>> メダロットライズ にもどる

RSSフィード 【    T h i r s t    】
   

日時: 2014/01/07 22:08
名前: 通りすがりのコンビニ店員



 ――どこかの国の、ある街の、薄汚いスラム。
 救いがあるのかないのか分からない、そんなお話。











                    【    T h i r s t    】










CAST




《渇く者》サースト
            ――彼は何に乾いているのかわからない。



《奪う者》バンデット
            ――彼はひたすら奪い、与える。



《踏みにじる者》トランプルド
            ――踏みにじって進んでこそ強者。



《悟る者》ニルヴァーナ
            ――貪欲であればこそ。



《憧れる者》ローギング
            ――まるで恋するようにその唯一に憧れて。



《支える者》ケイン
            ――彼は杖。彼は翼。寄り添い支え続ける。心が折れ、翼もげるまで。



《報復する者》ローラン・ロード
            ――復讐が幸福を産まないと誰が決めた?














・補足・

『城』 巨大なビル。最下層地下1階から最上階50階まで。最上階に近づくほど強い。最下層の地下を除いた各階に闘技場が設置されており、国のお偉いさんがお得意様の賭けが行われている。入ったら最後、死亡率90パーセント。ただ地下1階で行われる選抜戦(惨劇)を生き残り、闘技場に出て一勝することができれば、馬鹿みたいな大金が転がり込む夢の場所。敗者にとっては墓場。巨大なビルは天にそびえる墓標だとさえ言われている。それほど生き残れる人は少ない。
イメージは無限城と天空闘技場たして、2で割った感じ。1階1階が広く高い


『決闘』 城の闘技場にて行われる試合。使用していいメダロットは一機のみ。メダロットとそのマスターが共闘して戦う。相手を全滅させるか、相手のマスターを殺せば勝ち。よって、いかにして相手のマスターを殺すか、また自らのマスターを護るかが重要になってくる。マスターは武器を所持していいが、銃や火器類は禁止されている。マスターの武器について。なぜこのような微妙な規定になっているかというと、もともと許可されていたのは盾などの防具で、ナイフなどの刃物ぐらいならばOKという風潮だったが、誰かが何を思ったか鞭で戦いだし、それで勝ち進み闘技場が盛り上がって以来、銃や火器類以外の武器なら使用してよくなった。銃や火器類が禁止されているのは、90パーセントを超える死亡率が、本当に絶望的な数値に変わるからである。






※感想不要
 若干の、グロ、残酷表現があるので注意





Re: 【    T h i r s t    】 ( No.1 )
   
日時: 2014/01/08 00:35
名前: 通りすがりのコンビニ店員

Particularly irrelevant story
《報復する者》ローラン・ロード



 おもちゃ界で有名なOMC(オリジナルメダロットクリエーター)だったローラン・ロード。
 彼はおもちゃと子供たちを愛していた。
 彼が手がけたメダロットたちは、ロボトルが弱い代わり、自らの能力を使って子供たちを楽しませることに長けていて、彼のメダロットの周りにはいつも子供たちの笑顔が溢れていた。
 ローランは子供たちの笑顔を見て、子供たちにメダロットが愛されているのを見て、幸せな日々に満足していた。


 けれど戦争がローランを変える。


 突如勃発した隣国との戦争によって、ローランは息子一家を失った。
 妻が既に他界しており、ひとり息子とその家族を可愛がっていた彼にとって、その死亡通知は天涯孤独になったことを示していた。


 ――許せない。


 取り戻せないものを失った痛みと冷たい孤独が、ローランの中で憎しみの種をまく。
 種は瞬く間に芽を出し成長していった。


 ――殺してやる。


 戦争はローランにおもちゃでなく兵器を作ることを要求していた。
 そして迷わず頷いたローランは、
〝子供たちに愛されるメダロットを〟――かつての信条を投げ捨てて、真逆のものを求め始めた。


 ひとりでも多く殺すために。
 自分から愛する息子とその家族を奪った奴らを皆殺しにするために。





 ――殺してやる。










 ――殺してやる。







 愛情深い人物だっただけに、愛するものを奪われたローランの狂気は凄まじかった。
 その執念は次々に凶悪な兵器を産みだしていった。
 彼の手がけるメダロットに、そこにあった人とメダロットを繋ごうとする意志は一切なくなっていた。







 ――殺シテヤルッ!







 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………




 ある日、ローランは一体のメダロットを完成させる。
 狂気にかられ、命を削るように作り上げられたそれは、彼の最高傑作であり、生涯最後の作品だ。



「ノーエル……マリア……」



 薄暗い研究室。
 ローランは出来上がったばかりであるメダロットの前に膝をつき、まるで人間の赤ん坊に接するように優しく腕にかかえる。
 彼の脳裏に、最愛の息子と、本当の父親のように自分を慕ってくれた息子の妻の姿が浮んだ。
 すべての狂気が彼の中から吐き出され、透明な雫がつぅと頬を伝ってゆく。



「君たちの仇はとった……」



 伝う雫よりも透き通った、無色透明のボディをしたメダロット。
 地上最悪の性能をもったメダロットを抱きかかえたまま、ローランは静かに瞼をとじ、その生涯に幕を下ろした。






〝子供たちに愛されるメダロットを〟
 かつてそう願っていたローラン・ロード。
 彼が作り上げた地上最悪の兵器はたった一機にて万単位の命を奪い、彼の名は凶悪な兵器開発者として歴史に残ることになる。
 だがもしこれを、ローランが知ったらならば、彼はきっと満足気に微笑むことだろう。
 信条をより復讐をとった彼は、確かにその復讐を成し遂げて涙を流したのだから。





Re: 【    T h i r s t    】 ( No.2 )
   
日時: 2014/01/08 23:41
名前: 通りすがりのコンビニ店員

《渇く者》サースト




 痩せ細った少年が、薄暗い碧眼の瞳にぼんやりと巨大なビルを映す。
 少年の前に悠然とそびえ立つそのビルは、このスラム街において『城』と呼ばれる特殊なルールによって成り立っている建物だ。


 『城』に入るのに許可は要らない。
 資格も要らず、誰でも入れる。
 だが現実として誰でも入れるわけではない。


 入ったのち生きて帰って来ることが出来る者、また『城』で暮らしていけることが可能な者は、実力ある者と限られている。


「……」


 少年はゆっくり首を動かし、『城』のてっぺんを見上げる。




 ――あの男は、最上階から何を見ているのだろうか。




 『城』には王がいる。
 命がチップ代わりの死のゲームを制し、最下層からのしあがった残虐で野蛮なスラム街の王。
 少年の父親であり、母親を死に追いやった男だ。


『……こ……やる。……して、……殺してやるッ!!』


 父親の姿を思い浮かべれば、少年の耳奥で、母親が死に際に放った声が蘇る。
 怨念の言葉だった。
 強烈な殺意と、悔しさを滲ませた、とても死ぬ直前の女が放つ言葉とは信じられない言葉だった。


 ――綺麗だ。


 少年は思い出す。
 産まれてから初めて、感情を抱いた日のことを。






 少年の母親は花売りであり、彼は娼館で生を受けた。
 そんな彼が生かされていた理由は、母親が街でも1・2を争うほどの美貌の持ち主であり、彼女の血をひく少年は、たとえ男といえど育てば金になるからだ。
 少し灰色がかった金髪に見事な碧眼。
 もくろみ通りと言うべきか。数年の月日を経て成長した少年は、幼いながらに美しく、全てのパーツが恐ろしいほどに整っていた。
 そして同時に将来つくだろう『仕事』のため、ひたすら従順であるよう仕込まれた少年は、意思や感情を持たない見事な人形になっていた。


 ――キレイ、綺麗だ。


 だが母親の死に際の姿、彼女の叫ぶ激情が、少年のなかに小石を投じた。
 感情を表さない冷たい碧眼がわずかに揺れた。
 初めて触れる他者の『感情』。
 母親のあらぶる激情が引き起こす熱は、少年へと感染し、ほんのりと少年の頬をそめた。


『かあさん、かあさん、ころせばいいの?』


 少年は最期の力を振り絞って憎しみに悶える母親に問いかける。
 今まで自分から話しかけたりしたことのない少年の声に、母親が少年をみた。


『かあさん、きれいだよ。すごくきれい。あのおとこをころせば、かあさんはもっときれいになるの?』


『――綺麗になるわ』


 母親は嘘を吐いた。
 綺麗になるも何も、自分は死ぬ。
 どうあがいても死ぬのだ。
 あの男に薬を飲まされ遊ばれて、身も心もズタボロになったこの醜い姿のままッ!


『綺麗になるわ。だから殺して。絶対に殺してちょうだいね』


 母親は嘘を吐いた。
 しかし、一方で、彼女の言葉は真実だった。


 少年がコクリと頷く、ただそれだけで。


 彼女の憎しみは取り払われ、それはそれは――少年が見惚れる程の晴れやかな微笑みを浮かべて、彼女は死ぬことができたのだから。









「……」



 少年はゆっくりとビルの頂点から視線を降ろす。
 そして母との約束を守るため、歩き出した。




 少年が向かう先にあるビルは、このスラム街において『城』と呼ばれる特殊なルールによって成り立っている建物だ。





 『城』に入るのに許可は要らない。
 資格も要らず、誰でも入れる。
 だが現実として誰でも入れるわけではない。





 入ったのち生きて帰って来ることが出来る者、また『城』で暮らしていけることが可能な者は、実力ある者と限られていて――





 ――見目麗しい幼い少年が、歩く骸骨を従えて『城』の王として君臨するようになるのは、これより一年後の話である。











Re: 【    T h i r s t    】 ( No.3 )
   
日時: 2014/01/09 00:01
名前: 通りすがりのコンビニ店員

≪奪う者≫バンデット




 歩く骸骨が天使と出会ったのは、廃棄処分所(ごみばこ)から這い出た時だった。




「うぅ…」


 這い出たはいいが行き倒れて、歩く骸骨は呻いていた。
 天使はそんな骸骨を木の棒でつついていた。


「ねぇ君、メダロットだよね。ボク、ちょうどメダロットを探してるんだ。出来るだけ――キレイなやつを」


 薄汚れたライトを持ち上げて、歩く骸骨は天使をみた。
 灰色がかった金髪にどこか突き放すような冷たい碧眼。
 少年を目にして、確かにこの美しい少年の隣には綺麗なメダロットが並ぶべきだ、と骸骨は納得する。
 たとえば――


「俺…なら……」


 歩く骸骨は、骸骨型のメダロットではない。
 無色透明のすきとおったパーツを装備しているため、ティンペットが透けて、歩く骸骨のように見えるだけだ。
 そして今は薄汚れてしまっているが、無色透明のパーツは本来、朝日に輝く雫のような美しさを持っている。


「なに、拾ってほしいの?」


 はっと、歩く骸骨は少年に質問されて声に出していたことに気づく。
 そして心の中で自問した。


 拾って、欲しいのだろうか。


 死にたくないとは思う。
 こんなところで野垂れ死にたくはない。
 自分を偽物だと断定したインチキ鑑定士に、判定が出た途端、手のひらを返して廃棄処分送りにした元の主人に、報いを受けさせるまで。
 死にたくない。
 骸骨の中から熱い想いが込み上げてくる。


 自分の思いを踏みにじったあいつら。
 信じていたのに。信じていたから――
 だから、俺、は、


「――捨てないで欲しい」


 捨てないで、欲しかった。


 今憎いのも、悲しいのも、惨めなのも、許せないのも、
 絞り出した一言が歩く骸骨の全て。


「――捨てるぐらいなら拾わないでくれ」


 死にたくない。
 けどもう一度あんな思いを繰り返すぐらいなら、死んだ方がましだと思う。 けど、でも、それでも、沸き上がるこの想いは、


 ――拾ってくれ。


 ――捨てないと言ってくれ。


 歩く骸骨。
 彼の想いは砂漠で一滴の水を求めるような渇望。
 一途で熱い、すがりつく眼差しが少年の瞳を捉えた。


「――キレイだね」


 少年が頬を赤らめてうっとりと微笑む。


「いいよ、捨てないであげる。だから、おいで」




 『おいで』




 たった三文字の何気ない言葉に、歩く骸骨は喜びで心を振るわせた。
 もちあげた頭を少年に寄せて目を閉じる。


 傍にいることを許された。
 必要とされている。


 優しい少年の手のひらに撫でられたなら、限界に達した骸骨は眠りにつく。
 彼が意識を失うことを、恐ろしいと感じることはなかった。




Re: 【    T h i r s t    】 ( No.4 )
   
日時: 2014/01/10 00:05
名前: 通りすがりのコンビニ店員

≪憧れる者≫ローギング






 薄汚いスラム街の一角。


「あ……りが…と」


 どくどくと腹から命の水を垂れ流し、弱りきった少年はそれでも天使に礼をのべる。


「いいよ。キレイだったから」


 闇商人に売り飛ばされ、腹をかっさばかれそうになった。
 命からがら逃げ出したが、追ってきた男に捕まり、殺されそうになった。
 狂乱状態に陥っていると、突然歩く骸骨をつれた天使が現れて、助けてくれた。


 周りの地面は追ってきた男の血で汚れている。


「きれ…い?」


「生きたい、って叫んでた。押さえつけられて必死だったね。キレイだったよ。凄くすごくキレイだった」


「覚え……てな…い」


 少年はふらついて、たたらを踏んだ。
 視界がぼやけ白くなってゆく。急激に体温が下がっていた。どくどくと腹から流れだす赤が、止まらない。


「男から無事に助かったね。ねぇ、まだ生きたい? それとも、もういい?」


 天気の話でもしているかのように尋ねてくる天使に、少年は朦朧とする瞳をむけてゆっくりと瞬く。


 もういい?
 もう死んでいいってこと?
 ゆっくり眠っていいってこと?


 あぁ、でも、疲れたけど、休みたいけど


「や…だ。いきたい……いきたいよぅ……しにたくない……」


 灰色がかった金髪に、どこか突き放すような冷たい碧眼をした天使は、つれている歩く骸骨の頭を撫でながら微笑む。


「うん、いいね。やっぱりキレイだ。母さんには負けるけど」


 それを聞いた死にかけの少年は、死にかけながら、微笑む天使を否定する。
 さっきから何を言ってるのだろう、この天使は。


「きれい…なのは、きみ、だろ?」


 作り物めいた容貌。
 もっと聴きたくなる声。
 何より、骸骨をつれて戦う、あの姿。
 斬りかかり返り血を浴びる姿が、堪らなくかっこよく、少年は心を鷲掴みにされていた。


 ――生きたい。


 男に押さえつけられ、がむしゃらに叫んでいた時よりも強く願う。


 ――生きて、できることならばこの天使に。


「ぅ…あ…」


 満身創痍の少年は、天使の答えを聞くことなく崩れ落ちて意識を失った。












「変な子だね」


「助けるのか?」


「バンデット。ボクは、キレイなものが好き。キタナイものが嫌い」


        ・・・・
 だから助けて、お片付けもしといてあげよう。


 歩く骸骨を天使は撫でる。
 心地好い手のひらに、骸骨はもっと撫でろと頭をすり寄せる。


        ・・・・・・・・・・・・・
 二人の後ろで、辛うじてまだ生かされていた〝キタナイ〟男が呻き声をあげた。










 ―――そのあと。臓器販売に手を染めていたある闇商人が、所属していた組織ごといなくなったことを少年が知るのは、スラム街にある唯一の病院のベッドで目を覚ました三日後だ。













Re: 【    T h i r s t    】 ( No.5 )
   
日時: 2014/01/11 00:03
名前: 通りすがりのコンビニ店員

死にゆく男は化物に変貌する
《奪う者》バンデット




 歩く骸骨バンデットは、自らの主であるサーストのことをほとんど知らない。
 十歳ぐらいに見えるサーストが本当は何歳なのか。そんな基本的なことも知らなければ、幼い彼が『城』の頂点を目指して戦っている理由も、躊躇なく人を殺せるほど人殺しに馴れているわけも、バンデットは知らない――教えられていない。


 だからバンデットは時々サーストのことが理解できなくなる。


 サーストは〝キレイ〟なものが好きだ。
 ただ彼の言っている〝キレイ〟は、美醜についてではない。


 ―――強い感情だ。


 思わず身を震わせるほどの喜び。自分の命に手をかけるほどの悲しみ。正気を投げ捨てるような憎悪。相手を壊すまで止まらない愛情。どんな種類の感情を、とサーストは問わない。彼の中に善悪は存在しない。自分に向けられた嫉妬でも、殺意でも、恐怖でも、強い感情であれば等しく彼は〝キレイ〟だと喜ぶ。彼の中に善悪は存在しない。


 感情は、強いほどよい。


 サーストは助けを求める相手に救いの手を差し伸べることもあれば、逆に非道な行為を施すこともある。廃棄処分所で自分を拾った時は前者だった。後者は、愛妻家で有名な男の前で妻と子供を殺して見せ、男自身も瀕死に追い込み、「復讐しにおいで」と囁いていた――1ヶ月後『城』の闘技場に姿を現した男は絶望と闇に瞳を濁し、しかし闇に堕ちたぶん確実に強くなっていた。サーストは男の成り果てた姿にたいそう満足して、喜び勇んで、男を殺した。


 話はその時の、首をかっ切られる直前の男の瞳の色である。




 バンデットは見た。
 男が命の灯火を散らす刹那に、サーストと視線を交差させるのを。
 見てしまった。
 サーストを殺せないと悟った瞬間に復讐者の瞳に宿った、闇でもない黒でもない、塗りつぶされた――深淵。男の顔にぽっかり空いたふたつの暗い穴は、もはや憎しみといった感情らしいものはなく、ただその暗い穴の中に引きずり込むように、サーストを呪っていた。


 それを直視して、バンデットの機械であるはずの身体が凍りついた。






(化け物)





             ・・・・・・・・・・・・・・・
 人が持てる感情ではない、理解できない何かを宿した化け物がそこにいて、サーストを見つめていた。







     ・・・・・・・・・・・・・・・
 そして、サーストはそれを見て喜んでいた。







(化け物だ)






 男も、サーストも、まともじゃない。正気じゃない。およそ人間的ではない絶望と喜びの中で彼らは生きている。いいや。彼ら――では、ない。真に恐ろしいのは男を変貌させた者だ。正気では理解できない境地まであの男は追い込まれた。それだけの憎悪を抱かされ、化け物に変貌させられた。
 自分の主、サーストによって。




「キレイだね」



 ……きれい?
 サースト視は男線を交わしたとき、恍惚の表情を浮かべながらそう呟いた。
 呟きを拾ってしまったバンデットは思わず思考を止め、気づけば試合はいつの間にか終了しており、バンデットは片腕をサーストに取られ、引きずられていた。
 返り血を浴びてそれでも美しい主は何時になく上機嫌だった。




 ――キレイだね。




 かつて自分にもかけられた言葉が頭のなかで木霊す。呆然自失したまま、バンデットは思った。


 おそらく、自分はあの男のように死ぬ。


 上機嫌で歩くサーストを見上げて、バンデットは何となく思い至ったその考えを、確信に変えた。
どんな死に方なのかは分からない。けれど何時か、あの男のように死ぬ。自分さえ見失う感情を抱きながら、化け物となって死を向かえる。


 化け物≪サースト≫の隣にいるということは、そういうことなのだ。
 そしてバンデットは、心底恐ろしいと感じつつ、この化け物の隣を離れるつもりは微塵もない。





「――サースト」


「なんだい? バンデット」


「引きずるな。汚れるし痛い」


「なら抱っこにしよう」


「…は?」


「これでいいよね」






 引きずる体勢から一転、サーストに両腕で丁寧に抱きしめられて――不意の出来事に、バンデットは泣きそうになった。もちろん機械である身体であるから涙は出ない。けれど、無性に、泣きたかった。感情が溢れていた。


 じんわりと感じる回された腕の温もり。
 サーストはバンデットに優しい。基本的に自己中心的であるから気が回らないし、優しくするやり方を知らないから、扱いは雑だ。けれど言えば直してくれる。一度やめて欲しいと告げれば、二度繰り返すことはない。ちゃんと覚えて大切に扱ってくれる。サーストはバンデットに優しい。
 理由は分からない。
 なぜサーストがバンデットに優しいのか、バンデットは知らない。教えてもらっていない。
 おそらく教えてもらっても、それはサーストのキレイ理論と同様、彼だけがわかる理由で、自分には理解できない理屈だろう。





 バンデットにとってサーストは理解できない化け物だ。




 ただバンデットは、この化け物を愛している。
 泣きたくなるほど愛している。





 だからバンデットは化け物の隣を離れない。



























 いつか化け物となって死ぬ、その日まで。

















Re: 【    T h i r s t    】 ( No.6 )
   
日時: 2014/01/12 00:00
名前: 通りすがりのコンビニ店員

≪悟る者≫ニルヴァーナ




 貪欲であることを正義とした。
 そのことに後悔はない。
 その正義は自分のためだけの正義であり、他者にとっては踏みにじる行為でしかなかったが、それでも自分はこうして全てを掴み生き残っているのだから、ニルヴァーナにとってそれは確実に正しい行いだった。





 ニルヴァーナはメダロットだ。彼女にはマスターがいる。マスターは『城』の王だ。
 彼は醜い男である。


 トランプルドという男は顔の左半分が潰れている。生まれついての物だ。彼の顔はとても醜い。だが顔以上に酷いのは中身だ。心根がこの街で一番腐っているからこそ、彼はこのスラムで王になったと言ってもいい。
 残虐なトランプルドは、弱者をなぶり、解放するそぶりを見せては、またいたぶる。泣き叫ぶ女や子供の声に笑い、妻や子を目の前で殺されて、絶望を目に宿らせる男の顔を覗き込むことをよく好んでいた。






「あれか? 俺の息子だ」



 ニルヴァーナはあるとき闘技場で、男にひどく似ている少年を見かけた。


 見た目は全然似ていない。灰色がかった金髪に見事な碧眼。どこか人間離れした、天使と見紛うほどの容姿。しかし闘技場の上で微笑み、ひとりの男を化け物に変え、嬉々としてそれを殺した少年は、確実にトランプルドの息子だった。




「あの子供はお前を殺しに来たんじゃないのか」


「そうだろうな」


「どうする気だ?」


「どうもしない。ここまで来たら殺すだけだ」




 簡単に言い放ったトランプルドに、ニルヴァーナは落胆と悲しみを覚えた。




 トランプルドは醜く、残虐で非道。最低を地でいく男だ。そんな彼には多くの敵と、復讐者がいる。彼を殺すためだけに『城』の最上階を目指している者は多い。事実この階までたどり着いた者の半数はそんな者たちだ。彼らは実に強かった。おそらく彼の息子もそうだろう。先ほどの戦いで、少し見ただけでも、あの少年と相棒のメダロットによる戦闘は素晴らしいものだった。


 あぁ、終わりだな。


 ニルヴァーナの中でひび割れる音がした。


 かつてトランプルドは貪欲だった。醜く、残虐で非道。最低を地でいく彼を、それでもニルヴァーナがマスターと認め、彼と共に在ったのは、全てを奪い食い尽くそうという醜悪な姿が、彼女の正義を体現していたからだ。
 そう、彼は確かにニルヴァーナのマスターだった。
 美しくはない。賢くもない。だが強く、なによりも飢えていた。貪欲だった。おぞましい程に。


 それが、今はどうだろう。
 飢えていた男は全てを奪い、食い尽くした。そうして『城』の頂に立ち、今度は踏みにじる楽しみを覚えた。挑んでくる強者を返り討ちにして、絶望に叩き落す。そうやって、嬲って遊ぶのだ。
 トランプルドはいつしか現状に満足するようになった。
 『城』の頂点に立ち、自分以上に強い者がいなくなったのだから、ある意味それは当然のことなのかも知れない。けれど自分より弱者のものを嬲って遊ぶことだけに満足を覚えた彼は、すでに飢えてはいない。
 これがニルヴァーナの落胆。


 飢えを忘れた男は次第に堕落していった。堕落しても男は強く、『城』の頂点であり続けた。だから表面化はせず、誰も気づかない。本人さえも自覚しない。共にいたニルヴァーナでさえ、少年を見るまでは、トランプルドが弱体化しているなど確証していなかった。
 けれどニルヴァーナは悟る。男を化け物に変貌させ、嬉々として殺した息子相手に、「どうもしない。ここまで来たら殺すだけだ」と言ってのけたこの男の目は、ふし穴だ。あの素晴らしい戦いで、あの少年の力量を測ることも出来ていなければ、強者の出現に高揚もしていない。戦う者として、この男は既に終わっている。


 きっと、あの少年は最上階まで生きて登ってくるだろう。それだけの力の燐辺を見せた。
 今は自分たちを下回る力量も、最上階に来るころには格段に飛躍しているはずだ。王の座を脅かすどころか、奪い去ってしまうほどに。ニルヴァーナにはその光景がありありと想像できた。




 おそらく――少年がこのビルを登りきったとき、トランプルドは死ぬ。




 貪欲であることを忘れ、小物に成り下がったこの男は、死ぬ。




 それが



 ニルヴァーナの悲しみ。









Re: 【    T h i r s t    】 ( No.7 )
   
日時: 2014/01/13 00:24
名前: 通りすがりのコンビニ店員

≪踏みにじる者≫トランプルド





 醜く産まれて来た男は、蔑まれて育ってきた。
 貧しい家で劣等感と飢餓と共に成長期を過ごした男は、しかしそれらを快感に変えることに成功する。
 きっかけは人を殺したことだった。




 振り上げた拳と血塗れの鉄パイプは、血を撒き散らした男より自分の方が勝っていることを証明した。
 血を流す男が自分の父親であることはどうでもいいことだった。
 大切なのは力の証明。
 暴力によって、今まで蔑まれて来た男は、初めて自分の存在に価値を見いだした。




 暴力は男にあらゆるものを与えた。
 金に食べ物に女に住む場所。だが男に幸福を与えるのは、金でも食べ物でも女でもない。自分を蔑んできた者をぶちのめす瞬間だ。男は何度となくそれを実行した。闇討ち、小細工、人質。あらゆる手段を持って強者を喰らい、男は強くなっていった。『城』の王となるまでそれは続いた。




 そして頂に立った男は、好き勝手ができる暮らしの中で、かつて自分も踏みにじられる側であり、奪われる日々があったことを少しずつ忘れ去る。それと同時に、強者を喰らう飢餓も男の中から消失していった。









 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………








 闘技場でトランプルドは叫ぶ。


「<悲鳴>をあげろ!! ニルヴァーナ!」


 トランプルドを庇うように立ちふさがっていたメダロットが、絶叫をあげる。
 白熱していた闘技場が刹那の間、停止して、しかしすぐに熱を取り戻す。


 踊り子型メダロット、ニルヴァーナ。
 両腕に青い炎を纏い戦う彼女は、攻撃力の高いその両腕より、頭部パーツの能力を生かすことですべての戦いに勝利してきた。
 それが先ほどの<悲鳴>である。
 彼女の<悲鳴>をまともに食らったメダロットは、一定のあいだ大幅にパーツの成功率を下げる――要するに、強力なバク・ウイルス効果だ。これによって、彼女が<悲鳴>をあげた後はほとんどのメダロットが攻撃を封じられる。


「突っ込めニルヴァーナ。そのまま仕留めろ」


 踊りかかるニルヴァーナの先にいるのは、バンデットだ。だが何時もの歩く骸骨の姿ではない。彼は今、破壊の申し子ゴットエンペラーのパーツを身に付けている。


「バンデット。変形、NIT-0X」


 迫ってくる敵に、焦りのないサーストの声。
 ニルヴァーナの<悲鳴>を受けてふらついていたバンデットは、それでもマスターの指示に反応する。ゴットエンペラーのフォルムが〝ぐにゃり〟と歪み、数秒もせず今度は鋼鉄の騎士、ナイトアーマーの姿を形作った。


 無形型メダロット、バンデット。
 彼は天才と名のつく科学者に生み出された殺戮兵器だ。
 殺戮を目的として作り出された彼は、より多くの敵を殺せるように、どんな状況下でも敵を殺せるように、姿を与えられなかった。
 代わりに与えられたのは全てに変形する能力。
 バンデットの名に相応しく、彼は破壊したメダロットの姿を奪うことが出来る。


「そのまま両腕で防いで。大丈夫、すぐ終わるから」


 ニルヴァーナは、攻撃を封じられ守りに入ったバンデットへ、ここぞとばかりに猛追を開始した。踊る青い炎に、堅いはずのナイトアーマーの盾がみるみる削られていく。だがバンデットはぶれない。サーストの言葉を信じて、両腕をクロスさせてひたすら耐える。
 そのままこの状態が続き、メダロット同士の決着がつくまで、もうあと数秒という所。その段階にきて唐突にニルヴァーナの攻撃が止んだ。


 ――宣言通り、サーストがトランプルドに勝った!


 攻撃が止んだことに気がついたバンデットは、すぐさま両腕をどけて顔をあげた。






 しかし、バンデットの視界に飛び込んできたのは期待していたサーストの勝利の瞬間ではなく――





 ――なぜか長剣によって串刺しになったニルヴァーナと、彼女の傍で両目を見開くトランプルドの姿だった。






Re: 【    T h i r s t    】 ( No.8 )
   
日時: 2014/01/31 08:52
名前: 通りすがりのコンビニ店員

最後の最後でしか彼らは、
≪悟る者≫ニルヴァーナ







 ニルヴァーナ


 ニルヴァーナ


 ニルヴァーナ!






 全ての機能が停止していくなか、最後に見たトランプルドは、らしくもなく縋るように自分の名を繰り返していた。
 男のこんな弱った姿を見るのは初めてだった。
 ついでに言えば、最低なこの男でも涙を流せるのだと知ったのも、初めてだ。




「なんだ。結局、死んだのか」




 新しいボディを得て再起動させられたニルヴァーナは、自分のマスターが死んだことを聞かされた。
 その後、新しいマスターを選ぶつもりはあるかとも、聞かれた。
 しばらく考えたのち、ニルヴァーナはゆっくりと頷いた。
 ニルヴァーナの答えを受けて、では候補者をリストにしておこう、と『城』の事務員はその部屋を出ていった。





 トランプルドの死という結果は、少し考えれば当然のことだった。
 メダロットを失った生身の人間があの闘技場において生き残れるわけがない。
 おそらくあの男は、自分が身代わりとなって機能停止してから数秒と経たず、その首を刎ねられたはずだ。




「……トランプルド」




 あの残虐な男は、もしかすると、自分の名を呼びながら死んだのではないだろうか。
 最後に見たトランプルドの様子を思い出せばその可能性は高い気がした。
 ニルヴァーナの表情が悔しげに歪む。




「……らしくないのは、お互い様だったな」




 イルヴァーナは貪欲だ。
 戦闘において、その貪欲さは勝利に発揮される。
 あの時。いつもの冷静な彼女ならば、トランプルドの身代わりになったりはしなかっただろう。バンデットへ攻撃を続行し、あのメダロットだけでも敗者として機能停止に追い込んでいた。もしそうであったなら試合的には負けでも、自分と敵マスターである人間の少年だけが残り、状況的には負けたとはいい難いからだ。生身の人間。それも銃火器を持ってない人間が、メダロットに勝つのはほとんど不可能なのだから――これが敵チームを全滅させる戦いだったならば、むしろ勝っていた。確実に勝っていた。仮定の話だが、少なくともニルヴァーナはそう思っていて、その上でその勝ちを捨てた。




 そう。試合的には負けても、状況的には勝てていた――はずだった、トランプルドを庇わなければ。





 その勝ちを捨てたのは、ひとえにニルヴァーナの意志だ。





 それは貪欲な彼女らしくない意志だった。




 しかし、






「なぜだろうな。お前には生きて欲しかった」






 最後にメダロットのために泣いた男と、マスターのために勝ちを捨てたメダロット。
 彼と彼女は凄く似ていて、ある意味とても彼と彼女らしいマスターとメダロットの姿が、あの瞬間の闘技場にはあった。













 ――最後の最後でしか彼らは、本音を晒せない。






Re: 【    T h i r s t    】 ( No.9 )
   
日時: 2014/01/15 00:07
名前: 通りすがりのコンビニ店員

≪渇く者≫サースト





 サーストはとても満足している。




 母親との約束通り父親を殺しに行ってみれば、彼らとの戦いはとても楽しく、また彼が死に際に見せた感情は、予想以上に〝綺麗〟なものだった。



「あぁ……本当に綺麗だった」



 思い出せば、意図せずに、うっとりとした賛辞の声が漏れる。
 〝キレイ〟でなく〝綺麗〟。
 それはサーストにとって最大級の褒め言葉だ。




 サーストは宝箱を開けるように、あの時、父親が抱いていた感情を思い出す。




 父親が抱いたのは、長剣に貫かれたところでメダルさえ無事ならどうと言うこともないのに、そんなことにさえ頭がまわらない程の、驚愕と悲しみと、ふかい深い愛情。
 そう、確かにあの父親がメダロットに抱いていたのは愛情と呼ばれる感情だった。
 サーストに〝綺麗〟だと認めさせるほどの。




 トランプルドが死んだ今、彼がニルヴァーナをどの種類の愛情を抱いていたかは不明だ。
 ただサーストが、感情を読み間違えることはない。
 残虐で最低のクズ男は、己のメダロットにだけは心を許し、愛情を持っていた。そしてその愛情は対象をたったひとつに絞っていただけに――ふかく、ふかく、深かった。
 首を刎ねられても、気づかないほどに。




 サーストは頭だけの状態になってもまだメダロットの名を呼んでいた父親を思い出して、動悸を激しくさせ頬を朱に染め上げる。興奮を抑えられない彼は、バンデットがメンテナンスから戻ってくるまでのあいだ、恍惚に身を任せ戦いの余韻にひたったのだった。








 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………





 ふたりの会話。




「あぁ、おかえり。バンデット」


「おう。ただいま」


「ねぇ――母さんとの約束も果たしたし、これからどうしよっか」


「なんだ。『城』の王になりたかったわけじゃないのか?」


「とくに興味はないかなー。あぁでも、ここにいればたくさん強い人が挑戦してくるし。強い人は強烈な感情を持ってる人が多いし。ここにいるのも、いいかな?」


「好きにしろよ。けど、面白い情報ならあるぞ」


「ん?」


「いつか助けたガキがいただろう。人身売買で腹かっさばかれてた」


「〝生きたい〟って叫んでた子だね」


「そうそう。そいつ、お前を追いかけてこの『城』に来てるらしい。しかも既に最下層をクリアして。今は……たしか、12階あたりだったか」


「へぇ。それは楽しみだね。なにせ彼の抱いていた感情は滅多に見ないものだったから。もしここまで来るなら、彼はきっと――」





 言葉を続けながら、機嫌よくニコニコとサーストは微笑み、彼の言葉を聞いてバンデットは怒り出した。






Re: 【    T h i r s t    】 ( No.10 )
   
日時: 2014/06/08 13:07
名前: 通りすがり

≪支える者≫ケイン



 『そのメダロットはメダルに欠陥がある。
  機体もどうせ失敗作だ。電源たけ落としてそのまま処分しろ』


 ――しょぶん?


 たまたま廊下を通りかかり自分の運命を知ったメダロットは、研究所に火を放って逃走した。




 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………




 笑える話だ。


 メダロットなのにパーツひとつ発動できない。
 いや、正しくは翼だけは――背中についている翼だけは機能する。


 この翼は執念だ。神の名をもつメダロットを作ろうとした研究者たちの。空を支配するメダロットを作り出そうとした彼らは、パーツの機能を発揮出来ないという自分≪メダル≫の欠陥……それすらも凌駕するパーツを生み出した。


 これは呪いか祝福か。
 研究以外はまるで興味がなく、最後まで自分を物として扱い顧みることのなかった彼ら。最後には失敗作と自分を捨てた彼ら。だがそんな彼らだったからこそ、自分は翼を得た。




 自分を捨てた彼らが与えてくれた空。




 出来損ないのケインは、今まで送った不遇な境遇を、幸か不幸か決めかねていた。








Re: 【    T h i r s t    】 ( No.11 )
   
日時: 2014/06/09 10:54
名前: 通りすがり

≪憧れる者≫ローキング




 自分の戦い方がわりと狂っていることをローギングは自覚している。
 ローキングは闘技場での戦いに置いてメダロットを戦うためのサポートとして使い、自らの手でメダロットを葬り、そのマスターを殺す――生身の人間のくせにメダロットに立ち向かう。死に急ぐような戦い方をローキングは信条としている。


 その点において、相棒のメダロットであるケインは大変に都合が良かった。
 メダルに不具合があり能力が使えない欠陥品のメダロット。
 ただ背中についている翼の、飛行能力と機動力は並みのメダロットと比べ一線を画している。
 ローキングはそれが欲しかった。
 生身の人間である自分にとって何よりも大切なのは回避能力。メダロットによるちょっとした攻撃が、自分にとって致命傷になることをローキングはよくよく理解している。


 攻撃の方は、どうにでもなる。
 メダロットであれ人間であれ、どうすれば壊れるのか、ローキングには手に取るようにわかる。ただわかっていても、人間の自分がそれを実行するには、少しばかり身体を酷使しなければいけないが――けれど、そんなものは些事だ。どうでもいい取るに足らないこと。憧れの天使に会えるためと考えればすぐに忘れてしまう、その程度の痛み。
 ローキングは闘技場でメダロットを壊しながら、そのマスターを殺しながら、『城』を見上げて天使を想う。


(あぁ、彼は、みてくれているだろうか)


 天使と出会ってローキングは変わった――生きたいと願う少年は変わった。


(強くなった僕を、彼は見てくれているだろうか)




 見て欲しい。
 憧れの彼の、その視界に入りたい。




 生きたいと願う少年は、そのためだけに命を投げ出し戦っている。





Re: 【    T h i r s t    】 ( No.12 )
   
日時: 2014/06/10 14:02
名前: 通りすがり

――それは〝どうしようもない〟喜び
≪支える者≫ケイン


 君がいい。
 君が欲しい。
 君でなければダメだ。


 どれ程かと聞かれれば、命を投げ出すなど容易いほど、その言葉を求めていた。




 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………




 戦えないメダロットにどれだけの価値があるだろう。
 戦う能力を使えない自分にどれだけの価値があるだろう。


 ケインは常に自分に問いかけている。
 それはもう癖のようなもので。それこそ生み出され己を己と認識した時から、自分が欠陥品だと理解し、ケインはずっと考えてきた。弱いメダロットに価値はない。ならば自分の価値はいかほどのものだろうと。




 だが、価値はあった。




 少なくとも自分の主であるローキングは、戦うことの出来ない、飛ぶだけの能力しかないからこそ、自分を傍に置きたいと――必要としていると、言った。
 その言葉はケインに〝どうしようもない〟喜びをもたらした。欠陥品の彼はいつだって否定され、自分自身でさえ否定しきって、でも死にたくはなくて。役立たずでも『自分なんかいない方がいい』と思うのは嫌で。悔しくて。諦めながら心のどこかで願い、祈り、そして探していた。
 たった一つの理由。
 自分を肯定できる。肯定してくれる。生きてもいいのだと思える。何だっていい。誰だっていい。だからどうか、僕に与えて――この世界に存在しても、許される、その理由を。


 だから、そう願い続けてきたケインがローキングの言葉に喜ぶのは、〝どうしようもない〟ものなのだ。


 たとえそれが、
 回避能力に特化していて、
 人を乗せることが出来る飛行型で、
 戦闘能力がないメダロットなら別に何だって――ケインじゃなくたって――構わない。
 その程度のものでも。




 ローキングはケインを見ない。
 彼の視線はいつだって憧れの天使のものである。
 ローキングはケインを気にかけない。
 どれだけ壊れようが構わない。飛べさえすればいい。ケインはそのためだけにある。
 ローキングはケインを必要としていない。
 彼が自分自身の手でマスターやメダロットを葬るのに、ケイン以上に都合のよいメダロットはいない。けれど都合がいいだけで、飛行型のメダロットをわざと翼以外を壊すなどすれば、代わりを作ること可能なのだ。ただ今はまだ「壊れて」なくて。使うのに「都合がいい」。だから使う。そんな「必要」のされ方。




 ――幸福だ。




 ケインは幸福に咽いでいる。
 その喜びの残酷さを理解しながら、それでも自分が存在してもいいたった一つの理由に縋りついて、彼は咽び身を震わせ、その幸福を噛み締めている。






 君がいい。
 君が欲しい。
 君でなければダメだ。






 どれ程かと聞かれれば、たとえ嘘だとわかっていても命を投げ出すなど容易いほど、ケインはその言葉を求め続けていたのだから。





Re: 【    T h i r s t    】 ( No.13 )
   
日時: 2014/06/12 18:29
名前: 通りすがり

最終戦に入る前にソウワ
【挿話】おりじなるめだろっとしょうかい



≪奪う者≫バンデット


無形型メダロット、『バンデットシェイプ』、男型
頭部:<勝者の強奪>特殊変化
右腕:<誰かの右腕>特殊変化
左腕:<誰かの左腕>特殊変化
脚部:<誰かの脚>特殊変化(基本は二脚)


備考.
・破壊したメダロットに変化することが出来る
・「破壊した」の定義は機能停止ではなく完全な破壊である
・頭部パーツの破壊によってパーツ変化(データ)を収得できる(純パーツ一式)
・機能停止すると収得したパーツ変化は全て削除(リセット)される
・ティンペットからメダルを外すと収得したパーツ変化は全て削除される
・ティンペットからパーツを外すと収得したパーツ変化は全て削除される
・メダロットをメダロッチに入れると収得したパーツ変化は全て削除される
・変形にかかる充填及び放熱の時間は0(ゼロ)である
・基本的にパーツの能力・性能は変化したパーツに依存する
パーツ変化はランダムではない。収得したデータから指定して変化する
・収得したパーツがない場合、変化することは出来ない
・メダルは専用のメダルでなければならない
殺した人間に変化することが出来る(ただしサイズはそのままなので、変化するなら子供の姿が望ましい)




≪悟る者≫ニルヴァーナ


踊り子型メダロット、『涅槃』、女型
頭部:<安息の悲鳴>うたう
右腕:<生の炎>なぐる
左腕:<消滅の炎>なぐる
脚部:<踊り火>二脚


備考.
・<悲鳴>が聴こえる範囲全域にバグ・ウイルス効果が及ぶという恐ろしい機体
・しかも効果は絶大で異常なまでに成功値が下がる
・範囲全域だからもちろん一回で複数攻撃可能
・ただし無差別
・頭部パーツの使用回数は二回
・<生の炎>と<消滅の炎>は名前がカッコいいだけで、攻撃力は高くない
・代わりに充填・放熱の時間が短い




≪支える者≫ケイン


神鳥型メダロット、『シムルグ』もどき、男型
頭部:<No name>不明
右腕:<No name>不明
左腕:<No name>不明
脚部:<No name>飛行


備考.
・神鳥型メダロット『シムルグ』の試作機
・脅威の回避率100%
・身軽なぶん装甲が紙。オールパーツ装甲5。まさに紙鳥型メダロット。
・メダルに欠陥があるため能力を使用することが出来ない
・飛行特化の役立たずとは俺のことだ(キリッ




 次から最終戦に入りますが、しばらく、また、更新停止させて頂きます。
 読んでくださっている方、本当にありがとうございます。
 そして申し訳ありません。
 なるべく早く帰ってきます。

Re: 【    T h i r s t    】 ( No.14 )
   
日時: 2015/10/08 01:28
名前: 通りすがりのコンビニ店員


≪渇く者≫サースト



 雨でもなく、雪でもなく、槍が降る。


 持ち手と共に急降下してきたそれを、サーストは地面を蹴ることで間一髪、避けた。
 轟音と衝撃。えぐれた闘技場の石版がつぶてとなって宙を舞う。
 尖ったそれがぶつかって肉が裂けるのも気にせず、サーストは粉塵を利用して、槍と共に降ってきた少年――ローキングの背後を取った。


(厄介だなぁ)


 すばやく持っていたナイフを投げる。だが鈍く光るそれは当たることはなく、無人の地面に突き刺さった。標的《ターゲット》はすでに空に――鳥のように飛び回るメダロットに回収されてしまっている。サーストは碧の眼を細めた。空に逃げられては手の打ちようがない。


(ほんとうに厄介だ)


 ふたたび槍が降る。




 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………




 生きたいと願った少年が待ちに待った、天使との戦いは、彼が12階にいたあの頃から一年も経たずやってきた。キラキラと目を輝かせて黒髪の少年に比べ、少年に寄り添うようにいるメダロットがどこか不安げで、諦めているようで、それでいて諦めきれないように少年を見上げていて。
 彼らと対峙したサーストは喜んで彼らを敵として闘技場に迎い入れた。


 だって彼らは〝綺麗〟だった。


 ローキングからまっすぐと向けられる憧れと殺意も。
 少年のメダロット――ケインの抱えている、喜びと哀しみも。




 きっと彼らは闘技場の上でも輝くだろう。
 滑らかなコンビネーションの上に、ちぐはぐで噛み合わないそれぞれの感情を乗せて戦う彼ら。
 黒髪の少年は、生きたいと願いっていながら、ただサーストに認められたくてこんな所まで来てしまった――自分の身を削るような戦いを繰り返しながら。
 欠陥品のメダロットの方はおそらく全てをわかっているのだろう。
 幾度の戦いの中で、自分がどれほど壊れてきて、マスターである少年も壊れているのか。
 だからこそ迷っている。
 道具のように必要とされながら、マスターとして彼を愛してしまったから。
 どうにか生きて欲しい。
 死んで欲しくない。
 けど、おそらく、この戦いが勝っても負けても、終わる頃には自分たちの体は……。
 あのメダロットは自分たちの終わりを知っている。
 だからこそ戦いに迷っている。


 サーストは微笑んだ。
 きっと彼らは輝くだろう。この戦いの終わりに、ひときわ、つよく、――〝綺麗〟に。




 ……………………………………………………
 ………………………………
 ……………………
 …………




 かくしてサーストの予感は当たった。


 先に限界が来たのは生きたいと願っていた少年だった。サーストの攻撃をかわし、空に急上昇際に体重をかけそこねて、ずっと足を滑らせて機体から落ちた。その隙を逃さすブルースドックに変化したバンデットが連射。ローキングはバンデットの連射をケインの機体を蹴ることで回避したが、それによってケインの機体とローキングは空中で完全に分離した。


(いまバンデットが彼を撃てば勝てるな)


 バンデットが撃てばローランドは死ぬ。
 サーストはケインをみた。


 迷いのなか、マスターの死を察して喜びも哀しみも絶望へと変わり、黒く濡れるその鳥を。


 飛ぶことしか出来ない鳥は殺意にまみれ、持ち主の槍を奪い、空を堕ちた。




 たとえそれが、自分の存在意義を無くそうとも。




Re: 【    T h i r s t    】 ( No.15 )
   
日時: 2015/12/24 13:13
名前: 通りすがりのコンビニ店員


≪支える者≫ケイン



 殺意にまみれた鳥が堕ちる。
 欠陥品とはいえ神を名乗る物らしく、一種の近寄りがたい美しさを放つ静謐な新緑の機体だったそれ。だが堕ちていくそ様は禍々しさに溢れ、静謐な森のような神聖さは見る影もない。惨めに、そして無残にどす黒く歪められた機体は、ただ彼の手にある奪い取った槍だけが銀色にキラリと輝やき。まるでそれは――伝って零れてしまった一粒の、涙のようで。

 堕ちながらケインは懺悔していた。

 メダロットとして欠陥品のケインは、空を飛ぶための翼《どうぐ》としてローキングに必要とされた。ローキングがケインに意思や心や感情を求めたことは一切なかった。ローキングは信用も信頼もしていなかった。ただ役割だけを求めていた。

 だからケインのしていることはローキングにとって酷い裏切りだ。

 飛ぶことをやめて堕ちたケイン。

 メダロットとして欠陥品のくせに、翼《どうぐ》としてさえ失敗作に成り下がった。


(ごめんなさい、マスター)


 僕を救ってくれたあなたを裏切り、あなたの天使を僕が殺すことを。


(どうか――許して)


 偽物の神の翼を持つメダロットは、それでも堕ちながら雷光を超えてみせた。
 狙いを違うことはない。銀槍の先には忌々しい天使が、微笑みを浮かべて佇んでいる。

 だがケインが天使を刺し貫く瞬間、彼は口元を歪める。


「惜しかったね」


 秒にもみたない時間の中だったにも関わらず、ケインは確かに聞いた。


「そこそこ〝キレイ〟だったけど、〝綺麗〟には足りないなぁ」


 だから、君は、もういいかな。



投稿フォーム

※ 投稿時の注意

■まれに書き込みに失敗し、書き込み内容がすべて消えてしまうことがあります。
 そのため、投稿ボタンを押す前に、必ず文章をコピーしておくことをオススメします。

(※)のある項目は、必ず入力してください。

タイトル(※) スレッドをトップへソート
名前(※)
E-Mail
パスワード (あとで作品を修正する場合に必要)
作品文章(※)
投稿用キー(※) ※スパム対策を導入中です。投稿時は【かきこみ】のひらがな4文字を入力して下さい(コピペ可)

   クッキー保存 (学校や満喫等の共用パソコンの場合、チェックを外して下さい)