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第28話「俺の名を見たか」 ( No.28 )
日時: 2013/05/18 17:21
名前: ランド


「あっ、イセキさん。
 大会情報が更新されましたよ」

「なになに」

 イセキの持っていたメダロッチを使って、更新された2回戦の
開始予定時刻及び、その対戦相手を確認する二人。

「おいおい、3人とも開始時刻11時からかよ!
 こりゃどれを見ればいいか迷うな」

「イ、イセキさん!
 ツッキーの対戦相手を見てくださいっ」

 2回戦に進んだ月形・岸・ロッシュの伴闘会の3人の試合開始時刻は
いずれも11時から。1回戦のようなちょうど良い具合のバラバラの予定時刻から一転。
 どれを見ようか悩むイセキに対し、ユキはそれぞれの対戦相手を見ていて
あることに気付いた。月形の対戦相手。
その対戦相手に対して違和感を覚えたのはユキだけではなく、Dブロック選手控室で
メンテナンスを行う月形も感じた。

「2回戦のこの子、確か」

「どうしたんでっか、旦那。
 はやく視覚センサーのチェックしてよ」

「ツユクサカオル。
 そうか、たしかこの子は!」

 ツユクサカオルという名に何か詰まるものを感じた月形。
トラのメンテナンスの手を止め、数秒考え、そしてその答えはでた。
すぐに持ってきたカバンからとある資料を引っ張り出す。

「この子はユキりんの資料に載っていた!
 えーと、なになに」

「女の子なん。
 だったらええ勝負ができるやん!」

「”要注意人物。対戦すればかなりの確率で負けるかもしれません。
 その時はツッキーの勇気と気力でカバーしてね”」

 ユキのメッセージが月形をさらなる絶望に飲み込む。大会から更新された
情報と照らし合わせても、ユキが事前に調査した使用予想メダロットと一致していた。
恐らく、記された戦法もまた的を射ていることであろう。
 だが、いくら情報を得ていても、レベル・経験の差は圧倒的。
月形はこの埋められない差を、1mmでも埋めるための何かを、
手に取った資料を茫然と見つめながら考えた。

 そして、時は過ぎる。現在時刻10時55分。
 ほとんどのブロックで第2回戦が始まっており、着々と大会は進行する。
伴闘会所属の岸、ロッシュ、月形もまたすでに2回戦のために、
フィールド前で待機をしていた。
 その様子を遠目から眺めるユキとイセキ。

「どうするんだろう、ツッキー。
 相手の女の子は実際に見たけど、凄く強かった」

「見ものじゃねーか、ユッキー。
 相手のメダロットはPCV型ガイライン。
 フィールドはステージで、お互いメリットデメリット無し。
 本当に冬の大会までにベスト16に残りたいってんなら、
 ここいらで一発、番狂わせをみせてもらわなきゃーな」

「(ツッキーのレベルが当時のままで考えてメモを書いたけど。
 もし、あの頃よりも少しでも腕が上がっていれば・・・。
 もしかして、もしかして)」

 イセキの言うように、強敵メダロッターが対戦相手だからあきらめる、
では到底大会では勝ち抜けないのだ。
これはいわば試練。本当に月形が本戦に進めるだけの要素を揃えているかの。
 そんな挑戦心を観察しようとするイセキに対し、当の本人である月形は
どこか、思いつめた表情をしていた。
わざと対戦相手とベンチの距離を離れて座る月形に、トラは話しかける。

「旦那、さっきから顔が怖いでっせ。
 ゲリなん?」

「トラ、わかるかい。
 ユキりんの手記に彼女の名前があった、しかも要注意として細かく情報があった」

「?」

「ツユクサカオルはきっと、物語のメインポジションにいる。
 光が当たる場所で活躍する役目を担っている。
 端役を躊躇なく潰すことで、強いという証明を維持している。
 端役と対比することで、輝いている。
 端役達の残骸の上で立つことで、メインの保証を得ている。
 ・・・負けられないよ。
 倒したい、アイツを!」

 月形は気付いた。誰かにツユクサカオルはどの物語のどういうキャラで、どういう過去が
あるのかと聞かされたわけではない。だが、知らず知らずのうちに
彼女の名前を連呼し、そして強敵として脳裏に止め、宣伝してしまう自分がいる。
それが彼女のメインキャラであることの証明。
月形が倒さなければならない相手の一人であることの証拠。
 審判に呼ばれて、フィールドに向かう二人。

「Dブロック202番伴闘会所属、月形一徳選手。
 204番せいどう学院所属、ツユクサカオル選手、間違いありませんね?」

「はい」

 月形はカオルの目を見ようとはしなかった。ただじっと、何か
深刻そうな顔をして下を向いているだけ。
一方のカオルはそんな月形をまったく気にせず、目をつぶり、淡々と
審判の言葉に耳を傾け、従うだけ。

「・・・注意事項はこれまでです。
 フィールド完成しだい、すぐメダロットを設置すること。
 それでは、両者メダロッターポジションに向かってください」

 審判が一通り説明を終え、両者をロボトルにて相対させるように
メダロッターポジションへと向かわせる。
カオルが背中を向け、別れようとしたその刹那である。
後ろから聞こえてくる月形の声に反応する。

「僕の名前を見たかい」

「?」

「僕の名前は知っているかい?
 しらないだろう。
 しるはずがない。
 君の広告塔につかわれていった端役の名なんて知らない!」

「何を言ってるの」

「何を言っているのか分からないだろう。
 僕みたいな無名が、決められた台詞を吐けないことに理解ができないだろう!
 分からせてやる!
 君も端役に、壁に、養分に、死人にしてみせるっ!」

 月形は言い放った直後、背を向けて去っていってしまう。
勝手に吹っかけられて、勝手に納得させられてしまい、唖然とするカオル。
傍から見れば、一方的な思い込み、被害妄想。はた迷惑極まりない月形の言動、行動。
だが、それでも月形はこみ上げる思いを抑えきれなかった。
ずっとふせぎこんで我慢していたものが、飛び出してしまった。
カオルに悪意はないということは月形とて、十分、理解している。
しかし、無意識に端役を蹴飛ばす彼らに吠えたい、噛みつきたかった。
その何気ない行動を自分たちモブが今まで、感情もたず、従ってきたことに。
 メダロッターポジションに着き、完成したステージフィールドにトラを
送り出す月形。いよいよ始まる。
初のメインキャラとの対戦、月形の目的を果たすべき相手との対戦が。

「ロボトルファイト!」

 始まった月形対カオルの第2回戦。フィールドはステージであり、
二脚型のトラとガイドライン、どちらも不利ではない。
ステージという利用物が少ないと思われる地形でどのように策略をめぐらすか。
月形の選択した指示に、観客席のユキとイセキは目を見張った。

「あ、あれはっ」

「なるほどな、ツッキー。
 そうきたか」

 開始直後、トラは一歩も動かず。両腕で頭をブロックし、身を小さくして、
完全防御態勢に。果たしてこれが意味するものとは一体なにか。
 イセキ、そして対戦相手のカオルはすぐにその意図を読み取った。

「どういうことですか、イセキさん」

「ツッキーは賭けに出たのさ。
 攻撃の一切を捨て、防御姿勢から反撃を取るっていう戦法でな」

「なるほど」

「まー、できない頭にしては考えた方だな。
 地形がステージじゃ逃げ隠れもしにくいし、
 特に相手は強豪メダロッター。
 こういうこすいやり方で何とか対等に持っていこうとしてるんだな」

 月形がとった戦法は大胆不敵の反撃頼りの戦法。
あまりに無謀、というわけではない。ガイラインは頭・両腕と攻撃パーツ
しか所持していない。その情報をユキの資料から見てとった月形の英断。

「(こうするしか僕に残された勝機はない。
 監督に言われたように、綺麗な勝ち方を捨てるんだ!)」