>> メダロットライズ にもどる

RSSフィード メダロットM(再起動)
   

日時: 2014/10/21 13:24
名前: 流離太   <leoobake@hotmail.com>

初めまして、流離太という者です。
以前から、こちらのサイト様のお噂は聞いております。
この度、原作者であるボマンさんの許可を頂き、新「メダロットM」を連載させていただくことになりました。
若輩者ですが、どうかよろしくお願いいたします。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい」  >>1-22
Episode2「二人揃ってツンデレンジャー」  >>23-43
Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!」  >>44-67
Episode4「今回はサービス回! 脱ぎます!」  >>68-91
Episode5「真夏の夜のナイトメア」  >>92-107
Episode6「メダリンピックのススメ」  >>108-

☆☆登場人物☆☆

「鷹栖トマト(たかす・とまと)」
本編の主人公にしてヒロインな、花田学園高校1年生。
古代メダロッチをつけたせいで、どういうわけか男から女に性転換してしまった。
「自分よければ全てよし」がモットーの自己中心的な性格で、夢は「波風立たない平穏な人生を送ること」。
パートナーはカブトムシ型メダロットの「フォレス」、ナイト型メダロットの「ガマン」マーメイド型メダロットの「マイド」。

「フォレス(コーカスト)」
トマトのパートナーな♀カブトムシ。
精密な射撃を得意とするバランスのよい機体。
熱血漢で、トマトとは逆で困った人は必ず助けるというタイプ。
同じカブトムシ型メダロットの「ラスト」を宿敵として憎んでいる。

「ガマン(ナイトアーマー)」
トマトのパートナーなナイトメダロット。
堅実な守りを得意とする防御型だが、幻の左と呼ばれる「サムライセイバー」による格闘攻撃も強力。
トマトのボディーガードで、ご老体だがやる時はやる。

「マイド(ピュアマーメイド)」
トマトのパートナーな人魚メダロット。
回復を得意とする補助型で、トマトのお姉さん代わりとして家事もサポートする。
トマトが女の子になって、密かに喜んでいる。

「成城マトモ(せいじょう・まとも)」
花田学園高校1年生の男子高校生で、もう一人の主人公。
トマトを師匠と仰いでおり、現在ロボトル修行中。
この小説中唯一の良心で、なにかと気苦労が多い
パートナーは犬型メダロットの「シアック」。

「シアック(シアンドッグ)」
トマトのパートナーな犬メダロット。
射撃を得意としているが、ロボトルよりもギターを弾くことの方が好き。
なんだかんだいって、マトモのよき理解者。

「愛媛ミカン(えひめ・みかん)」
花田学園高校1年生の眼鏡っ子で、世界的な研究者「愛媛トウナス」の娘。
自身も機械オタクで、パートナーメダロットの「サラ」にも色々違法スレスレな改造をしている。
トマトとは真逆な「面白ければ全てよし」をモットーとしており、彼女の側にいるとトラブルが絶えない。
ある意味、この話の黒幕。

「サラ(セーラーマルチ)」
ミカンのパートナーな少女メダロット。
ティンペットに違法改造が施されており、男型パーツも女型パーツもつけられる特別仕様。
パートナーと同じくマニアックな知識に長けている。

「富良野ブドウ(ふらの・ぶどう)」
ロボトル世界チャンプの少年で、トマトと年は同じ。
性格はクールに見せかけて、天然。
パートナーはクワガタ型メダロットの「ルシファー」。

「青森リンゴ(あおもり・りんご)」
悪の集団「ロボロボ団」の幹部で、いつも黒いドレスを着ている少女。
ロボロボ団であることにプライドを持っており、それを傷つけたトマトを目の敵にしている。
パートナーは「マゼンタキャット」と「ヘルフェニックス」。
ロボトルスタイルは

「吹香川ザクロ(すいかがわ・ざくろ)」
悪の集団「ロボロボ団」の幹部で、いつも黒い服を着ている長身の少年。
いわゆる脳筋キャラだが、古代メダロッチで性転換するとキャピキャピ系女子へと変貌する。
パートナーは「ブラックメイル」だったが「ブロッソメイル」に進化した。

「怪盗ブルーベリー」
悪の集団「ロボロボ団」の幹部で、世界をまたにかける怪盗。
いつも仮面をつけておどけた口調で話し、その真意は誰にも計り知れない。

「メダルゴッド」
悪の集団「ロボロボ団」の首領で、その正体は謎に包まれている。

「愛媛トウナス(えひめ・とうなす)」
世界的に有名なメダロットの研究者で、ミカンの父親。
私生活もお腹周りも非常にだらしない。

「成城ニマメ(せいじょう・にまめ)」
メダロット社植物町支部支社長で、マトモの父親。
若くして出世したエリートだが、人を見下したような態度を時々とる。
シャイなため、常に顔にモザイクをかけている。

「郷野タケシ(ごうや・たけし)」
花田学園高校1年生の少年で、いわゆるいじめっ子。
生徒達からは「ジャイポン」の異称で恐れられている。
パートナーは「イエロータートル」と「メガファント」。

「晩夜ダイキ(ばんや・だいき)」
隣町に住む少年で、オリジナルメダロットブランド「スポロロボテック社」の御曹司。
卑怯な性格の持ち主で、ミカンから「陰険な策略家」と称される。
パートナーはザリガニ型メダロット「マルス(ロールスター)」。

「ラスト(ヘラクレイザー)」
異常進化を遂げた野良メダロット集団「テラーク」のリーダーで、人類を滅ぼそうとしている。
本体は♀カブトムシ型だが、スピリット体という人間形態を普段はとっている。
決して某BGMの主人公ではない。



Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(1)」 ( No.2 )
   
日時: 2013/03/11 18:00
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 時は近未来。
 といっても、街並みは今の世とほとんど変わらない。街には巨大な鏡のようなビルが所狭しと立ち並び、人々は蟻が地を這うようにせわしなく往来を行きかう。車もしばらく空を走ることもなさそうだ。

 大きな相違点を挙げるとすれば、それは「メダロットの」存在だ。
 「メダロット」。それは、人工知能である「六角貨幣石(メダル)」を搭載した、全く新しいロボットである。ティンペットと呼ばれる基本フレームに様々なパーツを組み合わせることによって、無限の可能性を秘めているのだ。
 巷では、この「メダロット」同士を戦わせるロボットバトル、通称「ロボトル」が老若男女問わず流行している。今やメダロットは、人間のよきパートナーとして、携帯電話のような必需品と化したのだ。



 そんなメダロットを研究する場所、「メダロット研究所」の一室にて。

「ふんふんふふふ~ん! ゴミを畑に捨てるやつは誰だ、誰だ、誰だー!」

 ご機嫌な調子で歌を歌いながら、ネットサーフィンをする眼鏡っ娘がいた。肩まである橙色の髪を持ち、右端の髪をスマイリーマークのボンボリで留めている。
 彼女の名は「愛媛蜜柑(えひめ・みかん)」。メダロット研究所所長のひとり娘にして、近所の花田学園高校に通う二年生だったりする。

 「実はオラだー! なにぃ、お前は生き別れた息子の友達の叔父の知り合いの娘~! ―― あべしッッ!!」

 蜜柑は、突如奇声を上げる。
 一体、なにが起こったのか? 理由は簡単。クソつまらないホームページを見たため、精神的ダメージを受けたからだ。どれくらいつまらないかは、読者の想像に任せよう。ちなみに、想像して気分が悪くなったからと言って、当方では一切責任を負いません。
 それはともかくとして、「それいけロボロボ団」と書かれたクソホームページは蜜柑の怒りを買った。眼鏡をキラーンと光らせると、蜜柑は不気味な笑いを浮かべる。

「くふふふ……―― 荒らすか」

 蜜柑は掲示板に「ああああああ」という件名の記事を百個くらい立て、チャットに入室して他人をけなしまくった。



 次の日の朝、通学路にて。

「おはよーございますっ!! 斗的師匠!!」
「ああ、おはよう」

 熱したアスファルトの道を歩く斗的の後ろから、小柄な少年が声をかけてきた。青と緑色をしたチェック地のズボンに、半そでのワイシャツというスタイルから、花田学園高校の生徒だということがわかる。
 斗的のクラスメイトである「成城磨智(せいじょう・まとも)」だ。クラスメイトの斗的を、ロボトルの師匠として尊敬している。

「いやー、今日は暑いっスねー! 師匠、暑いの苦手だから大変でしょう?」

 磨智は人懐っこそうな目をクリクリと動かし、早速斗的を労わる。

「ああ、こんなに熱いのは始めてだなぁ。冷凍食品コーナーの冷蔵庫に入り込みたい気分だ」
「あはは! 確かに、あそこ涼しそうっスよね~!」
「でもやめとく。前にやってあそこの店員に目付けられてるんだ」
「実践済み!?」
「だってさ~、暑くて溶けそうなんだよ~……」

 斗的の言う通り、この陽気は異常だ。朝だというのに、銀色の光をジリジリ放つ太陽が、オーブントースターのように照り付けている。アスファルトからは陽炎が立ち上り、ジージー鳴き喚く蝉の声すら鬱陶しい。

「そうっスよねー、暑いっスよねー? こんな時に厚着しろって言われたら、死んじゃいますよねー!」
「ああ~、そうだな~」

 磨智はピタッと足を止める。

「……なのにどうして、師匠は冬服着てるんスか?」
「へ?」

 磨智の言う通り、斗的は長袖のシャツを着て、紺色のブレザーを羽織っている。のみならず、目にはグラサン、口にはマスク、頭には髑髏マーク入りの紺色帽子という完全武装だ。あ、帽子は元からかぶってたか。
 夏が嫌いな斗的が、こんな格好をしているなんて考えられない。それに、いつもより若干声が高いような気がする。
 斗的は顔をそらし、もごもごと言いよどむ。

「いや、これはその……あれだ。オレ、紫外線浴びると体が溶けちまうんだ」
「どこのドラキュラっスか!? てか、メルヘンやファンタジーじゃないんだし、吸血鬼なんているわけないっスよ!!」
「お前、物知らないにもほどがあるぞ? あいつらにやられると、傷口がかゆくてかゆくて」
「蚊じゃないっスか!!」
「まぁ、お前のおつむが弱いことはともかくとしてだ」
「いや、僕の許可無く不名誉な設定つけないで!! テストの成績は師匠よりいいっスから!!」
「蜜柑の電話番号知らないか?」
「え、蜜柑?」

 思ってもみなかった名前が出たので、磨智は少々面食らう。
 斗的にとって、蜜柑は天敵のような存在であり、避けるべき相手だ。なのに、その蜜柑の連絡先を斗的から聞くなんて。
 やっぱり、今日の斗的はどこかおかしい。まるで、斗的じゃない別の誰かと話しているようだ。

「いや、あいつに用があるんだけどさ、考えてみればあいつの家に電話かけたこと無いから。お前、蜜柑の幼馴染だから知ってるだろ?」
「いや~、無理っスね。あいつの家、電話ないから」
「マジで!?」
「ええ。あいつ、『そんな余計なもの買うくらいならメダロットのパーツ買うね!』って言ってたっス」

 ちなみに、蜜柑は極度の機械オタの上、超ド級貧乏だったりする。

「いや、研究所なら電話のひとつでも置いとかなきゃまずいだろ」
「ところで、蜜柑がどうしたんスか?」
「昨日あいつの家に行った時、メダロッチ忘れてきちまって――」

 斗的がそう口に出したのとほぼ同時に、二人は足を止める。
 目の前に、数人の高校生に取り囲まれている小学生がいたからだ。

「金出せ坊主」
「金出せ坊主」
「金出せ坊主」

 小学生からなんて大した額を搾り取れないはずなのに、リーゼントで口ひげを生やした高校生三人組が、金を要求している。

「うわぁ……今時あんなことする連中いるんだ……」
「ああ、そうだな。―― さて、」
「ちょっ、斗的師匠!? なに回り道しようとしてるんスか!?」

 摩智はガッシリと斗的の肩をつかみ、引き止める。

「だって巻き込まれたら嫌だし。覚えてるだろ? オレのモットー?」
「『なんのトラブルもない平凡な人生を送ること』っスよね?」
「わかってるじゃねぇか。オレは夜も眠れないといったトラブルや、敵を作るのが大嫌いなんだよ。従って、ここはスルーする。以上」

 先程まで摩智の心の中で大きくなっていった疑問が、あっという間に氷解した。というよりも、一瞬にして蒸発した。ここまで自分勝手なのはこの地球上において、自分の師匠たる斗的しかいない。
 とりあえず安心した磨智は、斗的の説得を続ける。

「で、でも!! ここで助けるのが、男ってやつでしょ!! そんなんだから自己中心的人間って言われるんスよ!!」
「お前もいちいちうるせぇやつだな。てか、オレよりずぅっと自分勝手に生きてるやつがいるだろが」

 その時。

「おっはよー、二人とも! 今日も朝からアクセル全開?」

 ほがらかな顔で手を振る蜜柑が、斗的と磨智の方に走ってきた。
 途端、斗的は眉間にしわを寄せる。

「よぉ、奇遇だな。たった今お前の話をしてたところだ」
「あっはっはー! いやぁ、あたしを取り合って痴話喧嘩ってか?」
「どこの誰が?」

 斗的は、冷たい視線をスコールのように蜜柑へと注ぐ。
 いつもと変わらぬやり取りを目の当たりにし、摩智は苦笑する。

「てかさ~、いいの?」
「あ?」
「道で絡まれてる小学生を見捨てて! そーいうのって、道徳に反するんじゃなぁ~い~?」
「―― ちょッ!? おまっ……!!」

 斗的が蜜柑の口を慌ててふさいだ時にはもう遅い。不良三人衆はしっかりとこちらをお睨みになっておられる。

「さっきからいちいちうるせぇんだよダボがッ!!」
「ちょーどいい、てめぇらも金よこしやがれッ!!」
「特別に三回払いにしてやるからよぉッ!! 今なら洗剤も付いてきてお得だコラァッ!!」

 不良三人衆は文句を言いながら、次々と近づいてくる。

「うわぁ~、大変なことになっちゃったね~」
「ほざけっ、このトラブルメーカーが!! お前といると、いっつもロクでもないことが起きやがる!!」
「そういえばさ~、丁度洗剤ほしかったんだよねぇ。この前こぼしたカレーヌードルの染みが中々取れなくて」
「ああ、確かにカレーって染みになると落ちないんだよな。オレも苦労して……じゃねぇよっ!! それくらいスーパー行って買えよ!! そっちの方が確実に安いから!!」
「でもさぁ、こういう所で買った洗剤の方が、キレイサッパリ汚れが消えるとあたしは思うな!」
「キレイサッパリ消えるのはオレらの財布の中じゃあッ!!!」

 そんな言い争いをしている間に、斗的達はフルーツバスケットのように囲まれてしまう。こうなってしまっては、セレクト防衛隊(警察のようなもの)のいる派出所にも駆け込めない。
 どうする斗的? このまま素直に金を渡してしまうのか!?
 絶体絶命の斗的は、ため息をひとつ吐くと、
 
「……仕方ねぇ」

 左腕を振り下ろす。

 ―― 瞬間、
 一陣の風が不良三人衆の頭を撫でる。
 不良三人衆は何気なく自分の頭を触る。が、返ってくるのはツルツルとした感触だけ。

「「「――ッ?!」」」

 刈り上げられ、毛が一本もない地肌の感触だけ。
 足下には、もっさりとした髪の山が形成されている。

「ぐわァアアアアアアアアッッ!!! おっ、お助けェエエエエエエッッ!!!」
「ママァッ!!! ママァアアアアアアアアッ!!!」

 会心の一撃。不良は逃げ出した。斗的は60の疲労感を得た。

「ご苦労さん、ガマン」

 斗的は、電柱の陰に隠れている1mくらいのロボットに声をかける。
 ロボットは、西洋甲冑のような装甲に覆われており、右手に馬のデザインが描かれた盾、左手に光をまとった日本刀を持っている。
 西洋騎士型メダロット「ナイトアーマー」だ。
 あだ名は、ガードマンを略して「ガマン」。ジジくさい喋り方をするやつで、斗的のいる場所ならどこでも駆けつける用心棒である。

「なぁに、ワシは斗的坊ちゃんに降りかかる火の粉をはらうのが目的じゃからな! 坊ちゃんのためなら、たとえ火の中水の中草の中森の中」
「やめろ。ポケモンはメダロットの敵だ」
「いや、同じゲーム同士歩み合おうよッ!!」
「いやぁ、しかし斗的は相変わらず強いねぇ♪ 助かったよ!」

 蜜柑は向日葵のように満面の笑みを浮かべながら、斗的の背中をバシッと叩く。

「ぉわっっ?!!」

 斗的は不良を撃退できたことで油断していた。その油断が、帽子を押さえるという行為を忘れさせていたのだろう。
 紺色の帽子はくるくると放物線を描き、ポスッと地面に落下する。
 そのため、帽子の中に収納されていた「あるもの」が、堰を切ったかのように飛び出す。

 ―― 斗的の背中まである、シルクのように透き通った銀髪が。

 …………数秒間、世界が完全に凍りついた。
 磨智は目を見開いたまま。
 蜜柑は笑顔のまま。
 ガマンはギックリ腰になって地面を転がっていたまま。
 銀髪の少女は、そそくさ帽子を拾うと、目が見えないほどに深くかぶり直す。
 やっと口を動かせるようになった磨智は、銀髪の少女に疑問を投げかける。

「師匠っス……よね?」
「……」

 少女はうつむいたまま、こっくりと頷いた。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(2)」 ( No.3 )
   
日時: 2013/03/11 18:29
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 斗的達が不良を撃退していた頃、花田学園高校近くの電話ボックスにて。

「ねぇ、許せないございましょう? 私がデザインしたホームページを荒らしやがるなんて!!」

 ボックス内には先程から高校生くらいの少女が、十円玉を追加しつつ早口で怒鳴り散らしている。一体、なにを怒っているのか?
 え、読者の皆さんにはもう見当がついてる?

「だから、荒らしをした愛媛蜜柑には報いを受けてもらわないと。―― え、首領に黙って自分ら戦闘員を動かしていいのかって? ふぅ……いいこと? ホームページが荒らされたってことは、私達組織に宣戦布告してるも同然ですわ。組織の看板を汚すゴミを掃除するのも、幹部である私の仕事だと思いません? ……はい、じゃあそういうことで。適当な人数と……そうね、『アレ』も持ってきて頂戴」

 そう言い終わると同時に、少女は受話器を置く。

「――……ふふ、思い知らせてやりますわっ!!」

 少女は、ギュッと拳を握り、顔を上げる。

「私達―― ロボロボ団の力を」

 カッ、と雷が―― 鳴り響いたら雰囲気たっぷりだったのだけど、聞こえてくるのは電話ボックスを取り囲む野次馬の声だけ。

「まぁ奥様、なんでしょうあの娘?」
「急にわけわからないこと叫び出しちゃってねぇ」
「きっと相当苦労してるのねぇ」

 スキンヘッドで口ひげを生やした主婦達は、ひそひそと囁きあう。
 さっきから少女が話していた声は―― ダダ漏れだったりする。

「は……はゎ……っ!!」

 少女の顔は、茹蛸のようにポゥッと赤くなった。
 良い子のみんな! 電話でお話しする時は、静かに話そうね!

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(3)」 ( No.4 )
   
日時: 2013/03/11 18:28
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 場面変わって、花田学園高校の体育用具室。

「メダロッチっぽい腕輪を付けたら女になったぁ!?」

 磨智は素っ頓狂な声を上げる。

「ああ。メダロッチから変な光が出てきて、それを浴びたら……」

 斗的は、マットの上で胡坐をかいて現状を説明する。その姿は、男子の制服を着てはいるものの、明らかに少女そのもの。
 柔らかな質感を持つ銀髪に氷のように澄みきった白い肌。しっとりと濡れた瞳は宝石のような美しさをもち、唇は熟した果実のように潤んでいる。さらに、ワイシャツに透けているさらしがなんとも艶かしくて……。
 正直、磨智は混乱している。自分の師匠である斗的は、世界で一番尊敬する「男」だったはず。だけど、目の前にいるのは、ちょっと近寄りがたい雰囲気を持った少女。けれど、あの口調と存在感は紛れも無く斗的で――

 「ああもうッ!!! 僕は一体どぉしたらいいんすかぁッ!!!」
 「うっせぇよアホ磨智ッ!! ていうか、それはオレの台詞だ!!」

 激しく頭をかきむしる磨智を、斗的はアイスラッガーのごとくバッサリ切り捨てる。
 そこで蜜柑が、出番を確保しようとすかさず挙手する。

「はいはーい! 質問! 斗的、本当に女になっちゃったの?」
「……まぁな。髪も伸びたし、胸もあるし……その……あそこも――」

 斗的は顔を仄かに紅潮させ、プイと視線を下げる。
 が、蜜柑はなお疑いの目でじぃっと斗的を見つめる。

「な……、なんだよ……?」

 困惑の色を見せ、斗的は眉をハの字にする。

「斗的ぉ~、本当に女になったのぉ? もしかして、レディースデー利用しまくろうとする一世一代の作戦じゃ?」
「考えてねーよ!! ていうか、一世一代の作戦の割にはショボいなオイ!! それより、髪の毛が一晩でこんなに伸びるわけねぇだろ!! これがなによりの証拠じゃねぇか!!」
「えー? あたしの市松人形だって、一日でそれくらい伸びるよー?」
「いや、それは寺に持ってけ!! 確実に悪霊的なものが憑いてるから!!」

 途端に、蜜柑は頬を膨らませる。

「ぶー! あたしの大事なジェファニーちゃんを悪霊呼ばわりしないでよ! 近所の神社から拾ってきた由緒正しきお人形なんだから!!」
「確定的じゃねぇか!! つか、ずいぶんモダンな名前の市松人形だな!! ……それより人形の話はどうだっていんだよ!! オレは女になった!! ハイ結論!!」

 もはや面倒くさくなった斗的は、口調を荒げて会話を終わらせようとする。
 しかし、蜜柑はなおも食いすがる。

「いやいや! 『ありえないなんてのはありえない』って某錬金術師漫画の人造人間も言ってたしさ、ここは―― 確かめてみたほうがいいんじゃないかな、ってさ?」

 そう言った蜜柑の眼鏡が、暗闇の中でキュピーンと光る。

「……え? 確か、める?」

 斗的の背中を、悪寒が滝登りの勢いで駆け上がる。
 人間、誰しも「虫の知らせ」とか「霊感」という名のシックスセンスを持ち合わせている。斗的が感じたのも、そのような身の危険を知らせる信号かもしれない。
 時間は8時15分。朝の会が始まるまで、15分時間がある。しかも、ここは体育用具室。教室や職員室から離れた場所にあり、助けを求めても多分届かないであろう。つまり……
 斗的の頭の中に、かろやかな木琴の音と「はい、今日は海老の殻剥きです♪」というアナウンサーの明るい声が響く。

 ――……剥かれる!?

「い・や・だぁ~~っっ!! お前に触られるくらいなら、死んでやるぅううッッ!! 遺書にお前の名前書いて、子々孫々まで祟ってやるぅううッッ!!!」

 斗的は近くの柱に、よじよじと急いで上る。その姿は、テンパッたコアラのよう。
 蜜柑はニタニタと笑いながら、スカートのポケットに手を入れる。

「落ち着きなって斗的ぉ♪ 大丈夫、悪いようにはしないからぁ♪」
「嘘だッッ!!! 今取り出したバタフライナイフ何ッ!!? 確実にオレに危害加える気満々だろがッ!!!」
「だってぇ、さらし邪魔じゃーん!」
「いや、切り裂く必要はな―― って、イヤァァアアアアアアアア……」

 満面の笑みを浮かべ、指揮棒のようにナイフを振るう蜜柑。
 破れたシャツの前を押さえ、ナイフの動きに合わせるように悲鳴という歌を歌う斗的。
 そのような演奏会に対し、磨智とガマンに出来たことといえば、ただハンカチをひらひらと振ってエールを送ることだけだった。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(4)」 ( No.5 )
   
日時: 2013/03/11 18:31
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 数分後。

「うわぁ~。斗的、頭のてっぺんから爪先まで女の子だね~」
「しくしくしくしく……」

 ボロボロの元制服をかろうじて纏っている斗的は、壁の方を向いて涙を流している。
 磨智は、斗的が泣くところを始めて見た。そのあまりの痛々しさに、思わず目を背け、話題を変える。

「そ、それにしても……斗的師匠が付けたってメダロッチ、どこで入手したのかな? ……ガマンさんは、なんか聞いてないスか?」

 話を振られたガマンは、顎に手をやり、唸る。

「むぅ、残念ながらわからんのぅ。わしの見てる限りはな」
「ずっと近くにいたのに、斗的が性転換してたことにも気づかなかったモーロク爺に聞いても無駄だと思うよ?」
「っ!?」

 蜜柑の一言で心を抉られたガマンは、斗的の隣で泣き始める。
 そんな二人にお構いなしで、蜜柑と磨智は話を続ける。

「やっぱさぁ、某大国の陰謀だと思うんだよね! それだと面白そうだし」
「いや、面白そうって……」
「じゃあ、某セールスレディーからメダロッチを受け取ったことにしておく?」
「蜜柑、この状況楽しんでるでしょ?」
「そりゃあ、勿論!」

 いや、力説されても……。

「うぜぇんだよクソ蜜柑!! 全部テメェのせいだろがッ!!」

 突如、ずっと部屋の隅で泣いていた斗的の怒声が、体育用具室に木霊した。
 ふと斗的の方を見れば、涙に潤んだ目でまっすぐ蜜柑を睨んでいる。

「へ、どゆこと?」

 斗的は袖でグイと涙を拭い、言葉を続ける。

「昨日、間違ってお前の家から腕輪を持って行っちまったんだよ!! それを試しに付けてみたらな、このザマだ!!」
「ちょっ、ちょっと待ってほしいっス!!」

 頭の整理をするため、磨智はストップをかける。

「え、つまり……またもや蜜柑の仕業なんスか?」
「ああ、ずっと蜜柑のターンだ」
「そんな……」

 磨智は口元に手をやり、目を剥く。
 そんな馬鹿な話があるのだろうか? 人工物に過ぎないメダロッチが、人間の体を魔法みたいに作り変えてしまうなんて。
 だが、斗的が突如性転換したという現象自体が、そもそも異常なのだ。だから、変な腕輪のせいで性転換したという話も、無下には却下できない。

「―― それに」

 磨智は、蜜柑にチラリと目を移す。
 蜜柑は相変わらず頭の中に満開の桜が一年中咲き誇っているような顔をしている。

「蜜柑が絡んでいるとなると……あながち否定も出来ないっスね」
「だろ?」
「いやー、そんなに褒められると照れちゃうよあたしっ!」
「褒めてねーよ」

 斗的は、げんなりした表情で首を垂れる。

「大体さー、人の家のものを黙って身に着ける方がどうかしてるんじゃない? その辺、常識で考えたらわかると思うんだけどなぁ~」
「ぐほっっ?!」

 斗的は精神的ショックを受けた。
 そりゃそうだ、あの愛媛蜜柑から「常識」を説かれたのだ。大魔王サタンに仏教を習った方が億千万倍マシである。

「まぁ、そのメダロッチなら不可解な現象もありえるかもしれない、かな?」

 珍しくシリアスな顔をして、蜜柑は腕組みをする。
 というかこの腕輪、やっぱりメダロッチだったのか。

「ありえるかもしれないって、どういうことっスか?」
「いやね、そのメダロッチ……ちょっと曰くつきなんだよね」
「曰くつきって……まさかお前っ、また神社から拾ってきたんじゃ!?」
「違う違う! あたしの親父が遺跡から拾ってきたの!」
「遺跡……?」

 説明しよう。
 メダロットのメダルは、最初遺跡から発見されたのだ。それを模したコピーメダルが一般に普及し、現在のメダロットブームに至る。

「うちの親父研究者だからさー、ちょくちょくそういう遺跡とか行くわけ。でね、石の棺に封印されているメダロッチとメダルを発見したというわけ」
「メダロッチも!? メダロッチは、メダロットを転送したり、コミュニケーションを図ったりするための道具として、メダロット社が開発した通信機のはずなのに!!」
「そう! 今まで発見されたのはメダルやボディーだけで、現在のようなメダロット技術が古代にはないって言われてたけど……これで確定したも同然! このメダロッチは、歴史的発見の証拠たる、貴重な文化遺産ってわけ!!」
「いや、そんなに大事なもんなら、倉庫とかにしまっておけや。泥棒に盗られたらどうすんだよ」

 熱くなっている蜜柑と磨智に対し、斗的は冷静なツッコミを入れる。

「そうだよねー、現に斗的に盗まれそうになったし!」
「泥棒扱いすんじゃねぇって言ってるだろ!!」

 興奮して殴りかかろうとする斗的を、磨智は慌てて羽交い絞めにする。

「お、落ち着いてください師匠!! 仮にも女の子に手を上げちゃ駄目っスよ!!」
「放せっっ!!! 今日という今日はコイツをだなぁ……!!」
「ちょっ、あ、暴れないでください!! む、胸が……」

 斗的が暴れるせいで、磨智の腕に斗的の胸に付いた柔らかな双丘がマトモに当たる……そう言いたかったのだが、純情BOYの磨智にはとても言えなかった。うーん、これが青春ってやつ?
 その時だった。

 ―― ちゅどぉおおおおおおおんんっっ!!!

 校庭の方から、突如重い爆音が響いた。

鷹栖斗的は静かに暮らしたい(5) ( No.6 )
   
日時: 2014/10/21 11:26
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「ちょっ、なに今のあかほりさとるっぽい爆発音は!!?」

 蜜柑は、己が心の中に潜む獣(野次馬)を抑えきれず、体育用具室の小窓から顔を出す。
 校庭の中心は、まるで隕石が降ったのではないかと錯覚するほど、深くえぐれている。ぽっかり空いた大穴の底は暗く、見通しが利かない。さながら、冥界へと続いているかのごとく……。

 ―― いや、

 よく見ると、穴の底では何かがうごめいている。複数の黒い影が、まるで、のた打ち回る子蛇のように、ゆっくり、ゆっくりと、這い上がってくる。
 磨智は、ごくりと唾を飲み込む。言い知れぬ不安が、体の芯からじわりじわりと湧き出してくる。
 一体、あの穴からなにが飛び出してくるのか? わかっているのは、その者達が、自分の不安を現実にするであろう存在だということ。
 影は、やがて地表へと顔を出す。それは、非常にありふれた、斗的達と同い年くらいの、

 ―― 少女。

 釣り目気味で、二つに分けた髪をクロワッサンのようなくるくるツインドリルにしている。なにより目を引くのはその黒いドレスと二本の角がついたカチューシャ、それにサングラスだ。まるで仮装パーティーの会場から抜け出してきたかのようなそのいでたちは、あまりにも真昼の校庭から浮いている。
 斗的はそれを見て思った。「あの格好暑そうだな」と。

「えー、本日は晴天なり本日は晴天なり! 花田学園高等学校のみなさん、おはようございますですわ!」

 少女は拡声器(どこから出した?)を掲げると、キンキンとよく通る声で物申す。

「私の名前は『青森林檎(あおもり・りんご)』! 本日、学校へ行く時間を割いてまでここに来たのは他でもありませんわ! 私達、『ロボロボ団』に喧嘩を売った不逞の輩を懲らしめに参りましたの!」
「ろ、ロボロボ団だってぇっっ?!」

 磨智は、突然大声を上げる。

「どうした磨智?」

 冷や汗をダラダラと流し、青ざめた表情で、磨智は語る。

「ろ、ロボロボ団って言ったら、セレクト防衛隊も手を焼いている犯罪集団じゃないっスか!! メダル泥棒を筆頭に、食い逃げ、賽銭泥棒、ネコババ、遺跡荒らしと悪の限りを尽くしているというあの!!」
「そんな連中に手を焼いているようじゃ、セレクト隊もおしまいだな」

 斗的のおっしゃる通り。

「それにしても連中の目的って、一体……?」
「なんか、誰かがロボロボ団に喧嘩を売ったとか言ってたな。どこの誰だかわかんねぇが、余計なトラブル持ち込みくさって」

 苦々しげに舌打ちする斗的を尻目に、磨智はロボロボ団の動きに注意する。
 窓の外で、林檎は言葉を続ける。

「こともあろうにそいつは……ロボロボ団のホームページを荒らしやがったのですわッ!! 私がッ、一からhtmlの勉強をしてッ、タグひとつひとつに魂を込めて打ち込んだッ、ホームページをッッ!! ―― さぁ、出てきなさい!! 愛媛みかァアアアアアアアアんんッッ!!!」

 ―― 愛媛みかァアアアアアアんんッッ……!!!
 ―――― 愛媛みかァアアアアアアんんッッ……!!!
 ―――――― 愛媛みかァアアアアアアんんッッ……!!!

 林檎の声が、除夜の鐘のように何度も頭の中で反響する。
 斗的は、自分のすぐ横でのほほんとしている蜜柑を、煩悩と一緒に消してしまおうかと密かな殺意を覚えた。

「……蜜柑さん、どういうことですか?」

 怒りのあまり斗的は敬語になる。
 が、そんな様子もなんのその、蜜柑はあっけらかんと答える。

「……えへ、やっちった」

 蜜柑はピロっと舌を出し、握り拳で自分の頭を「コツン☆」と叩く。

「『えへ、やっちった』じゃねェエエエエエエエッ!! ……おまっ、馬鹿ですかぁ!? なにロボロボ団に喧嘩売ってるんだよ!! オレが巻き込まれたらどうするんだ!? ええッ!?」

 蜜柑を責めながらも、自分の保身しか考えていない斗的。どっちもどっちである。
 なんでこんな人を師匠に選んだのか、磨智は自問自答する。

「だってさー、ロボロボ団のホームページ、あまりにもクソすぎたんだもん。存在するだけで罪っていうか」
「人の罪を責める前に、自分の罪を自覚しろや!! 冗談じゃねぇ、オレ帰るわ!! ―― 誰かっ、オレん家直行ゲート開いてくれぇええええ……」

 見苦しくパニくる斗的に対し、蜜柑はチッチッチと指を降る。

「大丈夫大丈夫! 解決策は、キチンと考えてあるからさ!」

 そう言うと同時に、蜜柑は、跳び箱をひっくり返す。中に入っていたのは、女子用のセーラー服であった。
 蜜柑は、それを両手で掴むと、ひらひらはためかせる。

「じゃんじゃじゃーん! 取り出したるは、なんの変哲も無い制服です!」
「いや、なんで跳び箱の中にそんなもんが入ってるんスか?」

 磨智は、引きつった笑顔を浮かべて聞く。

「実はね、ずっと前に体育の男山先生が女子更衣室から持ち出してるのを見ちゃってさぁ!」
「犯罪じゃないっスか!! てか、なんで通報しないの!!?」
「どーでもいいわ、男山が制服泥かスカトロ好きかなんて。蜜柑、その制服でどうするつもりだ?」
「そりゃー、斗的に着てもらうんじゃない!」

 蜜柑はサラリと言う。まるでそれが、国民総生産=総生産額-中間生産物と同じくらい当たり前のことみたいに。

「じょっ、冗談じゃねぇよ!! オレにオカマになれってか!? オレに木刀持って『がっかりだよっ!』って言えってか!? さそり座の女を歌えってかぁあああああッ!!?」
「違う違う! これを着て、あたしの身代わりになってほしいの!」
「……は?」

 斗的は、ポカンと口を開け放つ。

「だ・か・らっ、交換条件! あたしは斗的が元に戻れる方法を教えてあげる! その代わり、斗的はあたしに変装してあいつらを追い払う!」
「そんな条件、オレが飲むと思ってるのか?」

 そりゃそうだ。世界自己中選手権チャンピオンの斗的が、わざわざ自分の身を危険にさらすようなマネをするはずがない。
 が、蜜柑は不敵に口元を歪める。

「思うよ~! 斗的に有利な条件が三つも揃ってるもん。まずひとつ!」

 そう言うと同時に、蜜柑は人差し指をビッと立てる。

「ロボロボ団の制裁が、恐らくしょーもないものであること! 悪くても命に関わるようなことにはならないでしょ?」

 蜜柑の言葉を受け、磨智がうんうん肯く。

「確かに……ロボロボ団のやってることって言ったら、子どものいたずらのレベルを出ないものばかりっスよね。とても人殺しをやるような連中には……」
「それに、何年か前にも一人の小学生がロボロボ団相手に戦ったって話もあるしね! まぁ、斗的なら大丈夫でしょ?」
「期待されてもなにも出ねぇよ……。でもよぉ、目付けられて自宅にまで押しかけてくるかもしれないだろ? てか、こんな目立つ格好じゃ変装したってばれるだろが」

 斗的は自分の長い髪をつまみながら、ジト目を蜜柑にむける。
 対し、蜜柑はにんまりと口の端を吊り上げ、

「そこで登場するのが二つ目の理由!」

 二本目の指を立てる。

「今の斗的を見ても、誰も高校生『男子』鷹栖斗的だとは思わないこと~」

 磨智はポンと手を打つ。

「そっか! いつも一緒にいる僕が一瞬戸惑ったくらいだもん! これなら師匠とバレることはないっス!」

 それに、目の前にいるのが斗的とは思えないほど可愛いし。

「もしかして、斗的が性転換したのも、こういう運命だったのかもね! 斗的、運がいいよね~」

「性転換したせいで、お前の身代わりになるという余計な事態に陥ったんじゃないのか?」

 斗的はブスッたれた表情のまま、冷静なツッコミを入れる。後に、溜息をふぅとひとつ吐き、観念したように肩をすくめる。

「―― 仕方ねぇなぁ……お前の身代わりにでもなんでもなってやるよ。その代わり、セーラー服なんて死んでも着ないからな」

 ちょっと残念かもと、磨智は密かに思う。
 今の斗的は、元男だということが信じられないくらい可愛い。女の子らしい格好をしたら、似合うんじゃないか?
 でも、そんなことを口に出したら斗的に逆エビ固めをかけられかねないので、心の中にしまっておくことにした。
 そんな磨智の思いをよそに、蜜柑は斗的の肩を馴れ馴れしくポンポン叩く。

「いやぁ~、やっぱ斗的は優しいね~! あたしの言うこと、最終的にはいつも聞いてくれるんだもん!」
「人を召使いみたいに言うんじゃねえ。……とりあえず、行ってくる」

 斗的は、体育倉庫の取っ手に手をかける。
 だが、蜜柑はニヤニヤしたまま、斗的の肩から手を離さない。

「その格好で?」
「あ? ―― って、うわぁあああああああああああッッ?!!」

 斗的の甲高い声が、体育倉庫中に響く。
 と同時に、磨智はプッと鼻血を噴き出す。
 そうだ、ロボロボ団や蜜柑のおかげですっかり忘れていた。今の斗的はストリップ女優のような格好をしているのだ。かろうじてボロ布と化したブレザーを身に纏っているという程度で、トイレットペーパーを体に巻きつけているのに等しい。破れた服の隙間からは、餅のように白く、柔らかそうな肌が顔を出している。

「くっそ……オレの制服をこんなボロボロにしやがって」

 顔を真っ赤にしてうずくまる斗的を前に、蜜柑はセーラー服を振り子のように振りながら三本目の指を立てる。

「三つ目の条件~! それはねぇ……斗的があたしからセーラー服を借りなきゃマトモに外を出歩けないこと~!」

 斗的は顔を上げ、精一杯蜜柑を睨みつける。が、涙をいっぱい溜めた目で睨まれても、全然迫力を感じない。

「くっ、卑怯だぞテメェ……」
「卑怯もラッキョウもないも~ん! ―― で、どうするの? このまま外に出て、性欲をもてあました男子生徒のオカズになるか、セーラー服を着て普通の女子高生になりすますか……くっくっく、もう時間はないよぉ~?」

 蜜柑は、ニタリと凶悪な笑みを浮かべる。
 もしかして、斗的の制服を破いたのは、これが目的か? だとすれば、なんという孔明の罠。
 眼鏡を怪しく光らせながら、蜜柑はじわじわと斗的に迫る。

「ということでぇ~、斗的『ちゃん』にはセーラー服を着てもらおうかなぁ~?」
「うぅ……」

 斗的は歯を食いしばり、次第に壁際に追い詰められていく。その目前に、蜜柑はズイッとセーラー服を突きつける。

「さぁッ!! 着なさいッ!!」

 まさにその時。

「待ったッッ!!!」

 体育倉庫の中に、メガホンを使って叫んだのかと疑うくらいによく通る声が響く。
 声の主は他でもない。この物語の千両役者―― 成城磨智の声だった。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(6)」 ( No.7 )
   
日時: 2013/03/11 18:37
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 校庭で待機しているロボロボ団のみなさんは、暇をもてあましていた。

「遅いですわねぇ~」

 林檎は、先程から出てこない愛媛蜜柑に対してイライラと呟く。もう、大好物のアセロラドリンクの缶をいくつ空けたかわからない。勿論、缶は持参のゴミ袋に捨てている。几帳面な性格なのでね。
 そんな神経が磨耗しそうな生き方をしている林檎の背後から、金魚蜂を逆さにしたようなヘルメットを被った全身緑タイツの男達が現れる。林檎を襲おうとしている変質者ではない。彼女の手下―― つまりはロボロボ団の戦闘員達である。

「もしかして、休みってことは無いロボか?」
「そんなはずはないですわ。この私の情報収集能力を侮らないで下さいまし。その証拠に、愛媛蜜柑の血液型から趣味まで一晩でわかったんですから。いつまでもあいつが出てこないなら、スリーサイズを全校生徒に公表することだって出来ますのよ?」

 フンと、林檎は得意げに鼻を鳴らす。
 ロボロボ団員達は、一斉に狼狽し始める。

「ロボォオオッ?! そっ、それは可哀想すぎるロボッ!!」
「そうロボッ!! 若気の至りでやっちゃったとかあるロボッ!!」
「もしかして、カッとなってやって今では反省しているかもしれないロボよッ!!?」
「おだまりなさいッ!! 資料から読み取れる愛媛蜜柑の性格から考えて、それは絶対ありえませんわッ!!」

 林檎さん、核心突いてます。

「……でも、確かにスリーサイズは可哀想ですわね。それじゃあ、学業成績にしておきますか」
「そんなもの、オレは全然気にしてないぜ―― じゃなくて、わよっ!!」

 突如、昇降口から響く声。

「だ、誰ロボッ!!?」

 林檎達が目を向けた先には、

「―― あたしよ」

 マスクとサングラスを身に着けた少女が、

「植物高校二年B組、愛媛蜜柑十七歳よッ!!!」

 男子用ブレザーに身を包む銀髪の少女が、腰に手を当てたたずんでいた。



「……なぁ~んで余計なことするかな~」

 体育用具室の窓から肯定の様子を伺いながら、蜜柑は口を尖らせる。
 横には、セーラー服を着て恥ずかしげにうつむく少女が。いや、よく見ると少女じゃない。植物高校2年B組、成城磨智だ―― って、なにやってるのあんた。

「いや、その……師匠があまりに不憫だったから……」

 ああ、だから自分の制服を斗的に譲って、自分はセーラー服着たのね。なんとまぁ師匠思いだこと。

「まぁ、似合ってるからいいけどね~。いっそ、これからセーラー服着て登校すれば?」
「うぅ……勘弁してよぅ……」

 磨智は顔を赤らめながら、スカートの前部分をキュッと引っ張る。内股になった子鹿のように細い足が、男の癖になんとも色っぽい。
 そんな磨智を尻目に、外の様子を再び伺う蜜柑の耳に飛び込んできたのは、

「あの……どちら様ですか?」

 林檎の呆れたような一言だった。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(7)」 ( No.8 )
   
日時: 2013/03/11 18:39
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「へ?」

 予期せぬ林檎の反応に、斗的は目をまんまると見開く。

「いや、誰って……愛媛蜜柑って名乗ったはずだけど……」
「だって、写真と全然違うじゃないですか」

 途端。
 斗的は真っ白に凍りつく。

 ――……写真?

 そうだ。考えてみれば、当然かもしれない。蜜柑の学校を知っている連中が、顔写真を持っていても不思議じゃ無い。
 じゃあ、どうする? このままここにいると、巻き込まれる可能性がある。蜜柑の名を騙った自分に対しても制裁を加えてくるかもしれない。
 となれば決まっている。さっさと逃げ、

 ―― ようとした瞬間、響く爆音。炎の壁が視界を覆う。

「うおわッッ?!」

 慌てて急停止。足裏から悲鳴。炎は目の前。顔面スレスレ。つんのめる。前倒しになるも爪先で踏ん張ってこらえる。
 何が起こったのかわからない。気づけば斗的は、灼熱のリングみたいな炎に取り囲まれている。オレンジの火先はゆらゆらと、斗的を飲み込まんと立ちはだかっている。

「……」

 斗的は口を開け放ち、言葉を失う。
 まるで石膏漬けにされたかのように、体がピクリとも動かない。
 目の前の炎にあぶられ、みぞれのように透き通った肌に、うっすら紅がさす。
 頬からは、玉のような汗が一筋。熱いからではない、背筋が凍りつくように寒い時に噴きだす汗―― 冷や汗だ。

「……そういえば、データにありましたわ」

 そんな斗的の背後から、ゆっくり、ゆっくりと、確実に近づいてくる者がいる。
 林檎だ。

「愛媛蜜柑には、白髪頭の親友がいるとか」

 ―― ピキッ

「誰が白髪だコラァッッ!!!」

 白髪の一言にブチギレ、裏拳をかます勢いで振り返る斗的。
 対し、口角を吊り上げた林檎は「してやったり」という顔をする。

「―― はッ!?」

 斗的は慌てて口をつぐむ。
 が、もう遅い。

「ふふっ、やっぱり思ったとおり。あなたの名前は―― 鷹栖斗的。そうでございましょう?」

 ―― バレてるッ。

 間違いない。
 林檎は、たった今、「鷹栖斗的」と言った。
 斗的が女になっているのに関わらず、林檎は正体を見破ったのだ。
 男子用ブレザーを着ているとはいえ、今の斗的はどこから見ても女子。
 なのに……なぜ?

「なら、あなたも同罪ですわ!」

 だが、斗的には考える余裕が無かった。
 林檎の標的が、なぜか斗的にまで飛び火したのだ。

「ちょっ、待てや!? オレは蜜柑に脅されて仕方なく――」
「おだまりなさいッ!! 人の性格は親の育て方と人付き合いによって決まるのです!! ―― 腐った芽は早めに刈り取らないと、この日本の将来が心配ですもの」

 斗的は内心「あ? 心配なのは真昼間からふりふりドレスを着たテメェらの頭だボケッ!!」と思ったが、相手を刺激したくなかったので黙っておくことにした。

「さぁ、『ヘルフェニックス』!! 自慢の炎で、鷹栖斗的を懲らしめてやりなさいッ!!」

 陽炎を纏い、空中よりゆるゆると降下してくるのは、血のように赤き不死鳥。風に舞い、燃ゆるような羽飾り、猛禽類のように鋭い眼、鋭利なナイフを思わせる漆黒のクチバシ、両腕の火炎放射器には炎の翼を模した飾りが。
 不死鳥型メダロット「ヘルフェニックス」。しかも、先程の炎の威力から見て、違法改造が施されている。

「さぁて……どうするかなぁ?」

 はっきり言って、超が付くほどヤバイ状況。
 炎の壁に遮られた空間に閉じ込められた斗的。残念ながら飛行型メダロットを持ち合わせていないため、逃げる手段はない。
 なら、やるべきことは決まっている。決めるしかない。

 ―― 覚悟を。

 斗的は地面を踏みしめ、足を肩幅まで開く。
 ふわりと風に流れる銀髪。
 射抜くような視線の先は、まっすぐ胡桃へ。
 握り締められた拳は、固い決意の表れ。

「……わかったよ。お望み通り、オレはもう逃げも隠れもしねぇ」

 多分、そろそろ先生方が、セレクト隊を呼んでいる頃だろう。

「はっきり言っておくが……オレはお前ら全員を追い払うくらいの力を持っている……」

 だけど、無能なセレクト隊のことだ。きっと、ロボロボ団を取り逃がすはず。

「戦いは腹が減るだけ、なんて言ってるやつがいたけど本当に無駄なもんだな……勝利するたびに次の戦いについて考えなきゃいけないんだからよ。マジで安心もクソもねぇ……」

 そう、きっとロボロボ団はこれからも斗的を狙うだろう。斗的がこの世からキレイサッパリ消滅でもしない限り。

 ―― だからっ!

「お前らがもう二度と戦う気を無くすくらいっ!! 恥ずかしくて人様に話せないくらいっ!! ―― お前らを完全に叩きのめしてやるよっっ!!!」

 そう。平穏で心安らぐ日々を守るために。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(8)」 ( No.9 )
   
日時: 2013/05/31 00:29
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 斗的は左拳を空に向け、メダロッチを高々と掲げる。

「―― メダロット、転送ッ!!!」

 メダロッチから緑色の閃光がほとばしると共に現れるのは銀色の甲冑を身に纏ったガマン。鎧は、明々と輝く炎を静かに映し出している。まるで、抑えきれない闘志をその身から溢れさせているかのように。

「青森林檎、オレとロボトルしろっ!! そして約束しろっ!! お前らが勝ったら、オレと蜜柑は全裸で町内一周してやるぜ!! しかも、全身に『ロボロボ団の皆様ごめんなさい』と書いた紙を体に貼って、逆立ちしながらだっ!!」

 斗的は林檎をビシッと指差し言い放つ。

「その代わり、オレが勝ったらこれ以上オレらを狙うんじゃねぇ!! 学校にも二度と来るな!! 蜜柑にはあんな馬鹿な真似しないようオレが言っといてやるからよぉ」

 斗的が口を閉じると同時に、静寂が場を支配する。聞こえるのは、風に炎が揺らぐ音だけ。
 凝視し合う、斗的と林檎。お互いまっすぐに相手の目を見据え、一歩も引く様子は無い。
 やがて、林檎は静かに口を開く。

「……構いませんわ。条件を飲みましょう」

 途端に、団員達が口々に騒ぎだす。

「ろっ、ロボっっ?!! り、林檎様っ!! それは真剣と書いてマジロボかっ!?」
「これで負けたら首領様や他の四天王様から大目玉食らうロボよっ!!」

 しかし、林檎はキッと眉を吊り上げ、団員達を一喝する。

「おだまりなさいっ!! ロボロボ団四天王たるこの私が、万に一つでも負けるとでも思っているのですか!?」
「そ、それは……」

 団員達は言いよどむ。
 その様子を目にし、林檎は不敵にほくそ笑む。

「安心なさい。私達には、切り札があるじゃないですか」

 自信に満ちた表情で、林檎は腕組みする。
 斗的の読み通り、林檎はプライドが高く生真面目な性格らしい。斗的の誘いにしっかり食いついてきたのがその証拠。恐らく、自分の力に絶対の自信があるのだろう。切り札というのが気になるが、今は林檎とのロボトルに勝つことだけ考えよう。

「どうやら話は決まったようだな」
「ええ。あなたの無謀な勇気に免じて、団員には手出しさせませんわ。あなたと後ろにいるお友達、二人まとめてかかってきなさい」
「後ろにいる友達?」

 妙なことを言うものだと思い、斗的は何気なく振り返る。
 そこには、セーラー服を着た磨智がいた。

「……なんでお前がここにいるんだよ」
「いや、師匠の正体がばれちゃったから、心配になって駆けつけちゃったんス! そしたら炎に囲まれちゃって……」

 さっき見回した時、全く気づかなかった。忍者かこいつは。

「やっぱりほら、女の子をひとりで行かせるのは忍びないっスから」

 磨智が頬をかきながら言った何気ない一言が、斗的の逆鱗に触れる。

「女扱いするなぁああっ!! つか、この状況じゃどっちかというとお前が女だろっ!! なんでお前はセーラー服着て違和感ねぇんだよ!!」
「いやいやいやいや! 師匠こそ、男子用の制服着てても女の子にしか見えないスから! ていうか、僕は師匠が襲われて傷物になったら心配だと……」
「うっせぇ!! 磨智のクセに生意気だっ!!」
「ちょっ、なんスかその差別的言い回し!? てか、その台詞聞いたことある! 金曜日の夕方辺りに聞いたことある!」

 状況を忘れて言い争いを始める斗的と磨智に対し、林檎は溜息を吐く。

「痴話喧嘩はそれくらいにしていただけますかしら?」
「痴話喧嘩じゃねぇええええええっっ!!!」



鷹栖チーム  ガマン(ナイトアーマー):鷹栖斗的(左腕:サムライセイバー)
       シアック(シアンドッグ):成城磨智

青森チーム  ブラックメイル:青森林檎
       ヘルフェニックス:青森林檎

 ロボトルファイト!!

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(9)」 ( No.10 )
   
日時: 2013/03/11 18:56
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「磨智、お前はヘルフェニックスを狙え!! 離れた場所にいる敵なら、射撃型のシアックの方が戦いやすいだろ!!」
「わかったっス師匠! ―― シアック、左腕パーツ『アサルトライフル』ッ!!」
「OK相棒!」

 群青のボディーと頭頂部に閃くイナヅママークを持つ磨智の相棒―― 犬型メダロット「シアック」は手の甲からまっすぐ伸びた銃口を空中斜め六十度へ向け、

「アディオス―― 焼き鳥野郎ッ!!」

 火を噴くシアックの銃口。硝煙、空気、照りつける太陽光を突き抜けて飛ぶ弾丸。軌跡は一直線。
 しかし、ヘルフェニックスは大気を滑るように滑空。弾丸をひらりとかわす。

「SHITッ!!」

 二発。三発。間髪いれず弾丸を放つシアック。いずれも紙一重に、しかし余裕で避けられる。まるであざ笑っているかのよう。
 これほど素早い相手とは、今だかつて出会ったこと無い。他は劣っていても唯一自信のあった命中率が、頼りにならないとは。

「シアック、落ち着いてしっかり狙え!!」

 そんなことはさっきからやっていると、シアックは内心舌打ちする。

「うるせえ、このセーラー系男子ッ!! テメェなんて進路希望調査の第一希望に『セーラー服美少女戦士』とでも書きやがれッ!!」
「ちょっ、こんな時に反抗期!? 僕、好きでこんな格好してるんじゃないよっ!! ていうか、攻撃が当たらないからってイライラしてたらダメだって!!」
「俺っちはそんな八つ当たりみてーなことしねーッ! あれだ、カルシウム不足ジャン!」
「とらないだろお前ッ!!!」

 磨智にツッコミを受けながら、シアックは四発目の弾丸を放つ。が、やはり当たらない。難なくかわされる。
 まさにその時だった。突如ヘルフェニックスは旋回。シアック目掛けて急降下する。同時に開け放たれるクチバシ。ヘルフェニックスの姿が陽炎で歪む。途端、火球が放たれる。一斉に飛び出し、シアックへ隕石のように降り注ぐ。

「オイオイ……獅子座流星群なんて時期はずれなネタじゃない?」
「ふざけてる場合じゃないよシアック!! 両腕の銃を自分の真上に向かって一斉射撃ッ!!」
「ヒューッ! オイラそーいう大盤振る舞い大好きジャン!」

 シアックは両腕を垂直に宙へ伸ばし、一斉掃射。無数の弾が空を裂き、炎を砕く。まるでシアックの真上を覆う防御壁。炎は風に散る桜のように弾け散る。塵のようになった炎は外気に溶けていく。
 脅威は去った。あとはヘルフェニックスの憎たらしい顔面にありったけの弾丸をぶち込むだけ。
 が、気付けば、ヘルフェニックスが姿を消している。見当たらない。
 シアックは辺りを見回す。確か、ヘルフェニックスはシアックに衝突するギリギリまで迫っていたはず。
 どこだ? 一体、どこに消えた?

 ―― その時。

「志村ッ!! ……じゃなくてシアック!! 後ろだッ!!!」

 喉の奥から搾り出された悲鳴に近い磨智の声が響く。
 後ろ? そこはさっき見た――
 何気なく振り向くシアック。その視界に飛び込んできたのは、

 ―――― 紅い疾風。

 いや、シアックに猛スピードで突進してくるヘルフェニックス。

「―― ッ?!!」

 金属同士がぶつかりあう鈍い音が周囲に響く。重い衝撃は痺れとなり、体の奥底に宿るメダルまで震わす。

「ぐぅっ」

 高熱を帯びたクチバシによる一撃。なんとか左腕で防いだが、今更のように鈍痛が全身へと広がっていく。
 攻撃後、ヘルフェニックスは地面スレスレを飛行。ブースターを全開にし、一気に上空へ駆け上る。

「シアック!!!」
「大丈夫……とカッコつけて答えたい今日この頃ジャン……」

 シアックは腕を押さえながら、磨智の声に応じる。
 左腕のダメージは78パーセント。半分以上持っていかれた。相手は、素早い上に中々攻撃力がある。
 よく見ると、鋭利な刃物でえぐられたかのような深い傷が左腕に出来ている。しかも、チーズフォンデュのようにドロドロだ。
 もしかして、動作部分にも異常があるかもしれない。試しにトリガーをひいてみれば、カチッと音がするだけで弾が出ない。

「うはぁ……ちょっちヤバイジャン……」

 口調こそおどけているが、シアックの心には余裕の二文字が無い。
 こんな攻撃、マトモに食らえばティンペット……いや、下手すればメダルまでイカれるかもしれない。

「こりゃあ……本気でいかんとマズイかも……」

 銃を構え、シアックは再び戦闘体制に入る。
 その後ろで、摩智はすまなそうに唇を噛む。

「ごめん、シアック。僕がもっとしっかりしてれば……」
「オイオイ、気に病むなよ相棒。あんたのせいじゃないって」

 シアックは臨戦態勢を解かぬまま、磨智を慰める。
 事実、攻撃を受けたのは磨智のせいじゃない。あの時、無数の火の粉によって覆われた視界は、薄霧がかかっていたようなもの。自分達と違い、相手は戦い慣れている。攻撃に気づかず、対処が遅れても仕方が無い。

「まぁ、どうしてもお詫びしたいってなら『よくできましたオイルコーラ味』で手を打つけど。―― それより、そろそろ次の攻撃が来るっぽいゼ。敵の戦法がわかったからには、しっかり指示を頼むジャン?」

 熱によりひしゃげた左腕の親指をビッと立て、シアックはエールを送る。
 それに元気付けられたかのように、摩智は力強くうなずく。

「う、うんっ!!」

 磨智はメダロッチを構える。先程の失敗を引きずっている様子は無い。
 立ち直りが早く前向きなところが、自分の相棒たる磨智のいいところ。

 ―― そうだ、それでいい。
 ―― それでいいんだ磨智。
 ―― 心は熱いビートを刻むヘヴィメタルのように。
 ―― 頭脳はクールに冴え渡るアンビエントのようにダゼ。

 シアックは心の中でソッと呟き、空中のヘルフェニックスへ砲門を向ける。

「―― さぁ、ここからが本番だ!」

 空中で、炎と弾丸が再び交差した。

Episode1「鷹栖斗的は静かに暮らしたい(10)」 ( No.11 )
   
日時: 2013/03/11 18:58
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「ヒットアンドアウェイ、か」

 磨智とヘルフェニックスの戦いを遠目に、斗的はボソリと呟く。
 その姿を見て、胡桃はご機嫌な様子で微笑む。

「ええ、そうですわ。攻撃後すぐ上空へと逃れ、相手の技を食らわないようにするテクニック」
「そのために装甲を大分削ってるだろ? シアックの攻撃は中の上だけど、今のヘルフェニックスじゃ結構痛いダメージになるぞ?」
「そんなことはわかっていますわ。ですが、私のヘルフェニックスは易々と攻撃を食らったりはしません!」

 ロボトルの勝敗を決める鍵は、戦略にこそある。その中でも、ヒットアンドアウェイは攻撃と保守に優れた完璧なもの。
 自分とヘルフェニックスの二人で、何度も練習した甲斐があった。練習は嘘をつかない。

「どんなに強力な攻撃も、当たらなければどうということありませんわ!」
「なるほどな、だからお前のヘルフェニックスは赤いのか」
「なにを言っているのかわかりませんわ。……それより、あなたは攻撃しなくてもよろしいので? 成城磨智は、あちらで一所懸命戦ってるのに?」
「チッ、嫌なやつだなお前。オレが攻撃できないのわかってるくせによ」

 そう。林檎は、斗的が攻撃できない理由を知っている。なにを隠そう、もう一体のメダロット「ブラックメイル」を警戒しているからだ。
 ブラックメイルは静かに獲物を見据え、立ち尽くしていた。
 碇を逆さにしたような角、山羊に似た顔つき、蝙蝠の羽を模した肩飾り、ひづめのような二本の鉤爪、隅々まで漆黒の装甲。揺らぐ炎を背景に、黒々としたシルエットを浮かべる様は、まさに悪魔。

「ブラックメイル―― 某内戦国で避難した民間人をかくまう教会警備のため、メダロット社が例外的に兵器として開発した悪魔型メダロット……」

 斗的はブラックメイルを睨みつけるように注視しながら呟く。

「ふふっ。少しは物を知っているみたいですわね」

 万が一を考えてブラックメイルを持ってきたのは大正解。十分なプレッシャーを相手にかけることができた。

「なるほどな、切り札ってのはこいつか。確か、戦車とタイマンはれるくらいの装甲と攻撃力だって?」
「それぐらいじゃないと一般市民は守れませんから。……まぁ、そのせいで、他のメダロットより少々動きが鈍いという欠点を抱えてますが」
「へぇ。うちのガマンと一緒で近距離パワー型ってやつか」

 近距離パワー型とは、射程距離が短く、一発の威力が大きいタイプのこと。ガマンやブラックメイルもこのタイプに属す。
 一般的に近距離パワー型は、動きが鈍く、しかも攻撃が大振りで隙が出来やすいと言われている。事実、鎧を着たガマンや重装甲のブラックメイルには、素早い動きができないはず。つまり、先に攻撃した場合隙が出来、そこを後から攻撃されたヤツに突かれる危険性があるというわけだ。
 斗的や林檎が動かないのも、隙を作らないためであろう。

「オイ、いいのかよ? 弱点ばらしちまって?」
「ハンデですわ。圧倒的力を目の前にし、絶望している可哀想なあなたへのね」
「本当に嫌なやつだな。修学旅行で班決めする時、絶対最後まで余るタイプだろ?」

 斗的は憮然とした表情で悪態をつく。
 しかし、林檎は余裕の表情で腕組みする。どう言われようとも、斗的の台詞は負け惜しみにしか聞こえない。

「ふふ、あなたに性格診断をされる謂れはありませんわ。なんとでも言いなさい」
「余り物余り物余り物余り物! あ・ま・り・も・のっ!」
「誰が何度でも言えと言いましたかっ!! ―― ブラックメイルっ!!」

 林檎がヒステリックに叫ぶと同時に、ブラックメイルの瞳に赤々と灯が点る。

 ―― 低い唸り声。
 ―― ギチギチと軋む間接の音。

 それは、黒き悪魔の胎動に相応しき福音。


投稿フォーム

※ 投稿時の注意

■まれに書き込みに失敗し、書き込み内容がすべて消えてしまうことがあります。
 そのため、投稿ボタンを押す前に、必ず文章をコピーしておくことをオススメします。

(※)のある項目は、必ず入力してください。

タイトル(※) スレッドをトップへソート
名前(※)
E-Mail
パスワード (あとで作品を修正する場合に必要)
作品文章(※)
投稿用キー(※) ※スパム対策を導入中です。投稿時は【かきこみ】のひらがな4文字を入力して下さい(コピペ可)

   クッキー保存 (学校や満喫等の共用パソコンの場合、チェックを外して下さい)