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RSSフィード 魔王~Mysterious Crystal~
   

日時: 2018/06/19 00:18
名前:

どこにいるかもわからない謎の存在、魔王
 
彼は裏から世界を支配していた
 
これはそんな魔王に立ち向かう者達の物語である
 
 
 
 
 
☆目次☆
第零話【プロローグ】>>1
第一話【ハルカゼとともに】>>2-5
第二話【白き翼ダイナブレード】>>6-8
第三話【イニストラードの王子、ソリン】>>9
第四話【誰がための忠誠】>>10-11
第五話【メダナイトの逆襲】>>12-13
第六話【ハートヒートアタック】>>14-16
第七話【血戦!ニンニンジャ&クリスタル】>>17-18
第八話【愛】>>19-20
第八.五話【インターミッション~イニストラード編~】>>21
第九話【双子の片瀬兄弟】>>22
第十話【片瀬流慕は楽しく暮らしたい】>>23
第十一話【片瀬米斗は静かに飲みたい】>>24
第十二話【進撃の巨乳】>>25
第十三話【SHE IS RUKU】>>26
第十四話【ミラディン包囲戦】>>27
第十五話【ファイナルマジカルコミュニケーション】>>28
第十六話【ただいま参上!!】>>29
第十七話【ワンポイントライフ・プレイヤー】>>30
第十八話【Killer's Role との決別】>>31
第十九話【せめて、人間らしく】>>32
第二十話【恋はスリル、ショック、サスペンス】>>33
第二十一話【再臨:無翼の死神 ~REAPPEARANCE:No Winged Death~】>>34
第二十二話【Wonderful Angel】>>35
第二十三話【宝条・ザ・ギャンブラー】>>36
第二十四話【ディー・フォー・シー】>>37
第二十五話【宝条・ザ・プレイヤー】>>38



Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.29 )
   
日時: 2014/09/30 22:08
名前:

第十六話【ただいま参上!!】
 
 
 幽閉されてから1日が経った。
ルクの言うように、キング・レオーネ側にリリとルクを傷つけるような行為は無い。
むしろ、快適な暮らしをこちらに提供して、逃げ出したく無くすようにしているようにも見える。
厚かましくもルクは、部屋に取り付けられた内線で次々とキング・レオーネに要求(主に食べ物)して悠々自適に暮らしていた。
そんなルクにイライラしながらも、リリはここから脱出する名案を思い浮かばずにいた。 
 
 

ルク:「むーむむむむ!」
 
リリ:「…………」
 
睨みあう2人。
流れる緊張感。
瞬間、ルクがリリの方へ素早く拳を突出し……!!
 
ルク:「あーん!またジョーカー!」
 
リリ:「隙あり」
 
そして、リリは素早くルクの持っている札に手を伸ばし、抜き取る。
 
ルク:「あ、ちょ、待ってリリちゃんまだシャッフルしてな」
 
リリ:「知るかー! 勝てばよかろうなのだァァァァッ!!」
 
ババ抜き戦。
リリVSルク。
リリの勝ち。
 
ルク:「クッ……! あたしの負けね。じゃあ約束通りあたしの体はリリちゃんの好きなように弄」
 
リリ:「そんな約束してない」
 
リリは真顔で答える。
最近、真顔が増えたな、とリリは思った。
 
リリ:「っていうかさ、聞いていい?」
 
ルク:「ふが?はぎ?」
 
リリ:「口に中を空にしろ」
 
気が付けばルクは、大皿に大量に盛られた梅干しを次々の口の中に放り込んでいた。
ルクはリリに言われて、梅干しの種をガトリングガンの様にゴミ箱に射出した。
 
ルク:「で、なーに?」
 
リリ:「結局アンタ、なんでキング・レオーネに誘拐されたわけ?」
 
ルク:「あれ?言ってなかったっけ?」
 
ルクはまた、梅干しを口に放り込みながら答える。
 
リリ:「あんたの旦那が、キング・レオーネから恨みを買ってるらしいってトコまでは聞いた」
 
ルク:「あぁほげひほーは」
 
リリ:「口の中のもの出せェ! 漫画やアニメみたいな乳しやがってぇぇぇ!!」
 
リリは再び激昂した。怒るポイントを間違っている気もするが。
ルクは特に悪びれることなく、再びタネマシンガンをゴミ箱に浴びせる。
 
ルク:「それ以上は秘密です」
 
リリ:「あぁ?」
 
ルク:「どうしても言えません」
 
ルクは目を瞑って、プイッと顔をそらした。
顔をそらしならがらも、手を伸ばして梅干しをパクパク食べている。
 
リリ:「言えないってのはどういう事よ?」
 
ルク:「言えないったら言えない。お姉さんには大人の事情があるのよ」
 
いい加減慣れてきたらしく、ルクはものを食べながらでも会話ができる程度の梅干しを口に含んで話す。
口の中はもごもごしているものの、その目は珍しくシリアスな様子で、自分の手元に残ったトランプのジョーカーの方を向いている。
 
大人の事情というルクの言葉にリリは分からないなりの納得はしていた。
というのも、リリはなんとなくルクから〝犯罪者の臭い〟をかぎ取っていたのだ。
ギャング相手に対する対応の途中、一見頭がお花畑に見えるものの、明らかに〝裏の人間〟の目になっている瞬間が何度かあった。
宝条一族の〝はぐれもの〟という表現からしても、すでに宝条家とのかかわりが薄い事も分かる。
勿論、最初から親無しで貧乏だったリリと違い、世界有数の金持ちの家に生まれたルクが〝何故〟ここまで落ちぶれてきたかは分からない。
だが、それを今聞くのは野暮だと思った。
犯罪者には、犯罪者の事情がある事を、リリはよく知っている。
 
しかしルクの言い回しは気になった。
〝お姉さん〟には〝大人の〟事情がある、という言い回しはまるでルクの方がリリよりもはるかに年上であるかのような話っぷり。
 
リリ:「……お姉さんっていうけど、あんた何歳よ?」
 
ルク:「……25歳」
 
リリ:「私と同い年じゃん」
 
ルク:「 何 で す っ て ! ? 」 
 
ルクは梅干しを噴き出して驚いた。
リリは両手足の筋肉のバネから最大限の力を引き出して、横に跳び、それを間一髪回避する。
 
ルク:「あ、あ、あたしは……てっきりリリちゃんは14歳くらいなものだとばかり……」
 
リリ:「失礼な奴め……そこまで私は童顔でもないでしょうに」
 
ルク:「いや、だって、その、胸が」
 
ルクが地雷をしっかりと踏みつけた。
似たようなミスを以前、ギディがしているのだが、この世界の人間は胸で人の年齢を判断するのだろうか?
……いや、ギディオン=レヴェインと宝条ルクをこの世界の基準にするのは、いくらなんでもこの世界の住人に失礼だろう。
 
リリ:「テメェェェーーー!!! 貧乳を舐めてんだろ!!? やっぱり巨乳は全員駆逐せねばならない!!」
 
怒り狂ったリリは両手でルクの両乳をむんずと掴んで、できる限りの力で引っ張る。
 
ルク:「あッ……い、痛いッ……でも、……それが何気にエクスタシー……」
 
リリ:「この変態女ァーーー!! すぐに快感なんて感じれない体に変えてくれるわぁぁぁぁーー!!」
 
ルク:「そ、そんな……リリちゃん、取り敢えず怒るのは止めて!」
 
怒るの〝は〟やめて、であり、胸を引っ張られる事を止めるようには言っていない。
助詞一つからでも、人間の変態性、性癖、性格、願望……さまざまなものが漏れ出てしまうので注意されたし。
 
リリ:「お前のEカップをッ! もぎとるまで 怒るのをやめないッ!」
 
怒りで我を忘れて暴走するリリ。
しかし、彼女の暴走は次の瞬間のルクの一言で収まる。
 
 
ルク:「あたし、Gカップだよ」 
 
 
リリ:「 U R Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y Y ! ?」
 
そして、リリは気絶した。
 
リリにとってEカップより大きい乳とは幻想であったのだ。
メルヘンやファンタジーにしか存在しない幻想。
そんな人間はいるはずがない。
現実世界で見たことない。
想像もつかない。
そういう世界で生きてきたのだった。
それがリリの世界であった。
しかし、今ここで、リリの常識を覆すとんでもないルクの世界が現れた。
 
リリは、ルクの圧倒的なる〝世界〟の力によって倒されたのだった。
 

 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ソリン:「はぁーっ、ていうか、はぁーっ、まだつかねーのか? キング・レオーネの、そのーっ、アジト?」
 
 
ソリンは息を切らして言う。 
我々の知らぬところでプロトの激しいボケへの対処を続けていたのだろう。
対して、プロトは息を乱すこともなく、こう答える。
 
プロト:「それがだなー♪ 何気にもうついてるんだよねー」
 
メダナイト:「なに!?」
 
メダナイトとソリンはハッと驚いて、窓の外を見た。
車は道を走っているし、それらしい建物は無い。
 
ソリン:「どの建物だよ?」
 
プロト:「どのっていうか、何気に全部?」
 
そうプロトは言う。
ソリンとメダナイトはしばらくプロトの言っていることの意味が分からなかった。
しかし、しばらくしてメダナイトが低い声で言う。
 
 
メダナイト:「……まさか、この街自体がキング・レオーネのアジトとでも言うつもりか?」
 
 
プロト:「はい、何気に正解」
 
ソリン:「マジかよ!?」
 
 
ここはミラディン国の西の隅の港街。名はフィフス・ドーン。
フィフス・ドーンはプロトの言ったようにギャング組織、キング・レオーネのアジトである。
街にいる人間はすべてキング・レオーネと契約を交わした人間。もしくはキング・レオーネに所属している人間だ。
驚くべきことに、この街には大手コンビニチェーン店や市役所など、ふつうの街にもある建物がいくつか存在している。
しかし、このフィフス・ドーンのすべての場所にはキング・レオーネの息がかかっている。
 
元々はふつうの港街であったが、数十年前にあらゆるものを貿易したいキング・レオーネに目をつけられたのが始まりだ。
それから少しずつ街を侵食し、フィフス・ドーンはいまや、キング・レオーネによるキング・レオーネの為のキング・レオーネの街となった。
 
プロト:「正解の賞品として、メダナイトさんには〝バグ技でけつばんを出す方法〟を教えます」
 
メダナイト:「いらぬ」
 
プロト:「そんな、ひどい」
 
 
プロトは悲しくて涙がでた。
涙を流しながらうつろな目で、セレクトボタンがうんたらかんたら、とか最近の子わかんないのかなとか呟いている。
しかし、ソリンに「じゃあ、あんたの嫁さんどこにいるか分かんないじゃん」と言われたら泣き止んだ。
嘘泣きだった。
 
プロト:「俺の記憶が正しければ、キング・レオーネの幹部どもは何気にあの建物にいるはずだぜ」
 
プロトはそういって、百メートルほど先のホテルを指さす。
見た目としては普通のホテルのように見えし、警備が特別厳しいようにもみえない。
むしろ、駐車場に交通整理のおじさん達がいるぶん、他のホームセンターとかの方が警備が厳重にみえる。
 
プロト:「外身はあんなだが、いざ内部に入ると警備はなかなかだ。何気に気を付けろよ」
 
メダナイト:「…………」
 
何故プロトはここまでキング・レオーネの内部に詳しいのか?
メダナイトは疑問に感じた。
無用な詮索はしないでおこうとは思っているが、それにしても気になる。
そもそもこの男は信用できる男なのか?
いきおいで着いてきてしまったが、何かの罠ではないのか?
そう、考えをめぐらしていた時だった。
 
ソリン:「で、そんな警備がなかなかの場所にどうやって侵入するんだ? この街じゃ警察も頼りになりそうにないしな」
 
ソリンがそう尋ねる。
尋ねるというよりは、本人にとっては作戦会議をしようと提案したかったらしい。
しかし、プロトの次の行動によって、作戦会議なんてものは完膚無きにまで破壊しつくされる。
 
 
プロト:「突っ込む」
 
 
ソリン:「ん?」
 
プロトは急にアクセルを強く踏み、ギアを最大まで上げる。
車はキュルルルと奇妙な音をたてたかと思うと、エンストすることなく、一瞬にして速度を上げる。
 
ソリン:「お、おおお、おい! つっこむってなんだよ! まさか車で突っ込む気か!? 落ち着けよ!」
 
メダナイト:「そうだ、プロト殿。大体、この車レンタカーだぞ!?」
 
ソリン:「そこはどうでもいいっつーの!!!! レンタカーに傷がつく前に俺が死ぬだろーが!!」
 
メダナイト:「じゃあ死ね」
 
ソリン:「ひどい……!」
 
二人の忠告もむなしく、プロトは足元から白い鞘の刀と、黒いカラーのマシンガンを取り出し臨戦態勢にうつる。
 
プロト:「レンタカーだの、体だの、常識だのなんだの通じる相手じゃあねえよ……何気にギャングだからな。
    だったらそういう常識だのなんだのはなあ!
     片 っ 端 か ら ぶ っ 壊 し ゃ あ 良 い ん だ よ !」
 

そして、
  
凄まじい轟音と共に、
 
一台の車がホテルのカウンターに突っ込んだ。
 

 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
ギディ:「なぁ……流慕、ひとつ聞いていいか?」
 
流慕:「さて?」
 
ギディ達もソリン達と同様レンタカーで移動していた。
運転は米斗で、助手席にギディ。ハルカゼはメダロッチにしまっておき、流慕は後部座席2つを使って横になっている。
 
ギディ:「さっき、宝条ルクの家で襲ってきたギャングだけど……殺す必要あったのか?」
 
流慕:「さて、殺す気でかかってきたんだから、殺される覚悟くらいもってるだろアイツらだって」
 
ギディ:「…………そうか」
 
ギディは腑に落ちないものを無理矢理納得させようとしていた。
しかし、その様子は明らかに顔に出ていて、流慕はそれを見て腑に落ちない気分になる。
 
流慕:「さて、言っとくがな、お前が倒した方のやつも最終的には死んだよな?
    あれは多分、ヤツらとしては情報を守るために殺害したわけだが、
    何故、情報があそこから漏れると思ったかといえば、逃げる能力を失っていたから……
    何故、逃げる能力を失っていたかといえば、気絶していたから……
    何故、気絶していたかといえば、……ギディ、お前が殴ったからだ」
 
流慕は上半身を起こして、ギディに指をさして、ゆっくりと諭すように言う。
 
流慕:「いいか、ギディ。 お前が殺したとも言えるんだぜ」
 
ギディ:「…………!!」
 
ギディは顔をしかめた。
裏の世界に顔をつっこむと決めた時点で、ギディは〝殺される覚悟〟はしてきた。
しかし、〝殺す覚悟〟をし損ねたのだ。
その中で、無意識に人を殺していた事を指摘される。
一瞬のうちにギディの中にいくつもの言い訳が生まれる。
「でも直接殺したのは自分じゃない」
「あぁなるなんて予測できなかった」
しかし、結果として、ギディが気絶させたことが原因で一人の人間が死んだ。
その事実を受け止めなくてはならない。

そして、ギディは言う。

  
ギディ:「殺される覚悟はある。だが、俺には殺す覚悟がない。……だから殺さない」
 
流慕:「さて、だから間接的とはいえお前はもう殺してるんだって。聞いてたか?」
 
ギディ:「たとえ相手が死んでも、殺さない」
 
流慕:「さて、意味わかんねーな」
 
呆れる流慕を尻目に、何故かギディは何かをふっきったかのような微笑を浮かべている。
 
ギディ:「俺も、意味わかんねー! ハッハッ」
 
この時、ギディオン=レヴェインの中で殺さないという信念がはっきりと生まれた。
ギディは他者の生死を彼自身が決定しない、と決めたのだ。
もしかすると、ギディが生かした次の瞬間には誰か別の者に殺されるかもしれない。
それでも殺さない。
 
人を殺すのは運命だ。自分ではない。
 
そのような思いがギディの中で強く刻まれた。
 
 
米斗:「……着いたぞ」
 
 
車を運転していた米斗が言う。
窓から外をのぞいてみると、どこかの小高い丘の上にいるらしく、下の方には港街が広がっている。
米斗は街の入り口の手前で車を止めていた。
 
流慕:「さて、フィフス・ドーンか……やっかいな場所に来たもんだ」
 
神妙な街を見下ろす流慕。
頭上に?マークを浮かべるギディ。
それを見て、米斗は小声でフィフス・ドーンの事を教えてやった。
 
ギディ&ハルカゼ:「「ギャ、ギャングの街……!?」」
 
メダロッチの中のハルカゼと共に驚くギディ。
しかし、流慕と米斗は無視して車をでる。
 
車を降りてすぐに、米斗は自分の頭上数十メートルほどの場所にいる何かを見つけた。
沈みかけている太陽の光は人間の目にダイレクトアタックしてくる角度であったが、グラサンの米斗には関係なかった。
続いて、流慕も
後から車を出てきたギディもそれに気が付いた。
 
ギディ:「空を見ろ!」
 
流慕:「鳥だ!」
 
米斗:「飛行機だ!」
 
口ぐちに言う片瀬兄弟。
しかし、ギディは知っていた。上空のソレを知っていた!
 
ギディ:「 い や 、 ト リ さ ん だ ! ! 」
 
流慕:「結局、鳥じゃねえか!!」
 
ごもっともなツッコミであるが、彼は鳥ではないのだ。
だからと言って、ギディの呼称が正しいわけでもなく……
 
 
ダイナブレード:「トリさんではない、ダイナブレードだ」
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
リリ:「ハッ!」
 
リリは気絶してから1時間ほどで目を覚ました。
 
リリ:(な、何故私は気絶していた……!? ルクが大人の事情がなんたらかんたら話していたのは覚えているが、その先を思い出せない……!!)
 
人間は、記憶を消す事によって、精神を守ることがあるというが、リリには軽くそれが発動していた。
 
部屋の様子は以前変わりない。
しかし
 
リリ:「……ルク?」
 
ルクがいない。
どうしたのだろうと一瞬不信に感じたが、洗面所の方から声がするのが聞こえた。
なんだ、トイレかと思ったが、様子がおかしい。
何か、うめき声のようなものをあげている。
リリは心配になって、心配してしまった事を癪に思いながら、洗面所に向かう。
 
リリ:「ルク……?」
 
ルク:「おえぇぇーー……!!」
 
吐いていた。
さっき食べたレモンとか梅干しの酸っぱいにおいを漂わせながら吐いていた。
 
リリ:「食べすぎよ、バカ」
 
ルク:「おかしいなー。いつもはおやつでもあれより多いのに……体調悪いのかなー」
 
リリ:「なんちゅー食生活だお前は」
 
致し方なく、リリはルクの背中をさすってやった。
そんなリリを見て、ルクは弱ったら優しくしてもらえるのか!?と勘違いし、その後わざとらしく演技をして血を吐いたが無視された。
 
ルク:「リ、リリちゃん……血が……た、助けて」
 
リリ:「それ血のりでしょ?」
 
ルク:「バレたか」
 
リリ:「一回見てるからね。っていうか、それどうやって持ち込んだのよ」
 
たしかに、リリの道具も、ルクの手持ちのレプリカも誘拐されたときにすべて没収されたはずである。
一体ルクはどうやって血のりを入手したのか?
 
ルク:「さっきこの部屋で作った」
 
リリ:「この部屋で……って材料は?」
 
ルク:「梅干しとか、あとこのカーペットの色素を抜いたり……まぁ色々よ」
 
そう説明するルクにリリは素直に関心していた。
今聞いた材料が含まれているとは思えないほどに、ルクの血のりにはリアリティがあった。
 
リリ:「ふーん。すごいじゃない」
 
ルク:「え?そう? じゃあ……もっとすごいの見せるね!」

リリにそういわれて、ルクはうれしくなったのか調子にのって別のレプリカを披露する。
部屋の奥から何やらドライヤーを改造したと思われる変な機械を持ってきた。
自転車のペダルの小さい版みたいなものが横についており、それを回して何かをするらしい。
何かのレプリカには見えない。
ルクは得意げに説明する。
 
リリ:「何それ? 何のレプリカ?」
 
ルク:「フッフッフ……リリちゃん、人間を騙せるのは普通のレプリカ。一流のレプリカは機械すらだますのよ」
 
そういって、ルクはその怪しげな機械を、カードキーをかざす読み取り機の方に近づける。
すると……
 
 
ピンポンッ……ガチャ
 
 
リリ:「……え? え? え、え、えええ!?」
 
リリはまさか、と思い、扉の方へ駆け寄り、ドアノブを回す。
回る。
ドアノブは回る。
今度はそのまま扉を引いてみる。
重い。
しかし、動く。
金属製の重い扉がゆっくりと動いた。
 
リリ:「な、な、なぁ~~~~!」
 
扉が、開いた!
いとも!
たやすく!
 
驚いているリリだったが、扉を開けた先にはリリの数倍は驚いているだろうキング・レオーネの見張りがいた。
セキュリティを過信して油断していたのか、見張りは一人しかいないようだった。
まさか、扉が空くとは思っていなかった見張りがひるんでいる隙に、リリは素早く後ろにまわり跳び蹴りを食らわせる。
見張り男の出番終了であった。
 
ルク:「ファッファッファ……これぞ〝磁気〟のレプリカよ!」
 
かつて、ルクがメダロットのレプリカ作成をしていた頃だった。
見た目が似ているだけではなく、索敵すらも欺くレプリカを作ろうと考えたのが最初だ。
索敵にもいろいろなタイプがあり、その中には相手の磁気を記録するタイプがあった。
というわけで、その時にルクは磁気を偽造する技術を身に着けていたのだ。
 
 
リリ:「あ、あんた…………なんでもっと早くコレ出さなかったのよ?」
 
ごもっともである。
 
ルク:「え? リリちゃんひょっとして出たかったの?」
 
リリ:「当たり前だッ!!」
 
当たり前である。
 
 
ルク:「あー、そうよね。たしかに。リリちゃんみたいな可愛い女の子が活躍しないと面白くないものね
   華が無いっていうか? 彩が足りないっていうか?」
 
とルクは屈託のない笑顔でいう。
 
リリ:「な、何の話よ?」
 
リリが聞くと、ルクは今度は不適な笑みを浮かべて言う。
 
ルク:「も・の・が・た・り💛」
  
 
その時の顔をリリは二度と忘れない。
いつもの無邪気な頭お花畑スマイルではない。
裏の世界の者が戦いの前に必ず放つ気配を感じた。
裏の闇の奥深くまで堕ちた者にしか発することのできない邪悪でありながら美しい、妖艶なる笑み。
リリは目の前の宝条ルクという女が、裏の世界を生き抜いてきた犯罪者である事を確信した。
 
ルクは優しく、リリの手を取る。
いつもなら拒否していたリリだが、気が付けばルクと手をつないで監禁部屋を後にしていた。
 
ルクはリリの手を引きながら、うっとりとした顔でこう言う。
 
 
 
『 彩 り ま し ょ う 物 語 を 』
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
ダイナブレード:「―――――――つまり、リリが宝条ルクと共にキング・レオーネに誘拐されてしまったのだ」
 
ギディ:「 な … な ん だ っ て ー ー ー ! ? 」
 
ダイナブレードはギディ達と合流していた。
リリが連れ去られたあと、キング・レオーネの車を空から追いかけていたは良いが、
一体で突撃するのも無謀なので、どうしようかと思っていたところにギディ達が止まったとのこと。
 
流慕:「さて、宝条ルクがここにいるってのは確定したな」
 
ダイナブレードと合流してから、静かに話を聞いていた流慕が口を開く。
ギディはそういえば忘れていた、とダイナブレードに片瀬兄弟の事を軽く紹介した。
ダイナブレード、片瀬兄弟、双方がお互いに興味を示さなかったため、大した紹介にはならなかった。
 
流慕:「さて、でトリさんって言ったか?」
 
ダイナブレード:「トリさんではない、ダイナブレードだ」
 
流慕:「じゃあダイナブレード、俺たち以外にここを怪しいヤツラが通ったりはしなかったか?」
 
流慕は念には念を入れて、この質問をした。
流慕たちが宝条ルクの一歩手前までせまったところで〝横取り〟をされる危険性を考えたのだ。
裏の世界では結構よくあることらしく、片瀬兄弟も横取りで儲けたこともあるらしい。
まして、ギャングが狙うほどに宝条ルクに価値があるのなら他の組織が狙う可能性も考えなくてはならない。
 
ダイナブレード:「通ったぞ?」
 
流慕:「……!? マジかよ」
 
ダイナブレード:「というか、その車がさっき街のホテルに突っ込んで、今銃撃戦が街で繰り広げられてる」
 
流慕:「 は ぁ ッ ! ? 」
 
驚く流慕。
その横で、望遠鏡で街の様子を見ていた米斗が冷静に言う。
 
米斗:「確かに」
 
流慕:「おいおい、呑気してる場合かよ」
 
米斗:「だな」
 
そういって二人は車にそそくさを乗りこむ。
流慕はギディにも乗るように促し、ダイナブレードには空からついてくるように指示した。
知り合ったばかりのダイナブレードにも指示をするあたり、流慕の焦りっぷりがわかる。
 
ギディ:「急いだ方がいいのか?」
 
流慕:「さて、当ったり前だ! どこぞの馬鹿野郎にオイシイ所持ってかれそうなんだぜ!」
 
米斗:「ここまで来て、イイところだけ持っていかれるのは避けないとな」
 
流慕:「さて、その通り! 全員で、全力で、イイ所持ってかれるのを妨害するぜ!」
 
ギディが車に乗り込むや否や、米斗は車のアクセル全開で走り出す。
そして、
米斗→流慕の順番でこのように言った。
 
 
 
『 み ん な で 防 ご う 』
『 イ イ 所 取 り 』
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
ソリン:「うぎゃーー!!」
 
メダナイト:「ソリン、危ない!!」
 
キング・レオーネの幹部がいるという外見がホテルなビルは戦場と化していた。
ソリンたちが突っ込むや否や上の階から大量の黒服や、防衛メダロットが降りてきて、ホテルのロビーで戦いが始まったのだ。
また、ホテルの外でも混乱が起きており、「誰がうらぎった!?お前か!?」と騒ぎになり、戦いはいよいよ街全体を巻き込み始めていた。
ソリンは物陰に隠れて、クリスタルを握りしめながらお祈りをしている。
しかし、祈ったところでクリスタルは光らない。
 
メダナイトはリミッターが外れているメダロットなので、戦闘に参加するが、ソリンが危なっかしくてなかなか攻めに回れない。
 
そして、プロトはといえば。
 
プロト:「何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気何気ッ!!!!」
 
飛び交う銃弾を交わし、左手に持った刀で近接戦闘をしながら、右手の銃器で遠距離戦を行う。
メダロットであるメダナイトも顔負けの身体能力で、キング・レオーネの黒服たちを次々と沈めていった。
30分ほど経つ頃には、50名程の意識を奪い、残りの黒服たちが上の階に撤退させた。
 
プロト:「おうおう、何気に歯ごたえがねーな。昔はもうちっとヤバかったもんだが……ま、何気にバタバタしてんのかな」
 
顔のすすを払いながら、プロトは上の階へと足を進めようと歩き出す。
その後ろをメダナイトとソリンが追いかける。
 
ソリン:「お、おい! 待てって!」
 
プロト:「ん? おーソリン、わりぃ忘れてた。何気に無事そうだな」
 
ごめん、お使いで塩買ってくるの忘れた、くらいに軽い調子で言うプロト。
とてもギャング相手の戦闘を行った後だとは思えない。
 
メダナイト:「プロト殿、失礼だが、貴殿のあの動きは普通の人間とは思えない……一体、貴殿は何者なのだ?」
 
メダナイトはプロトの素性を聞いてはならないとは思いながらも聞いてしまった。
メダロットであるメダナイトからみても、プロトの身体能力は、高いを通り越して異常の領域に達していた。
 
 
プロト:「何者って言われてもな~。俺は見ての通り、何よりも妻を愛しているギャンブル好きのごくごく普通の人間だよ。そう、俺は……」
 
 
プロトは何か裏を感じさせるような不適な笑みを浮かべて、こう言った。

 
 
 
『 宝 条 ル ク を 愛 で 包 み 込 む 何 気 な る ギ ャ ン ブ ラ ー 』 
 


 

第十六話【ただいま参上!!】 おしまい
 
 
 
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.30 )
   
日時: 2014/10/04 16:45
名前:

第十七話【ワンポイントライフ・プレイヤー】
 
 
 20年前、ギディオン=レヴェインとハルカゼ、そしてクラシアの故郷は魔王に滅ぼされた。
襲いくる魔王製メダロット達。
燃え上がる村。
ギディの父は、息子を守る為に戦い、そして死んだ。
当時3歳だったギディにとって、その光景はあまりにも衝撃的で今尚、はっきりと覚えている。
 
「逃げ……ろ……ッ」それが父の最期の言葉であった。
しかし、ギディの父はそれに続けて何かを言おうとしていた。
言おうとしていたのだ。
その前に彼の父は息を引き取った。

何を言おうとしていたのかは分からない。
推測はたつ。
「お前を愛している」だとか「強く生きろ」だとか、きっとそんな事を言おうとしていたのだろう。
しかし、あくまでそれは推測であって現実ではない。
たとえ推測が当たっていたとしても現実ではない。

現実は、ギディの父は息子に最期の言葉をかけることなく絶命してしまったという事だけだ。
 

20年前のその日から今日までずっとそうだった。
そして、きっとこれからもそうだ。
ギディが、他人の死を極端に恐れ、何よりも嫌うのは――――――――――――

 
 
 
流慕:「さて、ドンパチの中心はあっちだな!」
 
ギャングの街、フィフス・ドーンを走行する車の中で流慕が言う。
何者かは知らないが、先客が大暴れしてくれたおかげでキング・レオーネのアジトは大混乱に陥っていた。
統制の取れていないいまこそチャンス。
片瀬兄弟は、混乱に乗じて一気に宝条ルクを回収するつもりなのだ。
 
流慕:「さて、米斗このまま車で突っ込んでいいと思うか?」
 
米斗:「あぁ、それしかないな。だが、もう少し場を混乱させてもいいと思うぞ」
 
流慕:「さて? どうする?」
 
米斗:「流慕、少し運転を頼む」
 
そういうと米斗は流慕にハンドルを預けて、運転席のドアを開ける。
そして、時速100キロで走行する車の屋根まで、軽やかに昇っていく。
その様子を車内のギディ、ハルカゼはじっと見守っていた。
流慕は、何をするつもりかは分からないが、米斗がやることだから、多分うまくいくだろうと気にせず運転していた。
 
車の屋根にたどり着いた米斗は、車の近くを飛んでついてきているダイナブレードに言う。
 
米斗:「トリさんと言ったか?」
 
ダイナブレード:「トリさんではない。ダイナブレードだ。」
 
ダイナブレードは静かに訂正した。
 
米斗:「失礼した。ダイナブレード、車のトランクに大きな筒状のものがある。取ってもらえるか?」
 
そういいながら米斗はダイナブレードにトランクの鍵を渡す。
ダイナブレードは嘴で受け取り、そのまま器用にトランクを開ける。
 
ダイナブレード:「筒状……ん?まさかお前……」
 
米斗:「早くとってくれ。そろそろ着いてしまう」
 
我が目を疑い、そして次には米斗の神経を疑うダイナブレードに米斗は冷静に、何もおかしな事は無いとでも言いたげに催促した。
 
 
その不穏な空気は車内にも伝わっている。
 
流慕:(さて? なんだ?トランクを開けて何をする気なんだ米斗?)
 
そう思って、数秒後、流慕はトランクの中に入れていたものを思い出してハッとする。
 
流慕:「げッ! 米斗、お、お前まさか……」
 
ギディ:「どうしたんだ流慕!?」
 
ハルカゼ:「何かやばいのか!?」
 
尋ねる後部座席の二人に流慕は叫ぶ。
  
 
流慕:「耳をふさいで、何かに捕まれーーー!!」
 
 
車の屋根の上には、直径30センチ。長さ1.5メートル程の筒状の金属を肩に背負う米斗の姿があった。
ダイナブレードは危険を察知して、さっきより遠くを飛んでいる。
 
米斗:「ふぅ……」
 
米斗はけだるそうにため息を吐いた後、とても何気なくこうつぶやく。
 
 
 
 
米斗:「ちょっとバズーカ撃ってみるか……」
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ソリン:「ギャンブラーてお前……ギャンブラーがギャングの大群を一人で倒せるわけねーだろ」
 
ソリンとメダナイトは困惑していた。
宝条ルクの夫だという怪しい男プロトの運動能力は異常としか言いようがなかった。
飛び交う銃弾をものともせず、左腕に握った刀ではじくか体をそらして回避する。
そして、マシンガンを片腕連射しながら、ギャングの集団に突撃し、回し蹴りでギャングを一掃。
 
それで普通の人間だ。ギャンブラーだ。と言い張るのだからツッコミどころ満載すぎて困惑していた。
 
メダナイト:「メダロットの私からみても貴殿の運動能力は高すぎる。先ほどは何者だ、と尋ねたが質問を変えよう」
 
メダナイトはプロトの目をギンと睨んで言う。
 
 
メダナイト:「貴殿は、 人 間 な の か ? 」


プロトは小さなため息をついた後に答える。
 
プロト:「何気に人間だよ。俺は……人間になったんだ。うん」
 
なにかを確かめるように、自分に言い聞かせるように言うプロト。
今度はソリンがそれに食いついた。
 
ソリン:「人間に『なった』? なんだよ、"昔は人間じゃなかった"みたいな言い方じゃねーかよ」
 
プロトの尋問を続けたいソリンとメダナイトだったがそうもいかない。
なぜならば、突然彼らのいるフロアで大爆発が起こったからだ。
 
メダナイト:「ソリン!」
 
爆風が襲い掛かるよりも早く、メダナイトがソリンを担いで上のフロアへ続く階段へと一気飛びのいた。
プロトも同様に飛びのく。
 
 
プロト:「何だ何だ!? どっかの馬鹿がバズーカ砲でも撃ち込みやがったか!?」 
 
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
リリ:(ギャング共が騒がしい……もう脱走がバレたっていうの!?)
 
リリとルクは首尾よく脱出するつもりだったのだが、ちょうど彼女たちが監禁部屋を抜け出した直後にあたりが騒がしくなった。
仕方がなく、いったんトイレの個室に隠れた。
しかし、こんなところにいては見つかるのは時間の問題だ。
 
リリ:(このリリアナ=ナラーが、こんなに早く……恐ろしい組織ね、キング・レオーネ)
 
リリが冷や汗をかきながら思考を巡らせている姿を、ルクはニコニコして見ていた。
 
ルク:(なんていうか、この、すごい一生懸命です!って感じの顔がそそるわー)
 
リリ:「おい、ルク。今なんか変な事考えてたろ?」
 
ルク:「ん? いいえ? リリちゃん可愛いなーって」
 
満面の笑みで答えるルク。
殴りたい、とリリは真剣に思った。
 
リリ:「それが変なことだっつってんだろッ!ボケがッ!脱出の方法考えろや!」
 
と、リリが鬼の形相でルクの胸倉をつか……もうとしたら乳に阻まれた。
邪魔な糞乳に更なる怒りを燃やすリリ。
 
その直後のルク。
 
ルク:「うえーー……!!」
 
吐いた。
ちょうどトイレにいたので都合がいいとか思わなくもないが、吐いた。
 
リリ:「ちょ、ちょっとオーバーでしょ……! ちょっと手が当たっただけじゃん」
 
なんとなく、自分のせいなのだろうか?いやそんな馬鹿な!
と自分を弁護しながらも、でもなんとなく悪い気がするので、ルクの背中をさするリリ。

 
ルク:「あ、気にしないで……最近、なんか体の調子悪いみたい」
 
そういえば、さっきも監禁部屋で吐いていた。
あの時は食べ過ぎだと思ったが、どうやらルクの体調の問題らしい。
ともなると余計に逃走がしずらくなるようである。
 
改めてどう逃げるか考えなくては、とリリが思ったその直後である。

  
下の方から爆発音が聞こえてきた。
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
ハルカゼ:「米斗何やってんだよーーーアホかーーーー!!」
 
ハルカゼは叫んだ。
叫ばなくてはやってられなかった。 
 
流慕:「さて、米斗がアホなわけねーだろ!京大卒だぞ!」
 
流慕が意味不明な弁護をする。
 
ギディ:「いや、でも、これで相当むこうも混乱したんじゃないか?」
 
こういうときにギディの鈍感さが役に立つ。
突然、誰にも相談せずにバズーカをぶっぱなした米斗に驚くことなく、冷静に状況を分析していた。
 
米斗:「いや、俺たちの方が混乱しているようだぞ」
 
いつの間にか助手席に座っている米斗。
実に冷静に状況を分析していた。
 
ハルカゼ:「お前のせいだろ!」
 
なんか慌ててる自分の方がバカなんじゃなかろうか?
とハルカゼは妙な不安感を感じた。
でもツッコミは忘れない。
 
そうこう言いながら走行しているうちに、車はキング・レオーネ上層部の集まるアジトと思われる場所についた。
と思われる、というのは「このホテルに車がつっこんでいった」というダイナブレードの目撃証言により、推測しただけで、別にここが本拠地だという確信があるわけではない。
確信はなくとも、正解を引く。
ギディオン=レヴェインとはそういう理不尽な存在だった。
 
 
 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
 
 
ギディオン=レヴェインという理不尽な存在。
その対極となる存在もまた、この場にいた。
その男の名は、語る必要はない。
このような場所で語られるような存在ではないのだから。
 
その男の人生は順当だった。
順当にグレて。
順当に道を踏み外し。
順当に逃げ出し。
順当にギャングの小間使いになった。
 
彼はこれまで碌な人生を歩んできていない。
いつ、どこで、彼が死んでも誰もなんとも思わない。
そんな存在だった。
碌な人生を歩んでこなかった彼の人生でも、もっとも碌でもない一日といえばきっと今日なのだろう。
 
彼の仕事は集金だ。
ギャングの小間使いとして、組織から金を借りた人間を脅して返してもらう、そういう仕事だ。
今日はたまたま、回収した金を確認してもらいにこの街に来ていた。
で、小遣いがもらえたので、たまにはいいホテルに泊まろうとこの場に来ていた。
このホテルは表向きはただのホテルなのだ。
実はキング・レオーネの上層部が集まる本拠地だなんて、この男は知りもしなかった。
 
そして、彼の不幸その1。
車がホテルに突っ込んだ。
始まる銃撃戦。駆けつけたギャングに「お前も応戦しろ」と命じられ嫌々参加。
 
碌でもない人生でも、まだ終わる準備はできていない。
適用にやられたフリをして、やり過ごそうと彼はわざと蹴られたフリをして、気絶したフリをしていた。

不幸その2。
すぐに近くのギャングにバレる。
髪の毛をつかまれ、引張り上げられ、顔面を殴られる。
 
不幸その3。
バズーカ砲の爆発に巻き込まれる。
散々である。
 
しかし、幸運なことに彼は生きていた。
同時に、不幸なことに彼の顔面を殴りつけたギャングもまた生きていた。
侵入者に向かっていけば、さっきの事は見なかったことにしてやるというギャング。
ナイフをにぎって、彼は「うあああああ!」と奇声を上げて襲い掛かる。
 
しかし、彼が何か成果をあげる事なんてない。
そのことは彼自身が一番理解していた。
侵入者と思われる男は、素早く男のナイフを払いのけ、踵落としで男をうつぶせに倒し、踏みつける―――――――
 

 
流慕:「さて、あの爆発で生き残ってるやつがいたわけか。まぁいいや死ね」
  
流慕は男が落としたナイフを拾い上げた。
その時だった。
 
米斗:「流慕、危ない!」
 
米斗が突然の発砲。
その先には、ナイフの男に指示をしたギャングの男がいた。
男は流慕がナイフの男に気を取られている隙に、流慕を撃とうとしていたらしい。
しかし、米斗の銃弾がギャングの右腕に命中し、ギャングの拳銃は地に落ちた。
 
とてもかなう相手ではない、とあきらめたギャングは上の階に逃亡を始めた。
追撃に発砲をしようとする米斗。
しかし、それをギディが遮った。
 
ギディ:「米斗、やめよう。もう戦う意思はなさそうだ」
 
ギディが米斗の構える銃を無理やりおろしたので、米斗は発砲をやめる。
そして、その隙にギャングは逃げ出した。
 
ギャングは逃げ出したが、ナイフの男は依然として流慕に踏みつけられたままだ。
 
流慕:「さて、あぶねーな。米斗がいなきゃ殺されてたぜ……で? 殺しに来たからには殺される覚悟はあるんだろうな?」
 
そういって、流慕はナイフの男踏みつけている足に更に力を入れる。
 
ギディ:「流慕、その辺にしとけよ」
 
ギディはやはり止めに入る。
間違いなく、流慕の目は今から殺人をする目だったからだ。
 
流慕:「さて、まーた主人公様の意味の分からねえ綺麗事のコーナーか?」
 
ギディ:「うん。まぁな。……何も殺すことはないだろ」
 
毅然とした態度で流慕に意見をするギディ。
そして、つまらなさそうに、足をどける流慕。
ギディの言うように、殺すことはないと思ったわけではない。
ここで、このとるに足らない男を殺害することにこだわることが、非常に格好悪く思えたのだ。
 
流慕:「さて、なんか冷めちまったな。……ギディ、そんな綺麗事じゃやってけねーぞ、と忠告しておくぜ」
 
ギディ:「綺麗事じゃやっていけないからって、綺麗事をあきらめる理由にはならないだろ。
     空を飛べないのに、飛ぶ事をあきらめなかったヤツが飛行機を作ったわけだしな」
 
流慕は、ギディの話を鼻で笑い飛ばした。
まったくくだらない。
話にならない。
とギディの話を切り捨てた。
しかし、同時に、ギディがこの先その考え方で何を為すのか、すこし期待していた。
 
流慕、米斗、ギディ、ハルカゼ、ダイナブレードの5人でさらに上の階へ登ろうと、階段に足をかけた時だった。
  
 
「殺せよおおおぉぉぉ!!!」
 
 
振り返ると、ナイフの男が泣きながら立っていた。
 
「いっそ殺せよ! どうせ俺の人生もう終わりなんだ!さっきのギャングに殺されるか、一生利用されるか。それしかねえ!
 だからもう殺せよ!どうせ死ぬし、どうせ生きてても碌な事ねーよおおお!!!」
 
今日はいろんなことが起きすぎた。
何度も命の危機に陥った。
そしてこの男、逆に死んだ方がいいのではないかと、ふと、魔が差していた。
 
ギディ:「流慕、米斗、トリさん、先に行っててくれ。すぐに追いつく」
 
流慕と米斗は、なんやかんやで宝条ルクを横取りされるのではと焦っていた。
だからギディの言葉どおり、そそくさと上の階へと歩みを進める。
ダイナブレードはそもそも、自分で何かを判断するのが苦手で、いつもリリの指示を頼りにしていた。
今はリリはいないので、ギディの指示にしたがった。「トリさんではない。ダイナブレードだ」とだけ残して上の階へと向かう。
 
そして、このフロアには
主人公:ギディオン=レヴェインと何者でもない端役:ナイフの男だけが残された。
 
「ころせ……!殺せぇぇえぇ!!!」
 
ナイフの男はかなり錯乱しているようだった。
それにギディははっきりと言う。
 
ギディ:「嫌だ! 俺は殺さない!」
  
「頼むよー……きっとさっきのギャング、また俺を殴りに来るんだ……そうなったらどんな痛い殺され方をするか
 あんたなら、楽に殺してくれそうだ。できるだけ痛くないように殺してくれそうだ。頼むよぉ……。どうせ、明日か明後日には殺されるんだよ俺なんて。」
 
ナイフの男は縋り付くように懇願する。
地面に手をつき、額をつき、嘆願する。
だが、ギディはこんなにもみじめな姿で願ってもブレない。
 
ギディ:「確かにアンタは早死にするかもな。でもそれは今じゃないし、俺が殺すわけでもない。明日死ぬなら、明日まで生きろよ!」
 
ナイフの男ももはや引き返せなくなっているようで、ギディの足にしがみついて死を乞う。
 
「明日まで生きてどうすんだよぉ……!! たったの一日命が伸びても意味なんて無いんだよ!!殺せよぉ!!」
 
直後、ギディは自分の足元で這いつくばる男の胸倉をつかんで立たせると、男の頬を思いっきり平手打ちした。
男は脳に直接電撃をあびたような衝撃を感じて、吹っ飛ぶ。
再び、地面に倒れ伏し、何が起こったかわからないといった顔でギディを見るナイフの男。
ギディは、怒るわけでもなく。同情するわけでもなく。
毅然とした態度で言う。
 
 
ギディ:「俺の父さんは"あと五秒長く生きれたら"、息子に最期の言葉を残せた。……一日なんて充分だろ。」
 
 
それを告げるとギディは、さっと踵を返し、階段に足をかける。
階段の上からその様子を見ていたハルカゼは、あの日の事を思い出していた。
 
ハルカゼ:("あと五秒"……俺が頑張ってたら、"あと五秒"くらい作ってやれたのかなぁ……)
 
その時だった。
  
 
「うあああああああああ!」
 
 
癇癪を起したナイフの男が、地面からナイフを拾い上げてギディに投げつけた。
もはや何が何だか分からなくなってしまったのだろう。
生きるべきか?死ぬべきか?それだけが問題ではない。
何を為すべきか?何を為せるのか?何を為したいのか?
何もかも、全て、ありとあらゆるものが混沌として頭の中を巡った。
しかし、結局、男にできることと言えば、奇声を上げてナイフを投げることだったのだ。
 
 
ハルカゼ:「ギディ!!?」
 
ハルカゼは驚いた。
なぜならば、ギディの方にしっかりとナイフが突き刺さっていたからだ。
普段のギディならば、あの程度の投げナイフはかわせるはずだ。
 
「ほ、ほらみろ! 俺を殺さないからこうなるんだぜぇ!」
 
その言葉とは裏腹に、男の表情は強張っていた。
ギディがどう反応するのかが、怖くて仕方がなかったのだ。
 
ギディ:「ほらみろ、はこっちのセリフだ」
 
ギディは男に背を向けたまま語る。
肩に刺さったナイフを抜こうともしない。
 
ギディ:「ほらみろ! さっき死んでいたらアンタは〝侵入者にこんな重傷を負わせる〟なんて出来なかっただろ」
 
そう告げて、階段を上り始めた。
 
ナイフの男はその場にヘナヘナと座り込んだ。
ギディの背中をただただ見つめて、何を考えているのか、目をギョロリとさせていた。
だが、その目は、気のせいだろうか。
さっきよりも、輝いて見える。
 
 
  
ギディ:「どんなに追い詰められても、生きてさえいれば足掻けるんだ。
     ライフポイントは1だけあればそれで良い……それでアンタは立ち上がれる」
 
 

 
 
  
第十七話【ワンポイントライフ・プレイヤー】 おしまい
 
 
 
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.31 )
   
日時: 2014/10/17 07:11
名前:

第十八話【Killer's Role との決別】
 


 端役の男を早々と処理したギディとハルカゼは階段で上の階までやってきた。
ギディは端役の男に〝重傷を負わせる〟という表現をして説き伏せたが、ナイフを肩に刺したまま歩く姿はどう見ても重傷には見えない。
ハルカゼは「いい加減そのナイフ抜けよ……」と思ったが、それ以上のトラブルが2人には待ち構えていた。
 
ギディ:「なぁハルカゼ、流慕達どこ行った?」
 
ハルカゼ:「俺が知るわけないだろ。ずっとギディの方見てたんだから」
 
先に行った片瀬兄弟、ダイナブレードの姿は無い。
というかどこに行ったのかも分からない。
 
ギディ:「な、なんで置いていくんだよー!」
 
ギディは涙目でこの場にいない2人と1体への文句をハルカゼにぶつける。
 
ハルカゼ:「そりゃ、お前が先に行けって言ったからだろ……」
 
ハルカゼはギディに両肩を揺らされながらも冷静に答える。
 
 
主人公、ギディオン=レヴェイン! 絶賛迷子中!!
 
 
 
―――――――――――――――――――――――
 
 
 
その頃、プロトとメダナイトは絶賛戦闘中であった。
 
プロト:「お? 何気にメダちゃんリミッター外れてんじゃーか、魔王製?」
 
とプロトは刀でギャング達をなぎ倒しながら言う。
 
メダナイト:「馬鹿を言うな。魔王は我が討伐対象だぞ!」
 
と自慢の片手剣グラットニーソードより〝暗黒〟を放ちながらメダナイトは答える。
この2人、次々とギャング達を殺害しながら突き進んでいるように見えるが、実はプロトはここに至るまで一人として殺害していない。
動きの速さも剣を振りぬく速さもプロトはメダナイトと互角……いや、それ以上なのだが、メダナイトの方が殺傷力のある攻撃をしている。
 
その秘密を握るのはプロトの握る刀。
その名も、伝説の妖刀「スバル」……のレプリカ「ス『パ』ル」。
その能力は極端に低い殺傷能力。
あまりにも低い殺傷能力故に、プロトが全力で振るっても人を殺さないようにできているのだ。
ついでに言うと、もう片方の手で握るマシンガンは、かつて大国の兵士が実際に使った幻の機銃「マーブラー」……のレプリカ「マー『プ』ラー」。
能力はやはり低い殺傷能力である。
 
人間を攻撃できるメダロットと人間とは思えないほどの運動能力をもつ人間。
この2人の快進撃により、彼らはドンドン突き進んでいくが、一つ、何かを忘れていた。
否、一人、誰かを忘れていた。
 
 
ソリン:「お、おーい……ちょっと、ちょっと待って~~~」
 
 
人並み以下の体力を誇る男。
イニストラード王子、ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード。
戦闘にのめりこむ2人の後を必死で追いかけるも、その低い運動能力故に置いてきぼりになっている男だ。
 
ソリン:「やっべー……このまま置いて行かれたら俺一人だぞ……守ってくれるヤツがいなくなるぞぉ~!」
 
ソリンが唯一戦力として数えるに値する〝黄色のクリスタル〟も、メダフォースを生成してくれるメダナイトなくしてはただの石。
ここで置いてきぼりになることは、ソリンにとって死を意味する。
しかし、実際問題おいて行かれている。
メダナイトとプロトの攻撃で気絶したギャングを踏まないように、つま先で歩きながらソリンは決意した。
 
 
ソリン:「……戦いが終わるまでどこかの部屋に隠れよう」
 
もうすでに2人はソリンから見えなくなるくらいの位置まで進撃している。
ここから全速力でソリンが走ったところで2人には追いつけないだろう。
と、いう事で、ソリンはできるだけ人気の無い部屋を探してそこに隠れることにした。
 
物音を立てないようにそぉ~っとそぉ~っと、一部屋一部屋確認していく。
多くの部屋は、中でギャングが気絶しており、到底安心できないと思われる部屋だった。
しかし、24部屋目にしてようやく、誰もいない安全そうな部屋を見つける。

まず、扉が鉄でできていて頑丈そうなのが良い。
鍵がついていたが、あえてかけなかった。
電気もつけなかった。
そこに誰かがいると思われるのが怖かったからだ。

中に入って見渡すと他の部屋よりだいぶ広い部屋だ。
何か、国際会議でも行われるのだろうか?
カーテンくらいの大きさの、世界中の国旗がたくさん飾ってある。
ソリンはせっかくなので、イニストラードの国旗の裏に隠れた。
なんとなく、祖国に守られているかのような安心感がある。
そして、ソリンは胸で十字架をきる。
 
 
ソリン:(俺が何一つ苦労せず、メダナイトとプロトが戦いを終わらせてくれますように!!)
 
  
 
―――――――――――――――――――――――
 
 
流慕:「さて、こうも纏まって歩くと目立つな」
 
片瀬兄弟とダイナブレードは、こそこそ動き回って今のところ敵に遭遇することなくきていた。
というのも、自分たち以外にえらく目立った戦闘をしてくれている者がいるらしく、その者達を囮にしながら行動していたからだ。
恐らく、その者達が、自分たちよりも先にここへ着き宝条ルクを横取りしようとしているのだろう、と流慕は考えている。
 
そんなこんなで、コソコソと、誰にも見つからないように行動している流慕達にとって人数が多いのは問題であった。
……別にだからギディを置いてきたわけではない。先に行けと言われただけだ。
 
流慕:「さて、ダイナブレード、空中で待機って出来るか?」
 
ダイナブレード:「ビルの回りを飛び回っている程度なら可能だが」
 
流慕:「さて、それでいい。一旦、米斗を乗せて外に出ておいてくれ。俺が宝条ルクを探して、見つけたら連絡する」
 
というわけで流慕と米斗&ダイナブレードは別行動をとることにした。
といっても、米斗と流慕は専用の通信機でいつでも連絡が取れる状態にあるのでギディ程隔離されてる感は無い。
 
 
米斗&ダイナブレードと別れて10分程歩いた時だった。
 
流慕:「……ん!?」
 
流慕は廊下の向こう、およそ20メートルほど先で5,6人のギャングに追い詰められている
2人の女性を見つけた。
一人は赤髪で一人は茶髪。
問題は茶髪の女だった。
 
 
流慕:(美人……! 巨乳……! まさか、宝条ルクか!?)
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――
 
 

リリ:「チッ……あっさりね」
 
ルク:「ごめん……あたしのせいで」
 
リリとルクはトイレから出て逃亡を再開しようとしたが、間もなく外を徘徊していた組織の者に見つかった。
走って逃げたが、体調のすこぶる悪いルクが足手まといとなり、結局追い詰められるに至る。
 
リリ:(まだよ……まだあきらめるには早い……第二プランが、取って置きの切り札が残っている)
 
リリはダイナブレードが助けに来ることを期待していた。その為にミラディン市街でスマホごと逃がしたのだ。
なんとか時間を稼ごうと、ルクを前に突き出し盾のようにして後ろに隠れる。
キング・レオーネの目的は宝条ルクの身柄確保であるのだから、ルクがそばにいる限りは銃撃戦になるようなことはないはず。
 
しかし、無情にもギャング達はゆっくりとリリとルクの方へと魔の手を伸ばす。
 
その時だった。
 
 
流慕:「さて、米斗! 宝条ルクだ! 23階の北側の窓から入って左に曲がれ!!」
 
携帯(のような通信機)片手にこちらに走ってくる青髪の男が。
リリは、最初はギャングの仲間だと思ったが、まわりのギャングが流慕に銃口を向けたのでそうではないと気が付いた。
 
リリと同様、流慕もリリの事を何者か理解できていなかった。
しかし、ギャングの一員でないことは状況から分かった。 
 
流慕:(さて、あの赤髪の女は宝条ルクと捕えられていると聞くリリという人物か?
    それとも、俺たちよりも先に宝条ルクを奪いにきた先客か?)
 
流慕はリリの正体を2択に絞った。
そして、そのうちの1つは正解であった。
が、今はとにかくギャングをぶちのめして宝条ルクの安全を確保しなくてはならない。
ギャング達は流慕に向けて発砲しようとしたが、それは背後のリリに阻まれる。
 
リリ:「隙を見せたわね!」
 
リリは流れるような動きで近くのギャングから拳銃を奪い取り、適確な射撃によって近くにいたギャング達の構える拳銃を狙撃した。
大活躍である!
しかし、この大活躍によって、妙な事が起きる。
 
流慕:(あの動き……ッ! ただ巻き込まれて捕まったヤツの動きじゃねえ……ッ!!
    拳銃という道具の扱いに慣れている。そして、人間の死角や関節の曲がる向きを計算した盗み……
    やつは間違いなく『こちら側の世界』のプロフェッショナル!! 〝宝条ルクを奪いにきた先客〟だ!!)
 
壮大な勘違いであった。
 
流慕:「宝条ルクは俺が頂く!!」
 
流慕は拳銃を拾おうと屈んだギャング達の後頭部に一発ずつカカト落としをぶち込み、即座に気絶させた。
そして、その直後、何かものすごいスピードの者が背後から、流慕を追い越したのを感じた。
 
米斗:「宝条ルク! お前を救出に来たぞ!」
 
ルク:「え、あ、ちょ、……きゃっ」
 
ダイナブレードに乗った米斗がルクの胸の辺りを抱きかかえて回収した。
巨乳がクッションにようになり、衝撃を吸収してくれたのか、スピードのわりにはうまく回収できた。
片瀬兄弟とルクは気が付かなかったが、この一瞬の間に、別のやり取りも行われていた。
 
リリ:(……ダイナブレード!?)
 
ダイナブレード:(……リリ!?)
 
リリとダイナブレードはお互いに、お互いを認識した。
ダイナブレードは直ちにリリから預かっていたスマホをリリへと投げる。
リリはスマホを受け取ると、無言でうなづく。
 
リリ:(……取りあえず逃げなさい)
 
ダイナブレードは言葉を介さずともリリの指示を理解し、そのまま米斗とルクを乗せて逃走を始めた。
 
リリ:(ギャングの目的はルクのはず……つまり、ルクを上手く囮に使えれば脱出は可能なはず……
   いや、その前に没収された荷物を奪い返さなくちゃ……クリスタルも奪われちゃってるし……)
 
一瞬の攻防で、ギャングを倒し、ルクの安全を確保した片瀬流慕。
一瞬の盗みで、ギャングを倒し、逃走経路を手に入れ、ダイナブレードを取り戻したリリ。
2人はほぼ同時にため息をつく。
 
流慕:「ふぅ~~」(……あ、この女どうしようか。無駄な戦闘は避けたいんだが……)
 
リリ:「ふぅ……」(……あ、っていうかこの男何者? なんかルクを救出するのが目的っぽいけど……)
 
少し考えたのち、リリはある結論に至る。
 
 
リリ:(ま、まさか……〝ルクの旦那〟か!?)
 

ルクの話では、旦那がキング・レオーネの恨みを買ったから自分がさらわれたといっていた。
そして目の前にいるこの男。
なんかガサツそうだし、頭は派手な色に染めてるし、どことなく悪のオーラを感じる。
ギャングとかに喧嘩を売りそうである。
 
流慕:「さて、女、お前は宝条ルクをどうするつもりだった?」
 
リリ:(やっぱり旦那だけあって心配はするのね)
  「別に、黙って見捨てるのも可哀想だと思っただけよ」
 
本当はうまくギャングを誘導して逃げるつもりだったが、旦那にそういう事を言うのも気が引けるのでリリはこう答えた。
 
流慕:(なんだー!!? 可哀想ってだけで、こいつ車でギャングのアジトに突っ込んだのか!? ギディもビックリのお人よしだぜ)
   「じゃ、じゃあ、特に宝条ルクを狙っているわけじゃねーんだな?」
 
リリ:「そういう事」
 
と、ここでリリはこの会話に違和感を感じた。
 
リリ:(……ん? なんでこいつ自分の妻の事を、〝宝条ルク〟ってフルネームで呼んでるわけ? おかしくない?
   ひょっとして……もうすでに愛に冷めているってこと!?)
 
リリは何となく腹が立った。
ルクは気に入らない女だが、このチャラそうな男にだまされていると思うと妙に可哀想になってくる。
少しの間だが、一緒に閉じ込められた者同士、情がわかないわけでもない。
 
リリ:(いや、そう判断するにはまだ早いわ……ちょっとカマかけてみるか)
 
リリは、服の胸元あたりを指で開きながら流慕に迫ってみる。
これで嬉しそうに反応したら、流慕は妻への愛情を失った糞旦那という事になり、ケリの一発でもいれてやろうと思った。
 
リリ:「ところで、お兄さん。さっきはア・リ・ガ・ト?? お礼に私とイイコトしない?」
 
流慕は冷静に返答する。
 
流慕:「その貧相な胸で何言ってんだ?」
 
リリ:(ケリ入れてやるッ!!)
 
リリが流慕の股間を狙って、蹴飛ばしてやろうと足を振りかぶった時だった。
急に流慕が大きな声で怒鳴りはじめた。
 
流慕:「テメーの需要を考えればそこじゃねえだろッ!ロリ系だろッ!
    たしかに実年齢は25歳やそこらって感じだが、若い顔してんだからイケるだろ!自分の特性を考えろッ!
    胸元見せれば男が誰でも興奮すると思うなよ! 馬鹿にしてんのかァ~~~!?
    お前の、何も考えのない安直な胸チラは、全世界の男を侮辱しているぜ……
    そして……風俗にすべてを注いでいる女達、俺の尊敬しているプロフェッショナルを侮辱している!!!」
 
そして、リリの胸倉をつかみ、瞳孔の開いた目でにらみつける。
 
 
流慕:「 さ て 、 テ メ ー … … ポ ル ノ 舐 め ん な よ 」

 
リリ:(無茶苦茶おこられたーーー!!)
 
 
ザ・風俗マニア片瀬流慕の怒りにリリは困惑した。
だが、少し時間が経ち、頭が冷静になると怒りが沸いてきた。
 
 
リリ:(こいつ……自分の妻の事聞く時より、ポルノの話してる時の方が必死じゃない? 何こいつ……)
 
もうこの女、ルクの事好きなんじゃないかな?
 
リリ:「ちょっと……アンタ、ルクの事どう思ってるわけ?」
 
流慕:「あぁ?」
    (……宝条ルクを〝どう思ってる〟ってのはつまり〝宝条ルクをキング・レオーネから奪う理由〟が知りたいんだよな?
     にしても、コイツなんかすげー睨んでやがるな……あッ!)
 
そして、流慕は一つの結論に至る。
 
流慕:(俺がすげーポルノについて語ったから〝体目的〟だとでも思ってんのか?
    それで一人の女としてキレてやがるのか? 捕まえてレイプでもすると思ったか?
    なるほどな。まぁ、興味ないわけじゃないがAVと現実の区別はつけてるつもりだぜ)
 
流慕は、フッ……ニヒルに笑って言う。
 
 
流慕:「さて、どうとも思ってねーよ。ただ必要な情報を聞きたいだけだ」
 
 
リリ:(こいつ最低だぁーーーーー!!!!)
 
 
流慕は平然と、自分の嫁に大して「どうとも思ってねーよ」と言った!……とリリが勝手に勘違いしている。 
リリは青筋を浮かべて流慕をにらみつける。
しかし、流慕は「え、なんでこの人怒ってんの?」と言った様子で悪びれる様子もない。
 
リリ:「あんたって、最低のクズ男だわ。女を侮辱してる……」
 
汚物を見るような目でリリは言い放った。
 
流慕:( な ん で だ よ ! レイプとかしねえって言ってるよな!?)  
 
流慕は自分の何が悪かったのか本気で分かっていない。
なぜならば、本当は、彼は大して悪いこと言っていないからである。
 
流慕:(どういうことだ? もしかして〝情報を聞き出したならそれ相応の報酬を払え〟ってことか?
    でも女を侮辱ってさっき言ったよな……
    いや、〝女だからこそ〟感謝して報酬を払えって事だとしたら……
    はっはーん……こいつ、『フェミニスト』だな。女を大事にしろ!ってタイプか)
 
と、流慕が勝手に納得した時だった。
 
『いたぞー!あっちだーー!』
 
ギャング達がこちらに駆けつけてきた。
リリは、囮役のダイナブレードにどのように逃げるのかを指示し忘れた事を悔いた。
流慕は名誉挽回のチャンスだと思った。
 
流慕:(さて、メンドクセー女だ。でも今はそういうメンドクセーのを相手にする気分だぜ)
 
流慕はリリの背中に手を回し、さっとお姫様抱っこをする。
 
流慕:「さて、素敵なレディは俺が守ってやるよ。いくぜ、『お姫様』っと」
 
そう言って、さっそうとギャング達から逃走を始める。
これで少しは機嫌を直しただろうかと、走りながら流慕はリリの顔をチラッっと見た。
 
 
リリ:(こいつ……ルクというものがありながら他の女にお姫様って……クズだわ……ゴミだわ……!!)
 
流慕:( も の 凄 く 不 機 嫌 だ ! )
 
誰が見ても一目瞭然の嫌悪感MAXの視線が流慕に突き刺さる。 
流慕は全く理解が出来なかった。
ここまで女の思考が理解できないものだとは思っていなかった。
が、一度始めてしまったお姫様抱っこをいきなり解くのも、不自然な気がしたので致し方なくそのまま走る。
 
リリは、昔、彼女が子供のころにもこういう風なプレイボーイ気取りというか。
何人の女を落としたかだけが誇りのようなつまらない同級生がいたことを思い出していた。
そういえば、あの男にも似たような嫌悪を感じていた。
 
リリ:「孤児院にいた頃にも、アンタみたいな男がいたわ……」
 
流慕:「孤児院? さて、なんかワケありのご家庭か?」
  
リリ:「人の家庭事情に首突っ込むとか、最低ね」
 
流慕:「お、おう……悪い悪い……」
    (ツッコまれたく無いんだったら話題に出すんじゃねえええええッッ!!!! 何のトラップだよッッ!!!!)
 
 
片瀬流慕。28歳。独身。
コミュニケーションの難しさを改めて思い知り、心折れる。
まぁ、この男。初登場したときから調子に乗ってたからいい薬になったんじゃあないかな?
 
 
 
流慕:(さて、出来るだけ早く縁を切ろう……)
 
 
 
―――――――――――――――――――――――
 
 
 
ヴィネガー:「宝条ルクが逃走を開始。そして、侵入者達の暴動……ひどい事態だ」
 
ヴィネガー=ディーアは自室でソファーに腰かけ、ワインを片手にため息をついた。
その横には彼の側近と思われる部下が立っている。
 
ヴィネガー:「下位層の者達をうまくつかって、侵入者と宝条ルクをうまく一か所に集めて下さい。
      それくらいの誘導、我がキング・レオーネの統率力と情報力があればたやすいはず……」
 
側近の男は一礼をして、ヴェネガーの部屋を後にする。
ヴィネガーはワインをすべて飲み干さずに、机に置いたまま立ち上がる。
そして、部屋の隅に、置物のように静かに佇むメダロットに声をかける。
  
 
ヴィネガー:「さぁ、いこう。クリムゾンキング……、我が組織はこれからも絶頂でなければならない」
 
 
 
―――――――――――――――――――――――
 
 
米斗:「なるほど、さっきの女がお前の主人か」
 
ダイナブレード:「あぁ、今もメールで指示を送ってくれている。俺達がギャングを陽動して、その隙にリリは荷物を取り返すらしい」
 
ルク:「あたし、リリちゃんには迷惑かけちゃったし、何かできることあるかな?」
 
ダイナブレード:「キング・レオーネの狙いは宝条ルクだから、こうして俺の背に乗ってくれているだけで囮として役に立つぞ」
 
ルク:「はーい!」
 
一方、米斗、ルク、ダイナブレード組はものすごいいい雰囲気だった。
ルクと米斗に至ってはダイナブレードの背でお茶でもすすりそうなくらい和んでいる。
 
 
ダイナブレードは巧みに飛び回りギャング達を陽動する。
戦闘ではなかなか役に立てないダイナブレードだが、正確に、そして速く飛ぶことにかけては右に出るものはいない。
しかも、今、彼はスマホを手にしたリリの適確な指示により、〝リリの道具として〟最高のパフォーマンスを発揮できていた。
 
 
しかし、彼は気づいていなかった。
彼のマスターたるリリも気づいていない。
米斗も流慕もルクも結構呑気しているので気が付かない。
 
 
 彼 ら は 今 、 誘 導 さ れ て い る ! 
 
 
それに気が付いたのは、ルクを回収してから20分程の事だった。
 
ダイナブレード:「リリ!?」
 
リリ:「ダイナブレード……!」
 
飛び回っているうちにダイナブレードは前方からリリをお姫様抱っこした流慕が走ってくるのが見えた。
流慕の後ろには大量のギャング達の姿が。
もちろん、ダイナブレードの背後にも彼を追うギャング達がいる。
 
挟み撃ちだ。
 
最悪の形で片瀬兄弟、リリ&ダイナブレード、そして宝条ルクは合流した。
前にも後ろにも大量のギャング。
致し方ない……と考え4人と1体は一番近くにあった扉を開いて部屋の中に立てこもった。
幸いにも扉は金属性で頑丈。
すぐに鍵をかけて、とりあえずの難は逃れた。
と、思いきや。 
 
 
ヴィネガー:「助かった……とでも思ったかね」
 
 

流慕:「…な!」
米斗:「…ん!」
リリ:「…だ!」
ダイナブレード:「…と!」
ルク:「…ッ!」
 
5人は仲良く驚く。
部屋にはヴィネガー=ディーアと数十人にも及ぶギャング達がこちらに向けてマシンガンの銃口を向けていた。
  
ヴィネガー:「まずは武器を捨ててもらおう……双子の片瀬兄弟に、泥棒リリアナ=ナラー」
 
何か打開する策を考えたいところだが、何も思いつかない。
仕方なく、流慕、米斗、リリは持っていた拳銃を捨てた。
 
ちなみに。
 
流慕:(え、この女、リリアナ=ナラー?捕まってたやつ?車でつっこんだやつじゃなくて?)
 
リリ:「え、この男、片瀬流慕? ルクの旦那なら苗字は宝条よね……?」
 
ここで誤解が解けた。
 
ヴィネガー:「次に宝条ルクの身柄を引き渡してもらおう」
 
ヴィネガーがそう告げる。
まずい、とリリは思った。
今、ギャング達の発砲が無いのはルクがこちらにいるからだ。
ルクを間違って撃たないようにキング・レオーネ側が注意しているのだ。
今、ルクを引き渡せば、おそらく直ちに自分たちは殺されるだろう。
 
ルク:「いいわよ」
 
ルクはあっさり答えた。
リリが止めようとしたが、ルクはさっと前に歩みでて、先ほどリリ達の捨てた拳銃を拾った。
 
そして、それを自らのこめかみに突き付けた。
 
 
ルク:「ただし、この人達の命が危ぶまれると思ったら、あたしはここで自殺する」 
 
ルクの行動に一瞬眉を動かすヴィネガーだったが。
 
ヴィネガー:「いいだろう。もとより無駄な殺生を好まない」
 
と言い、ルクを手招きする。
ルクの要求はまだ続く。 
 
ルク:「それから、あなたのまわりのごつい男の人達、遠ざけてくれるかしら?」
 
ヴィネガーは部下たちに自分から離れるように命令する。
ギャング達は全員、部屋の左右の壁に背中が付くまでヴィネガーから離れた。
 
今、部屋の状況は、
南側の壁際にヴィネガーが一人。
北側の壁際にリリと流慕と米斗とダイナブレード。
東西の壁際にマシンガンを持ったヴィネガーの部下のギャング達がいる。
そして、ちょうど部屋の中央に、ゆっくりと南の壁際に向かうルク、という状況だ。
 
ルクは自らのこめかみに銃口を当てながら、ゆっくり、ゆっくりとヴィネガーの方へと歩み寄っていく。
 
しかし、これでいいのだろうか?
ヴィネガーは本当にリリ達を殺さない気であろうか?
そんなはずはない。
たとえ近くに部下がいなかったとしてもヴィネガーも一人のギャングだ。
なんとかしてルクの隙を見て拳銃を奪い取るに決まっている。
 
なんとかならないのか。
 
 
実は、この時、今すぐにでもヴィネガーを死角から襲える者が存在していた。
その男はヴィネガー達が部屋に入り、着々とルク達を追い込む準備をしているときからずっとここにいた。
が、怖くてなかなか出てくることができなかった。
 
 
ただただ、ヴェネガーの背後の〝イニストラード国旗の裏〟で振るえるばかりであった。
 
 
ソリン:( な ん だ こ の 状 況 ~ ~ ~ ッ ! ! )
 
 
ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード。
それがこの状況を打破できる唯一の男の名前だ。
残念な事にこの男である。
 
しかし、ヴィネガーのまわりに部下がいない今。
ヴィネガーを助けようにも、ヴィネガーに当たることを恐れて部下たちが発砲できない今。
最大のチャンスである。
 
ソリン:(お、俺がやるしか、ないのか……)
 
ソリンは黄色のクリスタルを強く握りしめる。
メダナイトとは離れてしまったが、クリスタルにはまだメダフォースが少し残っている。
これをレーザー攻撃に変換して、ヴィネガーを負傷させれば、そしてヴィネガーを人質にとれれば、一気に逆転できる。
 
ソリン:(くそっ……どうやってクリスタル使ったっけ? マジで思い出せねー……)
 
しかし、問題はソリンがクリスタルを使いこなしていないことにあった。
イニストラードでも、ミラディン市街でも、父親の死や、自らの命の危険という極度の精神の高まりによってしか、クリスタルを起動することはできていない。
都合の良いタイミングでクリスタルを使う事が出来ないのだ。
 
ソリン:(で、でも、ここで活躍したら、俺って……〝英雄〟だよな……!
   何故かここにいるリリと頭の派手な男達がどう思うかは知らないけど……少なくともプロトの奥さん、ルクさんにとっては英雄だよな……
   あの美人で、巨乳で、人妻のルクさんの……〝宝条ルクただ一人の英雄〟には少なくともなれるわけだよな……アリじゃね?)
 
 
や る し か な い ッ ! ! ! ―――――――――――――――――――――――――――――
  
 
ソリンは国旗から飛び出す!
驚くヴィネガー!
すかさず、メダフォースのビームをクリスタルから放つ!
倒れるヴィネガー!
ついでに周りのギャングとかもクリスタルパワーで一掃!
大・活・躍・だ!!
 
ソリン:「さぁ……始めようか……」

フッと微笑むソリン。
そして、ルクの手を取り、優しく包み込むような甘い声で、決めセリフ。
 
 
ソリン:「『Sexy Dirty Deeds Done Dirt Cheap』"いともたやすく行われるえげつない性的行為"」
 
ルク:「なんだか分からないけど素敵!抱いて!揉んで!挿れて!!」
 
ソリン:「興奮してきた………服を脱げ」
 
 
勝ったッ!死神編完! 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――
  





―――――――――――――――――――――
 


 
――――――――――――――――
 
 

―――――――――――


――――――――

――と、妄想している。


こ の ヘ タ レ 巻 き 毛 は こ ん な 妄 想 を し て い る ッ ! !


ソリン:(うおおおおおお!! やったああああああ!!)
 
 
その時
 
 
ヴィネガー:「何だ、この光は!?」
 
ヴィネガーの背後のイニストラード国旗から光が漏れていた。
ソリンの異常なる性欲によって生まれる、尋常ならざるクリスタルの輝きがそこにはあった。
 
ソリン:(やっべぇ! クリスタル発動してんじゃねえか! こうなりゃヤケだぜ!!!)
 
ソリンはクリスタルをヴィネガーに向けた状態で、国旗から飛び出る。
ヴィネガーから見れば、何もないところから急に人間が現れたかのように見えただろう。
 

ソリン:「 ど ジ ャ ア ァ ぁ ぁ ぁ ~ ~ ~ ン 」


派手な登場を決めるソリン。
すぐにヴィネガーに狙いを定め、メダフォースを放つ。
 
ソリン:(やった!)
 
クリスタルから光線が発射される。
その時点ですでにソリンは喜んでいた。
真面目に。
そもそも、クリスタルによるビーム攻撃ができるのかが怪しかったのだ。
だから、光線の発射の成功と失敗にしか考えが至らなかった。
  
故に、 ソリンは敗北する。
  
光線はまっすぐヴィネガーに向かっていく。
部下たちも、ヴィネガーから離れすぎていて間に合わない。
だが、一人。否、一体間に合う者がいた。
 
ガオンッ!
 
ヴィネガーのスマホが光ったと思った次の瞬間、ソリンのビームはかき消されていた。
強大なデストロイ攻撃の一撃によって、相殺されたのだ。
 
ヴィネガー:「〝クリムゾンキング〟……、貴様の攻撃を消し飛ばした」
 
気が付けば、ヴィネガーの隣にはミラディン市街でメダナイトを一撃で戦闘不能に追い込んだメダロットの姿が。
クリムゾンキングの姿があった。
 
メダロットは3原則により、人間に攻撃できない。
だが、メダロットは3原則により、人間を守れる。
クリムゾンキングも例外ではない。
 
クリムゾンキング:「…………」
 
静かに佇んでいるクリムゾンキング。
攻撃が失敗し、すべてをあきらめてヘタリ込むソリン。
そして、ソリンに迫るヴィネガー。
これにて、逆転の目は無くなった。
 
ソリン:(そ、そんな~スマホにメダロットとかズルいだろ~~~!!)
 
スマートフォンのメダロッチアプリなんて別に珍しいものでも何でもない。
しかし、ここでソリンを弁護してみると、
ソリンと一緒にいるメダナイトは普段から、メダロッチもアプリも使わないのだ。
それにより、クリムゾンキングの防御を予測できなかったという点もあるかもしれない。
 
勿論、一番の原因は油断であったり、クリスタルを任意に使えない未熟さにある。
そのせいで彼は〝宝条ルクただ一人の英雄〟になり損ねた。
 
だが、問題ない。
なぜならば、
次の瞬間、
ソリンではない、
他の、
いや……真の、〝宝条ルクただ一人の英雄〟が登場するからだ。
 
 
 バ ッ ギ ャ ア ア ア ア ア ン ! ! !
 
強固な鉄の扉が大きな音を立てて崩れる。
そして、その奥からはソリンのピンチを狙いすましたかのように、暗黒騎士型メダロットが現れる。
 
 
メダナイト:「〝 虎 ・ 武 ・ 琉 ・ 暗 ・ 黒 〟」
  
メダナイト見参。
遠距離攻撃〝暗黒〟を使える剣士。
暗黒には多くのバリエーションがあり、扉を破壊した今の攻撃は、暗黒を剣に集めた威力重視の近距離攻撃「虎武琉暗黒(とらぶるあんこく)」。
 
ソリン:「メダナイトーーーー!!」
 
これまでのソリンの人生で、メダナイトがこんなにも神々しく見えた事があっただろうか。いやない。
メダナイトは別にソリンがいる事とか全然気が付かずに、次の技のモーションに入る。
 
メダナイト:「〝 暗 ・ 黒 ・ 魔 ・ 蛇 ・ 亜 〟」
 
メダナイト自慢の剣、グラットニーソードから紫色の光線が何本も飛び出す。
まるで触手のような、コードのような、うねうねとした軌道でとぶ〝暗黒〟がそれぞれヴィネガーの部下たちに襲い掛かる。
 
この攻撃もまた暗黒の亜種、暗黒魔蛇亜(あんこくまたあ)。
威力の低い複数の暗黒を放つ技だ。
威力は落ちるが、広範囲なので多人数戦に適している。
 
 
メダナイトのパワーは、ハルカゼ程ではない。
メダナイトのスピードは、ダイナブレード程ではない。
しかし、メダナイトは暗黒を駆使していかなる状況でも戦えるオールラウンダーなのだ。
  
 
メダナイトの登場により、戦況は逆転。
実はこの時、ソリンが無意識のうちにメダナイトのメダフォースを増幅させていたおかげなのだが、誰もそれには気が付いていない。
メダナイトたった一人の功績だと思っている。
 
メダナイトは間違いなく〝みんなの英雄〟であった。
しかし、〝宝条ルクただ一人の英雄〟ではない。
 
〝宝条ルクただ一人の英雄〟は、すでに、宝条ルクの元に駆けつけている。
 
ヴィネガー:「ナぁっ!?」
 
ソリン:「プロト!」
 
メダナイトが大暴れしている隙に部屋に侵入していたプロトは、ヴィネガーの後頭部を蹴り飛ばす。
そして安全を確保したところで、プロトはそっとルクを抱きしめた。
 
プロト:「無事で、何気に何より……」
 
ルク:「フフフ……待ってたよ♪」
 
ソリンの目の前でこれが行われた。
思わず目を背けたくなるような、イチャつきっぷりであるが、ソリンはあえて目をそらさなかった。
だって、プロトとルクが本当に幸せそうだったから。
 
ソリン:(へっ……これは俺の出る幕じゃなかったな。最初から。お幸せで何よりだぜ)
 
まがいなりにも〝愛〟の男。
ソリンは自分の愛の追及の為に、美女を探し求める。
だが、他人の愛の祝福の為に、美女から身を引く男なのだ。
 
 

その時、大いなる幸福感に包まれた宝条ルクの言葉が、その場の空気を変える。
時が止まったかのような、
急に温度が5度は下がったかのような、
異常なる静寂を生み出す。
宝条ルクは決してそのような空気を作ろうと思ったわけではない。
 
彼女は、ただ、愛する夫の名前を呼んだだけなのだ。
 
 
ルク:「ありがとう…… ヴ ァ レ ン 」


そして、その場の空気は凍った。
ヴィネガーはその場から飛びのいて絶句した。
リリは驚いて、しりもちをついて絶句した。
ダイナブレードは態度にこそ現れていないように見えるが、一瞬だけかぎ爪が少し震えた。
メダナイトは、剣を抜き、宝条夫妻に向かって構える。
ソリンはちょっとちびった。
 
そして、双子の片瀬兄弟は、驚きながらも、笑った。
 
 
流慕:「は、はっはっは……さて、米斗聞いたか……? ヴ ァ レ ン だってよ!」
 
流慕がそう言った瞬間、また、他の者達がビクッと体を震わせる。
それほどまでにこの名前は恐れられている。
〝ヴァレン=D=ジョーカー〟
かつて、この言葉は、ありとあらゆる恐怖を欲しいままにした言葉だった。
ありとあらゆる、不幸の象徴だったのだ。

米斗:「宝条ルクから情報を聞き出すつもりだったが……うまくいきすぎじゃないか」
 
 
まわりの様子を見て、ルクは冷や汗をかきながら、夫の顔を見る。
 
ルク:「あ、あ、あの、ご、ごめ、ごめん。あたしぃ……そのぉ……あまりにも嬉しくて、その、アレよ……、なんか、…………呼んじゃった」
 
ある意味、この場で一番動揺しているかもしれないのは、言葉を口にした本人だったりする。
彼女の夫は、ため息をついて、そっと人差し指で妻のほっぺたをプニッとつく。
そして、「ま、いっか」と軽く答えて片瀬兄弟の方を向く。
 
流慕:「さて、確認するぜ……お前、ヴァレン=D=ジョーカーだな?」
 
それに対し、ソリン達にプロトと名乗っていた、シルクハットの男は答える。 
 
 
 
プロト:「………私はLです。」 
 
流慕:「嘘つけえええー!!!!」
 
この古いネタに対して、わずか0.28秒でツッコミを炸裂させる片瀬流慕。
できる男である。
  
 
メダナイト:「そういう事か、プロト殿……いや、死神よ」
 
メダナイトは驚きながらも納得していた。
これまでのプロトの異常なまでの身体能力はこれですべて説明がつく。
 
だが、一つ。
説明がつかない事がある。
 
メダナイト:「死神ならば……何故、殺傷能力の無い武器を……?」
 
そう、史上最強最悪の殺人鬼といわれたヴァレン=D=ジョーカーが、まるで、殺人を避けるかのような武器を選択している。
これはどういうことなのか?
一体、死神に何があったのか。
 
プロトは……、否、〝ヴァレン〟は。
頭をポリポリと掻いたあと、はぁ~~~~~、とわざとらしく長い溜息をついて言う。
  
 
ヴァレン:「まーまー、お前ら、何気に人の話を聞けよ」
 
流慕:(聞いた結果が「………私はLです。」だろ!)
 
片瀬流慕は静かにキレていた。
ヴァレンはそんなことには当然気づかない。
 
 
ヴァレン:「たしかに俺はかつて、ヴァレン=D=ジョーカーという名前だった。そう、魔王に名づけられたからだ。
     だが今は違う……今の俺は『ヴァレン=宝条』だ」
 
そういってヴァレンはルクを抱き寄せる。
己の名前が変わった証拠だといわんばかりに。
 
ヴァレン:「そして、かつて俺は死神と呼ばれていた。魔王に命じられて何気に殺人をしていた。でも今は違う。俺は〝死神〟ではなく〝人間〟だ」
 
ヴァレンは先ほどのふざけた態度ではない、何か、信念を感じる熱い目で言う。
 
 

  
ヴァレン:「Killer's Role (殺人任務) とは決別したんだ。 ……もう今後一切関わるつもりは無い」
 
 
  
 
 


第十八話【Killer's Role との決別】 おしまい
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.32 )
   
日時: 2015/01/30 22:17
名前:

第十九話【せめて、人間らしく】
 
 

 巨大ギャング組織〝キング・レオーネ〟のアジトに現れた死神。
ヴァレン=D=ジョーカー。
彼は、かつて自分が死神であった事を認めたうえで、自分は〝死神〟ではなく〝人間〟だと主張する。
はたして、彼に何があり、何が起こったのか。
 
  
ヴィネガー:「き、貴様が死神……ッ!」

ヴィネガーは、プロト――もといヴァレンに蹴られた後頭部をさすりながら立ち上がった。
ヴァレンの名を聞いた時は、思わず驚きと恐怖で絶句してしまったが、今の彼の表情からは恐怖は感じられない。
むしろ、激しい憎悪を感じる。
 
ヴィネガー:「何をしに来たッ! 私を殺しに来たか!?」
 
獣が吠えるような声で叫ぶヴィネガー。
ヴァレンは少し気の抜けた声で答える。
 
ヴァレン:「おいおい、何気に人の話を聞けって。俺はもう殺しはしないし、何しに来たって……俺を呼ぶためにルクをさらったんだろ?」
 
やれやれとため息をついて、ヴァレンはヴィネガーを見る。
ヴィネガーは……何が何だか分からないといった顔をしている。
 
 
ヴィネガー:「……どういう事だ? 宝条ルクとお前に何の繋がりがある?」
 
ヴァレン:「……え?」
 
ヴィネガー:「……え?」
 
ルク:「……え?」
 
  
ヴァレンもまた、何が何だか分からないといった顔をしている。
ルクも何が何だか分からないといった顔をしている。
 
当人たちですら、このありさまだ。
まして、この部屋にいる片瀬兄弟やソリンやリリなんて余計に訳が分からない。
何故、ヴィネガーは宝条ルクをさらったのか?
何故、ヴィネガーがヴァレンに復讐をしようとしている、という誤解が生じているのか?
誤解ではあったが、何やらヴィネガーがヴァレンを憎んでいるらしい雰囲気なのは何なのか?

しかし、次のヴァレンのセリフにより、一つの疑問は解消される。

ヴァレン:「待て待て待て、お前、何気に復讐するためにルクをさらったんじゃねーのか!? この俺に――――」
 
 
 
『――――俺に殺されたお前の父親、ボロス=ディーアの復讐によおッ!!』
 
 
 
 
7年前、死神ヴァレン=D=ジョーカーは恐怖の象徴だった。
人間の姿をしながら、人外の運動能力をもち、その能力は全て殺人に注がれていた。
まさしく、死神と呼ばれるにふさわしい男だったのだ。
しかし、死神はある事件をきっかけに人間に生まれ変わる――――――――――――――――――――――――――――
 
 
死神、ヴァレン=D=ジョーカーは魔王によって人工的に生み出された生物だ。
体のベースは人間でありながら、胎児の時にありとあらゆる化学物質を注入され、人外の能力をもって生まれてきた。
彼は、生みの親たる魔王に命じられるままに殺人を繰り返した。
彼に特別な感情はなかった。
 
魔王が殺人をするよう命じる人物は皆犯罪者であったが、ヴァレンは犯罪者を憎む心は無かった。
それと同時に、親である魔王を敬愛する心も無かった。
彼にとって殺人は、何の感情も無く行われる単なる作業だったし、魔王に対して良い感情も悪い感情も抱いていなかった。 
殺人を悪だとする心は無かった。
殺人を正義だとする心は無かった。 
殺人を面倒だと思う心は無かった。 
殺人を生きがいだと思う心は無かった。 
殺人を楽しいと思う心は無かった。 
殺人を嫌だと思う心は無かった。
 
だが、彼には殺人以外に特にすることが無かったので、何となく人を殺していたのだ。
 
 
ある日、ヴァレンは魔王に長期任務を言い渡された。
犯罪者100人分の裁きだ。
これだけヴァレンが犯罪者を殺しても、一向に無くならない犯罪に辟易とする心も彼には無かった。
二つ返事で任務を受け入れた。
 
 
淡々と犯罪者を暗殺していき、ついに残りの犯罪者は2人となった。
 
1人は、宝条ルク。
もう1人は、ボロス=ディーア。
 
ヴァレンは特に考えがあって、この2人を残しておいたわけではなかった。
潜伏している場所が近い順に殺していくと、結果としてこうなっただけだった。
どちらもミラディン国に潜伏しているようだったので、ヴァレンはミラディンに向かった。
 
泳いで。
 
……冗談に聞こえるかもしれないが、直線距離でみれば陸路で列車を使うよりも海を渡る方がはるかに近かった。
そして、ミラディン行の船は出ていなかった。
人外の能力を持つ死神からしてみれば、泳いだ方が早かったのだ。
 
 
そして、ミラディンの港町、フィフス・ドーンにたどり着いたのだ。
フィフス・ドーンと言えば、ボロス=ディーアの組織、キング=レオーネの本拠地。
ヴァレンはボロス=ディーアから先に殺害することにした。
 
ボロス=ディーアといえば、裏の世界でもその顔を知る者はいないとされるほどの謎の男だ。
だが、ヴァレンは魔王の情報網によって、ボロス=ディーアの顔も潜伏先も知っていた。
一見ホテルに見えるビル。
そこにボロス=ディーアはいる。
ヴァレンはホテルに向かった。
 
 
そして、結果から言うとヴァレンはボロス=ディーアを殺害した。
しかし、キング=レオーネの組織力によって、ヴァレンは死ぬ寸前のところまで追いつめられる事となる。
ボロス=ディーアは死神が自分を狙っているという情報をすでに得ていたのだ。
ヴァレンはボロスの策に嵌められ、魔王との連絡もとれず孤立無援となってしまい、街の人間全員から命を狙われる身となる。
 
銃弾で何発撃たれたか分からない。
刃物で斬られた傷は幾千にもおよぶ。
体全身が血で真っ赤に染まった。
それでも、ヴァレンは死神だった。
 
逃げることなく、ボロス=ディーアの元までたどり着いた。
 
 
ボロス:「あの状況で……ここに辿り着くとは」
 
生まれて始めて息を切らせながら、ヴァレンはフィフス・ドーンの海岸でボロス=ディーアと退治した。
ボロス=ディーア紫色の長髪の男だった。
やや地味なスーツを着ている者の、随分と派手な髪なので今まで誰にも顔を知られていないというのが信じがたい。
 
だが、ボロスの手際は見事だった。
ギャングのボスともなれば、何人か部下を連れているものかと思えば、単独行動で移動を続けていた。
そのせいで、ヴァレンはボロスの発見が大幅に遅れ、無駄なダメージを蓄積してしまった。
 
ボロス:「気に入った。死神よ、我が組織に入らないか?」
 
ヴァレン:「…………」
 
ボロス:「はっきり言うが私を殺したところで、我が組織は止まらん……いや、人間は止まらない。悪の心は生まれながらの人間の本能なのだ。」
 
ヴァレン:「別に……」
 
ボロス:「……?」
 
ヴァレン:「人間とか、悪とか、興味は無い」

 
ヴァレンはボロスに斬りかかった。
魔王からもらった伝説の妖刀「スバル」がボロスに迫る。
しかし、
 
クリムゾンキング:「おっと死神さんよォーー!! ボロスは殺させやしないぜッ!!」 
 
一体のメダロットが、その刃を防いだ。
1人だと思われていたボロスは、実はスマホアプリの中にクリムゾンキングを潜まていたのだ。
 
クリムゾンキング:「っていうか痛いですね~~。何で左腕でうけちゃうんですか~~?」
 
クリムゾンキング:「まぁまぁ、ボロス様のお命の為ですから。」
  
 
クリムゾンキングは何やら1人で話しているが、今はそれどころじゃない。
ボロスが勝ち誇った顔で、ヴァレンの眉間に銃口を突きつけている。
 
ボロス:「……」
 
パンッ……!
乾いた音があたりに響き渡る。
ボロスは何も言わずに引き金を引いた。
本当に人を殺す時とは、前口上なんてなく、殺そうと心の中で思った時点ですでに殺しているのだ。
 
 
クリムゾンキング:「やっりぃーー! 俺たち大活躍!!」
 
クリムゾンキング:「おい、油断するでない」
 
1人で喜び、1人で自戒するクリムゾンキング。


ボロス:「興味ないと言ったか……たしかにその通りだったが、じゃあ一体お前は何に興味を抱いたというのだろうな……」
 
 
ボロスは倒れたヴァレンの後頭部に再び銃口を向ける。そして、
……パンッ! 
と銃声。
 
  
その瞬間、ボロス=ディーアは胸をヴァレンの腕に貫かれた。
   
 
ボロス:「……!?」
 
一瞬、何が起こったかボロスには意味が分からなかった。
だが、すぐに理解した。
銃口の向いた先に、死神の頭は無かった。
そして、ここまで無表情だった死神が眉間に皴をよせて、鬼のような形相でボロスを見ている。
死神の額にはボロスの撃った弾丸が突き刺さっている。
 
クリムゾンキング:「なッ!! ボロスちゃん~~!!」 

ボロス:(眉間の筋肉で、銃弾を止める……だと……ッ! ここまで人間離れしているとは……)
 
ボロスは倒れる。
クリムゾンキングは、種族的には人間のヴァレンを攻撃することはできず、何もできずに見ている。
 
 
ボロス:「まったく……、心無く、ただただ人を殺すのみ……何の執念もなく……
    しかし…くそ…みごとだ…ヴァレン=D=ジョーカー」
 
 
そしてボロス=ディーアは息を引きとった。

普通の人間ならば眉間の筋力で銃弾を止めてまで襲いくるヴァレンを「殺しに対する執念が凄まじい」などと思うかもしれない。
何が一体彼を掻き立てるのか?と疑問を持つのだろう。
だが、それはまったく本質を捉えることが出来ていない。

死の直前、ボロスはヴァレンの殺しを「何の執念もなく」と表現した。
これこそが最も正解に近い。

そもそも、前者の感想は〝人間は何もしていないのが基本状態である〟という思い込みに過ぎない。
何もしていないところに、何かしら執念や信念などの内的要因や、自分の命の為仕方なくなどの外的要因によって、行動が起こるのだという思い込みだ。
 
史上最強最悪の殺人鬼、死神ヴァレンの本質は真逆。
後者、ボロスの感想が正しい。
〝殺し続けることが基本状態である〟のだ。
その基本状態に対して、彼が基本状態をやめるだけの、内的要因も外的要因も無いだけの事。
 
人間がボーっと突っ立っているのと同等に、死神は人を殺すのだ。
 
 
ヴァレン:「何気に時間がかかったな……次は……宝条ルクか……」

ヴァレンは自分の体の傷など気にせず、もうすでに次のターゲットの事を考えている。
生まれて初めての大怪我だったが、生まれて初めてだったおかげに、それに対してどう処理をすればよいのか分からなかったのだ。
だから、殺す。
人間が目の前の事象をどうしていいか分からない時、ただ立ち尽くすのと同じように、殺す。
 
クリムゾンクング:「き、貴様ーーーッ!」
 
熱くなったクリムゾンキングが叫ぶが、メダロットは人間に対して攻撃をすることはできない。
仲間を呼ばれては、次の殺しに行けない。
ヴァレンは無言で機銃マーブラーでクリムゾンキングの頭を撃ち抜いた。
機能停止するクリムゾンキング。
 
しかし、そう簡単に次へ行かせてはもらえない。
なんせ今ヴァレンの殺害した男は、ミラディンを支配していたといっても過言ではない男だ。
 
自分が死んだ後始末もつけてある。
 
ヴァレン:「……ッ!」

ヴァレンがその場を後にしようとした時だった。

ボ ロ ス の 死 体 が 爆 発 し た 。

普段なら何なくかわせた攻撃だったろうが、傷が深すぎて上手く動けなかった。
ヴァレンは爆風に吹き飛ばされ、海に落ちた。
体が粉々にならなかったあたり、やはり普通の人間ではない。
メダロット並の頑丈さはあるだろう。
 
 

そのまま、ヴァレンは海の中で意識を失った――――――――――――――――――――――――――――
 
 


―――――――――――――――――その夜、宝条ルクは逃げていた。
 
とるに足らないチンピラから逃げていた。
 
ヴァレンが、犯罪者の中の大物ボロス=ディーアを殺害したその夜。
宝条ルクは、犯罪者の小物の中の小物に追われ、必死で逃げていた。
 
追われる原因は、宝条ルクに一切、非がない。
レプリカ制作の依頼を受け、依頼の品を納品。
受け取った金が約束の半分しかなかったので、話が違うと抗議をしただけ。
10000円の値段の商品を5000円で買いたたかれたあげく、追い掛け回されることとなったのだ。
 
ルク:「ヒ、ヒィ……! ど、どうしてあたしが、こんな目に、……チクショウ、チクショウ!!」
 
元々はこの世界でも一、二を争う大富豪のお嬢様だった。
それが、いつ、どう間違ってこうなったのか。
今の宝条ルクは、ありとあらゆる世界から逃げに逃げ、逃げつくしてここにいる。
小物の中の小物からすらも搾取される、弱い、弱すぎる存在。
そして、その弱さゆえに、ありとあらゆる悪党に利用され、悪党を生み出す、犯罪者の温床となった。
さらには、死神の殺害リストにまで加えられる。
 
彼女は何を間違ってしまったのか。 
 
逃げていくうちに、宝条ルクはいつしか崖っぷちにまで追いつめられていた。
振り向けば、逃げるべき道は無く、20mほど下は海だ。
 
ルク:(いつも……いつもそうだ! あたしは逃げる場所は碌な場所じゃない! いつも袋小路だ!
   クソッタレが! どいつもこいつもあたしを不幸にするためにしか存在しねーのかよ!)
 
逃げに逃げて、ようやくレプリカ制作という才能を商売に生かす道を見つけた。
しかし、その道は彼女の人生にとっての袋小路だったのだ。
 
気色の悪いニヤニヤ顔でルクを追い詰めるチンピラたち。
ルクの背後は海だ。
もう逃げ場はない。
 
ルクははっきりと分かった。
犯される、と。
 
ルク:(……ここで服を脱げば、命だけは助けてもらえるか……?)
 
糞真面目にルクは考えていた。
何としても生にしがみついていた。
だが、すぐに気が付いた。
いや、本当はもうずっと前からルクは気が付いている。
 
 
生きていても良い事なんて何も無いと。
  
 
ルク:「クッ………フアハハハハ!! ハァーハッハッハハ!!!」
 
それに気が付いた時、ルクは狂ったように笑い出す。
一筋の涙を流しながら。
 
 
そして、ルクは十字架のように両腕を開き、自分の背後に広がる大海原に身を投げた。
 
 
逃げに、逃げて落ちぶれた宝条ルクは、とうとう〝この世〟からも逃げ出したのだ。
 
ルク:(ハハ……これで、これでいいんだ! ハハハハ……!!)
 
飛んだ瞬間、ルクはそう思っていた。
だが、落下を初めてほんの数秒で心変わりする。
恐い。
なんだこのスピードは。
海にたたきつけられたらいたそうだ。
恐ろしい。
誰か助けてくれ。
 
……結局、逃げる覚悟がこの女には無いのだった。
現状の恐怖から、逃げ、また別のさらに恐ろしい恐怖を生み出す。
それに気が付かない。
破滅にしか向かわない女だった。
 
海に体をたたきつけられた。
痛い。
こんなに痛いなんて聞いてない。
 
ルク:(死ぬ! 死んでしまう……!)
 
無様にもがき、苦しみながら、宝条ルクは生にしがみつこうとした。
自ら死を選択しておいて、
そして、生きていたって何もいいことなんて無いとよく知っているのに。
何の意味もない人生に何故か、無様にしがみ続けた。
 
ルク:「だめだ……お、ぼれる。……誰か助けて! 誰か、誰かーー!!」
 
無駄な叫びだ。
家出してからの宝条ルクの人生で助けてくれる人なんてだれもいなかった。
ましてこの状況だ。
蹴落とす敵はいても、助ける味方はいない。
 
だが、この瞬間。
 
家出して以来、初めて。
宝条ルクに救いの手が差し伸べられた。
 
 
海に浮かぶ死体だった。
 
 
宝条ルクは死にもの狂いでしたいにしがみつく。
すこし落ち着いた。
呼吸を整える事が出来る。
そして、そのまま岸まで泳ぎきることができた。
 
 
ルク:「ハァハァ……! ゲホッ……うげ……う…ッハァ…ハァッ……!」
 
ルクは岸で、鼻水を垂れ流し、ゲロを吐く。
そして、こんな無様な姿になってまで、生き延びる価値があったのかと自分に問いかけ、また涙を流す。
 
ルク:(死体か……あたしに手を差し伸べてくれるのは死体だけってか……)
 
神からの酷い皮肉にはもはや失笑するしかなかった。
宝条ルクはどんな死体かと、死体をのぞきこむ。
金髪の男だった。右目の下にホクロがある。
 
ルク:「あんたも、きっと人間らしい人生なんて歩んでなかったんだろうさ
   あたしに辿り着いちまうくらいだしな……ん?」
 
しかし、その時気が付いた。
この死体、死体ではない。
まだわずかに息がある。
 
ルク:「…………ッ!!」
 
宝条ルクははっきりいって人を簡単に見殺しにする人間だ。
自分の得にならないような事はしない。
というよりも、他人の為に何かをするような余裕のある人生ではなかった。
 
そう、宝条ルクは立ち上がると、まだ生きている命を無視してその場を立ち去ろうとしていた。
その時だった。
 
『宝……条…………ル……ク』
 
死体の男が小さなうめき声がこう言った。
ビクッと体を震わせて、振り返る宝条ルク。
 
ルク:「…………!?」
 
 
そして―――――――――――――――――
 
 
 

ヴァレン:「…………?」
 
 
死神ヴァレン=D=ジョーカーは生まれて初めての気絶から、意識を取り戻した。
どこかの汚い部屋のなかにいた。
薄い毛布が掛けられ、首からしたは包帯でグルグル巻きだった。
体が全く動かない。
思っていたよりも傷が深かったようだ。
 
ヴァレン:(……これじゃ何気に宝条ルクを殺せないな)
 
それでもやはり殺しこそが基本にあった。
その時だった。
その〝宝条ルク〟本人が登場したのは。
 
ルク:「目が覚めたか……」
 
ヴァレンは殺そう思ったが、体が動かなかった。
この時、本人が気が付いたかどうかは定かではないが、
史上、初めて、死神が殺しを行わない理由ができていたのだ。
 
だから、ヴァレンは殺し以外の事を考える余地が与えられていた。
 
宝条ルクは、いきなり包帯グルグル巻きのヴァレンに馬乗りになる。
そして、ヴァレンの口の中に拳銃をつっこんで凄む。
 
ルク:「テメェ……なんであたしの名前を知ってやがった……身に着けていた機銃と刀で何をする気だった!!」
 
  
ヴァレンは思った。
濁った、汚い目をした女だと。
 
これまでヴァレンが殺してきた犯罪者は、皆それなりに大物であった。
向上心があった。
成功体験があった。
だから、悪人だが、その目には強い力があった。
昨日、殺害したボロス=ディーアなんてのはその最たるものだ。
 
だが、生まれて初めての小物犯罪者はヴァレンの想像以上……いや、想像以下だった。
 
拳銃を口につっこまれながら、ヴァレンはほんの少しも恐怖を感じなかった。
自分が死ぬ、という可能性をまったく考えなかった。
 
目の前の、このちっぽけな存在は何もできないとわかっていた。
だから、自分は死なないとわかっていた。
 
死神ヴァレン=D=ジョーカー。
生まれて初めての人間考察であった。
自分にも心のようなものがあるらしいと知ってやや驚いた。
 
宝条ルクは、ヴァレンをこれっぽっちも脅せていないと気が付き、
悪態をつきながら拳銃を床にたたきつけていた。
 
 
かつて、ヴァレン=D=ジョーカーは人間ではなかった。
 
人間を超越した体を持ち、
 
そして、心を持たぬ死神であった。
 
 
だが、
 
 
宝条ルクは
 
人並み以下の体力に
 
人並み以下の知性に
 
人並み以下の精神しかない
 
死神でない事はもちろんだが……
 
 
もはや人間ですらない
 
それ以下の
 
どうしようもない何かだった。
  
 
  
 

第十九話【せめて、人間らしく】 おしまい
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.33 )
   
日時: 2015/03/08 20:24
名前:

第二十話【恋はスリル、ショック、サスペンス】
 
 
 瀕死の重傷を負ったヴァレン=D=ジョーカー。
その命を救ったのは皮肉にも、ヴァレンの次のターゲットたる宝条ルクだった。

ヴァレン:「で、何気にここはどこだ?」
 
ルク:「あぁ? あたしの隠れ家の一つだよ、文句あるか?」
 
文句は無いが疑問はあった。
あの死神が〝疑問〟なんていうものを抱くとは、恐らく生みの親たる魔王は思ってもみなかっただろう。
 
ヴァレン:「……なんで俺を助けた?」
 
ルク:「……お前があたしの名前を知っていたからだ」
 
あの時、ヴァレンを残してその場を去ろうとした時。
ヴァレンはルクの名を口にした。
恐らく、この時、ヴァレンが万全の状態ならば、立ち上がってルクを殺害していた事だろう。
しかし、それは出来なかった。
偶然、直前のターゲットがボロス=ディーアという強大な男だったおかげで。
 
ルク:「お前は……何者だ!? 何故あの時海にいた!? あたしをどうするつもりだ!? 」
 
ルクの不安が爆発した。
相手は自分の名前を知っている。
自分は知らない。
この世のありとあらゆる人間から搾取されるだけの弱者にとって、これほどの不安は無い。
 
ヴァレン:「……俺はプロトだ」
 
偽名を使った。
ここでヴァレンなんていう悪名を使ってはターゲットに逃げられる。
 
ヴァレン:「海にいたのは何気に事故だ。フィフスドーンのギャングの抗争に巻き込まれた」
 
これは本当の話だ。
ただし、その抗争のド真ん中にいたのは彼自身だが。
 
ヴァレン:「そして、どうするつもりだと言われても……何も出来るわけないだろう」
 
そして冷静に考えなくともその通りである。
現状、ヴァレンとルクの力関係は完全にルクの方が上にあった。
何せヴァレンは怪我で動けない。
 
ルク:「ッ! ……そ、そうだった。な、なんだ完全にあたしの方が有利じゃん」
 
しかし、ルクはそんなことにも気が付いていない。
人生のありとあらゆる場所で敗北し、逃げてきた彼女は、例え自分が有利な状況にいても、全てに対しておびえる癖がついている。
 
ルク:(本当にあたしは馬鹿だ。この男に言われるまで、この男があたしにどんな〝不幸〟を運んでくるのかばかり考えていた……)
 
そう思うと、その脆弱な心にもちょっぴりの余裕が生まれた。
それにしても矛盾した女だ。
そんなにヴァレンが怖いならば、それこそ見殺しにすれば良いものを。
しかし、彼女にはその一見合理的な判断が出来ないのだ。
 
勝ちたいと願いながら、負ける選択肢ばかりをとり、
逃げたいと思いながら、袋小路に向かい、
死にたいと思いながら、生にしがみつき、
生きたいと願いながら、その身を投げ、
幸せになりたいと願いなら、不幸であることを受け入れる。
 
そんな、不出来な漫才のボケのような事を延々と繰り返すのが宝条ルクという人間だった。
いや、漫才ならばツッコミがいるべきだ。
だが、彼女はツッコミなんていなかった。

ボケたときに。
ツッコミがいない。
おかしな行動をとった時に。
その行動を是正してれる人はがいない。
 
宝条ルクは14歳の2月14日に家出をしてから、ずっと一人ぼっちだった。
一人だから、漫才は成立しない。
いつでも、自分の過ちに気が付くのは、取り返しがつかなくなってからだった。 
14歳の2月14日、家出を選択したあの日の事を、今更悔やんでも意味がない。
4年も前の自分のボケに、自分でツッコミをいれても漫才として成立しない。
ボケたその瞬間に、ツッコんでくれる相方が必要なのだ。
 
 
ツッコミの不在。
宝条ルクが落ちぶれた最大の要因はここにあるのかもしれない。
 
 
ヴァレン:「で、……お前は何気に俺を殺すのか?」
 
ヴァレンはこの女がよくわからなかった。
どうやら、この女が正義の心とやらで自分を助けたわけではない事は分かった。
しかし、
助けた理由が、ヴァレンが宝条ルクの名前を知っていたから、というのは何とも信じがたい。
だって、宝条ルクの名を知る者なんて少なくとも裏世界には大勢いる。
もしかすると、元宝条家という事もあって、表にも名は通っているかもしれない。
と、いう事は、ヴァレンはルクにとってそれほど特殊な人間ではないという事になる。
普通に、レプリカの制作を依頼しようとしていた客だと思って良いはずだ。
 
だが、それにしては、手厚すぎる。
ヴァレンの体には、雑ではあるものの、一応の治療の跡が見られる。
薄いながらも、毛布を掛けてくれている。
 
ヴァレンが目覚めてからの言動を見ても、宝条ルクがここまで他人の世話をする女だとは思えない。
むしろ、ヴァレンが危険だと判断するやいなや、ヴァレンを放置して逃げ出してもおかしくは無い。
 
ルク:「別に……殺しはしないわ」
 
ヴァレン:「じゃあ、俺をどうする気だ?」
 
ルク:「どうするつもりもないけど……まぁ、怪我が治るまでは付き合ってやるよ」
 
 
結局、宝条ルクはヴァレンに非常に微々たるものだが、感謝をしてしまったのだろう。
ヴァレンにその気がなかったにせよ、
単なる偶然であるにせよ、
自分の命を救ってくれた相手が、自分の名前を知っていた、という事実に運命のようなものを感じているだろう。
 
その事に、宝条ルク本人もまた気づいてはいないのだろうが。
 
 
グゥ~~。
 
 
ヴァレン:「……あ」
 
その時、ヴァレンの腹の虫が鳴った。
思えば、フィフス・ドーンに上陸して以来、まともな食事をとっていない。
 
ルク:「……そういえばあたしも腹が減ったな」
 
そう言うとルクは、部屋の隅にある業務用の炊飯器をあける。
炊飯器の横に置いてあったどんぶりに、白米2合程度を山盛りによそうと、ガツガツと獣のように食いだした。
 
ヴァレン:(何気に、美味そうに飯を食う女だな……)
 
ヴァレンがそう思いながら、白米2合をおかず無しに3分程度で平らげたルクを見ていた。
ルクもヴァレンの視線に気が付き、意地の悪い笑みを浮かべる。
 
ルク:「あぁ、そういえばお前も腹減ってたわね」
 
自分が有利な立場であると知るや否やこの態度である。
ヴァレンは怒ることも無く、ただただ呆れていた。
 
ルク:「ホレ、泣いて喜べ」
 
そう言ってルクは、冷蔵庫の中にあったゼリー飲料をヴァレンに放り投げた。
ゼリー飲料はヴァレンの枕元に落ちたが、ここで問題がある。
そして、その問題について、ヴァレンもルクも最初から気づいていた。
 
ヴァレンはせいぜい、首から上くらいしか自由に動かせない。
つまり、一人で食事をするのは相当に困難な状況である。
 
ルク:「おやや? 飲まないの?」
 
至極楽しそうに言うルク。
普段、強者にいびられている弱者は、弱者の気持ちをとても理解している。
しかし、その弱者がある日強者になった時、弱者に手を差し伸べる事は無い。
弱者時代の腹いせとも言わんばかりに、弱者をいたぶるのである。
 
しかし、ヴァレンは顔色一つ変えずにゼリー飲料の飲み口をくわえる。
飲み口には、ある程度の力を入れて回さなくては蓋があかないようになっているが、
ヴァレンは、それを、
噛み砕いた。
 
ルク:「……ちょ!?」
 
そして、何も問題が無かったかのようにゼリー飲料を飲み干した。
 
ヴァレン:「……ん。何気にごちそうさま」
 
ルク:「……ケッ!」
 
 
ルクは顔をゆがめた。
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ヴァレンがルクの隠れ家に居着いてから一週間が経過した。
まだ手足を自由に動かすことはできないが、上体を起こす程度はできるまで回復していた。
 
 
ルク:「…………!!」
 
ルクは真剣に悩んでいた。
床に、競馬新聞、競馬情報誌を広げて真剣になやんでいた。
 
どの馬に賭けるべきか!
 
 
ヴァレン:「なあ」
 
ルク:「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」
 
ルクはものすごい剣幕で、競馬新聞を凝視したまま言う。
が、その凄みも、史上最強最悪の殺人鬼には通じず、ヴァレンは気にせず続ける。
 
ヴァレン:「何気に金ってのは大事なもんなんだろ?」
 
ルク:「当たり前だろ。それに、あたしはお金が大好きだ」
 
ヴァレン:「だったらギャンブルなんかにつぎ込まずにコツコツ貯めろよ」
 
ヴァレンはまたも理解できなかった。
ギャンブルとは挑戦者が損をし、企画者が得をするように作られている。
そこにわざわざ金を投げ入れるなんて事はありえない。
 
お金なんてどうでもいい、娯楽として楽しめれば……という精神でするならともかく。
生活費を賭けるものではないはずだ。
合理的に考えれば。
 
ルク:「うるせぇ……もしこれに勝てば一発逆転。あたしはこんな汚い世界で仕事をしなくて済むんだ」
 
しかし、そこは敗者になることに慣れきってしまった宝条ルク。
自ら破滅に向かっていくことに、何の疑問も持たない。
 
ヴァレンにしてみれば、この女が破滅に向かおうがなんだろうが、どうせ殺すのだからどうでもいい。
だが……
 
ヴァレン:「そのレースなら、一番はヒロイックエンジェル、二番はラストビーストだな」
 
ルク:「あぁ?」
 
ヴァレン:「写真で見る限りだが、筋肉の付き方が何気に良い。その二頭より良い体つきの馬もいるが、微々たる疲労が見える」
 
 
ギャンブル完全初心者でありながら、アドバイスを出すヴァレン。
宝条ルクの懐が寒くなるという事は、自分自身の食い物がなくなるという事だ。
しかし、それを除いても、どうにも見ていられなかったのだ。
 
ルクは黙ってヴァレンを睨みつけた後、再び競馬新聞に目を落とす。
そして、言う。
 
ルク:「たしかに、その選択も無しじゃないわね……」 
 
 

次の日――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ルク:「チクショウ負けたァ!!」
 
帰るや否や、床の競馬新聞と情報誌をビリビリに破きながら、ルクは吠えていた。
 
ヴァレン:「そうか、何気にスマンかった」
 
ルク:「うるせぇ! テメーのせいじゃねえよ!!」
 
ヴァレン:「?」
 
 
ヴァレンが頭上にクエスチョンマークを浮かべているとルクがものすごく気まずそうに言う。
 
ルク:「……どうせ初心者の予想なんて外れると思って別の馬に賭けたら……お前の予想通りだった……」 
 
ヴァレン:「……そうか」
 
ルク:「チクショウ! 馬鹿にしろよ! 罵倒しろよ! お前の言う通りにしてりゃ良かったのにって、あたしを蔑めばいいじゃない!!!」
 
ルクは涙目で吠える。
悲しいのか、怒ってるのかよくわからない表情だ。
 
ヴァレン:「いや、何気にお前の金だしお前の好きにすればいいだろ……そうしてほしいならそうするが」 

ヴァレンは特に腹を立てなかった。
結局ルクの金はルクが自由につかうものだ。
そこに怒りを覚えることはない。
自分の食事が貧相になるであろうことは、まぁ、ある程度覚悟をしていたので我慢する事にしていた。
強いて言うならば、自分の予想が的中した事に、快楽を覚えていた。
 
ヴァレン:(何気にギャンブルって楽しいもんだなー……)
 
そう、生まれて初めて〝楽しい〟という感情を知ったのだった。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
それからまた一週間後の話。
 
宝条ルクは1人で街を放浪していた。
ここ最近の圧倒的貧困から目を背けるため、行くも当てもなく夜の街をブラブラしていた。
 
ルク:(あぁ……あたしは世界最も不幸な女……)
 
断わっておくが宝条ルクの収入は決して少なくない。
彼女のレプリカ作成の腕は本物であるし、需要も出始めている。
むしろ、彼女は各国に家をいくつも持っている高所得者なのである。
 
だが、ギャンブルによる散財と、常任の数倍はある食費によって貧困な生活を送らざるを得なくなった。
つまり、少なくともお金がない事に関しては運が悪いわけでも幸が無いわけでもなく、自業自得なのだ。
が、それにルクは気が付かない。いや、気づかないフリをしている。
「自分は不幸だから、追い詰められているのであって自分に過失は無い」と思い込んでいた方が楽なのだ。
 
夜になっても明るい街。
ルクはあえてそういう場所を選んで徘徊している。
人がたくさんいるところにはいろんな種類の人間がいる。
その中で、自分より不幸そうな人間を見つけると安心するらしい。
そんな糞みたいな考えで夜の街を徘徊しているルクはある後継を見て足を止めた。
 
違法風俗店の客引きだった。
 
別に珍しいものではない。
夜なのだ。
街なのだ。
普段なら気にも留めないものだ。
 
だが、魔が差したといやつだろうか。
金に困ったルクはこんなことを考えていた。
 
ルク:(風俗嬢って……儲かるのかな?)
 
一度、差してしまった魔はなかなか頭を離れない。
どんどんとルクの思考を侵食していく。
 
ルク:(儲かるよね? 指名とかいっぱいもらったら儲かっちゃうよね?
   しかも楽チンそうじゃん? 結局、多少……その、下手……でもさ、若ければ誰でもいいんでしょ?)
 
ついでに言うと、ルクは自身の容姿やプロポーションが良いという自覚があった。
自分ならあんまり努力しなくても風俗でやっていけるんじゃないか、という謎の自信があった。
実際に風俗で働いている者からしてみれば、なんとも失礼な考えである。
 
しかし、一度そう思ってしまえば遅い。
この宝条ルクという女は、安直な考えで自分の立場を悪くする事に関して、思い留まる事をしらない。
だからこそ。
 
そんな彼女だからこそ。
 
だからこそ、ツッコミが必要なのだ。
 
 
そして、幸運にも今回はツッコミ役がいた。
 
いや、どちらかというと彼もツッコミ属性とはいいがたい。
彼も彼でまたボケ属性なのだろう。
だが、たとえボケ属性の者でも、自然とツッコミをしてしまう状況というのがある。
今回はまさにそれだった。
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 

ルク:「真剣な話をするわよ。男のあんただからこそ質問する……」
 
ルクは家に帰るや否や、ベッドで寝ている。
プロト(と名を偽っているヴァレン)に話した。
 
 
ルク:「 あ た し の 事 、 性 的 な 意 味 で 抱 き た い と 思 う か ? 」
 
 
とんでもない質問だが、彼女は真剣だった。
そしてこの質問だが、結構な人数の男性が「YES」と答えてしまう質問であったりする。 
恐らく、片瀬米斗やギディオン=レヴェインにこの質問をしても「まぁ、美人だし」なんて言いながら首を縦に振るだろう。
片瀬流慕やソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードに質問をすれば、早くもベルトを緩め始めるかもしれない。
 
 
 
ヴァレン:「 は ぁ ? 別 に ? 」 
 

しかし、相手が悪かった。
いや、相手が良かったというべきか。 
ルクが質問をした相手は、一応は男性であるものの、これまで性欲なんてものと無縁の場所にいた男なのだ。
 
女性の宝条ルクにまっっったく性的な魅力を感じていなかったヴァレン。
その、「はぁ? 別に?」というそっけなさ過ぎる言葉は、宝条ルクの自信を木端微塵に爆散させた。
 
ルク:「……そ、そうなの? あ、あたしってそんな魅力ない?」
 
目に見えて落ち込むルク。
この女、意外と美貌とかに自信持っちゃてたタイプなだけに、その落ち込みも激しい。
 
ヴァレン:「何気にだが、俺は何も感じないな。……っていうかなんなんだ?その質問は」
 
ルク:「いや……、その、……風俗嬢とか、いいかなーって……思って、思いまして……いや、すいません……」
 
そして、この男、無意識にルクの心の傷に塩を塗りたくる。
ルクもダメージが大きすぎて、言葉が途切れ途切れにしか出てこない。
 
ヴァレン:「……いつも不思議に思うんだが。なんでお前は何気に〝困難な道〟を進んで選ぶんだ?」
 
ルク:「……え?」
 
ヴァレンの問いにルクは驚いた。
だって、ルクは〝楽チンそうだから〟風俗嬢になろうと思ったのだ。
 
ヴァレン:「俺にはよくわからないが、女が自分の体を売り物にするっていうのは結構辛いんじゃあないのか?
     それ相応の覚悟だとか、精神力だとかが無いとやっていけない職業だと思うんだが……」
 
ヴァレンは皮肉でも何でもなく、本気で不思議そうな顔をしてルクを見ていた。
本当の本当に、不思議だったのだ。
ルクが自らの成長のためにあえて茨の道を進むような性格にも見えない。むしろ楽に過ごしたいタイプのはずだ。
そのルクが風俗嬢の道に進みたがる理由がさっぱりわからなかったのだから。
 
ヴァレン:「お前は何気に……っていうか明らかにレプリカ作る才能があって、儲かってる現状がある。
     だからそれが現状の一番ローリスクハイリターンな生き方に思えるんだが……
     その生活を捨てて何か良い事でもあるのか?」
 
ルク:(その通りだ……どうしてあたしってやつはいつもいつも……辛さから逃げてより辛いところに行こうとするのか……
   結局、一族に馬鹿にされるという屈辱はあっても、高水準の生活レベルが約束されている宝条家が一番幸せだったはずだ……
   表社会に必死でしがみついていれば、少なくとも命の危険はなかったはずだ……
   あたしは今まで逃げに逃げて、取り返しのつかないところまで来てしまった。
   だが……終わりにしよう。せっかく見つけた才能だ……死ぬまで逃げてたまるか)
 
 
と、このようにして、
人間、宝条ルクの風俗嬢になろうというボケは
死神、ヴァレンの無意識なるツッコミによって終わった。
 
そして、その結果、宝条ルクにほんのちょっぴりだけ、人間としての強さを呼び戻した。
 

 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 ヴァレンがルクの隠れ家に来て、3週間が経過した。
このころになると、手足もある程度自由に動かせる程度になっていた。
人間、2,3週間も寝たきりになっていれば、筋肉が退化して立ち上がる事もできなくなるものである。
死神ヴァレン=D=ジョーカーも体のベースは人間である為、筋肉の著しい退化は見られたが、2,3時間程度のリハビリで自由に動かせるようになっていた。
多少なりとも医療の知識のある人間ならば、ヴァレンの回復スピードの異常さに気が付くのであるが、
ルクは呑気に「あたしって医者の才能があるのかも……」と大ボケをかましていた。
 
とはいえ、ヴァレンの各所の傷はまだ塞がり始めた程度である。
ルクにもヴァレンにも医療の知識は無かったため、傷口の縫合も無し。
ヴァレンが激しい運動をすれば、傷はすぐに開き、ヴァレンは再びベッドの上で寝たきりの生活に戻るであろう。
 
ヴァレン:(あと3日程度かな……何気に、だが)
 
あと3日。
それだけあれば、傷口は完全に塞がり、史上最強最悪の殺人鬼は再臨するだろう。
 
あと3日。
それはヴァレン=D=ジョーカー復活までのカウントダウンであり、
宝条ルクの命日へのカウントダウンでもあった。
 
傷口が完全に修復すれば、ヴァレンはすぐさま宝条ルクを殺害する。
そうして〝犯罪者100人分の裁き〟は完了し、また次の任務を受けに魔王の元に戻る。
ヴァレンにとっての日常へ、生まれた時から変わらない生活へ、回帰するのだ。
 
 
 
だが、この日、事件は起きる。
そして、死神の再臨は遥か彼方の別の次元に吹っ飛ばされるのだ。
 
 
 
ルクは部屋の隅でなにやらよく分からない機械をいじっていた。
風俗嬢転職未遂の件以来、ルクはレプリカ作りに再び精を出すようになっていた。
そして、久々に受けた受注に対して、真摯にレプリカの制作に取り組むようになっていたのだ。
 
ルク:「でけた!」
 
そう言って、ルクはレンチを持った手の甲で額の汗をぬぐった。
 
ルクの目の前には、プレミアのついている大昔のメダロット『メタル・ビートル』の初期型……のレプリカがあった。
頭パーツ:ミサイル……のレプリカの、ミサイ『ノレ』。
右腕パーツ:リボルバー……のレプリカの、リボル『パ』ー。
左腕パーツ:サブマシンガン……のレプリカの、サ『プ』マシンガン。
脚部パーツ:オチツカー……のレプリカの、オチ『シ』カー。
 
何の取引に使われるのかは分からないが、取り敢えずこれを使って大儲けしようという組織がいるらしい。
ルク自身は、これがこの後どう使われるのかは知ったこっちゃないし、余計な詮索をしないのがこの世界のルールだ。
さっさと納品して、金をもらおう、と考えていた。
 
 
その時、事件は起きた。
 
 
ルクの隠れ家の玄関扉が荒々しく、蹴破られる。
 
『お”~~い”宝条さんよ”~~〝商品〟を受け取りに来たぜぇ~~?』

男が3人、土足で上がりこんでくる。 
3人ともスーツを着込んではいるものの、キンキンの髪に妙ちくりんな剃りこみをいれており、
いかにもチンピラ、という風貌だった。
 
ルク:「……だ、誰だ、お前らは!?」
 
ルクは慌てて、銃を取り出して構える。
それをみてリンピラ達はケラケラ笑いながら言う。
 
『おいおいおい! お客様に向かって、その対応は無いんじゃあないのかぁ? あ?』
 
ルク:「お、おきゃきゃ、おきゃ、くサマ???」
 
激しく狼狽したルクが肩をガタガタ震わせながら言う。
 
ルク:「い、依頼主の……新螺製作所の……ひ、人かしら?」
 
『おうそうだ、そうだ。さっさと銃を下ろせよな、底辺女』
 
ルクは忌々し気な顔で銃を下ろす。
どうしてこいつらが自分の隠れ家を知っているのか?
引き渡し場所は別の場所だったはずではないのか?
明日、引き渡しのはずではなかったのか?
わけの分からない事ずくしで、心臓の鼓動が激しく動いている。 
ルクは、今にも胸を突き破って、出てくるのは無いかと思うくらいの胸の振動を感じた。
 
ルク:「納期は、あ、明日だったと思うのですが……」
 
『こっちの都合で今日になった。渡せ』
 
随分と横暴な態度だが、ルクは逆らう事無く完成したばかりのレプリカを差し出す。
 
ルク:「た、たった今、出来たところですよ……ハハハ」
 
自分よりあからさまに強いものに対しての愛想笑い。
こんな事をしている自分に嫌気がさすが、本能的にヤバイ空気を感じとったルクにはこうするしか無かった。
 
『お、なんだ出来てるじゃねーか。じゃあありがたく頂戴していくぜ』
 
3人のうちの2人が無言でレプリカを担ぐ。
そして、3人の男たちはルクの隠れ家を後にしようとした。
 
しかし、
 
 
ルク:「あ、あの……」
 
ルクは男たちを引き留める。
 
『……あぁ?』
 
レプリカを担いでいない1人が、ギロリをルクを睨む。
ルクは今にも消えそうな、かすれた声で恐る恐る尋ねる。
 
ルク:「お、お代は……」
 
『あぁ忘れてたな、ほれ』
 
そう言って、男はコイン一枚をルクの足元に投げつける。
しかし、まったく最初の依頼と金額が違う。
 
二万円で引き受けた仕事を、500円で買い叩かれたのだ。
 
ルク:「た、足りないわ……全然」
 
『お客様に銃を向けたんだぜ? それだけでももらえるだけマシだろ?』
 
そう男が言うと、レプリカを担いでいる2人と一緒に大爆笑をした。
結局、彼らはまともな値段でルクからレプリカを買い取るつもりなんて無かったのだろう。
納期より早く来たのだって、なんやかんやでいちゃもんをつける為だったのだろう。
 
ルク:「ふ、…………わよッ……」
 
『あぁ?』
 
 
ルク:「ふざけんじゃないわよッ! あたしがこれ一つ作る為にどれだけの労力を割いたと思ってんだチンピラのゲス野郎ッ!!!」
 
 
ルクは感情的になり、思った事をそのまま叫んだ。
が、すぐに後悔した。
チンピラ達の目が座っている。
ヤバイ。
殺される。
ルクは直感した。
 
すぐに土下座の態勢に入ろうとしたが、おそい。
チンピラはルクの頭部を掴むと、思いっきり壁に投げつけた。
 
ルク:「……痛ッ!」
 
頭から血が出ている。
怖い。
死にたくない。
何もできない。
助けて。
怖い。
助けてくれ。
恐ろしい。
どうすればいい。
  
ルク:(誰か……誰か助けてくれェ!!!) 
 
頭の痛みと、この状況とで、ルクは激しく混乱していた。
 
 
チンピラは『追加料金をもらうぜ』と宣言し、ルクの部屋の中を物色し始めようと、部屋を見渡す。
しかし、ここには何も無かった。
少なくとも彼らが望むような金目のものは無い。
奪われに、奪われつくした宝条ルクは、もうすでに奪われるモノなんて無くなってしまっていた。
 
それでもチンピラはこのイライラを解消するためだけにでも、ルクの、何か、大切なモノを奪いたかった。
 
  
その時、チンピラは見つけた。
ベッドで横になっている、怪我人を。
 
 
『なぁーんだ。宝条、お前、男がデキたのか? そうだな。今のお前の無礼は〝この男の命〟で勘弁してやるぜ』
 
動けない怪我人相手に武器を使うまでもない。
二、三発内臓を思いっきり殴れば、人間は死ぬ。
そう油断して、チンピラは近づいた。
その様子を、ベッドで横になっている怪我人こと、〝史上最強最悪の殺人鬼〟は冷静に見ていた。
 
 
ヴァレン(何気にマズイな……今ここで動くと傷口がひらいて養生生活のやり直しだ。
   だが、動かないともっと傷が開きそうだ。 ……あまり宝条の警戒心を煽るような事はしたくないんだが……
    し か た な い か 。 )
 
 
次の瞬間。
 
 
チンピラの首は、切断されて吹っ飛んだ。
ちょうど、ロケットエンジンが炎を噴射しているかのように、血を噴射してふっとぶチンピラの首。
 
それを唖然として見ていた残りのチンピラ2人は、一瞬でヤバさを理解して逃げ出そうとした。
しかし、足が思うように動かない。
それもそのはず。
彼らの腰からしたはすでに切断されていた。 
その事実に気が付き、恐怖の叫び声をあげようと思った時には、もう顔をぐしゃぐしゃに粉砕されていた。
 
 
ヴァレン:(……このまま、何気に宝条ルクも殺っとくか)
 
 
素手で、人間3人を軽く殺めたヴァレンの次の矛先は宝条ルクだった。

ヴァレン:(……いや、待て……)
 
しかし、
 
ヴァレン:(……やめておこう)
 
ヴァレンは宝条ルクを殺害しない事にした。
 
ヴァレン:(体が……何気に限界らしい………)
 
わずか3秒で人間3人を殺害するには、死神の異常なる身体能力のフル活用が必要だ。
そして、その結果、ここ数週間で塞がれつつあった傷が再び開いてしまった。
この状態で宝条ルクを殺すにはいささか確実性に欠ける。
失敗してしまえば、リカバリーが効かないし、成功率が低い。
そう判断した。
 
そして、
 
ヴァレン:「スマン……宝条……何気に治療のやりなおしだ…………」
 
ベチャ……ッ。
 
死神は、嫌な音を立てて、血だまりの中に倒れた。
 
 
倒れる1人の死神。3人の死体。
たったの数分でこの異常な光景が作られた。
 
この、サスペンサフルな現場に残された人間、宝条ルクはまだ混乱していた。
一応、危険は去った。
少なくとも、ただちに命を奪われることは無い。
だが、落ち着きを取り戻せるはずがない。
色々な事が起こったのだ。
まだ全然気持ちがおさまらない。
激しい興奮状態にある。
 
これだけたくさんの異常事態が起こり、興奮状態にある事自体は、いたって普通だ。
むしろ冷静でいられる人間がいるならば、それはきっと人間の形をした別の存在なのだろう。
 
 
しかし、この時、宝条ルクの興奮状態は〝異常〟であるとしか表現できない。
 
 
ルク:(人を……こんなにいともたやすく……殺すなんて……)
 
 
普通ならこういう場合…
おびえ
こんなゲス男と軽蔑するだろう………
 
ルク:(もしも、プロトがいなければ……あたしは……)
 
だが…
彼女は…
同居人のこの行動を…………!
この『殺人』を…………!
 
彼女は
この死神の事を…………
 
十数年
生きてきて
初めて
男性の事を
 




ルク:( 『 な ん て ロ マ ン チ ッ ク な の 』 … … … … )
 
 


――と思った………
 
 
 



第二十話【恋はスリル、ショック、サスペンス】 おしまい
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.34 )
   
日時: 2015/04/12 23:35
名前:

第二十一話【再臨:無翼の死神 ~REAPPEARANCE:No Winged Death~】
 
 
 
 チンピラ3人を葬った次の日の夜、ヴァレンは目を覚ました。
首だけ動かして辺りの風景を見渡して、ここが昨日までいた場所とは違う事を確認した。
恐らく、別の隠れ家に移動したのだろうと思った。
 
体の調子はどうだろうかと思い、試しに腕を回してみようと力を込めたがすぐにやめた。
キング・レオーネとの戦いの傷がほぼ全て開いているらしい。
今、体を動かせば大量出血でまた気を失いそうだ。
 
ヴァレン:(俺がこうしているという事は、何気にまた宝条に救われたらしいな……)

しかし、ヴァレンは一つの疑問を持つ。
何故、宝条はヴァレンをまた、こうして看病する事にしたのだろうか?
ヴァレンが数週間観察した限り、宝条ルクの肝っ玉はとても小さい。
あの殺しの現場を見れば、その場にヴァレンを置いて逃げてもよさそうなものだが……。
 
 
ルク:「起きたの?」
 
 
と、その時ヴァレンの寝ている部屋の扉の向こうでルクの声がした。
前の隠れ家はワンルームのアパートの一室という感じだったが、ここは複数の部屋があるらしい。
 
ヴァレン:「……あぁ、何気にな」
 
ルク:「入っても……いい?」
 
ヴァレン:「……? お前の家だろ、好きにしろ」
 
ヴァレンは違和感を感じた。
なんというか、宝条ルクの声から、恥じらいというかなんというかそういうものが感じられた。
以前のような、恐れを隠す為の去勢だとか、人生の全てを放棄した無気力さだとか、そういうものを一切感じない。
 
ルク:「あ、じゃあ、その、お邪魔します」
 
扉をそぉっと小さく開けて宝条ルクが部屋に入ってきた。
やはり、どうにも様子がおかしい。
ヴァレンの顔を見るや否や顔を真っ赤にして目をそらし、
何やらしきりに髪の毛をいじっている。
見た目からしても、今まで一度も見たことのないフリフリのフリルのついたピンクの可愛らしいエプロンを付けている。
よく観察してみると、うっすらと化粧をしている。
 
ヴァレン:(一体……何を企んでいるんだ?)
 
今までと明らかに様子が違う宝条ルクにヴァレンは戦慄した。
もしかすると、宝条ルクがヴァレンを再び看病しているのには、何か宝条ルクなりの狙いがあるのかもしれない。
 
ルク:「体、大丈夫?」
 
宝条ルクはヴァレンではなく、ヴァレンのちょっと下あたりの何もない空間を見つめながら言う。
 
ヴァレン:「いや……何気に一か月は動けないだろうと思う」
 
ルク:「あ、そ、そうだよね。大丈夫なわけないよね。ご、ごめん……」
 
ヴァレン:(????? ……何で今謝ったんだ????)
 
読めない。
ありとあらゆる犯罪者と渡り合ってきた死神は、この日初めて、得体の知れない犯罪者を目にした。
 
ヴァレン:「……何故、俺を助けた?」
 
ルク:「何故って……それは、あなたが「治療のやりなおしだ」って言ったから……やりなおしてるんだよ?」
 
  
そういえば、そんな事を言った覚えがあるな、とヴァレンは思った。
しかし、意識を失う直前で、頭が上手く回らない状態で、それこそ何気なく言ってしまった言葉だ。
冷静に考えれば、あの状況で、宝条ルクに再度治療を頼んで了承してもらえるとは思えない。
理由は前述した通りである。
 
ヴァレン:(答えをはぐらかされたか……まぁいい。知ったところでどうする事もできないからな)
 
ヴァレンが諦めたとき、宝条ルクが小さな声でなにかごにょごにょ言っていた。
 
ルク:「あ…、新………所のチン………ら…けて……………とう」
 
ヴァレン:「何だって?」
 
よく聞こえなかったので、ヴァレンは聞き返した。
宝条ルクは体をくねくねを刺せながら、目を泳がせる。
次第に顔の赤いのが、さらにさらに真っ赤になっていく。
 
ヴァレン:(物凄く挙動不審だ……)
 
ヴァレンが何も言わずに、いぶかし気な顔で観察していると、宝条ルクは何かを決心したかのように、ヴァレンの目を見る。
 
ルク:「あの……、新螺製作所のチンピラから助けてくれて、あ、ありがとうね♪」
 
真っ直ぐにヴァレンの瞳を見据え、満面の笑みでそう言うと、すぐに背を向けてルクは部屋を出ていく。
物凄い勢いで扉がしめられ、バンっ!という音を立てた。
 
 
 
ヴァレン:「………………何が何だかわからない…………」
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ルク:(あたしの体に何が起こっているッ!!?) 
 
 
宝条ルクは便所で頭を抱えていた。
 
ルク:(クソッ……昨日からあたしはオカシイ!
   アイツの部屋に入るだけで鼓動が早くなって気分が悪くなるし
   アイツの顔を見るだけで、体中の体温が上がって何も考えられなくなる!!
   一度、アイツのそばを離れれば何の問題も無い健康体に戻るにもかかわらずだッ!!
   それに……)
 
ルクはヴァレンの部屋を出るときの自分の最後の言葉を思い出していた。
 
 
あの……、新螺製作所のチンピラから助けてくれて、あ、ありがとうね♪――――

あ、ありがとうね♪――――
 
ありがとうね♪(満面の笑みで)――――
 
 
ルク:( あ の 気 ッ ッ ッ 色 悪 い 話 し 方 は 何 だ ー ー ー ー ー ー ー ー ッ ! ! ! ! )
 
 
ルクは便所のドアに頭をガンガンぶつけながら悶える。
 
ルク:(落ち着くのよあたし……
   大体、あんな危険なやつ看病する必要ないのよ?
   それをわざわざやってやってるんだから、もっと堂々するべきよ。
   あたしの方が立場は上だ!
   あたしはえらい!!)
 
自らを鼓舞して、落ち着きをとりもどしたルクはふぅーと深呼吸しながら、便所を後にする。
その時、ふと、宝条ルクはこんな事を考えた。
 
 
ルク:(あ、プロトお腹減ってるかも)
 
  
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ヴァレン:(……一体、昨日から今日までの間に宝条ルクに何が起こったんだ?)
 
ヴァレンもまたルクの変貌に驚いていた。
態度もおかしかった。
見た目も、少し粧していた。
だが、一番の変化はその目だ。
 
昨日までの宝条ルクは濁った、汚い目をしていた。
それは彼女のこれまでの人生を表していたし、彼女のこれからの人生を予期させるものだった。
不安と焦燥と困惑と恐怖と後悔と無念と嫌悪と恥と軽蔑と嫉妬ばかりの目だった。
 
だが、どういうわけか。
今の宝条ルクには何かの希望があった。
いや、夢か? 目標か?
何かは分からないが、これまでの人生なんて無かったかのように明るい光が差していた。
はたして、それが何なのか、ヴァレンには分からなかった。
 
 
その時、部屋の扉はバッと開いた。
 
ルク:「リンゴ剥いてやったわよ。感謝しなさーい」
 
ヴァレン:「……そうか」
 
宝条ルクが部屋にずかずかと入り込んでくる。
口調がいつものように戻っているが、心なしか無理をしているように見える。
 
ルク:(そ、そうよ。これこそあたしの本来のキャラ。あの気色の悪い話し方なんぞ……)
 
ルクは堂々と部屋に入ってきて、ヴァレンの枕元に直径30センチくらいの皿を置いた。
皿の上では可愛いウサちゃん形になったリンゴが10切れほど並んでいる。
 
ヴァレン:(……なんでウサギの形?? 何気にそんなキャラだったか……?)
 
ヴァレンはリンゴの向き方が可愛いというちょっとした変化も見逃さなかった。
 
ヴァレン:(何を企んでいる? 毒か? 毒でもしこんだのか?)
 
ヴァレンはリンゴをよく観察したが、妙な色はしていない。
だが、この不信感はぬぐえない。
顔をルクに向ける。
 
ヴァレン:「おい」
 
ルク:「え? あ、……は、はい」
 
突然話しかけられて、ルクの肩がビクッ小さく揺れた。
また顔を赤らめて、ぎこちなく応える。
 
ヴァレン:「その皿の一番真ん中にあるリンゴを食ってみろ」
 
ルク:「あ、う、うん。いいよ」
 
ルクはヴァレンの言われるがままにリンゴを口の中に放り込んだ。
その様子をヴァレンをじっくりと観察した。
 
ヴァレン:(何気に、毒は入っていないようだな……)
 
ルク:(な、何なの、こいつに見つめられると、なんか、こうヤバイ……熱い)
 
恐らくこのリンゴは安全なものだろうと判断したヴァレンは、リンゴの皿の方に首を伸ばす。
再び手を自由に動かす事が出来なくなってしまったので、首と口だけで食事をとらなくてはいけないのだ。
 
その時、
 
ヴァレンの目に、
 
驚愕の光景は飛び込んできた。
 
 
ルク:「あ、……あーん♪」
 
 
なんと、宝条ルクがリンゴをヴァレンの口の中に入れようとしてくれていた!!
 
 
ヴァレン:「……は?」
 
ルク:「……ハッ!」
 
鳩に豆鉄砲をくらったような顔で、茫然とするヴァレン。
我に返るルク。
そして、二秒間の沈黙が流れ。
 
ルク:「な、なななな!なんてねー!ははははーあーーーーはっはっはっはっははーーーー!!!!」
 
何やらよく分からないテンションでルクは部屋から出ていった。
さっきよりも、よっぽど慌てて、扉を閉めることもなく出ていく。
 
 
ヴァレン:「………………」
 
 
ヴァレンはポカーンと口を開けたまま、しばらく固まっていた。
 
  
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
 

ルクはまた便所で頭を抱えていた。
よく便所に籠る女である。
小学生女子が男子との抗争の際、女子トイレを安全地帯と設定して逃げ込む事があるが、もしかすると便所とは人間にとって聖域的な役割を持っているのかもしれない。
それはどうでもいいとして。
 
ルク:(あぁ……駄目だ。よく分からないけど、多分、これはきっと〝そう〟なんだ)
 
ルクは頭を抱えていた両手を、両頬にスライドさせる。
自分の顔が物凄く火照っているのを感じた。
 
ルク:(今まで、生きるのに必死だった。自分を守る事に必死で、他人なんてみる暇も無かった……)
 
宝条ルクはこれまで一人だった。
いや、もちろんこれまでも宝条家の使用人だとか、仕事場の人間だとか、商売相手だとか、たくさんの人間と関わっている。
しかし、
宝条家の使用人は、仕事としてルクの世話をしていたに過ぎない。
ルクもそれを分かっていたし、使用人の事なんて考えもせず、わがまま放題に生きていた。
彼女の世界には彼女以外の人間なんて目に入っていなかった。
仕事仲間だって、商売相手だって、彼女を生き長らえさせるだけの為に存在する物体でしかなかった。
両親はいつも忙しくしており、殆ど会うことは無かった。
今となっては顔も思い出すことが出来ない。
 
繰り返す。
宝条ルクは生まれてからずっと、一人っきりであった。
彼女の目には、彼女以外の人間は映っていなかった。
 
ルク:(でも、あの時プロトが……あの人がチンピラ3人を、その、殺した時……
   ほっとしちゃったんだろうな。油断しちゃんたんだろうな。「あぁ、こんなあたしを助けてくれる奴もいるんだ」って。
   今思えば、海に飛び込んできたときも、何故かプロトがいてくれて、何故か助かって……。あぁ駄目だ)
  
 
宝条ルクは一人だった。
だから、彼女は、この彼女の気持ちを理解できなかった。
だが、この瞬間宝条ルクの世界は広がった。
自分を中心に回っていた彼女の世界は、もう一人の、別の世界と繋がり、広がった。
そして、ようやく分かったのだ。
生まれてから一度も感じた事の無いのこの感情の正体を。
 
 
ルク:「あたし、あの人に恋しちゃってる……!」
 
 
か細い声で、そう呟き、ルクは自らの胸に顔をうずめて悶えた。
 
 
便所で。
 
 

  
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
ヴァレンの看病を再開してから2週間が経った。
これまでにヴァレンとルクの距離は大きく縮まったと言える。
 
ルクはヴァレンの世話をする金を作る為にあくせく働いた。
ヴァレンに食べてもらう為に料理の勉強もした。
もともと手先の器用な娘だったので、料理の腕はみるみる上達し、簡単な家庭料理なら難なく作れるようになった。
 
そして、余裕の出たお金で相変わらず競馬に興じるのであった。
この時、今まで一人でしていた馬の予想をヴァレンと一緒に行った。
ヴァレンの予想は、恐ろしく的中し、より一層贅沢な暮らしができるようになった。
それに伴って、ヴァレンの食事はランクアップして、より栄養価の高い食事がとれるようになった。
 
最初は不信感をもっていたヴァレンも、ルクのこの態度にも慣れてきたらしく、もう何も気にすることは無くなっていた。
ただ、一つ気になる事と言えば……。
 
 
ヴァレン:「……? 何か宝条が呟いている」
 
 
便所の方で、時折、ルクは何か呪文のようなものを延々と呟いている。
それにしても便所によくこもる女だ(まぁ便所が一人の空間を作るにおいて、もっとも適していたのだろう)。

『……れ……デ……デデデ、ジ…ジッ……ァー……ッ!バ、……いや、諦……は……ない…はぁはぁ……』
 
その声は何か、苦しそうだった。
時折、呪文のような言葉を途中でやめて、息を整えているような呼吸音もした。
ヴァレンの寝ている部屋からは、何を言っているのかまったく分からなかったが、何か呟いているのは確かだった。
 
そして、それが終わった直後は必ず宝条ルクは風呂に入っている。
まるで、その作業で汗をかいた事を隠すかのように。
 
ヴァレンは何をしているのか、聞いてみようとも思ったが聞かなかった。
風呂に入っての隠蔽をしている以上、まともに答える気は無いだろう。
もしかすれば、それを尋ねた段階で、何かヴァレンに危害を加えるかもしれない。
ならば、出来るだけ自分の体が動かせるようになるまで待つべきだと思ったのだ。
 
 
トントン……。
ヴァレンの部屋をノックする音が聞こえる。
最近では、ルクはヴァレンの部屋に入る時必ずノックをするようになっていた。
 
ヴァレン:「どうした?」
 
風呂上りのルクが扉をあけて、もじもじしながら入ってくる。
手には枕と毛布を持っている。
 
ルク:「…………えっと、あの~」
 
ルクは頬を染めて、何やらごにょごにょと言っている。
最近、こういう事も減ってきたはずだったのだが。
 
ヴァレン:「どうした? そこでごにょごにょされている方が何気に困る。言って見ろ」
 
ヴァレンがそう言ってルクにはっきり話すように促すると、ルクは上目使いでヴァレンを見つめて言う。
こう言ってはなんだが、最初の印象とは打って変わって、眩しい程に綺麗な目をするようになったとヴァレンは思った。
 
ルク:「……ここで寝てもいいかな?」
 
ヴァレン:「……なんでだ?」
 
ヴァレンは割と真面目に質問した。
ルクはあれやこれやと言い訳を考えたが、諦めたように溜息をついた後、正直にこう言った。
 
ルク:「……一人が寂しくなった」
 
ヴァレン:「はぁ?」
 
ますますわけの分からないヴァレンだったが、ルクにとってこれを言うのには相当な勇気がいったらしい。
やや涙目になりながら、俯いて、床を見つめている。
  
ヴァレン:「何気にわけがわからんが、お前の家なんだから好きにしろ。俺は別に不快には思わん」
 
ヴァレンがそういうとルクはパァと明るい顔になって、ヴァレンのベッドのすぐ横に、枕を置き、毛布をかぶって横になった。
 
ルク:「へへへ……♪ ありがと!」
 
毛布をすっぽりかぶったルクの表情は見えなかったが、声から察するにご機嫌なのだろう。
ヴァレンはこれまで人間の感情なんて理解しようと思った事が無かったが、この時ばかりは流石に気になった。
 
ヴァレン:「……何気にご機嫌だが、どうしてだ?」
 
ルク:「ヒ・ミ・ツ❤」
 
結局、人間の感情はよく分からなかった。
 
  
 
尚、次の日、ヴァレンの目が覚めると宝条ルクの太ももが彼の顔面に乗っかっていた。
 
ヴァレン:「寝相を直せ!」
 
彼はムッとして、宝条ルクを叱った。
生まれて初めて、憤りを感じ、そして、他人を叱ったのであった。
 
 
 
死神は人間の感情を理解できはしなかったが、確実に人間の感情を習得していた。
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
そして、更に2週間が経過した。
 
その頃にはヴァレンの傷は完治していた。
 
リハビリも終わっていた。
 
元通りに元気に殺人が可能な体に戻っていた。
  
そして、彼は、魔王に命じられた〝犯罪者100人分の裁き〟を完遂しようと動き出した。
 
 
そう、死神ヴァレン=D=ジョーカーは、宝条ルクに刃を突き立てたのだ。
  
 
ヴァレン:「何気に悪いな、魔王の命であんたを殺す」
 
 
魔王からもらった妖刀スバルをルクの首下に突き付けながらヴァレンは言う。
その言葉には何の感情もなかった。
その目には何の感情も無かった。
ただただ、流れのままに、何気に、人を殺すという目的を果たすだけだ。
  
 
鎌なんて持ってはいない。
 
 
漆黒の翼なんて無い。
  
  
見た目は完全な人間だ。
 
 
けれども、いともたやすく、死という不幸をばら撒く死神は
 
 
この世界の恐怖の象徴として恐れられる死神は
 
 
この世の何よりも人間離れした人間は
 
 
 
ここに、〝再臨〟した。
 
 
 

第二十一話【再臨:無翼の死神 ~REAPPEARANCE:No Winged Death~】 おしまい
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.35 )
   
日時: 2015/04/30 04:04
名前:

第二十二話【Wonderful Angel】
 
 
  
 ボロス=ディーアとの相打ちから2か月弱の時が経った。
本来の予定よりも随分と遅れてしまったが、死神ヴァレン=D=ジョーカーはようやく復活、もとい再臨を果たした。
 
宝条ルクはちょうど夕食をヴァレンの部屋に運んできたところだった。
治療中のヴァレンの事を気遣って、栄養バランスの考えられた色取り取りの品をトレイに乗せたルク。
その彼女に、ヴァレンは刃を突き立てた。
 
そして、言う。
 
ヴァレン:「何気に悪いな、魔王の命であんたを殺す」
 
それを聞いたルクは、少し悲しげな表情をした後にトレイを静かにテーブルに置いた。
そして、真っ直ぐにヴァレンの目を見る。
ヴァレンもまた宝条ルクの目を見る。
しかし、ヴァレンはすぐに目をそらした。 

ヴァレンは思った。
直視できないほどにまぶしい、綺麗な目をした女だと。 
初めて会った時に見たあの濁った、汚い目と同じだとは思えないほどに。
澄んでいて、
迷いのない、
強い光を放つ目。
 
2人が見つめ合って、しばらくたった。
ヴァレンは不思議に思った。
彼の知る宝条ルクとはこういう時、真っ先に逃げ出す女だ。
恥も外聞も気にせず、ありとあらゆる人間としてのプライドを投げ捨てて、自分の命を守ることに終始する女だ。
こうして、落ち着いてヴァレンを見ているような余裕のある女ではない、はずだ。
 
ルクは、フーっと小さくため息をつくと、目を伏せる。
そして、ニッと口角を上げてつぶやく。
 
ルク:「そう、とうとうこの日が来たのね……」
 
まるで、いつか自分はヴァレンに殺されることが分かっていたかのような発言。
いや、分かっていた〝かのよう〟ではない。分かっていたのだ。
そうとしか思えない。
 
ヴァレン:「……何故、知っている?」
 
知っている、という事は確定事項として。
情報を得たルートが気になるところである。
ボロス=ディーア戦では、ここを把握していなかったがために、結構痛い目を見た。
 
ヴァレンが完全に脅し目的で、刃の先をさらにルクの首元に近づける。
もはやルクは少しでも動けば、喉を刃に貫かれる状態にいる。
しかし、ルクはまったく動じずに、逆に、笑顔で語る。 
 
ルク:「2、3週間くらい前かな。あなたの着ていた服、ボロボロだったからレプリカを作ってあげようと思ったら……これ、見つけたの」
 
そういってルクは後ろポケットから、血で汚れた紙を一枚取り出した。
そこにはルクを含む100人の犯罪者の名前が書き連ねられており、そのほとんどに×印がついている。
×印がついていないのは、宝条ルクとボロス=ディーアだけだ。
 
ルク:「×印のついている人達の事を調べたら、みんな死亡しているって分かった。……手口からして死神の仕業だろうって噂付きでね
   あぁ、プロトって偽名だろうなーとは思ってたけど、この人がかの有名な死神なんだなって、その時気が付いたの」
 
ヴァレン:「…………」
 
その紙の事をすっかり忘れていた、とヴァレンは内心焦った。
正直、今まで任務中に気絶するような事態になった事がなかったので、そういう気配りに関しては素人以下だった。
 
しかし、またもう一つの疑問が思い浮かぶ。
2、3週間くらい前にヴァレンの正体を知ったならば、何故逃げなかったのか?
紙の内容から察しても、ヴァレンがルクを殺害しようとしていたことは明らかだったのに。
 
ヴァレン:「……何故、気づいた時に逃げなかったんだ?」
 
ヴァレンはその疑問を率直にぶつけた。
 
ルク:「何故って……何故って、それは……」

ルクは顔を赤らめて、両手の親指をくるくると無意味に回す。
そして、何かを決心したかのように、ヴァレンの瞳をまっすぐに見る。
 
ルク:「……あなたが…………好きだから」
 
ヴァレン:「……はぁ?」
 
ヴァレンは思わず、刀を下げそうになるが、再度ギュッとを刀を握りしめなおす。
もしかすると、突飛な事を言った隙に何かする気なのかもしれない。
 
ルク:「だから、あなたに、恋をしたから。一緒にいたいな……って思ったのよ」
 
口をポカーンと開けたヴァレンに対して、宝条ルクは満面の笑みだった。
こうして死ぬか生きるかの瀬戸際にも拘わらず、天使のように微笑み、幸福そうにしている。
 
ヴァレン:「何気に意味が分からない……俺と一緒にいるという事は、俺に殺されるという事だぞ」
 
ルク:「それでもかまわないと思ったわ」
 
ルクは即答する。
ほんの2か月ほど前まで、無様をさらしながらも、生にしがみついてた小物犯罪者が。
史上最悪の殺人鬼に直面して、満面の笑みで死を受け入れるというのだ。
 
ルク:「あなたになら、殺されてもいいと思った。少しでもあなたのそばにいられるなら
   ……その代償が命だとしてもかまわないと思った。だから、あたしはここにいる」
 
ヴァレンは戦慄した。
たったの2か月だ。
いいや、ルクの変化が見られたのは新螺製作所の乱入からなので、実際は1か月だ。
たったの一か月で人間はこんなにも、強くなるのか、と思った。
 
これまで、ヴァレンの殺害した人間の中に、ここまで強い意志をもった者は数えるほどしかいない。
どれだけ大物ぶっても、
どれだけ悟ったような事をほざいても、
刃を突き立て、本当に、今まさしく死ぬのだと感じれば、大抵の人間の目には恐怖の色が浮かぶ。
そして、絶望の元、『不幸』のどん底の中で死んでいく。
 
だが、この女。
ヴァレンのそばにいたいという発言も、
ヴァレンになら殺されてもいいという発言も、
真実であると信じざるを得ないほどに、『幸福』そうな顔をしている。
それだけではない。
ヴァレンが好きだという事も真実なのだろう。
たとえ、愛しき人に命を奪われるとしても、愛しき人のそばにいるという『覚悟』を感じる目をも持ちあわえている。
 
ヴァレン:「……この短期間で、何気に別の生き物のように強くなっている。
     一体、何がそこまでお前を強くしたんだ?」
 
宝条ルクは、静かに即答する。
 
ルク:「ヴァレン=D=ジョーカー……あなたよ」
 
ヴァレン:「……!」
 
ヴァレンは混乱して、思わず、刀を下げた。
 
ヴァレン:(俺が宝条を強くした……?? 俺は、人間を強くする事ができるのか??
    俺は、ただ、漠然と、何気なく、『不幸』をばらまくだけの存在ではなかったのか??)
  
ルク:「フフ……! ヴァレン=D=ジョーカー……ヴァレン=D=ジョーカー!ヴァレン=D=ジョーカー!!ヴァレン=D=ジョーカー!!!」
 
ヴァレンとは対照的に、ルクはより一層嬉しそうにヴァレンの名を連呼する。
まるで、免許取り立ての大学生が意味もなく嬉しそうに車を運転してるかのように、無意味に嬉しそうだった。
 
ヴァレン:「……なんだ?」
 
あまりにルクがヴァレンの名を、それもフルネームで、連呼するので応えざるを得なかった。
 
ルク:「練習したんだ♪」
 
ヴァレン:「?????」
 
ルク:「だって……―――――」
 
ヴァレンはその時のルクの顔を二度と忘れない。
満面の笑みだった。
だが、ただ笑っているわけではない。
安心、
不安、
感謝、
興奮、
焦燥、
困惑、
幸福、
リラックス、
緊張、
尊敬、
親しみ、
憧憬、
欲望、
勇気、
恥、
嫉妬、
罪悪感、
期待、
苦しみ、
悲しみ、
切なさ、
諦念、
空虚、
愛しさ、
ありとあらゆる感情が入り混じっている。
それが、ヴァレンにすらよく分かった。
 
 
ルク:「―――――だって、好きな人の名前が怖くて呼べないなんて。とっても不幸でしょう?」
 
 
ヴァレンは察した。
ここ最近、ルクが呪文のような何かを呟いていたのは、これだ。
ルクは自分の名前を呼ぶ練習をしていたのだ。
 
名前を呼ぶだけで不幸になるなんて逸話すらある、この『ヴァレン=D=ジョーカー』の名を、
その名を聞くだけで、恐怖する人間が数多いる、この『ヴァレン=D=ジョーカー』の名を、
もはや、この世には進んで呼ぼうとする者なんていない、この『ヴァレン=D=ジョーカー』の名を、
ヴァレンの目の前で、ヴァレンに向けて、呼びかける為に。
 
間違いなく彼女は今まで、死神の名前なんて恐ろしくて呟くこともできない存在だった。
最初にヴァレンの受けた『小物』という印象は間違ってなんかいなかったはずだ。
だが、彼女は恐怖を乗り越えたのだ。
たったの2,3週間やそこいらで。
 
ルク:「まぁ、一応、ちょっとは期待してたんだけどね。
   もしかしたら、あなたがあたしを好きなってくれて、あたしは死ななくなるかも……そういう妄想は毎晩枕抱きながらしてたわ。
   まッ!賭けに負けちゃったけどね」
 
ルクは照れ臭そうに語る。
これから死を迎える者とは到底思えない。
 
 
ルク:「ベットはあたしの命!チョンボもイカサマも無し!ヴァレン=D=ジョーカーに捧げる人生最大のギャンブル…何気に何気にお終いね♪」
 
 
舌を出して無邪気に笑うルク。
その傍らでヴァレンは思考していた。
 
宝条ルクとは、ここまで成長できる生き物なのか。
宝条ルクとは、ここまで強い生き物なのか。
宝条ルクとは、ここまで神秘的な存在なのか。
 
そして、自分とは、その宝条ルクを成長させる事ができるのか。
自分は何者なのか。
自分は何をすべきなのか。

生まれて初めてヴァレンは真剣に『己』を考えた。
よくよく考えてみれば、最初に「何気に悪いな、魔王の命であんたを殺す」なんて宣言をするのもおかしい。
今までの死神は、そんな前口上無しに無言でターゲットを殺害していたはずだ。
この2か月弱の療養生活で変わったのはルクだけではない。
ヴァレンも変化をしていたのだ。
 
それすら意外だった。
死神ヴァレン=D=ジョーカーは一生殺人を続ける。不幸をばらまき続ける。
そんなこと何一つ疑う事なく、彼は生きてきたのだ。
 
そんな彼に、この日、大きな常識の変更が行われた。
 
ヴァレン:(俺は……何気に変わることができる生き物だった)
 
ヴァレンは以前変わりなく、幸福そうな笑みを漏らす人間、宝条ルクを見た。
ほんの数週間前の、人間ですらないそれ以下のどうしようもない何かでは無い。
強く美しき人間の姿だ。
 
ヴァレン:(俺は……誰かを幸福にすることができる生き物だった)
 
そして、分からなくなった。
彼は、今、何をするべきなのか。

彼を変えたこの女をどうすべきか?
彼に変らえたこの女をどうすべきか?
 
ヴァレン:「…………お前、それでいいのか?」
 
そして、ルクに尋ねた。
自分では、何も答えが出せないから、他人を頼る事にした。
思えば、魔王以外の人間に判断をゆだねるなんてのは初めてだ。
 
ヴァレン:「俺に、今、ここで、殺されて。それでお前は何気に満足なのか?」
 
普通に考えれば、殺されて満足もくそもない無茶苦茶な質問なのだが、ここではこう聞くしかあるまい。
ヴァレンの真剣な眼差しを受けて、ルクもまた、真摯に答えた。
 
ルク:「正直な話、……その、……」
 
ルクはやや俯いて、服の裾をねじねじもじもじしながら、真摯に答えた。
 
 
ルク:「処女のまま死ぬってのもアレだから、死ぬ前にセックスを」
 
ヴァレン:「そういう話じゃねえよ」
 
 
※真剣に答えた結果です。
 
 
ヴァレン:「ん? ……っていうか何気に処女?」
 
ルク:「な、何よ。悪い!?」
 
この男も真剣にそこに食いついた。
18歳の女の子が処女である事は、そこまでおかしな話でもない。
処女もいれば、そうでない娘も同数程度いる。そういう年齢だ。
しかし、彼女は数年間、法律も秩序も糞くらえな裏の世界に身を置いてきたのだ。
はっきり言って、ルクの容姿とスタイルでしかも18歳という若さは需要の塊だ。放っておかれるわけがない。
 
ヴァレン:「いや、この世界でよく処女でいられたもんだと思って」
 
ルク:「…………宝条ルクという、人間の出来損ないが持っていた最後のプライドよ。初めては好きな人と……ってね♪」
 
それは、別の世界なら、どの女の子ももっている当たり前の願望なのだろう。
しかし、ここではそんなもの通じない。
生きる為に必要ならば、その願望は、プライドは捨てなくてはならないのが、裏の世界だ。
 
それを聞いてヴァレンは思った。
自分は最初に宝条ルクを『人間ですらないそれ以下のどうしようもない何か』と評した。
だが、それは誤りであった。

ヴァレン:「なにが人間の出来損ないだ……お前は、何気に、ずっと人間だったんだよ」
 
なんてことは無い。
宝条ルクはきちんと矜持をもって生きている人間だったのだ。
ヴァレンはさも、自分が人間に成長させたのだと思い込んでいたが、そんな事はなかった。
逆に胸がスカっとした。
結局、自分は宝条ルクにとって、どうというものでも無い存在だったのだ。
 
しかし、次の瞬間、ルクはヴァレンの手を握って言う。
  
ルク:「じゃあ、あたしが人間をやめようとした時に、救ってくれたのはヴァレンだね」
 
そう、宝条ルクはその矜持を、一か月ほど前に捨てようとしていた。
プライドなんて投げ捨てて、なんとなく儲かりそうな風俗に、何となく足をつっこもうとしていた。
そして、図らずもそれを止めたのヴァレンであった。
こうして、ヴァレンは再び、宝条ルクにとって特別な存在であると自分を認めざるを得なくなる。
 
ルク:「もう、あたしは、3回もヴァレンに救われている。だから、1回くらい殺したってだいじょーぶ。恨んだりしないよ」
 
そういってルクはヴァレンの手を放す。
そして、両腕を大きく広げ、体全体で十字架を作る。
 
 
ルク:「さぁ、キて……」
 
 
ルクは目をつむり、女神のごとく神聖なる微笑みを湛え、最期の時をじっと待った。
ヴァレンはそれを見て、再度、妖刀スバルを構える。
ルクはただただ微笑んでいる。
 
ヴァレン:「何気に……いくぞ」
 
ルクはただただ微笑んでいる。
 
ヴァレンはゆっくりと刀を振り上げる。
 
ルクはただただ微笑んでいる。
 
ヴァレンは、ルクに狙いを定める。

ルクはただただ微笑んでいる。

ヴァレンは刀を振り下ろす。

ルクはただただ微笑んでいる。
 
 
そして、ヴァレンの刀は。
 
 
ルクの右肩を少しかすった後、床に突き刺さった。
 
 
ルクはただただ微笑んでいたが、キョトンとして、ヴァレンを見て、刀を見てを繰り返す。
自分が生きている事を不思議に思っていると、ヴァレンは俯いて、顔を見せないようにして言う。
 
ヴァレン:「駄目だ。……俺には何気に殺せない」
 
ルク:「え、えっと、あたしはどうしたらいいでしょうか?」
 
殺される覚悟だったので、殺されないと逆に困るという怪現象が発生していた。
 
ヴァレン:「なんでも……好きにしたらいいさ。俺はお前を殺せないし、殺さない」
 
ルク:「じゃあね……」
 
ヴァレン:「……?」
 
ルクの顔が、困り顔からみるみるうちに笑みに変わっていく。
それと同時に、頬が高揚し赤らめていく。
 
そして
 
ルク:「えいっ」
 
ヴァレン:「お?」
 
ヴァレンを突き飛ばす。
そのまま、ベッドまで押し倒して、ルクはヴァレンの上に覆いかぶさる。
ヴァレンは何をするのだろう?と不思議そうな顔をしている。
 
ヴァレン:「どうした?」
 
ルク:「ん?今なんでも好きにしていいって言ったよね?」
 
 
ヴァレンが「たしかに言ったが、これから何をするつもりだ?」と質問をしようと思った事にはもう遅かった。
宝条ルクの肉厚のぽってりした唇が、ヴァレンの血の気のない薄い唇を覆い隠した。
数十秒の接吻の後、ヴァレンの唇はようやく解放された。
だが、依然として、ルクがヴァレンの上に覆いかぶさっている現状は変わらない。
 
ルク:「なんでも、していいんだよね?」
 
ヴァレン:「あぁ……」
 
意外と冷静に答えるヴァレン。
むしろ、自分で迫っておいてルクの方が少し、興奮で自分を制御できていない節がある。
 
それも致し方ない。
人生の一世一代の告白を今から行うのだ。 
 
 
ルク:「……結婚していい?」
 
 
ヴァレン:「……誰と?」
 
ルク:「史上最強最悪の殺人鬼、死神ことヴァレン=D=ジョーカー」
 
ヴァレン:「不幸になるぞ」
 
ルク:「いいえ、あたしは幸福になるわ」
  
ヴァレン:「死神だぞ?」
 
ルク:「あたしにとっては、すっごくワンダフルな天使さんよ♪」
 
ヴァレン:「…………何気に、好きにしろ」
 
ルク:「うん。好き」
 
ヴァレン:「いや、そうじゃな……まぁいいか」
 
 
こうして宝条ルクはヴァレンに冗談のような惚れ方をし、プロポーズまでし、それは受諾された。
あまりにもとんとん拍子で話が進むので、何か裏で操っているものがいないかと勘繰ってしまう。
ルクはヴァレンの事を天使だなんて、これまた冗談を言ったが、もしかすると恋のキューピット的な天使とかの仕業かもしれない。
人間以下だった女と、人間を超越した男を引き合わせるとは随分な天使である。
 
そして、この後、ヴァレンもまたルクに惹かれ、恋をする。
だが、その話は割愛させて頂こう。
 
なぜならば、ルクがヴァレンに惚れていくまでの話を、ルクとヴァレンを入れ替えてもう一度繰り返すだけだからだ。
ヴァレンがルクに惚れていく話なんて、今更必要ない。
同じ話をわざわざ何度も繰り返す必要はないだろう。
どうせ、ヴァレンがルクに惚れていく過程なんて、どこの世界でも似たようなものだ。
 
 
かくして、
宝条ルクは人間としての尊厳を取り戻した。
そして、ヴァレン=D=ジョーカーは死神から、やがて人間へと変貌を遂げるのであった。
 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
そして、現代。
ヴァレンの回想によって 全員が、死神の7年間失踪の真実を知る事となった。
回想が終わり、ヴァレンは遠いあの日に思いを馳せるように目を細めて、静かに呟いた。
 
 
ヴァレン:「… … … … こ の あ と 滅 茶 苦 茶 セ ッ ク ス し た 」
 
 
そして、その場にいた全員は静かに思った。
 
 
( う わ … … 回 想 台 無 し だ ぁ … … )
 
  
 
 
 

 
第二十二話【Wonderful Angel】 おしまい

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.36 )
   
日時: 2015/09/02 00:04
名前:

第二十三話【宝条・ザ・ギャンブラー】
 
 
 ヴァレンは自分と、そしてルクの間に起こった過去について語った。
そして、ついでに自らその余韻を台無しにしていた。
その話を終始退屈そうに聞いていた男がいる。
片瀬流慕である。 
 
流慕:「さて、それで長い長い茶番を聞かされたわけだが、だからどうした?」
 
退屈そう、どころかむしろ不機嫌といっても差し支えない。
ヴァレンの最期の一言で、何かしら脱力感のあったこの場に、ピリピリとした緊張感が漂う。
 
流慕:「つまり、お前は散々人間を殺しておいて、『愛に目覚めて改心したからそれで許して下さい』って事か?」
 
そう。
流慕が不機嫌であった原因はこれだ。
かつて、恐怖の象徴であった殺人鬼が丸くなった。
それだけで過去のありとあらゆる行いを清算したかのような感じ。
全ての罪がチャラになった感じ。
汚い行いから目を背けて、綺麗なものしか見ない不条理さ。
この偏った空気感が気に入らなかったのだ。
 
主人公の『生きて罪を償うんだ』とかいう曖昧な一言で、国家レベルで犯罪を重ねたラスボスの罪が全て許されたかのような気持ち悪さ。
『私だって辛い事がたくさんあったんだから』なんて、人間なら誰でもそうだろう! とツッコミを入れざるを得ない理由で許される浮気のような滑稽さ。
巨悪の根源はまだ倒れていないのに、なんとなく『愛だの平和だの』が来たから大団円で終わる物語のような不十分さ。
何かしら騒動を起こせば、数か月謹慎した後、根本的な解決案は一切ないまま復帰する芸能人の様な横暴さ。
 
そういったものが片瀬流慕は嫌いだった。
別に必ず全員死刑にしなくてはならないとは言わない。
だが、少なくとも、許されるとするならば、罪について言及された後であるべきだ。
少なくとも全員が、『コイツは悪い事をしたんだ』と明確に認識する事。
ヴァレン=D=ジョーカーはまごうことなき悪党である事を忘れない事。

『生きて罪を償うんだ』とヒーローを気取るなり、
『辛い事がたくさんあった』と情状酌量の余地を考慮するなり、
『愛だの平和だの』の幸福感に免じて見逃すだとかいうものは
そのような状況で行われるべきなのだ。
 
そう、片瀬流慕は考えている。
 
 
そして、その片瀬流慕は「散々人間を殺しておいて、『愛に目覚めて改心したからそれで許して下さい』って事か?」
と質問したのだ。

対するヴァレンの返答は意外なものだった。
 
 
ヴァレン:「はぁ? 別に?」
  
 
流慕:「さて?」
 
片瀬流慕は虚をつかれた。
てっきり、歯切れ悪くだらだらと言い訳を述べ始めると思っていたのだ。
 
ヴァレン:「何気に7年程、人間に混ざって生活をしているがその『許される』だとか『償う』って概念は良くわかんねーな」
 
ヴァレンは本気で不思議そうに言う。
 
ヴァレン:「だって何気に、被害者が要求するのは『元通り』にする事だろ? それが出来ない時点で被害者は全然嬉しくないわけだ」
 
流慕がニヤリとする。
ヴァレンの話に何かしらの面白みを見出したのかもしれない。
 
ヴァレン:「俺が牢屋に100年ぶちこまれたとして、俺に家族を殺された……例えばそこのヴィネガー君は満足するのか?」
 
急に話題を振られて、ヴィネガーは小さく目を見開いた。
しかし、すぐに腕を組んで考えた後、言う。 
 
ヴィネガー:「…………いいや、私の心はちっとも晴れないし、私はいつか貴様に恨みを晴らそうとするだろう」
 
ヴァレン:「そうだ。だから人間達の言う『償い』っていうのは、何気に『自己満足』な訳だ。
     被害者の為の償いではなく、加害者自身の〝許されたい〟とか〝無かった事にしてほしい〟とかいう『欲望』を満たす行為だ。
     そんな〝 自 分 勝 手 〟な行為を『償い』とか言って正当化している人間は何気によく分からん」
 
流慕はクックック……と小さく笑い声を漏らす。
そうなのだ。
別に流慕自身、〝罪を償わなくてはならない〟という思想ではない。
ただ、〝償ってもいない罪を、無かった事にする〟事が嫌いなだけなのだ。
そういう意味ではヴァレンのこの回答は、流慕にとって100点満点といえる。
 
ヴァレン:「だから、俺を恨む奴は俺を一生恨め。攻撃したければ一生攻撃しろ。それだけの事をした自覚はあるつもりだ。
     何気に抵抗はさせてもらうが、好き勝手に何度でもリンチしてくれて結構だ」
 
ルク:「あ、あたしもその覚悟で結婚してまーす」
  
それを聞いて流慕は「そうかよ」と満足げに言って、引き下がった。
かつて死神といわれた殺人鬼の罪に対するスタンスを聞けただけでも、死神を追って良かったとさえ思った。
 
 
ヴァレン:「だから、今回もキング・レオーネに襲撃された時には〝ボロスのかたき討ちか、仕方ねーな〟って思ってたんだけど……
     何気に違うの……?」
 
話は切り替わって、ヴァレンは首をかしげながらヴィネガーに尋ねる。
ヴィネガーはやれやれといった感じで、頭に手を当てた。
 
ヴィネガー:「なるほどな。通りで宝条ルクの抵抗が激し過ぎると思った……」
 
ヴィネガーは溜息をつくと、部下からの報告を思い出す。
部下たちは最初に宝条ルクの家を訪ねた時、「キング・レオーネだ。と言えば分かってもらえるだろう?」と言ったそうだ。
それは、"裏に精通したミラディン住まいの宝条ルクならば、我々の事を知っているな?"という意味だったのだが、
宝条ルクは"お前と死神の関係は知っている。ボスの復讐に来たぞ"と受け取ってしまったのだろう。
すぐに奥からその夫、死神が走ってきたそうだ。
部下たちはおとなしくさせようと、拳銃を向けた。
10人以上の部下たちが一斉に拳銃を向けるのだ。普通の人間なら、一旦立ち止まるはず。
その隙に話をしようとした。
だが、それは更に裏目にでる。
なんせ相手は100人以上の兵隊にマシンガンを向けられても平気で立ち向かってくる死神だったのだ。
死神はルクだけを逃がし、部下たちと戦ったそうだ。
死神のあまりの強さに驚いた部下たちは、やがて諦めて、逃げるように帰ってきたと聞いている。
 
父に代わって新たにボスとなった男、ヴィネガー=ディーアはこの状況を頭の中で整理し終えると、溜息をつき、宝条ルクを真っ直ぐに見て言う。
 
 
ヴィネガー:「我々の目的は死神への復讐ではない。……まぁいつかは復讐を果たせねばならないが、それは今ではない。
      我々の目的は宝条ルクへの仕事の依頼、すなわち……レプリカ制作の依頼だ」
 
ルク:「え?あたし?」
 
ルクは目をパチクリさせた。
 
ヴィネガー:「そうだ。我々の目的は最初から貴女ただ一人。ちょっとしたビジネスの話がしたかったのだ」
 
ルクは未だ首を何度もかしげ、狼狽している様子だ。
 
ルク:「えっと……、あぁ、そうね、えーっと……何を作ればいいのかしら?」
 
ようやく、頭の中を整理できたのか、ルクはごもっともな質問をする。
それに対し、ヴィネガーは静かに、ゆっくりとこう答えた。
 
 
ヴィネガー:「……ボロス=ディーア」
 
ルク:「!?」
 
ルクはぎょっとした。
人間を作れというのは初めての依頼だ。
 
 
ヴィネガー:「といっても、特殊メイクだとかの類で構わない。とにかく1日だけ、ボロス=ディーアを復活させてほしいのだ」
 
ヴィネガーは話を続ける。
 
ヴィネガー:「我が父ボロス=ディーアとは世間的には謎多き人物となっている。
      我が組織の中でも、父の死を知っているものは上層部の者だけだ。
      まぁ今の死神の話で、この場の者はその死を知ってしまったがな。」

そう言いながらヴィネガーはギロリとした目でヴァレンを睨む。
ヴァレンは冷や汗をかきながら目をそらした。


ヴィネガー:「だが、父の名の持つ〝力〟は非常に大きい。……このミラディンという国を動かすほどの力を持つ名前だ。
      ……そう、この国の大統領を動かすほどの力をもつ名前だ」
 
ビート:「……なるほどな」
 
ビートがいち早くキング・レオーネのカラクリを察し、一人だけ納得をした。
 
ヴィネガー:「察しがいいな。流石は、かの片瀬米斗……」
 
流慕:「……ふっ、当然だ」
 
リリ:(なんでコイツの方が誇らしげなん?)
 
弟を褒められて、お兄ちゃん嬉しい的な感情が流慕にあるのだろう。多分。知らんけど。
ヴィネガーは話を続ける。
 
ヴィネガー:「……父は大統領が代わるたびに、前大統領と新大統領と会食をしていた。
      そして、その会食こそ、我がキング・レオーネが強くあり続ける為の儀式だった……」

キング・レオーネはその支配力を政治にも手を伸ばしていると言われていたが、このようなカラクリがあったのだ。
ヴィネガーはぎゅっと拳を握りしめて、放す。
 
ヴィネガー:「だが、父は死んだ! それは今を生きる我々の政治力の低下につながる!
      ……だからこそ、父には生きていてもらわねばならない。偽りだとしてもな」
 
ヴィネガーは宝条ルクの目をまっすぐに見る。
 
ヴィネガー:「大統領との会食は1ヶ月後だ……それまでにボロス=ディーアのレプリカを作ってくれ。ミセス宝条?」
 
次に視線は宝条ルクに集まる。
ルクは腕を組み、目を瞑り、静かに考えた後に神妙な顔つきで言う。
 
ルク:「やだポン♪」
 
リリ:(なんだその断り方)
 
リリは心の中で突っ込んだ。
 
ルク:「だってさー、拉致監禁までされて"分かりました。やります。"なんていう訳ないじゃん
   あたしにだって仕事人としての矜持とかプライドとかあるしー」
 
ヴィネガーは顔をしかめる。
本来ならば、断られたら脅してでもやらせるつもりだったが、
現状の宝条ルクにはヴァレンという強すぎる用心棒がついている。
脅しは効かない。
  
ヴィネガー:「……勿論、報酬は出す」
 
苦し紛れにヴィネガーは報酬の話を持ち出す。
そもそも仕事を依頼するにあたって報酬を出す事は当たり前だが、今のヴィネガーにはこれくらいしか交渉のカードがない。
 
ルク:「話きいてた?仕事人としての矜持の問題なのよ!
   この宝条ルクが金やちやほやされるためにレプリカを作っていると思っていたのかァーーーーッ!」
 
ヴィネガー:「1000万ドル出そう」
 
 
ルク:「分かりました。やります。」
 
 
ヴァレン:「やるのかよ!?矜持はッ!!!?」
 
ヴァレンはかつての死神の面影を1ミリも残さないツッコミ顔(目玉飛び出させて大口あけてる)で叫んだ。
 
ルク:「矜持ならあるわ。ヴァレンとの愛の為よ」
 
ヴァレン:「……? お、おう」
 
今一つ、愛と金がつながらないヴァレンは曖昧に相槌をうった。
 
ルク:「ヴァレンとの愛の為とは、すなわちヴァレンとの生活の為。
   ヴァレンとの生活の為とはすなわち…… お 金 が い る の よ ! !」
 
ヴァレン:「それ何気に金の為にレプリカ作ってるよね!?」
 
まさか『この宝条ルクが金やちやほやされるためにレプリカを作っていると思っていたのかァーーーーッ!』
という某漫画家の名言から引用したこのセリフを発して、わずか30秒で矛盾が指摘される事になろうとは。
 
 
リリ:「ルク♥ わたし~今までツンツンしてたけど、それってただの照れ隠しっていうか……本当はあなたの事・好・き・か・も♥」
 
ソリン:(ハッ! あの女……ルクさんの1000万ドル盗む気だ)
 
金の為ならなんでもやる女はここにもいたのであった。
 
 
ルク:「でも確かにヴァレンの言うとおりさっきのセリフと矛盾してるよね。あたし筋が通ってないの嫌だからやめよっかな」
 
リリ:「このド低能がァーーーッ! ゲスな巨乳をこのリリに近づけるんじゃあない!」
 
ソリン:(切り替え早ええ……)
 
ルク:「うーん!でもやっぱり1000万ドルは捨てがたいしやろうかな~」
 
リリ:「あなたになら唇を捧げてもイ・イ・カ・モ♥」
 
ソリン:(……こいつホントすげーよ。逆に尊敬するわ)
 
 
ルク:「……よし、分かった!」
 
 
ルクがポンを手をうって、何かを決めたかのようなキリっとした目をして言う。
 
 
ルク:「 分 か ら ん ! ! 」
 
 
リリ:「この腐れ脳み……あ、いや、好きよん♪……じゃない、えっと、あ、ど…… ど っ ち だ ! ? 」
 
ソリン:(この女おもしれーわー……) 
 
 
本気で悩んでいたルクは残念ながらリリの茶番は聞き流していたのだが、悩んだ甲斐はあった。
どうすれば分からない事が分かった。
こういう時にどのようにして結論をだすのか、彼女の中ですでにルール化されている。
 
ルク:「じゃあギャンブルで決めましょう。あたしが勝ったらやらない。ヴィネガーさん、あなたが勝ったらやる。これでどう?」
 
ヴィネガー:「良いだろう。そのギャンブルとやら、受けて立つ」
 
交渉のカードが無い以上、ヴィネガーはこう答えるしかない。
しかし、はっきり言って彼にとっては良い方向に話がすすんでいる。
なんせギャングのボスだ。大体のギャンブルには精通している。むしろギャンブルをビジネスにする側の人間だ。
 
ヴィネガー:「で、何をする? ポーカーか? ルーレットか?」
 
ルク:「うーん……」(とは言ったものの、イカサマの準備してないから"あの猫はどっちの肉を食べるかギャンブル"も"酒の中にコインを落として言ってあふれさせた方が負けギャンブル"もできないのよねー)
 
ルクは思案する。
そして言ってみる。
 
ルク:「じゃあ、ヴァレンと貴方たちが戦ってどっちが勝つかで賭けよう。うん」
 
ヴァレン:「ん?オレ? まぁ何気に良いけど」
 
ルクは我ながらナイスだと思った。
だってヴァレンが負けるわけないから。
しかし、ヴィネガーは冷静に言う。
 
ヴィネガー:「ミセス宝条、ギャンブルとは〝一見〟平等でどちらが勝つか分からないから成立するのだ。
      そのギャンブルをするなら、平等性を持たせるために、我々の側はこの町の全兵器を集結させて戦うがよろしいかな?」
 
ルク:「ぐぬぬ……」
 
ルクは顔をしかめる。
バレちゃった。
一人の人間と戦うのに町中の兵器を集めてきてやっと平等というのもおかしいが、
実際、数年前、その状況でヴァレンは生き残っている。
ただし、瀕死の重傷を負ってだ。
 
愛する夫にそこまで危険な真似をさせることはできない。
 
ルク:「じゃ、じゃあ……ロボトルよ!! 」
 
ヴィネガー:「ロボトル? 君も死神もメダロットを持っているように見えないが?」
 
ルク:「代理人を立てるわ! えっと……」
 
ルクは、リリとソリンを交互に見る。
また交互にみる。
切なさと愛しさとその他もろもろの混じった言葉に言い表せない表情を一瞬浮かべた後、代理人を指名する。
 
 
ルク:「リリちゃんを危ない目に合わせちゃダメだし、そこの金髪の人!」
 
 
ソリン:「俺かよ!?」
 
ソリンは寝起きドッキリで氷水をぶっかけて起こされたような顔をする。
 
ルク:「うん。あなた、さっきあたしの事守ってくれようとしてたし、それに市街地の時もパートナーのメダロットさんが闘ってくれてたし……ダメかな?」
 
ルクは屈託のない笑顔でソリンに迫る。
正直なところ、ソリンはヴィネガーにロボトルで勝つ自信が無い。
だが、こんな顔で迫られるとどうにも断りにくい。
 
ソリン:「はっきり言っちゃうけど、ルクさん、計算してその顔をしてるよな……」
 
ルク:「てへ♪ バレちったー?」
 
ルクは舌をだしてウィンクをする。
ヴァレンの件で大分精神に余裕ができたとはいえ、やっぱり多少クズいのは変わらない。
いや、ここでだらだら言い訳を並べないあたりは、マシになったのか。
 
メダナイト:「闘うぞ……」
 
メダナイトが勝手にルクの依頼に了承した。
 
ソリン:「まぁ俺も同じこと考えてたんだけどな」
 
そして、ソリンもメダナイトに同調する。
 
 
ルク:「本当に! ありがとう、報酬は払うからね!」
 
ルクは今度こそ演技ではなく、真実の笑顔でソリンとメダナイトに笑いかけ、感謝する。
 
 
ソリン:「いらねえよ」
 
メダナイト:「受け取れませんな」
 
ルク:「え?」
 
 
だが、2人は断る。
 
 
なぜならば……
 
 
メダナイト:「レディの頼みを聞くのは騎士として当然だからな」
 
ソリン:「綺麗なお姉さんに恩を売っておくのは紳士の嗜みだ」
 
 
という事らしい。
この二人、女好きという点では息の合ったコンビである。 
 
ヴィネガーの方はすでに準備が出来ているらしく、クリムゾンキングはすでに臨戦態勢が整っている。
 
クリムゾンキング:「……………………」
 
メダナイトはクリムゾンキングに相対し、愛剣グラットニーソードを握り、構える。
 
ヴィネガー:「確認するが、私は私が勝つ方に賭ける。ミセス宝条は彼……"ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード王子"が勝つ方に賭けるのだな?」
 
ルク:「ん? そうだけど……王子?」
  
ソリン:「……!? 俺の名前を?」
 
しかも、フルネームで言えている。すごい。
 
ヴィネガー:「我が組織の情報収集力を侮るな、イニストラードの馬鹿王子が国を抜け出したという噂は聞いていた。
      何故、ここにいるのかは知らんがな」
 
メダナイト:「知られた所で問題は無い。市街地での屈辱、ここで晴らす!」
 
いきり立つメダナイトにヴィネガーは余裕の表情で構える。
 
ヴィネガー:「フン、リベンチマッチというわけか」
 
 
ソリン:「う~~ん。〝リベンジマッチ〝だって?」
 
ソリンが古畑任三郎のモノマネみたいな声を出している。(この世界でも古畑は人気ドラマだ!)
 
ソリン:「たしかに意味的に〝リベンチマッチ〟で正しいんだが……ここは『俺達らしい言い回し』に訂正させてもらうぜ」
 
 
ソリンは右手を額にあて、見下すように顎をあげる奇妙なポーズをとる。
それに呼応するかのように、メダナイトは剣に"暗黒"を纏わせる。
 
 
ソリン:「 こ れ は 〝 リ ベ ン ジ マ ッ チ 〟 じ ゃ あ ね え ッ ! ! 」
 
メダナイト:「 〝 逆 襲〟 だ ッ ! ! 」
 
 

 
第二十三話【宝条・ザ・ギャンブラー】 おしまい

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.37 )
   
日時: 2016/01/11 00:35
名前:

第二十四話【ディー・フォー・シー】
 
 

ヴィネガー=ディーアはかつて、ヴィネガー=ディーアではなかった。
彼は13歳までヴィネガー=ウナだった。

ウナは母親のラストネーム。
父親は死んだ、と母親に教えられた。
四畳半の小さな部屋で、親子二人貧しい生活をしていた。
 
ヴィネガーが7歳の頃だった。
小学校入ってすぐに彼はクラスメートからのけ者にされた。
貧乏故に、ヴィネガーは一般的な小学生の持っているものを持つことが出来なかったのだ。
 
彼の服はまわりの子たちの着ているおしゃれな服では無かった。
昔から来ている服を母親が縫い直してくれたお古だ。
ランドセルも、上履きも、彼の持っているものは全部誰かのお古だった。
流行りのゲーム機なんてもっていなかった。
ゲームを通じて友達を作ることはできなかった。
家にはテレビが無かった。
話題のテレビ番組の話が出来なかった。
 
 
持っているものが違う。しかもなんか古い。
話題も合わない。
そんなヴィネガーは「異質」な存在だった。
そして、この年齢の少年少女達の「異質」に対する仕打ちは残酷である。
 
少年少女たちは「異質」の排除を楽しんだ。
残念ながらヴィネガーにはかつての片瀬米斗のように守ってくれる者はいなかった。
母親はいつも朝早くに仕事に出かけていき、夜遅くに帰ってきていた。学校の事を構う余裕なんてない。
不幸なことに、担任教師はヴィネガーの問題について無関心だった。
 
この状況に対してヴィネガーのとった行動は「我慢する事」だった。
母親に迷惑をかけたくない。
その一心で排除されることなくとどまった。
 
彼の心の支えは母親だった。
自分にも味方がいると思うことで排除に耐えた。
尚、彼の母親は夜遅くに帰ってくるので、ヴィネガーは母親の顔を見るために夜更かしをすることが増えた。
夜の世界への扉を開く前兆だったかもしれない。
 
ヴィネガーの「我慢」は以外と長くは続かなかった。
というのも、ヴィネガーを排除する動きが始まって数週間で担任教師が交代になった。
新しい担任教師は「ヴィネガーの排除」を積極的に排除した。
いや、むしろその教師はその為だけにいたといっても過言ではなかった。
ヴィネガーはクラスの子達の理解を得て、馴染む頃には元の担任教師に戻っていた。
これによりヴィネガーの我慢は終結し、彼は平穏を取り戻した。
 
 
 
ヴィネガーが10歳の頃、彼は母親に尋ねた。
「父の墓はどこにあるのか?」
この10年間、ヴィネガーは母が父の墓参りをする姿を見たことが無かった。
単純に母にそのような時間がなかっただけだったのだと思い、せめて自分だけでも父の墓参りをしようと思ったのだ。
しかし、母はただ優しく微笑み話をはぐらかすばかりで、決して父の墓の所在を教えようとはしなかった。
 
この時、ヴィネガーは母の微笑みに妙な違和感を感じた。
微笑んでいるのに、何か悲しそうな顔をしている。
それは早くして最愛の夫を失った悲しみとは違う、何か、妙な悲しさだった。
 
この時からヴィネガーは「本当に父は死亡したのだろうか?」という疑問を抱き始める。
そして、やがてはその疑問を確たる証拠もなく事実だと決め受けるようになる。
 
 
 
ヴィネガーが11歳の時、母が病にかかった。
そのため、たださえ少なかったウナ家の収入は0になった。
ヴィネガーは11歳という若さで外に働きに出るしかなくなった。
それでも11歳だ。
1人で生活する資金を得るだけでも、困難なのに母の治療費を払えるはずもない。
 
そして、ヴィネガーはひったくりをするようになる。
まともに働いて稼げるはずのない金額を手にするには、犯罪に手を染めるしかなかった。
法を犯した金でなんとか、母を入院させることができたが、ヴィネガーの精神はどんどんと堕ちていく。
 
母の病気は不治の病だった。
医者からは残り2年の寿命を言い渡された。
 
 
ヴィネガーは理由もなく、父を呪った。
 
おそらく父は碌な男では無かったのだろう。
母が倒れても母の親族は誰として、彼女を救いには来なかった。
ヴィネガーが母の両親に助けを求めても、彼らは何かおびえた目をしてヴィネガーを締め出すだけだった。
恐らく、母の結婚は親族達からは反対されたうえで成立したものだったのだろう。
それほどにまでひどい男だったに違いない。ヴィネガーの父親は。

そんなは父の事だ。
どうせ新しい女でも作って母と自分を捨てて出て行ったのだろう。
今ある母と自分の不幸は全て父のせいであろう。
恨む。
恨むぞ、父親よ。
いつか必ずお前を探し出して、殺してやる。
 
その荒れに荒れた精神故にヴィネガーはよくケンカをするようになった。
ただ少し肩の当たった人物を見るだけで、
仲間とつるんで粋がった不良気取りを見るだけで、
腹が立ち、喧嘩をした。
 
成長の早かったヴィネガーは11歳にしては大柄で、
どこで覚えたのか刃物や拳銃の扱い方が上手かったし、貧困な生活故の「飢え」があった。
「飢え」はヴィネガーに不思議な覚悟を持たせて、喧嘩にはよく勝つことができた。
 
 
そんな中、ヴィネガーは大きな間違いと成功を収める。
 
 
間違いは、ギャングを相手に喧嘩を売った事。
成功は、その喧嘩に何故か勝ってしまった事。
 
妙な感覚だった。
いつものノリで喧嘩を挑んだ時はヤバイと思った。
身のこなしや、立ち振る舞いがいつもの口だけの不良達とは違う。
 
駄目だ。
負ける。
ヴィネガーは直感した。
だが、逃げることもできなかった。
背を向けた瞬間に殺されてしまう。そういう凄みをもった連中だった。 
 
そして、ヴィネガーはやけくそになって両手の刃物を振り回して突撃した。
最悪の愚策だ。
あとで自分自身でも思う。
だかあの時のヴィネガーは止まらなかった。
 
その時不思議な事が起こった。
ヴィネガーのふりまわすナイフが相手の二の腕の辺りをかすった。
相手の腕から血が噴き出す。
 
そして相手は何とも言えないセリフ
「お、覚えてろよ!」
を吐いて逃走した。
 
 
「…………?」
 
 
意味が分からなかった。
だが、ギャングはあっさり引いてくれた。
11歳のガキ相手に本気で喧嘩をするのも大人げないと思ったのだろうか。
ヴィネガーは茫然として立ち尽くしたが、ギャングの男がなにかカバンを落としていったのを見つけた。
 
ひったくりの常習犯たるヴィネガーにとって、そのカバンはとても魅力的だった。
なにか、おそらくとてつもなくヤバイものが入っているのだろうが……しかし、価値のあるものに違いない。
 
唾をのみこみながらヴィネガーはカバンの中身を見る。そこあったものは
 
  
  札 束 だ ッ ! 
 
 
一生……とまでは言わないが、母の入院費を払いながらでも数年は暮らしていけるだけの金額だった。
ヴィネガーはこれを奪う事の重大さをしっかりと認識したうえで、それを持ち、逃走した。
 
 
数日、ヴィネガーはいつ、どこから、誰に襲われるかと体を震わせていた。
だがどういうわけか、誰もヴィネガーを襲ってはこなかった。
 
 
とにかく、ヴィネガーはギャングから奪い取った金のおかげで、犯罪行為に走る必要はなくなった。
母の入院費を払いながら、自身の生活費を確保し、豊かな生活を送れるようになった。
それこそ病気の母の見舞いに毎日来れるだけの余裕が生まれた。
 
心に余裕が生まれると、意味もなく荒んでいたヴィネガーも元の優しい男に戻っていた。
感謝の心を取り戻すようになっていった。
今にして思えばあの時ギャングに会えた事は何かの運命かもしれなかった。
相変らず報復が無いので、ヴィネガーは笑い話にすらなると思った。
 
そして、ヴィネガーは母にその時の事を話してみたのだ。
 
母の反応は意外だった。
涙を浮かべながら「そう……」と言い、小さく微笑んだのだ。
 
ヴィネガーは違和感を感じた。
ギャングと喧嘩をして、金を強奪した話だ。
ちょっとした武勇伝として語ったつもりではあるものの、親ならば多少は説教じみた言葉の1つ2つ飛んでくると思っていた。
 
しかし、この母の涙の理由は何だ?
この微笑みの理由は何だ?
 
その時、ヴィネガーの中で何か電流のものが走った。
そして疑問が数々浮上してくる。
 
母が病に伏せたとき、貯金は人間が〝1人〟で一か月ギリギリ暮らしていけるだけの金額しかなかった。
実際、母の稼ぎはその程度だったのだろう。

『今までどうやって〝2人分〟の生活費を捻出していたのか?』
『かつてヴィネガーを救うため〝だけ〟に赴任してきたかのようなあの教師は何者だ?』
『結果的にヴィネガーに大金を〝恵んでくれた〟あのギャングは何者だ?』
『ヴィネガーが人生のピンチに陥るたびに都合の良い事件が起こりすぎていないか?』
『今まで自分たちは孤独なようで、〝何か〟から守られていたのではないか?』
 
そして……
 
『母は自分たちを守ってくれている〝何か〟を知っているのではないか?』
 
 
その疑問にたどり着いた時、ヴィネガーは母にこう言う。
 
 
ヴィネガー:「母さん……父さんは今、どこにいる?」
 
それを聞いた母は目を見開いた。
そして、恐る恐るヴィネガーの顔をみる。 
とても大人びた顔だった。
色々苦労をさせてしまったからだろうか、11歳の少年のそれとは思えない覚悟と心意気をもった顔だ。
 
母はふぅとため息をついて言う。
 
 
「ヴィネガー、もしあなたがこの先の人生で〝まだ私を愛してくれる人〟を出会ったなら伝えてちょうだい。
 〝それでも私はあなたを愛し続けた〟とね……」
 
 
その一言でヴィネガーには十分だった。
 
 
それから2年後、母はヴィネガーに看取られて死んだ。
元々余命宣告はされていたからか、覚悟をもち、最期まで幸福に過ごすことができた。
 
  
 
そして、13歳のヴィネガー=ウナはギャング組織キング・レオーネへの入団を志願した。
彼は調べていたのだ。
あの時のギャングがキング・レオーネの人間だと。
彼は確信していたのだ。
あの時のギャングは間違いなく、ヴィネガーに母の入院費を渡すためにあの場所にいたのだと。
恐らく、彼の父はキング・レオーネの金をある程度自由にできる地位にあるのだと。
それゆえに父は、ヴィネガーと母から距離を置いていたのだろう。家族を巻き込まぬために。
 
キング・レオーネで昇格を重ね、いずれ父に会おう。
 
それがヴィネガー=ウネの新たなる目的になっていた。
そして、その目的は意外に早く達成される。
 
ヴィネガーが組織に入ってから、ヴィネガーには末端も末端のハイリスクローリターンのつまらぬ仕事ばかりが回ってきた。
だが、ヴィネガーは優秀だった。
そのつまらぬ仕事すらも自身が注目を得る手段として用いた。
 
例えば薬の運び人をやった時は、不良時代のごろつきに金を掴ませヴィネガーを襲わせるように一芝居うった。
どのような危険な事態になっても組織から与えられた仕事を忠実にこなす人物に見えるように演出したのだ。 
そして、ヴィネガーが組織の入ってたったの2か月。
ヴィネガーは突然幹部たちに呼び寄せられた。
 
 
指定された場所につくと、目隠しをしたままアジトに連れていかれた。
ヴィネガーが目隠しを取った時には、どことも分からぬビルの一室。
周りにはおそらく幹部と思われる数人の人物たち、そして目の前にはノートパソコン。デスクトップに白い背景に黒字で大きく"B"と書かれている。
やがて、パソコンからは、男とも女とも分からぬよう加工された声が聞こえてくる。
 
「急な呼び出しに応じてくれてありがとう、私はこの組織キング・レオーネのボス……ボロス=ディーアだ」
 
ヴィネガーの回りがざわつき始める。
ボスが入ったばかりの新人にパソコン越しとはいえ、名乗るのはよほど珍しい事なのだろう。
パソコンの向こうの人物、ボロス=ディーアは言葉を続ける。
 
「立場上、姿を見せないようにしているので、このような失礼な形で会う事を詫びよう。
 私は今、別室にいてカメラとマイクで君の姿も声も確認できる状態だ」
 
ヴィネガーはボロスの次の言葉を待った。
ボロスは静かにPCのカメラを見つめるヴィネガーを観察するかのように押し黙る。
 
「…………君はこれまで、母親と二人暮らしだった。そうだね?」
 
ヴィネガー:「……はい」
 
「その母親は死んだ」
 
ヴィネガー:「……はい」
 
「そして、君の名前はヴィネガー=……ウナ……そうだね?」
 
瞬間、ヴィネガーは聞き逃さなかった。
〝ウナ〟、という前に生じたわずかな間を。
そしてウナと発した時に感じたわずかな〝哀愁〟を
 
 
ヴィネガー:「………………」
 
「どうした? ヴィネガー君」
 
ヴィネガー:「これは直感ですが、……違います」
 
PCの向こうのボロス=ディーアは少し黙ったあとに、聞き返す。
 
 
「何が違うのだね?」
 
そして、ヴィネガーをスゥと深く息を吸った後、こう答えた。
 
 
ヴィネガー:「恐らく、………… 私 の 名 前 は 〝 ヴ ィ ネ ガ ー = デ ィ ー ア 〟 で す 」
 
 
「…………や は り 、 察 し て い た か 」




その数か月後、ボロス=ディーアは死神によって命を絶たれた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ルク:「合意と見てよろしいですね?」
 
宝条ルクはノリノリだった。
いつの間につくったの、髭のレプリカを装着し自らの命運をかけたロボトルを取り仕切っている。
 
ルク:「それではこれより真剣ロボットバトル、ロボトルを開始します♪
   あたくし、世界メダロット協会A級ロボトル非公認レフェリーの~~ミスターうルクちです!」
 
そんな姿を見て、彼女の最愛の夫は思った。
 
ヴァレン:(ツッコミどころが多すぎて何も言えねえ……)

もっと後ろでみてる外野の人たちは思った。
 
リリ:(……あのヒゲのクオリティ高いな)
 
流慕:(……さて、おっぱい大きいな)
 
米斗:(……今晩のおかず何にしよう?) 
 
  
ルク:「ルールは簡単! たがいのメダロットを戦わせ、先に相手の機能を停止させた方が勝ちです!
   そして、ソリン王子が買ったらあたしが嬉しくて、ヴィネガーが勝ったらあたしが悲しい感じです!よろしいですかッ!?」
 
 
ソリン:「……あ、うん」
 
ヴィネガー:「……はい」
 
これから戦う2人の士気を下げに下げ、宝条ルクもといミスターうルクちは試合の開始を告げる。
 
 
ルク:「それでは! ロボトル~~~~~~…………ファイトッ!!」
 
 
そして、なんとも締まりのない空気の中、ソリンとヴィネガーの戦いは幕を開けた。
最初に勝負に出たのはヴィネガー=ディーア。
 
ヴィネガー:「クリムゾンキングッ!」
 
クリムゾンキング:「…………」

 
やる事は実にシンプル。
ただ、ひたすら、真っ直ぐに突っ込んでいき右腕を振り下ろす。
それだけ、たったそれだけの行動が脅威なのだ。
 
ソリン:「避けろ! メダナイトッ!」
 
メダナイト:「指示が雑すぎるぞ!! ……クッ」
 
寸前の所でクリムゾンキングの攻撃を回避するメダナイト。
もしも、この右腕に触れてしまっていれば、触れた部分が跡形もなく削り取られていたところだ。
 
ソリン:(チッ……相変らずものすごいスピードで襲ってきやがる……クリスタルで強化したメダナイトより速いとかヤバイだろ)
 
ものすごく速い。
そして、一撃の威力が高い。
おおよそ戦闘に関して理想的な能力をもつクリムゾンキング。
メダナイトが唯一有利のとれる点といえば、遠距離攻撃を持っている事なのだが、その間合いすらクリムゾンキングのスピードの前で無意味だった。
 
ヴィネガー:「次だ。クリムゾンキング!」
 
クリムゾンキング:「…………」
 
そして、息切れする事なく次々に容赦のない攻撃が襲ってくる。
試合開始早々、メダナイトは防戦一方だった。
 
ソリン:(何か……何か、ここを逆転する一手はないか……何か……)
 
と、ソリンが必死に考えている横で無邪気にルクが言った。
 
 
ルク:「っていうか、ソリン王子は"左"から攻撃すればいいんじゃないの?」
 
 
ソリン:「……ん? なんで?」
 
間の説明を一切省いたルクの一言は、ソリンにはよく分からなかった。
しかし、メダナイトは気が付いた。
 
メダナイト:「待てよ……さっきからあのクリムゾンキングが"右腕"のみで攻撃している……!!」
 
クリムゾンキングというメダロットは両腕と頭が全て"デストロイ"攻撃のメダロットだ。
右腕だけでなく、左腕、頭からも同レベルの攻撃が出来るはず。
にも拘わらず、今、目の前のクリムゾンキングは右腕のみで攻撃している。
 
と言うよりも……
 
ソリン:「あのメダロット……右腕と脚部しかまともに動いていないぞ」
 
ヴィネガー:「…………」
 
クリムゾンキング:「…………」
 
相変らず黙りっぱなしのクリムゾンキング動揺、主人たるヴィネガーも口をつぐむ。
その表情は、多くを語らないが、だが、対戦相手がクリムゾンキングの"謎"に触れだした点に焦りを感じているのは確かだ。
 
 
ヴァレン:「つーか何気に、あのメダロット黙りすぎだろ。昔会った時はもっとにぎやかな奴だったぜ」
 
今度はヴァレンが無邪気に言う。
 
ルク:「にぎやか?」
 
ヴァレン:「おう、何気に……一人で会話してるっつーか。腹話術師みたいに数人で会話してる感じだったな」
 
ヴァレンが未だにあれがなんだったのか分からないと首をかしげる中、ルクは何の気も無く言った。
 
 
ルク:「あ~……やっぱり メ ダ ル い っ ぱ い つ け て る と人格も増えるのかな~?」
 
 

 

 

  
 
ヴァレン:「ハッ!?」
 
ソリン:「ファ!?」
 
メダナイト:「!?」
 
 
数秒の沈黙の後、男たちは素っ頓狂な声を上げる。 
いや、メダナイトだけは表情に動揺が見えただけだった。なんとなく声上げてそうな顔してるだけだった。
 
 
ルク:「え? え? えええ??」
 
ソリン:「な、なんでそんな事知ってるの!!??」
 
 
試合もそっちのけでルクに向かって叫ぶソリン。
  
クリムゾンキング:「…………」
 
しかし、その隙を狙ってクリムゾンキングの容赦ない攻撃がメダナイトを襲う。
 
メダナイト:「……あぶないッ……ソリン!! 戦いに集中しろ!! 腹立たしいがこの戦い、貴様のクリスタルが勝負のカギだぞ!!」
 
クリムゾンキングの攻撃必死でかわしながらメダナイトが怒鳴る。
 
ソリン:「わ、わりぃ」

試合に集中しなくてならないソリン&メダナイトの代わりにヴァレンがルクを問い詰める。
 
ヴァレン:「ルク、さっきなんつった? 何気に"メダルいっぱいつけてる"って……?」
 
ルクは驚くヴァレンに驚いていた。
 
ルク:「え?なんでって見たらわかるじゃん……普通のメダル装着口に追加で右腕、左腕、脚部にもメダルが入ってるから……4つはメダルついてるね」
 
ルクはしごく当たり前の事のように言うが、常人には普通のクリムゾンキングとまったく見分けがつかなっかった。
とにかく、ルクの言う事を信じるならばこういう事になる。
 
 
ヴァレン:「つ ま り ク リ ム ゾ ン キ ン グ は 、 違 法 改 造 し て メ ダ ル を 4 つ 装 着 し た メ ダ ロ ッ ト だ っ た ん だ よ ! 」
 
ソリン:「 な 、 な ん だ っ て ー ー ー ! ? 」

言うまでもなく、直後にソリンは試合に集中しろとメダナイトに怒られた。
 
しかし、新たに発覚したこの真実のおかげクリムゾンキングの謎が1つ明らかになった。
彼の強さの秘密は複数メダルによる総メダルレベルの底上げにあったのだ。 
例えば、メダナイトのメダルがレベル99だったとしても、クリムゾンキングは99×4でレベル396という事になる。
速さもパワーも段違いなわけである。
 
しかし、謎は一つ残っている。
 
ヴァレン:「まぁそれで多重人格だったの何気には分かるとして……なんだって今はは無口になっちまったんだ?」
 
ルク:「それは分からん」
 
ヴァレン:「それは分からんのか」
 
ヴァレンとルクが真顔でシュールな会話をしている向こう側では、その姿を忌々し気に見るヴィネガーの姿があった。
 
 
ヴィネガー:(チッ……いちいち人の精神を逆なでしてくれるヤツらだ……!!!)
 
 


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
  
  
 
ボロス=ディーアが死んでから、5年。
組織はボロスの死を徹底的に隠ぺいした。
元々、ボロス自身が自分の姿をあまり見せないようにしていたおかげか、なんとか隠ぺいできていた。
 
ヴィネガーは驚異的な若さをもってキング・レオーネの幹部になった。
ボスが死んでから組織上層部があわただしくなっていた中、ヴィネガーの優秀さがひときわ目に着いたという事もあるかもしれない。
しかし、おそらく上層部が求めていたのはヴィネガーの体に流れるボロス=ディーアの血だったのだろう。
 
幹部に昇格する事が決まり、ヴィネガーは他の幹部達に呼び出された。
呼び出された場所は、ボスの部屋。かつてボロス=ディーアの個室として用意された空間だ。
扉や窓は一切なく、知っている者でなくては決してたどり着けない場所にある。
ヴィネガーがここに来るのは二度目だった。
 
部屋の中には、複数の計算機が用意されている。
その一つ一つがスーパーコンピュータクラスの性能を誇る。
現在は複数の幹部達によって、この部屋は使用されており、ボロス=ディーアの死亡を全力で隠していた。
 
その部屋の片隅に、静かに佇むメダロットの姿があった。
クリムゾンキングである。
 
ボスの死後、どこへ行ったかと探してみれば、一体でここに戻ってきていたらしい。
ヴィネガーは最初、クリムゾンキングは機能を停止して飾られているのだと思った。
しかし、違う。
クリムゾンキングの目には光がともっている。
起動し続けている。
 
幹部が言うには、「クリムゾンキングはボロスから"仕えるべきだと思う者に仕えろ"との遺言を承っている」との事。
ボロスの死後、何人もの幹部がクリムゾンキングのパートナーに名乗りをあげたが、
クリムゾンキングは何も話さず、微動だにしないままに、ここに居続けているらしい。
 
幹部たちは、クリムゾンキングを従えた者を次のボスとして、ボロスの代役を務めてもらおうという結論に達した。
しかし、結局誰一人としてクリムゾンキングの指一本動かすことはできなかった。
故に、指導者不在の状況が長く続いていたのだ。
 
その時だった。
ボロスの息子、ヴィネガー=ディーアが幹部に昇格したのは。
 
幹部たちは思った。
ボロスの血をひくヴィネガーならば、クリムゾンキングに認めてもらえるのではないか、と。
 
 
ヴィネガー:「……君が、父のメダロットか」
 
クリムゾンキング:「…………」
 
クリムゾンキングは動かない。
  
 
ヴィネガー:「……私は、この組織の新たな幹部。名はヴィネガー=ディーア」
  
クリムゾンキング:「…………」
 
クリムゾンキングは動かない。
 
 
ヴィネガーは右手を差し出す。
 
ヴィネガー:「私は、この組織を強いままに維持しなくてはならない。……力を貸してくれ」
   
クリムゾンキング:「…………」
 
クリムゾンキングは動かない。
 
 
幹部たちは肩を落とした。
かのボスの息子ならば、もしや、という期待を打ち砕かれたのだ。
ヴィネガーを侮蔑するかのようにため息をつく者。
「もうあきらめたまえ」とヴィネガーの肩をポンと叩く者。
 
場、全体がどんよりとした。
しかし、緊張感の抜けた、気まずい空間になる。
 
 
ヴィネガー:「私は組織を維持しなくてはならないのだ。……それが父が組織を作り上げた父ですら成し遂げられなかった偉業だ」
 
 
ヴィネガーが、ぽつりと、しかしはっきりとクリムゾンキングを見据えている。
その言葉で、場に緊張感が戻る。
小さな声だった。
しかし、他の幹部達にも理解不能な、何か、とてつもない、凄みを感じた。
  
クリムゾンキング:「…………」
 
その時だった。
 
クリムゾンキングは黙って右腕をヴィネガーに差しだした。
 
ヴィネガー:「……! 私を認めてくれるのか?」
 
ヴィネガーはクリムゾンキングの手とり、握手を交わした。
幹部たちは、手のひらを返して歓喜した。
ヴィネガーを抱きしめ、ヴィネガーをほめたたえ、新たなボスの誕生を喜んだ。
 
しかし、
 
クリムゾンキング:「…………」
 
クリムゾンキングは喋らない。
 
その日から、今日にいたるまで。
 
動くのは右腕と脚部だけ。
 
言葉を交わす事もない。
 
 
 
クリムゾンキングは喋らないままだった。
 
 
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
  

ヴィネガー:(結局、私はクリムゾンキングに認められてなどいないのだ……)
 
沈黙するクリムゾンキング。
ざわめくソリンサイド。
 
双方を静かに眺めて、ヴィネガーは静かにかたる。  
 
 
ヴィネガー:「結局、私はクリムゾンキングのパートナーとして足りていないという事だ」
 
ソリン:「……?」
 
クリムゾンキングの黙する理由を淡々と語るヴィネガー。
その場にいる人間の視線はは彼にくぎ付けになった。 
よくよく考えなくとも、自分の実力が及ばずパートナーと口をきいてもらえないなんて恥ずかしい事だ。
だが、それを抵抗なく、敵側に教えてやるヴィネガー。
彼は恥知らずではない。
恥を受け入れているのだ。
その姿に、皆、奇妙なカリスマを感じたのだ。
  
  
ヴィネガー:「この2年間、私はクリムゾンキングに未だ認められていない……だが、試されてはいるのだろう。試す価値を見出したのだろうッ!
      私はこの試練を乗り越えなくてはならないのだッ!!」
 
 
皆、沈黙する。
ヴィネガーの凄みに黙らさたのだ。
 
  
その時…………。
 
 
クリムゾンキング:「……わたし、いち抜ーけたぁー」
 
 
沈黙を破ったのはクリムゾンキングだった。
 
 
クリムゾンキング:「ト、トブンダー殿!勝手に喋るんじゃあない!」
 
クリムゾンキング:「だって、息子ちゃん頑張ってるしー。っていうかドンドンパンチもしゃべってんじゃん」
 
クリムゾンキング:「はっ……しまった!」
 
クリムゾンキング:「とにかく、わたしとドンドンパンチはヴィネガーちゃんにつくから。黙ってるドドパパパンチとコツコツトサカンは勝手にどうぞ―」
 
クリムゾンキング:「わ、私も!?」
 
  
沈黙を破るや否や。
せき止めていたダムの水のごとく、喋るクリムゾンキング。
一級の腹話術を見ているような、シュールな光景であった。
 
クリムゾンキング:「ヴィネガーちゃん!あんたの意志に負けたわ……命令なさい。今までの倍の速度で飛んでやるわ」
 
クリムゾンキング:「致し方ない……右腕の振りは今までの数倍速いと心得よ、ヴィネガー殿」
 
その光景を唖然として観ていたヴィネガーだったが、クリムゾンキングの右腕と脚部に話しかけられて我に返る。
 
ヴィネガー:「あ、あぁ……すまない少し動揺していた。では、いくぞッ! クリムゾンキング!」
 
元々、脚部と右腕は話をしないながらも、動きだけは命令に従ってくれていた。
実は彼らに認めてもらうのは時間だったのかもしれない。
まだ頭と左腕には認めてもらっていない。
半分だ。
半分しか認めてもらっていない。
それでも、悔しいが、口の端を吊り上げずにはいられないヴィネガーであった。
 
ヴィネガー:「敵はこちらの左を狙ってくる! 左側を見せないように近づくんだ!」
 
そうして指示を出すヴィネガー。
慌ててメダナイトも反応する。
 
メダナイト:「!?……速い!」
 
攻撃をかわしながらメダナイトは気が付く。
明らかに先ほどとスピードが違う。
左側を攻めれば勝てる、という希望は一瞬にして崩れ去った。
なぜならば、右腕の攻撃をよけるだけで精一杯だからだ。
 
ソリン:「な、なんだよあの動き! 速い上に全然読めねー! 」
 
そして、それはソリンの目から見ても分かる変化だった。
先ほどまでの命令通りの単調な動きではなく、ヴィネガーの命令にメダロット自身の自己判断が付与している。
まさしく攻撃に心が宿ったといった感じだ。
更には、近距離武器しかないクリムゾンキングに遠距離攻撃で攻めようにも、高速で動き回る脚部のおかげで一瞬たりとも距離をとれない。
 
まだ右腕と脚部が覚醒しただけだ。
頭と左腕は動かないし、しゃべらない。
それにも関わらず、ソリン&メダナイトはいともたやすく追い詰められてしまっていた。
 
 
ルク:「ジャーンジャジャジャッジャッジャーン♪トゥ~~~~ル~~~~ル~~~~……♪
   ジャーンジャジャジャッジャッジャーン♪トゥ~~~~ル~~~~ル~~~~……♪
   チャーン↑ジャジャジャッジャッジャーン↑♪トゥゥゥ~~↑ルゥゥ~~↑ルゥゥ~~↑♪」
 
 
その時、ルクが歌いだした。 
 
流慕:「さて? 頭おかしくなったのかあの巨乳?」
 
リリ:「頭がおかしいのは最初からよ」
 
後ろの方でひどい会話が行われた。
幸い、ルクには聞こえなかった。 
だから歌い続けた。

ルク:「きゃあち♪ほ~♪あいるくろ~♪ねろすじょ~ぃ♪すきーッん♪ふぉもお~♪あぱらのあ~♪ぽいずどおぉ♪
   とぅうぇてぃあんせんち~すきっじょーま~ん♪」
 
相変らずの意味不明行動っぷりに敵味方問わず、混乱させるルクだったが彼女の行動をいち早く理解したのはヴァレンだった。
 
ヴァレン:「……なるほど。ソリン、何気によく聞いとけよ」
 
ソリン:「はぁ?」
 
勿論、ソリンには理解できない。
というか、この時点でヴァレン以外の全員が理解できない。
 
そして2番目に気が付いたのは、まさしく戦闘中のメダナイトだった。
 
メダナイト:(まてよ……この曲のこのリズム……これはッ!あの曲……)
 
そして、3番目に異変に気が付いたのはヴィネガー=ディーア。
 
ヴィネガー:(……!? 敵の回避がスムーズになった?まさかあの曲……)
 
 
メダナイト&ヴィネガー:(クリムゾンキングの攻撃リズムと完全に一致しているッ!!)
 
 
それは意識してなのか、たまたま鼻歌が歌いたくなったのか。
宝条ルクの様子からは分からないが、宝条ルクの歌はクリムゾンキングの攻撃の〝癖〟を浮かび上がらせていた。
 
 
ヴィネガー:「……ッ! 一旦を攻撃を停止だッ!リズムを変えるぞ!」
 
クリムゾンキング:「りょ、了解。あいあいさー。」
 
ヴィネガーは素早く事態に対応した。
一度、攻撃をやめる事でここまでの悪い流れを断ち切るのだ。
 
ヴィネガー:「攻撃再開!」
 
ヴィネガーの指示でクリムゾンキングは再び動き出す。
先ほどのリズムとは打って変わって、速いテンポの変則的な攻撃の繰り出し方だ。
 
 
ルク:「パッパラ♪パッパラ♪パッパラ♪ターラーラー♪パッパラ♪パッパラ♪パッパラ♪ターラーラー♪
   パッパラ♪パッパラ♪パッパラ♪ターラーラー♪パッパラ♪パッパラ♪パッパラ♪ターラーラー♪
   ダカダカダカダカダカダカダカダララララン♪
   …………ダカダカダカダカダカダカダカダラララッタラッタラッタラ♪」
 
奇妙な事に宝条ルクの曲のリズムも変化した。
そして、やはり、その曲はクリムゾンキングのリズムであった。 
 
メダナイト:(好機ッ!!)
 
ソリン&メダナイトに最大のチャンスが訪れる。
宝条ルクのリズムのおかげだけではない。
一旦、ヴィネガーを攻撃を停止してくれたおかげだ
少しの攻撃停止の間に、精神を落ち着けて、攻撃をかわした後の反撃の方法を考える事が出来たのだ。
 
 
ソリン:「今だァーーーー!!」
 
 
そして、反撃の……否、逆襲の時は訪れる。
宝条ルクの曲通りのリズムで、攻撃をかわし、メダナイトはクリムゾンキングの左を取った。
そう、動かない左手側を取ったのだ。
 
メダナイト:「覚悟ッ!」
 
メダナイトは隙の生じたクリムゾンキングに大振りの一撃を与えようとを剣を振りおろす。
クリムゾンキングに攻撃を当たった!!
 
その筈だった。
 
 
クリムゾンキング:「っていうか痛いですね~~。何で左側ばっか攻撃しちゃうんですか~~?」
 
 
クリムゾンキングの口調が変わった。
いや、クリムゾンキングの口調が増えた。
 
 
そして、メダナイトの攻撃は〝左腕〟によって防がれていた。
 
 
クリムゾンキング:「ドドパパパンチ!」

クリムゾンキング:「ま、この敵、結構強いみたいだし応援しようと思いましてね~~」
 
クリムゾンキングの左腕が復活した。
ヴィネガーは嬉しかった。
だが、その気持ちを抑えて、すかさず命令を下す。
 
ヴィネガー:「チャンスだ! 反撃だッ!!」
 
そう、攻撃後の隙を狙う側と、狙われる側が先ほどと逆の立場になった。
 
自力の実力ではクリムゾンキングの方が上。
状況もクリムゾンキングの方が有利。
 
 
勝負は決まった。
 
 
ソリン:「メダナイトーーーッ!!!!」
 
 
ソリンは思わず叫ぶ。
 
 
そして、
 
 
その後にこう続けた。
 
 
ソリン:「 … … … … 奥 の 手 だ ぜ ッ ! ! 」

 
クリムゾンキングの攻撃がメダナイトに迫る。
そして、それをよけることができない。 
そしてそして、決まった。
完全にクリムゾンキングのデストロイ攻撃がメダナイトにヒットした。
一度当たれば、粉微塵になって死ぬ一撃必殺技だ。
避けられてはいない。
クリムゾンキングは確かな手ごたえを感じていた。
ソリンの〝奥の手〟は間に合わなかったのか?
 
 
メダナイト:「……間に合ったか」
 
 
攻撃を受けたメダナイトが立ち上がる。 


ヴィネガー:「ば、馬鹿な……!たしかにクリムゾンキングのデストロイは当たったはず……」
 
驚愕するヴィネガー。
それもそのはず。
 
メダナイトは、
無傷で立ち上がったのだ。
 
 
よく見れば、メダナイトは紫色の半透明のオーラを纏っている。
そして、そのオーラからは細い手綱のような半透明の線が伸び、ソリンの持つクリスタルに繋がっている。
 
ソリン:「お前の攻撃はたしかにメダナイトに当たったぜ。だがな、一回負けた相手のアジトに何の作戦もなく突っ込んでくるわけねえだろ!!」
 
ソリンは意気揚々と奇妙なポーズで言う。
 
ソリン:「メダナイトに当たった攻撃は、全て〝クリスタル〟に流れ込んだ!!
    今のメダナイトにとって「吉良(きちりょう)」なるものが集まり、
    反対に「害悪」となるものはクリスタルへとはじかれていく…………
    これぞ俺の考えた最強防御技……その名も――――――」
 
 
メダナイト:「――――――Darkness for Crystal(クリスタルに代わる暗黒) 」


ソリン:(技名言われたッ!!?)
 
 
絶対的攻撃力を誇るデストロイ攻撃を防いだ技。
それはクリスタルの力を応用したソリン&メダナイトの必殺技、Darkness for Cristal。
略して『 D for C 』である。
 
ソリンのD for C発動により、戦局は変わった。
クリムゾンキングがいくら攻撃したところで、メダナイトにはダメージは入らない。
全てのダメージをクリスタルに身代わりされているからだ。
 
そして、クリムゾンキングの攻撃後の隙をついてメダナイトは次と次と攻撃を当てていく。
しかし、流石は合計レベル396。硬い。
クリムゾンキングはまだ倒れない。
 
ヴィネガー:(クソ……ッなんだあの技は! 完全に想定外だ)
 
ヴィネガーは焦っていた。
彼は何としてもこの勝負に勝たねばならなかった。
死んだボロス=ディーアのレプリアを手に入れなくてはならないのだ。
 
 
 

ヴィネガー:(私は……この組織を、強く、維持しなくてならないのだぞッ!!!)
 
  
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
  

 
「恐らく、………… 私 の 名 前 は 〝 ヴ ィ ネ ガ ー = デ ィ ー ア 〟 で す 」
 
 
「…………や は り 、 察 し て い た か 」
 
  
 
あの日の事だ。
ヴィネガー=ウナではなく、ヴィネガー=ディーアと初めて名乗ったあの日。
 
PCの向こう側にいる人物、ボロス=ディーアは驚いた様子も無かった。
いや、表情は読めないし、声も加工されたものなのではっきりとは分からない。
少なくとも、取り乱して大きな声を出すような事はなかった。
 
周りの幹部たちがざわつく。
目の前の下っ端が、ボスのファミリーネームを名乗り、
それに対してボスが「やはり」と言った事にだ。
 
PCの向こう側のボロスは静かに言う。
 
「全員、今ここで聞いた話を言外する事を禁じる。頭の先からつま先までを綺麗にスライスされたくなければ、ここで起こった事は忘れたまえ」
 
淡々とボロスは言うが、部屋の中はとんでもない静寂と緊張感に包まれた。
 
「今から名前を呼ぶもの以外は部屋を出て、自分の持ち場に戻りなさい……ヴィネガー、ペリーコ、ブローノン」
 
そして、部屋にはヴィネガーと2人の幹部だけが残った。
PCの向こう側のボロスが2人の幹部に指示を出す。
 
「ペリーコ、ブローノン……ヴィネガーを私の下へ連れてきてくれたまえ」
 
ボロスが指示を出すと、2人は慣れた手つきでヴィネガーに目隠しとヘッドホンを当てる。
ヘッドホンからは大音量のロックが流れており、ヴィネガーは完全に視覚と聴覚を奪われた。
そのままの状態でヴィネガーはしばらく歩かされた。
階段を上っては下りて、何かエレベータのようなものに載っては降りて……
 
目隠しをとると、扉も窓もない部屋にヴィネガーはいた。
そして、目の前には長髪の男がいた。
ヴィネガーと同じ、紫色の髪の毛だ。
 
ボロス:「ペリーコ、ブローノン……ご苦労だった。私は彼と話をしたい……30分後に、きっかり30分後に彼を迎えに来てくれ」
 
2人の幹部は部屋を後にした。
そして、部屋にはヴィネガーとボロスの二人だけが残された。
  
ボロス:「…………」
 
ヴィネガー:「…………」
 
お互いに、相手から目をそらす事なく、数秒間の静寂が続く。
 
 
ボロス:「…………私を殺しに来たのか?」
 
耐えきれずに言葉を発したのは、意外にもボロスの方だった。
 
ヴィネガー:「…………いいえ、あなたが私と母の前に姿を現さなかった理由も、それでいて我々を守ってくれていた事も……分かっていますから」
 
ボロス:「…………そうか」
 
ボロスの口から小さなため息がわずかに聞こえた。
何か、安心したようなため息が。
 
ヴィネガー:「母さんから……〝それでも私はあなたを愛し続けた〟と遺言を預かっています」
 
ボロス:「……!?」

ヴィネガーが母の言葉を伝えるとボロスは一瞬目をピクリと動かした。
 
ボロス:「……彼女と出会った頃は、まだ小さな組織だった。誰も敵視しない、行動をチェックされない、誰も巻き込まない……ちっぽけな組織だった」
 
ヴィネガー:「分かっています。分かっているんです。……だからこそ、私は母の遺言を届けるためにここに入ったのです」
 
ボロスは少しの間、目を瞑って、死んだ彼の妻に思いを馳せた。
 
ボロス:「君の目的は果たされた。組織を抜けたまえ、その後の生活は保障しよう」
 
ヴィネガー:「 い い え 」

即答だった。
ボロスの提案をヴィネガーははねのけた。
眉をピクリと動かして、意外そうな顔でボロスは言う。
 
ボロス:「何故だね? 君の目的はこの組織にいるであろう私に母の遺言を伝える事なのだろう?」
 
ボロスが尋ねると、ヴィネガーは真っ直ぐにボロスを見据えて言う。
 
ヴィネガー:「私は……生まれてから今日までこの組織に守られて生きてきた。
      本当は母親と二人っきりじゃあ無かった見えないところに父はいたのです。
      母が死んだ今、私のホームはここ以外にありはしないのです」
 
ボロスは裏の世界の絶頂に立つ男だった。
組織に強大な力をつけさせたギャングのスターだ。
そんな彼だからこそ、この世界の辛さを知っている。
だから息子のヴィネガーにはこの道を進ませまいとした。
 
だが、ヴィネガーは父の優しさを突っぱねた。
 
ボロス:「過酷な世界だぞ」
 
ヴィネガー:「だからこそです。過酷な世界だからこそ、この組織にいつ危機が訪れるか分からない。
      そんな危機から、今度は私が、この組織を守り、保ち続けるのです」
 
ボロスは思う。
"この組織を保つ"。それは大きすぎる夢だと。
この強大な組織を作り上げた自身でも到底到達できない領域だと。
 
ボロス:「……力を手にする事はたやすい
    もっとも難しいのは、力を永久に『維持』させる事
    この組織を『成長』させた私以上に辛い道を、この組織の『維持』を……
    いともたやすく息子に強いるえげつない行為を私に行えというのか」
 
ヴィネガー:「……本当は私が守るべきだった〝母〟と〝私自身〟をあなたはいともたやすく守った。
      そんなえげつない行為をしておいて、私には自重しろとおっしゃるのですか?」
 
ボロスとヴィネガー。
優しさと厳しさ。
父よ息子。
成長させた者と維持させる者。
 
二人は間には奇妙な愛と、そして戦いがあった。
 
 
以来、ヴィネガーは父の死後もこの組織の強大さの『維持』の為、
働きに、働きぬいてきたのだった。
今も、依然変わりなく。
 
 
  
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
   
 
 
ヴィネガー:「私はあの日誓ったのだ。私自身を守ったこの組織を、今度は私が守ると……
      この力を『維持』させるのだと……
      だから、この試練は必ず乗り越えなくてはならないッ!!」
 
 
ヴィネガーは誰に聞かせるでもなく叫ぶ。
窮地に陥り、今一度、自分の信念を声に出し、自分を叱咤する必要があったのだ。
 
しかし、ここで激励されたのはヴィネガーだけでは無かった。
  
 
クリムゾンキング:「……ケッ! 尻の青いガキが……熱いじゃねえかよぉぉー!!!」
 
 
クリムゾンキング:「「「コツコツトサカン!!!」」」
 
クリムゾンキング、最後のパーツ。
コツコツトサカンが動き出した。
 
4つのパーツが認めてくれた。
 
全てがそろった。
 
そう――――――――
 
 
クリムゾンキングは動き出す。
 
 
ヴィネガー=ディーアは奮い立つ。
 
 
ヴィネガー:「……反撃にでるぞ!!」
 
 
ソリン&メダナイトの『D for C』をどうやって打ち破るのか。
これはクリムゾンキングが十全の力を発揮したとして、解決にならない。
しかし、ヴィネガーにはおぼろげながら、勝利の道を見据えていた。
 
ヴィネガー:(あの防御技は強力だ……だが、あんな切り札があうならば〝最初から使えばよかった〟のだ
     ピンチになって初めて使用したという事はあの技には何かしらのリスクがあるはずだ……例えば、そう……)

ヴィネガーは冷静に言った。
 
ヴィネガー:「ソリン王子よ……どうしてそんなに、汗をかいている? ……この一方的な状況で、その冷や汗の理由はなんだ?」
 
ソリン:「……チッ!!」
 
たしかにヴィネガーの言う通りだった。
ソリンは大量の汗をかいている。
長い髪の毛が汗でビシャビシャになり、ソリンの顔にくっついている。
そして、そのソリンの表情は疲弊しているようにも見える。
 
 
ヴィネガー:「攻撃しても意味がないとは、限らないな。
      ただし、攻撃後の隙を狙われるのは問題だが……」
 
クリムゾンキング:「だったら、任せな!!」
 
 
クリムゾンキングはいきり立つ。
 
 
クリムゾンキング:「4つのパーツ、全てのメダルをフル活用した必殺技をお見舞いしてやるぜ!」
 
クリムゾンキング:「あ~アレね~。疲れるんですけど仕方ないですね~」
 
クリムゾンキング:「久方ぶりだな」
 
クリムゾンキング:「……と、いうわけでヴィネガーちゃん。私に向かってこう命じるのよ――――――――」
 
クリムゾンキングは口ぐちに良い、そして、ヴィネガーに彼らの持つ最高の必殺技を教えた。
 
そして、ヴィネガーは宣言する。
 
 
ヴィネガー:「行け、クリムゾンキングッ!!」
 
ヴィネガーが命じると、クリムゾンキングは両腕と頭のデストロイと高速で振り回した。
あまりのスピードのあまり、デストロイの軌跡が球形となり、クリムゾンキングは全身を破壊空間で囲った。
その状態で、レベル99の脚部パーツによる強力な推進で、メダナイトに突進する。
 
 
全身のどこ触れても、一撃必殺のデストロイをくらってしまう。
破壊の球体と化して突進する最強の攻撃技……その名も――――――
 
 
 
ヴィネガー:「――――――Destroy for Crimsonking (破壊せよ、その名の為に)ッッッ!!!! 」
 
 
 
何の因果か。
ソリン&メダナイトの最強の盾の名が『D for C』。
そして、ヴィネガー&クリムゾンキングの最強の矛の名もまた『D for C』。
 
まったく性質の違う二つの技の略称が一致した。
 
猛進するクリムゾンキングにメダナイトは遠距離攻撃の暗黒で迎え撃つが意味をなさなかった。
クリムゾンキングに触れるものは、エネルギーであろうとも削り取られてしまう。
むしろ、攻撃によって迎え撃ったせいで回避が遅れてしまった。
メダナイトは攻撃を回避しようと横に大きく飛んだが、脚部パーツに攻撃をくらってしまった。
 
ソリン:「……グッ!」
 
メダナイト:(ソリン!)
 
その時、ソリンの表情が大きくゆがんだ。
必死に痛みを耐えているかのように。
 
ルク:「……あの黄色い水晶が攻撃を肩代わりするって言ってけど、そうは見えないわね」
 
もはや誰の目からも明らかだった。
メダナイトを攻撃をくらう度に、ソリンがダメージを受けている。
 
ヴァレン:「だが、何気にソリンに外傷は無い。まったくの無傷だ」
 
ルク:「じゃあ、……どゆこと?」
 
ルクは神妙な顔で首をかしげる。
ヴァレンはここに来るまでに聞いたソリンのもつクリスタルの力について思い出していた。
 
ヴァレン:「ソリン曰く、あのクリスタルの力はソリンの心の力で動かされるらしい……
     つまりクリスタルが攻撃を肩代わりするってのは、言い変えれば〝ソリンの心〟がダメージを受けるという事……じゃねーか?」
 
ヴァレンもまた神妙な顔で首をかしげる。
 
ソリン:(……そろそろバレて来たか……)
 
ソリンはとうとう膝をつく。
肉体的なダメージは無いが、心へのダメージがたまってきていた。
最強の防御技『D for C』の効果はヴァレンの推測通りだった。
クリスタルとつながった暗黒のヴェールによってメダナイトを守る代償として、ソリンの心がダメージを受けるのだ。
 
 
メダナイト:「……ソリン、そろそろD for Cを解除しろ。お前がもたないぞ」
 
ソリン:「今解除したら負けちまうだろ……」
 
メダナイトの提案をソリンは退ける。
 
ルク:「ソリン王子、いいのよ負けても。結局あなたは私のギャンブルに巻き込まれただけなんだから」
 
ソリン:「D for Cは攻撃を消滅させる技じゃない……害悪としてはじかれたものはどこかに存在する。
   そして、〝誰かがヘタを掴まなくてはならない〟……ヘタを掴むのは美人のお姉さんじゃあ無いぜ……
   このソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードだ」
 
ソリンはそういって、弱弱しく立ち上がる。
 
ヴィネガー:「私からも技の解除を勧める。それによって敗北するとしても、まだマシだ。……このまま続ければ、お前は死ぬぞ?」
 
敵のヴィネガーですらソリンの心配をし始めた。
降参をする時間を与えてやろうのだろうか、クリムゾンキングは攻撃の手を緩めた。
 
 
ソリン:(へへへ……よく『車に引かれた猫が道端で死んでる姿をみて〝心が痛む〟』なんて言うが、あんなもんは痛みのうちに入らねえ。それは理解できた。
   すっげー痛てーや……心が痛いってのは、案外、直にぶん殴られるよりきついな……)
 
ソリンは意識を朦朧とさせながら、そう考えていた。
 
ソリン:(カッコつけた手前アレだが、こいつは本格的に負けを認めた方がいいかもな……なーにただのゲームだ負けていいじゃねえか……
   俺の目的は魔王を倒す事だ……ここで負けても最後に勝てばいいんだから……
   負ける事になんて慣れてるはずだ……我が国家はずっと……たとえ勝負に勝っても、試合には負けてきたんだか……
   あぁ……心が痛い……今まで感じたどの痛みより痛い……)
 
そう思い、ソリンはクリスタルの力を解除しようと思った。
不思議なもので、いざ戦いとなるとソリンはクリスタルの力を自由にコントロールしていた。
闘争本能というやつがソリンのような男にもまだあるのだろうか、不思議と心が昂ってクリスタルの力を発揮していた。
 
そして、ソリンは白旗替わりに両手でも上げようとした刹那。
 
 
魔でも刺したように、ソリンは思った。
 
 
ソリン:( … … い や 、 そ れ で も 、 親 父 が 死 ん だ 時 の 心 の 痛 み よ り は マ シ だ )
 
 
そして次の瞬間。
 
ソリン:「メダナイト……続けるぞ!!」
 
メダナイト:「!?」
 
ヴィネガー:「!!」
 
ソリンの目に再び光がやどる。
そして、クリスタルはより一層輝きを増して、メダナイトをD for Cで守り続ける。
敵のヴィネガーも、味方のメダナイトも驚愕の表情でソリンを見る。
 
 
ヴィネガー:「お、お前……バカか?」
 
ソリン:「いかにも。俺のあだ名はバカ王子だ」
 
 
そのままソリンはメダナイトに指示を出す。
もはや、ギャンブルとかいう事すら忘れていた。
もっと、凄まじい、何か、本質的な何かによって、無理やり動かされているような気もする。
 
ソリン:「クリムゾンキングのD for Cは最強の攻撃技でありながら、防御技としても優秀だ。あれじゃ近寄れねえからな……まさしく最強だ。
    だが、こっちのD for Cなら何とかなる。あの攻撃を耐えながら、破壊空間の中にいるクリムゾンキングを攻撃すれば勝てる!!」
 
実に無茶苦茶な作戦だった。
いや、作戦も糞もない。
単なるゴリ押しだ。
 
メダナイト:「そんな危険な事できるか!!」
 
ソリン:「いいからやれ!!!! 俺が心配なら、俺が倒れる前にヤツを討て!!!!」
 
メダナイト:「……バカ王子が!!!」
 
メダナイトは致し方なく、クリムゾンキングに斬りかかる。
 
ヴィネガー:「クリムゾンキング、オーダ通りD for Cで迎え撃て」
 
ヴィネガーは冷静に言い放つ。
警告はした。
待ってもやった。
それでも、向かってくるならば、その心を粉微塵に破壊しつくすのみ。
 
 
メダナイト:「おおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 
メダナイトは破壊空間の中につっこむ。
そして、少しでも早く終わらせようとクリムゾンキングを滅多切りにする。
 
クリムゾンキング:「舐めないでよね……レベル99如きの坊ちゃん……!!」
 
クリムゾンキング:「こっちだって覚悟は決めてるんですからね~」
 
クリムゾンキング:「耐久戦でも我らに利があるぞ」
 
クリムゾンキング:「俺たちが教えてやるよ!! これが合計396レベルの根性だ!!!」
 
クリムゾンキングは倒れない。
メダナイトの攻撃を受けながらもデストロイを振り続ける。
何発ものデストロイを食らっているうちにメダナイトは破壊空間の外でルクが叫ぶの聞いた。
 
 
ルク:「もうやめて!! ソリン王子が!! ソリン王子が限界なのよ!!!」
 
 
それを聞いてメダナイトは気づいた。

〝自分の体が少し傷ついている〟
 
メダナイト:(!! D fro Cの効果が薄まっている……まさか!!)
 
メダナイトは破壊空間から脱出する。
クリムゾンキングは追撃を試みたが、メダナイトから受けたダメージが大きく、一旦引くことを選択した。
 
メダナイトはクリムゾンキングが引いた事を確認しながら距離をとり、ソリンの方へ振り返った。
 
メダナイト:「ソリン!!!!」
 
ソリンは両ひざをつき、焦点の定まらぬ目で宙を見つめている。
心が、そして、体も崩れようとしていた。
 
ソリン:「……う……あ……」
 
フラリとソリンの体が揺れる。
そして、重力に引っ張られて、頭が地面に向かって傾き始める。
 
 
ソリン:(あぁ……負けか……こんな事で魔王に勝てるんだか……
   たった一人のギャングにすら勝てないのに……世界の支配者に俺は……勝てるのか……
   どうして……俺はこんなに弱いんだか…………親父はもっと……弱いなりに勝つ男だったのに……な……)
 
 
  
 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  
   
 
イニストラードの王、ティボルト=ジュラ=マルコフ=イニストラード20世は、試合に負けて勝負に勝つ男だった。
 
誰に要求されるでもなく、真っ先に魔王に降伏宣言をしたのは一つの例だ。
ティボルト王は敗北によって、国民を守った。
小さな国が、強大な相手に真っ向勝負で勝つ事は無理だ。
だから、一見負けていても、結果的に得をするように動く。
これが力なき者のスマートな戦い方だ。
 
メイドとデキ結婚して臣下からバッシングを受けても、本人たちは幸福に生きる。
これもまた試合に負けて勝負に勝つ事……だと思う。
 
 
あれはいつのことだったか。
ソリンはそんな父のやり方に苦言を呈した。
 
もっと力をつけるべきだと。
策を弄さずとも勝てるほどの大きな強さを。
かの大国までとは言わないが、それでもいざとなれば国民を守るだけの力が必要だと父に説いたのだ。
 
結局のところ不安なだけだった。
力が無いままで勝つ父のような器用さをソリンは持っていないからだ。
順当にいけば、次の国王はソリンだ。
だが、父と同じやり方を出来ないソリンが、このまま国を引き継げるわけがない。
その不安を父にぶつけたに過ぎなかった。
 
RPGで例えるならば、強いボスが現れたときに
レベルを上げて物理と召喚獣連打で攻略するのがソリン。
敵の耐性と行動パターンを調べつくして、低レベルで攻略するのがティボルト。
親子でもここまで違いがあった。

 
父は平然とこう述べた。
 
ティボルト:「ならば、お前に王なった時にそうすればいいだろう」
 
ソリン:「はぁ?」
 
釈然としない少年時代のソリンにティボルトは落ち着いて話を続ける。
 
ティボルト:「誰が私のやり方を続けろと言った? お前にはお前のやり方があるだろう。
     逆に言えば、私にはこの方法しかできん。力をつけるために我慢したり、根性で乗り切るとかダルイからな。
     最小の力でラクして平和を保つ方が向いている」
 
ソリン:「ダルイっていうな」
 
真顔でツッコミを入れるソリン。
この父親、見た目は渋いジェントルマンだが、やはりソリンの親だけあって中身はチャラい。
 
ティボルト:「だが、ソリンよ。〝力〟なんて曖昧なものは当てにならんぞ。……〝具現化せよ〟」
 
急に真面目な顔で話し出す父。
ソリンはこの時の父の言葉に納得していないが、今でもその内容は覚えている。
 
ティボルト:「具現化で分かりにくければ〝目に見える形にする〟〝物質化する〟……なんでも良い。
     力、努力、愛情、根性、夢、思い、心……これら曖昧な概念は目に見えないだろう?
     だから皆よくこれらの言葉を使いたがる。
     曖昧だから、よく分からなくても許されるし、具体的なビジョンがまったく無くてもそれっぽい感じに聞こえるからだ。
     …………これでは駄目だ。弱かろうが、強かろうが、〝曖昧な概念〟を〝具体的な物質〟に変換できない者は敗北する」
 
ティボルトはそういいながら、楽しみにとっておいたデザートのリンゴをかじる。
 
ティボルト:「例えばこのリンゴは一つ1000円もする高級品であり、この輸出によってこの国の豊かさを支えている。
     リンゴ……〝豊かさの具現化〟。〝1000円〟……数字とは具体性があって良いものだ」
 
更にティボルトはたとえ話を続ける。
 
ティボルト:「かの魔王は〝支配の具現化〟としてメダロットの軍勢を作り上げた。
     魔王のところの死神なんかは〝不幸や恐怖の具現化〟ともいえるだろう。
     苦しい修練に耐えてきた格闘家の筋肉は〝我慢と根性の具現化〟と言えるし、
     我々の住むこの城は〝誇りと信念の具現化〟と言えるかもしれんな」
 
そして、ティボルト王はソリン少年の頭をなでながら言った。
 
 
 
ティボルト:「それから私はその昔、妻と協力して〝愛の具現化〟に成功した事もあったな」
 
 
 
ソリンはこの時の事が、忘れられなかった。
今も、尚。
 
この時の事を思い出してソリンは思う。
自分が弱くても、強くても、このままではヴィネガーに負けてしまう。
それどころか魔王にも勝てない。
 
今、思えば、ギディオン=レヴェインはその〝戦い〟をクラシアという友人に具現化していた。
リリアナ=ナラーは〝夢〟を魔王の持つ秘宝ビッグ・ズ・ロックに具現化していた。
ヴィネガー=ディーアもまた組織の〝力〟をボロス=ディーアのレプリカに具現化していた。
 
自分も、目的を〝具現化〟しなくてはならない。
理解できない曖昧な概念を振りかざしても、意味がない。
 
自分は魔王を倒したい。
魔王に勝利したい。
勝利を具現化しなくてはならない。
 
そうする事でイニストラードも、ソリン自身も、強く変化しなくてはならない。
ニンニンジャ事件によって彼らは変化を求められていた。
ティボルト王よりティボルト王のやり方を上手くできる者はいない。
そして、そのティボルトが殺されたのだ。
父から子へ……
旧世代から次世代へ……
弱者から強者へ……
 
 
『敗北』から『勝利』へ……変化が求められていた。
 
 
〝勝利の具現化〟とはなんだろうか?
 
〝勝利の物質化〟…………。
 
〝概念ではなく、物質として視認できる勝利〟…………。
 
 
考えに、
 
 
考えて、
 
 
考えた。
 
 

そして―――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 ……ガシッ。
 
 
部屋に、何かが地面にぶつかる音が反響した。
 
それは、ソリンが倒れた音……
 
 
 で は な い 。
 
 
 

メダナイト:「ソリン!!」
 
メダナイトは心配しつつも、少し嬉しそうな声をあげた。
 
ソリンは一歩、右足を踏み出した。
ガシッと大きな音を響かせて、倒れそうになった自分の体をがっしり支える。
踏みとどまったのだ。 
 
 
ソリン:(流石は親父、良いこと言うぜ……たしかに〝具現化〟すると目的が明確になる。明確になると、心に活力が戻ってくる)
 
 
ソリンは〝勝利〟を具現化した。
〝目で確認できる物質〟としての勝利を見出したのだ。
 
 
彼の見つけた〝具現化〟とは――――――――――――
 
 
 
ソリン:(――――――――――――俺は魔王の『遺体』を手にする)

 
 
ソリンはゆっくりと立ち上がり、態勢を整える。
真っ直ぐとヴィネガーを睨みつける。
 
ソリン:(それが俺なりの勝利の具現化……そして、次の国家元首たるこの俺が魔王に勝利するという事は、我が国家が強くなるという事
   強くなれば、親父みたいに器用な事ができない俺にだって、国民を幸せにする事が出来る。
   このソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラードが『遺体』を手にした時、我が国家は『幸福』になるッ!) 

 
ヴィネガーもまた、ソリンを静かに見据え、クリムゾンキングに攻撃の準備をさせる。
そして、ソリンを睨み返す。 

ヴィネガー:(私は『レプリカ』を手にしなくてはならない。それはこの組織を維持し続ける力となるからだ。
     力があれば父と同じように動ける。父の時代と変わらない組織を保てる。
     このヴィネガー=ディーアが『レプリカ』を手にすれば、我が組織は『絶頂』であり続けるッ!)
 
 
数秒の間。
 
沈黙。
 
緊張感。
 
 
それらをぶち壊すのはソリンか、ヴィネガーか。
 
 
答えは、両方だ。
 
 
ソリンが叫び、ヴィネガーも叫んだ。
真っ先に出てきた言葉はパートナーへの指示ではない。
己の覚悟だった。
 



ヴィネガー:「 我 が 組 織 キ ン グ ・ レ オ ー ネ は 強 く〝あ〟 ら ね ば な ら な い … … 依 然 変 わ り な く ッ ! 」
 
 
ソリン:「 我 が 国 家 イ ニ ス ト ラ ー ド は 強 く 〝な〟 ら ね ば な ら な い … … 以 前 と 変 わ っ て ッ ! 」



 
 
パートナーへの指示は、その後だった。
 
 
ヴィネガー:「D for C ( 破 壊 せ よ 、 そ の 名 の 為 に ) ッ ッ ! ! ! ! ! ! 」

ソリン:「D for C   ( ク リ ス タ ル に 代 わ る 暗 黒 ) ッ ッ ! ! ! ! ! ! 」
 
 
そして、決着の時は訪れる。
  
 
メダナイト:(……私はこの男を見誤っていたのかもしれない。ティボルト様と〝違う〟が愚かではないのかもしれない……)
 
クリムゾンキング:(……俺はこいつを勘違いしてたのかもな。親の七光りでボスになったわけでなく、ボロスと〝同じ〟で優秀だったのかもな……)
 
メダナイトはD for Cによって守られている間に、クリムゾンキングを破壊せんと剣を振る。
クリムゾンキングは自分が破壊される前に、D fo C によってソリンとメダナイトをノックアウトせんとデストロイを撃つ。
 
そして、
 
先に倒れたのは、
 
 
ソリンだった。
 
 
心の限界を迎えたソリンが崩れ落ちる。
前のめりに、ゴンッと音を立てて倒れる。
 
ルク:「ソリン王子!!」
 
ルクとヴァレンが駆け寄る。
顔色が最悪だ。
 
 
その時だった。
 
 
……ガシャンッ
 
金属の塊が倒れる音が部屋に響く。
 
そう、ソリンが倒れた後も。
D for C の加護がなくなった後も。
戦いは続いていたのだ。
 
ルクとヴァレンが振り返ると、そこあったのは。
 
 
左腕が吹っ飛び、脚部が吹っ飛び、頭も半分かけているメダナイト。
 
そして、
 
その足元に倒れるクリムゾンキングだった。
 
 
メダナイト:「勝っ…ガガガ……た……ジジジ………ぞ……同志よ……」
 
……ガシャンッ
 
そして、メダナイトも同じくして倒れる。
 

ソリン=ヴェス=ベレレン=イニストラード&メダナイト VS ヴィネガー=ディーア&クリムゾンキングの戦いは終わった。
 

 
横たわる3人の英雄。
それらを見下ろしながら、残った1人の男は呟く。
 
 
ヴィネガー:「……私の負けだ。レプリカは諦めよう」
 
 
重々しい声でそう言いながら、ヴィネガーは横たわるクリムゾンキングをなでる。
静かに、動かないクリムゾンキングに語り掛ける。
 
 
ヴィネガー:「だが、……お前達は私を認めて戦ってくれた。
     おかげでようやく、ボロスの息子ではなく、キング・レオーネのボスになれた気がするよ
      ディナーには父の皮をかぶるのではなく、私の姿で行こう。
      ……そして大統領にみせつけるのだ
      例えボスが変わろうとも、キング・レオーネは依然変わらず絶頂だという事を」
 
 
クリムゾンキングをスマホアプリに戻して、ヴィネガーは部下に命じる。
 
 
ヴィネガー:「ソリン王子の治療を急げ!! それから、リリアナ=ナラーに赤いクリスタルを返却して治療に当たらせろ!」
 
リリ:(ゲッ……なんで私が糞エロ王子の子守やんなきゃいけないのよ)
 
 
ドアァッ! 


……その時、
 
部屋の扉が大きく開かれる
 
 
そこに立っていたのは。
 
 
 
ギディ:「 こ の 部 屋 は ど う だ あ あ ぁ ぁ ぁ ぁ ! ! ! 」
 
ハルカゼ:「 こ れ で 9 4 部 屋 目 え え え え ぇ ぇ え ぇ ぇ ! ! ! 」
 
 
大遅刻した主人公達だった。






 
 
第二十四話【ディー・フォー・シー】 おしまい
 

Re: 魔王~Mysterious Crystal~ ( No.38 )
   
日時: 2019/06/02 17:36
名前:

第二十五話【宝条・ザ・プレイヤー】
 
 
 ギディオン=レヴェインという男は不在だった。
リリ達がギャングから逃走している間も。
ソリン達が死闘を繰り広げている間も。
ヴァレンの回想の時も。
なぜならば、そう、迷子だったからである。
 
空気も読まずに部屋に突撃したギディは部屋の中を見渡す。
その中に知った顔を見つけた。
 
ギディ:「流慕! 米斗! やっと会えた!」
 
流慕:「さて、そういやお前らいたっけ」
 
米斗:(なんで肩にナイフ刺してんだ?)
 
若干涙目になるギディを片瀬兄弟は養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で見た。
 
ハルカゼ:「ん? そこの貧n……赤毛の女はリリと……トリさんじゃん」
 
ギディのパートナー、ハルカゼもまた辺りを見渡して知った顔を見つけていた。
 
ダイナブレード:「トリさんではない。ダイナブレードだ」
 
リリ:「ア、アホが来てしまった……(つーかなんでこいつ肩にナイフ刺してんの?)」
 
ダイナブレードは冷静に返し、リリは顔を引きつらせて露骨に嫌がった。
そして、さらにギディは部屋を見渡す。
そこで知らない顔を見つけた。
 
ギディ:「ハッ巨乳!? 宝条ルク!?」
 
訂正する。知らない胸を見つけた。
 
ルク:「あたしのアイデンティティってそこしかないのかな……」
 
宝条ルクは悲しくなった。
 
ギディ:「良かった! あんたに聞きたい事があって探してたんだ! 死神の居場所を知らないか!?」
 
まったく状況を飲み込まずに、ストレートに質問をするギディ。
そんな姿を見て片瀬兄弟は「あ、そういえばそういう話だったね」と思った。
 
ルク:「居場所っていうか、そこにいるけど」
 
宝条ルクは不満げに自分の胸を見つめながら、夫を指さす。
その姿にリリは更に不満げな顔をしたが、今は関係ない。
 
ギディ:「な、なんだってーー!? すごい! 宝条ルクを探れば死神の情報が聞けるかもって話だったけどこんなにうまくいくなんて!」
 
ハルカゼ:「片瀬兄弟→宝条ルク→死神ってこれ最短ルートで見つけたんじゃね!?」
 
予想外に目標物に早くたどり着いて、ギディとハルカゼは大喜びする。
 
リリ:「そうね。最短ルートね」
 
と、宝条ルク→死神ルートでここにいるリリは平坦な声でつぶやいた。
 
 
ギディ:「あなたが死神ですか!?」
 
ヴァレン:「え? あ、その、はい何気にそうです……」
 
物凄い勢いのギディにヴァレンは若干引いた。
そして、ギディはヴァレンの足元に目をやり、ハッとした!
見知った顔を見つけたのだ。
 
ギディ:「ソ、ソリン!!」
 
ハルカゼ:「メダナイト!」
 
そう、片瀬兄弟も宝条ルクもすっとばして、いきなり最短ルートで死神にたどり着く人、およびそのパートナーである。
気絶したソリンを見た後、ギディはゆっくりと顔をあげる。
顔を上げたギディの顔は鬼のように恐ろしい形相だった。
 
ギディ:「貴様ソリンに何をしたーーーッ!」
 
そういってヴァレンに猪突猛進にせまるギディ。
 
ヴァレン:「えぇー……俺ぇ……?」
 
ヴァレンはギディに胸倉をつかまれ、げんなりしていた。
激しくまくしたてるギディの唾とか飛んできてすごい嫌だった。
 
ヴァレン:「いや、俺じゃなくて何気にあの人なんですけど」
 
そういってヴィネガーを指さす。
 
ヴィネガー:「え?私ぃ?」
 
穏やかな顔でクリムゾンキングをなでていたヴィネガーはハトに糞爆弾投下をくらったような嫌そうな顔をした。
 
ギディ:「なっ!なにをしただァーッ! ゆるさんッ!」  
 
ヴィネガー:「いや、ちょっと待てって」
 
本気でだるそうに対応するヴィネガー。
ギディとは初対面だが、まわりのリアクションを見てなんとなく察したリアクションであった。
 
流慕:「さて、ギディ落ち着けって。勘違いしてんぞー」
 
ギディ:「勘違い?」
  
深い溜息をした後の流慕の一言でギディの暴走は止まる。
 
 
その後――――――――――
 
 
 
――――――――――かくかくしかじかと片瀬兄弟の説明を受けるギディ。
 
話の途中で自分たちの過ちに気づき、流慕が話し始めて数分で正座になっていた。 
 
 
流慕:「さて、つーわけでそこのソリン王子は自分の意志で戦って、自分の力で勝利した所ってわけだ」
 
ギディ:「ソリン……成長したんだな」
 
何故か子供の成長を喜ぶ父親のように若干涙ぐみながらギディは言う。
その時、ソリンが凄い勢いで上体を起こした。
 
ソリン:「お前に言われるとすげームカつくな!」
 
ルク:「ソリン王子! 目が覚めたのね!!」
 
ヴァレン:「覚めたっつーか、何気に気が付いてたけど気絶したフリをしてる感じだったな。今の起き方」
 
ソリン:「このまま気絶してたらルクさんから人工呼吸とかオイシイ展開があると思って」
 
ヴァレン:「殺したい♪」
 
ソリン:「死神が言うとシャレにならねーな♪」
 
二人は笑顔だった。
なんかよく分からない邪気のある満面の笑みだった。
 
ヴィネガー:「誰かソリン王子に人工呼吸してやれ」
 
ヴィネガーは真顔で部屋の隅でおとなしくしていた筋骨隆々の部下たちに命じた。
意外とユーモアのある人物らしい。
 
ソリン:「ヤメテ!」
 
ソリンは本気でいやがった。
 
ギディ:「まぁ何はともあれソリン、無事でよかったよ」
 
ソリン:「無事ってわけじぇねえけどな。俺はただ……」
 
ソリンはまだ自力で立つことが困難なのか、床に座り込んだまま話す。
 
 
ソリン:「美女の口づけの瞬間に気を失っていたくなかった……フッそれだけさ」
 
ヴァレン:「よし殺そう」
 
ヴィネガー:「肺活量に自身のあるものは人工呼吸を!」
 
ソリン:「 ヤ メ ロ ッ テ ! 」
 
このくだりがあと2,3回続いた後、メダナイトがスラフシステムにより復帰した。
本職のツッコミの人が戻ってきて、一同は胸をなでおろしソリンの全てを彼に託した。
 
この茶番に染まった空気は仕切り直しとなる。
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
ルク:「あの、ごめんね。ロボトルでここまでの事態になると思ってなかったから」
 
メダナイトによるソリン制御が有効になって、ルクは改めてソリンに謝罪した。
女でも本気で殴ってやろうかと思うような普段のふざけた態度ではなく、真摯な謝罪だった。
そして、彼女は先のロボトルを振り返ってソリンを労った。
 
ルク:「すごいロボトルだった。宝条一族でもあそこまでのロボトルをやってのける人物はいないと思うわ」
 
それに対し、ソリンは首をかしげながら言う。
 
ソリン:「何言ってるんだ?クリスタルの力以外は全部ルクさんのおかげだろ?」
 
逆にルクが首をかしげるとソリンは続けていった。
 
ソリン:「クリムゾンキングがメダル4枚の改造機を見破っていたのはルクさんだ
    そしてまだ稼働していないパーツに向けて攻撃する作戦を思いついたのもルクさんだ
    それどころかクリムゾンキングの攻撃パターンを理解して歌にしちまうなんて、流石は"宝条"だぜ」
 
ため息を吐いてルクは答える。
 
ルク:「残念ながら、あたしの才能は"レプリカの創造"。とるに足らないくだらない才能よ。だからロボトルの才能は無いの」
 
流慕:「さて」
 
片瀬流慕が口を挟む。
 
流慕:「俺は世界各国のロボトル大会を見てきたが、
    今の試合は、試合の流れを掴む勘から敵機の分析まで完璧に"宝条"のそれだったぜ」
 
ルク:「しつこいわね。あたしの才能はレプリ」
 
米斗:「二つだ」
 
片瀬米斗も口を挟む。
普段から口数の少ない米斗がしゃべると妙な緊張感が漂うものだ。
 

米斗:「宝条ルクは"レプリカの創造"と"ロボトル"、二つの才能を持って生まれてきた稀代の天才だったって事だろう」
 

場が静まり返った。
皆がルクに注目し、そしてルクは何か口をパクパクさせながら言葉を探していた。
 
ルク:「そんな……だって、そんな事……今更」
 
そう、今更なのである。
ロボトルの才能は宝条一族の花形だ。
宝条一族級の才能があれば、ほぼ確実に世界大会レベルの大会には出場し、人気を得る。
世界中から尊敬され、また開発方面の才能をもつ宝条の成果を最高の形でお披露目し一族の誇りとなる。
 
しかし、それほどの才能であっても
今更、犯罪者に身を落とした状態の宝条ルクにはまったく無意味な才能なのだ。
それならいっそそんな才能は発覚しなければいいとすら思える。
あれほど惨めな人生を送る必要なんて無かったのだと、
もっと早く才能に気が付いていれば今頃想像もできないほど素晴らしい人生を歩めたのだと、
それに気づいた今こそ、最も惨めな気分になるのだから。
 
ルク:「あたしは……今まで一体なにを……」
 
へなへなと膝から崩れ落ちた。
倒れそうになるのをヴァレンが支えた。
 
しばらくルクは茫然とし、焦点のあわない目で何かを考えていた。
 
ルク:「……でも、そうね」
 
ふいにルクは自分の体を支えてるヴァレンの手を取り、強く握りしめた。
心配そうな顔でこちらを見ているヴァレンの目を見据えている。
 
ルク:「先に見つかったのがレプリカの才能じゃなければ、きっとあなたには会えなかった
   ロボトルの才能が開花すればもっと色んな人に出会えただろうし、その中にあなたみたいな人はいたかも知れない。
   でもやっぱりあたしは、あの状況で、あなたに出会えた事こそが、ベストだったと思うわ」
 
そして、勢いよく立ち上がってヴァレンに熱烈な接吻をした。 
 
ソリン:「お、見せつけるね。愛だね~」
 
楽しそうに茶化すソリン。
呆れた様子でそれを見ている片瀬兄弟、リリ。
様々な視線を向けられながら、彼らは愛しあっていた。
 
ルク:「今、ここにいるあたしにはこれで十分。
   次にまた"宝条ルク"に生まれてきた時にはメダロットチャンピオンでも目指してみるわ」
 
急に落ち込んだと思えば、すぐに立ち直る。
忙しい女だと、皆、彼の夫ですら呆れ顔だったが、彼らは心の片隅でわずかにこの夫婦を祝福しているような気分になった。
 
 
 
 
 
ギディ:「あ、でいいですか? 死神さん、魔王の居場所を教えてください!」
 
 
一同:「………………」
 
空気を読まない一言が、皆をイラつかせた。
 
 
が、そんな事気にもせずにギディオン・レヴェインという馬鹿は真剣な表情でヴァレンに詰め寄る。
 
ギディ:「俺の親友が魔王に捉えられている。何とかして彼女を助けたいんです」
 
最初は唖然としていたヴァレンだったが、ギディのあまりに真剣な様子に目を細めると
少し、横目でギディから視線を外して何かを考え始めた。
そして、答える。
 
 
ヴァレン:「やだポン♪」
 
ポンじゃねえよ糞が。
みんながそう思った。
 
 
ヴァレン:「何気にオレが今こうして、仮にも魔王を裏切った状態で生きていられるのは、魔王に反逆する意思がないからだ、と思う。
     そんな状況で、見ず知らずのなんの恩も無いお前に魔王の居場所を教えて、魔王に反逆の意思ありだと思われたらどうする?」
 
ヴァレンは傍にいたルクを抱き寄せて続けた。
 
ヴァレン:「俺の愛する嫁さんとの平穏な生活を壊すつもりはない」
 
ヴァレンはヴィネガーの方をチラリと見ながら言った。
今回、彼らの平穏を脅かしたヴィネガーに対するけん制の意味があるのだろう。
 
ギディ:「そこを何とか!」
 
両手を合わせてギディが再度願う。
が、説得力も糞も無いので当然ヴァレンの心が動くはずがない。

  
流慕:(さて、まぁ無理だなこりゃ。諦めて帰ろっかな) 
 
流慕がため息をつきながら、煙草に火を付けようとした時だった。
 
リリ:「あのさぁ」
 
リリが口を切った。
 
リリ:「私はギャングに捕まったあんたの嫁連れて体調やらなんやらケアして逃げてきてやったわけで、云わば恩人なんだけどさ
   このリリアナ・ナラーが魔王を教えろって言ったらどうするかしら?」
 
何か勝ち誇ったかのような顔で、駆け引きを仕掛けてきたリリにヴァレンは顔を顰めた。
そして、さらにこの男が挙手しながら便乗した。
 
ソリン:「だったら俺はあんたの嫁さんのために死にかけて戦ってやったわけなんだがよ
    このソリン・ヴェス・ベレレン・イニストラードが魔王の居場所を教えろって頼んだらどうすよ?」
 
 
ソリンまで魔王の居場所に言及を初めて、ヴァレンは目を見開いた。
 
ヴァレン:「おいおい、お前まで……」
 
なんとか、魔王の居場所を教えないでこの場を乗り切れないだろうかとヴァレンが考えていると
 
ルク:「いいわ。ヴァレン教えてあげて」
 
彼自身が最も守りたかった愛妻からとどめを刺された。
裏切られたような心境で、ヴァレンがルクの顔を見ると彼女の目は据わっていた。
 
 
ルク:「2人の言う通り、あたしは彼らに世話になりすぎた。
   そんな彼らが望んでいる事なら、あたしは多少生活がスリリングになるくらい構わないわ」
 
 
とりつく島を失って、狼狽するヴァレンだったが
一度だけ大きなため息をつくとこう提案した。
 
ヴァレン:「分かった。だが、何気に無条件ってのは納得がいかねえし、そこのお二人さんに話したあとに
     どうせそこの青髪マッチョにも話すんだと思うと余計に納得がいかねえ」
 
 
リリ:「いや、別に私、あいつには教えないわよ」
 
ソリン:「俺も俺も」
 
ギディ:「そんな!二人ともひどい!」
 
しれっとギディを見捨てる2人と、半泣きになるギディ。
 
ヴァレン:「いいや、何気にそこの青髪が戦力になると知れば即行で教えそうな面してるぜ。リリアナ・ナラーさんよ」
 
リリ:「……あら、鋭いじゃない」
 
リリは開き直って笑みを浮かべていた。
 
 
ヴァレン:「そこで提案だ。そこにいるギディオン・レヴェインだったか? そいつが何かしらで俺に"勝利"すれば
     ここにいるやつ全員に教えてやるよ。魔王の居場所をな。」
 
ヴァレンは補足説明を付け加えた。
 
ヴァレン:「競技は何でもいい。そいつの得意そうな格闘技でもいいし、俺の大好きなギャンブルでも他のゲームとかでも何でもいい」
 
 
再び沈黙が訪れた。
ギディを除く全員が、どの競技で戦えばギディが死神に勝利できるか考えていた。
ちなみにギディは即座に格闘技で勝負しようとしたが、リリ、ソリン、メダナイトがおさえこんで黙らせた。
 
普通に考えれば史上最強最悪の殺人鬼と言われた男に格闘技で挑みたくない。
だが、ギディに知的なゲームをやらせて勝つとはどうしても思えない。
ジャンケンですら普通に思考パターンを読まれて負けそうな気がする。
 
その中で静寂を破ったのは片瀬流慕だった。
 
 
流慕:「さて、じゃあこういうのはどうだ?」
 
 
『どちらが先に相手に拳をたたき込むかの勝負だ・・・』 
 
 
 
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

かくして、戦いのルールは決まった。

 1. ヴァレンとギディのうち相手に一発パンチ、キック、チョップなどの打撃を先に当てた方の勝ち。服の裾など体の一部以外へのヒットは無効。
 2. 本人の痛覚は問わない。例えば「痛くなかったから今のパンチはノーカン」というのは通じない。
 3. 剣、銃などの武器を使った攻撃は禁止、武器を使用したものは負けとなる。
 4. 戦いの場はこの会議室の中のみ。外に出ていった時点で負けとなる。
 
 
ヴァレン、ギディの両者が戦いの準備運動をし、ギャング達は机や椅子を撤去していた。
この戦いに協力的なあたり、彼らも魔王の情報がほしいのだろう。
 
  
ハルカゼ:「(おい、流慕にぃ、勝ち目あるんだろうな)」
 
流慕:「(さて、まぁ確率は高い方だとおもうぜ)」
 
以前にもハルカゼが言及した通り、ギディの格闘戦は相手の攻撃に「耐える」ところに強さがある。
今回のような「避ける」戦いは得意ではないはずである。
しかし、流慕はなにやら秘策があるようで、というかそれはハルカゼもうすうす勘付いているのだった。
 
ハルカゼと流慕が隅っこのほうでごにょごにょやっている間に
準備は整い、ギディとヴァレンはお互いに向かい合って試合開始を待つところだった。
二人の間では米斗が立っており、彼が試合開始の合図をするのだろう。

その時、ヴァレンが米斗に「ちょっと待ってくれ」と告げてソリンに近づいて行った。
 
ヴァレン:「ソリン、この布でちょっと目に当ててみてくれ」
 
ヴァレンはソリンに真っ黒な布を渡していた。
 
ソリン:「え?……なんだよいきなり」
 
ソリンは怪しみつつも、ヴァレンから渡された布を目にあてる。
予想はしていたが真っ暗だ。
何も見えない。
 
ヴァレン:「何気に見えるか?」
 
ソリン:「何も見えねえよ」
 
ヴァレン:「OK♪」
 
そう言ってヴァレンはソリンから布を奪い返すと
自らの目を布で覆って、目隠しをした。
 
ギディ:「……何をしてるんだ?」
 
ギディが怪訝な顔をして聞く。
 
ヴァレン:「さすがに人間のあんたと人外の俺が真っ向勝負するんじゃ、何気に面白くねえだろ
     "ジャンケン"とか"サイコロふる"とか運要素に頼ってきたら本気でやってやろうと思ってたが
     俺に戦いを挑むってんなら、何気にハンデをやろうと思ってよ」
 
 
目隠しをしたヴァレンは、それでも勝てると言わんばかりの余裕の笑みを浮かべてこう言った。
 
 
  
 
『 B l i n d G a m e ( 目 隠 し し て 、 遊 ん で や る ) 』
 
 
 

長らく続いた宝条夫妻とギャングの喧騒、最後の敵は……ヴァレン。
 
 
  
第二十五話【宝条・ザ・プレイヤー】 おしまい


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