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Re: メモリアルリミット ~Limit of memories~ ( No.17 )
日時: 2012/07/20 20:02
名前: メダフィーミング・KR

◇~第16章 Suddenly~


 七月に入ってから数日が過ぎていた。カンカン照りの陽射しが今日も元気に降り注いでいる。
 気象庁から梅雨明けが発表されてまだ数日と経っていないはずだが、季節は早くも夏本番と言っても過言ではない。
 毎年同じようなことを言っているような気もするが、こう暑いのでは愚痴りたくなるのも当然で、特別エコロジストなわけでもない俺ですら、地球温暖化をはじめとする地球の環境問題を真剣に危惧せざるを得なくなってくるね。ったく、今年の夏は冷夏だとか言って喜ばせたのは誰だよ。
 そんな風に心の中で独り言を呟きつつ、火曜日の講義を終えた俺は一人正門を出て駅へと向かっていた。汗でべたつくTシャツは不快極まりないが、エアコンの効いた自宅マイルームのマイベッドに思いを馳せていれば、意図せず早足になるのは冬に雪が降るのと同じくらい自然なことだ。
「あれ? 夢原君じゃない?」
 駅の入り口に今まさに足を踏み入れようとしたその時、不意に後ろから声を掛けられた。
全く予想していなかったので、思わず飛び上がりそうになったぜ。
「あっ、五月か……?」
 五十嵐の嫁ことツンデレ姫、五月佳織が立っていた。
「誰がツンデレ姫よっ」
 五十嵐の嫁ってのは否定しないのか。いつからノロケ夫婦になったんだか。
 しかし相変わらず気の強そうな顔だが、ちょっと髪が伸びたな。一瞬誰だか分からなかった。
「あぁ、卒業してから切ってないから。どう? ちょっとは女らしくなったでしょ?」
 別に胸を張って言うことでもないと思うが、確かに肩まで伸ばした髪のおかげで幾分可愛く見えるな。でも五十嵐はセミロング嗜好だったっけ。
「こんな暑いとこで立ち話はしたくないから、どっかでお茶でも飲まない?」
 と、五月が提案してきた。せっかくの機会だし、誘いに応じることにした。


 駅から西側に十分ほど歩くと、ちょっとばかし洒落たカフェやレストランが至るところにある。
さっさと歩いて行く五月の後に続いて、そのうちの一つの店に入った。
 店員に窓際の二人掛けの席に案内され、五月はミルクティー、俺はコーヒーを注文した。
「しっかし驚いた。何でこんなところにいたんだ?」
 エアコンの効いた店内に天国を見出し、ホッと一息ついてから俺はそう聞いてみた。
「当たり前でしょ、最寄り駅なんだから」
 すると五月は然も当たり前のように表情一つ変えずに答える。
「はっ?」
「あのねえ……あたしの大学、夢原君の大学と川挟んだ向かいにあるんだけど?」
 なん……だと? 初耳だぞ。
「はぁ、ありえないんだけど。友達の大学の場所くらい知っといてよね」
 そんな呆れた顔するなよ。理系の大学なんて無縁だったから全然知らなかったぜ。
「もうっ。でもそういえば夢原君とは一回も会わなかったね。望とはよく会うんだけど」
 それも初耳なんだが。週二回は望と帰ってるのに、五月の姿は全然見かけなかったな。
てか、望も五月とそんなに頻繁に会ってるなら教えてくれればいいのに。
 するとカップを傾けていた五月は突然、何か思い出したのか険しい目つきになった。
「あっ、そんなことより夢原君、ちゃんと望を守ってあげなきゃダメでしょっ。この間ナンパされた時、桜木君に助けてもらったって聞いたけどっ」
 そんなことまで話してたのか。いや、つーかあれは俺はその場に居合わせてなくてだな。
「そんなことじゃあ、桜木君に靡いちゃうかもよ? 見た目は彼の方が上だし」
 人差し指を俺に突き付け、五月はそのように宣告してきた。
あぁ、防衛に失敗したボクサーってのはこういう気分なのかね。あぁ、力石。お前はよくやったよ。
 じゃなくて、確かに背は高いかもしれんが、そんなことで望は俺を見捨てるような奴じゃないぞ。
「確かにねえ。望もあれで結構一途だし。とにかくあの子を泣かしたらダメだからねっ」
 その点は任せてくれ。神にだって誓えるぜ。俺は女を泣かす男が最も嫌いなんでね。
「それ聞いて安心した」
 随分情たっぷりに言うな。最近望との親交をさらに深めるようなことでもあったのか。
 それから俺は一時間近くもの間、大学の話や五十嵐への愚痴を聞かされる羽目になった――