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Re: 【白ツツジと腕のなか】 ( No.2 )
日時: 2015/12/26 04:30
名前: 通りすがりのコンビニ店員



 愚かなほどに気高くあれ。


<シュピルマツ>


 母が殺し損ねた幼な子が後宮を出て、王城の一室に移る。
 そんな噂を聞いて、さてその子供はどんなものだろう、と、シュピルマツが見に行ったのが八年前。
 母を失い、さぞかし疲弊し弱っているだろうと思っていた幼な子の瞳に宿っていたのは、悲しみでも虚無でもなかった。――ひと筋の光だ。


 目が合った者を惹き付ける圧倒的な意志。


 シュピルマツは自覚せず足を止め、唾を飲んだ。美しいと思った。漆黒の瞳を涙で濡らし、憎悪を燃え上がらせる目の前の少女が。
 少女が灯す暗く猛々しい憎しみの光に、シュピルマツは魅せられた。


「――兄様」


 今も耳に残る。異母妹の声。


「私はあなたの母と、あなたの流れるその血を一生、許さない」


 憎しみの光を宿し許さないと口にしつつ、自分のことを兄と呼んだ小さな妹。相反する思いを抱えて、それでも自分を殺したいのだろう。
 ずっと、わかっていたことだ。八年前からずっと。
 だから――



かつ、かつ、かつ



 指先で椅子のひじ掛けを叩いていたのを止め、セピアの瞳を持つ青年は閉じていた瞼をあげる。そうして、大勢のお供とともにやって来た、美しく成長した異母妹を天幕に迎え入れる。


「こんにちは。兄様」


「……来たのか」


「えぇ。兄様に死んでもらうために」


 かつて、幼な子が後宮を出て王城に移ってからすぐに、母である王妃が死んだ。表向きは病死。しかし実際は毒殺で、毒殺させたのは王付きのメダロットであるキッズワトナ。誰しもがそう思っている。それは正しいだろう。後宮から王城に移ったばかりの年端も行かない王女が、王妃を殺すことは不可能だ。ただ幼く、ろくな味方がいなかった王女でも、発破をかけることぐらいは出来る。キッズワトナに王妃を殺すよう唆したのは間違いなく目の前の少女、ミタンニーナだ。
 そして現在の彼女はもう幼な子ではない。


「――断る」


「断れると思って?」


「断ると言った」


 シュピルマツは腰に引っさげている剣の柄に手をやり、その指で柄を撫でる。紺の下地に金の細工で精巧に凝らされている鷹の紋章は、彼が王族であり、正統な王位継承権の持ち主であることを表している。


「兄様。貴方の軍は全滅した」


「正規第一軍《親衛隊》は残っている」


「親衛隊が潰れていれば、貴方の首は刎ねられて我が国は負けていた――だけどその親衛隊もほぼ壊滅しかけていて、残りは数名。こんな状態で、援軍である私たちが到着するまでよく持っていたものね。さすがは陛下の直軍。兄様も、それを貸し与えられておきながら、彼らを無駄死にさせ、北の軍に追い込まれ、それでも生き残っていた――その事実だけは、褒めてあげる」


「お前に俺は斬れんだろう」


「兄様には軍を壊滅に追いやった失態の罪がある――援軍を連れて来た指揮官《わたし》が、戦場でそれを裁いても、それは当然のことでしょう?」


「ふざけるな。何が当然だ。戦場での罪は、戦いが終わったのち王宮で下るのが通例だろう」


 愚にもつかない正論を吐き、シュピルマツは命令した。


「あるいは俺が貴様より、王位継承権が下だったならば押し通ったことかも知れんが――書状を渡せ。ミタンニーナ」


「何の事かしら?」


 漆黒の乙女は可憐に微笑んだまま、小首をかしげる。


「陛下から預かっているはずだ。援軍の指揮を、俺に託す書状を」


 預かっている。
 二つの歯車と鎖の紋章が入った、恭しくも、忌々しい、一枚の紙切れ。


 ミタンニーナは悠然と微笑んだ。


「こんなものなかったことにして――いいえ、渡さずに死んでしまっては我が国は負けてしまった事になるから。そうね。書状は確かに渡したけれど、その時には致命傷を負っていた可哀相な王子は、そのまま息を引き取った――ことにして、」


 白魚の手が、優雅に掲げられる。
 シュピルマツを取り囲むオリエント国の兵隊たちが、一斉に剣を引き抜いた。


「私が軍の指揮官になる、ことは簡単だわ」


「同じ事を二度言わせることがお前の趣味なのか?」


 突きつけられる銀の刃。しかしシュピルマツがたじろぐ事はなかった。
 柄から手を放し、ゆったりと両手の指を組む。そして、そのままセピアの瞳を細めて嘲ってみせた。


「俺が致命傷など負っていないことは父上の正規軍である親衛隊から父上の耳に報告が入る。偽証などすぐに見破れるのが落ちだ。まぁ殺すだけでいいのならば、王宮の小手先の入らないこの場は俺を始末する絶好の機会ではあるが――お前に俺は斬れん。お前自身に剣を持つ力はなく。かわりに俺(王族)を兵たちにさせると言うのならば、その兵たちを王族殺しで処分せねばならん。母親を無くして寂しがりやな我が妹は、傍にいる者をひとりでも多く残したがるからな――1人の兵士を犠牲にすれば俺を斬れるぞ。だが、お前には、斬れんだろう?」


 ミタンニーナはここにきて初めて微笑みを歪める。
 セピアの青年は嘲笑を深めて、手を伸ばす。


「大人しく、差し出せ」



 跪け。
 我が妹よ。
 誰よりも先を読み、賢くありながら、どうしようもなく愚かでいて、そして気高い。



「――ミタンニーナ」




 俺の、妹(ミタンニーナ)。




 細い顎を絡め取られ、耳元で愛しげに囁かれる命令に、漆黒の乙女は、膝をついた。











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激しく憎みあって愛し合う兄妹が書きたい。(変態)
こう恋愛的な意味ではなく、嫉妬とか憎悪とかそれでもある血の絆とか、兄弟愛的な意味で愛し合って欲しい。
そして殺し合って欲しい。


シュピルマツお兄様がイケメン度あがりすぎて別人感半端ない?……言うな!