>> メダロットライズ にもどる

RSSフィード ワンポイント・ウォールプレイヤー
   

日時: 2016/05/01 21:02
名前: ランド

                            STORY

 どんな物語にも主人公がいる。サブキャラクター、そしてモブキャラクターを骨格とし、その頂点に主人公が存在する。
この仕組み、役割に対し、劇中の人物は誰も疑問を感じないし、気付かない。
だが、このシステムを少しイジったならばどうなるのか。
これは、この疑問に気付いたモブキャラクター達による物語である。


一言
 初めまして、ランドと申します。
小説を書くのがド下手な自分ですがしばらくお世話になるのでよろしくお願いいたします。
 舞台としてはゲームの世界を基本ベースにしてますが、キャラクターはアニメの方もポンポン出てくると思いますのでそこだけ御了承を。
 序盤は展開が遅くなるので、ダラダラ読んで頂ければ幸いです。それでは、失礼します。


第1話「背景」 >>1
第2話「平穏の狂気」 >>2
第3話「招き手」 >>3
第4話「月形とユキ」 >>4
第5話「マネートラブル」 >>5
第6話「白への道連れ」 >>6
第7話「忘れられた友に」 >>7
第8話「ストレートフラッシュ」 >>8
第9話「仲間か友か」 >>9
第10話「誰がために鐘は鳴る、か」 >>10
第11話「対 久我二郎」 >>11
第12話「咆哮する平時」 >>12
第13話「月を行きて候」 >>13
第14話「アフターフォロー」 >>14
第15話「ジャンキー」 >>15
第16話「新たな仲間」 >>16
第17話「兵どもが夢の・・・」 >>17
第18話「MJC」 >>18
第19話「暴君、伴沖次郎」 >>19
第20話「凡愚達の挽歌」 >>20
第21話「悪の入り口」 >>21
第22話「伴闘会」 >>22
第23話「Crow to Darkness」 >>23
第24話「MJC春季予選大会開幕」 >>24
第25話「AM9:50 NHT放送局より」 >>25
第26話「対 久我二郎 2戦目」 >>26
第27話「道化への岐路」 >>27
第28話「俺の名を見たか」 >>28
第29話「対 ツユクサカオル」 >>29
第30話「雨も浴びぬ敗者に」 >>30
第31話「物ノ怪」 >>31
第32話「ロッシュ 対 辛口コウジ」 >>32
第33話「閉幕の春」 >>33
第34話「久我の冒険」 >>34
第35話「老兵は牙を剥く」 >>35
第36話「浄」 >>36
第37話「terrorism」 >>37
第38話「流星」 >>39
第39話「闇を恋い焦がれし」 >>40
第40話「合宿地獄一本道」 >>41
第41話「桐に鳳凰」 >>42
第42話「メンドーサ・ライン」 >>43
第43話「老馬の智は道を示すか」 >>44
第44話「動中の静を彼方に」 >>45
第45話「BSoD」 >>46
第46話「久我の挑戦」 >>58
第47話「そして、夜が笑う」 >>59
第48話「この星の条件」 >>60
第49話「復讐鬼と母」 >>61
第50話「雪解けの月」 >>62
第51話「黒い勇気」 >>63
第52話「結末逃避行」 >>64
第53話「42番が冷気を呼ぶ」 >>65
第54話「一葉落ちて天下の秋を知る」 >>66
第55話「Strike Memory」 >>67
第56話「怒り」 >>68
第57話「暗い世界で、男が二匹」 >>69
第58話「MJC秋季予選大会開幕」 >>70
第59話「強いられた死闘」 >>71
第60話「対 ヒョウガ」 >>72
第61話「アセビ 対 ホマレ」 >>73
第62話「持たざる者達」 >>74
第63話「アセビ 対 飛鳥」 >>75
第64話「久我の死線」 >>76
第65話「切り札」 >>77
第66話「対 如月ユア」 >>78
第67話「崩壊の望み」 >>79
第68話「螺旋」 >>80
第69話「お月様と雪ん子」 >>81
第70話「4つの願い」 >>82
第71話「対 紅面ユキ」 >>83
第72話「レッドカペロの純」 >>84
第73話「勝利への悲鳴」 >>85
第74話「君と黒へと行けたら」 >>87
第75話「廻転」 >>88
第76話「Half Sorrow」 >>90
第77話「夢との別れ」 >>91
第78話「New Party」 >>92
第79話「夕飯達の謀反」 >>93
第80話「とある久我家」 >>94
第81話「業苦の眼差し」 >>95
第82話「花子、始まりを見る」 >>96
第83話「Heads or tails」 >>97
第84話「ターニング・イレブン」 >>98
第85話「頂点を掌握せしは人かモブか」 >>99
第86話「岸は沖にて真に雅やかな女を見る也」 >>100
第87話「銃と剣」 >>101
第88話「その声達」 >>103
第89話「MJC冬季予選大会開幕」  >>104
第90話「その男、立花リュウに」  >>105



第82話「花子、始まりを見る」 ( No.96 )
   
日時: 2014/10/24 18:44
名前: ランド


「(え~と、何々。
 ”有名ホストクラブが大麻所持で家宅捜索!”
 ”キャバクラ璃音でまた練炭自殺!”
 ”芸能人N・A、衝撃の不倫報道!”
 ・・・最近の芸能ニュースも終わってんね、人間終わってるわ)」

 退屈そうな表情をして、週刊雑誌を眺めるのは花子。
場所はいつも練習に使用しているスタジアムの一つ。時刻はちょうどお昼過ぎ。
花子はこうして久我と岸のロボトル練習の合間を縫って、
岸のカバンから女性向けの雑誌を盗み見るのが日課となっていた。
ロボトルの質を向上させる気が欠片も無い花子にとっては、
日々が苦痛そのものだった。それもそのハズである。
久我を妨害するために身内入りしたものの、今の所その成果はゼロに等しい。
そればかりか、逆に久我の動く的として実験台にされている分、
久我の助けをしているのではと思ってしまう、花子の今日この頃。
 花子の油断しか醸し出さない背中を、誰かがトントンと叩く。

「おい、女。
 何してんだおまえは」

「どわぁああっ!!!
 (久我のアホタレ、急に話しかけるなっての!)」

「その手にある雑誌は何だ」

「あっ、聞いて下さい久我師匠!
 岸さんがこんな雑誌を所持していたんです!
 皆が一致団結して汗水流しているのに、こんなの許せない。
 努力と正義の真逆です!」

「ってか花子ちゃん、何で俺のカバン開けてんの!?」

 そして次の瞬間、久我が軽く岸の頭を叩き、花子は額に溜まった汗を拭うのであった。
こうして今日もまた久我の目をごまかす事に成功した花子は、
一人安らぎを求めて、スタジアム外に設置してある公園へと赴くのであった。
朝のうちにコンビニで買ったハチミツたっぷりのレモンパンを
満面の笑みで食べながら、わずかばかりの至福の時を満喫する。
それがいつもの花子の生活。久我と岸と出会うようになってからの、人としての
生活であった。そんな変わらない日常を壊そうとする者が一人、
花子に接近してきていた。その陰は、何の迷いもなく、花子に言葉を掛ける。

「ねぇ、貴方」

「?」

「貴方、生きている人間?」

「(あっ、これお薬必要な人じゃん)」

 花子に話しかけてきたのは、自分よりも2、3歳年上ぐらいの女性。
そのあまりにも理解し難い言葉に、花子もその女性の神経を疑う。
花子のその怪訝そうな表情を見てか、話しかけてきた女性も
ハッと気づいたように、少し考えてから再び話し始める。

「ゴメン、ゴメンねッ!
 いきなり変な事言っちゃった。
 うーん、何ていうか・・・貴方、人形じゃない?
 そこらの人形みたいな人間達と違って、生きてる、よね?」

「(人形?
 ・・・まさか、この女。
 周りの人間を人形って認識しているってことは、
 端役の存在を本能的に理解してきている?
 この世界が物語だってことに・・・気づき始めている?)」

「・・・その反応、やっぱり貴方も同じなのね!
 貴方もこの世界がおかしいって思ってる。
 周りがおかしいって、気付いている!」

「(う、嘘でしょ。
 こんな端役が、この世界の仕組みを暴くなんて)」

 花子は驚くしかなかった。話しかけてきたこの女性は、何とこの世界が
作られた世界であり、自分を含め、周りも端役であると理解しているのだ。
いや、理解しつつあるのだ。その瞬間、花子は警戒感を強め始める。
それもそのハズである。再び出会ってしまったのだ。
第2の月形一徳、久我二郎になりうる可能性を孕んだ端役に。
この物語を壊す可能性を多いに含んだ存在に、花子は出会ってしまったのだ。
当然、放って置くわけにいかずに、花子は手に取っていたレモンパンを
いつのまにか地面に投げ捨て、話を続ける。

「(ッチ、めんどい事になっちゃったなぁ。
 もしこいつがこのまま自分が端役だって気づいたら、
 久我のバカみたいに世界を、物語を壊しかねない。
 どうしよう、どうやってこの女を・・・)」

「良かった、気付いている人がいて。
 寂しかったんだ。
 友達も、両親も、みんな人形みたいで、怖くて。
 家出するみたいな形で家を飛び出て、私、ずっと一人ぼっちだったんだ」

「そ、そ、そうなんだ。
 (くそっ、この女と久我がダッグでも組んだら
 どっかの物語を平気で2、3つ壊しかねないっての)」

「でもさ、良かったよね!
 私達、きっと特別な存在なんだよ。
 ・・・ううん、私達、きっと何処かの物語のヒロインだよ!」

「え!?」

 女の反応に、花子はさきほどまでの切羽詰っていた考えが吹き飛んでしまう。
この女の発想はまさに月形達とは真逆。自分が端役だと気づいた時に、
気付いたことを利用して、この世界に一矢報いろうとする彼らとは反対。
気付いた自分が特別であると信じ、まさか端役だとも思わずに
自分がヒロインであると思い込んでしまう始末。
呆れかえるしか無くなった花子だが、満更、そう的を外した解釈でも
無いのも事実ではある。

「(マ、マジでヒロインなんて有りえんの?
 でも、確かに言われてみればこの女はもうただの端役じゃない。
 ってことは、どっかの物語のヒロインになる可能性を・・・)」

「あっ、興奮しちゃって紹介が遅れちゃったね。
 私の名前は嶋倉桜子。
 貴方の名前は?」

「は、花子です。
 座右の銘は、努力と正義っす。
 わ、私は別にヒロインには・・・」

「あきらめちゃダメだよ、花子ちゃん!
 自分を見下げちゃダメ。
 きっと誰かが、主人公が迎えにきてくれるハズだよ!
 ほらっ、耳をすませて。
 信じていれば、願っていれば、誰かが、きっと」

「(勘弁してよ、本当に)」

 桜子はあきれ果てている花子の態度にも気づかず、自分の世界へと入り込む。
自分が特別な存在であると判明した喜びと興奮で、何も見えていなかったのだ。
当の花子はこの女を面倒だからと放っておくわけにもいかずに、
監視する必要があるのか無いのか、久我と同じように女の行動を
邪魔する必要があるのか無いのか。どの選択肢をとればいいのか、迷っていた。
そんな奇々怪々な盛り上がりを見せている二人の所に
誰かが近づいて来る。それはまさに、この桜子が予言した、主人公なのか。
その何かの存在に気づき、桜子と花子は視線を向ける。

「何してんだ、女。
 午後の実験台はおまえだぞ」

「(うわっ。
 どうしてこのバカは、こういう最高のタイミングで)」

「あ、貴方が・・・」

「ん?」

「貴方が私の主人公?」

 花子にとってみれば、まさに最低最悪の展開。
主人公に反旗を翻す異端児の端役、久我二郎。そして、今まさに
自分が端役であると自覚し、自我に目覚めようとしている桜子。
この二人がいとも簡単に出会ってしまったのだ。
桜子は、ゆっくり、ゆっくりと久我の元へと近づく。
もしや、この久我二郎が自分にとってのパートナー、主人公ではないかと信じ。
さすがの久我も、事態を呑み込めずに、ただただ自分の接近してくる
桜子に後ずさりしてしまう。

「うーん。
 でも、何だかパッとしないなぁ。
 素材は良いんだけど、主人公だったらもうちょっとカッコ良くても」

「・・・おい、花子。
 この奇人は一体誰だ」

「(奇人って、女に向かってそんなこと言えるのアンタだけだよ)
 その、さっき出会ったばかりで、何ていうか」

 例え初対面の女性であろうとも、大統領であろうとも、自我を通すのが久我二郎。
それは決してこの桜子でも例外ではない。どもってばかりで
まともに反応しようとしない花子をよそに、桜子は少し笑みを
浮かべて、久我に向けて話しかける。

「貴方、ちょっと嫌な奴ね」

「喧嘩を売ってんのか」

「ううん。
 もし貴方が主人公になったら、
 もうちょっと口喧嘩しましょう」

「?」

 桜子は一つウインクを久我に投げかけ、今度は困惑している花子へと
体を向ける。花子の右手を両手でつかみ、目と目を合わせる。
笑みを浮かべる桜子とは正反対に、花子の表情は曇りっぱなし。

「花子ちゃん、私達、きっとヒロインになりましょうね!
 皆から愛される、望まれる、ヒロインに!
 約束よ、花子ちゃん」

「は、はぁ。
 (もう好きにして)」

「・・・私、ちょっと用事があるから行くね。
 また明日、会えるかな」

「えっ!?
 (また会わなきゃいけないの!?)」

「約束だよ、花子ちゃん。
 またね」

 こうして嵐のように現れたこの嶋倉桜子という女性は、また嵐のように
唐突に去って行ってしまうのであった。どうして突如として
自分が端役だと気づいてしまったのか。
しかし思えば、月形にしてもその原因は突発的なものであった。
選ばれたのか、それとも本当に偶然として彼女は自分の存在に気付いたのか。
その原因も探れずに、桜子は消えてしまった。取り残された花子は、
自分の手に残った温かみを感じながら、一つ、ため息をつくのであった。


 次の日。
 まさに同じ時間。花子は再びスタジアム外の公園に来ていた。
本当は二度と桜子とは関わりたくなかった。久我という面倒を抱えこんでいる
いるというのに、桜子の監視という2重の責務を負うのはゴメンであったからだ。
だが、物語の秩序を守ることを神に命じられていることもあってか、
黙って見過ごすわけにいかないのが現状。
しぶしぶ、桜子に付き合うしかない。意気消沈して、目線を地面に
向けて昨日と同じ時間、同じ場所に、重い足取りで向かう。
すでにそこには桜子がいた。だが、どうにも昨日と顔つきが違う。
何処か疲れ切った、やつれた表情をしていた。

「あっ、花子ちゃん!」

「ど、どうもっす。
 (すでに帰りたい)」

「花子ちゃん、あのね。
 ちょっと、見て欲しいんだ」

 桜子はおもむろに、来ていたTシャツを捲り上げる。
いきなりの行動に慌てふためく花子であったが、その動揺も、すぐに
冷ややかなものへと豹変する。桜子の、背中を見て。

「な、何、桜子ちゃん。
 その背中の、刺青・・・」

「家出しちゃったって、言ったでしょ?
 そこで、キャバクラの璃音っていう所に住み込みで働くことになって。
 ここで働く人は皆、刺青するんだって」

「(り、璃音?
 キャバクラの璃音って、確か雑誌で自殺があったっていう・・・)」

 花子の目に飛び込んだのは、桜子の背中にびっしりと描かれた色鮮やかな薔薇の刺青。
これはキャバクラ璃音で働く風俗嬢がつける掟、首輪。
死ぬまで消えることのない、消すことはできない足枷。
職人ではない素人が掘ったか故か、まだ少し血がにじみ出ている。
桜子はゆっくりとTシャツを戻して、花子の方を向く。
だが、桜子の目に悲しみは無かった。ただまっすぐ、前だけを見ていた。
以前と同じように少し微笑んで、花子に話しかける。

「痛くて泣いちゃったけど、私我慢できたんだ。
 だって、私達ヒロインなんだよ。
 この世界の女の子の、一番になれるんだよ。
 厳しいことがあっても、乗り越えなきゃ」

「さ、桜子ちゃん。
 でもヒロインって、キャバクラなんて、刺青なんて、しないんじゃ」

「・・・私もちょっと思った。
 だけど、そういうツラい目に合うヒロインも必要だと思うの。
 嶋倉桜子っていう、苦しい環境でも、頑張って幸せを掴んだヒロインも必要だと思うの。
 笑われるかもしれないけど、それが今の私にできるヒロインなの」

「(ち、違う、こんなのヒロインじゃない。
 言わなきゃ、アンタはヒロインじゃないって、説得しなきゃ。
 でも、それを言ったら、私は役目を放棄したことになる。
 こんな端役に手を貸したら、私が神に処罰される。
 でも、どうにかしないと。
 こんなの、このままにしちゃ、ダメなやつだって・・・!)」

 花子は悩んでいた。花子にしては珍しく、誰かのために、悩んでいた。
こんな杜撰な扱いを受けている時点で、桜子はすでにヒロンではないことは明確。
だが、桜子は気づけない。自分がヒロインであると信じている
桜子は止まらない。花子もまた、自我に気付いた端役を抑制するために
この世界に存在している。無暗にこの世界の事情を説明などできない。
それが発火点となり、桜子が本格的に端役として目覚めてしまう可能性があるからだ。
桜子の暴走を止めるに止められず、花子は拳を強く握りしめる。
どうすればこの事態を収められるのか、良い方向に持っていけるのか。
花子は今、他人のために必死に考えていた。
同じ女だからなのか、それとも何の損得なく接してくれたその情からなのか、
非情な仕打ちを受けていることへの憐みなのか、花子は考えた。
脳から汗が出るほど、考えていた。
 だが。

「そろそろ行かなきゃ。
 店長怖い人だから、怒られちゃう」

「あ、だから、そのっ。
 (この、この、このバカ女!
 なんで気づかないのよっ。
 アンタ、このままじゃ、このままじゃ・・・!)」

「そうだ、この前会ったあの威張ってた男の子。
 あの子にもよろしくね。
 ちょっと可愛かったから、弟みたいで」

「あの、そのっ!
 (う、嘘でしょ、本当にこのまま何も起こらないの・・・?
 何か起こってよ、この世界は物語なんでしょ・・・!?
 おかしいって、早くしてよっ!!
 主人公でも、サブキャラでも、何でも、早く誰か来てよ、止めてってば!
 何でこういう時に現れないのっ!!)」
  
「お互い素敵なヒロインになろうね、きっと。
 ・・・さよなら、花子ちゃん」







 数日後、花子は夜遅くにも関わらず商店街へと足を向けていた。
目的地は「キャバクラ璃音」。本当は見たくも、行きたくも無かった。
だが、桜子がどうなっているのかを知りたかった。
もしかしたら、入って早々疲れ果てて辞めているかもしれない。
結局、尻尾を巻いて家に帰っているかもしれない。
そんな淡い希望を抱いて、花子はこの夜の街に繰り出していた。
人混み溢れる道をかき分け、高鳴る鼓動を抑えて、恐怖心を抑えて、
前へ前へと進む。だが、すれ違った二人組の男の会話によって、花子の勇気は失われる。

「おい、また璃音で女がぶっ倒れて救急車行きだってよ。
 本当に終わってんな、あそこ」

「あそこは人間動物園だぜ、一般常識で見ちゃいけねーよ」

 花子は立ち止まったまま、動かなくなってしまった。
そしてゆっくりと反対方向を向いて、歩き始める。
 もう、ここにいる理由は無かった。


 次の日。お昼時。
 花子はいつものように、スタジアム外の公園ではちみつたっぷりの
レモンパンを食べていた。昨日よりも、一昨日よりもその味は美味しく感じなかった。
花子は以前まで桜子がいた場所をじっと見つめて、
一人で思うのであった。

「(結局、あの子は自分が特別だって思い込んでいる
 風俗嬢の脇役だったってこと、か。
 それとも・・・)」

 花子は考えていた。結局は全て、桜子が風俗嬢に入るための
過程を、端役では無く、脇役である彼女が闇の世界に入るまでの
物語を見ていたに過ぎなかったのではないかと。
本当に止めらない運命であったのか、それとも、止められたのか、
はたまた、風俗嬢になること自体がそもそもの運命であったのか。
花子はそれ以上考えず、ただただパンを口に放り込む。
 すると、後ろから自分の肩を叩く者が一人。

「おい、いつまで飯食ってんだ。
 練習の時間だ」

「久我師匠・・・。
 (相変わらずウザイなぁ)」

「ん?
 あの変な女は消えたのか」

「(・・・それとも。
 こいつが主人公になってたら、桜子ちゃんはヒロインになって、こいつと・・・)」

 単なる偶然、ふとしたことかもしれないが、久我は珍しく他人を気にした。
そして、花子はその瞬間に考えてしまうのであった。
もし、久我二郎が主人公になっている世界が、物語があったのならば。
そんなもう一つの運命があれば、桜子は本当にヒロインになっていたかもしれないと。
風俗嬢になる前に助け出して、ヒロインの道を辿っていく世界があったかもしれないと。
何も知らない久我は、そそくさとスタジアムの練習場へと戻っていく。
そう、誰も分からないのだ。本来は誰と誰が知り合うべきで、
誰と誰が出会うハズでは無かったのか。そんなことを考えても無駄なのである。
そんな虚しい空想論、妄想をするのを止めて、花子は残っていた
レモンパンを無理やり口に押し込んで、またスタジアムの中へと戻っていく。
 それから花子は、大好物だったはちみちたっぷりのレモンパンを2度と食べることは無かった。

第83話「Heads or tails」 ( No.97 )
   
日時: 2014/11/14 23:43
名前: ランド


 現在、場所はメダロット専門ショップ。
午前9時過ぎという開店したばかりの状態もあってか、お客はたったの一人。
店内の一番隅に設置されているジャンクコーナーを漁っている女の子がいるだけ。
やることが無いわけではないのだが、従業員にとっては非常に助かる状況下。
今日もまた、アルバイトのロッシュは店内に張り付けられているチラシの
張り替えから業務を行っていた。作業にあたる中、ジャンクパーツを漁っている女を、
何処か不審そうな目で見つめるロッシュ。
異常、とまではいかないが、女の子がこんな朝早くからパーツを漁るのは珍しいと言えよう。

「(ちくそー。
 久我に不幸の手紙を送ったりしてるのに全然効果ないじゃん。
 こうなったら、アイツのメダにボディペイントを
 塗りたくって精神攻撃を図るしか・・・)」

 この女の正体は花子。久我の妨害をいかに成就させるか今日もまた苦心しているようだ。
ジャンク品のカラーペイントを手に取っては替え、
手に取っては替えるを繰り返す。そんな花子の姿を、あまり凝視しては
ならぬと感じたか、ロッシュはそそくさとレジの方向へと戻っていく。
レジにいたのは、覇気の無い表情を浮かべるイセキ。それも当然であろう。
可愛がっていた月形・岸が同時に辞めるという、まさかの事態。
急に辞められたという仕事量の増加もその負荷にはなっているが、
やはり、精神的にくるものがもっとも大きかった。
ロッシュもまた何処かやる気がなさそうに、近くに設置してあった
イスに音を立てて座る。

「ロッシュ、最近元気がねーぞ。
 そんなんじゃお客様が逃げちまう」

「表情と言葉がマッチングしてないわよ、先輩」

「そりゃあどうも」

 元気がないのはまたロッシュも同じこと。数か月とは言え、合宿にて
同じ釜の飯を食った仲。そうそうに、忘れることなどできなかった。
イセキもまた、月形は大分目を掛けてやった一人。
ユキと同様に弟のように可愛がっただけあって、どうにも踏ん切りがつかない様子。
しばらく重たい沈黙が続く。二人とも口にはせずとも、早く
この空気をどうにかしたい、変えたいと感じていた。
だが、それを心はさせてくれそうにない。数十秒が経った後、イセキの方から
口火を切る。

「岸は大丈夫そうだとしてよ。
 ツッキーの居場所は分かってるんだろ、ロッシュ」

「場所はね。
 顔は一向に見せないけど」

「なるほどね。
 どーしても一人でいてーみたいだな。
 何があったんだ、ロッシュ。
 本当に何も覚えがないのかよ?」

「知らないわよ。
 本戦決定して、うれしさで頭がどうかしちゃったんじゃないの」

 イセキが真っ先に気にかけたのは月形。月形と岸、二人ともいきなり
消えたのではあるが、それに関する情報量は遥かに違う。
岸が消えたのはある意味、納得できていた。新たな修行を重ねるために、
月形家を出たというのは容易に察することができた。
その証拠に、すでに冬季予選の参加者にエントリーされているのだ。
加えて、すでにロッシュ達は岸が新たな住居を見つけたということも知っていた。
というのも、エントリー先の登録住居が久我の家になっているからである。
これで岸の方の心配はまず置いておける。問題はやはり月形。
なぜ、家から出たのかの動機が不明。決勝トーナメント1回戦で勝った後に棄権したことも
また訳が分からない。そう、ユキが消えたことを知らないイセキ達は、分からない。
 再びため息をついて、ロッシュを催促するイセキ。

「何とかしてツッキーに会えないか、ロッシュ。
 異様すぎるぜ」

「先輩が会えばいいじゃない」

「同居人の問題にアタシが突っ込んでどーすんだよ」

 事実、イセキは自らが動こうと前までは考えていた。
だが、やはりこれはロッシュ達の問題。ここで第3者の自分が手を出すことによって、
話が余計にややこしくなるのを恐れた。また、彼ら自身で解決させないと、
変なしこりが残るのではないか、という問題も加味していた。
イセキに促されたロッシュは、渋い表情を浮かべて、何もしゃべらず、じっと床を見つめる。
数分が経った後、ロッシュは意を決したかのようにイスからスッと立ち上がり、
再び張り紙を持って外に出ていこうとする。その後ろ姿に、声を突き刺すイセキ。

「ロッシュ、どうなんだっ」

「勝手にさせれば良いじゃない。
 私が火傷するなんてゴメンだわ」

「・・・おまえ、まだアタシに殴られた意味が分かってないのか?」

「私は殴られてないわ。
 ツッキーが殴られたのよ。
 こうさせる私が、何もかも1枚上手なのよ」

 イセキはMJC春季予選大会での話を掘り返していた。ロッシュが自分の
勝利だけを優先し、自分のメダロット、そして相手のことなど微塵も考えなかった
ことに対し、イセキがロッシュを殴ろうとした事件。
とは言っても、結局月形がロッシュを庇い、殴られたのは月形で終わった一連の出来事。
だが、それから数か月が経っても、ロッシュはやはり変わっていなかった。
ある意味でロッシュらしいといえばそれまでだが。イセキは、
どうしようもない表情で、自動ドアから外に出ていくロッシュの後ろ姿を見つめた。


 その日の夕方。
 場所は土手沿い。この場所は歩行者用に道路が整備されており、
ウォーキングを楽しむ人、学生の通学路など、多様な人に活用されている。
今日もまた、ちらほらとウォーキングをする人もいれば、
学校帰りの学生たちも見られる。そんな中、橋の柱の陰に隠れて
何やら怪しい動きを見せる人影が一つ。

「(結局、アタシが来ちまったなぁ。
 確か、昔ここでランニングしてるって本人から聞いた
 ことがあるが・・・。
 本当にいるのねぇ)」

 月形がまだアルバイトとして共に働いていたころ、伴監督の教えからか
毎日仕事終わりにランニングをしていることを聞いていたイセキ。
どの時間帯かというのまでは詳しく聞けなかったが、場所の特定まではできていた。
この辺り一帯でランニングをしようとしたら、まずここしかない。
そう信じてここで待機すること数十分。こちらの思惑をあざ笑うかの如く、
一向に月形の姿は現れない。イセキの脳裏に読み間違えたと、過ぎった瞬間であった。

「き、来たっ!」

 黒いスポーツウェアを着て、シンセイバーと共に走る姿はまさに月形一徳。
一定の間隔で息を吐きながら、じょじょにイセキのもとへと近づいてくる。
遠目で見て、月形の変化は見えない。特に怪我をしている様子も、
髪型、顔の表情も変化は感じられない。イセキは今にも飛び出しそうに
体を前のめりに構える。どうして辞めたのか、どうして決勝を辞退したのか、
どうして家を出たのか、体は大丈夫なのか、悩んでいないか、苦しんでいないか。
その全てを聞き出すために、イセキは動く。もう5、6mまで月形は来ている。
そして、その陰は、月形の前に躍り出る。

「ちょっと」

「?」

 声を掛けられ、足を止める月形とトラ。ただ茫然と、その声の主の
顔を見つめる。特に困惑しているわけでも、喜んでいる表情でもなかった。
ただ無表情で、その視線を合わせた。声の元へと、目の前の人物へと。

「随分とお久しぶりじゃない、リーダー」

「・・・ロッシュ」

 目の前に立ちはだかったのは、ロッシュ。この場に来ていたのは
イセキだけではなかった。そして、イセキよりも先にロッシュは月形の
前に挑んでみせた。腕を組み、上から目線で月形に話しかけるロッシュ。
果たして二人は何を思い、何を意図し、何のために会話をするのか。


 その一方で。場所はとある団地の道端。
ボストンバッグを抱えた二人の男が、夕日を背に、メダロット共に帰路につく。
その男達の正体はまさしく久我二郎と岸真。いつもと同じように、
岸が下らない話を一方的に続け、久我はうんともすんとも言わずに歩き続ける。
聞いてるのかいないのか、岸の方には一切顔を向けずに黙々と家を目指す。
すると、突如として久我が立ち止まる。それにつられて、岸も少し
不思議そうな表情を浮かべて、喋っていた言葉を中断させて歩くのを止める。
久我は後ろを振り向き、何を見つけると腰を落として地面にあった物を拾う。

「おい、落ちたぞ」

「あっ、助かったぜ久我君!」

 久我が拾い上げたのは、岸のボストンバックから落ちたリング上の物体。
それを久我から受け取ると、岸はうれしそうに両手で、大切そうに
抱え込む。そんな岸のオーバーな行動を見て、久我は不思議に思う。

「パワーベルト如きがそれほど大切なのか」

「違うんだな、久我君よ。
 このパワーベルトはよ、夏にやった地獄の合宿の形見なんだ。
 こいつを見る度によ、気が引き締まってさ。
 ・・・まっ、実は気づかないうちにパクってただけなんだけどよ、これがさ!」

「(伴沖次郎と合宿までしたのか。
 どうりで細かい悪知恵を刷り込まれてやがる)」

「それによ」

「?」

「こいつにはさ、皆のペナルティの汗が染み込んでるんだ。
 仲良し4人組の、友情の証ってやつよ。
 まっ、今の俺と久我君みたいなもんだな!」

 岸が大切そうに持っていたのは、あの夏の合宿中にペナルティとして
使用されていたパワーベルトであった。最終日まで岸がペナルティを受けていたため、
本人も知らないうちに、家まで持ってきてしまっていたのだ。
それを何かの縁と感じたのか、岸はここまでずっと大切に保管していた。
月形、ロッシュ、アセビ、皆が一度はこの鉛、パワーベルトを装着して合宿に臨んだ。
そんな悪夢と呼べる代物が、今となっては何処か愛おしくも感じてしまったのだ。
このパワーベルトには、合宿の頃の彼らが刷り込まれていた。
何処か凸凹で、まとまりがないのだが、ほんの薄い線で、不思議なくらいに
繋がりを保っていた4人の絆がそこにあると、岸は信じていた。
それを見つめて、怪訝な表情を浮かべるのは久我。

「・・・何の意味がある」

「?」

「主人公共と結ぶ友情以外に何の意味がある。
 何の意味が、価値がある」

「お、おいおい、ネガティブは良くないぜ、ネガティブはよ!
 久我君、前を向いて歩いている奴にだけ、
 パンを咥えた美少女が突っ込んできてくれるんだぜ?」

「(・・・だが、どんな孤独を気取った主人公でも、必ず友はいる。
 もし今のまま俺が主人公になったら、それこそ・・・
 俺は一体、どうなっちまうんだ)」
 
 久我は一人、恐れていた。もし自分が主人公になったとして、果たして
今の自分を第3者が認めて、共感してくれるかどうか。
こんな人間味の無い自分を、誰が愛してくれるか。そもそも、主人公になれる
可能性など0に限りなく近い数値。そして、なれたとしても今の人格が残っているかも不明。
久我のおこがましい思想、妄想。だが、それでも久我は考えていた。
勝利のことでも、メダロットのことでもなく、今の自分を考えた。
本当にこのままで良いのかと。このまま、本当に外見も、中身も物で終わっていいのかと。


 場所は変わり、土手沿い。時久しくして、月形とロッシュは再び出会った。
月形の雰囲気はやはり以前ものとは何処となく違う、威圧感を漂わせる。
一方のロッシュはいつもと変わらぬスタイル。
そんなロッシュの様子を、さきほどから同じように、一切表情を変えずに見つめる月形。
懐かしむ様子も、うれしそうにする素振りもない。
口を真一文字にして、ロッシュを見つめる。

「アンタが何を考えているなんてどうでもいいわ。
 ただ、最後まできっちりケジメをつけてもらわないと困るんだけど」

「・・・」

「アンタには私達を引き込んだ責任があるわ。
 それを途中で放棄させるなんて随分虫のいい話ね。
 自分が勝ったら、もう私達なんて足手まといってことかしら、ツッキー?」

「・・・」

「それとも、私との模擬戦で連敗しているうちに、
 お頭が壊れちゃったのかしら」

 ロッシュの急所をつくネチネチとした口撃が続く。月形はただ黙って、ロッシュ
に言いように言われるだけ。イラつく表情も見せなければ、申し訳ない
という表情も見せない。とは言っても、ロッシュの言葉にも一理はあった。
ロボトル大会に誘ったのは月形。その月形が、皆のロボトルに関する統制を
放棄して自分だけのために動いているのだから、ロッシュ側はおもしろくない。
苦情の一言は言いたくなるのも分かる。ロッシュの言葉に対し、月形は。
月形はしばらく黙り込む。そして、まさかの、足を動かし始める。
何も答えることもせず、再び走り始めてしまったのだ。
ロッシュも野暮に止めようとはしない。だが、そのすれ違う刹那の出来事。

「ロッシュ」

「何よ」

「次は殴るぞ」

「!」

 月形の一言に凍りつくロッシュ。あの恐ろしいほど優しかった、真面目で
あった月形から発せられる、あまりにも予想外の言葉に、しばし
混乱してしまう。それはまた、近くで様子を観察していたイセキにも
聞こえていた。イセキもまた、その衝撃に、動くことができない。
そんな二人を置き去りにして、月形は一人、夕日が沈む闇夜へと
黙々と走り去っていく。


 時同じくして、とある公園。
ベンチに座って、メダロットショップで買った品物を見て、ニヤリと
微笑む女性が一人。まさしく、久我を陥れようと今日も頑張る花子である。
今朝からオプションパーツを漁っていたのだが、どうやら
お目当て以上の物が掘り出せたらしい。目を輝かせて、そ代物を見つめる。

「(これさえあれば、久我をアッと言わせられる!
 見てなさいよ、久我二郎!
 アンタその仏頂面、今に崩してやるっての!)」

第84話「ターニング・イレブン」 ( No.98 )
   
日時: 2015/02/06 18:31
名前: ランド


「ど、ど、ど、泥棒ーーーっ!!」

 アセビが勢いよく、取っ手付きの網ザルを泥棒の頭目掛けて叩き付ける。
泥棒と思わしき男性は、タンスの中の物を物色する手を止め、
何処か放心状態になったかのように、網ザルをぶつけてきたアセビを見つめる。
その泥棒は軽くため息をついて、優しく一刺し指でアセビの肩部分を
チョンチョンと突く。そんな意外な反応をしてきた泥棒に対し、
アセビは恐る恐る視界センサーを再び起動させていく。
目の前にいた者とは、泥棒の正体とは。

「・・・できるなら、
 ピチピチのギャルにゲットされたいもんだな、これがよ」

「き、岸ちゃぁあああんっ!!!」

 その正体が自分の掛け替えのない仲間であり、友である岸真だと分かり、
アセビは体当たりするかの如く、岸の懐に飛び込むのであった。
 時は午前の9時を少し回った程度。ロッシュもアルバイトで家を出て、
アセビが一人、家の家事に奔放するこの時間帯。
そんなもぬけの殻になったハズの家で、何者かが月形と岸がいた部屋の
タンスを物色していたのだから、アセビが勘違いするのも無理はない話。
その正体が岸だと分かるや否や、アセビは誰に言われることもなく、
ありったけの食材を使って岸に対してご馳走を振る舞おうとしていた。
朝食を抜いていたのか、アセビに気遣ってか、特に断ることもなく、
岸は1か月ぶりになる自分の家を懐かしみの目で見まわしながら、テーブルに腰を落とした。

「いやいや、アセビちゃん。
 急にいなくなって悪かったな。
 こんだけのイケメンが家から出てけば、さぞ絶望に・・・」

「へ?
 あっ、岸ちゃんならすぐに居場所分かったから
 全然心配して無かったよ!
 本当に、岸ちゃんは男が好きなんだからっ」

「ちょいちょい。
 まだ俺はそっちの悟りを開いちゃいねーぜ」

 心配はしなかったとは言うものの、岸の居場所が発覚するまでは
その事実は当てはまらない。だが、以前にもロッシュらが話したように、
月形の消失と比べて、まだ岸の方は納得ができた分、心配もそこまでせずに
済んでいた。平たく言ってしまえば、会おうと思えば、
久我の家に行けばいつでも会える状態。
もしもの時があっても、居場所が突き止められていること、岸もいざという時は
こちらを気に掛けてくれるということは、アセビ側も把握できていた。
だからこそ、余計に月形がいなくなったその理由だけが深い闇の中に
潜ったままで、どうすることもできずに今この現在まで来ていた。
その事実を、ようやくここで知らされることになった岸。

「そうか、ツッキーが俺とほぼ同時で・・・。
 確かにあの時のツッキーはいつもと違って、何か、
 苦しんでいるように見えたけど。
 すまねぇ、俺もその理由までは分からないんだ」

「やっぱり、岸ちゃんも分からないかぁ。
 何で本戦に出場したのにあんなに悩むのかな。
 アタシなんて、うれしくて数日間岸ちゃんの存在自体忘れちゃってたのに」

「お、おいおい、この輝かしいスマイルを忘れてもらっちゃ困るぜ」

「そいえば岸ちゃん。
 どーしてこんな突然お家に戻ってきたの?
 やっぱり寂しくなっちゃったの?」

「実は最近風邪っぽくてよ。
 久我君にあんま迷惑掛けたくねーから密かに薬もらいに来たってことよ。
 それと、御大将から学んだノートも回収しにな!」

「あっ、そいえば!!」

 御大将、つまり伴監督から教わったノートを回収しに来たとの岸の発言を
耳にして、アセビはふっと何かを思い出す。コンロの火を止めて、
駆け足で自分の部屋へと向かっていく。その様子を、不思議そうに眺める岸。
そしてものの数分も経たないうちに、アセビがまた駆け足で
岸の元へと戻ってくる。その手には、白い封筒が握られていた。
アセビに手渡されたその白い封筒を、興味深そうに表にしたり、裏にしたりと
観察する岸。

「これ、宛先人・・・伴監督からか。
 ”大バカ者へ”って、こりゃ間違いねぇな」

「うん!!
 監督がね、岸ちゃんが1万円支払えば渡して良いってさ!」

「い、い、一万!?
 ったく、何処までお金が恋しいのかね。
 そうなりゃノーサンキューだぜ。
 一万円ありゃ、今月の美少女大図鑑の増刊号を買うってんだ」

「でも、これを読めば
 岸ちゃん勝てるかもって・・・」

「何!?」



 時同じくして、現在地、伴沖次郎宅の茶の間。
今、月形と伴監督が1対1でテーブルに向き合い、ロボトルの戦術や知識の
学習を行っていた。それもこれも、今日はトラのメンテナンスの日。
この日ばかりは毎日行っていた地獄のような実践訓練は行わず、
机に向かってのお勉強が主となっている様子。
月形は真剣な眼差しで、伴監督から発せられる一言一句を聞き逃さず、
ノートに書き込み、そして頭の中に叩きこもうとしていた。

「・・・というように、メダルには設定されている性格・熟練度以外にも、
 潜在的な能力が各個存在している。
 まぁ、人間でいう持って生まれたセンス、才能っちゅうもんやな。
 射撃メインの熟練度を持っていても、潜在的な能力は格闘向けのもの、
 はたや、そもそも戦闘すら向いていないメダルもおる」

「監督、そのようなメダルの潜在的パラメーターの判断は
 何処で行えば良いんですか?」

「起動したての時や。
 そこである程度、射撃・格闘・回避・命中等の一通りの戦闘術を
 試してみる。
 潜在能力が高いメダルほど、覚えも早く、センスもある」

「となると、トップメダロッターが使用しているメダロットは・・・」

「全部とは言わんが、抜擢、選び抜かれたメダルっちゅうことやな。
 自分の目指す最高のメダルを見つけ出すまで、
 何百、何千ものメダルの山を築く者も大勢おる。
 ここまでせんと勝てんのや、月形。
 トップの中のトップはもう団子状態、飽和状態。
 その膠着状態を抜け出して、一流になるためには、そこまでの努力が必要なんや。
 一ミリの妥協が、将来の100敗に繋がるんや」

 伴監督はメダルの持つ潜在的なパラメーターの解説を行っていた。
例えばカブトメダルの熟練度は一般的に「うつ」「ねらいうち」「まもる」等。
それに見合った射撃系のボディを与えてやれば、それ相応の活躍はする。
そこまでが一般感覚の見方。だが、同じカブトメダルでも、
各々の潜在的な能力値はバラバラ。根本的に戦闘向きであるもの、非戦闘向きであるもの、
格闘のセンスがあるもの、回復のセンスがあるもの、はたまた逆に
致命的に防御のセンスがないもの。実はこれは数年前に元メダロット社の社員によって
リークされた事実であり、今や頂点を目指すメダロッターの中では半ば当たり前の
知識となっていた。今日もまた、最強の戦闘型メダルを見つけるため、
メダロッター達はメダルを求め、そしてまた、破棄を続けるのである。
自分が目指す、誰にも負けない、少しでも勝っている、優秀なメダルを見つけるため。
全ては勝つために。 

「・・・監督。
 僕の、僕の・・・」

「とりあえずワシは戦闘向け・格闘・射撃・命中・回避で大まかに
 各最高5点評価で格付けさせてもらっとる。
 最高で25点っちゅうことや。
 ほんで言うとや。
 ここからは、おまえらメダロッターのやる気の阻害になるから
 言わんとったが・・・」

「は、はい」

「ロッシュの壊れた方のヴィティスのメダルが計16点。
 今現在使用されとるメダルが11点。
 岸のバッドハッカーは9点。
 そんで、おまえのシンセイバーは・・・」

「・・・」

「まぁ、11点って所やな。
 何でも数値化するのはええこととは思わんが、
 具体的な数値は人間を納得させるには一番ええからな」

「(じゅ、11、点。
 あれほど、育ててきたトラが・・・)」

「そこで、や」

 伴から伝えられる衝撃の事実。やはり何も考えずに買ってきたメダルでは、
低評価されるのは当たり前であった。その中でも群を抜いて評価の高かったのは
以外にも壊れてしまったロッシュのヴィティスのメダル。
恐らく、その戦闘センスが高いがために、春季予選大会でも勝ち抜けたのだろう。
動揺の隠しきれない月形に対して、伴監督は口元をニヤリとさせ、
テーブルの下に隠してあったショートケースを取り出す。

「ここにおまえが今使ってるのと同じマネーメダルがある。
 このマネーメダルはワシが過去に選び抜いた、
 各潜在値がトップレベルのマネーメダルや。
 ワシの換算で・・・20点はある」

「に、20・・・」

「確かに、今のメダルと、このメダルとではおまえ自身との
 息の合い方で微妙に差が出るかもしれん。
 だが、それでもや。
 ・・・尋ねるで、月形。
 潜在能力は低いが息の合う現状のマネーメダルか、
 潜在能力は高いが、息が合うかは不透明なマネーメダルか。
 もう時間はない。
 替える決断をするなら今やで、月形」

「(メ、メダルを、替える?
 トラを・・・トラを捨てる・・・?)」

「・・・おまえは本当に勝ちたいか、月形?」

 伴監督から差しだされたもう一つのマネーメダルを前にして、月形は固まった。
ここに来て、究極の選択を強いられたのだ。
伴監督もここまで月形とトラの練習を見てきて、ある意味で限界を悟ったのだろう。
メダル自身を交代させることによって、飛躍的なパワーアップを図ってきた。
確かに、これで確実に勝てる保証は無い。むしろ、伴監督の言うように
戦闘中いざという時になった場合、互いの疎通不足で敗因を作る可能性もある。
あの紅面ユキのレッドカペロのように。月形は未だ動かない。
最大の選択を強いられたのだから、仕方ない。
自分の子供のように扱ってきたトラを捨てるか、勝利を優先するために
賭けの一歩に踏み出すのか。牙を出し切れない鬼は、ただただ黙り込んだ。
その間、伴監督は怪訝そうな顔をして悩むのであった。

「(それでもやはり、あのアセビの使うメダは未知数や。
 訳が分からん。
 潜在能力が図りきれん、何も読めんのや。
 格闘センスがゴミやと思ったら、何か思い出したかのように突然キレキレになる。
 どないなっとんのや、あのメダルは)」


 そんな月形の重い選択肢とは裏腹に、岸とアセビは元月形家の
玄関で相も変わらず騒ぎ合っていた。岸が伴監督から手渡された手紙を
天高く突き上げて、必死にその手紙の中身を見ようと飛び跳ねるアセビを阻止する。
どうやらあれから岸は、伴監督の「勝てる」という言葉の誘惑に引っ掛かってしまい、
1万円という大金を支払って手紙を買い取ってしまったようだ。
アセビもその手紙の内容が知りたいらしく、ここまでずっと懇願しているようだが、
岸は笑顔ではぐらかすだけ。決してその内容は見せようとはしなかった。

「もーっ!!
 岸ちゃんだけずるいよー!
 一瞬、一瞬で良いってば!」

「悪いなアセビちゃん。
 ラブレターってのは人には見せられないもんでよ」

「岸ちゃんのイジ悪ーっ!
 今度お家に戻ってきた時は、フライパンで叩いちゃうんだから!」

「そーかそーか。
 だからツッキーも家を出てっちまったのか。
 なるほどなぁ」

「もぉーーーーーーっ!!!」

 岸はアセビから逃げるようにして再び月形家を後にしていく。
だがその表情は何処かスッキリとしていた。どうやらこの伴から与えられた
手紙の内容が相当岸にとってプラスに成りえた物だったらしい。
伴から与えられた手紙を大切にポケットにしまい込んで、岸は駆け足で
ロボトル練習場へと向かっていく。その「勝てる」何かを、
求めるために。




  大バカ者へ。

この裏切り者、根性無し、意気地無し、アホンダラ。

冬季予選に出た所で100%負けるという、ワシのおまえへの

寛大な気遣いも無視しおって。このバカタレが。

(以下罵り続くため中略)

最後に、一つだけ戦うおまえにアドバイスを送ってやる。

これはおまえが楽を覚えるのではないかと思って今まで伝えなかった戦術や。

この戦術が上手く通用すれば、まだ冬季予選も戦えるかもしれん。

その戦術とは・・・・・・・・ 

第85話「頂点を掌握せしは人かモブか」 ( No.99 )
   
日時: 2015/02/27 20:51
名前: ランド


「二郎ちゃん、いたわ、いた!
 宇宙人だわ!」

 久我二郎と嶋倉桜子は、ポレポ森を訪れていたた。
下校中に隕石らしき物体が落下する様子を目撃した彼らは、自身の危険も
顧みずに、ただ興味心に煽られるままにここまで来ていた。
そこにあったのは、破損したカプセルと、落下した衝撃によってカプセル
の中から上半身だけを覗かせた宇宙人。いや、これは宇宙人とは呼べない。
興奮しっ放しの桜子はただこの謎の生命体を宇宙人と決めつけたが、
冷静な久我はそうとは思わなかった。角ばった体、黄色い体色、尖った頭部。
その全てに見覚えがあった。いや、そんなことよりも、今の久我が一番気になったのは。

「(これは宇宙人じゃねぇ・・・メダロットだ。
 いや、そんなことはどうでも良い。
 それよりも・・・ここは、何処だ?)」

 最大の謎はここが何処か。全く見慣れない周りの光景に、恐怖さえ感じていた。
自分の家も、部屋も、街並みも、当然同居している岸の姿さえ見えない。
ましてや、自分のメダロットであるフライイーグルも。
だがそんな久我の冷静な判断を妨害するかの如く、隣にいた桜子が
久我の腕を力の限り引っ張る。

「こら、二郎ちゃん!
 どうして私のことを無視するのかしら。
 君はやっぱり上級生に対する態度が問題ありみたいね」

「いや、それより・・・。
 こいつはただのメダロットじゃねぇか。
 どうしてそんなに騒ぐ?」

「メ・・・めだ、ボッツ?」

 今この興奮状態の桜子に、余計に混乱させるであろう問いを投げかけるのは
マズイと判断したか、渋々久我は今目の前にある問題を片付けようとした。
そして再び、久我の苦悩は始まるのである。何と、この桜子はメダロットという
存在自体を知らないのである。だからこそ、さきほどこのメダロットを
宇宙人などと言い放ったのだ。この世界のことが、この町のことが、そもそも常識が
全く分からず、茫然と立ち尽くすことしかできない久我。
まるで不思議の国のアリスになったかのように、この事実を捉えることができなかった。
すると、何やら宇宙人が、いや、メダロットに動きが見られる。
ダランと垂れた上半身をゆっくりと、起き上がらせ、目の前にいる
久我と桜子を視界センサーで捉える。

「ジー、ジジ、ジーーーッ・・・。
 頭部破損ニヨリ、記憶チップ一部損壊、目的達成不能。
 自爆装置、破損ニヨリ、証拠隠滅不可能。
 コレヨリ、独断行動ニ移・・・ルル・・・ルルルルル」

「二郎ちゃん、何かお喋りしてるわっ。
 きっと私達とコンタクトを取ろうとしているのよ」

「(こいつは・・・初期型のKBTメタルビートル、じゃないな。
 なんだこいつは、見たことが無いタイプだ。
 造形は初期型メタビーだが、細かい所に違いが・・・)」

 見た目はぱっと見、メタルビートル。なのだが、細かい所で差異が見られる。
改良タイプというよりも何処か、古びた、未完成のようにすら感じるそのデザイン。
このメタルビートルの姿形が、この世界を、そしてこの世界の年代、
そしてこの物語を紐解く一番の方法であることを、まだ久我は知らない。

「コココ、行動ヲヲ、開始ススス、ル。
 ・・・う、うぅ。
 ワタシは・・・ここは・・・」

「!
 (こいつ・・・メタルビートルなのに、女タイプだと?)」

 そして再び、久我は驚くことになる。
このメダロットの声は、性格は女。男性型ティンペットでしか装着できない
メタルビートルであるのに、女性タイプの魂が宿っているのだ。
久我はまだ分からない。この世界の仕組みに、この世界の意味に。
  実はここはメダロットが世間に公表されるよりも数年前の年代。
今現在、久我と桜子が住んでいる場所は、日本列島から少し離れた
「ダイゴウ島」と呼ばれる半島。実はこの島、別名「モルモット島」と呼ばれる。
日本政府と海外諸国によって何十年という構想を得て作られた、
戦争模擬区域。この島全体が、言わば化学兵器の、生物実験の媒体。
島民は当然何も知らされていない。この島その存在自体も、公にはされていない。
そんな絶望的孤島に今、久我はいる。
一つ年上の嶋倉桜子と、謎の女型メタルビートルと共に。






「・・・ん?」

 額に汗がびっしょりとこびり付いているのを感じる。
肌には柔らかな布団の感触を得て。まだボヤけている眼を、何回か
右手でこすりながら、横に置いてあったメダロッチを起動させる。
メダロッチの内部ライトが点灯すると同時に、
現在時刻をデジタル表示で大きく示す。

「(午前・・・1時45分、か。
 ッチ、夢か。
 久しぶりに早く寝たんで、悪いもん見ちまったな。
 さっさと寝て、明日に備えねぇと)」

 今までの事は全て夢の出来事だった。
ダイゴウ島など、当然メダロットの歴史に存在することは無い。
ただの久我の夢での存在、物事。それに安心し、久我は再び瞼を閉じる。
明日の猛練習に備えて、自分の体力を完全に回復させるためにも。





「ワタシの名前はメタビー。
 やっぱり、なぜか知らないけど、ここにいる。
 どうしても意味が分からないけど、ここにいる」

 夕暮れ時。現在場所、ボレボ森の手作りの山小屋。
あれから久我と桜子は、このメダロットのために、秘密の隠れ家として手製の
山小屋を作っていた。そう、彼らはメタビーを密かに飼うことにしていたのだ。
日本語を話し、自分たちに友好的である所から桜子も同調し、
久我と共に大人達の目を盗んで、メタビーをかれこれ1週間飼い続けていた。
そういう、設定がされていた。その設定を、なぜか知らないが、
再び夢の中に紛れ込んだ久我の頭にもしっかりと刻まれていた。
 この夢の中にまた来たことに気づき、ハッと周りを見渡す久我。
そこには、人間の洋服を着させられたメタルビートルと、桜子の姿があった。

「メタビーちゃんはもっと日本語をお勉強しないとダメね。
 桜子お姉さんがきっと一人前の宇宙人にして、
 メタビーちゃんを火星に帰してあげるわね」

「(ッチ、また夢の中に来ちまったか。
 それによく思い出してみりゃ、この桜子って女、確か・・・)」

「二郎ちゃん、ちょっとそこの腕時計取ってくれるかしら?
 メタビーちゃんのカプセルに入ってた、その腕時計よ」

「う、腕時計?
 (あれは、メダロッチか)」

 桜子が久我にメダロッチを取るように指示をする。
メタビーの乗っていたカプセルに入っていた腕時計、いやメダロッチ。
これが唯一、このメタビーの存在を解き明かすハズの代物、だったハズのもの。
既にメダロットという概念を当たり前に知り得ている久我にとっては、
桜子にとってはハイテクに見えるこの腕時計も、他愛もないメダロッチにしか映らない。
久我が嫌々桜子にメダロッチを手渡そうとした、その時であった。
この物語は、動き始める。メダロッチが急に光を放ち、そして、メタビーの目が赤くなる。

『 ロボトル ファイト 』

「(なんだ?
 急にメダロッチにロボトルの表記が・・・)」

「ズズッ、ギギ、ジジ、ジジーーーッ・・・。
 ウウウゥ、ウウウウッ、ウウウウウウウウウ」

「ど、どうしたの、メタビーちゃん!?
 お腹が痛いのかしら、変な昆虫でも食べたの?」

「テテテ・・・テテ、テキ、敵ガ、クル。
 ロ・・・ロボボ、ロボトル・・・!!」

 突如として映し出されたメダロッチのロボトル表記。
それに反応するかのように、メタビーの目が赤く光出し、身を小刻みに震わせ、
今までにない低い声で、意味不明の言葉を繰り返し呟き始める。
そして久我は気づくのである。ふと上を、空を見上げたその刹那の瞬間。
あれはまさに、このメタビーがやってきた隕石と同じような流星が一筋。
反対側の「タイトウ林」に消えていったのを久我は確かに見た。
  すでにこのダイゴウ島では実験が始まっていたのだ。
メダロットを実戦兵器として扱うための実験が。最初に投入されたのが
このメタルビートル。まだメダロットの型番も正確に固められていないまま
実験的に投入されたため、本来男型であるメタビーが女型になるという不具合が
起こっているのである。
だがしかし、実験第1号のメタルビートルが不時着に失敗。
記憶チップが破損し、任務をこなすことが不可能になってしまった。
そして、政府は次なる2号機をついにダイゴウ島に投入したのであった。
その力を、威力を、被害を調査するために。
この島民の命を実験台として。






「・・・っぐ!!」

 久我は布団を勢いよく払いのける。
そして、周りを見渡し、今自分が何処にいるのかを確認した。
そこにはテレビがあり、フライイーグルがあり、そしてイビキをかいて寝ている
岸の姿があった。久我は夢から解放されて現実の世界へと戻ってきたのだ。
その事実にまず安堵し、久我はゆっくりとメダロッチを手に取る。
ボタンを押して、時計を表記させると「AM 2:35」との表記が。
久我は右手で自分の髪の毛を掻き毟りながら、考え込む。

「(また夢か。
 どうしてこう同じ夢を見るんだ、それも・・・
 それも、俺が、主人公の、だ。
 こんな夢で何かが変わるのかよ、関係あるのかよ。
 メタビーなんぞ、桜子なんぞ・・・。
 俺が本当に主人公になれば、こんな奴ら、こんな夢なんか・・・!)」

 久我は再び布団を被さって、眠りについた。
自分の夢でしかまだ実現できていない、儚き可能性である「主人公」。
自分がこのまま勝っていけば、この世界の主人公に勝てれば、
必ず自分がその立場に就くことができる。
それを信じれば、こんな夢での出来事に、ただの妄想、断片的なストーリーでしかない
事柄に、自分を揺るがされるわけにはいかなかった。







「カズヒ村、カズヒ村から煙が出てるよ!
 物ノ怪共に襲われてるよっ!」

 島全体に流れわたる警報機のサイレン。そして、何度も叩かれる鐘の音。
カズヒ村に緊急信号を告げる黄色い煙が立ち上がっている。
これは数週間前から現れた「物ノ怪」が襲ってきたという合図。
そのサイレンを聞きつけ、いたる島民が家から飛び出し、その煙を確認する。
そして身を震わせ、カズヒ村の村民の無事を祈る。
赤子の泣き声が辺り中から響き渡り、それに連鎖するように幼い子供達も泣き始める。
まさに絶望、狂気の渦の中。だが、そこにも希望は存在した。
鐘の音を聞きつけ、すでに久我は自転車に乗って、メタビーと共に駆け出していた。
久我の出動を見つけた別の地域の自衛団の男が大声で叫ぶ。

「二郎ぉーーっ!!
 カズヒ村は銀さんと野村さんしか自衛団がおらんけ!
 早く行ってやってくれぇえ!!」

「(何だ!?
 自衛団、物ノ怪だと・・・!?)」

 久我は訳が分からないまま、自転車を全速力で漕ぎ、目的地であるカズヒ村に向かう。
何が物ノ怪で、何と、どうやって戦っているのかすら分からない。
  あれから、メタビーと政府から投入されたメダロットの果てしない
戦いが繰り広げられていた。最初はメタビーの存在が外からやってきた
「物ノ怪」と瓜二つであったため、迫害に合うこともあった。
だが、今ではメタビーが味方であり、唯一の希望であると分かると、
島民は一致団結してメタビーと、そのパートナーである久我に希望を託した。
時に島民の力を借りて、原始的な武器を使いながら、メタビーと島民達は
共に戦い、政府が送り込んできたメダロットを打ち破ってきたのである。
その行為自体がすでに政府側の実験であるとは露知らずに。
 急激に今までの過去が押し寄せてくる久我の脳内。そんな苦しみの中で、
横で走っているメタビーが声を掛けてくる。

「ジロウ、ジロウッ!」

「(クソが、どうして三度この夢を・・・!)
 な、なんだっ!」

「相手は以前出会った火を使う物ノ怪だ!
 ワタシが交戦している間に、住民と協力して水を用意して欲しい!
 被害を少しでも喰いとめたいっ!」

「(何でだ、どうしてだ、この夢を見る・・・!?
 俺にとって、こんな世界なんざ、どうなっても!
 こんな夢なんかの主人公、どうなっても・・・!)」

「・・・ジロウ、桜子の敵は必ず討つ。
 ワタシを信じろっ!」

「何・・・?
 あの女が、桜子がどうなったって言うんだ・・・?
 メタビー、おい!
 桜子が一体どう・・・」



・・・・・・・


・・・・


・・




「・・・っ!!!」

 久我は目を覚ました。窓からは朝日が漏れ出している。
現在時刻は午前5時25分。結局久我は、この悪夢ともいえる夢を
最後まで見続けてしまった。自分の体の疲労はほとんど取れていない。
だが、そんなことよりも、久我はその夢の内容が気掛かりでしょうがなかった。
メタビーは本当に火を使う悪魔に勝てたのか、島民は結局全滅するのか、
そして、桜子はどうなってしまったのか。

「(たかが夢なんぞに、どうしてこうまで・・・。
 そもそも、夢とは何だ?
 こんな作られた世界でモブが見る夢は、本当に夢なのか?
 それはすでに作られた一つの世界なんじゃないか?
 俺はその一つの世界に行って来たんじゃないか?
 そうだとしたら、俺はまたあの世界に、あの世界の続きに・・・。
 もう一度この布団に横たわれば、またあの世界にいけるかもしれない。
 このまま寝ちまえば・・・俺は、主人公に・・・)」

 久我は考え込んだまま、動かなくなってしまった。
今ままで自分が見てきた夢は、そもそも本当に夢なのか。
この物語という世界の中で見る夢は、それ自体が本当は一つの世界なのではないか。
そうだとしたら、自分は本当に主人公になっていたのかもしれない。
このまま今の世界での活躍をあきらめ、ずっと寝ていれば、あの世界に
入り浸ることもできるかもしれない。
 と、久我が光の世界へ巻き込まれそうなその時である。再び思い出す、あの感覚を。
現実をいきなり思い出した、両手の指の痛みによって。
起きたばかりで感覚がマヒしていたが、しばらく経ったことにより、
メダロットのメンテナンスでボロボロになった指の痛みが、久我を現実に戻した。
そしてその痛みは、世界だけでなく、久我自身を取り戻そうとしていた。
包帯塗れで肌色の部分がほとんど見えない右手を、じっと見つめる久我。

「痛ぇ・・・。
 (この指の傷は、痛みは、俺の今の苦しみは、惨めさは。
 こんな夢程度で許されるのか、満足しちまうのか?
 今までの豚以下の仕打ちが、ゴミみてぇな扱いが許されると思っているのか?
 俺一体、何のために体を壊しているんだ。
 何のために精神を傷つけているんだ。
 今はただ、狂うままに、怒れるだけ怒るしか、道はないハズだ。
 俺はもう眠たくねぇ)」

 久我はゆっくりと起き上がり、部屋のカーテンを勢いよく開ける。
日差しが久我に照り付ける。主人公だけのものである太陽光が、モブに突き刺さる。
その光が再び、久我の飽くなき闘志に火をつける。
久我が戦いを止めるその時は、自分が主人公に勝った時か、自分が消える時まで。
そう心に誓いながら、久我は共に自分の部屋で寝ている岸を
右手で引っ叩いて強引に起こさせるのであった。


 その日の朝。
久我と岸はいつもと同じように、ボストンバッグを背負い、
ロボトル練習場へと向かっていた。岸がその合間も咳と欠伸を挟みながら
歩くのに対し、久我はいつもより険しい表情で道中を進んでいた。
自分とすれ違う小学生、サラリーマン、散歩中のお爺さん、その全てを
視界で捉えながら、考え込んでいた。その全てのモブを見ながら、考察していた。
なぜ、自分はあの夢を見たのか。たかが夢とはいえ、
一時でも主人公になれたあの夢。あれは本当に単なる夢であったのか、
それとも特別な何かが働いて見ることができた夢なのか。
今ではこのモブとして主人公を倒す選択したことに、何の疑いもない。
だが、どうしてその夢を見たのかという、根本的な所が未だに引っ掛かっていた。

「ひ~、最近寒くなってきちまったなぁ。
 なぁ久我君よ、頼むから部屋の暖房くらい・・・」

「(・・・あのガキ、向こうのババア、あそこのOL)」

「ん?
 久我君?」

「(このガキも、あのオヤジも、そこにいるモブも俺と同じ夢を見たのか?
 自分が中心となる夢を見たのか?
 その上で、今の奴らが存在しているとしたならば・・・。
 あいつらはモブを選んだってことになるのか?
 ・・・考えてみりゃ、モブってのは人間でいう所の終着点なのかもしれねぇ。
 人間でありながら、生き物ではない存在。
 苦しみも喜びも指示されるだけで、何も考える必要などない。
 人間の欠点を究極まで削ぎ落とした、ある意味で理想像、なのか。
 こいつも、あいつも、もしかして・・・)」

「ゴホッ、ゴホッ。
 もしもーし、久我君。
 何そんな険しい顔してんだ?
 恋か?」

「・・・。
 バカなこと考えてやがる、所詮夢物語によ」

第86話「岸は沖にて真に雅やかな女を見る也」 ( No.100 )
   
日時: 2015/03/21 14:03
名前: ランド


「えっ!
 岸さん、熱で倒れちゃったんですか!?」

 花子の声が響き渡る。
 午前9時42分。いつものように練習場に集合した久我と花子だが、
今日は岸の姿が見えない。その原因を久我に尋ねた花子だが、
どうやら岸は高熱を発症してしまい、久我家で寝込んでいる様子。
その間も、久我は特に心配する素振りも見せずに、ただ淡々と
フライイーグルのパーツメンテナンスを行う。
花子はその事実を聞いた後、心配そうな表情を作りながらも、その裏で
何やら良からぬ算段を考え始める。

「(待てよぉ。
 これってもしかしたらうまく事を運べるかもしれない)
 あ、あの、久我師匠!」

「何だ」

「一つ、頼みごとがあります!」


 そして時は過ぎ、夕暮れ時。
場所は久我家。練習を終えた久我が今、ちょうど家に帰宅した所である。
一時期は端役の役目から逸脱して、自分の家すらも見失っていた久我二郎。
だが、自分の端役としての立場を認めざるをえなくなってからは、
自ずと、自分の戻るべき家や家族構成なども思い出してきた。
そう、設定された、自分の全てを。岸はとある場所で、布団に横になって休んでいた。
今日一日、どこに行くこともなく、ただ重い頭と体を、床に預けていた。
階段を登る音がして、岸は久我が帰ってきたと気づく。
何か一声かけようと、体を起こしてその先を見つめると。

「あ、あれ、花子ちゃん?
 どうしてここに・・・」

 目の前に映ったのは、久我ではなく花子であった。
そう、花子は事前に久我にとあることを頼んでいた。それは岸の看病を
するために、久我の家に訪れたい、という申し出だった。
特に断る理由もなく、久我は二つ返事でOKを出していた。
というよりも、自分で色々と岸を手助けするのが面倒がために、花子の
申し出を許可した、というのが本音のところであろう。
花子が来て早々驚いたのは、岸の様態ではなく、その寝ている場所。

「き、岸さん!
 何で廊下で寝てるんですか!?」

「ん?
 あ、あぁ、これは・・・」

 何と岸は2階の廊下で寝ているではないか。
久我の部屋から追い出され、岸は一日中、廊下で寝ていたのだ。
そのあまりの仕打ちに、さすがの驚きを隠せない様子の花子。
岸はどこか複雑そうな表情を浮かべ、言葉の続きを発しようとはしない。
大方、久我が部屋から出ろと言われたのは察することができる。
居候の岸がそう言われてしまえば、それに従うしかないであろう。
だが、建前上、花子はその正義を久我に突きつけるしかなかった。

「(姑のイジメかい、こりゃ)
 久我師匠、あんまりです!
 病人の方を廊下で休ませて置くなんて」

「今の奴はただのばい菌だ。
 俺の部屋にばい菌を入れる筋合いはない」

「(目くそ鼻くそがよく言うよ、全く)
 で、でも!」

「それに、奴の意識の低さにも反吐が出るぜ。
 高熱に掛かったから、休むだと?
 大会本番の時に、高熱に掛かった状態を想定して練習ができるハズだ。
 俺だったら喜んで夜中まで練習するぜ」

 久我はそのまま、自分の部屋へと入っていってしまう。
岸も久我の言葉が正しいと感じているから、何も言えないということもあるのだろう。
その表情に、言われたくやしさというものは見られない。むしろ、
久我の言うとおりだという、恥ずかしさの方が見受けられた。
暗い廊下に取り残された二人は、何とも言えぬ感情に捕らわれた。


 それからしばらくして、花子は久我の家に来る途中で買ってきたリンゴを
岸に食べさせていた。久我家から借りたナイフを使い、意外にも器用に
リンゴの皮むきを行う。岸は上半身だけを起こした状態で、ただ
黙々と与えられたリンゴを食べる。さすがに、岸にいつもの元気は見られない。
高熱を発しているのだから、当然のこと。だが、実はもう一つの要因も絡んでいた。
沈黙が続く空間で、ボソッと、岸が呟く。

「こう体調が悪いと気分が滅入っちまうな。
 何もかも、駄目になる気がする」

「何言ってるんですか、岸さん。
 死ぬわけじゃないんです!
 明日、つねに明日です、努力と正義です!
 (ったく、熱ぐらいでガタガタいうなっての)」

「死ぬ、か・・・」

 高熱から来る、岸の今までにないほどの落ち込んだ様子。気が弱い状態。
さらに、花子の発した「死」というキーワードが、どうやら
岸の何かに引っ掛かった。手に持っていたリンゴを皿の上に戻して、
弱弱しい眼差しで地面を見つめる。岸の異変を察した花子は、リンゴの
皮をむくのを止め、何か言葉をかけようとする。
その言葉を制するように、岸は口を開く。

「花子ちゃん、俺はさ・・・。
 俺ってさ、死んでるんだぜ、もう」

「?
 し、死んでる?」

「こっから話すことは、冗談半分で聞いてて欲しいんだ。
 信じなくても良い。
 でも・・・とりあえず、聞いて欲しいんだ。
 聞いてもらうことで、落ち着かせてぇんだ」

 岸の口から出る、あまりにも分けの分からない言葉。
それは、岸の目的。自分のメダロットを探すという目的に大きく関わる事実を、
述べようとしていた。今まで月形やアセビ、ロッシュにも言わなかった事実を。
この弱っている時だからこそ、初めて、言う気になった。
また、あまりに親しくなった月形達だからこそ、今日まで言えなかったという
こともあるやもしれない。どちらにしろ、ついに岸は話す気になったのだ。
その事実の全てを。

「俺はもう、数十年前に死んだ、いや殺されたんだ。
 そんで今、その時に分かれたメダロットを探すためにいる」

「こ、殺された?
 (あー、確かこいつはそんな目的で神様に召喚されたっけ。
 私も詳細はよく分からないんだよねー)」

「俺のメダロット。
 いや、この言葉がキライなんだ。
 俺の・・・俺の妻を探すために、俺はここに来たんだ」

「え、ええ?
 おお、俺の、妻?
 どういうことですか、メダロットじゃなくて、本当は奥さんを?」

「俺の妻が、メダロットなんだ」

「!!??」

 さすがの花子も、驚きのあまり絶句した。
岸は確かに自分のメダロットを探していた。その事実は間違いない。
だが、その意味は大きく違っている。そのメダロットは、岸の妻なのだ。
何と、岸はメダロットと結婚していると、言い放ったのだ。
花子は目を丸く開け、全く動けない。事態が呑み込めない。
岸が神によって特別な目的を持ってこの世界にいるということは、既に承知の事実。
だからこそ、岸の言っていることは事実。故に、驚かざるを得ない。
そのあまりに破天荒な話に。

「どど、どういうことですか!?
 メダロットを奥さんって!」

「別に法律で禁止されてるわけじゃない。
 理論上は可能なんだ、ただ実例が無かっただけで。
 その第一号が・・・俺なんだ」

「は、はぁ。
 しかし、まぁ・・・。
 人間の女性じゃなく、メダロットを選んだんですか?」

「あぁ。
 世間一般からも、親族からも、狂人扱いされたよ。
 今だって、後ろめたい気持ちもある。
 当時の、俺に関わる全ての人をパンダに、珍獣にされちまったんだからな。
 でもよ、でもよ・・・」

 岸の言うように、特にメダロットと人間の結婚が禁止されているわけではない。
というよりも、それに関する法律が定められていないと言った方が正しいが。
故に、岸とそのメダロットは結婚することができてしまったのだ。
宗教上、それを禁止することを明文化している国もあることは事実。
だがこの日本においては、明記されていなかったのだ。
当然、岸やその周りの関係者は連日、報道陣の良いエサになってしまった。
ワイドショー、週刊誌、そのすべてが岸達を襲いかかった。
それは想像を絶する、惨状だったのであろうか、その件については深く語ろうとはしない。
 すると、岸は布団の中からとある雑誌を取り出す。
それはグラビア雑誌であった。いつも岸が隠れて購入しては、月形に注意される
グラビア雑誌。だが、岸はそのグラビア雑誌を強く、クシャクシャになるまで
握りしめ、声を詰まらせながらしゃべり始める。

「こんなよ、グラビア雑誌見つめてよ、俺の人間としての本能を
 取り戻そうとしたよ。
 いや、俺の心を試したかったんだ。
 本当にあの時の感情は本物で、一時のものじゃないかっていうよ。
 毎日、毎日、女ばっか見て、考えて。
 雑誌に出てくるアイドル、テレビに出る女優から、何から何まで」

「も、戻ったんですか?」

「・・・何も、変わらなかったよ。
 どんな美女を見ても、俺は何とも思わなかった。
 何だかもう、吐き気すら起こしたよ。
 ・・・俺の判断は、決意は正しかったんだ。
 俺の妻、ミネルと結婚した俺は・・・やっぱり正しかったんだ。
 やっぱり俺は人間とかメダロットとかじゃなくて、
 ミネルを愛していたんだ。
 ミネルだよ、ミネルなんだ、ミネル、ミネルに全てが・・・」

「(な、何というか、こりゃまあ)」

「花子ちゃん、やっぱり異常か?
 俺は異常なのか?」

「・・・。
 い、異常、というより。
 正常ではないか、と」

「ありがとう。
 そう言ってもらえると、まだ本音で語れる」

 岸が今まで女に拘っていたのは、全て自分の判断を、決意を確かめる
ためのものだった。過去に自分がメダロットを愛したことは、それは単に
その場の勢いで決めたものであり、時間が経てば薄れるものではなかったのか。
本来のパートナーである人間の女性を何人も眺め、愛妻メダロット、ミネルのことを
頭から消そうとした。だが、その愛情は、一遍も揺らぐことは無かった。
岸の心はそれでもなお、ミネルで満たされていた。偽りではなかった、この愛情は。
だからこそ、今は誰よりも、何よりも、ミネルを取り戻したかった。
勝ちたかった、ロボトルに。だからこそ、月形家から飛び出してきた。
そしてここまできたのだ。だが、それには疑問がいくつか残る。
それをぶつけようと、花子は口を開く。

「で、でも、何で岸さんは殺されたんですか?
 イマイチ、接点が思い浮かばなくて」

「俺はロボロボ団っつう、テロ集団に銃で撃たれたんだ。
 アイツらはレアメダルっていう、よく分からねー
 貴重なメダルを探してたらしい。
 そんで、人間と結婚するようなメダロットは、レアメダルの
 可能性があるだか何とかで、夜道を襲撃され、俺は殺された」

「メダ、じゃなくて、奥さんは」

「俺はミネルを逃がすために、暴れて、殺されたんだ。
 ミネルが逃げたのまでは確認できた。
 でも、その後が何もわからねぇ、この十何年間、ずっと」

 岸夫妻を襲ったのは、あの悪名高いロボロボ団。
当時のロボロボ団はまさにレアメダルを追い求めていた時期も重なり、
人間と結婚するという類まれな行動を起こしたミネルをレアメダルと
判断し、襲撃。結果、岸の行動によりミネルは逃走できたものの、
岸自身はそのせいで銃殺。短い人生を終えることとなるのであった。
実際のところ、ミネルはレアメダルなどでは無かった。岸がコンビニで買った
正真正銘の、一般メダル。不幸であったとしか、いえない事件なのだ。
今まで暗い表情を見せていた岸が、何かを思い出したかのように、
高熱を振り切るかのように、顔を上に向け、語り始める。

「だからこそ、俺はもう一度ミネルに会う。
 そのために、この世界に来た。
 いや、会えなくても良い。
 顔を見れなくても良い。
 ただ、ミネルが俺が生きているのを知ってくれたら・・・
 俺の声さえミネルに届けば、それでもう、満足なんだ」

「ちょ、ちょっと待って下さい!
 声だけって・・・会わなくて良いんですか!?」

「声さえ届けば、あっちから近づいてきれくれるかもしれない。
 それに・・・。
 俺の生存を伝えてやりたいんだ、アイツに。
 生きて、今も想いは変わってねぇって、伝えてやれれば、満足なんだ。
 アイツってさ、考え込む癖があってよ。
 アイツのせいで俺が死んだって、苦しんでるかもしれねぇ。
 ましてや、本当は生きて、俺が別の女と一緒にいると思ってるかもしれねぇ。
 だから、さ」

「・・・。
 でもそれは、彼女が今も起動してたらの話ですよね」

「・・・。
 リンゴ、もう一つ剥いてくれないか、花子ちゃん」

 花子の最後の言葉に、岸は正しく返すことができなかった。
花子の言うように、それはすでに何十年も前の話。ミネルがまだ起動しているか
どうか、かなり怪しい所。いや、可能性的にはほぼ100%の確率で、生存はない。
野良メダロットになっているのならば、正常に起動しつづけていることは
不可能。ほぼではなく、絶対。また、誰かに拾われているとしたら
まだ起動できている可能性は出てくる。だが、拾われるという可能性自体が
紙のように薄い確率。誰も、野良メダロットなど拾わない。
それどころか、野良メダロットは撤去処分の対象。処理されている可能性の方が
だいぶある。その事実は、夫の岸は当然ながら知っている。
だが、それでもなお、岸は出会おうとしていた、ミネルに。
大会で勝って、自分の存在を伝えようとしていた。
あまりに絶望的な望みにすがる岸に、もはや笑うという感情も起きず、
花子はただただリンゴを剥いた。
少しボケてしまったリンゴを、岸は何もいわずに食べ続けた。
 

第87話「銃と剣」 ( No.101 )
   
日時: 2015/05/15 20:17
名前: ランド


 現在時刻、午後12時17分。
場所はいつもの如く、ロボトル練習場。岸の発熱からちょうど二日後の今日、
容態回復した岸を含めた久我、花子の3人は相も変わらず練習に
励んでいた。周りにいたメダロッターが徐々に減っていくのに気付いた3人は、
ようやく時刻がお昼になっていることに気付く。
それほど、3人は集中している状態。空腹という概念も、お昼という認識
が無ければ全くというほど感じることは無かった。
汗をタオルで拭きながら、ベンチへと戻る岸。相棒のフライイーグルと何やら
先ほどの練習についての相談をしながら戻ってくる久我。
そして、唯一の紅一点の花子は、二人よりも早く、駆け足でベンチへと戻る。
慌てた様子で、自分のカバンをゴソゴソと掻き回す。何かを見つけたのか、
花子は笑顔で、戻ってきた久我と岸にある物を差し出した。

「はい、久我師匠、岸さん!
 努力と正義が詰まった手作りのお弁当です!」

 意外や意外、花子が二人に差し出したのは手作りのお弁当。
これには驚きの反応を示す二人。何処か男に寄った感じの
性格の、そういう女子らしい事とは無縁だと思えた花子だからこそ、
二人は反応した。練習の疲れも吹き飛ばし、笑顔になる岸。
少しは反応したものの、すぐにフライイーグルのメンテナンスに取り掛かる久我。
花子はそのそれぞれに、自分の作ったお弁当を手渡した。

「はい、これは岸さんの分です!」

「さすが花子ちゃん。
 できる女の子は一味違うぜ!」

「こちらは久我師匠の分ですっ」

「いらねぇ」

 満面の笑みでお弁当を受け取る岸とは正反対に、まったく見向きもせずに
突き除けてしまうは、久我。花子に拒絶の反応を示すと、特に
悪びれる様子も見せることなく、再びメンテナンスへと意識を傾ける。
少々気まずいながらも、フライイーグルは黙って、久我のメンテナンスを受ける。
しかし、花子はここで引き下がるような性格ではなかった。
腐っても、中身はあの意地の悪いミツバチ。全くの罪悪感の無い久我の態度に
カチンと来たのか、すぐ様言葉を切り返す。

「(こんなかわいい乙女のお弁当を突き返すなんて、
 あっちの気があるのかね、久我君はっ!!)
 お、お体が何処か悪いのですか?」

「今日は一週間に一度の、体調不良を想定した練習日だ。
 飯を食べれない状態でも集中力を持続させるために、
 今日は一切、何も口にはしない」

「(悟りでも開くつもりなのかい)
 で、でも、せっかく作ったので」

「だからいらねぇ」

「じゃあ、お持ち帰りしてもらって、明日の朝でも・・・」

「!
 聞こえねぇのか、この女っ!!!」

 花子の執拗な催促に、ついにキレてしまった久我。花子が差し出していた
お弁当を薙ぎ払い、地面にぶちまけてしまう。言葉を失ってしまう一同。
和やかだった雰囲気が一気に最悪のものへと。ただの不機嫌から久我が
花子にこのような態度を取ってしまったのではない。大会が近付いているという
焦燥感と、緊張感が、久我の負の力を増幅させていた。
今度こそ勝たなければならない、冬季予選大会。残れなければ自分は消える。
そんな生き死にを賭けた試合が近づいてきているからこそ、久我の
精神は、尖らざるを得ない状況に陥っていた。
しかし、さすがの久我もこれはやりすぎたと感じたのか、何処かバツが
悪そうな顔をして、トイレへと向かってしまう。
その後ろ姿を、誰に気付かれぬよう睨みつける花子。

「(あの修行僧めぇ。
 せっかくアタシがアンタのために用意した、
 特製の・・・)」

「気にするなよ、花子ちゃん。
 花子ちゃんが作った魂の料理は、この男、岸真が
 引き受けるぜ!」

「あっ、ちょちょ、岸さん!
 (それは久我を地獄へと突き落すための・・・!)」

 花子の気持ちを察してか、地面にばちまけられた弁当に手を伸ばす岸。
友を、ましてや女の子に対しては人一倍に気を使う岸ならではの優しさ、の
ハズだったのだが。その数秒後、あまりの辛さで、声も出せずに
地面にのた打ち回ることとなるのであった。


 それから40分後。
未だに岸はトイレから帰ってくることは無かった。一人、久我への
特製激辛弁当差し出し作戦が失敗したことに落ち込む花子。
そんな花子の隣に、誰かが腰を掛けてくる。それは久我であった。
フライイーグルのメンテナンスを終えた久我は、ペットボトルを片手に、
一休憩入れるためにベンチへと戻ってきた。
先ほどの出来事からか、花子の方もどう言葉を切り出していけばいいか分からない。
下手に言葉をかければさらなる逆鱗に触れ、久我との接触の機会を
減らすことになってしまうかもしれないからだ。
そんな様々な憶測が飛び交い、二人は何も言わず、語らず、沈黙を続けていた。
その空間を破ったのは、この男。

「こんな野郎に誰が共感するんだろうぜ」

「(ビックリしたぁ、いきなり何なのこの男は)
 な、何です、久我師匠」

「女の弁当投げ飛ばす奴なんざ、
 誰が共感するかってんだ」

 とっさに、花子は久我の方向を見つめる。そこには、いつもの久我がいた。
特に悲壮感も漂わなければ、決意の表情にも見られない。ただ、
いつもと同じように、厳しい表情の久我がいた。
そんな久我から発せられる、本来花子には意味不明な言葉。だが、久我は
あえて花子に話した。自分の意志を、価値観を、花子に。

「つくづく性根が端役だぜ。
 体が勝手に小物くせぇことしやがる」

「(全力同意。
 アンタが主人公だったら、絶対アンチになるし、アタシ)
 一体、どうしたんですか、久我師匠」

「何でもねぇ。
 ただ・・・」

「ただ?」

「・・・もう俺の弁当なんざ持ってくるな。
 昨日だって、今日、いや明日もそうだ。
 カレーを食べたのか、ラーメンを食べたのか、うまいのかマズいのかも思い出せねぇ。
 今何を食べたいのかすらもよく分からなくなっちまった。
 もう、腹は一杯だ」

 そう言うと、久我は再び練習場へと向かってしまう。これが、彼なりの
花子への詫びの入れ方なのだろう。素直に「ごめん」と言えない所が
久我らしいと言えば久我らしいのだが。その辺りの事情は、花子の方も
それとなく察していた。そして、少々驚いてもいた。わずかばかりの期間ではあるが、
久我と何時間も共に過ごしてきた身。久我のその強情で、ストイックな性格は
理解できているつもり。その久我が、初めて見せる、謝罪とも取れる表現行為。
なぜ久我がこのような態度を見せるのか。それは、久我が、徐々にでは
あるが本来の「人」を取り戻しているのかもしれない。
いや、取り戻そうとしているのかもしれない。目標である、「主人公」になるために。
自分の理想となる主人公になるために。
岸や、花子と接していくことで、久我は変わろうとしているのかもしれない。



 同時刻、場所はイセキらがアルバイトを務めるメダロットショップ。
御昼時ということもあってか、店内には客は一人もいない。
それどころか、アルバイトであるイセキも倉庫裏でサボっているため、
実質店内は空の状態。そんなショップ内に、自動ドアを通って誰かがやってくる。
キャップ付きの帽子を、顔を隠すかのように深く被り、店内に
誰もいないのを確認すると、一つ安心したように息を吐き出して歩き始める。
不審な動きを見せるこの少年こそ、まさに月形一徳本人。
どういうわけか、月形はイセキとロッシュが働く、いや自分が元働いていた
メダロットショップを訪れていた。彼らとは袂を分かった身であり、
本来はまず出会うことはしたくないハズ。
だが、月形はここにきた。とある事を成し遂げるために。
月形は店内にとある入れ物があるのを確認すると、今度は目線を別の方向へ向け、
何処か懐かしむかのようにケースに飾られているメダロットを見つめる。

「(これは、KWG型ドークス。
 こいつを最初に選んでいたら、僕はどれだけ・・・)」

 ケースの先には、一式1万円の札と共に飾られていたKWG型ドークス。
対応力に優れており、月形が主戦場とする純正単機ロボトル以外の
3on3でも使用されることは少なくない。とは言っても、単機戦と比べて
3onでは純正で臨む必要性が限りなく少ないため、それほどお目にかかることは無い。
何処か羨望と、そして黒い憎しみの視線をドークスに向ける月形。
そんな彼の元へ、ゆっくりと何者かが近づいてくる。

「お客さん、
 どーしてもそのメダロットが欲しいのかい?」

「!」

 声の方に顔を向けると、そこには腕を組んだイセキが立ち尽くしていた。
幸い、まだイセキは彼が月形だということに気付いていない様子。
その証拠にすぐさま、近くにあったメダロットのカタログを
手に取って中古のドークス一式の値段を調べ始めてしまった。
これがいつものイセキの客に接する対応。それを見て、月形はひとまず
自分の正体がバレていないと安堵する。だが、次の瞬間には、
グズグズしていられないという焦燥感に駆られる。
イセキがカタログに気を取られている隙に、月形は当初の目的としていた
とある入れ物の場所を目で確認する。

「メダロットの好みは人それぞれだからな。
 見た目で選ぶのも良し、性能で選ぶのも良し」

「(そういえば、僕は安いものを選んだんだ。
 安くて、強そうなメダロットを・・・ユキりんと一緒に)」

「まっ、どんなメダロットを選んだとしてもよ、
 きっとおまえさんの良い相棒になってくれるハズだぜ」

「(・・・そうだ。
 途中でシンセイバーが勝ちづらいメダロットだって分かっても、
 それでも、それで勝った時がうれしくて、楽しくて。
 頑張っている自分が、トラが、好きで・・・)」

「で、坊主は一体どんなメダロットが欲しいんだ?」

「!
 ぼ、僕は・・・僕は・・・」

「?」

 イセキの一言に、逃げようとする足の第一歩が止まってしまう。
その言葉に、一瞬、意識を失ってしまうほど。
どんなメダロットが欲しいのか。自分が所有しているシンセイバーは、
トラは、本当に欲しいメダロットだったのか。
あの時選択した決断は正しかったのか、そう尋ねられているようで
素直に言葉を返すことができなかった。月形の右手が、震える。
その拳にはその問いの答えが詰まっているから。
何も答えが浮かばないまま、月形は口よりも先に足が動いていた。
そして、その右手の答えをとある入れ物に放り投げて、月形は問いに答えた。

「(みんな強いメダロットを使って、楽をして勝っている。
 僕の数時間の努力が、彼らにとっては数十分の練習なのに。
 妬みなんだけど、嫉妬なんだけど、くやしさなんだけど。
 僕はもう、その不条理が、不公平が、安直さが、欲望が許せなくて・・・。
 僕は・・・僕は・・・)」

「どうした?」

「僕は、僕は卑怯なメダロットが欲しいっ・・・!!」

 月形は急に駆け出し、店から飛び出てしまう。
その後ろ姿を唖然とした表情で見つめるイセキ。イセキからしたら
何が何やら分からない。結局、最後の最後まで彼が月形と分からなかったのだから。
月形の気持ちは一杯一杯であった。勝ちたい、生き残りたいという
信念のままに、ひたすらにトラと共に伴の元で特訓を重ねた日々。
だがどうしても、強メダとされる上位陣には不利は隠せない。
例え月形自身、トラ自身のレベルがわずかに相手のその上をいっていたとしても、
性能差で覆される世界。学んでいくうちに、痛いほどその現実を目の当たりにした。
だからこそ、決断した。愛情だけでは、愛着では、友情では足りない
勝利への数メートルを埋めるために。何の感情も持たず、勝てるメダロットを
使用をする彼らへの怒りを込めて、月形はここに来るしかなかった。
そして、いつかイセキも気づくであろう。この少年が月形であることに。
この入れ物、「忘れ物BOX」に月形が入れた、マネーメダルを見つければ。
トラの命が刷り込まれたマネーメダルを起動さえしてくれれば。



 それから12分後。
ようやくグッタリとした表情の岸が、光あたる場所へと戻ってくる。
それを確認した久我が、腕時計を一度確認し、花子と岸を呼び集める。
これから午後の練習に移るのであろう。

「午後は実弾を使った練習をする。
 練習用のパーツから、実戦用のパーツに入れ替えておけ」

 普段、コストの問題からかパーツ破損が生じないように練習用の
装備でロボトルを行っていた3人。しかし、いつまでも実弾を使わぬ戦闘を
繰り返していても、向上は無い。よって、2、3日に一度、彼らは
パーツ破損を了承して、より本番に近いロボトル練習を行っていた。
久我に指示され、各々練習用のパーツを取り外し、実践用のものへと組み替える。
その最中、ニヤリと不敵な笑みを浮かべる者が一人。

「(ようやく来たわ、この時が。
 わざわざ久我の家まで行った甲斐があったってもんよ。
 バレないように細工するのは大変だったけど、
 うまくいけば・・・!)」

 その正体は花子。実は花子は、岸の看病で久我家を訪れた際にとある細工
を行っていた。いや、本音を言うと、岸の看病などどうでも良かった。
この細工こそが、久我の家を訪れた最大の要因。
そして彼女は、この実践装備でのロボトル練習の時こそ、その芽が開花するのだと
確信していた。彼女が仕掛けた細工とは、一体何なのか。
そんな企みも知らず、久我は岸と共にロボトルを行う。

「(やはり接近特化機には、ミサイルを置くのが無難か。
 立ち回りを一方的に崩せるのは大きい)
 イーグル、リークハンドルで敵機周辺を攻撃!
 闇雲に撃つな、相手を四隅に追い詰めるようにだ!」

 久我が行っているのは、相手に命中させるためのミサイル攻撃ではなく、
相手の誘導、そして行動を先読みした「置き」と呼ばれる攻撃。
相手を直接狙うのではなく、地道に相手を束縛していき、詰んだ状態に
一気に攻めるという基本的な攻撃手段。特にこの戦法はフライイーグルと相性が良かった。
まずフライイーグルが飛行型というのが抜群。相手が格闘及び脚部が地上戦用ならば、
早々こちらに近づくのは容易ではない。阿呆のようにミサイルを連射していても、
相手が3流程度なら勝てる組み合わせ。問題は2流や1流を相手にした時。
必ず上級者は、こちらの放熱という隙を狙ってガン攻めしてくる。
故に、ミサイルを撃つという行為を、絶対に無駄にしてはいけないのである。
1発の無駄球が命とり。だからこそ、ミサイルを相手の誘導、置き攻めに使用し、
相手に好き勝手させないようにする必要がある。
実はこれが相手にとってかなり効果的。事実、相手はこちらに向かってミサイルを
撃ってきていると予測し、動いているのだから、まさかミサイルを置きに行っている
とは最初は予想できない。つまり、二択を迫られるのだ。
「こちらを狙ったミサイル」なのか、「置きによるミサイル」なのか。
ここでかなりの優位をつける。
この戦法を完璧なものとするため、今日も久我は置きによるミサイル攻撃の
精度を高める。相手の行動パターン、思考パターン、どういった展開でどのような
判断を取るのが確率的に多いのか。それを見極めようとしていた。
その時である。



 リークハンドルを撃とうとしたその刹那の出来事である。
フライイーグルが爆音と共に、爆発してしまう。
黒煙が立ち込める空中。久我は目を丸くして、叫んだ。

「い・・・イーグルーーーーーっ!!!」

 久我の叫びに口元を緩めるは、花子。
これを狙っていた。そしてフライイーグルは、1mmも動かずに
コンクリートの地面に叩き付けられる。

登場メダロット紹介&その他 ( No.102 )
   
日時: 2015/07/05 22:26
名前: ランド


・アセビ(ビートブレス)
 使用者:アセビ本人

 詳細は登場人物参照。
MJC秋季予選大会では仲間の補助もあり、決勝トーナメント1回戦を突破。
見事にMJC本戦への出場を決める。
本来の目的である「自分のマスターを探す」という点に関し、
上記大会中に甘酒アリカが自分のマスターである可能性が高いと判明する。
現在は嫌々ながらロッシュと二人きりで同居中。
伴監督のメダル潜在能力値テストでは20点中、未知数とされる。


・ヴィティス
 使用者:ロッシュ

1号機

 1代目のヴィティスは、サクリファイスで相手機を一撃で仕留めるという
一か八かの戦法の元、伴監督に推薦される。
性格は大人しく、マスターに忠実に従う一般メダルの典型タイプ。
ロボトル経験、戦術共に低いながらも、MJC春季予選大会突破の快挙を果たす。
だがしかし、メダロットを憎むマスターのロッシュによってつねに虐げられる。
ついには合宿中に逃げ出してしまい、その道中に野良メダロットか
夜盗の襲撃に遭い、メダルを破壊される。
伴監督のメダル潜在能力値テストでは20点中、16点とかなりの力を秘めていた。


2号機

 2代目のヴィティスは、1代目が壊れたことによって急遽合宿中に購入された。
性格は子供っぽく、マスターであるロッシュのことを「ママ」と呼んで懐く。
上記の1代目ヴィティスの件やロッシュ自身の心境の変化もあり、
現在まさに自分の子供のようにロッシュに可愛がられている。
ロッシュの知識力の高さもあってか、特殊ルールで久我にも勝っている。
だがしかし、メダル潜在能力値テストでは11点と、1代目より能力は低い。


・トラ(シンセイバー)
 使用者:月形一徳

 月形とユキによって、天領イッキを倒すべく購入されたメダロット。
性格は楽天家で、マスターである月形のことを「旦那」と呼んで親しむ。
主な戦法は登場人物参照。ピーキーな機体ながらも、月形とトラの懸命な努力の元、
MJC秋季予選大会を勝ち残り、本戦出場を決める。
現在、月形の意向により伴監督の家に住み込んで特訓を積んでいるのだが・・・。
メダルの潜在能力値は11点とされ、これが月形にある決意をさせてしまう。


・バッドハッカー
 使用者・岸真

 ロボトル制限時間一杯を逃げ切るという戦法のもと、伴監督に推薦されたメダロット。
性格は真面目で、軽い性格の岸にも忠実に従う。
MJC春季予選では組み合わせの妙もあり、初出場ながら3回戦進出と結果を残す。
だが秋季予選では1回戦で実力者とぶつかり、敗北を喫する。
作中でもっとも自己主張をしない、まさにお手本のようなメダロット。
潜在能力値は9点とかなり低めに見られている。


・フライイーグル
 使用者:久我二郎

 久我二郎と共に全国大会出場を成し遂げたほど、実力を持つメダロット。
大人しい性格であり、マスターである久我に全幅の信頼を寄せる。
戦法は上記の伴闘会の荒らし中心の戦法とは打って変わって、オーソドックス。
MJC春季予選は月形に負け一回戦敗退、夏季予選大会は2回戦負け、
秋季予選大会も同じく2回戦負け。
作中で勝利描写がほとんど無いという、マスターの久我共々不憫なメダ。
そして追い打ちをかけるが如く、さらなる不幸が・・・。


・レッドカペロ
 使用者:紅面ユキ

 ユキによって保護されたメダロット保健所出身のメダロット。
捨てられたメダロッターがロボトル好きだった由縁か、センス、戦術、立ち回り、
身のこなし等、イセキも感嘆させるほど類い稀な実力をすでに持っていた。
MJC夏季予選大会は3回戦負け、秋季予選は決勝トーナメント一回戦で
月形に当たり、敗北をしている。
しかし、ユキが自身の自己満足に自分を利用していると悟ると、
それ以降心を完全に閉ざしてしまう。果てには、試合中にユキに向かって憤慨してしまう。
だが、最後の最後、敵視していたユキに救われる形で、彼女の運命は再び変わっていく。


~ 伴闘会、メンバーのジャンケン図 ~


月形VSアセビ

 判定勝ち中心の月形対トリッキー戦術のアセビの図。
アセビはつねに月形の反撃を意識して立ち回りをしていかないとならないため、
そこですでに時間のロスをしてしまう。変化系の変化先はランダムのため尚更のこと。
一方、月形は自分の型通り、相手が遠距離だったら射撃、近づいてきたら
格闘を仕掛けるという理想の戦い方がし易い組み合わせ。
8:2で月形に有利な図。


月形VS岸

 判定勝ち中心の月形VS判定勝ち中心の岸の図。
月形最大の鬼門。回避の立ち回り中心で練習に励んでいるため、
序盤で岸に攻撃が当たらない限り、ほとんど敗北が決定する。
対する岸は一切の邪念を捨て、隠蔽を積むだけで勝利が飛び込む楽な道筋。
2:8、もしくは1:9で月形不利の図。


月形VSロッシュ

 判定勝ち中心の月形VS一撃ワンチャンス型のロッシュの図。
フィールドにかなり左右される組み合わせ。シンセイバー最大の強みである
反撃はサクリファイスに反応しないため、一見不利に見える。
しかしロッシュ側も回避は不得意なのでそこを詰めていけば勝機は見える形。
遠距離戦に持ち込めるフィールドなら月形有利、接近戦を強いられるフィールドなら
ロッシュ有利といった具合。
5:5、または4:6で月形不利の図。


アセビVS岸

 トリッキー戦術のアセビ対逃げ中心の岸の図。
岸側最大の難問。隠蔽で判定勝ちをする上で天敵である、必中武器の
アサッシン、ミサイル、ナパーム等に対応していかなければならない。
しかもそれをフェイントに使われ、戦術をかなり乱されるリスクも有する。
アセビ側はフィールド如何で多少苦戦は強いられるが、
必中武器を中心に攻めていければ取りこぼすことの無い組み合わせ。
7:3でアセビ有利の図。


アセビVSロッシュ

 トリッキー戦術のアセビ対一撃ワンチャンス型のロッシュの図。
フィールドが大よそのウェイトを占めるが、アセビ側が辛い組み合わせ。
飛行型ということもあり、体格の大きさがロッシュ側のサクリファイスの命中率を
さらに助長させてしまう。なおかつ、ロッシュは速攻型なので
悠長に適格な攻撃パーツを選べないことも戦況を不利にさせる。
ロッシュ側は忠実に、がむしゃらに接近、攻撃を当てる、このことを重視するだけ。
3:7でアセビが不利の図。


ロッシュVS岸

 一撃ワンチャンス型のロッシュVS逃げ中心の岸の図。
ロッシュ側がほぼ詰みの構図。命中中心の練習はしてるとはいえ、
隠蔽を一つでも積んだ岸側に攻撃を当てるのは至難の技。
しかもバッドハッカーに搭載された行動誘発がさらにロッシュ側を苦しめる。
よほど無茶を通していかない限り、絶望的な組み合わせ。
1:9、最悪0:10でロッシュ不利の図。

第88話「その声達」 ( No.103 )
   
日時: 2015/12/29 20:37
名前: ランド


「けっこうヒビ入っちゃってるわね。
 欠けてる箇所はここと、ここと・・・」

 油が染み込んだつなぎ服を着た女性が、破損したメダルを見てつぶやく。
現在時刻、17時43分。場所は河原。
フライイーグルのミサイルの謎の暴発により、機体内部が激しく損傷。
久我達3人は、急いでイーグルの修復及び診断を受けてもらうために
メダロットの工場や修理屋が無いかを散策。そして日が暮れそうな時に
ようやく見つかったのが、この移動ジャンク屋。
ジャンク屋がメダルの状態を分かる可能性は不明。だが、今は緊急事態。
誰かしらの専門家に見てもらいたかった。そうすることで落ち着きたかった。
不安そうに眺める岸。心配そうな演技をする花子。ただじっと、
黙って、怒りも、悲しみもせず、険しい表情でヒビの入ったメダルを見つめる久我。
それからしばらくして。額に溜まった汗を一度裾で拭って、
ジャンク屋の女性が後ろを振り向き、久我に話しかける。

「君のメダロットだったかしら」

「そうです」

「安心して。
 見た目は派手にいっちゃってるけど、コアはほとんど無事。
 また一緒にいられるわ」

「有り難うございます」

 女性は笑顔で、久我にメダルを差し出す。確かに、メダルにはかなり亀裂が
入っている状態であり、一目見ると完全に機能を失っているかのように見える。
しかし、メダルでもっとも重要なのは、中央に埋め込まれているコア。
ここさえ無事ならば、そこまで事が大きくはならない。
不幸中の幸いと言った所である。さすがの久我もこれには安心したか。
安堵した表情で、一つ息を吐いて、手の中にあるイーグルの命を見つめた。
ひとまず落ち着いて、頭の中の整理ができたのか、何かに気付いた久我は
すぐに右ポケットを探り出す。しかし、そこには望ましい感触がない。
バツが悪い表情を浮かべながら、久我は目の前の女性に話しかける。

「すみません。
 今、お金をほとんど持ち合わせていなくて」

「いいのよっ。
 これは普段からメダロットを大切にしている君への、
 ご褒美ということにしておいてあげる」

「なぜ、そんなこと」

「メダル装着口内部まで整備が行き届いているメダロットなんて、
 早々見かけないわ。
 良い子ね、本当に素晴らしいことだわ」

「・・・感謝します」

 女性に頭を撫でられ、きまずい表情を浮かべる久我。
修理代を無料にしてもらった女性に不躾な態度をするわけにもいかず、
久我はすっかりペースを握らされてしまっていた。
そんな久我にとっての悪夢と呼べる雰囲気を打開すべく、話題を別の
方向へと変えようとする。思いついたように、久我は女性に相談を持ちかける。
このイーグルのメダルが破損してしまったことの、原因を。

「暴発、かぁ。
 暴発したミサイルの型番は分かるかしら」

「すみません。
 普段から他社の製品と混合して使用していて、
 どれかとは・・・」

「そう。
 (とは言っても、厳重な審査を通ってロールアウトしたミサイル。
 無茶な使い方をしない限り暴発なんて考えられない。
 だとすると、正規の審査を受けていない違法ミサイル?
 可能性としてはそれが一番考えられるけど、
 この子がそんなものを使用するとは思えないわ・・・)」

「何か原因が分かりますか」

「ごめんなさい、ちょっと分かりそうにないわ。
 でも、とりあえず他社との混合使用は当分止した方が良いわ。
 これが直接の原因かは分からないけど、
 あまり良い影響を与えているとは思えないの」

「・・・分かりました」

 ここで素直に返事を返す久我だが、本音は従う気など毛頭無かった。
こうまで複雑に罠を仕掛けないと、冬季予選大会には、上級者には
通用しない。いや、もしかしたらこのような小細工、最後の最後まで
効果は無いかもしれない。だが、もしかしたら。
もし、勝率を1%でも増やせるのならば。その1%を、久我は逃せなかった。
それから一言、二言、自分達の素性や、どのようなタイミングで
この暴発が起きたのかを話し、夜が訪れたのを理由にして久我は帰ろうとした。
その帰り際である。女性が今までにない真剣な眼差しで、後ろ姿の久我を呼び止めたのは。

「君」

「まだ何か」

「貴方なら分かっているとは思うけど、
 一応言っておくわね。
 そのメダルでロボトルを続けるなら、メダルは壊れるわ」

「・・・」

「ちょっとでも強い衝撃を装着口付近に受けたら、
 恐らくメダルは割れてしまうわ」

「分かっています」

「うん、それなら良いの。
 貴方のメダロット、これからもずっと大事にしてあげてね」

 女性から発せられる言葉に、久我の隣にいた岸は驚くしかなかった。
当の本人の久我はそれほど驚いた様子は無かった。女性の言うように、
久我レベルならそれとなく察していたのであろう。そのメダルの損傷具合から。
だが改めて女性に言われ、久我の表情は険しくなる。
無情にも突きつけられた、死の宣告ともとれる呪縛。
「ロボトルをすればメダルは壊れる」。即ち、ロボトルを止めろとの忠告。
特に話を掘り下げることもせず、久我は女性に一礼し、足早に帰路へと進んでいった。
その久我の後ろ姿を、心配そうに見つめる女性。すると、後ろから彼女の
メダロットがひょっこりと姿を現す。
女性にハンドタオルを渡し、女性もそれに応じる。

「ありがとう。
 あの子、大丈夫かしら」

「ロボトルをしなければメダルは壊れないんでしょ?
 だったら大丈夫よ」

「(・・・恐らく、あの子は戦う気でいるわね。
 だからこそ、一切今後のメダルについての扱い方を聞いてこなかった。
 後悔だけは、して欲しくないけど・・・)」

「どうしたの?」

「ううん、何でもないわ。
 今日はここまでにしましょう。
 お腹も空いたし、体もクタクタだわ。
 ハニー、道具を閉まってちょうだい」

 女性も分かっていた。久我は戦う気でいると。
ロボトルをすればメダルが機能不全となってしまうダメージを負うことが
分かっていても、久我は戦いを止めるようなことはしないと。
だが、あくまでこれは久我自身の問題。故に、女性は強制することはできなかった。
それに信じたかったのだ。あそこまでメダロットをケアする人物が、
本当にそのような非情な決断を下すのか。
彼女はそのわずかな可能性を、信じるしかなかった。


 その頃、不幸のどん底に突き落とされたこの男は。
険しい表情を一切崩さず、イーグルのボディを抱えて黙々と歩き続ける。
その後ろを、きまずそうな雰囲気でついてくる岸と花子。
久我は未だにボディにメダルをはめることができなかった。
イーグルに何と言葉をかけてやれば良いのか分からないのかもしれない。
いや、逆にそんなことはどうでもよくて、早く家に帰ってメンテナンスを
したいだけかもしれない。久我は黙って、ただただ歩き続ける。
そのうち、いてもたってもいられず、岸が久我の横まで来て話しかける。

「久我君、まさか」

「黙ってろ。
 おまえらは先に帰れ」

 岸は聞きたかった。「本当に戦う気でいるのか」と。
それを勘づいたか、久我は岸の言葉を制するように、彼らに離れるように指示。
岸と花子を置き去りにして、久我はイーグルと共に夜の商店街へと
向かってしまう。あの修理工の女性でなくても、第3者である岸であっても、
久我があのボロボロのメダルのまま戦う気でいるのは感じ取っていた。
だが、それでも真意を確かめたかった。本当に、そのような残酷なことをするのか。
いくらストイック、冷酷で、生意気な久我であろうと、
自分のメダロットを犠牲にするようなことを本当にするのかどうか。
ある意味で信じたかったのかもしれない。岸が自分で師匠と認めたこの男が、
そのような下衆なことをする輩かどうか。
真意を確かめられぬまま、久我の姿は夜の街へと消えていった。


 夜の商店街は、会社帰りのサラリーマンで溢れかえっていた。
至る所で、阿呆のような笑い声が聞こえてくる。その熱気と、人工的な光と、
汚らしさの中を、久我は一人、歩き続けた。
そのうち、ふいに立ち止まる。目的の場所に来たという立ち止まり方ではない。
ただ何となく、というぐらいの止まり方。久我は店の看板を確認すると、
特に迷うことなくドアを開いて店の中に入る。
入った店は寂れた中華店。油臭い臭いが充満し、テーブル、イス等も傷みが激しい。
一昔前の怪しい雑誌が並べられ、ボロボロになったポスターが一枚、
壁に貼られている。店の中には客が一人、二人程度だった。
久我は一度辺りを見回してから、カウンター席へと足を進める。
久我の存在に気付いたのか、60歳くらいの店長が水を差し出すと共に声をかける。

「いらっしゃい。
 ご注文は決まりましたか」

「・・・ギョーザ一人前。
 両面焼きの、にんにく抜き」

 久我の注文を聞き、嫌そうな表情をしてうなずく店長。
最初から餃子を食べたいが故に、これほど早く注文が言えたわけではない。
ただ、たまたま目に入ったメニューが餃子だっただけのこと。
正直な話、久我はお腹など空いていなかった。餃子など食べたくなかった。
ではなぜここに来て、餃子を食べているのか。久我も実際、よく分からなかった。
しばらくして、覚悟を決めたようにポケットに突っ込んで置いたメダルを
取り出して、フライイーグルのボディにはめ込む。
数秒、起動準備の処理をしてから、フライイーグルはその体を動かし始めた。
久我は隣にあったイスを足でどかして、イーグルのためにスペースを確保する。
イーグルもその意志を悟り、空いた場所に移動する。
フライイーグルはあの内部爆発の時にショートを起こしており、
それ以降の記憶が無かった。だが、内部爆発があったという事実は把握していた。
内部爆発がなぜ起きて、そしてその後、自分の体に何かあったのか。
その事実だけが知りたかった。久我の顔をじっと見つめるイーグル。
久我は一向にイーグルの顔を見ようとせず、前だけを見つめる。

「内部爆発の原因は分からなかった。
 だが、三度起きるようなもんじゃねぇらしい」

「はい」

「それで、だ。
 内部爆発の際におまえのメダルが傷ついた。
 とは言っても、少し角が欠けた程度で済んでいた。
 それでも傷ついたことには変わりはない、
 今後はメダル装着口を多少なりとも意識して戦う必要性はある」

 久我は嘘をついた。イーグルのメダル状態は最悪であり、あと一度でも
大きな衝撃を受ければ粉々になるほどのものだと。
言うことができなかったのか、あえて言わなかったのか。
表情一切変えずに語る久我に対し、イーグルは何の疑いもせずに
相槌だけを淡々と取る。

「ある意味で良い方向に転じたと考える他無い。
 可能性は限りなくゼロに近いとは言え、
 おまえはつねに死のリスクを背負っていることになる。
 つまり、俺とおまえは、以前よりも戦闘に対し真摯に、
 集中力を増して立ち向かえるハズだ」

「・・・確かに。
 ではマスター、以前から課題としていた
 低空飛行での戦闘をもう一度取り組んでみましょう。
 あれをモノにできれば、さらに戦術が広がります」

「そうだな、そうだ。
 そういうことなんだ、イーグル。
 つまりだ・・・」

「?」

「つまり、俺のために・・・」

「マスターのために?」

「・・・」

 悲壮感を無理やり勝機へと結びつけることで、自分への罪悪感と
イーグルへの情を有耶無耶にしようとする久我。
だが、最後の最後にボロが出てしまった。吐き出してしまった本音の
肝心部分を言い切れないまま、久我は目の前に置かれてある無味の水を
見つめたまま凍ってしまった。こんなやり切れない境遇になぜ陥るのか。
どうして自分ばかりがこのような目に合うのか。この悲しみは、怒りは、
殺意は、苦しみは、どうすれば解決し、自分とイーグルを昇天させることができるのか。
微動だにしなかった久我の唇が、ようやく動き始める。

「イーグル、俺のためにし・・・」


「おやじー!ビールいつまで待たせてんだー!!」

「あのクソ上司、はよ消えろっちゅうねん。
 邪魔だっつーの」

「はい、はいっ!
 次の商談までには、前回問題点だった価格面を、はい、はいっ!」

「このラーメン、あんまうまくねぇな」

「だからリューキ君にしなって!
 絶対カッコイイし、お金も持ってるじゃん!」

 騒がしくなり始める店内。それは、久我とイーグルの会話をかき消すほどの。
酔った有象無象達が不平不満を並べ始める。誰もが苦しみ、誰もが
精神を削り、誰もが病みながら、夜の光に絶望を曝け出す。
そんな他人のことなど露知らず、久我は怪訝そうに目障りな後方を
数秒間睨みつける。自分とイーグルが存在意義を賭けて語っている場なのに、
こんな生きるか死ぬかの場なのに、どうして雑魚は騒ぎ喚くのか。

「ッチ、クズ共が騒ぎやがって。
 だからだな、イーグル。
 俺のために・・・」

「あのメダゲー、マジでおもしろいっすよ!
 先輩もやりましょうよ!」

「おまえ焼酎いけるよな?
 今日はビールだけじゃ許さねぇからな、焼酎だ、焼酎!」

「おまえのそういう所が駄目なんだって。
 なんでもハイハイ言うから、先方から丸めこまれるんだよ。
 分かってんのか?」

「だからビールが遅ぇっての、親父!!」

「(・・・。
 あぁ、そうか。
 そういうことか、イーグル・・・)」

「総務課の加奈ちゃんの連絡先知ってんの?
 マジかよ、おしえてくれよ!!」

「今度の日曜またゴルフすか?
 もう勘弁して下さいよ」

「あの教授マジでうぜぇんだよ。
 なんで一回サボっただけでB判定くらうんだよ、カス!」

「(俺の声なんて、おまえの存在なんて、こんなもんだったな。
 こんな騒々しさの一部でしかなかったんだな。
 俺とおまえの最後の言葉なんざ、結局、こいつらの愚痴と・・・)」

 久我の火照っていた感情は一気に冷め、急に笑いたくなってしまった。
何を自分は勘違いしていたのか。自分自身の、フライイーグルの存在を
考えれば、そんな騒音など意識するハズなど無いのに。
気付けば、目の前に頼んでいたギョーザが置いてあることに目がいく。
キョトンとしたままのフライイーグルを置き去りにして、久我は
割りばしを雑に二つに分け、ギョーザに手を伸ばそうとした。
だが、そのギョーザは久我の欲求を満たしていなかった。

「ん?
 おい、両面焼きじゃないのぞ、このギョーザ。
 どうなってんだ、おい!」

「最近パチスロ負け込んでて金やべーわ。
 貯金おわってんだけど」

「この後カラオケでも行く?
 ヤッチと、コジローも誘っとくからさ」

「アンタまだ田口と付き合ってんの!?
 あんなバカ男のどこがいいわけ?」

「・・・こんな声も届かねぇか」

 久我はついには頭を上げ続けることすら疲れてしまった。
頭を下げ、割りばしを掴んだまま動かない久我を、フライイーグルは
じっと見つめた。そして、この時フライイーグルには今までにない
熱い想いと、覚悟が芽生えていた。今までにないほど、力強く。
自分達は、勝つしかないのだと。

第89話「MJC冬季予選大会開幕」 ( No.104 )
   
日時: 2016/02/06 20:42
名前: ランド


「もーーーっ!!」

 アセビの悲痛な叫びが、太陽が顔を出し始めた空に消えていく。
今日は11月某日の日曜日。
雪は降らねども、外出するという選択肢を抹殺するほどの気温。
行き交う人々の吐く白い息と、重装備の服装がそれを物語っていた。
だが、それでも今日は外に出ねばならない理由があった。
メダロットを、ロボトルを愛する者ならばなおさらのこと。
それはこのアセビ、そしてロッシュも例外ではない。
冷たい空気を肌で受けながらも、息を荒げて、大通りを全速力で駆け抜ける。
ロッシュはより速く走るために、本来の4足での走り方に戻し、
アセビは飛行パーツの状態で移動する。
その間にも、相変わらずこの二人は口喧嘩を絶やすことは無い。

「完全に遅刻じゃないっ!
 電卓なのになんで目覚まし時刻に
 起動できないのよ!」

「そ、そ、それは7時と8時を間違えたからだいっ!
 アンタだって、さっきまで
 散歩してたチワワと睨み合って時間無駄にしたでしょ、女狐っ!」

「お、お腹が空いてたのよっ!!」

 両者、睨み合いながらも目指す場所はたった一つ。
その場所に近づくにつれ、パンフレットやメダロッチを凝視して
歩く人々が増えていく。そう、今日はMJC冬季予選大会小中学生の部が行われる。
この国営ロボトルスタジアムを目指して、何万もの観客が訪れる。
春夏秋冬の計4回行われるMJC予選大会。そのうちの冬季予選は、
予選最後の大会ということもあってか、夏の次、そして春予選と同じくらいに
客入りを見込める大会。それもこれも、大会のレベルが4回のうちでもっとも高い
とされること。そして、何より冬季予選に出場しているメダロッターも
すでに後が無いために、より白熱したロボトルが見れるという触れ込みがある。
人混みを掻き分け、階段を登って、ようやく二人は国営ロボトルスタジアムへと到着する。

『ただいまより、小中学生の部1回戦を行います。
 観客の皆様はすみやかにお席にお戻りください。
 また、諸注意です。
 お席を立つ際には、必ずお荷物と共に・・・』

 1回戦の開始を告げるアナウンスが、スタジアム内外に響き渡る。
そのアナウンスを聞いて、二人はさきほどのよりもスピードを上げて
走り始める。一方で、スタジアム内では。
すでに客席には、律儀にもアセビとロッシュの2席を確保して準備万全の
イセキがいた。二人の遅刻に半ばあきれながらも、あくまで目線は大会。
メダロッチにて公示されたトーナメント表をじっくりと眺める。
そのイセキの後ろで、なにやら二人の若者の声が聞こえてくる。

「今回のMJCは前よりマシそうだな。
 強豪所がだいたい出てるしよ」

「シデンと、最近強くなってるカラスってのが出てないのがなぁ。
 何でランキング1位のシデンと天領の試合が見れねーんだよ」

「まぁまぁ。
 結局、MJCって運ゲだから計算高い奴は嫌がるんじゃね?
 それに本番の3on3だってそろそろ近いだろうしさ」

 イセキの耳に入る若者達のありきたりの玄人を装った会話。
だが実際の所、彼らの言っている事自体は的外れというわけではない。
ロボトルランキング1位に君臨するシデン、そして小中学生部で
敵無しと言われる強さを誇る天領イッキ。
公式戦でもまだ実現していないこの誰もが待ち望むロボトル。だが、
結局今回の冬季予選にシデンの名がエントリーされることは無かった。
むしろ、こういうお祭り的な、勝ち負けが経歴に直結することのないMJC
だからこそ、空気を読んで出てきて欲しいという気持ちが観客側から
してみたら当然あった。それもこれも、シデンには大会には出れない
当然の理由があるのだが。
そんな会話を一つ鼻で笑い、イセキは再び注意を手元のメダロッチへと向ける。
その時であった。ようやく、息を切らしたこの二人がやってきたのは。

「おっ。
 間に合ったか、遅刻組」

 イセキが茶化しながら、やってきた二人にペットボトルの飲み物を手渡す。
訪れたのは、汗だくになったロッシュとアセビ。二人は一度
数秒間の睨み合いをしてから、顔を互いに反対側に向けて席に座る。
そんなお互いに敵対心たっぷりの二人でも、気になることはやはり一つ。
この冬季予選に出場している、元同居人でもあり、仲間でもある岸の試合。
当然ながら、この冬季予選に出場している強敵メダロッターの視察及び
記録を取るのも目的の一つではあるが、やはりそれよりも岸の動向の方が二人の
頭を支配していた。先にイセキに話を振りかけたのは、ロッシュ。

「どうなのよ先輩。
 岸の相手は」

「相手は与那嶺ヒロト・・・沖縄県民か。
 使用メダロットはプレコグロスス」

「またマイナーなメダロットね。
 確か症状系メダで、かなり調整を・・・」

「そう、初期型はかなり高性能だったメダロットだ。
 ちょっと前の症状系パーツの底上げの煽りをモロに喰らって、
 一時は環境トップクラスに君臨したが、
 調整に調整を重ねられて今は見向きもされてねぇ」

 イセキの語るように、このプレコグロススと同じ世代で発売された
症状系の武器を持ったメダロットシリーズは、発売当初はかなり優遇を受けていた。
それもこれも、それまで産廃とまで呼ばれていた症状攻撃の改善の恩恵を
受けたメダロットであり、発売当初はそれまでの症状攻撃の不遇っぷりを
晴らすかのような活躍を見せていた。しかし、それはあまりに行き過ぎたために、
調整が入る度に弱体化が図られ、今では大会で見ることがまずないであろう
というほど、マイナーメダロットに成り下がってしまった。
それを監督から聞いていたのか、ロッシュもアセビもそれ以上話を
深堀することなく、イセキと共に話を続ける。

「だが、それでも両腕のウェーブは厄介であることこの上無い。
 加えて、頭部の継続リペアで自力回復もできる。
 単機戦という枠組みだけで考えれば、
 それほど悪い選択じゃないぜ」

「ふーん。
 岸とのマッチアップで考えてみると、
 それなりに有利になるのかしら」

「どうだがな。
 ガン攻め系だったら厳しいだろうよ。
 当然、命中させることに練習を特化させているだろうからな。
 だが・・・」

「オールラウンドに育てているなら、勝ち目はあるわね。
 というよりも、症状系メダを使う奴が、
 攻撃主体の戦法を取ってくるなんて考えられないけど。
 基本的に、症状系を使うメダロッターは症状でハメてロボトルを有利に
 持っていこうとする展開が多い。
 わざわざ危険な行動を犯すとは思えないわ」

 ロッシュはこの岸対与那嶺戦、岸に若干の分があるのではないかと説いた。
それはこの岸の逃げによる判定勝ち戦法と、症状を駆使してのハメ戦法
との相性を考えてみることによって、答えは導き出される。
症状攻撃でロボトルを展開する場合、「守備」がとても重要視されてくる。
それは、症状攻撃の弱体化による決定打の欠如によって、
相手メダロットを時間内に機能停止までに持っていくことができる可能性が
それほど無いことに起因する。よって、相手にじわじわと症状負担をかけつつ、
細かい攻撃を繋いで行ってロボトルを有利に進めるというのがセオリーになる。
岸ほどではないが、大方判定勝ちを主体のロボトル。
よって、どうしても回避・防御を攻撃よりも優先して育成していかなければならない。
そうすることにより、岸の勝利の希望が開花する。
極端に言えば、隠蔽を1、2回積んでしまえば、もう相手は二度と岸の
メダロットには命中することができない可能性すらあるのだから。

「そう、伴沖次郎に教わったのか、ロッシュ?」

「!
 い、いけないのかしら」

「良い線言ってるって話さ。
 (ロッシュの言っていることは十中八九当たっている。
 症状系パーツは装甲が薄いのがデフォルト。
 わざわざ乱打戦を仕掛けることはゼロに等しいと考えて良い。
 故に、命中よりかは回避防御に長けているハズ、だが・・・)」

「でも、岸レベルじゃ隠蔽を3回くらい積まないと安心できない。
 フィールドにもよるけど、速攻仕掛けられたら終わりね」

「まーな。
 (正直言うと、速攻を仕掛けてくる可能性はほぼ無い。
 バットハッカーということも考慮して、必ず最初に頭部の継続リペアを積むハズ。
 だから無条件で一度、隠蔽はできる。
 だが、問題はその後だぜ。
 一番怖いのは、相手が継続リペアで準備を整えている間に岸のガン逃げ戦法が
 悟られてしまうこと。
 岸の戦法は言わば、初見殺しの意味合いがとても強い。
 故に、序盤に悟られれば、これほどモロいものは無い)」

 イセキが想定したもっとも恐ろしい展開は、初手の行動で岸の戦法が見透かされること。
岸とて、こちらの戦法が悟られぬように動きはするであろうが、
それが何処まで相手を縛れるのかもまだ未知数。
持久戦を想定したメダロット同士が当たってしまったこの1回戦。
果たして、勝利の女神はどちらに微笑むか。イセキは岸の成長を見れるという
楽しみ反面、それが脆くも砕かれるやもしれないといった恐怖半分といった所だった。
様々な思惑を乗せ、ついに始まる。最後となったMJC冬季予選大会。
泣いても笑っても、今年最後の予選大会。ここでベスト16に残らなければ、
本戦には決して進むことができない。
 時計の針が、午前8時56分を指す。

「試合開始まで残り数分となりました。
 解説の中村さん、冬季予選大会は一体どのような点に注目したら
 よろしいのでしょうか?」

「そうですね。
 MJC予選最後の大会ということもあり、
 参加しているメダロッターは一番、気合が入っていると思います。
 そのメダロッターの、まさに全てを掛けた、熱い一戦を一つ一つ、
 見逃さずに観戦して頂きたいと思いますね、はい」

「冬季予選、非常に楽しみになってきますね。
 それでは、いよいよ冬季予選大会第1回戦が始まります」

第90話「その男、立花リュウに」 ( No.105 )
   
日時: 2016/05/01 21:01
名前: ランド


「再びサイカチスの弾丸が命中。
 相手のレッドマタドールがかなり苦しい立ち回りを強いられてきました。
 解説の中村さん、さきほどとは打って変わって
 サイカチスの攻撃が通るようになりましたね」

「そうですね。
 サイカチス側が攻撃をかなり遅らせてきてますね。
 さきほどまでほぼ完璧に防御行動をこなせていたレッドマタドールですが、
 緩急ついた攻撃にタイミングが徐々に狂わされているようです」

 現在時刻午前9時6分。すでに第1回戦が各ブロックにて開始されている。
テレビ中継では現在、Cブロックの田中ジョウ選手のサイカチスと赤井鉄選手の
レッドマタドールのロボトルの様子が映し出されていた。
外の冷え込んだ空気をものともしない熱気が、スタジアム内に
漂い始める。その火種の一つでもある男が一人、Bブロックの待機エリアに。
その男の名は岸真。試合開始のギリギリまで、愛機バッドハッカーの
メンテナンスに汗を流す。
そして、ついにCブロック1試合目の終わりを告げるレフェリーの声が聞こえる。
その声を聞いて、岸はメンテナンスの手を止める。
一つ、長い深呼吸をする。緊張はしているが、ほどよく集中できている状態。
本人もそれを自覚できている。今の岸のコンディションはベスト。
後は、自分を信じて、バッドハッカーを信じて、戦うのみ。
バッドハッカーを自分の対面に向けさせ、膝を目線まで落とし、語りかける。

「バッドハッカー、
 これが最後の予選大会だ。
 もう後は無い、だけど・・・」

「そこで勝つのがもっともカッコイイ。
 ですか、マスター?」

「おっ、ノリがいいな!
 今ゴキブリ界で一番輝いているのはおまえだぜ、色々とな。
 まぁまぁ、だからこそよ、バッドハッカー君。
 カッコイイ所は見せびらかしても、
 勝利の可能性の低さと、カッコ悪い所と、おまえの残像だけは、隠していこうぜ!」

「はいっ!!」

 バッドハッカーの背中を一つ、ポンっと叩いて、一人と一体は前へ進みだす。
歩む先は戦場。希望と絶望が渦巻く、可能性の市場。
ここで自分を殺すか、生かすかは全て己の運と力のみ。
早くなっていく胸の鼓動を、息を吐くことで緩和しながら、岸は
フィールド中央へと向かう。すでにレフェリーと相手の与那嶺が待っている。
ここから勝ち進まなければ、岸の妻であるミネルと再会する可能性はほぼ無くなる。
この世界に来た意味が、ここまでの努力が、すべて無と化すやもしれぬこの一戦。
ついに岸は足を止め、勝負という名の魔物は目を開ける。

「Bブロック56番無所属、岸真選手。
 同じくBブロック57番無所属、与那嶺選手。
 間違いありませんね?」

「はい」

「確認します。
 フィールドは草原、制限時間は8分間。
 リタイアする場合はポジションに設置してある赤いボタンを押して下さい。
 なお、戦闘不能と判断した場合はこちらから止めます。
 では、両者メダロッターポジションへと移動して下さい」

 与那嶺も緊張しているのか、目線をキョロキョロとさせ落ち着きが無い。
岸もレフェリーの説明は耳には入っているが、意識的には入って来ない。
どちらも人間、どちらも子供、どちらも勝ちたい気持ちは一緒だった。
二人は説明を聞きえると、互いに背を向けてポジションへと何も言わずに
歩み始める。その重苦しい背中を、厳しい目で見つめる観客席のイセキ。
ロッシュやアセビもまた、岸がかなり追い詰められているのだと気づいていた。

「(岸ちゃん、顔がいつもと違う。
 表情が緊張してるっていうよりも、強張ってる。
 岸ちゃん・・・苦しそう)」

「ちょっと電卓。
 前に出過ぎなのよ、失せなさい」

「へーんだ、どかないよーだっ!
 それより岸ちゃん、フィールドは草原だからこっちが有利!
 思う存分、逃げ回れるっ!」

「(反面、草原フィールドは障害物が少ない。
 完全に姿を眩ますということはまず不可能。
 この電卓みたいに、足音で相手の位置を特定するなんてキチ害みたいなことは
 してこないでしょうけど、あまりフィールド恩恵は無い。
 まぁ、見せてもらおうじゃないの岸。
 アンタのこれまでの特訓の成果を)」

 選ばれたフィールドは草原。姿を何とか隠せるほどの岩が点々としているだけであり、
至ってオーバルなフィールド。初心者から上級者まで、癖が無く
好まれる。だが、岸の立場に立ってみると、実はあまり面白くない。
特に目立ったフィールド活用が無いのだ。オマケに、身を隠せるほどの
岩はあるとは言うものの、精々フィールドに3、4ポイント程度。
相手の目から終始逃げ切るということがまず無理な状態。
けれども、前回1回戦で当たったサイバーフィールドよりはマシだと思って
前向きに考えるしかない。
目を閉じて、耳から入ってくる観客の声も遮る。もう一度、集中力を高める岸。
岸にとっての、人生最後やもしれぬ大会が今、幕を開ける。

「それでは、ロボトルファイト!」




 一方で、Dブロックでは3試合目が今、終わろうとしていた。
放たれたミサイルが、半壊状態のダッシュラプトルの頭部パーツに直撃する。
金属音を含んだ爆発が巻き起こる。その黒煙が晴れると共に、
頭部を地面に叩き付けているダッシュラプトルの姿と、そのメダルが浮き上がる。
それを見た瞬間、項垂れる相手のメダロッター。そして、
手に持ったフラッグを天高く突き上げるレフェリー。

「そこまで!
 勝者、フライイーグル、久我!」

 Dブロック1回戦3試合目の勝者は久我二郎。伊達に全国大会に
出場はしてないと言った所か。危なげない試合運びで1回戦を突破。
2回戦へと駒を進める。相手のメダロッター、そして久我もフィールドに
取り残された自分のメダロットの元へと歩み寄る。
久我はフライイーグルに特に被弾が無いのかだけを確認すると、
別段褒めることも敬うこともせずに、そそくさとフィールドを後にしようとする。
だが、ふと足が止まる。目線が、相手のメダロッターの方へと流れる。

「くそっ!
 今度こそ絶対に勝ってやる」

 相手メダロッターから発せられたくやしみを表した台詞。
特に何の変哲もない言葉。だが、久我はその言葉を聞いて表情を強張らせる。
そして、さきほどよりも不機嫌そうに足音を大きくして
フィールドを立ち去っていく。

「(クズが。
 一生同じ台詞を吐いてやがれ)」

 久我は嫌悪を覚えていた、この相手メダロッターに対して。
まさに主人公やメインキャラクターの餌としか存在し得ない、名も無きメダロッター。
彼は今日もまた、誰かに負けるためにこの大会に出場している。
その決まりきった行動を繰り返す彼が、阿呆のように主人公をサポートする彼が、
時に久我自身の邪魔をする彼が、道具でしかない彼が、無償に腹が立った。
それは、少し前までの自分を見ているかのようで、余計に神経に触った。
久我はそのまま選手用の通路を通り抜けて、飲み物を買うために
スタジアム内の売店エリアへと進む。
幸い、ロボトルでのダメージはほとんどゼロに近かった。
そのため、次戦に向けてメンテナンスをする必要も無く、ある程度の
休息の時間を得られていた。
自動販売機にコインを入れて、おしるこを購入する久我。缶のフタを開けて
口に含もうとしたその時であった。

「久我師匠、見事でした!
 おめでとうございます、1回戦突破!」

「おまえか。
 当たり前だ、あんな雑魚に負けるかよ」

「(雑魚って、ブーメラン飛ばすのが上手いね久我君は)
 あ、あんな雑魚って酷いです久我師匠!
 相手だって・・・」

「立花リュウ。
 端役の分際で目立つ名前してやがるから覚えちまった。
 どうだ、これで満足したかよ?」

「え?」

「(こんなことでしか抵抗できねぇとはな)」

 花子にとっても、我々にとってもまるで意味の無い久我の発言。
こんな2度と現れないであろう男の名をなぜ久我はわざわざ言い出すのか。
物語を進行する上であまりにも無駄としか思えない台詞。
第3者からの修正が入ったならば、速攻削除されるであろうこの久我の言葉。
だが、これこそが久我の抵抗であった。端役として未だに
餌の立場であり続ける久我の、わざかな抵抗だった。
この無駄な一文こそが、自分たち、クズの、端役の証明だった。
未だ久我の投げかけられた言葉に戸惑いを隠せない花子に対し、
これ以上詮索を掛けられぬようにと、久我はすぐさま別の話題を振る。

「おまえはどうだったんだ。
 もう試合は終わったハズだぜ」

「題名をつけるとしたら、”花子、朝日に散るっ!!!”
 ですっ!!」

 特にロボトルで勝つ意志も無ければ、熱心にロボトルの練習もしていない
ため、花子は当然のように1回戦で敗北を喫していた。
久我も特に驚く素振りを見せることなく、淡々とその結果を受け入れる。
久我自身も花子の成長を心の何処かで見限っている節があった。
故に、花子は完全に本来の目的である「動く的」程度にしか捉えていなかった。
だがもう片方の的は違う。久我は手に持っていたおしるこを口に含みながら、
目線を、戦場へと、ロボトルフィールドへと向ける。
口にこびりついた餡子を拭いて、花子に語りかける。

「アイツのブロックは何処だ」

「岸さんですか?
 Bブロックだったハズです」

「Bブロック・・・。
 あそこか」

 花子に指摘されたBブロックを遠目から見つめる久我。
花子よりはまだ多少なりとも実力はある岸。たった数か月とは言え、
同じ屋根の下で生活し、共に汗水流した仲。全くの無視ということはできなかった。
果たして、岸と与那嶺とのロボトルは現在どうなっているのか。
観客席で岸の試合を最初から観戦していたイセキ達の表情がその全てを物語っていた。
厳しい表情を崩さないイセキ、そして何処か退屈そうに、あくびすらし始めるロッシュ。
心配そうに岸を見つめるアセビ。彼らの表情から導き出せる答えは一つ。

「やっちまったな、岸の奴。
 偶然か否か、こうなっちまうとはな」

「本当、退屈な試合を見せてくれるわね。
 開始から5分以上経っているのに、
 まだお互いに1回も攻撃を通していないなんて、気が狂いそうになるわ」

 そう、岸対与那嶺のこの第1回戦。すでに試合開始から5分経過しようと
しているのに、互いに一度も攻撃を繰り出すことは無かった。
フィールドには、右手を前に突き出して牽制の構えをするプレコグロスス。
そして、草原フィールドに設置された岩の影に隠れて、ひたすら
自分の逃げの戦法に型をはめるバッドハッカー。
この状況、まさに試合開始前にイセキが恐れていた最悪の展開になってしまったのだ。
岸の逃げの戦法が勘付かれ、相手が攻撃をしてこなくなってしまったのだ。

「悪い方に予想通りになっちまったな。
 試合開始と同時に相手は頭部リペア、岸は頭部隠蔽。
 そこからここまでずっと膠着状態か。
 岸も下手なりに攻撃のフェイントを混ぜてはいたんだけどな・・・
 どうにも、奴さんには見抜かれちまったみたいだな」

「春季予選大会でもあったわね、この事故。
 お互い、手を出したら判定負けするっていうこの状況。
 バッドハッカーが仕掛けたとしても、攻撃は命中するか微妙な所。
 まぐれで当たったとしても低威力に加えて、継続リペアで確定ダメージは取れない。
 結局、回避された数の方が上回って岸の判定負け・・・」

「(まぁとは言え、これでも五分の勝負に持っていっているって意味では、
 岸の作戦勝ちとも思えなくもないのかね。
 相手も相当動揺しているだろうが、岸も焦ってんだろうな。
 ここから、ここからだぞ、岸。
 おまえの成長を見せるのは、ここからのハズだぜ)」


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