>> メダロットライズ にもどる
Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(1)」 ( No.44 )
日時: 2014/10/21 11:34
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 夜の植物町、とあるファミリーレストランにて。学校帰りの高校生で溢れかえる席の一つに、高校生くらいの男女が腰掛けている。
 一人は、喫煙席のテーブルに肘を突いている少年。紺色のデニムジャケットを赤いTシャツの上に羽織り、髪を襟足の辺りまで伸ばしている。
 向かいの席に座っているのは、眼鏡をかけた三つ編みの少女。ロボロボ団四天王が一人「青森林檎」が変装した姿だ。

「……なぁるほどな。要はお前、その鷹栖斗的ってやつに負けたわけか」

 少年は静かに口を開き、パッケージから紙煙草を一本取り出してくわえる。
 林檎は気まずそうに目を伏せ、黙ったままだ。

「いっひっひ、どうしたぁ~? 普段の偉そうな態度が欠片も見えないじゃねぇかよぉ?」

 少年は意地の悪い笑みを浮かべ、煙草に火を点ける。
 そこで初めて、林檎はぽつりと呟いた。

「何も申し開きはございませんわ。私は負けた、これは事実ですから……」

 そう。林檎は花田学園高校にて斗的とロボトルし、いいように踊らされた。
 あれは紛れもない敗北。組織の備品であるブラックメイルまで持ち出して任務に失敗するなんて、幹部である林檎にとって許されないこと。

「ばーか」
「え? ―― ふゃっっ?!」

 林檎が顔を上げた途端、額に衝撃が走る。思わず、涙目になる。
 これは……デコピン?
 
「なっ……なにをするんですの石榴っ!?」
「お前らしくねぇんだよォ、タコがっ! ラストの乱入でロボトルがドローになったんだろォ? だったら、負けじゃないだろがよォっ!」

 石榴(ざくろ)と呼ばれた少年は、林檎の頭にポンと手を置き、優しく撫でる。

「ま、安心しな? 俺が、全て片付けてやっからよォ……っ」
「す、全てって……?」
「仇をとってやる、って言ってるんだよ。このロボロボ団四天王――」

 石榴は、煙草の灰を灰皿にトントン落とし、不敵に笑う。

「吹香川石榴(すいかがわ・ざくろ)様がよォ……!!」

 その時、

 ―― 石榴の右手に、ガシャリと手錠がかかる。

「…………ひょ?」

 情けない声を発し、石榴は目を点にする。
 ふと横を見れば、真っ白な軍服に身を包んだ2人組の男が立っている。国の平和を守る警察組織「セレクト防衛隊」の方々だ。

「未成年者喫煙の現行犯で、逮捕であります!」
「いや……その……、そこの床に消えてない煙草が落ちてたから、消火作業をですねェ……」

 石榴はパクパクと、金魚のように口を開け閉めする。
 が、こんな言い訳が通じるほど、セレクト防衛隊はアホじゃない。

「ちょっと署まで来るであります!」
「ちょっ、まだ火を点けたばっかなんだよッ!! せめて一口だけでも――……うわぁあああああああッ!! 助けて林檎ぉおおおおおおおおおッ!!!」

 泣き叫びながら、石榴はずるずると、セレクト隊員達に連行されていく。

「はぁ、先が思いやられますわ……」

 林檎は冷めた視線を石榴に送り、大きな溜息を吐いた。



 かくして、悪は滅びた。
 よい子のみんな! 煙草は二十歳になってからだよ!

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(2)」 ( No.45 )
日時: 2013/03/17 22:01
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 前回までのあらすじ。
 ツンデレンジャーってサブタイ、ぶっちゃけ時期はずした気がする。



 ノブ太との戦いが終わり、空は赤紫色をした夕闇のカーテンに覆われていた。
 時刻は午後五時近く。住宅街の周りを散策すれば、ふんわりカレーの匂いが漂う時間帯。空にはガラス片を散りばめたかのような星々がうっすらと瞬き、家々の窓には仄かな明かりが灯っている。
 そんな植物町の一角にある、鷹栖斗的の家でのこと。

「きゃぁああああああああああああああああああああっっ!!!」

 鼓膜を突き破るほど鋭いソプラノボイスが、家全体を震わす。鷹栖家の家事担当にして、人魚型メダロット「マイド」の悲鳴だ。

「な、なんじゃこの超音波は!?」
「み……、耳が痛いっス……」

 居間でくつろいでいた磨智とガマンは、いずれも両手で耳を押さえている。どうやら、全員撃沈されたらしい。
 ……いや、一人だけ無事な人間がいた。

「いやぁ~、すごい悲鳴だったね! ねぇ、誰か測定器で測ってなかった? 今の何ヘルツかすんごい気になるんだけど?」

 目を輝かせながら下らないことを言い出す蜜柑を無視し、一同は悲鳴の聞こえた台所へ目を向ける。そこには、ワナワナと震えるマイドが。

「ど、どうしたんスかマイドさん……?」

 緊張した面持ちで、磨智は聞く。
 いつもおっとりしていてマイペースなマイドの悲鳴なんて、今まで聞いたこともない。これはもしかして、余程のことがあったのでは……?
 場に、しばしの沈黙が訪れる。
 間もなく。マイドは、静かに、それでいてはっきりした声を発する。

「……斗的ちゃんの下着、そういえば買ってなかった」

 その場にいたマイドと蜜柑以外の全員は、一斉にズッコけた。

「うっ、うぅっ……、私としたことが……。斗的ちゃんの着せ替えが楽しくて、つい下着のこと忘れちゃったわ……」
「どうでもいいじゃろそんなもんっ!! そんなことで一々悲鳴を上げるなっ!! おぬしはあれか? 斗的坊ちゃんの下着がないと死んじゃう病かなんかかッ!?」

 しくしくと泣き出すマイドに、ガマンは甲冑に覆われた肩をいからせながらツッコミを入れる。
 が、マイドはひるまず、翡翠色の瞳をうるうるさせながら言い返す。

「ダメなのぉ! 早くブラしないと、斗的ちゃんのほわわんバストが型崩れしちゃうのぉ! それに、斗的ちゃんには女の子の自覚ってものを身に着けてもらわないと……」
「いらんじゃろそんなの!!」

 ガマンは、ズイと身を乗り出す。

「どうせ、斗的坊ちゃんはすぐ男に戻るんじゃから!!」

 負けじと、マイドは言い返す。

「そんなのいつになるかわからないじゃなぁい! 私は、斗的ちゃんが女の子としても生きていけるようにお世話する義務があるのよ!」
「だからそれが余計なお世話と言っておるのじゃっ!! 斗的坊ちゃんは、絶対男に戻るんじゃっ!! 斗的坊ちゃんが生まれた頃からお世話をしているわしが言うんじゃから間違いないっ!!」
「そんなこと言ったら私だって、小さい頃からずぅっと斗的ちゃんと付き合ってきたわよぉ!」

 段々と論点が斗的の親権争いみたいになってきたところで、磨智が間に入ろうとする。

「ちょっ、ガマンさんにマイドさん、落ち着くっス!! クールになるっスよ!!」

 そんな磨智の肩を、蜜柑はニコニコ笑顔を浮かべたままガッシリ掴む。

「磨智ぉ~、律儀に止めることないって!」
「いや……、けど……」
「いいじゃん放っといてもさ! これって家庭の問題でしょ? だったら、お互い納得できるまで話しあうべきだと思うなぁ? ……とりあえず、あたしは疲れたから休憩―!」

 蜜柑は、仕事帰りのサラリーマンのように、ドカッとソファーに腰掛ける。スカーフは緩められ、投げ出された足の間からはスカートの中が見えそう。

「蜜柑ちゃん。女の子がはしたないことしちゃダメじゃない! めっ!」

 見かねて注意するマイドに、蜜柑は口をとがらせてブーたれる。

「え~、固いこと言わないでよマイドさーん! この場にいるのって、メダロット除いたら女の子だけじゃなーい!」
「あの~……一応僕、男の子なんスけど……」

 おずおずと、磨智は手を上げる。
 ああ、そういえば男だったね。すっかり忘れてたわ。

「ひ、ひどいっス……いくら、初登場回で女装したからって……」

 その場でしゃがみこみ、磨智はめそめそと泣き出す。

「いや~、ごめんごめん! でもさぁ、『これといって特徴のないキャラだから、存在すら忘れてた』とか言われるよりはマシじゃない?」
「いやまぁ、そうなんスけど……――って、僕のこと普段からそんな風に思ってたんスかっ?!」
「そういえばさ、さっきから気になってたんだけど……」
「いやっ、話題をそらさないでっ!! これからの僕の立ち振る舞いに影響する重大な問題だからっ!!」

 そんなことはどうでもいいと言わんばかりに話題を変えようとする蜜柑に、磨智はなおも食いすがる。どうやら、よっぽどショックだったらしい。
 だが、蜜柑はそんな磨智すら無視し、

「なんであたしから目そらしてんの?」

 疑問を投げかける。
 途端。ピタッと、磨智は言葉を止める。

「いや、その……えぇと……」

 目をキョロキョロと動かし、磨智は必死に言葉を捜している。だが、磨智の望む言葉が空中に浮き出してくれたりはしない。

「ん? ひょっとして、あたしのパンツ見えちゃった?」
「うぐっ」

 磨智は恥ずかしそうにうつむき、両手で顔を覆う。
 健全な思春期真っ只中を過ごす、純情少年磨智のこと。例え相手が幼馴染の蜜柑とはいえ、目のやり場に困ってしまうのは当然かもしれない。
 そのように初心な態度を示す磨智を見てSっ気が刺激されたのか、蜜柑は両目をニマァと細める。

「ぷっ、なに恥ずかしがってるわけ磨智? パンツくらいなによ! 昔なんて、一緒にお風呂に入ったりした仲じゃない!」
「そっ……そんなの昔のことじゃないかっ!!」
「あるぇ~? 昔はよくて、なんで今はまずいのぉ?」
「そ、それは……」

 グッと、磨智は発言に詰まる。口で蜜柑に挑むことが、そもそもの間違い。
 ニヤニヤしながら、蜜柑は追撃を続ける。

「なんなら、これから一緒に入ってもいいんだよ? ―― ほれェ……、いい加減素直になってみたらどうなんだよ成城磨智ォオオオオオ?? あひゃひゃひゃひゃっ!」

 蜜柑が顔芸と共に下品な高笑いをあげると同時に、

「そうだわっ!!」

 マイドは、両手を叩いて閃く。随分古典的な思いつき方だと磨智は思ったが、とりあえず黙っていることにした。

「斗的ちゃんが女の子に慣れるためのいい方法、思いついちゃった♪」
「おぬしは、まだそんなことを……」

 呆れるガマンをヨソに、マイドは親指をビッと立ててウィンクする。

「名づけて、『初めまして女の子。裸のお付き合いしましょうね』大作戦よぉ!」

 声高に叫ぶマイドの言葉を、ガマンは怪訝そうに復唱する。

「初めまして女の子……裸のお付き合いしましょうね大作戦……?」
「くふふ、マイドさんもやるね! よっしゃ、あたしも生皮剥いじゃうよ!」
「それを言うなら『一肌脱いじゃうよ』っス。―― ていうかっ、怖いよその間違いっ!!」

 マイドの提案を前にし、一同は様々なリアクションをする。
 かくして、鷹栖家始まって以来の壮大な作戦が決行されることとなった。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(3)」 ( No.46 )
日時: 2013/03/17 22:04
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 その頃、我らが主人公鷹栖斗的は、自宅と花田学園高校の中間に位置するとある店で、買い物をしていた。
 木造一階建てで、小ぢんまりしたその店の名は「日照(にっしょう)堂」。昭和初期から建っている老舗で、主に文房具や食品類、花田学園高校指定のジャージや制服等を販売している。最近に入ってからは、メダロット専門店よりも安くて良質なオイルや弾丸を売り始め、メダロッター御用達の店となっている。
 そんな日照堂の石畳に、二体のメダロットが腰掛けている。
 額に稲妻マークのある青いメダロットは犬型メダロット「シアック」。
 頭と胸に大きなリボンの付いたオレンジ色のメダロットはセーラー少女型メダロット「サラ」だ。

「はぁ~、今日は色々なことがあったなぁ=。こういう日は、早い所オイルでも飲んで、ごろ寝したいよぉ~……」

 店の壁に背中をつけ、サラはけだるそうに両手を頭の後ろに組む。
 シアックは、背中に背負っている白いギターを調律しながら、笑って応じる。

「同感同感! ……ま、明日は『ロボトルフェスタ 20××』もあるし、早いところ寝て、体力を温存した方がいいジャン」

 ロボトルフェスタとは、年に一度開かれるメダロッターのためのイベントだ。
 珍しいメダロットの販売や、新作オイル無料試飲会、さらに、ロボトル世界チャンピオンとの握手会等、とにかく盛りだくさんな内容である。

「―― よぉし! 明日はオイルがんがん飲みまくるぞ~!」

 サラが大きく伸びをすると同時に、シアックは目の前の暗闇にふと目を向ける。

「……ところでフォレスよぉ。少しは落ち着いたらどうジャン?」

 シアックが溜息混じりに呼びかけると、暗闇の中から凛とした少女の声が返ってくる。

「そうも言っておられぬ」

 白く明滅する電灯の下に、カブト虫のような角を持つ赤いメダロットの姿が浮かび上がる。

「いつまた、テラークが襲ってくるかわからないからな。やつらは食事中だろうと睡眠中だろうとお構いなしの無粋な連中だ」

 真紅のメダロットは、周囲を注意深く見回しながら言う。
 このメダロットの名は「フォレス」。射撃攻撃を得意とする、カブト虫型メダロットだ。
 彼女の使命は、人類を滅ぼそうとする異常進化したメダロット「テラーク」と戦うことであり、そのパートナーとして選ばれた人間が斗的なのだ。しかし、女性型メダロットであるフォレスとシンクロしたため、斗的は少女へと性転換してしまった。
 そのせいもあり、今や斗的とフォレスの仲は、冷戦時代におけるアメリカとソ連のように最悪だったりする。

「けどよぉ、気張りすぎじゃねェか? フォレスの理屈だと、ずぅっと家に閉じこもってなけりゃいけないことになるジャン?」
「そうそう、人間ってのは息抜きが欠かせない生き物だからさ。漏れのように、一日十五時間寝るくらいの余裕がないと身が持たないよ?」
「いや、お前の場合はもう少し働けジャン」

 シアックとサラの漫才を前にし、フォレスは腕組みして下を向く。どうやら、納得がいかないよう。

「別に私は、家から出るなとは言っていない。緊張感を持て、と言っているのだ。この状況でのんびり買い物など――」

 フォレスがそう言って、文句を垂れた時だった。

「うっせぇよ、馬鹿フォレス。余計な心配いらねぇんだよ」

 日照堂のひび割れたガラス戸を開け、斗的が中から顔を出す。右手に、少し大き目の紙袋を持って。

「事実を言ったまでだ。貴様には、まだラストの恐ろしさがわかっていない」
「はんっ! 確かにオレは平穏な暮らしを送りたいが、コソコソした生き方するのはまっぴらごめんなんだよ」

 斗的は悪態をつきながら、紙袋の中をゴソゴソと探る。そして、

「ほらよ」

 二十センチほどある、円筒形の「何か」を放り投げる。「何か」は放物線を描き、フォレスの両手の平に納まる。

「……むっ、これは!」

 それは、フォレスの大好物である「よくできましたオイル苺ミルク味」だった。

「……んでもって、シアックはコーラ味、サラは甘酒味、だったよな?」

 確認を取りながら、斗的はシアックとサラにオイルの缶を手渡す。

「うひょーっ! オイルだオイルっ! いっただっきまーす!」

 サラは腰に手を当て、オイルをんぐっんぐっと飲み始める。

「すまねぇな、斗的の旦那。俺っちまで奢ってもらって。お礼に、なんか一曲歌うジャン?」
「いらねぇからさっさと飲めや。飲み終わったら帰るぞ」
「……はい」

 もはや凶器とも言える斗的の毒舌に心を刺されたシアックは、しゃがみこんで地面に「の」の字を書き始める。
 フォレスは、シアックの肩をポンポン叩いて慰める。

「落ち込むな、シアック殿。私でよかったら、今度聞かせてくれ」
「放っとけよ、フォレス。そいつ、別にお礼とか関係なしに、いっつも自分の演奏聞かせようとしてくるんだぜ?」
「しかし……」

 なおも言い淀むフォレスを、シアックはすねたような声で制止する。

「いいよもう……。どうせ俺っちのギターテクなんて、エドワード・ヴァン・ヘイレンよりちょっと下手なくらいだし……」
「おまっ、買いかぶりすぎだろ自分の実力ッ!?」
「斗的っ!! さっきから貴様は、シアック殿に対してあまりにもっ……ところで、『ばんへいれん』とはなんだ?」

 斗的はげんなりした表情で、大きな溜息を吐く。
 こんな疲れる会話しかできない連中を相手にしていたら、いつか精神が擦り切れてなくなってしまうのではないかと不安になってしまう。
 そのような思いを巡らせていた斗的は、ふと、自らに向けられた視線を感じた。目を移せば、斗的をマゼンタの瞳でジッと見つめるサラの姿が。

「ん、どした? オレの顔になにかついてるか?」
「いやぁ、わかんないもんだな~と思ってさ~。あの斗的が、こんな可愛くなっちゃうんだもん」
「可愛い? 男から女になったやつがぁ? ……いや、普通にキモイだろ」

 訝しげな目つきで問う斗的に対し、サラはキッパリと言う。

「そういうところを差し引いても、だお! 今なら、街中の男という男が振り向く罠」
「やめてくれ、マジで。男にもてるとか、怖気が走るわ……」

 斗的はすぐに折れてしまいそうなほど華奢な両腕を抱き、ぶるんと体を震わせる。顔色は青ざめ、陶磁器のように白い肌には、鳥肌がふつふつと湧いている。
 サラはしばらく押し黙り、斗的の持つ紙袋へと視線を移す。

「……そんなに女の子として生活するのが嫌? そんなもん買ってまでさぁ~」
「嫌だね」

 斗的は間髪入れず、即答する。

「え~」
「えーでもびーでもねぇよ」

 大体、マイドに言われて仕方なく着ているが、チェックのスカートにブラウスという格好からして気に入らない。下に穿いているトランクスが短パンみたいで違和感こそないが、日本男児として生まれた斗的にとって、非常に屈辱的姿。
 こんな格好している所を、クラスメイトに見られたらと思うと……。

「ぞくぞくするんでしょ? もっと自分の姿を見てほしくて」
「しねぇよっっ!! 変態かオレはっっ!?」
「ん~、でもさぁ~……」

 サラはスッと手を伸ばすと、

 ―― 斗的のマシュマロのような胸をムニっと鷲づかみする。

「にゃぅっっ?!!」

 斗的の全身に電撃が走る。
 思わず、斗的は脊髄反射のごとくサラから距離をとる。素早く両手を交差させ、胸を押さえる。
 ベストとブラウス越しに、ドキドキ高鳴る心臓の音が伝わってくる。

「なっ、なにしやがるッッ!?」

 素っ頓狂な声を上げて抗議する斗的をしげしげと眺め、サラは呟く。

「やっぱり……ブラしてないお! こりゃ間違いなく、男を誘ってるね!」
「違ぇよっ!! 女物の下着が嫌だからに決まってるだろっ!! ―― なんなら、スカートの中のトランクス見るかっ!? 見てみるかっっ!!?」

 斗的はスカートをめくり、中の下着を見せ付けようとする。
 それを止めようと、フォレスは斗的の腕にぶら下がる。

「お、落ち着け斗的っ!! サラ殿も冗談のつもりだと……」
「うっせぇ!! 冗談は強盗殺人の始まりだ!!!」
「嘘吐きより重いのっ!?」
「まぁまぁ、抑えて抑えて~。そんなに怒ることナスよ。―― あ、ひょっとして斗的、『あの日』? だったら苛つくのも仕方ナスよね~、女の子は色々大変だお~」
「……サラ、その辺にしてやってくれ。見ていられねぇジャン」

 サラの斗的いじりに見かね、シアックは呆れた口調で制止する。
 未だ怒りが覚めない斗的は、腕組みし、プイと顔を背ける。

「ほら、斗的の旦那すねちゃったジャン! 冗談も度を越すと、人を十分傷つけるんだぜッ!」
「失礼だな~。漏れは嘘も冗談も言わナス! いつだって本気だお!」
「なお悪いわ!!」

 サラは、カっカっカっと笑う。

「いや~、蜜柑じゃないけどさぁ、女の子になった斗的からかうとテラ面白―― もがっっ??!」

 その時だった。斗的はサラとシアックの口元を、抱き寄せるように押さえる。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(4)」 ( No.47 )
日時: 2013/03/17 22:09
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「っんぐぐんぐぅうっっ?!」

 突如口をふさがれたサラは、手足をジタバタさせて暴れる。
 弾き飛ばされそうになるのをこらえ、斗的は包み込むようにサラを抱き伏せる。

「しぃっ! 静かにしやがれっ」

 斗的はできるだけ小さく、しかしはっきりと言葉を発する。
 今は、ジッと息を殺す時。いつもの馬鹿騒ぎを起こすわけにはいかない。でなければ、「やつら」に気づかれるから。

「斗的よ、一体どうしたというのだ?」

 フォレスはただならぬ様子を感じ取ったらしく、斗的の耳元に近づき、囁くような声で問う。
 斗的は、道路を挟んで反対側の道を、そっと顎でしゃくる。
 指し示された方向には、草ぼうぼうの荒れ野原を背景にした、一台の自動販売機があった。なんの変哲もない。田舎でならよく見られる、普通の光景。だが問題は、自動販売機のすぐ前で話し込んでいる二人組の男にある。
 蛙達の求愛歌に混じり、男二人の会話が耳に割り込んでくる。

「いやぁ~、さすがグランドホテルの料理ロボ! まさに、身も心も蕩けそうになったロボよ~」
「でも、それ以上に、今日の仕事はハードだったロボ……。これで日給三百円だなんて、割りに合わないロボよ……」

 聞き覚えがある……ってレベルじゃない。

 ―― 金魚鉢を逆さにしたようなヘルメット。
 ―― 緑の全身タイツ。
 ―― 「~ロボ」という語尾。

 どれも、今日の朝に見聞きしたばかりのもの。

「斗的よ、あれは……」
「ああ―― 『ロボロボ団』だ」

 セレクト防衛隊も手を焼いている、犯罪集団。メダル泥棒を筆頭に、食い逃げ、賽銭泥棒、ネコババと、セコイながらも悪の限りを尽くしているヤバめな連中。
 まさか、こんな所で再び出会ってしまうとは。
 ジッと息を殺しながら物陰へ移動する斗的達に気づかず、ロボロボ団員は会話を続ける。

「それにしても、今日の林檎様は怖かったロボ」
「まったくロボ。前に俺があの人の大切にしていたオヤツを食べちゃった時も、笑って許してくれたあの林檎様があんなに怒るなんて」
「ああ、あれお前だったロボか! てっきり俺は、二十八号の仕業だと思ってたロボ」
「そうロボ! そんな林檎様が怒るって、相当だロボ!」
「林檎様、あのホームページを作るのに何日も費やしたロボからねぇ」
「まったく、林檎様の力になれなかった自分が情けないロボ。それに、勝手に俺達を動かしちゃった林檎様は、首領様におしおきされちゃうかもしれないロボ……」
「まぁ、落ち込むことはないロボ。幸い、林檎様のやったことは、まだ首領様に知られていないはずロボ。それまでに鷹栖斗的を倒して、汚名挽回すればいいロボ!」
「そっ、それは名案だロボっ! ……よぉしっ! 鷹栖斗的を見つけたら、問答無用でギャフンと言わせてやるロボっ!」
「えいえいおーロボっ!」

 握り締めた拳を高々と上げ、林檎のために働くことを誓うロボロボ団の二人組。関係ない者から見ればそれは、美しい上司愛かもしれない。
 しかし、今の斗的にとっては、背中に南極大陸をまるごと突っ込まれたのと同じくらい、全身が凍りつくような状況。

 ツッコみたいことは山ほどある。

 ―― ギャフンとか古いだろとか。
 ――「汚名挽回」じゃなくて「名誉挽回」だろとか。

 だが、今この瞬間、重要な部分は他にある。
 それは、ロボロボ団の標的が、「愛媛蜜柑」から「鷹栖斗的」に変わったこと。

「なんでそうなるんだよ……」

 最初にロボロボ団へちょっかいをかけたのは、蜜柑だ。だから、本来自分は関係ないはず。林檎とかいうやつとの戦いだって、自分の身を守るために戦っただけのこと。
 本当に……とんだとばっちり。ラストとかいう殺人機械だけでなく、ロボロボ団まで自分を狙ってくるとは。

「あ~あ。勘弁してくれよ、マジで……」

 斗的は自らの頭を抱え込み、情けない声を上げる。
 どうして自分は、こうもツイていないなのだろう?
 平穏だが、人並みの幸せを感じることのできる生活を送りたい。ただそれだけを願って生きてきたのに。
 いや、むしろ憑いてるのだろうか? 悪霊的なものが。

「ははっ。案外マジでそうだったりして……」

 斗的は乾いた笑いを発し、今度神社でお払いをしてもらおうと固く心に決める。
 とにかく、

 ―― 今やるべきことはただ一つ。

 決断するが早いか。フォレスを脇に抱えると。お気に入りのキックボードに片足を乗せ。

「三十六計逃げるに如かずっっ」

 ピューッと一気に駆け出す。

「なっ!?」

 フォレスが驚きの声を上げるや否や、その体はすでに、数メートル先まで移動していた。

「うぉっ!? 置いていかれたジャン!!」
「はぁ~、走るの面倒くさ~」

 ぶつくさ文句を言いながら、サラとシアックは斗的の後を追う。
 そんな二人の姿を確認すると、斗的は安堵の声を漏らす。

「ふぅ、危ない危ない。平穏な生活目指すのも楽じゃないぜ」

 早い。身体が風に溶け込んでいくよう。
 普段人間は五十パーセント程度の筋力しか発揮できないというが、納得がいく。今、自分のスラリと伸びた足に込められた力こそ、噂に聞く火事場の馬鹿力というやつなのだろう。
「この馬鹿者がっ!! あのロボロボ団とかいう連中、悪いやつらなのだろう!? だったら、戦うべきではないかっ!!」

 斗的に抱えられながら、フォレスは怒声を上げる。

「そもそも貴様、こそこそする生き方が嫌いなのではなかったのか? 言ってることとやってることが矛盾しているではないか? ―― おいっ、聞いてるのか斗的!? 斗的ッ!?」
「うっせぇんだよ!! 確かにこそこそするのは嫌いだけど、無用な争いはなるべく避けなきゃいけねぇんだよっ!! オレの生涯設計のためにもっ!!」
「なにが生涯設計だっ!! ゴキブリのように逃げ足だけは速い貴様なんかが偉そうにっ!!」
「あー、いいねゴキブリっ! オレは日頃からあいつらのしぶとさには敬意を表しているからな。ちなみに、同じ昆虫でも、お前は全然尊敬してないから」
「ゴキブリ以下か私はっ!? ―― くっ、もういいっ!! 私一人でも戦う!! だから下ろせっ!! さっさと下ろすんだ斗的ぉっ!!」

 フォレスは手足をバタつかせ、斗的から逃れようとする。
 しかし、斗的は一層腕に力を込めて押さえ込む。その様子はまるで、手に負えない駄々っ子を連れて行く母親のよう。
 こうして斗的達は、ロボロボ団に気づかれることなく、日照堂の前から逃げ出すことができた。後には、もうもうと立ち込める土煙が舞うのみ。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(5)」 ( No.48 )
日時: 2013/03/17 22:13
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「突然ですが、番組の内容を変更して、臨時ニュースをお知らせします」

 鷹栖家の居間に、流れるような男性アナウンサーの声が響く。
 てっきり予定通り「デュアルワールド」が放映されると思ってテレビの前で待機していた蜜柑は、ぷぅっと頬を膨らませる。

「なによもう!! あたしの一週間に一度の楽しみを返してよ!! ジェーンちゃんやモニカちゃんに会えないじゃないっ!!」
「蜜柑!! テレビを揺すっても、アナウンサーがジェーンちゃんになったりはしないっスよ!!」
「ああっ、その手があったかっ!! そうだ、華代ちゃんに頼んで……」
「いやっ、なに納得してるんスか!? てか、アナウンサーがジェーンちゃんになったとして、なんの解決にもならないっスよっ!!」

 蜜柑のボケに磨智がツッコミを入れるという、いつもながらの光景。
 玄関の扉を開けて斗的が顔を出したのは、丁度そんな時だった。

「た、ただい……ま……」
「あっ、師匠! お帰りなさ……」

 お帰りなさいと言いかけて、磨智は言葉を止める。玄関へ向けられた顔は、季節が冬から春へ移り変わるかのごとく、笑顔から訝しげな表情へ。

「……なんでそんな、全力疾走してきたみたいに疲れてるんスか?」
「はぁっ……な、なんでも……ぜぇ、ねぇよ。はぁ……はぁ……っ」

 磨智の言葉通り、斗的は息も絶え絶えに返答する。自分が今もたれかかっている壁を、唯一のオアシスであるかのように愛しみながら。喉からとめどなく溢れる呼吸は熱く、微かな鉄の味が渇いた舌の上にじわり広がる。
 そのただならぬ様子を得意の気配り体質で察知したのか、磨智はそれ以上何も聞こうとしなかった。

「まったく、貴様というやつは。本当にどうしようもないな……本当に……」

 腕組みしながら文句を延々と垂れるフォレスを尻目に、斗的は額の汗を袖でグイっと拭う。ふと、その視線がテレビへと向く。

「あれ? なんでニュース見てるんだ? もう、デュアルワールドが始まってる時間だろ?」

 息を整えながら首を傾げる斗的に、蜜柑はむくれた表情で声高に叫ぶ。

「そうなの! あたしの神聖なるデュアルワールド視聴タイムに、臨時ニュースとかいう悪魔が割り込んできたんだって! まったく……事件起こすのはいいけど、せめてあたしを不快にさせないでほしいね!」

 蜜柑はテレビに背中を向けるよう絨毯の上に寝転がり、携帯電話をいじり始める。
 自分を棚上げしてこんなことを言うのはアレだが、なんて自己中な奴なんだろう。

 ……それにしても。

 斗的は流し場で手を洗いながら、思考を蜜柑からテレビへと向ける。
 一体、デュアルワールドの放映時間に割り込んできたニュースとはなんだろう。「臨時」というからには、余程のことだろうけど。
 なにか嫌な予感がした斗的は、テレビのスピーカーから漏れるアナウンサーの声に注意を払う。状況は、スタジオから現場へと画面が移り変わったところ。

 「ハイ! こちら、現場の『植物町グランドホテル』です!」

 あれ? 植物町グランドホテルって、確か――

「あ、ここっ! 日照堂の近くじゃないっスか!」

 やっぱりそうか。ニュースで取り上げられているのは、さっきまで自分達がいた場所のこと。
 斗的は一層耳をそばだてる。

「こちらでは事件発生以前まで、明日開かれる『ロボトルフェスタ 20××』のゲスト『富良野葡萄(ふらの・ぶどう)さん』の歓迎会を行っていました。ですが、パイを持ったロボロボ団が現れてからは、会場はメチャクチャ。出席者の服は生クリームだらけにされ、料理はほとんど食べ散らかされてしまいました」
「レポーターの万城目さん。出席者のみなさんの様子はいかがですか?」
「ハイ。幸い怪我人は出ておりませんが、ゲストの富良野葡萄さんが行方不明とのことです。セレクト防衛隊が付近を探索し、ロボロボ団と葡萄さんの行方を追っていますが、未だに報告は入ってきていません。付近の皆様はくれぐれも注意し、外出をできるだけ控えるようお願いします」

 マイドは「まぁ~、嫌ねぇ物騒で……」と、口元に手を当てる。

「まったくじゃ! なんにせよ、斗的坊ちゃんが巻き込まれなかったのは幸いじゃな! ガッハッハッハ!」
「ハ……ハハ……」

 顔を引きつらせて笑う斗的。季節は夏真っ盛りだというのに、頬を伝う汗は冷水のように冷え切っている。

 ―― 危なかった……。

 斗的は、未だ高鳴り続ける胸を、そっと撫で下ろす。
 恐らく、日照堂前で目撃したロボロボ団は、グランドホテルから逃げてきた連中の一角だろう。偶然にもやつらと同じ場所にいたのは不幸であったが、最後の最後に、運はこの鷹栖 斗的に味方してくれた。もしやこれは、これから運が著しく上昇する前兆ではないか?
 そうだ。そうに違いない。多分今日という日は、自分の人生における不幸の集大成だったのだ。だから、これからは、なんのトラブルもない平穏な人生が待っているに違いない。
 そう。自分があれだけ待ち望んだ、幸せな生活が。

 「……ふっ、ふふふふ。うふふふふふふ」

 斗的は両手で口元を押さえ、顔をにやつかせる。

「なっ、なんスか師匠……? 突然笑い出したりして……」
「テラキモス……」

 若干引き気味の磨智とサラ。
 だが、とめどなく湧き出してくる笑い声は止まらない。

「なんでもない♪ なんでもな~いよ~♪ ―― さぁ、張り切って料理しようぜ、マイド?」
「う、うん……」
「フンフフーンフーンフーンフーン……」

 エプロンの紐を腰の辺りで固くと縛り、斗的は鼻歌交じりで料理を始める。
 その背中を、蜜柑が怪しく目を光らせながら見つめていることにも気づかず。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(6)」 ( No.49 )
日時: 2013/03/17 22:16
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「はい、お待ちどうさまぁ~♪」

 マイドが料理の入った一抱えほどある大皿をちゃぶ台の上に置き、磨智が烏龍茶を全員のコップに並々と注ぎ終わる。
 それを見計らい、蜜柑はコップを高々と掲げる。

「それじゃあ、フォレスとの出会いを祝してカンパーイ!」
「「「「「「カンパーイ!」」」」」」
「テンション高っ……」

 かくして、鷹栖家での晩餐が始まった。

「あ~、やっぱ日照堂のオイルは五臓六腑に染み渡るお~」
「ふぅ、まったくじゃ。やはり、戦いの後はオイルに限るわい」

 オイルを一気飲みしながら、サラとガマンは至福の溜息を吐く。
 その横で不機嫌そうにそっぽを向いているフォレスの肩を、マイドは優しく叩く。

「フォレスちゃん、今日一日ありがとう♪ 今日は主役なんだから、遠慮なく飲んでいいのよ?」
「そうっスよ! なにを怒っているのかはわからないっスけど、せめて、晩御飯の時くらいは忘れたほうがいいっス!」

 そう言って磨智は、フォレスのコップにオイルを注ぐ。
 フォレスはしばらくコップを見つめた後、呟くような声で礼を言うと、ちびちびオイルを飲み始める。
 その横で蜜柑は、料理を前にして歓喜の声を上げる。

「おお! 肉ジャガじゃん! あたし、これ好きなんだよねー!」
「にくじゃが? なんだそれは?」

 フォレスは、オイルをテーブルの上に置き、首を傾げる。

「ああ、フォレスは知らないんだ! あのね、肉じゃがっていうのはね――」

 お惣菜としてお馴染みの、ジャガイモ料理である。
 薄切りにした牛肉と一緒に、ジャガイモ、玉葱、糸こんにゃくを絡めて炒め、風味豊かな出し汁に浸して煮る。十分くらい経ったら、調味料、人参を入れ、煮汁が少なくなって所で、サヤインゲンを加えてひと混ぜ。
 これで、肉ジャガの完成だ。

「ジャガイモがたくさんあったからな。野菜も入ってるから、栄養のバランスは問題ないだろ?」

 斗的は、お玉で肉ジャガを掬い取り、各自の皿によそう。ジャガイモの甘い湯気が料理から立ち上り、醤油の甘じょっぱい香りと一体になって鼻腔をくすぐる。

「くぅっ……たまらないね! ジャガイモが、舌の上でシャッキリポンと跳ねるよ!」
「どんな肉ジャガっ!?」
「きっと、それくらいおいしい料理ってことっスよ! ―― ああっ! やっぱり、師匠の料理は最高っス……!」
「おいおい、泣くほどのモンでもねぇだろ?」

 まるでこの世の幸福を全て味わいつくしたような顔で感涙にむせび泣く磨智を見て、斗的は呆れてしまう。

「泣くどころか、叫ぶほどのもんっスよ! ジャガイモ、牛肉、それに野菜が、互いを見事に活かしあってるっス! 完成しきった料理である肉ジャガを、ここまでおいしくできるのは本当にすごいことっス!」
「斗的って、料理とか洗濯とか、家事全般が特技だもんねー! うん、きっといいお嫁さんになれるよ!」
「それ以上言ってみろよ? マジで殺すかんな?」

 ニッコリと、曇りひとつない笑顔で斗的は言う。その表情の奥には「人がいい気分に浸ってる時に水注すんじゃねぇ」というメッセージが含まれていた。
 マイドが言葉を切り出したのは、そんな時だった。

「ねぇ、斗的ちゃん♪」

 口の中の食べ物を飲み込み、斗的はマイドに視線を移す。

「ん、なんだ?」
「お風呂沸かしたから、御飯終わったら入りなさい♪」

 お風呂、か……。
 そういえば、今日は二度ものロボトルで、大分汗をかいた。サッパリして、明日のロボトルフェスタに備えた方がいいかもしれない。と斗的は考える。

 ……だけど、

「オレはいいよ。皿とか片付けなきゃいけねぇし、なんか疲れた……」

 ぶっちゃけ、今日は疲れた。さっさと「Go to bed」して、明日の朝にシャワーだけ浴びよう、というのが斗的の偽らない本音。
 すると、

「いいってそれくらい! あたしがやっておくから!」

 蜜柑が斗的のコップに烏龍茶を注ぎながら名乗り出る。

「お前が?」
「そう! あたしが!」

 ニコニコといった表現がピッタリの笑みを浮かべ、蜜柑はうなずく。

「蜜柑が手伝い……ねぇ」

 いつもなら、自分の部屋の掃除すらロクにやらないやつが。

「どういう風の吹き回しだ?」
「いやぁ、飯までご馳走になっちゃって、さすがになんか手伝わなきゃな~ってさ! あたしの良心回路が叫んでるわけ!」
「ふぅん」

 ……絶対変だ。

 面倒なことは他人に押し付けてグータラすることが趣味みたいな蜜柑が、そんなことを言い出すなんて。太陽が西から昇らないことと同じくらいおかしい。
 もしや、なにか企んでいるのか?
 蜜柑がなにを考えているのかわからないが、用心に越したことはない。慎重に言葉を選んでいこう。
 斗的は烏龍茶を一気に飲み干し、作り笑いを浮かべる。

「いやぁ、オレはいいよ。それより、蜜柑こそどうだ? いつもドラム缶風呂だから、たまには普通の風呂にも入ってみたいだろ?」

 すると、蜜柑は笑顔を崩さずに、

「えー、マジでいいのー? んじゃ、甘えちゃおっかな~。悪いね斗的」

 けれども、斗的は見逃さない。一瞬、蜜柑が目をそらしたことを。
 斗的は、なおも追撃をかける。

「気にするんじゃねぇよ。……けど、お前が風呂に入ったら、オレが入る時間なくなるよな」
「そんなことないんじゃない? あたしの場合、風呂つってもカラスの行水だし、すぐに斗的の順番来るよ?」

 間違いない。蜜柑は斗的を風呂に入れようとしている。
 でも、なんのために? 裸にひん剥いて、なにかしようとでも思っているのか?

 ――ふざけんな。
 ――なんでもお前の思い通りになるかと思ったら、大間違いだぞ。

「いやぁ、そうは言うけどよぉ、磨智も風呂入るだろ。さすがにお客さん差し置いて、オレが入るわけにはいかないよな。……なぁ、磨智?」
「いいんじゃなーい? それぐらい磨智も我慢してくれるって! ほら、レディーファーストって言うじゃん! ……ね、磨智?」
「いやぁ……、僕に振られても……」

 頬をポリポリと掻き、磨智は顔をそらす。
 それを見た蜜柑は、珍しく難しい顔つきで腕組みする。

「うーん、どうしたもんかなぁ~。斗的にはなんとしても、女の子になった自分の裸を見て、恥ずかしさに悶えてもらいたいんだけどなぁ~」

 ―― そういう魂胆かいッ!!

 蜜柑は、やっぱりロクでもないことを考えていた。

「ほら? お風呂シーンはやっぱ、性転換モノのお約束でしょ? これから生活していく上でも、自分の体には慣れておかないと!」

 ―― 知るかそんなもん。

 大体、例え女になった自分の体を直視したとしても、恥ずかしいなんて思わないだろう。確かに性別が変わったとはいえ、なにが悲しくて自分の体で興奮しなければいけないのか。
 だが、蜜柑の思い通りになるのは癪なので、最後まで抗うことにしよう。
 などと思考を巡らせていた斗的に、マイドが声をかける。

「けど、蜜柑ちゃんの言うことも一理あるわぁ~。いつ戻れるかわからないんだし、まさか一生お風呂入らないわけにもいかないでしょぉ? ほら、保健の授業だと思ってさぁ?」
「あ、あのぉ……今日はもういいんじゃないスか? 師匠、テラークやロボロボ団との戦いで疲れているみたいだし?」

 おどおどとした態度で、磨智が助け舟を出す。
 しかし、マイドはキッパリと却下する。

「ダメよぉっ! 土埃とかで汚くなった体のまま、明日のロボトルフェスタに行けないわぁ! 女の子らしく、しっかりかっちり清潔にしなきゃ♪」

 なるほど、マイドもグルか。
 まぁ、自分を女扱いしたところは置いておこう。「オレは男だ!!」と主張したところで、事態は好転しないだろうから。
 そう、あくまでも論理的に対処しなければ。

「フォレス」
「む?」

 会話に加わらず、窓の外をボーッと見ていたフォレスの肩を、斗的はガッシリと掴む。

「確かお前、オレと体入れ替われたよな? 男に戻れるまで、オレの代わりに風呂に入ってくれ。お礼に、今度ひとつだけ言うこと聞いてやるから。いいよな? なっ?」

 口調こそ落ち着いているが、ただならぬプレッシャーをかける斗的に半ば気圧された様子で、フォレスはうなずく。

「い、いやまぁ……貴様にはテラーク退治を手伝ってくれた恩もあるしな。それくらいなら、別にいいが……」

 フォレスの両肩をバンバン叩き、斗的は上機嫌な声を上げる。

「よく言ってくれた!! いや、マジで感謝するぜフォレス♪」
「いやぁ、それほどでも」

 事態を理解してはいないが、とりあえず誉められたことが嬉しいらしいフォレスであった。

「つーことだ、マイド!! 男に戻るまで、風呂や着替えはフォレスに代わってもらうからな!! ―― 文句ねぇだろ?」

 マイドはしゅんとした様子で、静かにうなずく。
 
「うん、わかった……。……そっかぁ。斗的ちゃん、そんなに嫌だったんだぁ……」

 落ち込んで溜息を吐くマイドを見て、斗的は、喉に小骨が引っかかったような気まずさを覚える。別に、マイドを傷つけたかったわけではない。
 一方で、斗的の胸には、蜜柑に勝ったという高揚感が宿っていた。いつも自分をひどい目にあわせる、「あの」蜜柑にだ。
 そうだ、なんでもヤツの筋書き通りになると思ったら、大間違いだ。これからは、感情的にならず、冷静な態度で立ち向かってやる。ロジックは嘘をつかない。論理の旋律は、必ず真実を奏でるのだ。

「んじゃ、さっさと食って、皿洗いをしなきゃな! 布団も敷かにゃいけないから、急がねぇと!」

 そして。

「あ、そうだ。蜜柑や磨智は、いつものように泊まっていくの――」

 斗的の眼前の風景が歪んだのは、

「……か――」

 まさにそのタイミングだった。

 斗的は、全身から力が抜けるのを感じる間もなく、絨毯の上に倒れ伏す。

「ちょっ、師匠っ!?」
「斗的ちゃんっ!?」

 慌てて駆け寄る磨智らを、斗的は重い瞼の下からなんとか捉える。

「な、んだこ……りゃ……?」

 ―― 体が鉛のようにだるい。
 ―― 力が入らない。
 ―― そして……たまらなく眠い。

「斗的っ!! しっかりしなよ、斗的ぉ!!」

 周りの者を押しのけ、蜜柑は斗的を抱き起こす。
 すぐ傍で叫んでいるはずなのに、どこか遠くから聞こえてくるような気がする声につられ、ふと蜜柑の顔に目を移す。その顔は、

 ―― ワラッテイタ。

 朦朧とする意識の中、斗的は思い返す。
 そういえば、自分のコップに烏龍茶を注いでくれたのは、蜜柑だった。もしや、あの会話はフェイクで、本命は――
 まさか、その時に睡眠薬を? たったそれだけのために?

 ……うん、蜜柑ならやりかねないから困る。

 けれども、すでに後の祭り。いくら起き上がろうとしても、体の自由が利かない。瞳がゆっくり閉じられ、次第になにも考えられなくなっていく。

「が……、ま……」

 やがて、斗的は視界を閉ざす。
 同時に。 意識は闇へ。
 闇へ。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(7)」 ( No.50 )
日時: 2013/03/17 22:18
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 どれくらい時間が経過したのだろう?
 背中にひんやりとした感触を得て、斗的は目を覚ます。

 「……うぅ」

 斗的は小さく呻き、うっすらと目を開ける。夕陽色の瞳に、白い裸電球の光が柔らかく差し込む。

「……どこ、ここ?」

 絨毯が敷いてないことから、居間ではないらしいことはわかる。
 ぼんやりする意識を押しのけ、斗的は目を左右上下に動かす。
 天井から床へと敷き詰められた桃色のタイル。鏡の前に置かれた手桶に洗面器、シャンプーにコンディショナー。そして、もうもうと立ち込める透き通った湯気。

「―― ッッ!!」

 斗的は理解した。ここが、どこであるか。そして、自分がどういう状態になっているかを。斗的は、

 ……一糸纏わぬ姿で、風呂場のタイルの上に寝転がっていた。

「よぅこそ、女の子の世界へ~♪」

 傍らから、朗らかな声が聞こえる。湯船にぷかぷかと体を浮かせ、両手で頬杖をついているマイドだ。

「ま、マイドっ!? い、一体これはどういう――」
「やっと素直になってくれて、嬉しいわ斗的ちゃん!」
「へ?」

 事態が飲み込めない様子の斗的に構わず、マイドは話を続ける。

「私達、斗的ちゃんが気絶した時、お布団のある部屋まで連れて行こうとしたの。けど、蜜柑ちゃんから聞いたわ。気絶する直前、『今すぐオレを風呂に入れてくれ……頼む』ってうわ言のように繰り返してたって。斗的ちゃん、実はお風呂に入りたくて仕方なかったのに、恥ずかしくて言えなかったのね……」

 ―― 言ってねぇッッ!!!

 斗的は心の底でシャウトする。
 どうでもいいが、気絶した後、起きたらとんでもないことになっていたってパターンが定例化しかけてきたような……。
 それはともかくとして、今はマイドを説得しよう。

「あのなぁ、マイド? オレはなぁ」

 が、マイドは斗的の両手をギュッと握り締め、透き通った翠の瞳をキラキラさせる。

「安心して、斗的ちゃんっ!! 女の子初心者のあなたのために、『いろは』の『い』から教えてあげるわっ!!」

 気合に満ち満ちた声で、マイドはのたまう。どうやら、暴走スィッチがONになってしまったらしい。
 思い込みの激しいマイドのこと。こうなれば、もう誰も止められない。それを幼い頃から知っている斗的は、

「……はい」

 諦めたようにうなずくしかなかった。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(8)」 ( No.51 )
日時: 2013/03/17 22:19
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 一方、居間にいる蜜柑はというと、

「はぁ~……」

 退屈そうな表情で寝転びながら、もそもそと肉ジャガをついばんでいた。

「蜜柑……お行儀悪いからやめるっスよ」
「放っておいてよ、磨智。こうでもしないと、やってられないの……」
「いや、そうは言っても……」

 当たり前のマナーを指摘する磨智を軽くいなし、蜜柑は大きな溜息を吐く。

「あ~あ。なぁ~んで、あたしはお風呂に入れてくれないのかな~? あたしも、斗的と一緒にお風呂入りたかったな~」
「まぁまぁ、無茶言っちゃ駄目っスよ。斗的師匠だって、本当の女の子といきなり混浴はキツイんだから」
「そこが面白いんじゃんよ~」

 なだめる磨智を横目に、蜜柑はむすっとした面持ちで不貞腐れモードを継続させる。

「しかし、わしもまだまだじゃのぅ。斗的坊ちゃんが、あんなに風呂に入りたがっていたとは……。てっきり、女子になりたての体を直視したくないものだと思っておったわい」

 ガマンは壁にもたれながら、しきりに唸る。

「ははは……」

 真相をなんとなく感じ取っていた磨智は、乾いた笑い声を上げる。
 蜜柑の話を鵜呑みにするとは、なんて心のまっさらな人達……いや、メダロット達なのだろう。
 それにしても、蜜柑の陰謀を止められなかったことが悔やまれる。思えば、今日一日斗的は蜜柑に遊ばれっぱなしだ。朝は服を破られ、昼はフォレスと入れ替えられた挙句に女物の服を着せられ、夜は入りたくもない風呂に入れられ、

 ……なんだか、泣けてきた。

 そうだ。斗的が風呂から上がったら慰めてあげよう。ここで誰かが優しい声のひとつでもかけてあげなければ、あまりにもいたたまれない。磨智は袖で涙を拭い、固く決心するのだった。
 とりあえず、斗的が風呂から上がるまで大分時間がある。それまで自分のやれることをやっておこう。今、できることといえば――

「どぉれ。わしは今のうちに、布団でも敷きにいこうかの。今日は磨智君や蜜柑ちゃんも泊まっていくじゃろうから、布団は三人分か……」

 そう言いながらおもむろに動き出すガマンを見て、磨智は立ち上がる。

「あ、あの! よかったら、僕も手伝うっス! やっぱり、お世話になりっぱなしは悪いっスから……」

 立てた人差し指同士をこすり合わせながら遠慮気味に言う磨智を見て、ガマンは兜に覆われた頭を横に振る。

「いやぁ、磨智君は今日色々あって疲れてるじゃろ? 手伝いなら、疲れを知らないマイドにでも頼むよ」
「大丈夫、全然疲れてないっス! タフさでは、メダロット並っスから!」

 微笑を浮かべながら、磨智はドンと胸を叩く。

「それに、ここには何度も泊まらせてもらってるから、布団がある場所もわかるジャン。だから、邪魔にはならないはずだゼ? ……俺っちも含めて」

 シアックはギターを部屋の隅に置き、口を挟む。
 ガマンはそれを見て、

「……では、お言葉に甘えるとしようかな?」
「はい! よろしくお願いしまっス!」

 磨智は、ペコリと頭を下げる。

「じゃあ、がんばって布団敷いてねー! あたし達は、皿でも洗ってるから!」
「漏れの名前がサラなだけに……ぷっ」

 駄洒落ながら、サラは空いた食器を流し場へと運ぶ。

「あれっ? さっきの皿洗うって話、マジだったんスか?」
「当然!」

 てっきり、斗的を自分の思い通りにさせるための方便だと思った。まったく、どういう心境の変化なのやら。失礼な言い方だが、空からポンジュースが降ってきそう。

「いやいや。いくらなんでも、それは酷い言い方だよなぁ。……う~ん、でも」

 磨智はしきりに首を傾げながら、扉を開けようとする。が、ドアノブに手をかけるや否や、

「―― 待ってくれ」

 ふと響いた声を背中に受け、反射的に足を止める。
 その声は、フォレスのものだった。

「どうかしたんスか、フォレス?」

 振り返り、磨智とガマンはフォレスに注目する。
 なにやら、深刻そうな様子だが。

「布団とやらを敷くとか言っていたが、私も手伝おう。―― が、その前に、伝えなければならぬことがある」

 フォレスは窓の外へ目を向けると、

「……窓の外に―― 誰かいる」
「なッ!?」

 磨智は絶句する。

「ほっ、本当なのフォレスっ!?」
「ああ。食事の時から気配は感じていたが、確信した。今さっき、はっきりと見えたのだ―― 人影をな」

 そういえばフォレスは、お風呂騒動の辺りからずっと窓の方を見ていた。
 もしや、またテラークが……

「ああ、それなら心配いらんわい」

 不意に、ガマンが口を挟み、窓を開けて外を指差す。
 そこでは、スキンヘッドで口ひげを生やした大柄な男が、口に薔薇を銜えながらフラメンコを踊っている。

「毎日この時間になると、うちの敷地でああして踊りに来るんじゃ。恐らく、フォレスが見た影もあれじゃろう」
「なるほど、そういうわけだったか……」
「『そういうわけだったか』、じゃないっスよフォレス。思い切り不審者だよ、あれ」

 安心した様子で後頭部に手を当てるフォレスに、磨智はツッコむ。
「まぁ、事件が解決してめでたしめでたしだね!」
「俺っち、てっきりテラークかと思ったゼ……まったく、ビビリ損ジャン」
「ちょっとみんな!? もうちょっと危機感持つっスよ!? あれ、絶対に警察に通報した方がいいって!」

 磨智は抗議するの声を受け、フォレスは。

「むぅ、磨智殿の言うことも一理あるな。あの男はともかく、草むらにテラークが潜んでいないとも限らない。ここは見回りをした方がいいやも――」
「ほらぁ~、クソ真面目なフォレスが本気になっちゃったジャマイカ~」
「ホント、昔から磨智って大げさだよねー!」
「パートナーとして、俺っちも心配ジャン」
「えっ!? いつの間にか僕が悪いみたいな雰囲気になってないっ!? おかしいのは僕ッ? みんなッ?? 雛見沢ッ???」

 磨智は泣きそうな声を上げながら後ろ手でカーテンを閉める。
 この時、窓を背にしていたせいで、磨智は気づかなかった。黒い人影がカーテンに映りこんでいたことに。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!!(9)」 ( No.52 )
日時: 2013/03/17 22:21
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 場面は、再び風呂場に戻る。
 斗的は、鏡と反対方向――つまり入り口に足の指先を向け、体育座りしていた。その姿は、まるで蛹に閉じこもった蝶のようで、お風呂マットに座り込んだままピクリとも動かない。
 マイドは、そんな斗的の顔を不思議そうに覗き込む。

「斗的ちゃ~ん、どぅしたのぉ~?」

 しかし、斗的はぎゅっと目を瞑り、何も答えようとしない。

「……まさか、恥ずかしいとか?」

 斗的は、コクコクと無言で頷く。
 考えてみれば自分は、女性になったという事実を軽く受け止めていたような気がする。だから、なんの覚悟も決めず、鏡に映った自分の姿を直視するなんていう愚行を犯してしまったのだろう。
 あれは、完全に失敗だった。記憶の糸に触れれば、その時見た光景がフラッシュバックする。途端、

「ぁぅ、ぅ……ぅぅ…………っ」

 全身がカァっと火照り、頭がボーっとする。
 いけない……思い出すのは危険だ。恐らく今の自分の顔は、恥ずかしさで熟れに熟れたトマトのように真っ赤なはず。……いや、洒落じゃなくて。

「あ、あのさぁ、マイド……。やっぱりオレ、無理そう……」
「え~? だって、お風呂に入りたいって言ったの、斗的ちゃんでしょぉ~?」

 いや、それは蜜柑の嘘だって。

「それに、トイレとか一人で入れたじゃなぁ~い。お風呂なんて、その延長よ♪」
「そ、それは……そうだ、けど……」

 斗的は、抱きしめるように両腕を組み、小さくうずくまる。プリンをつついたように揺れる胸の感触が二の腕に伝わり、それがさらに心臓の鼓動を早める。

「トイレの時は、なるべく見ないようにしてたんだ。けど、風呂は……その……、触ったりするじゃん……。なんていうか……倫理的にまずい気が……」
「自分の体を洗うのに、倫理もなにもないじゃなぁい♪」
「で、でもやっぱり、女の子の体を色々触るのは……ぅぅっ……」

 そう。今の斗的は見た目こそ美少女だが、中身は健全なる高校生男子。女の子のことが、普通に気になるお年頃だ。まして、ABCのAどころか、まだ女の子と手すら繋いだこともない。そんな斗的が、同い年である女の子の裸を直接見たり触ったりなんて……。
 それきり斗的は、再び口を閉ざしてしまう。暖かな湯気が肌を撫でる浴室を、しばしの間、沈黙が支配する。

「……ふぅ、わかったわ」

 小さな溜息とともに、マイドが沈黙を破る。
 それから、カチャカチャというプラスチック同士をぶつけるような音が浴室に響く。が、硬く目を閉ざしている斗的には、マイドがなにをやっているのかわからない。

「ま、マイド……?」

 不安になった斗的は、うっすらと目を開ける。
 すると、すぐ目の前には、尾びれをぴょこぴょこと動かしたマイドが浮かんでいた。その小さな両手には、シャンプーとコンディショナーを持っている。

「特別サービスタぁ~イム! 今回は、私が斗的ちゃんをキレイキレイにしてあげるわぁ♪」
「へ……?」

 ぽかぁんと口を開け放つ斗的に、マイドはいつものおっとりふわふわした声で説明する。

「よぉく考えてみれば、斗的ちゃんの言う通りだと思ったの♪ 確かに、いきなり本番はきついわよねぇ~。今日は色々あったし、疲れを取ることに専念しましょっ♪」

 どういうことだ? あんなに自分をお風呂に入れたがってたマイドが……。

 ―― まさかッ!?

 蜜柑のことが脳裏を過ぎり、斗的はサッと身構える。

「なに警戒態勢に入っているの? 斗的ちゃん?」
「い、いや、だって……いいのかよ、マイドはそれで?」
「うん♪ 女の子の特訓は、また今度にしよっか♪ これからは、今日私がやった通りに、ちゃんと洗うのよぉ?」
「いや、結局やるのかよ……」
「もっちろぉん♪ さぁ、まずは髪を洗いましょ♪」
「あ、ああ……」

 マイドはシャワーのコックを捻り、斗的の頭を洗い始める。
 かくして、今一釈然としない気持ちのまま、斗的のお風呂初体験は始まった。断っておくが、女になってからのお風呂が初体験なわけであって、別にお風呂で初体験を迎えたわけではない。

「そういうボケはやめろ、馬鹿作者」
「駄目よ斗的ちゃん。髪洗ってる時に顔を上げて喋ったら、シャンプーやお水が口の中に入っちゃうわよぉ?」
「それくらい大丈……―― げほっっ!? ごほっ!!」

 作者からの天罰が下り、斗的は激しく咳き込む。

「違っ……げほっ、ての……っ!!」
「ほらぁ~、言わんこっちゃないじゃなぁい……。斗的ちゃん、大丈夫?」
「ああ……こほっ」

 涙で目を潤ませながらも、斗的はおとなしく下を向く。自分の体が視界に入らないよう注意しながら。

「それにしても、やっぱり大きいわねぇ……」
「けほっ……大きい? なにが?」
「斗的ちゃんのおっぱい♪」
「―― ぶっっ!!?」

 マイドのストレートど真ん中な物言いに面食らい、斗的は気管支に入った残りの水を噴き出してしまう。

「デパートでお着替えする時にわかったけど、斗的ちゃんって着やせするタイプだったのねぇ♪ 明日、ロボトルフェスタで商店街まで行くでしょ? ついでだから、一緒にブラジャー買いにいっちゃおっ♪」

 駄目だ、この話題……早く何とかしないと。

「……そ、そういえばさ、マイド!」

 斗的は慌てて話を変えようとする。

「マイドって、髪から洗う派なんだな? いっつもオレ、体から洗うから新鮮だな~……なんつって」

 ……つ、つまらん。

 苦し紛れに出した話題だとはいえ、あまりにもどうでもいい。斗的は、心底後悔する。
 が、斗的がくだらないと思っていた問いにも、マイドは丁寧に答えてくれる。

「ああ♪ それはねぇ、コンディショナーを落とすためよぉ♪ 後に髪を洗うと、体がコンディショナーでベトベトになっちゃうでしょぉ? だから、先に髪を洗って、後で洗い流しちゃうのぉ♪」
「へぇ~……そうだったのか」

 今まで体を洗う順番なんて特に気にしていなかった斗的は、思わず感心してしまう。

「けど、別にコンディショナーなんて使わなくてもいいんだけどな」
「そんなこと言わないの! 髪を痛めないためにも、丁寧にトリートメントしなきゃ♪ ……そうしないと、将来髪が薄くなっちゃうわよぉ?」
「へいへい」

 確かに、髪が薄くなるのは困る。ここはマイドの言う通り、男に戻れたとしても、トリートメントは欠かさないようにしよう。
 まぁ、それはともかくとして、

「う~ん……髪が長いと邪魔だな、やっぱり」

 斗的は、ぽっと桜色に上気した肌にまとわりつく髪を、一房つまんで言う。

「いいじゃなぁい、似合ってるんだから♪ 長い髪は、女の子の憧れよぉ♪」
「オレ、機能性重視なんだよなぁ。……ふぅ。明日、床屋で切ろうかなぁ」
「え~、勿体ないわよぉ~! せっかくの、艶々サラサラヘアーなのにぃ~」
「んなこと言ったって……」

 傍目で見るのはいいかもしれないが、正直、わずらわしくてしょうがない。首の後ろが熱いわ、耳にかかってうっとおしいわ、おまけに手入れが大変そうだわで、いいことなんて一つもない。

 ……だけど、

 マイドが言わんとすることも、わからなくはない。
 斗的は再び顔を上げ、ガラス戸へと目を移す。白色電灯に照らされたガラスは、薄ぼんやりと、銀髪の少女を映し出している。
 ガラス戸の向こう側にいる少女は、少しはにかんだ顔をして、斗的をジッと睨んでいる。目の前に手を差し伸べれば、目の前の少女もそっくり手を伸ばす。掌と掌がピッタリと合わさり、丁度、少女と自分がガラス戸越しに触れ合う形になる。

 少し釣り目気味だが、目鼻立ちの整った涼しげな顔立ち。
 淡い夕陽の光を閉じ込めたような、澄んだ茜色の瞳。
 白樺の若木を連想させる、細く、それでいてしなやかな手足。
 一抱えほどある、ふくよかな胸。
 そして、本来男の象徴があるはずの場所には……

「これが、今のオレ……かぁ」

 怖いほど似合っていた。華奢で、抱きしめたら壊れてしまいそうな体躯に、背中まである透き通った銀髪が。
 これまで、まったく実感が湧かなかった。どう贔屓目に見ても人並みくらいのルックスだった自分が、サラやマイドが言うような美少女に変身してしまったなんて。
 だが、こうして自分の姿をまじまじと見なければいけない状況に来てようやく、本当の意味で自覚した気がする。目の前の少女が自分自身だという現実を。自分が女性へと性転換したのだという事実を。
 斗的の胸中で、今までの恥ずかしいという感情とは別の気持ちが高まっていき、思わず眼前から目をそらしてしまう。それから、自らの右手を、そっと胸の真ん中に当てる。女性特有の柔らかな弾力が返ってくるが、押さえずにいられなかった。

「斗的ちゃん、怖いの?」

 ハッと、斗的は我に返る。
 気付けば浴室は、静寂に満ちていた。いつの間にかマイドは、髪を洗う手を止めている。
 マイドは、再び声を発す。

「怖いの? 自分が変わってしまったことが?」

 ――……怖い、か。

 やっとわかった。拭い去っても拭い去っても消えない、纏わり付いてくるような感情の正体が。
 そうだ、自分は怖かったんだ。このままガラス戸を見続けていたら、少年「鷹栖斗的」として歩んできた十七年間まで、目の前の少女にそっくり奪われてしまうような気がして。
 それは、ラストを前にした時とは別の、それでいて、〓るような鉛色の気持ち。

「大丈夫よ、斗的ちゃん」

 マイドは、斗的の肩に手を置き、ふわりと撫でる。プラスチックの硬い、けれども、どこか温かくて柔らかな感触が、じん……と広がっていく。
 どこかで、味わったような……不思議な手触り。

「私やガマンちゃん、それに蜜柑ちゃんや磨智ちゃん達は、いつだって斗的ちゃんと一緒だから。どんなに変わっても、斗的ちゃんは斗的ちゃんだもん♪ ……なぁんてねっ♪」

 マイドは照れ隠しのように語尾を上げ、再び髪を洗い始める。
 そうだ、思い出した。昔もこうして、マイドと一緒にお風呂に入った記憶がある。
 髪を洗う時に目を瞑るのが怖かった自分を、マイドはこうしてなだめてくれたっけ。
 少しでも怖さが紛れるように。
 少しでも安らぐように。

「マイド」
「うん?」

 ふと斗的は、口の端を緩める。

「ありがとな」

 それから、疑って……ごめん。
 少々強引なところがあるけど、小さい頃から一番に味方してくれたのは、いつもマイドだった。最終的には、自分の気持ちを汲んでくれる。
 そんなマイドだからこそ、悲しませたくないと思い、つい言いなりになってしまう。
 それにしても。なんで今更、こんな感情が湧き出してきたのだろう。性転換してから、随分時間が経つのに。
 ああ、そうか。今日は異常事態の連続で、自分の体を意識してる暇なんてなかったから。まぁ、蜜柑を相手にしていれば、落ち着いて考えることなんてできないだろうけど。
 ひょっとして、あの馬鹿騒ぎは、斗的に気を使ってのことだったりして? 本当は蜜柑も、斗的が不安にならないよう……

「……いやぁ、ないだろそれは」

 考えなくてもわかる。人に気を使うようなやつが、食事に睡眠薬を盛るわけがない。
 こんなことを考えるなんて、今日の自分はよっぽど疲れているのだろう。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(10)」 ( No.53 )
日時: 2013/03/17 22:22
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「はい、おっしまーい♪」

 マイドの明るい声と共に、洗髪は無事終了した。

「ね? 女の子も男の子も、洗い方に大した違いはなかったでしょぉ?」
「う~ん……そうだな」

 長い分、乾かすのに時間がかかりそうだけど。

「けど、乱暴にゴシゴシ洗っちゃ駄目よぉ? 髪が荒れちゃうから。……で、あとは、体を洗う時邪魔にならないように髪をゴムで縛るのぉ♪」

 マイドは慣れた手つきでチョイチョイと前髪を上げ、斗的の髪をアップにする。

「おお……っ! なんか、風呂上りの母さんみてぇ……!」
「でしょ~♪ 桃ちゃんも髪が長いから、いつもこうやってまとめてるのよね♪」

 桃とは、斗的の母親のことである。

「さぁて♪ 次はいよいよ体の方ねぇ♪」

 マイドは、張り切った様子で、スポンジにボディーソープを乗せて泡立てる。それから、肩や腕を、優しく撫でるように擦っていく。体をゆっくり包み込んでいくホィップクリームのような泡と共に、柔らかな感触が伝わってくる。

「なぁ、マイド。髪洗う時と一緒で、体洗う時も強く擦ったりしちゃ駄目なのか?」
「ピンポンピンポーン♪ 斗的ちゃん、大正解! 男の子と違って、女の子のお肌は、とっても敏感なの♪」
「なるほどなぁ。物知りだな、マイドは」

 斗的は、初めて知る女性の体の神秘に、すっかり感心してしまう。髪や肌のことなんて、保健体育でも習わない。本当に、女の子の体は知らないことばかりだ。
 ……と、ここまではよかった。が、これから斗的は、さらに奥深くに眠る、女の子の秘境を覗くことになる。
 それは、マイドの持つスポンジが「ある部分」に触れた時――

 ―― 稲妻が背筋を駆け抜ける。

「ふぁ……っ?!」

 ビクンっと体が跳ね、斗的の口から甘い声が漏れる。

「どうしたの斗的ちゃん?」

 マイドは手を止め、不思議そうに問いかける。

「な……んだ、こ……れ……?」

 尾を引く先程の感覚を、吐き出そうとするかのように斗的は息を荒げる。治まっていた胸の高鳴りが再び早まり、肌が熱を帯びていく。

 今まで感じたこともない、未知の感覚。
 かゆいわけでも、痛いわけでもない。
 一体、これは……?

 しかし、斗的に考える余裕はない。なぜなら、

「クス、おかしな斗的ちゃんねぇ♪」

 マイドが、斗的の「ある部分」を再び洗い始めたから。

 「―― ぅゅッッ?!?」

 まただ。
 ゾクリと、身を弓なりに震わす程の寒気が、「ある部分」から脳へと走り抜けていく。体中の毛穴という毛穴が開ききる程の刺激が、次から次へと押し寄せてくる。さながら、土石流のように。

「ひゃッ、ぅあッぁっっ! ちょッ、ちょっと待っ、みゃっ……て―― んぅうッッ」

 まるで釣り上げたばかりの鮮魚みたいに、斗的はタイルの上で身をよじらせる。
 しかし、マイドは「ある部分」を洗う手を止めようとしない。

「どうしたのぉ急に暴れ出しちゃってぇ~? もうすぐ終わるから、おとなしくしてなきゃ駄目よぉ~」
「くっ、ゃあッ! しょ、しょん、なことッ……言わな、ぃで……っ。いっしょ……ぅのおねがいだかっ、らぁ―― ひゃんっっ」

 思考を麻痺させるようなノイズ音が、絶え間なく頭の中を掻き毟る。
 歓喜。悲痛。快感。その他一切の感情が渾然と混ざり合い、トロトロになった脳細胞と一緒にシェイクされる。

「きゃふッ!! ぉあぅううっ!! ぁうっぅ……っあああッ!!!」

 もう言葉にすらならない。体熱によって身も心も蕩けきった斗的の眼前を、ホットミルクのように白い靄が覆っていく。

「さぁ、もう少しで終わるからねぇ~♪」
「ぅあっ、あっ……ああ……」

 やがて、言葉も途切れ途切れになり、斗的は最後まで掴んでいた意識を手放

 ……―― そうとした直前、

 目の前のガラス戸が大きく開く。

「―― ふぇ……?」

 斗的は、タイルの上に寝転がったまま、扉の向こう側を、とろんとした目で見つめる。
 ビー玉越しに風景を見たようなボンヤリとした視界が、次第に形を成していく。

 それは、全身を漆黒に染めた、一人の少年だった。
 年は高校生くらい。背はスラリと高く、線が細い体つき。夏場だというのに、全身をスッポリ包み込むような黒コートを羽織っており、頭には布でできた臙脂色のヘアバンドを付けている。肩に軽くかかる程度まで伸びた黒髪は新月の晩を彷彿とさせ、その表情には感情の欠片も見えない。
 少年は、扉の前で微動だにせず、ただ、研ぎ澄まされた刃のような切れ長の瞳で、ジッと斗的を見下ろしていた。

「なぁんだぁ~……てっきり、痴漢かと思っちゃったぁ~……あはっ」

 斗的は心の底から安堵し、にへらぁっとした笑顔を少年に投げかける。

 ――……あれ?

 なにか、今、とんでもない事態が起きているような気がする。けど、頭がぼぉっとしているせいで、認知できない。とりあえず、ゆっくり考えてみよう。
 確か、自分は、マイドと一緒に入浴するため、生まれたままの姿になっていたはず。そして、「ある部分」を洗い始めた時に、変な気分になって……それから、黒コートの少年が入ってきて……

 ―― ちょっと待てよ?

 だんだん、斗的の頭がクールダウンしてきた。
 もう一度状況を整理しよう。自分は、マイドと一緒に風呂に入っている。それから、全然知らない少年が入ってきた。で、今現在も目の前に居て、斗的の体を見続けている。
 つまり、結論は……

「あ……っ」

 斗的の頭がみるみる沸騰していき、

「―― うぉあああああああああ……ッッ!!?」

 甲高い少女の悲鳴が、浴室に木霊した。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(11)」 ( No.54 )
日時: 2013/03/17 22:25
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「どっ、どうしたんスか師匠っ?!」

 心配して駆けつけた磨智は、浴室と居間を仕切る扉に手をかける。
 が、

「誰が入ることを許可したァっっ!!」

 開きかけた扉に斗的が投げた洗面器がクリーンヒットし、磨智は慌てて首を引っ込める。

「はぁ……はぁ……っ」

 斗的は荒い息を吐きながらバスタオルを体に巻きつけ、キッと目の前の男を睨みつける。

「なにスカした態度とってやがるんだ、このムッツリスケベ野郎っっ!! い、今更格好つけたってなぁ、お前が覗き魔だって事実は成歩堂だって覆せないんだよクソカスがッッ!! ばかっ!! あほっ!!」

 思いつくだけの罵詈雑言を、斗的は浴びせてやる。
 けれども、少年は怯む様子も見せず、平然とたたずんでいる。やがて、ゆっくりと口を開く。

「心配するな」
「ああっ!? 心配なんてしてねぇよっ!! むしろ、お前のこれからを自分で心配しろやっ」

 だが、少年の台詞は、斗的が想像だにしないものだった。

「俺は……覗き魔などではない」

 斗的が思い切りズッコけたのは、言うまでもない。

「いやっ、どこからどう見ても覗き魔だってっ!! 鏡見てみろよっ、メチャクチャ不審な格好したヤツが映ってるからっ!!」
「状況証拠だけで決め付けるのはいけないな。捜査というのは現場百遍といって、地道にコツコツと……」
「状況証拠っつーか、現行犯だろがっ!! ってか、なんでテメェに刑事の心得を説かれなきゃいけないんだよっ!?」
「よく覚えておけ。人生の師とは、意外な場所にいるものだ」
「少なくともお前じゃないことだけは確かだけどなッ!!」

 ――くそっ……本当に腹が立つやつだ。
 ――なんで自分の家に忍び込んできた相手とボケツッコミの応酬を繰り広げなければいけないのか。

 恐らく、覗き魔だということを差し引いても、斗的は少年と仲良くできる自信がない。

「と、とにかく! 斗的ちゃんの裸を見た罪は重いんだからねっ!」

 珍しくいきり立つマイドに対し、少年は慌てず騒がず答える。

「だから、俺は覗き魔ではないと先程から言っているだろうが。その女の(自粛)とか(検閲)など見てもいない」
「しっかり見てるじゃねぇかよッッ!! ―― ていうかっ、言葉に出すんじゃねぇよ恥ずかしいっ」
「あまり怒るな。怒ってばかりだと、美人が台無しだぞ?」
「大きなお世話だスカポンタンっっ!!!」

 もう我慢の限界だ。斗的は、このまま少年をセレクト隊に連れて行ってしまいたかった。
 けれども、そのことによって風呂場で自分がしていた行為が明るみに出るのは非常にまずい。もう生きていけない。練炭自殺してやる。

 ――じゃあ、どうする?
 ――いっそのこと、あの覗き魔をここで殺ってしまうか?
 ――殺るとしたら、どうやって殺す?

「ん~、あたしは毛穴という毛穴に一本一本裁縫針を刺していくのが好みかなぁ♪」
「勝手に人のモノローグを読むんじゃねぇよ」

 無邪気な顔をして物騒なことをのたまう蜜柑を押しのけ、サラは一つ提案する。

「まぁまぁ~、一丁穏便にいくお。お互いメダロッターだし、ここは『ロボトル』で白黒つけるなんてどーよ?」

 ロボトルか。なるほど、ここで少年に勝利して先程見た光景を忘れることを約束させるのもいいだろうと、斗的は思い至る。
 なにかを賭けたロボトルで、斗的は今まで負けなしだ。

「よぉし、表に出ろ! オレにロボトルで勝ったら、セレクト隊に通報するのだけは勘弁してやるぜ」
「フン、セレクト隊に行くのはどっちかな?」
「いやっ、なんでオレがセレクト隊に行かなきゃいけねぇんだよッ!! 今すぐ通報するぞゴルァッ!!」

 ギャアギャアと騒ぎながら外に出て行く斗的達。
 そんな彼女らに呆れた視線を送りながら、フォレスは傍らにいる磨智に語りかける。

「やれやれ、相も変わらず自分勝手な奴だな。斗的の相手をいつもしている磨智殿は、本当に大したものだよ」

 しかし、傍らの磨智は、怪訝な表情で首をひねっている。

「磨智殿?」
「いや。あの黒コートの人、どっかで見たことがあるような気がして……」
「む、やつは磨智殿の知り合いか?」
「知り合いってわけじゃないんだけど、う~ん……」
「なぁに、大事なことだったらそのうち思い出すはずだ。とにかく、今は斗的のロボトルを優先しよう」

 磨智は納得のいかない様子ではあったが、

「……うん。そうっスね」

 フォレスと共に居間を後にした。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(12)」 ( No.55 )
日時: 2013/03/17 22:30
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 鷹栖家の庭先。
 漆黒の空に浮かぶ繊月の下。斗的は右手に漆黒のメダロッチ、左手に純白のメダロッチを装着し、臨戦体制に入る。バスタオルを一枚巻いただけの格好で。

「さぁ、行くぞ! ガマン、マイド、ついでにフォレス! あの変態黒コート野郎に、目にもの見せてやれッ!!」

 黒コートの少年は、フォレス達にチラリと目をやる。

「防御型、回復型、攻撃型……なるほど、お前のチーム編成はバランス重視か」
「ああ、攻撃役はフォレス一体しかいないが、堅実さではピカイチだ。風呂を覗いたこと―― 後悔させてやるっ!」

 ビッと突き出した親指を真下に向ける斗的に、少年は猛禽類のような瞳を向ける。

「白髪……お前、安心しきっているな?」
「なにィっ? ……つーか、オレを白髪って呼ぶんじゃねぇよ!!」
「戦闘とは、一分一秒に余すことなく緊張が詰まっている最中のようなもの。安心の愚かさを、貴様に教えてやろう。―― 断っておくが、最中のように甘くはないぞ?」

 しばしの沈黙が流れた。

「おい、覗き野郎……なんなんだ、その微妙な例え?」
「俺の大好きなスィーツに例えたのだ。イケてるだろ?」
「ミリ単位もイケてねぇよッ!! なんだよ最中って!? ―― ああもうっ!! なんでオレの敵は、こんなやつばっかりなんだ!?」

 Episode1は変態ドレス女。Episode2は筋肉眼鏡達磨。そんでもって、今回は覗き魔……性転換してから、ロクな敵と戦った覚えがない。

「はぁ……。さっさと勝って、今日は寝よう……」



鷹栖チーム フォレス:鷹栖斗的
ガマン(ナイトアーマー):鷹栖斗的(左腕:サムライセイバー)
       マイド(ピュアマーメイド):鷹栖斗的(右腕:ビックリヨーヨー)

少年チーム  バッドハッカー:少年
        バイバイクーン:少年(右腕:サーベル、左腕:マントシールド)
       ミストラル:少年



 ロボトルファイト!!

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(13)」 ( No.56 )
日時: 2013/03/17 22:32
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「速攻で決着をつける。バッドハッカー、右腕パーツ『ひっかけワイヤー』。他二体は指示があるまで動くな」

 巨大な二枚の羽と珈琲色の体躯を持つゴキブリ型メダロット―― バッドハッカーは右腕を振り上げる。ヒュンッと鞭が風切る音。

「へっ、一体で向かってくる気かぁ? だからって、容赦しないぜ! ―― ガマンはマイドとフォレスの前に回りこんで防御っ! フォレスはなるべく距離をとるようにして、バッドハッカーへ集中砲火! マイドは、もしダメージを受けたらすぐに回復しろ!」
「心得たッ!!」

 斗的の的確な指示を受け、フォレスの右腕から弾丸が放たれる。まるで雀蜂のような勢いで。到達点はただ一つ、バッドハッカー目掛けて。
 が、少年は相変わらずの無表情で、命令をする。

「バッドハッカー。頭パーツ『あんしスコープ』を使え」
「チキチキチキぃ……」

 バッドハッカーは不気味な声を発し、長い触覚を青白く発光させる。途端。輪郭が薄らぐ。四肢の色彩が透き通っていく。やがて、沼に落とした一滴のインクが水中へ霧散するように外気へ溶けてしまう。
 弾丸は敵がいた場所まで到達。通過。深い闇へ吸い込まれていく。

「きっ、消えたっ!?」

 キョロキョロと辺りを見回す磨智の横で、蜜柑はしきりに感心する。

「へぇ~、バッドハッカーの得意技『隠蔽』を使ったんだね!」
「隠蔽、っスか?」
「そう! 隠蔽、つまり保護色のことね! バッドハッカーは、カメレオンのように自らの体色を風景に溶け込ませ、奇襲する戦法を得意とするの!」
「ちょっ、暢気に解説してる場合じゃないっスよっ!? どこから攻撃してくるのかわかんないと、手の付けようがないっス!!」
「大丈夫だ、磨智。バッドハッカーとは一回戦ったことがある」

 慌てふためく磨智とは対照的に、斗的は落ち着き払った態度をとる。

「やつは両腕の鞭で相手を打ち据える近接格闘型だが、威力は大したことない。それより、問題は――」
「このまま判定に持ち込まれたらまずい、だろう?」

 感情を込めずに答える少年の言葉を、斗的は無言で返す。
 ロボトルは将棋と同じ。「リーダー機」と呼ばれる王将を倒せば、何体メダロットが残っていても、戦いは終わる。今回の場合、味方リーダーはフォレス、敵リーダーはバッドハッカーである。
 しかし、最後までリーダーを撃破できずに一定時間が経過した場合、結果は、ロボトル監視衛星からメダロッチに転送されてくる判定に委ねられる。

「判定は主に、攻撃が成功した回数、生き残ったメダロットの数等によって考慮される。―― だがご覧の通り、俺のバッドハッカーは跡形もなく消えた。お前の弾丸が届くことは、決してない」

 余裕たっぷりに述べる少年。
 けれども斗的は、少しも表情を崩さない。

「ほう。まったく動じていないな、お前」

 いや、それどころか、不敵に口元を歪めてさえいる。

「へっへっへ! お前、人の話はよく聞いておくもんだぜ?」
「どういうことだ?」
「言ったじゃねぇか。バッドハッカーとは、昔戦ったことがあるってな。当然、隠蔽を使ってくることなんて戦う前から知ってる。なのに、オレがなんの対策もとらないまま戦闘に臨むと思ってるのか?」

 斗的はメダロッチのマイク部分に向かって叫び、マイドに指令を伝達する。

「マイド、右腕パーツ『ビックリヨーヨー』発動ッ!!」
「了解♪ ―― 『索敵』開始!」

 マイドは、左手の人差し指と中指を自らのおでこにぴったりくっつけ、

「―― そこよっ!!」

 緑色の光線を右腕から、家の外壁に向かって放つ。すると、紙に零した墨汁が次第に形を成していくかのように、バッドハッカーの姿が浮き出る。

「おお! 敵メダロットの熱を探知し、隠蔽を無効にする技『索敵』を使ったジャン!」
「これを予見して、マイドさんのパーツを変更していたんスね! これなら隠蔽も怖くないっス!」
「いっけぇ! 斗的ぉっ!」
「わかってらぁ! ―― フォレスっ!! 右腕パーツ『ウィンチェスター』速射!! バッドハッカーを仕留めろっ!!」
「ああ、言われなくても!」

 フォレスは右手の甲から突き出した銃を構える。掃射。

「バイバイクーン」

 少年に名を呼ばれたバイク型メダロット―― 「バイバイクーン」は爆音と土煙を舞い上げ、フォレスの行く手を遮る。

「全て叩き落とすっ!!」

 バイバイクーンはレイピア状の腕をタクトのように振るう。一度。二度。三度。地面の上に叩き落された銃弾が転がる。小指の先程ある銃弾が。
 しかし、四発目が肩を貫通すると同時に、バイバイクーンはぐらりとバランスを崩す。直後。次々装甲に被弾する。

「ギッ……ガァ……っっ」

 やがて、その体を地面に横たえる。白々とした光を灯していたヘッドライトが、ふっと消えた。完全に機能が停止したようだ。

「へっ、呆気ねぇなオイ! ……さぁて。ちゃっちゃとリーダー機を倒して、勝利をおさめさせてもらうぜ!」

 バッドハッカーを指差し、斗的は力強い口調で言い放つ。その声色には、勝利への疑いなど微塵も見られない。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(14)」 ( No.57 )
日時: 2013/03/17 22:33
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 ……勝った。

 斗的は、心の中でガッツポーズをとる。
 実際、すでに決着は付いたようなもの。攻撃手段を持っていたバイバイクーンは倒れ、あとはバッドハッカーを撃破するのみ。初めて見る、もう一体のカブトムシの幼虫に双葉をつけたようなメダロット―― ミストラルも気にはなるが、いかなる攻撃を仕掛けてこようとも、ガマンがしのいでくれるはず。なんといったって、ナイトアーマーの装甲は、

「メダロットの中でもトップクラス。あの最高の攻撃力を誇る『ブラックメイル』でも、パーツひとつ壊すのがやっとだ。当然、並のメダロットなんかには壊せない。したがって、もう勝利したも同然――とでも考えているんだろ?」

 少年は、淡々と、まるで斗的の心を見透かしているかのように言ってのける。

「あ、ああ、そうだよ。わかってるじゃねぇか……」

 自信に満ちていた斗的の顔色に、ふと影が混じる。
 別に、考えが読まれたからではない。この局面は、云わば詰みのようなもの。ここまでくれば、誰だって理解できる。
 気にいらないのは、少年の表情である。このままフォレスの攻撃が決まらなかったとしても、状況は三対二。判定でも、こちらの勝ちだ。なのに、

 ―― なぜ、汗一つかかない……?

「おい、みんな。あの緑色したメダロット……警戒しとけ」

 先程とは打って変わり、緊張した面持ちで斗的は指示を下す。フォレス達も少年の態度を不審に思ったのか、バッドハッカーに銃を向けながらもミストラルに目を配る。
 しかし――

「ふぅ、お前も人の話を聞かないやつだな。白髪よ」

 ミストラルは、鬼灯のように円らな瞳をクリクリと動かし、

「俺は警告したはずだ。甘くはない、と」

 フォレス達の方を見やると、

「なぁ、そうだろ――」

 体を翡翠色に輝かせ、

「―― バイバイクーン?」

 ……硬質感ある亀裂音が響いた。

 同時に、オイルの飛沫が、アスファルトを淀んだ茶色に塗り替える。

「かはっ……!!」

 小さなうめき声をあげながら宙を舞う……ひとつの影。
 それは、薄紅色のプラスチック片を撒き散らしながら、まるで、テレビのスローモーションのように、ゆっくりと地面に落下する。
 それから、数回バウンド。
 うつぶせになった影は、深く抉られた胸から、青白い火花を散らす。
 最初は何が起きたかわからなくて呆然としていた斗的は、ようやくその名を喉から搾り出す。

「……マっ、」

 自分にとってかけがえのない存在である、メダロットの名を。

「マイドッッ」

 斗的は息を呑み、気付いたら駆け寄よろうとしていた。

「と……っ、まと……ちゃ……」

 マイドは、際限なく流れ出るオイルの池に体を浸しながら、斗的の方へ這っていこうとする。震える手を懸命に伸ばしている姿は、まるで、幼子を愛しむ母親のよう。
 マイドがなぜ攻撃を受けたのか。そんなこと、今はどうでもよかった。
 目の前でマイドが傷ついている。斗的の中にあるのは、その事実だけ。
 だが、二人の手が重なることはなかった。なぜなら、マイドの前に、一つ目を爛々と輝かせた黒い影が立ちふさがったから。
 それは、先程フォレスが機能停止させたメダロット、バイバイクーンだった。

「愚かだな、白髪。味方メダロットが一体やられたくらいで動揺するとは……――トドメを刺せ、バイバイクーン」
「イエス・マスター」

 バイバイクーンは自らの頭上に、高々とサーベルを掲げる。刃渡り1m程の銀色に輝く刀身が、今、まっすぐマイドへ振り下ろされ――

「……悪いが、そこまでにしてもらおうか?」

 エメラルド色の瞳を輝かせ、マイドとバイバイクーンの間に割り込んだのは、真紅のボディーを持つカブトムシ型メダロット――フォレスだった。その左腕には、鈍い光を放つサーベルが、深々と突き刺さっている。

「フォ……レ、ス…………ちゃ……、ぅ……ぁ……」

 蛍のように儚げな光を発していたマイドの瞳が、深い闇一色に変化する。マイドの背中から零れ落ちたメダルは、くるくるコンクリートの上を踊り……そして、沈黙する。

「マイド……」

 斗的は、バスタオルや四肢がオイルで汚れるのも構わず、地面に座り込み、マイドを抱きしめる。

「フン、機能停止することが決まりきった機体を、リーダー機で防御するとはな。絶好の機会だ、そのまま圧し斬――」

 しかし。少年が指示するより一瞬早く。フォレスは腕から突き出た剣先をガッシリ掴むと、

「ガマン殿っ、今だっっ!」
「ぬぅんッッ!!!」

 ガマンは青白い光刃を振りぬき、

 ―― 袈裟懸けに斬る。

 バイバイクーンは右肩から左脇まで一閃の下に斬り伏せられる。オイルと装甲の残骸を地面の上に滴らせ、地面に沈む。

「やったかっ!?」
「いや、まだだよ!」

 果たして、蜜柑の言う通りだった。
 装甲一枚でギリギリに繋がったバイバイクーンの体は、ビデオの逆再生を見ているかのごとく、元に戻っていく。千切れた配線は一本の線となり、ぽっかり穴の空いた傷口は蝋が溶けて固まるように塞がっていく。
 間もなく、ヘッドライトが灯り、バイバイクーンはむっくり起き上がる。

「やっぱり、そうだったんだ! あの緑のメダロットは、世界樹型メダロット『ミストラル』!」
「ミストラル……?」
「うん、間違いないよ! 海外で限定販売されたメダロットだから、あたしも現物を見るのは初めてだけどね。ミストラルは回復に特化したメダロットで、機能停止した味方メダロットを復活させる技『蘇生』を使えるんだ!」
「まっ、マジっスかそれ!?」
「冗談じゃないお! チートじゃんそれっ!」

 プリプリといきり立って抗議するサラを、少年は鼻を鳴らして一蹴する。

「フン。蘇生は公式で認められている、立派な技だ。知識さえあれば、バイバイクーンが復活するという予測くらい立てられたはず。それよりも――」

 少年は、地面に座り込んでうずくまっている斗的に、視線を送る。

「索敵が可能なメダロットが消えた今、俺のバッドハッカーは再び隠蔽が使えるというわけだ。状況は振り出しに―― いや、今は三対二か。バイバイクーンがあと二体を仕留められなくとも、十分判定勝ちに持ち込めるな」

 斗的は、うつむいたまま、絞りだしたような声で、少年の言葉に応じる。

「てめぇ……、最初からこれを狙ってやがったな。バイバイクーンをわざと倒させて、隙を見てマイドを潰すつもりで……」
「ああ、そうだ」

 ここに来て初めて、少年は口元に笑みを称える。何人をも寄せ付けない、帝王の笑みを。

「判定勝ちを意識した俺のチームにとって、索敵が使えるメダロットは邪魔だからな。悪いが、早々に退場してもらった」
「それだけじゃ……ねぇだろ? てめぇは、マイドとオレの仲を、一連のやり取りから読み取っていた。だから、オレの動揺を誘うために……」
「さぁ、どうかな? ……まぁ、」

 少年は再び笑顔を消す。それと同じくして、バッドハッカーの姿が闇と同化する。

「俺の勝利が決まった今となっては、どうでもいいことだが」

 斗的は、力いっぱい奥歯を噛み締める。

 ――甘かった。

 まさか、これほどの相手だったとは。
 思えば斗的は、少年の言葉通り油断していた。ただの覗き魔野郎に、負けるはずなんてないと思って。
 それが、このザマ。
 マイドを機能停止に追い込んだのは、

 ――紛れもなく、オレだ。

「フン、万策尽きたようだな。どうする? あてずっぽうに攻撃してみるか? もしかしたら、運よくバッドハッカーに当たるかもしれないぞ」
 
 ―― 刹那、
 ―― 斗的の中で、一つの決意が生まれる。

「……おい、お前達。マイドを頼む」

 マイドのボディーとメダルを蜜柑達に任せ、斗的はゆらりと立ち上がる。そのまま首を垂れた格好で向き直り、消え入りそうな程小さな声を発する。

「敬意を表すぜ、覗き野郎。オレをこんなにオレをイラつかせたヤツは、お前が初めてだよ……」
「駄目だ斗的っ!! やつの挑発に乗るんじゃないっ!!」

 フォレスの警告が、耳に届く。

 わかっている。
 今、斗的がすべきことは、唯一つ。
 冷静な頭で勝利への方程式を組み立てることだって。

「……けどよぉ」

 斗的は口の端を上辺に釣り上げたまま、顔を上げ、

「頭ではわかっていても、気持ちでは割り切れないんだよなぁ……っ」

 皿のように見開いた目で、少年を貫かんとする。鋭い眼光を帯びた鬼灯色の虹彩には、燃え滾る憤怒が宿っていた。

「やれガマンッッ!! あのクソッたれミストラルを斬り刻めッッ」
「おうさッ!!」

 斗的の怒号を脚部に伝え、ガマンは車輪をフル稼働―― 駆ける。軌跡は一直線、ミストラルへ。

「ほう、いいところに目を付けたな。確かに、ミストラルを倒せば、バイバイクーンは復活できない。―― しかし、無駄なこと」

 直後。金属同士がぶつかり合うような鋭い音が一帯に響く。バイバイクーンのサーベルを、ガマンが盾で受け止めた音。

「ご覧の通り、バイバイクーンがミストラルの周囲を警戒している限り、お前の刃が届くことはない。たとえ二体が同時に攻撃したとしても、多少のダメージなら、ミストラルが自力で回復してくれる。……つまり、俺のチームに死角はないということだ」
「ペラペラと喋ってるんじゃねぇよダボがッ!! んなことは、オレだってわかってるんだよッ!! ガマンッ、フォレスッ、ガンガン攻撃しまくれッッ!!!」

 喉が張り裂けんばかりに叫ぶ斗的の声を受け、ガマンはミストラルを攻撃しようとする。
 だがいずれも、バイバイクーンの捨て身の防御によって、妨げられてしまう。フォレスが銃弾を放つたび、ガマンが剣を振るうたび、バイバイクーンは地面にオイルを飛び散らせ……そして、何度でも起き上がる。

「ちぃっっ!! なんでくたばらねぇんだよこのポンコツがッッ!!!」
「当たり前だっ!! ミストラルを倒さない限り、バイバイクーンは何回も復活する!! いい加減諦めろっ!!」

 イラついた口調で舌打ちする斗的を見かね、必死にフォレスはたしなめる。
 けれども、

「諦めろ、だと? てめぇはオレに、降参しろというのかッ!!?」
「そうは言っておらんっ!! 頭を冷やして、別の方向から攻める作戦を考えろと言っているのだっ!! 今のお前を見て、マイド殿が喜ぶとでもおもうかっ!?」
「うっせぇッ!!! てめぇに何がわかるんだよッ!!!」
「斗的、貴様……っ」

 言葉に詰まったフォレスは、口惜しげに黙りこんだ。
 恐らく、もう斗的には何を言っても無駄だということを、悟ったのだろう。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(15)」 ( No.58 )
日時: 2013/03/17 22:34
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 その姿を玄関先から見ていたシアックは、苦虫を噛み潰したような声を発する。

「チキショウ。斗的の旦那、完全に頭に血が上ってるジャン」
「う~ん。やっぱり、マイドを倒されたことがショックだったんだな~。あの二人、メチャ仲がよかったからねぇ~」

 シアックの言葉に同調し、サラはうんうん頷く。
「まぁでも、心配は無用だお! 斗的には、必殺技があるジャマイカ」
「必殺技?」

 怪訝な表情で聞き返すシアックに、サラはエヘンと胸を張って答える。

「フォレスの頭パーツ『反応弾』だお! 相手の熱を探知して攻撃するあれなら、いくら保護色を使っても無駄無駄無駄無駄ァ!」
「なるほどジャン! ……でも、なんで最初からそれを使わなかったんかね?」
「あ、あれ? そういえば、なんでだろう?」

 サラが不思議そうに首を捻り始めると、蜜柑はフォレスのいる方をスッと指し示す。

「その答えがあれね!」

 右腕の「ウィンチェスター」を構え、フォレスはなおも攻撃を続けている。暗闇のため非常に見えづらいが、よくよく目を凝らしてみると、左腕と頭部の銃口に、なにか光るものが巻きついていた。そう、例えるなら、まるで針金のようなものが。
「な、なんじゃあれ……?」
「ワイヤーだよ! フォレスの武器を封印するための!」

 蜜柑は、うきうきした顔つきで答える。

「封印っ?! どういうこと!?」
「これがバッドハッカーのもう一つの能力『行動誘発』! 相手の二パーツにワイヤーを巻きつけて、攻撃を制限する技なんだ!」
「そ、そういえばフォレス、ずっと右腕で戦ってたお! ということは、ロボトル開始時から……?」
「ああ、サラの言うことが正しいなら、そういうことになるジャン。相手の攻撃をとことん封じる、持久型チーム……あの黒コート、只者じゃねぇッ」

 拳を思い切り握り締めるシアックの横で、蜜柑はいつものあっけらかんとした面構えで笑う。

「なっはっはっは! いやぁ~、今回ばかりは斗的もヤバイかもね♪」
「いや、笑ってる場合じゃなくね?」
「そうジャン!! 斗的の旦那が負けるかもしれねぇってのに!!」
「あっはっは~っ、ごめんごめん! おひょひょひょ! ぐへへへへへへへへ!」
「「だから笑いどころじゃないってっっ!!」」

 笑う蜜柑。ツッコむサラとシアック。
 その傍ら、磨智は囁くような声を斗的に投げかける。
「斗的師匠……僕は、最後まで信じてるっスよ。師匠はいつだって、僕のヒーローなんスから……」

 磨智はTシャツの胸部分にあるロゴを、クシャリと握り締めた。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(16)」 ( No.59 )
日時: 2013/03/17 22:35
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 ロボトル開始から、約三十分が経過した。辺りには、オイル、空薬莢、装甲の欠片等がいたるところに飛散し、時間の経過を物語っている。
 けれども状況は依然、二対三のまま。

「フン、判定時間まであと少しか」

 少年が、メダロッチに表示された時間を見ながら、ポツリと言う。

「はぁ……はぁ……、そうだなッ!! だが……勝負はまだ、終わっちゃいねぇッ!!」

 白い体躯を点々とした褐色のオイルに染めた斗的は息を弾ませ、少年に食って掛かる。
 が、そんな斗的の姿を、少年は冷めた目つきで一瞥する。

「白髪よ、今のお前に何ができる?」

 コートのポケットに両手を突っ込んだ格好のまま、少年は斗的に問う。

「愚かにも俺の挑発に乗り、怒りに任せて単調な攻撃を仕掛ける。……もしや、これがお前のロボトルスタイルだとでも言うのか?」
「余計なお世話だこの野郎ッ!! いいから、最後まで戦いやがれッ!!」

 少年は、小さく肩をすくめる。
「フン、もう少しできるやつかと思ったがな。所詮、その程度のやつだったというわけか」

 あくまでも少年は、冷静な態度を維持している。
 斗的は顎を引き、目元を前髪で隠す。
 薄藍色をした雲のベールがゆるりと流れ、澄んだ月を覆い隠す。

「オイ、覗き魔野郎……ッ。オレは、マイドを倒したお前を、絶対許さねぇ!! だから……ッ、だから……ッ」

 穏やかな風に身を委ねていた雲が途切れ、白い月明かりが斗的の顔を照らし出す。

「―― だからてめぇは敗北するっ」

 ニタリと、空に輝く三日月のように口の端を吊り上げた顔を。

「ガマンッ!! 左四十五度でサムライセイバーを振りかぶれッ!!」

 庭中に響くほどの大声を張り上げ、斗的はガマンに指示を送る。
 ガマンは即座に反応。居合い抜きのごとく虚空を斬り裂く。剣が通過した跡は光の軌跡となって闇に刻み付けられる。
 すぐ後、地面を棒状のものが転がる。珈琲色のプラスチックに包まれたそれが腕であると認識するには、数秒の時間を要した。
 そう、それは、

 ―― かろうじて装甲が張り付いているバッドハッカーの右腕だった。

「ギシャっ……ッキシャ、ァ……ァァ……」

 姿を現したバッドハッカーは、バチバチと紫電が溢れる右肩を左手で押さえ、ふらふらと前かがみに揺れている。

「よっしゃ、作戦成功! ガマンッ。オレの考えをわかってくれてありがとな!」
「がっはっは! 見くびらないでくれもらおうか! 坊ちゃんの考えていることなぞ、わしにはお見通しじゃよ!」
「だろだろ? ガマンなら、絶対そう言うと思ったぜ~!」
「ああ。本当に、貴様らしいセコイ作戦だな」
「あ? なに怒ってるんだフォレス? 作戦のためにお前まで騙したこと、根に持ってるのか?」
「フン! 別にそんなことではないわ!」

 戦闘の最中だというのに、言い争いを始める斗的とフォレス。
 状況が飲み込めない様子の磨智達は、その姿を見て、ただポカーンと放心するだけだった。
 ただ一人少年だけが、自らの足元を見て納得したような顔で呟く。

「フン、そうか。先程までの怒り狂った姿は、演技だったというわけか」
「別に、全部が演技なわけじゃねぇよ。マイドを潰されてムカついてたのは本当だ。けど、やられっぱなしってのは癪だからな。利用させてもらったぜ。この状況とバイバイクーンのオイルを」

 斗的は、運動靴の爪先で地面を突く。オイルの海と化した地面を。

「姿を消したからといって、跡形もなく消えたわけじゃない。見えないだけだ。当然、地面を踏みしめて歩かなきゃいけねぇ。だから、フィールド中にオイルをばら撒いた。てめぇのゴキブリ野郎を油塗れにして、着色するためにな」
「そうだったんスか!! やっぱり、斗的師匠はすごいっス!! 僕、ますます惚れ直しちゃった!!」

 磨智はギュッと両拳を握り締めて歓喜する。
 その傍らで、蜜柑はニヤニヤしながら言及する。

「ホントホント♪ 同時に、バイバイクーンを色んな角度から攻撃して、ミストラルの射程距離を測ったりするなんてスゴイよねー! バッドハッカーを回復されないようにさ!」
「その口ぶり……。てめぇ、今回も気付いてたな?」
「なっはっはっ、勿論! そうじゃなかったら、こうして笑っていられないよ!」

 腰に手を当てて馬鹿笑いする蜜柑に、斗的はとびきり冷たい視線を投げかける。

「そうか? お前の場合、オレが負けても笑ってそうな気がするんだけど?」
「うむむぅ……。パートナーとして、反論できないのが辛いお」
「あー、ひっどーい! そんなこと言うなんて、プンプンがプンプンだよ!」
「いや、意味わからないジャン」
「……まぁ、それはともかくとして」

 斗的は少年の方に体を向ける。

「もう姿を隠しても無駄だぜ? ここはもう、オレのフィールドなんだからな! 自分は最中のように甘くはないとかほざいてたけど、てめぇはさしずめ、大福の砂糖漬けといったところだな!」

 ニッと、先程までの怒りからは想像もつかない悪戯っぽい笑顔を斗的は顔一面に浮かべる。
 対峙する少年は、顔の筋肉を少しも動かさず、まっすぐ斗的を見据えている。

「……なるほどな。それが、お前のロボトルスタイルか」
「そうとも! これがオレのロボトルスタイルだ!」

 高々と勝利を宣言する斗的を前にし、少年は憮然とした態度を取るわけでもなく、ただ満足そうに口元を緩めた。

「いいだろう……―― ギブアップだ」
「へっ?」

 少年の思わぬ発言に、斗的は耳を疑う。

「俺の負けを認める、ということだ」
「なんだよオイ……。やけにあっさりしてるな、お前」

 てっきり、もう少し悪あがきをすると思っていたのに。拍子抜けだ。

「これ以上戦っても結果は見えている。自らの負けを認められない者には、成長はないからな」
「はぁ……そうか。いや、別にいいんだけどよ……」

 今一、斗的は釈然としなかった。
 バッドハッカーはまだ倒れていない。あとわずかしかない判定時間まで粘れば、もしかして、勝利していたかもしれないのに。

「けどっ、約束は約束だからな! きっちり守ってもらうぜっ! セレクト隊に捕まっても、オレのこと喋るんじゃねぇぞ?」

 ビシッと少年を指差すと、斗的は携帯電話に「110」を入力しようとする。

「ああ、当然だ。……しかし、セレクト隊に通報しても無駄だと思うがな。なぜなら、俺は覗きなどしていない」
「あ? パチこいてるんじゃねぇぞコラ」

 斗的は、番号をプッシュする手を止め、少年にガンを飛ばす。
 敗北をあっさり認めたと思ったら、覗きを否定しやがった。往生際がいいのか悪いのか、さっぱりわからない。

「変えようのない事実だ。それでも俺はやってない。俺は、ある連中にたまたま追わることになって、たまたまお前の家に逃げ込んだのだ。そして、たまたま入った部屋が風呂場で、たまたまお前が入浴中だったというわけさ」
「ざけんじゃねぇ!! 約束が違うじゃねぇかっ!! 大体、たまたまが重なっていいのは、二回までなんだぞっ!! ……って、古畑任三郎が言ってた」
「あの、師匠」

 申し訳なさそうに手を上げ、磨智が口を挟む。

「僕も、その人は覗きじゃない気がするっス」
「はぁん? お前までどういうことだよ?」
「いや、なんていうか……今、はっきりと思い出したんスよ。その人が誰なのか……」

 そう磨智が口にした時だった。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(17)」 ( No.60 )
日時: 2013/03/17 22:37
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「―― 見つけたロボよっ! 鷹栖斗的ぉ!」

 あまり聞きたくない声が耳に届く。

「ま・さ・かっちゅー話だよ……」

 斗的は嫌々ながら、交差点をはさんだ道の反対側に目を移す。
 そこには、五人組の金魚蜂を逆さにしたみたいなヘルメットを被った全身タイツ集団がいた。そう、すっかりお馴染みの連中。

「やっぱり……てめぇらか。ボロボロ団」
「『ボロボロ団』じゃなくて『ロボロボ団』だロボ! 失礼なやつロボね!」
「はいはい。いいよそんなことは。どーでも」

 あまり会話を続けたくない斗的は、ロボロボ団員達を適当にあしらう。

「なにロボかその態度は! 親の顔が見たいロボ!」
「まったくロボ! ……って、そんなことはどうでもいいロボ! 林檎様の名誉のため、おとなしく倒されるロボ!」
「ちっ。誤魔化そうと思ったのに……」

 会話の誘導が失敗した斗的は、苦々しい顔をする。

「『ゴーフバレット』転送ロボ!」
「「「「転送ロボ!」」」」

 ロボロボ団員達は、メダロッチから緑色の光を、宙に向かって放つ。
 召喚されたのは、黒を基調とした五体の飛行型メダロット――蝙蝠型メダロット「ゴーフバレット」だ。

「行くロボっ、ゴーフバレット! 鷹栖斗的をギャフンと言わせてやるロボ!」
「アイアイサーだキー!」

 まずい。酢豚に入っているパイナポー並に。
 ゴーフバレットは、全身から放つ対空弾幕が武器のメダロットだが、その性能は飛行型メダロットを相手にした時しか発揮されない。はっきり言って、あまり大したことがないやつ。しかし、五体同時に相手をするのは、さすがに厳しいものがある。
 しかも、フォレスとガマンは少年とのロボトルを終えたばかりで、満身創痍といったところ。現在も装甲のナノマシンによる自動修復が行われるが、完全回復には程遠い。
 では、どうやってこの状況をしのぐ? 一人100円ずつ渡して、土下座でもするか?

「うぅ~ん、許してくれそうにないなぁ……」

 こうなったら、サラとシアックにこの場をなんとかしてもらおう。

「そうして時間を稼いでいる間に、フォレスとガマン、並びにマイドを回復。五対五でロボロボ団をフルボッコにしてやる――とでも考えているんだろ?」

 等とのたまいながら、少年が斗的の前に進み出る。

「てめぇ、また人の考えていることを……」
「白髪よ、こいつらは俺が始末してやろう。これでロボトル前にした約束を、チャラにしてくれ」
「はっ?」
「こいつらには借りがあるしな」

 少年は内ポケットに手をやり、紺色のメダロッチを取り出す。

「いや、けど、お前のバッドハッカー、戦える状態?」
「なに、心配はいらん」

 それから、メダロッチのベルトをきつく手首に巻きつけると、

「刹那に終わる」

 文字盤の下にある転送ボタンを押す。

 ……それは、一瞬のことだった。
 瞬きをした僅かな時間。五体もいたゴーフバレットが、一斉に姿を消した。世界に存在していた痕跡すら残さずに。
 いや、違う。姿を「消した」のではない。正確には、姿を「変えた」のだ。1秒にも満たない、ほんの僅かな時間で、

 ―― 細切れのスクラップへと。

 バラバラの親指サイズとなってしまったゴーフバレットは、パラパラと空から降り注ぐ。まるで、弾けたくす玉から飛び散った、紙吹雪のように。
 斗的達は、何が起こったかわからない。いや、それはロボロボ団も同じ。ただ、眼前に広がる光景を見て、呆然と立ち尽くすだけ。
 そんな中、地面に散らばった装甲を、枯葉の上を歩くように踏みしめながらロボロボ団に近づいていく―― 少年。

「弱いな。俺を追跡してきた時の度胸は、どこへいったものやら」
「ヒィっ?! あ、あなたは……っ」

 少年の姿を目の当たりにしたロボロボ団達は、悲鳴に近い声を上げる。ヘルメットのせいで表情はわからないが、体をのけぞり、確実に怯えている。
 そんなロボロボ団達を見下しながら、少年は口を開く。

「そのまま何も言うな。すぐに立ち去れ。……そうすれば、黙って見逃してやろう」

 鋭い瞳を冷ややかに尖らせ、静かに、されど底冷えするような威圧に満ちた声を発する。
 そんな少年の姿に、不覚にも斗的は寒気すら覚えてしまう。
 ロボロボ団員達は、ただ体を寄せ合ってガタガタ震えるだけで、何も言おうとしない。
 すると、少年はさらに駄目押しの一言を添える。

「どうする? どうしても今、鷹栖斗的と戦いたいなら、代わりに俺が相手してもいいんだぞ?」
「――ッ?!!」

 その言葉を聞くや否や。

「あっ、アリーヴェデルチロボーー!!」

 ロボロボ団員達は、馬や鹿のように一目散。脇目も振らず逃げていく。その姿は、蚤のように小さくなっていき、完全に行方がわからなくなった。

「ご苦労だったな。ルシファー」

 少年は、目の前に立ち尽くす一メートル程ある人影の労をねぎらう。
 それは、細身の装甲をまとった、一体のメダロットだった。

 ―― 月明かりを仄かに反射する、ガラス細工のような儚さを持った白銀のボディー。
 ―― 体に走る青いライン。
 ―― 両耳の部分から上に向かって突き出た、クワガタを思わせる2本の角。
 ―― 逆三角形をした青いバイザーの奥には、紅玉のような輝きを放つ2つの目。
 ―― 肩から飛び出た、ジェット機の羽のように薄く、鋭いウィング。
 ―― 右手の甲からは刃渡り二十五センチ程ある諸刃の剣。左手の甲からは碇状のハンマーが突き出ている。

 全体的に受ける印象、及び、フォレスと同じスカート状の脚部から、♀クワガタ型であることは推測できる。しかし、今までこんな機体、見たことない。

「この実力、そして、メダロット……っ。やっぱり、思った通りっス……!」
「おい、やっぱりってなんだよ?」
「この人の言っていることは本当だったんス! ロボロボ団に追われて、逃げてきたんスよ! 植物町グランドホテルから!」
「え? それって、ニュースでやってた……―― あっ!」
「ええ。つまり――」

 磨智は、生唾をゴクンと飲み込む。

「この人は、『富良野葡萄』さん。明日開かれる『ロボトルフェスタ20〓〓』ゲストの―― ロボトル世界チャンプっス!」
「なっ……!?」

 斗的は絶句してしまう。

 ――世界チャンプ……だと?

「光栄だな。俺のことを知っていたか」
「そりゃあもう! 『超速のクワガタ使い・富良野葡萄』といったら、メダロッターの憧れっスから!」
「少年よ。それは言いすぎだ」
「とんでもない!! 全然言いすぎじゃないっスよ!! まさか……っ、こんなところで葡萄さんに会えるなんて、思ってもみなかったっス!!」

 磨智は、葡萄の手をガッシと握り、感激の涙を滝のように流す。
 それとは反対に、葡萄は眉一つ動かさない。

「それにしても葡萄の旦那。なんでこんな所に逃げてきたんだ? ロボロボ団に追われていたなら、セレクト隊の所にでも駆け込めばよかったジャン」
「俺もそうしようと思っていた。だが、昔から方向音痴でな。途中で道に迷ってしまった」
「へぇ~、葡萄さんにもそんな欠点があったんスね! ―― あっ、そうだ! あのぅ……突然ですみませんが、よかったらサインもらえませんか?」
「ああ。それくらいお安い御用だ」
「やったぁ!」

 シャツに「ふらのぶどう せぶんてぃーん」というサインを貰い、磨智は「感極まる」という言葉がピッタリの嬉しそうな顔をする。
 その様子を、斗的は無言で見つめていた。腹の中で渦巻く想いを、密かに押し留めながら。
 超速のクワガタ使い……世界大会なんて興味のない斗的も、名前くらいなら耳にしたことはある。やつが、開始数秒で相手を仕留める、速攻型の戦法が得意であるということも。

「なんだよ、それ……。オレとのロボトル、本気じゃなかったとでも言う気かよ……」

 マイドがやられた憤りを胸に秘めて戦った、あのロボトルが。

「ハン、情けねぇ。お情けをかけられなきゃ、勝利できないのかよ……」

 うぬぼれてたかもしれない。
 自分は、強くなった。
 誰にも負けたりはしないって。

 ……でも。

 結局、守る力がなんてなかった。
 なにも変わらなかったんだ。
 あの頃の自分も。
 今の自分も。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(18)」 ( No.61 )
日時: 2013/03/17 22:37
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「ヘイ! なに落ち込んでるんだい、ベイベ?」

 突如、うなじから骨盤までを人差し指でなぞる感覚が斗的に走る。

「うひゃぁっっ?!!」
「おー、いい声出すねー」

 右手を顎に添え、蜜柑は「しししっ」と笑う。

「なにすんだよ蜜柑っっ!! ……って、あれ? 葡萄のやつは?」
「葡萄殿なら、とっくに去ったぞ。ここから『ぐらんどほたる』とやらまでの地図を渡したらな」
「帰った?」
「ええ、たった今! いや~、それにしても、今日は本当に最高っス! 斗的師匠VS葡萄さんという、ドリームマッチが見られてっ!」
「へぇ~……そうかい」

 斗的は、気のない声で返事をする。
 そうか、葡萄は帰ったのか。

「んなことよりさぁ、あの人が勝利を祝いたくて仕方ないみたいだよー?」

 蜜柑は、自らの背後を親指でクイっと指差す。そこにいたのは、

「斗的ちゃんっ!」
「ま、マイド……っ!」

 尾びれをパタつかせながら、斗的の胸に勢いよく飛び込むマイド。その体には、小さな傷ひとつ付いていない。

「バイバイクーンにやられた所、大丈夫なのか?」
「うんっ♪ 蜜柑ちゃんとサラちゃんに回復してもらったから、ばっちしグーよぉ♪」
「そうだったのか……」

 道理で葡萄と会話していた時、何も言わないと思った。

「サンキュ……蜜柑。サラ。感謝するぜ」
「いやいや、大したことはしてないお。困った時は、お互いサマーバケーション」
「まぁ、よかったじゃん! 最終的に、勝ててさ!」
「いや、あれは……」

 勝利と呼べる代物ではない気が……。

「そういえば話は変わるけどさぁ、さっき斗的の背中をつーってやった時、バスタオル落とさなかったのは残念だったなー。絶対、やると思ったのにー」
「てめっ!! そんなこと企んでやがったのかよクソ蜜柑っ!!」
「あっはっはー! よかったね、ツッコミ入れるくらいの元気があって!」

 カンラカラカラと、蜜柑は高笑いする。
 それを前にし、斗的は悔しそうに唸る。

 ――まったくこいつは……。
 ――人が落ち込んでるというのに、おかまいなしかよ。

「それはともかくとして、師匠。そのまんまじゃ風邪引いちゃうっスよ? マイドさんは僕が抱えるから、この上着を着て、家に入ろうっス」

 上着をかけた右腕を差し出し、磨智は言う。
 確かに。いくら真夏とはいえ、この格好のままでは風邪をひいてしまうかもしれない。

「ん~、それもそうだな。じゃあ、磨智。お前にお願いしていいか?」
「ハイ! お安い御用っス!」
「え~? 私、もうちょっと斗的ちゃんと一緒にいたいなぁ~」
「マイド! 斗的坊ちゃんを困らすでない!」
「ハイハイ♪ 私だって、わかってますよぉー♪」
「じゃあ、引き離すっスよー!」
「ハァーイ♪」

 ……この時。誰もが、まさか、あんな事態が起きるとは思っていなかった。
 いつだって、きっかけは小さなもの。今回起きた『それ』は、マイドが『ある物』を無意識に握っていたことが原因だった。そして、磨智がマイドを抱上げた時、マイドが掴んでいた『ある物』が斗的の体から離れる。そう、

 ―― バスタオルが。

 所々茶色い染みの付いた白い布は、マイドの手を離れ、ふわりと虚空に踊る。ひらひらと風に舞い、鷹栖家の敷地から十メートル程遠い地面に舞い落ちる。
 外気に、白い体を惜しげもなく曝け出した斗的。その場に居合わせた誰もが、一様に目を見開き、石のように固まっている。ギリシャ神話に出てくる、メデューサの目を見てしまったかのように。

 ……間もなく。

「……ぅっ」

 体をぷるぷると震わし、苺色の瞳に一杯の涙を溜めた斗的は、

「うわぁああああああああああああんん……っっ!!!」

 両手で顔を覆い隠し、泣き叫びながら家に飛び込んだ。
 ……数秒後。庭先は水を打ったように静まり返る。
 しばらく玄関を見ていた皆の視線は、一斉に磨智へと注がれる。

「……えっ? なんスか!? なんなんスかその生暖かい目は……!!?」
「いやぁ~、さすがのあたしも驚いたわ。まさか、磨智がやってくれるとはねぇ……」
「ちょっ、違っ!? 違うんスよこれはっ!!」
「あー、大丈夫。わかってる。わかってるから……ムラムラっときてやっちゃったんでしょ?」
「うわぁ……マジで引くお……」
「いやっ、だから誤解だって!!」
「磨智殿、本当なのかそれは……?」
「まぁ、やっちゃったもんは仕方ないよね! えーと、セレクト隊の電話番号は~」
「だから違うんだってぶぁああーーーーーーッッ!!!」

 血を吐くような磨智の叫びが、夜の静寂を突き破る。
 いつまでも続く残響音は、しばらくして、犬の遠吠えとラーメン屋のチャルメラによってかき消されていった。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(19)」 ( No.62 )
日時: 2013/03/17 22:38
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

 同時刻。セレクト防衛隊交番の近くにある公園。

「ふぃ~、やっと開放してくれたぁ~……」
 情けない声を上げながら、吹香川石榴はベンチにドサッと腰掛ける。

「感謝してるぜ林檎ォ。お前のフォローのおかげで、厳重注意で済んだんだからなァ」

 石榴はすぐ隣で不機嫌そうに頬を膨らませている林檎に、にやけた面で礼を言う。

「感謝されるほどのことはしていませんわ。そんなことより、いつ私達がロボロボ団だとバレるかと、冷や冷やしましたわよ!」

 たらたらと苦言を述べる林檎に、石榴は能天気なニヤニヤ笑いを見せる。

「ヒャハハ、デェジョーブだって! あんな目ん玉が飾りの連中に、俺らの正体がわかってたまるかってーの!」
「そいつらに捕まったのはどこの誰ですの? まったく、昔から世話が焼けますわ」
「オイオイ、昔の話はやめにしようぜ。せっかく、いい気分に浸ってるところなのによォ」

 少しムッとした表情で石榴が文句を言った時だった。

「フフっ、相変わらず仲がいいなぁ~、君達は♪」

 屈託のない声が二人の耳に届く。
 それは、白いガス燈の下に浮かぶ、影から発せられたもの。

「Bon soir(こんばんは)……可愛いお二人さん♪」

 影は深々と会釈する。慇懃無礼なほど、馬鹿丁寧に。

「……テメェ」

 縁の広い魔女のような帽子。
 体をスッポリと覆い隠す、黒いマント。
 そして、不気味な薄笑いを貼り付けたような、白い仮面。
 背があまり高くないその人物の名を、林檎はようやく口から搾り出す。

「怪盗ブルー・ベリー……」
「ピンポンピンポーン♪ 林檎ちゃん、大正解♪」

 林檎はグッと身構える。

 怪盗ブルー・ベリー。
 ロボロボ団四天王の一員で、セレクト隊から窃盗容疑で指名手配を受けている「幻影怪盗」。
 飄々とした性格の持ち主で、今一なにを考えているかわからないやつ。

「なんの用事だよ? ラジオ体操を踊りに来たなら、ちょっとばかし早いんじゃねぇかァ?」
「石榴君は相変わらず面白いね~♪ そんな君には、ボクからプレゼントをあげちゃうよ♪」

 おどけた口調で話すブルーは、マントの中から白い封筒を取り出す。

「なんですのそれ……?」
「首領直々の命令さ☆ その封筒に書いてある、人物を誘拐してほしいんだって♪」
「ふぅん」

 封筒を受け取った石榴は、中の手紙をしたり顔で読む。

「どうかな? やってくれるかい?」
「ヒャハ! 愚問だぜ!」

 グシャリと、石榴は手紙を握り潰す。そこには、さっきまで情けない姿を晒していた少年はどこにもいなかった。

「首領に伝えとけや。この俺が、必ずやり遂げますってなぁ……っ」

 そこにいたのは、くつくつと白い歯を見せながら笑い、眼鏡の奥に凶悪な光を灯した、ロボロボ団四天王「吹香川石榴」その人であった。

Episode3「覗いてんじゃねーよクソカスがっ!(幕)」 ( No.63 )
日時: 2013/05/31 00:15
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

[エンドロール]

 原作――ボマン&流離太
 原案――ボマン&流離太
 脚本――ボマン&流離太
 演出―― 流離太

 キャスト:
 鷹栖斗的
 フォレス
 愛媛蜜柑
 成城磨智
 マイド
 ガマン
 シアック
 富良野葡萄
 青森林檎
 吹香川石榴
 ブルー・ベリー
 ルシファー
 セレクト防衛隊員
 サラ
 栗ノ木格ノ進
 ロボロボ団員
 マスコットキャラ(フラメンコの男)

 キャラクターデザイン――ボマン&流離太
 タイトル―― 流離太

 オープニングテーマ
 『Everlong』
 作詞:デイヴ
 作曲:デイヴ
 歌:フー・ファイターズ
 RCA

 エンディングテーマ
 『カブトムシ』
 作詞/作曲:AIKO
 編曲:島田昌典
 歌:AIKO
 ポニーキャニオン


 制作―― 柿ノ木レオの心霊ファイル

 監督―― 流離太

Episode3おまけ1 ( No.64 )
日時: 2008/09/14 09:38
名前: 流離太  <leoobake@hotmail.com>

「サラと格ノ進のメダロット教室(第参回)」

格ノ進「さぁ、やって参りました第参回っ! アシスタントの『栗ノ木格ノ進』と!」

サラ「ども~、解説役のセーラー服美少女型メダロット『サラ』です。……生き残れてよかったな、この企画」

格ノ進「いや、なんか作者が『もう終わる終わらないネタで引っ張るの飽きた』って言っていたでぃす」

サラ「ネタだったのかよこのコーナー終了するって話っ!?」

格ノ進「いやはや……、なにを馬鹿騒ぎしていたんでぃしょうねぇ、僕達……」

サラ「全くだな。……でも、『今日が最終回』くらいの気持ちでこれからもがんばっていかないとな」

格ノ進「そうでぃすね♪ んじゃ、今日も張り切ってがんばるでぃすっ!! 前回に引き続き、今回もパーツの種類について解説を♪」

サラ「……あ、ちょっと待つお」

格ノ進「へ? なんでぃすか?」

サラ「やっぱさ、がんばるの次からにするお。今日は中止ってことでおk?」

格ノ進「―― ちょっっ?!! あんたっ、さっきの決意表明はどうしたんでぃすかっ!!?」

サラ「いや、よぉく考えたら次でもいいかな~って。今まで肩肘張ってたからさ、とりあえず休んだ方が健康のためだとオモタの」

格ノ進「なに夏休みの宿題先延ばしにする小学生みたいなこと言ってるんでぃすかっ!! 今やらなきゃ、いつやるんでぃすか!?」

サラ「だ~か~ら~、次やるって言ってんジャン! もぉ、そんなことじゃあ女にもてないぞ…………ふぁ……ねむっ……」

格ノ進「…………」

サラ「んじゃあ、漏れはちょっくらgo to bedしてくるわ。てことで、おやすみみずくのじょー!」

格ノ進「…………」

サラ「…………すぅ……すぅ…………っむにゃ」

格ノ進「…………うっ……うぅっ……もうやだ……。給料安いし……、もうやめたい……」




ナレーション「静かに寝息を立てるサラの横で、一人すすり泣く格ノ進。がんばれ! いつか、きっと君の時代がくるはずだ!」

格ノ進「うるせェッッ!!! テメェなんかに俺の気持ちがわかるわけないだろボケがァッッ!!!」

ナレーション「あれ、キャラ変わってない?(汗」

格ノ進「おけけけけけけけけけけけけェエ……ッ!!! ……上等だぜェ。そっちがその気なら、こっちだって考えがあるからなァアアアアアアッッ?!!」

ナレーション「ど、どーなるんだこのコーナー……?」

格ノ進「―――― つーわけだコラッ!! 次回を楽しみにしてやがれよ読者の皆さンンンンンッッ!!!」

ナレーション「あ、読者には一応敬意払うのね(^^;) ―― というわけで皆様。今回は当方で色々トラブルがあって申し訳ありません。ですが、また次回もよろしくお願いできたら幸いです♪」

格ノ進「オイ、テメェ……ッ」

ナレーション「へ?」

格ノ進「なにほがらかに手振ってやがるんだよこのナレーション野郎ッ!!! 脇の下こちょばしたるぞコラァアアアアアアアアッッ!!!」

ナレーション「ひぃいいいいいっっ?!! こ、こっちにとばっちりがっっ!!? べ、ベジ――――(プツッ! ツーツーツー……)」

Episode3おまけ2 ( No.65 )
日時: 2008/10/25 09:13
名前: 流離太

「メダロット登場キャラ名鑑(その3)」

●名前:マスコットキャラ
●性別:♂? ●年齢:不詳(推定30代後半)
●出身地:不詳 ●所属:全日本モブキャラ協会
●一人称:ボクちゃん ●血液型:不詳 ●誕生日:不詳
●家族構成:不詳
●身長:200cm
●好きなもの:自分
●嫌いなもの:自分
●趣味:変態ごっこ
●イメージカラー:どどめ色
●イメージボイス:伊藤健太郎
●テーマソング:にっぽん昔ばなし(花頭巾)
●容姿:スキンヘッドで口ひげを生やした、筋骨隆々の大男。姿は演じる役によって変わるが、普段はジーンズに白いトレーナーというスタイル。
●交友関係:多数。
●履歴:
 ボマンの描く漫画内によく登場するキャラ。名前の由来は「こいつなんでこんなに出てるの?」という流離太の質問に「ああ。そいつ俺の漫画のマスコットキャラだから」とボマンが返して以来、「マスコットキャラ」と呼ばれるようになった。
 メダロットMでのモブキャラを全てこなしているが、彼自身の身元はわかっていない。一説によるとその正体は「冥界の王ハデス」であるとされているが、真偽は定かでない。もし噂が本当ならば、殺されても殺されても次の瞬間には復活するという彼の不死身体質も納得がいく。……単に無敵の魔法「ギャグ補正」の効果だと思うが、いかがでしょうか?
●作者から一言:
 ボマンに頼み込み、出演許可をとったキャラです。とにかくうざいです。でも、面倒くさいモブを一々描写しなくていいので便利です。
 ……ていうかこのキャラ、ノリで考えられたはずのキャラなのになんでこんなに出張ってるんだろう。

Episode3あとがき ( No.66 )
日時: 2008/10/25 09:14
名前: 流離太

{あとがき}

 どもばんこ。現在職探し中の流離太です♪ 現在、働かなくても食べていける方法を模索中です(嘘)
 それはともかくとして、メダMEpisode3がようやく完成し、ほっと一息です(^^;) やはり、どんな気が滅入る時でも小説を書いていれば、辛いことも吹っ飛びます。こうしていると「ああ……やっぱり私は描くのが好きなんだな~」って実感噛み締めることができますです。それが、本当に書きたかったお話ならなおのこと。

 そうです。今回は、メダMの中でも特に書きたかったお話のひとつ「富良野葡萄」登場回です♪ 前回までは、いわば序章。今回から、本当のメダMが始まったと言えます。妹からも「今までとは力の入りようが違う」と言われました(笑) いえ、決して手を抜いていたわけではないのですけどね。
 思えば、今回のお話は、GmaGDWさんという方の一言がきっかけでした。あの方が、「斗的TSさせてみれば?」と言わなければ、今回のお話はなかったでしょう。Gmaさん、本当にありがとうございました!
 さて、次に執筆予定のお話「劇場版メダロットM ―― サラダ・イズ・ロースト ――」は、そんなGmaGDWさんの提案された合作企画「オメガウォーズ」の世界観を一部お借りしたお話です。主役は斗的ではなく、別世界から来た、銀髪の美少女剣士です。
 はい、わかる人にはわかりますね(笑) というわけで、時雨フルミちゃん大活躍のもう一つのメダロットM最終回「サラダ・イズ・ロースト」、どうぞ楽しみにしてくださいませ♪
 ではでは、またお会いしましょう♪





 …………え? お風呂シーンの「ある部分」ってどこかって? あと、なんで斗的は変な声を上げていたのかって?
 さぁ? わき(ある部分?)にマイドの手が当たって、こちょばしかったんじゃないんですか?(しれっ)
 どうでもいいですが、ギャグや戦闘シーンより、萌えシーンのほうが書くの辛かったです(^^;) やっぱり、慣れないことするのはきつい……。

Episode3&劇場版予告 ( No.67 )
日時: 2008/10/25 09:16
名前: 流離太

[次回予告]

 「どもどもハロ味噌ー! 青空の魔法使い、白川美空でっす! ……以上、予告終わり!」
 「美空美空!! 適当に予告やっちゃダメじゃない!!」
 「え~、だって流離太さんが『思い切り好きにやっていいよ♪』って言うからさぁ~」
 「だからって、あんまりでしょ!! ……ああもう、読者の皆様ごめんなさいっ。うちの美空がご迷惑を……」
 「いやぁ、そんなに謝らなくても大丈夫大丈夫♪ あたしだけは、美月がどんなにいい娘かわかってるからサ♪」
 「誰のせいだと思ってるの!? ほら、早く予告やりなおさないと……」
 「あ~あ、わかったわよ。美月が言うなら仕方がないよね、うん。……そう、さながらあたしは恋の虹色奴隷ルというわけね。ベッドの上でも美月は、さながら女王様のようにあたしを――」
 「ごっ、誤解を招くような発言しないでよっ!!」
 「んじゃ、気を取り直して予告予告♪ 次回のメダMは、レッツお買い物編っ! ロボトルフェスタが開かれる商店街に来た斗的君は、ついに禁断の領域『ランジェリー』に足を踏み入れることになる!」
 「うんうん」
 「一方、磨智君達は、ロボロボ団四天王の一人『スイカ』がロボトルフェスタ会場に爆弾を仕掛けたことを知る! 斗的君不在の中、どうする磨智君達っ!?」
 「やればできるじゃない美空!」
 「そんな絶望的状況に陥った時、天を突き破って現れたのがご存知魔法少女えすえむちゃん!」
 「うんう……―― え?」
 「四天王の差し向けるメダロットをバッタバッタと倒し、快進撃を続けていくえすえむちゃん! その前に、最強のテラーク『ラスト』が立ちはだかる!」
 「いや……ちょ……っ」
 「燃えあり! 萌えあり! お色気シーンあり! おまけの『サラと美空のメダロット教室』と合わせて、どうぞご賞味アレー!」
 「嘘を吐くなぁーーーーーーっっ!!!」



 …………きりか進ノ介さん、ごめんなさい(― ―;)


→Episode4「ぶっちゃけ眼鏡率多くない?」





[劇場版予告]

 ―― 遠くない未来、ある国の物語。

 世界の大半は、メダロットによって構成された組織「サラダ記念日」に支配されていた。

 残された希望は、二つ――


「劇場版 メダロットM ―― サラダ イズ ロースト ――」


 あなたは目撃する。

 もうひとつのメダロットM最終回を。