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Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.36 )
日時: 2012/09/21 21:22
名前: メダフィーミング・KR

◇~第35章 Presentiment~


 え、もう三月も半ばなの? 何それ怖い、とか思ってしまうくらい休日が過ぎ去るのはどうしてこんなに早いのだろうか。逆に考えれば長い春休みもあと半月になってしまったわけで、俺は無意識にカレンダーから目を逸らし、ついでに大学に関する邪念の一切を思考回路の外に追いやった。
 なぜ急に大学のことを考え始めたのかと言うと、それは今日が単位修得状況及び進級発表の日だからだ。俺の大学では三月中旬に大学のホームページ上でそれらの発表が行われることになっており、今回の発表は後期科目と年間科目の単位が無事に取れたのか否かが告知される。
 結果如何によって残りの春休みを晴耕雨読できるかが問われるわけで、無事にフル単だった者は意気揚々と、あまり芳しくなかった者は意気消沈と、そして必修科目を落とすという凄惨行為をやらかした者は戦々恐々としながら新年度をスタートさせることになる。
 まぁ必修科目を落としたとしても、三年までは難なく進級できる。なぜなら三年に進級する条件は取得単位数が20単位以上だけだからな。
 ただし四年に進級するには取得単位数が80単位以上、必修科目履修済みと一気にハードルが上がるので、サボってると痛い目に遭う。
 で、俺はと言えば――余裕のフル単である。いや嘘です、ごめんなさい。大学において単位認定を受けるのはC以上なわけだが、受験生やってた時から今なお苦手科目である英語を始め、いくつかの科目がCだったから全然余裕じゃない。が、取れればいいのである。落とさなければっ!
 俺は机の上に放り出していた携帯を手に取り、望にフル単報告メールを送ろうと新規作成画面を呼び出したところで手を止めた。
 先日、山下公園で見た望の顔を思い出したからだった。


 風が肌寒くなってきたので、それから程無くして山下公園を後にした俺たちはいったん時間貸し駐車場に戻ることにした。
 車の中で望と次の行き先を議論した結果、敢えてのマリンタワー案は望に遠回しに却下されたため、ランドマークタワーに車を走らせた。
 誤解のないように言っておきたいのだが、望の提案を簡単に受け入れたのは決して俺が望の尻に敷かれているとかそういうことではない。
 夕飯は家で食べることになっていたので時間を考えてのことである。あと実はちょっと疲れていた。出不精の体力のなさを侮ってはいけない。
 ランドマークタワーを訪れた俺たちはせっかくなので土産屋に寄り、俺はタワーを模した置き物を、望はアクセサリーやポストカードを買った。
 望にそれしか買わないの、と突っ込まれた。基本的に俺は倹約家である。別にケチではないが、お土産とか一つ買えば十分だと思う。
 最後に展望台に昇って横浜の街並みをたっぷり一望し、余韻に浸りながら帰路に着いた――というのが大体の流れだ。
 結局望は最後まで、二度と寂しげな顔を見せたりはしなかった。


 そしてあの日以来、望はあまり外に出なくなっていた。何度か連絡はしてみたのだが、どうもこのところ体調が芳しくないらしい。
 季節の変わり目だから風邪でも拗らせたのかもしれない。
 ただ、あの時望が見せた寂しげな――どこか遠くを見るような顔が、俺にはどうしても忘れることができなかった。
 あの顔は何かを無理してる顔だ。ブランクがあったとは言え、これでも長い付き合いの幼馴染だ。それくらいは分かる。
 でも、じゃあどうすればいいのかはよく分からない。
 幼馴染として、恋人として、何が正しいのか。俺が望にしてやれることは何なのか。
 あいつが話してくれるまでじっと待っているべきなのか、さり気なく悩みを聞いてあげるべきなのか。
 しかし――少なくとも今はまだ、俺に悩みを打ち明けてはくれないだろうな、とも思う。
 あいつは俺と違って、すごく強いやつだ。無理をしすぎるけど、絶対に自分の意志を曲げたりしない。
 あいつが話せるようになるまで。話してくれる日が来るまで、見守っていよう。
 幼馴染として、恋人として。何が正しいのかじゃなくて、俺自身がそうしたいと思うことをすればいい。
 俺の願いはたったひとつ――あいつの笑顔を、守りたい。ただ、それだけだ――