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RSSフィード メダロットM vs 六角形の神サマ

日時: 2020/06/16 21:27
名前: 海月

!御注意!
この作品は、
『メダロットM』Episode6
『六角形の神サマ』第弐拾伍話
までのネタバレが御座います。
閲覧の際は、部屋を明るくし、画面から二メートル程離れてご覧ください。

* * *

御守高校学校祭。

『みんなぁー!! 今日は集まってくれてありがとぉーっ!!』

第百回を記念すべく招かれた、国民的アイドル・セレクトスリー。
しかし。

「天道一期は、テクノポリスの軍資金となってもらう!! そうだなぁ、百回記念だから……一千万用意しろ!!」
「ゼロ一個多くね!?」

秘密結社テクノポリスが一人・タバスコに、誘拐されてしまう!
天道一期を奪還すべく、立ち上がったのは……クセが強い(ほぼ)高校生!

「あっちが俺の顔を見たくなくなるぐらい……全力で、叩き潰すッ!!」
ー鷹栖斗的

「御守には、そんなお情け無ぇ!!」
ー村崎醤

「奴とは、単に利害が一致しているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない」
ーフォレス

「誰とも比べるつもりは無いが、ショウは良い子なのだよ」
ーカグラ

「いやー面白いと思ったけど、案外つまんなかったわ。メンゴメンゴ!」
ー愛媛蜜柑

「おじいちゃんを間違うなんて、信じらんない。何でまだ生きてんの?」
ー波花梓音

「蜜柑は見てて飽きないけど、五メートルくらい離れたトコからで充分だお」
ーサラ

「開きました!!」
ーマリア

「師匠の大事な人は、僕が守る……守りたいっス!」
ー成城磨智

「ようやく、ウチの借金を返す気になったんだな」
ー佐藤甘太

「アーティストがいなくなったってんならしょうがねぇ……今から、オレ・オン・ステージジャンッ!?」
ーシアック

「『見る』から良いんです!! 触っちまったら、それで終いじゃないですかい!?」
ージー

「また、オイルを酌み交わしましょうぞ」
ーガマン

「何かとんでもない濡れ衣を着せられてないか!?」
ー尾根翠

「フォレスちゃんはしっかり屋さんだけど……きっと、今も心細いと思うの。早く、迎えに行ってあげなくちゃ」
ーマイド

「リボンちゃん……みっちゃんの料理、食べたのかなぁ……?」
ーハリップ

笑い、は頑張る!!

「お前も見ただろ!? 自分が楽しけりゃどんな悪逆非道も厭わない、人の皮被ったブラックメイルが四六時中纏わりついてんだよオレには!!」
「まだマシだろーが!? オレなんか、両手にドライバー持ったユイチータンみてぇな暴力女が、地獄の果てまで追い掛けてくんだぞ!?」

衝撃はどうだろう!?

「「入れ替わってるううううううう!?」」

ただ!!

確実に、感動とエロは無い!!!

「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」

今、戦いのゴングが鳴るーー!



『メダロットM』
原作:ボンマ・流離太

『六角形の神サマ』
原作:海月

海月が執筆する、番外編・コラボ企画



メダロットM vs 六角形の神サマ
『コイツ等が集まった結果www→一触即発大団円!!』

賽は、ぶん投げられた。










★☆登場人物☆★

☆メダロットM side☆

【鷹栖斗的(タカス・トマト)】
花田学園高校二年B組。主人公とヒロイン兼任。
凪のような生活を夢見る、自己中穏健派。
男勝り? いいえ、彼女は男です。

【フォレス】
斗的の愛機。KBT型コーカスト。
困っている者を見過ごせない、強い正義感の持ち主。
『よくできましたオイル苺ミルク味』が好物という、女の子らしい一面もある。

【ガマン】
斗的の愛機。NIT型ナイトアーマー。
幼い頃から斗的の世話をしている爺やだが、ロボトルでは適応力の高い老将と化す。
斗的が男に戻る日を本人と共に待ちわびる意味でも、斗的の絶対的理解者。

【マイド】
斗的の愛機。MAR型ピュアマーメイド。
ガマン同様、幼い頃から斗的の世話をしている、雰囲気が柔らかいお姉さん。
『この子がメダMの真ヒロインだ』と、海月は信じてやまない。

【成城磨智(セイジョウ・マトモ)】
花田学園高校二年B組。斗的の弟子。
名は体を表し、『メダMでまともな神経してる奴ランキング』で一、二位を争っている。
発展途上の強さを持ち、作中で最も伸び代のあるキャラなのではないだろうか。

【シアック】
磨智の愛機。DOG型シアンドッグ。
青い機体に白いギターが映える、気取り屋ロッカー。
原作と一緒で、サルメダルなのはご愛嬌。

【愛媛蜜柑(エヒメ・ミカン)】
花田学園高校二年B組。斗的の腐れ縁にして、磨智の幼馴染み。
世界的な研究者・愛媛唐茄子の娘。
常に『面白い方』を選択して生きているため、敵が多い。

【サラ】
蜜柑の愛機。SLR型セーラーマルチ。
蜜柑の違法改造により、男女どちらのパーツも装着可能な実は凄い子。
見た目は可憐だが、喋るとオッサンになる。

【青森林檎(アオモリ・リンゴ)】
悪の組織『ロボロボ団』の幹部。
ロボロボ団である事にプライドを持っており、それを傷つけた斗的を目の敵にしている。
顔立ちは整っており、充分可愛い。本当に。

【天道一期(テンドウ・イチゴ)】
アイドルグループ『セレクトスリー』のメンバー。
歌にダンス、演技にロケと、マルチにこなしている。
最近は、とある時代劇に出演しているらしい。

★六角形の神サマ side★

【村崎醤(ムラサキ・ショウ)】
御守高校二年D組。主人公。
正常時と異常時の触れ幅が、とにかく大きい人。
『不憫』の代名詞。

【カグラ】
醤の愛機。KBT型メタルビートル。
君は、誰彼構わず孫にするフレンズなんだね!
一見おじいちゃんにしか見えないが、実は神様とか何とか。

【波花梓音(ナミハナ・シオン)】
御守高校二年D組。醤とはクラスメート以上、友人未満。
御守町メダロット博士の娘。
カグラを祖父として慕い、二つ名は『カグラの敵絶対殺すウーマン』。

【マリア】
梓音の愛機。NASβ型クリムゾンナース。
気の向くままに全力投球な、猪娘。
恐らく、大事なネジが数本抜けている。

【佐藤甘太(サトウ・カンタ)】
御守高校二年D組。醤の友人。
佐藤商店の息子で、損得勘定に厳しい。
座右の銘は、『一円を笑った者は一円で泣かす』。

【ジー】
甘太の愛機。CMO型ナチュラルカラー。
佐藤商店の万引きGメン。
自分の能力を、趣味にフル活用している。

【尾根翠(ビネ・スイ)】
御守高校二年D組。醤の友人。
陸上部のエース。
多分、前世はポルシェ。

【ハリップ】
翠の愛機。RBT型ラビウォンバット。
一番の自慢は、翠の脚力。
マグロと一緒で、止まると死ぬ系男子。

【泡瀬美園(アワセ・ミソノ)】
御守高校二年A組。醤の想い人。
学校中の憧れの的。
運命とは常に残酷で、(自称)カッコイイ彼氏がいるらしい。

【シンラ】
美園の愛機? KWG型ヘッドシザーズ。
『ナウいヤングなお兄さん』、と呼ばないと怒りだすおじいちゃん。
実は、名付け親が某ナガレハナレブト先生。

【タバスコ】
秘密結社『テクノポリス』の、御守神社周辺エリアリーダー。
未来人のような白装束を纏う、ゴーグル男。
要約すると、『変質者』。

【Mr.ジャム】
ジャッジを担う、メダロット協会公認レフェリー。
…なのだが、ジャッジまでいた試しがない。
この顔にピーンと来たら!

【Ms.マーガリン】
実況を担う、メダロット協会公認レフェリー。
Mr.ジャムを通報しては彼の分まで仕事をやり遂げる辺り、実は仕事熱心なのかもしれない。
唯一の取り柄は、外見。










●著者コメント●
閲覧頂き、ありがとうございます!
本作の大まかな筋を流離太先生と打ち合わせ、流離太先生から、
「タイミング見て、書ける方が書いたら良いんじゃない?」
との許可を十年前くらいに頂きましたため、約束通り書ける方が書きました!
今となっては、『本人に気付かれる前に書いてしまえ』精神が強いです!
乱文では御座いますが、精一杯執筆致しましたため、ほんの僅かでも皆様に楽しんで頂けたら幸いです。

2020.6.14 海月



( No.2 )
日時: 2020/06/14 22:27
名前: 海月

『メダロットM vs 六角形の神サマ』 番外編/コイツ等が集まった結果www→一触即発大団円!!





「今、この瞬間程、『この高校選んで良かった』と思った事は無い」
 十月三十一日。御守(ミモリ)町唯一の高等学校、御守高等学校。
短く跳ねた茶髪に、赤縁の眼鏡。白いパーカーを合わせているため、学校指定の学ランの前は留められておらず、風に靡く。腕を組んで仁王立ちしている男は、口角を吊り上げた。
「……まさか……こんなオンボロ高校に、世界の花嫁・天道一期(テンドウイチゴ)ちゃんが来てくれるなんてええええええっ!!」
 そう叫ぶや否や、この学校の生徒・村崎醤(ムラサキショウ)は頬に手を当て、身を捩らせた。もう慣れきっているのか、そんな様子を見て、級友の佐藤甘太(サトウカンタ)は動じずに声を掛ける。
「村崎ー、悶えんで良いからタコ焼き売ってー」
「お前にはパッションが無ぇのか佐藤オオオゥ!? 世界の花嫁が来るんだぞ!? いくらウチの学祭が百回記念だからって、イイ人過ぎんだろ!? 知ってた!! 世界の花嫁だもん!!」
 そう。今日は、御守高等学校の『第百回学校祭』。
校内では展示物、校外では露店とクラス毎に競い合い、体育館や校庭では時間で区切られたライブパフォーマンスが繰り広げられている。やはり、『百』という数字にあやかり、例年よりも盛大に祝されるこの祭事は、ゲストも国民的アイドル『セレクトスリー』とスペシャルだ。多方面から人気のアイドルグループの来訪に、学校祭は益々の活気を浴び、賑わっていた。例に漏れず、醤もその内の一人である。
 醤のクラス・二年D組の露店は、『タコ焼き屋』。焼けたタコ焼きをひっくり返しながら、甘太は口を開く。
「説明乙。ノルマ分売らねーと、『セレクトスリー』のライブの時間も売り子やらせるかんな」
「んな殺生な事言うなって~! テンション上がらねー方が無理だろコレ!?」
「良いから落ち着けって。佐藤だって、『セレクトスリー』好きなんだぞ?」
 手際よくタコ焼きをパックに詰めながら、同じく級友の尾根翠(ビネスイ)は苦笑した。翠の言葉に、醤は驚いて声を上げる。
「え!? 『アイドルとか社会に金落とすための人形だろw』とか言いそうな、あの佐藤が!?」
「お前ん中のおれのイメージが、よーくわかった」
「この佐藤が。推しは確か、戦極檸檬(センゴクレモン)だったよな?」
 翠が確認するように尋ねると、甘太はようやく笑って答える。
「ああ。あの女、枕に酒に煙草にってスキャンダルに事欠かねーから、見ててめっちゃ笑えんだよなー。マジ、最強のエンターテイナー」
「楽しみ方が斜め上!!」
「次は、クスリって信じてる」
「『信じてる』って言葉に失礼!!」
 甘太の笑顔に影が差しているのは、きっと気の所為ではないだろう。まさか話がブラックな方向へと転がるとは思わず、翠は慌てて話題を変えた。
「そういえば、もうすぐハリップ達も来る時間だな。ジーが来るのは聞いてたけど……村崎、カグラも来れるのか?」
「あー、三つ巴で待ち合わせしてるらしいぜ。浮かれ過ぎて、迷子になんなきゃ良いけどな」
「お前が言うな」
 先程の醤以上に浮かれている人物が、果たしているのだろうか。指摘した後で、甘太は言葉を続ける。
「まぁでも確かに、カグラって祭り好きだったもんなー」
「そうなんだけどよ……それだけじゃねぇっつーか」
「「え?」」
 醤の否定に、甘太と翠は計らずしも同時に聞き返した。





「意外っすねー、カグラの旦那がアイドルに興味があるなんざ」
 御守高校の、華々しいウェルカムゲートを潜り抜けた辺り。
甘太の愛機であるナチュラルカラー・ジーは、オイルを飲みながら隣に話し掛ける。話を振られた醤の愛機であるメタルビートル・カグラは、嬉々として頷いた。
「うむ。イチゴ殿は、昼の時代劇に出ておってな。表の顔は茶屋の娘なんだが、裏の顔はくのいちなのだよ。その演じ分けが、素晴らしくてなぁ……よもや、斯様に近くまで来るとは思わなんだ」
「あー、『必殺シリーズ』っすね。時代劇が理由なら納得っす」
 ジーは府に落ち、残り少ないオイルを啜る。『ミーハーな所はマスターに似たな』とジーが内心呟いた所で、ジーの逆隣を歩いていた翠の愛機・ラビウォンバットのハリップは、唐突に声を上げた。
「あー!!」
「うぉっ!? 何ですかい?」
「あっちにいるの、リボンちゃんじゃない!? おーい、リボンちゃーんっ!!」
「リボン嬢とな? ハリ坊、転ぶでないぞ」
 『リボン』とは、翠の恋人である蜂矢蜜希(ハチヤミツキ)の愛機・セーラーマルチの事である。右腕を振りながら、大喜びで駆け寄っていくハリップをのんびり追い掛けながら、カグラはジーに話し掛ける。
「あの喜び様、ハリ坊とリボン嬢は仲が良いのだなぁ」
「あー、まぁ~……ハリップは自覚してやせんが、『知り合った可愛いお姉さんに憧れてる』ってトコっすかねぇ? こないだ、『リボンちゃんとず~っと走ってたい!!』って言ってやした」
「ほぉ、リボン嬢の馬力は如何程なのだろうな?」
「三十分全力疾走して、立てなくなったそうですぜ」
「実践済みなのだな」
 もう既に実行していた事実に、カグラは表情を変えずに頷いた。
一方、セーラーマルチに追いついたハリップは、声を弾ませて話し掛ける。
「リボンちゃん!! リボンちゃんも来てたんだね!! 良かったら、オレっち達と一緒に回らない!?」
 声を掛けられたセーラーマルチは、のんびりとハリップの方へと振り向く。
「は? 何ソレ、新手のナンパ?」
「え?」
「「ん?」」
 リボンとは似ても似つかない冷めきった声に、ハリップは珍しく硬直した。何やら様子がおかしい二人の様子に、カグラとジーは揃って首を傾げる。セーラーマルチは、わさとらしく両肩を竦めた。
「いくら漏れがウルトラキューティーえろっちんぐなJKだからって、そんなナンセンスなお誘いはねぇー? こちとら生まれて初めてのナンパなんだから、もっと情熱的にオナシャス」
「」
「うむ、人違いだな」
「……ええ、『人違い』っつーか『メダ違い』っすね」
 固まるハリップを余所に、カグラとジーは頷きながら冷静に判断する。リボンとは機体くらいしか共通点が無いセーラーマルチは、首を傾げた。
「あらっ、三人掛かり? コレは、アレですか? サラちゃんにモテ期到来ですか?」
「すまぬな、御嬢さん。どうやら、知り合いと間違ったようだ。してジー坊よ、『モテ期』とは何だ?」
「旦那、後で説明しますから! なーんか雲行き怪しいっすよ!?」
「そうか?」
 ジーは動かなくなったハリップを脇に抱え、この場を離れてようと慌ててカグラを引っ張る。が、肝心のカグラは、ただ聞き慣れない単語に首を傾げるばかりだ。すると、カグラ達がいる真上の木が揺れた。
「サラ殿!」
 木から飛び出し、セーラーマルチの元に着地したのは、深紅のメダロット。スカート状に広がる脚部とは対照的な、細身の体躯。その体には、オレンジ色のラインがひた走る。両腕には銃が、両肩には羽のようなブースターが、そして、頭にはカブトムシの角のような砲台が施されている。カグラ達が初めて見るそのメダロットの登場に、『サラ』という名前らしいセーラーマルチは口を開いた。
「よぉ、フォレス。もしかして、探してくれてた? トンクス」
「いきなりいなくなるから心配したぞ。すぐに見つかって良かった」
「スマソ。人混みすごくてさぁ~、流石セレクトスリーのライブ控えてるだけはあんね」
 『フォレス』と呼ぶメダロットに言い終えると、サラは頭の後ろで手を組む。不意に、フォレスの視線がカグラ達三人の方へ移った。
「……して、この者達は?」
「あ~、さっきから絡まれて困ってたんだよね~」
「ちょっと前の会話覚えてます?」
 困惑させた事は申し訳ないが、単なる『間違い』に対し『絡まれる』という表現は手厳しいと、ジーは反論する。証拠に、フォレスの視線の温度はどんどん下がっていった。
「……何だと?」
「うぉーい!! 二人共ーっ!!」
 フォレスが、低く呟いた直後。元気な呼び声と共に、一人の少女が走ってきた。肩口で跳ねた髪に、オレンジ色のニット帽。パーカーにチェックスカートを合わせた丸眼鏡の少女は、醤達と変わらない年齢に見える。フォレスは険しい表情を緩め、今度はそちらへ目を向けた。
「蜜柑殿」
「サラ見つかって良かった~! フォレス、あたしの相棒見つけてくれてありがとね!」
「礼には及ばない。サラ殿は、私にとっても大切な友人だからな。……しかし」
 ちらり、とフォレスはカグラ達の方へ目配せする。瞬きを一つし、『蜜柑』と呼ばれた少女は笑顔で小首を傾げた。
「ん? どったの?」
「それがなぁ、かくかくしかじか……」
 サラは、蜜柑に先刻の出来事を説明する。途端、蜜柑は悲痛そうな表情を浮かべた。
「ぬゎーにぃ~!? あたしのかわい~いサラが、三人掛かりでマワされそうになったってぇ!?」
 てぇー、てぇー、てぇー……蜜柑の声は、会場全体に轟いた。言葉の意味がわかるために、飛び出さんばかりの目で蜜柑を凝視する、ジーと周囲の人々。相変わらず、凍ったままのハリップ。そして、意味がわからず、頭に疑問符を浮かべる、カブトムシ二匹。その内の片方、フォレスは蜜柑に問い掛けた。
「蜜柑殿、『マワす』とはどういう意味だ?」
「あのねぇ~……」
 蜜柑は、カグラ達の方を見たまま、フォレスに耳打ちする。『メダロットに耳があるか』は置いといて、みるみる内にフォレスの顔は青く染まり、軽蔑したような目で三人を見た。そして、カクン、と首を垂れる。
「……サラ殿を、よってたかって……!」
 フォレスは、拳を握り締め、目に強い光を宿す。
「サラ殿の心を傷つけた罪、その身をもって償え!!」
 そのまま、左腕を素早く構え、カグラ達に向かってガトリングを放った。当然、堪ったものではないジーは、銃弾を避けるべく足をバタつかせる。
「おんぎゃあああああああああっ!?」
「これ、御嬢さん。こんな所で撃っては……」
「問答無用ォ!!」
 カグラの声を遮るように、フォレスはライフルを撃つ。カグラが回避するや否や、ジーはその腕を掴み、ハリップを抱えたまま走り出した。
「カグラの旦那!! とにかく逃げますぜ!!」
「うむ?」
「逃がすか!!」
 一目散に逃げていくジー達を、フォレスと、フォレスの銃弾は追い掛ける。取り残されたサラは、隣に立つ己のマスターを呆れ顔で見た。
「オマイ……駆けつけた時から、企んでたろ? わざわざ『あたしの相棒』とか言うから、おかしいとオモタ」
「わかってんね~!! さっすがサラ、あたしの相棒! ……なんちゃって♪」
「蜜柑は見てて飽きないけど、五メートルくらい離れたトコからで充分だお」
「まったまた~!! サラってば照れちゃって、このこのぉ!?」
「照れてないお」





一方。
「待たんか腐れ外道共オオオオオ!!」
「ぎぇええええええ!?」
 目の前のメダロットへの不信感から、蜜柑の言葉を信じて怒り狂うフォレス。そして、雄叫びを上げるジー、表情を変えずに逃げるカグラ、死んだように動かないハリップは、元気いっぱいにガトリング付きの鬼ごっこを続けていた。現在進行形で降りかかっている不条理に、ジーは涙を散らす。
「あんな意味無い『かくかくしかじか』ありますううう!?」
「ジー坊。先刻から気になっていたのだが、『まわす』とは一体何を回すのだ?」
「『どうしても』っつーなら後でまとめて教えやすが、絶対後悔しやすぜ!?」
 ジーへの質問が溜まっていき、カグラは首を捻る。ここで言う『まわす』の意味がわからない読者の方は、そのままの貴方でいて頂きたい。わからなくても検索してはいけない、著者との約束だ。検索エンジンや予測変換に残ると、気まずい思いをするのは貴方自身なのである。
 閑話休題。体力が底に近付きつつあるジーは、脇に抱えているハリップに声を掛けた。
「ハリップ!! そろそろ自分の足で走るっす!!」
「……な……」
「ハイ!?」
 あまりにも小さいハリップの声を、ジーは聞き返す。すると。
「リボンちゃん……みっちゃんの料理、食べたのかなぁ……?」
 今にも消えてしまいそうな低く、か細い声で、ハリップは呟いたのだった。
「ハリップはハリップでいつまで勘違いしてんすか!? あんなリボンさんオラだってやだ!!」
「ふむ。確かに、人間の料理を無理に食べれば、絡繰りは壊れてしまうだろうなぁ」
「旦那、多分違いやす!!」
 ジーは、ハリップとカグラの認識の『ズレ』を指摘すべく口を、逃げるために足を忙しなく動かす。無論、会場では怯える者、そして楽しむ者とこの珍騒動は大きな話題となった。瞬く間に口コミは広がり、話は出店エリアにも及ぶ。
「マス君、聞いたぁ!? 今、会場内でメダロットがアクション映画みたいな鬼ごっこしてるんだって!!」
「マジで!? 見に行こうぜ、コットちゃん!!」
 御守高校のセーラー服に身を包んだ髭面のスキンヘッドが、同じく学ランを着た髭面スキンヘッドの手を引き、タコ焼き片手に歩いて行った。甘太は、小さく手を振って見送る。
「あざしたー」
「爆発しろリア充!!」
「村崎、客にその中指はいかん」
 甘太が殺気満々の醤に注意した所で、タコを切りながら翠は口を開く。
「そんなイベントあったか?」
「サプライズイベントかねぇ?」
「こんな人混みスッゲーのに、誰か怪我したらどうすんだっつー話だよ。マスターの顔が見てみてぇわ」
 醤が文句を言いながらタコ焼きをひっくり返していると、目の前で待っている客から、何とも耳寄りな情報が飛び込んできた。
「追い掛けてたのは、見た事ないメダロットだったなー? カブトにしちゃ赤いし」
「ハハッ! 追い掛けられてるのは、どノーマルのカブト、カメレオン、ウサギだったけどな!」
「あれあれ? めっちゃお馴染みのラインナップ」
 醤は、乾いた笑顔で手を止める。ひょっとしたら、ただの偶然かもしれない。しかし、KBT、CMO、RBTの三体の組み合わせが、ここ御守高校にどれだけいるのだろうか。冷や汗が止まらない醤に、甘太は笑顔で肩に手を置いた。
「良かったな、村崎。鏡見るだけで、マスターの顔見れるぞ」
「何で他人事なんだよ!? もれなくお前ん家のカメレオンも一緒じゃねーか!?」
「とにかく、確かめに行かないと!」
「行くにしても、店番どうすんだよ?」
 甘太が提示した疑問について三人で考えていると、『店番』は向こうからやって来た。
「出店組、頑張ってるかー!? 秋とはいえ暑くて大変だろ、飲み物持って来たぞー!」
 二年D組の担任・的間圭一(マトマケイイチ)は、幾つかペットボトルが入ったビニール袋を掲げて顔を出した。ばっちりロックオンした、三人は頷き合う。
「先生!! 腹痛いんでタコ焼きお願いします!!」
「おれもー」
「俺も! 先生、すみません!」
「おい!? お前ら、どこ行くんだ!? 先生、タコ焼き焼いた事無いぞ!? 腹痛いのに元気に走るなオイ!?」
 エプロンを脱ぎ捨て、颯爽と駆け出した醤達に、圭一はまんまとタコ焼き屋を押し付けられたのだった。

( No.3 )
日時: 2020/06/14 22:29
名前: 海月

『さあ! 続いては、例年大人気のこのコーナー! 『未成年の』……!』
「確保オオオオオッ!!」
『しゅええええええ!?』
 司会が言い掛けた所で、野外ステージに『何か』が落ちてきた。舞った塵に観客が目を擦ったり、噎せたりしていると、やがて土埃が晴れる。
「ここまで、逃げてくれるとは、中々っ……下衆の割に、根性があるではないか……!?」
 フォレスは、座り込む三体のメダロットを壁際へと追い詰める。顔の横へ左脚をつくフォレスの顔を、カグラは丸い目で見上げていた。ハリップは意気消沈しており、ジーは真ん中のカグラにしがみついてガタガタと震えている。カグラは、口を開いた。
「称賛、痛み入る」
「痛み入らんで良い。罪を、悔い改めろ」
 フォレスは、右腕の銃口でカグラを捉える。すると、表情を変えずに、カグラは言った。
「すまぬ。そこまで、あの御嬢さんを困らせていたとは知らなんだ。今後は、慎重に声を掛けるとしよう」
「『今後は』、だと……!? 全く反省しておらんようだな!?」
「反省しておる。本当に、申し訳なかった」
 明らかにテンションが違う二人に、ジーは涙を流す。片方は単なるメダ違い、もう片方は別の理由と信じてやまないのだ。完全に、水掛け論と化している。果たして、このやり取りに終わりは来るのか。自分は無事に済むのか、と恐怖がピークに達し、ジーは堰を切ったように弁解しだした。
「全部誤解っす!! そもそもっ、オラは見る専なんです!! 『見る』から良いんです!! 触っちまったら、それで終いじゃないですかい!?」
「ジー坊は何を見るつもりなのだ?」
 弁解になれなかった告白は、カグラの冷静な質問で幕を閉じた。ジーの大声で現場を発見した醤は、観客を掻き分けながら前へ進む。
「あっ、いた!! おい、お前ら……!」
「黙れ!! 強ピー魔!!」
「「ゴッ!?」」
 フォレスから発せられた罵倒に、醤とカグラの声は、離れていながらも重なった。決して穏やかではない単語に、醤の後ろにいる翠は動揺する。
「何かとんでもない濡れ衣を着せられてないか!?」
「アイツらが、『強ピー魔』て……ブフッwww」
「お前よく笑えんな!?」
「だって、ギャップ強過ぎてwwwやべwwwファwww」
「ツボってんじゃねーよ!?」
 腹を抱えたまま笑う甘太に、醤が声を荒げている間にも、カグラはフォレスの前に手を出して制した。
「まっ、待て。それは、完全な誤解なのだよ」
 フォレスの一言で自分の置かれている状況を理解したのか、顔面蒼白している。フォレスは、カグラの言葉を拒否し、右腕に力を込める。
「『誤解』も『六階』もあるか!! 弁解の続きは、セレクト隊でしてもらおう!!」
 まさに、銃弾が放たれんとした時、醤は聞く耳を持たないフォレスに、堪忍袋の緒が切れた。

「『いい加減にしろテメエゴラァ!?」 この馬鹿フォレスッ!!』

 直後、ハウリングの騒音が、野外ステージ全体を襲う。耳を押さえる醤達群衆は、一斉に司会者がいたであろう方向へ目を向けた。すると、当の司会者は地面に座り込んでおり、その前ではマイクを構え、少女が仁王立ちしていた。
『『詐欺師と蜜柑の言う事だけは、何があろうと信用すんな』って、いっつも口酸っぱくして言ってんだろ!! 『信じた末路』を腐る程見てきただろーが!?』
 ミリタリージャケットに、七分丈のジーンズ。流れるような銀髪を、ドクロマークがついた黒いキャップでまとめている。帽子のツバで、顔まではわからない。フォレスが振り返ったまま硬直しているのを良い事に、少女は怒鳴り続けた。
『見ろコレ!? お前の所為でみんな迷惑してるわ、悪目立ちしてるわ、散々じゃねーか!? オレが!!』
「それは、マイクで喋ってるのもあるんじゃないっスか……?」
『マイクの方が声出さずに済むんだよ!!』
「充分過ぎる程出てるっス……」
 シャツの上からニットを着ている、後ろの少年の指摘にも屈する事無く、少女は正面を向いたまま声を張り上げる。沈黙していたフォレスは、完全に少女の方へ向き直り、指を差して反論した。
「遅れてきて好き勝手抜かすな!! こやつらの所為で、サラ殿がどんなに恐ろしい目に合ったと……!」
『それが蜜柑の狂言だっつってんだよ!! 冷静に考えろ!! メダロットがどうやって……そのっ、……ァレすんだよ!?』
「……ハッ!?」
「酷いなぁ、お茶目なジョークじゃーん!」
『黙ってろ諸悪の根源!!』
 後ろから顔を出したサラのマスターにして眼鏡の少女・愛媛蜜柑(エヒメミカン)に、少女は赤い顔をすぐに怒りに変えて怒号を浴びせる。自分の過ちに気付いたらしいフォレスを、今度は少女が指を差した。
『わかったなら復唱しろ!! 鷹栖家家訓、『人様に迷惑を掛けたら謝りましょう』!!』
「……ひ……『人様に』、『迷惑掛けたら』……」
『『謝りましょう』!!』
「……『謝りましょう』……迷惑を掛けて、申し訳なかった」
 フォレスは壁から足を下ろし、心底申し訳なさそうにカグラ達に頭を垂れた。ジーは安堵から脱力し、カグラは瞬きを一度する。フォレスの謝罪を確認すると、少女は鼻を鳴らし、自分も帽子を脱いで勢いよく頭を下げた。
『この通り、コイツが騒ぎ立てて悪かった! ここからは、今まで通り学祭を楽しんでくれ! 以上、解散!!』
「させてたまるかアアアアア!!」
 帽子を深々とかぶり直してマイクの電源を切り、ステージから下りようとする少女を、よじ登った醤はダッシュで呼び止めた。バッファローの如き猛進に、少女は思わず後ろへたじろぐ。
「いっ……!?」
「こちとら、『ハイそうですか』で納得するような聖人君子じゃねぇんだよこのヤロ――!?」
 パサリ。醤が帽子を奪うと、少女の銀髪が舞い、日の光を反射して輝いた。醤を見上げる瞳はパッチリと赤く、縁取るように長い睫毛が揺れる。こじんまりとした形の良い唇は、驚愕で開きかけており、まるで花の蕾のようだ。帽子の下から出てきた美少女に、醤も手を止めた直後だった。少女の表情が、困ったように憂いを帯びる。
「キャッ、ごめんなさぁ~い☆ じゃ!」
「待てや!?」
 片手で素早く帽子を取り返した後、少女は真顔へ一転する。オッサンよろしく手をかざし、帽子をかぶりながら背を向けた所で、少女は醤に肩を掴まれた。
「ちょっと可愛いからって誤魔化されるか!! ヒトのメダロットを性犯罪者扱いしやがって……ちょっと可愛いからって、甘やかすと思うなよ!? ちょっと可愛いからって!!」
「何で三回言った?」
 冷静に疑問を口にした後、少女は大きく息をつく。
「放せよ。それは、さっき謝っただろうが」
「その『謝っときゃ良い』みてぇな態度が腹立つっつってんだよ……!?」
「じゃあ、オレにどうしろって言うんだ? 後十回くらい謝れば良いのか?」
「わかんねぇヤツだなぁ……!?」
「わかりたくもねぇよ。お前みたいな、『ちょっと脅せばどうにかなる』と思ってる奴」
 温度差はあれど、互いの態度が気に入らない二人の様子に、会場は静まり返っていた。そんな中、カグラはゆったりと立ち上がり、声を掛ける。
「ショウよ。心配かたじけないが、おなごに怒鳴り続けてはいかん」
「心配じゃねーよ!? コイツが腹立つだけだわ!! 大体、お前当事者だろ!? 言いてぇ事あんだろうが!?」
「ふむ……」
 カグラは顎に手を当てて考えた後、フォレスに向き直った。
「カブトムシの御嬢さん」
 呼び掛けに、フォレスはぴくりと反応して振り向く。カグラは、言葉を続けた。
「仲良き事は、美しき哉。力になりたい友人や、一緒に謝ってくれる友人がいるのは良い事だ。それに、友人のためにここまで怒れる者は、なかなかおらん。先の友人にとっても、其方はかけがえのない友人なのであろうなぁ」
「ウォオオオオオオイ!?」
 フォレスの頭を優しく叩くカグラに、醤は全力で吠えた。醤は激情のまま、口を開いた。
「とんだ所に聖人君子がいたなぁオイ!? おいコルァお人好し!! もっと駄目なトコあっただろうが、エエ!?」
「己の行動を省みて、もう謝ってくれとるではないか。謝っても許されない事ではない故、ワシらも許さねばならぬぞ?」
「だァから舐められんだよクソジジイイイイイ!!」
 叩きつけるように叫ぶ醤に、カグラは頷きながら笑う。
「ショウはきっと、腹が減っておるのだな。午前中から頑張って、疲れただろう? 美味しい物を食べると良い」
「腹減って苛々してたのかよ、人騒がせな奴。カルシウム食え、カルシウム」
「『人騒がせ』とかお前に言われたくねえええ!? 学祭にそうそうカルシウム料理があってたまるか!!」
 カグラに便乗して言ってのける少女に、醤は手をわななかせて憤った。一歩、メダロットが足を進める音に、三人は視線を向ける。
「……言葉こそ汚いが、その通りだ。無実の者達を罵倒し、乱射しながら追い回す等、容易に許されて良い事ではない。悪いのは、私だ。謝罪が必要なら、何度でも頭を下げよう。……本当に、申し訳なかった」
 そう言って、フォレスは再び醤達に謝った。だが、と頭を垂れたまま付け加える。
「言える立場ではない事は、重々承知している。……それでも、恥を忍んで頼みがある」
 フォレスは、そっと醤の腕に手を添えた。なおも、少女の肩を放さない腕だ。
「そろそろ、手を放してはくれないか? この者こそ、無実の人間だ」
 目に強い光を宿し、添えた手に力を込め、フォレスは醤を見上げた。フォレスが言うように、少女自身は何もしていない。一緒に、謝罪しただけだ。醤の眉間の皺が、深くなる。
「……」
 醤は無言で手を放し、その拍子にフォレスの手も外れる。乾いた笑いを零しながら、醤は少女に目を向けた。
「ハッ……そいつァ悪かったな。当事者のジジイがこう言ってんだ、オレからはもう何も言わねぇよ……『鬼ごっこ』に関してはな」
 醤は白いメダロッチを掲げ、醤は言い放つ。
「こっから先は、オレが売られた喧嘩だ!! これ以上、余所モンに学祭引っ掻き回されてたまるかよ!?」
 醤を見て、少女はげんなりしたように息を吐いた。頭痛がするのか、頭を抱える。
「……お前も、しつこい奴だな。喧嘩売られてんのは、オレの方だっつーの。そんなに苛ついてんなら、さっさと飯食って歯ァ磨いて寝ろ」
「こんな真昼間のグラウンドでか?」
 TPOを完全無視した言動に、醤はツッコむ。その後、口角を上げ、指を差して言った。
「メダロッターのゴタゴタ解決すんのは、コレが一番だろ!? ロボトルで勝負だ!!」
「断る」
「よし!! 全然良くねぇ!!」
 間髪入れずに勝負を拒否した少女に、醤は何に納得したのか、頷きながらそう言った。本気でステージから下りようとしている少女を、必死に呼び止める。
「おまっ、メダロッターだろうが!? メダロッターなら、ロボトルしやがれ!!」
「いいか? メダロッターには、二種類いる。『穏健派』と、『過激派』だ」
「絶対違うと思う!!」
 流石に、その二種類のみでなく、中間層もいるだろう。しかし、無駄に説得力のありそうな声色で、少女は続けた。
「で、オレは『穏健派』だった。それだけの話だ。これからは、余所者らしく静かに学祭楽しむわ」
「……逃げ腰なのにまだ学祭に入り浸る、その執念だけは認めてやる」
 小さく手を振りながら歩いていく少女の背中に称賛した後、醤はすぐに強気な笑みを浮かべ、言葉を投げ掛けた。
「そっちがそのつもりなら、今度はオレとお前で『鬼ごっこ』しても良いんだぜ……!?」
 ただ一つの回答しか許されない返答に、少女は足を止める。ステージ外からの、醤の評価は散々だった。
「村崎、それは流石に事案なんじゃないか……?」
「お前は地元だから、逃げ場ねーしな」
「シャラアアアップァ!! このまま黙って見過ごせっか!!」
 引いている翠と、変わらない表情で傍観する甘太の意見に、醤は声を張り上げる。『嫌がる女子高生を追い掛け回す、男子高校生』とは、聞いただけでゴシップニュースに仲間入りしそうだ。そんなセレクト隊御用達な案件を持ち出され、少女はようやく振り向いた。
「……蜜柑も、とんだ疫病神だぜ。これから大事な用があるっつーのに、チンピラに絡まれるなんてな」
「誰がチンピラだ!!」
 少女の暴言を鋭く否定し、醤は名乗る。
「御守高校二年D組、村崎醤!! お前に真剣ロボトルを申し込む!!」
「……名乗られた以上、こっちも名乗るのが礼儀ってもんだ」
 口元には僅かに弧を浮かべ、少女は、リングのような黒いメダロッチを構える。
「オレは、花田学園高校二年B組――」
 醤を見据え、少女は勝気に笑った。
「成城磨智だ!!」
「師匠オオオ!? 何で堂々と僕の名前言うんスか!? そんな嘘、すぐバレるっスよ!?」
 名乗った瞬間、後ろから飛び出した少年……もとい、『本物』の成城磨智(セイジョウマトモ)は、滝のような冷や汗を流しながら、少女を揺さぶった。何事かわからず、醤を含むギャラリーの目は点である。少女は慌てて、口元に人差し指を立てた。
「バッカ磨智、シーッ! イイコにしてたら後で飴ちゃんやるから、な?」
「飴で生贄になる人間がいるとでも!?」
 少女の申し出を断る磨智の肩に、蜜柑は指を振る。
「チッチッチ、磨智は乙女心がわかってないねぇ~! さっきのは、斗的の『オレが成城になるんだよ(はぁと)』ってメッセージでしょ!?」
「プププププロポーズだったんスか師匠!?」
「んな訳あるかボケェ!?」
 蜜柑の茶化しを真に受けてどもる磨智の頭を、少女は平手で叩いた。無論、照れ隠しではなく、言葉通りの事実である。
「ほぉ、『鷹栖斗的』ねぇ……?」
 おどろおどろしい低い声が後ろから聞こえ、銀髪の少女は両肩を跳ねさせた。その後、ゆっくりと振り向く。
「リコピンぎっしり詰まってそうな良い名前じゃねぇか、なあ……!?」
 顔に幾つも青筋を浮かべた醤は、腕を組み、仁王立ちしていた。ドス黒い威圧感を放つ醤に、少女は笑顔を引き攣らせて尋ねる。
「えっ、なんっ、ソレハドチラ様デショウカ……?」
「とぼけんな。苗字は、家訓云々の時に自分で名乗ったんじゃねぇか。名前は、今さっきお前のダチが言ってたけどなぁ……!?」
「何、だって……!? 大変だよ斗的、このチンピラ脳味噌がある……!」
「身バレした後で煽んなアアアアア!! ダチじゃねーよ天敵だよ!! 誰だコイツ連れてきたの!? オレだわ畜生!!」
 醤を挑発し、自分の名を後押しする蜜柑に、フォレスのパートナーにして銀髪の少女・鷹栖斗的(タカストマト)は、悲痛な叫び声を上げながら、両手でステージの床を殴った。
「往生際が悪いぜ? そろそろ腹括ったらどうだ、斗的チャンよぉ?」
 醤の言葉に、斗的はぴたりと口を閉じる。そして、ゆらりと立ち上がった。
「……オレの名前がバレた所で、時間が無いのは変わらねぇ」
 低い声で呟くと、斗的は左腕を押さえ、そのまま一気に袖を引き上げた。まさかの光景に、醤は素っ頓狂な声を上げる。
「んなっ!?」
「メダロット転送!」
露わになった黒いリングとは別のメダロッチから双対の光が生まれ、みるみる内に肥大する。光が晴れて現れた機体に、斗的は各々のメダルをはめ込んだ。二体の瞳が、輝く。
「斗的坊ちゃんに仇なす、不届き者め……成敗してくれるわっ!!」
 左腕にサムライセイバーを装着した、斗的の愛機、ナイトアーマーのガマンと。
「フォレスちゃんっ、元気を出して! 一緒に頑張りましょ♪」
 同じく斗的の愛機、ピュアマーメイドのマイドである。マイドが両手を取って優しく上下に振ると、フォレスは小さく頷いた。
「あ、ああ……かたじけない、マイド殿」
「ちょっと待てゴラァ!?」
 敵チームの和気藹々とした雰囲気を壊し、醤は怒号を上げる。
「こっち一体なのにそっち三体とかズルくね!? 主人公がする事じゃねーだろ!!」
「『メダロッター一人につき、メダロットの使用は三体まで許可する』っつーのは、メダロット協会の共通ルールだ。卑怯だ何だとは言わせねぇ」
「だからって、こっちも一体ならそっちも一体にするとか……!?」
「何で、お前に合わせなきゃなんねぇんだ? 三体の方が、早く片付くからな。残念、主人公は忙しいんだよ」
 ニヤァ、と擬音がつきそうな笑みを浮かべる斗的に、醤は奥歯を噛み締めた。何も言わないのを良い事に、斗的は言葉を続ける。
「何だったら、そこの友達二人も加勢して良いぜ? こっちも、磨智や蜜柑と組むだけだからな」
「うぐっ……!?」
「喧嘩売る相手を間違えたな? メダロット三体揃えて出直せバアアアカァ!!」
「うるせええええ!! だってオレの周りメダロット所持数:一体なんだもん!!」
 醜い言い争いをするメダロッター二人に、満面の笑みの蜜柑以外はひっそりと溜め息をつく。叫んだ直後、何かを思いついたらしい醤は打診した。
「待ってろ!! 隣町から、滅茶苦茶強ぇワイアーニンジャ呼んでくるから!!」
「待つ訳無ぇだろ」
 斗的からは吐き捨てられ、即座に却下となった。意を決したように、醤は声を張り上げる。
「だあああっ!! 男は度胸!!」
「これに懲りたら、二度とオレの前に現れんな!!」
 顔を叩いて己を鼓舞する醤と、戦闘後の確約を結ぶ斗的。二人は、メダロッチを構えて叫んだ。
「「ロボトルファイトォッ!!」」
 刹那。
『スリー!』
 突如始まったカウントダウンに、メダロッター二人と、メダロット四体の動きが止まる。
『トゥー! ワーン!』
「この声は……!?」
「まさか……!?」
 呟く斗的や醤のみならず、会場のほぼ全員がその声の主を『知っていた』。透明感がある、ソプラノボイス。精巧な飴細工のような声は弾み、次第に大きくなっていく。共鳴するように、観客の胸も高鳴った。
『……ちょっと早いけど、待ちきれなくて出てきちゃいました!』
 ステージへと少女が飛び出してきた瞬間に沸き上がる、地面が揺れたように錯覚する程の黄色い歓声や、雄叫び。観客一人一人に、その少女は両手で小さく手を振った。
 白を基調としたパフスリーブの膝丈ドレスから覗く、赤いドットのフリルスカート。すらりとした脚線美は、所々にクモの巣マークが入ったタイツに包まれている。シルクのようなブロンドロングヘアーで作るハーフアップの上には、ジャックー・オー・ランタンを模したティアラがちょこんと乗っている。傍らには、色違いの黄色いスカートを着ている少女と、同じく色違いの緑のスカートを纏う少女が佇んでいた。
『『『ハッピー・ハロウィーンッ!! セレクトスリー参上!!』』』
 センターでは天道一期(テンドウイチゴ)、向かって右側にはショートカットの夕張芽崙(ユウバリメロン)、左側にはポニーテールの戦極檸檬(センゴクレモン)がポーズを決め、アイドルグループ・セレクトスリーはコールと共に笑う。爆音級で歓声が上がる中、一期は後ろで手を組み、にこやかに斗的と醤に近付いた。
「えっ、あのっ……!?」
「なっ、生もめっちゃ可愛いですねっ……!?」
 顔を真っ赤に染めて慌てる二人に微笑みかけ、一期は。
『ぎゅ~~~~っ!』
 斗的と醤を、まとめて抱き締めたのだった。
「「!?」」
 言葉を失う二人とは対照的に、次々と羨望の声が上がる。何たって、国民的アイドル・天道一期の生ハグなのだ。無理も無い反応である。完全に沈黙した斗的と醤から離れ、一期はウインクした。
『ここは危ないですから、お友達と一緒にステージの外で楽しんでくださいねっ♪』
「「は、はひぃ……!」」
 熱に浮かされ、空気が抜けたような二人に満面の笑みを向け、一期は定位置へと戻っていった。脱力した斗的と醤を、各々のセコンド達は場外へ運ぶ。
「斗的、シャキッとしないか」
「……ここに、オレの墓を建ててくれ……」
「よっしゃ! 十メートルくらい掘っちゃうよっ!?」
「本当に師匠が死ぬからやめるっス!!」
「ショウ、大丈夫か?」
「……一期ちゃん、スゲェ良い匂いした……」
「倫理的に大丈夫じゃねーわ」
「アウト寄りのアウトだな」
 屍が運び出されると、檸檬は頬を膨らませた。
『ずっるーい!! レモンだって、イチゴちゃんとギュ♪ ってしたいのにぃ!』
『ごめんなさい。ホラ、レモンちゃん。ぎゅ~っ!』
 一期は苦笑し、檸檬に言われるがまま抱擁する。抱き締められた檸檬は、すぐに機嫌が直ったのか、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
『キャ~ッ♪』
「イチゴちゃん尊い!!」
「イチゴちゃんマジ女神!!」
「レモンそこ代われ!!」
『テメエら生きて帰れると思うなよ!?』
『レッ、レモンちゃん!』
『キャッ!? やだ、いっけな~い! ハロウィンだから、一瞬本物の死神さんが憑りついたみたい! ガンバレモン☆』
 死神というより般若のような表情を浮かべた檸檬は、一期の呼び掛けにより、秒で表情を戻す。そして、舌を出して、自分の頭を小突いた。こういった切り替えは、プロならではの業だろう。いや、本物のプロであれば、まずボロを出さないのだが。
「あ~、戦極檸檬良いわぁ……」
「お前の愛も、大概歪んでるな……」
 恍惚の表情を浮かべる甘太に、翠は苦々しく笑ってそう言った。
お笑いライブと化したこの会場をミュージックライブへ戻すべく、一期はセンターで大きく手を振る。
『みんなぁー!! 今日は集まってくれてありがとぉーっ!! フライングしちゃったけど、セレクトスリーの『スペシャルハロウィンライブin第百回御守高校学校祭』の開幕ですよぉー!! たっっっくさん、楽しみましょうねっ♪』
 一期の挨拶と、けたたましい歓声のコール&レスポンスを皮切りに、学校祭の目玉イベントが始まったのであった。

( No.4 )
日時: 2020/06/14 22:32
名前: 海月

『――いよいよっ、最後の曲になりました!!』
 輝く汗を散らし、僅かに息を切らしながら、一期はマイクを両手に笑う。『光陰矢の如し』とはよく言ったもので、楽しい時間はすぐに終わってしまう。ライブの終了を惜しむ声が、ステージ外から上がった。そんな中、斗的はステージの一期を見上げ、頬を上気させながら呟く。
「今回のライブも最高だった……!」
「良かったっスね、師匠!」
「ああ。トリは当然あの曲だろうが、アンコールで何歌うのか楽しみだ」
 磨智に頷き、斗的は最後の曲とアンコールへの期待を確信に変える。フォレスも、初めて見る煌びやかなステージから目が離せないようだ。
「……これが、『らいぶ』……」
「あー! フォレスはライブ初めてなんだっけ!?」
「斗的が『でーぶいでー』とやらを再生している時に見かけた事はあるが、まさかこれ程までの熱気だとは思わなかった……。賑やかで、楽しい宴なんだな」
「ふふっ、斗的ちゃんもフォレスちゃんも楽しそうで良かったわぁ♪」
 皆の嬉しそうな雰囲気に、マイドも両手を合わせて微笑む。その隣で訝し気にステージを眺めるサラに、ガマンは冷静に尋ねた。
「……して、おぬしはおぬしで何しとるんじゃ?」
「う~ん……どの角度からも、パンツが見えそうで見えん。流石はトップアイドル、鉄壁だお」
「みっともない真似はやめんかっ!!」
 『不審者ではないか』と思ったが、違った。『本物の不審者』だった。当のサラは顔色を変えずに受け流しているものの、ガマンの喝に背中を仰け反らせた者がいた。
「何でバレたんですかい!?」
「お前じゃねーよ。良かったな、不審者二号」
 驚愕で隠蔽を解いたジーに、甘太は乾いた笑いを送った。その隣では斗的達の方をじとりと睨みながら、醤は一人ごちる。
「あの白髪女、『大事な用』ってセレクトスリーのライブかよ。とんだドルオタだぜ」
「さっきまで、『ウオオオ、一期オオオ!! ウオオオオオオオ!!』って叫んでた人間が言っちゃ駄目だと思うけどなぁ……」
 明らかに声が掠れている醤に、翠はやんわりと指摘した。カグラは、丸い目で醤を見上げて口を開く。
「ショウ、最後まで楽しまなければ損だぞ? 斯様な宴は滅多に無いのだ」
「へーへー。そういうお前は、楽しめたのかよ?」
「うむ! イチゴ殿の歌は初めて聴いたが、心が弾む。こうして、皆を元気にする者もいるのだなぁ」
「社会科見学か」
 一ファンとして楽しんでいるというより、まるで勉強をしているようなカグラの物言いに醤はツッコむ。しかし、その表情は決して険しくはない。
 各々が最後の曲を心待ちにしている中、一期は空を指差し、ウィンクしながらタイトルコールした。
『それでは、聴いてください! 『スウィートトリックとビタァトリート』!!』
 一期が言うや否や、色とりどりのリボンが空を舞った。メルヘンチックな演出に、無論、会場の声は一層沸き上がる。
だが。
『え……?』
 ステージの上に立つ一期の顔は、目を見開いたまま困惑していた。檸檬と芽崙も、不思議そうにリボンを見上げている。
「うわぁ~!! 可愛い演出っスね!」
「……おかしい」
 違和感を覚えたのは、セレクトスリーのみでなく、斗的もだった。真剣な眼差しを前へ向けたまま呟く斗的に、磨智は聞き返す。
「師匠、何がっスか?」
「この曲には、こんな演出無かったはずだ」
「え?」
 磨智が短い言葉を吐いた、直後。
「きゃああああああっ!?」
 まるで生き物の如く、ステージに立つセレクトスリー一人一人にカラフルなリボンが巻きついた。一期の悲痛な声に続き、檸檬も悲鳴を上げる。
「イヤアアッ!? 何コレぇ!?」
「……!?」
「だーっはっはっはっはっはァ!!」
 下品な笑い声と共にステージ裏から現れた男は、身動きが取れない一期を小脇に抱えた。
目には、ゴツめのゴーグル。宇宙服のように白を基調とした全身スーツの右胸には、『Tc』という文字が刻まれている。男はステージ外へ手を振りかざし、高らかに宣言した。
「天道一期の身柄は、我らテクノポリスが預かった!!」
 秘密結社テクノポリスが一人・タバスコが犯人だとわかると、醤は全力で噛みついた。
「タバスコ、またテメエか!! 『秘密結社』のくせに目立つ真似ばっかしやがって!!」
「『また』はこちらの台詞だ、村崎醤!! 目立つのが怖くて白着てられっか!!」
 二人の顔見知りな会話に、御守高校関係者一同は『また二-Dの村崎か……』と生温かい目をする羽目になった。自分の高校のセキュリティの緩さに嘆きつつ、醤はタバスコを問い質す。
「一期ちゃんをどうする気だ!?」
「天道一期は、テクノポリスの軍資金となってもらう!! そうだなぁ、百回記念だから……一千万用意しろ!!」
「ゼロ一個多くね!?」
 要は、身代金誘拐である。さり気なくタバスコが学祭の回数を把握していた事実に醤が驚いていると、甘太が感慨深く頷いた。
「ようやく、ウチの借金を返す気になったんだな」
「お前、どっちの味方?」
 あくまで一期の身代金ありきの話をする甘太に、醤が怪訝そうな顔で尋ねるも、返答は無い。ある時は甘太の実家である佐藤商店を襲撃したり、またある時は翠が楽しみにしていた運動会のリレーを台無しにしたりと、タバスコは醤のみでなく、醤の周囲にも喧嘩を売って回っているのだ。醤からすると、『初対面でミサイル喰らってんのは良いのか』と甚だ疑問であったのだった。
 それはさておき。当然ながらも、一期を誘拐される訳にはいかない。
「タバスコ……」
「あ?」
「ショウ達のみならず、イチゴ殿にも手を掛けるとは……覚悟は出来ておるのだろうな……!?」
 と、カグラもしっかり怒っているであろう事を、醤は知っていた。普段の昼行灯とはうって変わり、目は爛々と輝き、左腕・サブマシンガンを構えるカグラに、タバスコは僅かに背を仰け反らせる。
「『覚悟』なんざ関係無ぇ」
 ゆらり、と姿を見せたのは、斗的だった。カグラの言葉を否定するカグラに、醤は声を荒げる。
「お前なぁ、邪魔すんなら下がっとけよ!」
「『邪魔』はしないさ。今回ばかりは、目的が一緒みたいだからな」
 ふっ、と口元が小さな弧を描く。斗的がゆっくり顔を上げると、目だけは笑っていなかった。
「オレの目の前で天道一期に手ェ出すなんざ、この町にはとんだ野郎がいるもんだ」
 斗的の声を皮切りに、フォレスとガマンも武器を構え、タバスコは一歩後退る。まさに三体のメダロットが飛び出さんとした時、タバスコは口角を吊り上げて叫んだ。
「動くなァ!!」
 反射的に、フォレス・ガマン・カグラは動きを止める。何事かと皆が状況を確認すると、セレクトスリーのリボンはどうやら後方のガイコツ型メダロット・ガイロットの後頭部から伸びているようであった。
「一ミリでも動くと、天道一期達を絞め落とすぞ!?」
「う……っ!?」
 リボンに力が加わり、一期の表情が苦痛で歪む。斗的と醤は、慌てて、そして悔しそうにメダロッチを下げた。
「ちっ……!」
「やめろ!!」
「ふはははは!! 悔しいか、ガキ共!? 悔しいのか、ン~? 人質に危害を加えられないと思ったら、大間違いだぞ? セレクトスリーは三人、残り二人には攻撃の制限なんて無いんだからなぁ!?」
「何ですって!?」
 タバスコの言葉に、檸檬は『冗談じゃない』とばかりに顔を青く染める。完全に得意気なタバスコは、醤を指差し、タバスコは言い放った。
「村崎醤!! 午後七時、『あの場所』に一千万円を持ってこい!! 金が用意できない場合は……わかっているな?」
「……あ」
 ヒュパッ。
「そう!! 『ヒュパッ』とやって!」
 ガシャン!
「『ガシャン』と天道一期を……は?」
 間の抜けた声を出しながら、タバスコは先刻から音がする方へと振り返った。すると。
いつの間にか芽崙のリボンはただの布切れと化してステージに落ち、その前ではプテラノドン型メダロット・エアプテラが刃を構えていたのであった。芽崙を拘束していたガイロットは、地に伏し、機能停止している。タバスコは飛び出さんばかりに目を見開き、声を張り上げた。
「アルェエ何でエエエエエ!?」
「……セレクト隊員は、いかなる拘束下でもメダロットを転送できるよう、特殊な訓練を受けている」
「いやっ、それもだけど!! それもそーなんだけども!? 『動いたらコイツら締め上げる』っつってんだろうがァ!?」
 涼しい顔をして答える芽崙に、タバスコは乱暴に指差しながら問い掛ける。芽崙は、視線だけをタバスコへ移した。
「セレクトスリーは、誇り高きセレクト隊のお膝元のグループだ。正義が悪に屈する事は、絶対にあってはならない。悪に屈するくらいならば、我が身をも犠牲にする。イチゴもレモンも、とうに覚悟はできているはずだ」
 どうやら、仲間の犠牲よりも、タバスコの逮捕が優先らしい。檸檬は、即座に反論した。
「できてるワケ無ぇだろーがァ!? そっちはそうかもしんないけど、こちとらただのアイドルなんだよ!?」
「じゃあ今しろ」
「できるかーい!?」
「ふ、二人共、ケンカしないで……」
「お前は自分の心配しろ!! 俺が言うのもなんだけど!!」
 芽崙と檸檬を仲裁する一期に、タバスコは怒鳴りつける。当然、外野からは非難轟々だった。
「イチゴちゃんに怒鳴るなー!!」
「骨みたいな色の服着て、骨みたいなメダロット使いやがってー!!」
「このムッツリスケベー!!」
「誰だ『ムッツリスケベ』混ぜたの!?」
 謂れも無い中傷にタバスコが憤っている間に、芽崙の周りで二つの光が舞う。
「……我々セレクト隊も、まだまだだな」
 光の中から現れたのは、ティラノサウルス型メダロット・アタックティラノと、ブラキオサウルス型メダロット・ランドブラキオ。芽崙は静かにメダロッチを構え、言葉を吐き捨てた。
「目と鼻の先で事件を起こされるとは、舐められたものだ」
 芽崙の氷のような視線に射抜かれ、タバスコは笑顔でありながらも大量の冷や汗を流す。そのままメダロッチのボタンを押した途端、大量のガイロットが出現したのだった。
芽崙は、勇ましく手を振りかざす。
「アタックティラノ! エアプテラ! ランドブラキオ! あの誘拐犯を確保し、イチゴを奪還しろ!!」
「ガイロットオオオ!! 俺への追跡を許すなアアアアア!!」
「きゃっ!?」
 そう命令するや否や、タバスコは一期を抱えたまま、一目散に逃げ出した。とてつもない数のガイロットに、醤は苦々しい表情を浮かべる。
「クソッ、いつぞやかの軍団作戦かよ……!?」
「ショウ! ワシらも、メロン殿に加勢するぞ!」
 会場は、醤達と同様に一期を取り戻すべく戦う者、そして、突如現れた脅威から逃げ惑う者と大混乱だ。そんな中、斗的は平静を保って指示を出していく。
「ガマン・フォレスは最小限のガイロットだけ倒して、誘拐犯の後を追え! マイドは、味方メダロットの回復を頼む!」
「心得た!!」
「久々に、腕が鳴るわい……!」
「任せて、斗的ちゃん!」
 ガマンは左腕で果敢に切り掛かり、マイドは注意深く周囲を見渡す。フォレスは、右腕・ウィンチェスターによるライフルで的確にガイロットの装甲を削っていった。
「最小限にしても、数が多いな……あれは!?」
 ステージ上に取り残された人影を見つけると、フォレスはブースターを稼働し、一直線に向かう。
「うぇえええええんっ!! こわいよぉ、メロンちゃああああん!! 助けてえええええ!! ……っおい、どこにいんだよ夕張!? マジ後でぶっピーすからな!!」
「レモン殿!!」
 着地したフォレスは、檸檬を抱きかかえ、リボン元のガイロットへ左腕・マシンピストルのガトリングを浴びせる。ガイロットの機能停止を確認すると、檸檬の拘束を解きながら尋ねた。
「怪我は無いか!?」
「うん! ありがとぉ、メダロットさぁん……!」
 瞳を潤ませる檸檬に、フォレスはそっと胸を撫で下ろす。ライフルを撃ちながら、檸檬に言い放った。
「皆の元まで先導する! それまで、私の傍から離れないでくれ!」
「わっ、わかった!」
 そう言うと、檸檬はフォレスの背にしがみつく。フォレスは、地を踏み締めて、左腕を構えた。
「……それにしても」
 正面から揃って腕を振り上げるガイロット達を、フォレスはガトリングで一掃する。メダルが三枚転がると、独り言を言った。
「悔しいが、斗的の指示は的確だな……。『がむしゃらを使用するメダロットから狙う』と、膨大な数だろうと効率的に戦況を進められる。それは……あちらも、同じようだ」
 言いながら、フォレスは逃げる人々の退路を確保するカグラへと視線を移した。
「皆、早々に非難せよ! 前の者を押し退けてはいかん! 落ち着いて逃げるのだ!」
 がむしゃらを使用するガイロットを、カグラは両腕を駆使して撃ち落としていく。ビームを放つガイロットには、目を凝らして回避し、懐まで入り込んで銃撃した。目の前のガイロットが機能停止すると、カグラは醤に向かって叫ぶ。
「頃合いを見て、ショウ達も逃げてくれ! 数が多過ぎて、巻き込みかねん!」
「バァーカ!! オレらの心配は良いから、さっさと片付けろ!」
「ははっ、心強い!」
 笑い声を零しながら、カグラはガイロットの束へと身を投じて行った。フォレスもまた、檸檬を庇いながら、ガイロットの数を削る。
「確かに……このままでは負傷者が出る、か」
 フォレスは、メダロッター達が集まるポイントまで到達すると、檸檬の手を引いた。
「そこの者!」
「!」
「レモン殿を頼む!」
 たまたま近くにいたメダロッターに檸檬を託し、フォレスは地面を大きく蹴る。そして、上空から照準を合わせ、一斉射撃した。
倒れていくガイロット達を余所に、檸檬は預けられたメダロッターに脅えて見せた。
「ふぇえっ、レモンとっても怖いんですぅ! メダロッターさん、守ってくださぁい……!」
 その人物は無言で檸檬をまじまじと見た後、檸檬の手に、自分の手を近付ける。檸檬は頬を赤らめ、そっぽを向く。
「キャッ、大胆……!?」
「……ほい」
 メダロッターのお目当ては、檸檬のメダロッチだった。ボタンを押された事により、檸檬の正面に眩い光が放たれ、電球型メダロット・キラリッパーが転送される。檸檬は、点になった目を、何度も瞬きした。
「へっ?」
「あんただったら、自分の身くらい自分で守れんだろ? ただでさえ数で押されてんだから、頼むわ~」
「いやっ、あの、レモンは守られたいんであって……?」
「……ところで、」
 困惑する檸檬に対し、そのメダロッターは吹き出しながらも言葉を続けた。
「クスリやってる?(笑」
「何なのお前?」
 愉し気なメダロッター・甘太に馬鹿にされ、檸檬は冷ややかにそう返したのであった。
一方、磨智はメダロッチを握り締め、自分自身に言い聞かせる。
「敵は、ガイロット。装甲にも申し分ない上に、光学パーツを二つもつけてるメダロット。そんな奴らが、相手でも……!」
 ぎゅう、と握る手に力を込める。
「……師匠は、今日のライブ本当に……本当に、楽しみにしてたっス」
 脳裏には、師である斗的の笑顔。とても嬉しそうなその顔を、何度も再生する。斗的のアイドルオタクが発覚した際は地味にショックを受けたものだが、斗的の笑顔を作る一期もまた、磨智にとって大切な存在だった。
「師匠の大事な人は、」
 斗的の笑顔は。
「僕が守る……守りたいっス!」
 磨智は、信念の元に覚悟を固め、前を見据えて。
「シアック!!」
 パートナーの名を、呼んだ。
「……わざわざ言わなくても、お前の気持ちはわかってんぜ」
 上から聞こえた馴染みのあるその声に、磨智は表情を明るくする。磨智の愛機であるシアンドッグ・シアックは、ステージに足を掛けて構えた。
「アーティストがいなくなったってんならしょうがねぇ……今から、オレ・オン・ステージジャンッ!?」
 ギュオーン!、と轟かせたのは、彼愛用の白いエレクトリックギターだった。明らかに主旨がズレているシアックに、磨智は手をわななかせる。
「どうしてそうなんのおおお!? ちゃんと前見て!? 状況把握して!?」
「NO PROBLEMッ!! セレクトスリーの代打なんて、願ったり叶ったりさ……!」
「プロブレムしか無いよ!? だから、上じゃないって!! 前見て、前!!」
 シアックが恍惚と空を仰ぎ見ると、磨智はツッコんだ。肩を竦めてギターを下ろし、深い溜め息をつきながら、シアックは銃に手を添えてガイロットへと向かって行った。
「ッハ~、やれやれ。ジョークが通じない相棒だぜ……だから磨智は、両想いになれないジャン」
「待って!? 今ボソッと何言ったの!? 返答次第では全力で否定したいんだけど!?」
「うぉい、そこの厨房共ォ~。遊んでばっかいないで、とっとと攻撃シル」
「僕の所為かなぁ!?」
 サラに注意され、磨智は笑顔を引き攣らせる。そんなサラは、気怠げに銃弾を放っている所を見ると、どうやら敵の数が多過ぎて、攻撃にうんざりしているようだった。
「コレ、撃つのは良いけどちゃんと減ってんの? 満身創痍で、サラちゃんそろそろパンチラしそう……んあ?」
 パンチラどころかとうにパンモロしていたサラだったが、視界が曇って間の抜けた声を上げる。銃撃しながら、フォレスは忌々し気に表情を歪めた。
「くっ、硝煙が邪魔で見えづらい……!」
「『硝煙』……?」
 フォレスが漏らした言葉を聞き、斗的は考える。この場には、確かに射撃型が多い。そうであっても、今しがた出現したこのモヤは、『煙』というより、寧ろ『霧』に近いのではないか、と。考えに至った瞬間、斗的が目を見開いたのと、醤が叫んだのは同時であった。
「全員撃つのやめろオオオオオ!!」
 だが。
その願いは叶わず、次々と射撃型メダロットに暴発が起こった。
「うあッッ!?」
「フォレス!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント38。左腕パーツ、ダメージポイント63』
「ぐっ……!?」
「カグラァ!!」
『右腕パーツ、ダメージポイント35。左腕パーツ、ダメージポイント70』
 呻き声を上げるフォレスとカグラのメダロッチからは、無機質なダメージカウントが響く。あちらこちらの声を聞く限りでは、どうやらパーツが破壊されたメダロットもいるようだ。苦痛に顔を顰めながら、カグラは醤に声を掛けた。
「ショウ、これは……!?」
「くそっ、射撃トラップだ!」
 眉間に皺を深め、醤は奥歯を噛み締めた。トラップが充満しているこの一帯で射撃すれば、当然トラップは発動し、負傷する。しかし、どうにもカグラには解せない事があった。それはフォレスも同じらしく、口を開く。
「妙だな……連中の行動は、三パーツ全てが攻撃だったはず」
 フォレスが見た限り、ガイロットの行動はビームかハンマーだ。その言葉に、斗的は頷く。
「ああ、それは間違いない。つー事は……ホラ、お出ましだぜ」
 帽子のツバを上げ、斗的が目を向けたステージ上。そこには。
脚部の黒布をなびかせ、両腕の鎌を掲げる死神型メダロット・デスリッパーが浮かんでいた。
「新手か……!」
「正確には、乱闘を見越して潜んでたんだろうな。こんだけの数だ。戦闘が進むにつれ、オレ達の目はガイロットにしか行かなくなる」
「敵の計算通りに事が運ぶとは、何たる屈辱、ガハッ!?」
 トラップでダメージを受けて体勢を崩したフォレスは、ガイロットに殴られ、地面に叩きつけられた。
『頭パーツ、ダメージポイント29。右腕パーツ、ダメージポイント94。左腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止』
「ちっ……!」
 別の場所で、カグラも背後から襲われる。みるみる内に黒ずんだ左腕を手で押さえ、脚部を震わせながら立ち上がった。
『右腕パーツ、ダメージポイント81。左腕パーツ、ダメージポイント100。機能停止。脚部パーツ、ダメージポイント33』
「……罠で、装甲を削り……がむしゃらで、一気に畳み掛けるつもりらしい……」
「っとにムッツリスケベだぜ、やらしい性格しやがって……!」
 タバスコに怒りを募らせ、醤の笑顔が引き攣る。各々のメダロットのダメージに気を取られ、斗的と醤はデスリッパーを見失ってしまった。射撃トラップがある以上、迂闊に攻撃は出来ない。まずはデスリッパーから倒そうと、二人は辺りを見回す。
「また隠れやがったのか……!?」
「霧は出てるんだ、どっかにはいるはず……!」
 チャンスは、霧が薄い場所にデスリッパーが出現した時。霧が晴れるのを待っていれば、此方がガイロットにやられてしまうだろう。ダメージ覚悟で、デスリッパーを迅速に機能停止させるしかない。妙な重圧が、斗的と醤の心を支配する。それは互いのメダロットにも伝わっているようで、フォレスとカグラは視覚に全神経を集中し。
 黒い影が、動いた。
「「そこか!!」」
 直後。二体のミサイルで、今度こそ本物の硝煙がその場を包み込む。機体が崩れ落ち、メダルが転がる音に、斗的と醤の表情は明るくなった。
それにしても、不思議な話だ。爆発が妙に近く、機体やメダルの音はどちらも二人分なのである。その理由は、すぐにわかった。
『『頭パーツ、ダメージポイント100。機能停止』』
「「んなアアアアアアア!?」」
 メダロッチが告げた事実と、仲良く倒れているフォレスとカグラ。要は、デスリッパーだと思っていたのは、互いの姿だったのである。KBTが誇る頭パーツによる、割と激しめなフレンドリーファイアだった。
「おまっ、何してくれちゃってんだチンピラ野郎オオオ!? 死神とカブトムシの区別もできねぇなら、眼鏡の視力矯正してこいやァ!!」
「何もかもこっちの台詞だ白髪女アアア!! お前こそ、前見えねぇなら帽子のツバ後ろに回せ!!」
「落ち着け村崎! 言ってる場合じゃないだろ!?」
「そうっスよ師匠! 早くメダル拾わないと!」
 とっくみ合いに発展し掛けた所で、醤を翠が、斗的を磨智が引き剥がす。『メダル』という単語にハッと気付き、斗的と醤は地面に手をついて探し始めた。
「そうだっ、メダル……コレか!」
「あークッソ!! マジでトラップ邪魔! ……よし、あったあった!」
 白い霧の中、二人はどうにかメダルを見つけて拾い上げる。更に、各々の機体を脇に抱えると、斗的は周囲に声を掛けた。
「磨智! 蜜柑! この場を離れるぞ! どっかに避難して、対策を練り直す!」
「わかりました!」
「アイアイサー!」
 斗的達が戦線離脱するのを見て、醤も声を張り上げる。
「このままじゃ埒が明かねぇ!! オレらも一旦帰って……!」
「いたぞ!!」
「村崎少年だ!」
「え゛っ!?」
 知らない大人達から名を呼ばれ、醤は体を強張らせる。反射的に目を向けると、マイクやカメラを構えた集団が醤に駆け寄ってくるではないか。
「村崎少年!! 知り合いみたいだけど、天道一期を攫ったあの誘拐犯って誰!?」
「『あの場所』ってどこ!?」
「でえええええええ!?」
 記者達のあまりの勢いに跳び上がった後、醤は校外へ向かって猛ダッシュした。
「マジで覚えとけよタバスコの野郎オオオオオ!!」
「村崎、今日はモテモテじゃん」
「勿体無い、あの足を陸上部で生かせば良いものを……」
 恨み言を叫びながら、逃げていく醤。そんな友人を見て、甘太と翠は呑気に感想を零したのだった。





「ハッ、ハァッ……よし、ここまで来ればっ……!」
「ああー!! 疲れたぁー!! コーラがぶ飲みしたーいっ!! 斗的ぉ、コーラ買ってきてー!! 一.五リットルのやつダースで!!」
「飲み過ぎだろ、何っでオレが……!」
「斗的がここまで走らせたんでしょー!? そんぐらいの手当て頂戴よー!!」
「そのまま糖尿病になっちまえ……!」
 石段を上がり、鳥居と林を抜けた先。開けた場所で、息を切らしながらも斗的と蜜柑はそんなやり取りを繰り広げる。斗的は両膝をつき、蜜柑なんて地面に寝転がっている。磨智は座り込み、肩を大きく上下させながら笑った。
「それにしてもっ、凄い数のマスコミでしたね! 情報も早いや……!」
「全くだ……危うく、巻き込まれる所だった」
「……アレ?」
 斗的の物言いが、磨智には引っ掛かる。確信しながらも、恐る恐る斗的に尋ねた。
「師匠、もしかして……?」
「当然だ」
 磨智の言わんとしている事を察し、斗的は即座に肯定した。ゆっくり開いた目には、夕日が映り込む。
「平穏とは真逆のマスコミなんて存在、オレの人生にはいらない。一度でも、吊し上げられてみろ。テレビは勿論の事、そいつに飽きられてもネットの『弐ih』だの『ウェキペドラ』だのでずーっと晒され続けるんだぞ? そんな終身刑、オレは死んでも御免だ。液晶見ながら煎餅かじってる方が、オレの性には合ってんだよ」
 言い切る斗的の表情は、どこか凛々しい。例え、うじゃうじゃいる敵のメダロットでなくマスコミから逃げたのだとしても『格好良い』と思ってしまう辺り、自分は病気なのではないか、と磨智は思わざるを得ないのであった。
「斗的ちゃん! そろそろ、フォレスちゃんを起こしてあげましょ♪」
「ああ、そうだな。オレとしては、もうちょい静かでも良いんだが……」
「出た! ツンデレンジャー!」
「お前は一生黙っててくれ」
 戦隊もののようなポーズをとる蜜柑を軽くあしらい、マイドに言われるまま、斗的はメダルをはめ込んだ。
「……あ?」
 否、はめ込もうとした。しかし、それは叶わず、メダルは音を立てて地面に転がる。斗的は首を傾げながら、何度も試した。
「何だこれ、おかしいな……?」
 そもそも、機体にメダルの大きさが合っていない気がする。とある仮説に行き着いた瞬間、斗的は顔を青く染めた。





「……はい」
 御守町のメダロット研究所・裏口。
黒いレースワンピースの上から白衣を着込み、蝶のヘアバンドでまとめられた緩やかな淡い緑のカールヘアが肩下で揺れる。鬼のようなチャイムに波花梓音(ナミハナシオン)が怪訝そうに玄関の扉を開けると、これまた鬼気迫る形相で醤が息を切らして佇んでいた。
「頼む、かくまってくれ」
「嫌」
 互いの行動が読めたのか、梓音が勢いよく扉を閉めようとし、醤は即座にそれを足で阻止した。声にならない悲鳴を上げ、激痛に醤は俯く。
「……ッ……っで~~!! 絶対小指イカれたぞ今……!?」
「自分ん家に帰りなさいよ。ワタシを巻き込まないで」
「オレん家、マスコミに完全包囲されてんだよ! でなきゃ来るかボケあっ、嘘。嘘です、波花サン。お願いですから締め出さないでくださ、いっでででで!?」
 無言で引く力を込める梓音に醤は懇願するが、足の痛みは増すばかりだ。見兼ねた醤のセコンド二人が扉に手を掛け、圧倒的な力差で開かれた。
「ちょっ……!?」
「お邪魔しまーす」
「ちょっと……!?」
「佐藤、ちゃんと許可取ってからじゃないと駄目だろ! 波花さん、いきなりごめん。オレ達、行く所なくてさ……上がらせてもらっても良いかな?」
 平然と家に上がる甘太に注意した後、翠は梓音に苦笑した。腕を組んで溜め息をつき、梓音は眉を吊り上げたまま返答する。
「良いも何も……佐藤がもう上がってるんだから、仕方ないじゃない」
「ありがとう!」
「え、おれ呼び捨てなの?」
 さり気なく梓音から呼び捨てされた事実に、甘太は軽く驚いた。その後ろでは、醤が涙目で足を擦っている。
「あ~、いって……指四本になってたら、訴えてやるからな」
「良かったじゃない、この世から不要なモノが一個減って」
「この世にいらない小指ってあんの?」
 言い返す醤の、傍ら。機能停止しているカグラを発見し、梓音は目を見開いた。
「おじいちゃん!? おじいちゃん、大丈夫!? 何があったの!?」
「この格差にはいつまで経っても慣れない」
 自分と違い過ぎる心配の度合いに、醤は別の涙が出そうだった。愛称で呼びながらカグラの体を揺すっていた梓音は、涙目で醤を睨みつける。
「おじいちゃんが何で倒れてるの!? 答え次第では、奥歯抉るわよ!?」
「わかった!! 後で!! 後で説明すっから、とりあえずマイナスドライバーしまえ!!」
 梓音がマイナスドライバーを取り出すのを見て、醤は慌ててメダルを装着した。
「あ?」
 カツン、と音を鳴らし、メダルはフローリングの上に転がる。現状が理解できず、周囲の目はただ茫然とその光景を見つめた。
「おい、嘘だろ……!?」
 醤は、笑顔を引き攣らせながら何度もつけようとするが、メダルは落ちるばかりだ。その内、根本的にメダルの大きさが合っていない事に気付いてしまった。





『……ショウ、怪我は無いか? ここは何処なのだ?』
 己の普通のメダロッチから聞こえる、今日知ったばかりの声。斗的は、絶望するしか無かった。

斗的と醤は、笑みを硬直させ、滝のような汗を流す。
「これって、もしかしてっ……!?」
「オレ達のメダルが……!?」

「「入れ替わってるううううううう!?」」

 離れた場所にいるはずなのに、二人の魂の叫びはシンクロした。本作品は、実在する森羅万象と無関係です。

( No.5 )
日時: 2020/06/14 22:34
名前: 海月

「何て、何って事だ……。あのチンピラと、メダルが入れ違うなんて……!」
 石段に座る斗的は、暗く俯き、紙コップを持つ手を震わせる。そして、声と同時に叩きつけるように置く。
「もっかいあの野郎に会わなきゃいけないじゃねーかよッ!?」
「らめぇえぇええええ!! 零れちゃう!! 零れちゃうよぉおっ!!」
「蜜柑!! 今イラついてんだから鶏が絞め殺されるみてーな声やめろ!!」
「ブー! 正解は、『コーラのアテレコ』でーしたっ☆」
「クイズじゃねんだよなァ!?」
「斗的の旦那、落ち着くジャン」
 怒り狂う斗的を、シアックはオイルを飲みながら宥める。斗的は、頭を抱えた。ただでさえ頭痛がしてくる事態となっているのに、蜜柑のペースに巻き込まれてしまっては頭の血管が切れてしまう。コーラを飲んで一息つき、冷静さを取り戻した途端、蜜柑に肩を叩かれる。
「斗的ぉ、暗いよ~!? 折角のハロウィンナイトフィーバーなんだから、楽しもうよー!! コーラで、血糖値とテンション上げてこっ♪」
「お前の所為で血圧だけは上がりそうだよ」
「それはいかん」
 蜜柑とは反対側に回り込み、一定のテンポで斗的の背中を優しく叩く。目が点になっている斗的の顔を覗き込んで、カグラは微笑んだ。
「そういう時は、深く息を吸い込み、吐き出すと良いのだよ。……トマトや、如何したかえ?」
 カグラが首を傾げると、束の間黙り込んだ後、斗的は怒鳴った。
「蜜柑お前いい加減にしろよ!?」
「あたしの辞書に『自重』という文字は無い!!」
「うるさい、変態という名の英雄!!」
 胸に手を当て、言い張る蜜柑。斗的は力強くカグラを指差し、言い放った。
「身内じゃ飽き足らず、人様のメダロットを着せ替え人形にしやがって!!」
 そう、今のカグラは。
「トマトよ、心配かたじけない。ミカンはきっと、わらわを気遣ってくれたのじゃ。性別が違うのは驚いたが、こうして動けるだけ有り難いのだよ」
 セーラー型メダロット・セーラーメイツのパーツに、身を包んでいたのであった。磨智がついていれば大丈夫かと思い、申し出のまま蜜柑を買い出し係にしたのは失敗だった。飲み物やスナック類を買ってきたと思えば、もう片方のビニール袋には女型ティンペットが入っていたのだ。
「そうそう! そうなんだよ~! いや~、あたしもね? 元が男だからホントは男型買ってあげたかったんだけど、コンビニに女型しか置いてなくってさ~!?」
「……師匠、僕は止めたんスよ? 『流石に可哀想だ』って。でも……でもっ、蜜柑が無理矢理、うぅっ……!」
「知ってた」
 そんな事だろうと、斗的は思っていた。この場の誰もが、それを察していた気さえする。十中八九、気の所為ではない。
「フェイニットとかファンシーロールも可愛かったけど、やっぱ王道のセーラー服は最っ高だね! 暴れるようだったらバニーハートにしよっかなって思ってたけど、何回着せ替えても怒らない優しい性格で良かった~! ドドドッ、快感♪ みたいな!?」
「ミカンに喜んでもらえて、わらわも嬉しいぞ」
「わーい!! カグラ大好き~!」
 最後をプラスの言葉で締めくくれば、全て丸く収まるとでも思っているのだろうか。一同が思った矢先、カグラに嬉しそうに抱き着く蜜柑を見て、案外丸く収まるものだと世の中の甘さを憂いたのであった。
「……ゆっくりで良いのか?」
「うん!! 寧ろ、ゆっくりが良いの!!」
 耳に入ってきた会話に、今度は何事かと斗的は目を向ける。途端、開いた口が塞がらなくなった。
「スカートを、徐々にこう、捲っていって……!?」
「こうかえ……?」
「イーヨー、イーヨー、取れ高だお~」
「予告が『嘘つき』呼ばわりされんだろオオオ!! お前ら全責任取れよ!? 怒られんのお前らだからな!? つーか怒られろよ、もう!!」
 蜜柑とサラに唆されるまま、恥じらいも無く自身のスカートをたくし上げていったカグラを見て、斗的はありったけの怒号を三人に浴びせた。常習犯のため、反省した様子を一切見せずに蜜柑はマイドに話し掛ける。
「マイドさぁ~ん! マーメイドも試してみたいから、カラダ貸~してっ!」
「……ふぅ」
「あり? どったの? 元気なくない?」
 頬に手を当て、溜め息を漏らすマイドに、蜜柑は小首を倒す。一度、逸らすように地面に視線を移した後、マイドは蜜柑の方へと向き直る。
「……折角楽しくしてるのに、水を差してごめんなさいねぇ。確かに、蜜柑ちゃんプロデュースのカグラちゃんは、とっても可愛いんだけど……フォレスちゃん、元気かなって」
 マイドは俯いて、尾びれを反対側へ跳ねさせた。胸の前で手を組み、まるで祈るように頭を垂れる。
「フォレスちゃんはしっかり屋さんだけど……きっと、今も心細いと思うの。早く、迎えに行ってあげなくちゃ」
「マイド……」
 斗的は、心配そうにマイドの名を呼ぶ。幼い頃から、いつも笑顔で斗的の相手をしていたマイド。そんなマイドは、フォレスが来たばかりの時もあれこれ気遣い、優しく接していた。マイドからすれば、斗的は弟、フォレスは妹のように思ってくれているのだろう。絶対、自分は弟だ。断じて、妹ではないと、斗的は自分に言い聞かせる。話が逸れてしまったが、妹のようなフォレスが心配で、何よりマイド自身が寂しいのだろう。
 落ち込んでいるマイドを元気づけようと、斗的は口を開く。
「心配する事無いってぇ、マイドさん! フォレスだって、こっちみたいに仲良くやってるよっ! カグラをボディに入れたのも、フォレスと合流するための近道だしね! そろそろ、着せ替えごっこも飽きてきたしー!」
「お前ホント最低だな?」
 マイドの肩に手を回し、豪快に笑う蜜柑に、斗的は色んな感情が入り混じって暴言を吐き捨てた。斗的は、訝し気な表情で尋ねる。
「さっきまで放送コードギリギリレベルで楽しんでたのは、どこの愛媛蜜柑だ? ん?」
「だーってぇ~!? そりゃ、最初は楽しかったよ!? でも、カグラってば着替えもセクハラもぜ~んぶ受け入れちゃうんだもん! もーちょい誰かさんみたく、照れたり恥じらったり嫌がったり困ったり喘いでくんないとさぁ~!?」
「どこの誰かは知らんが、いつ喘いだ」
「何つーか、総じてツマンネ!」
「もっかい言わせてくれ、お前は最低な人間だ」
 散々好き勝手遊んだ挙句、この感想は酷過ぎる。嫌いな人間の愛機とはいえ、斗的はカグラへの同情を余儀無くされた。蜜柑にしては珍しく凹んだ表情を浮かべ、両手で頭を抱えて、わざとらしく嘆く。
「ああっ!! フォレスだったら、『お、男のカラダは慣れないな……(渾身の声真似』って言いながらも無理矢理男型に入れられて、『ふぇぇ、トイレとかお風呂とかどぉしよぉ(><。』って涙目でオロオロしてる様が見れたのにぃ! 何で今こっち側にいんだ、あたしッ!!」
「フォレスがメダロットだって忘れてません?」
 メダロットがトイレや風呂で困ってたまるか、と言わんばかりに、斗的は蔑んだ目を向けた。ついでに言うと、キャラ崩壊も甚だしい。溜め息をついて、蜜柑は言葉を続ける。
「カグラはカグラで、すっかり『老人仲良しクラブ』しちゃってるし~。フラれた蜜柑ちゃんは、磨智で遊んできますよ……」
「日本語おかしくないっスか!? 僕『と』っスよね!? 僕『で』じゃないっスよね!? そんな目でこっち来ないでえええ!!」
 悲鳴を上げて逃げていった磨智に内心合掌しつつ、蜜柑が親指で差した後ろの方へと斗的は視線を移す。そこでは、ガマンとカグラがオイルを啜りながら談笑していた。
「『今時の若い者は』、とついつい口に出してしまいますが、若いモンは一心不乱に前へ突っ走る方が似合うのやもしれませんなぁ! 周囲等、わしら年寄りが見とれば良いのです!」
「そうさなぁ、その方が此方も見ていて楽しい故。ひた走る若人の背中を見る事が出来るのは、わらわ達の特権ですな」
「如何にも! 日に日に大きくなる斗的坊ちゃんの背中を眺めていると、感慨深いものがありますぞ! 斗的坊ちゃん、本当に立派になられて……うっ、うぅっ……何故女になってしまったんじゃああああッ!!」
「オレが一番聞きてぇよ」
 おいおいと泣き出してしまったガマンに、斗的は感情と一緒に吐き捨てた。男泣きするガマンの背中を、先程と同様優しく叩くカグラに、斗的は謝罪する。
「……うちのガマンが悪いな」
「何の。話し相手になって頂いていたのは、わらわの方なのだよ」
「あらあら、ガマンさんったらぁ。カグラちゃんがお話聞いてくれるから、溜め込んできたものが溢れちゃったのねぇ」
「うるさいわいっ」
 腕で涙を拭うガマンに、マイドはゆったり近付き、ガマンのオイルを支える。浮かべる笑顔は、まだどこか力無い。斗的は、心配そうにマイドの顔を覗き込んだ。
「マイド、大丈夫か?」
「ええ。いつまでも落ち込んでたら、みんなに笑われちゃうもの。ありがと、斗的ちゃん。ガマンさんの事は私に任せて、カグラちゃんとお話ししてらっしゃいな♪」
「ああ、頼んだ」
 マイドはガッツポーズをし、斗的とカグラを送り出す。どうやら、カグラに確認したい事があったのを察してくれたらしかった。小さく頷き、斗的はカグラを誘う。
「……ちょっと良いか?」
「うむ。……そうじゃ、此方までついて参れ」
 思いつくままに、カグラは奥の方へと歩き出す。仕方なく、斗的はその後を追った。
「こっちに何があるんだ……?」
「ふふっ、着いてからのお楽しみなのだよ」
 軽やかな笑い声を零すカグラに、斗的は怪訝な表情でついて行く。着いた先に、あったのは。
「わあ……!」
 一本の、大きな桜の木だった。まるで、夕日を受け止めようとしているかのように、その両翼は大きく広がっている。秋のため当然花弁を見る事は叶わなかったが、赤と橙で成すまだらな紅葉を、仕上げの夕焼けが一際鮮烈に秋で塗り潰していたのであった。
「綺麗じゃろ?」
 カグラは、愛し気に樹皮を撫でる。
「偶然か、はたまた導かれたのか……トマトが此処まで連れてきてくれたお陰で、見せる事が出来た。この桜は、わらわの自慢でな。どうしても、見て欲しかったのだよ」
「お前のねぇ……桜の妖精でもやってんのか?」
「いや、神だ」
「ああ、神の方……は?」
 冗談で言ったつもりなのに、とんでもない単語が横から返ってきたため、斗的は己の耳を疑う。カグラは、天気の話をしているような声色で続けた。
「此処は、御守神社の跡地でな。色々あって今は無くなってしもうたのだが、わらわはその神社に祀られていた道祖神なのだよ」
「この世のKBTは業でも背負ってんのか?」
「けーびーてー?」
「どっかの馬鹿と同じような言語認識機能持ちやがって……」
 かたや、『テラーク』という怪しげな団体から世界を救おうとしているKBT。かたや、この町の守り神らしいKBT。斗的は、何かしらの因果を感じずにはいられないのであった。突然の告白に、呆気にとられはしたものの。
「……秋の桜も、乙なもんだな」
「そうじゃろう、そうじゃろう」
 やはり、紅に染まる桜は見事なものだった。斗的の綻んだ顔に、カグラもつられるように笑って、二人で大木に寄り添うように座る。サァ……と風で擦れる紅葉の音が、心地良かった。桜を見上げながら、斗的は口を開く。
「こんだけ立派なら、一番の自慢ってのも納得がいく」
「……いいや」
 カグラは、やんわりと首を振って否定する。
「わらわの一等の自慢は、この町の子らや孫達なのだよ」
 ふ、と斗的は息をつきながら笑った。
「……そういう事か」
「ん?」
 首を傾げるカグラに、斗的は目を向ける。
「お前と、……村崎醤を見て、『メダロットとマスター』じゃ、どうにもしっくり来ないと思った。お前ら、じじ孫だったんだな」
「如何にも」
 斗的から指摘され、カグラは嬉しそうに頷く。斗的は小さく肩を竦めて、言葉を続けた。
「もしかして、オレ達のことも孫だなんだって思ってんのか?」
「うむ」
「ふはっ、早ぇ。それに、昼間お前を追い掛け回したヤツのメダロッターだぞ?」
「そもそもが、此方の勘違いだったからなぁ。最初から怒る理由がなかった上に、謝ってくれたではないか」
「……お前のマスターは、別の意味で大変そうだ」
 最初から気が短いのも当然あるのだろうが、きっと、醤はカグラの分まで腹を立てていたのだろう、と斗的の思考は行き着いた。単純なようで、複雑だ。無精な自分には、到底できない。だからこそ、普段はなかなか言い出せないが、甲斐甲斐しく自分の世話を焼いてくれる家族達に感謝をしている。羨ましいとは決して思わないが、悪くはないであろう醤とカグラの相性に苦笑した。
「まあ、オレみたいなのより、アイツみたいな孫の方がじいちゃんのし甲斐はあるかもな」
「誰とも比べるつもりは無いが、ショウは良い子なのだよ。それは、トマトも同じ話だ」
「え?」
 いきなり『良い子だ』と褒められても、何をどうして結論がそうなったのかはわからず、斗的は聞き返す。カグラは、僅かに目を細めた。
「ガマン殿や、マイド嬢への心遣いは無論の事。鬼ごっこの一件は、あの場面であればトマトは無関係を装う事が出来たはずじゃ。なのに、わざわざ公の場に立ち、一緒に謝罪した。良い子でないと出来んよ」
 そう言って頭を撫でるカグラに対し、斗的は静かに目を見開く。すぐに目を伏せて、斗的は反論した。
「……買い被り過ぎだよ、一番被害が少ない方法選んだだけだ」
「そうかえ? 放っておくのが、一番少なかったのではないか? 『トマトだけ』の被害を考えれば、な?」
「……喰えないじいさんだ」
「はっはっは。残念ながら、今はババアだ」
 バツが悪そうに顔を顰める斗的とは対照的に、カグラはかんらかんらと笑う。明るく言ってのけるカグラに、斗的は膝を抱えながら尋ねた。
「なぁ、」
「うん?」
「お前は、嫌じゃねーのかよ? 男でいる事の方が多いんだろ?」
「ああ」
 合点がいった、とばかりに、カグラは手鼓を打つ。そして、顎に手を当てて口を開いた。
「ふむ……わらわも詳しくは存ぜぬのだが、わらわ達絡繰りというのは本来性別を持たぬからなぁ。普段入っている機体の性別に偏りはするのだろうが、そこまで違和感は無いぞ。ショウと合流できれば、すぐ戻れるしな」
「ああ、そうなんだよな……性別変わって困んのは人間だけかよ」
 言うや否や、斗的の表情はどんより曇る。突然暗くなった斗的の顔を、カグラは心配そうに覗き込んだ。
「如何かしたかえ?」
「どうも何も、喋っててわかんねぇか?」
「うむ?」
 斗的の意図がわからず、カグラは首を傾げる。斗的は溜め息をつくと、覚悟を決めたように胸に手を当てた。
「オレ、男なんだよ」
 カグラは、目を丸くしたまま首を更に傾ける。吹き抜ける風が冷たいのは、秋の所為だけだろうか。姿勢を正すと一度瞬きし、カグラは尋ねた。
「……トマトは、絡繰りだったのかえ?」
「だったら、とうに男に戻っとるわ」
 メダロットだったら、どんなに良かっただろうか。だが悲しい哉、人間なのである。まじまじと見るカグラの質問は続いた。
「おなごにしか見えんがなぁ……?」
「はははは、そうだろうよ。体は女、心は男だからな。馬鹿フォレスの所為で女になってからというもの、この短期間で、蜜柑のセクハラ・ロボロボ団の覗き・催眠術による黒歴史と何回も地獄見てんだよ」
「セレクト隊に相談した方が良いのではないか?」
「したよ!! しようとしたよ!! なのに、勝手に条件つけられて約束チャラになったんだよあんのクソ野郎オオオオオオオオッ!?」
「うわっ、吃驚した」
 当時の記憶を思い出したのか、斗的はそこら中に咆哮を響かせる。怒り狂うその姿は、まさに毛を逆立たせた猫そのもの。あまりにも興奮している斗的を鎮めようと、カグラは声を掛けた。
「案ずるな、トマトや」
「フーッ、フーッ……んだよ?」
 じろりと睨みつけられても、カグラは拳を握り、臆さず言葉を続ける。
「『後天性だろうと、一生男に戻らない保証付きなら頑張れる気がする』、とジー坊が言っておったぞ」
「慰めてるつもりか!? 『追い打ち』って言うんだよそれは!! お前絶対昼間の事怒ってんだろ!!」
「怒っとるのはトマトではないか」
 あっさりと言い返され、斗的は声にならない叫びと共に頭を抱えた。大体、『ジー坊』って誰だ。誰かは知らないが、絶対に許さない。斗的は、決意を固める。
「……そうだ」
 男に戻るまでは、尚且つ身の安全が確保されるまでは、嫌でもフォレスと一緒にいるしかない。そうだ、自分達にはそれぐらいが丁度良い。それに、セレクト隊の、あの人を。
「何が何でも、助けたい」
「……トマト?」
 突然斗的に両肩を掴まれ、カグラは見上げる形となった。斗的は、薄ら笑いする。
「メダルが入れ替わったのは、不幸中の幸いだ。何せ、余所者のオレ達には『あの場所』がどこだかわかんねぇし、それ以前に地理にも疎い」
 一刻も早く、助けたい。人質だからといって完全に安全が保障されている訳ではないだろうし、何より、どこぞの誰とも知らぬ奴の元に彼女がいると思うと、虫唾が走る。
 だが、カグラがいるのであれば話は別だ。蜜柑も、そのつもりでティンペットを買ってきたのだろう……例え、悪意が限りなく百パーセントに近くても。
「フォレスとお前を元に戻すから、村崎醤と通信しろ。そんで、『あの場所』まで案内してもらおうか」
 何を考えているのかわからない双対の丸い光に、斗的の真剣な表情が映る。二度瞬きした後、カグラはぽつりと返答した。
「……心得た」
 包み込むように顔の横に手を当て、カグラはすぐにまた微笑む。
「とは言っても、『あの場所』が何処なのかはわらわも見当がつかぬからな。その旨も、ショウに聞いてみるとしよう」
 カグラは、目を閉じた。そして、ゆったりと呼び掛ける。
「……ショウ。ショウや、聞こえるかえ? ……ああ、此処にいる者は皆優しいからな。……そのままの意味なのだよ。……気の所為ではないかえ? ……すまない、そうであったな。今は、御守神社の跡地におるぞ。……助かった。ショウには、『あの場所』がわかるのだな? ……うむ、うむ、うむ……」
 会話の内容から、やはり醤には『あの場所』がわかっているらしい。斗的は、ひっそりと安堵の息をつく。相槌を打っていたカグラであったが、目を開いた。
「よもや、機材が多い、あの大通りか?」
 一見、普通なように見えて、カグラは複雑そうな表情を浮かべているように、斗的は感じた。平常心を保っているようで、目の縁が僅かに揺れている。しかし、それも束の間。カグラは、首を傾げた。
「如何したかえ? ……はっはっはっはっ、二人らしいのぉ」
 かと思いきや、唐突に笑い出す。斗的が訝し気に様子を窺っていると、カグラは頷いた。
「此方も、トマトが今か今かと痺れを切らしそうなのだよ。わらわ達も向かうとしよう」
 カグラは、顔から手を放して立った。斗的も、つられるように立ち上がる。桜を見上げたまま、カグラは話し掛けた。
「……トマトや、場所がわかったぞ」
 振り向いたカグラは、先程までと一緒で、温和な笑顔を浮かべていた。
「町外れの、港に面した廃工場なのだよ」

( No.6 )
日時: 2020/06/14 22:36
名前: 海月

『……う……っここは、どこだ……?』
 フォレスは、ぼんやりと意識を取り戻した。思えば、デスリッパー目掛けてミサイルを撃った直後、自分もミサイルを被弾してからの記憶が無い。恐らく、そのまま機能停止してしまったのだろうと、フォレスは己の力量不足を恥じた。誘拐犯は、捕まったのだろうか。一期は、無傷のまま救出されたのだろうか。皆は……斗的は、無事なのだろうか。
 そういえば、意識があるにも関わらず、辺りが真っ暗で何も見えない。もしかすると、頭部にミサイルを喰らった衝撃で、視覚センサーに異常をきたしているのかもしれない、とフォレスは焦燥感に駆られる。どうしたものかと考えていると、見知らぬ声が降ってきた。
「…………あ、起きた?」
 酷く不機嫌な声色に、フォレスは身構える。そこで気付いたが、身動きすら取れない。もしや、神経回路が全て駄目になってしまったのだろうか、と不安が募る。その思いを打ち消すべく、フォレスは気丈に振舞った。
『貴様は何者だ?』
「失礼なカブトメダル。おじいちゃんとは、大違い。『名乗る時は自分から』って、習わなかったの?」
『ぐっ……!』
 フォレスは、ぐぅの音も出なかった。確かに、これでは騎士道精神に反する。どこでテラークが目を光らせているかわからないため、不用意に名前を出したくないのだが、フォレスは自身の感情より状況把握を優先させ、名乗る事にした。
『……私の名は、『フォレス』。貴様は……名乗らなくても良いから、敵か味方だけでも教えてくれ』
 フォレスが申し出ると、溜め息が聞こえた。消えてしまいそうな程透き通る声の持ち主は、椅子を軋ませた後、口を開く。
「……ワタシの名前は、波花梓音。ココは、御守町のメダロット研究所。お前は今、メダルのままボトルの中にいるの」
『『ボトル』……!?』
 ひとまず、自分が町の研究所にいる事に、フォレスは安心した。メダルのままであれば、身体機能が働かないのも納得がいく。しかし、メダルというのは、機体かメダロッチに入れないと意思疎通が出来ない。何故それが可能なのか、というフォレスの疑問を察したのか、梓音は説明を続けた。
「そう。理由は知らないけど、お前は普通のティンペットには入らないみたいだしね。会話するために、研究所で独自開発してる薬液とボトルを引っ張り出してきたのよ。お前を漬けてるそのセットは、特殊なモノでね。メダルの意思を薬液がシグナル化して、ボトルに電気伝導させるの。受信したシグナルをボトルが翻訳して、外へ発信する、って仕組み」
『シ、シグ……?』
「疑問に答えてるだけだから、理解しなくても良い。それから……」
 不意に、フォレスは振動を感じた。新たに質問する前に、梓音はそのまま言葉を続けた。
「ワタシは、お前の『敵』よ」
『え』
 衝撃的な告白に、フォレスは短い言葉しか出なかった。ついさっきより、大きな『揺れ』を感じる。
「よくも、おじいちゃんを公衆の面前で性犯罪者扱いした挙句、乱射しながら追い掛け回してくれたわね……?」
 大いに怒気を含んだその声に、フォレスは昼間の一件だという事をすぐに理解した。フォレスの返答を待たずに、梓音は責め立てる。
「しかも、教室で展示やってたワタシの耳にも届くぐらい派手に。ワタシが駆けつけた時にはもう終わってたから、とっても悔しかったのよ……ふふっ、ふふふふ……」
『へ……っ!?』
 ふわり、と浮く感覚は、一瞬だった。
「まさかっ、犯人の方からっ、転がり込んでくるなんてっ……!」
『ぬぅわぁあぁあああああっ!?』
 梓音がボトルを両手で激しく振とうした途端、体が大きく上下に大きく揺さぶられる感覚に、フォレスは堪らず声を上げた。乱暴にボトルを置き、梓音は息を切らせる。
「はっ、はっ……ビックリした? この薬液は、外部からの振動をメダルに伝達するの。ホントは、すぐにでもメダルをかち割ってやりたいんだけど……おじいちゃんが、人質にとられてるからね。おじいちゃんのメダルが割られたら堪ったもんじゃないから、コレで勘弁してあげる。まぁ、おじいちゃんが割られたら、全員ピーすだけだけど」
 梓音が何やら物騒な事を言っているが、フォレスは尚も頭が揺れるような感覚に襲われ、それどころではない。人差し指でボトルを軽く傾けながら、梓音は目を伏せ。
「……こんなのと、」
 後方で椅子の背もたれを抱え込むように座り、頭を垂れて落ち込んでいる醤を、じとりと睨みつけた。
「おじいちゃんを間違うなんて、信じらんない。何でまだ生きてんの?」
「まあまあ、波花さん。村崎も、それで凹んでるみたいだし」
 軽蔑の目を醤に向ける梓音を宥めるよう、翠は声を掛けた。しかし、梓音はそれに止まらずに問い詰める。
「ねぇ、今どんな気持ち? 今から死んで詫びようとでも思ってんの、ねぇ? 死んでも止めないけど、その前におじいちゃん連れ戻してきなさいよ」
「いつも以上に容赦ねぇな」
 反論が無いのを良い事に言葉を並べ立てる梓音に、甘太は部外者目線で感想を述べる。醤は僅かに頭を上げ、掠れた声で呟いた。
「……向こうに……波花みたいなヤツが、いたらどうしよ……?」
「トレパネーションされたいの?」
「「まあまあまあまあ」」
 両手にプラスドライバーを構える梓音を醤から遮るように、甘太と翠は腕を出して制した。翠は、頬を掻きながら口を開く。
「大丈夫だよ、二人共。向こうだって、いきなりカグラを傷つけるような事はしないだろうし」
「『死んだ方がマシ』って目には合わされてるかもな」
「昼間はああなっちゃったけど、そんなに暴力的な人はいなかったろ?」
「わからんぞ? あの眼鏡の女は、頭のネジ全部吹っ飛んでる感じだったし」
「お前は本当にどっちの味方だ?」
 ことごとくフォローを打ち消す隣の甘太に、翠は乾いた声で尋ねるが、当然ながら返事は無かった。溜め息をついた後、翠はフォレスに優しく語り掛ける。
「だから、フォレスも安心しなよ。言う程、みんなもう昼間の事は気にしてないしさ。な、ジー?」
「コワイ!! マッカッカナカブトムシコワイ!! タスケテ!!」
「メダル相手にビビり過ぎだろ」
 物陰に隠れ、金切り声を上げるジーに、甘太は呆れる。ハリップは、震えるジーの肩に手を置いた。
「ジー! 男の子がいつまでも泣いてちゃダメだよ! 元気出して!!」
「何も知らないって幸せっすね!?」
 ジーは、自分と違い、フォレスに追い掛けられた記憶が丸々無いハリップを涙目で羨んだ。ハリップを指差し、甘太は翠に問う。
「あれ、いつの間にかハリップ復活したん?」
「ああ。誘拐騒ぎの時に、本物のリボンに会えたらしいよ」
「この騒ぎで唯一得したのか、持ってるな」
 ハリップの強運を甘太が感心していると、室内にか細い声が響いた。
『……本当に、申し訳ない』
 全員の目がボトルに集まり、思わず醤も顔を上げる。フォレスは、噛み締めるように言葉を続けた。
『自分の勘違いで、こんなにも大勢の者達を傷つける事になろうとは、思ってもみなかった。『頭に血が上っていた』なんて、言い訳にもならない。これでは……私のやりたかった事と、全く逆だ』
 フォレスは、自嘲気味に笑った。醤は、そんなフォレスの様子に目を細める。
『甘んじて、罰は受けよう。そうでなければ、私の気が済まない。……が、生死や傷害、犯罪の類は勘弁してくれ。私には……まだ、やらねばいけない使命がある』
「……そう」
 頬杖をついて聞いていた梓音は、ボトルから目を逸らした。
「じゃあ……お望み通り、ボトルを水族館のイルカにでも括りつけようかしら……村崎?」
 梓音は、おもむろに立ち上がった醤の名を呼ぶ。醤は無言でボトルに歩み寄ると、手に取り、そのまま持ち去っていった。
「……波花、コイツ借りてくぞ」
「……ハイハイ」
 溜め息交じりの台詞の後、フォレスは、自分の体が揺れているように感じる。まるで、海に漂っているようで、少しだけ心地が良い。暫くすると、扉の開閉音がフォレスの聴覚に届いた。
「うっわ、寒ィ~……」
 文句を言いながらも、醤に戻る気配はない。言葉の内容から、醤が外に出た事をフォレスは悟った。フォレスは、努めて冷静に尋ねる。
『……私を、どうする気だ。まさか、本当に水族館のイルカに括りつけるつもりか……?』
 そうなれば、先程の振動等比ではないだろう。しかし、自ら罰を欲したのだ。そうなったらなったで受け入れようと、フォレスは覚悟を決める。上から、溜め息が降ってきた。
「生憎、こんなド田舎にそんなハイカラな建物無ぇよ」
『それでは……川魚か?』
「バーカ、それだとお前が戻ってこれねぇだろうが。んな事になってみろ、もれなくウチのジジイも放流されるわ」
『……『馬鹿』って言った方が馬鹿なんだぞ』
「小学生かテメエは。……けど、調子戻ってきたじゃねぇか」
 ハッとなったフォレスは醤の顔を見ようとしたが、メダルのためそれは叶わない。どうやら、醤なりに元気づけようとしてくれていたらしい。本当に、わかりにくいが、本当に。
『……怒っていないのか?』
「……『肝試し』ってよぉ」
『は?』
「だから、『肝試し』」
 急に脈絡のない話が始まったため、フォレスは困惑する。有無を言わさぬ口調にフォレスが沈黙すると、醤は言葉を続けた。
「自分よりめっちゃビビってるヤツがいたら、怖くなくなんだろ?」
『そ、そういうものなのか?』
「そーゆーモンだよ。それと一緒で、オレよりブチギレたヤツ見てたらどうでも良くなった」
『……そうか』
 先程激しく振とうされた事を思い出し、メダルの姿にも関わらず、フォレスは胸の辺りがモヤモヤするように感じた。醤は一文字に口を結んだ後、再び口を開く。
「……悪かったな」
『何の話だ?』
 突然謝罪をされても、フォレスには意図がわからない。醤はバツが悪そうに小さく舌打ちした後、苦々しく答えた。
「だから……コッチのいざこざに、巻き込んじまって。不本意極まりねぇが、あの誘拐犯……タバスコは、元々オレやカグラに絡んでくるヤツなんだ。お前らはただ遊びに来ただけなのに、結果として応戦させちまったし、メダル入れ替わっちまうし、お前だって……オレが研究所に持ち込んだばっかりに、フリピーリピーェイクされちまうし」
『何だ、『フリピーリピーェイク』って』
「もう佐藤商店ぐらいしか取り扱ってないであろう、幻の飲料だ」
『そうなのか』
 遠くを見ながら言う醤に、フォレスは相槌を打つ。その後、ふ、と笑い声を零した。
『そんな事を気にしていたのか』
「そっ、『そんな事』だぁ!?」
 自分が結構気にして謝った一件をぞんざいに扱われたように感じ、醤は憤るまま声を荒げた。なおも笑いながら、フォレスは言葉を続けた。
『いや、すまない。私としては、当たり前の事をしたつもりだったんだ。目の前で困っている者を助ける気概がなくては、世界など到底救えないさ』
 太陽に向かって、堂々と咲く花のように。凛とした声で告げるフォレスに、在りし日のカグラが重なった。醤は呆けた後、息をつく。
「KBTっつーのは、どうしてこう……」
『けーびーてー?』
「誰でも良いから、カブトメダルの言語認識機能何とかしてくれ……」
 もの凄いデジャヴを感じた醤からは、乾いた笑いしか出てこない。
「『世界』なんて、これまた大きく出たな……」
『大も小も無い、事実だからな』
「へ?」
 素っ頓狂な声で、聞き返す醤。フォレスは、サラリと言ってのけた。
『私は、人類を滅ぼさんとする組織『テラーク』を壊滅させる使命を負っているんだ』
「何て?」
 確認した所で、理解が追いつかなかった。『もしかして、このメダロットは厨二病でも発症しているのだろうか』と、醤は不安に駆られる。しかし、客観的に考えると、どっかの道祖神様と行動を共にする自分も、大概どっこいどっこいだ。それに、フォレスが特別なメダルであるならば、普通のティンペットやメダロッチに装着できないのも説明がつく。醤は、フォレスの話をやむなく信じる事にした。
「その『テラーク』っつーのは、何か? 『アルマゲドン』だの『ノアの箱舟』だのと一緒の類か?」
『……自分で言うのも何だが、テラークの話をこうもすんなり受け入れられたのは初めてだ。お前の思考回路は正常か?』
「頭の病院行く時はテメエも一緒だよ」
 暗に頭の心配をされてしまった醤は、心外だと言わんばかりに吐き捨てる。フォレスはフォレスで、心配したにも関わらず怒られ、やや釈然としないまま説明した。
『……テラークというのは、異常進化を遂げた野良メダロット集団だ。その筆頭が、先日封印から目覚めてな……この手で、再び封印しなければいけない』
 フォレスは、心の中で拳を握り締める。
『二度と、繰り返してはいけない。……いや、そんな半端な覚悟では駄目だ。二度と、繰り返させない。私が、この手で必ず……!』
「……大丈夫だろ」
 突然飛んできた呑気な声に、今度はフォレスが言葉を失った。何て無責任な、と出掛かった所で、口を止める。こちらの感情を、押し付けてはいけない。醤は、『幸いにも』、テラークと接触した事がない。だから、テラークの恐ろしさを実感できないのだ。それ自体は、何と素晴らしい事だろう。フォレスは、今までの醤の無事を感謝した後、困ったように笑った。
『……簡単に、言ってくれるな』
「前に、ちゃんと封印できたんだろ? だったら、大丈夫なんじゃねーの?」
 ああ、そういう事か、とフォレスは理解し、反論する。
『そうは言っても、当時と今では状況が違う。テラークには、別に協力組織がいるんだ……』
「お前だって、鷹栖がいるじゃねぇか」
 フォレスの雁字搦めの心がほんのり軽くなり、色鮮やかに染まる。鷹栖斗的。自分が無事なら他人を顧みない利己的主義者で、外見に反して粗暴で、面倒くさがりで、天邪鬼で……その天邪鬼に、何度助けられた事か。もしも、斗的が戦いの果てまで隣にいてくれたならば。
『……一騎当千、か』
 フォレスは、穏やかな声色で呟いた。
「あ? 何か言ったか?」
『いや、何でもない』
「絶対何か言っただろ」
『絶対何も言ってない』
「お前なぁ……」
 頑固なフォレスに、醤は苦笑した。性格が災いし、『斗的を頼りにしている』と口に出す訳にはいかず、フォレスは平然を装う。
『奴とは、単に利害が一致しているだけだ。それ以上でも、それ以下でもない』
「ハイハイ、可愛くねーの」
『可愛げで世界が救えるならば、マイド殿に頼んで全力で可愛くなろう』
「おー、楽しみにしてるわ」
憎まれ口を叩く割に、フォレスはどこか機嫌が良さそうだ。醤がひっそり微笑ましく思った直後、手元から声が聞こえてきた。
『ショウ。ショウや、聞こえるかえ?』
「カグラ!!」
『カグラ殿か!?』
 メダロッチから優しく呼び掛ける声の主の名を、醤は目を見開いて呼ぶ。フォレスが聞こえてきた名前を復唱すると、醤は慌てて安否を確認した。
「怪我はっ……お前、どこにいんだよ!?」
『ああ、此処にいる者は皆優しいからな』
「んだそれ、当てつけかコラ」
『そのままの意味なのだよ』
 相変わらずの調子だが、とりあえず元気そうで醤達は胸を撫で下ろす。安心した途端、妙に気になったのが。
「……お前、何か声高くね?」
『気の所為ではないかえ?』
 気の所為ではなく、やはりカグラの声が高いように感じる。高いというよりは、まるで。
「いや、何か……まぁ良いか。それで? 結局、今はどこにいるんだ?」
 醤は疑問を頭の隅に押し込み、優先事項を確認した。カグラも言われて先刻の質問を思い出したようで、すぐに謝罪する。
『すまない、そうであったな。今は、御守神社の跡地におるぞ』
「……そんなトコにいたのかよ。だけど、そっからの方が近いな」
『助かった。ショウには、『あの場所』がわかるのだな?』
「ええー、お前わかんなかったのかよ……」
 『あの場所』を理解した上で斗的一行を誘導したと思いきや、わかっていなかったカグラに、醤は落胆の声を漏らす。その落胆には、もう一つ理由があった。
「タバスコが、あんな自信たっぷりにぼかしたんだ。消去法で考えると……まず、御守神社はお前らがいるから違うだろ?」
『うむ』
「学校も、今回はセレクト隊だの何だのがうじゃうじゃいるからノーだ」
『うむ』
「メダロット研究所は……あのチキンな性格から考えて、一番無い。道路も往来があって、目立つしな」
『うむ』
 何より、研究所であれば、とっくに現地の醤達と出くわしている。今までタバスコが出没した場所を一通り言い終えると、醤は僅かに目を伏せた。
「と、なると残りは……」
 もう、『あの場所』しか残っていなかった。
『よもや、機材が多い、あの大通りか?』
 そう。初めてタバスコと対峙し、カグラと組んでロボトルした、町外れの大通りだった。醤にとっては、昨日の事のように思い出される記憶だ。しかし、カグラの方は醤程ではないらしく、平坦とした声が返ってきた。その事実を少しだけ残念に思いながら、醤は説明を続ける。
「そういうこった。更に奥に進むと、港に面した廃工場がある。タバスコと一期ちゃんがいるのは、そこに違いねぇ」
「その廃工場にジジ様がいらっしゃるんですね!?」
「うぉあ!?」
 場所を聞くや否や飛び出してきた、梓音の愛機であるクリムゾンナース・マリアに、醤は驚愕の声を上げる。赤い十字がプリントされたナースキャップに、ぶら下がる二つのお団子ヘア。前丈が短いエプロンを赤いロングスカートがぐるりと囲み、それらを後ろのリボンがひとまとめにしている。何より特徴的なのは、右側に浮かぶカプセルと、左手に担がれた身の丈以上の注射器だ。醤は、マリアの言葉を訂正する。
「違ぇよ!! まだ約束まで時間あり過ぎ……!」
「待っててくださいジジ様あああああああ!!」
「聞いた以上聞けやアアアアアアア!?」
 一目散に駆けていったマリアに怒号を浴びせるも、勿論戻ってはこなかった。間髪入れず、後ろからハリップも飛び出す。
「約束を待つなんて、時間の無駄! 場所がわかってる以上、先手必勝だよっ!」
「何でオレの周りはヒトの話聞かねーヤツばっかなんだよ!?」
 気分上々に、ハリップもマリアの後を追い、猛スピードで行ってしまった。研究所からは、次々とメダロッターも顔を出す。
「村崎、ハリップがせっかちで悪いなぁ」
「実はお前ら隠れて話聞いてただろ!? いつからいたんだよ!?」
「『もれなくウチのジジイも放流されるわ』の辺りから。鮭乙www」
「割と最初からじゃねーか!? ざけんな!!」
『醤殿、落ち着け。仲間割れをしている場合か』
 気恥ずかしさのあまり、醤は赤面しながら翠や甘太に怒鳴りつける。フォレスが宥めていると、メダロッチの向こうからはのんびりとした声が響いてきた。
『如何したかえ?』
「マリアとハリップが飛び出して行っちまったんだよ!!」
『はっはっはっはっ、二人らしいのぉ』
「笑ってる場合か!!」
 醤は聞こえてきた笑い声に一喝すると、振り返って呼び掛ける。
「おい!! 時間は早いけど、オレ達も出るぞ!!」
「りょーかい」
「大丈夫だって、すぐ追いつくよ」
「「尾根君はね?」」
 軽くアップをする翠に対し、醤と甘太の声が重なる。カグラは、メダロッチから間延びした声で言った。
『此方も、トマトが今か今かと痺れを切らしそうなのだよ。わらわ達も向かうとしよう』
「『わらわ』!? 今、『わらわ』って言ったか!? テメエ、今どうなって……だあああっ!! 切りやがったなクソジジイ!!」
 強制的に通信を遮断したカグラに、醤は声を荒げる。耳に入ってきた情報が信じられないのか、梓音も茫然としていた。
「『わらわ』? 『わらわ』って何……? ワタシのおじいちゃんに、何しやがったのアイツら……?」
「殺意募らせてる場合じゃねーぞ波花!!」
 ブツブツと呟く梓音、そしてフォレスに醤は声を掛ける。
「港沿いの廃工場だ!! そこで、何もかもケリを着ける!!」
『心得た!』

( No.7 )
日時: 2020/06/14 22:37
名前: 海月

「ビッッ!?」
 港とは反対側の、鎖界(サカイ)町方面から御守町に侵入しようとした、とある五人組。先頭を歩いていた少女は、『何か』に思いきり額をぶつけ、両手で押さえながら蹲った。心配そうに、残りの四人は顔を覗き込む。
「林檎様ッ!?」
「林檎様、大丈夫ですロボかッ!?」
 金魚鉢を逆さまにしたようなヘルメットの者達が声を掛ける中、少女はゆらりと立ち上がる。ツインドリルの赤い髪につけた、金色の双角のカチューシャ。顔には、サングラス。そして、ファーコートの裾からは、漆黒のドレスが見え隠れしている。
 悪戯から世界征服まで何でも御座れの、悪の組織『ロボロボ団』。その幹部が一人・青森林檎(アオモリリンゴ)は、涙目で正面を睨みつけた。
「何……っなんですの!? 鷹栖斗的がいると聞いて、こんなド田舎まではるばるやって来ましたのに!!」
「電車で十時間も掛かったロボー」
「お尻痛いロボー」
「しかも、経費で落ちないロボ……」
 ロボロボ団の懐事情は、悲しい哉厳しかった。林檎は腕を組み、忌々し気に指で肘を叩く。
「ここで文句を言っていても、埒が明きませんわ! とりあえず、御守町へ侵入しますわよ!」
「了解ロボ!」
「それにしても、何がぶつかって来たんですロボかねぇ……?」
「今は考えても仕方ありませんわ……!」
 コツン。林檎が足を進めようとした途端、今度はブーツのつま先が当たって目を見開く。そして、瞬時に理解し、林檎は正面へ手を触れた。
「!?」
「林檎様!?」
「いきなりパントマイムなんて始めて、どうしましたロボか!?」
「……違いますわ……!」
 前へと手をついたまま、林檎は呟く。『何か』が、林檎にぶつかって来たのではない。
「何ですの、この『壁』は……!?」
 ぶつかったのは、林檎の方だった。林檎の言葉を受け、他のロボロボ団員達もそっと触れる。
「壁ロボか!?」
「あっ、本当ロボ!! 全然見えないけど、壁があるロボよ!!」
 目には見えないが、確かにそびえ立つ壁に次々と衝撃の声が上がる。その壁は、いくらロボロボ団員達が押しても引いても、びくともしない。正体不明の壁に、林檎は奥歯をかみしめた後、手を振りかざした。
「十号は右回り、三十一号は左回りに、別のルートが無いか探してきなさい!!」
「「了解ロボ!」」
「残りの二名は、私と共に壁の破壊を試みますわよ!! メダロット、転そ……!」
「無駄だ」
 指令を遮った低い声に、林檎は振り返る。
「あのジジイも、たまには役に立っとるではないか」
「何者ですの!?」
 低い声と共に機械音を響かせる存在に向かって、林檎はメダロッチを構えたまま問い掛ける。すると、闇の中から、白い影が現れた。
「何。通りすがりの……色男だ」
 両肩を竦めながら歩いてきたのは、一見何の変哲もない、ヘッドシザーズだった。その斜め後ろでは、少女が恥ずかしそうに佇んでいる。とんでもなく痛々しい登場をしでかしたメダロットに、林檎の目は点になった。
「……何を仰ってますの?」
「やれやれ。今宵は月が綺麗だったから、折角隣町までミソノとデートをしに行っていたというのに、その余韻をぶち壊されるとはな」
「話を聞いてまして?」
 聞いてもいない事を喋り立てるヘッドシザーズに、林檎は開いた口が塞がらない。後ろにいた少女・泡瀬美園(アワセミソノ)は、メダロットの両肩を掴んで止める。
「シンラ、駄目じゃない! 初対面の人に、失礼な事言っちゃ! 不躾な事を言って、すみませんでした!」
「いえ、お気になさらず……?」
 どうやら、美園の方はまともな人格らしい。展開について行けず、林檎の口からは差し障りのない言葉しか出てこなかった。両肩に置かれた手を握り返しながら、『シンラ』と呼ばれたヘッドシザーズは、振り向いて囁く。
「ミソノ、何も謝る事は無いぞ」
「え?」
 シンラは、言葉を続けた。
「今しがたアイツらがぶつかった壁は、道祖神の結界でな。御守町を、巨大な球体が丸々包み込んでいるんだ」
「でも、私達は普通に行き来できるよ?」
 美園は、感じたままに疑問を尋ねる。僅かに目を伏せ、シンラは語る。
「……道祖神は、町を脅かす者共の侵入を防ぐべく祀られた、障(えさ)の神」
 シンラは、ゆっくりと目線のみを林檎達へと向けた。
「結界で善人と悪党を篩いにかける等、造作もない事だ」
 まさかの、展開だった。見事『悪党』認定され、林檎の表情は険しくなる。つたう汗をぬぐい、勢いよく指を差すと、シンラを問い質した。
「この壁は、貴方の仕業ですの!?」
「いいや?」
 シンラはチャンバラソードを構え、余裕綽々で答えた。
「本物の神様の仕業だ」

( No.8 )
日時: 2020/06/14 22:39
名前: 海月

「ふははははは!! 恐怖で声も出ないか、天道一期よ!! 国民的アイドルも形無しだな!?」
 港沿いの、廃工場にて。
タバスコは、一期を前に、腰に手を当てて仁王立ちで高笑いしていた。勢いで、背中が海老反っている始末だ。
「ハロウィンで浮かれていた所申し訳ないが、お前には一千万に化けてもらう!! ガイロットに締め落とされたくなければ、逃亡なんてバカな考えは捨てる事だ!! ぬゎ~っはっはっは!!」
「あ、あのぅ……」
「何だ!?」
 困惑した表情の一期に、タバスコは聞き返す。一期は、両手首に嵌められた手錠の鎖を鳴らしながら、恐る恐る尋ねた。
「これは一体、どういう事なんでしょうか……?」
 そう。一期の、現状は。
両手首は、ハンカチの上から手錠を嵌められ、しかもその手錠は羽で覆われた代物。肩と膝には温かそうなブランケットが掛けられ、ウエストのみガイロットのリボンに繋がれた状態で座らせられていた。目の前の敷物の上には、多種類のスナック菓子やペットボトル飲料、そして、恋愛漫画や恋愛小説、更には恋愛ドラマのDVDや視聴用のノートパソコンが並べられている。至れり尽くせりな扱いに、一期は却って混乱していた。
タバスコは、鼻を鳴らして返答する。
「フン! アイドル様は、庶民の日用品も知らんのか!」
「いえっ、そうではなく……!」
「ったく、世話の焼ける……!」
 文句を言いながら、タバスコは段ボールを漁り、新しいブランケットを数枚取り出す。それらを一期の横に敷くと、『そこに座れ』と言わんばかりにブランケットを指差し、背を向けた。
「寒かったんならそう言え!」
「待ってください!」
「さっきから何だ!? アイドルというのは、どうしてこうワガママなのか……DVDは魔法少女アニメの方が良いのか!?」
「違います!」
「……アレ、っかしいな……?」
 何をしても否定されてしまうタバスコは、不安げな表情で首を傾げ、『はじめての犯罪入門―誘拐編―』という本を懸命に捲り始めた。口を尖らせて夢中になる様が、この場の緊張感を皆殺しにしている。一期は、聞こえないようにひっそりと息をつき、話し掛けた。
「……誘拐犯さんは、」
「『タバスコ様』」
「……タ、タバスコ様は、」
「おう」
 強要されるがままに一期は呼び、タバスコは頷く。一期は尋ねた。
「どうして、私に親切にしてくださるんですか……?」
「『親切』だと!? ハッ! 『アイドルの脳みそはお花畑』というのは、どうやら本当らしいな(※タバスコ個人の意見です)!? そう言っていられるのも、今の内だぞ……!?」
 ニタァ、と厭らしい笑みを浮かべるタバスコに、一期は自分の体を抱き締めて震える。再び腕を組み、タバスコは目を見開きながら言い放った。
「約束の刻限・七時にもなれば、飲食物・娯楽類・ブランケットは全回収!! 手錠も鉄製の物に変え、ハンカチなんぞ抜き取ってやるんだからな!? 限られた時間を、精々有意義に過ごす事だ!!」
「あ、ありがとうございます……」
 『それが誘拐犯本来の姿です』とは、一期は口が裂けても言えなかった。一期は暫く黙って俯いていたが、意を決して顔を上げる。
「……タバスコ様」
「何だ?」
「タバスコ様は……テクノポリスは、一体どんな組織なんですか?」
「フフン! 知りたいか!」
 タバスコはゴーグルを掛け直し、得意気に手を振りかざす。
「秘密結社・テクノポリスとはッ!! メダロットを以て軍事国家を形成し! メダロットを玩具なんぞではなく、本来の兵器の姿へと戻す……謂わば『解放』行為を担う! 地球規模の発展と、人類の進歩の為、必要不可欠な組織だ!!」
 言い切ったタバスコは、一期を見遣る。恐れる様子も無く、驚く様子も無く、一期の透き通るような瞳には、ただタバスコが映り込むばかりだ。タバスコは拍子抜けし、誤魔化すようにまたゴーグルを掛け直した。
「……組織が力を得るには、それなりの軍資金が必要でな。悪いが、協力してもらうぞ」
「……おかしいと思いませんか?」
「ん?」
 ぽつり、と零された言葉に、タバスコは首を傾げる。一期は、目に強い光を宿し、タバスコを見上げた。
「タバスコ様ならご存じだと思いますが、今やメダロットは、世界中で誰もが持っています。もちろん、私も持っています。現段階では、軍事的に利用されているメダロットもいますが……それこそ世界規模で考えれば、軍事目的以外のメダロットは、九割強いるでしょう……」
「そっ、それをテクノポリスが解放しようと……!」
「そんな星の数のメダロットを前に、一千万円で、どれだけの事ができるんでしょう?」
 突き付けられた正論に、タバスコは押し黙る。一期は、質問し続けた。
「私のような誘拐を、繰り返しますか? みんなのメダロットを、奪いますか? それとも、メダロッターを襲って、野良メダロットになった所でテクノポリスが手を差し伸べますか?」
「……フッ、フン! そんな事! 俺だけでなく、全国にはテクノポリスの同志が散らばっているんだ! 『塵も積もれば』と言うだろう!?」
「……それなんですけど」
 虚勢を張るタバスコに、一期は静かに告げる。
「私……テクノポリスの名前を、今日初めて聞いたんです」
「…………へっ?」
 タバスコは、硬直した。衝撃のあまり、鼻水もちょっとだけ出てしまう。一期は、苦笑した。
「私がいる地域には、『ロボロボ団』という悪の組織が出没して、みんなを困らせています。ですが、『幸いにも』、ロボロボ団だけなんです。テクノポリスは……聞いた事がありません」
 一期は、手をこまねいた後、言葉を続けた。
「タバスコ様は、その……悪の組織には、向いてないようにお見受けします」
タバスコは、時が止まったように感じた。無表情で虚空を見上げた後、一期の言葉の意味を理解する。勢いよく一期に顔を向け、指差すと、金魚のように口を動かした。
「なっ、なっ……何を言い出すんだ!! 失礼な女だな!?」
「ごっ、ごめんなさい! でも、優しいから!」
「は!?」
 申し訳なさそうな一期に衝撃的な言葉を掛けられるも、タバスコはすぐに笑って誤魔化す。
「フッ……フハハハハハ!! 俺に甘い言葉なんぞを掛けて、逃がしてもらおうなんて安い作戦だな!?」
「違います!! メダロットを軍事目的に生かしたいなら、タバスコ様にはもっと方法があるはずなんです! メダロットの博士になったって、軍の研究部門に入ったって良いじゃないですか!」
「アホか!! それができれば、悪の組織なんぞやっとらんわ!!」
 それでも、自分のために必死な様子の一期に、タバスコの心がぐらつく。叩きつけるように怒鳴られた後、一期はぎゅっと目を閉じた。その後、薄く目を開け、眉を下げて微笑む。
「今日お会いしたばかりですが、タバスコ様ならできます」
 はにかむ一期に、タバスコは束の間惚けた。その事実に気付くと、舌打ちして反論する。
「なっ、にを勝手な事を……!」
 恨み言を言われても、一期は柔らかな笑みを浮かべるばかりだ。タバスコは調子を狂わされ、頬を僅かに染めて、顔を背ける。直後。
 ガン、ゴン、ガン!
「うるさい!! 取り込み中だ!!」
 乱暴に工場の扉を叩く音に、タバスコが怒号を散らすと。

 光の一閃が迸り、その直線上は炭と化した。

 タバスコのゴーグルが、ずり下がる。何が起こったか理解するのに、時間を要した。運命や来訪者は残酷なもので、そんなタバスコを決して待ってはくれなかった。
「開きました!!」
 室内によく響いたのは、少女の声。硝煙が晴れると、多数の影が見えてくる。その先頭に立っていたのは、筒内で小さな稲妻が音を立てる巨大な注射器を抱えた、マリアだった。
「んなぁあぁあああああああ!?」
 タバスコは、顎が外れそうになる程絶叫した。一時的に利用しているものの、ここは公共施設だ。にも関わらず、建物を躊躇なく損壊させた事実を、にわかに信じる事が出来なかった。
「お前なぁ!? 勘違いしてっかもしんねぇけど、ここは単なる待ち合わせ場所であって、公共施設なんだからな!? 悪の巣窟じゃねぇんだぞ!? どーすんだコレ!?」
「……ああ! テクノポリスの仕業ですね!」
「……そうだな!」
「いやいやいやいや!?」
 馴染みのある声が即座に責任転嫁してきたため、タバスコは手を振りながら否定する。人影全員が工場内に足を踏み入れた後、声の主は一歩前へと出た。
「鷹栖達は、まだ来てねぇようだな……。タバスコ!! 約束より早ぇが、一期ちゃん誘拐の罪と工場破損の罪、償ってもらうぜ!!」
 メダルが入ったボトルを握り締め、醤はタバスコを指差して言い放った。ちゃっかり罪を擦りつけられたタバスコは、当然ながら声を荒げる。
「いやっ、お前らだろ……!?」
「にゃははっ☆ 天道一期たんの握手会会場は、ココですかにゃあ~?」
 どう考えても場違いな台詞に、工場内全員の頭に疑問符が浮かぶ。その人物は、両手を広げ、足音を立てながら、醤とタバスコの間に躍り出た。大袈裟なまでに手を口に当てて、驚いて見せる。
「はれっ!? 拙者、間違えちゃったでごじゃる! でもでもっ、何だか一期たんが捕まってるから、ウチも頑張るのら~☆」
 セレクトスリーのライブTシャツ・ハッピに、チェックのミニスカート。すらりと伸びた脚を、ニーハイソックスが包み込んでいる。両手には、一期カラーであるピンクに発光したサイリウム。長い銀髪をツインテールにまとめ、特徴的なドクロマークが入った帽子を被る少女は、目元でピースサインをした。
 シン、と静まり返る工場内。会うのは今日が初めてにしろ、一発で誰だかわかった醤は、乾ききった表情で尋ねた。
「……拾い食いでもしたのか、鷹栖?」
「『鷹栖』って誰だお~? ミーは、通りすがりのセレクトスリーファンクラブ会員だぴょん☆」
「キャラぶれ過ぎだろ、せめて統一しろよ」
 醤の刺々しい口調が、ウニの如く斗的にぶっ刺さる。自分の気持ちを汲み取ろうとしない輩に、斗的は声を荒げる。
「うっせぇ!! こちとら、ロボロボ団だのテラークだのでもうお腹いっぱいなんだよ!! その上、変な宗教団体の標的になってたまるか!!」
「待てぃ!! 誰が『変な宗教団体』だ!!」
 あんまりな言い様に、今度はタバスコが怒りの声を上げる。醤は、先程のフォレスとのやり取りを思い出していた。フォレスの口からは『テラーク』の名前しか出なかったが、まさか、他の組織にも追われていたとは。
「……お前も、見かけによらず苦労してんだな」
「その憐れみに満ちた目をやめろ」
 悲しく笑って肩を叩く醤の手を、斗的は遠慮なく払い落とした。少し離れた場所からは、蜜柑が満足げに何度も頷く。
「着こなすなんて、流石は斗的! ミニ履いて来た甲斐があったってもんよ!」
「制服でもないのにスカート履くなんて、おかしいと思ったっス」
 そう。現在、斗的が着用中のミニスカートは、蜜柑の私物だった。蜜柑は、斗的の代わりに七分丈のジーンズを履いている。要は、このような事態を朝から想定し、蜜柑はミニスカートを着て来たのであった。
声が届いていないため、そんな蜜柑の思惑は露知らず。斗的は、帽子のつばを下げて俯く。
「……オレからすりゃ、今日はとっくに労働基準法違反レベルなんだがな。仕方ねぇ……」
 両足で地を踏みしめ、斗的は顔を上げて、サイリウムをタバスコに向ける。その目の奥では、確かに焔が揺らめいていた。
「あっちが俺の顔を見たくなくなるぐらい……全力で、叩き潰すッ!!」
 斗的の気迫に、タバスコはたじろぐ。勢いに乗っかり、醤はガッツポースをとった。
「おう!! やってやろうぜ、鷹栖!!」
「タバスコ様っ!」
「「へっ?」」
 心配そうにタバスコを呼ぶ声に、全員が振り向く。そこには、温かなブランケットで覆われ、目の前には飲食物や娯楽類が広がっている一期が拘束されていた。急な来訪者で片付けが間に合わなかったタバスコは、頬に手を当て、体を捩りながら絶叫した。
「ア゛アアーア゛アーア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!?」
 シャカシャカとまるでゴッ(自主規制)のように四つん這いで駆け寄り、急いでダンボールに対象物を投げ入れる。慌てるあまり手からボロボロと物を落とし、一期への待遇を見られた恥ずかしさから、タバスコは目からも涙を零して拾った。
「うっ、うぐぅ……ひっ、ぐしゅっ……!」
「泣かないでください! 大丈夫です! ホラ、詰めればきちんと入りますよ、タバスコ様!」
 泣きながら整理整頓する誘拐犯と、それを手伝う人質。何とも、シュールな光景である。タバスコは、蜂の巣にされた作戦を嘆き、『orz』のポーズで何度も床を殴った。
「七時に!! ちゃんと『七時に来い』っつったじゃん!!」
「……無事は何よりだが、あのVIP待遇は何だったんだ……?」
「おいクォラ!! 天下の天道一期に何様付で呼ばせてんだタバスコこの野郎ォ!?」
 訝しむ斗的と、傷心中の身にも躊躇がない醤に、タバスコは追い詰められて嗚咽を漏らす。羨望による怒り心頭な醤に、後ろからメダロットが歩み寄った。
「ショウ!」
「カグッ、どちら様で!?」
 自分の名の呼び方から、てっきりカグラかと思ったものの、突如現れたセーラーメイツに醤は驚愕する。セーラーメイツは、焦って弁明した。
「わらわじゃ! カグラなのだよ!」
「そうか!! そうだよなぁ!? メダロッチで聞いた時から嫌な予感してたわ!! 誰だァ!? ウチのジジイをババアにしたヤツは!? 出てきやがれ、タバスコの前にボコボコにしてやる!!」
「これ、暴力はいかんぞ」
 カグラに宥められようが、醤の憤怒が鎮火する様子はまるで無い。後方では、頭の後ろで手を組んだ蜜柑が口笛を吹いており、事情を知る者の大半は彼女に白い目を向けていた。
犯人は名乗り出ないが、斗的ではないだろう。それを視野に入れ、醤は舌打ちしながらボトルを斗的に手渡した。
「チッ! オラ、鷹栖!!」
「!」
『うわっ!? 醤殿、慎重に扱ってくれ……』
 久方振りに感じた大きな揺れに、フォレスは苦言を呈する。ボトルを手に目を丸くしている斗的へ、梓音は取り扱いについて説明した。
「蓋を捻れば、中の液体は自然蒸発してメダルを取り出せるわ」
「だとよ!」
「世の中には、変わった物があるもんだ……」
 ボトルをまじまじと見た後、斗的はそっと溜め息をつく。
「……よぉ。そっちのメンバーは、快適だったか?」
『ああ、非常に有意義な時間だった』
 斗的もフォレスも、若干棘のあるような言い回しを使って再会を果たした。仕方が無い。何せ、二人揃ってツンデレンジャーなのだ。マイドは、斗的ごとボトルに抱き着いて笑った。
「おかえりなさい、フォレスちゃんっ♪」
『マイド殿、ただいま帰還した』
「とっても寂しかったのよぉ? 私達も、斗的ちゃんもぉ♪」
「おい、マイド! 嘘はやめろよ!?」
「うんうん!! あたしも、すーーーっごく寂しかった!!」
「悪意百パーセントオレンジジュースは黙ってろ」
 照れた顔から一転、斗的は蔑むような目で吐き捨てた。蜜柑は、ぶーぶーと文句を言いながら口を尖らせる。変わらない様子を見届けた後、ガマンは口を開いた。
「……カグラ殿!」
「ん?」
 まさにセーラーメイツからメダルを抜こうとした時、背中に声を受けてカグラは振り返る。ガマンは、ゆっくり頷いた。
「また、オイルを酌み交わしましょうぞ」
 優しい声色に、カグラは瞬きを二度する。そして、一礼し、柔らかな笑顔を浮かべた。
「ああ。是非、御一緒させて頂こう」
 カグラが、言い終えるや否や。斗的はボトルからフォレスの、醤は機体からカグラのメダルを抜き取り、メダロッチにはめ込む。
「「メダロット転送!!」」
 眩い玉から現れる、二体のKBT。斗的と醤が同時にメダルを装着すると、目には強い光が宿った。
「……こんな形で、体の有難みを知るとはな」
「そうさなぁ。何だかんだで、しっくり来るのだよ」
 フォレスは手首を解しながら、カグラはつま先で床を突きながら言葉を交える。すると、天井の方から高らかな声が轟いた。
「『合意とみてよろしいかなあああ!?』」
 直後、斗的や醤達、そしてタバスコの間に華麗に着地する、男女二人組。服装の違いはスラックスとタイトスカートのみであり、半袖の白いワイシャツと、特徴的な赤い蝶ネクタイは同一である。赤い天然パーマの男性は、サムズアップして言い放つ。
「みんなでニコニコ・ロボトルファイト!! メダロット協会公認レフェリーのジャッジ担当・Mr.ジャムとぉう!?」
『同じくレフェリー、ロボトルの実況担当・Ms.マーガリン! この戦いは真剣ロボットバトル、『ロボトル』と認定されましたー♪』
 拡声器を持つ、カールボブをハーフアップにした女性・Ms.マーガリンは、小さく手をかざして宣言した。それも束の間、Ms.マーガリンは雑談を始める。
『にしても、先パーイ? 今日は、いつにも増して暑苦しいですねー? ハロウィンだからって、マジックマッシュルームでもキメてるんですか?』
「HAHAHA☆ 何言ってるんだい、マーガリン!! ボクは、そっち方面の犯罪をするような男じゃないさ!!」
「犯罪者の自覚はあるんだな?」
 醤は、意外そうな口ぶりで言った。両腕を大きく広げ、Mr.ジャムは嬉々として語る。
「ごらん、この女子密度を!? いつもは多くて一人なのに、ひー、ふー、みー……四人もいるじゃあないか!! ありがとう、コラボ企画!! ビバ・コラボ企画!! もう、ずっとメダMとコラボしてて欲しい!!」
「中の奴には無理だろ」
 斗的は、製作陣を一切信用していない顔で言い切る。その瞬間、Mr.ジャムは目を輝かせた。
「やぁやぁ、パンキーでボーイッシュなマドモアゼル!!」
「な、な、何だよ……!?」
 足早に歩み寄るMr.ジャムに、斗的はたじろぐ。
「ハロウィンナイトにボクの心を惑わせるなんて、いけないサキュバスだ。意趣返しに、」
「ひっ!?」
 後ずさるも、斗的は腰を抱き寄せられた。Mr.ジャムに、顎を取られる。

「悪戯しちゃうよ? ボクのポピーットモンスターがね☆」

 思考停止した被害者を余所に、Ms.マーガリンはセレクト隊に捕まったMr.ジャムへハンカチを振る。連行されながらも、Mr.ジャムは口で抵抗していた。
「ちょっと神経質過ぎやしませんかね? 確かに、メダロットもポピーットモンスターも同じゲームですよ? でも、それは天敵でなく、好敵手なんであって……」
「今してるのは、ゲーム業界じゃなくて強制わいせつ罪の話だから」
 セレクト隊員にバッサリ切り捨てられる、Mr.ジャム。パトカーに乗せられた後も、ガマンは斬り掛らんばかりにサムライセイバーを振り回した。
「貴ッ様ァ!? 斗的坊ちゃんに○×△□※☆♯♨☺!!!」
「ガマンさん!! 気持ちはわかるけど、落ち着いて!!」
「オーバーヒートしちまうジャン!?」
「大丈夫、斗的ちゃんっ!?」
「斗的チャン、ダイジョバナイ……」
「斗的、気をしっかり持て! 何でそこだけ外人風なんだ!?」
 横からガマンにしがみついて止める磨智とシアックに、斗的を心配するマイドとフォレス。醤は、自分の地域のレフェリーを恥じた。
「恥ずかしい、ひたすら身内が恥ずかしい……」
「おっ! 字余りだね!? あたしとしては、ちょっとあのレフェリー生ぬるいかな~!? どうせなら、斗的のおバスト様鷲掴んで、『ヒャッハー、マシュマロパーティーじゃアア!!』くらいはしてもらわないと!」
「お前もどっちの味方?」
 意気揚々にMr.ジャムの悪行より非道な内容を語る蜜柑を、醤はドン引きしながら見た。この女、最早斗的にセクハラするべく生を受けたと言っても過言ではない。醤が確信していると、Ms.マーガリンは拡声器を構えた。
『えー、ノルマ・嘆くしか能のない社会的弱者・『何で、セレクト隊はタバスコや天道一期をスルーするんだ』という疑問はさておき!』
「さておくつもりなら、最初から触れんな!!」
 明らかなコンプライアンス違反をしているMs.マーガリンに、醤は怒号を浴びせた。それも、どこ吹く風。Ms.マーガリンは、手を振りかざし、ハイテンションに喋る。
『さぁさぁ、ドリームマッチです!! とってもスペシャルな、今夜しかお目に掛かれない団体戦!! 何と、トマト・ショウ選手率いる花田学園高・御守高チームvsテクノポリスのタバスコによるデスリッパーとガイロット軍団の対戦カードだー!! 果たしてっ、特別なハロウィンの夜に悪夢を見るのはどちらのチームなのか!?』
 レフェリーの掛け声を皮切りに、メダロッチを構える両チーム。メダロット達は、真剣な表情で敵を見据える。煽り文句を言い終えると、Ms.マーガリンは右手を上げた。

『合意とみてよろしいかなー!? それでは、ロボトルゥゥゥ……ファイトォッ!!』

 Ms.マーガリンは、一気に手を振り下ろした。

( No.9 )
日時: 2020/06/14 22:42
名前: 海月

 どこからともなく、ゴングの音が轟く。直後、タバスコはメダロッチへ叫んだ。
「デスリッパー!! ソウルドライブにスピリットカット!! ガイロットは、デスリッパーの援護と敵の駆除を徹底しろォ!!」
『おおーっと!! 『先手必勝』と言わんばかりに、バトルフィールド内に射撃トラップが充満!! 『実況泣かせ』と言いたい所ですが、ご安心を!! こんな時のために、メダロット協会はゴーグルを用意しているのです!!』
 デスリッパーが両鎌を手前で交差させると、瞬く間に射撃トラップの霧が広がった。頭部を軋ませながら、ガイロット達は周囲の敵に焦点を合わせる。Ms.マーガリンがゴーグルを着用する最中、醤は忌々しげに口を開いた。
「クソッ、いきなりか! だが、まぁデスリッパーがいんのは最初からわかってんだ!」
「言っちまえば、格闘パーツつけたメダロットでデスリッパータコ殴りにすりゃ終わりだ。この霧は、視界の面でも邪魔だけどな」
 斗的は、前を見据えて状況を分析する。脳内で考えがまとまると、メダロッチを構えて各々指示を出した。
「ガマン! ナイトシールドを混ぜながら、サムライセイバーでガイロットを一掃!」
「承知!!」
「マイドは、トラップでダメージを受けた味方全体の射撃パーツを優先的に回復してくれ! フォレスは、破壊だけ注意しながらマシンピストル!」
「心得た!!」
「射撃パーツね! わかったわ、斗的ちゃん! ……あらぁ?」
 返事した途端、マイドの頭上には時計が浮かぶ。翠は、ハリップや斗的達に声を掛けた。
「ハリップ、アワースキップ! ……一人で回復は大変だろ?」
「急ぐなら、オレっちに任せてよっ!」
「まあ! ありがとう、一緒に頑張りましょうねぇ♪」
 ハリップは、マイドに向かって左腕を大きく振る。その時計は、マイドの頭上にある時計と同じ時を刻んでいた。手を合わせて喜ぶマイドを見て、醤は勝気な笑顔で拳を握る。
「っしゃあ!! これで、トラップは怖くねぇ!! オレ達もやるぞ、カグラ!! サブマシンガン!!」
「了解した! 流れ弾が当たるといかぬ故、ショウ達は一歩たりともそこから動かないでくれ!」
 カグラとフォレスは、ガトリングで次々とガイロットを撃ち落としていく。当然ながら射撃トラップが発動し、二人の左腕はダメージを負った。
『左腕パーツ、ダメージポイント24』
「ぐっ……!」
『左腕パーツ、ダメージポイント33』
「くぅ……っ!」
「キュアハンド!」
『ピュアマーメイドの十八番、回復行動!! トラップで負った傷を、マイドが無に帰します!!』
 マイドがかざした右腕の周りを、クリオネが舞う。すると、みるみる内にフォレスとカグラの左腕パーツは回復した。
『『左腕パーツ、ダメージポイント0』』
「マイド殿、かたじけない」
「いえいえ♪」
「ワシまですまぬな、マイド嬢。ハリ坊がいると言っても忙しいだろうから、回復はリーダー機のホレス嬢を優先的によろしく頼む」
 カグラの言葉に、フォレスはぴたりと手を止める。そして、怪訝そうな表情で振り向いた。
「ちょっと待て。突っ込み所満載だが……まず、『ホレス』とは誰だ?」
「そなたの事なのだよ」
「私の名は、『フォレス』だ」
「やはり、『ホレス』嬢なのだな」
「……わかった、もう名前を呼ばないでくれ」
「うむ?」
「おい、ロボトルしろよ」
 大切な友人からつけられた名前を間違われ、フォレスはアンニュイな気分になる。ひたすら頭に疑問符を浮かべるカグラもまとめて、斗的は冷静に吐き捨てた。フォレスは、慌てて斗的を制止する。
「斗的、待ってくれ。まだ、気になることがある。そもそも、リーダー機はカグラ殿ではないのか?」
「そうなのか? ワシはてっきり、お嬢だと思っていたのだがなぁ」
 フォレスから言われた事を踏まえ、カグラの呼び方は『お嬢』へと変わっていた。フォレスとカグラのやり取りを聞き、Ms.マーガリンは明るく返答する。
『花田学園高・御守高チームのリーダー機は、フォレスとカグラです! どちらか一体が機能停止した時点で敗北となりますので、くれぐれもご注意を~♪』
「「ハアアアアアアア!?」」
 まさかのとんでもルールに、メダロッター二人の声が重なる。斗的と醤は、Ms.マーガリンを責め立てた。
「リーダー機が二体な訳ねーだろ!! じゃあ、向こうのチームのリーダー機誰だよ!?」
『デスリッパーでーす』
「その時点で不公平だろうが!? メダロット協会が率先してやって良いんすかぁ~!?」
『メダロット協会のルールは絶対でーす。これ以上イチャモンつけるようなら、『ロボトルに降参した』と見なしますが、どーします?』
 汚い。流石大人、汚い。軽く人間不信に陥りそうな斗的と醤には、グゥの音を出す事すら許されない。二人は揃って肩を落とし、『特別ルール』を泣く泣く受け入れた。気持ちを切り替え、醤は言う。
「霧ん中にデスリッパーが隠れたのは厄介だが、学祭の時と違ってフィールドが狭い上に、見えてねぇのは向こうも恐らく一緒だ」
「それに、ガイロットの数がフィールドにしちゃ多過ぎる。ほっときゃ……」
 斗的が言いかけた所で、ガイロット数体はビームを放つ。しかし、それが当たったのは敵でなく、味方のガイロットだ。予測が的中し、斗的は薄ら笑いを浮かべた。
「勝手に、同士討ちしてくれるさ」
『シャレコベー同士のフレンドリーファイア炸裂ゥ!! これは痛ァい!!』
「フン! ガイロットはまだまだいるんだ、いい気になるなよガキ共が!」
 舌打ちしながら言うと、タバスコは自分のゴーグルに手を掛ける。
「それに、『見えてない』だって? 実に愚かだな、村崎醤! ガイロット、シャレコベー!!」
 一体のガイロットが、頭からビームを撃つ。その照準は、醤達だった。タバスコは、白々しく言葉を紡ぐ。
「ン~、見えない余りメダロッターを攻撃してしまったなぁ? スマンスマン」
「テメエ実は見えてんだろ!? 洒落になんねぇぞバカやろっ……!?」
「ショウ!!」
 カグラが急いでガイロットを撃破しても、一度放たれたビームは止まってはくれない。その時、一体のメダロットが前へ出た。
「ナースコール!!」
「ハイッ!!」
 ビームは完全防御のシールドに音を立ててぶつかり、そのまま消失する。躍り出たマリアは、振り向き様に梓音へピースサインを贈る。
「しぃちゃん、タイミングバッチリでしたか!?」
「ええ、バッチリよマリア。ここはマリアが守るから、おじいちゃんは攻撃に専念して!」
「かたじけない、シオン!!」
 目の前のガイロットへと向かっていくカグラを見て、梓音はそっと胸を撫で下ろす。マリアは梓音達に背を向け、やる気に満ちた表情で正面を見据えた。
「さーて、本日の防衛ラインはマリアが務めますよぉ! マリアがいるからには……」
 利き足を踏み締め、マリアは両手で巨大な注射器を振りかぶる。そして、近付いてきた三体のガイロットをまとめてフルスィングした。
「指一本たりとも、しぃちゃん達には触れさせませんっ!!」
『マリアによるホームラン、ガイロットにクリティカルー!! 殴る行動のため、トラップはスルーされた模様です!!』
 ガイロット達は壁に打ちつけられ、床へ沈んで機能停止する。味方だと頼もしい限りだが、あのホームランをロボトルで喰らった事がある醤は、複雑な心境に駆られていた。
 一方、右手にデコイクラブを装着したジーは、逃げては殴り、逃げては殴りを繰り返していた。
「とぉりゃあああああっ!! 何でみんなポンポンポンポン倒してんすか!? 非常にありがたいんですけど、全然倒れないっすよコイツらあああ!?」
「メダルと行動合ってないからじゃね?」
 愛機の悲痛な叫びに、主人の甘太は冷静に答える。射撃パーツよりかは格闘パーツの方が相性は良いと言っても、ジーはカメレオンメダル。加えて、ガイロットは装甲のバランスが良いため、それを機能停止させるには馬力が足りていないのだろうと考える。
「確かに、そろそろ数を減らしたい所だよなぁ……」
 濃くなる霧を前に、甘太が呟いた所で。
『おおーっとぉ!! ガイロットのシャレコベーが、爆破・爆破・爆破ァ!! これは一体、何事でしょうか!?』
 ガイロットの頭が、まるで連鎖するように暴発を起こす。一度大きく体を揺らし、次々と機能停止していくメダロットの光景をタバスコには信じられず、驚愕の声を上げる。
「何じゃこりゃああああああああ!?」
「……考えたんスよ」
 磨智は、ぽつりと呟く。
「学祭の時、まんまと射撃トラップにしてやられて思ったんス。『トラップが困らせられてるなら、こっちもトラップを仕掛けてやれば良い』って!」
 そう言う磨智の愛機・シアックの頭には、ハンターが装着されていた。実は、磨智はロボトル前に、デスリッパーを見てこっそりパーツ交換をしていたのだった。そして、デスリッパーが射撃トラップを仕掛けたのを見計らい、自分が仕掛けた射撃トラップを混ぜ込んだのだ。まさに、『木を隠すなら森の中』。
 タバスコは、苦々しく舌を打つ。
「ちぃっ……!」
『マトモ選手の読みが的中ゥー!! さぁ、これでガイロットは迂闊に頭パーツを使用できなくなりました!! とは言っても、ガイロットの両腕の行動は『がむしゃら』!! 回復役がいないタバスコ選手には、苦しい展開です!!』
 磨智の作戦が成功し、頭は虎、それ以外は犬というあべこべな体で、シアックは口笛を鳴らす。
「ヒューッ!! 全くウチの相棒は、COOLな作戦を思いついてくれるジャン! 美味しいトコ総ナメして悪いなぁ、ブラザーズ!?」
 シアックが言うように、先程の暴発によりガイロットの約半数が機能停止していた。天井を指差し、まるでギターソロのようなポージングをするシアック。斗的は、笑顔で磨智を褒めちぎる。
「でかした磨智ォ!! 流石は、オレの弟子!!」
「へへっ、ありがとうございます!」
 心底嬉しそうな照れ笑いを浮かべ、磨智は賞賛を受け取った。胸に拳を当てて俯き、喜びを噛み締める。意を決し、磨智は顔を上げながら言った。
「恐れ多いんスけど……一日でも早く師匠と肩を並べて戦えるよう頑張りますので、見ていて欲し、」
「フォレス!! 後ろのヤツ落とすぞ、ウィンチェスター!!」
「って聞いてなあああい!?」
「ダッセェ、磨智台無しジャン……」
「甘酸っっぺぇ青春は良いから、とっとと指示シル」
「追撃はやめて!? デスリッパーの前に機能停止しそう!!」
 とっくに斗的が視線を外し、フォレスに指示を出していた事実に、先程とは日にならない赤面を両手で隠し、磨智は悶え苦しんだ。サラは、感嘆の息を漏らす。
「はー、しっかし射撃の申し子達は伊達じゃないお~」
 サラの目に映るのは、ダメージにひるむ事無く、果敢に立ち向かうフォレスとカグラだ。幾らマイドが回復するとは言え、トラップにより一度は傷を負わねばならぬのだ。流石に、頭パーツは使用してないようだが、躊躇せず、的確にガイロットを撃ち落としていく様は、感心するしか無かった。例え。
「さっきまでセーラー服着てたじっちゃんとは思えないお」
「オイ!? 語弊があんだろソレ!? 着せたのお前らの誰かじゃねぇか、撤回しろ!!」
「今となっては、懐かしいなぁ」
「『懐かしいなぁ』じゃねーんだよ、ちったぁ怒れバカ!!」
 サラの発言に、醤は全力で異議を唱える。呑気に笑うカグラに噛みついた所で、斗的から苦情が飛んできた。
「隣でギャーギャーるっせぇなぁ、何デシベル出したら満足すんだよ?」
「いちいち厭味ったらしい言い方しやがってぇぇ……! 大体、テメエが間違ってカグラのメダル持ってくから、んな事になんじゃねぇか!?」
「その言い掛かりは寛容できねぇな。お前が、フォレスのメダルを持ってったから面倒なことに……?」
 斗的と醤は、はたと考える。確かに、自分達は各々の機体の傍に転がっているメダルを拾ったはずだ。わざわざ、反対側のメダロットの傍のメダルを拾ったりはしない。機能停止した際、『偶然にも』、綺麗に反対側へと転がっていったのだろうか。そんな偶然は、考えにくい。
 そこで、斗的は気付いてしまった。
「ふっふっふ……」
 メダルを拾った時には、『奴』が近くにいたという事を。
「実は、あたしがすり替えておいたのさぁ!!」
「「何してくれとんじゃワレエエエエエエエエ!?」」
 勝ち誇った笑みでサムズアップを決める蜜柑に、斗的と醤は揃って怒号を浴びせた。要は、完全に蜜柑の掌の上で、全員踊らされていたのである。特に悪びれる様子も無く、蜜柑は日常会話のように続けた。
「いやー面白いと思ったけど、案外つまんなかったわ。メンゴメンゴ!」
「おう、もっと死ぬ気で謝れ?」
 弁解する気すら感じられない弁解に、斗的は真正面から顔を鷲掴み、蜜柑はおちょぼ口となった。しかし、それも束の間。醤は、斗的の両肩を掴む。
「鷹栖!! どーゆー教育してんだテメエ!?」
「何でオレが怒られんだよ!? 本人を怒れ、本人を!!」
「コイツの保護者だろうが!? 主人公なら、自分の世界の住人くらい制御しやがれ!!」
「お前だって、主人公のくせに手に負えないヤツゴロゴロいんだろうが!?」
 物語の責任転嫁を繰り返すとは、何とも醜い争いだろうか。斗的は、反論を続ける。
「お前も見ただろ!? 自分が楽しけりゃどんな悪逆非道も厭わない、人の皮被ったブラックメイルが四六時中纏わりついてんだよオレには!!」
「まだマシだろーが!? オレなんか、両手にドライバー持ったユイチータンみてぇな暴力女が、地獄の果てまで追い掛けてくんだぞ!?」
「「同志よ!!!」」
 主人公二人は、論争の末に熱い抱擁を交わす。『一日』という短い期間で互いの苦労を思い知り、感極まってしまったのであった。やっと自分と同じ境遇の者に出会えた喜びに浸っていると、ブラックメイルとユイチータンは野次を飛ばした。
「ブーブー! 旬真っ盛りのJKヒロインに、『ブラックメイル』なんて酷くなーい!?」
「『ラスボス』の間違いだろ?」
「村崎、『ユイチータン』ってワタシのコトじゃないでしょうね……?」
「悪ぃな、ユイチータンの方が優しいわ」
 斗的と蜜柑、醤と梓音が言い合う最中、フォレスは戦いながら溜め息をつく。
「まさか、ミカン殿だったとは……」
 ただ単純に楽しもうとしていたのか、はたまたこのチーム戦を見越しての事だったのかはわからない。けれど、出来れば後者であって欲しいとフォレスは願う。そうでなければ、あの振とう地獄を味わった自分が報われないからであった。『起こってしまった以上は、仕方が無い』と、フォレスが自分に言い聞かせていた時だった。
「お嬢!」
「カグラ殿!」
 自分の後ろに降り立ったカグラの名を、フォレスは呼ぶ。カグラは、淀みなく笑った。
「よもや、ミカンが貨幣石をすり替えていたとはなぁ。手先が器用なのだよ」
「ミカン殿の手先が器用なのは、確かだが……」
「ミカンのお陰で、よくわかった」
 カグラが両腕を下ろすと、銃弾が充填されたのか音が鳴る。フォレスに背を向けたまま、カグラは言った。
「良い相方を持ったな」
 フォレスの瞳が、大きく見開いて、揺れた。フォレスも両腕を下げ、充填を済ます。そして、柔らかな口調で紡いだ。
「……ああ、互いにな」
 カグラは、声無く笑う。背中合わせのまま、二人は両脚を踏み締め、前方のガイロットに両腕の照準を合わせた。
「フォレス!!」
「カグラァ!!」
「「一斉射撃イイイ!!」」
「「心得た!!」」
 星の数程の銃弾が、装甲を削ぎ落し、ガイロットを沈めていく。斗的と醤のメダロッチからは、せわしなくダメージカウンターが鳴り響いた。
『右腕パーツ、ダメージポイント25、34、50……。左腕パーツ、ダメージポイント17、35、56……』
『右腕パーツ、ダメージポイント23、37、46……。左腕パーツ、ダメージポイント18、30、49……』
『これは圧巻、KBT二体による一斉射アアア!! もの凄い勢いでガイロットの数を減らしていくー!! しかしながら、諸刃の剣ならぬ銃!! 射撃トラップで、両者の腕はもうボロボロです!! マイドの回復も間に合いません!!』
「ああっ! フォレスちゃん、カグラちゃん……!」
「近づくな、マイド殿!! 巻き込みかねない!!」
「何とか、ワシらは持ち堪える故!!」
 見守る事しか出来ずに歯痒く、心配するマイド。痛みに顔を顰めながらも、銃撃を止めないフォレスとカグラ。タバスコは腕を組み、高らかに嘲笑った。
「だァーっはっはっは!! その調子では、デスリッパーの元へ来る頃には両腕は使えまい!! しかし!! ミサイルを使った瞬間、お前らの頭はトラップでズドンだぞ!? 追い詰められてるのは、そっちだったな!?」
「……ら」
「ンン、何だ? 『降参』と言うなら、受け取ってやるぞ?」
 わざとらしく耳に手を添え、煽るタバスコ。斗的は、顔を上げて言い放った。
「――だから、お前は敗北する」
 は、と笑い声を零した後、意図がわからず硬直する。次にタバスコが動くよりも早く、車輪の回転音が響いた。
「……皆のお陰で、この距離まで左腕を温存できたわい」
 白い霧を抜け、デスリッパーの背後に飛び出たのはガマンだった。振り上げる左手には、青や紫の小さな雷が走るビームが握られている。ガマンは、叩きつけるような声を上げ。
「前を見るのは結構だが、戦闘中は背後にも気を配れ!! 若いの!!」
「ガマン!! サムライセイバー!!」
 斗的が指示を出した瞬間、デスリッパーを斬りつけた。デスリッパーは前へと倒れ込み、機体の傍にはメダルが転がる。Ms.マーガリンは、右手を上げてロボトルの終了を宣言した。

『勝者!! 花田学園高・御守高チームゥ!!』

 勝敗を聞くや否や、醤は拳を突き上げて喜んだ。
「よっしゃあああああっ!!」
「最初に言ったろ? 『格闘パーツつけたメダロットでデスリッパータコ殴りにすりゃ終わりだ』、ってな」
 斗的の言葉は、最早衣装よりも白く染め上げられたタバスコの耳には届いていない。どこからともなく枯れ葉が降りかかる中、勢いよく踏み締められた音を聞き、タバスコにようやく色が戻る。しかし。
「ふむ。霧が晴れて、視界は良好……」
 目の前に立つメダロットを見て、タバスコは、『いっそ意識が戻らない方が幸せだったかもしれない』とさえ思った。
「しかも、戦闘も終わった。これで、気兼ねなくお前を射抜けそうだ……なあ、タバスコよ?」
 リボルバーの照準をタバスコの眉間にバッチリ合わせ、カグラは怒りを露わにする。タバスコは、滝のような冷や汗を流しきった後、一目散に走った。
「覚えとけ!! クソガキ共にボロボットオオオオオ!!」
「逃がすか!! よくも、戦いの最中にショウ達に攻撃を仕掛けたな!? この下衆が!!」
「いでっ!? いででででっ!? いでぇ!?」
 悲しい捨て台詞と共に、タバスコは飛び跳ねながらも工場を後にする。それを修羅の如き表情で追い掛けていったカグラに、メダM勢は普段とのギャップから固まるしか無かった。
 途端、背後から聞こえた機械音に、醤は振り返る。
「よぉ、邪魔するぞ」
「シンラ! と、泡瀬さぁん!?」
「ふふっ! こんばんは、村崎君」
 控えめに手を振る美園に、醤は両手で口を包んで驚愕した。思いがけず想い人に会えたその様は恋する乙女そのものだが、当然、六角形勢からは乾いた目を向けられている。更に言えば、信じたくはないが美園はシンラの恋人だ。頬を染めて震える醤を、シンラは一蹴した。
「ハッ! ハロウィンナイトにハッスルしている輩がどんな奴かと思って来てみれば、知り合いだったとはな……この町の静観をぶち壊した罪を償え。絞殺と毒殺、どっちが良い?」
「死刑かよ」
 容赦のない選択を迫られ、醤から美園に出会えた感動は吹っ飛んだ。醤は、お返しとばかりに目を細め、シンラを責める。
「お前こそ、夜にいつまでも泡瀬さん連れ回してんじゃねーぞ。何時だと思ってんだ?」
「心配御無用。ミソノは守りきるからな、こ の 俺 が」
「チッ……!」
 文句すら惚気に変えられ、醤は忌々しく舌を打つ。美園は両手を合わせ、申し訳なさそうに謝罪した。
「ごめんね、村崎君。心配してくれてありがとう。実は、村の境目で変な人達に会って……それで、ちょっと遅くなっちゃったんだ」
「マジでやべぇヤツじゃん!? 大丈夫だったのかよ!?」
「う、ん……シンラが言うには、カグラ君が結界を張ってくれてるから、結局その人達は御守町に入ってこれなかったの」
「マジかよ……」
 自分すら知らなかった衝撃の事実に、醤はそう呟くしかなかった。日々、家電製品に弄ばれているカグラからは想像しづらいが、意外と器用な奴だと感心していた所で、シンラは何て事無さそうに付け加えた。
「変な女なんて、『ブス』って連呼してたら泣きながら帰ったぞ?」
「何だろう、味方なのにこの殺意」
 メダロット作品なんだから、せめてロボトルしろよ。それ以前に、女性に問答無用でそれは可哀想過ぎると、会った事も無い不審者を哀れんだ。確かに、美園は美人だが、美園程とはいかないまでもその女性もまあまあ可愛かったのではないかと、醤は思ったのであった。
「現場はここか!?」
 そう言って廃工場に入ってきたのは、セレクトスリーのリーダー・芽崙だった。芽崙の後に続き、他のセレクト隊員もぞろぞろと入室する。拘束された一期を見つけると、芽崙は駆け寄り、拘束を解いた。
「イチゴ、怪我は無いか!?」
「うん。何もされてないですよ、大丈夫です……ありがとう、メロンちゃん」
「安心した。午後八時三分、被害者の安全確保!!」
 メダロッチを見ながら言うと、芽崙は一期の肩を抱き、体を支えながらゆっくり立ち上がる。芽崙は、優しい声色で声を掛けた。
「何もされていないとは言え、疲れただろう? ゆっくり休むと良い」
「……いいえ」
 否定の言葉が来るとは思わず、芽崙は僅かに目を見開く。一期は、肩を支える芽崙の手に自分の手を重ね、斗的と醤の方へと振り返えってウィンクした。
「私には、まだやらなきゃいけないことがありますもの」
「「?」」

( No.10 )
日時: 2020/07/10 22:04
名前: 海月

『皆さーん!! 御心配お掛けしてすみません!! セレクトスリー・天道一期、ただ今ステージに戻って参りました!!』
 どっぷりした闇が支配する、夜。普段であれば、光が少ない御守町には思わず溜め息をついてしまうような星空が広がっているのだが、今夜はそれが叶わない。
御守高校校庭の、野外ステージ。色とりどりのスポットライトが照らす中、セレクトスリーは、誰が欠ける事も無く笑っていた。一期による、挨拶は続く。
『夕方は、私の所為で戦わせてしまった方、恐がらせてしまった方……たくさん、いらっしゃると思います。本当に、申し訳ありませんでした。そんな私が、皆さんの為に何ができるか考えた時……』
 一期は、マイクを両手で握り締める。顔を上げて、力いっぱい微笑んだ。
『ステージで感謝と謝罪を伝えて、中途半端に終わってしまったライブを完遂する……それしか無いと思いました!』
 ステージ外からは、一期を呼ぶ声が木霊する。歓声が響く中、一期は言葉を続けた。
『本当なら誘拐なんてトップスキャンダルに塗れた私を、こんなに夜が遅くなっても温かく迎えてくれる皆さんが……私は、大好きです!! ……これ以上、挨拶が続くと、本当に嫌われてしまうので……』
 『大好き』という言葉が溢れていたステージ外に、今度は笑い声が零れる。一期は、檸檬と芽崙に目配せし、満面の笑みでタイトルコールした。
『それではっ、今度こそ聴いてください!! 『スウィートトリックとビタァトリート』!!』
 いよいよ、セレクトスリーのサプライズライブが始まった。背後からはリボンが降り注ぐ事も無く、メンバーは笑顔とパフォーマンスを観客へ届ける。
一期に招待されるがまま、一番前のセンター席で、斗的と醤はセレクトスリーを見上げていた。醤は、ぽつりと呟く。
「……一期ちゃんって、スゲェよなぁ」
 斗的からの、返答は無い。構わず、醤は続けた。
「助け出した時は、あんなによたよたしてたのによ。微塵も、感じさせねぇんだもんな」
 醤が言うように、救出された際、一期は確かに歩くのがやっとだった。同じグループの芽崙から『無茶だ』と言われても、彼女の意思は変わらなかった。
『我が儘を言って、ごめんなさい。メロンちゃんには、心配じゃなくて、仲間として私とステージに立って欲しいの。その後は、何でもメロンちゃんの言うことを聞きますから……お願いします、メロンちゃん』
 結局、深々と頭を下げる一期に、芽崙の方が折れたのだった。
「マジでプロのアイドルだよ、一期ちゃんは。普段可愛いのに、カッケーんだもんなぁ……っは~、好き」
 醤は、一期への愛を募らせ、両手で顔を覆った。その隣で、斗的はようやく口を開く。
「うるせぇ」
「あ?」
 顔を上げた醤に、斗的は蔑んだ目で吐き捨てた。
「こちとらお前のポエム聴きに来たんじゃねーんだよ、セレクトスリーの歌聴きに来てんだよ。お前の声が邪魔で、天道一期の声が聴こえねーじゃねぇか。マジピーすぞ」
「戦争か?」
 流れるように暴言を吐く斗的に、醤は幾つも青筋を立てる。醤が拳を握った所で、斗的と一緒にライトで照らされた。
「「へ?」」
反射的にステージへ目を向けると、しゃがむ一期がはにかんでいた。
ありがとう
 桜色の唇だけで、形作られた言葉。斗的と醤の腰を砕くには、充分な破壊力だった。自分のパートになり、一期は再び立ち上がり、歌い始めたのだった。





「アンコール!!」
「アンコール!! アンコール!!」
 曲が終わり、鳴り止まぬアンコールに、一期は一礼する。
『アンコール、本っ当にありがとうございます!! の、前にぃ~……』
 一期は、後ろの椅子に置いてあった箱を開き、持ち上げて掲げる。それは、可愛いデコレーションが施された、大きな苺のパイだった。檸檬はレモンパイ、芽崙はメロンパイを持ったのを確認すると、一期は嬉々として口を開く。
『お勉強させて頂きました所、御守町のハロウィンには、特別な文化があるそうで!!』
「えっ、何だ……?」
 斗的が恐る恐る隣を見ると、それはもう良い笑顔の醤が、片手にパイを載っけていた。嫌な予感しかしない。
『皆さん!! パイは持ちましたかー!?』
「おいっ、醤!! 違うよな!? そ、そうだよ!! こっちが『トリック・オア・トリート』って聞かなきゃ、そのパイを喰らわずに済む、」
「なぁ、鷹栖ぅ?」
 ニタァ、と擬音がつきそうな笑みを醤から向けられ、斗的は両肩を跳ねさせる。涙目で後ずさる斗的に、醤は緩徐に近付いた。
「お前の言いてぇ事はわかるよ。パイだって、菓子だもんなぁ? 『トリック・オア・トリート』って聞かなけりゃ、菓子投げられる事も無いだろうよ……?」
「投げっ……!? ま、待て、落ち着け……!」
 衝撃的なワードに、斗的の声がどもる。地面を踏み締め、醤は閻魔大王も逃げ出す笑顔でパイを振りかぶった。
「御守には、そんなお情け無ぇ!! 教えたらぁ、トリック・アンド・トリートオオオオオオオオ!!」
「ぎゃあああああああ!?」
 ダパン、と無慈悲な音を立て、斗的の顔はパイに埋まった。それを皮切りに勃発する、パイ投げ戦争。
「師匠ォウ!? 今助けに行きます!!」
「ほい」
 決意虚しく、甘太から爆撃された磨智。
「あっはははは!! 御守のハロウィン最っ高ー!! ヒロインがクリーム塗れとか、視聴率も好感度も鰻登りじゃない!?」
「確信したわ、おじいちゃんを女型に突っ込んだのはお前ね……!?」
 蜜柑からのパイを頭に載せたまま、両手にドライバーでなく、パイを構える梓音。
「まだまだ若いモンには負けんわ、」
「遅いよっ!」
 意気込みを言い終えない内に、ハリップから喰らったガマン。
「ピッチピチJKの底力、思いシル!」
「うふふっ! マリアだって、ピッチピチナースですよぉ♪」
 雪合戦の如く、ひたすらパイを投げ合うサラとマリア。
「折角だから、やってみなよ!」
「ただただ良心が痛むヤツジャン……」
 翠からパイを差し出され、却って困惑するシアック。
「そぉーれっ♪」
「ありがとうごぜぇやす!!」
 頭上からパイを落とすマイドに、『寧ろ御褒美です』とばかりに礼を言うジー。
「夕張イイイイイ!! 置き去りにした恨み思い知れや、ヴェ!?」
「あはははははははっ!!」
 パイを叩きつけようとした所で、芽崙からのカウンターを顔面に喰らった檸檬と、涙が出る程面白過ぎてアンコールの曲が歌えていない一期。そして。
「……これが、パイ」
「うむ、そうらしい」
 初めて見る洋菓子を各々両手に載せ、正座で頷き合う二匹のKBT。感慨深く、フォレスは溜め息をついた。
「人間達の文化とは、まるで意味がわからず、実に興味深いな……」
「はははは。この町で生きてきたが、ワシも知らなんだ」
「というか、食べ物を粗末にしては駄目だろう」
「案ずるな。人間達が、落ちた物も全て食すらしいぞ」
「……『三秒ルール』、というやつだな?」
「違いない」
 全然理解していないにも関わらず、確信を持って頷く、フォレスとカグラ。『ツッコミ不在の恐怖』は、誰にも認識されずに出番を終える。決まってしまえば、行動は早かった。
「『郷に入っては郷に従え』。我々も、『はろいん』文化に触れてみるとしよう」
「ああ。皆が揃って狂喜乱舞しておるのだ、楽しいに違いないのだよ」
 フォレスとカグラは、おもむろに立ち上がり。
「行くぞ、カグラ殿!!」
「参るぞ、お嬢!!」
 お互いの顔へと、パイを振りかぶったのであった。

エピローグ ( No.11 )
日時: 2020/06/14 22:45
名前: 海月

 ガタン、ゴトン。
列車は、ひた走る。疲れて眠る、子ども達を乗せて。甘くてほろ苦い、思い出を詰め込んで。

 ガタン。
列車は、大きく揺れても止まらない。

 ただ、再会を夢見て、世界と世界の架け橋となるべく、今日も駆けていくのだった。










Special thanks!
SASURAITA & BONMA…& YOU!!

『メダロットM vs 六角形の神サマ『コイツ等が集まった結果www→一触即発大団円!!』』

END.