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第12話「咆哮する平時」 ( No.12 )
日時: 2013/02/25 09:37
名前: ランド


「勝者、月形一徳、トラ。
 勝った者はこの紙を大会本部の記録員に渡して下さい」

 第1回戦のロボトルが終わり、それまでの記録を記した紙を手渡される月形。
月形は勝利したのだ。あれほど苦しく、絶望的な状況から。
 だか、その当の本人の月形の顔に笑みは全く無かった。
 一方で、圧倒的に有利な状況からまさかド素人に敗北してしまった久我。
ショックからか、いまだにメダロッターポジションから一歩も動くことができなかった。

「俺が、全国プレイヤーの俺が、
 あんな、あんな奴に・・・!」

 久我は手首につけたメダロッチを力の限りはぎ取り、そして、地面に強く叩きつけようとした。
だが、叩きつけようと振り上げた腕は、冷静を装う感情と対決し、振り下ろす
ことはできなかった。
 そのころ、試合を観戦し終わったイセキとユキは、月形の帰りを待つべく
応援席に急いで戻る。

「あのイセキさん。
 一つ質問があるんですけど、よろしいですか」

「何だよ、ユッキー」

「どうしてあの対戦相手の方はトラちゃんの反撃パーツが残っているのに
 わざわざ頭部パーツで攻撃を仕掛けたんですか?
 経験者みたいだったし、シンセイバーはそれなりの人気機種、
 パーツが分からないことはなさそうなんですけど」

「たぶん、二つの理由があるだろうよ。
 初期型のシンセイバーは一般メダロットにしては強すぎて、
 今の改良型になったって経緯があるんだ。
 その初期型の頭部パーツがホールド攻撃。
 たぶん、アイツは禁止パーツ使用不可じゃない今大会ならば
 当然勝つために初期型のシンセイバーを使ってくると思ったんだろうぜ」

「なるほど」

「それに、頭部パーツの反撃はそれなりに
 メダルのレベルを上げておかないと成功しないんだ。
 まっ、その点に関してはアタシもよく分からねーけどさ。
 だけど、今はそれより・・・」

 なぜ月形が勝てたのか、その原因を細かく分析しているイセキ。
そんなイセキの姿をまるで惚れ惚れとしているように聞き入るユキ。
 だが、そんな終わったことはどうでも良いのだとイセキは感じていた。
 問題はこの先。イセキは前々から悪い予感がしていたのだ。
応援席に戻ると、そこにはすでに月形とトラが待っていた。
傷ついたトラをシートに寝かせて、どうしようもなく不安気な顔で見つめる月形。

「ツッキー!」

「ユ、ユキりん、イセキさん」

「おめでとう、ツッキー!
 ちょっとドキドキしちゃったけど、初ロボトル初勝利だね」

「おいおい、ユッキー。
 今はんな悠長なこと言ってられる時じゃねーぞ。
 分かってるよな、ツッキー?」

「は、い」

 祝福の言葉をかけるユキだが、月形の表情はあまりにも重苦しい。
まるで負けたかのような雰囲気すら漂う。
 イセキはシートで休んでいるトラの損傷状況をつぶさに確認する。
 その様子をただ呆然と眺めているしかない月形。
そして、しだいに両腕拳を強く握りしめ、震えだす。
その異変に気付いたユキ。

「僕が甘かった・・・!」

「ツッキー」

「何も、何も分かってはいなかった。
 トラを見殺しにしてしまうところだった。
 あまりにも、僕が馬鹿過ぎた・・・!」

 さきほど行った散々のロボトルを思い出し、くやしさに怒り震える月形。
まともな指示を一切できず、ただトラをなぶり殺しにされる所だった。
唯一まともに指示ができた最後の場面でさえも、それは単なるイセキの助言のおかげ。
月形自身は終始、あたふたすることしかできなかった。
 何と言葉をかけてやればいいか分からないユキ。
 しばらくして、パーツの状況を確認したイセキが、深刻そうに顔を持ち上げる。

「キッツイな。
 脚部はそれなりの時間がありゃ回復するだろうが、
 左腕はもう使えねぇ。
 右腕も刀が折れちまってる、死に体だ。
 まともに動くのは脚部と頭部ってところだな」

「だ、だが、あと20分後に次のロボトルがあるんだ、
 イセキさん!」

「さっきもふと思ったんだが、ツッキー。
 おまえ、トラのスペアパーツ持ってるのか?」

「えっ」

「パーツだけじゃねぇ、ガトリングの弾丸、コテツザンゲキの刀、
 それらの補充パーツもちゃんと持ってるのか?」

「い、いや」

 イセキがさきほど感じた違和感はこれだったのだ。
月形はメダロットのスペアパーツの必要性を全く理解、いや知らなかった。
動揺を隠しきれない月形に、言い聞かせるように語るイセキ。

「ただロボトルを続けられるだけなら誰も苦労しねーんだ。
 こういうトラブルがあるからこそ、ロボトルなんだ。
 ゲームやアニメとは違う、分かってんのか、ツッキー?」

「・・・」

「今は叱っててもしょうがねぇ。
 とにかくアタシはショップの方に戻ってスペアパーツがあるかどうか
 見てくるぜ!」

 落ち着いた口調でも、その内容は確実に月形の失態を責めていた。
もし月形が主人公であれば、久我戦が終わったのを区切りとして、
今回の話では初勝利に仲間と共に賑わい、次の対戦相手、ライバルを気にしていたハズ。
弾丸も、スペアパーツも、自動的に全て元通りになっているに違いない。
だが、モブである月形にはそんな特別は起こらない。
誰もが興味を削がれ、面倒と思うことを排除した、都合の良いことなど起こらない。
 仕方なくイセキはスペアパーツを持ってくるために、急いで
働いているメダショップへと向かおうとする。
 だが、そんなイセキを引き留めるユキ。

「で、でもイセキさん!
 ここから私達の働いているメダショップは・・・」

「やってみなきゃわかんねーさ。
 後15分、止まってられないよ。
 とにかくツッキー、オマエは10分前になったらフィールドの方に向かってろ!
 何とか間に合わせる!」

 そう言うと、イセキは全力でメダショップの方向へと人ごみかきわけ走り去っていく。
ユキは恐る恐る、月形の表情を確認した。
月形はただくやしそうに、ボロボロになり、言葉もまともに発せないトラを見つめていた。

「ツッキー・・・」

「・・・」

 ユキも月形も、何も言葉を発することはできなかった。
あまりにも認識が低かったという後悔を、この時二人は身を持って思い知らされた。

 そして時は過ぎ、月形は第2回戦のフィールドまできていた。
開始まで残り5分。ユキはイセキが間に合うのを目をつぶって願うしかなかった。

「お願い、お願い、お願いします。
 間に合ってください、イセキさん」

 だが、無情にも審判は第2回戦のフィールド中央へと、月形を誘う。
ほとんど歩けるだけの状態のトラを連れて、月形はその指示に従った。
 ゆっくりとした歩調のトラに合わせ、心配そうに見つめる月形。

「9番のアマアシさん、12番の月形君で間違いないね?」

「ハイだにゃー!」

「は、はい」

 ついに始まってしまう第2回戦。
始まってしまえば、もう待ったをすることはできない。
着々と進行させる審判に、思わず遅延を願いたくなる月形。
 だがし、しかし。

「ではこれより、第2回戦の試合を始めます。
 フィールドは草原。
 試合時間は8分、延長は無し。
 じゃあ、お互い握手をして」

「よろしくだにゃー」

「よ、よろしくお願いします」

 1回戦に当たった久我とは打って変わって、友好的に握手をするコスプレ風の少女、アマアシ。
始まる、絶望的な第2回戦が。
勝ち目が無いと断言できるほどの、負けるだけの戦いが。

 それから5分後であった、イセキがスペアパーツを持って会場に到着したのは。
汗にまみれて、ユキを見つけ出すイセキ。

「ユ、ユッキー!!
 ツッキーは・・・!?」

「・・・」

 両手で顔を覆い、しゃがみこむユキ。
イセキが視線をフィールドに向けると、そこにはゴミクズとなったトラの姿が。
メダロッターポジションで、膝を落としてうなだれている月形の姿が。
 対照的に飛び跳ねて大喜びするアマアシの姿がより一層、
月形とトラを惨めにさせた。