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Re: 【白ツツジと腕のなか】 ( No.3 )
日時: 2016/01/08 01:32
名前: 通りすがりのコンビニ店員




 北の将軍は冷たい女王陛下にひれ伏して、剣をとる。



<サザン>



 サザンには、生まれ落ちてから、疑問に思っていたことがある。
 ――誰かを犠牲にすることは悪なのか。
 誰かを犠牲にして幸福を得ることは。誰かを犠牲にして命を繋ぐことは、罪なのか。

 サザンの生まれた国は北にある極寒の地だ。
 常に氷柱《つらら》と吹雪に覆われた、スノウクイーンに愛された魔境の国。
〝カシシェイ〟。
 この国では貴族、王族と呼ばれる階級でもその暮らしは贅沢には程遠い。こと食糧問題になればそれは顕著だ。比較的健康的な男性は飢え、女、子供は大切にされるがひもじい思いをすることには変わりはない。北の民の生活の傍には常に冷たい死の女王が佇んでいる。

 サザンは比較的裕福な家柄に産まれたおかげで本当の飢えは知らない。病気にかかりにくい優良男児で、冷たくなってしまった多くの兄弟の中、彼は唯一最後まで温かなまま育った。彼の父親と同じように。体格にも恵まれた北の民らしい戦士へと成長した。そして戦いへと赴くようになった。飢えを知らない家柄のその務めを果たすために。

 北の寒さは厳しい。吹雪と共にやってくるスノウクイーンは産まれたばかりの赤子を好み、その次に体力のない女性を好む。年々減っていく子供の数を。灯りのつかなくなった家の数を。サザンは15歳の成人の儀を迎えた時に数えるのをやめた。


 食糧事情の厳しい北の地に生きる、カシシェイの民の生業は戦いである。
 数度交えれば欠けてしまうような青銅の物とは一線を画する、最強の金属とも、覇者の剣とも呼ばれる――鉄剣を武器に戦士たちは戦う。北の地にある死を司る山は、鉱山だ。唯一北の民だけがそこで取れる製鉄技術を保有している。強くなければ生き残れない環境とこの製鉄技術がカシシェイの民を最強の戦士とし、打って出れば負けなしの最凶の軍事国家たらしめている。

 カシシェイの民の中でもサザンは抜きんでた戦士であった。
 成人の義を過ぎてからサザンは幾度となく戦場に駆り出された。そして必ずスノウクイーンと出会った。実際に見えない声だけのその女は、幻のようなものだ。祖国を遠く離れた敵国であっても冷たい女王は彼の背後に佇んでいて、サザンが敵の命を手にかける時そっと耳元に囁いてくる。

 ――そうだ。奪え、奪ってみせろ。

 止めを刺し、殺した男の金品を剥ぎ取り、女たちを捕らえて、作物を根こそぎ荒らし尽くし。そうして奪い尽くして糧を得ている間だけ冷たい女王は沈黙する。敵国の民の命を犠牲にすることで、一時だけの安息を得る。戦場で刈り取る兵士の命は女王への供物だった。自分たちが犠牲にならないための、犠牲。

 戦場で体温の感じないその女王の囁きを聴くたびに、手にした剣をみてサザンは思った。
 他国から覇者の剣と呼ばれるこれは、呪いの剣だ。
 いずれ滅びゆく運命だった我ら。その遠くない運命は、この剣を手にしたために、転換した。滅び行くはずだった部族から他国を侵略する軍事国へと――女王陛下の囁き。女王陛下の思し召し。この剣を与えたもうた我らの女王陛下。だが彼女は守護者でもある。その吹雪は他国からの侵略を阻み、不慣れな侵入者を容赦なく死に誘う。だからこそカシシャイは不敗でいられる。自らの領土が犯されることも、戦場になることも、絶対にありはしない。我らの祖国は冷たい女王の加護がある。たとえ、その女王自身によってその首を占められていようと、我らはひれ伏すことしか出来はしない。

 ――あぁ。我らを護り、そして苦しめる。偉大で、残酷な、死の女王《スノウクイーン》。

 手にした剣が女王陛下の祝福であれ、呪いであれ。
 結局はひれ伏すことしか出来ないのだから。
 囁かれるままに振りかざすことしか出来ないのだから。



 ――誰かを犠牲にすることは悪なのか。
 誰かを犠牲にして幸福を得ることは。誰かを犠牲にして命を繋ぐことは、罪なのか。



 答えなど考えるまでもない。
 本来、強さだけで続けられるほど、孤立して何時までも保ち続けられるほど、国というものは強固ではない――だから本当なら滅びの道を示唆された時。我々は剣を捨てるべきだったのだ。囁きを拒絶するべきだったのだ。他国との友和を目指すべきだったのだ。

 だが北の民はスノウクイーンの剣を取った。

 滅ぶはずだった部族が、軍事国家にまでののし上がり続いてしまった代償は、いずれ必ず払う時が来る。
 それだけの犠牲を擦り付けてきた。それだけの憎しみを買ってきた。
 だが選んだしまった以上、もう走り続けるしかない。
 かった憎しみは連鎖して続く。



 ――誰かを犠牲にすることは悪なのか。
 誰かを犠牲にして幸福を得ることは。誰かを犠牲にして命を繋ぐことは、罪なのか。



(我が国の破綻の時は近い。罪はいずれ断罪される。だから我は、安心して罪を重ねればよい)


 その罪深き人生を、精一杯全うしよう。


 身ごもった最愛の妻が宿っていた子供ごとスノウクイーンに見初められた年に、サザンは一戦士から将軍となった。彼は亡骸を縋りつきむせび泣きながら、北の民らしい誓を立てた。――女王陛下に捧げる罪深き人生と、その断罪を。


 これはサザンが血濡れの戦場でトゥーイという少女を拾う8年前の話。


 もしくは、北の不敗神話が東の魔女《ミタンニーナ》に破られる19年前の話――。





前に何てつけたか忘れたので、北の国の名前変わっているかもしんない。
今回のカシシェイはロシアの御伽噺?歌謡?の不死身の化物から。
美しいお姫様をさらった冷酷で残虐な不死身の魔王と姫を奪い返そうとする皇子のおはなし。
だが名前を借りただけで 本 作 に 特 に 関 係 は な い。

というかくっそ重い回になったな何でだと思ったら会話が一切ない驚愕の事実。そりゃ重くもなりますは…