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Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.22 )
日時: 2012/08/04 19:36
名前: メダフィーミング・KR

◇~第21章 Fireworks display~


 暑い。もう日も暮れかけているというのに、どうしてこうも暑いのか。
 夏休みも半分以上が過ぎて、そろそろ大学側から出された課題が気になってくる頃である八月下旬。
俺は噴き出す汗をシャツの袖で拭いながら、最早お馴染みとなった待ち合わせ場所である最寄駅前の広場で望の到着を待っていた。
 というのも今日は夜から、隣接する市内で花火大会が開催されるからだ。
今年で何回目になるのかは忘れたが、この辺ではそれなりに大規模な恒例イベントである。
そういうわけで、久しぶりの望と二人っきりでのデートに意気揚々と家を出たのだが、いかんせんこうも暑くては――
「存分にリア充してるのに、愚痴ってばっかりいたら誰かに恨まれるよ?」
「おわっ」
 あまりの暑さに無意識に愚痴っていたからか、望の到着に全然気付かなかったぜ。
 ……って。ど、どうしたんだ、その格好っ。
「あははっ。お母さんがせっかくだからって言うからさ。どうかな?」
 照れ隠しのつもりか? 全然隠れてないぞ、耳まで赤くなってるじゃないか。
 しかしながら、睡蓮をベースにした薄紫色の浴衣はとてつもなく似合っている。
さらにアップにして結んだ髪型が見事な調和を醸し出していて、つまり理想の幼馴染がそこにいた。
 いい機会だからはっきり言っておこう。女の子の浴衣姿には男の夢が詰まっているのだ!
「望」
「ん?」
「愛してる」
「ちょ、こんなところで何言ってるのっ」
 言わずにはいられないくらい可愛い。冗談抜きに卒倒するかと思ったし。
正直もう花火とかどうでもいいんだが、望の浴衣が見られたのは花火のおかげなんだよな。
 しかし俺はジーパンに薄地のシャツという至って普通の格好なんだが、いいのかね。
「大丈夫だよ。私の彼氏はそんな細かいことは気にしない人だもん」
 そうだったのか? まぁとにかく、以後望のお母さんは神と等しく崇めるべき存在で間違いない。

 快速電車で二駅という短い乗車時間を経て、改札を出ると既にたくさんの人で賑わっていた。
「まだ時間あるけど、屋台でも見て行く?」
 浴衣のせいでぎこちなく歩く望を気遣いつつ、俺は腕時計を見ながら言った。
 花火大会は午後七時から一時間半行われることになっており、現在時刻は六時すぎだ。
「んー、でも夕飯食べてきたばかりだし。場所取りはしなくてもいいの?」
 実は俺たちは待ち合わせ前に、お互い家で早めに夕飯を済ませていた。
屋台は混雑していて食い損なう可能性があったし、人混みの中では食べたくないしな。
「場所については心配いらない。とっておきのスポットがあるんだ」
「ほんとに? じゃあせっかくだから、少しだけ寄ってみよっか」
 小首を傾げる仕草が何とも言えない。
「よし、じゃあ行くかっ」
 俺は人混みに逸れないように、そっと望の手を取った。望は恥ずかしそうに俯きながら、俺の手を握り返してきた。
今時の大学生にしてはウブすぎやしないか、俺たち。


 屋台では二人して輪投げと射撃に挑戦し、俺はどちらも盛大に失敗したが――射撃は的に当てたのに倒れなかった、クソ。
あれは倒れない仕様になってるんじゃないか?――望は輪投げを全部入れて隣にいた子供を驚かせていた。
射撃は俺の方が当ててたぜ。いや、マジで。
 その後、りんご飴を二つ買い終わる頃には花火の開始時刻も迫ってきていた。
俺たちは若干早歩きで目的の穴場スポットである川沿いの土手へと向かう。
 川沿いの土手に辿り着くには抜け道を知っている必要があり、かつ割と急な斜面に長時間腰を下ろしていられるバランス感覚がなければならない。
そのため、此処で花火を見ようなどと考える人間はほとんどいないというわけだ。まぁ、実は司馬の請売りなんだけど。
 案の定、見物客は俺たち以外には数える程度しかいなかった。
「そういや、浴衣で座れるかな。てっきり普通の格好でくると思ってたからさ」
「んー、深也がちゃんと支えてくれていれば大丈夫じゃないかな?」
 望が俺を試すように見つめてきた。小悪魔だな、自覚してるのかは分からないが。
「せっかくの浴衣だからな。もし汚しでもしたら俺の方が申し訳が立たない」
 主に望のお母さんに。
 どうにか安定して腰を落ち着けられる場所を確保し、ほっと一息ついたところで盛大に大音が響いた。
「あっ、始まったよっ」
 花火の大音に負けじと、望は藍色から様々な色に染まる夜空を指差して声を張り上げた。
 しかし俺は色取り取りの花火の光を受け、煌めく望の横顔に釘付けになってしまっている。
「どうしたの?」
 気付かれてた。花火に夢中になっていると思ったのに。
「いや、幸せってこういうことを言うのかなって思って」
 俺は照れくささを誤魔化すように、頭をかきながら言った。
「バカ」
 望は小さな声で呟くと、俺の左肩にちょこんと頭を乗せてきた。花火が終わるまでもつかな、俺――