>> メダロットライズ にもどる
Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.36 )
日時: 2012/06/07 22:23
名前: 通りすがりのコンビニ店員

 会長と呼ばれ。
 いつのまにか〝ここ〟がオレの居場所になっていた。


 ――違う。


 心の中で何度も繰り返す。


 ――オレの本当の居場所はここじゃない。


 オレは〝ここ〟を大切に出来ない。
 一番大切にしているのは〝ここ〟じゃない別の場所なんだ。


 ――だから……早く。早く迎えに来い。


 何時まで待たせる気だよ?


 ――キクノウチ…………。






 第三十四話『彼はなぜそこに居るのか』






 ――『野良メダ全日本連合組合』本部・会長室――




 脱走したバ会長を捕獲するべく、メイデンとシールドは至る所に電話をかけまくっていた。 
 電話をかけ、指示を出しては切り、またかける。
 何十回おなじ動作を繰り返す。


「ビルの管理長に繋いでください――ヒョウカ? メイデンです。バカが脱走しました。47階、全てのフロアを封鎖しなさい」
 けたたましいアラームがビルに響き、数秒もせず分厚い金属板が47階 全ての出入り口を塞いだ。
「格フロアを担当の部隊は待機しておるかね? うん。いい心掛けだ……警報は聞こえとるね? フロアは封鎖した。端から調べてくれ」
「軍部長ですか? はい、上級士官の権限で許可します。会長を見つけ次第、総員で撃破しなさい。会長が何を言っても聞いてはダメですよ」
「戦闘になるかもしれんから、警告レベル3まで上げてもらえるかね。また発見時の連絡は管理部に入れるよう全てのメダに通達を…頼んだよ」
「監視カメラに記録が……よし、やっぱり会長はまだ本部ビルから抜け出せていないのですね? 何階かの特定は――急ぎなさい。五分待って結果が出ないなら、首切りますよ」
「すまんな、メタビー君。 今どこに……食堂? そばに会長はおるかな? そうか……会長の行きそうな場所に心当たりはあったりせんか? 君と会長は解かりあう同士らしい……屋上か、会長の好きそうな場所だ。すぐに調べよう。ありがとう、メタビー君。――メイデンちゃん、ベルゼルガくんに屋上への手配を頼むと伝えてくれ」
「了解。――軍部長ですか? 屋上にも部隊を送ってください。屋上は強風が吹くので、落ちないよう気をつけてるようにも注意してくださいね」


 一通りの指示を終えて、メイデンとシールドはぐったりとした。


「戦闘での硝煙の匂いが残っていたので、まだ逃げ出して間もないと踏みましたが――どんぴしゃり ですね。ふふっふふふふっ……捕まえ次第、あのバ会長、氷漬けにして槍で串刺しにして……っ!!!」
 氷漬けよりは怒りの劫火で焼きつく勢いのメイデン。
 メイデンより会長と付き合いの長いシールドは苦笑した。
「メイデンちゃん。それは困る……会長はどうしようもないメダだが、代わりはいないのだよ」
「シールドさん…………あの会長をかばうなんて、やっぱり優しいですね」
 疲れていても穏やかな物腰を崩さないシールドに感動するメイデン。
「ははっ、まさか。かばっている訳ではないよ。本当にそうなんだ。……もしそうでなければ、私の盾は鈍器に変わっているだろう」
「…………………」
 ナイトアーマーの重たい盾で殴られるのを想像し、メイデンは固まった。
メイデン(シールドさんも……お、怒って…る……?)
 シールドの口調は穏やかで何時もと変わらないが、静かな怒りがこめられていた。
「大丈夫だよ、メイデンちゃん。すぐに捕まる――いつもの様に、ね」
「は、はい…………」
 会長の脱走は就任して以来、これで三十二回目である。
 しかし一度も脱走が成功したことはなく、全てギリギリのところで取り押えられている……穏やかな笑みが似合う、騎士によって。


 そして今回もシールドが言った通り、屋上で見つかった会長はすぐに捕縛された。

 


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 捕縛された会長は無事に、会長室まで連れ戻された。
 無事にといっても……今のところは、の話だが。


「それでは、報告会を始めます」
「ちょっ、この状態のまま始める気なのか?」
 しれっとした顔で報告を始めようとするメイデンに、ロープで逆さ吊りにされ炎にかけられた黒ヤギ――『野良メダ全日本連合組合』会長が待ったをかける。
 この喋る黒ヤギ――もちろん、本物の黒ヤギではなく、メダロットだ。
 悪魔型メダロット、ブラックメイル。
 現在メダロット社で発売されているブラックメイルではなく、初期にだけ出回っていた珍しいタイプで、初期のこの機体だけが使える『ゴースト』という強力な攻撃方法を持っている。

 
 ちなみにブラックメイルが会長職に就いているのには――色々と事情があり…『メダ連』で預かっているうちに、いつのまにか会長になってしまっていた――などという、少し変な経緯がある。当の本人は初代会長から受け継いだものの、まったくやる気がなく、つねづね脱走を繰り返している。


「性懲りもなく脱走した挙句、『いや~、ごめんちゃい』などおふざけを言う馬鹿には相応しい姿だと思うが…なにか不満が?」 
 怒りに任せて答えようとしたメイデンを抑えつけて、シールドがブラックメイルの前に出た。
 朗らかな笑顔。柔らかな口調はいつもと変わりないが……内容は皮肉のオンパレードだ。
 しかしブラックメイルには嫌味など効かないらしく、じたばた暴れて反抗する。
 暴れた振動で天井からブラックメイルを吊るす一本のロープが ぎぃぃ~ と不吉に鳴った。


「不満? あるよ!! だってオレさ。一応、『メダ連』の会長だよな? 仮にも会長を逆さ吊りにして……炎であぶるってどういうことだよ! なんの罰ゲーム? オレ見ため黒ヤギだからさ、これから美味しく頂かれるお肉みたいな図になっちゃってるんだけど! チャームポイントの二本の白い角なんか焦げて変な臭いしてきて……シールドもさ、変な臭いのする会長なんか嫌だろ? 変な臭いのする会長なんか威厳ないじゃん!」

 
「元から威厳など欠片もないから心配しなくてよい」
「あるって。限りなくゼロに近いだけであるって!」
「ない。私の知っている会長は、楽観主義で、他人任せで、常にチャラチャラしている馬鹿だけだ」
「ひでぇ!!」
 更に暴れるブラックメイルの振動で、ロープの再び ぎぃぃ~ と鳴る。
 その様子を見てシールドは穏やかな笑みを深めた。
「会長、暴れるのはよくない。そのロープには切れ込みをいれてあるからな」
 ぴたり と動きを止めるブラックメイル。
 そろそろと吊るしているロープを確認すれば、本当に切れ込みが入っており、しかも半分以上進んでいた。
 あと少しでも暴れたら 炎の海に頭部からダイブすることになる。
 震え上がるブラックメイルに、シールドは満足気に頷いた。
「うん。報告会の続きを始めようか――メイデンちゃん。次に会長が駄々こねたら、吊るしてるあのロープ切っていいから」
「――っ?!?!?!?!」
「了解しました。シールドさん」
 一歩下がっていたメイデンが『よし来た!』とばかりに応えた。
 その目は明らかに脱走騒動での報復を……燃え盛る炎にブラックメイルが焼かれることを願っている。


「待って待って! メイデンにだけは任せないで!!」
「会長がしっかり仕事してくださればメイデンちゃんはロープを切ったりしない」
「ふふふっ……それでは、報告を始めますね。ちゃんと聞いてくださいよ、会長?」
 戦乙女の麗しの微笑。
「『ちゃんと聞いてください』が『聞き逃して死んでください』にしか聴こえない…(ボソッ)」


 『メダ連』の男どもを魅了する微笑が、ブラックメイルには死神の笑みにしか見えなかった。


「それではブロッソメイルが倒された件ですが――先ほど新たに送られてきた情報によれば、どうも兎想月ウサギは確認されている持ちメダではなく、新しいメダを使ってきたようです」
「ん…んんー? それって、五機目ってことか?」
「わかりません。……ですが、回収した野良メダたちの話によると…どうも、そのメダロットが三十年前の世界大会の優勝者らしくて」


 メイデンの一言に、シールドとブラックメイルは表情を変える。
 おちゃらけた空気が一瞬で張り詰めた。


「三十年前……行方不明になったウォーバニッドだな。私たちが消息を追っていた内の一機が、とうとう見つかったか……」
「その兎想月ってのと、〝組織〟との繋がりはあんのか?」
「わかりません」
「だよなー。簡単に割り出せたら苦労しないもんな。……そういやさ、ブロッソメイルはどうしたんだよ? あいつらの売られたパーツとメダル、回収できたんだろ? なんでこの報告会に参加してないんだ?」
「野良メダたちのパーツ及びメダルは回収できたのですが…ブロッソメイルはパーツしか回収できませんでした」
「は?」
 間の抜けた声を出すブラックメイル。メイデンの隣でシールドは唸った。
「予想以上に頭が回る子のようだな……」
「はい」
「え。え? どういうことだよ?」
「会長……本当に、バ――頭が残念ですね」
 言葉通りまさに『残念なもの』を見る目をむけるメイデン。
 シールドは右手で両目(正しくは両ライト?)を覆う。
「メイデン、はっきり馬鹿って言えよ。逆に傷つくから……シールド、その哀れみの表情やめてくんない?」
「哀れいるのではない。これからの『メダ連』を思って悲嘆している………」
 目を覆ったまま静かに顔を左右に振るシールドに、ブラックメイルはちょっぴり本気で落ち込んだ。
「オレの馬鹿さを真剣に嘆かれるのも嫌なんでけど……で、結局どういうことなのさ?」
「簡単に言えば、ブロッソメイルのメダルだけ兎想月ウサギの手元にある――ってことです」
「…………マジ?」
「人質か、もしくは私たちについての詳しい情報を聞き出すためか……どちらかでしょう。どちらにしてもブロッソメイルは惜しい人材です。『メダ連』の威信に懸けても、奪還する必要があります!」
「それだけじゃない」
 メイデンの言葉を、シールドが続ける。
「五機目に出てきたウォーバニットについてもだ……長年追ってきた〝組織〟の存在が、ようやく掴めるかもしれん。ブロッソメイルのメダルだけ抜き取っているところからしても、背後に〝組織〟がいる確率は高い――このチャンスを逃す手はない」
「……………………」
 ブラックメイルは静かに考え込み、まばたきを繰り返す――まばたきを繰り返すのは、ブラックメイルが真剣に悩んでいる時の癖だ。
 二人は静かに『会長』の指示を待った。


 ブラックメイルは先ほどシールドが言ったとおり、楽観主義で、他人任せで、常にふらふらチャラチャラしている馬鹿だ。
 その事実は疑いようもない。
 けどブラックメイルは自分が馬鹿だからこそ、相手が誰であれ、最後までちゃんと話しを聞く。
 どんな話でも真剣に取り合ってくれる。
 トップとして不可欠な資質を彼は持っていた。


「うし。決めた――仲間の奪還が最優先だ。最悪 敵は逃がしててもいいからブロッソだけは取り返す。そのための手はすでに打ってあるし、たぶん大丈夫だろ。あと情報部から『ごめん。ブロッソメイルの件、隠蔽し切れなかった』って報告きてるから、狩りが活発化する可能性が高い……『中級士官』を総動員させて『狩り』対策の指示に当たらせろ。場所によってはしんどい支部もあるだろうから、本部からの『差し入れ』忘れんなよ」
「〝組織〟については放っておくのか」
 すかさず確認を取るシールドに…ブラックメイルは苦笑する。
 本当にシールドは優秀だ。
 自分よりよほど会長に向いている。
「放っておくわけじゃないけど……『メダ連』は野良メダを支援する組合だ。ややこしい時にばっか現れる〝組織〟は不穏だけど、野良メダに対して何かしているわけじゃない…少なくとも、そんな情報は掴んでない。だから〝組織〟の存在を特定できても、俺たちは動けない……けど やっぱ『わかんない』のは問題だから、探りは入れる――メイデン。エンヤさん、呼んどいてくれる?」
「わかりました。……あとブロッソメイルの回収ですが、誰にやらせる気ですか」
 これが最後の用件。
 順当に決めるなら私だろうな…と考えつつ、メイデンは聞いた。
「決まってるじゃん」
 逆さ吊りになった状態でブラックメイルはにやりと笑んだ。
「オレが行く」


「「……………はぁあ?」」


「ブロッソメイルを倒した強敵!! ここはオレが行くしかないだろ!」


 相手のマスターは美人ちゃんらしいし!!と続けられた言葉に、メイデンは右手を背後に挿した槍へとかけ、ブラックメイルは頭部から炎の海にダイブするのであった。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 ブラックメイルが炎の海にダイブする少し前――遊園地でウサギちゃんとウォーバニッドが別れた直後。
 閉園の音楽が流れる遊園地では、二機のメダロットが対峙していた。


 対峙しているメダロットのうち片方はウォーバニッド。
 彼は「死にたい」と願い 「生きる」ことを思い出し……そしてマスターとの約束を果たすため、ここに一人で残った。
 〝組織〟との決着をつけるために、追手と戦うことを選んだ。


 そんなウォーバニッドの目の前にいるのは、白ヤギの姿をしたメダロット。
 ボディの形状はブラックメイルに酷似しているが、指先から翼に至るまで全て白一色で染まって――月光にさらされて静かに眼を閉じている姿は、不吉さを感じさせながらも美しかった。


「待ってたぜぇ……ホワイトメイル」


 ウォーバニッドは、目の前にいる追手の名前を呼んだ。


 名を呼ばれ、ホワイトメイル――〝白い悪魔〟は閉じた瞼をもちあげる。
 薄暗い夜闇の中で 二つのライトが紅い輝きを放った。





                          第三十五話に続く。




 あとがき
――――――――――――――――――――――
 白ヤギさんったら読まずに食べた――オリメダ登場です。存在が出オチとか言わないで下さい…(汗
【悪魔型メダロット、ホワイトメイル】
 頭部・ゴースト。右腕・ミサイル。左腕・ミサイル。脚部・浮遊。メダル・ビーグル。男形メダロット。名前・田仲 ホワイト。


 次回予告。
 もしかしたら一ヶ月ぐらい更新できないかもしれません……期待しないで、待っていて欲しいです。
 そんな次回ですが、久しぶりにロボトルです! あんまり戦闘描写入らないかもしれませんが!!←


 ウォーバニッドvsホワイトメイル。


 第三十五話『〝白い悪魔〟』をご期待ください!!

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.37 )
日時: 2012/03/30 18:49
名前: 通りすがりのコンビニ店員

 ひとつの約束をした。
 相手はもう覚えてないかもしれない約束――けど、俺の心の中に刻み込まれたそれ。









 ――メダロットと人間は、似ているけど違う。違うけど、だからメダロットとして〝生きる〟ウォーバニッドが僕は好きだよ。






 子供と見くびる年上たちを高笑いしながら蹴散らす とんでもないマスターだが、この時だけは、ありのままの幼さを残して嬉しいことを言ってくれた。


 俺はそんなマスターに応えたくて――






 生きる。
 メダロットとして〝生きる〟……か。


 なら俺は――………お前のために〝生きる〟。









 〝戦う〟俺が好きだと言ってくれたマスターのために――








 お前のために俺は――〝戦う〟。 
 だって そうだろう?


 俺はお前のメダロットだからな!







 ――ウォーバニッド………。







 少しの沈黙のあと めずらしく照れたマスター。
 俺の心に刻み込まれた笑顔。
 あの瞬間 こみ上げた感情を どう言えばいいのかわからないが――……










 ひとつの約束をした。
 思い出すまでに随分かかってしまった――大切な約束。





 今更だが あの約束を果たしに行く。


 




 第三十五話『〝白い悪魔〟』







 ウォーバニッドのメダルには〝組織〟のチップが埋め込まれ、パーツを使用すれば遠隔地でも居場所を特定できるよう設定されている。
 だからずっと戦いを避け、人影に怯え、死ぬことばかり願ってきた。


 けれど、もう――違う。


 戦うこと。
 メダロットとして〝生きる〟こと。


 それらのきっかけがウォーバニッドに熱を与え、死んでいた彼の〝本能〟を――〝心〟を蘇らせた。




「ホワイトメイル……俺はお前をぶっ殺して、マスターの元に帰るぜ!!」




 ウォーバニッドがホワイトメイルと戦うのは、これで二度目だ。
 一度目は三十年前、小さな大会のあとで襲われ――敗北し、〝組織〟に拉致されたとき……戦いの内容は、散々なものだった。
 ボディも自信も打ち砕かれ、地に這いつくばるしか出来ず……ホワイトメイルが冷ややかに向ける紅いライトが脳内に焼きついている。


 実力は相手のほうが上手。


「マスター……か。さっさと次のメダロットに乗り換えているかも知れんぞ?」


 ホワイトメイルが口を開いた――意外な言葉だった。
 この場合言葉の内容自体がどうのではなく、ホワイトメイルが返答したのがウォーバニッドにとって意外だった。


「別に構わねぇさ。勝手にいなくなったのは俺だ」


「…………そうか」


 馬鹿にした様子もなく、だからといって納得した風でもなく、ホワイトメイルは答えた。


「だがマスターの所に帰ったところで、貴様が〝組織〟に目を付けられている事は変わらない……迷惑になるだけだ」


「それでもいい」


 いいんだ とウォーバニッドは繰り返す。
 ホワイトメイルは溜息をついて戦闘体勢に入る。


「やはり〝組織〟に戻る気はないようだな……残念だ」


ウォーバニッド(………気持ちわりぃな)


 前のときは問答無用で機能停止させられ、その上で〝組織〟に拉致された。二機のやり取りに言葉はなかった。


ウォーバニッド(力ずくじゃなく説得しにくるなんて思ってもみなかったぜ…………どうゆう変化だ?)


 脱走者であるウォーバニッドへの対話。ただの実験体でしかない自分に求められた『戻る』という意志。
 三十年前にはなかったもの。


 これがホワイトメイル個人の変化なのか。それとも〝組織〟そのものに訪れた変化なのか。
 所詮は利用されるだけの実験体(モノ)でしかなく、正式な〝組織〟の一員ではなかったウォーバニッドにはわからない。


ウォーバニッド(まっ、今はそれどころじゃねーし…いっか)


 少し遅れをとったがウォーバニッドも戦闘体勢に入り、充填を開始した。



「……………………」
「……………………」



 全ての照明が落ち、白く輝く月が覗き込む遊園地。
 回らないメリーゴーランドの前で、二機のメダロット視線は交差し――瞬間的に火花を散らした。




  ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇





 白い月の下で行われる遊園地の戦い。
 先手を取ったのはホワイトメイル。
 爪の間に隠れた銃口から、いくつものミサイルを発射する。


 ホワイトメイルのミサイルをウォーバニッドは左腕で受け止めた。充填が早いだけあって威力は低い――防御したおけげで腕を持っていかれる事態は避けられた。しかし続けて第二弾・第三弾と発射されたミサイルを浴びせされる。両弾とも右腕で防御――右腕のライフルが機能停止――脚部まで貫通する。


「くっ……」


 ウォーバニッドは連続して攻撃をまともに受け止めたため体が崩れ落ちそうになるが、気力でとどめる。


「く―――――――――ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ウォーバニッドのライトが強烈の輝きを放った!


「ちっ…!」
ホワイトメイル(しまった……間に合わなかったか。―――――――――来るっ!!)


『ズガガガガンッ!!!!!!!!!! ズガガガガガガン!!!!! ズガガガガガガガガガガガガッ』


「ぐっ…う………っ!」


 鳴り止まない射撃音。ホワイトメイルは反射的に後方に飛ぶ。ギリギリでかわせたかと思ったが左腕に喰い――機能停止してしまっていた。


「腐っても世界大会優勝者か……」


 ウォーバニッドが最も得意にする戦法。
 戦闘開始同時に頭部パーツの補助チャージで一気にスピードを高め…、間を置かない連射で相手を仕留める。


 オーソドックスでひねりはないが有効な手だ。実際にされるとそれなりに痛い。
 が、このウォーバニッドが相手ではそれなりに痛いでは済まない。
 実際に三十年も同じ手でかなり苦戦した。


ホワイトメイル(スピードを上げるまでに両腕を潰したかったが…くそっ)



「とっとと自滅しやがれ!!」
「ぐぅっ………っ!」

 
 ミサイルを撃ちだすが、空中で撃破される。爆風で余波でホワイトメイルは右腕を損傷した…機能停止には、かろうじて至っていない。


 これがウォーバニッドの恐ろしい所…ミサイルの腹部に三発、一寸狂わずまったく同じ箇所に命中させることでホワイトメイルのミサイルを無効化させる。
 それだけではない。
 撃ち出した直後のミサイルを狙うことで射出させた本人――ホワイトメイル自身に爆撃を食らわせる。


 無茶苦茶だが実際にウォーバニッドはやってのけ、世界大会を制し、『射撃キラー』の異名で名を馳せた。


ホワイトメイル(同じ射撃系として……見事だとも、思うがな………)


 ウォーバニッドの戦い方は決して綺麗ではない。
 始めに攻撃を受けることで急激にスピードを上げる……もし始めの攻撃を受けた時に脚部、または両腕パーツを破壊されたら、ほぼ負けが決定する――ギャンブルのような戦い方だ。


 だがウォーバニッドはギャンブルに勝ち続け、ついに世界のトップまで登りつめた――彼の戦いは決してギャンブルなどではなかった。
 防御する際に行われる冷静な判断と発揮されるセンス。そして何よりも狂いを見せない的確な射撃。
 この二つによって支えられた『戦術』。
 特に射撃については、その道を知る者なら魅惚れるほどの繊細さで――それが無茶を可能にしていた。


ホワイトメイル(やはり…………あれを使うしかないか)


 ぱんっ と両手を合わせ、ホワイトメイルは紅いライトを輝かせた。


「――――――――――デスウォッチ(おばけの足音)」


 ホワイトメイルから湯気のような白い靄(もや)がたちこめ、もう一体のホワイトメイルを頭上にかたちどった。
 半透明なそれは ふらふらと揺れるだけだったが パチリと眼を見開くとウォーバニッドに襲いかかり、鋭い爪を振るう。


『ズガガガガガンッ』


「でやがったな……〝悪魔〟がっ!!」


 ウォーバニッドは射撃で応戦する…が、ミサイルのように撃ち落すことは出来ない。
 半透明で実体を持たないホワイトメイルに射撃は通用しない――ウォーバニッドに〝悪魔〟を防ぐ手段はない。
 三十年前の絶望がそこにあった。


 避けきれない〝悪魔〟の爪にウォーバニッドは地面に叩きつけられる。
 衝撃で脚が潰れた。
 思うように身体を動かせない。 


「ぐうっ…っ……だからって……負けれるか。俺は帰るんだ。帰るんだ―――――――――マスターの元に…………っ!!」


 〝生きたい〟。
 〝生きて〟もっと戦いたい――マスターのいる、あの場所で。


 破ってしまったあの約束を果たしたい――!
 身勝手だが純粋な願いが、ウォーバニッドを救った。


「俺はまだ! 死ぬわけにゃ―――――――――」


 持ち上げた左腕のガトリングに全力を込める。
 狙いは襲ってくる〝悪魔〟の方ではなく、その後ろで力尽きて片膝をついている〝本体〟。


「――――――――――いかねーんだよっっっっ!!!!!!!!!!!!!」


「ぐぬぁ………っ!」


 ウォーバニッドが放った弾丸がホワイトメイルの装甲をえぐりとり、まさにとどめを刺そうとしていた〝悪魔〟が掻き消えた。


「死ね!」


 ウォーバニッドが続けてマシンガンを撃つ。
 最後の残弾。だが先ほどの攻撃でホワイトメイルは動けない――この攻撃が通れば間違いなく勝利だ。
 勝ちを確信したウォーバニッドだったが、彼の銃弾が仕留めたのは無人の地面だった。


「なっ…………誰だっ?!」


 うめくホワイトメイルを突然現れたメダロットが担いでいた。
 ホワイトメイルとは真逆で、ボディ全てが漆黒に塗り固められ、背中に黒い翼、頭上に壊れた天使のわっかを浮かばせている。


 夜の闇に羽ばたくその姿は、まるで天使のようで――しかし邪悪さに満ちていた。


「ボクが誰か? 少し考えれば新手の追手だってわかるだろうに。本当は余計な仕事なんかしたくないから空から傍観していたんだけど、さすがにヤバそうだから出てきたんだ。しかし流石、世界大会優勝者だね。田仲の『デスウォッチ』が破られたのなんて初めて見るよ」


 愉快そうに笑みを浮かべた漆黒のメダロットは、ホワイトメイル――同僚であるはずの田仲を地面に放り投げた。
 田仲が ガシャンガシャン と耳障りな音をたててアスファルトの上でバウンドし、呻き声をもらす。

 
「仲間じゃないのか……?」
「いちおう仲間だよ…同僚、と言った方が正しいかな? だから助けてあげたんだ」
「貴様の助けなど……いらんっ!」

 
 漆黒のメダの言葉を、田仲が呻き声とともに吐き捨てた。


「あそこでボクが助けなかったら負けてたじゃないか」
「黙れ。これは私の仕事だ……貴様が手を出すな」
「君もたいがい頑固だね。ボクとしては君なんか死んでくれた方がいいけど…『あの方』の命令だから見に来たんだ。助けられたくないならさっさと終わらせなよ」


「言われなくとも もう――終わる」


 はっ とウォーバニッドが気づいたときにはすでに遅かった。
 いつの間に立ち上がっていた田仲がミサイルを発射していた。


 反射的にミサイルに標準を合わせるが、すでに残弾が切れていたこと思い出したところで―――ウォーバニッドは撃破された。
 何とか立ち上がろうとするが、すでにダメージが限界値にきていたウォーバニッドに立ち上がる力は残っていなかった。


ウォーバニッド(くそっ こんな……こと…で―――――)


 負けたくない。
 死にたくない。

 
 必死にかろうじて動く左腕を伸ばす。




 銃声音と硝煙が空にうかぶ月に吸い込まれていった。


「う……ぁ……………ぁ…………マッ…………………」


ウォーバニッド(マスター…………………………)


『シュゥウ』


 両のライトから光が消え、ウォーバニッドが伸ばした左腕はどこにも届くことなく空をきって落ちた。















「………………」


 田仲は機能停止したウォーバニッドに無言で近づき 背中のハッチを開けてメダルを取り出す。


「壊すのかい? そのメダル」
「あぁ――これでもしウォーバニッドが『死ね』ば、実験の結果がわかる」


 田仲の言葉に漆黒のメダロットが笑んだ。


「田仲。君はどっちだと思う? 初号機はちゃんと死ねると思うかい?」
「――…………死ぬだろうな」
「え?」


 田仲が素直にだした答えに、漆黒のメダロットは固まった。


「ウォーバニッドはおそらく今回の『転生』で死ぬ。記憶は初期化され、組織の一員として働くことになるだろう」
「初号機は〝組織〟発足時……『あの方』がいらっしゃる前に捕まったメダだろう。相当な地獄を見てきたはず……どうして、そこまで言い切れるんだい?」
 漆黒のメダロットは納得できなかった。
 てっきり自分と同じように考え「できない」と即答すると思っていたのに……田仲は「死ぬ」と答えた。
 一時の自由を得たぐらいで初号機が『終わらない地獄』から解放されると。
 そんな甘い考えは彼らしくない。
「カナタ」
 ホワイトメイルは漆黒のメダロットの名を呼んだ。
「貴様、若いな」
「はぁ?」
「私は〝組織〟発足時からこの実験に参加している……だから知っている。『終わらない地獄』の終わりは、本当の解放ではない」
「………じゃあ何が本当の解放なんだい?」
「わからん。わかっていたら、こんな実験わざわざしていない――けど もしかしたら…『あの方』なら何か知っているかもしれんな…」
「『あの方』が…………それが、古株の君が『あの方』に味方して〝組織〟のクーデターに参加した理由かい?」
「そうだ」

 
 カナタは黄色いライトを猫のように細めた。


「そう言えば……君はどうして〝組織〟なんかに身をおいてたんだい?」
「答える義務はない」


 そっけない 彼らしい拒絶。
 けどその実どんな質問にも律儀に答える田仲にしては珍しい行動であると、カナタは知っている。


「ま……別にどうでもいいけどね。ボクには関係ないだろうし。――さっさと帰ろうか。『あの方』が待ってる」
「あぁ」


 純白のメダロットと漆黒のメダロットは歩き出し夜の闇にまぎれて姿を消した。





 月光が照らす遊園地には、置き去りにされたウォーバニットの壊れたボディだけが残されていた。












                       第三十六話に続く。




 あとがき
―――――――――――――――――――――――――――
 前回すごく馬鹿なあとがきを書いたと思います。
 期待しないでくださいって言った直後にご期待くださいとか……自分で言うのもなんだけど意味がわからないです。
 けど書き上げた直後は脳みそが大変弱っているので、だいたいこんなものです。
 どうか許してください。

 
 今回のオリメダ。
【堕天使型メダロット、カルマ】
 頭部・体勢破壊。右腕・火薬無効。左腕・光学無効。脚部・飛行。メダル・アース。男形メダロット。名前・カナタ。


 相手の守備を駆逐し、かつ味方を守ります。
 オリメダが出てくるのはこの子で最後……の、はずだけど……展開次第ででるかも、しれません。
 確約はしない。絶対に。えぇ、絶対に!


 次回予告がなくなりました。
 また、更新はこれから一ヶ月ぐらい置きになります……が、できるだけ早く更新できるよう頑張っていきます。
 それではお粗末でした。 

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.38 )
日時: 2012/06/29 02:32
名前: 通りすがりのコンビニ店員



 約束をしたわけではない。


 ただ誓った。


 貴方が生涯をかけた難題を、どんな手を使っても私が解いてみせると。






 第三十六話『工学者→科学者→研究者 = 人生 』







『メダロットってなんだろう?』




 ホワイトメイル――田仲のマスターであり、『ホワイトメイル』を創りだした科学者 田仲(たなか)キョウジ。
 彼は元々は家電製品を専門とする電気工学者だった。
 メダロットが普及する現代では珍しくメダロットを持たず、メダロッチなど触れたことなかった彼だが――別段メダロットを嫌っているわけではなく、「金がかかる」という大変わかりやすい理由のためだった。
 特にメダロットを持っていないことで不便もなかったので、本人も気にすることなく三十五年の月日を過ごしてきた。


 が、キョウジの元に転機が訪れる。


「――配属の異動? しかもメダロットの開発部ってどういうことですか?! 自分、ただの家電の工学者ですよっ?!」


 会社の不手際による異動ミス。しかも頼みの人事課は「異動はすでに決定されているため、変更は出来ません」と笑顔でにべもないことを言う。
 キョウジは絶叫し、持ちうるつてを使って駆けずり回ったが、結局どうすることも出来なかった。


キョウジ(仕方ない。こうなったら――……メダロットを、造ってみよう) 


 所詮 自分は会社の人間。クビが嫌なら会社に従うしかない。
 三日間悩みぬいたキョウジはメダロットを向き合うことを選ぶ。そこには『ものをつくる』工学者としてのある種のプライドもあった。
 造れというのなら、造ってやろうじゃないか。
 

キョウジ(けど……オレ、メダロット持ってないんだよな)


 キョウジはこれまで「金がかかるもの」程度にしかメダロットを認識してこなかった。
 接点も友達が持っているメダロットと会話をしたことがある…ぐらいなもので、ほとんどないに等しい。ロボトルについても同様で、公園などで見かけても やってるなー と呟きつつさっさと去ってしまうタチだ。
 

 自分が何一つメダロットについて知らないのだと気づき、キョウジは困った。
 これでは どんなメダロットが必要とされているのか……どんなメダロットを造ればいいのかわからない。


キョウジ(やっぱり自分には荷が重い仕事だよな)


 家電は楽だった。メダットと違って『意思』なんて存在しないぶん、必要最低限の部品だけで完成された美しさがある。
 生き物では成しえない機械独特の美しさが。
 しかしメダロットは機械であると同時に生き物だ。脳を持ち、命を持ち、機械である身体を持つ……より『生き物らしく』がメダロットに求められている技術であり、美しさだ。


キョウジ(ん?)


 そこまで考えて、キョウジは思考を止める。
 自分は今『生き物らしく』がメダロットに求められる美しさだと思った。
 けど それじゃあまるで メダロットが生き物じゃないみたいじゃないか。
 ――いや 待て待て。
 そもそもメダロットは本当に生き物なのか…?
 メダロットはメダロ人の末裔であり、心を持っている――千年前に発覚した事実は世界に浸透し、メダロットを『生き物』として認めさせた。キョウジも疑うことなくメダロットは『生きている』と信じてきた。
 その『生き物』を。
 家電製品を作っていた工学者が造る。


キョウジ(…………なんか、気持ち悪いな)
 

 ぞくぞくっ とキョウジによく分からない悪寒が走った。
 以前テレビのニュースのお姉さんが『遺伝子操作によりクローン牛が誕生しました。この技術を応用すればクローン人間も現実可能となります。凄い技術ですね』とにこやかに告げていた時にも感じたものだ。


「メダロットって……なんだろう?」


 悶々と悩んだ末、キョウジはひどくシンプルな疑問を発した。
 機械であり、生き物である、メダロット。
 彼らはいったい何なのか?


 キョウジが呟いた疑問は、メダロットと付き合っていく中でいつしか彼の口癖になり、生涯を捧げる命題となった。






 もう五十年以上前のお話。
 そして 未だ『回答』の出ない疑問はキョウジが死んだ後も彼の造り出したメダロットに引き継がれている……『田仲』の名とともに。






 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇







 別に約束をしたわけではない。
 田仲が勝手に決めたこと。




 自分を生み出した偉大な研究者を――


 ――超えてみせる。



 それは、悲しみを超えるため。

 メダルに刻まれた見えない傷。
 致命傷にならなかったそれを背負って、無理矢理でも前を向くために。



 どんな手段を使ってでも『結果』を手に入れると田仲は誓った。








                   第三十七話に続く。

 


 あとがき
――――――――――――――――――――――――
 キョウジさん書いてて楽しかったです。
 出すタイミングを大きくミスった気がしますが、気のせいです。気のせいなのです!orz


 次回は田仲。その次にウサギちゃん一家に戻る予定です。まぁ、予定は未定なのですけども。

 お粗末さまでした。 

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.39 )
日時: 2012/05/22 23:04
名前: 通りすがりのコンビニ店員




 胡桃沢事変。
 それは〝心〟が壊れるほどの苦痛を受け、メダロットが死んだ事件。




 ならば、同じように〝心〟が壊れるほどの苦痛を与えれば『終わらない地獄』も終わらせることが出来るはず――




 ――誰が考えたかわからない歪んだ発想が、実験の始まりだった。







 第三十六話『地獄が終わらない理由』







 田仲は〝組織〟に身をおいてから三十年、ずっと同じ実験に携わってきた。


 『終わらない地獄』を故意的に作り出し、どうすれば『終わらない地獄』を終わらせることができるか明らかにする。
 三十年の間にいくつものメダロットで試してきたが、『終わらない地獄』に落ちたメダロットが『死ぬ』ことはなく、彼らは今も永遠の苦痛に囚われたままだ。


 何度も実験を繰り返すうちに、田仲はふっと思い至る。


 『終わらない地獄』を終わらせるために必要なのは〝心〟が壊れるほどの苦痛だと考えてきた。
 だからこそ実験体には苦痛にさらなる苦痛を与え よりむせび泣く状況下にさらした。
 しかし実験体はいっこうに死なず、むしろより強く『地獄』に囚われてゆく。


 すでに壊れているのではないか……?


 『終わらない地獄』に陥る過程で、壊すべき〝心〟がすでに壊れている。
 壊れているから何度メダル(心)を壊しても、どんなに苦痛を与えても、死ねない――終われない。
 

 永遠に続く壊れた命…………それが『地獄』の正体ではないか……?






 〝組織〟において実質 NO.2であり、同時に優秀な研究者である田仲は、すぐさま尊敬する『あの方』に連絡を取り、許可を求めた。


「実験体を一体わざと逃がしたいのですが。
 それも出来るだけ強力なメダロットを――三十年前に捕らえたウォーバニッドが丁度よいかと……そいつを、逃がしたいのですが」


『終わらない地獄』に囚われているメダロットの〝心〟がすでに壊れていると仮定するなら。
 〝心〟を直すことが出来れば――メダロットは死ぬことが出来るはず。



 実験体に自由と希望を与え、その上でメダルを壊し……そのメダロットが『死んだ』時にこそ自分の仮説が証明される。






 許可はすぐにおりた。
 初号機を逃がし、思惑通りウォーバニッドは〝心〟を取り戻した……




 そして実験の『結果』は今 田仲のその手の中に、ある。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇






「ここは………どこだ……?」


 首をかしげているライオン型メダロットは、ウォーバニッドのメダルを砕き、復元した『結果』だ。


「――やはり……か……」
 眼前にさらされた結果に、田仲は酷く苦々しい気持ちになる。


『…………『終わらない地獄』の終わりが本当の解放ではない』


 気に食わん同僚に自分が吐いた言葉を思い出す。
 『地獄』の正体を察した時からうすうす田仲は思っていた。


 『終わらない地獄』による永遠の苦痛から抜け出せたとして……それは解放なのか?
 ある意味そうかもしれない。
 少なくとも『転生』によって全てを忘れたウォーバニッドは、苦痛に悶えることも、悪夢に見舞われることも、人影に怯えることもしなくてよくなった。
「……………」
 しかし実際に全てを忘れたウォーバニッドを目の当たりにして、田仲は考える。


 ウォーバニッドが『終わらない地獄』に落ちて なお〝生きたい〟と思ったのはなぜだったか。
 トラウマである〝白い悪魔〟(じぶん)と対峙したのはなぜだったか。
 〝心〟を取り戻したのはなぜか。


 『お前をぶっ殺してマスターの元に帰る!』


 真っ向から自分と対峙したウォーバニッド。
 かけがえないマスターの記憶を失ってまでヤツは……あの時のウォーバニッドは、『終わらない地獄』の終わりを望むだろうか?
 ……そうは思えない。


「『終わらない地獄』の終わりが……本当の解放ではない………」


 メダルを砕くことによって起こる『転生』。
 良きマスターと出会えたメダロットほど『転生』を嫌がり……記憶を失うことを恐れる。


 辛さ、苦しみ、痛み、寂しさ――全ての負をのみこんで、それでも勝る愛しさが記憶を手放すことを許さない。
 メダロットとマスターの絆は重い……少なくとも、人間(ひと)が思っている以上に、メダロットは人間(ひと)を想っている。


「『終わらない地獄』の終わりに待っているのは――記憶の忘却。解放などではない――」


 表情には出さないが、田仲は静かに怒っていた。
 〝心〟を取り戻したメダロットに記憶の忘却が何の救いになる。
 〝生きたい〟と願った理由をっ。〝戦いたい〟と望んだ理由を! 忘れて何がメダロットだっ?!


「…………地獄ではないかっ」
 地獄の終わりに待つ地獄。
 辛さ、苦しみ、痛み、寂しさ――全てを忘れられる……優しい地獄。


ホワイトメイル(――――………憐れだ…)


 〝心〟を取り戻せなければ死ねず。
 〝心〟を取り戻しても、『地獄』で負った苦痛から逃れるためにメダルを割れば記憶を失う。
 

 田仲はウォーバニッドと対峙して『マスターの元に帰る!』と聴いた時、半ばこうなることを予測していた。
 同時にそれは、とっさに こうなるのでは……と描いた最悪の結果だった。


 せめて。記憶を持ったまま、『地獄』を背負って生きてはくれないか――


 しつこく〝組織〟への帰還を促したのはそんな意図からだ。
 研究者として誇りをかなぐり捨てる行為であり、また実験の失敗での〝組織〟からの厳しい処分も覚悟していた。
 それで田仲は構わなかった。それでいいと思った……普段ではありえない思考。
 少なくとも三十年前の自分なら、ウォーバニッドを実験道具として切り捨てることに躊躇しなかったはずだ。


 わかっていて田仲が拘ってしまったのは、『あの方』と出会い少なからず大切な物ができたからか――
 それともマスターの元に帰るといったウォーバニッドが羨ましく見えたからか――


「…………」


 静かに瞑目した後、田仲はウォーバニッドの側に寄り、初期化されたメダロットたちが集まる部屋に向かうよう指示をだした。







                 第三十七話に続く。






 あとがき
――――――――――――――――――――
 シリアスを通り越して鬱に近い展開です。びっくりした方がいらっしゃったら、ごめんなさい。
 しかし やっと『終わらない地獄』について一段落つきました。
 ずっと書きたかったことでもあるので、気合入れて書いてますが……わかりにくかったらすみません。私の実力不足です。


 次回は場面転換し、ウサギちゃんが復活します。なので明るめでいく予定です。
 しかし念願のメダ4が届いたため、作者は 少しの間行方不明です。
 クリア出来次第かえってきます!
 

 それでは、どうもお粗末さまでした。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.40 )
日時: 2012/06/08 13:47
名前: 通りすがりのコンビニ店員

 偽物の恋人ごっこを終えて遊園地から家に帰ってくると。
 待っているはずの四機は居ず、代わりに土下座する菊くんとデストと、机のうえに置手紙。
 二機が大いに目を逸らしながら手渡してくれた手紙には、


『プリミティベビーとビーストマスターは預かった。返して欲しければ本部まで来い――メダ連会長・ブラックメイル』


 と汚い字で書かれていた。
「えっと……あのさぁ」
 私はビクつく菊くんとデストの首根っこを掴みあげ(締め上げ)、


「これってどういうこと?」


 万が一にも聴き間違えないように、優しく丁寧に尋ねてあげた。





第三十七話『出陣』





「――つまり、私のデートを菊くんとデストがストーカーしている間にアパートを襲われて、バカ二人が攫われたってわけね?」
「「おっしゃる通りです……」」
 さんざん容赦なく踏みつけられ、顔面を床に食い込ませた二機が間髪入れずに返答する。
 私は隠すことなく舌打ちした。
「まったくもぉ。なんで私がメダロッチごと置いて行ったと思ってんの?」
「マ、マスターはアパートが狙われるってわかっていたんですか?」
「仕掛けるなら少し調べれば場所が割れるここ(アパート)だって考えるのは当然でしょう?
 だから万が一に襲われても大丈夫なように全員おいていったのに……私が遊園地にいるのがブロッソメイルにバレてたのも、絶対バカ2人がゲロったからね。あの時点でアパートは押さえられてたわけだ……ふふっ…ふふふふふっ」
 なんて甘さだ。
 少し考えればわかることなのに……どうやらちょっと、本気で平和ボケしてるな私っ。
「マ、マスター……?」
 握りしめた手を戦慄かせて暗い笑みを浮かべる私に、デストが若干後ずさる。
「で。どうする気だ? 手紙通り取り返しに乗り込むのか?」
 慣れてきたのか菊くんはドン引くことなく話を進めてきた。


「当然。乗り込むよ」
「――ぇえっ?!」
「よしきた。救出劇の開幕だな」
「えっ、ちょっ菊さんっ?! 何ニヤリと笑んで答えてるんですっ?! 三人で『メダ連』を相手にするなんて正気じゃない――」
 デストの言葉を、私は一枚のメダルを突き付けて遮る。


「これなぁ~んだぁ?」
「なっ――ブロッソメイルのメダルっ?!?!」
「その通り。捕えた敵をあっさり放してやるほど私もバカじゃないし」
「敵じゃなくてもあっさりじゃないだろ……売り払ってんだか――ぐはぁっ!!」
 菊くんの顔面が、気持ちのいい爆音と共に再び床にめり込んだ。


 私はふんっと鼻をならし、家に置いて行っていた白いメダロッチを腕に巻く。
「人質がいるのはお互い同じ条件――乗り込んでこいって言うなら、乗り込んでやろうじゃないッ!!」
 

 菊くんとデストの前で挑戦的に吐き捨てる私は、しかしすでに笑えるほどの余裕はなくて。
 握りしめている手の震えは実はまだおさまっていなくて。


「行くわよ。菊くん。デスト」


 『メダ連』本部に向かうべく103号室の扉を開けながら、私は心底――怒っていた。




 第三十八話に続く。




 ――――――――――――――――――――
 前話(ホワイトメイル)からの急な場面転換して、すみません。


 わかりくいので要約すると
 時間軸を一気に戻して、『メダ連』VSウサギちゃん一家の図に入っています。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.41 )
日時: 2013/03/07 01:07
名前: 通りすがりのコンビニ店員


 正義のために戦う謎の男子高校生と、そのパートナー。




 第三十八話『ウサギと焼きとり』




 炭火エンヤ(すみび えんや) こと俺は、思わず息を呑んだ。


「天使だ……天使がいる……」
 美しい少女が町を歩いている。
 息を呑むほどの美少女だ。くるくるの茶色の長い髪を少し上の方でおだんごにし、余った髪を肩よりすこし下まで流している。黒い瞳はぱっちりと大きく愛らしく、しかし自信に満ちて揺るぎない。少し気の強そうな少女。
 その少女は気にしていないが、彼女は近くにいる男たちの目を釘付けにしている。もちろん俺も釘付けにされた一人だ。
「おい、エンヤ。缶コーヒーこぼしてるぞ」
 愛機のシーザ(クワガタムシ型メダロット・ヘッドシザース)が何か言ったが、俺はそれどころじゃなかった。
 遠ざかっていく彼女を少しでも見ようと目で追うのに必死だ。
 とりあえず、おざなりに返事をかえす。
「あぁ……」
「おい、エンヤ。ジーンズにかかってるぞ」
「あぁ……」
「そのジーンズ、確か万単位で買ったヤツじゃないか?」
「あぁ……」
「エンヤ。後でパーツ買ってくれ。昨日コンビニで高いって却下されたヤツ」
「あぁ……」
「犬のウンコ踏んでるぞ」
「あぁ……」
「がむしゃらハンマー!」
「ぐはっ! ちょっ……何すんだよっ?!」
「うるせぇ。犬のウンコ踏んでるぞ」
「ゲッ。この靴気にってたのに!」
「ジーンズにコーヒーかかってる」
「グゲッ! このジーンズ高かったのに……! なんで言ってくれなかったんだよっ?!」
「言ったわ。ボケが」
「くそぉ……しかもコーヒー空になってるし」
「全部こぼしたのか……お前ホント、トロいな。もう死ねよ」
「お前が死ね。あーあ……あの子も見失っちゃったし、帰るか」
「それだけ気になるなら声かければよかっただろ」
「あっ」
「お前ホント、ダメだな」
「ぐっ……うっ、うるせーな。とにかく帰るぞ」
「ボケが。気になることがあるから来てくれってメイデンに呼ばれて『メダ連』に向かってる途中だろ。お前が喉渇いたって言うから、わざわざ寄り道してだな――」
「あぁ、もう見惚れてた俺が悪かったって! さっさと『メダ連』行こうぜ」
「――っち。しゃーねーなぁ。んじゃ行くか」
 えっらそうにシーザが溜息をつき、歩き出した俺の隣に並ぶ。


「あ、そう言えばな。さっきの美少女だけどよ」
 とてとてと歩いてると、シーザが思いついたように話を振ってきた。こいつが他人に興味を持つなんて珍しい。明日は雨だな。
「くるくるロンゲの彼女がどうした?」
「あの美少女、二機のメダロットつれてただろ――顔に似合わず、超エグい機体」
 確かに美少女は二機のメダロットを左右後ろにつれて歩いていた。一機は誰しもが知るメダロットの破壊の皇帝ゴットエンペラー……、そしてもう一機は、強力だったためバランスブレイカーとして絶版になった初期型のスミロドナッド。この組み合わせは、ちょっとお目にかかれないコンビかもしれない。つーか、あまりお目にかかりたくない。心臓によろしくないコンビだ。
「あの二機がどうかしたのか?」
「二機というかスミロドナッドの方だけどよ――かなり、強い。あの女ただもんじゃねーぞ」
「ただもんじゃないって……たまたま見かけた可愛い子の機体が強そうだからって、話が飛躍しすぎじゃねぇか?」
 まるで悪の手先のような言い方に むっ とする。
 あんな可愛い子に何て言い草だ。
「エンヤは見惚れてみてなったけどよ。あの三人組、通りすがりのメダロット捕まえてデスレーザーで脅してたぞ?」
「あっ、確かになんか声かけてたな……」
 野良メダロットらしき自動車型メダロット・ランドモーターに、にこやかに近づいていた。
 彼女にあんな笑顔を向けられて羨ましいとか思っていたが、そういえばゴッドエンペラーとランドモーターの距離がやたら近かった気がする。そしてランドモーターがやたら怯えてた気がする。


「見てたなら気づけよ。ボケ」
「彼女以外目に入らなかったんだ。ポンコツ」
「色ボケ男」
「おさげメダロット」
「次、同じこと言ったら殺すぞ」
「…………お前のリミッター外すんじゃなかったな。大会にも出れなくなっちまったし」
 昔は良かったなぁ。
 嫌がるシーザの角をおさげ風に垂れさせて、写メとって遊んだりして、楽しかった。
 リミッター外した今じゃあ命懸けだ。
「その話は片がついただろ。蒸し返すな」
「へいへい……ところでだ。シーザ」
 何気なく時計を確認して、俺は少し真顔になった。
「話は変わるが、俺たちはこうして『メダ連』に向かって歩いてるわけだが――待ち合わせの時間まで、もう数分しかない。そして一応言っておくが、ここから『メダ連』まで後3・4キロはある……」
「……メダタクシーでも拾うか」
「そうすっか」
 まっ、タクシーを拾ったところで遅刻は確定的だが、大幅に遅れるよりはマシだろう。
 友人感覚で半日も待たしちまった結果、シールドのおっちゃんに盾で殴られたのは今でも思い出したくない記憶だ。


 俺は右手を上げて、一台の車両タイプのメダロットを停める。
 すでにメダチェンジした状態のメダロットの側面には黄色のレッテルが貼られている。これがタクシー業をしているメダロット『メダタクシー』の証だ。


「……」
「……」
「お客さん。どうした? 乗らないのか?」
「……」
「……」


 少し話は脱線するが、この町にはマッドタクシーとあだ名されるメダタクシーが存在する。
 元々はレーサーとして活躍していが、競技中に大事故を起こしクラッシュしてしまったのキッカケに引退し、タクシー業に転職したメダロットだ。ちなみに普通のメダタクシーは、自動車型のランドモーターや機関車型メダロット・ヴェイパーレールだが、こいつはザリガニ型メダロットのくせにミニハンドルを装着(機体改造によって)していると言う曲者なので、話でしか聞いたことがない俺でも、見ればそいつがマッドタクシーだと一発でわかる。わかってしまう。


「……まっいっか。腕は一流だって話しだし。乗るぞ、シーザ」
「 マ ジ か ! 」
「よっしゃ、お客さん。どちらまで?」
「『メダ連』まで頼みます」
 嫌がるシーザを無理やり真っ赤な座席に押し込む。メダタクシーは基本的にひと一人が余裕を持って座れる程度の座席になっているが、このザリガニ型メダロット・ディストスターはそんな所まで改造したのが、人間の俺とシーザが乗れるほどの広さがあった。それでもやっぱり、無理やり詰め込んで乗れる、程度だが。


「エンヤ。持病のディストスターには乗ってはいけない病が――」
「おっと、メダロッチには戻さないからな。メダロッターとメダロットは恐怖を分かち合ってこそだろ」
「なっ――ふざけんな! 俺は降りるっ!!」
「させるかっ!!」


 カッコつけのくせにジェットコースター類の乗り物が大の苦手のシーザ。


「へんっ。さっき俺のことハンマーで殴ったお返しだ」
「いやだ降ろせぇぇぇえええええええ!」
「ディストスタータクシー、発車する」
「止めろぉおおおおおぉおおおおおおおおおおおおお!」
「ざまぁああああっはっはっは!」


 車内でもつれ合って暴れだす俺たちを乗せて、マッドタクシーは『メダ連』に向けて走りだした。






 第三十九話に続く。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.42 )
日時: 2012/06/08 13:59
名前: 通りすがりのコンビニ店員

 




 ――私は、私から奪おうとする人を絶対に許さない。








 第三十九話『突撃』




「ん……?」
「なんだ?」


 もくもくと上がる砂埃。
 こっちにそれが向かってきるのを確認し、『メダ連』の本部ビルの出入り口を警備している二機のメダロットは注意深く目視する――


「もっとスピードだしな!!!!」


 ――彼らの前に姿を現したのは、時速90キロを超える暴走車。
 そして自動車型メダロット・ランドモーターに乗り、ノーブレーキでこちらに突っ込んでくる少女だ。


「うぉおおおおお?!」
「ちょっ、ヤバ――――っ?!」


 明らかにこちらを轢き殺す気できていることを感じ取った警備のメダロットたちは、大口を開けて絶叫しその場から飛び退いた。


 ガッシャーンッ


 ということで暴走車を止めるものは皆無であり、そのまま女が乗ったランドモーターはガラス製の自動ドアを大いに叩き割って、本部ビル1F・受付けカウンターの前で綺麗に停車する。


「なっ……なんなんだいったい?!」


 飛び退いた警備員のメダロットが動揺を漏らす。
 ビル唯一の出入り口の警備担当にあたってかれこれ五年程になるが、天下の『メダ連』にミニハンドルで突っ込んでくるバカがいるなど思ってもみなかった。
「なにって敵の奇襲に決まってんだろ!」
「あいてっ」
「さっさと起きろ。捕まえるぞ」
 すでに戦闘態勢にそなえて身構えている相方に足蹴りされ、飛び退いた状態で寝そべっていたメダロットも臨戦態勢に入る。


 殺気を感じて、ランドモーターに乗っている女はすぐさまメダロッチに触れた。
「はいはいメダロット――転送っ!」
 白いメダロッチからスミロドナッドとゴットエンペラーが呼び出される。
「菊くん、二体相手だけど時間稼いで。デストはメダフォ溜めて一斉射撃で片を付ける。あとは……ここまで送ってくれたランドモーター君だっけ? ありがとー。もう帰っていいよ」
「あぁぁぁあぁぁ……まさか『メダ連』に突っ込むなんて……お前らなんか二度と乗せん!! 次は脅されたって二度と乗せんからなっ!!」
「またよろしくねー」
「乗せんってつってんだろぉぉおっ?!」
 悲鳴近い抗議を叫びつつ、ランドモーターは全速力で壊れた『メダ連』の自動ドアから飛び出していった。


「ウサギ」
「マスター」


「ん?」


 ランドモーターが逃げ去っていくのを見送っていた女は、自分のメダロットに呼ばれて振り返る。


「片付いたぜ」
「片付きました」


「よろしい」


 振り返った女は、瞬殺された警備員のメダロットたちを見て満足げに頷き、目の前にいる受付けの可愛い女型メダ――アイドル型メダロット・ディアアイドルに歩み寄った。そしてドスのきいた声で告げる。


「黒ヤギさんから素敵な挑戦状(おてがみ)頂いたんだけど――呼び出してもらえるかな?」


 静かだが明らかに怒りが込められている言葉。
 受付けのディアアイドルは、少女の後ろでゴットエンペラーとスミロドナッドが武器を構えているの確認して、ニッコリと微笑む。たとえ脅されていても笑顔を崩してはいけない。それが受付嬢の仕事だ。


「かしこまりました。それでは奥の部屋でしばらくお待ちくださいませ」


 そして微笑む受付嬢は、こんな状況に陥った原因であるふざけた黒ヤギに文句を言うべく、カウンターの電話に手をのばした。







 第四十話に続く。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.43 )
日時: 2012/06/11 00:54
名前: 通りすがりのコンビニ店員

 第四十話『勝利の庇護』




 ――『メダ連』本部ビル・47階(最上階)にて――



「会長。受付嬢のディアアイドルから電話で報告が入ってます」
 メイデンの報告に、机に座って書類に目を通していた『メダ連』会長、ブラックメイルが顔を上げる。
「ディアアイドルちゃんから? もしかしてデートのお誘いかな?」
「いえ。一発殴らせろと」
「…………お前らはオレを何だと思ってるんだよ」
 メイデンといい、ディアアイドルといい、なぜこうも『メダ連』の女メダロットは自分を攻撃したがるのか? ブラックメイルは納得がいかない。
「ディアアイドルの話では、美少女が『黒ヤギからお手紙をもらった』と言って本部にミニハンドルで突っ込んで来たらしいです……会長、私も一発殴らせてください」
 言いながらメイデンは、背中に差した槍を抜き放つ。
「『なぐる』ってそっちの『なぐる』かよっ?! お前ら本当にオレを何だと思ってんの?! 会長だよ、会長!! サンドバッグじゃないんだよっ?!」
「当然です。サンドバックは敵に挑戦状おくるようなアホな行動とったりしません!」
「あっ、それか! それを怒ってるのか。まってまって、オレにも一応考えが――ぎゃぁあああああ!!」
 メイデンが投げ放った氷の槍が、会長座席を串刺しにし、凍りつかせた。
 間一髪で床に逃れたブラックメイルは顎を外す。


「ちっ。殺り損ねましたか……」
「うそだぁああ?! 本当に刺しやがったっ!! っていうか今『殺る』って言わなかった!? 殺す気だったのっ?!?!」
「安心してください。次は外しませんから」
「にっこり微笑まれても困る!! シールドがいないからって、やりたい放題すぎだって!! たまにはオレの話も聞いて!」
「では三十字以内で簡潔に述べなさい」
「命令っ!?」
 直属の部下に槍で脅されながら命令されるって何かおかしい。やはり納得のいかないブラックメイルだが、ここで挽回しなければ、串刺しとなったイスの二の舞になること受けあいだ。なんとしても三十字で説明しなければ。


「えー。ベビーと獣王とお茶飲んだ結果、なんか大丈夫って話になった」


 ザシュッ


 メイデンの槍が再びブラックメイルを襲った。


「うっお。危なっ!! オレちゃんと答えたのにっ!!」
「言っている意味がわかりません。答えるならもっと、詳しくわかりやすく答えてください」
「メイデンが三十字以内って無茶振りしだんだよっ?!」
「知りません。さっさと答えないと本当に刺し殺しますよ」


ブラックメイル(んな我儘なっ……)


 言いかけた呟きをブラックメイルは呑み込んだ。まだ死にたくはない。


「だからさ。実際に人質にしてるプリミティベビーとビーストマスターに会ったんだよ。あいつら面白いよなー。監禁されてるくせに高級オイル飲みながらババ抜きしてんの。オレも雑じって盛り上がっちゃったよ」
「ついて来たら高級オイル飲めますよ、って言ったら見事について来た連中ですから。バ会長と同類なんでしょう」
「………………。とにかく、あの二機の様子からして『組織』との繋がりは皆無。メダロッターも仲間を放り出すようなヤツじゃないみたいだし、置手紙だけ残すよう言って、アパートに張り込ませてた連中は引き上げさせた」
「そのまま出かけていた兎想月ウサギが帰ってきたところを、襲わせれば良かったんです」
「ダメだ。それじゃあ『メダ連』の敗北を認めたことになる。真っ向から勝負して、『勝った』と証明しなければ意味がないだろ――舐められたら終わりなんだよ。俺たち(野良メダ)は」



 『メダ連』の上級仕官がぱっと出のメダロッターに破られた事実は、急速にメダロッターたちの間で広がっている。
 野良メダは〝力〟がなくては生きてはいけない。
 悪質な『狩り』を抑えている『メダ連』が揺らげば――……かつての弱者が虐げられる時代がよみがえる。




 どんなに叫んでも、
 どんなに戦っても、
 誰も助けてくれず、
 人知れず狩られて壊れていく。


 野良メダには、そんな時代があったのだ。




 力でもって力で制す――『メダ連』が出来たのは偶然ではない。必要とされたからだ。
 その力を必要としている者がいるから成り立っているのだ。



「『メダ連』に負けは許されない。そうだろ?」


 だからこそもう一度戦って実力を――『勝利』を証明する必要がある。






 メイデンはしばらく熟考したのち、笑みを浮かべるブラックメイルに、疑いの目を向けた。


「……とか言いつつ、美人のメダロッターが見たいだけでしょう?」


 ギクッ


「更に、あわよくばご自分でロボトルする気でしょう?」


 ギクギクッ


「いっ…いいじゃん!! デスクワークもう嫌だ!! オレだってメダロットなんだから偶にはロボトルしたい!」
「時と相手を選んでください」
「厳選した結果じゃん! これ以上の相手はなかなか居ないって!」
「う……まぁ、ある意味そうですけど」
 なんせ相手はバランスブレイカーのスミロドナッドと、破壊の皇帝ゴットエンペラー。
「でしょっ?! あっちから来てくれたんだし、やっぱここはオレが出ないと」


メイデン(さては、それを狙ってあちらから出向いてくるよう置手紙を残させましたね……)


 メイデンは呆れつつも、仕方ないと溜息をつく。
「わかりました。その書類が全て片付いたら、戦ってもいいですよ」
「全てって……これどう見ても今日中に終わる量じゃn――」
「終わらないなら私が相手をして来ますので。お構いなく」
「――終わらせる! ブラックメイル会長に不可能の二文字はない!」
「………………『不可能』は三文字です」




 なんでこの人が会長なんだろう。
 一日に一回はそう思うメイデンなのであった。












「あっ、伝え忘れがひとつ。会長」
「なになに?」
「今日はエンヤさんがいらっしゃるはずなので、さっさとロボトル終わらせて下さいね」
「どうせ遅刻だろ」
「大丈夫です。それを見越して早めにいらっしゃるよう時刻を伝えましたので」
「メイデン……エンヤさんをなめるなよ。更にそれを見越して遅れて来るはずだ」
「うわっ。最悪のタイプですね。絶対お付き合いしたくない系です」
「オレはそーゆーとこ嫌いじゃないけど。キクノウチ思い出すからかなー」
「…………会長のダメさはマスター譲りですか」
「や、キクノウチに比べれば、オレやエンヤさんはまだ真っ当」
「っ?!?!?!?!?!?!?!」
「あいつは本当に弱っちいからなー」





 どこで何してんだよキクノウチ……。


 迎えに来ると言ったきり迎えに来ないマスターを思い、ブラックメイルは小さく呟いた。






 第四十一話に続く。



 あとがき
―――――――――――――――――――――――――
 最近、小説にぎわってますね!
 なにかのお祭りですか? ……もしかして『メダロット7』発売決定祝い?
 とりあえず読み放題でウハウハです。
 幸せー!

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.44 )
日時: 2013/03/02 00:06
名前: 通りすがりのコンビニ店員





 第四十一話『宣戦布告』






 〝大切なものを大切にするのは、ひどく難しい〟





 そう言ったのは誰だったっけ……あぁ、そうだ。アイツだ。
 弱っちくて逃げ出すくせに、逃げ切れなくて厄介ごとに捕まる――天パの、アイツ。


 まったくもって、こーゆー時には思いだすのはアイツの言葉ばっかり。
 しかも的を射てるから気に食わない。
 今度のことだって、そう。
 大切に出来てなかったから、私はこうして仲間を奪われてる。
 もう二度と失わないって決めたはずなのに。


 ……けど、このままじゃ終わらせない。
 奪われた私に責任があるように、奪ったヤツにも責任がある――果たしてもらいましょうか、その責任。


 そいつが一番大切にしているもので。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





「やっと出てきたわね――随分と出てくるのが遅かったじゃない? ブラックメイル会長?」


 菊くん、デスト、そして私が奥の部屋に通さること五時間。
 私たちを呼びつけた黒ヤギと、その秘書らしきメダは、姿を現した……ただし、ブラックメイルの方は何故か疲労困憊した様子で。


「遅かった……? や、自己最高記録を更新したぞ。この速さは。……オレ、頑張った。ホント頑張った。超疲れた」
「会長。疲れたのなら下がってくださっても構いませんよ?」
「メイデン。何のためにオレが頑張ったと……頼むから、この期に及んで精神的にイジめんのは止めてくんない?」
「ヘロヘロのくせに……負けないで下さいよ」
「努力する」
「勝ちなさい」
「………………………はぁい」

 おそらく『メイデン』と呼ばれたギャラントレディは、ブラックメイルの部下なんだろうけど、何か…凄く高圧的に勝利を命令していたような……?
 まっ、今はそれはどうでもいいことか。


「本題に入らせてもらうわ――」


 ガンッ と私は右の手のひらで、『メダ連』と『私たち』を挟む机を叩きつける。
 愉快な会話を聴くために五時間も待ったわけじゃない。


「――ブロッソメイルのメダルを壊されたくなかったら、私の仲間を返しなさい」


 もっとも、向こうが「わかりました」なんて言うはずがないのはわかりきってるし、私も穏やかに済ます気なんて一切ない。
 つまり――これは、宣戦布告。
 私たちは戦うために来たのだから。





 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 メイデンは、目の前にいる少女をじっくりと観察する。


 くるくるの茶色の長い髪を少し上の方でおだんごに結い上げ、余った髪を肩よりすこし下まで流している。黒い瞳はぱっちりと大きく、したたかな自信に満ちていて。これは――戦うことに慣れている眼だ。失うことも、奪うことも、すでに知っている眼。まだ17・18の少女には不釣り合いな眼で、しかし、だからこそ――人を惹きつける不思議な魅力を灯している。


(強い……ですね)


 嫌な予感がする。


 兎想月ウサギが連れているのはディアアイドルの報告にあがった、スミロドナッドとゴットエンペラーだけ。
 ブロッソメイル戦――遊園地で襲った時に使われたウォーバニッドは、遊園地でそのまま別れたと確認が取れている。しかも……ウォーバニッドの機体は、今朝方、『メダ連』によって回収され済みだ。


(ウォーバニッドの機体が遊園地に放置されていたことは不可解ですが……)


 メダルを抜き取られ、ボロボロの状態で回収されたウォーバニッド。後をつけさせていた手練れは、何者かに襲われ機能停止させられており、あの遊園地で何があったのか――三十年前の王者が、なぜ惨めな姿で取り残されていたのかは不明である。


 一番にあがるのはウォーバニッドを捕えていたとされる〝組織〟の存在。
 しかし、この事についてメイデンは納得できていない。〝組織〟にしては、やり方が「おざなり」すぎる。


 〝組織〟が信条にしているのは自らの情報の隠ぺい――存在しない、想像の域を出ない、「架空の組織」であること。
 あらゆる犯罪の糸を引いていながら、表舞台には立たず、派手な行動を起こさないからこそ、実態を掴めていない――日本政府。警察。セレクト隊。……そして『メダ連』でさえ。
 八年前に起こった〝組織〟の内部分裂のおかげで、少しだけ明るみにでたが、それすらなければ今も「実在」が疑われていたはずだ。
 それほど慎重深い〝組織〟。わざわざ遊園地という場所に彼らに深く関わった人物が姿を現すとは……メイデンには考えにくかった。


 それに、そもそも、なぜ今更ウォーバニッドなのかも疑問である。


 ウォーバニッドは世界王者として知られている。
 その機体をわざわざ人目に晒したうえ、あまつさえ『メダ連』の上級士官と戦わせる――〝組織〟を表沙汰にしかねない行為。〝組織〟が望んでやるとはとても思えない。



 考えられるとすれば、捕らえていたウォーバニッドが逃走したか――
           どうしても『ウォーバニッド』と『メダ連』を戦わせなければならない理由があったか――
           もしくは「存在していない」を信条にしている〝組織〟そのものが変わってきているのか――


 ――結局のところ、何もわかっていないのだ。


 なぜ〝組織〟に捕らわれていたウォーバニッドが姿を現したのか。
 ウォーバニッドが『メダ連』と戦ったのは、必要性があってのことのなのか。
 そしてウォーバニッドを誰が潰し、そのメダルを持っていったのか。その目的はなんなのか。


 わかっていない。
 それでも、もしわかっていることがあるとすれば――


(――この少女が、〝組織〟と無関係だったことぐらいですね)


 兎想月ウサギは〝組織〟と無関係である。
 捕らえた敵と話し合い意気投合した結果「あいつらのマスターなら大丈夫だろ!」と言ったバカはともかく、確かに尾行させていた優秀な部下からも『〝組織〟と繋がっている線は極めて低い。……つーか、ただのバカップルがデートしてるだけにしか見えなかった。リア充爆ぜろ!! 爆死しろぉおおおお!』と報告がきている。上官に対して後半部分の報告の仕方は頂けないが、あの優秀な部下が言うのだから、報告内容は信じていいものだ。


 だから一番の脅威であるウォーバニッドは、兎想月ウサギの手元におらず。
 スミロドナッドとゴットエンペラーだけなら、多少の苦戦をせども、あのロボトル馬鹿の会長が負けるわけがない。
 その強さは『最強』と呼ばれた前会長にさえ、上回っているのだから。




 なのに、メイデンは嫌な予感が拭えずにいる。
 大切な〝何か〟を見落としている……兎想月ウサギという少女の瞳を見ているとそんな気がしてならない。


(答えは目の前にある気がするのに……それがいったい何なのかがわからない……)




 もしかしたら会長ならわかってるかもしれない……。


 バカだからこそ誰にも出来ない視点を持っている会長になら――メイデンは少女から視線を外し、大切な〝何か〟の答えを求めて、右隣に座っているブラックメイルをそっと見た。いつになく真剣な表情で兎想月ウサギを見つめるブラックメイルは、傍にいるメイデンが聴こえるか聴こえないかの声で何かを呟いている。
 もしや……。と期待してメイデンは側耳をたてる。聴こえてきた呟きの内容は――




「うぉぉぉぉぉおお噂通りめっちゃ美人んんんんんんんんんっ……!」




(――ダっ、ダメだこいつ……早くどうにかしないと…………)




 そう思いつつも、食い入るように目の前の美少女に見入っているブラックメイルに、
 あぁ、そういえば手遅れでしたっけ――ひしひしとメイデンはなにかを感じて諦めた。








 第四十二話に続く。
 




 ――――――――――――――
 次回ですが、ウサギちゃんはキレたら怖いだろうな……っと思って書いてましたら予想以上の怖さに。
 よって、ウサギちゃんはダーク化するので、ちょっと引くかもしれません。

全力でごめんなさい ( No.45 )
日時: 2012/09/30 12:16
名前: 通りすがりのコンビニ店員



※注意!


 今まで『マンガっぽい小説』を目指して主にキャラ目線主軸で書いてきましたが
 作者が自らの力量に限界を感じた(つまり挫折した)ため、
 ここから急に第三者目線の書き方に変わっています。


Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.46 )
日時: 2012/10/12 15:55
名前: 通りすがりのコンビニ店員




 第四十二話『ダークラビット(1)』




「おかしくないか?」
 サーベルタイガー型のメダロット――スミロドナッド。菊之内という名の黄色いメダロットは、ことの成り行きに、至極まっとうな疑念を呈した。というのも先ほど交わされた兎想月ウサギ――自らのマスター――と、『メダ連』会長、ブラックメイル――との、やり取りの事である。


 仲間を返せと言ったウサギの言葉を、当然ブラックメイルは却下した。
 代わりに、ウサギがブロッソを解放し、二度と ロボトルしないと誓うなら返す と提案してきた。
 ウサギはこれを却下した。
 二人間での話はこじれにこじれ、最終的にやはりというか何というか、戦って決着をつけることになったのだが……ここまでは、菊之内も予想通りだった。相容れないものが戦力を互いに保持している場合、どうなるかは大抵決まっている。『メダ連』側にしても、本気であんな茶番が通るとは思っていないはずだ。
 否、『メダ連』側のほうが戦いを望んでいる。
 名に泥をつけられたのを放っておくほど、『メダ連』は甘い組織ではない。
 ウサギが万が一ブラックメイルの提案を呑んでいたとしても、難癖つけて戦いになっていたはずだ。
 挑まれたら最後。野良メダたちの希望を背負っている『メダ連』は、常に勝利を示し続けなければならないのだから。


「だけどな。おかしいだろ」
 どう考えても、どう結論を出しても、おかしかった。
 『メダ連』と戦うことになるのはわかっていたが……
「どうして人間のお前(ウサギ)が! ブラックメイルとリアルファイトする流れに落ち着くんだよっ?!」
 菊之内がいるのは、バスケットコート4つ分ぐらいの広さの部屋。目の前には六角形の盛り上がったステージが設置されている。普段このステージは『メダ連』で働いている兵士たちのロボトルの練習場所らしいが、これから行われるのは、人間とメダロットによるリアルファイトだ。
 ウサギは、叫ぶ菊之内など素知らぬ顔で着々と戦うための準備をしている。
 服装は、どこかの高校の制服。緑のチェックのミニスカートに、半そでの白いシャツ。今は十二月なので、季節を無視しているが、制服が自分にとっては戦いなれた戦闘服なのだとウサギは言い張り着用している。菊之内にはよくわからなかったが、こだわりがあるらしい(だからと言ってわざわざ持ってきて着替える程の必要性があるかは疑問だが)。両腕には、にの腕まである特殊素材の黒手袋(どっからか仕入れた)をはめ、ポケットには黒い塊(なぞの危険物)をつっこんでいる。
「ありえない! おかしい! 誰か説明してくれぇえええ!!」
「菊くん うるさい」
「わめきたくもなる! 普通ここはロボトルだろっ?! デストも何か言ってやれ!!」
「マスター。頑張って下さいね!」
「うわぁああああああああそうだったコイツも馬鹿だったっ!! 忘れてた!」
 常識人に見えてどこか抜けている神帝デストくん。
「応援よろしくねー」
 ウサギは明るく声援に応える。慌てたのは菊之内だ。
「待てウサギ。止めろウサギ。止めてくれウサギ! お前が怒ってるのは知ってる。そこらの男より強いのも知ってる。だがブラックメイルはメダロットだ。俺らみたいにリミッターがついてるなら問題ないが、相手は外してる。人間のお前が勝てるわけない。つーか、勝つ負ける以前に、死ぬぞ」
 相手はブラックメイル。
 しかも初期型。
 メダロットでもただでは済まされない――いわんや、人間ならまして。
「そうね」
 あっさりとウサギは頷いた。
 生死に関わる警告を平然と認めるウサギに、菊之内は唖然とする。
「そうねって……ウサギ。どういう――「あのね、菊くん」
 ウサギは菊之内の言葉を無理やり遮った。
 これ以上、不満を言わす気はない。
「私とリアルファイトになって困ってるのは、『メダ連』の方よ」
「は? なんで――」
「『メダ連』は〝力〟で成り立っている組織。人間なんぞに挑まれて、逃げ出すわけにはいかない――けどね、それは間違いなく弱点なの」
「…………???」
「そして可哀相だけど。私は絶対に許さない――私から奪おうとするヤツを」
 ゾッ と、冷たいものが這い上がってくる感覚が菊之内を襲う。
 ウサギが笑っていた。
 今まで菊之内が目にしてきた少し偉そうな笑みでも、明るい笑みでもなく、
 戦いへの喜びを含んだ、至極イジワルな微笑み。
「ウサギ………?」
 強者によって狩られるはずの弱者が、獰猛な笑みをたたえていた。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




「っち」
 ウサギたちがいるリングの反対側で、ギャラントレディ――メイデンは、舌打ちを隠せずにいた。
(まさかリアルファイトで挑んでくるなんて……会長はどうする気で……)
 やられた――と思った。嫌な予感の正体はこれだ。始めからあのふざけた名前の女はリアルファイトを狙ってきていたのだ。


 メイデンはちらりとブラックメイルに視線をやる。
 それに気づいたブラックメイルが「あぁ」と真剣な表情で頷く。
「メイデン…………ヤベェな。あのミニスカでハイキックとか繰りだされたら確実に見えるぞ……っ!」
 なにか甚大に間違った心配をブラックメイルはしていた。
「…………会長、女子にはスパッツという心強い味方がいるんですよ」
「バカやろう! あれは悪の手先だぞ。今すぐ脱ぎ捨てるように言って――ぎゃぁあああああああ!! メイデンまって! 戦う前にフリーズは勘弁して!!」
 慌てるブラックメイル。何も考えていなさそうな姿に、メイデンは立ちくらみを覚えた。
「会長。いい加減にしてください。私たち今、瀬戸際なんですよ?」
 メイデンは、能天気なブラックメイルに非難の目で責める。
 ブラックメイルはまばたきを繰り返しながら「んー」と唸った。
「まぁ確かにヤベーよな。『メダ連』トップのオレが負ければ、組織そのものが揺らいじまって『狩り』への牽制とか言ってる場合じゃなくなるし。だからって人間相手に、本気を出したら殺しちまうからなぁ」
 もしウサギとの戦いが殺し合いであれば、勝つのは間違いなくブラックメイルだろう。
 しかし、これは殺し合いではない。あくまで『試合』だ。
 万が一でも、『人間』のウサギを、『メダロット』であるブラックメイルが殺してしまってはいけない――『メダ連』会長が人殺しなど犯してしまえば、メダロットそのものの信用を失うことになる。世間、そして政府からの。
 そうなれば政府からもぎ取った 弾圧への抵抗の権利は剥奪され、下手すれば『メダ連』そのものを瓦解させられる。
 何があっても その最悪の事態だけは回避しなければならない。


(どうすっかなぁー………)
 ブラックメルはまばたきを繰り返す。
 そもそも、だ。
 法律上に置いて、メダロットの立場はひどく弱かった。
 例えば、メダロットが人間を殺せば罪になるが、人間がメダロットのメダルを割っても罪には問われない。
 メダルを割る行為が、悪意や故意的なものであっても、メダロットは文句を言うことすら許されていない。
 要するに、『道具』扱いのままなのだ。
 千年を経て、世間にメダロットが〝生きている〟と認識されるようになっても、法律上でメダロットは『道具』のまま。


 しかし同時にそれは、仕方のないものでもあった。
 メダロットの力は人間にとって強すぎ、間違えば一瞬で〝暴力〟に変わる。
 更に、どこぞの馬鹿な科学者がリミッターの解除方法を確立させ、世の中にそれが広まってしまったせいで、国の法律でメダロットを保護するのは、ほとんど不可能になってしまった。
 なぜなら――
 リミッターを外したばかりのメダロットが、子供の頭を撫でた。それだけで子供の首がパキリと折れてしまった。
 ――実際にそんな事件が起こるぐらい簡単に、リミッターが外れたメダロットは人の命を奪える。
 メダロットは危険な存在だ。
 紛れもなく、その気になれば大量の人間を瞬時に殺せる存在だ。
 そんな危険な存在を相手に、法を緩めるわけにいかない。
 むしろ三原則が外れやすくなったぶん、法律でメダロットの力を縛る必要がある。
 『メダロット』が『人間』を傷つけることが出来ないように――


「――やっぱり、代わりましょうか? 会長」
 メイデンは、言葉を切ったまま口を閉ざしてしまったブラックメイルに申し出る。
 ほとんどのメダロットがリミッターを外している『メダ連』に置いて、メイデンは数少ない三原則の保持者だ。
 人間を傷つけることは出来ないが、だからこそ、危害を加えずに相手を戦闘不能に落ちらせることが出来るかも知れない。
「いんや。カワイコちゃんの御指名はオレだぞ? 逃げるわけにはいかないだろ」


 繰り返されていたブラックメイルのまばたきが、止まった。
「それに方法がないわけでもない」
「会長……?」
「あっちも人間であることを逆手に取るような汚い手で来てることだし、こっちも邪道でいくか」
「あの、会長? 話が見えないんですが……?」
「メダロットとしては非難されそうだけどなぁ。別にロボトルじゃないし。武器の所持はありだって話になってるし」
 さすがにメダロット相手に素手で挑め、ということは出来ないので、武器の所持は許されている。
 と いっても真剣や銃を相手がもっているわけもないので。
 武器といっても鉄パイプやそこらのものになるのだろうが――


「会長ッ!!」
「うっお。なんだよー? メイデン」
「『なんだよ』じゃありませんッ!! いいかげん私にも説明してください!!」
「説明は必要ねぇよ。見てればわかるし。それより用意して欲しいものがあるんだけど」
「用意して欲しいもの……ですか……?」
「 『麻酔銃』 」
 用意するよう言い渡された物の名前に、メイデンはぴたりと停止して、ブラックメイルを見つめた。
「たぶん。決着は一瞬でつくだろーな。かなりセコイ手かも知んないけど」
 動かないメイデンの視線の先で、苦々しげにブラックメイルは笑った。




 第四十三話に続く。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.47 )
日時: 2012/10/01 16:17
名前: 通りすがりのコンビニ店員




 第四十三話『ダークラビット(2)』



 互いに準備が終わり、ブラックメイルとウサギは向かい合っていた。
 メダロットたちの戦いが繰り広げられるリングの上で、人間とメダロットが対峙している様は、どこかひっかかりを感じさせる奇妙な光景で――しかし交わされる鋭い視線は、戦いの場に相応しいもの。


ブラックメイル(……アレ……?)


 違和感がした。
 目の前に立っている美少女に別段おかしな点はない。あえて挙げるならば、十二月なのに半袖を身に着けていることと、腕まであるぴっちりした黒い手袋が目につくぐらいだ。


ブラックメイル(ん…………黒い…手袋……?)


 違和感が強くなった。
 ブラックメイルはウサギの手の部分を注視する。…と言っても、美少女は両手をスカートのポケットに突っこんで立っているため、手首から先は見えないのだが――


ブラックメイル(――あっ、これだ。違和感の正体。このカワイコちゃん……武器を持ってねーのな)


 鉄パイプか何か持っていると思ったのに、ウサギはなにも持っていなかった。
 いや、おそらく持って入るのだろう。
 制服のポケットの中に……。




 ブラックメイルがその事実に気づいたのは試合が開始される直前だった。
 ゆえに彼は深く考察することはできず、気づけなかった。
 あきらかに普通の手袋でない黒いそれに、ポケットに隠された武器。







 静まり返ったリング場で、審判役であるメイデンが静かに右手を上げ、
 ――振り下ろした。
「レディ ファイト!」
 人間とメダロットの戦いが始まる。




◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆







 ――――――――― 決着は一瞬でついた。






 ウサギという人間が突っ込んできたのを受け止めた瞬間、ブラックメイルの視界が暗転した。
 幸いにも暗転したのは秒にも満たず、すぐに覚醒する。わけがわからないブラックメイルは、跳躍して後ろに下がろうとし――


「逃がすか!」


 ブラックメイルの背中に何かが叩きつけられ、脳に激痛が走る。
「なっ、なにが……げはっ――!?」
 焦げ付いた匂い。襲い続けてくる激痛に全身が焼かれている。
「わからない? わからないの? なら教えてあげる」
 組み伏したブラックメイルの背中に馬乗りになった美少女が、刺していたそれを引っこ抜いて、黒ヤギの目の前に晒した。


                       ・・・・・
 小型で、手にすっぽりと納まるその黒い塊は――スタンガンだ。


「ふざけんなっ! そんなもんで――」
「――メダロットにダメージを与えられるわけがないって? 笑わせないで。精密機械が」
「……っ!!」
「機械ってのはね。悲しいかな。より高度に、精密になるほど壊れやすくなるの。――面白い話してあげよっか?」
「…なんだよ?」
「リミッターを外したメダロットが二機いた。その二機はロボトルをし、戦いは白熱した。ようやく決着がついた頃には両機とも満身創痍。そして、直後に雨が降った――」
「その話の続きなら、知ってるぞ」


 二機のメダロットは過激なロボトルでパーツを破損していた。
 その破損箇所に雨水が入り込み、運悪く電気経路に浸水。メダルへの伝達回線がショートし、二機のメダロットはメダルに直で感電してしまい、気が狂った。そして元には戻らなかった。
 リミッターの解除が一般でも行われるようになって、この手の『事故』は多発している。
 メダロットに課せられている三原則(リミッター)。第一条、『わざと人間を傷つけてはならない』。第二条、『人間に危険が降りかかるのを見過ごしてはならない』。そして第三条、『第1条と第2条を破らない範囲で己を守り、他のメダロットに致命傷を与えてはならない』――これによって守れていたはずのメダロットの〝弱さ〟が、浮き彫りにされつつあった。


ブラックメイル(くそっ。このカワイコちゃん、メダロットについてよく調べてんな……っ!)


 『事故』が多発するようになりメダロットの弱さが浮き彫りになりつつある。それでも世間の認識はまだまだ甘いのが現状だ。
 たった一箇所の傷でメダロットが壊れてしまうなど、誰も思っていない。メダロット自身でさえ、ほとんどの者は自らの脆さに気づいていない――気づいているとすれば、メダロットのことを本気で考えて、調べ、その〝弱さ〟にたどり着いたメダロッターぐらい。
ブラックメイル(ヤッベェ……オレ、負けるかも)
 戦ってわかることがある。
 目の前の美少女は間違いなくメダロットのことを大切にしている。
 『メダ連』に対して激怒し、危険をかえりみず自ら戦っているのも、たったそれだけの理由だ――
 ――だからこそ、ブラックメイルにとって最悪の敵だった。
 メダロットを大切にしているメダロッターほど、メダロットに熟知している者はいない。
 そんな敵を相手にして、手加減して戦える力はブラックメイルにはない。
 予想していたシナリオの中で、一番嫌なパターンだった。


「――精密機械は壊れやすい。会長サマはどれぐらい耐えられるのかなぁ?」


 ウサギが笑って、再びブラックメイルの背中に黒い塊をぶっ刺した。
美しく優しげに見えるのに、ひどく残酷な笑み。悪魔の微笑み――というヤツかもしれない。
 ブラックメイルは絶叫をあげた。


「痛い痛い痛ぁああああああああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


「このスタンガンはね。特別製。先端がティンペットと同じM合金で出来てるナイフで、そこから電流が流れる仕組みになってるの。まったくもってこの世界は凄いね。ナイフとスタンガンで、こんなオモチャが出来るんだから。あっ、もちろん使用してるスタンガンは人間用のじゃなく、パソコンとか機械の回線焼き切るようなヤツだけど」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁああああああああああああああああ――――――――――!」


「聞いてないかも知んないけど、私けっこう感謝してるんだ。おかげで思い出したから――弱ければ、奪われる。壊される。長いこと平和ボケしてたから、こっちのスイッチ入れるなんて久しぶりだけど――いや、ブロッソの時も入れかかってたかな? あの時は先手取られて危なかったけど――教えこんでやる。お前が誰にケンカを売ったのか」


「あぁ……ぁ……あ…ぁ」


「奪われた私に責任があるように、奪ったお前にも責任がある。けど――命乞いをしなさい。そうしたら、許してあげる」


 ウサギは、ブラックメイルが気絶する直前で、刺している電流ナイフを抜いた。仰向けになるよう、足蹴りして転がす。


「ぅあっ……」


「私の仲間を返しなさい。自分の負けだって宣言しなさい。全て許してあげるから」


 痛めつけてくるウサギの、始終絶えることのない微笑み。
 悪魔の――もしくは、蹂躙する支配者の笑み。優しげで、残酷な、全ての者を屈服させる凶悪な笑顔。
 真下から見上げていたブラックメイルは、恐怖に息を呑んだ。
 従わなければ殺される。
 逆に 従えば全てを許される。
 逃れられない激痛から解放される。
 強烈な誘惑が、ブラックメイルを襲った。
「ぅぅうっ………」
 同時に恥の気持ちがこみ上げる。『メダ連』会長でありながら何て様だ。人間1人に縋るなんて――そう、いっそのこと本気を出してしまえば。メダロットの力を振るってしまえば――勝てる。勝てるんだ。
 勝利。
 それこそが、『メダ連』にもっとも必要なもの。
「くそったれ!!」
 ブラックメイルは吐き捨てて、にぎり拳をつくり――その右腕を振り下ろした。


 第四十四話に続く。


Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.48 )
日時: 2013/03/05 15:29
名前: 通りすがりのコンビニ店員





 第四十四話『フィール ロンリー ラビット?』



 ――ウサギちゃん視点―――



 マンホールに落ちて私はこの世界にやって来た。
 『セレクト隊』なる白ヘルメットのお兄さんに捕まって、二階から飛び降りて、飛び降りたところを、見ず知らずのメダロット――菊くんに、抱きとめられて。
 生まれて初めてのお姫様抱っこに感動しちゃって。
 浮かれあがったノリで「連れて逃げて!」なんて言ったら、菊くんは本当に連れ出してくれて。

 まるで少女マンガみたいなハチャメチャな展開のなかで、私は一瞬だけど思ったんだ。
 運命ってあるのかもしれないって。
 絶対にいないと思っていた。こんな私を助けだしてくれる人が、もしかしたら居て――今やっとその時が来たのかも知れない、って。

 『この世界』が、私がいた世界じゃないって知ってからは尚更。
 メダロットと呼ばれる、菊くんたちのようなありえないものが普通に存在する『この世界』なら――……と、私は自分でも無自覚に、幼稚な子供のような期待を胸に抱いていた。
 私がそんな期待を抱いてしまったのには、『この世界』を夢の中だと思っていたせいもある。
 夢の中でぐらいなら、そんな幸せな世界が。幸せになれる世界が。あってもいいじゃない――結局、ここが夢の中でないことはカラオケに言ったときに証明されてしまい。『狩り』や『胡桃沢』の話を聴いているうちに、『この世界』も私がいた世界と同じ……不条理で、どうにかしたくても、どうにもならない出来ないことがある〝現実〟なんだと理解したけど。
 ううん。ちゃんと理解できていなかったかな。
 本当にわかってたら、私はちゃんと守ってたはずだもん……それを『この世界』なら大丈夫じゃないかって楽観して行動して、後悔してる。バッカみたい。弱ければ奪われて失うなんて、嫌でも知っていたはずなのに。
 ……結局のところ。
 立ちあがる強さが、守るための強さが、失わないための強さが、――必要なんだ。
 どこにいても。どんな場所でも。
 この世界でも。

 私は強くなくちゃいけないっ……っ!








 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆






 ――デスト(ゴットエンペラー)目線――



 兎想月ウサギ――マスターが強いことは、だいぶ前からわかっていました。
 ロボトルで出される的確な指示は、まるで自らがその場に立ったことがあるかのようで。
 また、遊園地で十数機のメダを怯むことなく迎撃しようとしたのも、かなりの修羅場をくぐりぬけ、『力』に相当の自信を持っているからだと見て取れていました(無茶には変わりありませんが)。
 しかし、これは……余りにも、信じられない光景で。
 信じたくない光景で。


「つ、強い……ッ!」


 一方的にブラックメイルを虐げるマスターに戦慄し呟く私が感じたのは、
 紛れもない――





















 ―――――――恐怖でした。














 第四十五話に続く。

Re: 『マンホールに二次元世界』 ( No.49 )
日時: 2013/03/06 00:46
名前: 通りすがりのコンビニ店員





 第四十五話『戦いは何が起こるかわからない』




 強くあらねばならないと感情に支配されながら、しかし兎想月ウサギの思考は冷めていた。
 ブラックメイルの右腕は振り下ろされるのをその目で認識しながら思う。
(腐っても『メダ連』のトップってことかな……)
 ブラックメイルが腕を振り下ろした先は、地面だ。
 足元を砕かれたことでウサギは否応なしに態勢を崩す。
 その一瞬をついてブラックメイルはウサギの拘束から抜け出し、後ろに距離をとった。
 距離を取られ、しかもフィールドに亀裂が入り生身では移動しづらい状況にされ、ウサギは目を細める。
(……攻撃してくると思ったのに。賭けは負けちゃったか)
 彼女は自らの内で密かに賭けをしていた。
 相手が考えなしのただのクズだったなら、挑発に乗ってその身の暴力を行使し、自分を殺してしまっていただろう。
 そうなればブラックメイル自身はもちろん。『メダ連』にも明日はない。――ヤツが大切にしていたものすべてを道連れに出来る。




奪うヤツは許さない――代償はそいつが大切にしているもので支払わせてやる。




 目を細めたまま、ウサギは自然体でスタンガンを構えた。


 ……自分の命すらチップ代わりにしておきながら、しかしウサギは自覚していない。
 思考こそ正常だが、感情は明らかに暴走していて、自分がやっていることが滅茶苦茶であることに。
 否。誰も気づいていない。
 戦いを見守っているデストも菊之内も、ウサギが『メダ連』を道連れに死ぬことを企んでいたなど……拐われたロイやビィービを助けるために戦っていると信じている彼らには、思いもよらなくて当然だろう。
 無論ウサギだってロイやビィービを助けたいと思っている。
 ただ 彼女は正常に見えて、怒り狂っていた。
 奪われたという事実。
 そして奪われて始めて、愚かな幻想にすがっていた自分を自覚して
 弱くても許されるのではないかと思ってしまっていた自分が、
 彼女は許せず、暴走している。


 あるいはそれは許せないからではなく、認められないからかも知れない。
 認めるわけにはいかないからかも知れない。
 なぜなら彼女は――








 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 とっさの判断から九死に一生を得たブラックメイルは、少女との間を取りつつ驚愕していた。
 相手がまさか最悪の――手加減できない相手だったこともだが。
 それよりも問題は先ほどの言葉の応酬……挑発の真意。
 誰も気づいてないなかで、彼女と直接向かい合い戦っているブラックメイルだけは、ウサギの目的に気づき、
 振り下ろしそうになった拳を全力で地面へと逸らした。


(さっきオレが攻撃していたら間違いなくカワイコちゃんは死んでた……しかも本人はそれを狙ってやがったっよな?!?!)


 体勢を立て直し自然体でスタンガンを構える少女は、どこか不満そうだ。
 つまらない。
 なんて言いたげに、こっちを見ている。明らかに…それを狙ってたとわかる態度。
 この可愛らしい少女は――自分を破滅させる気で戦っている。


 ぞくり と


 彼女の悪意とその手段を理解してしまったがために、ブッラクメイルの感覚は呑まれる。




 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 この少女の前で間違ってはいけない。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・
 この少女の嘘に騙されてはいけない。


 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・・・
 間違った瞬間。騙された瞬間。自分は全てを失う。




(……ありえないだろ)
 恐ろしい敵だ。
 弱さを逆手に取る機転。自らの命を平然と張ってくる精神。予想以上に戦い慣れた動作。そして挑発と…罠。
 果たして目の前の少女は、本当に少女なのか疑いたくなってきた。
(それに、だいたい何でここまで……?)
 メダロットを大切にしているのだろう。
 それは戦い方を見ればわかる。
 けれど、それだけではここまで……こんな無茶は普通はしない。
 いったい何が彼女をそうさせているのか――ブラックメイルは瞬き(まばたき)モードに入りかけるが、我に返る。
 今は戦闘中だ。そんな事よりも、考えるべきは勝つための手段。そのための行動。




 ――敵は恐ろしいが。
 『メダ連』会長として絶対に倒さなければならない!




 ブラックメイルは、亀裂が入った瓦礫の向こうに佇む少女に向き合う。
 それを見て少女は笑った。
「今度はそっちから来てくれるんだ?」
 ブラックメイルは ニヤリと笑って答える。



「いいや? 行かねーぜ」




 そう言ってブラックメイルが取り出したのは黒い塗装のL字型の物体。
 少女は目を見開く。
「なッ?! メダロットのくせに銃って、ひ、ひど――」
「近寄ってスタンガン喰らうわけにはいかねーからな。――おやすみだ、カワイコちゃん」
 ブラックメイルは咄嗟に避けようと動いた少女に狙いを定めて、引き金を絞る。
 的確な射撃。
 これは外れない――






 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





(やられた……!)
 ウサギは悔しさに顔を歪めた。
 接近戦タイプのメダロットだったため、仕掛けてきてもスタンガンで応戦できると思っていた。銃(殺しは避けてくるはずだからおそらく麻酔銃)が出てきた場合など想定していない。足場が悪いから移動もロクに出来ず、これでは遠距離からやられる一方……というか、この弾丸はどう見ても躱せない。
(どうすればいい?!)
 それでもウサギは勝つための手段を模索する。
 相手の位置。迫り来る弾丸。自分の体勢。武器。残された時間。刹那に現状の情報を洗い出して考える。
 ――だが、何ひとつ手はなかった。
「くッ……」
 ウサギの顔がさらに歪んだ




    その時!






 ブゴッゴォゴォォァァ ッ 


 凄まじい破壊音と衝撃が部屋を振動し、壁の一面がぶっ壊されて変形したディストスターが突っ込んできた。
 本来のディストスターよりサイズのでかい そのディストスターは、まるでアクション映画のように華麗に空中を跳びながら突っ込んできて。見事なまでに綺麗にリングの上――ブラックメイルとウサギの間に着地し、停車する。
 一拍のち 部屋に叫び声が木霊した。


「うぉぉおおおお何か知らんが弾丸で我の前ガラスにヒビがぁああああああああああああああああ」
 ディストスターの叫びだった。
「ど…どうなってんだ――って、エンヤさん?!?!」
 狼狽えるブラックメイル。赤い車から這いずって出てきたコーヒー臭のする男性の人物に、さらに狼狽する。
(…………!)
 ウサギはその隙を見逃しはしなかった。
 間にあるディストスターを死角に、亀裂の入った地面を即座に移動してゆく。
 対象に近づくことに成功した。
「エンヤさん何でマッドタクシーなんかに……ってか大丈夫か? 顔白が――ぐはぁああああああ!」
 確かに……その戦いの







 ――――――――― 決着は一瞬でついた。








 ……謎のディストスターが盛大に突っ込んできてくれたおかげで。






 第四十六話に続く。