ると、そのままゆかりを指差した。
自分は関係に無関係だと思っていたゆかりは、突然の事に戸惑う。

「えっ? 私?」
「ここには老婆しかいないじゃないか!!」

次の瞬間、頭から血を流したMr.ジャムが、救急車で運ばれていった。
Ms.マーガリンはハンカチをなびかせながら見送る。

『先輩~、ついでに頭もちゃんと見て貰ってくださいね~。それと、これからは女性に年齢の話をしたらダメですよ~。いくら老けてても』
「母さん、気持ちは分かるけど落ち着けって。あの女通報慣れしてっから、多分振りかぶった時点で呼ばれるって」
「どうせ私はBBAよ!! 自然の摂理じゃろが童共オオオオ!!」
「落ち着いてくだされ、ユカリ殿」
「な、殴った……中身の入ったオイル缶で力一杯……。恐るべし村崎の血」

未だ血糊の付着したオイル缶を握りしめるゆかりを、醤が後ろから羽交い絞めし、カグラと一緒に宥めるが、落ち着く気配は一向に無い。
一部始終を目の当たりにしたタバスコは、何時ぞやかの醤と現在のゆかりの姿が重なり、ただただ震える。
すると、オイル缶を持つゆかりの手を、2回り大きな手が包んだ。

「本当に失礼な人達だよな、君はこんなに綺麗なのに」
「き、紀醤さん……!」
「醤、グラ。母さんには父さんが付いてるから、思い切り勝ってきなさい」
「お、おう。ありがとな、父さん」
「暫しお待ち下され、必ず勝って参ります故」

頭を下げながら穏やかに、且つ確かなカグラの言葉に、醤はタバスコとさくらちゃんを見据えた。
醤とカグラの様子を見て、Ms.マーガリンはクスリと笑い、メガホンを構え直す。

『合意とみてよろしいみたいだねー。それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令を聞くや否や、カグラは両脚を踏み締め、さくらちゃんはファイティングポーズを取り、指令をすぐさま行動に移せるよう備える。
醤とタバスコは、まずは勢いで勝つと言わんばかりに、各々のメダロッチに声を叩きつけた。

「カグラ! サブマシンガン!」
「了承した!」
「さくらちゃん! 両腕でガードした後、フレー!」
『カグラのガトリング炸裂ゥー! しかし、さくらちゃんは上手く受け流したみたいだぞー!?』

右腕でサブマシンガンを支え、カグラがガトリングを放つと、さくらちゃんは両腕で攻撃を受けた後、右腕の応援旗を大きく振った。
カグラの目には、腕を振るスピードが徐々に加速している様に映る。
撃つのを止めて銃口をやや下げ、カグラは醤に問う。

「ショウ、彼奴の行動は……」
「……ああ、加速している。応援行動・チャージ。充填や放熱を効率化、つまり次の行動までの時間を短縮する」
「何だ? 諦めるにはまだ早すぎるだろう? さくらちゃん、フレー! フレフレー!」
『おおっと! どんどん加速するさくらちゃんを前に、カグラは攻撃を止めてしまったァー!
 ショウ選手にどのような作戦があるのでしょうか!?』

さくらちゃんは両腕の応援旗を振り、自身の行動を加速していく。
醤は、低い声でメダロッチ越しにカグラに語り掛け始めた。

「カグラ、よく聞いてくれ。さくらちゃんは、両腕が時間短縮のパーツだ」
「成程。充分に加速した所で、頭部を使い我々を一気に叩き込むつもりなのだな。して、頭部の行動は?」
「時間短縮だ」
「そうか、それは厄介……ん?」
「時間短縮なんだ」

カグラがゆっくりと振り向くと、醤は大きく頷いた。
同じ速さで、カグラはさくらちゃんがいる正面へと向き直る。
今もなお、さくらちゃんは両腕を振り、加速し続けている。
カグラは、静かに醤に問い掛ける。

「……ショウよ、彼奴が時間短縮して次にとる行動は……」
「時間短縮だな」
「……攻撃する術を、持っておらんのだな?」
「ああ。つまり……」

醤は、可哀想な生き物を見る様な目でさくらちゃんを見る。

「俺達に勝つ術が、限りなくゼロって事だ」

醤の言葉に、今度はカグラが大きく頷いた。

「ジー坊のように、隠蔽だったらやり様はあるのになあ」
「普通は、どれか1パーツだけでも変えたりするモンなんだけどな。タバスコは気付いてないけど、さくらちゃんは気付いてるぞきっと。
 見てみろ、笑顔引き攣ってんだろ」
「成程! だがら“無愛想”なのだな!?」
「いや、“ブアイソー”は元々のパーツ名だ」

ハッと気付いたように振り返ったカグラであったが、醤の言葉に若干俯きながら前へ直る。
さくらちゃんは、相変わらず両腕を振り続けていた。

「しかし、却って攻撃しづらいな。主に言われるがまま、ああして健気に旗を振り続けているのを見ると」
「情けは無用だ。今までされてきた事思い出せ。
 それに、あの速度で苦し紛れに体当たりでもされたら、どうせまた立てなくなるんだろアンタ。
 オイこっち向け、オレが立ち会ってから3戦中2戦体当たりで劣勢になった爺さん」
「……面目ない」

後ろから圧し掛かるプレッシャーに負け、振り向かない、否振り向けないままカグラは謝罪した。
落とした肩を戻し、こりを解すかのように首を左右に倒した後、カグラは両腕の銃口を正面へと向ける。

「まあ、キショウ殿とも勝つと約束したしな」
「カグラ、」
「うむ」
「一斉射撃の後、ミサイル」
「心得た」





『勝者!! ショウ選手ゥ!!』
「覚えてろこの人でなし共オオオオオ!!」
「うるせえ!! ロボトル前にメダチェックすんのはメダロッターの義務だろうがバアアアカァ!!」

機能停止したさくらちゃんの機体を脇に抱え、タバスコは捨て台詞を吐きながら石段を降りて行った。
醤も負けじと言い返すと、紀醤とゆかりが笑顔で迎える。

「2人共お疲れ様! そしておめでとう!」
「私ロボトルって初めて見るんだけど、アンタ達あんなに強かったのね!」
「賞賛頂き感謝するが……少しばかり複雑なのだよ」
「いや、あれも実力の内だろ」

カグラが苦笑していると、満足するまで吠えた醤があっさりと言葉を覆した。
紀醤は、再び一家が揃った事に満足し、少し大袈裟に両手を大きく上げて高らかに話す。

「さっ!! 村崎家の花見を再開しようじゃないか! 何たって今日は、花見記念日だからな!」
「どんな記念日だよ」
「決まっているだろう! 来年も、再来年も、この場所でみんな揃って花見をする日って事だ! 愛してるぞ皆!!」
「唐突!?」
「ふふっ、私も皆愛してるわ」
「この上なく上機嫌!? おい、ロボトル中母さんに何言ったんだ!? なぁ!?」
「チャイルドな醤には言えないよな~?」
「ね~?」
「うぜええええええ!?」
「成程。“花見記念日”とは、皆で花見をして、愛を伝え合う日なのだな」
「あ!?」

両親のやり取りに苛立ったまま、手包みを打つカグラの方へと振り向いた。
カグラは目を細め、自分の気持ちを吐露する。

「ワシも、村崎家の皆が愛おしい。村崎家の一員になれて、幸せなのだよ」
「バッ……!?」

カグラの言葉で、醤の顔はまるで信号機の様に赤や青へと色が変わった。
何事か分からず、カグラは首を傾げて醤を見る。

「どうしたというのだ?」
「……っあのな、お前まで言うと……!」
「そういえば、醤の話もグラの話も全然聞けず終いだったからなー! 喋り倒そうじゃないか! そうだな……」

にやりと笑った紀醤と目が合い、醤は顔を青1色に染める。

「醤の『愛してる』で花見を閉めるとしようか!」
「言うと思ったわ馬鹿親父畜生オオオオオ!!」

桜に怒号を木霊させながら紀醤を追いかけ回す醤を見て、カグラは目を細めて一息ついた。

「“一家団欒で花見”とは、温かいものなのだなぁ」

花見は、日付が変わった後までしたとかしなかったとか。



メダロッチ更新中……――
・フレフレー(DLF-03。おうえん行動:チャージ)獲得



続ク.





◎次回予告
梓「まずは御礼。オイルの名前を貸してくださった『メダロットM』作者の流離太さん、ありがとうございました。
  それじゃあ、次回予告。……何故、人類は争い続けるのか?
  わざわざ派閥を作り、走り惑い、数字に一喜一憂し、他人の事を顧みない。そうして掴んだ勝利に、何の意味があるの?」
醤「……えー、次回『六角形の神サマ』第拾肆話、『真剣衝突激競争(前篇)』。……ガチで運動嫌いなんだな」
梓「運動会と球技大会とマラソン大会はしねば良い」

六角形の神サマ 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇) ( No.14 )
   
日時: 2018/01/25 21:29
名前: 海月

春。
雪が融け、温かくなったら。

「――以上で、このクラスの紅組、白組の発表終わるぞー。次はリレー選抜メンバー決めるからなー」

運動会です。





『六角形の神サマ』 第拾肆話/真剣衝突激競争(前篇)





場所は御守高校・2年D組の教室。
1か月後に控える運動会に向け、クラスミーティングをしていた。
クラス担任は、話を進めるべく口を開く。

「選抜メンバーは、紅組・白組で男女1名ずつ。まあ他のクラスも陸上部の奴等出してるからな、女子2名は決まりとして……」

『えー』という声を上げた陸上部の女子が、周囲から労いの言葉を受けるのを尻目に、担任は話を続ける。

「男子は尾根しか陸上部いないから、先生としては紅組で誰か立候補して貰えると1番助かるんだが……」

と、言いながらクラス中を見回す担任と目が合わぬよう、村崎醤(ムラサキショウ)は俯く事に徹していた。

今しがた名前が挙がった尾根翠(ビネスイ)は、陸上部で記録を上塗り続けている、化け物級のエースだ。
親友である醤は、応援すべく何度も大会に足を運んでいるため、その実力を嫌という程知っている。
そんな彼が白組のリレー選抜メンバーになった事に対し、醤は紅組。
白羽の矢が立つ可能性は充分にある。紅組なのに。否、紅組だからこそ。

が、運命はいつでも残酷であった。

「村崎。学ランの脇、穴空いてるんじゃねぇ?」
「マジで?」
「おお!! 村崎、リレー出てくれるか!」
「ファッ!?」

佐藤甘太(サトウカンタ)に指摘されるがまま、穴を確認すべく腕を上げると、見事にターゲティングされてしまった。
醤にとって残酷なのは、運命というよりもう1人の親友であった。

――謀ったな佐藤……!

しかし、面倒以上に、醤は負けが分かりきっている勝負を受ける訳にはいかない。
リレーメンバーが決まり、どんなに担任の瞳が輝いていたとしてもだ。

「いやいやオレ無理ですよ! 足なんてそんな」
「大丈夫ですよ先生! こいつ何だかんだで責任感強いし、御守神社から教室まで走って5分で着くんです!」
「それは心強いな!」
「黙ってろ白組リレー代表!! 現役陸上部エースに帰宅部が勝てるか!!」

自分の事のように嬉しそうに話す翠に、醤は思わず立ち上がって反論する。
翠が言っているのは事実だ。
だが、それは遅刻しないよう背水の陣で走っているからであり、更に、普段から運動している訳ではないためスタミナも人並みなのである。
あくまで断らんとする醤の姿勢を見て、佐藤は毒を持つ甘言を呟いた。

「勿体ねーなぁ村崎。紅組の走者、泡瀬美園いるのに」
「先生ボクやります」

即決であった。
因みに、泡瀬美園(アワセミソノ)というのは、2年A組在籍の、醤の想い人である。
恋愛成就すべく健気に神社に通いつめていた時期も醤にはあったが、そこの神様は恋愛専門外の惚けた御老体であるため、今日まで接点が1度も無かった。

「よし! 無事リレーメンバーも決まった事だし、次は係を――」
「スイ!! リレー選抜おめでと~!」

突如、教室の扉が勢いよく開き、現れたウサギ型メダロット・ラビウォンバットに、一同の目は集められた。
翠は、驚愕のあまり突然の来訪者の名を大きな声で口にする。

「ハリップ!」
「スイなら選ばれると思ったよ! そうと決まったら早くグランド行こ! 走らなきゃ!」
「駄目だって。これから係も決めるんだから」
「ええー!! また待つの!? こんなに時間あったら、スイなら20周くらい出来るのに!」
「大袈裟だなぁ」

全く周りの目を気にせず翠に駆け寄り、騒ぎ立てるラビウォンバット・ハリップに、翠は困った様に苦笑した。
不服そうな表情をすぐに笑顔に変え、ハリップは言葉を続ける。

「わかった! じゃあオレっち、グランド整備して待ってるから! 早く決めて早く来てね!」

そう言い終えるや否や、ハリップは教室を飛び出して行き、2年D組には嵐が去った後の様な静けさだけが残った。
非常に気まずそうに笑いながら、翠は担任へと声を掛ける。

「先生、すみませんでした。係の話続けましょう」
「あ、ああ。お前のメダロット、相変わらず元気で忙しそうだな」
「……すみません」

少し赤い顔で謝る翠を見て、醤は『メダロットはマイペースな奴が多いなあ』と、今家にいるであろうカグラの顔を頭に浮かべながら、ぼんやり思ったのであった。





そうして迎えた、御守高校運動会当日。
天気は快晴。……と旨い具合にはいかず、曇り。強くはないが、時折風も吹いている。
しかし、運動会は実際このくらいの気候が丁度良いのである。
風の無い炎天下で運動会をやったら、確実に死ねる。氏ねるじゃなくて死ねる。

「はよーっす」
「おはよう、村崎」
「おはよー……」
「? 何だよ」

高校指定の芋ジャージに身を包み、頭に紅い鉢巻を巻いた醤は、白い鉢巻を巻いた翠、甘太に、片手を小さく上げながら声を掛けた。
挨拶するなり自分の顔をじろじろ見る甘太に醤が問い掛けると、問われた当人は意外そうな顔で返答する。

「いや、割と普通だなと思ってさ」
「だから何がだよ」
「リレーが嫌で嫌で全人類恨んでると言っても過言じゃないような鬼の形相はしてねーな、ってコト」
「お前が言うか」
「村崎だって流石にリレーぐらいでそんなんならないだろ」
「お前も言うか。……決まったモンに、いつまでもグチグチ言ってたってどうしようも無えだろ。それに……」

何処か呆れたように2人を見る醤は、言葉を続ける。

「リレーのバトン貰う時、美園ちゃんの手が触れるかもしれないだろ!?」

――本音そっちだな。

思い切り破顔して語る醤を、甘太と翠は、まるで興味深い生物を観察するような目で見た。
完全に有頂天の醤は、興奮気味にほぼ独り言に近いであろう言葉を喋り続ける。

「美園ちゃんの肌スベスベしててうっかりバトン落としたらどうするよ!?」
「俺は、それが本人に聞こえてたらどうしようって気持ちで一杯だなぁ……」
「やべーオレもしかして今世界で一番幸せなんじゃねぇか!? ありがとう神様!! カグラ以外の!!」
「その神様が、お前をアンカーにしたっていうのもお忘れなく」
「今それお口チャックな!!」

各クラス担任のくじ引きにより、リレー走者の順番が決定したのはつい先日の事。
順番が泡瀬美園の次だと聞かされた後、目を逸らしながら醤がアンカーだと告げた担任の顔は記憶に新しい。
この時の醤は、まさに強運にして凶運の持ち主であった。

「それより佐藤、そろそろ集まらないといけないんじゃないか?」
「あー、放送委員会な。じゃあ行ってくるわ」
「おう」

翠に言われ、校舎の時計を見上げた甘太は、手をひらひらと振りながら白いテントの方へと駆けて行った。

「オレ達もそろそろ行こうぜ」
「だな。……村崎」
「あ?」

伸びをしながら玄関口へと歩き始めた醤は、改まって名を呼ばれ、腕を上げたまま翠の方へと振り向く。

「負けないからな」
「そうでしょうよ(震え声」
「そこ『オレの台詞だ』じゃないんだ!? 何で敬語!? いつもの負けず嫌いなお前は何処に行ったんだよ!?」

かくして、リレーアンカー達の温度差が開いたまま、運動会は開幕したのであった。





『開会式が終わりまして、次のプログラムからはいよいよ競技です』

白いテントの下でマイクを手に、甘太は言葉を続ける。

『申し遅れましたが、前回に引き続きまして、本会の実況はぼく・実況あるから参加するのは基本競技だけで良いという理由で今年度前期も放送委員を務めます佐藤甘太がお送りします』
「よく全校生徒のみならず教師の前で堂々と言えるなアイツ」
「佐藤だからな」
『次のプログラムは徒競走です。生徒の皆さんは、スタート地点で整列してください』

半ば呆れながらの醤の言葉に翠が苦笑すると、スタート地点へと生徒が集まり始め、2人もそれに続いた。
徒競走が始まり、スターターピストルの合図で一斉に駆け出す走者達。
“ただ走るだけ”というシンプルな内容だけに、各々が全力でゴールを走り抜けていた。

「位置について、用意……!」

審判の号令を聞いて身を屈めた醤は、銃声と共に飛び出すように走り出した。
一瞬手を抜く事を考えた醤であったが、美園が見ているかもしれないという自意識任せに力を込める。
神社から学校までの全力疾走より劣っている事は自分でも分かったが、それでも何とか結果を出す事が出来た。

『只今の徒競走、1位は2年D組・村崎君です。流石紅組アンカー、リレーが楽しみですネ!』
「佐藤後で覚えてろよマジで」
『ここでアナウンスです。2-D村崎君、2-D村崎君……』

自分の徒競走を終え、いつのまにかアナウンス席に戻っていた甘太の言葉に、醤は息も絶え絶えに吐き捨てた。
当然ながら醤の言葉が聞こえない甘太による放送が続き、何事かと醤は眉間に皺を若干寄せる。

『お爺様が倒れました』
「何やってんだアイツ!?」

走ったばかりだと言うのに、醤は末恐ろしくなる程のスピードで観客席へと向かった。
観客席で、高く上げられた手が左右に揺れる。

「あっ、醤!! ココよココ! グラちゃんが煙噴いたの!」
「煙ぃ!?」
「醤君、徒競走お疲れ様」
「博士!」

母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)の元へ人を避けながら進むと、カグラの体はゆかりに支えられ、頭部の近くで波花椒吾(ナミハナショウゴ)が棒状のセンサーを翳していた。
醤はカグラの両肩を掴み、慌てて呼びかける。

「おい!! おいジジイ!!」
「……ん……? ショウ、か……?」

呼びかけに応じ、緑の光が淡く浮かび上がるが、まるでノイズがはしっている様に不規則に点滅を繰り返す。

「どうしたんだよイキナリ!?」
「す、まぬ。お前の走る姿を、見てたら、嬉しくてな……そしたら、頭が、くらくらと」
「オーバーヒート起こす程ハッスルする事じゃねえだろ!!」

倒れた理由を聞き、色んな感情が入り混じった醤はありったけの声量で怒鳴った。
それを宥めるように、椒吾は穏やかに醤を送り出す。

「カグラ君は僕がみてるから、醤君は皆の所へ戻りなよ。大丈夫だから」
「そうよ~。聞けばメダロットの博士さんだっていうじゃない、プロの人にみて貰うのが一番でしょ?」
「わかったよ……博士すいません、お願いします」
「ああ、行っておいで」

醤が観客席を抜けると、グラウンドからも観客席からも一斉に歓声が上がった。

「え……!?」
『しかし、白組アンカーも負けていません! 歴代の御守高校100M走のタイムが、たった今記録更新されました!
 しでかしたのは勿論この男! 只今の徒競走1位にして、陸上部期待の星……2年D組・尾根君です!!』

名を告げられると同時に、一際大きい……それも半数以上が女性のものであろう歓声が場を支配する。
醤がゴール地点に戻ると、翠が額の汗を拭いながら出迎えた。

「おお、村崎。カグラ大丈夫だったか?」
「あ、ああ。運動会見てハッスルしただけだから」
「そうか、良かったよ。お前、徒競走速かったしなぁ」
「それ、少なくともお前の口から出て良い台詞じゃねぇぞ」
「はは、佐藤のアレは盛り過ぎだよなぁ。……ゲン担ぎみたいなもんさ」

困った様に笑った後、翠には珍しく、その目には強い意志が宿っている。

「徒競走で負けたら、リレーも負ける気がしてな」

次の競技も頑張ろうな、と背を向けて手を振り、翠はその場を去って行った。
分かっていた筈の力量差を突きつけられ、思わず醤の口元が歪む。
醤の気分は、鷹にロックオンされた鼠そのもの……この時ばかりは、翠とあたってきた陸上選手達に心底同情した。

――勘弁してくれ、負けず嫌いはどっちだよ……。

雲が並ぶ空に、ぽつりと独り言を投げかける。

「雨降んねえかなー……」





『次の競技は……何が出るかな? まさに神頼み、借り物競争です』

競技は順調に進み、借り物競争のアナウンスが流れ、数十分後。
合図のままスタートした醤は、地面に伏せられた札を手に取って捲る。

「あまり無茶なのは……『愛機』か」

札を読み上げた醤の脳裏に、運動会開始早々にオーバーヒートしたカグラの顔が浮かんだ。
不本意だが緊急を要する為仕方が無いと自分に言い聞かせながら、醤は頭を掻く。

「しゃーねぇ、呼ん、で……?」

ため息交じりに顔を上げた瞬間、がっちりと目が合った。否、合ってしまった。
醤を凝視しているのは、醤と同様頭に紅い鉢巻を付け、『大切なモノ』と書かれた札を握り締めた波花梓音(ナミハナシオン)である。
言葉にしないにも関わらず、互いの行動を読み取った両者は、まるで示し合わせた様に観客席へと一目散に向かった。

「カグラ!! 行くぞ!!」
「おじいちゃん!! ワタシと一緒に来て!!」
「どうした2人共? 『カブトムシ』とでも書いてあったのか?」
「聞くんじゃねぇタコ!!」
「何故ワシは怒られたのだ?」

回復したカグラは、鬼気迫った2人の顔を見て首を傾げたが、醤に一蹴され頭の中の疑問符が更に増える。
醤の暴言を聞き、梓音は隣の醤を睨みつけながら非難する。

「ちょっと! それがおじちゃんに頼む態度!? 突くわよ!?」
「どうせ今ドライバー持ってねぇだろ!? 先手必勝ォ!!」
「っ!」

言うや否やカグラの右手を取って駈け出した醤に奥歯を噛み締め、梓音はすぐさま左手を取って続く。
自分と並んで走る梓音に舌打ちし、醤は前を向いたまま声を張り上げた。

「大体なぁ、その条件ならマリアがいるだろーが!! 後で泣くぞ!?」
「うるさい! お前がおじいちゃんを連れてくのが気に入らないのよ! お前こそ何!?
 普段暴言吐きまくってるくせにこんな時ばっかり!」
「2人共、走りながら喋ると舌を噛むぞ?」
「誰の所為で面倒な事になってると思ってんだ孫たらし!!」
「おじいちゃんに何てコト言うのよ恩知らず!」
「うるせぇヤンデレラ!」
「チンピラ!」
「ヒス女!」
「甲斐性無し!」
「コミュ障!」
「不憫!」
「モヤシ!」
「ヘタレ!」
「クレイジーサイコチビ!」
「グランドファザコン野郎!」
「お前だろーが!?」

罵倒し合う2人と、それに挟まれたカグラの後ろ姿を見ながら、待機している翠と甘太は感想を漏らす。

「何か借り物競争って言うより、3人4脚みたいだな」
「間違ってねーわな。カグラの足、地面についてねーし」

走者2人のあまりのスピードでカグラの体が宙に浮いたまま、ゴールテープは切られた。
“1位”の赤い旗を持った生徒は、笑顔で醤と梓音両者に差し出す。

「おめでとうございます! 同着1位です!」
「あ? オレがこのモヤシと同じな訳ねぇだろ目ぇ腐ってんのか」
「ついてても意味無い目なら潰すわよ」
「」
「やめぬか2人共。可哀想に、涙目になっておるではないか」

鶴の一声ならぬ神の一声により、この少年から視力が失われる事は後にも先にも無かったという。





午前中の競技が全て終了し、昼休憩の時間となった。

「醤お疲れ様! アンタ意外とすばしっこいのね!」
「もっと他に言い様無かったのか」
「腹が減っておるから苛々するのだよ。たくさん走ってお腹が空いただろう」

戻って開口1番のゆかりの言葉に醤は顔を顰めるたが、反対にカグラは嬉々として弁当を広げていく。
空腹なのは事実であったため、醤は渋々箸を取り、卵焼きを掴んだ。

「いただきます」

そのまま口に運ぶと、醤の口内で丁度良い塩加減と、焦げによるものであろう若干の苦みが広がる。
卵焼きを食べる醤の顔を、カグラは何時になく期待を込めた眼差しで見ていた。

「どうだ? 塩辛くはないか?」
「あー……まあな」
「そうか……」
「その卵焼きね、グラちゃんが作ったのよ!」
「!?」

ゆかりに聞かされ、醤が勢いよく顔を向けると、カグラは照れているのか落ち込んでいるのか分からないような表情を浮かべていた。
カグラは、水筒の茶を注ぎながら明るい声色で話す。

「カンタがな、教えてくれたのだよ。『弁当を作るとショウが喜ぶかもしれない』、と。
 もう少し上手く作れたら良かったんだが、かたじけない」

急いで卵焼きを飲み込み、醤はカグラの手から奪うように麦茶を手に取る。

「……塩加減は、良いんじゃねぇの? 見た目は悪いかもしんねぇが、香ばしくて悪くもねぇだろうし」
「……そうか……!」

喜びから目を丸くするカグラを自分と交互に見て、ニヤニヤ笑うゆかりを完全に無視し、醤は卵焼きを突いた。
一欠けら混入している殻がアクセントで歯応えもしっかりしているが、今後は無いと嬉しい。

――佐藤の奴、余計な事言いやがって。

心の中で悪態をつきながらも、醤は密かに顔を綻ばせる。
次の競技のアナウンスが流れたのは、醤が弁当を残さず食べきった時であった。

『選手が狙うのはアンパンか!? それともメロンパンなのか!? パン食い競争も白熱して参りました!』
「佐藤……午後一で『パン食い競争』入れるウチの学校も学校だけど、佐藤テメエ……!」
「よぉ村崎! 愛情がぎっしり詰まった弁当は美味かったか? 詰まり過ぎて身も心もお腹いっぱいなんじゃねーの?」
「ここぞとばかりに良い顔しやがってえええ……!」

次の順番に備えて自分の隣に並び、爽やかな笑顔を浮かべる甘太とは正反対に、醤は泣く子も黙るような禍々しい笑顔で隣人を睨みつけたのであった。





『さあ、泣いても笑っても次が最後の競技・リレーです。選抜された生徒は、グランド中央で整列してください』

滞りなく進行されてきた運動会も、いよいよ次のリレーで競技が全て終了となる。
アナウンスが流れ、該当する生徒が集まり出す中、誰かが誰かの手を取ったのを醤は視界の隅で捕らえた。

「ミツキがいたら、実力以上の力が出せるかもしれないんだ。だから、見ていてくれないか?」
「スイ……!」
「そこのリア充ウウウウウ!! 一応言っとくけどみっちゃん紅組だかんな!?」

非リア充の心の叫びが轟き、醤が待ち望まなかったリレーがいよいよ開幕したのであった。

――あー、早く終わるか雨が降るかどっちかにしてくれ……!

自分の順番を待ちながら、地面を虚ろな目で見る醤は、深い溜め息をついた。
思い返せばこの運動会、手放しで『良かった』と思えるような出来事が醤には1つも無い。
これではプラマイゼロどころかマイナスではないのかと、今日という日を恨みかけた時であった。

「リレーって、どうしても緊張しちゃうよね」

醤は、耳を疑った。
その声は、聞き慣れない声ではあったが、決して忘れる事の出来ない声だったからである。
恐る恐る醤が顔を上げると、紅い鉢巻と共に、薄茶色の長い髪が揺れた。

「村崎君はアンカーだから、私よりももっと緊張してるのかな?」
「っみ、」

――美園ちゃんんんんん!?

唐突過ぎる美園との出会いに、醤は声を失う。
初めて間近で見る想い人は、くりっとした大きな瞳、桜色に色付いた唇が小さな輪郭にバランス良く納まっていた。
醤の緊張の方向性は勢いよくサイドチェンジされ、出す声が僅かに震える。

「え、な、何でオレの名前っ……?」
「村崎君って凄く元気だし、徒競走でも借り物競争でも1位だったでしょ? それで気になってたら、アナウンスで名前が……」

――神様アアアアア!! カグラ以外のオオオオオ!!

醤は、心の中で膝を折り、天を仰ぎながらガッツポーズをとった。
だがしかし、神が与えたチャンスをみすみす逃す訳にはいかない。

「みっ、あ、泡瀬さんは……!」
「あ、もうコーナーに並ばないといけないみたい。ごめんね」

勇気を振り絞って切り出した話は、話になる前に無残にも終わった。
心中涙を流しながらも、申し訳無さそうに眉を八の字に曲げる美園に対し、醤は明るい笑顔を張り付ける。

「や、今は競技の最中だししょうが無いって! 頑張ろうな、泡瀬さん!」
「うん! 頑張ろうね! また話そう?」
「ああ、また……また?」

美園を送り出した醤は、小さく振っていた手を復唱しながら止めた。

――『また』アアアアア!? また喋ってくれるんですかオレとオオオ!? いやいやいやいや落ち着けって社交辞令だって村崎醤!!
  いやーでも同じ学校だしなー! 会ったら声掛けるだろ? 話すだろ? 普通! やっぱヒロインはこうでなくっちゃなー!
  どっかのジト目のスプラッターに爪の垢煎じて飲ませてえわマジで! 雨よ降らないでくれてありがとう!!

「今ならオレはどこまでも走れる!!」
「良かったな、村崎。泡瀬さんと喋れて」

断言した所で、今度はよく聞き慣れた隣からの声に、醤は笑顔のまま顔を向けた。
隣では翠が、美園とは反対側のコーナーを指差し、笑顔を浮かべる。

「俺達もそろそろ並ぼうか」
「…………ハイ」

醤は、硬直した笑顔のままかくりと頭を垂れた。
コーナーへと向かいながら、翠は楽しげに喋り掛ける。

「『どこまでも走れる』かぁ、何かもっと面白くなってきたな」
「そうだなー、オレはこの先の高校生活が楽しみで楽しみで仕方ねぇよ」

――今日は尾根の1言1言が恐怖そのものだけど、幸運の女神はオレに微笑んでくれた!! 今ならやれる! 出来る! Yes,I can!!

醤が強い光を目に宿してコーナーに立つと、見えたのは走ってくる美園であった。
白組は、数M遅れて走っている。
醤は、後ろ手を構え、小さく走り出す。

「お願い、村崎君……!」
「任された!!」

良き切れ切れに走る美園からバトンを受け取り、醤は加速した。
残念ながら美園の手に触れる事は叶わなかったが、それに構う事なく、一心不乱にゴールを目指す。
遠くで湧き上がる歓声を聞き、翠にバトンが渡った事を醤は悟った。
地面を力強く蹴る音が、徐々に近くなる。

「……村崎、やっぱ速いなぁ」
「……尾根……!」
「悪いけど……」

隣に並んだ翠に、醤は奥歯を噛み締めた。
翠は、勝気な笑みを浮かべて言葉を続ける。

「お前が泡瀬さんの前で負けたくないように、俺もミツキの前で負ける訳にはいかないんだ」
「っのリア充がアアアアアアア!!」

ゴールテープが、切られる。
その場にいた全員が、息を飲んだ。

『ゴールテープを切ったのは、白……!』

カラン、とグランドに乾いた音が響いた。
転がったのは、リレーのバトン。

その色は、少し土で汚れた、白であった。

『……白ですが、白組ではありません。……全身白ずくめの、所謂変質者です』

ゴールテープを切った瞬間同様に両腕をVの字に上げ、白い衣装を纏ったゴーグルの男は、醤の方へと振り返り、口角を吊り上げた。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「えー、まずは第1回『六角形の神サマ』謝罪会見を開きたいと思います。
  前回の次回予告で、『オイルの名前を貸してくださった流離太さん』と表記しましたが、事実確認をしますと、元ネタは『ロックマン』でした。
  『ロックマン』作者の池原しげと先生、関係者の皆様、流離太先生、読者の皆様、本当に申し訳御座いませんでした」
カ「『第1回』という事は、『第2回』があるのか?」
醤「ネタバレになるがありますん」
カ「一体何をしでかすつもりなのだよ……いっその事、最終回の話を」
醤「早 過 ぎ る わ!! 謝罪会見じゃ済まねぇかんな!?」
翠「じゃあ、次回予告だし次の話のネタバレするか。
次回『六角形の神サマ』第拾伍話、『真剣衝突激競争(後篇)』。とりあえず、ロボトルありません」
醤「じゃあ何すんだ!?」

六角形の神サマ 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇) ( No.15 )
   
日時: 2018/01/14 17:39
名前: 海月

「カグラの旦那~! ここにいたんですかい」
「ジー坊。ジー坊も来ておったのだな」

御守高校運動会最終競技・リレーが実施されていたこの時。
観客席でカグラが声掛けられるままに振り向くと、そこには手を振るジーと、見慣れぬラビウォンバットの姿があった。

「その者は友人か?」
「スイのメダロットのハリップだよ! よろしくねカグラ! 今は敵同士だけど!」
「此方こそ宜しく頼む。敵とな?」
「あー…多分あーいう事っす」

真っ直ぐ前を見つめたまま言い放ったハリップの言葉にカグラが首を傾げると、ジーは苦笑しながらグランドの方へと指差した。
カグラも目を向けると、丁度バトンを受け渡された醤の姿が目に映る。

「ショウ?」
「そう! スイはショウに勝たなきゃいけないから! 絶対勝つけど!」
「そうかそうか、スイも走るのだな。では応援するとしようか。ショ~、スイ~、頑張るのだよ~」
「何でスイも応援するの!? 敵同士じゃん!」
「ワシからすれば、どちらも大切な孫だからな」
「ええー!?」
「じゃあオイラは、実況のカンちゃん頑張れ~」

そう言うや否や、走っていないにも関わらず佐藤甘太(サトウカンタ)を応援し始めたジーを見て、ハリップは少し唸る。
しかし、白いバトンが尾根翠(ビネスイ)の渡ると、大きく首を横に振って迷いを断ち切り、有りっ丈の声援を送り始めた。

「スイイイイ!! 頑張ってえええ!! 絶対負けないと思うけど絶対勝ってねえええええ!!」
「スイを信頼しているのだなあ」
「モチロン!! スイは、誰よりも誰よりも速いんだから!!」

翠がゴールテープを切る瞬間を逃すまいとグランドを1点見つめながら、ハリップは目を輝かせて言い切った。
すると、ゴールテープに向かって、マイペースに走っている白い影が不意に3体の視界に入った。

「「「あ」」」

誰よりも不真面目に走っている事明らかなその白い男は、腕をVの字に上げ、ゴールテープを散らしたのであった。





『六角形の神サマ』 第拾伍話/真剣衝突激競争(後篇)





「ふっ、ふふっ……」

白を基調とした未来人の様な格好に、目には大きめのゴーグル。
そして、衣装の右胸に“Tc”と刻まれた、秘密結社テクノポリスが1人・タバスコは、腕を降ろし、笑い声を零しながら小刻みに震える。

「だーっはっはっは!! 悔しいか!? 悔しいか村崎醤!? 今どんな気持ちだ!?
 自分が切るつもりだったゴールテープを目の前で切られたのどんなビモッ!?」

高笑いするタバスコの顔面に、紅いリレーバトンが思い切りクリーンヒットした。
振り被った姿勢の村崎醤(ムラサキショウ)に、2年D組のクラス担任は恐る恐る口を開く。

「な、なぁ村崎? ただ単にお前の担任というだけで、どうやこうや言う資格先生には無いんだけどな?
 ……友達は選んだ方が良いんじゃないか?」
「友達じゃありません。あれは只の知り合いの変質者です」
「変質者と知り合ってるのも、ちょっとまずいと思うぞ?」
「おっふ」

勘違いをすぐ否定したは良いものの、担任の指摘は的確であった。
タバスコは、その恰好だけでも目立つというのに、運動会のクライマックスを台無しにした事により、今となっては誰にとっても無視出来ない存在となってしまった。
その男が、自分の名前を大きく叫びながら、自分に思い切り絡んでくるのである。
今この瞬間、人生の引導をタバスコに渡してしまいたい醤であったが、まず自分の状況が非常にまずい。

何か打開策は無いかと考えに考え……醤は閃いた。

「先生!! アイツです!!」
「いや『アイツ』って……何がだ?」
「小学生のメダロット盗ったのも神社の扉から何から全部壊したのもアイツがやりました!!
 オレはそれを止めようとして、目を付けられただけなんです!!」
「そうだったのか!!」
「オイ今どさくさに紛れて罪押し付けt」
「見苦しいぜ犯罪者!!」

醤はタバスコを勢いよく指差し、反論の隙を許さず大きな声で言い放った。
事情を知っている甘太から白い目で見られている気がするが、気の所為にしておく。
不意に後ろから聞こえた砂を踏み締める音に、醤は恐る恐る振り向いた。

「……び、尾根……?」

声を掛けられても、翠は俯いたまま沈黙している。
醤は悟った。『翠は相当怒っている』。
普段穏和な彼だが、そんな人物程1度怒ると怖い事はよく存じている。

「ん~? よく見ればお前は、あの時神社にいたガキじゃないか。言いたい事があるなら言えば良い」
「……まさか、思ってないよな?」
「あ? 何だって?」

わざとらしく聞き耳を立てるタバスコに対し、敵意を露わにしながら翠は顔をゆっくりと上げた。

「大事な勝負駄目にしといて、簡単に帰れると思ってないよな? どう逃げようが、追いつく自信あるんだけどさ」

そう言うと、翠はスニーカーの爪先で軽く地面を叩く。

「コワークナイ!! タカガ高校生全然コワークナイ!!」
「強がんなって……尾根怒らせるとか、アンタどんだけ怒らせ上手なんだ。言っとくけどな、こないだの陸上の全国大会、アイツ準優勝しt」
「煩い!! このタイミングで華々しい戦歴を語るな!!」

怯えるタバスコに、醤は大きな溜め息をつくと、メダロッチを構えた。

「つまり、こういう事なんだろ? タバスコ」
「フフン。単細胞は安直な発想しか出来ないから困る」
「あ゙?」

鼻で笑われ、自分に対しては何故強気なのかと、醤は怒りの籠った声で聞き返した。
タバスコは、ゴーグルを掛け直すと、3つのメダロッチをつけた腕を翳す。

「確かに勝負はするさ……但し、“メダロードレース”でな!!」





『ハーイ! という訳で、実況は変わりましてワタクシ・Ms.マーガリンがお送り致しま~す♪』

放送席でメガホンを構えたMs.マーガリンは、言葉を続ける。

『まずは、メダロードレースのルール説明です! レースの走者はメダロット3体!
 1体につき、スタート地点から、アチラに見えます赤いフラッグで折り返し、またスタート地点まで戻ってきてください!
 1番走者、2番走者、3番走者の順に走って頂き、3番走者が先にゴールした方が勝利となります! ですよね先輩? 先パ~イ?』
「……やる気はあるのか?」

Mr.ジャムの怒気を含んだ低い声が、グランドに響く。
睨み付けられた生徒達は、突然現れた審判が何故自分達に対し怒っているのか分からずざわめくが、Mr.ジャムは腕を組んで言葉を繰り返す。

「君達はやる気があるのか、と聞いているんだ……!」
『ちょっとちょっと先輩どうしちゃったんですかー?
 生徒さんの中に、昔先輩を性犯罪者として訴えた方と似てる方でもいらっしゃったんですかー?』
「君の発言は完全に濡れ衣だが、」
「『完全に』は嘘だろ」
「僕が怒っているのは、そういう事じゃないんだよ!」

醤の突っ込みを意に介さず、Mr.ジャムは鬼気迫る顔でハッキリと言い放った。

「可愛い女子は今この場でブルマーに着替えろ!! 話はそれからだ!!」

Mr.ジャムはパトカーで連行され、Ms.マーガリンは黄色いハンカチを振りながら見送った。
この時、何故もう1人の犯罪者も連行されなかったのか醤は強く疑問に思ったが、そう都合良くいかないらしい。

「村崎!」
「尾根……悪ぃが、お前んトコのハリップも頼めるか?」
「謝んなって! 俺だって、許せないんだ」
「2人がそうするなら、おれもジーで参加するわ」
「悪いな、佐藤」

走者が集まり、醤は安堵から少し笑みを浮かべる。

一方、観客席では。

「ふむ、どうやらワシ等が走るようだな。どれ、行くとしようか。ハリ坊、ジー坊……ジー坊?」

一部始終を見ていたカグラは、立ち上がるとジーの姿が無い事に気付き、辺りを見回した。
しかし、周りにそれらしきメダロットはいない。

「はて、先程までいたのだが……?」
「カグラ! ジーはいる!?」

首を傾げるカグラの元へ、甘太の母の愛機・グルコが人込みを避けながらやってきた。
思わぬ来訪者に、カグラは柔和な笑顔を浮かべる。

「おお、グルコ嬢ではないか。息災で何よりなのだよ」
「挨拶は後後! ジーはいるの!?」
「さっきまで居たんだがなぁ……」
「もう! 逃げたのよアイツ! そうはいかないんだから!」

グルコは怒りながら目を閉じ、再び目を開いた。

「索敵!」

ジーの座標を特定するや否や、グルコは何も無い場所を思いっ切り鷲塚む。
すると、潰れた蛙ならぬカメレオンの声が客席に響いた。

「ぐえっ!? ね、姐さ、決まっちゃってますって……!」
「あんたは何でもかんでも逃げれば済むと思って! 男なら勝負から逃げるんじゃないの!」
「相変わらず仲が良いのだなぁ」

胸倉を掴まれたジーと、それに説教するグルコを見て、決して微笑ましくない場面に、カグラは呑気にそう言った。
そして、隣に座っているハリップに顔を向ける。

「お前が走ってくれるとなれば、ワシ等も心強い。ハリ坊、宜しく頼む」
「……違うよ」
「『違う』?」

さっきとはうって変わり、落ち込んだ様子で呟くハリップの言葉を、カグラは復唱する。
ハリップは、少し震えた声で言葉を続けた。

「オレっちじゃ……ダメなんだ」





『それではステージを発表しまーす♪ 今回のステージは、“砂地”です!』
「はあああ!? ざけんな! どう見ても“平地”だろーが!?」
『メダロット協会が、グランド面積に対する砂の割合を測定した所、“砂地”と判定されましたー♪』
「オレはグランド整備サボった連中を許さない! 絶対にだ!」

タバスコが転送したトンボ型メダロット・ドラゴンビートル3体を背に、醤は有りっ丈の声量で訴えるが、Ms.マーガリンにより虚しくも却下されてしまった。
その様子を見て、ジーが非難の声を上げる。

「砂地で二脚が飛行に敵うはずないじゃないっスか!! 勝てませんからね!! 勝てませんからね!?」
「うるせえええ!! 今すぐ1番走者から3番走者にしてやろうか!」
「文句言わず走ります!!」
「よし!!」

醤の脅迫に屈し、ジーは勢いよく敬礼した。
肩をがっくり落としたジーに苦笑した後、翠は走者を確認していく。

「えーっと……ジーが1番で、カグラが2番で、ハリップが3番か。ハリップ! お前なら大丈夫だから、自信持って行って来いよ」
「う、うん……」
『それでは、走者の皆さんはスタート地点についてくださーい!』

Ms.マーガリンの指示に従い、6体のメダロットはスタート地点につく。
ドラゴンビートルと、小声で『無理』を繰り返すジーは、いつ合図が出ても良いよう、走る構えを取った。
Ms.マーガリンが、スターターピストルを持つ腕を、空に向かって高々に上げる。

『合意とみてよろしいかなー!? それでは、メダロードレース開幕です! 位置について、用意――』

薬莢の爆ぜる音と共に、両者は一気に走り出した。

「おんわあああ!! おんわああああ!!」
『さあ始まりましたメダロードレース!! 勝利の女神はどちらのチームに微笑むのでしょうか!?
 現在、やはり地の利があってか、ドラゴンビートルが大きくリードしております!
 ジーは声を張り上げながら懸命に走りますが、距離が広がる一方です!』
「イラッと来る実況だなー」
「通常運転だ、落ち着け佐藤」

不満を呟く甘太の肩を、醤は軽く叩いて宥める。
少し離れた場所では、ハリップは俯いたまま回想していた。





記憶の中で、ハリップはひたすら堤防を歩いていた。

『またお前がビリッケツかよー!』
『ノロマだなー、ウサギなのに恥ずかしくねえのー?』
『じゃあなー、落ちこぼれウサギー』

先刻の他のラビウォンバット達による罵倒が心の中で木霊したが、ハリップは滲む世界を閉じて、頭を思い切り横に振った。
そのままずっと歩いていると、誰かが土手を走っている姿が不意に目に入る。

「ニンゲン?」

その人間の行動は奇怪で、走り終えた後必ず首を傾げては、逆走を繰り返す。
気になったハリップは、好奇心の赴くままに、土手へと降りて、走る背中に声を掛けた。

「ね、ねえっ! 何してんの!?」

ハリップの声に足を止め、振り向いた顔はまだまだ幼かった。
辺りを見回しても自分しかおらず、声を掛けられたのは自分であると自覚した少年は、用心深くゆっくりとハリップに歩み寄る。
深刻な顔で顔を近づけられ、ハリップは小さな声で問い掛けられた。

「……誰にも言わない?」
「う、うん」
「俺さ……」

少年は言い淀んだが、そのまま消え入りそうな声で続けた。

「走る練習、してたんだ。クラスのみんなと鬼ごっこしてると……いっつも鬼にされるから」
「え? 鬼ごっこ? ……あー」

深刻な話をされると思いきや“鬼ごっこ”という単語が出てきたため、ハリップは素っ頓狂な声で復唱した。
して、すぐに合点がいく。
鬼ごっことは、本来交代して鬼を担う。
しかし、逃げれば捕まり、追い掛ければ捕まらずと、足が遅い者にとっては残酷な遊びなのである。

ハリップは、自分の仲間が見つかったと喜んだが、それは瞬時に打ち砕かれる。

――この子は、“速く走る事”を諦めきれないんだ。

何かと理由をつけて練習する訳でもなく、ただ悲観していた自分が酷く情けなく、ハリップは己を恥じて落ち込んだ。

――せめて、この子だけでも。

ハリップは覚悟を決め、口を開く。

「オレっちが、計るよ」
「え?」
「オレっちが、君のタイムを計るから……っ一緒に練習しようよ!」

速く走れぬならば、せめて彼が速く走れるよう応援したい。1人ももう嫌だ。
ハリップは拒否の言葉を恐れたが、決して少年から目を逸らさなかった。
驚いているのか瞬きを2回した少年は、満面の笑みで大きく頷いたのであった。

「ありがとう!!」

少年の返答が嬉しく、ハリップは少年の両肩を掴んで力説する。

「オレっちがついてるから、キミは絶対!! 絶対誰よりも速くなるから!! 一緒に頑張ろう!!」
「……! うん!」

少年と共通の“目標”を見つけたハリップは、いてもたってもいられず、土手の向こうへと駆け出す。

「そうと決まったら早速練習だよ! 時間はすぐ過ぎちゃうんだから!」
「えっ!? ま、待ってよ!」

ハリップはこの頃から、目標に向かって文字通り疾走する少年に、憧れを抱いていた。
少年が陸上の全国大会で上位3位の常連になった今は、一層強い憧れと信頼を寄せていたのであった。





翠が速く走れるようになると、自分も速く走れるような錯覚を覚えた。
しかし、所詮は錯覚。
自分自身が早くなった訳ではないと、ハリップは自覚していた。

「オレっちはどうして、スイじゃないんだろう……?」

分かっている。
自分はただ、タイムを計っていただけであると。

「先程から、随分浮かぬ顔をしておるな?」
「! カッ、カグラ!!」

隣のカグラから声を掛けられ、ハリップは驚き、声も体も飛び上がった。
ハリップを瞬きして見た後、あまり反省の色が見えない声色で、カグラは言葉を続ける。

「すまぬ、それ程驚くとは思わなんだ。しかし、そう案じる必要は無いのだよ」
「なっ……!」
「何せ、」

自分の気持ちも知らず呑気に言ってのけるカグラに、ハリップは少し苛立ちを覚える。
しかし、カグラの視線の先へハリップも目を向けると、言葉を失って目を見開いた。

「スイがあんなに自信満々に笑っておるのだ、何か“勝算”があるのであろうなぁ」

そう言うや否や、カグラは立ち上がり、此方へ向かって走って来るジーを見据え、タッチすべく右手を掲げる。

「さて……それでは、行ってくるのだよ」
『さあ! 先程ドラゴンビートルが2番走者に変わりまして、此方のチームも2番走者の出番です!』

Ms.マーガリンが言うなり、カグラはジーとバトンタッチし、駈け出して行った。
スタート地点を過ぎたジーは、数歩よろけながら歩いた後、その場に音を立てて倒れ込む。
甘太は、マイペースに駆け寄った後、ジーの近くにしゃがんだ。

「ジー、お疲れさん」
「……カッ……ガン゙ぢゃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」
「おーよしよし、飛行相手に頑張ったな」

号泣しながら自分に抱きつくジーの背中を、甘太は優しく叩いた。
少し離れた場所からは、醤が声援を送る。

「いけええカグラアアアアア!! たかがトンボだぞおお!! カブトムシの根性見せてやれえええええ!!」
「村崎……何かがちょっとずれてないか?」

冷静に突っ込む翠を尻目に、ハリップは再び俯いた。

――どうしよう……。スイの期待に応えたい、負けたくないけどオレっちは……!

『カグラは徐々にドラゴンビートルとの距離を縮めていくが、果たして追い抜く事は叶うのかー!?』
「え!?」

Ms.マーガリンの実況にハリップが顔を上げると、2体がフラッグで折り返し、此方へ向かって走っている。
しかし、カグラは差を縮めはするものの、後1歩が及ばない。
追い抜く事は無いまま、カグラの手はハリップへ伸ばされた。

「ハリ坊、頼んだぞ……!」
「……ッ!」

カグラにバトンタッチされ、3番目のドラゴンビートルに1歩出遅れて、ハリップは走り出した。
Ms.マーガリンは、声高々に実況を続ける。

『今! そう、たった今! どちらのチームも第3走者にバトンが委ねられましたー!!
 このままドラゴンビートルが勝つのか!? それともハリップが巻き返すのかー!?』

ハリップは、真っ直ぐ前を向いてひたすら走るが、ドラゴンビートルの1歩先へと足を出す事が出来ずにいる。
その歯痒さから、足は止めずに、力強く目を閉じた。

――駄目だ、やっぱり勝てっこないよ……! ごめんみんな、ごめん……!

「なぁ尾根、ハリップ何か様子変じゃねえ? レースの前くらいから」
「あ? そうなのか?」

片手でジーをあやしながら、甘太は顔だけを翠の方へ向けた。
ハリップの差異に気付かない醤は、団扇でカグラを扇ぎながら素っ頓狂な声で聞く。
翠はハリップを見て顎に手を当て、少し考えた後に立ち上がる。

「尾根、どうした?」

醤の問い掛けに答える事は無く、翠はハリップの後ろ姿を見つめた。
まるで、重い荷物を背負っているかのように、ハリップは徐々に減速し、頭も垂れていく。

――ごめんスイ、オレっちもスイみたいに走れたら……!

「ハリップううううう!! 前向いて走ったままよく聞けよおおお!!」
「うおっ!? ビックリした」

突然声を張り上げた翠に、近くにいた醤は小さく肩を上下させた。
翠は、ハリップの背中に向かって声をぶつけ続ける。

「お前!! 俺の事いつも速い速いって言うけどな!! タイム計りながらぴったり俺の後ついて走って来るヤツ誰だよ!?
 『一緒に頑張ろう』ってお前が言ったんだろ!? 俺だけが速いとか、寂しくなる事考えてるんじゃないだろうな!?」
「……スイ」
「くよくよしてる場合じゃないだろ!! 早く本気出せよ!!」

そこまで叫ぶと、翠は一層大きく息を吸い込んだ。

「お前は絶対!! 誰よりも速く走れるんだからなあああああ!!」

言い切ると、翠は息を荒げ、両膝に手をついて自らの体を支えた。
ハリップは顔を上げ、目には強い光が宿る。
一部始終を見ていたタバスコは、バトンタッチしたと言わんばかりに声を張り上げた。

「何のスポ根漫画だコレはアアアア!? そんな洗脳じみた台詞で二脚が飛行に敵う訳えええええ!?」

フラッグを先に折り返したのは、ハリップであった。
ハリップは歩幅を広げ、徐々に加速していき、完全にドラゴンビートルが出遅れている。

『おおーっと!! やはり勝負はこうでなくては面白くありません! ハリップが徐々にドラゴンビートルを引き離していくウウウウ!
 逆転劇なるかー!?』
「バッ、馬鹿な……!? こんな馬鹿な話が……!」
「突っ切れハリイイイイイップ!!」
「っおおおおおおおお!!」

雄叫びを上げながら駆けるハリップの体がゴール地点を抜けた瞬間、力強いホイッスルの音が鳴り響いた。
Ms.マーガリンがハリップの腕を掴んで持ち上げ、勝利を声高々に讃える。

『勝者!! ショウチームぅ!!』
「わっ!?」

観客席から歓声と共に、拍手が湧き上がる。
ハリップは、嬉しさやら照れやら様々な感情が入り混じり、観客席をぐるりと見回した後、顔を僅かに染めて俯いた。

「ハリップ!」

Ms.マーガリンから腕を解放されたハリップは、駆け寄りながら自分を呼ぶ声に顔を上げる。

「スイ!」
「ありがとな、お疲れさん! やっぱ速いよお前は!」
「……ッ」

くしゃくしゃに笑い、自分に右手を差し出す翠に、口を噤んだハリップは両手でその手を握った。

「モチロンだよ! 何たってオレっちは、スイのメダロットだからね!」

そう言って、翠に負けないくらいの屈託無い笑顔で言ってのけたのであった。

「そーいや、タバスコって……いねぇ!! 負けて早々逃げやがったなアイツ! これじゃパーツが…!」
『えー? 戦利品のパーツなんて無いよー?』
「は?」

姿を消したタバスコに醤が憤慨していると、Ms.マーガリンが不思議そうに首を傾げる。
素っ頓狂な声を上げた醤に、Ms.マーガリンは言葉を続ける。

『だって、メダロードレースだよ? ロボトルじゃないんだから』

単純且つ納得のいく……が、あまり納得したくない返答に、醤は恐る恐る小さく挙手をする。

「待てよ……じゃあ、アイツがわざわざウチに乗り込んできたのって……?」

泣き疲れて寝ているジーを背負い、甘太はさらりと返答した。

「お前とカグラへの嫌がらせじゃね?」

その1言で怒りが怒髪天に達し、醤はグランドの中心で吠えたのだった。

「ちっくしょオオオオオ!! 余計な恥かいただけじゃねーか! 次会ったらボコボコにしてやっから覚えとけ真っ白変態野郎オオオオオ!!」
「落ち着けよ、次会ったら俺が捕まえてちゃんと言っとくから」
「サンキュー尾根! 有難いけど今日はつくづくお前が怖い!」
「いや、お前の言ってる事も充分こえーよ」





「あーあ、結局負けかー」

メダロードレース後。
結局、タバスコの介入によりリレーは無かったものとされ、それまでの競技の総合点により、運動会は紅組の勝利となった。
その点差はリレーの勝敗により変わる可能性がある程の微差であり、紅組・白組関係無く生徒から非難轟々であった。
しかし、無理矢理その勝敗を学校から押し付けられ、何とも後味の悪い運動会となってしまった。
己がもっと早くゴールしていれば違ったのではないか、と、翠は後片付けが全て終わったグランドで1人考える。

「……楽しみにしてたんだけどなあ」

運動会という名の晴れ舞台で。
普段であれば、自分と競う事は無い、しかし足が速い事は確かな友人と。

「尾根!」

不意にその友人の声が聞こえ、翠は夕焼け空からそちらへと視線を移した。

「村崎、お前もまだ残ってたのか」
「ああ、お前に用あって随分探したぜ」
「そいつは悪い、……?」

歩み寄ってきた醤は自分の近くで立ち止まるかと思いきや、素通りしてもっと先へと歩いていく。
翠が怪訝そうに見ていると、ようやく醤は足を止めた。

「ほら、構えろよ」
「え?」

これから喧嘩でも始めるのかと一瞬体を強張らせた翠であったが、醤の立っている場所の意味に気付き、僅かに目を見開く。
醤はバツが悪そうに目を逸らし、地面に言葉を吐き捨てた。

「いつまでもそこで突っ立ってっと、マジで帰るぞオレ」
「……本当に、何のスポ根漫画だよ」
「お前の事、明日から『タバスコ2号』って呼ぶからな」
「ははっ、俺が負けたらにしてくれ」

苦笑しながら醤と同じポイントに立ち、いつものように構え、グランドの向こうを見据えた。
隣で、醤が低く笑う。

「へへっ、ギャラリーがいなけりゃ負けようがどうなろうが恥ずかしくねぇ」
「おいおい、真面目に走ってくれよ?」

心配そうに翠が隣りを見ると、醤の目にもグランドの先が映っていた。

「わざわざ負けるために来る程、オレは暇でも酔狂でもねぇ」

醤の返答に安堵した翠は、前方に視線を戻し、目を細める。

「位置について!」
「用意!」

スタート地点を、2人の足が同時に蹴った。



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
マ「次回の『六角形の神サマ』はー……フェスティバル! お祭りですよお! ここで、お祭りにちなんだ心理テストです!
  Q.貴方のお祭りの過ごし方は? (1)射的、くじ引き等遊びメイン! (2)焼きそば、綿飴等食べ物メイン!」
醤「えーっと……(2)?」
マ「A.(2)を選んだ貴方は、精神年齢が大人もしくは究極のいやしんぼです!」
醤「ちょっと待てコレ心理テストか!?」
カ「次回『六角形の神サマ』第拾陸話、『絶対不敗熱血漢(前篇)』。
  のうマリア、因みに『自分の神社にやって来た者達の息災を願う』という場合は如何なる答えなのだ?」
マ「A.人外です!」

六角形の神サマ 第拾陸話/絶対不敗熱血漢(前篇) ( No.16 )
   
日時: 2018/01/14 18:29
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾陸話/絶対不敗熱血漢(前篇)





「今日から隣の鎖界(サカイ)町で神社祭が始まるが、羽目を外し過ぎないように! それと門限守れよ!」

朝。御守高校・2年D組のHRにて。
クラス担任が念を押すように言う最中、教室の後ろ側の席で村崎醤(ムラサキショウ)は友人にひそひそと話し掛けていた。

「来たぜ。この娯楽が少な過ぎるド田舎で、年に1度の祭りが……!」
「そーいや、そんな時期か~。しっかしお前、お祭り好きな~?」
「日本人だからな!」

佐藤甘太(サトウカンタ)が前を向いたままそう告げると、あくまでも声のボリュームは上げずに、醤は根拠も無く返答した。
そして、言葉を続ける。

「っつー訳で、今夜祭りどーよ?」
「店番ねーなら、おれは良いかなー。尾根は? 今年もみっちゃんと?」
「……ああ、約束しててさ。悪いな」

そう密やかな声で返したのは、甘太の後ろの席に座る、尾根翠(ビネスイ)だった。
聞くや否や、醤は荒んだ笑顔を浮かべる。

「毎年恒例のおまつリア充デートか~。はははははは、射的の的にしてやろうか」
「俺撃った所で得られるモノは何!?」
「ピンポーン♪ 満足感と虚無感?」
「プラマイゼロだろ!?」

クイズ番組宜しく返答する甘太に、翠は突っ込みを入れるが、非リア充達による猛攻は収まらない。

「オレ知ってるぜ!
 どうせ、祭りではしゃぐみっちゃんの浴衣が崩れた後、『このまま、もっと崩れちゃう事しようか……?』なんつって不純異性交遊する気なんだろ!
 エロ同人みたいに!」
「やだ~、尾根君のムッツリスケベ」
「今、HR中だって忘れてないよな!? あーもう……」

唯一賞賛すべきは、ここまでの会話が全て小声で行われた事である。
醤達の発言に頭痛を覚え、頭を押さえた翠であったが、次の担任の言葉でぴたりと止む事になる。

「それと、今朝連絡が来たんだが、蜂屋がインフルエンザでしばらく欠席するそうだ。流行ってきてるし、皆も気を付けるように」

次の瞬間、醤と甘太は物理的な息苦しさを感じた。

「……お前等か……?」
「いやいや待て待て待て!? 落ち着こう!? 冷静になろう!?
 一介の高校生が、自分がかかった訳でもねぇのに、ヒトにインフルなんざうつせるか!?」

恐ろしい程真顔で、恐ろしい程低い声の翠に胸倉を掴まれ、醤は必死に説得を試みた。
同じく胸倉を掴まれた甘太はというと、今まで見た事も無い翠の顔で完全に硬直している。

「村崎に佐藤に尾根! 今からお祭り気分で羽目を外すんじゃない!」
「今もっと優先すべき事が他にあると思います!」

何処かずれた担任に指摘すると、HR終了のチャイムが鳴り響いたのであった。





「ほお、隣町の神社で祭りとな?」
「ああ。カグラも来るだろ?」

1日の授業を終え、帰宅した醤は、着替えながらカグラに尋ねる。
しかし、カグラは答えずに、読みかけの本を閉じ、問い返した。

「……ショウ、知っておるか?」
「何を?」
「ショウの生まれる前だったやもしれぬが、この町には“御守神社祭”という催し物があってな。
 祭日になると、普段は物静かな神社も、老若男女問わず町の人間でごった返し、賑わったものなのだよ」
「そーかそーか、出掛けるぞ」
「待て!」

長話になると察知した醤は、適当に相槌を打ちながら着替え終えると、財布をジーンズに突っ込んで戸に手を掛けた。
出るのは叶わず、カグラに呼び止められて振り返る。

「何だよ!?」
「何故この町の人間は、わざわざ隣町の祭事に出向くのだ!?」
「仕方ねぇだろ、祭りどころか開催する神社すら無ぇんだから!」
「無かったら作れば良いではないか!」
「お前はどこぞのアントワネットか!?」

普段のように穏やかに構えるでもなく、時折見せる激昂でもなく、まるで駄々を捏ねる子どものように、醤の目には映る。
その駄々を捏ねる子ども……ではなく翁は、醤の突っ込み等気にする事無く言葉を続けた。

「嗚呼、斯様な悲劇が何処にあろうか!? 信仰は薄れ、住処は追われ、年に1度の楽しみまでもが奪われるとは!」
「アンタ、今まで信仰何ちゃらはブーブー言ってなかったじゃねえか!? さては相当のお祭り好きだな!?」
「ワシを単なる祭事好きと称すでない! ワシが好きなのは、御守神社祭なのだよ!」
「凄えな流石フェスティバル! 始まるだけで、普段大人しい奴が途端に面倒臭くなる!」

醤の言葉は半分自業自得であるのだが、カグラは知る由もなかった。
頭を抱えたり、醤を指差したりと忙しない、カグラの言葉はまだ終わらない。

「大体、如何様な顔をして、隣町の祭事に馳せ参じれば良いのだ!? 自分の神社を失くし、仕方無しにのこのこ別の神社に等……!
 無様で顔から火がd」

チャリン、という音と共に、床の上にメダルが転がった。
醤はメダロッチから指を放すと、メダルを拾い上げ、メダロッチにはめ込む。

「……さ、出掛けるぞ」
『ショウ! 出さぬか! ワシの顔から火が出ても良いのか!?』
「お前が出せんのミサイルぐらいだろ」





鎖界神社。
その場所は、御守神社のように丘の上ではなく、平地に聳えている。

「あ、来た来た。おーい、村崎ー」

白い鳥居の下で立ち上がり、大きく手を振った甘太に対し、醤は小さく手を上げた。
もう片方の手は、先程転送したカグラの手首をしっかりと掴み、半ば引き摺るように連れている。

「悪い、オレ達が最後か」
「ショウもカグラも遅いよ! お祭りなんてすぐ終わっちゃうんだから! 早く行こ!」
「大丈夫だってハリップ、まだ3時間もあるんだから」
「えー!? 後、3時間しかないの!?」

ハリップの非難の声を聞き、後ろに座っていた翠は苦笑した。
いつも通りの翠の様子に醤は安堵し、翠にも声を掛ける。

「よぉ尾根。今朝は……悪かったな」
「やー、俺もごめんな。馬鹿だよなぁ、いくらお前らでもそこまでする訳無いのに!」

――『いくらお前等でも』って、オレと佐藤は一体どー思われてんだ……?

そんな疑問を口に出せる立場では無い事が分かっていたため、醤は堪えて口を閉ざす。
翠は、醤の様子に気付く事無く、話し続ける。

「なのに悪いな、ジャンボ唐揚げ奢ってくれるなんて」
「あ? 唐揚g」

言いかけた途端、自分の肩を強く掴んだ手に、醤は言葉を止めてそちらを見やる。
案の定、それは佐藤であり、『頼むからそれ以上言わないでくれ』と、目で訴えられた。
しかし、何も言わないとまずいと思ったのか、甘太はそのまま口を開く。

「おれ達の割り勘だったよな~? 村崎」
「……トテモソウダッタ気ガシテキマシタ」

この守銭奴の財布が開くとは、コイツどんだけ怖かったんだ、と思いながらも、ただ何度も頷く事しか出来ない醤であった。





「スイ!! 次、アレ! アレ! ヨーヨー釣りたい!」
「はいよー」
「ホラ! カグラも早く!」
「あっ、ああ……」

翠は苦笑し、ハリップに袖を引かれるままについて行く。
腕を引かれ、戸惑いながらも連れて行かれるカグラを見て、甘太はあくまでも小声で呟いた。

「うわ、ヨーヨー釣りたっか。アレで300円とか……良いな、おれもやるか」
「ほはえはもっほ、あふいのういんひほのほのほはほひめほ!(お前はもっと、祭りの雰囲気そのものを楽しめよ!)」
「村崎ー、日本語喋って」

あくまで商人として出店を見てた甘太は、焼きそばを口いっぱいに頬張り、腕の中に焼き鳥のカップを抱える醤に指摘した。
一部始終を見ていたジーも、甘太の傍らで口を開く。

「ショウさんの言う通り、お祭りってほぼ雰囲気ですよねー。
 だって、食いモンは高いし、ヨーヨーやサイリウムはその内機能しなくなるし、クジで当たったモンはこの先要るかわかんねぇようなモンばっかだし。
 全部、残るのは思い出とゴミと皮下脂肪じゃないっスか」
「お、お前結構シビアだな……?」
「おれ嬉しいわ、ジーが立派な商人に育ってくれて。ただのエロ本立ち読み野郎かと思った」
「カンちゃんさぁん!?」
「お前は大概酷いな!? 知ってた!」

焼きそばを飲み込んだ醤は、ジーとカンタの発言に驚愕し、声を上げる。
そうこうしている内に、翠と、ヨーヨーを楽しそうに跳ねさせるハリップが戻ってきた。

「何の話してたんだ?」
「……こ、今回のコンセプト台無しにするような話」
「わかった、これ以上聞くのやめとくよ」
「あ! オレ、フライドポテト買ってくるわ!」

何としてでも話題を変えたかった醤は、目に入った出店に感謝し、財布を出しながら店員に声を掛ける。

「すいませー……」
「はいよ、ポテトのXLサイズ! コーンポタージュ味! 嬢ちゃん可愛いから、オマケしといたよ!」
「あ、ありがとうございま……」

絶句。
注文しようとした男と、バケツの様なカップいっぱいのフライドポテトを受け取ろうとした女が、合わせた目を見開き、硬直した。
ガタイの良い店員は、2人の雰囲気を見て、察しましたと言わんばかりに口を開く。

「いよぅ、彼氏! お迎えご苦労様!」
「「冗談じゃないこんなスプラッター(不憫)と!!」」
「なっ、仲良いじゃねーか!?」

店員の言葉も聞かずに出店から離れた、醤と、ポテトのカップを抱えた波花梓音(ナミハナシオン)は、鋭く睨み合う。

「……まだ、焼き鳥あるじゃん。どんだけ食うの? デブれば」
「デブんのはどっちだ、ヒッキー女。普段動かねークセに、ポテトもりもり食いやがって」
「まだ食べてない。あっても意味無い目なら、潰してやろうか?」
「いや~、良く見えてるぜ? 尋常じゃない量のポテトだこって。まさか、その量1人で食う訳じゃねーよなあ?
 誰と食うんだ、波花サンよお?」
「………………マリァ」
「隙間にでも埋め込むつもりか?」

目を逸らし、小さく出した答えに、醤はすかさず疑問をぶつけた。
羞恥心からか、目元を赤く染めた梓音は、再び醤を睨んで聞き返す。

「っそういう自分はどうなワケn」
「おーい、村崎ー?」
「ショウ何やってんのー!? 時間掛かり過ぎ!」
「そんなに珍しい味あるのか?」
「買い過ぎには注意ですぜー」
「!?」

醤の後ろからひょっこり顔を出した、甘太、ハリップ、翠、ジーを見て、梓音はまたもや絶句し、その場に崩れ落ち、地面に両手をついた。

「…………殺しなさいよ」

――か、勝った……!

「何で村崎は嬉しそうなんだ?」

震え声で吐き捨てた梓音とは対照的に、醤はガッツポーズし、空を仰ぎ見る。
そんな醤を疑問に思い、言葉を漏らした翠は、すぐそばで地に伏している梓音に目を向けた。

「あれ、もしかして波花さん?」
「え……」
「あー、やっぱり波花さんだ。浴衣だったからちょっと自信無かったんだけど、似合ってるね」
「っ……どうも……」

翠に唐突に話し掛けられた梓音は、気恥ずかしさからか、顔を僅かに赤らめ、浴衣に付いた土を払いながら立ち上がった。
翠の言葉を聞き、醤は少し面白くない顔で梓音の浴衣姿を見る。

――おいおいオレと態度違い過ぎだろーが!? ええ、そうでしょうねぇ、尾根は360度どっから見てもイケメンですもんねぇ!?
  オレには、ドライバーモンスターを褒める技術なんて持ち合わせてねーかんな! 褒められたモンじゃねぇ、だろー、けど……?

白地に、重なる波紋。揺れる金魚。
まるで溶けてしまいそうな淡い色合いを、黒い帯がきりりと締めた。
普段下ろしている髪は項で結い、傍らには曼珠沙華が咲いている。
出店の提灯に照らされ、オレンジ色はエメラルドグリーンに良く映えた。
醤は、言葉が見つからず、別の意味で褒める事が出来なくなった。

開いた口が塞がらない醤に、甘太はそっと耳打ちした。

「なー。お前、いつの間に波花と仲良くなったん? 泡瀬美園一筋じゃなかった?」
「ちっげーよ馬鹿! こないだ、ちょっと……あー説明面倒くせえ!」
「純愛(笑」
「ちげーっつってんだろ!」
「……ヒトの前でコソコソ話はやめてくれない? 感じ悪い」

腕を組んだ梓音に言われ、ほぼ反射的に、醤は食って掛かった。

「テメエが如何に危険な女か佐藤に教えてやってたんだよ!!」
「え、違くね?」
「佐藤ォォォウ!?」
「あら、ショウさん! こんばんは!」

突然の裏切りで甘太の方へと顔を向けるや否や、声を掛けられた醤は振り向いた。
首にカメラをぶら下げたマリアが、嬉しそうに手を振って駆け寄る。

「おー、マリア」
「? 見た事ねーメダロット」
「……あっ! 運動会でメダロードレースした方々ですよね!? 初めまして!
 しぃちゃ……波花梓音ちゃんのメダロットの、マリアと申します! この機体は、NASβ型・クリムゾンナース!
 梓音ちゃんが作ったんですよぉ♪」

初見で首を傾げる甘太の前で、マリアは自慢げに言うと、その場でくるりと回って見せた。
話を聞いていたハリップが、輝かせた目を梓音に向ける

「えっ!? スゴイ! メダロット作れるの!?」
「えっ、と……まあ、ちょっと……?」
「わー!!」

ハリップは、“自分達の体を作る事が出来る人間”に初めて出会った喜びからか、梓音の手を両手で掴み、そのまま上下に振る。
その様子を、醤はまじまじと見ていたが、不意に、どうして良いか分からなくなった梓音に困った表情を向けられ、正直……僅かに、本当に僅かに、定規で計れば1センチメートルくらい何かを動かされた。
しかし、ついいつもの癖で、挑発するようにニヤけてしまい、梓音からは口パクで『禿げろ』と言われ、舌打ちで返して終わる……と、思いきや。

「スゴイスゴイ! こんなに小っちゃいのに!」
「あ?」
「おおーっとぉう!?」

突如、発せられた低い声に、醤は反射的にハリップの手を振り解かせ、梓音とハリップの間に割って入った。
地雷を踏み抜いた事を自覚していないハリップが、醤の背中に向かって声を投げ掛ける。

「何ナニ!? ショウいきなりどうしたの!? あっ、ヤキモチ!?」
「『あっ』じゃねーよ!! いいから早く離れとけ!!」
「どけ村崎。お前から分解されたいの?」
「初対面のクラスメートのメダロットは流石に我慢しろ!」
「ごめん波花さん! 駄目だろハリップ、人が嫌になるような事言ったら!」
「えー!? それって『小っちゃい』の方!? 『ヤキモチ』の方!?」
「もう喋んなオレが死ぬううううう!!」

目が据わり、いつの間にやらドライバーを握る梓音を前に、醤は声を張り上げる。
翠が、懸命にハリップに言い聞かせようとしているが……火にガソリンを注がれて終わる事を、何となく醤は察した。
一部始終を見ていたマリアが、頬を膨らませて口を開く。

「もーっ!! しぃちゃんに酷いコト言わないでください! あんまりです! いくら、しぃちゃんのバストがゼロだからって!!」
「誰 が い つ 胸の話をしたあああああああ!!」

思わぬ方向から火に爆弾を投げ入れられ、醤が吼えたその時であった。

「……おや、ショウであったか」

切迫した状況下で、呑気な声を聞き、活路を見つけた醤は、縋る気持ちで顔を向ける。

「! ジジ、…………イ」
「しかし、息災で何よりなのだよ。不本意ながら、出店を見て回っていた時に“知らせ”が来ていだだだだだ」
「っほー……? こんな完全フル装備が『不本意』だあああ?」

“ひょっとこ”の面を右上につけ、メダロット用のハッピを着込み、右手にはヨーヨーを下げ、左腕には西瓜柄のビーチボールを抱えたカグラの頭を、醤は両サイドから圧縮するかの如く手に力を込めた。

「てんめえ……散々『悲劇』だの『無様』だの騒いでおいて、よりによってヒトが大変な時に思い切りエンジョイしやがってええ……!」
「自業自得アタック!!」
「凄く頭が痛い!?」

後ろからドライバーの柄で殴られ、醤は頭を抱えてしゃがみ込んだ。
梓音は心配そうに、カグラの顔を覗き込む。

「おじいちゃん! 大丈夫!?」
「いたた……大事無いぞ、シオン……と? 今日は、浴衣なのだな」
「っうん……その、どうかな……?」
「ああ、とても似合っておるぞ」
「ぁ、ありがと……浴衣、着て来て良かった」

今までの不機嫌な表情とうって変わり、ふにゃりと笑う梓音に、醤はブチ切れ、有りっ丈の声を上げる。

「おいクォラ百面相オ!!」
「……まだ生きてたの? おじいちゃんを虐待するなんて、生きる価値無いのに」
「なぁ~にが『浴衣、着て来て良かった(裏声』だ!! ハナからジジイに見て貰うために着て来たんじゃねーか!」
「なっ、バ、バカじゃないの!? そんっ、おじいちゃんが来る、なんて、ワタシ……!」
「そうですよ! しぃちゃんは知らなかったんです! その証拠に、『おじいちゃん、来るかなぁ……?』って言いながら着替えt」

醤に指摘され、図星のためか、梓音は珍しく慌てふためく。
マリアのフォローになってないフォローに、梓音はメダロッチを押し、マーメイドメダルは強制排出された。
即座に、鬼の首を取ったかの如く、醤は勢いよく梓音を指差す。

「そら見ろ確信犯じゃねーk」
「そうか~。そうであるなら、ワシは果報者だなぁ」

空気の中に漂う怒りや恥を、カグラののんびりとした声が洗い流す。
醤は、ほぼ自分と同じタイミングでカグラに向けた顔を見ると、予想通り、口元は手で隠れ、細める目は蕩けきっていた。

「ほんっと好き……!」
「おお! ワシもシオンが好きだぞ」
「だァから態度の違いいいいいいい!!」

浴衣が汚れる事も構わず、梓音は地に膝をつき、梓音は覆い被さるようにカグラを抱き締めた。
カグラは梓音の頭を優しく撫でていだが、醤の言葉を聞き、僅かに眉間に皺を寄せ、苦言を漏らす。

「ショウよ。可愛いなら『可愛い』と、言わねば伝わらぬぞ?」
「え? 村崎が? きっしょ」
「1ミリたりとも思ってねーよ花火と一緒に打ち上げられて散れバカ共オオオオオ!!」

真っ赤な顔で息継ぎもせず、醤が言い切ったその時であった。
出店の向こうから、祭囃子に混じってワッ、と歓声が上がったのを、一同は耳にする。

「何だー? マジで花火でも始まった?」
「いや、花火は上がってないな……出し物なんてやってたっけ?」
「ああー、もしかしてロボトルかもしれやせんぜ」

思い出したかのようにジーがチラシを広げ、醤達に見せた。
醤は受け取り、でかでかと書かれた文字を見ると、顔を顰めて読み上げる。

「『最強メダロット決定戦』ん?」
「名前は大袈裟だけど、要はロボトル大会か」
「ねー! 早く行こうよロボトル!」

今か今かと駆け出さんばかりに、ハリップは足を動かす。
急かされた醤は、顰めっ面のままハリップに返答した。

「まだ出るとも見るとも決めてねーだろ」
「えー!? だって、もうカグラ行っちゃったよ!?」
「早ぇよおおおおお!?」

何も言わずに消えたカグラを、只ならぬ速さで追い掛けながら、『あ、コレいつもと逆だわ』と、醤は何処か冷静な頭で思ったのであった。





ようやく人だかりに到達した醤は、辺りを見回すと、お目当ての人物……もといメダロットは、背伸びしながら人だかりの中心を見ている。
その丸い目は、醤の存在に気付き、ついっと動いた。

「……おお、来たか」
「『来たか』じゃねーよ!! せめて何か1言言ってけジジイ!!」
「すまぬな、居ても立ってもいられなかったのだよ!」
「目ぇキラッキラだなオイ!!」

今日という1日で、カグラがどれだけお祭り好きなのか、醤に強く刻み込まれた。
普段は傍観者である事が多いこの老人が、子どもにしか見えない。
花見然り、運動会然り。
きっと、大勢でワイワイ騒ぐのが心底好きなのだ。
少し前までの孤独の反動だろうか、と、もしかしたら醤は思ったかもしれない。
……“疲れてなければ”、が大前提であるが。
もう良い。もう良かった。十二分に分かりましたとも。
ストッパーであるはずのカグラに振り回された醤は、家を出る前の自分は認識が甘かったと、そっと溜め息をついた。

「おーおー、白熱してんなぁ」
「波花さんは? 出てみない?」
「良い。……暫く、マリアを黙らせときたい」
「そ、そうなんだ……?」

視線を正面のロボトルに向けたまま言い放った梓音に、翠はそれ以上何も聞けなかった。
アイツら結構喋るなあ、と醤が横目で見ると、次の瞬間、轟音と共に宙に舞ったメダロットに、醤の目は奪われる。
一際大きな歓声の中、聞き慣れた声を耳にした。

『勝者!! ソウスケ選手ゥ!!』
「あ、マーガリン」
『おー、少年! 元気ぃー?』

今しがた、ジャッジを下したレフェリー・Ms.マーガリンは、醤に気付くと、小さく手を上げる。
謎のフランク感を疑問に思ったが、それは置いとき、醤は言葉を続けた。

「そーいや、いつも一緒にいるのは? もう捕まったのか?」
『アレー? 珍しくちゃんと仕事してたよー? ホラ……』

Ms.マーガリンが指差す方向へ目を向けると、其処には確かにMr.ジャムの姿があった。
……歓声とは程遠い、悲鳴付きで。

「キャアアアアアア!? 追って来ないでください!!」
「ホラ!! 着物肌蹴ちゃったんだろう!? ボク直すの超上手いから!! 実家、着付け師だから!!
 なぁ~んにも心配は要らないよレディ!? ボクに全てを委ねてえええええ!!」
「……」
『先輩は目を離すとコレなんだからー』

Ms.マーガリンは、慣れた手付きで“110”と押すと、間もなくセレクト隊員2人に両脇を固められ、Mr.ジャムは連行されていった。
通報を終えると、言葉を失っている醤に、少し頬を染めながら言う。

『ホラ、先輩って“通報されるのが仕事”みたいなトコあるでしょ?』
「それどこにも照れるポイント無くね!?」

「何だア!? 最っ高の夜に、随分懐かしい奴がいるじゃアねえか!!」

突如、空間をビリビリと震わせた声に、醤は思わず振り返った。
見た先には、肩にブレザーを掛けて腕を組み、仁王立ちしている男が1人。
何処か見覚えがある顔に、醤は記憶を辿るが、答えを出す前に、男は力強く笑った。

「よお!! ショーガク以来じゃねエか村崎イ!!」
「おっ、まえ……古戸?」

醤の口から出た名前に、甘太と翠は顔を見合わせ、首を傾げた。
事態が呑み込めていない醤に対し、小さく笑い、古戸宗輔(フルドソウスケ)は口を開く。

「思い出話もしてえトコだが、オメエに聞きてエのはたったひとぉつ!! “俺はメダロッターになった”ぜ!!」

思い出した記憶の量が増えるにつれ、醤は目を見開く。

「“オメエは今メダロッターか”!? 村崎醤オ!!」



メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
宗「しっかし懐かしいなア村崎イ!! オメエとは、メダロットから、目玉焼きに何かけっかまで、くっだらねエ事で喧嘩したモンよお!!
  いつから眼鏡掛けてんだア? オメエのこった、勉強じゃあねえなア? “週間メダロット”噛り付いて見過ぎたんだろ!!
  はーっはっはア!!」
醤「うるせぇ!! 余計なお世話だ!」
翠「あれ、小学校一緒って事は、『村崎失踪事件』の事も知ってるんじゃ……?」
宗「懐かしいなオイ!! あれ以来、門限破りの村崎が時間キッカリに……」
醤「だあああああ!! 次回! 『六角形の神サマ』第拾柒話! 『絶対不敗熱血漢(後篇)』!」
甘「ちなみに、目玉焼きにかけんのは?」
醤・宗「醤油(ソース)に決まってんだろーがあああああ!!」

六角形の神サマ 第拾柒話/絶対不敗熱血漢(後篇) ( No.17 )
   
日時: 2018/01/25 21:33
名前: 海月

「よっしゃあ!! オレの勝ち~!」
「あっはっは!! 村崎はすげーなア!! メダロットの事になると何でも知ってやがる!!」
「『メダロットの事になると』は余計だ!」

御守小学校の学舎にて。
放課後の教室で、幼き日の村崎醤(ムラサキショウ)は、友人と共に“メダロットの知識比べ”をしていた。
結果は、彼等が話すように、醤の勝ち。
醤は、友人からの1言に顰めっ面をしたが、勝利の余韻から、すぐ笑顔に戻る。

「やっぱ、オレの方が“メダロット好き”って事だな!」
「あー!? 知ってんのと好きなのは別の話だろオ!?」
「好きだからたくさん知ってんだよー!」

醤の物言いを聞き逃せまいと、負けても笑っていた友人は声を荒げた。
醤は、友人もメダロットが大好きである事を知っている。
そんな彼に勝てた事が嬉しく、醤は反論をひらりと躱した。
しかし、納得出来ない友人は、更に言い返す。

「知ってるだけじゃ、“好き”って事にはならねエ!!」
「じゃあ何で決めんだよー?」
「うーん……そりゃ、よ……っロボトルしかねエだろ!?」
「……お前、それは言わない約束だろぉ……?」

言い放たれた答えに、醤はげんなりと脱力する。

理由は割愛するが、2人の少年は、メダロットを持っていなかった。
出来るのならば、そりゃあ醤だってロボトルがしたい。
しかし、出来ないのだから、その提案は、互いを虚しくさせるだけである。

「っあああああああああ!! メダロット欲しいなオイ!!」

悔しさから、友人は大きく叫んで、床に大の字で仰向けになった。
顔には、もう笑顔が戻っている。

「……ロボトルで、お前に勝ってよオ!! 他の奴にも勝ってよオ!! 俺が1番になんだ!!
 そんで、“俺が1番メダロットが好きなんだ”って、知らしめてやんだよ!!」
「……お前、ほんっとブレねーなぁ……」

嬉しさと呆れが入り混じり、醤は小さく笑った。
醤の言葉に、友人・古戸宗輔(フルドソウスケ)はニッ、と笑う。

「絶対メダロッターになろうぜ村崎イ!! そんで俺とロボトルしろ!!」
「わーったよ」

それは、子ども同士の他愛のない約束であったが、同時に男同士の堅い約束でもあった。
醤は、知る由も無かったのである。
母・ゆかりに、高2になるまでメダロットの入手を許されなかった事も。

宗輔が、遠方に転校する事も。





『六角形の神サマ』 第拾柒話/絶対不敗熱血漢(後篇)





「お前、いつの間にコッチに戻って来たんだ……?」
「あー!? 去年のー……秋ぐれーかア!? それより村崎、俺の質問の答えがまだだぜエ!? オメエはメダロッターなのか!?
 そうじゃアねえのか!? 今、大事なのは、それ“だけ”だろオ!?」

『だけ』な訳がなかった。あってたまるか。
醤はすかさず反論しようとしたが、突如聞こえた第3者の声により遮られる。

「ソイツは“愚問”ってヤツだぜ、ブラザー? メダロッチ着けてんだ、ソチラさんにも相棒がいるんだろうよ」

風切音を奏でながら、発言したワイアーニンジャは、自らの刃のオイルを振り払った。
後ろから近付いてきたワイアーニンジャに口角を上げると、宗輔は肩を組む。

「こりゃア1本取られちまった!! 紹介するわ村崎!! コイツ、俺の最強の相棒・ジェームズ!!
 ちょーっとスカしてっけど、カッケーだろオ!?」
「オイオイ、そのこっ恥ずかしい紹介はよしてくれといつも言ってるだろ? クールの欠片も無いぜ」

突っ込み所が多過ぎたため、醤は絶句した。
成程。この2人を前にすると、此方の言いたい事・聞きたい事が全てどうでも良くなっていく。
唖然とする醤に、宗輔は視線を戻し、口を開いた。

「……で? オメエの相棒は?」
「……オレの相棒、は……」
「ワシなのだよ」

醤が答える前に、いつの間にハッピやら何やらを外したカグラが答え、醤の一歩前に出る。

「初にお目に掛かる。ワシはカグラ。以後、宜しく頼むぞ。ソウスケ、ゼー坊」
「「ゼー坊!?」」
「がっはっはっは!! こりゃ面白エ!! オメエの相棒、ジイさんか!?」
「いや他にもっと気にする所あったろ!?」

カグラの呼び名に驚いたあまり、初対面である筈の醤とジェームズの声が重なった。
腹を抱える宗輔に醤が突っ込む中、ジェームズは小さく手を上げてカグラに問う。

「ジ、ジイさん……あまり確認したくはねぇが、『ゼー坊』っつーのは……?」
「お前のアダ名なのだよ。『ゼームズ』なのであろう?」
「……カグラ、」
「ん?」

恐る恐るといった感じに、醤は口を開く。

「今から、オレの言った事復唱しろ」
「心得た」
「ジェームズ」
「ゼームズ」
「ちょうちょ」
「蝶々?」
「おっ。……CD」
「シーデー?」
「……スウィーティー」
「スイーチー?」
「……小文字に疎いおじいちゃん尊い……!」
「オメーは黙ってろ!!」

どうやら、このおじいちゃん()は外来語の小文字に弱いらしい。
一連の復唱テストを見た波花梓音(ナミハナシオン)が口元を押さえて悶えていたのを見て、醤は声を荒げた。
視界の隅では、ジェームズが『クールの欠片も無い』と若干凹んでいる。
きっと、これから先、出会い頭に『ゼー坊』と呼ばれるのだろう。御愁傷様である。

「はっはっはア!! いやア~、笑った笑った。面白エのは変わんねエな村崎イ!!」
「別にオレは芸人な訳でも漫才見せてる訳でもねぇよ!!」
「まっ、気にすんな!! ジェームズは気にするだろオがよ!! 重要なのは呼び名じゃねエ!!
 ソコんトコは俺とオメエ、ガキん頃から変わらないハズだぜエ!?」

言うや否や、宗輔はメダロッチを掲げた。

「どっちがロボトル強エのか……そうだろオ、村崎イ!?」

圧倒。
自分の相棒を問われた時といい、醤は気迫に押されていた。
メダロッターになっていた、古戸宗輔。
幼き日の彼の“誓い”は、何処まで完成されているのだろう?
醤の中で、彼が発した『最強』の2文字が、徐々に、しかし確実に肥大していく。

「ショウよ。ソウスケの言う通り、きっと単純な事なのだよ」

現実に引き戻した声の方へと目を向けると、緑の丸い光とかち合った。
穏やかな声は続く。

「どちらが強いのか比べるために、ロボトルをする。気負う必要は無い、いつも通りなのだよ」

言い終えると、自分から目を離し、カグラは前へ向いた。
その背中は普段と何ら変わりは無く、醤は安堵し、覚悟を決めて、前を見た。





『ハァーイ♪ 審判を務めますワタクシ・Ms.マーガリンが、本大会のルールを改めて説明します!
 本大会は、勝ち抜き戦! 至ってシンプル! 現在勝ち抜いている“王者”を、“挑戦者”がロボトルで倒せば、新たな“王者”となれます!
 まあ、ずっと“挑戦者”を相手にするのは正直しんどいでしょうから、10人勝ち抜けば“真の王者”とし、本大会優勝者とします!
 現在! ソウスケ選手は8連勝中です! さあさあ、王座の椅子は守られるのか!?
 それとも、“挑戦者”のショウ選手が“王者”となるのか!? 大いに盛り上げちゃってくださいねー♪』

Ms.マーガリンは、マイクを持っていない方の手を突き上げ、足をぴょこりと折り曲げた。
陽気な審判とは裏腹に、緊張した空気がフィールドを支配する。

「へっへ、嬉しいねエ、嬉しいなアおい……!! 楽しもうぜ、“挑戦者”?」
「余裕ぶっこいてんじゃねぇ。ロボトルが終われば、オレが“王者”になってっかもしんないぜ……!?」
「あーあ、クールじゃないねェ……お手柔らかに頼むぜ、ジイさん?」
「はっはっは、聞けぬ相談だなぁ。ショウに怒られてしまう故」
「ハハッ、そりゃ残念だ」

醤と宗輔が睨み合い、カグラとジェームズが笑いあう中、お馴染みの号令が響き渡る。

『合意とみてよろしいかなー!? それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

号令が掛かるや否や、醤はメダロッチを構え、指示を出す。
カグラは、即座にジェームズから2、3歩距離をとった。

「カグラ! サブマシンガン!」
「ジェームズ!! うらけん!!」
「心得、……!?」

サブマシンガンを構えたカグラは、目を見開く。
狙うべき標的は、既に目の前から消えていた。
一瞬たりとも、決してジェームズから目を離してはいない。
しかし、カグラにはジェームズが如何様に消えたのか、全く思い出す事が出来なかった。

「はっはア、遅エ!!」
「ぐあっ!?」
「カグラ!!」
『おおーっとぉ!! またもや、先制攻撃はソウスケ選手! 何時の間に後ろに回り込んだのでしょうか!? 目で追えません!』

カグラが後ろへ振り向くと同時に、右腕関節部の部品が吹き飛んだ。
ジェームズは、左腕を振り上げたまま、呑気に言葉を並べる。

「惜しいねぇ。後1歩遅けりゃ、左腕を貰えたんだが」
『右腕パーツ、ダメージポイント42。可動部ニ異常発生』
「っく……!」
「だよねぇ。左腕は壊れなかったんだから、使うよねぇ」
『カグラの反撃敵わぁず! ジェームズ、木の葉の如く回避ー! これがジャパニーズ・ニンジャの実力かー!?』

カグラはガトリングを放つが、ジェームズは何て事無く、後ろに跳ねながら避けていく。
同じく目を丸くし、言葉を失くしていた醤に対し、宗輔は素っ頓狂な声を上げる。

「何だア、オメエもかア~!?」
「は!?」
「多いんだよなア~! 俺らといざ戦い始めると、キョトン、ってするヤツ! 指示出さねエと、1番困んのはジイさんだぜエ!?
 ま、俺らは思う存分動き回るけどなア!! ジェームズ!! ざんばとう!!」
「っ好き勝手ばっか、させるかよ!! カグラ!! リボルバー!!」

直後、乾いた音が地面を打つ。
醤が転がってきた“黒い筒”に目を向けると、よく見覚えがあった。
リボルバーの、発射口である。

「……!」
『リボルバーの発射口が斬り落とされたぞー!? これでは、射撃本来の“狙い撃ち”が厳しい所!』

確かに撃たれたライフルは、発射口を失い、あらぬ方向へと飛ぶ。
ジェームズは首を傾げ、弾丸をかわした。

『右腕パーツ、ダメージポイント68。照準不一致』





「マジかよ、あの2人が……」

ギャラリーで見ていた尾根翠(ビネスイ)は、思わず息を飲む。
その隣りで、佐藤甘太(サトウカンタ)は、ぽつりと言葉を零した。

「……仕方ねーよ」
「佐藤、何が……!」
「だって、そーだろ? あの2人、組んでまだ2か月くらいだぞ?
 相手がどれぐらい経験あんのかも、おれは全部見た訳じゃねーだろうから、2人のハッキリした強さもわかんねーけど……」

甘太は、焼き鳥を飲み込み、一息つく。

「“この2か月、たまたまこうなる事が無かった”だけだ。……ロボトルじゃ、珍しくねーよ」

言い終えると、甘太は静かに目を伏せた。
甘太の言い分を理解はするが、完全に納得は出来ず、翠は口を開く。

「それでもさ……!」
「ショックですよねー。オラも、御2方が追い詰められんのは初めて見るもんで」
「ジー……」

まるで、自分の気持ちを代弁したかのようなジーの言葉に、翠は何も言えなくなってしまった。
……否。

「カグラの旦那、屋台で食べ過ぎちまったんでしょうかね……?」
「……」
「……このタイミングでそれ言うお前、嫌いじゃないよ」

ジーの考えに呆気に取られ、絶句した方が正しかった。
カグラの名誉のために記すが、彼はメダロットである故、人間の食物は口に出来ず、オイルも1滴も飲んでいない。
長らくコンビを組んでる甘太は、慣れっこのためか、ロボトルに目を向けたまま告げる。
不意に、翠が服の裾を引っ張る方へ視線を移すと、ハリップが顔を青ざめさせていた。

「……あ……」
「ハリップ! どうした!? 具合悪いのか!?」
「ダメ、ダメだカグラ……」

翠がハリップの両肩を掴むと、ハリップは声を震わせ、言葉を続ける。

「あのメダロット、消えてるんじゃない……。どんなに離れてても、1、2歩でカグラのいる所まで行けちゃうんだ……!
 速過ぎるよ……多分、オレっちよりももっと……カグラは、追い付けるの……!?」
「……ハリップ……」

質問に答える事が出来ない代わりに、翠は、ハリップの頭を優しく撫でた。

「……“敵影感知”」
「え?」
「別名、“忍び込み格闘”。……ワイアーニンジャの、頭パーツ」

口を閉ざし、ロボトルを見ていた梓音が、そう呟いた。
2人と2体は、梓音の方を見ると、僅かに眉間に皺が寄っていた。

「敵影感知のパーツを付けると、いくら間合いを空けようと関係無くなる。瞬間移動って程じゃないけど、相手の懐に容易に入り、攻撃が出来る。
 格闘攻撃でもね。つまり、フィールド上全てが、奴の射程距離範囲内ってコト。勿論、熟練度に大きく左右はされるけど……」
「じゃあ、あのワイアーニンジャの熟練度は……」
「……わかるでしょ?」

梓音は、翠に目をやり、吐き捨てた。

「最悪よ」





「オイオイオイオイ村崎イ!! ジェームズ無傷だぜエ!?」
「るっせえ!! 言われなくてもわーってるよ!!」

つまらなさそうにボヤく宗輔に、醤は喰って掛かる。
ジェームズに目を向けたまま、カグラは苦言を零した。

「ショウ、落ち着かんか……」
「アンタは、もうちょっと慌てた方が良いと思うぜ?」
「!」

突き出された刃を、カグラは紙一重でかわす。

『おっと!! カグラも負けじと、斬撃をかわします! 今日、ジェームズの攻撃を回避したのは、初めてではないでしょうか!?』
「……心配かたじけない。いやはや、ゼー坊は優しいなあ」
「それこそ悪いね。オレが心配すんのは、レディと、ブラザーのオツムだけさ。コッチとしても、どうせ戦るなら楽しみたいんで、ね!」
「ジェームズ!! うらけん!!」
「カグラ!! サブマシンガン!!」

飛び交う指示に、各々が左腕を構える。
おどけたように、ジェームズは問い掛けた。

「さあ、肩を貰おうか! 今度は右かい!? 左かい!?」
「っ左だ!」

カグラがリボルバーを向けたのと、ジェームズが動いたのは同時であった。
刃は、カグラの右肩を貫いた。

「う……っ!」
「残念。読みは良いが、詰めが甘いぜ……ジイさん!」

ジェームズは刃を押し進め、そのままカグラを地面に叩きつけた。

「がっは!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント91。脚部パーツ、ダメージポイント7。頭パーツ、ダメージポイント15』
『ジェームズの強みは、スピードだけでは無いようです! 怪力により、カグラのボディが地面に強打ー!』
「カグラ!!」

みしり、と、カグラの右腕が軋む。
小さく呻きながら、目を細めるカグラに、ジェームズは言葉を放つ。

「……今まで、行動パーツばっか狙ってんのには気付いたんだろう? そりゃそうさ、効率が良いからね。
 それで、左腕が狙われてると踏んで、右腕でオレを狙ったんだろう? ああ、狙ってたさ。アンタが、右腕を使うまでは」
「……」
「オレが狙ってたのは、“本当の行動パーツ”さ。痛い思いは御免なんでね」

そう言うと、ジェームズは、空いている右肩を竦めた。
カグラは、は、と笑い声を零す。

「それなら、良いな。お前は強いから、無傷で勝つ事も少なくは無いのであろう?」
「御名答。……悪い悪い、ちょっとした自慢さ。だから余計だね、ダメージが怖いってのは」
「ふむ、一理あるな。だが、」

カグラは、細めていた目を開き、言葉を続けた。

「今回は諦めろ」

カグラの左手が、自身を貫く刃を捕らえた刹那。
爆風がフィールドから溢れ、対峙したメダロットを除き、全員が腕で顔を覆った。

『カグラのミサイル炸裂ゥゥゥ!! 形勢逆転なるかー!?』
「はーっはっはっはア!! 面白エ!! 面白エな!! これだからロボトルはやめられねエ!!」
「バ……ッカやろ……!? あんだけ『至近距離でミサイル撃つな』っつったろクソジジイ!!」

楽しくて仕方が無いといった様子で大笑いする宗輔とは対照的に、醤は心配から顔を強張らせ、声を張り上げる。
やがて、爆風が薄れ、ゆらり、とシルエットが浮かぶ。

『頭パーツ、ダメージポイント46。脚部パーツ、ダメージポイント22。左腕パーツ、ダメージポイント13。右腕パーツ、ダメージポイント100。
 機能停止』
「……説教は、後でゆっくり聞くとしよう」

低く苦笑しながら、開かれた緑の光は、宗輔を映す。

「まずは一撃なのだよ」

ハッキリとした、宣戦布告であった。
宗輔は、笑顔のまま俯く。
そんな中、ジェームズが、左腕を押さえながら顔を出す。

『今大会で、初めてダメージを受けたジェームズ!! しかし、カグラのダメージも計り知れません!!』
「……ったく、枯れてると思いきや、意外と大胆なジイさんだ。クールじゃないねぇ。……まぁ、それはオレもか」
「……ジェームズ、左腕は?」
「機能停止してないんだ。上々さ、ブラザー」
「ああ、笑いが止まんねエくらい上々だ……!」

宗輔は、小さく、笑い声を零す。

「『まずは』だって? ……だなア、そうじゃなきゃつまんねエ。だがよオ……」

白い歯を剥き出しにして笑う宗輔が、顔を上げた。
勢いよく、ジェームズを指差す。

「残念!! 本日、最初で最後だぜエ!? ジェームズ!! オメエの“銃”を見せてやれエエ!!」

宗輔が叫ぶと、ジェームズは音を立てず、カグラとの距離を一気に詰めた。
構えた両腕の刃が、光を受け、強く光る。

「アンタは、どれぐらいもつのかな?」
「……っ」
『おおーっと!! 先程、会場を震撼させた、“アレ”が出るのかー!?』
「なっ、なんっ……!? カグラ、避けるか防御しろ!!」

Ms.マーガリンの実況を聞き、醤は咄嗟に指示を出す。
宗輔は、メダロッチに声を叩きつけた。

「喰らいなア!! N・I・Nマシンガン!!」

直後、幾千本、幾万本という刃が、カグラを襲った。
否、襲うように見えた。
頭では理解している、“本当は2本である”と。
しかし、斬撃は、まるで本物のマシンガンの如く繰り出され、“迅速”という言葉がちっぽけに聞こえるような猛攻であった。
カグラは、指示を守り、左腕で顔を覆い、徐々に後退する。

「っぐ……!!」

反撃は許されないが、反撃しなければ勝機は無い。
ジェームズの隙を伺いながら、カグラはまた1歩後退……しようとした。

「あ」

カグラから零れたのは、“言葉”と呼ぶ事が出来るかも怪しい程、短過ぎる言葉。
オチツカーの踵が、地面からずれる。
バランスを崩したのは、ほんの一瞬の筈であった。
醤は、思わず名を呼びながら手を伸ばす。

「カ、」

ガツン。

音が止まったのは、鈍い貫通音が響いた後だった。
少しして、オイルが滴る音が規則的に鳴り、黒い水たまりを作っていく。
だらり、とカグラの左腕は崩れ落ちたが、体も崩れ落ちる事は無かった。
前から後ろにかけて一直線に、頭を貫くジェームズの刃が、辛うじて支えていたからである。

湧き上がる歓声よりも、醤は、メダルが転がる音を近くに感じた。
瞬き1つ、出来なかった。


『勝者!! ソウスケ選手ゥ!!』



メダロッチ更新中……――
・リボルバー(KBT-12。うつ攻撃:ライフル)喪失




続ク.






◎次回予告
醤「ケテイオケテイオ」
梓「ケテイオーバルボリ……」
醤「ロダンテッモーバルボリヨセコヨ。ケケケケケケケンャジリツマャジリツマ!」
カ「えー……次回『六角形の神サマ』第拾捌話、『右腕狩猟祭(前篇)』。
  はて、ショウとシオンがずっとあの調子なんだが、何があったのだろうなぁ? 見当がつかん」
ジ「そいつァ素で言ってんのか、ジイさん」
宗「明るく元気にリボルバー狩りだぜエエエエエ!!」
醤・梓「「お前が言うな!!」」

六角形の神サマ 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇) ( No.18 )
   
日時: 2018/01/21 11:28
名前: 海月

「ただいまー……」
「おかえりなs暗ッ!?」

『鎖界神社祭』からの帰宅後。
村崎醤(ムラサキショウ)は、傍らにカグラの体を抱え、まるで見えない何かが圧し掛かっているように、暗い面持ちで、背中を丸めて階段を上っていく。
リビングから顔を出した母・ゆかりは、尋常じゃない息子の様子に声を上げた。

「お祭りにそこまで凹む要素ある!? 焼き鳥売切れてたの!? それともフライドポテト!?」
「何でもな……食い物ばっかじゃねぇか」

かろうじてそう突っ込むと、醤は自室の戸を閉め、壁にもたれて座り込んだ。

「あーあ……メダル賭けてた訳でも、何でも無ぇのにな」

失ったのはメダルではなく、パーツだというのに、醤は、思いの外落ち込んでいる自分自身に驚いていた。
ティンペットの右腕を見て溜め息をついた後、ポケットからカブトメダルを取り出し、語り掛ける。

「……なぁ、アンタはどう思ってる?」

ロボトルでの敗北後。
醤は、メダロッチにカグラのメダルを入れる事が出来なかった。

カグラからの拒絶が、恐ろしかったのだ。

自分を、怒るだろうか?
――普段の彼からは、あまり想像が出来ない。

自分を、軽蔑するだろうか?
――これも、多分しない。

自分に、落胆するだろうか?
――言葉は無くとも、内心まではわからない。

カグラは強い。
元々、ボロボロな機体を引き摺り、この町を守ってきたのだ。
……対峙したタバスコが弱かったのも、一理あるのかもしれないが。
今は、中古品ではあるが、欠陥のない機体を使っている。
“鬼に金棒”と言えば、『大袈裟だ』と他人に笑われるかもしれないが、醤はそう信じていた。
その足を引っ張ってしまったのは、紛れも無く自分の指示だ。
醤は、どんな顔をして会えば良いのか、わからなくなった。

しかし、いつまでもこのままでいる訳にはいかない。
覚悟を決めて一度頷いた後、醤はメダルを機体に装着する。

すると、何かを読み込む音と同時に、カグラの傷はみるみる修復されていった。
額の穴も、綺麗に塞がっていく。
やがて、指先がギシリと動き、頭部には双対の光が灯る。
起動したカグラは、瞬きした後、ティンペットの腕で、自分の額に触れる。

「カ、カグラ……?」

醤が恐る恐る名を呼ぶと、カグラは手包みを打った。

「成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな」





『六角形の神サマ』 第拾捌話/右腕狩猟祭(前篇)





「いらっしゃいませ」

日曜日。佐藤商店にて。
醤は、般若のような形相で、扉から顔を見せた客……もとい、友人である尾根翠(ビネスイ)を出迎えた。

「ごゆっくりどうぞ」
「ご、ご丁寧にどうも……」
「はよー。ごめんなー、尾根。おいバイト、その確実に人殺してきたような顔やめろっつってんだろ」

苦笑する翠に対し、醤の雇い主である佐藤甘太(サトウカンタ)は、雑誌を丸め、メガホンのように使った。
言わずもがな、商品だ。
『バイト』と呼ばれた醤は、目だけを甘太に向け、低い声で言い放つ。

「すんません、自分不器用なんで……」
「その台詞言えば、何でも許されると思うなよー。尾根以外の客が来たらどーすんだ、速攻逃げられるぞ」
「俺も怖いんだけどなー……」

乾いた笑いを零した後、翠は醤に尋ねた。

「どうしたんだよ、村崎? そりゃ、負けたら悔しいけどさ」
「そっちじゃねえ!!」
「え?」





時は遡り、鎖界神社祭からの帰宅後。

『成程。“すらふしすてむ”とは、此れ程までに優れた機能なのだな』

起動直後、カグラはまるで、天気の話をするかの如くそう言った。
拍子の抜けた醤は、素っ頓狂な声を出す。

『は……?』
『そうか、負けたから右腕が無いのか。ショウ、力が及ばずすまなかった』

右手から視線を移し、醤の方へ向いたカグラは、普段の顔過ぎた。

――そんなの、まるで。まるで。

『はあああああああ!?』
『ど、どうした? よもや、至近距離でミサイルを使った事に怒って……?』
『そっちじゃねえよ!!』

突然の怒号に肩を揺らしたカグラに、声を張り上げ続ける。

『お前、悔しくねぇの!? オレら負けたんだぞ!?』
『うむ、故にすまぬ』
『謝るとかそーゆーんじゃねぇんだよ!! 『悔しくねぇのか』って聞いてんだ!!』
『そうは言われてもなぁ……』

カグラは顎に手を当てて考えた後、さらりと言い放った。

『全力を出して負けたのだ。何を悔いる必要がある?』

――負けようがどうでも良い、みたいな。





「あんのクソジジイイイイイイイイイイ!!! 悔いるわ!! 悔いまくりだわ!! だって負けたんだぞ!?
 悔しいに決まってんじゃねえか!!
 枯れてる枯れてるとは思ってたけど、ロボトルでも枯れてると思わなかったわもーこなあああゆきいいいいいい!!」
「そ、そんな事があったんだ……」

話を聞き終えた翠は、そう返答するのが精一杯だった。
醤は頭を抱え、荒れ狂う。

「あの“きょとん”とした感じがムカつくんだよ!! 『何、一人で熱くなってんの?』的な!!
 オレ一人で騒いで、馬鹿みたいじゃねえか!!」
「『みたい』じゃなくて、『馬鹿』なんだよ村崎は」
「あア!?」
「おい、佐藤。流石に今は……」

いつもの様に醤を揶揄おうとしているのかと思い、翠は甘太を嗜めようとする。
息をつき、甘太は言葉を続ける。

「だってそーじゃん? お前、大事な事忘れてんだよ」
「大事な事だア!?」

普段であるならば物怖じする所であるが、怒髪天に達しているため、醤は甘太に強気なまま聞き返す。
裏腹に、甘太はにこり、と微笑み返した。

「お前のKBT1式さー……どうやって手に入れたんだっけ?」

その言葉を聞いた瞬間、醤は青ざめた。
甘太の言わんとしている事が、わかってしまったからだ。

「なー、おれ訊いてんだけど?」
「ロ……ローンを、組みました」
「だよなー? 完済したっけ?」
「……して、ません」
「……村崎、おれな? ロボトルに負けて、借金中のパーツ取られるのは仕方無い事だと思うんだよ。
 けどさー、完済する気あんなら、すべき事あるよなー……?」

もはや、醤を支配したいたのは、“怒り”ではなく“恐怖”だった。
目の前の借金取りの方が、余程人を殺しそうに見える。
醤は、今の自分に課せられた義務を絞り出した。

「…………仕事、シマス」
「よろしい」

守銭奴の一部始終を見ていた翠は、苦笑いしながら甘太に言う。

「ホント、お前どんな時も容赦無いよな……」
「だろ?」
「褒めてないぞ……」

少々得意気になって返答する甘太に、翠がそう告げた所で、新たに来訪者が来た。

「いらっしゃいま……せ」

醤は、下げた頭を戻し、客の顔を確認した所で、笑顔をひきつらせて固まった。
何故なら、今無償に会いたくないランキングNo.2が、目の前にいたからである。

「な、波花……」
「……何。ワタシがココで買い物をする事に、文句でもあるの?」
「いえ、滅相も無いデス……」

醤がそう言うと、波花梓音(ナミハナシオン)は、小さく息をつき、組んだ腕を下ろして店の奥へと進んだ。
今日は、当然ながら浴衣姿ではなく、ブラウスにショートパンツ姿であり、密かにスカート派だと考えていた醤にとっては、ある意味意外な姿であった。
梓音は、甘太や翠の姿を目で捉えると、軽く会釈する。

「……どうも」
「どーもー」
「こんにちは、波花さん」
「…………昨日は、ありがとう」

梓音の口から零れた言葉に、醤は耳を疑い、思わず翠と梓音の方へと振り向いた。
言われた翠本人は、普段の笑顔を浮かべたまま、僅かに首を傾げる。

「え? 俺、お礼言われるような事してないよ?」
「…………いいの。言いたかった、だけだから」

梓音は、言うや否や、メダロットのコーナーへと足を向けた。
翠も、気にする様子無く、商品の物色を再開する。
今のやり取りに全く関与していない醤には、何故だかそれが面白くなく、だがしかし、梓音が怖いため、本人に当たる事が出来ずに、ハタキで商品に当たった。
醤の様子を見て、甘太が声を出さずにせせら笑ったが、これまた立場が弱いため、平手で頭を引っぱたく衝動を、何とか抑える。
梓音が商品を手に取り、口を開いた。

「……そういえば、」

醤は、次に続く言葉が『そういえば』の類ではない事を知っていた。
カグラと負けた今こそは、彼女愛用のドライバーで、片目を持って行かれるかもしれない。
恐々と醤が身構えていると、梓音は商品に目を落したまま、呟くように言葉を紡ぐ。

「……おじいちゃん、大丈夫なの?」
「え……?」
「パーツは? 結構なダメージだったけど、ちゃんと治ってる? 元気? 落ち込んで、ボーっとしたりしてない?」

怒号、もしくは攻撃を浴びせられると思っていた醤は、一瞬気後れした。
しかし、長考を要する事でもないため、すぐに答える。

「ああ……完全に治ってる。メンテでも、残ってる傷は無かった。それに……元気だよ」

いっそ腹立つくらいな、とは、敢えて口には出さなかった。
ただでさえも気分がどん底なのに、余計な事を言ってドライバーを喰らい、二番底に落ちたくない。
更に言えば、周りの予想に反し、カグラが元気である事を実感したくなかったのだ。
醤の返答を聞くと、梓音は安堵したかのように目を細めた。

「……そう」

梓音は、オイルを手に取ると、甘太が待つカウンターまで足を運ぶ。
オイルを台に置き、肩から下げた鞄から財布を取り出した。

「これください」
「まいどー」

甘太が慣れた様子でレジを打ち、商品にテープを貼っている間、梓音は独り言のように口を開いた。

「……リボルバー」

今あまり聞きたくない単語に、醤は顔を顰める。
威圧感を放ちながら、梓音に聞き返した。

「あ?」
「……今、おじいちゃんの右腕がどうなってるかさえ知らないワタシには、関係のない事だけど。
 なるべく早く、おじいちゃんにつけてあげて」
「……あざしたー。またの御来店をお待ちしてまーす」

会計を終えた事を知らせる甘太の義務的な声にオイルを持ち、梓音は、ようやく醤の方へ振り向いた。
醤が見据える中、言葉を続ける。

「おじいちゃんには、やっぱりリボルバーが似合うから」

ざわり、と醤の中で何かが沸き立つ。
いつになく穏やかな、梓音の声にも。
言われなくてもわかっている、言葉にも。
責められているように感じる、負けた自分自身にも。

「関係無ぇなら口挟むんじゃねぇよ!!」

店内に響いた怒号に、甘太、翠、そして梓音の目が見開かれる。
醤は、感情の赴くままに声を張り上げた。

「テメエに何がわかんだよ!? 負けた後のカグラの事も、オレの事も知らねぇくせにえっらそうに!! 何様だアァ!?
 何っだその態度!? 気ぃ遣ってるつもりか!? そんならハナから何も言うんじゃねぇ!!」
「村崎!! 波花さんに当たんなよ!!」

醤自身も、完全な八つ当たりである事を自覚している。
しかし、どうにも制御出来なかったのだ。
それでも、翠の言葉を受け、醤は舌打ちしてから押し黙った。

「……」

俯いた梓音が、無言のまま醤の正面まで近付いた。
醤は目を細め、乾いた笑いを零す。

「……どうした? ドライバーか? それとも殴んのか? 好きにしろよ」

いっそ、そうされた方が醤にとって楽だった。
それすらも見透かされたかのように、梓音の口がようやく動く。

「……今のお前には、殴る価値もない」

今度は、醤が目を見開く番だった。
低く、小さく、梓音は言葉を告げる。

「お前の気持ちだけなら、わかりたくない程よくわかる。ワタシも……お前に負けた時、死にたくなった」
「……!」

醤は、ロボトル直後の梓音の様子を思い出す。
それはもう、心底悔しがっていた。
もう少しで待ち焦がれたカグラを手に入れる事が出来たというのに、後1歩が及ばず、負けてしまったのだ。
呪詛のように何度も感情を口にした、彼女の拳を握る様は、今でも醤の脳裏で鮮明に浮かぶ。

「何、悲劇のヒーローぶってんの? お前だけが負けてる訳じゃないのよ、甘ったれんな」

それよりも、と付け加えた声は、少し震えていた。
梓音は、くしゃり、と自分の髪を握って乱す。

「こんなに、お前も腹立たしいのに……ワタシは、ワタシが1番許せない」

梓音の言葉の意味がわからず、醤は眉を下げる。
重々しく口を開き、梓音に尋ねた。

「……何でだよ? あのロボトルで……お前、何もしてねぇだろ?」

ぎり、と梓音から、奥歯を噛み締める音が聞こえた。
勢いよく顔を上げた梓音の目には、溢れんばかりの涙が浮かぶ。

「っおじいちゃんをあんな風に負かせたヤツに、ワタシが勝てるワケないじゃない!!」

梓音は、叩きつけるように言うと、涙を散らしながら店を出て行った。
消えるまで梓音の背中を目で追いかけていた醤は、ようやく気付かされた。

醤とカグラが、負けた時。
あの場で、梓音はリボルバーを奪還する事しか頭に無かったのだ。
しかし、自分の実力を考慮しない程、梓音は浅はかではない。
リボルバーの譲渡を、睨みつけながら見過ごした事だろう。

――それなのに、オレは。

負けたショックで、何も考えられなくなっていた。
だから、間接的に、梓音は“大事な事”を伝えようとしたと言うのに。

「!」

コツリ、と唐突に、醤は頭を小突かれた。
反射的にそちらへ目を向けると、目が合った翠は、ため息をつく。

「な、何でお前……」

あまり手を出す事が無い翠にしては珍しく、醤は頭を押さえながら問う。
翠は、穏やかに笑いながら答えた。

「……殴る価値が無い程とは思ってないから、“俺は”」

返答に喉を詰まらせた後、醤は、バツが悪そうに呟く。

「…………悪い」
「謝る相手が違うだろ」

唸り声を上げる醤とは対照的に、翠は笑い声を零す。
甘太は、間延びした声で醤を呼んだ。

「村崎ー、ほい」
「っと!」

甘太から投げられたものを受け取ると、それはミネラルウォーターだった。
頬杖をつき、甘太は口を開く。

「ちょっと休憩してこい」
「え、でもまだ時間……」
「訂正、頭冷やしてきて」

有無を言わさぬ甘太の言葉に、醤は口を結ぶ。
そして、ペットボトルを握り締めると頷いた。

「……休憩入ります」
「はいよー」

何処かふらつきながら店の奥へと進む醤に、甘太はひらひらと手を振った。
醤の姿が見えなくなると、甘太は口角を上げる。

「……青春してんねぇ。アイツら見てると、小学ん時一緒だったヤツ思い出すわ。
 鬼ごっこの時に鬼ばっかやらされて、べそかいてたヤツがいてさー」
「ここぞとばかりに古傷を抉ってくるなぁ、お前は。泣いてないよ」
「そういう事にしとく」
「お前こそ何様だ」

翠は、ひくりと笑顔を歪ませた。
気にする素振りも無く、甘太は喋る。

「いやー、どうしてこうおれの周りは負けず嫌いが多いんだろうねぇー? 凡人のおれなんか、数えられないぐらい負けたってのに」
「……オイル2缶と、飲み物買ってくよ」

翠は目を伏せて笑い、オイルを手に取る。
まいど、と言いながら、甘太はお釣りを渡した。
袋を持って翠は背中を向け、店の外へ向かう。

「……佐藤」
「あー?」

甘太が呼応すると、翠は振り向いて苦笑した。

「誰だって、負けたら悔しいよな?」

翠は、甘太が何も言わないのを確認し、そのまま佐藤商店を後にした。





――はて、何故ワシは今。

「よっし!! もう1本走るか、カグラ!」
「ホラホラ! 早く準備して!」

――スイやハリ坊と共に、ひたすら走っておるのだろうか……?

ぐったりしながらも位置につき、カグラは考えていた。
村崎家に、いきなり翠とハリップが来訪し。
手を引かれるまま、ここ、堤防まで連れて来られ。
同じ道を、繰り返し走らされているのだ。

「用意!」
「――ドンッ!!」

翠とハリップのこの掛け声も、果たして何回聞いたのか。

「ゴーーールッ!! だらしないなぁ、カグラ! タイム伸びてるよ!?」
「仕方ないだろ、もう100本くらいやってるんだから。……大丈夫か、カグラ?」
「……か……かたじけなぃ……」

息切れして地面に伏し、朦朧とする意識の中。
カグラは、手を差し伸べる翠が少し汗を掻いている程度で済んでいる事が不思議でならなかった。
そんな折に思い出すのは、一緒に住む、孫の1人との会話。

『尾根はなぁ……ポルシェの生まれ変わりなんだよ』
『ぽるせ?』
『車だ、車』
『成程! それは凄いな!』

会話の内容も微笑ましく、更に、孫と思っている翠が秀でた特技を持っている事が誇らしく、カグラは自然と笑顔を零した。

「はい、お疲れさん!」
「わー! オイルだー!」

翠に上半身を引き起こされた後、カグラはオイルを手渡された。
隣ではハリップが上機嫌で貰ったもう1つのオイルを開け、そのまた隣では翠が胡坐をかき、ペットボトルの蓋を捻る。

「スイ。何から何まで、気遣いかたじけない」
「気にしないで飲んでくれよ! 『じいちゃん』!」
「!」

突然、翠に初めて呼ばれ、カグラは目を丸くした。
その顔を見て、照れくさそうに翠は頬を掻く。

「あー……驚かせてごめんな、1回呼んでみたかったんだ。ほら、村崎や波花さんの前じゃ……とてもじゃないけど呼べないし、うん」
「……あいや、すまぬ」

カグラもゆっくりとオイルの蓋を開け、口に近づけた。

「吃驚するぐらい、嬉しかったのだよ。有難く、頂戴する」
「そうだよ! 早く飲もー! いただきまーす!」

カグラやハリップの表情が嬉しく、翠は顔を綻ばせた。
そして、自分もスポーツドリンクを飲む。

「っあー!! 美味い!」
「美味しい……!」
「おいしー! 走った後のオイルはカクベツでしょ、カグラ!?」
「ああ、生き返る味がする……!」

翠は、目を細めて喜ぶ2体に、笑顔でこっそり息をつく。

「なぁ、カグラ!」
「ん?」
「走ってみるのも良いモンだろ?」

翠の言葉に、カグラは無言で首を倒す。
少し俯いた後、日が沈みかけの空を見上げた。

「……そうだなぁ。長生きしていても、知らなかったのだよ」

翠の意図を何となく察し、カグラは、そのまま瞬きを1つした。
翠は、穏やかに告げる。

「……村崎はさ。元々負けず嫌いだけど、こんなに引きずるのは初めてなんだ」

カグラは、翠の方へ目を向けた。
しかし、言葉を投げ掛けるように、翠は空を見る。

「よっぽど、カグラと負けたのが悔しかったんだろうな」

ようやく合わせた顔は、少し悲しげだった。

「そんなに、難しい事じゃないよ」

言い終わると、翠は背伸びをし、立ち上がった。
隣でオイルを飲むハリップに、声を掛ける。

「さ、ハリップ! もう一っ走りするか!」
「いいね! オイル飲んだ後の追い走り!」
「カグラは、ちょっと休んでなよ!」

翠にそう言われ、カグラは手元のオイルへ目線を落とす。
少し考えた後、オイルを地面へ置いた。

「……いや」

カグラも立ち上がり、爪先でコンクリートを叩く。
翠とハリップは、満面の笑みを浮かべた。

「ワシも、走るとしよう」
「よし、行こう!」
「レッツゴー!」

3人は、スタートの掛け声をする事無く、まばらに駆け出した。
走りながら、口を開く。

「押しつける訳じゃないけどさぁ! カグラも、微塵でも『悔しい』って思ってくれたんなら俺は嬉しいかな、って!」
「ワシも、時々スイから『じいちゃん』と呼んで貰えると嬉しい!」
「オレっちは! こうやってずっとずーっと走れたらうれしー!」

この日、1人と2体は、結局日が暮れるまで走ったという。





「リィィボルバー狩りじゃアアアアアアア!!」

翌朝、御守高校の廊下にて。
肩には、『リボルバー求ム!』のタスキを下げ。
頭には、『右腕』と書かれた鉢巻をつけ。
醤はゲスな笑みを浮かべ、仁王立ちしていた。
昨日とは別ベクトルで危険な親友の姿に、翠は頭を抱える。
冷めた目で見ながら、甘太は一応というスタンスで尋ねた。

「村崎、何やってんの……?」
「決まってんだろ!! ロボトルで取られたものはロボトルで奪う!!
 ようはリボルバー持ってる奴と、片っ端からロボトルすりゃ良いんだよ!! さぁ!! 来たれリボルバァアアアアアアア!!」

般若だった顔は、最早ラスボスと化していた。
見るからに危ないのに、自ら火中に飛び込む人物が1人。

「おーい、村崎~!」

手を振りながら上機嫌で近寄ってきたのは、醤達2年D組のクラス担任・的間圭一(マトマケイイチ)だった。
圭一は、幸せ過ぎて醤の格好が目に入らないといった様子で、言葉を続ける。

「お前、メダロット好きだったよな!? じゃーん!!」

そして、両手で掲げた。

「念願の、KBT両腕パーツだ!! いや~、1回は俺のブルースドックにつけてみたかったんだよなー!!」
「「「先生エエエエエエエエ!!」」」

醤達3人の明らかに違う叫び声の質と、これから降りかかるであろう本当の悲劇を、圭一は知る由もなかったのであった。


メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
圭「待てよ。最後の地の文、酷過ぎやしないか? もう勝敗が見えているような……」
甘「先生、読者の皆様ももう察してると思います」
翠「先生、何で村崎の笑顔が酷い事には気付かないんですか?」
醤「先生!! 上のメダロッチの部分、もうリボルバー付け足しといていいですか!?」
圭「せめてロボトルはしよう村崎!! それ、悪の組織とやってる事変わらないから!! な!?
  次回、『六角形の神サマ』第拾玖話、『右腕狩猟祭(後篇)』! 運命に負けずロボトルファーイトォ!!」
醤「ッシャアアアアアアア!! リボルバァアアアアアアア!!」
甘「そこの主人公、役割を放棄してラスボスにならない」


投稿フォーム

※ 投稿時の注意

■まれに書き込みに失敗し、書き込み内容がすべて消えてしまうことがあります。
 そのため、投稿ボタンを押す前に、必ず文章をコピーしておくことをオススメします。

(※)のある項目は、必ず入力してください。

タイトル(※) スレッドをトップへソート
名前(※)
E-Mail
パスワード (あとで作品を修正する場合に必要)
作品文章(※)
投稿用キー(※) ※スパム対策を導入中です。投稿時は【かきこみ】のひらがな4文字を入力して下さい(コピペ可)

   クッキー保存 (学校や満喫等の共用パソコンの場合、チェックを外して下さい)