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第65話「切り札」 ( No.77 )
日時: 2014/02/23 18:18
名前: ランド


「現在、国営ロボトルスタジアムでは白熱した試合が続いております。
 各ブロック、すでに2回戦終え、早い所では3回戦が始まっている
 ブロックもある模様です」

 テレビ局のアナウンサーが流暢な日本語で、近況を全国に向けて発信する。
すでに各ブロック遅くとも2回戦の最終試合、速くて3回戦の初戦または
次戦といった進み具合。例年通りのペース、3回戦の終わりごろには
ちょうど正午を回りそうであった。
 アナウンサーは予定通りに、今度は解説者に向けて話題を振る。

「どうでしょうか、解説の山崎さん。
 ここまでの秋季予選大会について、何かあれば」

「はい、えーと、そうですね。
 例年に比べ、メダロッターの質が全体的に上昇しているのでは、
 と感じております。
 しかしですね、はい。
 鬼は秋に来る、とこのMJCでは言い伝えがありますからね。
 決勝トーナメント、一波乱、二波乱ありそうですよ」

「非常に楽しみですね。
 では、一旦ここまでのハイライトをお届けします」

 そしてテレビ画面には1~2回戦までの好プレイや珍プレー等の
映像が流され始める。
解説者の言う「鬼は秋に来る」との言葉は、昔日本の名物であった
高校野球のとある俗語から派生されてきたものである。
その言葉通り、実力者が拮抗してくるこの秋、そして冬の大会はいつどこで
強豪が負けても不思議ではない。
故に巷では、一般人は有名所が出る春・夏大会に興味を持ち、
玄人は秋・冬の大会を好むといった傾向があると騒がれている。

 一方で、スタジアム内の受付口では。何処か哀愁漂わせ、フライイーグルを
両腕で抱えながら立ち去っていく久我を見つめる視線が二つ。
それはユキとそのメダロット、レッドカペロであった。
蔑むような眼差しで久我を見下ろすレッドカペロ。

「あれだけの大口を叩いておいて、この様。
 見下せますよね、紅面さん」

「・・・」

 ただ一人戦う決意をし、ユキとの癒着を拒否した久我。
そんな久我をあざわらうレッドカペロ。誰が正しいのか誰が間違っているのかの
判断は決めかねぬが、ただユキはそのレッドカペロの言葉に反応することなく、
無言を終始貫きながら久我の後ろ姿を見つめた。
そう、彼女はその場に居残り、見つめるだけ。この場に残っている。
その事実を、観客席のイセキはメダロッチの情報を通じて知った。

「(ユッキーも2回戦まで勝ってる。
 ツッキー達とは違って対戦相手にもだいぶ恵まれてる。
 まじーな、3回戦の相手もそんなにレベルは高くない。
 こりゃもしかすると・・・)」

 メダロッチに表示されているAブロックのユキの対戦相手を見つめ、
険しい表情を隠しきれないイセキ。
ユキのロボトル、そしてAブロックは比較的他のブロックよりも進行が速い故、
その対戦相手の情報の更新は速かった。
一つ溜息ついて、この事については区切りをつけるとし、イセキは
再びメダロッチの更新ボタンを何回か押した。
次に気になるは、やはりCブロックの、月形一徳の対戦相手。
もう次の対戦相手は2回戦を終え、3回戦の待機をしている状況なのだが、
Cブロック全体がゆっくりなペースで進んでいる関係か、更新されず、相手が分からなかった。
こと、月形本人はすでに相手について知らされているだろうが。
すると、イセキの目の前まで来て、岸がそのメダロッチを覗きこんでくる。

「イセキさん。
 ツッキーの対戦相手はまだかー?」

「通信混雑もしてんだ、もうちょっと待ちな」

「それにしても、3回戦勝ったら決勝トーナメントかぁ。
 いいなぁー、ツッキー。
 だってテレビ、テレビだぜ、イセキ先輩!
 全国ネットでしかも、1試合丸々だもんなぁ」

「テレビに出てモテたいって、顔に書いてあるぜ、岸君?」

「特に否定はしねーぜ、イセキ先輩!」

「(潔いアホだ)
 ん、更新来たぜ」

 岸の真正面な下心に何処か感心すらするイセキであったが、更新ボタンを押して
いた指がついに止まる。
ついに、3回戦の対戦相手の欄が埋まったのだ。
その様子を察してか、隣の席でノミを取っていたロッシュも、一旦手を止めて
イセキのメダロッチを注視する。
果たして、月形の次の対戦相手の詳細はいかに。

「対戦相手は如月ユア。
 使用メダロットはマンティカッターで、フィールドは・・・」

「おいおい、サイバーかよぉ。
 不戦勝で運を使い切っちまったのかよぉ、ツッキー」

「でも別に相手のレベルはそこまで高く無いんでしょ。
 緑の玉も無いし。
 だったら楽勝じゃない、マンティカッターってスペック低いし」

「確かにマンティカッターは単機勝負では使いづらい。
 だが、形にハマると異様に強くなる。
 分かるハズだろ、ロッシュ?」

 対戦相手の名は如月ユア、使用メダロットMTS型マンティカッター。
ロッシュの言うように、名前に緑色の表示がされていないため、
経歴だけならば、2回戦か3回戦レベルということが見て取れる。
そしてまた指摘したように、マンティカッターは単機戦においては非常に扱いづらい。
というよりも、まず単機戦ではお目にかかれない一体。
本来マンティカッターはサポートをメイン、つまり3対3を想定して
使用されるメダロットだからだ。
こう考えれば、まさかの月形優勢となるハズだったのだが。
イセキの問いに対し、ロッシュが今まで学んだことを思い出すかのように、
じっと黙り混み、考え込む。
どうやら岸はそのイセキの答えを見抜いたらしく、軽く溜息をついて落ち込む。
そして、ついにロッシュもその答えに辿りつく。

「そうか、あのカマキリって両腕が回数ドレインになってたわね。
 あら、これってマズいじゃない。
 確かツッキーって・・・」

「そうだ、これでシンセイバーの最大の強みであった頭部反射が消える。
 殴り合いを強制される、序盤からな」

「殴り合いって言っても、回避はできても、当てることができるのかしらねぇ。
 定石なら、射撃で牽制しつつ、避けるのが理想でしょうけど、
 ツッキーには無理な願いね」

「あぁ、シンセイバーの射撃はねらいうち。
 撃った瞬間に、相手の頭部パーツメルトが飛んでくるだろーな。
 避ける行動ができなくなるんだ、相手もその隙を狙ってくるだろうぜ」

 徐々に、徐々に剥がれていくこの月形VS如月ユア戦の全体像。
そしてその中身が見えてくる度に、月形の不利にしか振り子はぶれない。
何と言っても、シンセイバーの最大の武器であった反射が使えないのが大ダメージ。
実は、これがあまり性能の良くないマンティカッターで勝ち進んだ要因。
まず、強力な効果、及び戦況を大きく動かす役目を担う頭部パーツを封じる回数ドレイン。
そして、1対1ならではの、ファイアー継続ダメージからの判定勝利。
この2つの要素が以外に曲者であり、対策を怠ると何もできずに負けてしまうこともある。
まさに今の月形がドツボにはまってしまう相手。
これまでのロボトルも、勝ってきた勝負のほとんどに反射行動が一枚噛んでいた。
あの伴監督でさえも、この反射があるからこそ、月形にシンセイバーを
使用させるのを許したというくらいの、キーパーツ。
この時点で、すでに3:7の割合で不利。だが、その割合すらまた悪くなる。
岸が勇気づけようと、一言加える。

「でもよぉ、シンセイバーは接近戦もできる!
 相手もビギナーだ、密着状態でゴチャゴチャやってりゃ
 一発逆転あるぜ、こりゃ!」

「ダメだ、相手はメルトだぜ。
 一発当てれば良いだけ、後は逃げてれば勝てる。
 継続ダメージでシンセイバーの装甲は勝手に削れる、逃げれば判定勝ち確定。
 これほど楽なことはねーさ」

 イセキの指摘したように、両者共に接近戦をできる型ではあるが、
有利なのは相手だということは明白。
例え接近戦になったとして、相手に一撃与えられたとしても、
こちらも一撃受けてしまうのはほぼ必須であろう、このサイバーフィールドでは。
ありとあらゆる条件が、月形を殺しにかかっているとしか思えないこの一戦。
ヒョウガ戦同様に、まるでお通夜のように暗くなってしまう一向。
この空気を打破しようと、いつもより声を張り上げてロッシュに話しかける岸。

「もー、悪い部分ばっか聞くのはゴメンだぜ!
 ツッキーに有利な部分を叩きつけてやろうぜ、
 なぁ、ロッシュちゃん!」

「まっ、有利ではないけど、相手の装甲が若干の緩和剤ね。
 数値は両腕、脚部、頭部、全て35。
 うまくいけば、シンセイバーの一撃で1パーツもっていけるかも。
 でも、シンセイバーの装甲値なんかもっと低いけど」

「相手のなぐるの隙を狙えって、ことか。
 放熱中を突けたら、脚部を潰せる。
 でも当てられたら、の話なのかよ・・・」

 自分が戦うわけでもないのに気落ちしてしまう岸。
マンティカッターの装甲値は全部35で、基本的に平均よりも低めの数値。
恐らく、なぐる行動の防御不能状態のマンティカッターを狙えれば、
いくら熟練度が低いトラのメダルであろうとも1パーツ破壊は可能。
しかし、やはり当てることがすでに困難なこの状況。
自分のスタイルに合っていると、良かれと思ってやってきた回避特化練習がここにきて、
大きな仇となって跳ね返ってきてしまったのだ。
頭を防ぎ込んでいる岸に向け、あきれながら、自分の考えを展開するロッシュ。

「現実的な線は、相手の頭部回数切れでしょ。
 確か回数は5回、うまく逃げ切れれば判定勝ちできる。
 その辺はツッキーも合宿中にとりあえず対策は考えてあるでしょ。
 実戦で通用するかは不明だけど」

「5回、か。
 本当に微妙な所だな・・・。
 (相手のレベルが不明だから命中・回避の確率も計算できない。
 でもここまで来たんだぜ、ツッキー。
 やってやろう、やってやろうぜ、踏ん張れよ!)」

 何とか月形の有利な点を強引にでも見付け出し、鼻息荒くして気力を
高めようとする岸。だが、冷静に分析すればするほど汚点は明るみ。
そんな浮き沈み激しい二人の会話をよそに、イセキはじっと
フィールドを見つめながら、改めてこの一戦の展望を構想していた。

「(確かに考えれば考えるほど、ツッキーの不利だ。
 フィールド・相性・戦法、ほぼ全て赤点と考えて良い。
 だが、それはツッキーを知るアタシ達の発想だ。
 まだ相手はツッキーについて情報は少ない。
 それに、相手が私達が今さっき語った戦法をどれだけ理解しているか・・・。
 さぁ、どうするツッキー?)」

 様々な角度から物事を分析することができるのも、それは第3者だからこその特権。
実際に戦っている張本人達は、メダロットのメンテナンスに追われ、
相手のロボトルを見る暇すらないかもしれない。
故に、今まで語ったこの展望すらも月形と対戦相手のユアにとっては何の
参考にもならないかもしれないのだ。

 その当の本人である月形とトラは、すでにCブロックのフィールドベンチにて
待機をしていた。試合開始まで残り5分程度。
幸運なことに月形は2回戦を不戦勝で勝ちあがったため、メンテナンス及び
敵情視察はほとんど完璧にできたと言っても過言ではない。
その点で見ると、月形に唯一の有利な線が見える。
頭の中で構想を巡っているのか、ただじっと一点だけを見つめて微動だに動かない月形。
 そんな彼に対し、肩を優しく叩く者が一人。

「もし」

「は、はい?」

「お味噌汁のにぼしは食べてもおいしいままかい?」

 黙りこんでしまう月形。いきなり話しかけられ、その内容を理解できずに
阿呆のように喋りかけてきた男性のところを見つめる。
そしてその数秒後に分かるのであった、彼の隣のメダロットを見つけて。
彼こそが次の対戦相手の如月ユアであることに。
そうと分かると、さっと立ち上がり、礼儀正しく手を差し伸べる月形。
それを見て少し笑顔になり、ユアもまた手を差し伸べ、握手を交わす。

「君が如月ユア君なんだね。
 顔の確認まではしてなかった、お恥ずかしい限りだ」

「フフッ、気にしなくて良いよ」

「大丈夫だったかい、2回戦は。
 かなり被弾していたようだけど」

「見られちゃったのか、やっぱり。
 大丈夫だよ、思ったよりかは」

 ユアと共にベンチに腰掛ける月形。シンセイバーとマンティカッターは
実際に戦う者同士の定めなのか、何処か居づらそうに距離を置いて座る。
ユアは目をつぶって、何かを思い出しながら月形に話しかける。

「君のファイトスタイルを見たよ。
 とてもおもしろい。
 閃きや運に頼らない理屈を通した戦い、好きだよ」

「ありがとう。
 君の戦法も見させてもらったよ。
 ハッキリ言っちゃうと、このフィールドじゃやっぱり不利みたいだね。
 君も理解してるだろうから打ち明けるけど」

「うん。
 でも、僕が勝つ可能性は数%の気がする。
 強いから、君は」

「勝ちたいさ、僕だって。
 だから、勝っても負けても。
 ユア君、僕のことは忘れて欲しいんだ」

「何でだい?」

「君は選ばれた者で、僕はそれじゃないからさ」

 月形のこの会話の中で、その事実に気付いていた。
この如月ユアという男、恐らく何処かの物語のメインかサブキャラであることに。
何の物語か、どういったキャラクターの位置付なのかはさっぱり分からない。
だが、きっとこの男は物語の光りに当たる部分にいる人物であることに間違いない。
風貌・喋り方・存在感・見た目・声、その全てが月形を超えていた。
月形に出会った者達を超えていた。彼は愛されしキャラクターだった。
しかし、そんなえた・ひにん扱いの月形にもジョーカーが残されていた。
それは天が与えた、月形唯一の武器にして、最強最大の切り札。

「(ユア君、君は恐らく決勝に上がるべき人物だ。
 きっと決勝トーナメントの決勝戦で、誰かが君を待っている。
 それを観客も、神も望んでいるだろう。
 だけど、そうはさせない。
 僕はそれを防ぐ力を授かっている。
 いや、可能性を与えられている。
 それが本当に正しいかは分からないけど、僕は君を全力で止めてみせる。
 これだけが、僕の、今の全てだから。
 君の物語を、ここで止めてみせる)」