>> メダロットライズ にもどる
第36話「浄」 ( No.36 )
日時: 2013/07/13 18:29
名前: ランド


 早朝、月形ら4人は伴の家へと向かって歩いていた。午後にバイトを控えていた
彼らは仕方なく、朝は早くから出向くことになった。しかし、眠気は無かった。
伴の賭博疑惑によるMJC夏季予選大会の出場停止処分という眠気覚ましが、
昨日の夕方から4人の脳裏を支配していた。
 イラ立ちを隠せず、岸が身振り手振りを大きく使って、その不満をぶちまける。

「本当にありえないよな、あのジジイ!
 俺達から金を蝕んでいただけじゃなく、大会まで潰しやがってよぉ!
 今更美少女の孫とか紹介されても許されねーよ!」

「ほんと、ほんとーっ!
 これで伴闘会のイメージも下がっちゃうし、
 アタイのお嫁ポイントも減っちゃうよーっ!」

 昨日から何回も繰り返しているであろう不平不満を言い放つアセビと岸。
元からうさんくさいと疑っていた月形以外のメンバーが怒るのも無理はないだろう。
アセビのいうように、お金だけでなく、月形ら自身の評判まで落としかねない事態。
何も言わず、顔を下に向けてただ黙々と岸とアセビの愚痴を聞く月形。
何を言えばいいのか分からなかった。伴を彼らに紹介した責任は自分にある、そう思うと、
自分からはとても伴を責めることはできなかった。
 そんな月形の気持ちも考えずに、ロッシュがささやくように話しかける。

「ちょ、ちょっとツッキー。
 まさか私の反則攻撃も停止処分の一因になってる
 なんてことはないわよね」

「安心してくれ。
 君のことについては何も記載されていなかった。
 恐らく、本大会出場については何ら問題ないだろう」

「あら、そう。
 なら言わせてもらうわよ、ツッキー。
 あの妖怪を推薦した責任はとやかく言わないわ。
 ただ、授業料はきっちり返してもらいなさいよ、いいわね」

「う、うん」

 もしや自分の反則すれすれの攻撃が停止処分の要因になっているのではと、
昨日から強く伴を叩けなかったロッシュ。しかしこれで晴れて無実が分かり、
これみよがしに言いたかったことを月形にぶつける。
それでも月形はただただうなずくしかなかった。しばらく歩いて、ようやく家に辿りつく。
怒り心頭の3人をよそに、気分重たげに月形がドアを叩く。
何度も、何度も叩いた。

「どうしたんだ?
 いないのかな」

 家の中から返事は無かった。逃げたのか。そう月形の脳裏を過ったが、
たかだが子供達の借金取りから逃げるなど到底考えられない。
 家の周りを探索しようとしたその時、近所の住人らしき年配のおばちゃんが
月形に話しかけてくる。

「ちょっと、アンタ達。
 伴さんになにか用があるのかい」

「え?
 はい、いないようですが」

「知らないのかい?
 伴さん、数日前から病院にいるんだよ」

「病院、ですか?」

「そう。
 なんでもね、噂だと刺されたらしいわよ」

「さ、さ、刺されたぁあっ!!?」

 その言葉に驚きを隠せない4人。何と、あの伴が病院に、しかも刺されて。
何が起きたか分からず呆然と立ち尽くす4人。一体伴に何があったのか。
4人に不気味な風が吹き荒れる。

 その日の夕方。場所は町の小さな病院の一室。小汚い個室の、染みのついた
ベットの上に伴はいた。頭と足に包帯が巻かれている状態で、天井を向いて
横たわっている。その近くには、イスに座っている賭博仲間の戸村がいた。

「伴さん、本当にツイてないねぇ。
 優勝は辛口にかっさられるわ、賭博はバレるわ。
 おまけにその日に刺されるだなんてねぇ」

「あぁ」

「元気ないじゃないか、伴さん」

「教え子に刺されたんやで。
 そら元気も無くなるわ」

 伴の答える言葉の一つ一つに、全く覇気が無かった。伴が刺されたのは元教え子。
恐らく、チームを監督していた昔の時の教え子であろう。
伴闘会というチームの住所関連の一切を公表しているがために、このような
事態が起きてしまったのである。
さすがの伴でも、かなり気が滅入っている様子であった。
 何か懐かしみ、思い出すように、刺した人物について一人で語り始める伴。

「アイツは素質があった。
 ワシが目を掛けて、徹底的に指導してやったんや。
 だが、ある日を境に来なくなった。
 神経質やったんや。
 ・・・心が壊れてもうたんや。
 刺された時には、ソイツは鬱病やった。
 狂とった、もうあの目は、治らん」

「でも、伴さんの指導で心をヤラれたのってのは、
 一人や二人じゃないんだろう?」

「そや。
 ワシだってあの頃はまだ親切心やった。
 親切心で、凡人を、天才に勝たせてやりたかった。
 凡人を育てるのが好きだったんや、不合理が好きやったんや。
 だから熱が入った、手がでてまうんや。
 だけど、どうや。
 今、ワシの教え子は鬼になっとったわ」

 初めて見せる伴の弱み。今までは必死に自分を正当化してきた。
厳しい指導もまた、愛情表現の一部。加えて、彼らの未来を構築するための糧にできれば。
そう思い、つい熱くなって指導してきた。だが、その想いは当然教え子らに
届くハズはなかった。そんな伴の沈んだ気持ちも気にせず、戸村が薄ら笑いをしながら
話しかける。

「それでさ、伴さん。
 当然その刺した奴に被害届を出すんだろう?
 慰藉料、たんまり取るんだろう?」

「被害届、か」

「その金でさ、またやりなおしましょう。
 伴さんの豪運を見せてくださいな」

 伴は黙った。まだ伴は被害届を出していなかった。実は事件当日、襲われ、
刺されたものの、すぐにその両親がかけつけ大事には至らなかった。
その両親のお金で現在、入院をしていることもあり、ケガの原因は
「屋根から落ちた」ということにしてあった。
医者から見ればすぐにその矛盾は導きだせそうなものだが、
小さい町の廃れた田舎病院、両親の出した金にころっと病状を変えてみせた。
幸い、頭もかすった程度、また足の方もそれほど傷は深く無かった。
だが、今からでも被害届を出せば遅くは無い。戸村の言うように、慰藉料を取れるのは確実。
けれども、素直に伴はイエスとは言えなかった。

「もうええわ。
 疲れてんのや、出ていけ!」

「な、なんだい、伴さん。
 慰藉料取らないってんなら、もうアンタに用は無いよ。
 良いのかい?
 もう賭博はできなくなっちまうよ」

「・・・」

「ッチ。
 お別れだよ、伴さん」

 捨て台詞を吐き、戸村は病室から出て行ってしまう。一人、部屋に取り残された伴。
伴は慰藉料を取るとは言えなかった。教え子のあれほど変わり果てた姿を見て、
いくら図太い神経でも、精神的に参ってしまっていた。
 再び、天井を見るだけの生活が始まる伴。

「(あの刺してきた時の、歪みきった顔が忘れられん。
 何でや、何がいけなかったんや。
 おまえは、勝ちたいからチームに来たんやないんか。
 勝ちとうないんか。
 だったら、我慢せぇや、我慢や。
 バカが。
 これだから、最近のガキっちゅうのは。
 これだから・・・ワイは、アカンかったのか?)」

 心の中で自問自答を繰り返す伴。自分の行ってきたことを今まで正当化してきた。
だが、さすがにこの事件で考え方が揺らいでいた。間違っていたのか。
勝つことだけを求めるやり方は間違っていたのか。自分の今までの全てを否定
されるようで、伴はいてもたってもいられなくなった。
ベットから起き上がり、戸村がさきほどまで使っていたイスに座り、
そして窓を開け、空を見上げる。

「(教え子にも、全員怨まれとるんやろうか。
 ワシが育てた菊池も、プロにはいなかったが才能はあった遠藤も。
 アイツも、コイツも。
 怨まれとったんか。
 結局、ワイに寄ってきたんは、可能性ある子供やなく、腐ったゴミ連中。
 そんで堕ちた先のクズ連中にも見限られるとはな。
 とんだお笑い者やな)」

 自分の過去を振り返り、あらためて、その愚かさにあきれるばかりの伴。
今までずっと、過去を振り返るのが怖かった。だが一人になって、
鬼を見て、ようやく振り返る時が来てしまった。空を見たまま、自分を見つめ直し、
唇を震わせながら、つぶやく。

「なんでこないなっとんのや、ワシは。
 なんでこないな惨めな生活しとんのや。
 もう何も、あらへんがな。
 一人やないか。
 あの時、あの時や。
 魔がさしたんや、あんなちっぽけな金が、たまらなく欲しかったんや。
 心奪わてもうたんや、賭博なんぞに。
 なんなんや、もう。
 こんな歳じゃ、やり直しもできへん。
 終わりやがな、ゴミのまま・・・」

 暴君の目に、涙がこぼれた。教え子にも、悪魔にも見捨てられた、老人が一人、
病室にいた。そして、一気に老けていく自分がまた愚かしく思い、
涙が止まらなくなった。すると、窓の外から何か騒がしい声が聞こえてくる。
病院の近くだというのにその少年らの声は増すばかり。
目を向けてみると、そこにいたのは。

「人が良すぎるぜ、ツッキーはよぉ!
 まさか、本当にあのジジイのひ孫が美少女だっていう
 情報を手にしたのか!?」

「違うよ。
 ただ気持ちからお見舞いの品を持っていくだけだ」

「でもさー。
 渡したらこれでキッパリ、おサラバだよね!」

「いや、僕のわがままなのだが。
 確かに非道なことをしたことに変わりはない。
 でも、あの人は受け入れてくれた。
 才能も、華も、素質もない僕達を拾ってくれた。
 金の力もあるけど、それでもうれしかったんだ。
 貧乏な僕達を少しでも勝たせてやろうと考えてメダロットを選んでくれあの瞬間、
 凄く、うれしかったんだ」

 月形の言葉は、病室にいる伴の耳に届いたかは定かではない。
だが伴はただ黙って、再びベットに腰をかけた。そして刺された足をじっと見つめた。
元教え子が切りつけた、意思のある痛みを。そのうち目をつぶり、意を決するのであった。

「まだ・・・人間に戻れるかもしれん」