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RSSフィード メモリアルリミット ~Limit of memories~

日時: 2013/05/25 02:20
名前: メダフィーミング・KR

◇諸注意&余談的近況報告
 皆さん、こんばんは。このHNを名乗るのも何年ぶりだろうというくらいご無沙汰しております。
 今回の私の小説ですが、前作"記憶を旅して"の正式な続編となりますので、前作をお読みくださると嬉しく思います。
またメダロットに関係ない恋愛小説ですみません! マイペースに書いていきますので、お付き合いいただければ幸いです。


◇あらすじ
 確かな記憶を取り戻し、最も大切な人の存在に気付いた夢原深也。それを可能にした幼馴染の春崎望。
困難を乗り越え、幸せを得た二人に奇妙な兆候が表れ始めたのは、あれから一年の歳月を経て、高校卒業を間近に控えた頃だった。
 成長した二人の織り成す恋物語が、今再び動き始める――


◇メモリアルリミット ~Limit of memories~ (本編)
~目次 Contents~
>>1 ~登場人物 Characters~&~序章 Prologue~
>>2 ~第1章 Anniversary~
>>3 ~第2章 Recollection~
>>4 ~第3章 Suggestion~
>>5 ~第4章 Graduation~
>>6 ~第5章 Celebration party~
>>7 ~第6章 Newcomer~
>>8 ~第7章 Conversation~
>>9 ~第8章 Recreation~
>>10 ~第9章 Movie theater~
>>11 ~第10章 Time of us~
>>12 ~第11章 Preparation~
>>13 ~第12章 University life~
>>14 ~第13章 Shade of heart~
>>15 ~第14章 Driving school~
>>16 ~第15章 Confusion~
>>17 ~第16章 Suddenly~
>>18 ~第17章 Reflection~
>>19 ~第18章 Sea and BBQ(1/3)~
>>20 ~第19章 Sea and BBQ(2/3)~
>>21 ~第20章 Sea and BBQ(3/3)~
>>22 ~第21章 Fireworks display~
>>23 ~第22章 The first driving~
>>24 ~第23章 Doubly blessed~
>>25 ~第24章 Music festival~
>>26 ~第25章 Calculation~
>>27 ~第26章 Discouragement~
>>28 ~第27章 Ring of the oath(1/2)~
>>29 ~第28章 Ring of the oath(2/2)~
>>30 ~第29章 Sorrowful back~
>>31 ~第30章 Lovers' quarrel~
>>32 ~第31章 Invitation by Mai(1/2)~
>>33 ~第32章 Invitation by Mai(2/2)~
>>34 ~第33章 Second anniversary(1/2)~
>>35 ~第34章 Second anniversary(2/2)~
>>36 ~第35章 Presentiment~
>>37 ~第36章 Start of accident~
>>38 ~第37章 Advice of Mai~
>>39 ~第38章 Reason for the rage~
>>40 ~第39章 Farewell letter~
>>41 ~第40章 Lost of memories~ 【望side1】
>>42 ~第41章 Anguish of Shinya~
>>43 ~第42章 A wonder person~ 【望side2】
>>44 ~第43章 Determination~
>>45 ~第44章 Blackout~ 【望side3】
>>46 ~第45章 Everlasting love~
>>47 ~終章 Epilogue~
>>48 ~筆者のあとがき~


◇メモリアルリミット ~Side memories~ (短編)
~目次 Contents~
>>49 ~第1章 二人の馴初め~  【五月side】
>>50 ~第2章 男は黙って謝罪~ 【五十嵐side】
>>51 ~第3章 あたしは大丈夫~ 【九条side】
>>52 ~第4章 守りたい人なら~ 【桜木side】
>>53 ~第5章 歩いていこう~  【初音side】
>>54 ~第6章 退院おめでとう~ 【司馬side】
>>55 ~本当に 最後のあとがき~ 【筆者side】


◇最終更新
 2013/5/25 メモリアルリミット短編 
       ~第6章 退院おめでとう~【司馬side】
       ~本当に 最後のあとがき~【筆者side】投下。
 全章完結!



Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.46 )
日時: 2012/10/30 21:02
名前: メダフィーミング・KR

◇~第45章 Everlasting love~


 望の意識が戻らないまま三日が過ぎた。
 もうすぐ九月に入るが、全然真夏の暑さは衰えていないとか、俺の夏休みもあと半月だとか、そんなことは今の俺にはどうでもよかった。
 ただ、望の笑顔が見たかった。俺の願いはいつだって、それだけだったのに。
 俺はあの後、突然意識を失った望を抱えて急斜面を滑り降りると、車に飛び乗って一目散に病院に引き返した。たぶん百キロ近く出ていたと思うがよく覚えてない。駐車場に入れる時間も惜しんだ俺は病院前玄関に車を止めると、再び望を抱えて病室がある三階へ急いだ。
 血相を変えた俺と意識のない望を見た看護師がすぐに担当医師を呼んでくれた。俺から簡単に経緯を聞いた担当医師は安心させるように頷き、大丈夫だと励ましてくれた。看護師にいくつかの指示を飛ばした医師は望を検査室に運び込み、俺は望のお母さんに連絡を入れた。
 集中治療室で緊急オペという事態にならなかったのは幸いだった。手術にならなかったこと、医師の様子は非常に落ち着いていたことから、そこまで急を要する事態ではなかったのかもしれない。少なくとも医師はこうした事態が起きることをある程度予想していたのだろう。
 しかし望の意識はまだ戻っていない。俺には医学的知識がないから何も安心できない。
 俺が記憶を取り戻してほしくて無理強いしたばっかりに、望は眠り姫になってしまった――


 ろくに寝付けないまま今日も朝が来た。俺はオレンジジュースを一杯飲むと、すぐに家を出た。
 望のことが気になって頭から離れなかった。見慣れた道を飛ばして病院に向かう。
 一階の外来を除き、入院患者が集まる病棟の人気は疎らだった。
早朝というほど早いわけではないが、朝の九時過ぎではまだ見舞い客もほとんど来ていないのかもしれない。
 三〇一号室の前で立ち止まり、慎重にノックした。返事はない。まだ眠っているらしい。
俺は出来るだけ音を立てないように部屋に入ると、静かにパイプ椅子に腰を下ろした。
 望の寝顔は安らかだったが、点滴を始め様々な機器が物々しい印象を感じさせる。
 もしこのまま望の意識が戻らなかったら、俺の責任だ。俺が無理強いさせなければ、少なくとも望は意識を失うことはなかった。
 一からやり直す道を選んでいればよかったのか?
 ――起こる可能性があるから、奇跡なんだよ。
 不意に二年半前に望が口にした言葉が甦る。事故の後、望が覚醒するまで俺はその言葉を信じていた。
俺は誓ったんだ。俺には奇跡は起こせないけど、ずっと望の傍にいるって。
 望、一からやり直す道でもいい。幼馴染で彼女だった望と思い出を共有できないのはつらいけど、すぐには記憶を取り戻せなくたっていいよ。
だから、とにかく目を開けてくれ。望、俺はお前が本当に好きだから。お前の笑顔が、見たい――


 予感めいたものがあったわけではなかった。いつしか目を閉じて考えていたようだ。
 目を開けて望の顔を見た途端、俺は息を呑んだ。
「……二年半前と同じだね」
 望が目を開けて微笑んでいた。そう、二年半前と同じシチュエーションそのままに。
「あぁ……おかえり、望」
 俺は思わず立ち上がり、望の頬に手を伸ばす。柔らかい肌は温もりが溢れていた。
「うん……ただいま、深也」
 望が目を細めて呟いた。ずっと聞きたかった。ずっと呼んでほしかった、俺の名前。
「具合は、大丈夫なのか?」
「ん……まだ少し頭が重いけど、大丈夫」
 俺の問い掛けに望は苦笑いを浮かべながら答え、左手を軸にして上体を起こした。
「そっか、よかった。本当に」
「あのね、深也。実は、その。深也にお願いが、あるんだけど……」
 ホッと胸を撫で下ろす俺に、望は何か言いたそうに口ごもる。心なしか頬が赤い。
 躊躇いがあるのか、なかなか口を開かない望がいじらしくて、無意識に顔が綻んだ。
「それなら、俺の方から言わせてくれないか」
 小首を傾げて見上げてくる望に、俺ははっきり言った。男から言うべきだと思った。
「俺さ、望が記憶を失くしてから、一つだけ後悔したことがあるんだ。……目、閉じてくれないか」
「……私も、同じこと考えてた」
 望は恥ずかしそうに目を泳がせたが、もう一度俺と目を合わせると、その瞳を閉じた。
 俺は望の圧倒的可愛さに狼狽を抑えきれなかったが、小さく深呼吸して覚悟を決める。
 望の肩に手を置いて、そっとキスをした。この愛が永遠の記憶となることを祈って――

Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.47 )
日時: 2012/10/30 21:03
名前: メダフィーミング・KR

◇~終章 Epilogue~


2012/09/03/10:39
from   春崎望
subject 退院決まったよ!
text
 深也、おはよう。深也に早く報告がしたくてメールしました!
 さっき先生が来て、お母さんと一緒にこの間受けた検査の結果を聞きました。
 元の水準には届かなかったけど、低下してた海馬の活動に活性化の兆しがあるって!
 難しい病気だから長い目で見ていかなきゃいけないし、すぐに完治とはいかないけど、深也が強い気持ちを持って私の記憶を取り戻させてくれたおかげだよ。本当にありがとう。
 それで明後日もう一回だけ精密検査をしてみて、その結果が問題ないようなら来週中に退院できるって。
その後はリハビリとお薬で、様子を見ながら通院することになるみたい。
 こんな風に一度低下した海馬が活性化する症例は初めてだって、先生もびっくりしてた。
 いい幼馴染に恵まれましたねって言われて、ほんとはすごく恥ずかしかったんだけど(笑)
 無事に退院できたら、また二人で出掛けようね。約束だよ? またメールします!




Fin

Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.48 )
日時: 2012/10/30 21:16
名前: メダフィーミング・KR

◇~筆者のあとがき~


 改めまして、こんにちは、こんばんは。メダフィーミング・KRです。本作をご読了いただき、誠にありがとうございます!
 行き当たりばったりの前作"記憶を旅して"の執筆から早くも四年半が過ぎ、様々な出来事を経て本作へ行き着きました。
 俺自身前作のキャラに愛着があったこともありますが、この小説板で感想をくださった皆さんによって本作は生まれました。


 思えば一年半も長々と書き連ねて参りましたが、ここ三~四ヶ月はとにかく完結させたい、という思いが強かったです。
 まだまだ至らぬ点もあったと思います。特に最後のオチは前作の使い回しじゃねーか! と思われたのではないかと、
 内心ビクビクしていたりもするわけですが、今書きたいことのほぼ全てを詰め込むことができたのではないかと思います。
 読んでくださった皆さんにも楽しんでもらえたら、これほど嬉しいことはありません。本当にありがとうございました。


 このシリーズの続編ですが、別のキャラ視点でのサイドストーリーを短編でいくつか書けたらいいなぁ、とは考えております。
 ご意見ご感想等ございましたら、ぜひお寄せください。また推理モノの次回作に関しても、ご指導のほどよろしくお願いします。
 それでは、また近いうちにお会いいたしましょう! 以上、あとがきでした。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.49 )
日時: 2013/05/01 00:43
名前: メダフィーミング・KR

◇~第1章 二人の馴初め~【五月side】


 五月もすっかり下旬に入っていた。GWムードも過ぎてしまえば何処へやら、ね。
最近は初夏というよりむしろ本格的に夏らしくなってきて、梅雨の気配は全く感じない。
 今日は透が免許を取ってから初めてのデートだった。
せっかくだからマイカーで迎えに行くよ、なんて調子こいてたけど大丈夫かしら。
 何でもかんでもすぐ調子に乗るのは、あいつの悪い癖だ。確かに透のことは好きだし、いいところもたくさんあるけど、だからと言って看過すると余計に調子に乗るから、あたしは鉄拳制裁か肘内の刑を時と場所と場合に応じて、瞬時に判断し実行している。
 それでもたまに「もっと殴ってえええええ」とか言ってくるから最悪にキモい。
本当に透の何処を好きになったのか、自分でも分からなくなる時があるから始末が悪い。
 いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる、そう思っていた時期がありました。
 あ、調子に乗った透からメールが来た。下にいるよ、か。あたしは玄関に向かった。
「おはよ、佳織」
 満面の笑みを浮かべた透が運転席に座っていた。うわ、何でこんなにニヤけてんの。
「お、おはよ。運転大丈夫なの?」
「大丈夫だって! 俺に任せておけばオッケー!」
 そう聞くと、透はノリノリでローラの真似をしながら答えた。不安でしょうがない。


「俺の運転で佳織とデートなんて、高校時代には全然想像してなかったなぁ」
 意外に滑らかに車を走らせながら、透はそんな風に言った。それはあたしも同感だ。
透の運転でこんな風に何処かに行くなんて、高校の頃は全然想像したこともなかった。
 そういえば――あの頃は透のことを一度たりとも恋愛対象として見たことはなかった。結局三年間丸々同じクラスで、ずっと委員長・副委員長として仕事をしてたけど、単なるウザいやつ、くらいにしか思ってなかった。いつからだったかしら、変わったのは。
「お互いに印象が変わったのは遊園地の時からだよな、たぶん」
 透もあの頃のことを思い出していたみたいだ。その横顔は何処か遠い目をしていた。
 そういえば、司馬君がチケットが余ってるからって遊園地に誘ってくれたんだっけ。
ああ、あの時は特別ゲストが来る、なんて聞いてたから誰だろうってドキドキしてた。
 で、軽い足取りで遊園地に着いたら、待ってたのは透。新手の詐欺かと思ったわよ。
「少なくとも俺はあの時からかな、佳織のことを意識し始めたのは」
 透は前を向いたまま、聞き捨てならないことを言った。何言ってんのよ、もうバカ。
「いてっ。お前、運転中に頭叩いたら危ないだろ。それとも俺と死にたいのか?」
 むう。それだけは絶対に嫌だ。透となんか一緒に死にたくない。
「だったら大人しくしてろよ。お前は黙ってれば可愛いんだからさ、な?」
 透はニヤつきながらちらりとあたしを見て、さり気なくそんなことを言ってきた。
運転中であたしが殴れないのを良いことに、こいつまた調子に乗り始めてる。超ムカつく。
 あたしは透に聞こえるように大袈裟にため息を吐き、そっぽを向いた。


 実はあたしも、透に対する印象が変わったのは遊園地の時からだった。
最初は嫌ってたやつを好きになるのは恋愛漫画の王道だけど、現実にはあり得ないことだと思ってた。
 だって、あたしの嫌ってるやつは透で、何処にも好きになる要素なんかなかったから。
「まあ最後のダメ押しは、佳織がバレンタインにチョコくれたことだけどな」
 透は真面目な顔つきに戻っていた。信号が赤に変わり、緩やかにブレーキをかかる。
 確かに一年半前の冬、あたしは透にチョコをあげた。……血迷っただけだ、きっと。
「あの時の佳織、義理よ義理っ、なんて言ってたけどさ。俺に惚れてんのがバレバレだったぜ?
 顔真っ赤だったし、義理とか言っといて手作りとか口走っちゃってたもんな」
 こいつ半殺しにする。あとで絶対半殺しにする。あたしは透を思いきり睨み付けた。
「怒るなって。あの時の佳織、めちゃくちゃ可愛かったし、俺ホントに嬉しかったよ」
「ああ、もうっ! 真顔でそういうこと言うなっ! 顔から火が出るでしょ、バカっ!」
「いてっ。おい、危ないって言ってるだろ。一応俺、まだ初心者なんだからな?」
 我慢の限界を越えたので一発殴ってやった。信号が赤のうちに殴らずいつ殴るのよ。
「あ、ほら。信号が青に変わった。だからもう殴るの禁止な?」
 透はアクセルを踏み込みながら言った。超ムカつく。運転終わったら絶対ぶん殴る。
 ただ、これだけは認めてあげてもいい。初心者の割に、透は意外にも運転が上手い。


「佳織がチョコくれたおかげでさ、俺も告白する勇気が出たから。ありがとな、佳織」
 あああああっ!! だから、真顔でそういうこと言うなぁあああああっ!!
「ほらほら、通行人が振り返ったぞ。デカい声出したら周りにも迷惑だろ?」
 もう、何なのこいつ。こういう時だけ冷静ぶって、超ムカつくんだけど。キモッ!!
「キモいは俺たちの業界では褒め言葉だぜ? ありがとな、佳織」
 鳥肌が立った。何こいつ、変な物でも食べたんじゃない? それか頭でも打ったとか。
「俺がキモいのはいつものことだろ?」
 まあ、それもそうね。それはそれでどうなのって思うけど、きっと気にしたら負けね。
 あたしはどうにか冷静さを取り戻し、すっかり忘れていたことを聞いた。
「そんなことより、何処に向かってるのよ」
「ん。初心者だからあんまり遠出は出来ないから、近場だけどさ」
 透は答えを言おうか迷ったようだったけど、結局そんな風にお茶を濁した。
「何よ、気になるじゃない。さっさと言いなさいよ」
「うーん……まあいっか。隠すことでもないしな。ほら、見えてきただろ?」
 あたしがドスを利かせたから……というわけでもないんだろうけど、透は左前方を指差して言った。
そこに在る建物は間違いなく、あたしの母校。あたしたちの高校だ。
「懐かしくなったついでにさ。卒業してから鈴木先生にも挨拶してないしな」
 透の言葉にあたしは押し黙った。あんたってやつはホントに……バカなんだから――。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.50 )
日時: 2013/05/05 00:31
名前: メダフィーミング・KR

◇~第2章 男は黙って謝罪~【五十嵐side】


 やべえ。マジやべえ。
 来週には九条さん主催の祝賀会第二弾が開催されるってのに、佳織に口も利いてもらえない状態で参加するってのはさすがにヤバいだろ……。
 俺はかつてないほど焦っていた! 俺はかつてない危機に直面している!
そんな俺の生き様に痺れるゥ! 憧れるッ! 人がいるなら、今すぐ此処に来て俺を助けてくれ。
 たぶんいないと思うので、俺は唯一無二の親友、夢原に電話で助けを求めた。
その結果、どうやら俺がポカをやらかして佳織を怒らせてしまったらしいことが判明した。
 サークルの飲み会で女友達に奢ってあげたら、佳織とのデート代がなくなってしまい、佳織に奢ってもらったことを思い出した。
金欠だったんだからしょうがないじゃん!
 夢原からさっさと誠心誠意謝罪すべき、というありがたいお告げをいただいたので、俺は早速佳織にメールを送った。
こういう時は手短に伝えるべきだ。内容はこうだ。
『大事な話があるから、会って話したい。これから××駅前で待ってる。』
 男には時として恥も外聞も捨てて、どうしても謝らなければならない時がある。
場合によっては土下座も厭わない、ゴミクズになる覚悟を持ち合わせなければならない。
 おい、ゴミクズって言うな! 自覚はあるけど他人に言われるとムカつくんだよ!
 さて。これから待ってる、とか言っといて佳織より後に着いたんじゃ話にならないぜ。
 俺はウサイン・ボルトの持つ世界記録を打ち破るべく、超特急で準備を済ませた。


 ××駅前は佳織の自宅の最寄り駅前でもある。健気に佳織を待つには一番それっぽいシチュエーションなんじゃないか?
 腕時計に目を落とす。まもなく正午になる。
 一時間が過ぎた。まだ佳織は現れない。寒い。手足が冷える。まだ二月だもんな。
 二時間が経った。まだ佳織は現れない。腹が減った。そういえば昼飯がまだだ。
でもこの場を離れている間に佳織が来たら、ここまで待っていた意味がなくなってしまう。
 三時間が過ぎた。まだ佳織は現れない。携帯を開いてみるが、電話もメールもない。
きっと佳織は俺の誠意を試してるんだ。そうに違いない。それなら俺は待つしかない。
 四時間が経った。まだ佳織は現れない。さすがに心配になって佳織にメールを打った。
しかし応答はない。どうしたんだろう。まさか事故に遭ったんじゃないよな……。
 そして、午後五時の鐘が鳴った。まだ佳織は現れない。俺の最多待ち時間を更新した。
俺は居ても立っても居られず、佳織に電話を掛けた。三回目のコールで繋がった。
「佳織! 今何処にいるんだ! 心配したんだぞ!」
『はぁ、はぁ……今、あんたの、後ろに……』
 振り返ると、走って来たのだろうか。息も絶え絶えに肩で息をする佳織が、携帯を耳に押し当てながら駆け寄って来た。
そして、思いっ切り頭をゲンコツで叩かれた。
「いってえ! な、何すんだよ、いきなり!」
「あのねえ……今日はバイトがあるからって言ったでしょ! もう忘れたの?」
 佳織は呆れたように言った。あっ。そういや、そんなこと言ってたかも……。
「ホント、あんたってバカね。まあいいわ、カラオケ行くわよ、カラオケっ」
 え? 今から? いや、だって佳織さん、バイトの後でお疲れなんじゃあ……。
「何よ、その目は? 何か文句あんの?」
 いえ、滅相もありません。喜んでお供させていただきます。
「じゃ、さっさと行くわよっ」
 呆気に取られる俺を残し、佳織は大股で歩き出す。俺は慌てて佳織の後を追った。


 平日の夕方ということもあって、駅前のカラオケボックスは予約なしでも入れた。
 佳織は意気揚々と二時間、食事付きドリンク無料コースを選んだ。
何かいつの間にか此処で食事もすることになってるし。俺、金欠だからそんなにお金ないんだけど。
 部屋に案内され、佳織は店員にドリンクバー、おにぎりセット、焼きそばを二つずつ注文した。
 一応俺の意見も聞いてくださいよ。俺が頼もうとしたやつだったけど。
 店員が出て行くと、ようやく二人だけの空間が訪れる。俺は無意味に焦った。
本来の目的を忘れかけていたが、今日は佳織に誠心誠意謝罪しようと思ってたんだった!
「それで、話って何?」
 佳織は厚手のコートを脱ぎ捨て、おしぼりで手を拭きながら聞いてきた。
「あ、えと、その……この間のことなんだけど、さ」
「この間のことって、いつのことよ」
 俺は噛みまくりつつ、話を始めた。佳織は苦笑いを浮かべて聞き返してくる。
「えっと……一ヶ月くらい前に、ほら。佳織にデート代を奢らせちゃっただろ?
 それで、その後連絡しても全然反応がないから、怒ってるんじゃないかと思って、それで……」
「それで、あたしが怒ってるから謝ろうと思って、こんなになるまで待ってたの?」
 そう言って佳織は俺の手を取った。五時間も外で待ってたから、指先は真っ赤だ。
「あ、ああ……せっかく久しぶりのデートだったのに、俺、本当ごめん」
 男は言い訳はしないもんだ。俺は素直に頭を下げた。正直、ビンタは覚悟してた。


「佳織……?」
 反応がない。佳織は伏し目がちに何かを考えていたかと思うと、握っていた手を置き、俺の傍を離れた。
そしてさっき脱いだ自分のコートを持って来て、俺にかけてくれた。
「そりゃ、最初はちょっとムッとしたけど……もう怒ってないよ、そんなこと。
 ここんとこ、今月中に仕上げなきゃいけない大学のレポートとか、バイトとかで忙しかったからさ。
 ちょっとあんたのメールとかおざなりにしちゃってた。あたしの方こそ、ごめんね」
 俺は今度こそ言葉を失った。あの佳織が、こんな風に謝ってくるなんて。
これまでもこの先も、二度とないと思う。俺は夢でも見てるのか? それとも日本沈没の前兆か?
「ていうか、こんなになるまで待ってくれてた人、怒れるわけないでしょっ」
 佳織は照れ隠しのつもりか、今度は大きな声で言った。耳まで真っ赤にして。
「佳織……」
 俺はそんな佳織の様子に胸がときめいた。いつもときめいてるけど、今日は特に。
「えっ。ちょっと、透……」
 俺は佳織の肩を抱くと、目をぱちぱちさせ真っ赤になってる佳織に顔を近付ける。
「お待たせしま……した……」
 その時不意に、ガチャリとドアを開け、タイミングよく店員が部屋に入って来た。
「あ、あ、えと、どうも……」
 俺たちは慌てて離れた。店員はドリンクと料理を置いて、そそくさと出て行った。
「えっと……さあ、今日はどんどん食べて、どんどん歌うわよっ」
 空元気だろうが、佳織は気を取り直すと右手を天井に突き上げて、そう宣言した。
 ――はいはい。もちろん何処までもお供致しますよ、俺だけのプリンセス。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.51 )
日時: 2013/05/10 19:43
名前: メダフィーミング・KR

◇~第3章 あたしは大丈夫~【九条side】


 七月に入った。今年の梅雨は平年に比べて短かったような気がする。
梅雨が終わると、すぐに夏がやってくる。鬱陶しい梅雨の後の気持ちの良い夏が、あたしは好きだった。
 けど、今年はそんなに嬉しくない。あたし自身が鬱々としているからだと思う。
 あたしらしくない。そんなことは分かってる。ああ、何か自分にムカついてきた。
 あたしは自分の髪の毛に手をやって、くしゃくしゃと掻いた。気分転換にどっか行こうかな。
休日は銀座や原宿でウインドウショッピングをするのがあたしの趣味の一つだ。
 思い立ったが吉日、あたしは出掛けようと携帯を手に取った。
 ん? 左上の着信ランプが点灯している。新着メールが一件。誰からだろうと思って開けると、祐一からだった。
 基本的に祐一の方から連絡してくることはほとんどない。
出不精だし、連絡不精だし、面倒くさがりで不貞腐れた顔ばかりの祐一が何の用だろうと思って本文に目を通す。
『暇だからドライブに行く。お前も来い。十時半に迎えに行く』
 腕時計に目を走らせると、午前九時を過ぎていた。
唐突に何を言い出すのかと思えば、あたしの予定も聞かずに暇潰しの相手をしろってこと?
 もう、ホント勝手なんだから。
 大体デートの誘いなら、もっとそれっぽく良い雰囲気を出して誘いなさいよね。
などと一瞬考えて、祐一がそんな誘い方をしているところを想像したら気持ち悪いだけだった。
 まぁいいか。あたしも暇だったし。あたしは了解、と返事を打った。


 家の前に車が止まる音がした。一拍遅れてクラクションの音が聞こえる。
十時ちょうどだ。アレで時間には正確だから面白い。そういうところは司馬君に似てるのよね。
「何処に行くつもりなの?」
 祐一ご自慢の黒のスカイライン。その助手席に乗り込んで早々、あたしは聞いた。
「特に決めてない。希望はあるか?」
 あたしも特に希望はない。首を横に振った。祐一は一つ頷いて、車を発進させた。
 車内ではほとんど会話をしない。祐一は運転中に気を散らされることを好まない。
この辺は幼馴染特有の阿吽の呼吸ってやつだと思う。かれこれ十年以上の付き合いだもん。
 良くも悪くも、顔を見ればお互いに言いたいことが分かってしまう。
あたしは祐一には気を遣わなくて済む、とポジティブに考えてるけれど。幼馴染とはそういうものだ。
 何処に行くのかな、と窓の外に視線を移す。
首都高速に入り、遠くにレインボーブリッジが見えてきた辺りで行き先に目星が付いた。
何てことはない、いつも通りだった。
 行き先を決めていない時、祐一はとりあえずお台場方面に向かうことが多い。
レインボーブリッジを通るルートは道が空いていれば橋上から海が見えてすごく眺めが良い。
 そして毎回のことながら、あたしはまじまじと外の景色に見入る。
そんなあたしの様子を見て、祐一は腹立たしいことに片頬だけで笑う。子供みたいだな、と言いたげに。
「どっかで昼飯にするか」
 独り言のつもりだったのか、あたしの返事を待つことなく祐一はハンドルを切った。


 結論から言うと、本当にいつも通りだった。
飾り気のないファミレスでお昼を食べて、祐一に上手いこと乗せられてボーリングをやって、よく分からないイベントを覗いて。
 ただ一つ、いつもと違ったことは――祐一がこんなことを提案してきたことだった。
「たまにはアレ、乗ってみるか?」
 祐一が指差す方向には、お台場の大観覧車。あたしは思わず吹き出していた。
「どういう風の吹き回し?」
 驚いたり呆れたりを通り越して、笑うしかない。
お台場に遊びに来ても、祐一が観覧車に乗ろうなんて言ってきたことは一度もなかった。それどころか頑なに拒否するのに。
「別に。単なる気紛れだ」
 そう言って背を向けると、祐一はさっさと歩き出す。
 しょうがない、行ってやるか。
 五分ほど並んで歩き、大観覧車の下に辿り着くと、係員にお金を渡して二人で乗る。
 祐一は窓枠に肘を載せ、さらに頬杖を付いた。
詰まらなそうに見せてるけれど、実は高所恐怖症を取り繕ってるだけだ。
 あたしにそんなポーズをしても無意味なのにね?
「……麻衣。今日は楽しかったか?」
 すると、祐一はいつになく真面目な声で言った。
その視線は窓の外に固定されたまま、いつものちょっと捻くれた表情だ。
 けど、こういう時の祐一は冗談を言ったりしない。
「お前さ、ここんとこ元気なかったろ。そういうお前を見てるとさ、なんかこう……
 上手く言えないけど、すげえモヤモヤするっていうかさ。俺まで何か調子が狂うんだよ」
 あたしが困惑していると、祐一はぽつりぽつりと語る。今日あたしを誘った理由を。
「夢原のことだろ? あいつも彼女のことで、最近元気ないからな。俺には分かる」
 ああ、やっぱり幼馴染なんだな――バレちゃってるや。変なところに鋭いんだから。


 自分でも分かってた。ただ直視することを避けて、目を逸らし続けていただけだ。
あたしは夢原君のことが、好きなのかもしれないってこと。ううん、確かに惹かれていた。
 でも彼は別の女の子に良い顔したり、ましてや彼女を裏切るようなことは絶対にしない。
あたしが見込んだ男の子だもの。彼の見ている先には、いつだって望ちゃんがいる。
 振られちゃったのかな、あたし。気持ちを伝えてもいないけど。
伝えることはきっとこの先、永遠にないだろうけど。あたし一人の秘密にするはずだったに、祐一のバカ。
「……俺じゃ、ダメなのか?」
 正直ドキッとした。顔を上げると、祐一はじっとあたしのことを見つめていた。
「なっ、何……言ってんの?」
 噛んだ上に尻すぼみになった。あたしとしたことが、祐一に後れを取るなんて。
「いや。ただ、俺はお前の笑ってる顔が好きなだけだ……なーんてな。驚いたか?」
 えっ? あたしは呆気に取られて、目が点になった。
 まさか冗談だったの、全部?
「もうっ。びっくりするでしょ、そういうの。祐一のバカっ」
 あたしは祐一にまんまと嵌められたショックで、見る見る頬が紅潮するのを感じた。
「なんだよ、本気の方が良かったのか?」
 祐一はニヤニヤと小馬鹿にしたように笑った。
 ああ、もうっ。ホントムカつく!
 でも――ありがと、祐一。心配してくれてたっていうのは、たぶん本当だよね?
あたしは大丈夫だから。だって、あたしの隣には、無駄に素敵な幼馴染がいてくれるから。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.52 )
日時: 2013/05/15 21:00
名前: メダフィーミング・KR

◇~第4章 守りたい人なら~【桜木side】


 八月五日。今年も夏本番がやってきた。今日の最高気温は今シーズンで最も高いらしい。
俺は夏が好きじゃない。俺の幼馴染は夏が好きなようだが、俺は暑いのが嫌いだ。
 ただでさえ暑苦しくて忌々しい季節だってのに、じめじめうじうじしてる野郎が俺の知り合いにいるから、堪ったもんじゃない。
俺はそいつが好きじゃない。何か腹立つ。
 事情は麻衣や司馬から聞いていた。何でもそいつの彼女が大変なことになってるらしい。
大変なことって何だよって話だが、詳しいことは麻衣や司馬も分からないようだ。
 俺も取り立てて関心があるわけではないし、他人の込み入った事情に首を突っ込むと、総じて地雷を踏むことになると理解している賢しい俺は、傍観者の立場を崩さない。
 しかし今回はどうにも心の中がモヤモヤしてしょうがない。
ただ一つ確かなのは、麻衣はそいつに気があるってことだ。俺はそれがどうにも気に入らないんだろうと思う。
 せっかく麻衣が自分の感情にケリつけて、そいつの背中を押してやってるってのに、そいつがじめじめうじうじしてるもんだから、俺はここんとこずっとヤキモキしてる。
 そいつがウジウジしている分には別にどうでもいい。俺には関係ないし。
でもその影響で、麻衣まで元気がなくなるなら話が違ってくる。麻衣は俺の大事な幼馴染だから。
 あいつが幼馴染である彼女のことには必死なように、俺だって麻衣のためなら必死になる。
そこに理由なんて存在しない。強いて言えば"守りたい人だから"なんだと思う。
 とにかく、俺は俺のやり方であいつの背中を押してやらなければならない。
勘違いするな、全ては麻衣のためだ。だから――お前が男らしくいなきゃダメなんだよ、夢原。


 俺は夢原を電話で呼び出した。俺の方からあいつに電話したことは一度もないし、今後もするつもりはない。
今回は唯一の例外だ。だから夢原はひどく驚いた声を出した。
『桜木か……何の用だ』
 何の用だ、とは不躾だな。まぁ長々と話す間柄でもないし、その方がいいんだが。
「お前に話がある。会って話したい。これから出れるか」
『会って話したいって……これからすぐに? 電話じゃダメなのか』
 電話越しにも躊躇う様子が伝わってくる。無理もない、逆の立場なら俺でも断る。
「ああ、大事な話だ。場所はお前に任せる」
『……今、ちょっと取り込んでるんだ。一人で考えたい。だから、また今度に……』
 夢原は歯切れが悪い。分かってる、彼女のことで悩んでるんだろ。俺もその話だ。
「お前に守りたい人がいるように、俺にも守りたい人がいる。夢原、来い」
『……分かった。じゃあ一時間後に、場所は○○駅の近くにある○○公園で』
 それでも夢原は逡巡していたが、やがて観念したように呟いた。
 俺の有無を言わせぬ強い口調で、どういう話なのか大体の検討が付いたらしい。
「ああ、すぐに行く」
 そう言って、俺は電話を切った。確か○○駅は夢原の自宅の最寄り駅だったはずだ。
俺の家からだと電車で四十分近くかかる。さっさと支度して家を出ないと間に合わない。
 本当なら俺がここまでしてやる義理はない。だが、麻衣のためだ。やむを得まい。


 ○○駅の北口改札を抜け、右手に三百メートルほど歩いた場所にその公園はあった。
 申し訳程度の砂場に、ブランコと滑り台しかない、正直言って寂れた公園だった。
この炎天下では遊んでいる子供もいない。当たり前だ、俺だって本当なら今すぐ帰りたい。
 何だってこのクソ暑いのに、外の公園なんか指定しやがったんだ、あのバカ――。
 俺は心の中で悪態を吐きながら夢原を探した。夢原は日陰のベンチに座っていた。
「呼び出しておいてアレだが、何でこんなところを指定したんだ」
 あまりに暑いので、本題より先に文句が出てしまった。
「大事な話だって言うから、人気のないところの方がいいと思ったんだ」
 まあどっかの洒落たカフェで話すことでもない。野郎二人で入っても楽しくない。
「それで、今日は何の用なんだ。申し訳ないが、手短に頼む」
 夢原は俺と目を合わせることなく、ポケットに手を突っ込んだままで言った。
 俺は多少ムッとしたが、暑いのは確かだったし、我慢して本題に入ることにした。
「麻衣から聞いた。もし俺がお前の立場だったら、同じように途方に暮れていたかもしれん。
 部外者である俺が言えた義理でないことは分かってるが、それを承知で言わせてもらう。
 部外者だから見える視点ってのもあるんだ。だから……お前は、迷うな」
 俺の要領を得ているとは言い難い言葉に、夢原は訝しむように眉を顰めている。
「例え春崎さんがどんな状態にいようと、お前は彼女を信じろ。そして彼女が信じたお前自身を信じろ。
 春崎さんを救えるのはお前だけなんだ。お前が彼女の道標だ。違うか?」


 夢原は口籠っていたが、やがて顔を上げた。苦虫を噛み潰したような表情だった。
「簡単に……言うなよ。あいつは……望はもう、俺の知ってる望じゃないんだ……」
 何だって? 俺の知ってる望じゃないって、何だよ。俺は一瞬、言葉を失った。
「あいつは……俺やお前たちと過ごした記憶を全部っ、何もかもっ、忘れてっ……」
 夢原は嗚咽を噛み殺し、涙を見せまいと必死に唇を噛み締めていた。
 それが俺の初めてみる、夢原の弱さだった。
 俺が浅はかだったのか? 所詮事情も知らなかったくせに?
「バカ野郎っ」
 俺は怒りに身を任せ、夢原の胸倉を掴んだ。やつは目に涙を溜めたまま俺を睨む。
「だから何だってんだ? そんなことで、お前は彼女を諦めちまうような腰抜けクズ野郎だったのかよ。
 見損なったぞっ。男なら、どうしても守りたい人がいるなら……掴んで離しちゃいけねえんだよっ。
 さっさと行けよ……手遅れになる前に。とっとと行けっ!!」
 俺は吐き捨てるように言い、同時に夢原の胸倉を離した。夢原の目の色が変わった。
「桜木……悪い。俺、行ってくる。望のところに。ありがとな」
 それだけ言い残して、夢原は俺に背を向けて駆け出した。全く、世話が焼けるやつ。
おかげで柄でもなく大声出しちまった。誰かに見られでもしてたら厄介なことになるだろ。
 まあ……怒りを抑えられなかったのは、夢原にというより、俺自身に対してだった。
俺が麻衣にしてやれることがなんなのか。もどかしい思いを抱えて、踏み出せない自分に。
 夢原――お前は強いやつだよ。俺なんかよりずっとな。だから、迷う必要なんかない。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.53 )
日時: 2013/05/20 22:02
名前: メダフィーミング・KR

◇~第5章 歩いていこう~【初音side】


 九月に入ってから今日で五日目です。
まだまだ暑い日が続きますが、時折秋の足音を感じられるくらいにはなってきました。
私は秋が好きです。早く秋になって欲しいです。
 秋と言えば読書の秋、食欲の秋、スポーツの秋と、色々なことが捗ることで知られていますが、私にとっては音楽の秋、ダンスの秋、ライブの秋です。え? 何か変ですか?
 確かに私は季節を問わず音楽漬けの毎日です。
しかし何と言っても、十一月には私の専門学校で毎年恒例の音楽フェスティバルが開催されるんです。
去年は惜しくも優勝を逃してしまいましたから、今年は絶対に優勝したいと思っていますっ。
えい、えい、おー!
 今度は昨年来られなかった五月さんと五十嵐さんにも来てもらえたらいいな。
もちろん夢原さんと春崎さんにも……あっ。そうです、望さんの退院が決まったそうです!
 私、二年半前に望さんが事故に遭われた時も何もできなくて、今回こそお役に立ちたいと思っていたんですけれど、結局私には何もしてあげることができなくて……。
 せめてお見舞いだけでも行って差し上げたかったんですが、啓介さんに
「今はそっとしておこう。これは夢原と春崎さんの問題なんだと思う。きっと二人が乗り越えなければならないことなんだ。俺たちに出来ることは見守ることだけだよ」
 と、至極真面目に諭されてしまいましたので、ずっと我慢していたんです。
 でも退院が決まったとのことですから、夢原さんと望さんは二人で苦難を乗り越えられたに違いありませんっ。
それなら、もう私がお見舞いを躊躇う理由も存在しません。
 というわけで私、今から早速望さんのお見舞いに行って参りますっ。


 ……道に迷ってしまいました。
 この駅で降りるのは久しぶりです。高校の時以来でしょうか。
あの頃は啓介さんとよく一緒に帰っていましたから、まだ一年半も経っていないのに、懐かしいものですね。
 そんな懐かしい風景をしっかりと目に焼き付けながら、病院へ向かいました。
望さんの入院されている病院は、駅から徒歩で十五分ほどかかるそうです。
駅から病院行きのバスも出ているはずですが、普段使わないバスを使うというのは少し心細いものです。
 私は啓介さんから耳にした病院を探して歩きました。
方角は合っているはずですし、市内で一番大きな病院とのことなので、それなりに目立つ施設のはずなんですが……。
 三十分ほど歩いても目的の建物は見えてきません。
私はキョロキョロと辺りを見回しながら、一人途方に暮れかけていると、不意に目の前に一台の車が停車しました。
 私が眉を顰めていると、助手席側の窓が開いて、奥にいる運転手さんが顔を出しました。
何と、夢原さんでした。びっくりです。
どれくらいびっくりかと言うと、啓介さんが本棚の奥から何かの薄い本をニヤつきながら見ていた時くらいびっくりですっ。
「通りかかったら初音さんがいたから、びっくりしたよ。こんなところでどうしたの?」
 夢原さんもびっくりしていました。私はかくかくしかじか、事情を説明します。
「そうだったんだ。実は俺も今から病院に行くところなんだ。乗って行きなよ」
 夢原さんは腕を伸ばして助手席のドアを開けてくれました。是非お願いしますっ。


「まさかこんなところで会うなんてね。お見舞い、ありがとう。望も喜ぶと思う」
 夢原さんは車を発進させ、前を向いたまま言いました。
 面と向かってお礼を言われると、何だか照れくさいですね。
 大したことはしていないのに、夢原さんは律儀な人です。
「初音さんと会うのは九条さん主催の祝賀会以来かな? てことは半年振りか」
「そうですね、もうそんなに経ちますか。本当に月日が経つのって早いですね」
「うん。そうだ、あの時初音さんがデジカメを持ってきたからって言ってくれて、皆で写真を撮ったよね。
 あの写真のおかげで、望も元に戻ったよ。本当にありがとう」
「いえ。私に出来ることは微々たるもので、残念に思っていたくらいです」
 望さんの体調の回復に、写真が貢献するものでしょうか。
よく分かりませんが、お役に立てたのならこれほど嬉しいことはありませんっ。私もお役に立てていたんですね。
「そういえば司馬はどうしてる? 最近会ってないけど、元気でやってるかな」
 夢原さんは嬉しそう聞いてきます。きっと望さんの体調が回復されたからですね。
「ええ。本当はもっと早くお見舞いに来たかったんですが、二人の問題だからって啓介さんに止められていたんです。
 でも望さんの体調が良くなったと聞いて、私も嬉しくて」
「何だ、水臭いやつだな。そんなこと気にしなくても良かったのに。
 まあ……でも今回は確かに正解だったかも。来てもらっても、望と話せるか分からなかったからさ」
 夢原さんは片手でハンドルを操作しながら、今はもう大丈夫だよ、と付け加えました。
「さて、着いたよ」
 そんな風に話していると、あっという間に着いてしまいました。こんなに近かったとは。


 夢原さんに案内していただき、駐車場を抜けて建物の中に入ります。
望さんの病室は三階にあるそうです。病院の中も凄く広くて、一人だったら迷っていたかもしれません。
 三〇五号室の前で夢原さんが扉をノックしました。表札代わりのプレートには確かに春崎望様と書かれています。
程なくして中から声が聞こえてきました。望さんの声です。
「望、大丈夫か? 初音さんがお見舞いに来てくれたよ」
 夢原さんがドアを開けながら言いました。
 夢原さんの肩越しに望さんのご様子を拝見しますと、ベッドとともに身体を起こして座っています。
 お元気そうで、安心しました。
「あ、深也に未来ちゃん。ありがとう、久しぶりだねっ。ほら、此処に座ってっ」
 望さんはお花のような笑顔を見せ、傍らに置かれた椅子を勧めてくださいます。
「何をお持ちすればいいか迷ったんですが、良かったら食べてください」
 私は遠慮なく座らせていただき、駅前で買ったお見舞い品を望さんに渡しました。
「うわあ、いちご~! あまおうって凄く美味しいよね。ありがとうっ」
 望さんは目を輝かせて喜んでくださいます。
 いちご好きとお聞きしていたとは言え、もう少し気の利いた物が良かったかと正直ちょっと不安だったので、ホッとしました。
「お、美味そうだな。どれ、早速ありがたくいただくとするか」
「そうだね。あ、冷蔵庫の中にお茶が入ってるから、深也取ってくれる?」
 夢原さんがそう言いますと、望さんが冷蔵庫を指差して言います。
 お二人は本当に仲が良くて、きっと結婚してもいい夫婦になるんだろうなぁ、と思わず考えてしまいます。
 本当に良かった、望さんが元気になって。私はお二人を見て、そう思ったのでした。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.54 )
日時: 2013/05/25 02:15
名前: メダフィーミング・KR

◇~第6章 退院おめでとう~【司馬side】


 季節もようやく秋めいて、少しずつ過ごしやすくなっていた。
春崎さんが予定通り退院した、という夢原からの報告メールがあったのは、九月も半ばを過ぎた頃だった。
 そこには未来がお見舞いに行ったということや、俺が未来にお見舞いに行くことを止めていたことに関する夢原の考え方、そして俺たちに対する感謝の言葉が表れていた。
 高次脳性機能障害により、春崎さんの記憶が一時欠落したことを夢原から聞いていたのは俺だけだった。
桜木と九条さんには、春崎さんの記憶障害の件は伏せて説明した。
 恐ろしく勘の良い九条さんは察したかもしれないが、ともかく他の皆に春崎さんの記憶障害の事情を説明することは、無用な心配をかけるだけだと判断したからだった。
 それでも、まさか未来が一人でお見舞いに行くなんて思ってもいなかったが、未来は未来なりに二人のことを気にかけていて、自分に出来ることを探していたんだと思う。
 いずれにしても、夢原と春崎さんは困難を乗り越えた。心底良かったと思ってる。
 俺としては本来なら春崎さんの退院を祝って、三度目のパーティーでも開いてあげるに吝かではなかったが、大人数で押しかけるわけにもいかないし、退院したばかりの春崎さんの体調を考慮すると、結局今回は見送ることが妥当だろうという結論に至った。
 その代わり、友人一同を代表し、俺一人で夢原と春崎さんを訪ねることになった。
それが春崎さんの退院から三日目の今日だった。俺は愛車で春崎さんの自宅に向かった。


 春崎さんの住むマンションには来客用の駐車場がないと聞いていたので、近くにある公園の駐車場に車を止めた。
二分ほど歩き、エレベーターに乗って春崎さんの部屋へ。
 呼び鈴を鳴らし、春崎さんが出てくるのを待った。分かっていても、女の子の家に上がらせてもらうのは緊張する。
実は未来の家に上がったことも数えるほどしかない。
「よう、来たか。顔を合わせるのは久しぶりだな」
「なんだ、夢原か」
 ドアを開けて顔を出したのは夢原だった。何というか、意味もなく拍子抜けした。
「なんだよ。何か言いたげだな。彼女の家なんだから俺が出てもいいだろう?」
「別に悪くはないけどさ。夢原がいることは打ち合わせ通りだし」
 ただ、出てくるのはさすがに春崎さんだと考えるのが普通じゃないか。
まあ、玄関でそんなどうでもいいことを言い争うのもみっともないから、言わないでおくけど。
「まあ、上がってくれよ。望も部屋で待ってるから」
 夢原にそう言われても全く嬉しくなかったけど、お邪魔させてもらうことにした。
 小さな観葉植物の置かれた玄関を抜け、廊下の突き当りが春崎さんの部屋らしい。
「あ、司馬君。わざわざ来てくれて、ありがとう」
 夢原に続いて部屋に入ると、春崎さんが出迎えてくれた。
室内は白を基調としたファンシーな部屋だった。隅々まで手の行き届いた、春崎さんらしい部屋だと感じた。
 あまりジロジロ見るのも失礼なので、俺は出してもらった座布団に腰を下ろした。


「春崎さん、退院おめでとう。友人一同を代表して、心からお祝いを申し上げるよ」
「司馬君、本当にありがとね」
 相変わらず堅苦しいやつ、などとこぼす夢原を、俺と春崎さんは無視して応じた。
「実は退院祝いのプレゼントを皆から預かって来たんだ」
 そう言って、俺は両手に抱えてきた大きな紙袋から一つずつプレゼントを取り出す。
「まず、これは未来から。未来オリジナルの応援歌らしいんだ。是非聴いてあげて」
 俺は未来から預かった、ライトブルーのUSBメモリーを春崎さんに手渡した。
「うわあ、絶対聴くよ! ありがとう」
「初音さんの新曲か。確かに興味あるな、あとで俺にも聴かせてくれ」
 嬉しそうにはにかむ春崎さんの横で、夢原もまじまじとそのUSBメモリーを見ていた。
「で、これが五月から。図書カード五千円分だそうだ」
「うわあ、佳織ありがとう。何の本を買おうかなぁ」
 五月はこんなのしか思い付かなかったって言ってたけど、俺は実用的でいいと思う。
「こっちは五十嵐からだ。いちごをモチーフにしたご当地ゆるキャラ……らしいよ」
「…………」
 春崎さんは恐る恐るという感じで手を伸ばして受け取った。
夢原もそのぬいぐるみを凝視したまま言葉を失っている。
 まあ……ちょっとグロテスクだなと、俺も思う。


「えっと、これは九条さんから。百花屋のいちごジャム詰め合わせだそうだ」
「うわあ! これすごく美味しいけど、すごく高いんだよ。ありがとうっ」
 瓶詰めのため少し重い。慎重に春崎さんに手渡す。春崎さんは目を輝かせて言った。
「詰め合わせって、これ全部いちごジャムじゃないのか?」
「もう~。深也は全然分かってないよ。これは普通のいちごジャム。
 こっちは木苺のジャム、これは桃みたいな味がするいちごを使った、ももいちごジャムなんだよ」
 見る目のない夢原に、さすがいちご好きの春崎さん、丁寧に一つずつ説明していた。
「で、これは桜木から。バラの花束二十本だってさ」
「ありがとう、すごく綺麗っ。あとで花瓶、探さなきゃ」
 紅白で彩られたバラの花束を受け取り、春崎さんはバラの花を見ながら顔を綻ばせた。
「……相変わらずキザなやつ」
 夢原だけが憮然としていた。
「最後にこれは俺から。此処に二人の思い出を飾って欲しい」
「司馬君もありがとっ。これ、写真立てだよね?」
 俺はプレゼント用リボンに包まれた、透明なガラスに縁取られた写真立てを手渡した。
「司馬、俺からも礼を言っとくよ。ありがとな。皆にもお礼言わなきゃな」
 夢原はいつになく精悍な表情でそう言ってきた。
最後の言葉は春崎さんに向けられたもののようで、春崎さんはうん、と元気よく頷いた後、嬉しそうに目尻を拭った。
 どういたしまして。というより、俺たちの方が二人にお礼を言わなきゃいけないんだ。
 夢原と春崎さんは、どんな困難でも乗り越えられることを俺たちに示してくれたんだ。
強い絆があれば、奇跡は起こせるんだってことをさ。二人は俺たちの"希望"なんだよ。
 だから、ありがとう――。

Re: メモリアルリミット ~Side memories~ ( No.55 )
日時: 2013/05/25 02:22
名前: メダフィーミング・KR

◇~あとがき 読者の皆様へ~【筆者side】


 ご読了いただきました皆様、どうもありがとうございます! 作者のメダFです。
 本作は前作兼本編「メモリアルリミット ~Limit of memories~」の短編集、
サブキャラ視点の文字通りサイドストーリーとなっております。
 本編のあとがきで、いつか短編集を書きたいということを申し上げておりました。
この度執筆の機会を得て、皆様に見ていただくことが出来て嬉しく思っています。
 もちろん本編を読んでいない皆様にもお楽しみいただけるように尽力したつもりですが、
本編をお読みいただいた方がより一層お楽しみいただける内容となっております。
 それでは少しばかりですが、各章の解説をさせていただきたいと思います。

 第1章【五月side】
 こちらは本編、第14章頃のお話です。五月の魅力を表現出来たでしょうか?
 第2章【五十嵐side】
 こちらは本編、第30章頃のお話です。五十嵐は終始いいボケキャラでした。
 第3章【九条side】
 こちらは本編、第37章頃のお話です。悩めるご令嬢、九条の心中とは……?
 第4章【桜木side】
 こちらは本編、第40章頃のお話です。桜木、裏ではこんなことしてました。
 第5章【初音side】
 こちらは本編、エピローグ後のお話です。初音さん、実はこんなに天然です。
 第6章【司馬side】
 こちらも本編、エピローグ後のお話です。6人の思いを込められたでしょうか。

 もしこの短編を読んで、本編の内容が気になったという方がいらっしゃいましたら、
ぜひぜひ本編の方にも目を通していただけたら、これほど嬉しいことはありません。
 「記憶を旅して」から長々と続けてきた今作ですが、ひとまずこれにて完結です。
 次はBGM第二部でお会い出来ますことを、心より楽しみにしております。では!