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RSSフィード 六角形の神サマ
   

日時: 2020/06/14 22:18
名前: 海月

神様と参拝者。
おじいちゃんと孫。
メダロットとメダロッター。

どれも、二人を結ぶ言葉達。





◎登場人物
・村崎醤(ムラサキショウ)
御守(ミモリ)高校二年D組。主人公。
一人いるだけで賑やかで、多分不憫の星の下に生まれてきた少年。
ロボトル経験は浅いが、その知識・覚悟で勝ち星を取りに行く。

・カグラ
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
掴み所のない性格で、みんなを我が子や孫同然に可愛がるおじいちゃん。
御守神社に祀られた道祖神で、『虫の知らせ』を頼りに困っている者を助けに行く。

・波花梓音(ナミハナシオン)
御守高校二年D組。醤のクラスメート。
御守町のメダロット博士の娘で、醤とは幼稚園から一緒だが話した事は少ない。第陸話までは。
カグラを祖父として慕い、傍にいるためなら強行手段に出るドライバー娘。

・マリア
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
思い立ったが吉日の性格で、動物に例えると”猪”。
捨てられたメダロットだが、カグラに救われ、御守神社で一時期共に暮らした。

・佐藤甘太(サトウカンタ)
御守高校二年D組。醤の友人その一。
佐藤商店の息子で、サディスティックな性格。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

・ジー
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
趣味は覗き。自分がカメレオンである事を完全に棚に上げている。

・グルコ
甘太の母の愛機。MDM型メダメイド。
佐藤商店の姉御。甘太の育ての姉でもある。
恐らく、今作で男前ランキング三本指に入るであろう乙女。

・尾根翠(ビネスイ)
御守高校二年D組。醤の友人その二。
陸上部のエースで、正真正銘良い人。
爽やかだが、走って解決出来ることは走って解決しようとする脳筋。

・ハリップ
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
翠の足の速さに誇りを持っている。
時間の無駄が大嫌いで常に動き回っており、多分マグロと一緒で動かないと死ぬ系男子。

・蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)
御守高校二年D組。醤のクラスメート……と友人の中間ぐらい。
陸上部のマネージャーで、翠の彼女。
恐らく、今作で一番女の子らしい女の子。……だったら良かったが、作る料理はどの毒よりもポイズン。

・リボン
蜜希の愛機。SLR型セーラーマルチ。
見ていて安心できる女の子、その二。
趣味は、恋バナとお菓子作り。何故、それをマスターに伝授しないのか。

・泡瀬美園(アワセミソノ)
御守高校二年A組。醤の想い人。
文武両道、可憐な美貌と、学校中の憧れの的。
どうやら、誰にも言えない秘密を抱えているらしい。(シンラ以外)

・シンラ
美園の愛機? KWG型ヘッドシザーズ。
自分が一番大好きで、煽り検定一級のおjお兄さん。
元道祖神で、カグラとは古い知人。

・古戸宗輔(フルドソウスケ)
鎖界高校二年三組。醤の小学校時代の友人。
ロボトル部門:バリバリ最強No.1。
頭脳部門:チンパンジー。

・ジェームズ
宗輔の愛機。NIN型ワイアーニンジャ。
身体は忍だが、心は西部のガンマン。
技は一号、力は二号、バトルする様・モンスター。

・村崎紀醤(ムラサキキショウ)
醤の父。
メダロット社に勤めており、村崎家には月に一度しか帰っていない。プチ単身赴任中。
好きなものは、メダロットとお祝い事。

・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)
醤の母。
怒る姿は鬼神そのもの。
家族が危険な目にあったりいなくなったりする事を、何よりも嫌う。

・波花椒吾(ナミハナショウゴ)
梓音の父。御守町メダロット研究所所長。
町の人々からは親しみを込めて、『御守のメダロット博士』と呼ばれている。
心配性で、一人娘の梓音を気に掛けている。

・的間圭一(マトマケイイチ)
御守高校二年D組クラス担任。
着眼点がいつもずれている。
メダロットが好き。

・カーゴ
圭一の愛機。DOG型ブルースドッグ。
苦労が多い圭一を、優しく見守る事が多い。
必要時、ちゃんと自分の意見を言える子。

・タバスコ
どう見ても未来人です本当に(ry)な、白い衣装に身を包むゴーグル男。
メダロット強奪を生業とし、邪魔者は全て排除しようと試みても逆に排除される、多分醤と同じ星の出身者。
その実体は、秘密結社テクノポリス・御守神社周辺エリアリーダー。

・Mr.ジャム
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルではジャッジ担当。
爽やかを通り越して暑苦しい。
いつも審判せずに性犯罪を起こす。

・Ms.マーガリン
メダロット協会公認レフェリー。ロボトルでは実況担当。
職務放棄する先輩(Mr.ジャムと読む)の代わりに、最終的なジャッジも兼ねている。
趣味は、『人の傷口に塩を練りこむ事』。





なるべく白字でネタバレ回避を心掛けております(震え声



六角形の神サマ 第拾玖話/右腕狩猟祭(後篇) ( No.19 )
   
日時: 2020/03/22 19:21
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第拾玖話/右腕狩猟祭(後篇)





「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

 御守高校、廊下にて。知らぬ間に用意されていたスポットライトが、突如現れた二人組を照らす。
「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムと!」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは、真剣ロボトルと認定されましたー♪』
 襟元の赤い蝶ネクタイが目立つレフェリー、Mr.ジャムとMs.マーガリンは、手を掲げ、高らかに宣言した。二人とは対照的に、二年D組のクラス担任・的間圭一(マトマケイイチ)は、メダロッチを構えながらも困惑し、対峙する少年に尋ねる。
「な、なぁ村崎?」
「ハイ先生!! 何でしょう!?」
 話し掛けられた少年・村崎醤(ムラサキショウ)は、水を得た魚の如く目を輝かせながら返答する。圭一は、怪訝そうに苦笑した。
「授業中もそれぐらい気持ちのいい返事が聞ければいいんだが、まぁそれは今置いておこう。先生な、村崎と話してたはずなんだけど、いつの間にロボトルの流れになったんだろう?」
「先生!! メダロッターたるもの、ロボトルをしないと!」
「うん、もっともなんだけど。先生としては、もうちょっと念願のパーツを手に入れた余韻に浸りたかったっていうか……何だろう? 至極真っ当な事を言うお前が、今物凄く怖い」
 圭一の愛機は、イヌ型メダロット・ブルースドッグ。両腕には、新品のKBTパーツ。先の戦いでリボルバーを失った醤から、完全にロックオンされていた。
「いやぁ流石は先生、お目が高い! ……リボルバーって、カッコイイですよねぇ……?」
「おーい、村崎~? 一瞬で目が濁った気がするぞ~? テストの時と同じ目になってるぞ~? それにな? リボルバーばっかり見てるけど、ヘッドキャノンも良いもんだぞ? ていうか、勝ったとしてもリボルバーじゃなくて余ってるヘッドキャノンをm」
「そりゃ難しいですよ」
 醤は濁った目を細め、口角を吊り上げる。
「真剣ロボトルでは、『壊したパーツ』から、『ランダム』でパーツを勝ち取る』んですから。……ねぇ、先生?」
 あっ、勝ったら絶対リボルバーぶん取る気だコイツ。圭一、そして傍らで傍観している醤の友人・佐藤甘太(サトウカンタ)と尾根翠(ビネスイ)の確信はシンクロした。Ms.マーガリンは拡声器を口に当て、意気揚々に喋る。
『ショウ選手!! ロボトル前から殺る気満々です!』
「アレ、気の所為かな? 今、漢字変換がおかしかった気がする」
 Ms.マーガリンの言葉に、圭一は首を傾げる。その間に、窓に手を掛け、ひょっこりとカグラが現れた。
「ショウではないか! 大事無いか?」
「カグラ! グッドタイミングだけど、どうした? わざわざ来るなんて珍しい」
「今しがた、『虫の知らせ』が届いたのだよ。はて、ここいらで困っておる者は……?」
「多分、お前の対戦相手だと思う」
「何だか訳わからん単語は良いとして村崎、それは先生の事か?」
 あっけらかんと答える醤に、圭一は最早乾いた笑いしか出てこない。甘太と翠は、『虫の知らせ』を飛ばす程困り果てている圭一に、内心同情した。軽々と廊下に降り立ち、カグラは圭一に挨拶した。
「お初にお目に掛かる。ワシの名はカグラ。孫のショウがいつも世話になり、かたじけない」
「これはこれは、御丁寧に……担任の的間です」
「ホントすいません、先生。リボルバー貰っちゃって」
「だから早いぞ! さっきから! 先生は不本意なんだ!!」
 理不尽な言動を放つ醤に、圭一は泣きそうになりながら訴えた。圭一と握手するカグラの右腕は、現在、ア・ブラーゲのパーツ・フェンシング。事情を知る者からしたら、見慣れない右腕はどこか痛々しい。
「そうだ! 室内なら……パーツ転送、ソッコー!」
 醤が思いついたようにメダロッチの画面を押すと、カグラの脚部が光に包まれ、サボテンナのパーツ・ソッコーが装着された。
「……やっと見つけた、リボルバーだ」
 醤は、そのままメダロッチを構え。
「絶っっっ対逃がさねえ……!!」
 鬼も裸足で逃げ出すような顔で笑った。『リボルバー絶対奪うマン』の完成である。周囲が青ざめる中、カグラだけは違った。
「ショウは大袈裟よのお」
 この温度差である。他にもう一人、こんなトチ狂った状況でも平気な人間がいた。
『それではっ、合意と見て……アレー? 先パーイ?』
 掛け声の途中で、Ms.マーガリンはいつの間にかいなくなった相方を探す。すると。
「キャーッ!!」
「イヤアアアア!! 入ってこないでぇ!!」
「いでっ!! いでででっ!? 何故っ、何故ボクらは理解し合えない!? 何故、すぐに『暴力』という悲しい手段を選ぶ!? だから、この世から戦争が無くならないんだ!! さあ、今こそ……!!」
 悲鳴の合間に聞こえてくるのは、わざとらしいまでの持論。Mr.ジャムは、両腕を広げ。

「『服』という虚構の殻を脱ぎ捨て、裸で抱き合おうじゃないか!!」

 更衣室で着替え中だった女子学生達に、生まれたままの姿を披露していたのであった。Ms.マーガリンによる通報で、駆けつけたセレクト隊員はすぐに連行する。
「違うんですよ、『抱き合う』ってそういう意味じゃ……え? 『裸がアウト』? ちょっと何言ってるかわからないですね。そもそも、オリンピックの始祖はみんな裸で……」
「……何でうちの学校は、次々と変質者が湧くんだ……?」
 Mr.ジャムと、楽しそうにハンカチを降るMs.マーガリンを見て、圭一は自分の職場のセキュリティを憂いた。言わずもがな、運動会におけるタバスコの一件もあるだろう。満足したらしいMs.マーガリンは、笑顔で拡声器を構える。
『気を取り直しまして、合意と見てよろしいかなー!?』
 決して、合意ではないだろう。今の今まで、この女は何を見ていたというのか? 漠然と考える圭一に、彼の愛機・ブルースドッグは慌てて声を掛ける。
「しっかりしてください、マスター!! 要は、ロボトルに勝てば良いんです! 頑張りましょう!」
「そ、そうだな……すまん、カーゴ」
 『カーゴ』と呼ばれたブルースドッグは、普段であれば決して圭一に意見しない。そんなカーゴの言葉は、圭一を鼓舞し、覚悟させるには充分の威力だった。俯いていた圭一は、顔を上げる。
「……よし、先生がただのメダロットコレクターではない所を見せてやる。行くぞ、村崎!」
 そんな圭一を見据え、醤は笑った。
「へっ、そう上手くいくかなぁ……?」
「この作品の主人公って誰だっけ?」
「俺に聞かないでくれ……」
 下衆な笑顔を浮かべる友人の姿に、甘太は尋ね、翠は目を逸らした。Ms.マーガリンは、双方のやり取りを全く気にする事無く、手を振りかざす。

『それではー、ロボトルゥゥゥ……ファイトオ!!』

 Ms.マーガリンが手を振り下ろした直後、先に動いたのはカーゴの方だった。
「カーゴ! リボルバー!」
「了解!」
「構うなカグラ! サブマシンガン!!」
「心得た!」
『右腕パーツ、ダメージポイント二十五』
 カーゴが放った二発のライフルが右腕に被弾するも、カグラは指示通り、カーゴの進行方向を銃撃する。
「!?」
『おおーっと!! 先手はカーゴが打ちましたがカグラ、物ともしていません! ガトリングの雨がカーゴを追うー!』
「くっ! カーゴ、サブマシンガン!」
 みすみすガトリングを浴びる訳に行かず、カーゴは足を踏み締め、逆方向に飛びながらマシンガンを撃った。
「カグラ! 後退!」
「あい、わかった!」
『まずは、お互い様子見といった所! 今回のフィールドは、この廊下か!? はたまた、教室かー!?』
 カグラの回避後、弾丸は廊下上で散らばる。圭一は、苦々しく笑った。
「……村崎、よく気付いたな」
 圭一の言葉を聞き、醤は少しだけ顔を上げる。
「はい、二脚は小回りが利きますから。折角車両に変えたのに、障害物が多い教室に飛び込まれたんじゃたまったもんじゃありません。言いましたよ、」
 醤は、不敵に笑い、ロボトル前の言葉を繰り返した。
「逃がしません」
 圭一は、長い溜め息をつき、天井を仰ぐ。
「正直、驚いたよ。頭の回転の早さが素晴らしい。担任としては、次のテストの点数が楽しみな所だが……村崎、やっぱり廊下でロボトルは駄目だったんじゃないか? 既に教室の扉が多分これ、変形して開かないんだけど」
「先生、大丈夫です! ナノマシンで復活しますんで!」
「ナノマシンが治すのは、メダロットだけだぞ? ナノマシンに学校の修理は、荷が重いんじゃないか? とりあえず、反省文は覚悟しとけよ?」
「リボルバーが手に入るなら何枚でも書きます、そんなもん!」
「お前とリボルバーに一体何があったんだあああ!? 何枚も書かれてたまるか!!」
 狂気的なリボルバーへの執着に、遂に圭一は聞いてしまった。ロボトルに敗北した事は明白だったが、例え返答が得られなくとも、聞かざるを得なかった。ロボトル後に対する現実逃避からか、圭一は無我夢中に指示を出す。
「カーゴ!! 両腕、一斉射!!」
「カグラ! 飛べ!!」
『飛んだアアアアア!! カーゴの銃撃回避! カグラは上空で目標を定めます!』
 直後、勢いよく車輪が回る音を聞いた。カーゴの銃弾を避け、カグラは助走をつけて飛び上がる。
「よし! ミサイル!!」
「心得た!」
 下方目掛けて飛んでいくミサイルは、一斉射撃により足を踏み締めていたカーゴを容易に捉えた。
「よっしゃあ!!」
『ミサイル命中ゥ!! クリティカルです!!』
 右腕を突き上げる醤を、甘太と翠は応援する事無く、ただ茫然と見ている。
「やっぱ強ぇなあ、二人共……」
「はは。本当にな」
 相手も場所も関係なく猛攻を仕掛ける醤に、翠からは苦笑しか出てこない。一度結んだ後、翠は口を開いた。
「……こんなに強くても、勝てなかったんだよな」
「……まーな」
 甘太は、祭りの夜を思い出す。きっと、隣にいる翠も思い出しているのだろう、と僅かに目を伏せた。古戸宗輔(フルドソウスケ)と愛機・ジェームズに圧倒的な力差を見せつけられ、二人が敗北する姿を上手く思い描けない。しかし。
「次は勝つだろ」
 一つの淀みも無く言い切った甘太に、翠は目を丸くする。それがどこか可笑しくて、翠は素直に笑った。
「ああ、そうだな」
 甘太も、翠も。目の前の友人が同じ相手に負ける姿の方が、想像もつかなかったのである。そんな、本人はというと。
「カグラぁ!! 正面にサブマシンガン全開!! わぁーっはははははははは!!」
『きっちり狙いを定め、煙に向かって全力射撃! 鬼です! ここに鬼がいます!』
 最早、勝ったつもりで容赦なく指示を出していた。紛れもなく鬼なのだろうが、醤も、Ms.マーガリンにだけは言われたくないだろう。吸いまれていく弾丸に、奥歯を噛み締めていた圭一だったが、意を決してメダロッチに吠えた。
「カーゴ!! 何も心配するな、こじ開けろォ!!」
「え、何を?」
 目が点になっている醤を余所に、ライフル音。そして、力任せに戸の開かれる音が響いた。
「えっ、先生まさか……!?」
 圭一の立場から考えても、予想だにしていなかった。低い笑い声が、耳をつく。
「減俸怖くてロボトルできるかあああ!! やるからには勝ぁつ!!」
『おぉーっと!! お見事、カーゴは教室に逃げ込みました! 形勢逆転なるかー!?』
 圭一の顔も、修羅に仕上がっていた。煙が晴れると、やはり廊下にカーゴの姿は無い。カグラは少し開いた戸に背を預け、銃撃を喰らわぬよう、慎重に教室を覗き込んだ。
「カーゴ!! ヘッドキャノン!!」
「おわっ!?」
 カグラが素早く首を引っ込めると、ライフルが壁にめり込んだ。煙が上がる弾丸からは、如何程の威力か伺える。
『カグラ、防戦一方です! 飛び込まず、一か八かの判定勝ちに賭けるか!? それとも、被弾覚悟で教室に飛び込むのかー!?』
 カーゴは現在、機能停止パーツが無い。このまま教室に飛び込めば、カグラは蜂の巣だろう。一息つき、醤に話し掛ける。
「ショウ。確認できたのは一瞬だが、どうやら机で防壁を作っているようだ」
「バリケードか、早いこって。隠れて攻撃されたんじゃ、たまったもんじゃねぇ。だったら……」
 目に強い光を宿し、醤は口角を上げた。
「崩すっきゃねぇよなあ……!?」
「うむ、それしかあるまいな」
 カグラは、落ち着ききった声で頷き、教室の戸に手を掛けた。
『これぞまさにロボトル!! カグラ、銃弾の海に飛び込みました! 狭い室内で車両がどこまで活躍できるのか、目が離せません!』
「来るぞ、カーゴ! サブマシンガン!!」
 手の位置より身を屈めて飛び込んだカグラは、それでも数発被弾した。
「くっ……!」
『頭パーツ、ダメージポイント十七』
「カグラ!! ミサイルで裏を吹き飛ばせ!」
「わかった!」
 放たれたミサイルは、バリケードの裏で爆ぜた。
「カーゴ!! 右に回り込め!!」
「了解!!」
 煙を上げながら、飛び出すカーゴ。既に右腕は黒ずんでおり、ただ体にぶら下がっていた。しかし、カーゴのサブマシンガンは、右側からカグラを完璧に捉えている。カグラの右腕は一瞬反応したが、何も行動せず、カーゴと同じパーツを向けた。
「「サブマシンガン!!」」
 醤と圭一の声が重なり、ガトリング同士がぶつかり合う。
『両者のサブマシンガン炸裂ウウウウウ!! 同じパーツだからなせる画ですね、圧巻です!!』
 無論、外れた銃弾は双方の装甲を削っていく。
『右腕パーツ、ダメージポイント五十一。左腕パーツ、ダメージポイント百。機能停止』
『カグラのサブマシンガン、機能停止! 一瞬の間が命取りとなったかー!?』
 カグラは音を立てて後退し、黒くなった左腕を押さえる。頭では理解しているはずなのに、この右腕は確かにライフルを撃とうとした。『何十年もリボルバーをつけていたから、無理もない』、と言う者もいるだろう。しかし、ただ自分のふがいなさに苦笑した。
「ショウは……凄いな」
 あんなに渇望しているリボルバーの頭文字も、口から出なかった。普段何かと熱くとも、ロボトルでは冷静な判断も可能なため、ある程度頭を切り替えているのだろうが。カグラは、リボルバーを失った事実を、醤が痛い程理解している事を、指示をもって思い知らされた。
「うるせぇ!! オレ褒めてる暇あんなら集中しろ!!」
「…………面目ない」
 左腕の機能停止についてしっかり怒っていた醤に、カグラは深々と頭を垂れた。カグラを叱った後、醤は頭の中で作戦を組み立てていく。ここが、正念場だ。自分に言い聞かせ、メダロッチを構えた。
「カグラ!! 何としても壁壊すぞ!」
「……心得た!」
 カグラは、真っ直ぐ前へと駆け出した。圭一は、カーゴに指示を出す。
「カーゴ!! ミサイルだけ気を付けろ! 後は、近付かない限り当たらない! サブマシンガン!!」
「わかりました!」
 カグラに残された行動は、二回分のミサイルと、ソード攻撃。言葉通り『付け焼刃』のパーツに、圭一は脅威を感じていなかった。
『右腕パーツ、ダメージポイント八十四』
「カグラァ!! 床にぶっ刺せ!」
 カグラは身を屈め、床にフェンシングを突き立てる。
「なっ!?」
『カグラ、フェンシングを床に突き刺したァ!! 一体全体、何をしでかそうというのかー!?』
「ぶっ壊せえええええええ!!」
「っおおおおおおおお!!」
 フェンシングを軸に、カグラは体を捻り、机のバリケードを横から蹴散らした。
『カグラの回し蹴りでバリケード大破アアアアア!! カーゴは全身ガラ空きです!!』
 バリケードが無くなった今、カグラとカーゴの目が合う。液晶の奥にあるカーゴの目は、殊更丸かった。
「いけエエ!! ミサイルゥゥゥ!!」
 醤の指示の直後、爆風がカーゴを包み込む。音を立てて、カブトメダルが転がった。

『勝者!! ショウ選手ゥ!!』

 Ms.マーガリンは高らかに宣言し、しゃがんでカグラの左腕を持ち上げた。床からフェンシングを引き抜くと、カグラの体はナノマシンにより回復していく。
「いやぁー!! 見事なまでに教室ボロボロですね、先生!」
「もれなく先生の心もボロボロだけどな……」
 机や椅子が散乱する教室に入る、醤と圭一。珍しく、醤の笑顔もまるで快晴のようである。圭一は、拾ったカーゴのメダルをメダロッチに入れた後、醤に確認した。
「…………なあ、村崎。今からでも遅くないよ、ヘッドキャn」
「リボルバー一択で」
「さっきの威力、見ただろ? 良いぞー、ヘッドk」
「リボルバー 一 択 で」
 笑顔で重圧を掛ける醤に、圭一は涙ながらにリボルバーを差し出した。
「チクショオオオオオ!! こちとらリボルバー様の滞在時間、一日だぞ!? こんな事あんのか!? あってたまるか馬鹿野郎オオオオオ!!」
「よっしゃああああ!! リィボルバァアアアアアアアー!!」
 圭一はひたすら床を殴り、醤は入手したリボルバーを天井に掲げている。テンションに雲泥の差はあれども、どちらもうるさかった。醤は、嬉々として早速メダロッチに登録し、カグラにパーツを転送する。カグラの右腕と脚部は光に包まれ、脚部にはオチツカーが、そして右腕にはリボルバーが装着された。満足気に、醤は何度も頷く。
「やっぱ、一式揃ってるとしっくりくんな~!!」
「……」
 カグラは右手をじっと見つめ、開閉を繰り返す。何も喋らないカグラに、醤は首を傾げた。
「カグラ?」
「……いや、」
 返事をしながらも、右手から目を離す事無く。
「何でも無いのだよ」
 カグラは、ゆっくりと力強く拳を握った。





 鎖界町の、夜。
 古びた一軒家で木造の戸を叩く音に、宗輔は顔を覗かせた。
「おうおう、誰だア?」
「夜分遅くに、申し訳ない」
 声のする方まで視線を下げると、佇むカグラと目が合った。
「アンタぁこないだの……よく家わかったな」
「虫達に聞いたのだよ」
「ハハア、変わったヒトだねエ! まぁ上がんな」
 宗輔は笑い飛ばし、カグラに背を向ける。
「此処で構わん」
 背中に降ってきた否定の言葉に、宗輔は真顔で振り向く。そーかい、と短く返答し、相手の言葉を待った。俯いたカグラは、口を開く。
「……恥を忍んで、頼みがある」
 カグラは、宗輔の目を真っ直ぐ見上げた。液晶の目に、意志を持った光が宿る。
「先日のリボルバーを……ワシらとの再戦まで、使わないでくれぬか?」
 宗輔は、二回瞬きした。すぐに合点がいかず、乱暴に頭を掻く。
「『リボルバー』? ……ああ」
 祭りのロボトルで、目の前のメダロットからリボルバーを勝ち取ったのを思い出す。記憶の中でも、友人は酷く悔しそうな顔を浮かべていた。しかし、あの時と同じリボルバーが、もうカグラにはついている。
「つうか、もうついてるじゃねエか」
「『これ』ではない」
『これ』と呼んだ手を握り締め、カグラは言った。
「言える立場ではないが……とりわけ、大事なパーツなのだよ……!」
 宗輔は、カグラの思いが全く理解できなかった。どれだけ見ても、紛う事無きリボルバーである。しかも、宗輔はロボトルで負けた事が無いため、当然パーツを取られた事も無い。考えるのが苦手な性分だったのもあり、頭の中で『勝者と敗者の違いである』と割り切った。
「大事なパーツなら、何で負けたんだ」
 吐き捨てるような言葉に、カグラの目が大きく見開く。宗輔の言い分は、尤もだった。『力量不足』と言ってしまえばそれまでだが、それでも自分は決して負けてはいけなかったと、自責の念が襲う。
「……!」
「……気にすんな、今のは仕返しだ」
 不機嫌そうな顔から一転、宗輔ははにかんだ。頭の後ろで手を組み、言葉を続ける。
「舐めてくれるモンだと思ってよオ? 負ける訳ねエだろうがよ、俺達が。んな小っせエ事心配してる暇があんなら……」
 宗輔は親指で自分を指し、大胆不敵に言い放った。
「さっさと強くなって、ぶん取り返しに来なア!!」
 雷に打たれたような、衝撃だった。そうだ。醤は、欲しくてやまないこのリボルバーを見事勝ち取ったのだ、とカグラは思い返す。ならば、自分は。
「かたじけない。……そうだな」
 右腕から力を抜き、カグラは宗輔に応えた。
「それが、筋というものだ」





 翌朝。御守高校、二年D組の教室にて。
「……なっ、波花!」
 着席していた波花梓音(ナミハナシオン)は、醤に呼ばれて顔を向けた。いつもと変わらないように見えるが、その視線は確実に数段冷たい。醤がなかなか話を切り出せず、考えあぐねいていると、向こうから言葉が掛かった。
「…………何か用?」
「よ、『用』っつーか、そんな大それたモンでもねぇっつーか……?」
「朝礼が始まるから、さっさとして」
 梓音から急かされ、醤は喉が詰まったような顔をした。何とか喉を鳴らし、たどたどしく話し始める。
「あっ、あのな? ……ジジイの右腕、リボルバーに戻ったんだ」
「!」
 梓音は、僅かに目を見開く。突き刺すような視線の温度も、幾何か柔らかくなったように感じた。
「つっても、元のパーツじゃねぇんだけど……」
「……そう」
 言うや否や、梓音は目を背けた。確かに、こんな短期間で勝てるようになる相手ではない。それでも。
「でも、アイツには絶対勝つ」
 梓音が視線を戻した先には、真剣な醤の姿があった。
「まだ『いつか』だけど、絶対だ!」
 力強い宣言だった。梓音は一度だけ瞬きし、小さく頷く。
「……うん」
 梓音には、それ以上も、それ以下の言葉も言えなかった。もう用事は済んだと思い、梓音が正面に顔を戻すと、醤は慌てたように回り込む。
「あっ! そうじゃなくて! いやっ、それだけじゃなくて……!」
「何なの? 本当に……」
 珍しく歯切れが悪過ぎる醤に、梓音が溜め息をついた時だった。
「ごめん!!」
 微塵も予想だにしていなかった言葉に、梓音は硬直した。かろうじて動いた口が、短い声を吐く。
「…………え?」
「あれ、っは……完全に八つ当たりだった! 悪かった! すいませんでした、波花さん!!」
 謝罪すると、醤は勢いよく頭を下げた。先日の、佐藤商店での一件を言っているのだろう。梓音は、への字に曲げた後、口を開く。
「……村崎、顔上げて」
「波花……」
 許してくれたのか、と思った直後。
「オ゛ッフ!?」
 凄まじい速度で、梓音の右拳が、醤の腹に埋まった。両腕で腹を抱え、醤は悶絶する。蹲った醤を見下し、梓音は尋ねた。
「……満足した?」
「こっ、ちの台詞だこのヤロォオ……!!」
 内心安堵した事は、互いに知る由も無かった。





メダロッチ更新中……――
・リボルバー(KBT-12。うつ攻撃:ライフル)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「チャンチャカチャカチャカチャンチャンチャ~ン♪ チャカチャカチャンチャンチャン♪ チャン♪ じじ孫! 三分メイキング~!」
カ「このこぉなぁでは、次回の話に必要なモノを揃えていくのだよ」
醤「それではカグラさん、次回のアイテムを教えてください!」
カ「えー、人物・三人。掃除機・三台。それと、ましゅまろまn」
醤「違うよな?」
カ「……ましゅまr」
醤「違 う よ な ? 次回、『六角形の神サマ』第弐拾話! 『恋之神様(前篇)』!」
カ「舞台・米国」
醤「いい加減にしろ!! この作品自体無かった事にされんぞ!!」

六角形の神サマ 第弐拾話/恋之神様(前篇) ( No.20 )
   
日時: 2020/03/07 21:30
名前: 海月

「はぁー……帰るの遅くなっちゃってごめんね、リボン」
 御守町、夜。
 長い溜め息をつきながら、蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)は買い物バッグをぶら下げ、街灯が疎らに照らす長い路地を歩く。その隣で『リボン』と呼ばれたセーラー型メダロット・セーラーマルチは首を横に振った。
「ううんっ、気にしないで! スイ君、またお弁当喜んでくれると良いね!」
 どうやら、バッグの中身はお弁当の材料らしい。リボンに言われ、蜜希は恋人・尾根翠(ビネスイ)の笑顔を思い浮かべ、頬を赤らめて俯く。
「うん、そだね……リボンも応援してくれてるんだから、頑張らないとね!」
「みっちゃん、その意気だよ!」
 リボンのガッツポーズを見て、蜜希ははにかんだ。明日のお弁当は何を作ろうか、リボンに相談しようとした矢先。
「キャア!?」
 リボンの体が、強い力で後ろへと引っ張られた。蜜希は慌てて振り向き、腕を伸ばす。
「リボンッ!?」
 振り向いて、硬直した。直後、全身から力が抜け、蜜希は道の真ん中へ座り込む。
「……あ、あ……や、ごめんなさっ……!」
 涙も震えも止まらず、血の気は失われていく。やがて、静かな町に、蜜希の悲鳴が木霊した。
「いやあぁあああああっ!!」





『六角形の神サマ』 第弐拾話/恋之神様(前篇)





「どーしたんだよ、みっちゃん!? こんな所に、手紙で呼び出すなんて……よ」
 御守高校、昼休み。音楽準備室にて。
 村崎醤(ムラサキショウ)は、無言で俯く蜜希を前に困惑していた。『困惑している』と言っても、だらしない笑顔を赤らめ、手にはしっかり可愛らしいメモを握り締めている。
『昼休み。誰にも内緒で、音楽準備室に一人で来てください。――蜂矢蜜希』
 以上が、丸い文字でメモに書かれていた内容である。醤は視線を外し、頭を掻きながら言葉を続けた。
「……オレさー、みっちゃんの事は友達だと思ってて。いや、悪い意味は全然無いんだけど! んで、尾根ともダチだろ? だからさー、何つーかなー……」
「……ムラサキ君、」
 蜜希に名を呼ばれ、醤の頭の天辺まで血が一気に駆け上がる。ヤカンだったら、沸騰していた事だろう。醤は、テンションのまま蜜希に告げた。
「みっちゃんに告られたら、尾根に悪いっつーか……!」
「ごめんなさい!!」
「オレがフラれんの!?」
 驚愕のあまり、醤の声は大きくなった。完全に告白される体でいたのだ、仕方が無い。しかし。しかしである。普段仲睦まじい様子を目の当たりにしているにも関わらず、友人の恋人から呼び出されるや否や『オレってば告白されちゃうんだ』と浮かれるのは、道徳的に如何なものだろうか? 確実に、第陸話の教訓がこの男には全く生かされていない。
 そんな醤の心境を当然理解する術もなく、蜜希は叩きつけるように言い放った。
「助けてっ!! リボンが攫われちゃったの!!」
 蜜希の言葉に二回瞬きをした後、首を横に倒す。
「…………へぃ?」
 素っ頓狂な台詞を吐いた後、蜜希の顔が歪んだ。そのまま、ぼろぼろと大粒の涙を零し始める。
「うっ、ぇぐ……ふうううぅう……!」
「みみみみみっちゃん!?」
 蜜希の涙に動揺した醤は、声をどもらせながらも何とかしようと駆け寄った。どうあがいても、女の子の涙には滅法弱い。例え、日頃どんなに喧嘩している女性相手だろうと、泣かれたら醤は一切の反論が出来なくなってしまう。泣き止んで欲しい一心で、醤は声を掛けた。
「とりあえず落ち着けって!! ハンカチッ……は持ってねぇから、ティッシュ!! ティッシュ持ってるから!! 悲しいよなぁ!? 友達攫われたんだもんなぁ!? 話ならいくらでも聞くし、オレに出来る事なら何でもするからさぁ!!」
「ひっく……ホン、ト……?」
「マジマジ!! マジで何でもする!!」
 嗚咽を漏らす、蜜希。しかし、醤の必死が過ぎる呼び掛けに涙を止め、ようやく微かに笑った。
「……ありがと、ムラサキ君」
「おっ、おう!!」
 蜜希につられて、醤も笑う。照れ隠しで頭を掻いていると、蜜希は首を傾げた。
「そういえば、『ふられる』って何が降って……?」
「気の所為じゃねぇかなああ!?」
「きっ、気の所為かぁ。そっかぁ……」
「全力でそう!!」
 あまりの醤の気迫に、蜜希は納得せざるを得なかった。それを押し通すがため、醤は力強く何度も頷く。
「それより、リボンの話詳しく聞かせてくれよ!! あっ!?」
 ぐるるぅ。醤の腹の虫は、空気を読まない程に正直過ぎた。言葉を失い赤面する醤に、蜜希は柔らかく笑い掛ける。
「……わたしのお弁当で良かったら、食べながら話そ?」
「さ、さんきゅー。みっちゃん……」
 微笑む蜜希に頬を染め、醤は差し出された弁当箱を受け取った。やはり、可愛い。流石は、陸上部のマドンナ。選手達をよく観察し、献身的にサポートしていると、マネージャーとしての評判が良い。更に、彼女が出席している大会では、本校の陸上部が全勝しているらしく、『勝利の女神』とも噂されている。しかし、忘れてはいけない。素晴らしい彼女には、それはもう素晴らしい彼氏がおり、何より醤の友人である。伸びそうな鼻の下を戒め、醤は振り切るように声を張り上げて誤魔化した。
「へっへへ!! みっちゃんの弁当とか、バチ当たりそうだな!? いっつも、尾根が羨ましいと思ってたんだよ!!」
「バチなんて当たらないよ。ホントは、スイに作ってきたんだけど……食べてくれたら嬉しいな」
 二人は、その辺にあった椅子に座りながら話す。蜜希が少しだけ俯くと、醤は不思議そうに尋ねた。
「オレも、みっちゃんの弁当食べれて嬉しいけどよ……何で渡さなかったんだ? それこそ、リボンの話だって尾根にしたら……」
「それはダメッ!!」
 いきなり大声を出され、醤の肩は僅かに跳ねた。
「えっ!?」
「……ごめんね、大声出して。でもっ……!」
 蜜希は、膝の上でスカートを握り締める。そして、震える声で続けた。
「わたしの所為でリボン、いなくなっちゃったんだもん。スイにっ、知られて……幻滅されたくない。嫌われたくないのっ……!」
「わーっ!? ごめん!! オレが悪かった!!」
 今にも涙が溢れ出そうな蜜希に、醤は慌てて謝罪した。涙を拭いながら、蜜希はそれを否定する。
「ううんっ、ムラサキ君は全然悪くない。わたしが、バカだからっ……リボンとられちゃったぁ……!」
「あーっ、弁当超美味そう!! いっただっきまーす!!」
 誤魔化すレパートリーが早々に底を尽き掛け、醤は弁当箱を開けて手を合わせた。やはり、女の子の手作り弁当は、こんな時でも輝いて見える。醤は勢いよくおかずを口へと放り込み、感想を言うべく笑顔を作った。
「うん、めっちゃ美味しゴフェアウェッ!?」
 が、呻き声と共にすぐ吐き出される。
「ムラサキ君!? 大丈夫!? ほら、お茶だよ!」
 目の前で激しく咳き込む醤を見て、蜜希の涙は引っ込む。代わりに、今度は心配から涙を浮かべ、背中を擦りながら水筒を差し出した。
「ウッ、グ……」
 醤は、麦茶を飲みながらも、現状を飲み込めずにいた。確かに、自分はタコさんウィンナーを食べたはずだ。豚肉本来の旨味と絶妙な塩加減を、期待して食べたはずだった。しかし、口に入ってきた『ブツ』は、肉の味が確実に死んでいた。まるで、ゴムを齧っているような食感と、舌を蜂の巣にするような苦味。防衛本能が、体内での残存を拒んだのだった。ようやく落ち着いた時、醤の目には涙が滲んでいた。
「……うまい」
 お茶が。人生で初めて、お茶に感動した瞬間であった。
「ホント!? 良かったぁ~!」
 手を合わせて喜ぶ蜜希を見て、醤は全力で思った。毒殺されても、許せる可愛さ。そんな笑顔を困らせ、蜜希は醤に頭を下げた。
「……ごめんね?」
 それに、きちんと謝ってくれるではないか。今は、料理修行中の身なのだ。この気持ちがあれば、いつか美味しく作れるようになるだろう。
「やっぱり……ちょっと、大きく切り過ぎだよね?」
「へ?」
「お弁当を作るようになって最初の頃は、スイもよく噎せてたの。それで、小さく切るように頑張ってるんだけど……どうしても、一口を大きく切っちゃうみたいで。それでも、最近スイが噎せずに食べてくれるから、やっと直せたと思ったんだけどなぁ~。スイのはきっと、慣れだよね? ごめんね、ムラサキ君」
 そう言いながら表情を崩さず自分の弁当をつつく蜜希に、醤は顔を青ざめた。違う。翠が慣れたのは十中八九味であるし、一口が大きくて噎せた訳では決して無い。蜜希の自覚の無さが、醤を冷静にさせた。『メシマズ』とは本来、見た目からもうヤバイのではないだろうか? 毒物だって、あんなに危ない色をしているのだ。それなのに、あんなに完璧な外観をされては、警戒心が薄れる。覚悟が出来なくて、つらい。この外見に騙され続けた友人を思い、醤は内心涙した。ていうか、何で普通に食べてらっしゃるのだろうか? 最早、彼女は別の生命体なのかもしれない。醤は疑問を押し殺し、乾いた笑顔で頷いた。
「……みっちゃんは、天才だよ」
 食品サンプルの。
「えぇー!? 全然そんな事ないよぉ! ウィンナーとかちょっと苦くなっちゃったし!」
 『ちょっと』ではない。しかし、僅かに味の違いがわかる事実に醤は安堵した。彼女の舌は、頑丈なシェルターに守られているに違いない。
「ホラホラ、遠慮しないで食べて!」
「あざーす……」
「それで、その……申し訳無いんだけど、リボンの話をしても良い?」
「…………勿論です」
 醤には、リボンの話が昨日のように感じられた。どうやら、蜜希の弁当は時間を吹き飛ばす事が出来るらしい。しかし、友達がいなくなっている一大事だ。いつまでも、ふざけてはいられない。醤は、気持ちを切り替え、真っ直ぐに蜜希を見つめた。
「……ムラサキ君は、」
 最初は戸惑っていた蜜希だったが、やがて意を決し、口を開く。

「『神様』って……信じる?」

 醤は、静かに目を見開いた。思い浮かべるのは、今の話とは真逆の、のんびりとした翁だ。何故、ここでカグラの名が出てくるのか? 様々な葛藤から答えられずにいると、蜜希は言葉を続けた。
「……ううん、いきなり突拍子無い事言ってごめんね」
 蜜希は視線を外し、手をこまねく。
「でも……聞いた事無いかな? 『御守神社には、昔から神様が住んでる』って話」
 醤にとって聞いた事があるどころか、随分身近な話だった。噂になるくらいには、長い年月をかけて人助けをしてきたのだろうと、醤は一人実感する。醤の心境を露知らず、蜜希はたどたどしく語った。
「それで……この間、神社が壊されちゃったでしょ? 誰だって、自分の家が無くなるのはやだよね。もしかしたら……それで、怒ってるのかも」
 確かに、怒っていた。どこぞの変質者により神社が大破され、木片が綺麗に撤去された日は、珍しく悲しんだり怒ったりと忙しなかったが。
「いや、そりゃ怒るかもしれないけどよ。だからって、何で神様がリボンを、」
「リボンが攫われた路地が、御守神社の石段の前なの」
 醤の言葉が、ぴしゃりと遮られた。どんな理由かは知らないが、蜜希は犯人の正体を『確信している』。
「わたし以外にも、同じ場所でメダロットとられちゃった子、いるんだって。きっと、気に入らない子を神隠ししてるんだよ」
 スカートに乗せられた両拳に力が入るのが、醤にはわかった。
「わたしだって、夜に出歩いてた悪い子だもん……。それで、神様に狙われてっ、なのに、リボンがわたしの代わりに、リボンが、ひっ……!」
 話していて記憶が鮮明になったのか、拳を緩めて顔を覆い、蜜希は座ったまま泣き崩れた。
「どうしよぉ、ムラサキ君……!」
「神様じゃねぇよ」
 隣から飛んできた低い声に、蜜希は顔を上げる。拍子に涙が一粒零れるが、そんな事は気にならなかった。寧ろ、笑顔を完全に消し、眉間に皺を寄せる醤に恐怖を覚える。
「……え……っ?」
 醤は怒っているのだと、すぐにわかった。何故怒らせたのか思い至ったところで、蜜希は涙を拭いながら謝罪する。
「ごめ、んね……真剣な話してるのに、『神様』なんて信じられるわけ、」
「違ぇ」
 声色は幾分か優しくなったが、真剣な表情は変わらない。醤は射抜くような目で蜜希を見たまま、それこそ『確信』を持って言い放った。
「オレの知ってる『神様』は、そんな事するヤツじゃねぇんだ」





「カグラは昨日の夜、オレより先に寝た」
「如何にも」
「もしカグラだとしたら、オレが寝た後家を出た事になる。が、それだとみっちゃんの帰宅時刻と合わなくなる。と、なると、カグラは今回の事件と無関係だ。そこで……」
 名探偵よろしく、醤は指を立てて教鞭代わりに降っていた。しかし、すぐさま拳に変え、渾身の力を込める。
「犯人見つけてボッコボコにしてやる!!」
 歯も闘争心も剥き出しにした醤の声は、夜の御守神社跡地にこれでもかという程よく響いた。カグラの逆隣にいる翠は、眉を下げて醤を戒める。
「村崎。気持ちはわかるけど、この時間にその声量は近所迷惑だぞ?」
「落ち着いてられっかよ!! リボンが攫われた上に、とどのつまりは風評被害じゃねーか!? 覚悟しとけよ泥棒野郎、ここを犯行現場に選んだ事と生まれてきた事後悔させてやっからよぉ!! ヒャーッハッハァ!!」
「村崎は変なモンでも食べたのか?」
 RPGの魔王の如き形相で笑う醤に、翠は思うがまま冷静に尋ねた。翠に言われて思い出し、醤は突然翠の肩を組む。何事かと慌て、翠は醤を見た。
「えっ、何だよ……!?」
「……なぁ」
 先程とはうって変わって小声の醤に、翠は黙って耳を寄せる。聞く姿勢をとった翠に、醤は耳打ちで話を続けた。
「お前……何で、みっちゃんの弁当平気なの?」
 翠は、僅かに目を見開く。蜜希の弁当の秘密を知る者は、学校で自分以外いないと思っていたからだ。醤だけにしか聞こえないよう、翠も小声で確認した。
「……食ったのか?」
「ああ、相談受けた時にな」
「この野郎」
「あの味でよく『この野郎』って言えたな?」
 僅かに怒気を含んだ翠の声に、醤はツッコんだ。聞きたい事を聞けなくなるため、すぐに話の方向性を切り替える。
「それはさておき。何で普通に食えんだよ、あんな食物兵器?」
「ミツキの弁当の悪口はそこまでだ。……でも、そうだな」
 醤の言葉を制した後、翠は少しだけ考えて、弧を描く口を開いた。
「ミツキが、俺のために時間割いてくれるのが嬉しくてさ。だからかなー? 俺からしたら結構美味いんだよ、あの弁当」
「へいへい、どっちの意味でも御馳走さんでした」
 聞くんじゃなかった、と醤は幾何かの後悔を抱え、言葉に棘を滲ませる。翠はいつも通り笑っているようで、そうじゃない。本当に嬉しそうに話す様に、心から蜜希の事が好きなのだと醤は理解させられた。穏やかな笑顔を湛えたまま、翠は話を続ける。
「それにな? あの弁当をずっと食べてると、段々クセになって普通の味じゃ物足りなくなるっつーか……」
「お前がラーメンに瓶丸ごと調味料かける理由がやっとわかったよ」
 一緒に食べに行った折の奇行が、こんな理由だったとは。究極の味音痴カップル、爆誕である。そんな会話を繰り広げていると、酷く不機嫌な、それで透き通った声が醤を咎めた。
「それで、何でワタシがこんな夜中にお前に呼び出されなきゃいけないの?」
 じとり、と醤を睨み、波花梓音(ナミハナシオン)は腕を組む。醤は、バツが悪そうに弁解した。
「仕方無ぇだろ、女子一人だったらみっちゃん心細いだろーし」
「だからって、今まで喋ったコト無いワタシなんかがいても……!」
「何と。シオンは話した事もない級友のために、わざわざ来てくれたのか?」
「えっ?」
 ゆったりとした声が下方から聞こえ、梓音は目を向けた。慣れ親しんだ声に喜びや期待を覚えて語尾は上がり、頬に紅が差す。
「シオンは本に優しいなぁ」
 頷きながら微笑むカグラに、梓音は口元を押さえて悶えた。ひとしきり感激を噛み締めた後、両手でカグラの手を取り、真っ直ぐに見つめる。
「おじいちゃん、ワタシに出来る事があれば何でも言って」
「おお、それはありがたい!」
「チョロ過ぎかよ」
「うふっ! こんな夜遅くにみんなで集まるなんて、ピクニックみたいですね♪」
「お前は緊張感無さ過ぎかよ」
 両手で懐中電灯を持ち、完全にお出掛け気分のマリアに、醤は呆れて言った。
「ムラサキ君、ムラサキ君っ」
「ん?」
 随分控えめな呼び声の後、小枝の折れる音がした。醤は、大木の後ろに隠れている蜜希に手招きされるがまま近付く。
「どうした、みっちゃん?」
「ムラサキ君、どうしてみんなを呼んだの?」
「え?」
 蜜希の困ったような、それでいて怒っているような物言いに、醤は頭を掻きながら苦笑した。言われた通り、最初に相談していたのは醤のみだ。聞けば梓音と全く会話をした事が無いらしく、緊張しているのだろう。
「いやー……リボン探すなら、人数多い方が良いと思ってさ。悪い、波花と話した事無かったんなら気まずいよな?」
「ナミハナさんじゃなくって……どうして、スイも呼んじゃったの?」
 此方は、予想外だった。しきりに、『自分の不注意でリボンが誘拐されてしまったから、翠に嫌われてしまう』と気をもんでいた事を思い出す。しかし、先程の翠の笑顔を頭上に浮かべ、手を振った。
「やっぱり、尾根には話しといた方が良いって。尾根もスッゲー心配してたぜ~? みっちゃんは何も悪くねぇしさ、んな事で尾根はみっちゃん嫌いにならねぇよ」
「う、うん……」
 胸の前で自身の手を握り、頷く蜜希に、醤も安堵する。何気なく周囲を見回すと、ある事に気付いた。
「おい、カグラ!」
「!」
「珍しく、ずっと難しい顔してんじゃねーか。考え事か?」
 思い返すと、ここへ来てからというもの、カグラは口数が少なかった。梓音やマリア、翠とも底々に喋ってはいるが、それを差し引いても普段より少ない。もしかすると、自分の家が建っていた場所である事や、自分の悪い噂がたっている事に思う所があるのかもしれない、と醤は声を掛ける。
「まあ、いくらお前でも怒るよな。悪くねぇのに、変な噂たてられりゃ……」
「……いや、そうではないのだが……」
「ハッキリしねーなぁ! 良いから言えって!」
 これまた珍しく煮え切らない言い回しをするカグラに、醤は焦れて急かした。醤に言われても暫くは躊躇っていたが、自分を納得させるためか小さく頷き、カグラは答える。
「……すまぬ。お前の友人を、疑う訳では無いのだが……どうにも引っ掛かってな」
「『友人』って……みっちゃんか? みっちゃんが、どうしたってんだよ?」
 顎に手を当てたまま首を傾げるカグラに、醤は言及する。梓音や翠なら、カグラは名前を言うはずだ。敢えて『醤の友人』と表現するという事は、カグラと初めて会った蜜希の事だろう。心情を映しているのか、緑の光は揺らいだ後、醤に向けられた。
「……何故、『虫の知らせ』が来なかったのだ?」
「え……」
 その通りだった。昨晩、『虫の知らせ』は来なかった。本日帰宅後、事実確認をしたら、カグラが『平和が一番』と笑っていたくらいだ。だから、カグラは昨晩出掛けなかった。
 
 ならば、何故。蜂矢蜜希は、リボンが誘拐された際に助けを求めなかったのか?

「……考え過ぎだって!」
 醤は、胸のわだかまりを振り切るように、明るく努めた。醤の気持ちを、カグラも察したのだろう。もう一度、頷いた。
「……そうか。そうだな」
「そーそー! 大体よー!」
 醤はおもむろに足元の小石を拾い上げ、草むらに向かって投げる。
「ギャイン!?」
途端、尻尾を踏まれた犬の鳴き声のような悲鳴が轟いた。草が大きく揺れた後、立ち上がった黒い影は忌々し気に声を上げる。
「おのれぇ、村崎醤! いきなり石をぶつけるとは、何とも姑息な……!」
 出てきたのは、秘密結社テクノポリスが一人・タバスコだった。頭に出来た真新しいタンコブを擦りながら憤る男に醤は足早に近づき、その胸倉を掴み上げる。
「ピィッ!?」
「どぉーせ、今回もお前の所為なんだろ? さっさと盗んだメダロット返せよ」
 眉間にたっぷりと皺を寄せ、タバスコに詰め寄った。タバスコは、勢いよく首を左右に何度も降る。
「違う違う違う違う! 今回は盗んでない! 俺は、お前らに奇襲を掛けようと隠れてだけだ!」
「『だけ』じゃねーだろふざけんな!! 元はと言えば、テメエの所為で神社無くなってんだよ!!」
「今関係無いじゃん!? 頼む、声のボリュームを落としてくれ! そうでないと……!」

 ウフ。

「おい、笑って誤魔化してんじゃねーぞ!!」
「違っ、俺じゃない!」

 ウフフ、フフ……フフフフフッ……。

 女の、笑い声だった。醤は咄嗟に梓音と蜜希を見るが二人は立ち竦むばかりで、キョロキョロしているマリアでもない。
「ギャアアアアア!! お化けええええええ!?」
 タバスコは、醤の手を払い除け、一目散に逃げ出した。笑い声と共にどこからか風が吹き、草木を揺らす。風と木々の音しかない中、醤のこめかみに汗がつたう。
「もし」
 耳元で、同じ声がした。視界の端では火の玉が舞い、醤は、金縛りに合ったように動けない。
「そこの貴方、恋をしてらっしゃるのん?」
 ヒタリ、と冷たい物質が、醤の頬に触れる。得体の知れない感覚、そして意図がわからない質問からの恐怖で、醤の中で何かの糸が切れ、堰を切ったように叫んだ。
「ああ゛ぁああああああ!?」
 次の瞬間。
 銃声が響くや否や、醤の背中の重圧は消えた。硝煙が上がるリボルバーを構え、カグラは醤の身を案ずる。
「ショウ! 大事無いか!?」
「何かヒヤッとしたああ!?」
「……そうか、怪我が無くて何よりなのだよ」
 会話のキャッチボールが不完全だが、カグラは胸を撫で下ろす。
「……全く、ニンゲンは不躾ねん」
 砂糖を煮詰めたような声に、一同は視線を集めた。そこでは、カグラに撃たれたらしい『火の玉』を大事そうに撫で。
「『感謝』というものを知らないわん」
 軽蔑を訴える目つきで醤達を見据える、巫女型メダロット・シャーマンミコが佇んでいた。触れられた頬を押さえ、醤は声を張り上げる。
「誰だテメエは!?」
「あら、聞いた事ないかしらん?」
 シャーマンミコが手を開くと、彼女の周りに火の玉が浮かび上がった。
「私は、『恋のキューピッド様』。気軽に、『キューピッド様』って呼んでねん♪」
 正体を知るや否や、醤から恐怖は消え、胸には怒りが戻ってくる。見るからに怪しいシャーマンミコを指差し、醤は確信を持って怒鳴った。
「キューピッド様だかエンジェル様だか知らねぇが、テメエがリボンを攫ったのか!?」
「まあ!? 風評被害も良い所だわん! 『リボン』てだぁれ? ……あら」
 最初は怒っていたシャーマンミコも、『何か』を見つけるや否や、嬉しそうに笑顔を歪めた。
「また、恋を叶えてもらいに来たのん?」
 びくり、と声を掛けられた人物の両肩が跳ねた。翠は、恐る恐る名を呼ぶ。
「……ミツキ?」
 蜜希は、ゆっくりと顔を上げた。その顔は酷く青ざめており、翠と目が合った途端に一粒、涙が零れる。
「違う。違うの、スイ……」
「失礼ねん! 私はよぉく覚えているわん!」
 空気を読まず、甘ったるい声は止まらない。
「だって貴方、」
「違う。嘘です、やめて……」
「自分の恋を叶えるのと引き換えに、」
「や、嫌っ……やめてええええええっ!!」
 蜜希の悲痛な叫びを無視し、シャーマンミコは言い切った。

「とっても大事な『オトモダチ』、私に捧げたんだものねん?」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「もう字数が無ぇ! 次回、『六角形の神サマ』第弐拾壱話! 『恋之神様(後篇)』! 以上、恋愛回とホラー回は心底混ぜて欲しくない主人公でした!!」

六角形の神サマ 第弐拾壱話/恋之神様(後篇) ( No.21 )
   
日時: 2020/03/20 15:33
名前: 海月

『六角形の神サマ』 第弐拾壱話/恋之神様(後篇)





 蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)は、平凡な人間だった。何事も底々こなし、誰にでも分け隔てなく優しく、交友も幅広い……今の生活が続くのであれば、これといって何も望まない少女だった。
 ところが、御守高校に入学した日。
「御守中から来ました、尾根です!」
 蜜希は、人生初めて、欲しくて堪らなくなった。
「趣味は、体を動かす事です! 運動系の部活に入ろうと思ってますが……正直、たくさんあり過ぎて迷ってます! よろしくお願いします!」
 HRの自己紹介で穏やかに笑う彼の名は、尾根翠(ビネスイ)。スポーツ推薦で入学した少年だ。友人の輪の中ではいつも落ち着いており、蜜希には、他の生徒よりも大人びて見えた。
 だが、体育の授業になると。
「オン・ユア・マークス! ……セット!」
 低く屈み、ゴールを見据える目には、強い光が宿っている。号砲が鳴れば、誰よりも速く駆け抜けた。一番得意だったのは100m走だったようだが、翠は他の競技も上手かった。例えば、サッカーでも。
「尾根、頼むわー」
「佐藤! ナイスパス!」
 ドッジボールでも。
「へぶっ!?」
「仇は取るからな、村崎!」
 一度競技に出れば、いとも簡単にヒーローになれるものだから、当然女子からは大人気だった。
「尾根君良いよねー!」
「こないだ、三年の先輩にも告られたんでしょ!? ヤバくない!?」
「ダイジョーブ! その先輩もフラれたってー!」
「あの先輩がダメなら、もう誰が告ったって無理じゃん!」
 アハハ、と笑いながら、どこのクラスかもわからない女子のグループは、これまたどこかへ消えていった。蜜希が教室に戻ると、当人は運動部にもモテていた。
「尾根! まだどこも入ってないんだろ!? 是非、我が野球部へ!」
「えーっと……野球も良いよなぁ~」
「助っ人来てくれた回数なら、うちが断然多いし! 尾根、サッカーだよな!?」
「ああ、サッカーなぁ……」
「何言ってんだよ! 尾根はウチ来んだよなー!? 中学でバスケ部だったんだろ!?」
 その一言に、蜜希は静かに見開いた。この時点で、蜜希は陸上部に入部していた。仲の良い友人に誘われた事、そして、短距離走が得意なら陸上部に入るかもしれないと期待した事も相まって、足早に陸上部へ入部したのだが……時期早々だったのかもしれない。
「中学でバスケしてたんなら、バスケ部入るよね……」
 誰もいない更衣室で、蜜希は一人呟く。ロッカーの戸を閉めて、考え込んだ。どうしよう。バスケ部に、入部し直そうか? それは、折角誘ってくれた友人に申し訳ない。だったら、自分と翠の共通点はクラスだけ。もしも、クラス替えで離れてしまったら?
 気付けば、蜜希は走り出していた。
『みっちゃん! 『恋のキューピッド様』って知ってる?』
 昼休み。弁当を食べながら話していた、友人の言葉を思い出す。
『御守神社には、恋の神様がいるんだって! 誰もいない御守神社で片想いの子が恋愛成就のお参りするとね、願いが本物なら恋の神様が出てきて、百発百中両想いにしてくれるらしーよ!』
 噂が本当かは、わからない。しかし、蜜希は噂に縋るしかなかった。御守神社のお堂の前で、蜜希は必死に呼吸を整える。
「何も取り柄の無いわたしが、ビネ君と付き合えるなんて……っできっこない……! だから……!」
 噂通り、五十円玉と一円玉を賽銭箱に投げ、蜜希は手を合わせ、力強く目を閉じた。
「お願いですキューピッド様っ……わたしの恋を、叶えてください!!」
 願いを叩きつけるように、叫んだ直後。
「もし」
「え?」
 手に冷たい物が触れ、蜜希は反射的にそちらを見る。目に入ったのは、白い筒。
「そこの貴方、恋をしてらっしゃるのん?」
 巫女の格好をした、メダロットだった。神聖な出で立ちに、蜜希は息を飲んで尋ねる。
「もしかして、貴方が……!?」
「そう、呼ばれて飛び出て恋のキューピッド様よん♪」
「わぁ、本物なんですね!!」
 噂は、本当だった。蜜希は、感激のあまり声を弾ませる。『恋のキューピッド様』と名乗るシャーマンミコから瞳をじっと覗き込まれ、蜜希は思わず顔を引いた。
「な、何ですか……?」
「……その片想い、叶えて欲しいのん?」
 ゆっくり紡がれた質問に、蜜希は何度も頷いた。
「ハ、ハイ! 叶えて欲しいです!」
「どうしても?」
「どうしても、です!」
 そう、とシャーマンミコは、一度視線を外して呟いた。その後、口を開く。
「わかったわん。気に入った、貴方の恋を叶えましょうん」
「あっ! ありがとうございます!!」
 蜜希は、嬉しくて堪らなかった。あの翠と自分が交際できるなんて、今も信じ難い。深々と下げた蜜希の頭に、シャーマンミコの声が降り注ぐ。
「但し、お約束があるのん」
「『約束』……ですか?」
 不思議そうに、蜜希は頭を上げる。シャーマンミコは、右の白い筒で指し示す。指したのは、蜜希のメダロッチだった。
「え……」
「もし、貴方の恋が叶ったら……一年後、貴方のメダロットを頂くわん」
「え!? それは困ります!!」
 蜜希は、衝撃の余り声を荒げた。リボンは、小さい頃から一緒に過ごしてきた、大切な友人だ。翠と付き合うためにリボンを失うなど、蜜希には考えられなかった。シャーマンミコは短く息をつくと、肩を竦める。
「……そんなに大事なら、仕方ないわねん。貴方の願いを白紙に戻すわん」
「ハイ、すみません……」
 蜜希は会釈し、シャーマンミコに背を向ける。これで良い、リボンを失わずに済む。翠の事は最初から無理だったのだ、諦めよう。……でも。
「本当に良いのぉん?」
「ヒッ!?」
 浮いたシャーマンミコに後ろから抱き締められ、蜜希は短い悲鳴を上げた。シャーマンミコは、蜜希の耳元で囁き続ける。
「その恋は、貴方に諦めきれるのん?」
「あ……」
「私抜きで叶えるなんて甘い考え、しない方が良いわよん? だって、そうでしょうん?」
 ケヒッ、と下品な笑い声を混ぜ、シャーマンミコは幾分か低い声を落とした。
「貴方みたいに何の取柄もないニンゲンが、誰かに愛される訳無いものねぇん?」
 蜜希は、鞄を落とした。顔からは、みるみる血の気が失われる。
「その大事な『オトモダチ』だって、貴方の恋を応援してるんでしょうん? 『オトモダチ』って、そういうものじゃないん」
 蜜希は、滲んだ世界で、リボンの笑顔を思い浮かべた。恋の相談をする度、笑顔で元気づけてくれたリボンに、蜜希は涙が止まらない。
「だったら! 何が何でも、貴方の叶うはずのない恋を叶えなきゃ! 叶エナキャ!!」
 びく、と両肩が跳ね、地面が涙を吸い込んだ。微動だにしなくなった蜜希を解放し、直前とうって変わり、元の軽やかな口調へと戻る。
「悪趣味だから、無理強いなんてしないわん。精々、頑張りなさいなん」
「待って!!」
 制止の声に、シャーマンミコは内心ほくそ笑む。全てを理解した上で、何事も無いかのように振り向いた。蜜希の涙が、花弁と共に散る。
「あのっ、わたし……!」





「それから、ずーっと待ってたのよぉん? 両想いになったのに、約束を破って報告しないんだものん。誰のお陰で、恋愛成就できたと思ってるのかしらん?」
 時は、現在。御守神社跡地の夜。
 シャーマンミコは、得意気に一年以上も前の話をすると、さも困っているかのように頭を抱えて見せた。蜜希は地べたに座り込み、ずっと嗚咽を漏らしながら泣いている。
「うっ、うっ……!」
「ミツキ、何で……?」
 翠は、信じられないような目で蜜希を見る。明らかに現状を把握しきれず、酷く戸惑った様子であった。翠と蜜希はそんな状態であるし、カグラも波花梓音(ナミハナシオン)もずっと黙り込んでいる。正直、普段の蜜希と語られた蜜希が結びつかず、村崎醤(ムラサキショウ)も混乱していた。混乱してはいるが、今なら『虫の知らせ』が来なかった理由もわかる。翠から嫌われぬよう、自分の負の感情を隠したかったのだろう。蜜希が決断した行為は絶対に許される事ではないが、醤は蜜希を憐れんだ。
今動けるのは、自分しかいないだろう。醤は確信し、シャーマンミコに向かって怒鳴る。
「テメエ!! 何だってこんな事すんだよ!?」
「『こんな事』ぉん? 悩める乙女の恋を叶える、素敵なお仕事じゃないん?」
「そっちじゃねぇ!! メダロット奪う理由がわかんねぇっつってんだよ!!」
「やあねぇん、坊や。神様に願い事を叶えてもらうなら、お供え物が必要なのよぉん?」
 カチン、と醤の頭の中で音が鳴る。子ども扱いも無論腹立たしかったが、『神様』にとって大事なのは、決して供物の有無では無い事を知っていたからだ。それを、醤の『神様』は嫌という程教えてくれた。
「神様ナメてんじゃ……!!」
「やはりな」
「ずっと喋ってなかったのにこのタイミングかよクソジジイ!?」
 シャーマンミコに物申す所でカグラから口を挟まれ、醤は恥ずかしさのあまり叫んだ。誤魔化そうと、醤はぶっきらぼうに尋ねる。
「んで!? 何がわかったってんだ!?」
「あの者から、神気は感じられない」
「何だと!? それって……!」
「ふむ。紛れもなく、普通の絡繰りなのだよ」
 カグラが見据えてそう言うと、シャーマンミコは、肯定も否定もせずに腕を組む。カグラが言うのであれば、間違いなく何の変哲もないメダロットなのだろうが。
「でも、尾根とみっちゃんは付き合ってんだぞ!?」
「『愛機』という相当の対価を払っておる程、必死なのだ。今回の件も含め、恋が成就したのは本人の実力なのであろうよ」
「詐欺じゃねぇか!?」
「『詐欺』なんて失礼ねん」
 不服そうに言った後、シャーマンミコは両手を空へ振りかざす。
「私は、臆病なその子達の背中を押してあげたのよん? メダロットの事だって、私が追い込んであげたから成就できたんじゃないのん?」
「本質は違うなぁ、御嬢さん?」
 カグラの問い掛けに、シャーマンミコはぴくり、と反応する。面白くなさそうな顔で押し黙る様子を見て、カグラは推測を続けた。
「其方にとって重要なのは、恋愛成就ではない。供物を指定する辺り……見定めたかったのは、『人間が過酷な状況下でも、絡繰りを手放さないか』、ではなかろうか?」
 カグラの言葉に、蜜希は顔を上げてシャーマンミコを見た。今まで気付かなかったが、よく目を凝らすと、機体の所々に罅が入っており、長い間人の手が入っていない事がわかる。シャーマンミコは、俯いた。
「……ニンゲン程、愚かで勝手な生き物を見た事が無いわん」
 先程とは似ても似つかない、低い声だった。地べたを這いずり回るような声で、シャーマンミコは話し続ける。
「私の元マスターは、可愛い女の子だったわん。本当に、目に入れてもちっとも痛くないくらい、可愛かった。女の子だものん、『もっと可愛くなりたい』と思うのは当然の願望じゃないん?」
 でも、と付け足し、シャーマンミコは自嘲気味に笑った。
「まさか……お化粧や、お洋服に夢中になるあまり……私が捨てられるなんて、思ってもみなかったわん」
 シャーマンミコの周囲を飛ぶ火の玉が、音を立てて火力を増す。まるで、シャーマンミコの憤りを映しているようだった。
「『ごめん、飽きちゃった』? 『メダロットを差し上げますから、恋を叶えてください』? ウフッ、女の子って可愛いわぁん、ウフフフ。可愛くって、可愛くって……いっそ、憎たらしいぐらい!!」
 シャーマンミコの思いに共鳴し、火の玉から火柱が上がる。蜜希を鋭く指差し、感情を叩きつけるように罵倒した。
「だから、お望み通り奪ってあげたのよ!! なのに、何よその顔!? お前達は、決まって被害者ヅラをする!! 恋と天秤にかける度に捨てられる、私の絶望なんて知りもしないでっ……泣きたいのは私の方よ!!」
 悲痛な叫びに呼応するかのように、炎は燃え盛る。そんな中、梓音は無言のまま、シャーマンミコへと歩み寄った。マリアやカグラ、醤は慌てて呼び止める。
「しぃちゃん!!」
「いかん!」
「戻ってこい、波花!!」
「何よ!? 来るなニンゲン、」
 ガヒュッ。声にならずに空気として漏れたのは、梓音がシャーマンミコの首根っこを片手で握り締めたからだった。突然の暴挙に、シャーマンミコのみならず、醤達も言葉を失う。静寂を壊したのは、梓音の声だった。
「で?」
「え゛っ!?」
 あまりに威圧的な声に、シャーマンミコはどもる。声が濁っているのは、梓音が握り続けているからだろう。梓音は顔を突き出し、シャーマンミコに詰め寄った。
「で、お前は何なのよ?」
 梓音のあまりの気迫に、火の玉は火力を失い、みるみる内に萎んでいった。どれだけシャーマンミコが恐怖を感じているのか、よくわかる。シャーマンミコが硬直していると、梓音の手が握り潰さんとばかりに力が入った。堪ったものではない、とシャーマンミコは慌てて返答する。
「えーっと、あのぉ……だから、『恋のキューピッド様』、」
「何度も聞いたから、それはもう良い。……確かに、お前に同調する部分はある。ワタシのマリアも……元は、心無い人間に捨てられた」
 梓音は、目を伏せたまま続ける。
「だから、メダロットを捨てる人間は全員しねと思ってるし……お前に唆されたみたいだけど、蜂矢さんの事だって、正直ぶん殴ってやりたい」
「しぃちゃんっ……!」
「感激してっけど、内容物騒じゃね?」
 梓音の言葉に涙を滲ませるマリアに、醤は落ち着き払ってツッコんだ。また、梓音が捨てられたメダロットの気持ちを理解しているとわかると、シャーマンミコは明るい声を上げる。
「だったら……!」
「でも、お前は関係ないじゃない?」
 バッサリと、梓音はシャーマンミコの期待を切り捨てる。呪詛を唱えるように、梓音は低い声で続ける。
「付き合うとか付き合わないとか、全部あの人達の問題じゃん。何で無関係のお前が、メダロット貰える話になんの?」
「だからそれは、捨てられたから……」
「それは、お前の問題でしょ? 『私は捨てられて可哀想だから、お涙もメダロットも頂戴』ってワケ? ふざけんな。勝手に首突っ込んどいて、被害者ヅラしてんのはどっちなの? それに……お前が無関係なら、おじいちゃんはもっと無関係なのよ……!」
「『おじいちゃん』て誰!?」
 梓音が怒り心頭な理由に合点がいき、醤は半開きの口で頷いた。カグラが風評被害を受けた事に、梓音もしっかり怒っていたらしい。
「ちっ……!」
「!?」
 シャーマンミコは、舌を打つや否や、右腕・ヒトダマスフィアの照準を梓音へ向けた。大人しいシャーマンミコに油断しきっていた一同は、慌てて前へ出る。
「テメッ……!?」
「動かないでねん? 動いた瞬間、この子にウイルスを撃ち込むわん」
 醤に苦々しく笑い掛けた後、シャーマンミコは梓音の方へ視線を戻す。
「お嬢ちゃん、随分好きに言ってくれたじゃないん? 私がメダロットだって事、お忘れじゃないかしらん?」
「……」
「ウフッ、やっぱりヒトの子ねん? ウイルスがいつ撃ち込まれるのか、内心怯えてるんでしょうん? メダロットのウイルスがヒトにどう作用するのかはやってみないとわからないけど、とびっきりの美人さんにしてあげましょうねん?」
 腕の筒の内部が赤く光り、梓音の顔を照らす。シャーマンミコの顔が、愉しそうに歪んだ。
「どんな厚化粧でも隠しきれない、ウイルスまみれの顔にぃッ!!」
 まさに、シャーマンミコが攻撃しようとした時。
行動パーツが、音を立てて崩れ落ちた。
「なっ!?」
 まるで、ひっくり返したパズルのように、様々な部品がバラバラと地面に零れていく。シャーマンミコがティンペットとなった自身の右腕を凝視していると、次いで左腕・オミクジボールが、更には脚部・レッドハカマーが崩れ、最終的に梓音に捕まれている首で、辛うじて地面から浮いている状態となった。
「……ワタシがこうしてられるのは、お前がメダロットだから」
 恐る恐る、シャーマンミコは梓音に顔を戻す。ドライバーを右手でかざし、梓音は見下ろして言い放った。
「お前なんか、ドライバー一本で充分よ」
 涼しい顔で頭パーツ以外の機体を分解した梓音に、一同は絶句する。そんな中、マリアだけが頬に手を当て、微笑ましく見ていた。
「すごいでしょう!? しぃちゃん、メダロットのネジの位置をぜーんぶ頭に入れてるんですよぉ♪」
「何と! シオンは賢いなぁ」
「それと分解できるかどうかは、また別の話だと思う」
 あのドライバーが普段であれば自分に向けられているため、更には、『やろうと思えばいつでもカグラのメダルハッチを抉じ開けられる』事を実感したため、醤からすると他人事では無かった。梓音を見て震え上がるシャーマンミコを、梓音は鼻で笑う。
「……ああ、勘違いしないで。お前を頭だけ残したのは、情けなんかじゃなくって、言っておきたい事があるからなの」
 月光で、ドライバーが鈍く光る。『これ以上何を言うつもりなのだ』と、シャーマンミコは戦々恐々とした。
「『神様』ってね、恨み節の一つや二つで簡単になれるモノじゃないのよ。見返りなんて関係無く、困ってたら誰でも助けてくれる、優しいヒトなの。……村崎と同じ意見なんて本当に腹立つけど、」
「おい」
「今回ばかりは、仕方ないか」
 醤の声を無視し、梓音は下等生物を見る目つきで吐き捨てる。
「神様なめんな」
 氷点下に感じられるその声に、シャーマンミコは、絞首台に立たされている心地がしたのだった。
「……待って、ください!!」
 切羽詰まったその声に、梓音は手を止めた。二人揃って、声の方へと顔を向け、大きく目を見開いた。
「ごめんなさい!!」
 蜜希が、地面に手をつき、深々と頭を下げていた。目を強く綴り、シャーマンミコへと訴えかける。
「ごめんなさい、ごめんなさいっ……!! わたし、自分の事ばっかり考えて、本当にごめんなさい!! もうとっくに嫌われてるかもしれないけど、スイとはちゃんと別れます!! だから、お願いですっ……リボンを返してください!! 勝手でごめんなさい、お願いしますっ!!」
 蜜希は、地面に爪を立てて咽び泣く。失う前からわかりきっていた事だが、蜜希にとってリボンの存在は大き過ぎた。
「何回でも謝ります!! 何でもしますから、お願い、しまっ……リボンがいないなんて、嫌なんです……!」
 シャーマンミコも、醤達も黙り込む。やがて、蜜希の隣で、砂利を踏む音が響いた。
「……俺からも、お願いします」
 よく耳に馴染んだその声に、蜜希が僅かに頭を上げると。
「ミツキに……リボンを、返してください!!」
 翠も、隣で土下座をしていた。いくら今はかろうじて恋人であっても、自分のために翠が土下座するなんて、蜜希には耐えられなかった。蜜希は体を起こし、泣きながらも懸命に翠の体を揺すった。
「すみませんでした!! 俺の所為なんです!!」
「スイっ、何で……何で、スイまで謝るの……!」
「ミツキがこんな事したのは……」
 覚悟を決めたように一拍置き、翠は、思いの丈を言い放つ。
「俺が……ミツキに、早く告白しなかったからなんです!!」
 まるで、翠の方が先に惚れていたかのような口ぶりだった。蜜希は、信じられないとばかりにぽつりと漏らす。
「うそ……」
「緊張して具合悪くなった子に、誰よりも速く駆け寄ってて、『優しいな』って……『入学式からずっと目で追ってる』って、友達に言われて気づきました!! でも、何て話し掛けたら良いかわかんなくて、全然話し掛けらんなくて!! 同じ部活だったらちょっとは喋れると思って、俺も同じ部活に入ったんです!!」
 何も特技が無い自分なんて、誰かに好かれる事は無いだろうと蜜希はずっと思っていた。翠と相思相愛になれるだけで奇跡なのに、まさか翠が先に好きになっていたなんて想像できただろうか? 蜜希は、翠との記憶を辿る。あの頃の翠の行動全てが、するすると紐解かれていった。
『同じクラスの、蜂矢さんだよな? 俺も……みんなみたいに、『みっちゃん』って呼んで良いか?』
 翠が、陸上部へ入部した時も。
『みっちゃん! 次の試合も、ハチミツレモン頼むよ! コレ食うと、ガッツリ気合入るんだ! ……マジで!? あんがとな、楽しみにしてる!!』
 誰も手をつけなかったハチミツレモンを、翠が完食してくれた時も。
『あー……今の、見た? ……みっちゃんにだけ言うけど、俺好きな子いてさ』
 告白を断った現場を、蜜希が見てしまった時も。翠はいつも、自分に笑い掛けた。思い返すと、翠は本当に。
『笑わないで、聞いて欲しいんだけど……最近やってる映画で、どれ見たい……っすかね……?』
 とことん、不器用な人だった。翠と過ごしてきた夢のような時間が、感情と共に、蜜希の目から溢れ出す。
「お願いします!!」
 翠の懇願する声で、蜜希は現実に引き戻された。ここは広々としたグラウンドではないし、部活の帰りに何度も見た夕日はとうに沈み、どっぷり夜になっている。翠は、手元の土を強く握り締め、言葉を続けた。
「俺がっ、さっさと勇気出してれば、ミツキだってこんなバカな事しなかったんです!! ミツキの事は好きだけど、必要なら別れます!! だから、ミツキを許してください!! リボンを返してください!! お願いします!!」
「スイ……もう、やめてよぉ……!」
 耐え切れなくなった蜜希は、翠の背中に縋りついて涙を零す。梓音の手の中で、シャーマンミコは怒気を含ませて口を開いた。
「な、何を勝手な事を……!」
「みっちゃん、スイ君……そんなに謝らないで」
 ゆらり、と木にもたれ掛かる影へと、全員が目を向ける。そこには、攫われていたはずのリボンが佇んでいた。
「いっぱい心配かけて、本当にごめんね」
「リボン!!」
「……あれだけウイルスを撃ち込んだというのに、メダルを抜いとけば良かったわん……!」
 蜜希がリボンに抱き着くのを見て、シャーマンミコの顔が悔し気に歪む。その言葉に、リボンはやんわりと首を振った。
「いいえ、その必要はありません。私、……」
 俯いて言い淀んだ後、リボンは再び蜜希へ視線を戻した。
「みっちゃんに、ちゃんとお別れを言いにきたんです」
 蜜希は、大きく目を見開いた。みるみる内に新しい涙が浮かび、流れていく。蜜希は、リボンを強く抱き締めた。
「リボンっ、何で!? わたしの事、嫌いになったから!? 本当にごめんねっ、謝るから……お願いだから、帰ってきてよぉ……!」
「……私、今も、これからもずーっと、みっちゃんの事大好きよ。大好きだから……みっちゃんには、大好きなヒトと一緒にいて欲しいの」
「わたしが大好きなのはリボンだよっ!!」
「それが聞けただけで、私は充分。みっちゃんはスイ君といて。どんな約束だって、守らなきゃ」
 リボンは、蜜希の二の腕に手を添え、優しく引き剥がす。目の前の光景が信じられず、シャーマンミコは震える声で尋ねた。
「憎く、ないのん……?」
「全然。だけど、みっちゃんの花嫁姿を見れないのは残念だわ」
「貴方、捨てられたのよん……!?」
「これで良いんです。私は、みっちゃんが幸せになってくれるだけで良いの」
「良い訳ないじゃない!!」
「良いの!!」
 叫んだリボンに、シャーマンミコは押し黙る。
「だって、だって……!」
 スカートに当てた拳に、力が込められる。やがて。
「家族って、そういうものじゃない……!」
 ほろり、とリボンの目から涙が零れた。リボンが泣くのを見て、蜜希の涙腺も決壊する。他の誰もが発言できぬ中、間の抜けた手鼓だけが響いた。
「巫女殿が、ミツキの家に来れば良いのではないか?」
 カグラは、自分の発言でフリーズしてしまった一同を見て、首を傾げる。『ミツキ』と呼び捨てにしているという事は、ちゃっかり孫認定したのだろう。素っ頓狂な発言に最も免疫がある醤は、誰もが心に浮かべる短い言葉を吐いた。
「……は?」
「ミツキは、皆と一緒にいたい。巫女殿は、リボン嬢が欲しい。リボン嬢は、本当ならばミツキと一緒にいたいが、約束を守るために巫女殿といたい。なれば、皆で一緒に暮らせば万事解決ではないか」
「ジジ様天才ですか!?」
「解決してたまるか!! バカじゃねーのお前!? さっきまでドンチャカしてたのに、『ハイそうですか』って納得できるワケ、」
「「そうしますっ!!」」
「ええぇえええええ!?」
 まさかの蜜希・リボン組の一発採用に、醤は口を尖らせて驚く。シャーマンミコは、『冗談じゃない』と言わんばかりに慌てて口を開いた。
「何勝手に決めてるのよぉん!? 私は願い下げ、」
「おじいちゃんの言う通りにするか、メダルのまま一生ドブを泳ぐか選んで」
「あっハイ不束者ですがよろしくお願いします」
 梓音からドライバーを突きつけられ、シャーマンミコは抑揚なくそう言った。蜜希はようやく表情を明るくし、シャーマンミコに笑い掛ける。
「ありがと! わたし頑張るから、こちらこそよろしくねっキューピー!」
「ぎいいいいいっ!! 早速変なアダ名つけてえええっ!!」
 余程新しい名が不服だったのか、シャーマンミコ……もとい、キューピー()は手をわななかせた。そんな二人の様子とカグラを、醤は交互に見る。あまりの手慣れた様子に、『カグラはこうして捨てられたメダロットの世話をしてきたのだろう』と、呆れるくらいのお人好しならぬおメダ好し加減を実感した。
「村崎!」
 翠は、手をかざして歩み寄る。
「今日は、遅くまで付き合わせてごめんな。本当にありがとう」
「気にすんなよ。良かったな、尾根」
「ああ。シャーマンミコが言ってたんだけど、他のメダロッチは雑木林の中に隠してるんだってさ。一緒に探してくれないか?」
「ったく、面倒な所に隠しやがって……」
 醤はげんなりしながらも、翠と共に雑木林に足を進める。懐中電灯を片手に、辺りを見回した。
「なぁ、尾根。今日は回収難しくねーか? 何か薄気味悪いしよ……」
「そうは言っても、ミツキ以外の女の子だって困ってるだろ? 場所もわかってるしすぐ終わるよ」
「へいへい、イケメンは言う事が違いますねー」
「村崎ー!」
 名前を呼ばれ、醤は反射的に後ろへ振り向く。
「……ハイ?」
「一人で林ん中入ったら危ないだろー!? 他のメダロッチも見つかったし帰るぞー!」
 醤を呼んだのは、雑木林の入り口付近から懐中電灯で此方を照らす、翠だった。
「…………あれ?」
 何かがおかしい。違和感を拭い去るべく、醤は横目で前方を見る。己の懐中電灯が照らす後ろ姿は、紛れもなく翠だった。前にいる『翠』は、足元の小枝を踏み割り、ゆっくりと醤の方へ向こうとした。
「でっ、出――ッ!? 悪霊退散!! 悪霊退散!! エロイムエッサイムううううう!!」
 疾風の如く皆を横切り、石段を駆け下りていった醤を見て、一同は揃って首を傾げる。
「何で最後悪魔呼び出してんの……?」
「はて、あの慌て様……『週間メダロット』か?」
「『週間メダロット』なら仕方ないなー」
「ムラサキ君らしいねぇ」

 その日から今も、懐中電灯は一つ足りない。





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
甘「次回、『六角形の神サマ』第弐拾弐話。『永遠幻想曲(前篇)』。今回店番で、次回も出番無いとかあんまりじゃねえ?」

六角形の神サマ 第弐拾弐話/永遠幻想曲(前篇) ( No.22 )
   
日時: 2020/03/20 15:37
名前: 海月

『……お天道様は見逃しても、俺の目は誤魔化せんぞ』
『ぬぬぅ!! 貴様、何奴!?』
『何。闇に紛れて人を殺める……お前と同じ、外道さ』
 よく晴れた、昼下がり。外では、蝉が連日忙しそうに合唱している。
夏休みを迎えた村崎醤(ムラサキショウ)は、自宅の居間で麦茶を片手に、カグラの付き合いで時代劇を見ていた。断じて、作品を間違えている訳ではない。液晶を見ながら、カグラは息をつく。
「……良いなぁ、ワシも必殺したい」
「死神にでも転職する気か?」
 随分、物騒な道祖神がいたものだ。立場上、カグラだったら容易く実現できそうで、醤は恐怖一分、暑さによる苛々九割九分でツッコんだ。ただ『格好良い』という理由で時代劇の侍に憧れ、可能であろうともカグラは実行しない事を知っているからこそ、醤は今もこうして麦茶を飲んでいるのである。
『ここで、番組からのお知らせだ!』
 主人公の侍が、画面に向かって刀を向ける。台詞のミスマッチ加減が、何とも間抜けだ。
『シリーズ十周年を記念し、この度、メダロッ島にて宴を開く運びとなった! 集え、同志達よ!!』
 ガタ、と音を立てて、カグラが椅子から立ち上がる。醤が何も言わずその様子を見ていると、カグラはテーブルに視線を落とした後、落ちるように再び席についた。麦茶を飲み下した後、醤は尋ねる。
「……行きてぇのか?」
「…………まさか」
「コッチ見て言えよジジイ」
 痩せ我慢をしているのが見え見えだった。指摘を受けたカグラは、醤の方へと向き直り、努めて冷静に諭す。
「万が一行きたくとて、ワシには叶うまい。ショウが言うように、ワシは道祖神だ。例え、神社が無くなっても、この町を出るのは許されぬ。出られたとしても、だ。ワシの不在時に、助けを求める者がいるやもしれぬ。責務を放棄し遊び惚ける等、ワシには出来n」
 適当に相槌をうっていた醤だったが、あまりにも長過ぎるため、メダロッチの画面を押したのだった。





『六角形の神サマ』 第弐拾弐話/永遠幻想曲(前篇)





「出られて良かったな」
「ショウよ。お前の気持ちは嬉しいが、問答無用で貨幣石を強制排出するのは如何なものだろうか……?」
 上も下も、彼方まで青が広がる世界。醤とカグラが乗るメダロッ島行きの船は、波を掻き分けて進んでいた。爽やかな夏の風景とは裏腹に、カグラの顔は御守町への心配で曇る。しかし、自分を考えての行動だと理解しているため、醤を叱れないでいた。
「御守町を出られるのなんて、わかってた事じゃない。鎖界神社のお祭りだって、おじいちゃんは行けたワケだし」
「何で息をするようにいらっしゃるの?」
 ごく自然な流れで会話に入ってきた波花梓音(ナミハナシオン)に、醤はツッコまざるを得らなった。いつもの蝶のカチューシャに、膝丈の真っ白なワンピース。そんな柔らかい印象を引き締めるためか、足元には大人びたサンダルを合わせている。潮風がミントグリーンの髪を揺らし、太陽光で輝く水飛沫が舞う中佇む梓音は、さながら夏の風景画のようだった。……のだが、醤にとって今はどうでも良い。恐る恐る指を差し、梓音に尋ねる。
「おい、何でココにいやがる。言っとくけどな、メダロッ島はモヤシが一日中遊べるような場所じゃねぇぞ?」
「お生憎様。メダロッ島は、凶悪ヅラが集まる羅生門じゃないわよ」
「羅生門のババアと同じ目に合わせてやろうか?」
「これ、やめぬか二人共」
 日常茶飯事の喧嘩を繰り広げる二人に、カグラは目を細めて手を振る。カグラに言われ、醤と梓音は火花が散りそうな程睨みを利かせた後、ほぼ同時に顔を背けた。好きなものも一緒、タイミングも一緒で仲が良さそうなものなのに、顔を合わせると喧嘩ばかり。同族嫌悪か、はたまた喧嘩する程何とやらか。微塵も疑問に思う事無く、梓音は視線を外したまま腕を組む。
「……今日、メドロッ島で時代劇のイベントがあるでしょ? それを見に行くだけよ」
「お前が見たいのは、それを見るジジイだろうが」
 カグラが好きなの知ってやがったなこの野郎、と言わんばかりに指摘する醤。梓音は冷たく笑いながら、軽くあしらった。
「知ってるなら、わざわざ話し掛けないでくれる? 今話し掛けた所で、お化け屋敷にはついて行かないわよ」
「間違っても、どさくさに紛れて刺してきそうな女に言うか」
 明らかに、先日の御守神社での一件について言っているのだろう。よりにもよって厄介な奴に弱みを握られてしまった、と醤は後悔した。
「皆さん、見てください! メダロッ島が見えてきましたよぉー♪」
 嫌でも使用意図がわかってしまう一眼レフのカメラをぶら下げ、マリアは進む先を指差し、嬉しそうに声を上げる。言われるがままそちらへ視線を向けると、目的地は姿を現していた。近付けば近付く程大きくなる楽しげなBGMに合わせ、背が高いジェットコースターの滑走路や、城の天辺がひょっこりと頭を出す。マリアは、口元で手を合わせ、耳障りの良い笑い声を零した。
「ふふふっ、楽しみですね! アトラクション全制覇したいのです!」
「波花、お前のパートナーは乗る気満々みたいだぞ?」
「良かったじゃない、お化け屋敷一緒に回ってくれる子がいて」
「オレにマリアを押しつけるな」
 まるで、子どもの相手を押し付け合う夫婦そのものである。いの一番に、軽やかに船を降りるマリア。次いで、文句を言いながら降りる、醤と梓音。そして、はしゃぐ孫達を微笑ましく見守るカグラが、最後にゆっくりと降りた。華々しいゲートを抜けて入場すると、醤は貰ったパンフレットで時代劇イベントの上演スケジュールを確認した。
「えーっと……イベントやんのはビックリサイトで、後一時間あんのか……」
「それじゃあ、場所取りとかもありますし、ちょっとだけ遊んでから会場行きましょう♪ 行きますよ、ジジ様っ!」
「おお」
 言うや否や、マリアはカグラの手を勢いよく引き、颯爽と駆けて行った。間延びした返事の後、カグラもつられて小走りする。梓音と醤も、慌てて二人を追った。
「マリア!」
「あっ、コラ! ぶつかったら大変だから、あんま走んなって!」
 本当に、猪のような娘だ。此方の言葉に耳を貸さず、アトラクションに向かって一直線に走っていく。着いた先は、船からも見えていたアトラクションだ。
「『スリル満点! 超高速ジェットコースタースピリット!』ねぇ、たっけー……」
 看板の文字を読み、醤は滑走路を見上げた。緩やかに上がった先のコースがほぼ垂直に見えるのは、十中八九気の所為では無いだろう。
「ジジ様、先頭に乗りましょ♪」
「ふむ……まるで、龍神のような体躯だなぁ」
 心の準備を、メダロット達は決して待ってはくれない。小さく息をつき、醤は振り向き様に声を掛ける。
「波花! オレ達も、……!?」
 先程の空や海の色を忘れるぐらいに、深い青だった。ジェットコースターを見上げ、胸の前で自分の手を握って小刻みに震える梓音は、最早小動物にしか見えない。尋常ではない様子の梓音に言葉を失った醤だったが、すぐに意地の悪い笑みを浮かべ、船上の仕返しと言わんばかりに口を開く。
「あれあれ、波花さん? もしかして、ジェットコースター苦手なんスかぁ?」
「!?」
 嫌味ったらしく醤から聞かれ、梓音は我に返ったように視線を正面へ戻す。すぐに顔面蒼白ながらも醤を睨みつけ、梓音は反論した。
「なっ、に言ってるの? そんなワケないでしょ、さっさと乗るわよ村崎……!」
「わっ、おい放せ! 危ねぇって……!」
「ジェットコースター『スピリット』へようこそ! チケットを拝見しまぁす。……はい、では奥の乗り場からどうぞー!」
 梓音は係員から許可を取り、醤の襟首を掴んだままカグラとマリアの後ろの席へ勇ましく乗り込む。梓音がそのまま俯くと、別の係員が発車前の最終確認を行っていた。
「安全バー確認しますねー!」
「は、はい……」
 係員によって下ろされた安全バーに、梓音は今からしがみつく。更に震えが増すのを隣から感じ取り、自分が挑発したものの、醤は段々と気の毒になってきた。
「おい、波花。マジで大丈夫か?」
「平気だって言ってるじゃない……」
『それでは、発車致します! 危ないので、安全バーから手を放したり、車体から身を乗り出すのはおやめください! 皆様、空の旅を楽しんでくださいね! いってらっしゃーい!!』
 プルルルルル、と音が引いた直後、一度だけ車体が揺れ、そのまま発進する。俯く梓音に、醤は話し掛け続けた。
「いや、茶化しとか冗談じゃなくてよ。お前、本当はジェットコースター苦手なんじゃ……?」
「今乗るのが初めてよ」
「え」
「初めて乗るのに、苦手もクソも無いでしょ……」
 例え初経験であっても、する前からわかりきっている不得手もあるのではないだろうか。そんな醤の疑問と乗客を乗せ、ジェットコースターは坂を上がっていく。ジェットコースター経験者の醤でさえ幾何か恐怖心があるのだ、梓音のそれは尋常ないレベルなのであろう。醤は、どうにか梓音の恐怖を和らげるべく、必死に考えた末に提案した。
「……波花、しりとりするか?」
「しないわよ、イキナリ何言ってんの……?」
「あー……普通のじゃつまんねぇなら、メダロットしりとりするか」
「そういう問題じゃない」
 醤が話し掛ける間も、梓音は俯いたまま震えている。無慈悲にも上がっていく車体にめげず、醤は続けた。
「じゃ、じゃあ……『メダロット』の『ト』…………『トータスメダル』」
「『ルール無用ロボトル』」
「『ル』攻めかよ、友達なくすぞ。てか、メダロット研究所の娘が言って良い言葉じゃな……い」
 ガコン。再び、車体が揺れた。醤には、揺れた理由が何となくわかる。その証拠に、見渡す限りの絶景だ。下方ではミニチュアの世界が広がっているが、ちょこまか動いているのはれっきしとした人間である。醤は、深く息を吸い込み、時を待とうとした。が、突然隣から手を握られ、覚悟が叶わない。
「へ、」
「……キッ、」
 思いもよらない行動に醤が僅かに頬を染めるのもお構いなく、目を強く瞑った梓音に握られたまま、時は来た。
「キャアアアアアアアアアッ!!」
「おんぎゃあああああああああ!?」
 ジェットコースターがほぼ真下へ急降下し、覚悟が足りなかった者と覚悟が間に合わなかった者は、つんざくような悲鳴を上げた。梓音は、金切り声で叫び続ける。
「やだもう降ろして!! 降ります!! もうやだああああああああ!!」
「落ち着け!! ここで降りたら確実に死ぬぞ!? ってイデデデデデ!? 波花っ、手ェ!! オレの右手が潰されるゥゥ!!」
 醤も醤で怖いのだが、右手の痛みが勝った。言葉通り、余程怖いのだろう。その恐怖心が、ギチギチと音として如実に現れている。醤の訴えは残念ながら梓音の耳には届かず、泣きの入った絶叫は続いた。
「たっ、たすっ、おじいちゃあああああぁあん!! 助けてええぇえええええええっ!!」
「……大丈夫か、シオン?」
「大丈夫じゃねぇよ波花もオレの手もオオオ!!」
「キャーッ♪ 楽しいですねぇ!!」
「おおおいマリアぁ!! お前のマスターが大変な事になってんぞおおお!!」
 呼ばれて軽く後ろを向くカグラに、ただ前を見て存分に楽しむマリア。痛みにツッコミにと、ジェットコースターに乗っているにも関わらず、何故か醤は忙しい。結局、阿鼻叫喚は終点まで続いたのだった。





「はーっ、はーっ……!」
「……ちょっとは落ち着いたか?」
 ジェットコースターから下車した後、梓音はベンチで休み、大粒の涙を零しながら必死に息を整えていた。醤は梓音の隣に腰掛け、買ってきたオレンジジュースを一つ手渡す。
「ほらよ」
「……ありがとう」
 醤は、静かに目を丸くした。成る程、自分に素直に礼を言うくらいには、梓音は弱りきっているらしい。これなら、まだ罵詈雑言を浴びせられた方がマシだと調子を狂わされた所で、醤は気付く。
「オレはMじゃねぇ……!」
「何か言った……?」
「い、いや! 何でもねぇ!」
 醤は笑顔を引き攣らせ、わたわたと誤魔化す。梓音は不思議そうに首を傾げ、醤を覗き込む。ジュースで濡れた唇が、醤の胸を高鳴らせた。
「ふーん、変なの……? まあ、村崎は通常運転か」
「オレが変だったら、オレの周りまともなヤツいねーよ」
「お前に言われたらお終いだと思うけど……それより、おじいちゃんとマリアは?」
 無礼な言葉を連発され、醤の脈は正常に戻る。醤の事情など露知らず、梓音はゆるゆると辺りを見回した。なかなか姿が見えない二人に疑問を持った所で、醤は溜め息をつきながら答える。
「お前が死んでる事にも気づかず、マリアはテンションMAXでジジイをお化け屋敷まで引っ張ってったぞ」
「マリア……!」
 梓音はカグラを連れ、置いて行ったマリアに対し、膝の上の拳を震わせた。ジェットコースターとは違う理由で震えているのだろう。梓音とマリアどちらにも同情しつつ、醤はオレンジジュースを飲み下してから提案する。
「アイツらがお化け屋敷行ってる間、オレ達はイベントの場所取りしてようぜ。ああ、お前が立てるようになったらな」
「……それなら、もう大丈夫」
 梓音は、よたつきながらも立ち上がる。
「おい、もうちょっと休んでからでも良いぞ?」
「ううん。人気シリーズだし、早く並んどかないと見えないかも」
 そう言うと、梓音は空き缶をゴミ箱に捨て、会場を探して歩き出した。醤も空き缶を捨て、心配しながらその後を追う。
 ジェットコースターの建物を出ると、外では既に長蛇の列が出来ていた。
「うげ、もう早こんなに並んでんのか……」
「遅過ぎたくらいか。おじいちゃんとマリア、ショーが見えたら良いけど……」
 群衆を見て、梓音が不安げに零す。大方、メダロット故に身長が低いカグラとマリアが心配なのだろう。醤は乱暴に頭を掻きながら、列に並ぶ。
「後ろの方になっても、オレがまとめて抱えりゃ見えんだろ。お前は、人酔いとか大丈夫か?」
「うん、今は……」
「しんどかったら、オレだけ並ぶなりジュース買うなりどうとでもできっから言えよ」
「い、いいよ。さっきも、ジュース奢ってもらったし……」
「イベント中にぶっ倒れる方がヤベェだろ、無理すんな」
 弱々しい梓音の態度で、醤は自責の念に駆られる。ジェットコースターで自分が挑発しなければ、梓音は乗らずに済んだだろう。ともなれば、自分がすべき事は、元気になるまで梓音のために行動する事だ。少しでも力になりたい一心で、醤は言ったのだが。
「……やっぱり、変」
「あ!?」
 梓音から再び『変』呼ばわりされてしまい、醤はがなる。文句の一つや二つ言おうと、梓音の方へ向いたのだった。
「村崎じゃないみたい」
 くすっ、と控えめに笑う梓音に、醤は何も言えなくなってしまい、口のみ動かす。凪のような笑顔の柔らかさと言ったら、普段の嘲笑など比較対象にもならない。心拍数も、そして頭の天辺まで血が駆け上がるのを感じながら、醤は気付いてしまった。
 これ、デートじゃね?、と。
 気付いてしまえば、後はトントン拍子である。いつぞやか醤の友人も言っていたが、『可愛い』とか。自分達は今、周囲からどのように見られているのか、とか。醤の思考は、グルグル、グツグツと煮え滾るばかりだ。
「……あ、会場が見えてきた」
 更に言えば、この時の梓音はジェットコースターにより、元々少ない体力を大幅に消耗していた。まさに、悪魔のようなタイミングで、二人は揃って肝心な事を見落としていたのである。

「ようこそ、魔女の城ツアーへ~!」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
醤「どうしたら美園ちゃんと付き合えんだよー……」
ラ「やあ! はじめまして、村崎醤!」
醤「え、ラピ!? 何でオレの名前……?」
ラ「君の願いは、エントロピーを凌駕した!」
醤「」
ラ「さぁ、ボクと……」
醤「っ次回! 『六角形の神サマ』第弐拾参話、『永遠幻想曲(中篇)』!」
ラ「ボクとロボトルして、魔法少女になってよ!」
醤「ワケがわからねーよおお!?」

六角形の神サマ 第弐拾参話/永遠幻想曲(中篇) ( No.23 )
   
日時: 2020/03/30 19:42
名前: 海月

「ようこそ、魔女の城ツアーへ~!」
「「……ん?」」
 マスコット型メダロット・ラピの甲高い声に、村崎醤(ムラサキショウ)と波花梓音(ナミハナシオン)は顔を見合わせた。すぐに正面へ向き直ると、そこにビックリサイトの姿は無い。代わりに、可愛らしい欧風の城がそびえ立っていたのである。この瞬間も、嘲笑うかのように城の頂上の旗が揺れている。そう、二人は完全に並ぶ列を間違えていた。
「やらかしたあああ!! あれ!? イベントの列じゃねーの!? 大人気なアトラクションですね!?」
「言ってる場合じゃないでしょ、早く列から抜け……!」
「はーい、では皆さんお城に入りまーす!」
「「わっ!?」」
 魔女の格好をした係員から思いきり背中を押され、醤と梓音は無慈悲にも入場となった。何とか戻らんとして振り向いた途端に、大きな扉が閉まる。二人が行き場の無い手を伸ばす中、魔女の姿の係員は前方へ移動し、明るい声で呼び掛けた。
「よいこの皆さん、こんにちはー。あれ? 返事が無いわよぉ。魔女の城へようこそ! ここからは、こわーい魔王が住む世界。それでは、魔女のミルキーと冒険の始まりー」
 どうやら、係員は『ミルキー』という名前の魔女らしい。如何にも、子ども受けしそうな設定だ。しかし、高校生二人はそれ所では無かった。
「どうすんのよ!? おじいちゃん見れないじゃない!!」
「やっぱりジジイ目当てじゃねーか!? お前だって気づかなかっただろうが!?」
「うーん、ハッスルし過ぎな大きいおトモダチもいるみたいね」
 子ども達に囲まれたミルキーは苦笑し、ツアーが始まったにも関わらず大喧嘩をする醤と梓音へと歩み寄った。
「こら、お坊ちゃんにお嬢ちゃん! ケンカしちゃダメよ! あんまり争ってると、人の負の感情が大好きな魔王がやってきちゃうんだから!」
「魔王なんて知ったこっちゃないわ!! 今は、ワタシの世界が崩壊する危機なのよ!?」
「波花、係員さんを困らせんな!! すんません!! コイツ、ジジイが絡むとモンスターが裸足で逃げ出すくらい凶暴化するんです!!」
「わあ、二人共何てファンタジックな世界観! あ、もちろん良い意味でよ?」
 自分の事を棚に上げ、ミルキーは二人の厨二病と相違ない発言を笑顔で受け止めた。押さえる醤を振り解き、梓音はミルキーに詰め寄る。
「元はと言えば、アナタが押し込んだからじゃない」
「えー!? だって、並んでたしー」
「そっ……れは、まあ、アレなんだけど……」
「どれだよ」
 指摘された瞬間しどろもどろになる梓音に、醤は冷静にツッコんだ。めげずに、梓音は言葉を続ける。
「……それは、ともかくとして。ワタシ達が喧嘩しようがしまいが、どうせ魔王出てくんでしょ?」
「え」
「おい、ネタバレにまで手を出すな」
「ツアー初参加のワタシでさえわかるのよ、みんなわかってるわ」
「むむむっ!」
 梓音のネタバレに笑顔で固まっていたミルキーも、何を思ったのかわざとらしく怒ったような顔つきになった。相手が乗ってきたのを良い事に、梓音は冷ややかに笑う。
「ほら、魔女なんでしょ? この状況を、魔法で何とかしてみせなさいよ」
「無茶振り過ぎんだろ!!」
 醤に言われても、ミルキーからすれば『無茶』でも何でもなかった。何故なら、彼女は魔女。魔法で不可能な事など、何一つないからであった。ミルキーは、呪文を唱えながら杖を振り上げる。
「メダトルロボトルミルミルキー!」





『六角形の神サマ』 第弐拾参話/永遠幻想曲(中篇)





「迷いの森を抜けたら、宿題もガッコウも無い夢の世界・ミルキーランドよ! では、ミルキーランドを一周してきてくださいね!」
「つ、杖で殴った……」
「杖で殴ったね……」
 チーン、というエレベーターの音で、仲良く頭にタンコブを作った醤と梓音の悲壮感が増した。他の子ども達がひそひそと話す中、梓音は忌々し気に口を開く。
「……何が魔法よ、物理攻撃じゃない」
「完全に負け惜しみじゃねーか」
 醤は、コブを擦りながら梓音に言った。幸か不幸か、ミルキーに殴られて冷静さを取り戻し、大きく伸びをして進む。
「もう後戻りはできねぇんだ。だったら、とことん楽しむぞ波花」
「……そんな気分じゃ……」
 反論しながらも、梓音はとぼとぼと醤について行く。カグラと引き離され落胆する姿は、醤の心を痛める。梓音がカグラとの観賞を心底楽しみにしていた事を、改めて実感させられた。気分転換すべく、醤は笑顔でラピを指差す。
「ほら、波花! ラピだぞ!」
「ここは、昼のミルキーランドだよ。そして、ボクは可愛いマスコットのラピちゃん!」
「おじいちゃんの方が可愛い……」
「わかっちゃいたが病気が酷い」
 人はそれを、『グランドファザーコンプレックス』と呼んだ。見るからに、カグラ欠乏症だ。どうしたもんか、と醤は考える。そういえば、園内にはゲームセンターがあったはずだ。魔女の城を出たら、ゲームセンターでカグラと思う存分遊ばせてやろうと、醤は密かに決心したのだった。
「満足した? じゃ、一階にまいりまーす!」
「あっ、ハイ! 波花、エレベーター出るってよ!」
 考え事をしている間に、どうやら一周していたらしい。醤は梓音に声を掛け、エレベータに乗り込んだ。すると、電灯が点滅を始め、辺りは次第に暗くなっていく。
「何だ……うぉっ!?」
 醤は、揺れたエレベーターに驚き、壁に背中を密着させる。次に、ミルキーの短い悲鳴が上がった。
「きゃっ! 何!?」
「はっはっは、この王国は儂が貰った!」
「その声! さては、悪の魔王ね!」
「ほら、出たじゃん」
「『ほら』とか言うな」
 梓音の行動は、『野球に野次を飛ばす親父』そのものである。対応し慣れているためか、ミルキーと魔王は怯む事無く話を進めていく。
「どこにいるの!?」
「ふん、儂はどんな場所にでも現れるぞ。しかし、儂の本体を見つけ、儂を倒す事が出来るかな?」
「見てなさい、魔王! きっと倒してみせるんだから!」
 ミルキーが啖呵を切ると、再びエレベーター内は明るくなった。エレベーターから出ると、ミルキーは焦った表情で語り掛ける。
「大変! ミルキーランドが、悪の魔王に乗っ取られちゃったわ!」
「警備ザルなんじゃない? 乗っ取られんの何回目なの?」
「波花……」
 ツッコむ事をやめない梓音に、醤は頭を抱えた。有難い事にミルキーを始めとしたスタッフ一同はプロらしく進行してくれる上に、方法を間違ってはいるが梓音も楽しんでいるように見えるため、もう何か色々と諦めたのである。
 ミルキーは、勝気な笑顔で杖を掲げる。
「さあ、魔王と戦ってくれる勇者は誰かな?」
 勇者は、立候補制だった。醤は、内心安堵する。醤達の他は、殆ど小学生。それこそ、勇者に憧れる男児が、元気に挙手する事だろう。醤がほくそ笑みながら勇者誕生を待っていると、目が合った。合ってしまった。
「ほら、お兄ちゃん! カノジョに良いとこ見せないと!」
 太陽の如き笑顔で、ミルキーは醤を指名してきた。『カノジョ』というのは、十中八九梓音の事だろう。醤は否定すべく、赤い顔ですぐさま口を開いた。
「ちっ!? ちがいまっ、」
「違う!!!」
「全否定しないでくれます!?」
 例え相手が梓音であっても、全否定されれば流石に傷つく。鬼の形相で叫んだ直後、梓音は普段の冷めた表情を浮かべ、醤の背中を押した。
「違うけど……ほら、行ってきたら?」
「え……」
「はーい、いらっしゃいお兄ちゃん!」
 梓音に勧められるがまま前へ出ると、ミルキーはバトンのように杖を回した。
「私の魔法で、勇者に変身よ! メダトルロボトルミルミルキー!」
「いっ!?」
 最初に殴られた所為で、どうも杖をかざされると条件反射で構えてしまう。心配事を余所に、醤の周りを星が瞬き、あっという間に勇者の衣装となった。醤は、服を抓み上げ、目を見開く。
「ダッ……!?」
「じゃ、頑張って勇者くん!」
「おい、ちょっと待てコラ!! 絶対コレさっきの仕返しだろ!?」
「えー? ミルキー、わかんな~い☆」
 この年で勇者の衣装を身に纏うなど、醤にとって辱め以外何ものでも無かった。自分の頭を小突くミルキーに、醤は初めて梓音の気持ちを理解した気がする。そんな、梓音はというと。
「似合ってるよ、村崎(笑」
「テメエ、城出たら覚えとけよ……!」
 口元に手を当てて失笑する梓音に、醤は拳を震わせた。ミルキーは、梓音の後ろまで回り込むと、しっかりと両肩を掴む。
「え?」
「さ! お嬢ちゃんはこっち!」
「え、え、何……?」
 突然の行動に驚く梓音は、ミルキーに施されるがまま歩き、別室へとつれて行かれてしまった。
それも、束の間。ミルキーだけが戻ってくると、真剣な面持ちで前方を指差し、醤に語り掛ける。
「いよいよ、魔王の本拠地よ! 勇者くん、頼んだわね!」
「え、波花は……?」
「先を進めばわかるわ!」
 醤は、今後の展開を何となく察してしまった。ちびっ子達の先頭をきって道なりを進み、気だるげに大きめの扉を開ける。
 そこには、アラビアンナイトのような出で立ちをした、気球のように大きく浮かぶ魔王。そして、案の定童話に出てくるお姫様のような衣装を着せられた梓音が佇んでいた。ミルキーは、魔王に向かって叫ぶ。
「卑怯よ、魔王! 子どもを返して!」
「「卑怯なのはお前だろ」」
 醤と梓音の思いはシンクロし、ミルキーに吐き捨てるように言った。ダs……少々センスが足りていない衣装を着せられ、ちびっ子達の前に晒されるこの行為は、高校生二人にとって公開処刑に他ならない。流石は、プロ。復讐の方法も、一段上だ。勇者と囚われの姫の言葉を完全に無視し、地響きのような声で魔王は喋る。
「はっはっはっは。ここまで辿り着けた事は褒めてやろう。だが、どうやってそこからこの儂を倒そうと言うのだ?」
「こっちには、勇者がいるわ!」
「はっはっはっはっは。愚かな」
 魔王の笑い声に合わせて、地震のように床が揺れる。ミルキーは醤に向かって、杖で魔王を指し示した。
「勇者くん、貴方の力を見せてあげて! 子どもを助けるのよ!」
「えーっと、『助ける』ってどうやって……?」
「私達の運命は、貴方のロボトルにかかっているわ!」
 ミルキーに力強く言われると、醤は乾いた笑顔で硬直した。
「……ろぼとる?」
「ええ! メダロッチつけてるって事は、持ってるでしょ!?」
 醤は、笑顔を引き攣らせたまま固まる。ミルキーが頼りにしている『メダロット』とやらは、時間的に好きな時代劇のイベントに参加し、フィーバーしている事だろう。冷や汗を止める術を持たないまま、醤は小さく挙手し、ミルキーに申告した。
「あ、のー……それがですね、かくかくしかじかで……」
「えっ!? メダロットいないのぉ!?」
 ミルキーの驚愕した顔に、醤は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。すぐにミルキーは両手で自分の口を押え、辺りを見回す。難しい表情で片足を何度か踏み鳴らした後、ミルキーは開眼した。
「魔王!」
「!」
 振り向いた魔王に向かって、ミルキーは杖を交え、不可解に腕を動かす。どうやらそれはハンドサインだったらしく、魔王からのささやかなサムズアップを見て、ミルキーは大きく頷いた。
「勇者くん、この剣を使って!」
「どっから出した!?」
 先程までは影も形も無かった玩具の剣を取り出したミルキー見て、醤は声を上げる。
「これは選ばれし勇者のみが使える聖剣でね、この剣で貫かないと魔王を倒せないの!」
「さっき『ロボトル』とか言ってm」
「言ってないわ!」
 有無を言わせないミルキーの瞳に、困り果てた醤の顔が映る。アクシデントの対応力は、社会人の鑑だ。しかし、公開処刑された後に、この仕打ち……いや、メダロットがこの場にいない自分にも多少非はあるのかもしれないが、それにしたって最早、『死者への冒涜』レベルでは無いだろうか。その証拠に、先程まで具合が悪そうだった梓音が、魔王の隣で口元と腹を押さえて蹲っている。梓音は後でしばくとして、こんな地獄は早く終わらせてしまおう、と剣を受け取り、醤はヤケになった。
「もう知らねええええ!! やってやんよおおおおお!!」
「待って勇者くん! そこは勇者らしく、『ヤー!』ってやって!」
「」
「だから、『ヤー!』って」
 今すぐオレを殺してくれ。醤は、今程死を乞うた事は無かった。
「ヤアアアアアアア!!」
 涙を撒き散らして剣を振るう勇者を見て、周囲の小学生達は息を飲みながら社会の片鱗を理解した。途端、自らの胸を押さえ、魔王がもがき苦しむ。
「認めん、認めんケロォォッ!!」
「やったわ! 魔王を倒したわ!」
「もれなくオレの心も死んだよ……」
 晴れやかな笑顔で拳を握るミルキーを尻目に、醤は涙を拭った。ミルキーの後ろを歩いて隣の部屋へ移動すると、広間の中央に小ステージが設けられている。
「お疲れ様でした、勇者くん。こちらへどうぞー!」
 ミルキーに呼ばれるがまま、醤は顔を俯かせてステージへ上がる。ミルキーは、誇らしげに醤へ手をかざした。
「今回、リッパに勇者を務めてくれた……えーと、お名前は?」
「いえ、名乗る程の人間じゃないっす……」
「随分謙虚な勇者くんね~? 何にせよ、皆さん拍手を!」
 まばらに聞こえてくる拍手が、正面にいる小学生達の心境をわかりたくないまでに表していた。自分のように憐れな勇者を誕生させないためにも、これからは積極的に立候補するんだぞ少年少女よ……と、醤が心の中で語り掛けた所で、先程と同様に星が瞬き、醤は私服へと戻る。ミルキーは人形を高々と振った。
「素晴らしい活躍をしてくれた勇者くんには、この『ラピのぬいぐるみ』をあげちゃいます! それでは皆様、ご機嫌よう。お帰りは、後ろの扉からとなっておりまーす!」
「あー、散々だったよ畜生……」
「お疲れさまー。楽しかった?」
「そ う 思 う か ?」
 ミルキーからぬいぐるみを受け取り、話し掛けてきたラピに、醤は睨みを利かせる。醤にとって、今日は最早厄日だった。カレンダーを確認していないが、仏滅に違いない。あるいは、神様のありがた~いお話を強制終了させた天罰か。その『神様』は、メダロッチの通信を完全に遮断しており、さぞイベントを楽しんでらっしゃる事だろう。自分の事を忘れて楽しむカグラ、自由奔放なマリア、初対面だというのに殴った挙句辱めたミルキー……何より、醤の今日一日をぶん回している梓音に怒りを募らせ、醤は鬼の形相で振り向いた。
「テメエ波花!! さっきはよくもヒトで爆笑してくれたなこの野郎!?」
 返ってきたのは、愉しげな子ども達の話し声だけだった。空振りした醤は、顔を真っ赤に染め上げ、大股で出口へと向かう。
「あんの女アアア!! いくらオレ相手だからって、置いてくとかどーゆー神経してんだ!!」
「ミルキーは本物の魔女なんだって!」
「そーかいそりゃ良かったなぁ!!」
 横切るラピの言葉へ乱暴に返すと、醤は勢いよく出口の扉を開けた。
「いい加減にしろよ波花ァ!!」
 城の外でも返ってくるのは雑踏の声ばかりで、梓音の姿は無い。本格的に置いて行かれた事により、醤の怒りは沸点に達した。噛みつくように、入口で列を整理している係員に尋ねる。
「すいません!!」
「ん? 何だね?」
「今、白いワンピースの女の子出て行きませんでしたかね!? 行った方向教えてください!!」
 そう言うものの、梓音の行き先はほぼ確実にビックリサイトだろう。醤は、苛々しながら回答を待った。
「そんなはずはない。君達のグループで真っ先に出てきたのは、君じゃないか」
 首を傾げながら答える係員に、醤はただ目を見開く。
「え……?」
「ヘンな事言ってないで、もう一度入るなら並んだ並んだ!」
 醤の頬を、嫌な汗がつたう。魔王討伐の際、梓音が連れて行かれたのは正面の部屋だ。すぐ隣が広間のため、迷いようが無い。ならば何故、梓音がどこにもいないのか? 醤は振り向き、城を見上げる。
「波花……?」
 誰からも、返事は無かった。




「――十周年の宴、これにてお開きとする!! 忘れるな、同志達よ!! 此処にいる者は皆、誇り高き侍という事を!! せーのっ、勧善!!」
「「「「「懲悪ウウウウウ!!」」」」」
 ビックリサイトにて。
 ステージ上で時代劇の主人公がコールすると、雄叫びに近いレスポンスが返ってくる。そして、大勢の拍手に見送られながら、会場の熱気が止まぬまま、主人公一行は笑顔で手を振って舞台袖へはけていった。
 一番前で見ていたカグラは恍惚とした表情で、隣のマリアは楽しげに手を叩く。
「よもや、『花鳥風月』を間近で見られる日がこようとは……本当に来て良かったのだよ。ショウに感謝せねばな」
「すごかったですねぇ、ジジ様! マリアも興奮しちゃいました!」
 どうやら、『花鳥風月』というのは主人公の必殺技らしい。マリアは、既にフィルムが半分以下の一眼レフカメラを膝に置き、悲しそうに瞳を歪めた。
「折角、一番前の席を取れたのに……。結局、しぃちゃんとショウさん来ませんでしたね。どうしたんでしょう?」
「ふむ……会場からも、時計の通信を切るよう言われてしまったしなぁ。連絡が来ていただろうに、二人には悪い事をした」
 舞台然り、コンサート然り、そしてイベント然り……会場が作る世界観を守るために、携帯もメダロッチも通信を切るのが大切なマナーなのである。律儀に守った二人は、揃ってメダロッチの通信をオンへと切り替えた。
「『虫の知らせ』は来てないんですよね? それなら安心です!」
「うむ、二人の無事が唯一の救い、……?」
「きっと、また二人でジェットコースター乗ってるんでしょうね! ふふふっ、ジジ様はあのお二人どう思います? マリアは結構お似合いかと思うのですよぉ♪ ……ジジ様、どうかなさいましたか?」
 自分が満足するまでひとしきり喋った後で、マリアは、初めてカグラが頭を捻っている事に気付いた。首を反対側へ倒すと、カグラは口を開く。
「……のう、マリア?」
「ハイ、何でしょう!?」
「先程、ワシらは龍神に乗ったな?」
「ジジ様、もしかしてそれはジェットコースターの事ですか?」
「恐らくそれだ」
 頷くカグラに、頷くマリア。カグラは、話を続ける。
「その時にだな、シオンは初めて聞くような声を張り上げていたのだが……」
「あれっ、そうなのですか?」
「マリアも楽しんでいたからなぁ」
「ハイッ、楽しかったです!」
 これを、『ツッコミ不在の恐怖』という。ジェットコースターを思い出し笑顔で聞くマリアとは対照的に、カグラはやや俯いて目を細めた。
「……『虫の知らせ』が、来なかったのだよ」
「えっ、それはハッスルしてたワケではないんです?」
 二人は、見つめ合ったまま沈黙した。ジェットコースターでの、梓音の悲鳴。誰がどのように聞こうが、ハッスルしていない事は明白だろう。首を傾げるマリアに、カグラは一つの仮説を立てた。
「ワシ自身も知らぬのだが……よもや、『虫の知らせ』が来るのは、御守町圏内のみなのではないだろうか……?」
 マリアは、大きく目を見開いた後、二回瞬きした。考えてみれば、当然の話だ。御守町外からも『虫の知らせ』が来るならば、カグラはとうに過労死している。ここでは、『メダロットの生死』云々を語るのは割愛しよう。ともあれ、突きつけられた事実に近い推測に、マリアは空を見上げ、つられてカグラも見上げる。雲がゆったりと進む、青い空だった。
「しぃちゃあああん!? 返事してええええ!!」
「ショウ!! 大事無いか!?」
 認識した途端、メダロットは各々の主人に通信機能で呼び掛ける。カグラの頭の奥で、醤の声が聞こえてきた。
『……よぉ』
「ショウ!! 無事なのだな!?」
『イベントは楽しかったかよ……?』
「大変申し訳ない」
 怒りを孕んだ声に、カグラは素直に謝罪する。そうして、通信の向こうの息切れに気が付いた。
「走っておったのか?」
『それがよ……オレは、何もねぇけど……波花がいなくなったんだ』
「……シオンがか?」
『ああ。っと、もう順番か……オレは、魔女の城に戻る。お前らは城以外を探してみてくれ』
「心得た」
 カグラが返事すると、通信は切れた。意図せぬ事態に、カグラは慌ててマリアの方へ振り向く。
「マリア! シオンがいなくなった! ワシらも探すぞ……?」
 話し掛けても正面を向いたまま反応が無いマリアに、カグラは心配そうに顔を覗き込む。途端。
「!?」
 マリアの涙腺が決壊し、大粒の涙を零し始めたのである。
「ジジ様ぁぁぁぁぁ……!!」
「マリア!? 如何した!?」
「うっうっ、しぃちゃんが、うっ、しぃちゃんのメダロッチが通信切れてるんですぅぅぅ……!! 何で、何でしぃちゃんがっ……しぃちゃんに何かあったら、ひっく、マリアはどうしたらっ……!?」
「……マリア……」
 泣きじゃくるマリアを見て、カグラは小さく拳を握る。それをゆっくりと解くと、マリアの頭を撫でた。
「ジ、ジジ様……」
「マリア、泣くでない。シオンの行方がわからぬ上にお前にも泣かれると、ワシは悲しい。シオンを見つけ出すためには、マリアの協力が不可欠なのだよ。つらいだろうが、一緒に探してはくれぬか?」
「……そう、ですよね……しぃちゃんがいないなら、早く探さないと……」
「ありがとう、マリア」
 マリアは落ち着きを取り戻し、涙を拭いながら立ち上がる。カグラも立ち上がると、辺りを見回した。
「それに、ワシらには頼もしい助っ人がたくさんいる。シオンも、すぐに見つかるのだよ」
「助っ人、ですか……?」
 カグラは、鉢植えを見つけるとしゃがみこむ。葉に乗っているてんとう虫を見つけると、嬉しそうに目を細めた。
「突然、申し訳ない。女子を探しておるのだが、話を聞いてはくれぬだろうか?」





「ん……つ、めた……? っくしゅ」
 梓音は、全身を蝕む冷たさに目を開けた。うっすらと、一面のコンクリートが見える。『自分はコンクリートの上で寝ていたため、冷たかったのだ』と認識し、体を起こして、正面を凝視する。
「…………え?」
 ストライブ、という表現を使えば、少しはこの状況を緩和できただろうか。梓音は、人生で初めて実物の牢を見た。幾重にも縦に刺さるそれは、かろうじて鼠が出入りできる幅で、扉の外側には立派な錠前がついている。牢屋に閉じ込められている事実を理解し、梓音は慌てて立とうとした。
「な、何なのコレ……っつ!?」
 鈍い痛みの方へ目を向けると、梓音の右足首は赤く腫れていた。かといって、何もしない訳にはいかない。梓音はよろけながらも立ち上がり、痛みを堪えて扉へと近付く。そして、鉄の棒を縋るように握ると、錠前へ手を伸ばした。
「……このタイプなら、十七番のマイナスドライバーを使えば……!」
 梓音は、慣れた様子で腰の辺りに手を回す。しかし、目当ての物を掴めずに空振った。
「ドライバーが無い……!?」
「本物のお姫様になった気分はどう?」
 先刻まで散々聞いた声に、梓音は顔を上げる。そこには、魔女の城の係員が、人懐っこい笑顔で大きなソファーに座っていた。
「お前は……!」
「はぁーい、お姫様。魔女のミルキーよ♪」
 梓音は、記憶を辿る。
醤が、魔王を退治した後。隣の部屋からやってきたミルキーが杖を振ると、突然睡魔に襲われてしまい、目覚めたらこの牢屋に閉じ込められていたのだった。梓音は、自分の身の回りを確認する。あの脱ぎ捨ててしまいたくなるようなお姫様ドレスは既に無く、梓音は元のワンピースに戻っていた。体が軽く感じるのは、愛用のドライバーを一本残らず取られたからだ。
「持ち物チェックしてビックリしたわぁ、次から次へとドライバーが出てくるんだもの。五十本はあるんじゃない?」
「ヒトの商売道具に何してくれてんのよ……!」
 梓音を挑発するように、ミルキーはドライバーをバラバラと床に振り撒く。無残に転がるドライバーの数々を今の自分ではどうする事も出来ず、梓音は憤るばかりだ。ふと、梓音は牢を掴む自分の手を見て、自分に対する最大の違和感に気が付いた。
「メダロッチは!?」
「わあ、ビックリした! そんな大きな声も出せるのね」
「ワタシのメダロッチはどこなの!?」
「え~? どこなんだろうね~?」
「とぼけないで!! お前じゃなかったら、誰が……!?」
 梓音は、大きく見開いた。ミルキーの手首には、それはもう見慣れたメダロッチが三個目として装着されていたからだ。
「それっ……ワタシのメダロッチじゃない!!」
「ふふっ、私にも似合うかしら?」
「ふざけんな!! 返さないと……!!」
「今のキミが、どうするって言うの?」
 ミルキーの問いに、梓音は絶句した。ミルキーはソファーから立ち上がり、意気揚々と歩き出す。
「『メダロッターなんて、メダロットさえいなければただのヒト』。誰の言葉だったかしらね? まあ、キミがドライバーでどうするつもりだったのかはわからないし、私にも魔法があるんだけど……」
「……目的は何? ツアーの進行を邪魔した事、怒ってるの……?」
「あははっ! 違う違う!」
 梓音の言葉を笑った後、ミルキーは迎え入れるように両腕を広げた。
「キミには、この城のお姫様になってもらうわ!」
 ツアーの復讐の方が、梓音にとってはまだ優しかった。まさかのトンデモ回答に、梓音の顔が青ざめる。
「は……!?」
「私ねー、『この城に足りないものって何だろう?』ってずっと思ってたの。魔女がいてー、魔王がいて。そしたら、キミが来てくれたのよ! すっごく嬉しかったんだから!」
 一人で歓喜するミルキーは、怒りを通り越して最早恐怖だ。恐る恐る、梓音は尋ねる。
「何で、ワタシを……?」
「キミって、お人形みたいに可愛いじゃない?」
 淀みのない答えに、梓音は再び言葉を失った。両手を胸に当て、ミルキーは話し続ける。
「木漏れ日のような髪の色、雪のように白い肌、憂いを帯びた瞳、桜色の唇、守ってあげたくなる華奢で小さな体……まさに、私の理想とするお姫様! 毎回ただ魔王に攫われるためだけに生きてる、超ヒロイン級のお姫様よ!」
「さり気なくディスってない?」
 意気揚々に語るミルキーに、梓音は所々感じた棘を指摘する。冷や汗を垂らしながらも梓音は鼻で笑い、ミルキーへ言い放った。
「そんなつまんない生活、真っ平ごめんよ。ワタシがお姫様になったら、ツアーなんてこの城ごと滅茶苦茶に壊してやるわ」
「あん、お姫様が魔王みたいな事言っちゃダメ! 何だったら……」
 杖を目前へ向けられ、梓音の両肩が跳ねる。杖の先の宝石が怪しく光り、ミルキーの顔を照らした。
「『本物のお姫様』の次は、『本物のお人形』になってみる?」
 梓音の全身を、恐怖が支配する。梓音は、強く目を瞑った。
「オレも真っ平ごめんだな」
 突如、後ろから聞こえてきた声に、ミルキーは振り向き。そのまま、左腕を取られた。
「!?」
「まさかっ、城の地下にこんな部屋があるなんてな……探したぜ、波花!!」
 息を切らしながら、醤は梓音に笑い掛けた。驚いて目を見開き、梓音は小さく名前を呼ぶ。
「村崎……」
「ほらよ、メダロッチ!」
「!」
「もうとられんなよな!」
 ミルキーを解放し、醤は引き剥がしたメダロッチを梓音へと手渡した。気にしていない様子で、ミルキーは笑う。ミルキーと梓音の間に割って入り、醤も冷や汗をかきながら口元だけを吊り上げる。
「はぁーい、勇者くん。ここは、関係者以外立ち入り禁止よ♪」
「そーかい。じゃあ、部外者のコイツも連れて帰るわ。鍵くれよ」
「ダメよ! その子はもう、私のコレクションだもの。れっきしとした関係者よ」
「勝手に『お姫様』なんかにされてたまるか!! コイツには、言いてぇ事が山程あんだよ!!」
 醤は背中を向けているため、梓音には表情がわからない。叩きつけるような言葉は続く。
「『謎の上から目線やめろ』とか! 『ドライバー何本持ってんだよ』とか! 『そのドライバーで襲ってくんな』とか! 『グランドファザコンウルトラスーパーデラックスが』とか! 『お姫様なんてガラじゃねぇんだよ』とか! 『オレの事爆笑してたけど、お前のドレス姿も相当ダセェ』とか!」
 一拍置き、醤は俯く。
「『今のカッコの方がまだマシだわ』、とか……!」
 顔こそ見えなかったが、醤の耳は殊更赤かった。梓音の瞳が揺れる。
「他にも、たくさんあんだ! 全部言う前に、消えられてたまるかよ!!」
「うーん……私は、魔王じゃないんだけどなー」
 困ったように頭を抱えた後、ミルキーはにっ、と笑い、醤に杖を向けた。
「いいわ、お姫様を賭けて勝負よ勇者くん! 負けたら、キミも私のコレクションの仲間入り! この城で勇者をやり続けるの……ずーっと、ずーっとね♪」
「望む所だ!!」
 ミルキーの宣戦布告を受け入れ、醤はメダロッチを掲げる。ミルキーは満面の笑みを浮かべ、片手で杖を回しながらターンした。
「はぁーい、ボウヤ! ミルキーが魔法をかけてあげる♪」
「……」
 醤は、決して油断しまいとミルキーを睨みつけるばかりだ。
「……ふーん?」
 つまらなそうに、ミルキーから笑顔が消えた。

「キミには、子ども騙しが通じなかったようね」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
マ「マリア達がRPGのパーティーだったら、ショウさんが勇者、しぃちゃんが鍛冶屋、ジジ様がガンマン、マリアがヒーラーですね! 怪我した皆さんを、マリアが頑張って癒しますよぉー♪」
梓「次回。『六角形の神サマ』第弐拾肆話、『永遠幻想曲(後篇)』。マリアがヒーラーやるなら、問答無用でホーリーナースにパーツ組み替えるからね」
マ「!?」

六角形の神サマ 第弐拾肆話/永遠幻想曲(後篇) ( No.24 )
   
日時: 2020/04/14 12:45
名前: 海月

「しぃちゃん!! そのまま動かないでください!!」
 直後。凄まじい轟音と一閃が、村崎醤(ムラサキショウ)、波花梓音(ナミハナシオン)、そして魔女・ミルキーの横を迸った。突風が過ぎた後、石と鉄が混ざり合って崩れていく。いくら三人が凝視した所で、床に散らばっているのは、大小違えど炭だった。突如訪れた城の崩壊に、主のミルキーは当然声を荒げる。
「わっ、私の城……っ!? お城にこーんな酷い事する、いけない子は誰!?」
「……何」
 醤と梓音、ミルキーが声の方へ目を向けると、幾分か小さな影が二つ。馴染みの声と身長に、見慣れないオプションが追加されていたため、醤は目を点にして、眉間に皺を寄せた。
「俗世に紛れて悪を討つ、通りすがりの老いぼれなのだよ」
「マリアはピッチピチですよぉ! しぃちゃん、助けにきました!」
 時代劇ドラマの主人公が着ていた羽織をなびかせるカグラ、そしてリボンが可愛いラピの耳カチューシャをつけたマリアの登場に、醤と梓音は揃って頭を抱えた。更に、マリアが抱える『ワクチンほう』は、いつぞやかのロボトル同様稲妻を帯びている。かの『KWGプロトタイプ用ウエポン』に準ずる威力のパーツを、この狭い空間で、マリアは紛れもなく、且つ躊躇なくぶっ放したのだろう。醤は足早に歩み寄り、カグラの顔面を鷲掴む。
「随分と余裕あんじゃねーか、なあ……!?」
「いだだだだ、ショウやめっ……!? 液晶が、液晶が割れるっいだだだだだ……!」
「ショウさん、どうしちゃったんですか!? ハッ! まさか、魔法で洗脳されてるんですか!?」
「こっちの台詞だよバァァァカ!! つーかそうであってくれ、頼むバカ共!!」
 突然の暴行を目の当たりにして驚愕するマリアに、醤は笑顔を引き攣らせて言い放つ。本当ならマリアも二、三回小突いてやりたい所だが、人のメダロット、何より女の子相手のため、醤はカグラを総括責任者と見なしたのだ。例え、後で梓音から倍以上の暴行を受けるとしても、だった。
「村崎、おじいちゃんに何すんの、いっ!?」
 近付こうとした拍子に、右足首の痛みが生じ、梓音は表情を歪めた。途端、カグラとマリアが静かになり、醤もつられて黙る。
「……シオン、怪我しておるのか?」
 丸い目を瞬きさせ、カグラは尋ねた。マリアはというと、目を丸くしてじっと足首を見つめるだけだ。
「ごめんね~? 牢屋に放り込んだ時かもしれないわ!」
「『放り込んだ』ってお前、一応女の子だぞ……!?」
 傍らの温度差に、醤は今度こそ黙り込んだ。いや、『黙らされた』という表現の方が正しいのかもしれない。何せ、プレッシャーが半端ない。
「『ごめん』でセレクト隊が要りますか!? しぃちゃん、可哀想……絶対許さないんだから!!」
「……」
 かたや、熱気満々のメダロット。かたや、冷気満々のメダロット。対照的ではあれど、どちらもブチギレているんだろうなぁ……と、醤は漠然と考えていたのであった。





『六角形の神サマ』 第弐拾肆話/永遠幻想曲(後篇)





「ふふっ♪ メダロット、転送!」
 ミルキーがメダロッチを押すと、眩い光が舞い、魔女型メダロット・サンウィッチ―とジャック・オー・ランタン型メダロット・カオーランタンが転送された。見ていたカグラとマリアも『オプションパーツ』を脱ぎ、各々のマスターに手渡す。
「ショウよ。寸法に自信が無いが、お土産なのだよ」
「お土産だったのかよ」
「あっ!? もちろん、しぃちゃんがいなくなった後じゃないですよ!? イベント前の空き時間に買ったんです! それでショウさん怒ってたんですか? も~、いくらマリアでもそこまで抜けてないですよ~!」
「いーや、抜けてると思う」
 明らかにズレているマリアを生暖かい目で見て、醤は頷いた。
「あ、そーだ……波花!」
「何?」
「ほら、つかまってろよ」
 そう言うと、醤は左肘を梓音の方へ寄せた。醤の言いたい事を理解した途端、梓音は首を横に振る。
「何言ってるの!? お前にしがみつくぐらいなら、鉄格子にしがみつくわ!」
「なるべくなら、近いトコで見れた方が良いだろ!? あ、言っとくけど『フィールド』の事だかんな!?」
「当たり前じゃない! でもっ……!」
「オレが支えるよかずっとマシだろーが! 早くしろよ! オレだって恥ずいんだよ!」
 頬を赤らめて言い合う二人に、マリアはかつてない程目を大きく見開いていた。
「明日はお赤飯ですか!?」
「マリアさん、後で二人っきりでなが~いお話があります」
 醤は、ロボトル終了後のマリアへの説教を、固く心に誓った。すると、左腕に温度を感じ、勢いよく隣を見る。
「……何、お前が言ったんでしょ? ロボトル終わるまで、その……よろしく」
「お、おう……」
「……ふむ」
「お前もかクソジジイ」
 醤達の様子を見て納得したように頷くカグラの声に、醤は刺々しく噛みつく。大方、御守神社参拝時代の醤の『お願い』内容を思い出しているのだろう。カグラは、『心外』と言わんばかりに首を傾げる。
「何も言っておらんではないか」
「どうせ言いてぇ事あんだろうが、エエ……!?」
「ワシは構わんのだがな……この話題を続けて困るのは、お前の方ではないか?」
「よーっし、ロボトル頑張ろー!!」
「耳元であんまりうるさくしないで……!」
 尤もな言い分に、醤は非難を浴びながらも気持ちを切り替えた。肩を竦め、ミルキーは苦笑する。
「なーんかわちゃわちゃしてたみたいだけど、勇者くんはロボトルの準備できた?」
「オレの所為じゃねぇよ……って、ちょっと待ってください。カオーランタンの両腕、さっきと違いません?」
「あら~? 知らず知らず魔法をかけちゃったのかしら?」
「魔法で両腕がビーストマスターになってたまるか!!」
 醤達が騒いでいる間に、パーツを転送したのだろう。カオーランタンの右腕にはデスボム、左腕にはデスビームが装着されていた。当のカオーランタンはというと、自分の事について話しているのがわかるのか、不思議そうに首を傾げている。幾らその様子が微笑ましくても、両腕の造形で一気に現実に戻されたのだった。しらばっくれるミルキーに醤が怒号を散らすと、梓音が窘める。
「村崎、うるさい。ロボトルにパーツ交換はつきものでしょ? そうでもしなきゃ、向こうのチーム妨害パーツしか無いんだから」
「だからって、ラスボスのパーツ使うのはあんまりだろ!! 全部貫通すんだぞ!?」
「何のコトかわからないけど、『ラスボス』はプロトタイプの方よ……コンビニで売ってるんだから、仕方ないじゃない」
「誰だ!? ビーストマスターのパーツをコンビニに卸したのは!? おい、お前ら!! 絶対あの両腕の攻撃当たんなよ!? 当たったら一分でロボトル終わるぞ!!」
「ほお、全弾貫通する程の威力なのだな。気をつけるとしよう」
「む、無理をおっしゃる……」
 醤の言葉に頷くカグラに、震えるマリア。心は間に合わなかったようだが、両チームの機体の準備が整ったのを見計らい、お馴染みの号令が轟いた。
「合意と見てよろしいですな!?」
 少々ハイトーンのどこか優しさを感じるその声に、醤と梓音、そしてカグラとマリアは顔を見合わせる。
「あれ? いつもと声違くね?」
 醤が呟くと、完全に部屋のインテリアとして認識していたラピの大きなぬいぐるみが立ち上がる。そのまま頭を外すと、中から鼻の下に髭を生やし、白髪をオールバックにまとめた初老の男性が現れた。
「とうっ!」
 謎の掛け声と共に着ぐるみを脱ぎ、突如現れた男は意気揚々と喋り出す。
「只今、このバトルは真剣ロボトルと認定されました! よって私、世界メダロット協会永久ロボトル公認レフェリー・Mr.うるちが審判を務めさせて頂きます!」
 どうやら、メダロット協会のレフェリーは地区毎の担当があるらしい。考えてみれば当たり前の話で、全国をMr.ジャムとMs.マーガリンが担当しているとなると、それこそ既に過労死している。『Mr.うるち』と名乗るこの男性は、確かに赤い蝶ネクタイに白いシャツ、そして黒のスラックスと、レフェリーとして特徴的な格好をしている。しては、いるのだが。
「何で、メダロット協会はまともなヤツがいねーんだ……」
 随分奇抜な登場をしたMr.うるちに、醤はどこぞのコンビを思い出してげんなりした。恐る恐る、醤はMr.うるちに声を掛ける。
「頼むから、審判の途中で性犯罪はやめてくれよ……?」
「ええっ!? しませんよ、そんな事!!」
 慌てて否定する様子を見た限りでは誠実そうで、醤は幾何か安堵した。このレフェリーは、Mr.ジャムやMs.マーガリンよりも信用できるだろう。両チームを確認し、Mr.うるちは右手を高らかに上げる。

「これより、醤・梓音選手のカグラ・マリア組対ミルキー選手のサンウィッチー・カオーランタン組のタッグマッチを行います! それでは、ロボトルゥ……ファイトオ!!」

 Mr.うるちが一気に腕を振り下ろすと、ロボトルのゴングが鳴った。
「カグラ! 魔女の方にリボルバー! 二号機に注意しながら、さっさとリーダー機落とすぞ!」
「心得た!」
「リーダーが言うなら、援護しようか。マリア、カプセル」
「了解です!」
 カグラはライフルを、マリアはナパームを、リーダー機であるサンウィッチーに集中砲火する。サンウィッチーは空を舞っているかのように軽くかわし、その前には二号機・カオーランタンが回り込んだ。
「げっ!?」
「勇者くん、作戦は良いけどそうはさせないわ! カオーランタン、パーン!」
 ミルキーが杖を向けると、カオーランタンは目から眩い光を放つ。途端、額上に『×』のグラフィックが浮かび、マリアは首を傾げながら触れた。
「何ですか、コレ……?」
『防御不能ノマイナス症状発生』
 メダロッチから無機質な声が聞こえ、梓音は僅かに目を伏せる。醤は、舌を打ちながらカオーランタンを見た。
「くそっ!! いきなりか!!」
「ふふっ、同じ攻撃ならダメージ大きい方が美味しいものね! カオーランタン、デスボム!」
「えっ!? えっ!? マリアに何が起きてるんですか!?」
「マリア!!」
 味方の慌てふためく様に、マリアはただ狼狽える。マリアに向かうナパームを撃ち落とすべく、カグラは咄嗟に左腕・サブマシンガンを構えた。
「サンウィッチー、ツーコットン♪」
「うわっ、と!?」
 杖を振り回し、ミルキーが上機嫌で指令を出すと、カグラは動いてもいないのにひっくり返った。まるでカグラを嘲笑っているかのように、頭にはバナナの皮が落ちてくる。バナナの皮を抓み上げ、カグラは目を丸くして首を捻った。
「はて……ワシは今、何をしようと……?」
「だあああっ!! 転倒ウゼエエエエ!!」
 醤は、手を強張らせ、忌々しげに叫んだ。当然、無傷のナパームはマリアの追尾を止めない。
「キャアアア!? もう、しつこいですっ!! ナースコール……!」
「ダメッ、マリア!! ナースコールを使わず逃げて!!」
「何でですかしぃちゃあああああん!?」
 一度は踏み止まったマリアも、梓音に言われるがまま走り回る。咄嗟に崩れていない側の鉄格子の裏へと回り込み、ナパームは牢に当たって爆ぜ、鉄が炭となった。
「ひっ!?」
「……聞いて、マリア。マリアの前に浮かんでる『×』は、『防御不能』のサインなの」
「防御、不能……!?」
 梓音の言葉を復唱し、マリアは己の『×』を見上げる。梓音は、説明を続けた。
「……そう、言葉通りの意味。防御してダメージを減らす事もできなければ、頭パーツを庇う事もできない。ナースコールだって、使おうとすれば完全防御なんておろか、敵に首を差し出すだけの行為になる」
「じゃあ、あの時使ってたら……!?」
「今頃、機能停止してたでしょうね」
「ひええええぇ……!」
 淀みなく言いきる梓音に、マリアは青い顔で自分の体を抱き締めた。マリアを不憫に思い、醤も口を出す。
「ロボトルの前に言ったのは、そういうこった。ただでさえも威力がエグいパーツなのに、防御不能なんかになってみろ。即死だよ」
「ショウさんはトドメをさしてるんですか!? 体の前に心がボロボロですよ!! マリアはどうしたら良いんですか!?」
「……マイナス症状は、ずっとじゃねぇ。一過性で、終わりがある。そうすりゃ、完全防御も使えるようになんだろ。それまでは……」
「『それまでは』……?」
 言葉を繰り返し、醤へ熱視線を送るマリア。醤は、マリアの希望ごとそれら全てを避けるように、目を背けた。
「…………まあ、頑張れ」
「『作戦名:頑張れ』ってあんまりじゃないですか!? マリアが二号機だからって雑に扱わないでください!!」
「扱ってねぇ!! オレだってお前が機能停止したら困んだよ!!」
「これこれお前達、仲間割れをしてどうする」
 言い争う醤とマリアを嗜めながら、カグラはライフルでカオーランタンの装甲を削っていく。しかし、両腕で防御され、それも僅かしか叶わない。カグラは敵二体を見据えたまま、醤に話し掛けた。
「ふむ。弾数にも限りがある故、本当は威力の高いサブマシンガンを使いたい所ではあるが……そうすると、避けられぬか」
「ああ。下手に使うと、一発でドカンだ」
「使いたくとも使えないというのは、もどかしいものだな。して、ショウよ。先程の転倒は、あの魔女の能力か?」
「サンウィッチーの行動は、全部『転倒』。アレを喰らうと、行動内容を忘れちまうんだ」
「これは、なかなか骨が折れそうだ」
 いつでも回避できるよう、カグラは床を踏み締める。ミルキーは杖をかざし、勝気に笑って口を開いた。
「カオーランタン、デスビーム!」
「「「あ」」」
 ミルキーの指示を聞くや否や、カオーランタンは、カグラとマリアに向かってビームを放つ。醤は、全力で吠えた。
「避けろオオオオオオオ!!」
「キャアアアアアアア!!」
「逃がさないわよ! サンウィッチー、ツーコットンにブーメラン!」
「おわっ!?」
「いっ!?」
 カグラとマリアは同時に転び、バナナの皮が宙を舞う。顔面から転倒したのか、マリアは起き上がって両手で顔を押さえた。
「いったぁ~いっ!!」
「すまん、マリア!!」
「キャッ!?」
 カグラが咄嗟に突き飛ばし、マリアは再びうつ伏せで倒れる形となった。カグラが反対方向に転がった途端、二人の間をビームが灼く。マリアの背筋が寒くなるのも束の間、カオーランタンは次から次へと攻撃を繰り出した。
「まだまだいくわよぉ! カオーランタン、デスボム!」
「もうイヤアアアア!!」
「あははははははっ!! あーっははははははっ!!」
「一番城ぶっ壊してんのお前じゃねーか!?」
 容赦のない猛攻を続けるミルキーに、醤は思いきり指摘した。度重なる爆音、マリアの悲鳴、そしてミルキーの高笑いが空間を支配する中、不意にペパーミントの香りが醤の鼻をくすぐる。
「……村崎の言う通り、近いに越した事は無かったね」
「!?」
 先程よりも僅かに顔を寄せ、喋り掛ける梓音に醤は顔を赤らめて固まった。しどろもどろに、醤は短い音を吐く。
「んなっ、なっ……!?」
「……マリアのナースコールの使用回数は、四回。おじいちゃんのミサイルと一緒」
「え?」
 いきなりマリアの頭パーツの話を持ち出された意図が読めず、醤は聞き返す。梓音は前方から目を離さないまま、話し続けた。
「今の内に、言っておく。防御不能が解除されたら、ワタシ達があの攻撃を防ぐから、おじいちゃんにはサンウィッチーを撃破させて。それまでは、ジリ貧だけどやるしか……やたら顔赤いけど大丈夫?」
「すこぶる健康デス!! 色んな意味で!!」
「なら良いけど……?」
 不審な醤の態度に、梓音は訝しげに顔を歪めた。一息つき、梓音は再び口を開く。
「……村崎は、ロボトル前にああ言ってたけど。例え、パーツの性能が違っても、ルールから逸脱しない限りメダロットとメダロッターの力だよ。ロボトルは、公平でなきゃ成り立たないもん」
「……そうだな……」
 珍しく静かな醤の様子を不思議に思い、梓音は隣を見た。すると、真剣な眼差しで四体を見つめていたため、梓音は少しだけ驚かされた。ずっと閉じていた口が、醤自身によって開かれる。
「……なぁ、波花」
「何?」
「サンウィッチーのメダルは当然ウサギだろうが……カオーランタンのメダル、どう思う?」
「……メダルねぇ」
 醤に尋ねられ、梓音も視線を前へと戻す。カグラとマリアは、今もカオーランタンの攻撃に追い掛け回されている真っ最中だ。
「元は、カオーランタンなんだから……サルメダルが妥当なんじゃない?」
「それなら、何だかんだ全弾外れてんのも説明がつく。サルメダルは、元々格闘パーツの方が相性良いしな。もしクラゲかトータスなら、オレらはとうに死んでいる」
「それは言えてる」
 梓音が返答した後、どこかの外壁がまた崩れる音がした。醤は、眉間の皺を深くする。
「ミルキーも、最初から当てる気は無ぇだろうな。当てるよか、ジジイとマリア両方に防御不能掛けて、瓦礫で押し潰した方が余程楽に片付くぜ」
「カオーランタンの両腕を破壊した所で、サンウィッチーによる判定勝ちを狙ってくるだろうしね。本当に、やらしい性格をしてる」
「つまり、ミルキーからすればどっちに転んでも良いってワケだ」
「ドヤ顔のトコ悪いけど、全然面白くないから」
 不敵に笑って言ってのけた醤に、梓音は冷たく一瞥した。気を取り直すと言わんばかりに、醤は咳払いを一つする。
「……とまぁ、そこは波花の言う通りって事だよ」
「何が? お前の親父ギャグが死ぬ程ゴミってコト?」
「断じてそこじゃねぇ」
 全くもって仕切り直せなかった事態に、醤は苦々しく呟く。そして、口角を吊り上げた。
「『ロボトルは公平だ』、ってな」
 その後も話し続ける醤に、梓音は瞬きし、光の宿った目で前を見据えた。ヘトヘトになりながらもマリアは逃げ惑い、弱音を吐く。
「この『×』っていつ無くなるんですかああ!?」
「案ずるな、マリア。結構な時間が経過しているのだ、そろそろ消えよう。或いは、その前に……おや?」
「あら……?」
 メダロッチを通じて受信された言葉に、カグラとマリアは目を丸くする。そして、顔を見合わせて頷き合い、爛々とした二対の光で、敵のメダロット二体を捉える。
「……心得た!」
「了解しましたよ……しぃちゃん!」
 相手の空気が変わり、ミルキーは杖を両肩に掛け、おどけたように笑って見せた。
「あらあら? 何だかやる気満々? どうやら、作戦がまとまったみたいねぇ」
 ニコニコと、人懐っこい笑顔を浮かべるミルキー。片手で杖を器用に回し、前方へ向ける。
「なら、ぜーんぶ忘れてちょうだい! みんな仲良く、このお城で暮らしましょっ!」
 ミルキーの掛け声と共に、サンウィッチー、そしてカオーランタンが飛び出した。
「カオーランタン、デスボム!」
「マリア、カプセル!」
「はいっ!」
 マリアはありったけのカプセル型ナパームを投げつけ、敵のナパームを全て相殺する。砕け散る弾薬に、ミルキーは驚愕した。
「ええっ!?」
「防御ができないのなら、コチラも攻撃すれば良かったんです。『攻撃は最大の防御』って、マリアのための言葉だったんですね!」
 まるで戦闘民族のような言葉を放ち、マリアは勝気に笑う。ミルキーはメダロッチを構え、次の指示を出した。
「ナパームは壊せても、コレは相殺できるかしら!? カオーランタン、デスビーム!」
「流石に無理ね」
「だったら……!」
 梓音がささやかに笑った後、醤はメダロッチに向かって叩きつけるように叫んだ。
「全力で、避けるだけだ!!」
 カグラとマリアに難なく回避され、ビームは外壁を焦がして砕く。
「『ねらいうち』を使ったな?」
 ミルキーは、幾分か低いカグラの声ではたと気付く。しかし、あまりにも遅過ぎた。
「ならば……此方も、心置きなく使わせてもらおう!」
「カグラ! サブマシンガン!!」
 醤から指示を受けて足を踏み締め、右腕で支えてガトリングをカオーランタンへと乱射した。カオーランタンの全身は弾丸の雨に撃たれ、大幅に装甲を削られていく。ミルキーは、急いで命令を出した。
「カオーランタン! 後退!」
 言われるがまま、カオーランタンは車輪をフル回転させ、音を立てて後ろへ下がる。醤は、笑みを浮かべて言い放った。
「そんだけ装甲薄けりゃいけんだろ! カグラ!! ミサイル!!」
「させる訳ないじゃない!? サンウィッチー! マジョラム!!」
 サンウィッチーが目映い光を放つと、カグラは転倒し、ミサイルは不発に終わった。
「いたたた……」
「残念だったわね、勇者くん! 私のメダロットは、カオーランタンだけじゃないのよ!」
 ミルキーは、俯いている醤に対し得意気に笑う。てっきり、悔しそうに顔を歪めているものだと思っていた。しかし、再び上げた醤は、不敵に笑っていたのだ。
「忘れてんのは、アンタの方だ」
「えっ!?」
「やれやれ、こうも転ばされると腰が痛むな……」
 ミルキーの動揺を余所に、カグラは呑気に腰を擦る。頭なんて、バナナの皮が乗ったままだ。カグラは、転がったまま言葉を続けた。
「なれど、『ワシは転ばなければならなかったのだ』。仕方あるまいな」
 ミルキーは、カグラの、更には醤の言葉の意味をすぐさま理解した。何故なら、カグラの転倒により、直線上に拓けた向こう側。『もう一人の狙撃手』が、サンウィッチーにぴたりと照準を合わせていたためである。巨大な注射器の『針』は、既に大小様々な光の円を纏っていた。
「ウソでしょぉ……!?」
 落胆するミルキーの声に、両腕で注射器を構えるマリアは、首を倒して微笑む。
「残念ながら、本当です♪」
「マリア! ワクチンほう!!」
 梓音の指示と同時に、一筋の閃光が空間を裂いた。散るように光が消えた先では、元の姿より黒くなったサンウィッチーが仰向けで倒れており、付近にはウサギメダルが転がっていた。

「醤・梓音選手の、カグラ・マリア組の勝ちィ!!」

 Mr.うるちの声と、どこからろもなく鳴り響くゴングに、醤は右拳を突き上げた。
「よっしゃあああ!! 勝ったあああああ!! は、良いけどマリア! 狙うなら、もーちょい上狙えよ! サンウィッチーの前にジジイが丸焦げになんだろーが!?」
「は? マリアが照準ミスるワケないじゃない。脳味噌腐ってんの?」
「しぃちゃんっ!! マリア頑張ったのに、ショウさんたら酷いです!」
「勝ったのだから良いではないか」
「本人含め誰一人として味方がいない!!」
 嫌悪感丸出しの顔で醤から離れ、マリアに支えてもらう梓音。そんな梓音に泣きつくマリア、醤に呆れるカグラと、醤は手をわななかせて現状を嘆いた。一方、負けたミルキーは、頬を膨らませて悔しがっていた。
「あん、もう悔しいっ! ……ま、良いわ! 勇者くん、高校生みたいだしー」
「ちょっと待て!! 切り替え早くね!? つーか、本気じゃなかったのかよ!?」
 あっけらかんと笑顔を浮かべるミルキーに、醤は尋ねる。すると、上機嫌なウィンクが返ってきた。
「ふふっ、どうかしら? 楽しかったわよ、勇者くん♪」
 ミルキーの様子からするに、聞くまでも無かっただろう。もしも、ミルキーが本気であったなら、どんなメダロットを使ってきたのだろうか。本気のミルキーと戦えなかった無念さと、背筋が凍るような可能性から、醤は複雑な気持ちになった。梓音は深く息をつき、頭を抱える。
「本気じゃないなら、もうちょっと加減しなさいよ。途中、ゾッとしたんだから……」
「あら! お嬢ちゃんの事は本気だったわよ?」
「「!?」」
 心外だと言わんばかりに反論するミルキーに、醤と梓音は大きく見開いた目でミルキーを凝視した。何故、醤は冗談で、梓音は本気なのだろうか。やはり、顔面偏差値的な問題なのだろうか。醤の思考がそこまで到達した所で、ふと止まる。確か、ミルキーは今さっき言っていたはずだ。
「ま、待って……。さっき、『村崎は高校生だから、本気で勇者にするつもりは無かった』って言ったでしょ? なのに、何で……?」
 混乱で眩暈を感じているのか、梓音は青い顔でミルキーに問う。ミルキーからの回答は、至ってシンプルなものだった。
「だってキミ、小学生でしょ?」
 ビシ、と目に見えない罅が空間に入ったように、誰もが感じた。ロボトルで崩れた壁等、比ではない。一同が絶句し、硬直する中、この男だけは違った。
「なっみはっなすゎぁ~ん!! 小学生に間違わべっ!?」
「今のはショウが悪い」
「デリカシー無さ過ぎですよ、ショウさん!」
 水を得た魚の如く手を振りながら梓音を煽った直後、醤の頭にプラスドライバーがクリティカルヒットした。床に沈んだ醤を見て、カグラは目を細めて頷き、マリアは腰に手を当てて叱る。当然ながら、どちらも醤の意識には届いていなかった。
「なーんだ、子どもじゃなかったの! 私の勘違いの所為でごめんね~?」
「勘違いじゃなくても、ここは謝る場面よ」
 両手を合わせて苦笑するミルキーに、梓音は青筋を立てて睨みつける。うって変わって真剣な表情を浮かべ、ミルキーは弁解した。
「ホラ、おっきいおトモダチ相手だと、ゆっ……コレクションする時暴れられたら大変じゃない?」
「これ程弁解する気の無い弁解も珍しいっていうか、今絶対『誘拐』って言おうとしたでしょ」
 こうして、『波花梓音お姫様化計画』、もとい『幼女(?)誘拐未遂事件』は、幕を閉じたのだった。





「あ~もう、最悪な一日だった……」
「オレの台詞だよ、ったく……」
 メダロッ島から船着き場までの、帰りの旅路。船の窓側で頬杖をつき、反対側に座る梓音と醤は、口々に愚痴を呟いた。二人の間に座るカグラとマリアは、口を開く。
「二人共、いい加減機嫌を直さんか」
「そうですよ! ほら! 折角窓側なんですから、夕日を見ましょう! キレイですよぉ♪」
「お前らは良いよなー。イベントからアトラクションから、さぞ大満足なんだろーよ」
 醤は窓の方へ向いたまま、わざとらしく笑みを歪ませて吐き捨てた。拗ねている醤に対し、カグラは満面の笑みで頷く。
「ああ! シオンの一件は肝が冷えたが、宴は楽しかったのだよ! ショウのお陰だな、ありがとう!」
「嫌味に礼で返すなバカ!!」
「おじいちゃんに怒鳴らないで。魚の餌にするわよ?」
「おお、やってみろよケガ人……!?」
 梓音と醤は、カグラ達を挟んで睨み合う。目を合わせたと思ったらまた喧嘩が勃発した二人に、カグラは顎に手を当て、目を細めた。
「ふむ……ショウとシオンは、喧嘩をする程仲が良いのだな」
「どうすりゃそう見えんだよ!?」
「おじいちゃんには悪いけど、それは絶対無いから」
 カグラが諦めの境地に達した所で、マリアは嬉しそうに指を差した。
「皆さん! 船着き場に着いたみたいですよ!」
 少し揺れた後に船は止まり、乗込口が開く。マリアは梓音に歩み寄り、心配そうに手を差し出した。
「しぃちゃん、立てそうですか?」
「うん、乗る時も大丈夫だったから。ありがと、マリ、!?」
 マリアの横から長い腕が伸び、あっという間に梓音は背負われてしまった。船を降りるまで呆けていた梓音だったが、我に返って暴れ出す。
「ちょっ、降ろしなさい村崎!! 何考えてんの!? バカじゃないの、バカッ!!」
「いでっ!? いででで!? 殴んじゃねーよ、マジで落としたらどうすんだ!」
 両手で醤を叩く梓音に、醤は反論する。しかし、梓音からすれば冗談じゃない。何とか降ろしてもらおうと、醤へ説得を試みた。
「『大丈夫』って言ったじゃない!! 大体っ、メダロッ島での車椅子も大袈裟なのよ!! こんなの、ちょっと挫いただけなんだってば!! いい加減にしないと、ドライバーで心臓一突きに……!」
「…………いーよ」
「何が!?」
 醤の言葉がよく聞こえず、梓音は乱暴に聞き返す。梓音は醤の顔を覗き込み、何も言えなくなってしまった。
「『研究所に着いたら、魚の餌でもドライバーでも好きにして良い』って言ったんだよ。ただ、それまでは暴れんな。悪化すんぞ」
 言葉を失った梓音は、小さく口を噤む。叩くのをやめて醤の肩に手を置いた後、暫くして梓音は背中に顔を埋めた。驚いた醤の、両肩が跳ねる。
「なっ!? み、はな……!?」
「……この年でおんぶとか、恥ずかしいったらないわ。ちょっと……顔、隠させてよ」
「あ、ああ。そういう事ね……?」
「それ以外に、どういう事があんの? ……ああ、もう最っ悪……」
 醤の答えを待たず、梓音は間髪入れずに愚痴を言う。梓音は、手元のシャツを握り締め、独り言のように呟いた。
「ホント、最悪過ぎて……忘れられそうにない」
 その言葉を皮切りに、醤と梓音は何も喋らなくなった。後ろを歩いていたカグラは、ふと気付いて振り向く。
「……おや。良い写真だな、マリア?」
「ふふっ♪ 現像したら、ジジ様も一枚如何です?」
「ああ、頂くとしよう」
 マリアの申し出に、カグラは穏やかに笑う。レンズの向こうでは、背負う醤も、背負われた梓音も、夕日に負けないくらいの赤い顔を浮かべていた。





「――此方、現場からお伝えしております!! 本日十五時頃、御守町の国道が何の予兆も無く陥没しました!! 休日の昼下がりという事で外出者はごく僅かの人数であり、幸いにして死傷者はいないようです!!」
 帰り道。醤達は、陥没した国道と、おびただしい数の報道陣を目の当たりにした。恐らく、原因を探った所で、答えは出ないままに終わるだろう。一同は負傷者を生まなかった奇跡に心から感謝し、『この先カグラを御守町外へ決して連れ出さない』と固く誓ったのであった。





メダロッチ更新中……――
・クリンボックス(WCH-04。浮遊:時間)獲得



続ク.





◎次回予告
醤「えー、皆様お待たせしました。オレを始め、『KWGはまだかまだか』と待ち侘びた方もいらっしゃる事でしょう! KWG、良いですよね~!! 白銀のボディー!! 鋭く光る刃!! 接近型として設計された、無駄のない脚部!! そして、クワガタメダルの痺れる程クールな性格……セイカ、ク……」
カ「ショウ、如何した……ん?」
シ「次回! 『六角形の神サマ』第弐拾伍話、『銀之道祖神』! 待たせたな、人間共! 『主人公』というのは遅れてやって来るものだ!!」
醤「いやオレだし百歩譲ってカグラだよ!!」

六角形の神サマ 第弐拾伍話/銀之道祖神 ( No.25 )
   
日時: 2020/07/25 22:07
名前: 海月

「あ~……道路マジで直って良かった~……」
 御守町は、紅葉が舞う秋を迎えた。
御守高校の始業式を終えた村崎醤(ムラサキショウ)は、虚空に向かって独り言を吐き出す。
 忘れもしない、夏休み。
カグラの好きな時代劇のイベントがメダロッ島にて開催される事を知り、醤は強引にカグラを現地へ連れて行った。その結果、醤達が御守町へ帰ってきた時には、何と国道が陥没していたのだ。負傷者が誰一人としていなかったのは、何よりの救いだ。真偽は定かではないが、『町を守るべき道祖神が、町外へ出てしまったからではないか』という仮定に達した。鎖界神社祭の事を考えると、もしかしたら外出時間も関係があるのだろうか。あの時も、醤が知らなかっただけで、誰かが転んだり、くしゃみをしていたのかもしれない。何にせよ、醤、波花梓音(ナミハナシオン)、マリア、そして『原因』は、顔を見合わせ、神妙な面持ちで頷いたのであった。
 醤は、間の抜けた表情でだだ長い廊下を歩く。
「工事現場の人、いつもありがとうございます……」
「……ひっ……」
「……んあ?」
 屋上へと続く階段の前を、丁度差し掛かった時。耳に入ったしゃっくり上げる声に、醤は足を止めた。
「……ふ……っぇ、く……」
 どうやら、気の所為ではないらしい。醤は、そろりと一段ずつ上がっていく。不意に、先日の御守神社での一件を思い出し、『泣き声だけで誰もいないとかマジ勘弁』と心の中で念じながら、意を決して覗き込んだ。
「誰かいんのか!?」
「!」
 結果として、きちんと人間はいた。その人物も、醤の存在は予想外だったようで、掛けられた声に肩を跳ねさせ、顔を上げる。拍子に、涙が数滴落ち、スカートに吸い込まれた。
「……え」
 醤は、合った目を大きく見開いた。そこには。
「……あ……村崎、くん?」
 醤の想い人である、泡瀬美園(アワセミソノ)が座り込んでいたからだった。





『六角形の神サマ』 第弐拾伍話/銀之道祖神





 泡瀬美園。
御守高校、二年A組。部活動は、無所属。しかし、試験となると学年五位以内をキープし、運動競技となると運動部にも劣らない活躍を見せる、御守高校の大スターだ。競技で最も得意とする『走高跳』は、醤の友人である尾根翠(ビネスイ)でさえも記録を破れないという。超人的な文武両道に留まらず、外見も美しい。軽やかに舞う栗色のロングストレートに、深紅の大きな瞳、そして桜色の唇に、すらりと伸びた体躯は、異性のみならず同性も思わず溜め息をついてしまう程可憐だ。まさに『高嶺の花』という表現が似合う女性であり、彼女に玉砕覚悟で告白し散っていく者達も少なくはない。
 そんな美園が泣いているとは何事だと、醤は急いで駆け寄った。
「みっ、美園ちゃん!? どうしたんだ!?」
「……運動会、以来だね。話せて、嬉しいんだけど……こんな、みっともないとこ見せてごめんね」
 美園が自分を覚えてくれていた事が嬉しく、醤の胸はときめく。無理に笑顔を浮かべ、涙を拭う美園に、醤は慌てて否定した。
「何言ってんだよ! みっ、あ、泡瀬さんは泣いててもかわいやいやいや!!」
「村崎君……? どうしたの?」
「何でもない!! 何でもないぜー!?」
 醤は、笑って誤魔化しながら美園の隣に座る。すると、美園は口元を押さえて笑い出した。
「ふっ、ふふっ……!」
「あ、泡瀬さん?」
「村崎君って……一緒にいて、本当に楽しいね。涙も引っ込んじゃった」
 微笑み掛ける、美園を見た瞬間。寸前まで困惑していた醤は、自分の胸を両手で鷲掴んで蹲った。
「ン゛ン゛ン゛ン゛ッ!!」
「村崎君!? 大丈夫!? 具合悪いの!?」
「大丈夫!! オレたまにこうなるから!!」
「たまになるの!? ホントに大丈夫!?」
 醤の持病は、『恋の病』。意中の相手の可愛さがカンストし、発作を起こしたのだった。美園の心配を余所に、残酷にも予鈴が鳴り響く。
「もうそんな時間!? 村崎君、一緒に保健室行こう?」
「オレの事ならマジで大丈夫!! ありがとな、泡瀬さん!!」
「ううん、こっちこそ……あ!」
 美園が声を上げたため、醤は蹲ったまま顔を上げた。美園は、醤の様子を窺うように眉を下げている。
「ん? どうした?」
「あのね、えっと……こんなこと、村崎君にお願いして申し訳無いんだけど……また私の話聞いてもらっても、良いかな?」
「ああ! そんな事なら朝飯前だ!」
 醤の返答を聞くや否や、美園は安堵したのがわかるぐらい表情を明るくした。
「良かった……! ありがとう、村崎君! それじゃあ、放課後ね!」
「おう! 放課後な~!」
 手を振って教室に帰っていく美園に、醤は起き上がり、笑顔で手を振り返した。美園が完全にいなくなったのを確認すると、醤は、表情を崩さぬまま自分も階段を降りて、息を思いきり吸い込んだ。
「放課後オオオオオオオオゥ!?」
 醤は、廊下の突き当たりへ叩きつけるように叫び、両手をわななかせる。
「『放課後』って、今日の放課後だよな!? あの美園ちゃんが!? オレに!? 話!? 夢か!? 夢じゃねぇよな!? 夢だったら一生起きねぇいっでー!? 夢じゃねぇわ!!」
 現実を確認すべく、醤は壁に頭を打ちつけた。額から血飛沫が上がっているにも関わらず、その目は爛々と輝いている。
「ヤベェよマジでえええ!? 美園ちゃんが!! オレに!! 話って事はさぁ!?」
「村崎君、あのね? ずっと、言えなかったんだけど……(裏声」
「どうした、美園? 恥ずかしがらずに言ってみろよ?(渾身のイケボ」
「私、私っ……実は、村崎君の事が好きだったの!(裏声」
「――つってなァ!? ンーフフフフフフフフフッ!!」
 ここまで見事に一人二役をこなし、醤は気色の悪い笑い声を上げながら廊下をローリングする。なかなか教室に戻ってこない友人を探しに来た翠と佐藤甘太(サトウカンタ)は、少し離れた場所から憐みの目を向けていた。
「なぁ佐藤、村崎どうしちゃったんだろう……?」
「さー? 御守神社の幽霊が憑りついたんじゃねー?」





「おかえり、ショウ。……おや、客人か?」
 放課後。
醤は、約束通り話をすべく、美園を連れて帰宅した。黒いエプロンをつけたまま出迎えたカグラに、醤と美園は返事をする。
「……ただいま」
「突然すみません、お邪魔します。よろしければ、皆さんで召し上がってください」
「此れは、気遣いかたじけない。あまりお構いできぬやもしれんが、ゆっくりしていってくれ」
 美園から手土産を受け取ったカグラは、扉を開いて二人を招き入れる。美園は、会釈しながら玄関に上がった。
「ありがとうございます」
「カグラ、母さんは?」
「母君は、回覧板を回しに行ったのだよ。鈴木殿だからなぁ……普段通りならば、遅くなるやもしれぬ」
「そうか、そいつは好都合だ」
「ふむ、あまり遅くならぬと良いが……『好都合』?」
 口角を吊り上げて言う醤、そして美園の後について、カグラも階段を上がる。部屋に着くと、醤は鞄を机に置き、床に座布団を敷いた。
「ホラ、泡瀬さん! 座ってくれよ!」
「ありがとう。村崎君、普段からきちんと部屋片付けてるんだね。うちは、すぐ散らかっちゃうの……」
「いやぁ~、それ程でもォ~? 泡瀬さん家が散らかってるなんて意外だなァ~?」
「ショウ、くねくねして如何した?」
「……何でもないでーっす」
 傍らで不思議そうに首を傾げるカグラの問い掛けに、上機嫌だった醤は一気に現実に戻され正座した。醤が座ったのを確認すると自分も座り、カグラは美園に一礼する。
「お初にお目に掛かる。ワシの名は、カグラ。ショウのジジイなのだよ」
「んな事言ったら、泡瀬さんが困るだろーが」
「ううん、血が繋がってなくても家族だなんて素敵!」
「だよなぁ!?」
「今日のショウはやけに不安定だな……」
 美園の言動一つで容易く手の平を返す醤に、カグラの方が困惑した。美園は自分の胸に手を添え、丁寧に挨拶する。
「挨拶が遅くなってしまって、ごめんなさい。私は、泡瀬美園といいます。クラスは違うけど、醤君とは同じ学校の友人です」
「醤君んんん!?」
 突然美園から下の名前で呼ばれ、醤は蒸気機関車のように頭と鼻から煙を出した。醤の様子に驚愕し、困ったように謝罪する。
「えっ、ごめんね!? 村崎君のお宅なのに『村崎君』って呼んだら変かなー、と思ったんだけど……馴れ馴れしかったかな?」
「いえ!! バリバリOKです!!」
 美園への尊さが募り、終いには敬礼までする始末。そんな醤を元気だから良しとし、カグラは顎に手を当てて考え込んだ。
「『アワセミソノ』……? はて、何処ぞで聞いた覚えがあr」
「おおーっとぉう!?」
「ぐえっ!?」
 醤は咄嗟にカグラの首のコードを片手で握り締め、捲し立てるように喋る。
「カグラ、お前の作ったアイスクリームまだ残ってたよなぁ!? 今持ってくるから泡瀬さんも食べてくれよ、マジ美味いから!!」
「う、うん。ありがとう……?」
「どういたしまして!!」
 バァン!!、と音を立てる勢いで、醤は自室の戸を閉めた。ようやく解放されたカグラは、首元に手を当てて醤を問い質す。
「なっ、何をするのだショウ! 息の根が止まるかと……!」
「良いか!?」
 醤に勢いよく眼前で指を差され、カグラは押し黙った。先程とはうって変わって般若の表情を浮かべ、醤は必死に言い聞かせる。
「お参り関係の事は絶っっっ対に言うなよ!? 美園ちゃんにも、美園ちゃん以外にも!!」
「……合点がいった、お参りで聞いたのか。成る程、あの子がお前の『ほ』の字の相手なのだな?」
「ウッ……!」
 涼しい顔で手鼓を打つカグラに、醤は言葉を詰まらせる。釘を刺さなければ思い出さなかったかもしれず、『墓穴を掘った』と言っても過言ではない。丸い緑の目から背き、醤は気まずげに舌を打つ。
「……だったら悪ぃかよ!?」
「何、『悪い』という話ではないのだよ。ただ……いつぞやか、『同情すんなら叶えろ』と言っておったな?」
 ギクリ、と醤の胸から軋んだ音が鳴る。確かに、言った。何年間も信じて参拝してきたにも関わらず、『醤の恋を叶えるのは不可能だ』と言ってのけた朴念仁に腹を立て、醤はその場の勢いで言ってしまっていた。滝のような冷や汗が、醤の顔を流れる。沈黙を肯定と受け取ったのか、カグラは口を開いた。
「……どれ」
 意外にも、出てきた声は普段通りの声だった。カグラは、醤と壁の間からするりと抜け、ドアノブに手を掛ける。
「縁結びしてやろう」
「待て待て待て待て!!」
 覚悟を決めた顔で戸を開け放ったカグラに、醤は必死でしがみつく。引きずりながら、カグラは醤に話した。
「ショウ、ワシは嬉しいのだよ。ようやくショウの願いを叶えられる、絶好の機会だからな。なのに、何故止めるのだ?」
「お前の『縁結び』がたかが知れてっからだよバーカ!! バーカ!! クソジジイ!!」
 どうせ、『ショウがお主の事を好きだから付き合ってくれ』と言うつもりなのだろうと、醤は笑顔を引き攣らせる。何せ、神様とは言え、カグラはあまり他のメダロットと変わらないらしいのだ。無理もない。無理もないからこそ、醤は心底余計な事をしないで欲しかった。
「……ひ、っく……ぐすっ」
「「え?」」
 突然聞こえてきた嗚咽に、醤とカグラは揃って顔を向ける。すると、美園がハンカチ片手に涙を零していたのだった。
「みっわせさんんんんん!? ホラ、お前が変な事ばっか言ってっから泣いちまったじゃねーか!?」
「ショウが挙動不審だからではないか?」
「オレがいつ挙動不審になったよ!?」
「帰ってからずっとではないか」
 醤が目くじらを立てた所で、カグラはあっけらかんと答えるのみ。どうしたものかと醤が乱暴に頭を掻くと、美園自身から否定する声が飛んできた。
「違うのっ!」
「えっ!? 泡瀬さん、『違う』って何が……!?」
「……羨ましく、なっちゃって」
「『羨ましい』とな?」
 醤とカグラは互いを解放し、美園の様子を窺いながら座り直す。目元をハンカチで押さえた後、美園は力無く微笑んだ。
「実は、今朝……メダロットと喧嘩、しちゃったの。村崎君に泣いてるとこ見られちゃったのも、それが理由なんだ。二人が仲良さそうにしてるの見たら、思い出して……」
「そう、だったのか……思い出させてごめんな」
「申し訳ない」
「ううんっ、二人は全然悪くないから頭を上げて! 私も大人気なかったの!」
 深々と頭を下げる醤とカグラに、美園は慌てて首を振った。美園は、今度こそ屈託のない笑顔を浮かべる。
「二人を見てたら、早く仲直りしたくなっちゃった! ありがとう!」
「いや、そう言ってもらえたら嬉しいけどよ……。てか、泡瀬さんもメダロット持ってたんだな」
 言われてみれば、美園の左手首には、赤とピンクのカラーリングが施されているメダロッチが嵌められている。大人びたザ・女の子の美園がメダロットに興味があるとは意外で、醤は眼鏡を掛け直しながらそのメダロッチを覗き込んだ。

「――げに人間は、救う価値のない愚物也!!」

 聞いた者を刺し仕留めんとする、憎しみの篭った声。
何者かが窓ガラスを突き破り、一同の前に躍り出た。砕け散ったガラスは、白い機体の周りで光を浴びて舞う。計算し尽くされた、細身の体躯。頭に聳え立つ、紫の双角。入り込んできた日が、金色の刃を照らした。
突然の侵入者に誰もが沈黙したが、その中で醤はいち早く口を開いた。
「オレの部屋アアアアアアアア!?」
 醤の自室は、ガラスに塗れてしまった。例え侵入者が何者であろうと、この部屋を掃除する事になるのは主である醤だろう。醤が吼えた所で、突如現れたクワガタ型メダロット・ヘッドシザーズは、ガラスの破片を振り払い、美園の前で右腕の刃を構える。
「ミソノから離れろ!! 下等生物共!!」
「KWGが何でいきなり……!?」
「シンラ!!」
「へ?」
 美園から発せられた聞き慣れない言葉に、醤は首を傾げる。美園とヘッドシザーズの言葉から、二人は知り合いのようだが、入ってくる情報量が既に許容範囲を超えており、醤は頭が追いつかない。
「……その声……」
 美園以上に予想外過ぎたのは、醤を庇うように前へ出ていた、カグラの声だった。
「よもや、お前は……シロガネの……?」
 まるで、幽霊と遭遇してしまったような、震えが混じる声だった。カグラは醤に背を向けているため、表情まではわからない。しかし、その目は液晶いっぱいに大きく見開いている事だろう。カグラに声を掛けられ、ヘッドシザーズは僅かに膝を沈める。
「久しいな、コガネの。相変わらず……生き汚い男よ」
 言い終わらない内に、ヘッドシザーズは踏み込み、カグラに斬り掛かった。カグラは尻餅をつくものの、チャンバラソードを左腕・サブマシンガンで受け止める。顔を顰めるカグラに、ヘッドシザーズは空いている左のみ肩を竦めた。
「いやー、安心した安心した。あのカビ臭い神社が崩落したと聞いて、てっきり心中したものかと思っていたが、エプロンなんぞ着けて平和ボケするくらいには元気そうではないか」
 晴天のようにカラッと言いながらも、ヘッドシザーズは刃に体重を掛ける。負けじと押し返そうとしながら、カグラは幾分か低い声を漏らす。
「っいきなり御挨拶だな……。それに、今のお前からは神気が感じられんがどういう事だ」
「神格を落とした本人が何を言っている」
 醤は、『神気』という言葉に聞き覚えがあった。先の御守神社にて、カグラは神様気取りの巫女型メダロットに同じ事を言っていた。ようやく、醤の頭の歯車が再活動を始める。『神気』が『神の発する気』であるならば、『神格』とは『神の地位そのもの』という意味だろう。つまり、会話を要約すると、『ヘッドシザーズは、カグラによって神の座から降ろされた』という事になる。しかし、当のカグラは目を見開いた。
「ワシが、お前の神格を……!?」
「フン、無自覚か」
 ヘッドシザーズは、忌々しげに言葉を吐き捨てる。ギリ、と刃がサブマシンガンに喰い込んだ。
「コガネの。俺達が決別した日を覚えてるか?」
「はて、最近物忘れが酷くてな……?」
「クソジジイが」
「ジジイに『ジジイ』と言われとうないわ」
「一緒にするな! 俺は『お兄さん』だ!!」
「どの口が言う、若作りめが」
「黙れ、俺はナウもヤングだ!」
 ここまでのやり取りで、醤の目は点になった。クワガタメダルとは、本来こんなにファニーな性格をしていただろうか。いや、断じて違う。醤が密かに憧れるクワガタメダルは、如何様な場面でも冷静沈着に事を運ぶ、孤高の戦士のはずである。メダロットの実年齢は計り知れないが、間違っても自分の事を『お兄さん』と呼ぶよう強制したり、自分の事を『ナウもヤング』なんて言ったりしない。
 何より驚愕したのは、カグラの方だ。仏の顔が十くらいはありそうなあのカグラが、醤達が傷つけられていないにも関わらず敵意を露わにするのは珍しかった。完全に、アクセルがトップギアに入っている。
 逸れた話を仕切り直すためか、ヘッドシザーズは首を鳴らす。
「……お前の痴呆症はさておき。決別した、あの日。ドンパチやったその末に、お前はなぁ……」
 ヘッドシザーズは、右腕から力を抜かないまま天井を見上げ、長く息をつく。そして、カグラを一瞥した。
「俺に、『神格剥奪キック』を喰らわせたんだ」
「何て?」
 いとも軽そうなネーミングを、醤は聞き返した。恐らく、名前通りの意味なのだろうが、神格を落とす手段として許されて良いのだろうか。怪訝そうに、醤は尋ねる。
「蹴りの一つや二つで、神格って落ちるモンなのか……?」
「ひよっ子、覚えとけ。『完全な存在』と言われてはいるが、この世に神程不安定な存在はない。信仰が無に近い上に、他の神から強く拒絶され、一撃を喰らったらこの様だ。まあ、俺はパーフェクトだったがな! コイツに神格落とされるまでは!!」
 問答無用で醤を『ひよっ子』呼ばわりし、ヘッドシザーズは一歩踏み込んだ。尚も刃の進行を留めながら、カグラは口を開く。
「成る程? それで、ワシを恨んでいるという訳か……」
「勘違いするな、その点に関してはお前に感謝してるくらいだ。俺は、至高の男。その上、神であったならばパーフェクト過ぎて顰蹙を買うだけだからな。少しくらい短所があった方が、一層魅力が増すというもの。何より、礼儀知らずの人間共を救済するなんて馬鹿げた仕事からも解放された。いやはや、俺ばかりが自由な身でかたじけない」
 わざとらしいまでに、嫌味を並べるヘッドシザーズ。は、とカグラは嘲笑した。
「無責任な自己愛主義者こそ、救いようが無いな。……ではシロガネの、刃を下げてもらおうか? そろそろ、腰にきそうなのでな……?」
「それは出来ない相談だ」
 笑い声を交えながら、ヘッドシザーズは床を踏み締める。
「何故なら……この俺様を顔から泥濘へ蹴落としたお前を、タコ殴りにしないと気が済まんからなぁッ!!」
 ヘッドシザーズが声を張り上げた直後、サブマシンガンに亀裂が入った。チャンバラソードが離れたその一瞬を使い、カグラは素早く銃口を向け、ライフルを二、三発撃つ。ヘッドシザーズが頭を傾け、銃弾が壁にめり込むと、カグラは舌打ちし、ヘッドシザーズの片足を掴んで外へ投げ飛ばした。エプロンを脱ぎ捨て、ヘッドシザーズの後を追うべく窓枠に足を掛けるカグラに、醤は慌てて呼び止める。
「おいカグラ……!」
「すぐ戻る!!」
 醤の制止を聞かず、カグラは窓の外へと飛び出した。家の前に着地するや否や、隣から鋭い一閃が襲い掛かり、カグラは右腕で受け流す。その方向にガトリングを放つも、ヘッドシザーズは跳ねるように回避し、カグラと対峙した。つま先で道路を突き、ヘッドシザーズは小馬鹿にするような態度で尋ねる。
「人間相手に、随分熱心な事だな? 弱みでも握られているのか?」
「……何事も損得勘定でしか測れぬのか、反吐が出る」
「ああ。気位の高い神サマと違って、俺はボランティアなんて……御免だからな!」
 ヘッドシザーズが地面を大きく蹴り、一気に距離を詰める。右腕でサブマシンガンを支え、前方へガトリングを集中砲火しながら、カグラは問う。
「『ぼらんてあ』とは何だ!?」
「『無償の奉仕活動』だ!! そんなんだから、時代に取り残され、誰彼からも忘れられる羽目になるんだろうが!?」
 弾をソードで薙ぎ払い、ヘッドシザーズはカグラに斬り掛かった。カグラは刃にライフルを当てて斬撃を逸らし、声を荒げる。
「助けを求める者に金銭をねだる事自体が間違いだと、何故気付かん!?」
「それでは救済する側が報われん!! 間違ってるのはお前の方だ!!」
「!」
 頭パーツ目掛けてライフルを放とうとした所で、カグラは足払いを掛けられ、銃弾を外す。ヘッドシザーズは、左腕・ピコペコハンマーを思いきり振りかぶった。
「お前が神社に引き篭ってる間に、世界はギブ&テイクとラヴ&ピースで回るようになってるんだよ!!」
 がむしゃら攻撃に当たってしまえば、大ダメージは免れない。カグラは足を踏ん張って持ち堪え、体を捻ってヘッドシザーズの背後に回り込んだ。その勢いを利用して背中を蹴り、バランスを崩したヘッドシザーズにガトリングを見舞う。数発はヒットしたものの全弾命中とはいかず、ヘッドシザーズは身を翻した。
「……懐かしいなぁ、コガネの。ようやく思い出したか? あの時も、お前はっ……思いきり俺の背中を蹴り飛ばしたんだ!!」
 飛んできた拳に、カグラは両腕を交差させて防御した。なおもパーツの中で振動は止まぬが、機能停止には至っていない。反動でカグラの機体が後退するのを見て、ヘッドシザーズは大袈裟に息をつく。
「……そんな調子で『すぐ戻る』とは、よく言えたものだ。コガネの……今は、『カグラ』と言ったか。お前、弱くなったな。以前はもっと……速く動けただろう!?」
 二、三歩でカグラの懐まで踏み込み、ヘッドシザーズは突き上げるように刃を振るった。両腕が解かれても、カグラはヘッドシザーズを睨みつけ。
「そ、れは此方の台詞だ……一撃にまるで重みが無いぞ!!」
 両腕の照準を、ヘッドシザーズに合わせた。
「はーい、没収試合でーっす」
「「!?」」
 カグラは醤に、ヘッドシザーズは美園に背後から拘束され、身動きが取れなくなった。自分の両腕を取る醤の方へカグラは振り向き、慌てて制する。
「ショウ!! 危ないから下がっておるのだ!」
「下がんのはお前もだ!! 一旦落ち着いて説明しろ!!」
 醤の気迫にカグラが黙れど、向こうはそうすんなりといかないようだ。
「放せミソノ!! あのクソジジイをボコボコにしないと気が済まん!!」
「シンラ、いい加減にしなさい!! どうしてカグラ君に酷い事ばっかりするの!?」
「男には海よりふか~い事情があるんだ!! 取り敢えずアイツを殴らせろ!!」
 美園に抱き留められ、藻掻くヘッドシザーズの様は、クワガタというよりゴッ……いや、自重しておこう。いくら美園が言い聞かせても、ヘッドシザーズに落ち着く気配は無い。あまりに聞き分けないヘッドシザーズの後ろで、美園は俯く。
「……シンラ、私怒ってるんだからね」
「!」
 幾分か低い美園の声に、ヘッドシザーズはようやく動きを止めた。美園は、静かに、且つゆっくりと喋り続ける。
「村崎君の部屋をガラスだらけにするし、カグラ君にいきなり斬り掛かるし、今朝の事だって……」
「女はすーぐ過去を蒸し返s」
「シンラ」
 有無を言わさぬ呼び声に、シンラは口を止める。シンラが恐る恐る振り向くと、美園は満面の笑みを浮かべていた。無論、バッチリと青筋をつけて。
「シンラのメダルを、メダロッチじゃなくて本体に入れてる分……私、譲歩してると思わない?」
 醤は、美園の怒った顔を初めて見て、ヘッドシザーズ同様言葉を失う。但し。
「怒った顔も可愛い……!」
「ショウよ……」
 明らかに、正反対の理由であった。





「本当にごめんね、二人共」
 戻った、醤の自室にて。
非常に風通しのいい部屋で、心底申し訳なさそうに謝る美園の髪は軽やかに揺れた。床にガラス片が無い所を見ると、醤と美園が片付けたのだろう。醤・カグラと向かい合って座ったまま、美園は、隣に座るヘッドシザーズに手をかざす。
「改めて、紹介するね。この子は『シンラ』、私のメダロットなの。ほら、シンラ。御挨拶して?」
「下賤な民にくれてやる名は無い」
「シンラ!」
 腕を組んでそっぽを向くヘッドシザーズ……もといシンラを、美園は戒めるように呼びつけた。わかってはいたが仲良くする気はサラサラ無いらしいシンラを余所に、カグラは両膝に手をつき、美園に深く頭を下げる。
「ミソノ嬢。此方こそ初対面にも関わらず、見苦しい所を見せて申し訳ない」
「見苦しい所しかないだろ、妖怪猫かぶりジジイ」
「余程機能停止したいと見える」
「落ち着け」
 シンラの暴言にカグラが片膝を立て、銃に手を添える。醤は、カグラの前方に手を出して遮ると、埒が明かないとばかりに美園に話し掛けた。
「泡瀬さん! シンラとはどこで会ったんだ?」
「『シンラ』だぁ!? お前如きが俺を呼び捨てにするなクソガキ!!」
「だっ!?」
「誰が『クソガキ』だクソジジイ!!」
「えっ!?」
 全く同じ台詞をカグラに取られ、醤には短い言葉しか残されていなかった。成る程、怒る隙が無い、と醤は一人で理解する。当然、『クソジジイ』呼ばわりされたシンラは怒りに任せて反論した。
「クソガキを『クソガキ』と呼んで何が悪いクソジジイ!?」
「シンラ! ヒトのことを『クソ』なんてつけて呼んじゃ駄目!」
「あっちが先に呼んできた!」
「シンラが先に『クソガキ』って言ったんでしょ!?」
 カグラに指を差して言ってのけるシンラを見て、醤は考える。『そう変わりの無い年齢の割には、精神年齢が違い過ぎやしないか』、と。自分を『若い』と信じ込む事によって、表面にもそれが現れるのかはわからないが、醤が共に過ごしてきた翁とはまるで違う内面に、抵抗感が生じる。
 再びシンラを抱き押さえ、美園は笑顔を浮かべて話し始めた。
「村崎君。シンラとはね、十年くらい前に私の家の前で会ったの」
「へぇ、泡瀬さんの……」
「うん。私が落ち込んでた時に、シンラが声を掛けてくれたんだ。そうして、一緒に話している内に……仲良くなったの」
「そうか……」
 醤は、考えさせられる。美園の言っている事は、紛れもなく美談だ。美談には違いないが、それでも、それ以上に。
「……何だ、このカブトバージョンを選んじまった気分は……!?」
 それこそ考えても仕方の無い事だが、醤は、KWG型……特にヘッドシザーズの機体を、こよなく愛している。どれくらい愛しているかというと、特集の組まれた『週間メダロット』はリアルタイムで視聴し、KWGの話であれば平気で六時間は越えるレベルだ。もしも、何らかの原因で『逆』だったとしたら、醤は今頃ヘッドシザーズを入手していたのであろうか。
「『カブトバージョン』とは何の話だ?」
「……いや、何でもねぇ」
 そうであったとしても、今となっては『この』ヘッドシザーズを欲しいか問われると首を傾げる所ではあるし、カグラと出会わなくて良かったのか問われると複雑な心境に駆られてしまうため、醤は考えるのをやめた。カグラが首を傾げ、醤の顔を覗き込む中。
「ミソノ! お前の事を泣かせるようなクソガキに、俺達の馴れ初めを聞かせるな!」
 シンラは、爆弾を投下した。醤は、良い笑顔のまま固まり、かろうじて聞き返す。
「……ん?」
「ちょっ、ちょっとシンラ!」
「照れる事は無いだろう、ミソノ? 俺とお前の仲じゃないか」
 頬を赤らめる美園に、勝ち誇ったように笑うシンラ。そして、残酷な言葉の数々から、醤は嫌な方程式を導き出してしまった。
「エンダアアアア!! イヤァアアアアアアア!?」
「ショウ! しっかりせんか!」
 芸術的な絵画の如く絶叫する醤の肩をカグラは揺さぶるが、こちら側に戻ってくる気配はまるで無い。シンラは、醤に追い打ちを掛けるように、美園に囁き続ける。
「だから、ミソノ……今朝の事は仲直りしよう。雰囲気作りとはいえ、ミソノには少し早かったな?」
「『早かった』とか『雰囲気作り』じゃなくって、あんなのっ……!」
 拳をわなわなと震わせた後、美園は強く目を瞑り、半ば自棄になって言い放った。
「シンラが朝からっ……暴力シーンが過激で、その……え……ぇ、っちなシーンもある洋画見るからじゃない!!」
 じゃない、じゃない、JANAI……美園のリフレインは、村崎家のみでなく、窓ガラスが割れていたためご近所中に響き渡った。恥じらう美園を見て、満足気に何度も頷くシンラ。灰と化す醤。不思議そうに首を捻るカグラは、醤に尋ねた。
「ショウよ、『えっちなシーン』とはどういった意味だ?」
「オレに聞かないでくださいそれ所じゃないんですぅう!!」
 時にはブリッジを交えながら、まるで一本釣りされたマグロのように、醤はのたうち回った。正気を失う様を見て大きな溜め息をつき、カグラは呆れ顔でシンラの方へと向き直る。
「……『えっちなシーン』については露知らぬがな、年を考えろ色狂い」
「ヒトの事言えんのか色ボケジジイ」
「何の事やら皆目見当もつかぬ」
「ほほーぉ?」
 飄々と顔を背けるカグラに、シンラの目はギラリと輝く。美園の元を離れ、シンラはカグラに歩み寄った。
「せいぜい、『良いおじいちゃま』を演じる事だな。その年で独り身はつらかろう?」
「案ずるな。ショウは優しい。優し過ぎて心配になる時もあるが、少なくとも誰かを見捨てるような子ではないのだよ。何処ぞのうつけと違ってな」
「それはそれは、頼もしいお孫さんだこって」
 カグラの隣まで来ると、シンラは声を潜め、それでいて楽しげに問い掛ける。
「そんなに信頼している孫なんだ。…………当然、『あの事』は言ったんだろうな?」
 カグラは静かに、目を大きく見開いた。僅かなノイズ音を立て、緑の光が揺れる。シンラは肩を竦め、言葉を続けた。
「何なら、俺から話してやろうか? お前の……」
「その必要は無い」
 シンラの言葉を遮り、カグラはゆらりと立ち上がる。拳を握り締めた後、燃え上がるような強い光を目に宿し、シンラにサブマシンガンを向けた。
「この場で元の六角形が思い出せぬ程、お前の貨幣石を粉々にしてくれるわ!!」
 激高しているカグラの気迫が、大気を揺らす。部屋中に亀裂が入っているのではないか、と錯覚する程凄まじい重圧に、美園は制止すべく呼び掛けた。
「カッ、カグラ君!!」
「すまぬミソノ嬢!! お主だけでも逃げてくれ!!」
「フ」
 あくまでも自分を殺す気満々なカグラを、シンラは鼻で笑う。突き出した足に体重を掛け、いつでも攻撃できるようシンラもチャンバラソードを構えた。
「やれるものならやってみろ!! 不幸ぶりっ子の構ってちゃんが!!」
「知ったような口を利くな!! 自分の責務から逃げた臆病者が!!」
 いざ撃たんと、カグラは右手でサブマシンガンを握り締めた。

 ボフンッ!

 軽快な音と共に、カグラのミサイル発射口、液晶画面、そして首元の接合部から、煙が上がった。そのまま、ぐらりと後ろへ傾き、カグラは倒れ込む。
「……ふぁ!?」
 カグラが崩れ落ちた音を聞き、醤の意識はようやく現実へと戻ってきた。
「あ!? 何だってんだ!? おい、カグラ……うゎっち!?」
 醤は抱き起そうとしたが、機体が炙られた鉄板同様の熱を持っていたため、それは叶わなかった。液晶を覗き込むと、カグラは目を回している。醤は、この状態のカグラを一度だけ見た事があった。完全に、オーバーヒートである。
「はーっはっはっはァ!! 天下の道祖神も、寄る年波には勝てんようだなぁ!? 大層な口を叩いた割には、他愛のない!」
「シンラ、待ちなさい!! 村崎君、ごめんね! シンラがカグラ君を挑発して……それで、オーバーヒートしちゃったみたいなの」
 カグラが戦闘不能となって満足したのか、シンラは足早に扉へと向かう。美園はシンラを追い掛けながら、手を合わせて謝罪した。醤は、沈黙するカグラを見て、奥歯を噛み締める。
「……テメエ、待ちやがれ!!」
 突然の醤の怒号に、シンラは笑い声と足をぴたりと止める。そして、ブリキの玩具のように、ゆっくりと醤の方へ振り向いた。
「……今のは俺に言ったのか、小僧?」
「テメエ以外に誰がいんだよ!? 泡瀬さんに言う訳ねぇだろーが!?」
 シンラからのプレッシャーに怒りが勝り、醤は指を差して怒鳴り散らす。
「何っなんだテメエは!? このジジイに会った時も全く同じ感想だったけど、お前の方がもっと酷ぇわ!! ヒトん家の窓ガラス割るし、メダロットオーバーヒートさせるし、それに何かっ……もうオレこの年で絶望に追い込まれるし!!」
「良い人生経験になったな、礼は要らんぞ」
「感謝してたまるか!! 一生いらねーよこんな経験!!」
 茶化すシンラに、醤は足を踏み鳴らした。
「何が『クワガタメダル』だふざけやがって!! テメエのどこが『クール』なんだよ!?」
「……ふむ」
 醤の指摘に、シンラは一度、瞬きをする。首を傾げた後、頭を元に戻した。
「……冥土の土産に、教えてやろう。俺の性格は……」
 シンラは、目を輝かせ、天井を指差してポージングした。
「カッコイイの『クール』だ!!」
 いっそ清々しい宣言に、醤は絶句した。シンラは、醤が硬直したのを見ると、腕を組んで息をつく。
「……理由は毛程も興味は無いが、お前はこちら側へ踏み込んだ」
 今度こそシンラは背を向け、醤に小さく手を振った。
「地獄へようこそ」
 そう言って立ち去っていったシンラを追い掛け、美園は醤に何かを言い残し、同様に部屋を後にする。部屋で一人立ち尽くす醤に、母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)は声を掛けた。
「ただいまー! 女の子とすれ違ったけど、アンタそんな所で……えっ、グラちゃん!? 窓ガラス!?」
 帰宅早々、醤の部屋の悲惨な状況に、ゆかりは声を上げた。全ての感情を背負い込み、醤は町中に響き渡るくらいに叫ぶ。
「何っじゃこりゃああああああああああ!?」
 華麗に油揚げを掻っ攫っていったトンビならぬクワガタに、自室の窓ガラスを割られ、祖父をオーバーヒートさせられた男の咆哮は、一味違った。





メダロッチ更新無シ



続ク.




◎次回予告
醤「えー、それでは予告通り『第二回六角形の神サマ謝罪会見』を開きたいと思います。大人気のKWG型ヘッドシザーズがウチではこんなんで、ガッカリされた方も多かった事でしょう。楽しみにされていた読者の皆様、本当に申し訳御座いませんでした」
シ「『こんなん』とは何だクソガキ!? 年長者への礼儀がまるでなっていない! ジジイの教育不足が、火を見るより明らかだな!」
カ「お前に『ジジイ』と言われとうないわ、クソジジイ。ワシの事はさておき、ショウ程の良い子を捕まえて『礼儀知らず』とは……余程、液晶が汚れていると見える。それとも、老眼か? はっはっは、良い年だからなぁ お 前 も」
シ「黙れ耄碌ジジイ!!」
カ「ほざけ老眼ジジイ!!」
醤「次回予告ぐらい喧嘩すんな!! 次回、『六角形の神サマ』第弐拾陸話! 『酒斗泪斗男斗屋台』! ったく……オレのキレる隙が無ぇ」
シ「バァーカ!!」
カ「阿呆~」
醤「お前らはガキかジジイ共!! ……お?」

告知 ( No.26 )
   
日時: 2020/07/05 16:52
名前: 海月

 カッ。
スポットライトの下、一人の男がバラを銜えてポーズを決めている。よれよれの白いトレーナーにジーンズ、縦に長い体躯……そして、口元の髭とスキンヘッドが特徴的なその人物に、醤は見覚えがあった。
「アンタ……流離太先生が書いてる『メダロットM』の、マスコットキャラのオッサンだろ?」
「……邪魔するぜ」
「うぉっ!? 親方、暗闇から白髪の女の子が……!?」
「ちょっと待て!! 誰が『白髪』だゴラァ!?」
「可愛いけど口悪っ!?」
 醤と謎の白g……銀髪の少女の会話を完全に無視し、『マスコットキャラ』と呼ばれた男は目を閉じる。
「……役者は、揃った」
 しかし。すぐさま歯を見せて笑い、長い両腕をいっぱいいっぱいに広げたのだった。
「SHOW TIMEだ野郎共オオオオオオオオオ!!!」





御守高校学校祭。

『みんなぁー!! 今日は集まってくれてありがとぉーっ!!』

第百回を記念すべく招かれた、国民的アイドル・セレクトスリー。
しかし。

「天道一期は、テクノポリスの軍資金となってもらう!! そうだなぁ、百回記念だから……一千万用意しろ!!」
「ゼロ一個多くね!?」

秘密結社テクノポリスが一人・タバスコに、誘拐されてしまう!
天道一期を奪還すべく、立ち上がったのは……クセが強い(ほぼ)高校生!

「あっちが俺の顔を見たくなくなるぐらい……全力で、叩き潰すッ!!」
ー鷹栖斗的

「御守には、そんなお情け無ぇ!!」
ー村崎醤

「奴とは、単に利害が一致しているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」
ーフォレス

「誰とも比べるつもりは無いが、ショウは良い子なのだよ」
ーカグラ

「いやー面白いと思ったけど、案外つまんなかったわ。メンゴメンゴ!」
ー愛媛蜜柑

「おじいちゃんを間違うなんて、信じらんない。何でまだ生きてんの?」
ー波花梓音

「蜜柑は見てて飽きないけど、五メートルくらい離れたトコからで充分だお」
ーサラ

「開きました!!」
ーマリア

「師匠の大事な人は、僕が守る……守りたいっス!」
ー成城磨智

「ようやく、ウチの借金を返す気になったんだな」
ー佐藤甘太

「アーティストがいなくなったってんならしょうがねぇ……今から、オレ・オン・ステージジャンッ!?」
ーシアック

「『見る』から良いんです!! 触っちまったら、それで終いじゃないですかい!?」
ージー

「また、オイルを酌み交わしましょうぞ」
ーガマン

「何かとんでもない濡れ衣を着せられてないか!?」
ー尾根翠

「フォレスちゃんはしっかり屋さんだけど……きっと、今も心細いと思うの。早く、迎えに行ってあげなくちゃ」
ーマイド

「リボンちゃん……みっちゃんの料理、食べたのかなぁ……?」
ーハリップ

笑い、は頑張る!!

「お前も見ただろ!? 自分が楽しけりゃどんな悪逆非道も厭わない、人の皮被ったブラックメイルが四六時中纏わりついてんだよオレには!!」
「まだマシだろーが!? オレなんか、両手にドライバー持ったユイチータンみてぇな暴力女が、地獄の果てまで追い掛けてくんだぞ!?」

衝撃はどうだろう!?

「「入れ替わってるううううううう!?」」

ただ!!

確実に、感動とエロは無い!!!

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

今、戦いのゴングが鳴るーー!



『メダロットM』
原作:ボンマ・流離太

『六角形の神サマ』
原作:海月

海月が執筆する、番外編・コラボ企画



メダロットM vs 六角形の神サマ
『コイツ等が集まった結果www→一触即発大団円!!』

賽は、ぶん投げられた。





「――つーワケで、コラボするからヨロシクちゃ~ん♪」
「不穏な予告残していなくなんな!! 頼むから、これ以上オレを巻き込まないでくれ!!」
「タイトル長過ぎだろ!! この時点で読む気失せるわ!!」
 告知が終わると、マスコットキャラは『後は任せた』と言わんばかりに手を振り、この場を去ろうとした。だが、飛んできたブーイングに足を止め、唇を尖らせて振り向く。
「文句多いな~。じゃ、『Mサマ』で」
「「えむっ……!?」」
 主人公達は絶句し、考えるのをやめた。

六角形の神サマ 第弐拾陸話/酒斗泪斗男斗屋台 ( No.27 )
   
日時: 2020/07/05 16:57
名前: 海月

「シロガネの……シンラは、元道祖神なのだよ」
 オーバーヒートから回復した後、カグラは背を向けてそう言った。
村崎醤(ムラサキショウ)が聞く限りでは、カグラとシンラは、今は無き御守神社で道祖神として暮らしていたらしい。しかし、カグラはぽつりと呟いて以降何も語らないため、喧嘩別れの理由まではわからない。まあ、『アレ』と仲良くするのは、誰でも骨が折れるのだろうが。
 醤は、いつもより小さな祖父の背中に、それ以上を聞く事が出来なかった。





『六角形の神サマ』 第弐拾陸話/酒斗泪斗男斗屋台





「はあ」
 ある、秋の夜。
 聞き慣れた音をくぐり、醤はコンビニへと足を踏み入れた。黒いパーカーの上から両肘を擦り、虚ろな目で息をつくのは、何も、季節と共に冷え込んでいく温度の所為だけではない。悩みの種は、カグラ……厳密に言えば、シンラだ。あの元道祖神様には、醤もカグラもほとほと困らされていた。
 いつかの、襲来以来。今までどこに隠れていたのか不思議になるくらい、シンラと、そのマスターの泡瀬美園(アワセミソノ)と道端で鉢合わせるようになった。美園と言えば、醤の元想い人でもある。何故、『元』がつくのか。決して嫌いになったのではない、既に恋人の座にはシンラがどっしりと座っていたからであった。憧れの美園が話の流れで醤の自宅に遊びに来た時、醤は告白される気満々で天にも昇る思いだったのだが、シンラから残酷な真実を告げられ、奈落の底に叩き落されてしまったのだ。
第陸話、並びに第弐拾話の教訓が、醤に生かされていない事はさておき。出くわして開口一番、シンラは手を変え品を変えカグラを焚きつけた。
『やぁやぁ、これはこれは! 道祖神殿がお散歩とは、この町が平和な証拠ですなぁ!? よもや、困っている民を放って遊び歩いている訳ではあるまい! どうせ、暇だろう? 一つ、そこの坊主に面白い話でもしてやろうか?』
『その舌の根ごと、頭を吹き飛ばしてくれるわァ!!』
 決まって、直後。ボン、と音を立て、カグラはオーバーヒートで沈められるのであった。カグラを撃沈すれば満足なのか、シンラは醤に目もくれず、高笑いしながら去っていく。
『ハハハハッ!! ハーッハハハハハハッ!!』
『こらっ、シンラ!! 待ちなさい!! 村崎君、カグラ君、いっつも本当にごめんね、ごめんね……!』
 手を合わせ、美園が申し訳なさそうに謝る所までが、ワンセットだった。醤自身には被害がないため慌てて否定してはいるのだが、カグラが重傷だった。最近、溜め息が増えた。考え事をしている様子が増えた。ぐったりしている時間が増えた。総じて、あからさまに元気が無い。それは、そうだ。ほぼ毎日のようにオーバーヒートしていれば、機体に負荷が掛かる。しかも、見兼ねた周囲が声を掛けると。
『! 如何した? 元気が無いな。ジジイで良ければ、話を聞かせてはくれまいか?』
 いや、お前がな。……というツッコミを喉の奥へと押し返してしまう程、却って気を遣わせてしまう始末。
 今だって、気分転換にと醤がさりげな~くコンビニに誘ったら、断られてしまった。
『今からか? 夜更けに出掛けるのは危ないぞ? そうか……気を付けて、行ってくるのだよ』
 なかなかどうして、上手くいかない世の中である。と言っても、あくまでカグラのリフレッシュ目的だったため、自分一人で来た所で買いたい物は何も無い。醤が仕方なく、雑誌コーナーの『月刊メダラッチ』に手を伸ばした時だった。
「「ん?」」
 自分と同じく手を伸ばす者と反射的に目が合い、硬直した。使い込まれたであろうよれよれのジャージはともかく、律儀にもゴーグルだけはいつも通りの。
「……休みならせめてゴーグル外せよ、タバスコ」
 秘密結社テクノポリスが構成員・タバスコだった。目を細め、長い溜息をつく醤とは裏腹に、タバスコは指を差す腕を上下に振りながら狼狽える。
「むむむむ村崎醤ォ!? どどどどうしてこんな所に!?」
「『どうして』も何も、オレが住んでる町だよ」
「何で俺だとわかっ……あ!? 眼鏡とゴーグル間違えた!!」
「バカか? 知ってた」
 あまりにも情けない理由に、醤は淡々と対応する。うって変わって、タバスコは注意深く辺りを見回しながら尋ねた。
「まっ、まさかあのボッボボボロボットは一緒じゃないだろうな!?」
「何でオレよりお前の方が動揺してんだよ? カグラはいねぇから、一旦落ち着けって。ここ、コンビニだぞ?」
「あー!! 良かったあああああ!! アイツにこんな姿見られたら死んでたあああ!!」
「お前ホンットバカ!! だからここコンビニだっつってんだろ!!」
 心底安心したのか、頭を抱えたまましゃがみ込んで叫んだタバスコに、醤は怒号を浴びせた。この時点で、どちらもうるさい。証拠に、客の一人が灰色のスエットに手を突っ込んで腹を掻きながら、二人に注意した。
「んもォ~、うっさいよぉ。こちとら久々のオフなんだからさぁ、キモチよく浸らせてよ~」
 普段と違い、気だるげな青年。何もかも休日モードな中、彼の天然パーマだけは、赤く燃え盛っていたのだった。
「「「あ」」」
 互いに認識すると、醤、タバスコ、そしてメダロット協会公認レフェリー・Mr.ジャムの三人は、揃って声を上げた。





「らっしゃい!」
 道端に停まる、ラーメン屋台。そこには、向かって左から醤、Mr.ジャム、タバスコの三人が仲良く腰掛けていた。ゲン○ウポーズのまま、醤は疑問を漏らす。
「…………何で?」
「HAHAHA!! やだなぁ、村崎醤クン! 夜と言えばラーメンじゃあないか!!」
「とんだマジ○ルバ○ナだな。そっちじゃねーよ。何で、このメンツでラーメン食いに来てんのか聞いてんだよ」
「んだお前、ノリ悪いか? ホントはこん中で今一番ラーメン食いたがってるくせに、このワンタン小僧」
「『ワンパク小僧』みたいに言うな。お前が一番わかんねぇんだよ」
 唇を尖らせて難癖をつけるタバスコを、醤はMr.ジャム越しに睨みつけた。Mr.ジャムは、眉を八の字に下げ、そんな二人を窘める。
「まぁまぁまぁまぁ、落ち着きたまえよ! 折角、今夜はみんな戦う理由が無いんだ! 一時休戦して、仲良くラーメンを突こうよ! ボクの奢りさっ☆」
「まあ、そーゆー事なら……」
「フン、ラーメンに罪は無いからな……」
「これだけは忘れないで欲しいんだけど、自分が注文した品は各々責任持って払ってねー」
「「奢りとは」」
 前言撤回が早過ぎるMr.ジャムに、両側からツッコまざるを得なかった。三人が話している間に手際よくおしぼりと水を並べると、店主は注文を取る。
「何にしやしょう?」
「醤油ラーメン一つ」
「醤油wwwラーメンwww」
「今日もwww名前に縛られてwwwお気の毒wwwwwwww」
「休戦やめるか?」
 カウンターに突っ伏して笑う右側二人に、醤は拳を握った。ひとしきり笑った後、タバスコはゴーグルをずらし、涙を拭いながら注文する。
「ぷくくく、笑った笑った……あ、俺は塩野菜一つ」
「ボクは味噌チャーシューで!」
「あいよー」
「あっ!? ずりぃぞお前ら!」
 しれっとオプションを付けているのを聞き、醤は机を叩いて抗議する。すかさず、Mr.ジャムとタバスコは示し合わせたかのように返した。
「え~? ボクらは自分が出せる範囲内で、自分が食べたい物注文してるだけだよね~?」
「悔しかったらお前もつければ良いだろ、ン~? あ、モチロン自分の手持ちでな? 食い逃げなんかしたら、どっかのボロボットが泣くぞ~?」
「クッソ、ここぞとばかりに大人の財力見せつけやがってえええ……!」
 醤は、悔しさから歯を食い縛る。悲しい哉、醤の財布には当然金銭的余裕がない。そんな余裕があったら、弾丸の補充や機体のローンに回している。ノーマルのラーメン一杯が、高校生の限界なのである。
 醤の気持ちを全く汲み取る様子は無く、Mr.ジャムはお品書きの看板を見て目を輝かせた。
「おっ! 生あんじゃん! 飲む?」
「うん、飲む」
「『飲む』じゃねぇんだよ、オッサン共」
「……あ、生三つにする?」
「する訳ねーだろバカかお前!? 未成年の飲酒は法律で固く禁止されています!!」
 Mr.ジャムのずれている質問に、醤はがなり立てる。お酒は、二十歳になってから。動じる様子も無くMr.ジャムは生ビールを二杯注文し、置かれたジョッキを手に取った。タバスコもビールジョッキ、醤は水のコップを持つ。
「それでは、グラスの用意はよろしいかなー!?」
「「よろしいでーす」」
「んん!! 良い返事だ! これより、日頃の激務の労い、本作折り返し地点到達……そして! 『メダM』とのコラボ回公開を祝し!」
「ちゃんと名目あったんだな?」
「乾杯!!」
「「かんぱーい!」」
 Mr.ジャムの音頭に合わせ、三人は手持ちのグラスを鳴らし、口に運ぶ。ビールを半分まで減らした後、タバスコとMr.ジャムは勢いよくジョッキを置いた。
「ッカ~!! 沁みるゥ~!!」
「もうビールが血液みたいなモンだよねー!!」
「ただの休みの日のお父さんじゃねーか。という訳で、こっから先は絶賛公開中の『メダロットM vs 六角形の神サマ~コイツ等が集まった結果www→一触即発大団円!!~』のネタバレを含みます。大した内容ではありませんが、閲覧の際は御注意ください」
「注意喚起かと思いきや、番宣っつーな」
「よっ! 主人公の鑑!」
「仕事だからな」
 Mr.ジャムを軽くあしらいつつ、醤は水を飲む。Mr.ジャムは頬杖をつき、記憶を遡っているのか、嬉しそうに笑った。
「楽しかったよねー、コラボ回! 女の子いっぱいでさぁ、この世のパラダイスだったよ!!」
「アンタってホントぶれないよな。ウチは普段女キャラが集まる事自体が少ないし、無理も無ぇよ。人間の女キャラっつったら、美園ちゃん、みっちゃん、波花、母さん……」
「あ、ごめん。ババアは女キャラに入れてないんだ」
「絶対本人の前で言うなよ? 身内から殺人鬼を出したくはない」
 苦笑しながら、醤の母・村崎ゆかり(ムラサキユカリ)を老婆認定するMr.ジャムを、醤は真剣な表情で諭した。ふと、醤は思い出す。
「そーいや、キューピッド様回に波花とみっちゃん出てたろ」
「ああ、ガチのホラー回な」
 第弐拾話・第弐拾壱話の記憶を辿り、タバスコも二度頷く。醤は、言葉を続けた。
「現時点で女子が二人もいたのに、アンタ来なかったよな? ロボトル無かったからか?」
「確かに、それもあるんだけどねー……その前に、夜遅くに帰宅しようとしてたお姉さんの事を後ろから見守ってたら、いつの間にか拘置所いてさぁ。クールビズで下に何も履いてなかったのがダメだったかな、HAHA☆」
「前段階でアウトなのに追い打ち掛けんな」
 諸般の事情(通報)で出番が無かったらしいMr.ジャムを、醤は蔑んだ目で見た。呑気に笑っていたMr.ジャムだったが、スン、と真顔になる。
「こうなったら、ウチの男子高校生トリオも、不思議なメダロッチで女になるしか」
「怒られろ」
 明らかに別作品のネタを流用しようと企む、Mr.ジャム。醤が吐き捨てた所で、今度はタバスコが口を開く。
「さっきから黙って聞いていれば、贅沢な事を。お前の傍には、いつもイイ女がいるだろうが」
「……それはもしかしなくても、Ms.マーガリンの事かい?」
 タバスコから相方のレフェリーの話題が出るや否や、Mr.ジャムの笑顔に影が差す。ビールを飲んだ後、タバスコは小さく息をついて肯定した。
「それ以外、誰がいる? 俺の職場なんて、壊滅的に女がいないんだぞ? いても、年下過ぎる上に頭良くてメチャクチャ怖い、明らかに恋愛対象外な上司しかいない」
「へー? ちなみに、どんなメダロット使ってくんだ?」
「そこまでは俺も知ら……おい、どさくさに紛れて何探ってんだ?」
「いやっ、どうせなら今後の参考にしようと思って……」
 タバスコが覗き込もうとするも、醤は笑顔を引き攣らせたまま目を逸らし続けた。タバスコは、忌々し気に舌を打つ。
「チッ、油断ならないガキだ……」
「……フッ」
 笑い声を零すMr.ジャムの方へ、視線が集まる。俯いているため、表情まではわからない。醤とタバスコが不思議そうに顔を見合わせていると、Mr.ジャムの両肩が震えだした。
「……フッ、フフ……ッハハハハハハハハ……!」
「ジャ、ジャム?」
「何だ? もう酔ったのか?」
 ただならぬ様子のMr.ジャムに、醤は狼狽え、タバスコは呑気に肩を揺さぶった。次の瞬間。
「じゃあ!! じゃあその上司とマーガリン交換してくれよ!?」
 口元だけ笑みを作ったまま、ぼろぼろと涙を零し、Mr.ジャムは両手でカウンターを打って立ち上がった。いきなり起立した二メートル近くの男に、両脇の二人は驚愕する。
「うぉっ!?」
「まさか俺、地雷踏んだか!?」
「踏み抜いたかもしれないぜ!?」
「何だよ!! どんなに怖くても、どぉーせマーガリンよりずううっと可愛いよ!! ナメるなよ!? あの女は、そんじょそこいらの悪女じゃない!! サタンが裸足で逃げ出すくらい、筋金入りの悪女なんだ!!」
 Mr.ジャムの、涙の訴えは続く。
「ヤツは、通報が趣味なんじゃない!! ヒトを貶めるのが、三度の飯より大好きなんだよ!! ヒトを陥れては、『キャハハハッ、泣いてるぅ~(裏声』って言いながら写メを撮る、そんな最低女なんだ!! あんなに性格悪いのに、見た目だけは良いモンだから、金ヅルという名の彼氏が八人もいる!! 八人って何だよ!? 一週間単位で考えると、一人余るじゃないか!! 人生上手く行き過ぎて、天狗だよ天狗!! あんなの採用するなんて、メダロット協会は何を考えているんだ!!」
「オレもそう思うわ、アンタ見てると」
「コラッ、水を差すな!」
 しみじみと頷く醤を、タバスコは慌てて制止する。幸いにもMr.ジャムの耳には届いていなかったが、愚痴はヒートアップしていった。
「ボウリング玉みてーな乳しやがって!! 人生甘く見てんじゃねーぞ牛女アアアアアアアア!!」
「へい、醤油ラーメン・塩野菜ラーメン・味噌牛チャーシュー麺お待ちィ!」
「ホラ、お待ちかねの牛来たぞ」
「ラーメン伸びるから、な?」
 醤とタバスコに座らされ、Mr.ジャムは嗚咽を漏らしながら手を合わせる。
「ひぐぅ……っいた、だきます……」
「「いただきまーす」」
 少し遅れて醤とタバスコも手を合わせ、三人で目の前のラーメンを食べ始めた。一口食べて、Mr.ジャムは感想を漏らす。
「うっ、おいしぃ……!」
「「良かったなぁ~」」
 両側二人は、保護者と化していた。醤は、早速スープを口に運ぶ。鰹を中心に様々な魚介の出汁が溶け込む、濃厚な一杯だ。麺は中太ちぢれ麺で、スープとよく絡み合う。チャーシューは、見た限り豚バラ肉のようだ。Mr.ジャムのチャーシューが牛肉だったのは、『牛の屍を越えてゆけ』という、もしかしたら店主なりの心遣いなのかもしれない。そう考えると、Mr.ジャムのシャウトとラーメンの完成はほぼ同時だったのは疑問だが、きっと店主はエスパーなのだろう。弾くような、メンマの歯応えも良い。味が染みた煮卵は、何と半熟だった。トロトロの炙りチャーシューを更に柔らかくすべく、醤がスープにチャーシューを沈めた時。
「……お前の気持ちは、痛い程わかるよ」
 ぽつり、と呟いたのは、タバスコだった。完全に湯気でゴーグルが白く曇っているのだが、どうやらシリアスシーンのようなので笑ってはいけない。というか、食事の時くらいゴーグルを外せ。訴えるような目で醤が見ている中、タバスコは言葉を続けた。
「『メダロットを以て、軍事国家を形成する』。大きいのにちっとも見えやしないゴールに向かって頑張ってるのに、出番の度に虐げられる日々……」
「タバスコクン、キミ……!」
「待て、被害者ヅラすんな犯罪者共」
 語るタバスコと、目を潤ませるMr.ジャムに向かって、醤は吐き捨てる。しかし、タバスコの愚痴は止まらない。
「大体っ!! 何なんだ、あのボロボット!? ゴ(自主規制)の如く這い出てきては、ヒトの仕事を邪魔し腐りやがって!! しかも、ロボトルの勝敗ついてもヒトに向かってパンパンパンパン……ボケて『メダロット三原則』忘れてんじゃねーのか!? ド○ロベエ様気取りも大概にしろ!!」
「何でジジイの悪口にすり替わってんだよ!? 何もかも心外だわ!!」
「わかるぅ~!! いるよねー、自分が絶対正しいって根拠の無い自信あるヤツ!?」
「そーそー!! アイツってそーなんだよ!! それに、何つーのかねぇ!? あの、差し障りのない性格!? つまりは、『八方美人』じゃねーか!? 『みんなに優しい』!? ハッ、反 吐 が 出 る わ!!」
「優等生過ぎて、つまらないっつーかね!? 同じクラスにいたら、絶対いじめてたよ!!」
「給湯室のOLか!!」
 尽きない祖父への悪口に、醤はカウンターテーブルを叩いて抗議する。
「お前らっ、ホントッそれ、絶対本人の前で言うんじゃねーぞ!? そうでなくても、最近凹んで大変なんだよ!!」
「おっ! 何だ何だ!?」
「ここぞとばかりに目を輝かせるな!!」
 あからさまに喜ぶタバスコの頭を、醤は立ち上がって叩いた。ジョッキを持ち、Mr.ジャムは嫌な笑みを浮かべながら問い掛ける。
「そうは言ってもさぁ? 半年くらい一緒にいれば、村崎醤クンだって愚痴の一つや二つあるんじゃない? あ、『他人のためにすぐ無茶する所』とか、相手の心配するフリして自分の好感度上げようとすんのはナシね?」
「無いですぅー!! あっても、その都度本人に言ってますぅー!! テメエらみてぇな陰険野郎と一緒にすんなボケが!! あーラーメン美味ぇ!!」
 売り言葉に買い言葉を返し、醤は席に座り直してラーメンを啜った。やはり、ラーメンは美味しい。しっかり油が使われているにも関わらず全くくどくないスープが、ストレスを洗い流してくれる。飲み込み、束の間考えた後、醤は口を開いた。
「……最近、引っ掛かる事があんだけどよー」
「勉強した方が良いよ?」
「赤点じゃねぇよ。こないだ、異文化交流したろ?」
「コラボ回の事を『異文化交流』って言うな、腹立つ」
 タバスコは、醤の独特な言い回しを指摘する。構う事なく、醤は続けた。
「工場のロボトル終わったぐれーかな? やたら御守神社の道祖神の内部事情に詳しくて、ナルシストでイヤミでスケベで喋らねぇと死ぬようなただの知り合いに会ってさ」
「誰かは知らんが、相当嫌ってる事だけはわかった」
 現在進行形の困ったさんな某KWGの事を思い出しながら、醤は話す。
「そいつが言うには、この町って、道祖神の結界が張られてるらしいんだよ」
「神様の結界!? スゴイじゃあないか!!」
「で、丁度……『ボロボロ団』? みてーな名前の犯罪者が入ろうとしたみたいなんだけど、結界で入れなかったって」
「『入れない』? そんなはずは……」
 首を傾げ、タバスコはビールを口に運びながら一蹴した。醤は箸を進め、チャーシューを咀嚼する。
「何でも、その結界は善人だけ町に入れて、悪人だけ通さねぇみてーなんだよ」
「へー、よく出来てんね?」
 まるで、小学生の自由研究のような評価をするMr.ジャム。チャーシューを飲み下し、醤は箸で指し示した。
「ここで考えるとよ……もしかして、テクノポリスってこの町のどっかに潜伏してるんじゃねぇの?」
 ゴキュッ。箸で指された人物・タバスコの喉が、大きく鳴った。笑顔を硬直させたまま、静かにジョッキを下ろす。そして、再び箸を手に取ると、タバスコは何も言わずに勢いよく麺を啜り始めた。醤は箸を丼に置き、今度は指でタバスコを差した。
「図星じゃねーか!?」
「村崎醤クン、ヒトを指差しちゃダメだって。彼は、アレだよ? ここのラーメンが美味し過ぎて、病みつきになってるだけさ☆」
「シオラーメンオイシイ! オイシイ!」
「三日ぶりに食にありついた外人か!?」
 あくまで結託してシラを切る大人二人に、醤はがなり立てた。ずっと沈黙を守っていた店主が、背中を向けたまま声を掛ける。
「兄弟、仲良いねぇ」
「えっ? それは、『大卒倒! フビンブラザーズ』って意味ですか?」
「その不名誉極まりないグループ名を今すぐやめろ」
 今までの一連の会話を知っているはずなのだが、どこをどう聞いたら兄弟だと思うのだろうか。ぶっちゃけ、醤としては金輪際この三人で組みたくはなかった。
 ズン、ズズン。
「「「!?」」」
 突如。地響きを思わせる程の轟音が、近づいてきた。耳への暴力とも取れる大音量の洋楽は、オープンカーと共に、醤達の目の前で停まる。助手席の人物は、サングラスを艶めかしくずらした。
「あれぇー? ぐうぜーん! コンバンハァ~♪」
 露出の多いナイトドレスを、真っ白なファーコートで包み。大ぶりのピアスやネックレス、指輪で装飾している、決して御守町には似合わない女。しかし、ウェーブを利かせたクリーム色の髪や、豊満なボディ。何より、人を小馬鹿にしたような笑顔は、よく見覚えがあった。
「Ms.マーガリン!! 何ちゅー音量で走ってんだよ!? 今何時だと……もうこのレベルは時間も関係無ぇわ!!」
「ごっめーん、少年! 聞こえないから、もっとおっきい声で言ってー!?」
「だァから下げろっつってんだよ音量をよオオオ!?」
 醤がいくら声を張り上げようが、騒音には勝てなかった。すると、運転席にいる、明らかに国籍が日本ではない男が、Ms.マーガリンに耳打ちする。
「あん! ダァリンったら、ヤキモチ焼きなんだからぁ! ふふっ、そんなトコがカーワイ♪ じゃっ、先輩に少年に……えーっと、何か悪いヒト! あたしはこれから三ツ星ホテルの最上階でフレンチのフルコース食べなきゃなんでぇ~、バイバーイ♪」
 人生で最高に不必要な情報だけを残し、Ms.マーガリンは爆音と共に去っていった。そんな彼女を隠したいのか、はたまた騒音よるダメージか、醤達の目の前には枯れ葉が舞う。
「……なぁ、ジャム?」
「……何」
「流石に、同じ地区のレフェリーがどっちも休んじゃダメなんじゃねーか……?」
「安心したまえ。今日は、ボクが有休で、Ms.マーガリンが勤務なんだよ……」
「そうか……良かったな」
「うん……」
 男達は、格差社会を前に無力だった。しかし、男たるもの、やられっぱなしで終える訳にはいかない。三人は決意を固め、同時に店主の方へと振り向く。爪痕を残すべく、取った行動とは。
「「「大将!! 替え玉ください!! 大盛で!!」」」
「あいよー」
 世の中の不満ごと、ラーメンを平らげたのであった。





メダロッチ更新無シ



続ク.




◎次回予告
醤「この村崎醤には、夢があるッ!! 当たり前ですが、修学旅行では男子部屋と女子部屋が分かれている訳であります! それを、ね!? 彼女とこっそり夜に落ち合い、背徳感も相まって超ドキドキするっていう! ……という訳で、オレは後二週間くらいで彼女を作らなければ、その夢は金輪際叶いません!! 次回、『六角形の神サマ』第弐拾柒話! 『憧憬旅行(前篇)』! 急募:今すぐ彼女作る方法ォ!!」

六角形の神サマ 第弐拾柒話/憧憬旅行(前篇) ( No.28 )
   
日時: 2020/07/31 22:09
名前: 海月

 御守高校・二年D組の教室にて。
「――それでは、各自班を作って、計画を立てるように! ちゃんと、最低三か所は寺や神社も回るんだぞお前ら!?」
 担任の的間圭一(マトマケイイチ)が言うや否や、クラス中が浮足立つ。次の週に控えているのは、彼らにとって人生最後の修学旅行だ。既に仲の良いグループで集まり、学習そっちのけでどの店舗に行くか話している者もいれば、早々に寺や神社を決めて自由時間について考える者もいた。
 そんなお祭りムードの中、明らかにどんよりしたグループが一つ。
「ケッ、随分楽しそうじゃねぇか。こちとら、自由時間抜け出して会う彼女なんていねぇんだぞバーカ」
「気にすんなよ、生まれてからずっとだろ?」
「お前の一言を気にするわ」
 口元だけ笑みを作り、目はしっかり死んでいる村崎醤(ムラサキショウ)は、佐藤甘太(サトウカンタ)の暴言に忌々し気に返した。醤は、椅子漕ぎをしながら、教室の天井を見上げる。
「あ゛―、もう何も楽しくない。失恋するし、向こうは既に野郎がいるし、美園ちゃんはどっかのクソ野郎と付き合ってっし……」
「言い方変えてっけど、全部同じじゃねーか。はーあ、流石は別れの秋。どこもかしこも失恋だらけだねぇ~、な? 失恋二号」
 そう言って、甘太が手を乗せたのは、机に突っ伏している尾根翠(ビネスイ)の肩だった。なおも微動だにしない翠に、醤も声を掛ける。
「びーねーくーん。元気出せって~。お前のは、いつか戻ってくんだろ~?」
「まあ、無理もねーわな。数か月前までは、当然修学旅行も一緒だと思ってただろうし」
 二人が言うように、翠には元々彼女がいた。同じクラスにして、翠と同じく陸上部に所属している蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)だ。非リア充の醤と甘太の心が荒むくらい、翠と蜜希は仲睦まじい恋人だったのだ。
 そんな翠と蜜希が別れたキッカケは、今年の夏、夜の御守神社跡地での一件。何と、蜜希は『キューピッド様』と名乗るメダロットと、『翠と付き合う事が出来れば、愛機のリボンを差し出す』という、トンデモ契約を交わしていたのだ。最終的には、翠と別れる事無く、無事リボンが戻ってきたのだが、それでは蜜希の気が収まらなかったらしい。
『……自分に、ケジメをつけたいの』
 俯きがちに笑って、蜜希は言った。
『リボンは戻ってきてくれたけど……このままじゃ、ダメなんだ。わたし、もっと強くなりたい。今度こそ自分の力で、スイの彼女になりたいの』
 再び上げた瞳には、覚悟が宿る。翠は、何も言えなかった。
『……ホントは待ってて欲しいけど、スイに他に好きなヒトができたら、それで良い。もし、待っててくれるなら……』
 蜜希は、悲しそうに笑い、小さく手を振る。
『それまで、バイバイ。今も大好きだよ、スイ』
 頭の中で記憶の再生が終わると、翠は大きく、深い溜め息をついた。
「俺の方が好きだよぉぉぉ……」
「尾根~、授業中に泣くなって~」
 醤は苦笑しながら、翠の背中を優しく叩く。それでも、嗚咽は止みそうにない。もう一度息をつくと、醤は甘太に話し掛けた。
「ここんトコ、ずっとこうだよなぁ」
「そうだな。こんなんでも、陸上の記録だけは更新し続けてんだぞ?」
「ファッ!?」
 自分の耳を疑い、醤は慌てて尋ねる。
「この状態で!?」
「この状態で」
「マジかよ!? ただでさえも、やべー記録なんだぞ!?」
 万全の状態で、翠は華々しい戦績を修めているのだ。満身創痍の今、それらを上回る訳が無い。醤が驚愕していると、下の方から低い声が響いてきた。
「……別れた後で記録が落ちると、ミツキが気にするだろ……?」
「化け物かお前は」
 例え愛情が重過ぎた所で、実行できるのかと問われれば、また別の話だろう。本当に、別れる必要はあったのだろうか。醤達の元へ他のクラスメート達が来た事で、その疑問は答えが出ないまま幕を閉じた。
「村崎! 修学旅行の班、五人組だろ?」
「俺らも入れてくんね?」
「おー、よろしくな」
「よっしゃ!」
 醤が頷くと、クラスメート二人は笑顔で喜ぶ。醤達としても、願ったり叶ったりだ。途端、耳には渦中の人物の声が届いた。
「シオンちゃーんっ!」
 蜜希の声が、あまりにも聞き慣れた名を呼ぶものだから、醤は思わず目で追ってしまう。
「良かったら、修学旅行の班一緒にならない?」
「えっ? あ、うん……」
「やったぁ! よろしくね!」
 両手を取り、友人達と喜ぶ蜜希。醤は、他のクラスメートと話す波花梓音(ナミハナシオン)の笑顔に、くぎ付けになってしまったのだった。





『六角形の神サマ』 第弐拾柒話/憧憬旅行(前篇)





「で、何なの?」
 修学旅行の、二日前にあたる土曜日。メダロット研究所にて。
醤は、梓音に見上げられたまま動けなくなっていた。まるで、蛇に睨まれた蛙だ。梓音が腕を組んだままトン、トンと指を動かす中、醤は冷や汗を流し、笑顔を貼りつけたまま聞き返す。
「な、『何』と仰いますと……?」
「とぼけんな。その袋の中身に決まってるじゃない」
 梓音が手さげのビニール袋を指差すと、わかりやすいくらいに醤の肩が跳ねる。醤がいつものように強く出られない理由は、袋の中身……つまり、内部の部品が所々焼き切れた、KBTパーツ一式にあった。
「この短期間で、もう十回目だよ?」
「あー……もう、そんな回数になります?」
「何で、この二か月でこんなに頻繁に部品が焼き切れてんの、って聞いてんの。言っとくけど、『たくさんオーバーヒートしたから』なんてわかりきった理由を言ってみなさい? お前を燃やすわ」
 言うや否や、梓音は手にしたチャッカマンの火を付ける。炎の向こうの、目がマジだった。確かに、カグラのパーツがこうして焼き切れる度、梓音には修理してもらっているのだ。当然、梓音には知る権利がある。
 醤は、全てを話した。カグラが、元道祖神のシンラと再会した事。そして、出くわす度に、カグラがシンラに煽られ、オーバーヒートを起こしている事。一部始終を聞いた後、梓音は椅子に座り、顎に手を当てて考える。
「……ふぅん? シンラって、おじいちゃんの知り合いだったんだ」
 面識があるような言い方が不思議で、醤は問う。
「お前、知ってんのか?」
「知ってるも何も、美園のメダロットじゃない」
「そうだけど……えっ、『美園』!?」
 あの、梓音が。ただでさえも人見知りで名を呼ぶ対象が少なく、且つ呼んだとしても基本名字呼びの梓音が。名前なんて、マリアくらいしか聞いた事が無い。そんな梓音が、ファーストネームで泡瀬美園(アワセミソノ)を呼ぶという事は。
「波花お前、み……泡瀬さんと、友達……!?」
「それが何?」
「……いやホラ? マジで性格良い子って、どんな性格ブスとも付き合えるからさ」
「……同意はするが、お前は死ねブサイク」
「どっちがだよ!?」
「どっちもよ」
 外観も内面も否定された醤は、あえなく撃沈される。涙ながらに考えても、梓音と美園はクラスが違う。社交性が違うし、趣味だって違うだろう。それこそ、どちらもメダロッターであるくらいしか、二人の接点を見つける事が出来なかった。もしかすると、美園も同様に、梓音に修理を依頼した事があるのかもしれないと、醤の中で落ち着いた。
 ふと、醤は思ったまま疑問をぶつける。
「そーいや、お前いつの間にみっちゃんと仲良くなったんだ?」
 知り合うキッカケは恐らく『キューピッド様』なのだろうが、あの時、梓音は蜜希に憤りを感じていたはずだ。それは、そうだろう。同じメダロッターとして許せない上に、愛機のマリアも過去に捨てられているのだ。誰がどう見ても、二人の仲は修復不可能だと思っていたのだが。
「ああ、蜂矢さんね……」
 梓音は、こめかみを押さえ、溜め息をつく。目を伏せると、言葉を続けた。
「あの一件が終わった後、ワタシにメダロットの修理を頼みにきたの。もちろん、断ったわ。冗談じゃないわよ、メダロットを易々と天秤にかけるような最低人間」
「ボロクソじゃねーか」
「そしたら……今度は、『メダロットのメンテナンス方法教えてくれ』って。『ググりなさいよ』って言いかけた所で、『気が済むまでわたしを叩いて良いから』って言われた」
「そんな熱い展開が……!?」
「望み通り、顔をグーで殴ったわ」
「せめてパーにしてやれよ!? 女の子だろどっちも!!」
 予想だにしない有言実行に、醤は声を荒げた。『キャットファイト』と言えば、少しは……少しもマシにならないとしても、『女の子による殴打』という表現はあまりにもエグ過ぎる。それにしても、殴った側であるはずの梓音の表情は、今も暗い。
「生まれたての小鹿みたいでも立ち上がってきたから、メダロットのメンテナスポイントを教えたわ」
「教えるお前もお前だけど、みっちゃんもみっちゃんだよ……」
「そしたら……」
 ここ一番深い溜息をつき、梓音は両手で顔を覆った。
「夏休み中、ほぼ毎日来るようになって……!」
「みっちゃん、ガッツすげーなぁ……!?」
「完全に他人事じゃない……!」
 ようやく、梓音の憂鬱の原因がわかった。四六時中梓音に付き纏う者等、今まではそれこそマリアしかいなかっただろう。思うに、美園もここまで一緒にはいまい。しかも、クラスメートとはいえ、知り合ったばかりの間柄だ。慣れない梓音の気苦労は、計り知れない。醤が内心合掌する中、梓音はさめざめと言葉を続ける。
「ワタシの話を、ずっとキラキラした目で聞いてるのよ? 何なら、ご機嫌な尻尾も見えてくるわ……蜂なのか犬なのかハッキリして」
「人間だろ」
「それからは、学校でも時々話し掛けられるようになったの。それだけの話」
 梓音は、醤の手から袋を受け取り、作業台の上にパーツを広げる。今度は、醤が小さく息をついた。
「……まぁ、結果オーライじゃねーか。ダチが増えてよ」
「……違う」
「え?」
 飛んできた否定を、醤は聞き返す。梓音は、慣れた手つきでドライバーと部品を手に取りながら喋った。
「『それだけの話』、って言ったでしょ? 蜂矢さんは、知り合いだから気を遣って話し掛けてくれるだけ。修学旅行の班だってそう。……友達じゃない」
 カチャン、という音と共に、機体からネジが外れる。目を伏せている梓音の表情はいつも通りにも見えるが、どこか寂しそうにも見えた。醤は、開きかけた口を一度結び、意を決して開く。
「そりゃ無ぇだろ」
 手元は止まり、梓音の冷淡な目だけが醤に向けられた。
「……は? 村崎には関係無いじゃん」
「あんな、みっちゃんだってこえーのは一緒なんだぞ?」
 醤の言葉に、梓音は目を見開く。醤は、出来る限り優しい口調を心掛けた。
「拒絶されるかもしんなくても、マジでお前とダチになりたいんだと思うぜ? みっちゃんはそういうヤツだ。お前だって、何となくわかってんだろ?」
 キッカケは何であれ、友達になりたい二人が予防線を張り合い、仲良くなれないのは馬鹿げている。もし、教室での梓音の笑顔が本物ならば。
「頑張れ、波花」
 二人で楽しく笑っていて欲しいと、自分勝手でも醤は願わずにはいられなかった。途端。
「……!」
 薔薇園のように、梓音の顔が真っ赤に染まる。何なら、目尻にうっすら涙も浮かんでいた。いつぞやか、梓音を泣かせてしまった事を思い出し、醤は口を開いたまま固まる。慌てて梓音が再び顔を覆い、体を背けた所で、醤はようやく声を掛ける事が出来た。
「だっ!? だ、大丈夫か!?」
「うるさい黙れ!!」
「ハイ黙ります!!」
 怒鳴られた条件反射で、醤はビシッと直立する。束の間の沈黙の後、梓音は首を垂れた。
「……ワタっ……ワタシだって、蜂矢さんと喋ってて楽しくないワケじゃ……ない。今度は、ワタシが頑張る番だって、わかってる。修学旅行で、やってやるわよ」
 梓音は、修学旅行に喧嘩でもしに行くのだろうか。たどたどしい決意表明の末、梓音はゆっくりと振り向き、醤を睨んだ。
「……だから、見てなさい。村崎」
 どうやら、喧嘩の相手は醤だったらしい。わかってしまい、醤自身は呆気に取られ、瞬きを二回する。本当に、梓音と一緒にいると、退屈する間が無い。
「……ブフッ!? アッハハハハハハ!!」
 突如吹き出し、抱腹絶倒した醤に、梓音の顔は色を失う。梓音は何の躊躇もなく、ドライバーの柄を醤の額へと叩きつけた。額がスイッチだったかのように、醤は黙り込み、そのまま地に臥す。
「……ワタシの話はどうでも良い。今は、おじいちゃんの一大事でしょうが」
「……ドウモ、申シ訳アリマセンシタ……」
「わかればよろしい」
 梓音は満足げに腕を組み、軍曹の如くそう言って頷いた。蚊の鳴くような謝罪の後、梓音は話を切り出す。
「おじいちゃんは……流石に、元気じゃないでしょうね。もうウンザリしきって、ふさぎ込んでる?」
「あー……まぁー……?」
「……何、その煮えきらない返事?」
 梓音から問い詰められ、視線を背けていた醤は、笑顔を引き攣らせて固まる。ギク、と何なら擬音が聞こえてきそうだ。醤は服の埃を払いながら立ち上がり、観念したかのように目を閉じた。
「いや……お前は想像できねぇかもしんねーけど、カグラ、スゲェ剣幕でシンラに怒鳴んだよ」
「確かに……おじいちゃん、いっつも優しいからね」
「で、オレ思ったんだよ。『もしかしたら、オレらにメッチャ気ぃ遣って、感情隠してんじゃねーか』、って。だから……」

『……『無理』とな?』
 いつぞや、醤の部屋に二人でいた時。醤は、思い切ってカグラに声を掛けた。振り向いたカグラの目は、殊更丸い。喉がつかえそうになりながらも、醤は思いの丈を吐き出す。
『ああ……お前さー、こんな時ぐらいもっと『ムカつく』とか『悲しい』とか言って良いんだぞ? ホントは、いっつも我慢してんだろ?』
『がまん……』
 ぽつり、と復唱された言葉には、まるで力が無かった。そうなったらなったで『普段の自分を否定された事が悲しいのではないか』、と醤は慌てて取り繕う。
『いやっ、いつもヘラヘラしてんのが悪いとかそういうんじゃっ……全然違くて!! おっ、オレが言いたいのはなぁ!? そーやって……お前がそんなんだと、コッチが調子狂うんだよ!? ……じゃなくて!! あの、だな……一人でグルグル考えるよりは……その、無理すんなっつーか……!』
 しどろもどろ・オブ・しどろもどろだった。それでも、『なかなか素直になれない自分にしては頑張った方だ』と、醤は内心自画自賛する。色んな恥は掻いてしまったかもしれないが、ほんの僅かでもカグラが元気になってさえくれれば良い。泣いたって良い。今なら、八つ当たりも許そう。そんな思いと共に、醤は構えていた。
 が。
『ハァァァァァァァァ……』
 カグラから聞こえてきたのは、世界の終末目前のような溜め息だった。何事かと、醤は目を見開いたまま固まる。
『……かたじけない、随分気を遣わせてしまったなぁ』
 カグラは、悲しそうに微笑んだ。違う。醤は、こんな笑顔をさせたかった訳ではない。
『なっ、何言ってんだよ!? 気ィ遣ってんのはお前の方じゃ……!?』
『違うぞ、ショウ』
 笑みを湛えたまま、カグラは俯く。
『……ワシがいつも笑っておられるのは、お前達といて、ほんに嬉しいからなのだよ。一緒におると、ついつい楽しくて、笑みが零れてしまうのだ。こればかりは、ワシ自身もどうしようも無いなぁ』
『えっ!?』
 カグラがいつも笑っていたのがあまりにも嬉しい理由で、醤は声が上擦る。長い間神社に閉じ込められていたとは言え、これは……とまで考えて、はたと気付く。
 それでは、自分の言葉の意味は。
『……尤も、』
 明らかに沈んだ声を耳にし、醤は自身の大失態を悟ったのであった。
『あれだけ目の前で憤慨されて、『信じろ』と言われても難しい話だがな』

「――って、床にデコつくぐらい俯くわガッツリ肩は落ちてるわで、みるみる元気無くなって最近ずっと凹んでんだけどどーしよー波花ぁ!?」
「トドメ刺したのお前じゃない」
 まさかの真犯人御登場に、梓音は思いきり顔を顰めた。カグラの心境を考えると、『古い知り合いに散々煽られた挙句、孫から普段の笑顔さえも疑われた』という事情なのだから、極度に落ち込むのも無理はない。何という、不器用なお孫さんなのだろうか。梓音は、作業台にプラスドライバーを突き立てる。
「何してくれんのよ!? おじいちゃんが自殺でもしたらどうすんの!? 眼鏡かち割るわよ!?」
「アイツが元気になんなら、オレの視力なんざくれてやんよおおお!!」
「お前は眼鏡買い直せば良い話でしょ!? マジで眼球ごと持ってってやろうか!?」
 いくら梓音が怒号を散らそうが、醤はおいおいと泣くばかりだ。梓音は、台からドライバーを抜き取り、口を開いた。
「凹ましたモンはどうしようもないじゃない! どうすればおじいちゃんが元気出すか、死ぬ気で考えるわよ!」
「……ヘイ……」
 どうやら、梓音も一緒に考えてくれるらしい。密かに『性格ブス』と言ってしまった事を謝罪しながら、乱暴に涙を拭い、醤は腕を組んで考える。
「うーん、どうすっか……あ、そーだ! 波花、デートしてくれよ」
「断る」
「オレとじゃねーよカグラとだよ!! お前にデート申し込むとか、『散歩しようぜ、サーベルタイガー♪』っつってんのと同じじゃねぇか!? だから、その虫けら見るような目ぇやめろ!!」
「おじいちゃんとにしても、お前がそんなコト言い出すなんて……コーラと間違えて、オイルでも飲んじゃったの?」
「お前の中のオレって何なんですかね!?」
「……それ、ワタシの台詞でもあるんだけど」
 サーベルタイガー……もとい梓音からすれば、カグラと一緒にいるのをあれ程嫌がっていた醤から提案されるのは、まさに青天の霹靂だったのだろう。それは、醤も自覚していた。
「しゃーねーじゃねぇか。アイツは修学旅行に連れてけねぇし、そんぐれーしか喜ぶの思いつかねぇんだよ……」
 眉間に皺を寄せ、参っている様子の醤に、梓音は一息つく。
「……そんなに、難しく考えないで良いんじゃない?」
 醤は、目を丸くした。カグラが弱り切っている手前、梓音はずっと怒り狂うものだとばかり思っていたが、今も落ち着き払っている。穏やかな表情でハンマーを手に取り、梓音は続けた。
「てっとり早く、ストレスの元を断てば良い。……ちょっと、割ってくる」
「何をだ!? あっメダルをか!! 珍しくドライバー以外のモン持ってると思ったらそれかよ!? 友達のメダロットにも容赦無ぇなお前は!?」
 充分、怒っていらっしゃった。友人ならば、恐らく美園の自宅も知っているだろう。醤が後ろから羽交い絞めにすると、梓音は文句タラタラな顔で醤を見上げた。
「村崎はムカつかないの? どう考えても死刑事案でしょ」
「よーし、今から倫理の授業だ!! 特にメダロット研究所の娘!!」
 腹が立つには立つが、それでも越えてはならない一線がある。醤は、美園が悲しむ顔は見たくはないし、梓音にその一線を越えて欲しくはない。
十分後。説得の末に、梓音は体の力を抜き、醤から離れた。
「……それは冗談として、一厘くらい」
「もう『本気』って言っちまえよ」
「連れて行けないにしても、折角の修学旅行だし……おじいちゃんが喜びそうなお土産、買ってあげたら?」
 そう言うや否や、梓音はドライバーを握り、作業に戻った。醤は、頭を掻きながら復唱する。
「『お土産』か……」





「――涙が出るくらい、感動的な話なんだけどさー……お土産買い過ぎだろ、村崎」
 京都。有名な寺の参道に並ぶ、店舗の数々。
修学旅行真っ盛りな醤は、甘太から冷ややかに指摘された。法被・木刀・西瓜の風鈴……今なんて、狸と狐のキーホルダーを真剣な表情で見比べている。
「なぁ佐藤、狐と狸どっちが良いと思う?」
「どっちも良くねーよ、『買うな』っつってんだろ。食費どころか、電車賃無くなんぞ?」
「……どっちも買うのってアリ?」
「ナシだわバカ。話聞けや。尾根もいつまで『アナタの恋がカーエル♪』見て……アレ、いつもと逆じゃね?」
 醤の膝裏に軽く蹴りを入れた後、持っているだけで呪われそうな表情の蛙の置物をまじまじと見つめる翠にツッコんだ所で、甘太は気付いてしまった。対象は違えど、トリオのツッコミ組は重症である。
そんな事情はいざ知らず、同じ班のクラスメートは声を掛けた。
「おーい! そろそろ、次の神社行こうぜ~!」
「待ってくれ!! まだどっちも買ってねー!!」
「だァから『どっちも買うな』っつってんだろ鯉の餌にすんぞグランドファザコンボケコラァ!?」
「佐藤、初日からそんな声張り上げてたら、残りの日声出なくなんぞ……?」
 甘太の心労を察してか、もう一人のクラスメートが労わるように止める。醤はというと、急かされて更に答えがまとまらない。どうしようか考えあぐねいていると、見慣れた姿が目に留まり、甘太達に向かって叫んだ。
「悪ぃ! マジで先行っててくれ!」
「どんだけ土産に時間使うんだよ!?」
「土産じゃねーって! ホンットすまん! 絶対追いつくから!」
「……絶対だぞー!」
 手を合わせて謝る醤に、他の四人は仕方なしに先を行く。醤は素早く会計を済ませ、目当ての人物へと駆け寄った。
「……マリアッ!!」
 見間違うはずがない。マスターである梓音お手製の機体は、白いエプロンに赤がよく映えた。背中には、ラピのぬいぐるみ型リュックサックを下げている。振り向いたマリアの顔は、一瞬で明るくなった。
「……あら! ショウさん、こんにちは♪」
「お前、何でこんな所に一人でいんだよ!? 波花はどうした!? はぐれたのか!?」
 醤は両肩を掴み、状況を確認する。地元ならとにかく、京都でなんて離れ離れになったら、それこそ二度と会えなくなるかもしれない。自分と会ったためその可能性は無くなったが、醤は心配で顔を覗き込む。梓音の名前が出た途端、マリアは目を伏せた。
「……違います」
「『違う』って……」
 いつもとうって変わって元気が無いマリアに、醤の眉が八の字に下がる。マリアが黙って差した指の先では、店内で蜜希達と談笑している梓音の姿があった。
「ショウさんも、知ってますよね? しぃちゃん、お友達が増えたんです」
 マリアは指を引っ込め、だらりと腕を下げる。
「しぃちゃんって、とってもすごいでしょう? マリアのパーツだって、……このリュックだって、しぃちゃんが作ったんです。メダロッ島でショウさんから頂いたぬいぐるみを、マリアのためにリュックにしてくれたのですよ」
 そう言って、マリアは背を向け、リュックサックを揺らす。最初は梓音に渡そうとしたのだが、『腹立つコトも思い出しそう』と魔女ミルキーを睨みつけながら言うものだから、醤は結局ラピのぬいぐるみをマリアへ贈ったのだった。サイドにはファスナー、お腹の部分にはポケットが取りつけてあったりと、本当によく出来ている。
「今は……新しいお友達と仲良くなるためにすっご~く頑張ってる、頑張り屋さんです」
 ハッと気付いて醤がマリアの顔を見ると、悲しげな笑顔だった。マリアは、再び醤の方へと向き直る。
「マリアが一緒にいたら、しぃちゃんはきっと、マリアにばっかり話し掛けてしまいます。だから、マリアは一人で京都を満喫してるのですよ。『一人で旅行』なんて、大人のレディみたいで素敵じゃありません?」
 マリアが手を広げて回ると、スカートも一緒に舞った。おどけてはいるが、相変わらず元気はない。醤が何と声を掛けるべきか迷っている間に、マリアはその場にしゃがみ込み、両腕で頬杖をついた。
「マリアはどうってコト無いですよ、えぇ。しぃちゃんにお友達が出来たんですもの、と~っても嬉しいです。寂しくもないですし、いじけてもないですよ、ぜ~んぜん。何てったって、素敵なレディですからね~マリアは」
 言葉の節々に、薔薇とは比べ物にならないくらいの棘があった。謎の倒置法が、マリアの感情全てを物語っている。荒んだ表情で呟き続けるマリアに、醤は頭を乱暴に掻いた後、手を差し出した。
「……ほらよ、素敵なレディ」
 小さな金属音と共に両手で受け取ったのは、尻尾だけが大きくフサフサと揺れる、狐のキーホルダーだった。マリアは驚愕の余り、何度も瞬きをする。
「えっ!? えっ!? コレ、どうなさったんですか!?」
「ホントはカグラのお土産だったんだけどよ……やる」
「ジジ様の!? そんな大事なモノ、受け取れません!」
「良いんだよ。アイツには狸あるし、元々どっちやるか迷ってたモンだし」
「で、ですが……!」
「貰ってくれ。そうすりゃ、オレも助かる」
 狐のキーホルダーでは、梓音の代わり等到底務まらないだろう。そうではなく、醤は少しでもマリアに元気を出して欲しかった。これ以上、落ち込むメダロットを見るのは嫌だ。
 マリアは、狼狽えた末にはにかみ、キーホルダーを大切に握り締める。
「……そういう事でしたら、お言葉に甘えて頂きますね! ショウさん、ありがとうございますっ!」
「おう!」
 向けられた満面の笑みに、醤もつられて笑う。マリアは再度両手を広げ、慈しむようにキーホルダーを眺めた。
「……ジジ様、お土産とってもお喜びになると思いますよ」
「……だと良いがな」
 照れ隠しに返すも、醤は胸元がほんのり温まるのを感じた。もしかしたら、マリアもカグラの心が沈んでいるのを知っているのかもしれない。それでキーホルダーを断ろうとしたのであれば、マリアにも余計な気を遣わせてしまった、と醤は小さく息をつく。
 マリアは立ち上がり、嬉々としてリュックサックにキーホルダーを装着した。
「マリアもと~っても嬉しいです!! ジジ様とお揃いですものね~♪ 帰ったら、早速しぃちゃんに自慢します!」
「おお、スクラップになんねぇようにな……」
 マリアの回復が嬉しい反面、醤は自分への飛び火も併せて不安に駆られた。
「おやぁ?」
 笑い交じりの、邪な感情を含んだ声。低く響いてきたその方向へと、醤とマリアは揃って目を向ける。
「どこからともなくクソガキの声が聞こえてきたかと思えば、まーたお前か小僧。相変わらず、ジジイに似てゴキブリのように這い出てくるなぁ?」
「シンラ!」
 腕を組み、高圧的な態度でシンラは現れた。シンラも、マリア同様周囲にマスターの姿が見えない。
「徘徊に夢中で、泡瀬さんとはぐれたのかよ? クソジジイ」
「誰がクソジジイだ!! 『ナイスガイなお兄さん』だっつってんだろクソガキ!!」
「うるせぇ!! カグラと変わんねーんだったら充分ジジイだろうがクソジジイ!?」
「っとに可愛くないクソガキだ、ジジイの顔が見てみたい……と、カグラは不在か」
 指を差してがなり立てる醤を意識から外し、シンラは辺りを見回す。ああ、と思い出したような声が漏れた。
「そうかそうか。神社からは出られても、町からは出られないんだったな。流石は道祖神殿、大変御多忙で羨ましい限りだ」
「っのクソジジイ……!」
 要は、カグラを『籠の鳥』だと小馬鹿にしているのだろう。嫌味な言い回しに、醤は奥歯を噛み締めた。
「丁度、ミソノは級友と買い物中だし、クソジジイは不在ときた。どうだ、小僧? お兄さんが楽しいお話でもしてやろうか?」
「テメエの楽しい話なんざタカが知れてらぁ!! 興味無ぇよバーカ!!」
「嘘をつけ。目は、口よりも詭弁だ。お前が興味津々な事等、俺にはわかっている」
 正直。カグラに何があったのか、カグラが何をしたのか、醤は気になって仕方が無い。しかし、あくまでもそれはカグラ本人から聞く話であって、シンラから聞いて良い話ではない事は理解している。醤は拒もうとしたのだが、シンラは近付くのをやめない。
「やめっ……!?」
 醤が後退ろうとした所で、シンラは一気に距離を詰め、まさに目前。笑い掛けた直後、シンラはチャンバラソードを突きつけた。
「お前、ミソノに惚れているだろう?」





メダロッチ更新無シ



続ク.





◎次回予告
シ「なぁ小僧ー、お前好きな奴いるー?」
醤「認知症ですかクソジジイ!? ゼッテーわざとだろ!?」
シ「俺さー、二ーAのアワセミソノと付き合ってんだよねー♪」
醤「知ってるウウウ!! マジでメダルかち割んぞゴラァ!?」
翠「俺は二ーDのミツキが好きだなー……」
醤「いつからここはお通夜会場になったんだ……? そーいやよぉ、佐藤はグルコを恋愛対象で見た事あんのか?」
甘「あ?」
醤「サーセンした」
宗「次回!! 『六角形の神サマ』第弐拾捌話ア!! 『憧憬旅行(後篇)』ン!! 漢なら恋バナより枕投げしようぜ村崎イイイイイ!?」
醤「他校の生徒はお引き取りください!! それとクソジジイ!!」


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