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RSSフィード 魔王~Mysterious Crystal~
   

日時: 2018/06/19 00:18
名前:

どこにいるかもわからない謎の存在、魔王
 
彼は裏から世界を支配していた
 
これはそんな魔王に立ち向かう者達の物語である
 
 
 
 
 
☆目次☆
第零話【プロローグ】>>1
第一話【ハルカゼとともに】>>2-5
第二話【白き翼ダイナブレード】>>6-8
第三話【イニストラードの王子、ソリン】>>9
第四話【誰がための忠誠】>>10-11
第五話【メダナイトの逆襲】>>12-13
第六話【ハートヒートアタック】>>14-16
第七話【血戦!ニンニンジャ&クリスタル】>>17-18
第八話【愛】>>19-20
第八.五話【インターミッション~イニストラード編~】>>21
第九話【双子の片瀬兄弟】>>22
第十話【片瀬流慕は楽しく暮らしたい】>>23
第十一話【片瀬米斗は静かに飲みたい】>>24
第十二話【進撃の巨乳】>>25
第十三話【SHE IS RUKU】>>26
第十四話【ミラディン包囲戦】>>27
第十五話【ファイナルマジカルコミュニケーション】>>28
第十六話【ただいま参上!!】>>29
第十七話【ワンポイントライフ・プレイヤー】>>30
第十八話【Killer's Role との決別】>>31
第十九話【せめて、人間らしく】>>32
第二十話【恋はスリル、ショック、サスペンス】>>33
第二十一話【再臨:無翼の死神 ~REAPPEARANCE:No Winged Death~】>>34
第二十二話【Wonderful Angel】>>35
第二十三話【宝条・ザ・ギャンブラー】>>36
第二十四話【ディー・フォー・シー】>>37
第二十五話【宝条・ザ・プレイヤー】>>38



Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.19 )
   
日時: 2014/02/19 06:48
名前:

第八話【愛】
 
 
 あのニンニンジャとの血戦から一ヶ月の月日が流れた。
 
国王ティボルトの死は世間には公表されず、あの日、あの部屋にいた者だけの秘密となった。
現在、国王は病を患い国民の前に顔を出せない状態にある、というのが一般に発表された情報だ。
当然、数年に亘って偽国王ニンニンジャによって政治を行われていたなんていう、イニストラード始まって以来の大事件は隠蔽された。
 
当面の政治は国王の側近であった者達によって行われている。
ソリンは国王への即位するに当たって知識をつける必要があり、それを見学するのが当面の仕事となった。
 
リリアナ=ナラーはすぐに城の兵士に取り押さえられた。
ソリンの手紙に騙されて仕方なく侵入したギディと違い、彼女は城に忍び込んだ泥棒であるという事を忘れてはいけない。
ただし、泥棒であると同時にイニストラードを救ってくれた英雄とも呼べるため、現在、折れた肋骨の治療をしてもらっている。
 
ギディオン=レヴェインは戦いが終わった後、すぐに医師による治療を受け一命を取り留めた。
医師曰く「どうして生きているのか分からない」との事。
鍛えている、だけでは説明のつかない彼の生命力には恐らく〝心〟の力が大きく働いていたのだろう。
 
ただし、一命を取り留めたものの意識は未だ戻っておらず、このまま植物人間になるのでは、とも噂されている。
 
 
 
ソリン:「はぁ……どうしたもんかね」
 
イニストラード王子、ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードは頭を抱えていた。
現在、ソリンは面会室なる場所にいる。
部屋はガラスによって奥と手前が分けられており、それぞれの側に椅子がおいてある。
ガラスの手前の椅子にソリンが座り、ガラスの奥の椅子には手錠をかけられたリリが座っていた。
 
リリ:「だからさ、もうあばら治ったから出してよ」
 
リリは腕を組んで言う。
立場上、ソリンが捕らえた国政側であり、リリが捕らえられた犯罪者側にも関わらず、随分と横柄な態度である。
 
ソリン:「……つってもお前が勝手に城に侵入したって事実があるからなぁ」
 
リリ:「ったく、女の子がパンツ一丁になってまで戦ってやったっていうのにさ、おっぱい見られ損だわ」
 
ソリン:「ハハハ、お前のおっぱいがもう少し大きかったら、見物料代わりに釈放したかもな」
 
リリ:「 ぶ っ 殺 す ぞ 、 ヘ タ レ 巻 き 毛 」
 
軽い冗談を言ったつもりのソリンだったが、リリに真顔で睨まれて、黙った。
 
リリ:「……で、結局この国は魔王に関する情報は何一つ持ってないのね」
 
ソリン:「ん? まぁな、別に魔王に逆らいませんって宣言しただけで魔王が会ってくれるわけでも無いしな」
 
リリ:「政治の仕方的には事情知ってそうだったけど、実際は国王を乗っ取られていただけだしね……はぁ侵入損だわ」
 
リリは頭を抱えた。
目の前の犯罪者兼英雄をどう扱うかに悩むソリン。
文字通り、骨折り損のくたびれ儲けとなった状況に悩むリリ。
両名、頭を抱える奇妙な状況であった。
 
ソリン:「……っていうか、本気で魔王から盗みを働くつもりなのか?」
 
リリ:「そうだけど? 文句ある?」
 
ソリン:「いや、このご時勢で魔王を探すってのが信じられなくてな」
 
リリ:「このご時勢だからこそよ。今、世界一金持ちなのは魔王でしょ?
   だったらその魔王から財産を盗めば、私は世界一の金持ち。 簡単なロジックよ」
 
ソリン:「なんで世界一の金持ちなんて目指すんだ? 二位でもいいだろ」
 
リリ:「嫌よ」
 
ソリン:「なんで?」
 
リリ:「『夢』だから」
 
ソリン:「『夢』つっても自己満足だろ」
 
リリ:「じゃあアンタは何の為に、国を守ろうとしてるの? 国なんか捨てて自由気ままに暮らせばいいのに」
 
ソリン:「そりゃお前……」
 
王子が国を想うのは当然だろ。
とか
国民の笑顔の為だ。
とか、そんな事を言おうとしたが、ソリンは思わず口ごもった。
よくよく考えたら、国を守りたいとか、国民の笑顔を守りたいとかそういうソリンの想いはリリの『夢』と大差ないのかもしれない。
そうする事をソリンが嬉しいと思うから、幸せであると感じるから。見も蓋も無い言い方をすると自己満足の為ともなる。
そう思ったからだ。
 
ソリン:「そうだな……『夢』だからって事になるな」
 
リリ:「でしょー?」
 
ソリン:「よくよく考えたら、自己満足の為にここまで行動できるお前はスゴイんだよな。正直、尊敬する」
 
リリ:「尊敬するなら〝お前〟じゃなくてちゃんと名前で呼びなさいよ、リリアナ=ナラーよ」
  
ソリン:「……リリ、で良いかい?」
 
リリ:「……どうぞ」
 
ソリンは毛先がくるりとカールした自身の金髪を伸ばしたり、丸めなおしたりしながら考える。
目の前の女は、自分の『夢』の為にここまでの行動を起こした。
対して自分はどうなのか?
この国を出ようとした行動の狙いは、国王の心に訴えかけるという事が目的であり、本気で魔王を討つ気なんてなかった。
そもそもこのご時勢に、魔王を討てると思う人間が存在しているとも思えなかった。
 
ソリン:(でも、リリは本気で魔王から盗みを働くつもりで頑張ってんだよな……)
 
リリとの出会いによって、ソリンの心は大きく動かされていた。
やはり諸悪の根源、魔王を討たなくてはならないのではないか?
このままでは、また、ニンニンジャのようなテロリストに襲われてしまうのではないか?
そんな気持ちが湧き上がってきていたのだ。
 
ソリン:「俺は割りとマジでリリを尊敬したんだ。たった今した。……出来るだけ、早く釈放できるように計らってみるよ」
 
リリ:「はいはい、期待しないで脱獄準備進めとくわー」
 
ソリン:「ハハ……、脱獄準備とか、仮にも次期国王の前でいうなよ」
 
 
その時、面会室の扉が荒々しく開けられた。
見ると、城の兵士がゼエゼエ息を切らしてそこに立っていた。
何事かと思い、ソリンが神妙な顔をすると兵士は、息を整えるやいなや大きな声で言う。
 
 
「ソリン王子、あの青年が……ギディオン=レヴェインの意識が戻りました!!!」
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ソリン:「はぁ……どうなってんのかね」
 
イニストラード王子、ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードは頭を抱えていた。
現在ソリンは城の中に作られた特別病室にいる。
いわゆる重役と呼ばれる者、位の高い者の為の部屋なのだが、現在はとある侵入者の為に使われている。
その侵入者、ギディオン=レヴェインはこの国の為に普通ならとっくに死んでいるような重傷を負い、一ヶ月も目を覚まさなかった。
ソリンはソリンなりに彼の今回の活躍に感謝していたし、心配もしていた。
その男がようやく目を覚ましたと聞き、急いで病室に駆け込んできたのだ。
すると、
 
ギディ:「うーん、よく寝た! 爽やかな朝だなぁ……あ、ソリン王子! 良かった無事だったんだな」
 
目が覚めた本人は、気持ちよさそうに体を伸ばし、ストレッチをしていた。
 
ソリン:「無事だったんだな、はこっちのセリフだよ!!! お前、生きてることが不思議なくらいの重傷だったんだぞ!?」
 
ギディ:「あ、そうなの? でも、まぁ、治ったっぽいね」
 
そういいながらギディは屈伸運動をしたり、ジャンプをしたりして自分の体調を確認する。
全身のありとあらゆる箇所を複雑骨折し、大量の出血をし、いくつかの内臓が激しく損傷していた状態から一ヶ月でこうなるものか?
とソリンは思った。
しかし、医師から「人間とは思えない回復スピードだ」と数日前聞いた事を思い出した。
                 
ソリン:「お、お前……本当に人間か?」
 
ギディ:「え? そうだよ? まぁ、クリスタルの力とか使ってるから大分頑丈なんじゃない?」
 
ソリン:「じゃない? って疑問系かよ!!」
 
ギディ:「いや、俺自身もよく分かってないから」
 
よく分かっていない、とはいうもののおおよそ彼の予想で当たっているとは思われる。
医師の話では、ギディの体の構造は間違いなく人間であり、なんら特別な部分は無かったらしい。
たしかに鍛えているだけあって、骨は太く、筋肉も柔らかい。
若いので代謝もいい。
健康マニアならば、彼の事を神とあがめてもおかしくない理想的な健康体だ。
それにしたってはや過ぎるこの回復スピードを説明しようとするならば、クリスタルの力以外に説明のしようがあるまい。
 
ソリン:「ま、まぁお前には色々聞きたいことがあるんだ……」
 
ソリンは懐から黄色のクリスタルを取り出してギディに見せる。
 
ソリン:「このクリスタルの事とかな」
 
ギディはそれを聞いて、不思議そうな顔をして訪ねる。
 
ギディ:「別にいいけど、ニンニンジャからはそういう話は聞いてないの?」
 
ソリン:「あぁ、聞いてない」
 
ギディ:「ホントに? 一ヶ月もあったんでしょ?」
 
ソリン:「いや、一ヶ月もなかったさ……」
 
ギディ:「ん?」(なんか流れ変わったな)
 
 
ソリン:「 ニ ン ニ ン ジ ャ は あ の 戦 い の 直 後 自 害 し た 」



 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
一ヶ月前……
 
ギディとハルカゼの全メダフォースを注いだ決死の一撃。
〝ギガント・ハート・ヘッド・シザース〟はニンニンジャを真っ二つに切断した。
しかし、ギディ自身魔王の情報を欲していた為か、それとも単なる優しさか。
ニンニンジャのメダルだけは真っ二つにされず綺麗に残っていた。
  
トカゲの尻尾を切り落としたあとの用に奇妙にピクンピクンと動くニンニンジャであったが、誰の目から見ても戦える状態でなかった。
とはいえ、これだけの重傷を負いながらもまだ機能停止させずに、動こうとするその精神力の凄まじさもまた、その場の誰もが認める状況であった。
 
メダナイト:「無駄だ、お前はもう戦えない。 ……諦めるんだな」
 
メダナイトは落ち着いてニンニンジャにそう言う。
しかし、ニンニンジャは動きを止めようとせず、右腕をゆっくりとあげる。
 
ニンニンジャ:「そんな……事は…分かってる………さ」
 
メダナイト:「ならば無駄な事はするな、貴様の命を奪うつもりはない。色々と聞きたいこともあるし……」
 
そう言いながらメダナイトは、気が付いた。
ニンニンジャの行動の真の目的に。
 
メダナイト:「貴様、まさか」
 
しかし、もう遅い。
ニンニンジャは右腕を振り上げ、自身のメダルに向かって振り下ろすところであった。
 
ニンニンジャ:「〝あのお方〟に……不利な情報は………… 決 し て 漏 ら さ な い ッ ! ! 」
 
振り下ろされた右腕は、ニンニンジャ自身のメダルを真っ二つに切断した。
そして、永久に機能停止をしたのだった。
 
自らの〝野望〟をあれだけ高らかに叫んでいたニンニンジャが、他人の為に命を絶った。
その行動に、その場にいた全員が恐ろしいものを感じていた。
 
これほどのものなのか。
魔王のカリスマ性とは、ニンニンジャのようなメダロットにすらここまでさせてしまうものなのかと、恐怖したのだった。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ギディ:「そ、そんな……わざわざ死なないように攻撃したのに……死んじゃったのか」
 
ギディの落ち込み方を見てソリンは不思議に思った。
あれほどに卑劣な真似をした相手の死を悲しむのか? 、と。
しかし、リリから「ギディは魔王を探している」事を聞いていたことを思い出し、納得した。
 
ソリン:「まぁ、魔王の情報を一切聞けなかったのは残念だがな」
 
しかし、ギディはソリンの予想とは違うリアクションをする。
 
ギディ:「ん、あぁ……それもあるけど……でもやっぱり、誰かが死ぬってのは悲しいもんだよ」
 
驚いた。
この男、本当にニンニンジャの死を悲しんでいたのだ。
あれだけ卑劣な手でこの国を乗っ取ろうとしたのに。
ギディに死ぬほどの重傷を負わせたのに。
そんな明らかな敵の死を純粋に悲しんでいたのだ。
 
ソリンが驚いて絶句をしているとギディはふぅと大きく息を吐いて言う。
 
ギディ:「で、クリスタルの話だよな?」
 
目をキリッとさせ、ソリンを真っ直ぐに見ながら言う。
切り替えも早い男のようだ。
 
ソリン:「あぁ、それもそうだが、俺は今、おまえ自身についても随分興味が湧いてきたよ。 魔王を探してる理由とかな」
 
ギディは一瞬「あれ?俺、魔王の事ソリン王子に話したっけ?」的な顔をしたが、すぐに「まぁいいか」的な顔をして言う。
 
ギディ:「分かった。じゃあその辺の事もまとめて話をさせてもらうよ」
 
――――――――そして、ギディは話した
        かつてシミディア村で起こった悲劇を
        連れ去られた友人クラシアの事を
        クリスタルの力の事を――――――――――――――――

 
ソリン:「なるほど……」
 
世間では魔王は世界の平穏を保つ正義の味方のような見解を述べるものもいる。
逆らわなければ害は無いのだから、存在を認めてもいいのではないかという意見もある。
イニストラードも形式上はそのような立場の側だ。
実際には、魔王の力が怖いから、であるが一応形式上は魔王を認める側なのだ。
 
しかし、ソリンは今回の経験とギディの話を聞き、確信する。
魔王は、間違いなく罪なき者にも害を為す存在であると。
出来ることなら討伐すべき存在なのだと。
 
ソリン:「ギディ……青のクリスタルは後ほど君に返すつもりだ。
    しかし、悪いが、この黄色のクリスタルは我が国で管理させてもらいたい」
 
ソリンは手に持つ黄色のクリスタルを今一度まじまじと見つめながら言う。
このクリスタルは、もしかすると、魔王を討伐できるだけの力があるかもしれない、と考えながら。
 
ギディ:「うん、いいよ別に。俺一個持ってるし」
 
ソリン:「あ、あぁそう」
 
ギディのあまりに軽いリアクションにソリンは肩透かしを食らった。
 
ソリン:「じゃあ、話してくれてありがとな。俺はこれから会議だからちょっと席を外すよ」
 
ギディ:「俺は、どうしとけばいい?」
 
ソリン:「ここで大人しくしててくれ、なんやかんやでアンタを巻き込んだのは俺の責任だ。すぐに釈放するように話は進めておく」
 
ギディ:「おう、ありがとな!ソリン王子!」
 
ソリン:「……ソリン、だけで良い。なんやかんやでアンタはこの国を救った英雄だしな」
 
ギディ:「分かった。じゃあ、頼むぜソリン」
 
ソリンは親指を立てて、ニッと笑うと病室を後にした。
 
 
 

 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ソリンが会議室に入るや否や、待ち構えていたメダナイトが言う。
 
メダナイト:「遅いぞ、ソリン。何をしていた?」
 
ソリン:「あ、あぁ悪い。リリアナ=ナラーとギディオン=レヴェインと面会してたんだよ」
 
あの事件以来、メダナイトとソリンの関係は妙な感じになった。
結果としてニンニンジャを倒し、国を守れはしたのだが、その直前にメダナイトがソリンを裏切っていた事は紛れも無い事実。
どうにもお互いに元の信頼関係を築けるような仲には戻れないのだ。
そこで、ソリンは以前のように軽口を叩く事無く、素直に謝って席についた。
 
 
この会議は、まさにリリアナ=ナラーとギディオン=レヴェインの処遇を決める会議であった。
ソリンはこの2人と面会した結果、釈放しても問題ないだろうという考えを述べる。
ギディに関しては他の者達も同意見であったらしく、賛同を得られた。
むしろ彼はこの国の英雄ではないかとすら言われた。
ただし、リリについては、ギディのようにソリンにそそのかれたわけでもなく、
単純に泥棒行為を目的として侵入した犯罪者であるという理由で意見が分かれた。
が、ソリンの必死の説得により、なんとか、皆をなだめ釈放が決定する。
結局は、最後の最後でリリが見せた死闘が評価された。
彼女は決して脱ぎ損ではなかったようだ。
 
 
会議も決着し、皆が席を立とうとした時、ソリンが言う。
 
 
ソリン:「なぁ……魔王を本気になって討ってみないか?」
 
 
ソリンのその発言に、一瞬空気が凍りついた。
が、次の瞬間には各々、反対の声をあげる。
 
「正気の沙汰じゃない」
「魔王に逆らっていくつの国が滅んだとお思いで!?」
「この国をつぶすつもりか」
「そもそも現状、そんな事をしている余裕はこの国ない」
 
ソリンは「クリスタルの力があれば……」とか「今回の事件を繰り返さないために……」なんて言って見るが、皆賛同してくれない。
たしかに、今回の事件はイニストラードにとって大きな打撃となった。
だが、魔王を探すのはその打撃による傷を埋めてからで良いのでは?
というのが最終的な会議の結論だった。
 
ソリン:「……そうだな、皆の言うとおりだ。妙な事を言ってすまない」
 
ソリンはそう言って会議を終わらせた。
 
メダナイト:「………………」
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.20 )
   
日時: 2014/02/17 04:33
名前:

 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
翌日、ギディオン=レヴェインとリリアナ=ナラー両名は釈放された。
持ち物は全て本人達に返却し(ただし、リリの服はボロボロだったので新調して贈与した)、2人は一ヶ月ぶりにパートナーとの再会を果たした。
また、2人はイニストラードから、決して少ないとは言えない金額のお金をもらった。
口止め料というやつだ。
今後、イニストラードで起こった一切の事情を、他言してはならないという条件で釈放されるのだ。
 
この釈放もまた、国中の人間には秘密にして行われるため、表口を堂々と出て行かれるわけにも行かない。
そこで、最初に2人が侵入した経路をそのまま使用し、見送りはソリンと数名の事情を知る兵士のみで行った。
 
ソリンはギディとリリと握手をし、近くの兵士に聞こえないような声で耳打ちした。
 
ソリン:「ギディ、リリ、魔王を探すアンタらの旅、応援してるぜ」
 
ギディ:「おう!ありがとな。ソリンも国の為に頑張れよ」
 
リリ:「ま、魔王がドンだけヤバイ奴か再確認できただけでも良しとするか」
 
そういうと二人はこっそりと、地下に作られた穴へと入っていった。
それを見送ってすぐにソリンは、あたかも今発見したかのようなそぶりで「あ、こんなところに穴がー!」叫んだ。
すると事情の知らない兵士達が駆けつけてきて、ソリンは「すぐにふさいでくれ」と頼む。
これで新たな侵入者がやってくることはもう無いだろう。
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ギディ:「ふぅ、久しぶりに外にでたな」
 
リリ:「アンタは寝てたからいいでしょ、私なんて一ヶ月閉じ込められてたのよ」
 
ギディとリリはこんな調子で軽く会話をしながら城から離れるように歩いていた。
しばらく歩いて、もうだいぶ城も遠くなったあたりでリリが言う。
 
リリ:「じゃ、私行くわ」
 
そういってダイナブレードをスマホアプリから出した。
 
ギディ:「あれ? このまま一緒に魔王を探すんじゃないの?」
 
リリ:「バーカ、あれは飽くまで一時的な共闘でしょ? それに……」
 
リリはギディの事を指差して言う。
 
リリ:「使えない〝道具〟は、使わないってのが最良の選択なのよ」
 
ギディはこの短い期間で常にリリの予想を超える行動をしていた。
そんな彼を〝道具〟として使うのは無茶があるとリリは判断したのだ。
〝道具〟に成りえないならば、リリがギディと共に行動する必要は無い。
リリは〝道具〟の扱いにおいては天才的だが、〝道具〟に成りえないものは扱えないのだ。
故に、この場合のギディは〝使わない〟というのがリリの最終的な結論だ。
 
リリ:「とは言え、まぁ、アンタのお陰で私はパンツ脱がなくてすんだわけだし……」
 
リリはそう言いながらギディに歩み寄り、ピョンとジャンプをしてギディの首にしがみついた。
身長150センチ程のリリが、身長190センチ程のギディに、ソレをするにはこうするしかなかったのだ。
 
リリ:「お礼よ、とっときなさい♪」
 
リリはギディの頬にキスをした。
そして、ギディがリアクションをとる隙も無く、ダイナブレードの背に乗って飛び立った。
 
リリ:「じゃあねー。また魔王のところで会いましょー!」
 
彼女なりに本当にお礼のつもりだったのだろう。
リリは自分で自分が可愛いことを知っているので、キスでもお礼になりえると思ったのだろう。
しかし、ギディは
 
ギディ:「う、今ので首の骨折したところに痛みが……」
 
なんかダメージ受けちゃってた。 
しかし、まぁなんとかなるだろうと気を取り直して歩みを進める。
 
   
 
かくして、魔王の情報を求めてイニストラードにやってきた2人はまったく情報を得られなかったのだった。
 
2人の主人公――――
 
〝闘う〟男ギディオン=レヴェイン――――
 
〝盗む〟女リリアナ=ナラー――――
 
 
旅路に就く――――
  
 
 
  
――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
その日の夜中――――
 
 
ソリン:「さてと、行きますか」
 
ソリンは自室に書置きを残して、窓から外に出た。
書置きには、これからのイニストラードの政治の事だとか、ティボルト王の死について隠蔽をしばらく続けろだとか、そして〝自分は魔王を倒しに旅に出る〟だとかが書いてあった。
そう、昼間は魔王を探すべきでないという、皆の意見に従ったかに見えたソリンだったが、実は思いっきり自分の意思を貫く気マンマンだったのだ。
今日は昼間兵士達に穴を塞ぐように指示したので、その分だけ他の場所の警備が手薄になっている。
無論、先日の事件があったので、以前よりは警備は強化されているはずだが、現状城の警備について物を言えるようになったソリンにはその穴がはっきりと分かっていた。
 
あっさりとソリンは新たに用意した城からでる隠し通路までたどり着く。
ゆっくりゆっくりと、足音を立てないように歩く。
 
もう少し……もう少しで城を出れる。
 
と、その時だった。
 
 
メダナイト:「どこへ行く気だ?」
   
 
ソリンの背後から聞き覚えのある暗黒騎士型メダロットの声が。
 
ソリン:「メ、メダナイト!? な、なんで?」
 
メダナイト:「昼間は妙に潔く引き下がっただろう? お前の性格ならもう少し食い下がるはずだと怪しんで付けていたのだ」
 
メダナイトは落ち着いた様子で、そう語りソリンをキッと睨む。
 
メダナイト:「で? どこへいく気だ?」
 
ソリンは一ヶ月前の夜の事を思い出す。
あの時もまたメダナイトによって、国からの脱出を阻まれた。
 
その原因は分かっている。
国を出ようとするソリンの〝心〟が弱かったのだ。
信念が無かった、と言い換えてもいい。
ただ、父親にわがままを言いたくていい加減な気持ちで国を出ようとしたのだ。
 
しかし、今回は違う。
 
ソリン:「魔王を討つ。討たなきゃならないんだ」
 
メダナイト:「また、そんな事を言っているのか……」
 
メダナイトは呆れたような顔でため息をつく。
そして、問答無用に連れ戻そうと、ソリンに歩み寄る。
 
ソリン:「今回は勝算がある……!」
 
そう言ってソリンはクリスタルをメダナイトに見せた。
 
メダナイト:「そのクリスタルはメダフォース増幅装置だろう? 元となるメダフォースがなくては何の力も持たない」
 
メダナイトはあっさり論破してくる。
そうなのだ。
クリスタルはメダフォースを生み出すメダロットの存在が無くては意味が無い。
かと言ってメダロットだけではクリスタルは扱えない。
人間とメダロットがセットになって初めて効果のある物なのだ。
 
ソリン:「メダナイト……、お前、今回の事件どう思った?」
 
メダナイトが足を止める。
ソリンの質問に真面目に答えようと思ったのではない。
ソリンの瞳の奥に、輝かしい光を見たからだ。
懐かしい、あのティボルト王とそっくりな輝きの瞳を見たのだ。
 
メダナイト:「……どう思っただと?」
 
ソリン:「俺は今まで魔王とか考えるのもめんどっちーし、適当に女捕まえて平穏な生活でもしとこうとか考えてた。
    でも今回の事件で思った。魔王はこの国にとって害となる。この国の未来の幸せを邪魔する存在だ」
 
メダナイト:「確かに……私も魔王を甘く見ていた。こちらから手を出さねば安全な存在だと高を括っていた。
     しかし、それは大間違いであったと痛感したし、魔王を何とかせねばと真剣に考えている」
 
ソリンはメダナイトと意見が合致した事を意外に思った。
この二十年間メダナイトと一緒にいたが、いつも意見は食い違って喧嘩ばかりしていた。
そのメダナイトと同じ意見にいたったというのは奇跡ではなかろうか?
 
ソリン:「だったら、俺の事を見逃して……」
 
メダナイト:「しかしだ。それが全てではないだろう?」
 
ソリン:「……え?」
 
メダナイト:「もう一つの目的……お前のお父上、ティボルト様の敵を討つ、と言っていないのではないか?」
 
ソリンは心臓の鼓動が早くなるのを感じた。ヤバイと思った。
たしかに半分くらいは愛国心による行動だが、もう半分はそれだ。
もっともらしい理由として愛国心ばかり話していたが、父親の敵とかいう私怨の話を混ぜると途端に自分の話に説得力がなくなると感じたのだ。
 
ソリン:「そ、それも、まぁ、あるんだが……その……」
 
どういえば、メダナイトは自分を逃がしてくれるだろうか。
必死にそれを考えた。
今回は本気で魔王を討つ。
皆、魔王を甘く見ている。
ソリンだけが魔王を警戒している。
ならば、ソリンが魔王を討たねばならないのだ。
 
 
メダナイト:「……私も連れて行け」
 
 
ソリン:「そこをなんとか……ってえぇ!!?」
 
メダナイトの口から出た言葉が信じられず、ソリンが思わず大きな声で驚いてしまう。
慌ててメダナイトがソリンの口を塞ぐ。
 
メダナイト:「馬鹿者、大きな声を出すな。気付かれるだろう」
 
ソリン:「だ、だって、メダナイトが……連れて行けなんていうから」
 
メダナイト:「そのクリスタル、メダロットがいないと力が発揮できないのだろう?」
 
メダナイトはしれっとそういうと城から出て行く。
 
メダナイト:「では、行くぞ」
 
ソリンはわけが分からなかった。
メダナイトはソリンを止めるどころか、一緒についてくると言った。
何かの罠だろうか?
一度裏切られているのでそういう疑念も働いてしまう。
 
しかし、よくよく考えてみれば、メダナイトだって父親が殺されたことに怒っているはずなのだ。
あれだけ忠誠を誓っていた父を殺されたのだから。
そう考えると、実はこの行動も説明のつく話なのかもしれない。
どちらにせよ、ソリンには選択肢が無い。
このままメダナイトの同行を拒否しては、メダナイトに何をされるか分かったものではない。
特にメダナイトはニンニンジャのお陰でメダロット三原則が外れている為、割とマジで危ない。
罠かもしれない、とは思いつつも一緒に旅に出るしかないのだ。
 
メダナイト:「ところで、こうして旅に出ることでお前は国を捨てた馬鹿王子として批難を浴びることになるが?」
 
ソリン:「あ、あぁ、まぁ昔から馬鹿王子って言われてるからな、今更誰も気にしないだろうな。 魔王の首でも持って帰れば黙るだろ、多分」
 
メダナイト:「うむ、その覚悟があるならば良い。行くぞ」
 
メダナイトの背中を追いながらソリンは思う。
本当にこの男と上手くやっていけるのだろうか?
思えば、ギディとリリはパートナーとの関係も上手くできていた。
 
ギディとハルカゼは、共に傷つき、共に戦う。まさしく友人といった感じだった。
リリとダイナブレードは、道具として使う者と使われる者に別れていた。はっきりとした主従関係があった。
彼らには、彼女らには、パートナーとの明確な絆があったのだ。
では、ソリンとメダナイトはどうなのか?
友人になれるのか?
無理だ。
主従関係は築けるのか?
無理だ。
いや、一応は次期国王とその従者なのだが、メダナイトの態度からして現状は主従関係を結ぶのは不可能に近い。
 
では、ソリンとメダナイトはどのような絆を結べばいいのか。
 
そんなものがあるのか。
 
ソリンとメダナイトに。

絆なんてものがあるのか。
 
 
ソリン:(……あった)
 
 
その時、一つだけソリンは見つけた。
自分がメダナイトと一緒に旅をする理由を見つけた。
 
ソリン:「メダナイト」
 
メダナイト:「なんだ?」
 
ソリンが声をかけると、メダナイトは仏頂面で振り返った。
特別機嫌が悪いわけではなくとも、メダナイトはソリンには基本仏頂面だ。

ソリンはあたりを見渡す。
いつもナンパしに行く大通り、昼間は愛想のいい商人でにぎわっているし、可愛い女が踊って投げ銭を集めたりしている。
向こうの店の女の子は気が強いが美人で優しい。
あっちの家の幼女はまだ7歳なのにしっかりしていて、おばあちゃんの世話をしている。
こっちの店のおっさんは体臭がくっさいが、ソリンが店にくると良い娘の情報を提供してくれる。
これが、イニストラードだ。ソリンの国だ。
 
  
ソリン:「お前は俺が嫌いだ。俺もお前の事を信用してない」
 
メダナイト:「…………」
 
ソリン:「でも、俺はこの国が好きだ。お前もこの国が好きだ。この国の為なら、俺もお前も命を懸けれる……これが」
 
 
 
 
「 こ の 国 が 、 俺 達 の 〝 絆 〟 だ … … … … 」
 
 
 
 
ソリンはメダナイトの目を真っ直ぐに見続けた。
そうして、メダナイトの反応を待った。
下らないと馬鹿にされるだろうか?
絆なんてごめんだと拒否されるだろうか?
 
メダナイトは、ソリンにさっとを背を向けた。
 
ソリン:(ダメだったか……)
 
落胆するソリン。
しかし、そこに「フッ」という小さな笑い声が聞こえてきた。
たしかにメダナイトの声で笑い声が聞こえた。
 
メダナイト:「つまり我らは同じ目的を共有する、同志というわけか……気に入った」
 
背を向けているので顔は見えないが、メダナイトは今笑っている。
ソリンには分かった。
二十年間一緒にいたパートナーなのだ。分かるに決まっている。
 
ソリン:「ハ……ハッハッハ! そうだぜ、俺たちゃ同志だ! これからよろしく頼むぜ?」
 
ソリンは嬉しくなり、メダナイトにあわせてかがんで肩を組む。
 
メダナイト:「な、なんだ急に……馴れ馴れしいぞ! 歩きにくい、離れろ!」
 
ソリン:「分かってるよ、俺もいつもでも男にベタベタさわってる趣味はねーからな。あーあー早く異国の美女を堪能したいぜ」
 
メダナイト:「ん? ちょっと待て、お前まさか、他国のレディをナンパする為に国を出たのはあるまいな!?」
 
ソリン:「そ、そんな、わ、わ、わけねーだろ! 愛国心だよ愛国心!」
 
メダナイト:「本当だな?」
 
ソリン:「本当だよ。九割本当だよ」
 
メダナイト:「残りの一割は何だ!?」
 
ソリン:「残りの一割も愛国心です!はい!」
 
メダナイト:「信用していいのか?」
 
ソリン:「うん」
 
メダナイト:「本当だな? 言っておくが私はメダロット三原則が解除されているからな? 嘘だと分かった時はひどいぞ?」
 
 
ソリン:「我が心と行動に一点の曇りなし…………! 全てが『正義』だ」
 
 
メダナイト:(全く信用できない……ッ!)
 
 
そんなこんなでソリンとメダナイトは国を出た。
魔王を討ち、国を救うため。
 
 
 
〝闘う〟男ギディオン=レヴェイン――――
 
〝盗む〟女リリアナ=ナラー――――
 
彼らに続く第三の主人公――――
 
国を愛し、父を愛し、そして世界中の美女を愛する――――
 
〝愛〟の男ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード――――

 
 
旅路に就く――――
  
 
 
 
 
 
第八話【愛】  おしまい 
 
 

【イニストラード編】 完

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.21 )
   
日時: 2014/02/18 00:36
名前:

第八.五話【インターミッション~イニストラード編~】
 
 
イニストラード編に登場したキャラクターの詳細をまとめました。
本編では語られていない細かい裏設定などもありますので、お暇でしたら是非。
 
 
 
●ギディオン=レヴェイン●  
【性】 ♂
【年齢】 23歳
【愛称】 ギディ
【身体的特徴】 
 ・身長195cm 
 ・体重105kg
 ・青いツンツンの髪の毛
 ・筋骨隆々の大男
 ・イメージ的にはジョジョの奇妙な冒険第一部のジョナサン=ジョースター
【好きなもの】 努力、友情、勝利
【嫌いなもの】 悪いやつ、敵味方問わず誰かの死
【趣味】 筋トレ
【特技】 力仕事全般、格闘技全般
【作者の妄想イメージボイス】 興津○幸さん
【備考】 親友クラシアを取り戻すために魔王を探す〝闘う〟男。
     [人間を攻撃できない]というメダロットの弱点を克服するために、
     自身があらゆる戦闘技術を習得した脅威のメダロッター。
     かつて、魔王に故郷〝シミディア村〟を滅ぼされているが、特に復讐心は無い。
     クリスタルについて、現状一番詳しい人物であるはずだが、本人の性格の問題でいい加減にしか覚えていない。
     青のクリスタルの所持者。自身にメダフォースを流し込んでの肉体強化を多用する。
     正義感にあふれ、誠実、真面目、であるが信じやすく騙されやすいのが玉に瑕。
 
 
■ハルカゼ■  
【性】 ♂
【モチーフ】 クワガタムシ(本作オリジナルメダロット)
【身体的特徴】 
 ・相手の体を一撃で真っ二つにする大きなハサミのような頭パーツ
 ・四本の足。多脚型である。
 ・全体的に水色。
【好きなもの】 友情、勝利
【嫌いなもの】 努力
【趣味】 ひなたぼっこ
【特技】 真っ二つに切断する事
【作者の妄想イメージボイス】 ○内順子さん
【備考】 ギディのパートナーメダロット。
     かつて、魔王に故郷〝シミディア村〟を滅ぼされた際、クラシアにギディを託された。
     その責任感からか、ギディが間違いを犯そうとすると、っていうかボケると、慌ててツッコむ。
     戦闘以外での活躍はあまりないが、実は天然であるギディにとって無くてはならない親友。
     必殺技は頭パーツのハサミで相手を一撃で機能停止させるギガント・ヘッド・シザース。
     この技はメダフォース全開状態で使うと、更に高威力なギガント・ハート・ヘッド・シザースになる。
 
 
■クラシア■
【性】 ♀
【モチーフ】 カブトムシ(本作オリジナルメダロット)
【身体的特徴】 
 ・飛行型
 ・全体的にオレンジ色。
【好きなもの】 ギディ、ハルカゼ、ギディの両親
【嫌いなもの】 不誠実な行動
【趣味】 読書
【特技】 幻覚を相手に見せること
【作者の妄想イメージボイス】 島○須美さん
【備考】 ギディの元・パートナーメダロット。
     かつて、魔王に故郷〝シミディア村〟を滅ぼされた際、[クリスタルの使い方を知る者]として拉致された。
     一撃必殺タイプのハルカゼとは対照的に、混乱行動によるサポートを得意とする。
     現在、消息不明。ギディとハルカゼは魔王と一緒にいると推測している。
    
 
●リリアナ=ナラー●
【性】 ♀
【年齢】 25歳
【愛称】 リリ
【身体的特徴】 
 ・身長155cm 
 ・体重(ヒ・ミ・ツ・♥)
 ・真っ赤な髪。肩に後髪がかかるかどうか位の長さ。
 ・B75-W58-H84cm のAカップ。
【好きなもの】 金、夢、便利な道具
【嫌いなもの】 巨乳の女、巨乳好きの男
【好きな男性のタイプ】 金髪ラスボス系吸血鬼男子。次点で金髪コロネ頭ギャングスターとか、金髪恐竜系エリート騎手もイケル。
【趣味】 オシャレ
【特技】 盗み、細い隙間に入る
【作者の妄想イメージボイス】 東山○央さん
【備考】 世界一の金持ちになるという『夢』の為、旅をしている〝盗む〟女。つまりは泥棒。
     魔王が持つと噂される究極の『秘宝』〝ビッグ・ズ・ロック〟を狙っており、そのために魔王を探している。
     幼少期に魔王の使いのものから赤のクリスタルを盗み取っている。
     物体にメダフォースを流して盾を作る描写が多いが、状況によって色んな応用技を持っている。
     〝道具〟を使う才能に長けており、道具を駆使して華奢な体で、非力である事をカバーしている。
     実は、孤児院の出身で、盗んで得た金のいくらかは、その孤児院に寄付している。
     基本的にそこそこ美人であるが、貧乳であることに対し、すさまじいコンプレックスを持っている。
 
 
■ダイナブレード■
【性】 ♂
【モチーフ】 怪鳥(本作オリジナルメダロット)
【身体的特徴】 
 ・飛行型
 ・翼の淵の辺りは白い
 ・全体的には赤い
【好きなもの】 平穏、リリの手入れ
【嫌いなもの】 1対1の戦闘
【趣味】 天体観測
【特技】 空を飛ぶこと。速さ、精密さにおいて誰にも負ける気がしない。
【作者の妄想イメージボイス】 大○明夫さん
【備考】 元々は孤児院の院長のメダロットだったが、リリが孤児院を出る際に盗まれて今に至る。
     リリ曰く、〝最高の手入れ〟を施した〝最高の道具〟。
     メダロットを〝道具〟と表現する事には是非が問われるかも知れないが、ダイナブレード本人に抵抗はない。
     むしろ良い手入れをしてくるリリの様な人間がマスターで幸せだと思っている。
     基本的にリリの指示を待つ事が多く、自分で考えて行動するのが苦手。
     しかし、的確な指示をした時の働きはまさしく〝最高の道具〟と呼ばれるに相応しいパフォーマンスを誇る。
 
 
   
●ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード●  

【性】 ♂
【年齢】 20歳
【愛称】 ソリン
【身体的特徴】 
 ・身長170cm 
 ・体重57kg
 ・肩まで掛かる金髪。毛先がクルリとカールしている。
 ・イメージ的にはジョジョの奇妙な冒険第七部のファニー=ヴァレンタインが若くなった感じ
【好きなもの】 女!、イニストラード王国、家族、いともたやすく行われるえげつない性的行為
【嫌いなもの】 汚い忍者、人の恋路を邪魔する者
【好きな女性のタイプ】義姉義妹義母義娘双子未亡人先輩後輩同級生女教師幼なじみお嬢様金髪黒髪茶髪銀髪
           ロングヘアセミロングショートヘアボブ縦ロールストレートツインテールポニーテール
           お下げ三つ編み二つ縛りウェーブくせっ毛アホ毛セーラーブレザー体操服柔道着弓道着
           保母さん看護婦さんメイドさん婦警さん巫女さんシスターさん軍人さん秘書さん
           ツンデレチアガールスチュワーデスウェイトレス白ゴス黒ゴスチャイナドレス病弱アルビノ
           電波系妄想癖二重人格女王様お姫様ニーソックスガーターベルト男装の麗人メガネ目隠し眼帯包帯
           スクール水着ワンピース水着ビキニ水着スリングショット水着バカ水着人外幽霊獣耳娘
           まであらゆる女性を迎え入れる。
           でも巨乳好き。貧乳も嫌いじゃないけど巨乳がいいよね。
【趣味】 ナンパ
【特技】 エロい妄想
【作者の妄想イメージボイス】 遊○浩二さん
【備考】 イニストラード王国の王子。不真面目で、勉学も武道もからっきしダメ。
     城下町でナンパをするのが日課で、馬鹿王子と蔑まされているが国を想う気持ちは強い〝愛〟の男。
     初登場時は身勝手でいい加減なチャラ男という印象であったが、一連の事件で〝心〟が大きく成長。
     ニンニンジャから奪い取った黄色のクリスタルを使うほどに、強い「愛国心」に目覚める。
     イニストラード王族は代々女好きであり、その例に漏れる事無く彼の大の女好き。
     ナンパの成功率は(国内では)高い。ルックスもイケメンだ。
     ニンニンジャによる国王乗っ取り事件に危機感を抱き、メダナイトと共に魔王を討つことを目標に旅に出る。
 
 
■メダナイト■
【性】 ♂
【モチーフ】 暗黒騎士(本作オリジナルメダロット)
【身体的特徴】 
 ・紫色のマント
 ・腰のあたりにある鞘にしまってある剣。グラットニーソード(FF11のグラットンソードっぽい)。
 ・全体的に黒い
【好きなもの】 レディ、イニストラード王国、ティボルト国王
【嫌いなもの】 レディに失礼な態度をとる者(ソリン含む)、イニストラード王国の幸福を邪魔する者
【趣味】 鍛錬
【特技】 メダロット三原則が解除されているので人間を攻撃できる(本作においては珍しいメダロット)。
【作者の妄想イメージボイス】 銀河○丈さん
【備考】 元・ティボルト国王のパートナー。現・ソリンのパートナー。
     ソリンが生まれた時にティボルト王からソリンのパートナーになるよう言い渡される。
     イニストラード王国、および国王ティボルトの絶対の忠誠を誓った騎士。
     国への忠誠故に、王子としての自覚が足りないソリンには、パートナーでありながら軽蔑している。
     ティボルト王の死を誰よりも怒っており、ソリンを認めたわけではないが、
     魔王討伐という同じ目的を持つ同志として行動を共にしている。
     極端なフェミニストであり、レディを守ることは騎士の宿命である信じて疑わない。
     そんな彼にティボルト王のできちゃった婚についてどう思っているか聞くと、いつも口を閉ざしてしまう。
 
 
●ティボルト=ジュラ=マルコフ=イニストラード●  

【性】 ♂
【年齢】 45歳(死亡時) もし生きていたら49歳
【愛称】 ティボルト国王
【身体的特徴】 
 ・身長173cm 
 ・体重65kg
 ・肩まで掛かるかどうか位の長さの金髪。毛先がクルリとカールしている。
 ・深く刻まれた眉間の皺
【好きなもの】 女!、イニストラード王国、ソリン
【嫌いなもの】 国の敵、暴君
【好きな女性のタイプ】 メイド
【趣味】 メイド観察
【特技】 どんなにエロい事を考えても表情に出ない
【作者の妄想イメージボイス】 大○周夫 さん
【備考】 イニストラード王国の国王。ソリンの父親。
     常に眉間に皺を寄せており厳格な人物であるという印象をもたれている。
     実のところ、彼もまたイニストラード200年の歴史〝女好き王族〟であり、
     かつては惚れたメイドとできちゃった婚をしている。
     その出来ちゃった婚の結果できた子供がソリンである。この事実をソリンは長いこと知らなかった。
     ちなみに、ソリンが3歳の時に妻とは死別している。
     息子に対して厳しく接していたが、その愛情はとても深い。
     ソリンのとの〝好きな女性と結婚させる〟という約束を守る為、ニンニンジャに殺された。
     
 
■ニンニンジャ■
【性】 ♂
【モチーフ】 忍者(メダロット1 PE 2 R カード OCG 4 弐CORE BRAVE DS 7 より)
【身体的特徴】 →hを入れてください。ttps://www.google.co.jp/search?q=%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%83%8B%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3&oe=utf-8&aq=t&rls=org.mozilla:ja:official&hl=ja&client=firefox-a&um=1&ie=UTF-8&tbm=isch&source=og&sa=N&tab=wi&ei=Rg0CU_jsN4S6kgWZ3IHYBw
【好きなもの】 〝あのお方〟、野望、ちくわ
【嫌いなもの】 無能な管理者達
【趣味】 〝あのお方〟に支配される妄想
【特技】 変装
【作者の妄想イメージボイス】 マン○ラフ氏(MUGEN動画とかで汚い忍者の声やってる人)
【備考】 数年に亘りイニストラードの国王に成り代わっていたメダロット。今回の事件の首謀者。
     もともとはある場所で奴隷としてつまらない仕事をしていたが、脱獄しっぱいの際に〝あのお方〟に実力を認められる。
     以来、〝あのお方〟の右腕になる〝野望〟を抱いている。非常に昇進欲が強いメダロット。
     メダロットがクリスタルを使えば、最大効率でメダフォースを増幅できると考えたが、
     クリスタルとメダロットの相性の悪さを知らず暴走。
     暴走解除後に残った膨大なメダフォースで身体を強化し暴れまわるが、
     ライフポイント1のギディとハルカゼによって倒される。
     その後、〝あのお方〟に不利な情報を残さないように、自害した。
 
 

  
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.22 )
   
日時: 2014/02/19 21:34
名前:

第九話【双子の片瀬兄弟】
 
 
 イニストラードを出てから2週間。
ギディとハルカゼは魔王の手がかりを完全に無くし、困り果てていた。
 
ギディ:「うーん……」
 
ギディは唸る。
頭を抱えて唸る。
 
ハルカゼ:「…………」
 
ハルカゼはそのギディの姿をぽかーんとしてみていた。
 
ギディ:「ダメだ……やっぱりググっても出てこない」
 

2人は今ッ!ネカフェにいたッ!!
 
ギディはパソコンの前に良い検索ワードが無いか懸命に考えている。 
 
ギディ:「う~ん、Yah○○知恵袋で聞いてみるか? でもなぁ、魔王を探すのがご法度なんだから誰かに尋ねるのはなぁ……」
 
ハルカゼ:「…………」
 
ギディ:「おい! ハルカゼ、何ボーッとしてるんだよ、お前も真剣に考えてくれよ!」
 
ハルカゼ:「 お 前 が 真 剣 に 考 え ろ ォ ! ! ! ! 」
 
ハルカゼはキレた。
直後、店員さんがやってきて「他のお客様のご迷惑になるのでお静かにお願いします」と注意された。
「すいませんでした」と、ハルカゼは謝罪した。
「すいません、うちのメダロットが」と、ギディも謝罪した。
ハルカゼはそのギディの言い方になんかムカついたが、話が進まないので言及はしなかった。
 
ハルカゼ:「で、何してんだよ?」
 
ギディ:「調べものをするならグー○ルが一番だってテレビでやってたから検索してるんだよ。
     でもな、〝魔王〟で探しても、なんかドラマのタイトルとかシューベルトとかしか出ないんだよ」
 
ハルカゼ:「そういう規模の話じゃないって事にいい加減気付いてくれないかなーこの人はさー」
 
ギディ:「そういう規模って何を言ってるんだ! インターネットは世界規模の話なんだぞ! いい加減にしろ!」
 
ハルカゼ:「 お 前 が い い 加 減 に し ろ ォ ォ ォ ォ ! ! ! 」
 
 
「 い い 加 減 に す る の は お 客 様 の 方 で す ッ ! 」
 
 
ギディとハルカゼは店から放り出された。
 
 
ギディ:「ごめんな、ハルカゼ。つい大きな声を出しちゃった。せっかく魔王の情報を知るチャンスだったかも知れないのに」
 
ハルカゼ:「大丈夫。あんまり期待してなかった」
 
ハルカゼは思った。
こいつを一人にしなくて本当に良かった。
もし、この脳筋馬鹿を一人にしていたら永久にクラシアは戻ってこないだろう。 
それにしても、実際、魔王に対する手がかりが何一つ無いと言うのは困った事態だ。
何か解決策を見つけなくてはならない。
 
実はハルカゼには一度行ってみるべきだと思っている場所があった。
ギディの性格上そういう場所は好まないだろう、と遠慮していたのだが、そう言ってられる状況ではない。
ハルカゼはギディに提案する。
 
  
ハルカゼ:「なぁ……ギディ、やっぱりこういうのは〝裏〟の人間ってヤツの情報が必要なんじゃないか?」
 
 
そして、ギディとハルカゼはやって来た。
ここは通称〝暗黒街〟!ならず者の集まる場所だ。
通常の法が適用されない、ギャングとかヤクザとか、まぁ何かと堅気の人間じゃないヤツばかりがいる!
 
ギディ:「う、う~ん。これが犯罪者の街か……」
 
ハルカゼ:「ビビるなビビるな、下手なギャングよりお前の方がよっぽど強いから、多分」
 
魔王を探すことはご法度。
これは飽くまで〝表〟の法だ。
〝裏〟ならばそういうヤバイものに対する情報はたくさん集まってくるに違いない。
そう思って、街で一番にぎわってそうな酒場をギディとハルカゼは訪れた。
そして、訪れるや否やギディは行動に出る。
 
 
ギディ:「 す い ま せ ん ! 魔 王 を 探 し て い ま す ! 誰 か 情 報 知 り ま せ ん か ! ? 」
 
 
ハルカゼ:(もう少しだけビビって欲しかった!!)
 
 
この愚直さが良くも悪くもギディオン=レヴェインの特徴である。
そして、これが悪いように働きそうな時は、相棒ハルカゼのフォローによって事なきを得る。
と言うのがこのコンビのいつもの調子なのだが、今回ばかりはハルカゼもどうしてやればいいのか分からない。
 
酒場で楽しげに酒を飲んでいた犯罪者(だとギディとハルカゼが勝手に思ってる)たちがこちらに目を向ける。
その目はどれも猛獣のように鋭く、今にもギディに襲い掛かってきそうな目だった……とハルカゼは勝手に思った。
 
しかし、次の瞬間、彼らは気まずそうにギディから視線をそらした。
まさか聞こえなかったか?と思ったギディが再び同じセリフを言うが、反応は同じ。
どうしたのだろうとギディが首をかしげていると、それを見かねた1人が言う。
 
「魔王を探そうなんていう馬鹿はここにもいねーよ」
 
そう、それが残酷な真実。
魔王が存在することで、もっとも被害を被るであろう彼らですら魔王を追おうとは考えていないのだ。
彼らが言うには、昔は多くの者が魔王を討伐しようと情報を交換していたが、全て抹殺されたとの事。
以来、魔王に逆らう者は誰もいなくなってしまったのだ。
 
ギディとハルカゼはガックリと肩を落とした。
結局また魔王の手がかりは得られなかった。
しかし、
 
 
「でも〝死神〟を探そうってやつならいるぜ?」
 
 
先ほどの1人がそういった。
 
ギディ:「しにがみ?」
 
ハルカゼ:「なにそれ?」
 
ギディとハルカゼが首を傾げると、彼は驚いた。
 
「な、なんだって? お兄ちゃん達〝死神〟もしらねえのか?」
 
ギディ:「あ、すいません。俺たち田舎出身なもので、世間の常識には結構疎くって……」
 
彼はハァとため息をつくと〝死神〟について教えてくれた。
なんやかんやで良い人である。
最初猛獣とか表現した事について謝罪をしなくてはならないかもしれない。
スキンヘッドで髭面だが、人は見かけによらないものである。
 
 
スキンヘッドで髭面の良い人はこう言った――――――――――――――――――――――――――――
 
魔王の支配の始まったばかりの頃は魔王の裁きから逃れようと警備を固める者が多くいた。
その時有効だったものが「対メダロット用の兵器」である。
メダロットの体が金属であることを利用した磁力装置だとか、
メダルとティンペットとの運動の関連を阻害する電波を出すものだとか、
そういったものがよく売られている時期があった。
 
魔王の基本的な裁きの手段はメダロットによるものだったので、それでおおよそ対策できていたのだ。
しかし、魔王はその対抗策の更に上をいった。
 
史上最強最悪の殺人鬼〝死神〟の登場である。
 
〝死神〟は魔王によって育てられた『人間』である。
どうようにして魔王が〝死神〟を育てたのかは謎であるが、とにかく〝死神〟は人を殺す為だけに育てられた生物兵器であった。
 
人間でありながら、メダロットより頑丈で。
人間でありながら、メダロットより速く。
人間でありながら、メダロットよりも力が強い。
 
そんな〝死神〟によって、対メダロット兵器に頼り切っていた者達は漏れなくその命を刈り取られた。
 
この辺の発想は実はギディに近いものがある。
メダロットで戦えない相手には、人間が戦えば良いという発想が似ているのだ。
まぁ、これはあまり関係無いが。
 
とにかく〝死神〟は魔王の命ずるがままに、ありとあらゆる犯罪者。
そして、魔王に反抗的な者を次々に殺していった。
そうした〝死神〟の活躍により、魔王は今の圧倒的な支配力を手にしたのだ。
この頃になって、『人間』でありながら『人外』であるとしか思えない殺人能力を持った彼を〝死神〟と人々は呼ぶようになったのだ。
 
  
その史上最強最悪の殺人鬼〝死神〟だが。
 
 
およそ、7年ほど前からばったり噂を聞かなくなった。
純粋に魔王に逆らうものが減ったからだと言う噂もあった。
しかし、もっとも有力だった噂は〝死神〟死亡説であった。
いくら死神といえど、全ての死線を潜り抜けられるはずが無い、という人々の結論だった。
 
 
ところが、それから7年後の現在。
 
〝死神〟復活の噂が持ち上がっている。
なにやら、人間でありながらとても人間とは思えない運動能力を持った者の目撃情報があがったのだ。
〝死神〟の顔を知るものは誰もいない。
それを知るものはすでに、〝死神〟に始末されてしまっている。
しかし、この目撃情報、調べてみると似たような目撃情報が過去7年にも数件確認されていた。
ここで〝死神〟の復活説はグッと説得力を持つようになったのだ。
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
〝死神〟は魔王の直属の殺人鬼。
〝死神〟を探すことは魔王に繋がる情報を探すことと同義。
ならば〝死神〟を探してみてはどうか?
それがスキンヘッドで髭面の良い人の話だった。
 
ちなみに普通の感性の人間は、数々の恐ろしい伝説を持つ死神を追おうとは思わない。
大体捕まえたところで何の特にもならない。
魔王が支配する世界で、魔王の家来を捕まえて罪を問うことができるはずがない。
 
そこまで懇切丁寧に説明してくれたところで、スキンヘッドで髭面の良い人は言う。
 
「でも、興味本位で〝死神〟を探そうっていう変人どもがいる……それが『双子の片瀬兄弟』だ」
 
ギディ:「双子の?」
 
ハルカゼ:「片瀬兄弟?」
 
再び首をひねるギディ&ハルカゼ。
スキンヘッドで髭面の良い人は「まぁ、それは知らないだろうな」といい教えてくれた――――――――――――――――――――――――――――
  
『双子の片瀬兄弟』は裏の世界ではそこそこ有名な二人組らしい。
東の果ての島国出身の男2人組で。
兄の名を片瀬 流慕。
弟の名を片瀬 米斗といい、その名の通り双子の兄弟らしい。
 
賞金稼ぎ、情報屋など幅広い裏の仕事に精通しており、かつては大国でスパイをしていたという噂もある。
 
 
――――――――――――――――――――――――――――
 
 
「その『双子の片瀬兄弟』のうちの一人、米斗があそこで酒を飲んでるぜ」
 
スキンヘッドで髭面の良い人が指を刺す。
ギディとハルカゼがお礼を言うと、スキンヘッドで髭面の良い人は「いいって事よ」とニヒルに笑ってグラスを口につけた。
 
 
 
ギディ:「あの、『双子の片瀬兄弟』の片瀬米斗さんですか?」
 
 
ギディは一人で酒を飲んでいる男に話しかけた。
 
身長は170~180センチほど。
ソリンよりも色が濃い目の金髪で、男にしては長髪だ。
長い前髪で、顔の左半分が隠れている。
さらに、半月形のサングラスをしていた。
 
「……そうだ。俺が片瀬米斗(かたせ べいと)だ」
 
片瀬米斗は、低く、深い声で、冷静に、ギディに顔も向けずに答えた。
 
ギディ:「〝死神〟を探しているってのは本当ですか?」
 
米斗:「あぁ、そうだが何か問題あるか?」
 
米斗は相変わらず、まったくギディに興味がないといった風に酒を口に含んだ。
おそらく、〝死神〟を探すことに対する警告をする連中はたくさんいたのだろう。
馬鹿な事はやめろとか。
そんな事して何の特が?とか。
そういう事を言う連中にまた絡まれたと思ったのだろう。
 
しかし、今日話しかけてきたこの男、ギディオン=レヴェインは違う。
 
ギディ:「お願いします! 俺も一緒に連れて行ってください!!」
 
米斗:「……!?」
 
米斗が初めてギディの顔を見た。
サングラスで目の様子は良く見えないが、どうやら驚いているらしかった。
2,3秒そのまま固まった後、米斗は静かに言う。
 
米斗:「……面白いやつだな」
 
面白い、というからには、ギディは好印象だったらしい。多分。
 
米斗:「しかし俺たちの行動を決めるのは、大方『兄』の方だ。『兄』と相談しないことには決めがたい」
 
ギディ:「お兄さんは今どこにいるんですか?」
 
『双子の片瀬兄弟』なんて名前で活動しているくらいなので、2人いつも一緒なのかと思ったが違うらしい。
米斗曰く、仕事時以外はお互い自由にしているようだ。
自由にしているので、兄に会うには時間がかかると思いきや……。
 
米斗:「兄の居場所は大体把握している」
 
米斗は余った酒を一気に飲み干すと、机の上に酒代を多めに置いて立ち上がる。
 
米斗:「どうせ、また女遊びの真っ最中だ」
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――
 
 
薄暗い部屋、赤青黄色その他諸々の色の照明がチラつく中、女達は舞い踊る。
女だらけのその空間に一人だけ男がいた。
 
身長は170~180センチほど。
ギディよりも濃い色の青髪で、男にしては長髪だ。
長い前髪で、顔の右半分が隠れている。
左半分も隠れそうだったが、ワックスで固めて触角のようにして立てている。
さらに、半月形のサングラスを額にしていた。

彼は両脇に女を従え、座りながらその姿を眺める。悪くない。
右手で横の女の肩を抱き、左手にグラスを持ち酒を口に含む。
酒が切れそうになると、絶妙のタイミングで近くの女が注ぎにやってくる……。
 
彼、片瀬流慕は最高の気分であった。
 
ここにいる女達は、客である彼を喜ばせるために完璧に仕事をこなす…まさしくプロフェッショナルの仕事。
プロフェッショナルは素晴らしい。
プライベートの世界と仕事の世界にメリハリをつけ、どちらの世界でも完璧な自分であり続ける。
 
それこそが片瀬流慕の理想とする生き方であった。
その理想を体現するこの空間に彼は敬意を払っていた。
 
流慕:「さて、お前らチップだ。とっときな」
 
プロフェッショナルは素晴らしい仕事をした分だけ報酬をもらうべきだ。
彼は常々こう思っていた。
 
その時、彼の耳に雑音が響く。
 
『あぁ!? どういうわけだぁ!? なんで金なら払うつってんだろーがよー!?』
 
店の入り口でなにやら柄の悪い男が叫んでいる。
今日、この店は片瀬流慕の貸切になっている。
よって、入店を拒否されたのだが、それが気に入らなかったらしい。
 
流慕は、酒を机に置き、女から手を離し、店の入り口に行く。
 
流慕:「さて、悪いなおっさん。今日、この店は俺の貸切なんだ」
 
そう言って、流慕は穏便に話をつけようとしたが、男は止まらない。
 
『しらねーよ、俺は今、ここで、酒を飲むと決めたんだ! さっさと用意をしろ女共!』
 
しかし、女達は決して動かない。
今日、彼女たちは流慕から金を受け取って、店の貸切を約束したのだ。
それを今更変更する事はできない。
 
流慕:「さて、嫌って感じの顔してるぜ? 大人しく帰ったらどうだい?」
 
『うっせー! 何だこの店は客が来たってのによー! ゴミだな、こんな店』
 
 
流慕:「さて!」
 
 
と、ここで流慕が大きな声で男の言葉をさえぎる。
そして、懐から札束をだして、店の主人に渡す。
  
 
流慕:「さて、悪いなママ。……ドアの修理代だ」
 
 
と、直後、片瀬流慕は男を腹部を蹴り飛ばす。
男は真っ直ぐに店の入り口のドアを突き破って外まで吹き飛んだ。
 
流慕:「さて、この店の女はプロフェッショナルだ」
 
流慕はタバコを口にくわえ、火をつけながら店から出てきた。
 
流慕:「そのプロフェッショナルの完璧な仕事をテメーは邪魔した」
 
そして、腹部を押さえて苦しむ男にゆっくりと近づく。
 
流慕:「さて、故にこの俺、プロフェッショナルの味方、片瀬 流慕(かたせ るぼ)は、お前を許さねえ……」
 
ジュッ……。
男の右瞼の上でそんな音がした。
流慕が火のついたタバコを男の瞼に押し付けたのだ。
 
『ギャアアアアーー!!!!』
 
男は叫ぶ。
しかし、流慕は容赦しない。
そのまま胸倉を掴んで立たせて、更に顔面に数発拳を叩き込む。
 
 
と、その時だった。
 
米斗:「流慕、どうした?」
 
聞きなれた声が流慕の耳に入った。
弟の米斗だ。
 
流慕:「お、米斗か。どうした? お前もここの女の良さを堪能しに来たのか?」
 
米斗:「お前と同じにするな」
 
と、流慕がやりとりをしているうちに、流慕にボコボコにされた男は尻尾を巻いて逃げ出した。
 
『ヒィィィーー!!!!』
 
流慕:「あ、逃げられた。まぁいいか」
 
と流慕がのんきに逃げる男の後姿を眺めていると。
 
 
ギディ:「あんたが、片瀬流慕さんですね!!」
 
 
急に身長195センチ巨漢が、大きな声で自分の名前を呼んだ。
何事だろうと思って、見ると男は、頭を下げて流慕に懇願する。
 
ギディ:「俺の名前はギディオン=レヴェインです!! 〝死神〟探しに一緒に連れて行ってください!」
 
流慕は困惑した。
〝死神〟探しに一緒に連れて行ってほしいなんて馬鹿に出会ったのは初めてだった。
流慕自身、なんとなく興味本位で、趣味で、〝死神〟を追っているが、目の前のギディにはそうではない、何か凄まじい理由があるように感じられた。
米斗の方を見ると、「な? こいつ面白いだろ?」とでも言いたげな顔だ。
 
流慕:「さて、ギディオン=レヴェインっつーのか……」
 
流慕は落ち着いて新しいタバコに火をつける。
そして、煙を吸い込んで、吐き出す。
その間、ギディは頭を下げたままだった。
 
次の言葉で、自分が〝死神〟探しについていけるのかどうかが決定するのだと思って流慕の声を待った。
 
 
流慕:「さて、なんつーか…… す っ げ ぇ 覚 え ず れ ー 名 前 だ な 」


ギディは一生この男とは仲良くなれない気がした。
 
 
 
 

第九話【双子の片瀬兄弟】  おしまい  
 
 
 
 
 
☆☆キャラクター紹介☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
 
【片瀬 米斗 (かたせ べいと)】
[性別]男
[年齢]28歳
[備考]賞金稼ぎ、情報屋など幅広い裏の仕事に精通している東の果ての島国出身の男。
   『双子の片瀬兄弟』の弟の方。人間である。 人 間 で あ る 。 
   寡黙で、長く話すのは得意ではない。
   兄の流慕の自由気ままな態度をフォローするのが日課。
 
 
【片瀬 流慕 (かたせ るぼ)】
[性別]男
[年齢]28歳
[備考]賞金稼ぎ、情報屋など幅広い裏の仕事に精通している東の果ての島国出身の男。
   『双子の片瀬兄弟』の兄の方。人間である。
   弟の米斗と違い、口が達者。プロフェッショナルな仕事をする者を好む。
   非常に自由気ままに、やりたい放題な生活態度で、弟の米斗はしょっちゅう困らされている。
   しつこいが人間である。
   もしも、読者が彼に似たメダロットを知っていたとしても、彼はそのメダロットとはなんら関係ない。別の存在である。
   
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.23 )
   
日時: 2014/04/06 00:24
名前:

第十話【片瀬流慕は楽しく暮らしたい】
 
 
 
  
流慕:「さて、俺が言うのもなんだが……お前変なヤツだな」
 
米斗は流慕を呼びに来た理由を説明した。
すると、流慕は面倒くさそうにため息をついた後、移動を提案。
店の前で死神の話をするなんて迷惑にもほどがある、との事だった。
扉を突き破るほどの喧嘩をしている時点ですでに大迷惑だと思われるのだが……それについては誰も言及しなかった。
 
流慕は店主の女性に、腕のいい修理屋(流慕曰くプロフェッショナルと呼ばれる人間の連絡先はどんな職種であろうと手元に置いておくらしい)の連絡先を渡す。
そして、人気の無い裏路地に入り、ギディが何故死神を追うのかを一通り聞いた。
 
ギディ:「変……ですか?」
 
流慕:「さて、このご時勢に死神どころか魔王探すなんざ正気じゃねえだろ
    それから、敬語はやめろ。俺はテメーの上司になった覚えはねえ」
 
ギディ:「……そうだとしても友達の為だからな、俺は諦めない」
 
ギディは流慕を真っ直ぐみすえて胸を張って言う。
その瞳はキラキラと輝き、流慕の顔を映し出す。
対照的に流慕は黒く淀んだ瞳でギディを見据えていた。
 
流慕:「さて、変を通り越して面白い、だなお前は。なんていうの? いかにも主人公(ヒーロー)って感じの珍しいヤツだ」
 
ギディ:「面白い、かぁ……」
 
米斗も同じことを言っていた。
やはり双子。性格は違えど言動も似てくる。
ちなみにその米斗は、流慕の後ろで静に直立していた。
こういった会話は苦手との事だ。
 
面白いというからには好印象なのだろう。
ギディはそう思って改めて流慕にお願いをする。
 
ギディ:「とにかく、そういうわけで俺も死神探しを手伝わせて欲しいんだ」
 
 
流慕:「さて、断る」
 
 
流慕はギディを見下すような(実際にはギディの方が身長が高いので見上げているのだが)冷たい目で言い放つ。
 
ギディ:「え?」
 
ギディは驚く。
なんというか、会話の雰囲気から察するにOKだと思っていたのだ。
そういう雰囲気が流慕からも米斗からも感じられたはずだった。
 
流慕:「え? じゃねえよ。お前が俺たちに同行したところで、俺たちにメリットがねえだろが。
    見たところ、お前は裏の事情には全く詳しくねえって感じだ。
    そりゃそうだわな、裏の世界で汚れたヤツが主人公(ヒーロー)オーラ出してるわけがねえ
    さて、そういうのは……影の主役(ダークヒーロー)って呼ぶんだろうな……俺たちみたいなヤツらの事さ」
 
ギディ:「たしかに裏の事情には詳しくないけど……でも、俺、闘いは得意だ!」
 
ギディは、脳筋天然青年ギディオン=レヴェイン最大の長所を主張した。
数々の伝説を作り上げた最強最悪の殺人鬼死神を探すにあたって、ギディの戦闘力はたしかに役に立ちそうではある。
 
流慕:「さて、闘いつってもなぁ。 この世界で何年もやってる以上俺たちだって出来ない訳じゃないんだぜ?」
 
ギディ:「あんた達よりも俺の方が絶対に強い!」
 
ギディは必死で反論する。
正直なところ、実際のところどうなのかは分からない。
単純に体格から見ればギディの方が強そうには見えるが、流慕と米斗の裏での経験がどれほどの物か想像がつかない。
しかし、ここで引くわけには行かない、と半ばやけくそ気味にギディは反論していた。
 
流慕はギディの反論を聞くと静かに笑みを浮かべた。
ニコッというよりは、ギロッという擬音が相応しい感じ。
光が差すというよりは、闇に染まるといった感じ。
そんな、影の主役(ダークヒーロー)どころか、いかにも悪党といった笑みを浮かべて流慕は言う。
 
流慕:「さて、言うねえ? ……試してみるかい?」
 
流慕は指の関節をポキポキと鳴らしながらギディを睨む。
口角は相変わらず笑ったままだが、目が笑っていない。
 
ギディは流慕から殺気のようなものを感じて、思わず後ずさりしながら拳を構える。
 
ギディ:「そ、それで死神探しに同行させてもらえるなら……」
 
流慕:「さて、決まりだ!」
 
流慕はきていた上着を放り投げる。
それを米斗が音も立てずに移動してキャッチする。
 
流慕:「さて、とはいえ俺は疲れるのも痛いのも嫌いなんだ。サッサと、楽に済ませたい。そこでこういうのはどうだ?」
 
流慕は人差し指をピンと立てて言う。
 
流慕:「どちらが先に相手に拳をたたき込むかの勝負だ・・・」
 
それが流慕の提案。
勝利条件は先に相手の体に一発攻撃を加えること。
敗北条件は自分の体に相手から攻撃を加えられること。
カッコつけて〝拳をたたき込むか〟とか言っているがキックでも頭突きでも何でも良い。
 
ギディ:「……分かった。それでいい」
 
ハルカゼ:「おい、ギディいいのかよ!」
 
その時メダロッチからハルカゼの声が。
なにやら大きな声を出して、慌てている様子。
 
流慕:「さて?」
 
流慕と米斗が顔をしかめた。
ギディはそういえばなんだかんだでハルカゼを紹介し損ねていたことに気が付いた。
米斗に会った時も、流慕に会った時もハルカゼはメダロッチの中だったのだ。
 
ギディはすぐにメダロッチからハルカゼを出してやる。
 
ギディ:「俺のパートナー、ハルカゼだ」
 
流慕:「さて、メダロットってヤツか……」
 
ギディ:「ん? そうだけどどうした?」
 
流慕:「いや、人間に攻撃できないっつー生まれながらにして奴隷になる為にいるような可哀相なヤツだなーと思ってよ」
 
とはいいながらも流慕には哀れみの感情は感じられず、むしろ蔑んでいるようにすら見える。
 
ハルカゼ:「うるせーよー! 俺は生まれてこの方自分を可哀相だと思った事なんてねえし!」
 
流慕:「さて、そいつは良かったな。俺なら生まれ変わってもメダロットにだけは絶対なりたくないけどな」
 
ハルカゼ:「そんな事はどうでもいいんだ!」
 
ハルカゼはギディの方に振り向いて言う。
 
ハルカゼ:「ギディ! この勝負明らかにギディの方が不利だろ! お前の戦法に全然あってねえ!」
 
ハルカゼの言うとおり、ギディの戦い方にこの勝負は適していない。
ギディはその持ち前の頑丈さで、ダメージを受けても攻撃をし続けて勝つようなタイプだ。
『ライフポイントは1だけあればそれで良い! それで勝てるッ!!』という言葉に象徴されるように
どれだけ攻撃を受けても決して戦うことをやめない〝体〟と〝心〟の強さこそがギディの強さなのだ。
 
それに対してこの勝負は少しでもダメージを受ければ、その時点で強制的に試合終了なので、ギディの戦法に合っていないのだ。
 
ギディ:「分かってるさ、ハルカゼ」
 
ハルカゼ:「じゃあ……」
 
ギディ:「でも、これは俺が片瀬兄弟に認めてもらう為の戦いなんだ。向こうの出した条件で勝たなくちゃ意味が無い」
  
ギディは胸を張って言いのけた。
何一つ迷い無く。
当然の事のように言う。
綺麗に澄んだ瞳で、少しだけ笑みを浮かべながら。 
 
ハルカゼ:「はぁ……分かったよ。好きにしてくれ」
 
こうなったギディはもう梃でも動かないとハルカゼは知っていたので、諦めて米斗の横まで下がった。
 
流慕:「ヒューカッコイイー流石は主人公(ヒーロー)だぜーあっこがれるー」
 
極めてつまらなさそうに流慕はギディに声をかける。
どう聞いても憧れているようには聞こえない。むしろ馬鹿にしている様子だ。
その後ろで、ハルカゼが「イラッ」としていたが、米斗が「スマン、ああいう性格なんだ」とフォローしていた。
 

流慕:「さて、始めようか……『ライフポイントは1でも減ればそれで終わり、それで負ける』だぜ」 


流慕はようやく、拳を構えファイティングポーズをとりながら、コインを空たかく放り投げた。
言葉にはせずとも、ギディには流慕の意思が伝わった。
このコインが地面についたその瞬間に、勝負を始めるのだ。
  
 

………チリンッ!
 
  
コインが落ちた!
瞬間、ギディが動いた。
 
ギディ:「うっしゃあああッ!」
 
右の拳を派手に振り上げ、流慕に真っ直ぐ向かっていく。
一発でも喰らえばそこで敗北のこのルール、普通ならば慎重になる。
絶対に攻撃を受けてしまわないように、よく注意をして相手の行動を見るだろう。
だが、ギディはそうは考えなかった。
相手に攻撃をさせなければ、そもそも相手の攻撃をかわしたり防御したりする必要がない。
つまり、こちらは一度として防御に回らず一方的に攻撃をし続けることが出来れば勝てるのだ。
そして、ギディにはそれを実行するだけの運動能力があり、この作戦を決行するだけの勇敢な心があった。
 
流慕:「うお!?」
 
流慕は意外そうに目を見開く。
突然の愚直ともいえる突進も意外ではあったが、それ以上にギディの〝速さ〟に驚いた。
ギディの体は大きく、重く、素早い動きをするには向いていないように感じる。
だがギディの強靭な脚力はその重さをものともせず、一流のアスリートも舌を巻くような加速力で、流慕の目の前まで体を運んだ。
 
流慕:(おいおい、聞いてねーよ! マジで強いじゃねーかこいつ)
 
流慕はギディの振り上げた右腕から逃れようと体を捻る。
しかし、その体を捻った先には別の拳があった。
 
流慕:(さて!?左だあ!?)
 
ギディは最初から右拳による攻撃をするつもりは無かった。
派手に振り上げた右腕を囮にしながら、そこを注視した流慕を左腕で攻撃するつもりだったのだ。
流慕は見事、ギディの策略に嵌った事になる。
 
しかし、彼もまた裏の世界でいくつかの戦闘をこなしてきたプロフェッショナル。
特に彼は情報収集や潜入などの仕事をこなしてきたため、〝相手に攻撃されない事〟は得意分野なのだ。
 
ギディ:「!?」
 
見事を左拳を流慕に叩き込んだと思われたギディの表情が険しくなる。
くりだした拳に手ごたえが無い。
流慕は、ギディが繰り出した拳を両腕で掴むと、それを鉄棒のようにして回転し、攻撃をかわす。
 
流慕:「さて、この片瀬流慕さんをなめて貰っちゃ困るな」 
 
流慕は回転の途中で手を離し、回転の勢いを利用してギディの横方向に跳ぶ。
そのまま、ギディの攻撃後の隙をついて試合を終わらせようと考えたが、すぐにそれをやめて距離をとった。
流慕が攻撃しようとした瞬間、ギディの右足が蹴る準備をしていた。それを見たからだ。
 
これがギディオン=レヴェインだ。
一見、単純で何も考えていないように見えるが、いざ闘いとなると相手の一手先二手先を読んで攻防の準備をしておく。
相手の思いもよらぬ方法で闘いにアプローチをかける〝闘う〟男なのだ。
それを本能的に行っているのだから、途轍もない。
 
流慕:「さて、ただの筋肉バカだと思ってたが意外とやるじゃねえか」
 
流慕はギディの本質を見抜き賞賛する。
しかし、同時に苛立ってもいた。
それはギディの身体能力が、たしかに流慕の身体能力を凌駕していたからという理由ではない。
 
流慕:「さて、気にいらねえな。
    〝なんとなく〟でその状況における最適な戦法を見つけ出して
    〝なんとなく〟でその一瞬における最適な行動を見つけ出して
    〝なんとなく〟実行して成功してるって感じの動き方だ……いかにも主人公(ヒーロー)って感じのな」
 
流慕は煙草を咥えて火をつける。
たとえ闘いの途中でも吸いたくなったら吸う。自由な男である。
ちなみに暗黒街において〝分煙〟なんて言葉は無い。
勿論、ギディの動きには細心の注意を払いながら安全な距離をとっている。
 
流慕:「さて、ここからは本気でいく。影の主役(ダークヒーロー)の闘い方を……〝真・片瀬流慕〟様を見せてやるぜ」
 
ギディ:「え?何だって? 〝真型セルヴォ〟様?」
 
流慕:「さて、妙な聞き間違いだな」
 
今度は流慕がギディに向かっていく。
ただし、流慕はギディのような突進ではなく、少しずつ距離をつめていく。
時々横に跳んだり、足元に視線を下げてみたりとフェイントを絡めながら少しずつ距離をつめる。
そして、あと一歩でお互いの拳の射程圏内というところまで来た。
 
ギディ:(…………来るか)
 
先ほどの攻撃をかわされ、距離をとられた時点でギディは最初の作戦を放棄していた。
攻撃し続けることに失敗した以上、ここからは正攻法でいくしかあるまい。
しかし、最初の攻防の時点で流慕よりも自分の身体能力の方が高いことをギディは見抜いていた。
ならば見てから攻撃を防御するなり、かわすなりできるはずだ。
 
流慕:「さて、……行くぜ!」
 
そういって流慕は一歩を踏み出した。
この一歩を踏み出す直前の0.5秒の間に目線、体の動きなどを利用したフェイントを数回挟んでいるのだが、ギディはそれに引っかからない。
しかし、ここから流慕が影の主役(ダークヒーロー)たる所以。
主人公(ヒーロー)になれない理由だ。
 
流慕:「…あらよ!」
 
流慕は突然、口に咥えていた煙草をギディに向けて投げつけた。
 
ハルカゼ:「き、汚ねえ!」
 
ギャラリーのハルカゼは思わず叫ぶ。
しかし、これがダークヒーローの〝ダーク〟たる所以。
ヒーローならば絶対にしない卑怯な攻撃をも織り交ぜてくるからこその〝ダーク〟なのだ。
 
ギディ:「……だからどうした!」
 
ギディは動じずにタバコを叩き落とす。
しかし、その一瞬。
タバコを叩き落としたその一瞬が流慕とギディの身体能力の差を埋める結果となった。
流慕はギディがタバコを叩き落とした瞬間すでにローキックを繰り出している。
本来ならこの蹴りを繰り出す前にカウンターで攻撃を与えられるはずのローキックだ。
ギディは瞬時にそれに反応して姿勢を落とす。
蹴りを腕で受け止めようとしたのだ。
 
間に合う。
ギディはそう思った。
流慕もまたそう思った。
タバコは流慕とギディの身体能力を〝埋め〟こそしたが、流慕がギディの身体能力を〝越える〟だけの結果は生まなかった。
 
流慕:「……へッ」
 
しかし、流慕の笑みは崩れない。
何故か。
それは、彼は勝ちを確信しているから。
 
ギディ:「痛てッ!」
 
流慕の蹴りを掴もうとしたギディの腕に何かがぶつかった。
その小さな衝撃で、ギディの腕の動きが鈍り、方向が狂う。
 
流慕:「もらったァ!!!」
 
バシィ!
 
流慕の蹴りがギディの体を捕らえた。
無論ギディにとっては大したダメージではないが、回避できなかったし、防御をしたわけでもない。
誰がどう見ても、流慕がギディに〝一発〟を叩き込んだように見えた。
 
 
負けた。
ギディは落胆する。
しかし、不思議だ。流慕の蹴りを掴もうとした瞬間、ギディの腕にぶつかった何か。あれは何なのか?
  
 
ハルカゼ:「卑怯だぞッ!」
 
 
突如、ハルカゼが大きな声で叫ぶ。
それは流慕に向けられた言葉だと思われたが違う。
米斗に向けられた言葉だった。
 
ハルカゼ:「ギディ! 今、米斗がギディに向かって小石を投げたんだ! この目で見たぞ!」
 
ギディ:「え?」
 
米斗は悪びれた様子も無い。
ハルカゼを見るわけでもなく、空中のどこかを見ながら言う。
 
米斗:「外野が何の妨害をしてもいけないというルールは設定しなかったはずだ」
 
ハルカゼ:「だとしても俺はメダロットなんだから人間の邪魔はできないだろ!」
 
米斗がしゃがみこんで、ハルカゼの目を見て言う。
なんだか厳しい教師のようなけわしい目だった。
 
米斗:「闘いはルール設定の時点で決まっていたという事だな。そういう意味でも流慕の勝ちというわけだ」
 
そう、これが〝裏〟の世界というやつなのだ。
特別に取り決めたルールという物は存在する。
この世界ならではのルールという物はたしかにある。
しかし、そのルール以外ならば如何にモラルに反していようと関係がないのだ。
ルールで決められていないことは自由なのだ。
その結果、本人が有利になろうと不利になろうと自由。
ならばルール設定という〝契約〟は裏の世界で動くにおいて重要なものとなる。
それにギディが対応できていなかったのだ。
 
ハルカゼ:「で、でも卑怯じゃないか……」
 
流慕:「さて、俺たちが卑怯だって?」
 
ルール通りに先に相手の体に一発攻撃を加えた流慕がこちらに向かって歩いてきた。
その後ろにギディも続く。
 
流慕:「 い か に も !」
 
ハルカゼ:「ドヤ顔で言うなァァァー!!」
 
流慕:「さて、卑怯なんだよ。俺たちや〝死神〟の住んでるこの世界の連中はな……
    心の綺麗な主人公(ヒーロー)様はこんなトコに首突っ込むもんじゃねえ、ここは影の主役(ダークヒーロー)の領分だ」
 
ハルカゼは反論する事ができなかった。
たしかにその通りなのだ。
もし〝死神〟と戦闘になりでもしてしまったとしたら、
〝死神〟がなにか卑怯な手段でギディを殺したとしたら、
「卑怯だ!」と糾弾する事に何の意味があるだろう?
そう考えれば、ここで追い返されても仕方が無いのかも知れない。
 
しかし、やりきれない。
能力ではギディの方が勝っていたはずだったのに。
そんなやりきれない気持ちはギディの方に向けて解消される。
 
ハルカゼ:「大体ギディもギディだぜ! クリスタル使えばよかったのによ!」
 
ギディ:「そんなの卑怯だろッ!」
 
ハルカゼ:「今の話聞いてた!?」
 
そうして、二人とも大人しく諦めて帰ろうとしたその時だった。
 
流慕:「さて、クリスタルってなんだよ?」
 
米斗:「俺も聞いてないぞ?」
 
流慕と米斗に呼び止められる。
そういえば、魔王にさらわれた友人を助けることについては説明したが、クリスタル回りの話はしていなかった。
魔王を追う理由、〝死神〟を追う理由にクリスタルは関係ないからだ。
それに聞かれもしないのに話すような事でもない。
聞かれたら話したけど。
 
ギディ:「クリスタルっていうのはうちの村に代々伝わってて~~―――――――――――――」
 
 
―――――そして
 
ギディは結局クリスタルの話を片瀬兄弟にした。
もうすでにそんな事をする義理もないはずなのだが。
 
すると、
 
流慕:「さて、分かった。お前〝死神〟探し手伝え」
 
ハルカゼ:「あっさりィィィ!!?」
 
あまりの出来事に喜びよりツッコミを優先するハルカゼ。
ちなみにギディは後ろの方で「やったー」とか言って結構呑気してよろこんでいる。
 
流慕:「さて、そんな面白そうなモン持ってる奴見逃せるか」
 
ハルカゼ:「いや、でも主人公は首突っ込むなとかなんとか言ってたじゃん!」
 
流慕:「じゃあ前言撤回だ!」
 
ハルカゼ:「〝じゃあ〟って! 〝じゃあ〟ってアンタ!」
 
流慕:「大体、勝負に負けたら連れて行かないなんて言ってねーだろ」
 
ハルカゼ:「でもなんかそういう空気だったじゃん!」
 
流慕:「さて、来たくねーのか?」
 
ハルカゼ:「いや行きたいけど」
 
流慕:「じゃあいいじゃねえか」
 
ハルカゼ:「まぁ……うん、そうだね……」
 
 
というわけで先ほどまでの闘いに何の意味があったのか?
クリスタル見せるだけでギディとハルカゼは片瀬兄弟と同行して〝死神〟を探すことになった。
その軽さ、飲み物をあげるだけで通してくれるヤマブキシティ警備員の如し。
 
そして、3人と1体は一先ず片瀬兄弟の宿泊しているホテルに向かうことになった。
本格的な〝死神〟の話をするためだ。
道中、米斗が流慕に、ギディやハルカゼに聞こえないように囁いた。
 
米斗:「いいのか流慕? よく分からんが嫌いなタイプなんだろアイツ?」
 
流慕:「さて、確かに俺は主人公(ヒーロー)ってヤツが嫌いだ。変な正義感とかキモイしな……
    でもよ、影の主役(ダークヒーロー)が主人公(ヒーロー)を飼うってのは中々楽しいだろ?」
 
米斗は何か諦めたような顔をして黙った。
流慕はこれを納得したと受け取り、米斗から目を離した。
 
ギディ:「あ、そういえば2人はなんで〝死神〟を追ってるんだ?」
 
ハルカゼ:(軽いなッ)
 
裏の世界の住人ですら手を出そうとは思わない史上最強最悪の殺人鬼〝死神〟。
それを追いかけようというのだから、並大抵の理由ではないはず。
今日あったギディなんかには言えないような深い事情があるのだろう。
  
 
流慕:「ん? 楽しそうだから」
 
 
ハルカゼ:「軽rrrrrrるゥッ!」
 
ビックリするくらい軽い答えが返ってきて、ハルカゼは文字通り舌を巻いた。
 
流慕:「さて、軽いもんか、〝楽しい〟っつーのは何よりも優先される」
 
ギディ:「本当にそれだけで?」
 
流慕:「さて、まぁ情報屋として〝真実〟を知っておくってはメリットにもなるけどな。
    〝真実〟ってのは自分達の目で拝んでこそ価値のあるもんだ。
    『○○らしい』とか『○○って聞いた』って情報はいまひとつ商品価値が低い」
 
ハルカゼ:「どっちかというとそっちがメインだろ」
 
流慕:「いいや、違うね。一度は死んだと噂された〝死神〟がなんでまた現われたのか?
    そしてどうして噂程度に収まってるのか?『殺し』があれば確定情報になるはずなのにな……
    さて、俺は〝死神〟の身に何かあったんだと思ってる……この『真実』を自分で確かめるほど楽しい事はねえ」
 
流慕はまた煙草を取り出し、火をつける。
 
流慕:「さて、〝死神〟も、お前達も、仕事も金も女もタバコも……全部俺が楽しい人生を送るための一部にすぎねぇ
    だから何故〝死神〟を追うかと問われればこう答えるしかねえな……」
 
 
 『片瀬流慕は楽しく暮らしたい』
 
 
 

 
第十話【片瀬流慕は楽しく暮らしたい】  おしまい  
 
 
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.24 )
   
日時: 2014/04/06 00:26
名前:

第十一話【片瀬米斗は静かに飲みたい】


 
 暗黒街から離れ、列車で数分移動した先に片瀬兄弟の宿泊先はあった。
電車での移動中、元々寡黙な米斗は勿論、流慕もまた発言をさけた。
2人はギディとハルカゼにも話をしないように指示した。
一般人の多くいる場所での会話は気を付けるというのが2人の方針らしい。
普段ならばそれなりに暗号などを交えて会話をするらしいが、この時は素人のギディがいたため会話そのものを避けたのだ。
 
そうこうしてホテルにつくと、流慕はギディに対する態度とはうってかわって丁寧な態度で鍵を受け取っていた。
「さて、堅気の人間には堅気の人間として接する、裏の糞野郎には裏の糞野郎として接するんだよ」との事だった。
ようするにギディはすでに堅気の人間として認められていないという事らしい。
それに関してギディは特に気にしていない様子だ。
 
米斗は低い声で「904号室だ」と一言だけ言い、鍵を受け取った。
「これで十分伝わる」との事。
2人ともが鍵を受け取ったことから分かるように、片瀬兄弟は別々の部屋で宿泊している。
仲が悪いのだろうか?とギディは思い、聞いてみた。
そんな事聞くなよ、とハルカゼは思った。
相変わらず遠慮の無い男である。
流慕も米斗も「別に」とだけ答えた。
 
一行は流慕の部屋に集まり、ようやくこれからの事を話す準備が整った。
と、その時流慕が言う。
 
流慕:「さて、話を始めるか……と言いたいところだが」
 
流慕は上着を脱ぎ捨て、シャツのボタンに手をかけながら、いけしゃあしゃあとこう言う。
 
流慕:「さっき運動したから汗をかいた風呂はいるわ。あと腹も減ったし飯食う」
 
まったくもって自由人である。
が、良識はあるようで
 
流慕:「さて、このホテルは大浴場があったはずだ。良かったら行ってみろ! 外人にとってどうか知らんがな」
 
と、ギディにも風呂を勧めてくれた。
 
米斗:「そうだな、ギディと俺はそっちで風呂を済ませる。飯は各自自由に済ませて一時間後にここに集合、でどうだ?」
 
流慕:「異論なーし」
 
米斗が取り仕切ると、流慕はグラサンを机の上に無造作に放り投げながら答える。
この時、ふとギディは疑問に思っていたことを口にする。
 
ギディ:「流慕は一緒に大浴場いかないのか?」
 
ハルカゼ:「たしかにな、一緒にいけばいいじゃん。俺メダロットだから関係無いけど」
 
流慕:「さて、俺は行けないんだよ」
 
そういって流慕はシャツを脱いで背中をギディとハルカゼに見せた。
それを見てハルカゼとギディは流慕が大浴場に行かない理由を察した。
 
ギディ:「こ、これは……」
 
ハルカゼ:「み、見事な……」
 
流慕の背中にはそれはそれは見事な龍が背中いっぱいに大きく描かれていた。
その美しさたるや目の見張るものがあったが、おそらく尊い芸術を鑑賞する感覚でこれを見る人はいないと想像できる。
 
流慕:「さて、まぁ、若気の至りってやつだ」
 
そういって流慕はさっさと服を脱ぎ捨ててバスルームに入っていった。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ギディ:「あぁ~~、あったか~い……久しぶりに湯に浸かったよ」
 
米斗:「……久しぶりとは?」
 
ギディ:「いつも川とかで体洗ってるから」
 
米斗:「……そうか」
 
ギディは、米斗と共に湯船に浸かっていた。
普段、今時本当にサバイバル生活で旅をしていたので、冗談抜きに湯に浸かるのは久々だった。
これくらい大きな風呂に浸かっていると、ギディは昔を思い出す。
 
シミディア村には温泉が湧いていた。
その温泉を村のみんなで利用するのが村の習慣だったので、ギディの一家もそうしていた。
あの頃は、父も母もいた。
クラシアとハルカゼはメダロットなので、いつも湯船には浸からなかったがギディの背中を流してくれた。
 
ギディ:「……ハルカゼも来れば良かったのにな」
 
米斗:「……仕方ないな」
 
残念ながらこのホテルでは風呂にはメダロットの出入りを禁止していた。
故障した際に責任が取れないからだそうだ。
 
昔の事を思い出した所でギディはふと思った事がある。
 
米斗:「……どうした?」
 
ギディが黙って米斗の方を見ているので、不思議に思った米斗が尋ねる。
 
ギディ:「いや、なんていうか昔を思い出しててさ」
 
米斗:「俺達の昔話でも聞きたくなったのか?」
 
ギディ:「すごい、なんで分かったの?」
 
米斗:「そういう顔をしていた」
 
米斗はふいに自分の顔の左側を覆い隠していた前髪をめくってみせた。
そこには何が隠されているのか。
裏の荒くれ者につけられた古傷か?
闇の組織の秘密基地を爆破した時についた火傷の後か?
 
ギディ:「……片目だけ、グレーなのか?」
 
米斗:「生まれつきだ。特に不自由はないがな」
 
期待されたようなものは米斗の顔左半分にはなかった。
ただ、真っ黒な瞳を持つ右目と違い、色の薄いグレーの瞳をもつ左目があるだけであった。
 
米斗:「昔、これで随分いじめられたものだ……――――――――――――――」
 
 
 
 
――――――――――片瀬米斗は小学生時代いじめの対象であった
  
 
 
理由はなんて事ない。
眼の色が左側だけ違ったからだ。
しかし、思考回路の単純な小学生とはそのほんのちょっとした違いに過剰反応するものだ。
その過剰反応によって他人を傷つけているとも気付かず、大喜利でもするかのように米斗に妙なあだ名をつけて遊んでいた。
「マッドマッスル」だの「邪王神眼」だのなんだの好き勝手に楽しんでいた。
 
実にくだらない話だが、当時小学生の米斗にはそれがこたえた。
米斗にとって左目はコンプレックスとなり、米斗はそれを隠すために前髪を伸ばして、左目を隠すようになった。
しかし、それは根本的な解決にはならない。
子供達とは自分たちの行動に対して、相手が何かしらのリアクションをとると余計に喜ぶものである。
その柔軟な対応力を無邪気に悪用して、今度は「ゲゲゲの鬼太郎」だとか「根暗男」だとか言い始めた。
 
その悪循環を一気に終わらせてしまった人物がいた。
 
片瀬流慕である。
 
当時に片瀬流慕は弟の米斗とは違い、学校一のやんちゃ坊主にしてガキ大将。
流慕に逆らうことはすなわち、その仲間全員に対して喧嘩を売るも同然として恐れられていた存在であった。
 
その流慕が顔の右半分を覆い隠すほどに前髪を伸ばして登校してきたのだ。
これでは子供たちは簡単に米斗をいじめる事ができない。
前髪を伸ばして片目を隠すことを否定する事は、米斗を否定すると同時に流慕を否定する事にもなる。
流慕を否定するとは、すなわち完膚なきまでにボコボコにされてしまうという事。
 
これにより米斗のいじめは止まったのだった――――――――――
 
 
ギディ:「それって流慕は米斗の為に髪伸ばしたって事?」
 
米斗:「聞いたことは無いが、多分な。…………中学の時の話だ――――――――――」
 
 
 
米斗のいじめは流慕の何気ない行動によって止まった。
しかし、それは二人が中学に入学するまでの話であった。
 
そもそも、流慕は根っからの自由人。
誰かの上にたって指示を出したり、集団のトップに立つような男ではない。
そんな彼が、小学生時代何故彼が慕われていたのかと言えば、彼があまりにも強かったからである。
自由人の彼に対し、教師はみんなと同じ行動をとるよう強制しようとする。
しかし、流慕はその意志の強さ故に教師の言葉をつっぱね、教師の必殺技「お母さんを呼ぶぞ」にも平気な顔をしていたのだ。
親を呼ばれようとも、教師に屈しないというのは小学生にとって、異質であり、とてつもない存在であった。
そのとてつもない存在を子供たちが恐れ、憧れた結果が、流慕がガキ大将になった所以であったのだ。
 
つまり彼の教師にも屈しない自由さという特性が薄れる時期。
中学時代になって、再び米斗のいじめは再開した。
 
二人が中学に入ってしばらくたったころ、米斗は勤勉でクラスでもトップクラスの成績の持ち主。
周りの環境に合わせて変わる気の無いゴーイングマイウェイの流慕は相変わらずの自由人であった。
 
このころになると学校にも幾人かいわゆる不良と呼ばれるタイプの者が現れ始める。
彼らは自分の好きにしたいから教師を無視する流慕と違って、意識して教師に刃向っている。
実はもっとも教師たちに支配にされているのは、教師達が気になってしょうがない不良たちの方である。
『無関心』という極めて凶悪な武器をもって教師達を制しているのが流慕なのである。
しかし、思春期の中学生から見れば、流慕よりも不良たちの方がより教師達に抗っている存在であり、一部の生徒の心をつかんだ。
 
ちなみに、こういった不良と呼ばれる人種を慕うどころか嫌い、蔑む人種も当然存在する。
しかし、こういう人種はそもそも、流慕に一目置くことが無いし、米斗に危害を加えようとも思わない。
 
逆に不良たちにとって優等生たる米斗は、軟弱なくせに自分に持っていないものを持っている忌むべき存在であった。
その結果、米斗のいじめは再発した。
流慕を恐れることなく、むしろ憧れの不良という強い(と本人たちは思っている)後ろ盾を持ち、米斗と同じ髪型の流慕すら避難の対象となった。
 
 
悲劇の理由はそこにあった。
不良たちは流慕なんて気にせず、米斗のいじめに邁進していれば事件は起こらなかったのだ。
 
 
実の弟たる米斗に危害が加えられたからなのか。
はたまた自分自身を馬鹿にされたからなのか。
流慕はその不良達に制裁を加えた。
 
その制裁の内容自体は実に中学生らしい方法、暴力であった。
 
今でこそ大人になり、自分の生きる世界、裏の世界のルールを順守する流慕であったが、中学生時代の流慕は常識にすら縛られなかった。
これ以上殴ったらヤバイという限界を超えて不良達に容赦無い暴力を加えた。
 
結果、米斗をいじめて、流慕を馬鹿にした哀れな不良達30数名は全治半年の重傷を負い、そのうち10数名は後遺症を残した。
流慕は少年院に収容された。
片瀬一家は少年犯罪を起こした息子のいる家庭と周りから見られ、その地域には暮らせなくなった。
 
遠い田舎まで引っ越す結果となったのだった―――――――――――――――――――― 
 
 
ギディ:「…………それって、いいの……か?」

流石のギディのこのエピソードには引いてしまったらしい。
ギディも同じく暴力によって物事を解決するタイプであるが、後遺症を残った人間がいたところがひっかかったらしい。
よく分からないが、暴力男にも美学あるのだろうか。
紳士の暴力と、邪悪の暴力があるらしい。多分。
 
米斗:「最悪だった。誰も幸せにならない」

米斗は即答した。
  
ギディ:「ですよねー」
  
米斗:「だが……」
 
ドン引きしているギディを察して、米斗が立ち上がりながら言った。
その目はどこか遠くを見ているようだった。
遥か、過去を見るような。
 
米斗:「俺は悪い兄貴じゃないと思った」
 
ギディ:「……そうか」
 
米斗の目は嬉しそうだった。
表情変化の薄い米斗の感情を、察しの悪いギディが気が付くほどに、嬉しそうだったのだ。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
流慕:「ヘックショイッ! ……さて、湯冷めしたか?」
 
その頃、流慕はシャワーを終え、バスローブ姿でウィスキーを飲んでいた。
ルームサービスで頼んだサイコロステーキは、すでに完食。
その横にはすでに空になったワインのボトルが置いてある。
 
流慕:「で? なんでお前はギディと一緒に行かなかったんだよ? メダロット」
 
ハルカゼ:「メダロットが風呂入ってどうすんだよ。それから俺にはハルカゼって名前がちゃんとあるから」
 
流慕:「さて、風呂に入る喜びもねーのか。本当メダロットって不便だな、おい」
 
ハルカゼ:「流慕にーやんも風呂入れてないじゃん、入れ墨のせいで」
 
流慕:「さて、違いねえ」
 
そう言いながら流慕はウィスキーのボトルを逆さにして、中身を全て自分の口の中に注ぎ込んだ。
 
ハルカゼ:「いつ掘ったの? その入れ墨」
 
流慕:「あん? 17だ」
 
ハルカゼ:「若ッ!」
 
流慕:「まぁ……なんだ……色々あって中学生あたりで道踏み外しまってな。15で暴走族始めて、そのまま勢いで掘った」
 
流慕は気恥ずかしそうに頭をかきながら話をする
ハルカゼはそれを茫然として、見ていた。
 
流慕:「さて、なんだ? 文句あるか?」
 
ハルカゼ:「いや、ないけど。 ……それでいいのか?」
 
流慕:「さて、後悔は無い。楽しかったしな。何より俺が自分で決めた俺自身の人生だしな」
 
ハルカゼはその後も流慕の破天荒な人生を聞く。
中学で暴力事件を起こして少年院。
15で暴走族。
17でその地方の暴走族の頂点に上り詰める。調子に乗って入れ墨を彫る。
18で暴走族引退。楽しそうという理由で単身海外へ。家族は大変うれしそうに送り出したという。
学の無い流慕に難しい仕事が出来るはずもなく、しばらくは汚い仕事(この詳細は流慕も語ってくれなかった)で食いつないだ。
その経験が生きて22である大国のスパイとしての活動を始める。
25の時、国の体制が大きく変化し、スパイを廃業。
スパイ時代の経験とコネを生かして情報屋兼賞金稼ぎを始める。
現在は更に職種が増えているとのこと。
 
ハルカゼ:「へー、色々やってたんだなー。 米斗も一緒だったの?」
 
流慕:「さて、一緒に仕事し始めたのは22の時だな。それまではどえらい一流大学通ってたらしいが……
    アイツに故郷でサラリーマンやらせるなんて勿体ねーからな。スカウトした」
 
ハルカゼ:「スカウトした……どうせ無理矢理付き合せたんだろ?」
 
この時点でハルカゼの流慕に対する信頼というものは相当に低いものであった。
自分勝手で人を振り回し、人としての良心に欠ける。
経歴もあまり一般的に褒められるものではなさそうだ(ハルカゼは田舎出身で常識に疎く、この辺は勘だったりする)。
 
流慕:「それは違うぜ。米斗が自分で決めた事だ。俺はあくまで提案しただけだ」
 
ハルカゼの言葉が何か流慕の癪に障ったらしい。
流慕は立ち上がると、ハルカゼを指差して言う。
 
流慕:「さて、俺は自由人だ。だからこそ他人の自由を認める。
    自分の強欲を許す者は他人の強欲を許し、
    自分の怠惰を許す者は他人の怠惰を許し、
    自分の暴力を許す物は他人の暴力を許すべきだ。
    それがこの世の〝真実〟ってやつだろ」
 
ハルkゼ:「わ、分かったよ。悪かったよ……」
 
思いのほか、流慕の主張に筋が通っていたのでハルカゼはたじろいだ。
もしかすると思っていたよりまともな人間なのかもしれない。
 
ハルカゼ:「それにしても、米斗もすごいよな。いきなりスパイなんてさ」
 
流慕:「さて、アイツはマジで賢いからな。覚えがスゲー良かった」
 
ハルカゼ:「あー、でも賢そうな雰囲気はなんかしてたな。なんとなくコミュ障っぽいのが玉に瑕だけど」
 
流慕:「あぁ? 米斗がコミュ障だ?」
 
再び、流慕の表情が変わった。
「うわー!やっちまったー!」とハルカゼは心の中で思ったがもう遅い。
流慕はまたハルカゼを指差し、話す。
 
流慕:「さて、いいか、コミュ障ってのはな寡黙なやつってことじゃないし、人前で喋るのが苦手な奴でもない。
    何を言えば相手に正しく情報が伝わるのか、相手が自分に何を伝えたいのか、それがさっぱり分からない愚図の事だ。
    米斗は言葉数こそ少ないが、情報は正確に伝えてくる。米斗が何を考えそういうつもりでその言葉を発しているかがよく分かる。
    そして、こっちの言葉も正確に理解する。多少、説明を省きすぎたとこっちが感じてもだ。
    なんだったらアイツは、情報のやり取りに言葉すら使わなくても済むような、コミュ力もってやがるからな」
 
ハルカゼ:「なんていうか流慕にーやんてさぁ……」
 
得意げに話す流慕を見ながらハルカゼは漠然と思った事を言う。
 
 
ハルカゼ:「良いお兄ちゃんなんだな」 
 
流慕:「そうでもねえよ」
 
しかし、流慕は即否定した。
実際にそうである。
事実だけを並べていけば随分迷惑な兄貴である。
 
流慕:「俺は〝真実〟を言っているだけだ。
    たしかに米斗は寡黙だし、話つまんねえし、なんつーか地味でダサイ糞野郎ではある」
 
ハルカゼ:「そこまで言ってないけどな」
 
流慕:「だが、コミュニケーションにかけては問題無いし、賢い。これが〝真実〟だ」
 
 
そう言う流慕の顔はどこか誇らしげであった。
 
 
ハルカゼ:(そういえば、今の話で行くとうちの脳筋マスターはコミュ障って事になるなぁ……)
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ギディ:「良いお風呂だったな、温かかったし!」
 
米斗:「普通、風呂は温かいがな」(いつも川に入ってるらしいからこういう言葉も出る訳か)
 
ギディと米斗は下着姿で仲良くコーヒー牛乳を飲んでいた。
実のところはギディが物欲しそうな目で自販機を見つめていたので、米斗が黙っておごってやっただけなのだが。
 
 
米斗:「先に流慕の部屋に戻っておいてくれ」
 
浴衣に着替えて風呂場を後にする時に米斗が言った。
  
ギディ:「あ、あぁ分かった。米斗は行かないの?」
 
米斗:「まだ集合時間までに時間がある。俺は下のバーで一杯だけ飲んでくる」
 
ギディ:「流慕の部屋にはお酒無いの?」
 
米斗:「あるんだが、一人で飲みたいんだ」
 
そういえば初めて会った時も米斗は流慕と別行動をとって、一人で酒を飲んでいた。
もしかするとこの二人は仲が悪いのだろうか?という疑問がギディに湧いてくる。
米斗はギディの顔を見て、それを察して、先回りして言った。
 
米斗:「別に流慕と飲みたくないわけではないぞ。なんというか……単純に好きなんだ。一人酒が。
    とても大きな喜びはないが、だが深い悲しみも無い。
    そばに誰もいないのに豊かで、周りにいる他人のつまらない雑談が心地良くて、落ち着いて、心休まって……
    楽しく飲むのとは、また別の良さがあるんだ。端的に言ってしまうとこう言えばいいのか?」
 
米斗は爽やかに微笑んで言う。
 
 
『片瀬米斗は静かに飲みたい』
 
 

 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ギディ:「ただいまー」
 
ギディは米斗の言った通りに一人で流慕の部屋に戻った。
 
ハルカゼ:「おかえりー」
 
流慕:「さて、お前の部屋じゃないだろ」
 
 
そんなギディをハルカゼが迎える。
流慕はソファに座って煙草を吸っていた。 
 
ギディ:「米斗はちょっと飲んでから戻るって」
 
流慕:「さて、あの糞地味な趣味だな」
 
慣れているのだろう、流慕は冷静に言う。
 
流慕:「じゃあ、米斗が戻ったら話を始めるからな。冷蔵庫の酒は飲みたかった飲んでいいぞ」
 
ハルカゼ:「いや、流慕にーやん全部飲んじゃったよ」
 
流慕:「さて、そうだったか。じゃあその辺でおとなしくしといてくれ」
 
 
そうして2人と1体は米斗を待つことにした。
集合時間まで残り20分くらいある。
誰もしゃべらなくなり、なんとなく空気が悪いような雰囲気になった。
その時ギディが突然質問をした。
 
 
ギディ:「そういえばさ〝死神〟って名前無いの?」
 
酒場で聞いた話によると、〝死神〟という名称がついたのは、〝死神〟の登場から少し経っての話だ。
という事は以前は別の名前でよばれていたのだろうか?
そう思ったのだ。
知ったからなんという訳でもないが、なんとなく気になったのでギディは質問した。
 
流慕:「さて、ある。だがその名前を言う事は裏の世界のタブーだ」
 
ギディ&ハルカゼ:「なんで?」
 
流慕:「……お前ら仲良いな」
 
ギディとハルカゼが全く同時に同じ事を言うので、少し流慕は呆れて言った。
そして、フゥーと煙草の煙を吐き出して、話を続ける。
 
流慕:「さて、その名前は裏でとんでもなく恐れられてるんだ。その名前を聞くだけで不幸になる、なんて迷信まで語られる始末だ。
    俺は別にビビってるわけじゃないが、そんな名前、滅多に言うもんじゃない。悪目立ちしちまうからな」
 
ハルカゼ:「〝死神〟探そうとしてる時点で目立ってると思うけど」
 
流慕:「それとはまた次元が違うんだ。〝死神〟の本名ってのは聞くだけで背筋凍らせて震える奴が出てくる、恐ろしい呪文みたいなもんだ
    別に教えてやってもいいんだが、お前らマジで常識無いからな。外で普通に口にだしそうだな……」
 
ハルカゼ:「とかなんとか言って流慕にーやんも怖いんじゃないのー?」
 
偉く慣れ慣れしくハルカゼが流慕に言うのでギディは少し驚いた。
 
流慕:「さて、誰が怖がってるだとハル公?」
 
流慕も流慕で、〝ハル公〟なんてあだ名をつけて呼んでいる。
ギディと米斗が風呂に入っている間、この二人が結構会話してた事が伺いしれた。
流慕は立ち上がると、またまたハルカゼを指差して言う。
 
 
流慕:「そこまで言われちゃ黙ってられねえな、教えてやるよ〝死神〟の本名を」
 
 
そして次の瞬間、流慕は口にした。
 
 
かつて、魔王の命令で幾人もの人間を殺した〝死神〟の、
『人間』でありながら、『人外』の強さをもつ〝死神〟の、
その名を言うも聞くも恐れられる程の恐ろしい伝説を持つ〝死神〟の、
 
史上最強最悪の殺人鬼〝死神〟の本名を……
 
 
流慕:「さて、史上最強最悪の殺人鬼〝死神〟。その本名は――――――――――――――」
 
 
はっきりと言った。
 
 
 
『――――――――――――――〝ヴァレン=D=ジョーカー〟だ』
 
 
 
 
 
 
 
 
第十一話【片瀬米斗は静かに飲みたい】  おしまい  
 
 

 

 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.25 )
   
日時: 2014/05/24 00:50
名前:

第十二話【進撃の巨乳】

 
 
『お姉さんボールとってー!』
『わーありがとう!』
『ありがとう』
『ありがとう』
『行くぞオアア』
『こっちこっちオアアアーーーッ』
 
リリ:「私がここにいるときはサッカーボールなんて無かったけど……良い経営してるみたいね」
 
ダイナブレード:「盗んだ金を寄付する甲斐があるというものだな」
 
 
ギディオン=レヴェインが双子の片瀬兄弟と〝死神〟探しに合流した頃
三人の主人公の内のもう一人、リリアナ=ナラーは故郷の国〝ミラディン〟に来ていた。
ミラディンは世界最大の人口を誇る国で、世界でも指折りの広大な国土を持つ国だ。
発展途上国でありながら、近年めまぐるしく経済を発展させ、将来的には先進国の仲間入りを期待されている。
しかし、貧富の差が激しく、世界有数の富豪が多くいる一方で、ストリートチルドレンも多い。
かくいうリリも、元ストリートチルドレンである。
そして、ミラディンにはかつてリリを拾い、生活の場を与えてくれた孤児院があった。
外からそっと眺めていただけであったが、サッカーをしている子供達がボールが木に引っかかって困っていたので、取ってやった。 
施設はリリがいた時より更に綺麗になっていた。
そしてより多くの子供たちの笑顔がそこにあった。
継続的にリリが盗んだ金を寄付している為に、経営において困る事が無くなり、多くの子供を受け入れ、良い備品を買える様になったのだ。
 
リリ:「じゃ、そろそろ行きますか。結局イニストラードじゃ魔王の手掛かりは無かったしね」
 
孤児院の様子に満足したリリは孤児院から去ろうとした。
その時だった。
 
『き、君はリリアナ=ナラーじゃないかね!?』
 
背後から懐かしい。
とても懐かしい男性の声がした。
それは間違いなく、この孤児院の院長先生の声。
しわがれたその声を聞いて、月日の経つ早さを感じた。
 
リリ:「いいえ。人違いです」
 
しかし、リリはそのまま振り返らなかった。
もうすでに自分は犯罪者に身を落としている。
まして、院長先生本人からダイナブレードを盗んでいるのだ。
どの面を下げて振り向けようか。
 
だが、本当は振り返りたかった。
振り返ってただ一つ。
「幸せですか?」
とそれだけ問いたかった。
もしも、その問いに「幸せだ」と返ってきたのなら、気分良くここを去る事ができる。
 
『リリだろう? 私だ院長だよ』
 
老人はしつこくリリに問いかける。
しかし、リリも譲らない。
 
リリ:「だから違います。あまり大きな声で言えませんが私はちょっとした犯罪者。関わらない方がいいです」
 
『その件なら、気にするな。ダイナブレードはきっと君と一緒にいて幸せな事だろう』
 
リリ:「そんな程度の犯罪じゃない……もっと大きな」
 
『ビッグ・ズ・ロックだろう?』
 
リリ:「!?」
 
リリはハッとした。
思わず振り返りそうになったが、踏みとどまった。
何故、院長先生がリリの目的を知っているのか。
 
『君がいなくなって、随分と調べたのだよ。世界から〝盗まれた〟ありとあらゆるものを……
 御陰様で随分『裏の世界』に詳しくなったし、顔も聞くようになってしまったよ。ハハハ……
 そうやっていくうちに君の目的がなんとなく分かった。魔王の持つ言われる秘宝ビッグ・ズ・ロックだろう?』
 
リリ:「…………」
 
リリは何も答えなかった。
答えてはならなかった。
院長先生の施設から、リリの生まれ故郷から魔王への反逆者が出たなんて事を認める訳にはいかなかった。
例え事実であったとしても。
それを院長先生の前で認めるわけにはいかなかった。
 
『リリ、どうしてそこまでする必要がある? もうお金ならいいのだよ
 君のお蔭でこうして十分すぎるほど復興できた。 君だって生活できない程にお金に困っているわけじゃないだろう?
 私は君が金の亡者になっているのではと心配している。 お金より大切なモノがあるのだよ?』
 
リリ:「……誰の事を言っているのか分かりませんが、きっとその人はお金の為に頑張っているのではない『夢』の為に頑張っているんですよ」
 
『……夢?』
 
リリ:「お金よりも大切なモノがあるなんて知ってる。金の亡者になるつもりもない
   ただ世界一の金持ちになりたいだけ。
   なれるのか極限まで試してみたいだけ。
   そんな誰もが思い描いて、そして次の瞬間諦めるような幻想を諦めたくないだけ。
   何故ならそれは『夢』だから。
   『夢』を追う事こそが、人間の生きる素晴らしさだと思っているから。
   …………きっとそれだけの事なのでしょうね」
 
『……そうか。分かったよ……でも一つだけ聞いていいかい』
 
院長先生は穏やかな声でいった。
 
 
『幸せかい?』
 
リリ:「…………はい、幸せですよ」
 
『……そうかい、なら私も幸せだ』
 
 
そして、リリは無言で立ち去った。
育ての親ともいえる院長先生と少しも顔を合わせずに。
ただの、ほんの少しの、滞在時間で故郷を後にした。 
しかし、その時の顔は。
院長先生には見えなかった顔は。
満面の笑みを湛えていた。

このリリアナ=ナラーには『夢』がある。
その夢はとてつもなく大きく、未だ彼女は夢の折り返し地点にすら到達していない。
しかし、彼女はすでに幸せだ。
夢の為に努力し、全力で生き抜いている。
 
人は皆思う。
努力したとしても、夢は叶うわけではない。
それでも夢をかなえた人は皆努力しているなんてくだらぬ綺麗事だ。
リリもまたそう思う。

しかし、リリはこうも思う。
夢を叶えるために努力するのではない。
努力し、生きる為に夢をもつのだ、と。
 
 
これからもリリは叶うとも分からぬ夢を追って生きる。
確実に、着実に、成長を重ねながら。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
ソリン:「見つけたッ! 俺は見つけたぞッ! 決定的だッ! 運命的だッ! 〝引力〟を感じるぞォーーーッ!!!」
 
 
イニストラード王子、ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードは街の中心で叫ぶ。
何故彼はこうも叫ばねばならないのか?
 
その前に、彼の現状について少し説明しなくてはなるまい。
イニストラードを出たソリンは、同志メダナイトと共に魔王を探していた。
そうしているうちにソリン達はイニストラードより北の国、ミラディンのある孤児院の話である。
その孤児院は数年前までは経営難で、潰れる寸前。建物もみすぼらしく、この国の貧しさの部分の象徴ともいえる状況であったという。
しかし、ある年をきっかけにどこから湧いてきたかもわからぬ豊潤な資金で設備を整え、今では立派な設備を整えた綺麗な孤児院となっている。
ソリンとメダナイトはここに目をつけ、この国の状況を調査しに来たのだ。
ところが、元々仲の悪いこの2人。一緒に仲良く聞き込みをする事はうまくいかなった。
事あるごとに喧嘩が始り、これでは効率が悪いということで、ソリンとメダナイトは別行動をとって聞き込みを行うことにしたのだ。
 
そして、一人で町を歩いていたソリンは、見つけたのだ。
 
彼の前方10メートルほどの地点!
そこに!
 
絶世の美女が現れた!
 
身長は170センチ程度で、すらりと長い脚。
腰のあたりまで伸びた茶髪はクセっ毛が強く、好き勝手な方向にはねている。
彼女が存在するだけで、その場をファッションショーの会場ではないかと錯覚するほどに整った容姿。
左目の下あたりにある黒子がなんともいえずセクシーだ。
そして、注目すべきは、彼女は、巨乳だったッ!
 
ソリン:「そこのおねえさんッ!」
 
ソリンは走り出す。
 
『は、はい!?』
 
そして、おねえさんはビビる。
ビビって振り返る。
ソリンの整った容姿が彼女の大きな瞳にくっきりとうつった。
素早く女性の手をとり、跪き、手の甲にキスをするソリン。
ルックスもイケメンなので、微妙に絵になるのがむかつくものである。
 
ソリン:「よろしければ私に貴女を幸せにさせていただけませんか」
 
当然の如く女性は戸惑う。
 
『あ、いや、あたしちょっと今忙しいんですよね……』
 
しかし、戸惑ってしまえばもはやソリンの術中に掛ったと言っても過言ではない。
相手の戸惑った隙にマシンガン口説きトークによってゴリ押して、女性との食事の時間くらいならいとも容易く手に入れてしまう。
 
ソリン:「ならば私に手伝いをさせていただきたい。ご安心を。確実に貴方の満足する仕事をしてみせましょう。
    そして、いずれは我が国家の繁栄の為、子孫を残す為、いともたやすく行われるえげつない性的k」
 
メダナイト:「  天  誅  だ  ッ  !  !  !  !  」
 
ソリン:「どじゃグハァァンッッ!!!」
 
間に合った!
メダナイトが間に合った!
金属でできた脚部パーツによる強烈な跳び蹴りによって、ソリンの魔の手から女性を救い出した!
 
メダナイト:「うちの大馬鹿者が大変な失礼を! 本当に! 本当に申し訳ありませんでしたッ!!」
 
ソリンを吹っ飛ばしてからのメダナイトの行動は素早い。
刹那のうちに跪き、頭に地面をこすりつけて謝罪をする。
 
『あ、だ、大丈夫だから……まだ何もされてないし』
 
またもおねえさんビビる。
 
メダナイトは「貴様も謝れ!」とソリンの頭を鷲掴みし、地面に押し付ける。
その状況におねえさんはよけいにビビった。
そして、
 
『えっと、じゃ、まぁ、あたし急いでるから、失礼するわね』
 
と、お姉さんはそそくさと退散してしまった。
後に残されしは土下座せし、王子と騎士。
本来、騎士と王子では騎士の方が立場は下のはずだが、そんな事もお構いなしに騎士は王子に激怒した。
 
メダナイト:「貴様! 私とはぐれるや否や、レディに無礼を働くとはどういう魂胆だ!」
 
ソリン:「いや、べ、別に聞き込みしてただけだし」
 
メダナイト:「嘘をつくな!」
 
ソリン:「本当! マジだから! 」
 
メダナイト:「信用できるか!!」
 
 
ソリン:「我が心と行動に一点の曇りなし…………! 全てが『正義』だ」
 
 
メダナイト:「それはもういい!!!」
 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
その頃リリは、孤児院からはなれ、故郷ミラディンでショッピングを楽しんでいた。
ただし、ショッピングと言っても、大泥棒リリアナ=ナラーのショッピングは並のものではない。
世界一という夢にはまだまだ遠く及ばないとはいえ、今までの仕事で彼女はすでにちょっとした富豪にはなりつつある。
今、彼女は、高級洋服店でバッサリと胸元の開いた100万円の真っ赤なドレスを片手に鑑の前に立っている。
 
リリ:「……アリね、セクシーだわ♪」
 
リリはドレスを自分の体と重ねながら鼻歌交じりに言う。
その横で、品の良い店員がなにやら困ったような顔をしている。
 
リリ:「これのもう少しサイズ小さいのある?」
 
その店員は困り顔に営業スマイルを混ぜた奇妙な表情で言う。
  
『あ、あのお客様……そのドレスより、もうすこし、スレンダーな方に似合うドレスが、よろしいかと』
 
あぁ! なんと! リリの貧乳はファッションにも響いた!!
ただでさえ背が低く、実年齢より若く見られがちなリリが、この露出の多いドレスを着た姿は滑稽にしかうつらない事は明らかだった。
そこで、この店員は親切心で、リリが無駄な買い物をせぬようサービスで、このように言ったのだ。
 
リリ:「……あ”ぁ”ん”?」
 
しかし、リリは瞳孔の開き切った鋭い目に、真っ黒に見えるほど眉間に皺をよせ、店員を睨み付ける。
その姿、鬼のごとし。
 
『す、すぐお持ちします!』
 
店員は逃げるようにして、在庫を調べにその場を離れる。
リリのスマホアプリの中で、彼女の最高の道具ダイナブレードは思う。

ダイナブレード:(結局、着てみて似合わなすぎて凹んで終わるんだがな……)
 
どうやらこの光景自体そう珍しいものではないらしい。
しかし、いちいち警告するとリリが物凄く機嫌を悪くするのを知っていたので、ダイナブレードは思うだけにとどめた。
流石に、リリに最高の道具と言われるだけあって主人の機嫌の伺い方を心得ている。
 
リリ:「ダイナブレードはどう思う? 黒と赤どっちが似合う?」
 
ダイナブレード:「黒もいいんじゃないのか。赤い髪が映えそうだ」
 
(どっち来てもどうせ似合わないんだがな)とダイナブレードは思ったが口にしなかった。
そんな事よりも、帰ってからドレスの似合わなさに凹んだリリを慰める方法を考えていた。
リリに対して最適化された実にすばらしい道具である。
 
 
数時間後、リリは上機嫌で大きな紙袋を持ち(高級店だと紙袋もなにやら高級そうな素材を使っているのかキラキラ光っている)
鼻歌を歌いながら、街中を歩いていた。
更にはその腕には、高級腕時計、耳には純金のピアス……とちょっとしたマダムのような気分で歩いていた。
その時だった。
リリの後ろから走ってきた女性がぶつかった。
 
リリ:「おわッ」
 
『きゃッ』
 
女性は何やら、後ろの方を気にしながら走っていたようで、前方のリリに気が付かなかったのだ。
そのままぶつかってきた女性は勢いを殺し切れず、リリと体を絡ませながらリリごと転倒する。
2,3回ほどごろごろと転がった後、ちょうど、リリが上、女性が下になる形で止まる。
リリは手をついて立ち上がろうとした。
しかし、リリは地面ではなく、女性の上半身辺りに過って手をついてしまう。
その時、リリに衝撃走る……!!
 
 
リリ:「………ッッ!? こ、この感触はッ!!」
  
『痛てて……』
 
あまりの衝撃にリリはサッと立ち上がり、ワナワナと震える。
そんなリリの股のトンネルと這ってくぐり、女性は立ち上がる。
そして、リリに衝突してしまった事を思い出し、慌てて謝罪する。
 
『ハッ! ご、ごめんね! ケガとか無かった!? こ、こんな可愛い少女にケガをさせてしまったら……』
 
しかし、リリはワナワナと震えたまま反応がない。
そして、女性もまた、遠くの方に何かを見つけて、口をとめる。
 
『ご、ごめん、あたしちょっと今相当にやばいからもう行くね! ホントごめんね!』
 
そして、女性は何かから逃げるようにしてその場を離れる。
その、何か、が何なのかは分からないが、リリでは無いことは確かだ。
例え、リリが凄まじい表情だったとしても。
鬼の如き表情だったとしても。
何か闇っぽいオーラが見えそうになっていたとしても。
女性は、リリのはるか後方にいる、何かから逃げているようだった。
 
女性が立ちさったあと、そこには凄まじいとしか形容しようが無いリリが茫然と立っていた。
先ほどまで彼女がもっていた大きな袋は、女性と衝突した衝撃を吹っ飛び、水たまりにはまってしまっていた。
折角買ったドレスが台無しになってしまった。
まぁ、どうせ無駄になったのだが。
 
しかし、リリが現状、凄まじいとしか形容しようが無い理由はドレスが台無しになったからではない。
鬼の如き表情も、闇っぽいオーラが見えそうなのも関係ない。
 
リリ:「あ、あの女ァァ~~~! サイフの一つや二つ盗んでやらんと気が済まんぞォォーーーッ!!」
 
彼女の名誉の為に断っておくが、リリはそんな事でここまで怒るような人間ではないのだ。
幾度となく(主に自分の体型のせいで)洋服が無駄になろうと、凹んでからすぐに立ち直ってきたのだ。
今更こんな事で、修羅になる必要はない。
 
では何故リリはマジギレしているのか、その理由は?
そして、たった今、リリが女性の走っていた方向に向かって、嵐の如く走るだした。その理由は?
 
 
リリ:「 巨 乳 ( あ い つ ) ら … … 駆 逐 し て や る ! こ の 世 か ら … … 一 匹 残 ら ず ! 」


あの女性は巨乳だったッ!
このリリアナ=ナラーには『敵』がいるッ!
嫉妬すべき『巨乳(てき)』がいるッ!! 
女性はスタイルが良いだけでなく、容姿端麗だった。
リリがちょっとした小さな国のアイドル程度の可愛さだとするならば、女性は一流モデルかのような美しさ。
それくらいの差があった。
左目の下の黒子があり、癖っけの強い長い茶髪が与える元気そうな雰囲気とのギャップで、逆に妖艶さを引き立てていた。
グラマラスッ!
セクシーッ!
エロスッ!
ボンキュッボンッッ!!
リリの持っていないものを全て兼ねそろえているその女性は、リリには、喧嘩を売っているように感じられた。
冷静さを失ったリリにはそう思う事しかできなかった。
 
リリは右手を開いたり、閉じたりしながら走っていた。
あの感触が消えない。
立ちあがろうと手をついたとき、間違って揉んでしまった巨乳の感覚が消えない。
この感触を消さなければならない。
リリの獣のような本能がそう叫んでいた!!
 
 
リリ:「 U R R R R R Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y ー ー ッ! ! ! ! ! ! 」
 
 
 
この時、リリはまだ知らない。
 
この、貧乳と巨乳の出会いは、
 
後にリリを大きな事件に巻き込むきっかけであったのだという事を。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
流慕:「さて、じゃあ始めるか」
 

ギディとハルカゼが流慕から死神の本名、ヴァレン=D=ジョーカーの名を聞いてから20分ほど経過すると米斗は帰ってきた。
流慕から死神の本名を話した事を聞いても米斗は「そうか」と言うだけで、顔色かえずに近くのソファに腰をおろした。
そして、流慕がこのように切り出したのだ。
 
流慕はなにやら一枚の紙を机の上に置いた。
紙にはずらずらと人の名前が書いてある。
国籍に統一感は無く、全てアルファベットで記載されているものの、東西南北ありとあらゆる国の名前が見受けられた。
そして、そのほとんどの名前に、赤のボールペンの手書きで×印が付けられていた。
 
流慕「さて、これまでの俺達の調査によると、死神は過去に失踪する直前に魔王からとある指令を受けている」
 
そう言って、流慕は人差し指で机の紙をつんつんと叩いた。
 
流慕:「犯罪者100人分の裁きだ」
 
そう、その紙に書かれていた人名の数々はすべて犯罪者の名前だった。
ギディは教えられたとたんにそこに書いている名前が妙にいかつく見えてきた。
彼は単純な男であった。
 
ハルカゼ:「たしかになんか悪そうな名前のやつ多いな」
 
しかし、彼の相棒も単純であった。
 
流慕:「さて、俺達の調査の結果……」
 
次に流慕は紙に手書きで記してある赤い×印を順々に指差していく。
もう一度言っておくと、その紙に記された名前のほとんどに×印がつけられている。
 
流慕:「すでに100人中98人が死亡していた」
 
死神が殺しの指令を受けたのだ。
あの、史上最強最悪の殺人鬼が本気で人を殺すつもりになったのだ。
当然と言えば当然の結果である。
 
流慕:「そして、生死不明が1人」
 
流慕は紙の中の「ボロス=ディーア」という名前を指差した。
この名前には「?」マークが書かれている。
 
流慕:「そいつがこの男、ボロス=ディーア。巨大ギャング組織〝キング・レオーネ〟のボスだ」
 
流慕は軽くボロス=ディーアという男の説明を行った。
ボロス=ディーアは裏の世界でも相当な力を持つギャングのボスで、ミラディン国を中心に活動をしている。
しかし、その姿を見た者は未だない。
力持つ故にボロスはありとあらゆる外敵に命狙われる身。
いつ、どこで、誰に狙われるかも分からない。もしかすれば仲間に裏切られる事もあるだろう。
それを理解していたボロスはただでさえ裏の世界の住人であるのに、さらに裏の中の更に奥深くの闇に潜み、組織を動かしてきた。
ギャング組織〝キング・レオーネ〟の影響力は凄まじく、各国の政治家、軍隊とのつながりからミラディン国周辺の地域を支配していたといっても過言でない。
その影響力の強さから、魔王にメダロットの軍勢を差し向けられたが、そのメダロット達を全て撃墜してしまったという噂すらある。
メダロットに殺せないなら、死神が魔王からボロスを殺す指令を受けるのは自然な流れであるともいえる。
 
流慕:「このボロス=ディーアがもしも生きていれば、死神と接触した可能性がある」
 
ギディ:「つまり、このボロス=ディーアってやつを探すんだな!」
 
ギディは勢いよく立ち上がり、拳を突出して気合いを入れる。
 
流慕:「いや、こいつは諦めた」
 
ギディ:「……ズルッ」
 
ギディは間の抜けた顔で言った。
 
米斗:(ズルッって口で言ったぞ……こいつ……口で言ったぞ……!)
 
米斗は戦慄した。
流慕は気にせず話を続ける。
 
流慕:「さて、今説明した通り、ボロス=ディーアも死神並みに行方が分からねえ。だからこその生死不明だ」
 
そう、片瀬兄弟ですらボロス=ディーアの居場所を発見する事が出来なかったのだ。
それほどまでにボロス=ディーアは闇に埋もれ、紛れた謎の存在であるという事である。
 
流慕:「つまり、俺達が追うのはもう一人。〝生存が確認された1人〟だ」
 
ハルカゼ:「なんだよ。じゃあ最初っからそう言えよー」
 
ハルカゼは文句を言う。
しかし、流慕からしてみればこれだけ調べるのに相当の苦労をしたのだ。
その苦労も知らないギディとハルカゼに、ようやく自分たちが見つけた答えだけを教えるというのは癪だった。
せめて自分たちの苦労の1割でも分からせてやろうと、必要の無い、これまでの経緯を話したのだ。
尚、ここに至るまでに片瀬兄弟は1年ほどかかっている。
そもそも犯罪者たちと言うのは、未だ警察に発見されていない存在なのだ。
ボロス=ディーア程ではないにしても、見つけ出すのにはそれなりの苦労が必要なのだ。
 
ギディ:「で、どんな奴なんだ? 犯罪者って言うからにはなんというか……ヤバイのか?」
 
ギディは語彙が少なかった。
 
流慕:「いいや、単なる〝美術品の贋作製作〟だ。……つってもあまりにも精巧な偽物すぎて、何かと裏の連中に利用されている。
    本人自体は無害だが、こいつがいるばっかりに変な事を企む糞ったれが大増殖しちまうってわけだ。
    どっかの国では、こいつの作った偽物つかまされて2億円もの損害が出たなんて事もあったっけな」
 
犯罪者にもいろんな種類がいるようだ。
この犯罪者は本来ならば死神に裁かれるような凶悪犯罪者では無かったはずだ。
しかし、それ故にありとあらゆる組織、集団、あげくの果てには国家からも利用される悪の温床となってしまった。
すぐに世間の害として始末される凶悪犯よりもよっぽどやっかいな存在であったのだ。
 
ハルカゼ:「へー、なんつーか大した罪でもないのに殺されるって可愛そうだな」
 
米斗:「いや、生きている」
 
ハルカゼ:「あ、そうだった」
 
思い込みとは恐ろしいものだ。
ハルカゼは今、思い込みによって勝手に人を殺した。
これもちょっとした罪ではなかろうか。
 
流慕:「さて、つまりこの女は死神と接触した可能性がきわめて高い」
 
流慕はニヒルな笑いを浮かべて、煙草に火をつける。
しかし、この時ギディは、小さなひっかかりがあった。
今、流慕はギディにとって何か、意外な事を言わなかったか?
その疑問を浮かべてから2秒、ギディはすぐにその疑問の答えを見つけた。
 
ギディ:「今、女って言った?」
 
ギディにとって女が犯罪をするというのはなんとも意外な事だった。
先ほど訪れた酒場にいたのは大体が男だった。
しかも、髭面でスキンヘッドとかいかつい、筋肉モリモリマッチョマンが多かった。
筋肉モリモリマッチョマンたるギディが筋肉モリモリマッチョマンと認めるのだから間違いなく、筋肉モリモリマッチョマンが多かった。
 
しかし、よくよく考えればギディがイニストラードで会ったリリアナ=ナラーも泥棒、すなわち犯罪者である。
彼女の印象として、あまり犯罪者という雰囲気がしなかったので気が付かなかったが実際の所、女の犯罪者ってめずらしくないじゃん。
そうギディが気付いたあたりで、流慕は人差し指を立てて神妙な顔つきで言う。
 
流慕:「さて、そうだ。女だ。しかも、これは物凄く重要な事だが……〝美人〟でしかも〝巨乳〟らしい」
 
ギディ:「それはどうでもいい」
 
ハルカゼ:「それはどうでもいい」
 
米斗:「それはどうでもいい」
 
流慕:「さて、つまらん奴らだなお前らは」
 
弟の米斗にまで、軽い裏切りを受けわずかながら傷ついて(ただしその傷はとてもとても浅い)流慕は煙を吐き出す。
 
ギディ:「とにかく、この犯罪者を追えば死神の手掛かりが見つかるかもしれないって事だな!」
 
流慕:「あーそうだよ。ついでに一発ヤらせてもらえれば尚良いな」
 
ギディ:「それはどうでもいい」
 
ハルカゼ:「それはどうでもいい」
 
米斗:「それはどうでもいい」
 
 
流慕:「お前らホントつまんねーな」
 
とうとう流慕は拗ねて、そのままソファに横になってしまった。
しかし、ギディは気にせずに、机の上の紙で、×印も「?」マークもついていない名前を探した。
そして、見つけた。
名前の特徴から言うと、流慕や米斗と同じ、東の島国の出身なのだろうか?
と疑問に思いながら、その名を読み上げる。
 
 
 
ギディ:「―――えーっと……Ruku=Hojo……るくほじょ……〝宝条ルク〟か」
 
  
 
 
 
 
 
 
 
第十二話【進撃の巨乳】  おしまい  
 
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.26 )
   
日時: 2014/06/22 01:02
名前:

第十三話【SHE IS RUKU】
 
 
リリは激怒した。
必ず邪智暴虐の巨乳至上主義を除かなければならぬの決意した。
リリには闘いが分からぬ。リリは泥棒だ。
金持ちの家に忍び込み、金庫を暴き、宝石を盗んで暮らしてきた。
けれども、巨乳には人一倍に敏感であった。

今日未明、リリは買い物を楽しん居るところを巨乳の女性にぶつかられ、折角買った衣服を汚された。
女性には悪気など無かった。
女性は急いでいるらしくそそくさとその場を後にした。 
リリは激怒した。
いつもならちょっとムッとして終わる程度の事だが、相手が巨乳だったというだけで怒りが何倍にも増幅してリリにのしかかった。
 
そして、今、リリは悪魔のような、怪物のような、吸血鬼のような恐ろしい形相で走っている。
憎き巨乳になんか仕返しするために!
ちなみに彼女の過去に巨乳に最愛の人を殺されただとか
巨乳に信じる神を殺されただとか
巨乳が村に襲ってきて畑を焼き、ついでに流れ弾で友人が当たって死んだだとか、
巨乳を滅ぼす為にとある天才科学者が作り出した対巨乳用兵器である
とかそういう過去は一切無い。
彼女の巨乳への怒りは『いつ』からなのか誰にも分からない。
何か一時的な事件をきっかけとしたものではないからだ。
耐えがたき屈辱を長期に渡って味わううちに自然に憎しみを抱いていた。
 
まぁ、そんなリリの巨乳への憎しみは物語的にどうでもいいので置いておいて。
 
リリは我を失い走っていた。
この時、もしもリリが冷静であれば彼女は気が付いていたはずだ。
巨乳の女を追っているのが自分だけでは無い事に。
そして、それは彼女と同じに臭いの者達。
 
〝裏〟の世界の側の者であるのだと。
 
 
リリ:「つ、か、ま、え、た、ぞォーーーッ!!」
 
 
ついにリリは憎き巨乳の乙女に追いつき、彼女の腕を掴んでその動きを止めさせた。
ちょっとぶつかっただけでここまで追いかけるとは、リリの執念に称賛の念を禁じ得ない。
それと同時に、掴まった巨乳の乙女に同情の念を禁じ得ない。
 
「な、何……!? あ、あなたはさっきの……追いかけてきたの?」
 
既にリリと彼女がぶつかった場所から随分と離れた場所にきた。
最初は人通りの多い繁華街だったが、人通りの少ない郊外の裏路地まで来ていた。
ここまで追いかけるリリもリリだが、逃げる彼女も彼女かもしれない。
 
リリ:「巨乳は一匹残らず駆逐してやるッ・・・」
 
リリの鬼の如き顔を見て、若干尻込みをする巨乳の乙女。
しかし、彼女もまたやんごとなき事情を抱えているらしく(彼女〝も〟とは言ったがリリの事情がやんごと無いかどうかは判断しかねる)
慌てて言う。
 
「何だかよく分からないけど……ぶつかった事なら謝るわ! お金を払ってもいいから!
 だから、今だけは、私から離れて! でないとあなたを巻き込む事に」
 
リリ:「もはや金なんていらんわァーーッ!! 体で払えッ!
   きさまの生命でこの(心の)傷の燻蒸消毒してくれよう!」
 
「か、体で……払うッ!?」
 
彼女は目を見開いて驚いた。
なんぼなんでも驚き過ぎなくらいに驚く。
 
リリ:「そうだ! お前の体で……何ジロジロみてんのよ、顔近いわよ」
 
リリの予想では彼女は再び、恐れおののき、逃げ出すものと思っていた。
しかし、実際にはリリを観察するように眺めていた。
そして顔が近い。リリとキスするかしないかくらいの距離で観察するので、思わずリリの方が引き下がってしまった。
 
「……あなた、名前は?」
 
唐突に名前を聞いてくる。
貴様から名乗れ!と強く言ってやろうと思ったのだが、どうにもリリのペースでなくなり、それも言い難い。
 
リリ:「……リリアナ=ナラーよ」
 
思わず名乗ってしまった。
 
「……そう、リリちゃんね。貴方……やっぱり可愛いわ」
 
リリ:「……は?」
 
話の流れがよく分からないリリ。
完全に会話が向こうのペースである。
 
「あたし、風俗だけには手を染めた事は無かったんだけど……リリちゃんなら、いいわよ♥」 
 
と、巨乳の乙女は、頬を赤く染めながら言う。
 
 
リリ:「待て待て待て! そういう意味じゃあないッ! たしかに私の言い方も悪かったけど……おい!こら! 服を脱ごうとするんじゃあない!」
 
「大丈夫よ、お姉さんはリリちゃんの為ならひと肌でもふた肌でも脱げるから」
 
リリ:「だからそうじゃねえつってんだろ!! 頬を赤くするな!腰に手を回すな!顔を近づけるなァーーッ!」
 
 
リリ絶体絶命のピンチ!
脱ぎキャラの座を奪われかねない事態に……ではなくて。
何か今までとは違う世界が開きかける事態に!
 
 
『お楽しみの所悪いですが……少し話を聞いてもらえますかい?』
 
 
と、その時、リリに救いの救世主現る。
否、救世主ではなかった。
リリが声の下方向を見ると、黒服サングラスのどう見ても正義の味方とは思えない男達が5人程いた。
その男達のいずれもから、怪しい空気が漂っている。
リリは瞬時にその男達が、自分と同じ犯罪者の世界で生きている者だと悟った。
 
リリ:「もしかして……こいつが全力疾走してたのは、あんた達から逃げてたってわけー?」
 
よくよく思い出してみれば、たしかにリリの視線の隅っこの方に彼らが映っていたきがする。
その時、リリは無我夢中で走っていたため気が付かなかったが、たしかに彼女は景色に違和感を感じていたのだ。
それが目の前の黒服達というわけだ。
 
『まぁ、そういう事ですな。人通りの多いところを抜けるまで尾行しているつもりでしたが、
 まさか俺達に気が付くや否や、人通りの少ない所に逃げ込んで、他人を巻き込まないようにするとはねぇ。
 見上げた度胸ですよ』
 
(し、しまった……リリちゃんを巻き込んでしまった!
リリちゃんが可愛すぎて逃げるのを忘れていたんだわ! リリちゃん……罪な女ッ!!)
 
リリ:(なんだか嫌な視線を感じる)
 
クッソ下らない理由で(と言うとリリに悪い気がしないでもないが)黒服達に追い付かれた巨乳の乙女。
その割には、まだリリの事を考えられるようで、余裕がありそうだ。
訳も分からず巻き込まれたリリの方が慌てている。ある意味でも。
 
 
『とにかく、まずはうちのアジトに来て下さいよ……〝宝条ルク〟さんよぉ』
 
 
リリ:「〝宝条〟……?」
 
黒服のうちの一人が、巨乳の乙女の本名を口にする。
そういえば、リリは彼女の乳ばかりにとらわれて、彼女が父から受け継いだ名字も、父につけられた名前も聞いていなかった。
 
リリ:「〝宝条〟ってあの天才一族の宝条?」
 
リリは〝宝条〟という名を知っていた。
いや、リリだけではない。この世界では誰でも知っている名だ。
〝宝条〟とはメダロットに対し異常なまでの才能を誇る、東の島国のとある一族の名だ。
世界的に名を馳せた科学者を何名も輩出しているし、メダロットが関わる者であれば研究開発にその才能は留まらない。
ある者はメダロットを主題にした映画でアカデミー賞を受賞したし、
ある者はメダロットのパーツを義手や義足にする技術を発見し、医学に貢献したし、
ある者はメダロットミスコンを極め、美の頂点に立ったし、
ある者はメダロットの小説を書きまくり、バーサーカーの異名をとったが、……これはどうでもいいや。
とにかく、宝条とはメダロットに関する何かに対して才能を秘めた一族なのだ。
 
そして、黒服はリリの目の前の女を〝宝条ルク〟と言った。
 
ルク:「そうよ、リリちゃん。あたしは元・宝条家の人間」
 
巨乳の乙女、もとい宝条ルクは、リリを黒服から守る様にして、リリの前に立つ。
 
リリ:「〝元〟・宝条家?」
 
ルク:「あたしは『宝条一族のはぐれもの』……〝宝条ルク〟」
 
リリ:「はぐれもの?」
 
ルク:「そう、はぐれメタルみたいなものよ……」
 
リリ:「意味分からん」
 
シリアス顔のルクに容赦ないツッコミをいれるリリ。
流石にいくらか修羅場を潜ってきただけあって、落ち着きを取り戻すのが早い。
 
『こちらもあまり手荒な事はしたくはないんですがねぇ……ボスには殺さないように命令されてますし?』
 
そう言いながら、黒服の内の一人が懐からリボルバー銃を取り出す。
他の四人は後ろで待機している。
おそらく今はなしている黒服がこの中のリーダー格なのであろう。
 
リリ:(あのリボルバー銃……よく手入れされているわね。でも、なんだろ、何か違和感感じるのよね)
 
『とはいえ、これ以上抵抗されるようでしたら、死なないまでも痛い目にあってもらいますぜ?』
 
黒服がリボルバー銃の撃鉄を起こしながら、その銃口をゆっくりとルクに向ける。
しかし、ルクは少しも動じない。
両腕を大きく広げて言う。
 
ルク:「どうぞ、撃てば?」
 
『……宝条ルク、たしかに俺は組織の下っ端だ。常に上の判断を仰がなくてはならない。柔軟な対応もしにくい。
 だがなァ、我が組織を舐めてもらっては困る。ただのチンピラと一緒にしないで頂きたい。
 ミラディンを中心に世界のあらゆる国の〝裏〟を支配するギャング組織……キング・レオーネを馬鹿にするなよ?』
 
ルク:「だから撃てばいいじゃない? ギャングのオジサマ?」
 
『……チッ』
 
黒服は銃口をルクの太ももあたりに向ける。
彼はルクを本気で撃つつもりだ。
撃っても死なない程度にだ。
勿論、ルクを捕まえるのが彼に与えられた仕事だからというものもある。
しかし、彼の所属する組織は、今彼が言ったように〝キング・レオーネ〟。
裏の世界で大きな力をもつギャングだ。
女一人のはったりに押し負けたとなれば組織の名に傷がつく。

撃鉄を起こし、引き金を絞る……ズキューンッ!!
弾丸が闇を切り裂き、ルクに迫る。
そして……
 
ルク:「グハァ……ッ!!」
 
ルクは左胸から大量の血を噴き出して、膝を折った。
ちょっとした噴水の様に赤黒い液体がどばどばと吹き出し、そして、ルクは口から血を吹いた。
この状況に一番驚いたのは銃を撃った本人、黒服である。
 
『馬鹿な!? 俺はたしかに足を狙ったはずだ!どうして胸に……俺は競馬場で客席から走った馬を打ち殺せる銃の腕前だぞ!?』
 
リリ:「……!!」
 
リリもまどうして良い慌てていた。
目の前で血はいてルクが死んだ。
はたして巨乳の死を喜ぶべきか、目の前で人が死んだ事実を悲しむべきか。
リリの修羅としての心と人としての心がせめぎ合っていた。
 
と、その時、死んだはずのルクの手がリリの腕をつかんだ。
 
リリ:「ヒッ!?」
 
ルク:「逃げるわよ! 走ってリリちゃん!!」
 
そして、ルクは素早く立ち上がるとリリの手を引いて逃走を再開した。
黒服は完全に不意をつかれた。
 
『え? ま、待て!?』
 
そして、ルクを追いかけようと走り出した。
ところがどっこい、ちょうど先ほどルクが血を吹きだして倒れた地面を踏んだ瞬間だ。
 
『な、足が!?』
 
ルクの流した血に靴の底がくっついて離れない。
何故か、残りの四人も同様に血に足をとられてしまう。
まったく、ギャング組織キング・レオーネの顔に泥を塗ってしまった五人であった。
 
ルク:「あの〝血のり〟はねー。あたしの持ってる特殊な液体と混ぜ合わせると、文字通り〝のり〟になるのよーん」
 
走りながらルクはリリに説明をする。
 
リリ:「血のりだったのね……」
 
ルク:「そ♪血のり、……〝血のレプリカ〟よ」
 
ルクは血のりを使って死んだふりをしていたのだった。
そうして、相手を混乱させ逃亡したのだ。
しかし、もう一つ納得のいかない事がある。
先ほど黒服の放った弾丸だ。
黒服の言葉を信用するなら、彼が狙いを外すとは思えない。
銃の手入れもよくしてあったし、銃に問題があったわけでもなさそうだ。
  
『逃がすかァーー! 人がおとなしくしてりゃあこのアマーーッ!!!』
 
悠々と走り去ろうとするルクとリリだったが、こんな所で終わる黒服ではない。
仮にも裏を支配するギャング組織の構成員なのだ。
走り去る女二人を逃す訳にはいかないと、今度こそと発砲する。
 
しかし、
 
ペチンッ☆
 
『……は?』
 
たしかに弾丸はルクの太ももに直撃した。
遠くで動いている人間を見事に打ち抜いた黒服の銃の腕は本物なのだろう。
だが、ルクは相変わらず、何事も無かったかのように走っている。
 
ルク:「痛たたた……ダメージ1くらい食らっちゃったって感じね」
 
いや、ちょっと痛そうだ。
しかし、普通はちょっと痛そうで済む筈はないが。
 
『な、なんだ!? なんであいつ、リボルバー銃で撃たれてピンピンしてるんだ……?』
 
愕然とする黒服。
結局、彼は宝条ルクを取り逃がしてしまったのだった。
 
走りながらリリは血のりまみれのルクに尋ねた。
 
 
リリ:「あんた、なんでリボルバー銃で撃たれてピンピンしてんの? 人間やめてるの?」
 
ルク:「だってあれ〝リボルバー銃〟じゃないもの」
 
リリ:「どゆこと?」
 
ルク:「すり替えたのよ。前に一回だけアイツと接触する機会があったから、その時にね」
 
 
そして、ルクは得意顔になって高らかにこう言う。
 
 
 
『 ア レ は ね ぇ 。 宝 条 ル ク ち ゃ ん 特 製 の レ プ リ カ 品 … リ ボ ル 『 パ 』 ー 銃 よ ! ! 』
 
 
  
ルク:「………………アレ?どうしたの?リアクション薄いよ~?」


リリは呆れて開いた口がふさがらなかった。

  
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
メダナイト:「……胸騒ぎがするな」
 
ソリン:「俺もするぜ、恋って名の胸騒ぎがな……あーあ、さっきのお姉さんはマジで大当たりだった」
 
メダナイト:「ふざけていると斬るぞ」
 
 
メダナイトとソリンは合流して、魔王の情報を探していた。
一人になると、ソリンの女好き王族の血が騒ぎだしてしまうので、結局メダナイトという見張りをつける羽目になったのだ。
しばらく仲良くいつものように喧嘩していた二人だったが不意にメダナイトが辺りを見渡し始めた。
 
メダナイト:「何か……なんともいえぬ違和感を感じるな」
 
メダナイトは感じていたのだ。
この街に潜む、〝裏〟の者達の気配を。
そして、その〝裏〟がメダナイトの言うと事のレディに危害を加えるような気がしたのだ。
メダナイトとソリンの目標は魔王を倒す事だ。
しかし、メダナイトにはもう一つ生きる上での目標があった。
〝レディを守るのは騎士の務め〟というものだった。
これは信念というより、ある意味ちょっとした病気みたいなもので、困った女性がいると助けずにはいられないというものだった。
ある意味、ソリンのナンパせずにはいられない病と似たようなもので、どっちも対象が女な辺り、この二人、似ているかもしれない。
 
ソリン:「そういえば……俺も、素敵な出会いが待ってる気がするぜ……!」
 
ソリンもなんか言い出した。
 
メダナイト:(馬鹿王子は放っておくとして、何やら嫌な気配がする……方向は……)
 
ソリン:(堅物騎士気取りは放っておくとして、何か血が騒いできたぜ……方向は……)
 
 
メダナイト&ソリン:「こっちだ!」
 
 
と、まったく同じタイミングで、まったく同じ方向を
ソリンとメダナイトは指差した。
 
ソリン:「…………気が合うねえ。お前も良い女の気配?」
 
メダナイト:「…………貴様と同じにするな。ただレディが困っているような気がしただけだ」
 
ソリン:「やっぱり女じゃねえか!」
 
メダナイト:「一緒にするな!」
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




宝条一族は幼少期は誰もが平等に扱われる。
平等に、丁重に扱われるのだ。
〝才能〟によって巨万の富を築きあげた宝条一族は、新たなる才能を秘めた子供達をとても大切に育てる。
欲しいというものは全て与え、
ありとあらゆる外敵から守り、
何一つ不自由しない裕福な暮らしをさせ、
世界のどこよりも素晴らしい教育を行う。
 
しかし、それはその子供の〝才能〟が明らかになると途端に平等でなくなる。
宝条一族はメダロットに関係する内容でしか才能を発揮する事ができない。
だが世界中に広がったメダロット文化のおかげで、才能によっては世界を大きく動かし、更なる富を築きあげる事が可能となる。
そういった種類の才能を持ったは、依然として丁重にもてなされる。

次々と画期的なメダロットを開発し、世界規模の新型メダロット開発プロジェクトに参加した一族の天才、
メダロットのパーツを義手や義足として動かす手法を見つけ、医学界を大きく進歩させた一族の天才、
こんな才能を持った宝条は、一族の宝であった。
 
ロボトルの才能を開花させ、ありとあらゆるロボトル大会を総なめにする一族の天才、
メダロットミスコンの圧倒的なセンスによって世界から称賛される美術家、
こんな才能をもった宝条は、宝条の名を世界に轟かせる広告塔であった。
 
メダロットを主題にした映画をとる映画監督、
メダロットを主題にした小説を執筆するラノベ作家、
こういう才能はあまりに限定的な場面でしか使えない才能だ。
映画全般でも小説全般でもなく、メダロットを主題とした作品限定。
そういった宝条は一族のカーストの低い所に位置し、幼い頃うけた優しい対応を受けることはできなくなる。
 
 
ある日、一族のある少女のある〝才能〟が発覚した。
それは『メダロットのパーツのレプリカを作る才能』であった。
 
そして、
 
その何の役にも立たない才能をもった少女は、歴代の一族の中で最底辺の扱いを受ける事になった。
 
 
ある時は「一族の恥さらし」と他の宝条からののしられ、
またある時は「一族のお荷物」だと笑われ、
さらには使用人にまで「一族のニセモノ」と陰口を叩かれる始末。
 
その少女こそが『宝条一族のはぐれもの、宝条ルク』であった。
 
 
その扱いに耐えかね、ルクは14歳の2月14日に家出をした。
自分の生きる場所として、
自分の幸せを掴む場所として、
多いな希望を持って〝社会〟という世界へと飛び出したのだ。

この宝条という世界が悪いのだ。
環境が悪いのだ。
場所が変われば自分は輝けるのだ。
そう思ってルクは家を抜け出し、『はぐれもの』になった。
 
元々何の期待もされていないルクを探そうとする者は誰もいなかった。
むしろ養育費がかかって邪魔だとすら思われていただけに、一族のものはラッキーだとすら思った。
事実上の勘当という事になる。
 
 
〝宝条〟という狭い世界から、〝社会〟という大海原に出たルク。
今度こそ、ここで成功を収めようと心踊る彼女の前に現れたのは、残酷なる現実ただそれだけだった。
 
14歳という年齢のルクには碌な仕事が無かったのだ。
安い賃金のバイト生活に明け暮れ、それでもまだその時はいつか成功してやろうと耐えていた。
 
しかし、年を取るにつれて社会はルクに更に牙を剥く。
ルクには学歴がなかった。
中学校ですら、事実上卒業していないのだ。
世の中すべてが学歴で決まるというわけではないが、
学歴がある者とはすなわち、良い教育を受けるチャンスが多くあった者だ。
そのチャンスを生かすか、逃すかは本人次第であるが、ルクにはそもそもチャンスが無かった。
 
結局、ルクは宝条にいる事と何も変わらなかった。
宝条という世界か逃げ出し、社会という世界に来ても何も変わらなかった。
むしろ、社会に出てみれば、毎日黙っていても食事が用意され、学校に行かせてもらえた宝条の生活の方が良かったとすら思える。
  
結局、ルクは〝社会〟でも最底辺の存在となり、また新たなる世界へと逃げ出す事になる。
〝宝条〟から逃げ、〝社会〟から逃げ出したルクはとうとう〝裏社会〟にまで墜ちてきた。
 
当然、〝裏社会〟にもそれ相応の苦労がある。
むしろ、〝社会〟にいた時の方がマシだと思える程の苦労があった。
何をやっても上手くいかない。
どの世界からどの世界に逃げてもその残酷な現実は変わらなかった。

ある日の事だった。
裏社会の中でもまた別格の世界がルクを誘惑した。
〝風俗〟と呼ばれるような世界だ。
表にも似たような仕事はいくつかあるか、裏世界では相手にする客層が圧倒的に違う。
しかしだ。
簡単な仕事だと思った。
 
ただ、服を脱ぎ股を開くだけだ。
舐めろと言われれば、客のありとあらゆるところを舐め、
着ろと言われた服をきて、
使えと言われた玩具を使い、
命令通りに腰を振るだけだと思った。
幸か不幸か、ルクはスタイルも良ければ容姿も整っていた。
この世界に逃げ出せば、安易に明日生きるための金が手に入るかもしれない……。
 
そう、ルクは思った。 
 
しかし、
気が付いた。
 
とても楽そうに見える。
簡単に見える。
今までの世界とは違う。
これが自分のいるべき真の世界だ。
……そんな風に思って、今いる世界から逃げ出したとしても
きっと、新しい世界には新しい世界の苦しみがあるんだろう。
今いる世界とはまた別の絶望があるのだろう。
悲しみが、怒りがあるのだろう。
 
 
 
環境が悪い。
世界が悪い。
場所が変われば、自分は幸せになれる。
そんなものは幻想だ。
 
ある世界で苦労し、別の世界に逃げ出した所で
結局その別の世界では新たなる苦労がある。
どこへ行っても苦労は付き物で、自分に都合の良い世界なんてないのだ。
 
世界を変えても意味は無い。
自分が変わらねばならないのだ。
 
 
そして、ルクは今の世界に留まった。
 
否、今の世界で戦う事を決心したのだ。
決して安直な道に流れず、苦痛と真っ直ぐに向き合う決断をしたのだ。
 
 
丁度、その決意をして、ルクが裏社会と全力で向き合う生活を送る事に慣れた頃だった。
ルクは自分の変化に気が付いた。
自分の〝才能〟の変化に気が付いたのだ。
 
ルクの才能は元々『メダロットのパーツのレプリカを作る才能』だった。
宝条一族の才能はメダロットにしか効力を発揮しない。
しかし、宝条一族から抜け出したルクの才能は、メダロット限定という宝条の才能とは別のものへと変化した。
〝宝条〟という世界から逃げ、
〝社会〟という世界から逃げ、
そして〝裏社会〟に留まり、決死の戦いを続けた彼女の才能は
『ありとあらゆる物のレプリカをつくる才能』に変化していた。
 
そして、ルクは美術品のレプリカをつくるビジネスを裏で始めた。
ビジネスは成功し、ありとあらゆる裏の住人達が利用する所となった。
 
 
 
こうして、宝条一族のはぐれもの、宝条ルクは自らの生きる世界を、自らの才能によって切り開いたのだった。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ルク:「ハッ……ハッ……!」
 
リリ:「ハァッ……!ハァッ……!」
 
ルクとリリは相変わらず逃走を続けていた。
 
リリ:「あ、あのさ思ったんだけど……ッ!」
 
ルク:「何…ッ?」
 
 
リリ:「別に私、あんたと一緒に行動する必要無くない?」
 
 
そういえば追われているのはルクだけの様だった。
リリはあんまり関係なさそうであった。
 
 
ルク:「リリちゃんと手繋いで走るのが楽しくて、つい」
 
ルクは真顔で言った。
 
リリ:「おー、キモ過ぎて怒る気にもならんわー」
 
リリも真顔で言った。
 
 
『いやいや、赤い髪のお嬢さんも狙ってますよー? 目撃者だからな』
 
 
はっとして振り向くと、先ほどの黒服が立っていた。
もう追いついて来たのか。
いや、それだけでは無かった。
唸るようなエンジン音と共に黒い高級車が4台、ルクとリリを取り囲むようにして停車した。
 
『これがキング・レオーネだッ! 小娘! 横にいる赤毛の女を連れて大人しくこちら側に来い!!』
 

黒服がリボルバー銃をこちらに向けて凄む。
今度こそ男の持っている銃はリボル『パ』ーではないはずだ。
 
ルク:「嫌よ、あたしを捕まえて、愛する旦那を釣ろうって魂胆なんでしょ?どうせ」
 
そう言うとルクは何かを悟ったような目をして、黒服に向かって一歩前へ出る。
そして、背中越しにリリに話す。
これまでとは違う、どこか落ち着いた声だ。
数々の修羅場を、世界を、渡ってきた経験の滲みでているような深い声だ。
 
ルク:「ごめんね、リリちゃん……あたし、変な青春時代送ってきたもんで〝女友達〟って奴に縁がなくてね。
   リリちゃんみたいな可愛い女の子にどう接すればいいか分からかったや……」
 
リリ:「…………」
 
ルク:「あとついでに巻き込んだのも、ごめんね」
 
リリ:「いや、そっちをメインで謝れよ」
 
リリもやはり数々の修羅場を、世界を、渡ってきただけありこの窮地に置いて妙な落ち着きを持っている。
 
ルク:「でも、リリちゃんだけは何とか逃げれるように、あたし頑張るからねッ!!」
 
『おいおい、頑張ってどうなるものでもないだろう? 大体お前の才能は戦闘向きじゃあないはずだ』
 
ルク:「たしかにそうよ。それどころか宝条では何の役にも立たない才能として蔑まれ〝宝条一族のニセモノ〟とまで言われたわ……しかしッ!」
 
ルクは左手人差し指を鼻筋に合わせ、右肩を上げ、右手をピンと伸ばすという、奇妙なポーズをとって言った。
 
 
ルク:「宝条を抜けたあたしの才能は、メダロット限定という宝条の呪縛すらも打ち破った!
   宝条一族のはぐれものとなり、宝条の枠を超越したこの才能を以てして、私は戦うッ!!
   〝宝条〟からも〝社会〟からも逃げ出した果て、この〝裏社会〟を生き抜くと決めたのよッ!!!
    括 目 せ よ ッ ! レ プ リ カ マ ス タ ー 宝 条 ル ク に よ る 、 〝 ニ セ モ ノ の 美 学 〟 を ッ ! !」
 
 
そこには確かに裏社会を今日まで生き抜いたニセモノではない本物の〝強さ〟があった。
 
 
 
  

第十三話【SHE IS RUKU】 おしまい
 
 
 
 
☆☆キャラクター紹介☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
【宝条ルク】
[性別]女
[年齢]25歳
[備考]かつては天才一族のお嬢様であった〝宝条一族のはぐれもの〟。
   現在は美術品の贋作によって裏社会にて生計を立てている。美人で巨乳。
   その発言からして夫がいるらしい。
   青春時代に家出をし、裏社会に流れ着いた為、女友達というものを作ったことがなく、
   女性に対する接し方がなんか間違っている。可愛い女の子には余計に間違う。
   もしも、家出する際に、〝彼女の理解者となるような女友達〟がいればこうはならなかったであろう。
   DISAPPEARANCEシリーズ>>[225] >>[429] >>[786] >>[940] 
   に同名のキャラクターが登場するが、そのキャラクターとは何の関わりもない別人である。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.27 )
   
日時: 2014/07/13 23:26
名前:

第十四話【ミラディン包囲戦】


 
 その日の午前、リリアナ=ナラーは故郷ミラディンの孤児院の様子を見に来た。
その日の午後、リリアナ=ナラーはショッピングを楽しんで、似合いもしない服を嬉しそうに購入した。
その日の夕方、リリアナ=ナラーは宝条ルクに出会った。
 
そして、その日の夜、リリアナ=ナラーは宝条ルクと共にギャング組織キング・レオーネに包囲された。
 
リリ:「やれやれ……起承転結のある素晴らしい一日な事ね」
 
目の前の宝条ルクはどういう訳だか分からないが、
どういう訳だか分かりたくもないが、
どうやらリリに対して好意をよせているらしく、ギャング組織相手に宣戦布告をしていた。
 
当然、リリはルクにどうにかしてもらおうなんて思ってはいない。
というよりも、リリにしてみればこの場でダイナブレードを転送して空から逃げれば良いのだ。
空中への逃亡はリリの十八番である。
 
では、何故リリはこの場に留まり、このどう考えてもヤバイ状況の中に留まり続けるのか?
それは宝条ルクに興味があったからである。
 
リリ:(興味って言っても変な意味じゃないわよ!)
  
と、リリは誰も、何も言っていないが勝手に心の中で補足した。
 
リリ:(あのルクの作ったレプリカ……随分精巧に作られていた。このリリアナ=ナラーが見抜けないほどに)
 
相手の道具を見て、一瞬にしてその手入れの程を見分けるリリだ。
まさしく、道具を扱う天才であるリリをも欺くルクの技術は、泥棒としての仕事に役に立つと思ったのだ。
少々性格に難がある事と巨乳である事を考慮にいれても、ビジネスパートナーとして使えそうな気がする。
 
それがまず〝第一の興味〟
宝条ルクを技術者としてみた場合の興味だ。
 
そして、〝第二の興味〟がルクを人間として見た場合の興味である。
 
リリ:(人間として見た場合の興味って言っても変な意味じゃないからねッ!)
 
また、心の中で何か意味の無い事を言っているがそれは置いておいて。
 
〝宝条〟と言えばメダロットに関する才能に長けた一族にして、世界でも有数の大金持ち。 
リリも何度か侵入させてもらったことがある。
ルクは自らを『宝条一族のはぐれもの』と称した。
宝条家のお嬢様として生まれたはずのルクが何故〝はぐれて〟しまったのか。
何故、生まれた時から勝者だったはずの者が、表世界での敗北者の世界〝裏世界〟に落ちぶれて来たのか。
そして、ついには、裏世界の王ともいえる巨大ギャング組織に付け狙われるようになったのか。
そこに興味があったのだった。
 
ちなみに、ここまでの物語を真面目に読んでくれた聡明なる読者諸君は、宝条ルクの転落人生をすでに知っている。
が、宝条ルクがギャングに狙われる理由までは未だ謎のまま。
この謎を解決させるにはもう少し、作者に時間を与えてほしい。
まだ役者が足りないのだ。
 
 

宝条ルクの人生を語るにおいて、決して外す事のできない〝ある男〟がまだ登場していない。
その男の登場なくして、宝条ルクの全てを語るのはあまりにもあんまりなのだ。
 
 

  
リリ:「で、なんであんたはギャングに追われてるわけ」
 
ここまでの作者のクリフハンガーっぷりを全て台無しにしかねない言葉がリリの口から飛び出す。
しかし、当然、この少女は作者が一体何を考え、物語を構成しているかなんてこれっぽっちも知らないのだ。
一人の人間として、当然の行動として、分からない事を分かってそうな人に尋ねたのだ。
 
ルク:「……あたしもよくわかんない」
 
リリ:「分からんのかい!」
 
意外な事実が判明した。
ルク本人も自分がどういう理由でギャングに追われているのかを理解していなかった。
理由も分からずギャングに追われるとは一体どのような精神状態なのだろうか?
恐らく恐怖の一点張りだろう。
不思議な力で戦う少年漫画のキャラクターだったり
実は人間に化けているだけのSF映画の宇宙人だったり
死んでも生き返り、後世に信仰の対象となる神の子だったりしない限りは、恐怖するしかない。
 
しかし、ここにいるルクは当然そんな非現実的な存在ではない。
やや現実離れした技術を持っているかもしれないが、それでもただの人間だ。
心臓を貫かれれば死ぬし、平均的な成人男性に思いっきり殴られれば気絶するくらいにか弱い人間なのだ。
そんな彼女が何故、ギャングに包囲されても立ち向かう意志を宿しているのか。
 
それは裏社会で鍛えられて度胸がついたからという理由ではない。
いくら鍛えられても人間の精神力には限界がある。
イニストラードで心の力で戦ったギディやリリやソリンだって、クリスタルやパートナーメダロットがいなければどうなっていたか分からない。
心の力は一人の力ではない。
何かの支えがあって成立するのだ。
 
そして、その心の支えは今日初めて出会ったリリに務まるものはない。
あなたは町で出会ったばかりの、自分好みド直球の異性を助ける名目で、ギャングの集団に宣戦布告できるだろうか。
 
ルクの心の支えは、正気失わず勝機を信じれるその心は、大変簡単なロジックによって成立している。
 
 
ルク:「分かんないけど……多分、報復じゃないかな?」
 
 
そう、ちょっぴりだけ理由を知っているのだ。
ほんのちょっぴりだ。
ちょっぴりだけ知っている。
単なる推測でしかない程度だが、それでも追われる理由に心当たりがあるのと無いのとでは精神的な負担は随分違う。
昨日喧嘩した友人に無視されるのと
昨日とても仲良く遊んだ友人に無視されるのと
心を襲う不安は随分違うはずだ。
 
リリ:「なにそれ? あんたキング・レオーネ相手に何か恨まれることしたわけ?」
 
質問の答えが返ってきてその質問に納得できなければ、また新たな質問をぶつける。
人間として当然である。
作者の都合で行動させられている可哀想な心無きキャラクターではなく、リリアナ=ナラーは確かに人間であった。
むしろ、作者の都合で彼女を止める事が出来るなら、止めたい。
 
ルク:「いや、あたしっていうか……あたしの愛する旦那がね」
 
ほーら言わんこっちゃない。
作者が〝ある男〟なんてもったいぶった人物の輪郭がもう現れてしまった。
 
『なにをゴチャゴチャ言っている、諦めてこちらに来い』
 
と黒服が横槍を入れる。
まさしく彼こそ、作者の都合で動いている可哀想なキャラクターなのであろう。
 
リリはこれ以上の会話をここでするのは不可能と判断する。
 
リリ:「ダイナブレードッ!」
 
ダイナブレード:「……ん、出番か」
 
リリは即座にスマホアプリからダイナブレードを転送。
慣れた手つきでダイナブレードの脚部に片手で掴まると、空いたもう片方の腕でルクの腰辺りに手をまわし抱きかかえる。
そしてダイナブレードは即座に飛翔する。
なんとなく、少年漫画の主人公がヒロインを助け出すような場面に似ていて、
この瞬間のリリは俗な表現の仕方をすると〝イケメン〟と言った感じだ。
 
ルク:「リ、リリちゃん……可愛い…ッ!」
 
それでもルクから見ると可愛いらしい。
女性が女性を見る視点というのは、男性のそれとは大きくずれがあることが原因か、
それともルク自体が、もう一度生まれ変わっても改善されないと思える程に、ズレた感性なのが原因か。
 
『逃がすか!』
 
黒服もただでは二人を逃がすつもりはないらしい。
飛び去ろうとするダイナブレードの下に駆け寄りながら、そこからぶら下がるルクの足にぶら下がる。
 
ルク:「ちょ、ちょっと放してよ! 今リリちゃんといい雰囲気でしょ!」
 
『いいや、放さないね!』
 
黒服は叫ぶ。
 
リリ:「別にいい雰囲気じゃないから!」
 
リリも叫ぶ。
心無しか黒服よりも悲痛に聞こえる。
 
ルク:「もう、もーおッ!」
 
駄々をこねる子供の様にルクは足を振り回す。
それでも黒服はルクの足を放そうとしない。
さすがはギャング。『覚悟』があるッ!
 
その時だった。
それほどの覚悟をもった黒服が落下を始めたのは。
 
『な、何ィ~~~!?』
 
あぁ、黒服はとうとう耐えられずルクの足を放してしまったか。
と誰しもが思った。
しかし、そうではない。
落下している今も尚、黒服はルクの足をたしかに掴んでいた。
ならば何故黒服は落下している?
その答えはルクの足首を見れば明らかだった。
 
ルク:「あああああ あ…あたしの足がッ!」
 
ルクの足首から下が見事に無くなっていた。
そして、黒服の手にはその足首から下だけがあった。
 
ルク:「あ……あ……あるッ!」
 
しかし、すぐにルクのズボンの奥から足首が現れる。
 
ルク:「な なあ~んちゃって………! その足首もレプリカよ」
 
リリ:「まぁ、そうだろうなとは思ったわよ」
 
こうして、無事、五体満足でギャングから逃げられる。
そう2人と1体が思っていた時だった。
 
ガギンッという嫌な金属音がした。
ダイナブレードの足首から。
 
ダイナブレード:「…ッ!?」
 
リリが下をみれば、彼女たちを取り囲んでいた車から数体の射撃メダロットがこちらに向けて銃口を構えている。
 
『宝条家の人間を相手にするんだ。当然の準備だ』
 
黒服がしたり顔で言う。
はぐれものとはいえ、宝条家の人間だ。
当然、何らかのメダロットによる抵抗があると想定して、キング・レオーネはメダロットを用意していたのだ。
ところがどっこい。
ルクがいちいちメダロットと関係の無い動きばかりをするので、彼らは今まで想定外の事態が連続し、してやられていたのだった。
 
ダイナブレード:「……グァッ!?」
 
ダイナブレードの脚部が半壊する。
丁度リリの掴まっている足首のあたりが壊れ、それに掴まっていたリリ、そしてルクの2人は落下を始める。
このまま落下しては、おそらくもうリリとルクはここから逃げることは出来ないだろう。
再度ダイナブレードを地上に下ろして、救出してもらおうにも、警戒したメダロットを有するギャング相手にそれは実行できない。
当然、自力で走って逃げるというのも無理だ。
すっかり包囲されているのだから。
 
リリ:「仕方ない……ダイナブレードォォ!!」
 
落下しながら、リリは自分のスマートフォンをダイナブレードに向かって投げる。
ダイナブレードは嘴を使ってこれを器用にキャッチした。
 
リリ:「アンタだけでも逃げなさい! そして、後で助けに来るのよ! そのスマホを没収されない限りはアンタは自由よォ!」
 
ダイナブレード:「……!? リリ……了解した」
 
一瞬、顔をしかめるダイナブレード。
しかし、彼のマスターたるリリがダイナブレードに出した指示はいつも的確だ。
後ろ髪をひかれる思いでダイナブレードはその場から飛び去った。
 
一方、リリとルクは上手に下半身のバネを使って着地した。
しかし、四方を人間とメダロットと車に囲まれなすすべもない。
少なくともリリは一旦捕まる事は覚悟していた。
それはダイナブレードに、〝後で〟助けに来るように指示したことからも明らかだ。
 
まず、リリが黒服に拘束されて車に押し込まれる。
ルクが「丁寧にあつかってよ!」と叫ぶが、黒服はお構いなしだ。
次に、黒服がルクを車に押し込もうとするが、ルクはリリと違い抵抗をする。
力では黒服に敵う訳もないので、いずれはどうせ捕まるのだが、藁にもすがる思いでルクは抵抗した。
 
 
その時だった。
 
 
「そのレディから手を放せ! 愚か者ッ」
 
 
近くの電信柱の上に何者かが立っている。
黒服はうんざりとした様子で言う。
 
『今、俺は機嫌が悪い。余計な横槍をいれないでもらおうか?』
 
「〝横槍〟だと? これの何処が横槍なのだ?」
 
柱の上の男の目が光った。
この光り方は人間のそれではない。
背格好からしてメダロットのようだ。
 
 
「レディを守るのは騎士の務め。騎士たる私の前でレディを傷つけることは、すなわち私に対して攻撃してきたも同然。
 これは〝横槍〟ではない……〝逆襲〟だッ!」
 
 
自慢の剣グラットニーソードをその手に握り、
暗黒騎士型メダロット、メダナイトは電柱から飛び降りた。
 
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ソリン:「ゼェ……ゼェ……あの糞野郎……人間とメダロットの運動能力差くらい考慮して走れっつーの」
 
その頃、メダナイトと共にリリとルクのもとに向かっていたソリンは一人で寂しく歩いていた。
ソリンは王宮暮らしが長かった上に、そもそも運動が苦手であった。
という訳でメダナイトに置いて行かれていたのだった。
まぁ、基本的にソリンは戦力としては数えられないので、メダナイトが先行して現場に到着しても全く問題は無いのだが。
 
正直、歩いたほうが速いのではないかと疑問に思える速度でソリンは走る。
そして、向こうの方で何やら戦いの音が聞こえるのを感じた。
ソリンの〝美女がこっちいる気がするレーダー〟もそっちに行けといっている。
音をたてないように慎重に近づいて、覗き込むとメダナイトが黒服の男や複数のメダロットを戦っているのが見えた。
 
ソリン:(どーれ、ちょっと力貸してやるか)
 
ソリンは黄色のクリスタルを握りしめる。
 
ソリン:「…………」
 
戦闘力として期待されないソリンがメダナイトと行動を共にしているメリットはこのクリスタルにある。
 
ソリン:「…………………」
 
メダロットだけではクリスタルは使えないのだ。
 
ソリン:「………………………」
 
クリスタルによるメダフォース強化こそが打倒魔王の生命線。
 
ソリン:「……………………………」
 
黄色のクリスタルを握りしめて五分ほど経過した時、ソリンはある事に気が付いた。
 
 
ソリン:( ち ょ っ と 待 て … ! 俺 ど う や っ て ク リ ス タ ル 使 っ て た っ け ! ? )
 
 
そう、ソリンはクリスタルの操り方を知らなかった。
彼が最後にクリスタルの力を使役したのは、ニンニンジャとの決戦以来。
父親の死を知り、国を愛する心に強く目覚めたあの時以来だ。
 
あの時、ソリン無我夢中であった。
何をどうしてクリスタルを使い、メダフォースを操っていたのか覚えていない。
いや、そもそも、クリスタルを代々受け継いできたギディオン=レヴェインや道具を扱う天才リリアナ=ナラーとは違い、
ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードは普通の人間だ。
一度でもクリスタルを操れた事自体、偶然でしかなかったのだ。
 
ソリン:(や、やばいぞやばいぞ! 俺ってひょっとしてクリスタルを自由自在に操るとか……できないんじゃねーの!?)
 

 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
メダナイトは次から次へと襲いくるメダロットをバッサバッサと斬り倒していった。
かつて国王に仕え、その後に王子の護衛の任を任せられるだけあって、戦闘訓練は常に怠っていなかったメダナイトを止められるメダロットなんてそうそういる者では無かったのだ。
メダロット戦が不利と見ると、リリとルクを取り囲んでいた車から、黒服の男達がわらわらと出て来た。
どうやらキング・レオーネという組織はスーツで決めたがるらしい。
 
メダロットは人間を攻撃することは出来ない。
そのルールに基づいて、人間によってメダナイトを押さえつけようと黒服達は考えたのだが、ここで計算違いが起こる。
 
メダナイト:「フム……これだけはニンニンジャに感謝せねばならぬかもな」
 
メダナイトはそういうと、当たり前の様に目の前の人間を斬りつけた。
黒服達の表情がこわばる。
そう、メダナイトはイニストラードで起こった国王すり替え事件のおかげで、メダロット三原則が外されている。
それを知らない黒服達は、先ほどメダナイトが斬り捨てたメダロット達よりもあっさりと倒れされていく。
とうとう、リーダー格と思われるあの例の黒服、彼一人だけが残った。
 
『ば、馬鹿なお前本当にメダロットか……!?』
 
メダナイト:「人間に見えるならばそれも良かろう。もしも人間なら少しは勝ち目があるかもしれぬぞ」
 
そう言って、ジリジリとメダナイトは黒服に歩み寄る。
黒服はそれにあわせて、後ずさりをする。
もはや誰の目から見てもメダナイトの勝利は明らかであった。
 

  
その時、メダナイトの脚部は音も無く破壊された。
 
 
メダナイト:「…………!?」
 
意味も分からず、脚部を失ったメダナイトが崩れ落ちる。
本当に一瞬の出来事であった。
メダナイトの脚部と胴体を繋ぐ部分が〝削りとられていた〟
 
???:「メダロット3原則の無いメダロットか……これは良い収穫だ」
 
崩れ去るメダナイトの後ろで声がした。
見ると、止めてあった車の中から、紫色の髪の毛をした20歳前後の青年の姿があった。
 
『若ッ!!』
 
黒服が叫ぶ。
どうやら黒服にとって、この青年が車から出てくることは想定外だったらしい。
 
メダナイト:「貴様……何者……!?」
 
上半身だけになったメダナイトが声を振り絞る。
紫色の髪の青年は丁寧にお辞儀をした。
 
???:「君の奮闘を称え、自己紹介をしよう。私の名前は〝ヴィネガー=ディーア〟
    キング・レオーネのボス〝ボロス=ディーア〟の息子だ。それから……」
 
そして、ヴィネガーと名乗る青年が、メダナイトの少し頭上に手を向ける。
見ると、そこには鶏型メダロットの姿が。
 
ヴィネガー:「紹介しよう。我が組織の誇る対メダロット戦の切り札。父が極限まで育て上げたメダロット〝クリムゾンキング〟だ」
 
鶏型メダロット:クリムゾンキングは、メダナイトの気づかぬうちに、メダナイトの背後に迫っていたのだった。
メダナイトが勝利を確信して油断していたという事もある。
背後から近づいていたという事もある。
しかし、それを考慮しても、その速さはメダナイトよりも高いレベルのメダロットであることは明らかだった。
 
ヴィネガー:「その両腕のデストロイは、どんな硬い装甲だろうと発泡スチロールを削るかのように一撃で破壊する。
       こ れ が 我 が 『 ク リ ム ゾ ン キ ン グ 』 の 能 力 ! 」
 
 
クリムゾンキングがその腕を振り上げる。
何の感情もこもっていない、まさしく機械といった表情だ。
メダナイトは敗北を受け入れた。
脚部パーツの破壊された今、この攻撃を避けることは出来ない。
そして、今のヴィネガーの説明通りならば、防御しようと関係なくクリムゾンキングの攻撃はメダナイトの頭パーツを破壊するだろう。
 
 
クリムゾンキングが振り上げた腕をメダナイトに向けて振り下ろした。
 
 
……ガキンッ!
 
しかし、その腕は〝何か〟に阻まれた。
 
 
クリムゾンキング:「……!?」
 
ヴィネガー:「何……!?」
 
 
いかなる者も破壊するはずのクリムゾンキングのデストロイを防御できる物質など存在するわけもない。
そう思っていたヴィネガーとクリムゾンキングは、無言ながら驚きの表情でそれを見た。
 
 
ソリン:「うわあああああああああ!おあああああああ!!!いああああああああああ!!!!!」
 
 
そこには弱そうな金髪の青年。
そして、その青年は光り輝くボロ布でクリムゾンキングの攻撃を止めていた。
ヴィネガー視点から見れば、信じられないだろうが、クリスタルの存在さえ知っていれば、ソリンが何をしているかはよく分かる。
リリアナ=ナラーがイニストラードで披露した……披露し過ぎた『メダフォースのバリア』だ。
 
ソリン:「あ、あ、ああぎゃああああああああああああああ!!!!」
 
ソリンは恐怖のあまり叫び声をあげながら、クリムゾンキングの攻撃を押し返す。
そして、すぐにボロ布を捨て、メダナイトを抱えて走り出した。
 
ソリン:「わーーー!!わぁぁあぁああ!!!ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
 
勿論、ソリン自身に金属の塊たるメダナイトを持ち上げる筋力は無い。
これはギディオン=レヴェインの使っていた、メダフォースによる身体能力強化である。
 
ヴィネガーをはじめとするキング・レオーネの一同が唖然とするなか、ソリンはメダナイトを抱えて全速力で逃げ出した。
クリスタルを自在に操ることの出来ないソリン。
しかし、やはり何らかの才能は彼にあるらしく、激しい心の動きが生じた時にのみ、凄まじい力を発揮できる。
今は、メダナイトのピンチに駆けつけようという〝勇気〟
目の前にギャングがいるという〝恐怖〟
二つの大きな感情が混ざり合って、とてつもない爆発力を生み出したのだ。
 
スポーツの中では『心・技・体』という言葉ある。
単純な身体能力を表す『体』
技術やテクニックを表す『技』
そして、精神力や志を表す『心』
この三つの錬成こそがスポーツの目標の一つとも言われている。
 
ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードには『体』も『技』も無い。
しかし、『心』がある。
心だけが、ソリンが生き抜く生命線なのだ。
 
 
ヴィネガー:「逃げられたが……まぁ……いい。目的は既に達成している」
 
  
ヴィネガーが目を向ける先には、車の中で気絶しているルクとリリの姿があった。
リリは車に連れ込まれるや否や眠らされ、抵抗していたルクもメダナイトが戦っている隙に眠らされて車の中へ運ばれていた。
   
そして、その晩のうちにキング・レオーネ達は姿を消した。
翌朝には何事もなかったかのように日が昇り、人々は日常を送る。
ミラディンは平和だった。
  
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
翌朝、ソリンとメダナイトは昨夜の戦いの場所に戻った。
血痕、欠けた金属、えぐれた地面……全てが綺麗に片づけられている。
たしかに昨夜ここで戦ったソリンとメダナイトですら、ここで戦闘があったことが信じられない程だ。
 
ソリン:「ま、まぁ俺達の目標は〝打倒魔王〟だから……な、そう気を落とすなよ……」
 
メダナイト:「レディ1人救えずして何が騎士か……こんな私に国なんて救えるはずがあるまい……」
 
メリン:(クッ……こいつ意外とメンタル弱ええな!)
 
メダナイトは落ち込んでいた。
相手の不意打ちだったとはいえ、油断してルクを守れなかった事を激しく悔いているらしい。
ソリンはメダナイトをなだめて、旅を続行したかったが、メダナイトの落ち込みっぷりが激しく、困ってしまっていた。
 
その時、ソリンとメダナイトの後方で大きな声がした。
 
 
『この男は、何気にイカサマをした!』
 
 
みると、何やら人込みが出来ている。
ソリンはのぞき込んで何が起こっているか見た。
 
まず、男が6人。そのうち大柄の男1人が正座している。
それをシルクハットをかぶった金髪の男が糾弾している。
残りの4人もシルクハットの男と共に大柄の男を責めているらしい。
 
このシルクハットの金髪の男が何だか異彩を放っている格好をしている。
真っ黒なシルクハット、サスペンダーで止めた黒と白を基調にしたズボン(裾のあたりだけ赤い)
両耳にイヤリングをしていて、右耳にはトランプのスペードとハートのスペード、左耳にはダイヤとクローバーのイヤリングをしていた。
そして、右目の下辺りに黒子がある。
  
 
どうやら彼らは〝チンチロ〟というギャンブルをしていたらしい。
サイコロを3つ振ってその出目の強さを競うギャンブルだ。
その中で、大柄の男が〝四五六賽〟という4と5と6しか出ないサイコロを使ってイカサマをしたのをシルクハットの男が暴いた所だ。

何故こんなところでギャンブルを?
とソリンは思ったがよくよく見てみればここを通る人々はいちいち人相が悪い。
いわゆる暗黒街とかいうやつに近い、治安の悪い通りなのだろう。
良く見ると怪しいお店もいっぱいある。
そんな犯罪者たちが定期的にあつまってここでチンチロをして遊ぶことがある……らしい。
近くを通りかかった髭面でスキンヘッドの良い人が教えてくれた。
 
シルクハットの男とギャラリー達が、大柄の男を糾弾していると、大柄の男が急にさっと立ち上がり
「サイコロはまだ回っていた!つまりこの勝負は未確定!ノーカウントなんだ!ノーカン!ノーカン!」
とわけの分からない言い訳をしている。
これにはギャラリーブチ切れ。
ふざけるなー!と叫びながら、大柄の男に石を投げたりしている。
しかし、ここで一番糾弾していたはずのシルクハットの男が言う。
『じゃあ何気にもう一回やり直そうぜ。ただし、今度は俺も特別なサイコロを使わせてもらうがな』
その言葉に大喜びの大柄の男。
「勿論かまわんよ!」そう言った。
チンチロを再戦する事になった。
大柄の男がサイコロを振り終わり、〝四五六賽〟を渡そうとすると。
『何気にいらねえよ』とシルクハットの男は受取拒否。
「でも自分も特別なサイコロを使うと言ったではないか」と尋ねるとシルクハットの男は自分のズボンのポケットからサイコロを3つ取り出す。
『あぁ、何気に使うぜ、特別なやつをな!』
シルクハットの男が賽を振る。
その出目は……
「ピンゾロ~~~~!!?」大柄の男が叫ぶ。
なんとシルクハットの男は〝全部1のサイコロ〟を使ったのだ。
ちなみにこのチンチロ基本的には数字が大きいほうが強いが、最強の出目は〝全部が1〟になることだ。
「なんじゃこのサイコロは認められるか!」
大柄の男がそういうが、シルクハットの男が言い返す。
『おいおい、特別なサイコロを使うことを許可したのは何気にアンタだぜ?』
「そうだー!そうだー!」「お前の負けだー!」「ざまーみろー!」
ギャラリーの応援もあり、このチンチロはシルクハットの男の一人勝ちとなる。
 
 
『ふぅ……何気に旅費が稼げたぜ』
 
 
シルクハットの男は稼いだ金を、ある程度イカサマの犠牲者4人に配り、残りは自分の懐にしまう。
そして、懐から一枚の写真を取り出して、ギャラリーに向けた。
 
『俺の嫁さんがいなくなっちまってよ! 何気にこの美人をみた奴はいないか?』
 
その写真に映った人物を見てソリンはハッとした。
 
ソリン:「メ、メダナイト!! あれ! あの写真見てみろよぉぉぉぉ!!!!!」
 
『……ん?』
 
ギャラリーが皆を知らないという中、一人異常なテンションだったソリンはとても目立っていた。
よって、ある程度騒ぎが落ち着き、ギャラリーがいなくなってから、シルクハットの男がソリンに話しかけるのは当然の事だった。
 

 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
『なるほど……やっぱキング・レオーネか。たしかあいつらのアジトって何気に近かったよな……』
 
ソリンとメダナイトは昨夜あった事を全てシルクハットの男に教えた。
するとシルクハットの男は、何やらブツブツと呟きながら考え事を始める。
 
メダナイト:「あ、あの!」
 
メダナイトが声をかけるとシルクハットの男はハッとして「あ、礼を言い忘れてたな、ありがとう」という。
しかし、違う。
メダナイトが求めているのは礼などではなかった。
 
メダナイト:「もしも今から、あのレディを助けようとするなら私も手伝わせてもらえないだろうか!!」
 
メダナイトは随分元気になっていた。
なんせ昨夜の失敗の汚名返上名誉挽回をするチャンスなのだ。
目を輝かせてシルクハットの男にせまる。
 
逆にソリンはテンションが下がっていた。
 
ソリン:(なんだよー……あの巨乳のお姉さんはもう他の男のモンだったのかよー……なんだよチクショー……
   我が国家の繁栄の為とか何とか言って求婚まがいのセリフまで言っちまったよなんだよー……)
 
そんなソリンにメダナイトは気が付かない。
何故ならちょっとテンションあがっちゃってるから。
 
メダナイト:「ソリン、お前からも頼んでくれ、頼む!」
 
ソリン:「いや、もういいだろ……あのお姉さんはそこの人の奥さん、つまり人妻………………ん?」
  
メダナイト:「…………?」
 
ソリンがいきなり言葉を止める。
そして、焦点の合わない目で何かを考え始めた。
 
ソリン:(ちょっと待て……〝人妻〟? HI・TO・ZU・MA!?
   なんか……この響き……物凄くエロくないかァーーーーーー!!!!??)
 
ソリンは萎びたキノコみたいな先ほどの顔とは比べ物にならない程の満面の笑みで力強く大地を踏みしめて立ち上がる。
 
ソリン:(人は皆エロスを蔑む。下ネタだ。下品だ。変態だ。と言う。
   しかし、性的欲求とは人間に最初から備わった本能なのだッ!!
   本能とは人間が作り出したものではない……本能とはッ!! 『神』によって与えられるのだッッ!!!
   人間には作り出せず、神にしか作る事の出来ない本能こそがエロス……そう……
    『 エ ロ ス 』 と は す な わ ち 『 愛 』 な の だ ッ ! !
    俺 は 愛 の 為 に 闘 う ぞ ォ ー ー ー ー ー ー ッ ! ! )
 
颯爽と立ち上がったソリンはシルクハットの男の右手を強引に掴み、腕をブルンブルン振るって握手をした。
 
ソリン:「俺はソリン! これからよろしく頼むぜ!」
 
メダナイト:「私はメダナイトだ。よろしく頼む!」
 
メダナイトには、ソリンが何を考えているのかなんとなく透けて見えたのだが、今はそれすら味方につけるべしと便乗する。
シルクハットの男はソリンとメダナイトの勢いに押され、致し方なく動向を許可する。
 
『わ、分かったよ……何気に結構戦えるっぽいしな。そんかわり命の保証はしないぜ』
 
ソリン&メダナイト:「覚悟の上だッ!!」
 
ソリンとメダナイトの貴重な意気投合シーン。
 
メダナイト:「ところで貴殿の名は何というのだ?」
 
メダナイトがシルクハットの男に尋ねる。
自分たちが名乗ったのに、相手が名乗らないというのはあまり気持ちの良い物ではない。
それに今から同行しようというのだ。
名前くらいは知っておかねばなるまい。
 
『ん、俺の名前か……んーそうだな……』
 
シルクハットの男は少し困ったような顔をしながら、こう答えた。
 
 
 
 
『―――――――――――――――〝プロト〟 うん、俺の事は何気に〝プロト〟と呼んでくれ』

 
 
 
かくして……役者はそろったッ!!
 
 
――――青のクリスタルの保持者〝ギディオン=レヴェイン〟と〝ハルカゼ〟
    彼らは〝双子の片瀬兄弟〟と共に死神の手掛かり、宝条ルクを探すッ!!
 
――――赤のクリスタルの保持者〝リリアナ=ナラー〟と〝ダイナブレード〟
    彼女らは宝条一族のはぐれもの〝宝条ルク〟と出会う。
    そして、リリはルクと共にキング・レオーネに連れ去られ、ダイナブレードは別行動をするッ!!
 
――――黄色のクリスタルの保持者〝ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード〟と〝メダナイト〟
    彼らは宝条ルクの夫を名乗る謎の男〝プロト〟と共にキング・レオーネに捉えられた宝条ルクを救出に向かうッ!!
  
  
 
ところで……ソリンはノリ気である一方で不安だった。
魔王を探すという目的から外れた自分の行動にわずかな疑問を持っていた。
 
ソリン:(イニストラードで会ったギディやリリは今も魔王を探す旅を続けてるんだろうな……)
 
ソリンには、ギディとリリに感化され旅に出る事を決意した節がある。
そんな彼にとって、ただでさえ自分よりも早く魔王を探していたあの2人と更に差がついてしまう事はとても気になる事であった。
 
 
 
ソリン:(チクショー! なんだか俺が一番〝魔王の手掛かり〟から遠い気がするぜ……!)
 
 
 
  

第十四話【ミラディン包囲網】 おしまい
 
 
 
 
☆☆キャラクター紹介☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 
【ヴィネガー=ディーア】
[性別]男
[年齢]20歳
[備考]キング・レオーネのボス、ボロス=ディーアの息子。
   宝条ルクの捕獲を目的として暗躍していたらしいが、その目的は謎。
   父親の育て上げた組織最強のメダロットであるクリムゾンキングを連れている。
   組織の中での地位は高いようだ。
 
 
 
【プロト】
[性別]男
[年齢]24歳
[備考]宝条ルクの夫らしい、謎の男。
   ギャンブルが好きらしく、ここまでの旅費もギャンブルによって稼いでいたらしい。
   〝何気に〟が口癖。
   現在、素性も目的も全てが不明。……一体何者なんだ!?
 
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.28 )
   
日時: 2014/08/12 17:14
名前:

第十五話【ファイナルマジカルコミュニケーション】
 
 
 
宝条ルクのビジネスは割といろんな所で需要があり、ルクはミラディン周辺の各国に家を4つか5つ程持っていた。
とある国のとある場所。
ルクの隠れ家の一つで起こったことだ。
 
とうおるるるるるるるるるるるるるるる るるるん、と電話の音がなる。
電話の持ち主は内ポケットから電話を取り出し、落ち着いた口調で言う。
 
「……はい、こちらはファイレクシア国の方です」
 
電話の持ち主の回りのには黒服の人物が数名いた。
かくいう電話の持ち主も黒服を着用している。
そう、彼らはキング・レオーネの構成員なのだ。
彼らは宝条ルク捜索の一環でここで常駐していた。
もしかすれば、宝条ルクは隠れ家の一つであるここへ逃げ込んでくるかもしれないからだ。
 
「分かりました。ではすぐに戻ります」
 
ほんの短い会話をして彼は電話を切る。
そして、仲間に報告する。
 
「……宝条ルク、捕獲完了だとさ」
 
一同、ほぼ同時にフゥーと大きなため息をつく。
無事、宝条ルクを捕まえることができた安堵からか、
はたまた、自分たちがわざわざ他国まで出向いて狭い家に常駐した事が徒労に終わった結果を憂いてか。
たとえ後者の方であったとしても、とにかく任務完了に違いない。
皆、ちょっとした脱力感を感じていた。
 
 
その時だ。
 
 
『さて、そいつはいい話を聞いた♪ 具体的に何処で見つけたか教えてくれや、オイ』
 
家のドアを蹴破って、派手な半月形のグラサンの男が2人現れた。
1人は青髪。
もう1人は金髪。
 
『流慕! 人に物を頼む態度がなってないぞ!』
 
そして、その背後から身長195センチの大男が現れて、グラサンの青髪に注意をする。
 
 
流慕:「さて、お前はなんつーか、本当、ズレてやがるな」
 
ギディオン=レヴェインのよくわからない正義感に片瀬流慕は呆れ、それを後ろで見ていた片瀬米斗はため息をついていた。
 

黒服たちの動きは実に迅速であった。
ギディたちが現れるや否や、懐から拳銃を取り出し数人が発砲。
同時に2人が部屋の壁側により、1人は窓から外に出る。
 
流慕:「米斗!」
 
米斗:「……」
 
しかし、片瀬兄弟の対応も早い。
拳銃を見た時点ですでに、体を伏せて家具などの物陰に隠れる。
ギディは反応がツーテンポくらい遅れていたが、ギディのさらに背後から現れたハルカゼが弾丸を防ぐ。
 
カキンカキンカキンとハルカゼの金属の体が銃弾を防ぐ。
第一の脅威はやりすごしたが、部屋の壁側によった二人がさらに横方向から発砲。
ギディはドアの前に突っ立っていたので、そのまま後ろに下がって部屋から出ようとしたが、窓からでた男がそとから銃を構えていて出れない。
 
ギディ:「ま、まずい!」
 
ハルカゼ:「ギディ!」
 
ギディピンチ! と思ったのはほんの0.001秒ほど。
ハルカゼはいきなり米斗に蹴飛ばされる。
 
ハルカゼ:「うぎゃあ!」
 
蹴飛ばされたハルカゼが右から飛んでくる弾丸をはじく。
そして、左の弾丸はギディ渾身の反射神経で避ける。
なぜ左を避けることを選んだかといえば、なんとなくだ。
理由なんてない。
右をハルカゼが守ってくれたから、左をよけようなんて頭で考えている暇はなかった。
もしも右を選んでいたら、危ないところだった。
 
流慕:「さて、愉快な連中じゃねえか!」
 
そういって流慕は懐から刃渡り30センチほどのナイフを取り出す。
そして、迷いなく右側にいる男に向かって走っていく。
愚行。
飛び道具を持っている相手にナイフを持って一直線に走るとは何たる愚行か。
 
それ見た米斗がギディに叫ぶ。
 
米斗:「ギディ! 左側の男を頼む!」
 
ギディ:「え、あ、あぁ!」
 

流慕を拳銃で迎え撃とうと銃を構える黒服。
そして引き金を引く……その瞬間に彼の拳銃は彼の手から離れ、宙を舞う。
 
流慕:「サンキュー米斗」
 
流慕は米斗の方を一切振り向かずに言う。
しかし、彼にはもうわかっている。
米斗は持ってきたライフル銃で、流慕を撃つはずだった拳銃を弾き飛ばしていた事を。
 
米斗:「…………」
 
そのまま流慕は無事、右側の男にたどり着き、心臓を一突きする。
右側の男はあっさり絶命する。
 
一方、左側の男はといえば、米斗の指示したすぐ後にギディ&ハルカゼコンビによって気絶させられていた。
人間を攻撃できないハルカゼだが、金属の体が盾役として大活躍。
ハルカゼが弾丸を防ぎ、ギディがイニストラード侵入時に使ったズームパンチの一撃によって男を気絶させる。
 
 
これで両サイドの男は倒した。
流慕の狙いは残りの黒服たちに移る。
が、ここは黒服たちのほうが一枚上手だった。
これ以上戦闘を続けるのは不利と見て、窓から逃走するところであった。
 
最後の一人が脱出するときに、振り返ってギディの気絶させた男の頭を撃ち抜く。
死人に口なし。
これで自分たちの情報が漏れることはない。
 
窓のすぐ外に車が用意してあった。
おそらく、最初に窓から飛び出た黒服がいつでも逃走できるように窓側につけておいたのだろう。
米斗が窓から乗り出してみたときにはすでに黒服たちの最後の一人が車に乗り込むところであった。
もう間に合わない。
 
米斗はライフルを構え、撃つ。
弾丸は黒服の左足に命中した。
しかし、それだけだった。
そのまま黒服は怪我をした足を車に滑り込ませ、車は発進する。
 
逃げられてしまった。
最初に流慕が家に侵入してから、この瞬間までわずか26秒。
見事な手際である。


流慕:「…………」
 
米斗:「…………」
 
ギディ:「…………」
 
ハルカゼ:「…………」
 
 
去っていく車を茫然と立ち尽くして眺めながら、流慕が言う。
 
 
流慕:「さて、ハル公見てたか……これがコミュニケーションってやつだ」
 
 
ハルカゼ:「 何 が だ よ ッ ! ビックリするわ」
 
 
もうわけがわからな過ぎて何処からツッコんでいいものか、ハルカゼは取りあえずこう叫ぶしかなかった。
そして順番にツッコミポイントを並べていく。
 
ハルカゼ:「コミュニケーションっていうかすごい戦闘してたし
     いきなり俺に話題ふられる意味が分かんないし
     逃げられてんのになんかドヤってるところが意味わかんないし」
 
そのハルカゼの指摘に流慕が逐次回答していく。
 
流慕:「さて、気づかねーのか?
    この数十秒の間に相手が何も言わずとも相手の考えを理解し行動に移し
    相手が理解できなそうならば言葉を使って完璧なコミュニケーションを実行したやつがいるだろう」
 
そういわれて少しハルカゼは考える。
すぐに結論はでた。
米斗だ。
今の間に米斗は流慕が何の指示もしないのに完璧に流慕とギディをフォローしきり、
ギディが何をすればいいか分からなくなっている事に気づき、指示を出した。
 
ハルカゼ:「あ、そういや、こないだ俺とコミュ障のお話してたね……」
 
流慕:「さて、コミュ障なんかじゃなかったろ?」
 
米斗の事なのに、流慕は随分と自慢げに言う。
その横でギディは何を言っているのかわからず首をかしげている。
 
流慕:「さて、それから、まだ逃げられたわけじゃねえから」
 
ハルカゼ&ギディ:「え!?」
 
流慕がアゴで米斗の方を指す。
ギディとハルカゼが米斗の方を向くと、米斗が携帯端末の画面を2人に見せる。
携帯端末には、地図のようなものと矢印が表示されており、矢印はぐんぐん北方向に向かって移動している。
 
米斗:「さっきのライフル弾、発信機が埋め込まれてたんだ」
 
流慕:「さて、この方向だとミラディン方面だな」
 
平然と会話する2人を見ながらギディとハルカゼは裏の世界の住人のすごさを感じていた。
確かに、今考えてみれば、最後の米斗のライフル弾は苦し紛れの一発という感じで、米斗らしくなかった。
つまり苦し紛れではなく、ちゃんと意味のある行動であったということ。
 
何よりもそれをお互いに事前に打ち合わせするわけでもなく、アドリブやってしまうところに驚いていた。
 
 
 
流慕は、携帯端末から目を離し、銃弾がでいくつか穴の開いた椅子に腰かけてタバコを吸い始めた。
 
流慕:「さて、にしても腹が減ったな。なんかねーのかこの家?」
 
と流慕が言ったころにはすでに米斗は冷蔵庫を開けていた。
人の家の冷蔵庫を開けることに対する抵抗はないらしい。
 
米斗:「冷凍室の方に肉があった。それと、野菜も冷凍保存しているのか……にんじん、じゃがいも」
 
冷蔵庫の食材を手に取ってブツブツ言っている米斗に流慕が声をかける。
 
流慕:「さて、米斗ー! よろしくー」 
 
米斗:「分かった何とかする」
 
そういうと、米斗は椅子に掛けてあったフリフリのフリルのついたピンクのエプロン(恐らく宝条ルクのもの)をつけて、自分の荷物からマイ包丁を取り出した。
そこまで、して、ハルカゼはハッとした。
 
ハルカゼ:「えッ!? 米斗って料理すんの?」
 
流慕:「するもなにも、無茶苦茶得意だぞ」
 
ギディ:「ち、ちなみに得意料理は……!?」
 
 
米斗はグラサンを人差し指でクイッと上げた後、いつもどおりの落ち着いた声で一言。
 
 
米斗:「…………肉じゃがだ」
 
  
――――――――――――――― [40分後] ――――――――――――――――
 
 
ギディ:「 ウ ン ま あ あ ~ い っ ! 」

流慕:「な? うめーだろ?」
 
米斗の作ったホクホクの肉じゃがを口にしながら、ギディは涙した。
当たり前のように平然としている流慕の隣で、震えながら泣いた。
幸せのあまり、涙を流さずにはいられなかったのだ。
 
ギディ:「こっこれは~っ!この味わあぁ~っ!
     サッパリとした味付けに牛肉のジューシー部分がからみつく
     うまさだ!!野菜と肉を!だし汁が引き立てるッ!
     “ハーモニー”っつーんですかあ~、“味の調和”っつーんですか~っ!
     例えるならサイモンとガーファンクルのデュエット!
     ウッチャンに対するナンチャン!
     高森朝雄の原作に対するちばてつやの“あしたのジョー”!」
 
ハルカゼ:「うわ、すげー。ギディのキャラ変わるほど美味いんだ」
 
ハルカゼはこの時ほどメダロットに生まれた事を悔しく思ったことはなかった。
 
ギディと流慕がおいしく食事をしている間に、調理に使った鍋や菜箸を洗って、使っていたエプロンを洗濯機にいれて回していた。
そして、ギディと流慕よりやや遅れて食事を始める。
食事が終わる頃には、洗濯機(早洗いモード)は止まっており、米斗はエプロンの皴を伸ばして部屋の中の風通しのよさそうな所にかける。
さらに自分とギディと流慕の食器を洗い、食べただけの食材のおおよその代金を計算して、テーブルに置く。
そして、3人に声をかける。
 
米斗:「やはり車はミラディンへ向かってるらしいな、出発しよう」
  
ハルカゼは思った。
 
ハルカゼ:(米斗……いつでも〝お嫁〟にいけるな)
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
リリアナ=ナラーは目を覚ました。
目覚めた瞬間、自分が今どういう状況にいるのかを思い出すのに5秒ほど費やし、そして勢いよく上半身をおこす。
 
ルク:「…………」
 
リリ:「…………」
 
起きると目の前にルクがいた。
なぜか正座で。
真剣な顔をして。
 
ルク:「…………」
 
リリ:「…………」
 
ルク:「目と目が逢う~♪ 瞬間好~きだと気」
 
リリ:「歌うな気持ち悪い」
 
ルク:「ちょっとリリちゃん今のはいくらなんでもひどいんじゃない? …………ゾクゾクするわ」
 
リリ:「私も悪い意味でゾクゾクしたわ」
 
寝起きでこの対応力。
リリは、昨夜会ったばかりのルクと会話することに慣れてきているのだった。
 
リリ:「あんた、私が寝てる間に変な事してないでしょうね?」
 
当然の疑問である。
 
ルク:「失礼な! あたしはそんな背徳的なことはしません!」
 
犯罪者が言っても説得力に欠けるものである。
 
ルク:「むしろ、寝てる間にリリちゃんに変な事されたいです」
 
リリ:「何もしてないなら、それでいい」
 
見事なスルー。
リリの対応力の高さは素晴らしい。
しかし、ここまでの会話をすべて真顔でこなすルクの変態力も高さも素晴らしい。素晴らしくないけど、とにかくすごい。
 
リリ:「で、ここは……?」
 
あたりを見渡し見てると、ホテルの一室のような印象を受ける。
部屋の中にはベッドが二つ。
テレビやユニットバスもついていて、ここで暮らせそうな印象を受ける。
 
しかし、部屋の扉は分厚そうな金属製の無骨な扉となっており鍵がかかっていた。
カードキータイプの鍵らしく、やはりリリとルクは閉じ込められているらしかった。
リリの荷物もすべて無くなっており、脱出するのに使えそうな道具は無い。
クリスタルもなくなっていた。
 
リリ:「……チッ」
 
ルク:「まぁまぁ、捕まったものは仕方ないとして一旦落ち着きましょう」
 
リリが顔をしかめて、これからどうするか考えを巡らせようとしている横でルクが能天気に言う。
 
ルク:「不幸中の幸いで、向こうにはあたし達を傷つけようとしてる様子はないし」
 
と言いながら、ルクが向かった先にはバイキング形式の食事で使われてそうな大きなお皿に山盛りのレモンがあった。
そのレモンの2,3個とって皮をむくと、まるでポテトチップスを2,3枚一気に食べるように口の中に放り込む。
 
リリ:「な……なにしてんの?」
 
ルク:「いや、なんか無償に酸っぱいもの食べたくなってさー。持ってきてー♪ってお願いしたら持ってきてくれたの」
 
リリ:「え、いや、なんていうか、それ、一人で食べるの?」
 
ルク:「そのつもりだけど? ……あ、リリちゃんも食べたい?」
 
 
リリ:(…………いっぱい食べたら胸が大きくなるかしら)
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ソリン:「つーかさー、なんでアンタはギャングのアジトなんて知ってるんだ?」
 
プロト:「んー? なんでって聞かれても…………何気に?」
 
ソリン:「答えになってねーよ」
 
ソリン達一向は、キング・レオーネのアジトの場所を知っているというプロトと共にミラディン国の東の果てに向かっていた。
移動手段は車。プロトがギャンブルで稼いだ金でレンタカーを借りたのだ。
運転手はプロト。車の運転は苦手らしいのだが、ソリンもメダナイトも車を運転できないので仕方なく彼が運転している。
ソリンが後部座席に、メダナイトが助手席に座っている。
 
 
ソリン:「そもそも〝プロト〟って名前が本名かすら怪しいしな、変な名前だし」
 
プロト:「アンタだって何気に怪しいぜ、なーんでイニストラードの王子様がこんなとこにいるんだか」
 
ソリン:「!? 気づいてたのか!?」
 
プロト:「ま、昔の仕事の関係で、何気にな」
 
すかさずメダナイトが会話に割り込む。
 
メダナイト:「プロト殿、貴殿の事を深く追及するのはやめさせよう。だからソリンの事は……」
 
プロト:「分かってるよ。誰かに言いふらすつもりなんてねー。なんだかよくわかんねーが、それでいいのさ。何気なくでいいんだよ」
 
メダナイト:「感謝する」
 
プロト:「いえいえ、何気にこちらこそ」
 
そうこう言っているうちに、車は走行し続ける。
車の中ではしばらく会話はなかった。
プロトに自分の身分を看破され、話をしにくいソリン。
そもそも、雑談に花を咲かせるようなタイプではないメダナイト。
気まずい空気が流れる……

しかし、
 
 
プロト:「プーリキュッア♪ プーリキュッア♪ プーリキュッア♪ プーリキュッア♪ プーリティで♪ キューアキュッア♪」
 
 
ソリン:「何いきなり歌ってんの!? しかも初代プリキュア」
 
素早いツッコミである。
このソリン、なかなかやりおる。
 
プロト:「いや、空気悪かったから何気に」
 
ソリン:「もうちょっと段階踏んで盛り上げろよ!」
 
プロト:「そうか、じゃあ何気にドナドナあたりから徐々に盛り上げていって」
 
ソリン:「スタート地点暗すぎるだろ!」
 
プロト:「じゃ、何歌えっつんだよ!!?」
 
逆ギレである。

ソリン:「別に歌う必要ねーよ!?」
 
プロト:「馬鹿野郎!アイドルから歌をとったら何が残るんだ!!?」
 
ソリン:「アイドルじゃねーだろお前は!!」
 
プロト:「ふっふっふよくぞ見破った。俺こそは何気にこのアイドル事務所に潜入した黒の組織の工作員……」
 
ソリン:「……何からツッコめばいいのか分かんねぇ……」
 
プロト:「中川=ファイナルマジカルコミュニケーション=中川=ガネメだ」
 
ソリン:「名前なげーよ!!」

メダナイト:(中川って二回言ったぞ……!?)

メダナイトは一人で戦慄した。
  
プロト:「名前の長さについてテメーに言われる筋合いはねーよ!」
 
ソリン:「うるせー! 俺は王族じゃあー!!」
 
 
こうして、ソリンとメダナイトはなんやかんやでプロトと親交を深めていった。
 
それにしてもこのプロト、宝条ルクと夫婦とのことだが、はたしてどういう会話をしているのだろうか。
少なくとも、プロトとルクの2人がそろった場所でツッコミ役に回ることだけは何としても避けたいものである。
もしも、そんな状況下で適確にツッコミをこなす猛者がいるならば、
きっとプロトを知るソリンも、ルクを知るリリも、その者を尊敬するだろう。
残念ながらそんな猛者はこの世界には存在しない。
どうしても見つけたければ、もはや次元を超えるしか手は無いだろうが、そこまでして見つける必要もあるまい。
 
 
とにかく、物語の舞台はキング・レオーネのアジトへと確実に移行していた。
 
 
  
 
  

第十五話【ファイナルマジカルコミュニケーション】 おしまい
 
 
 
 


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